ほむら「もう一度だけ逢いたい」 (1000)



――Nobody remembers her.I can't recall her name.


無慈悲で、非情で、不毛な現実は続いた

だから彼女は

たったひとりで戦い続けた




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・ほむら「私のただひとりの友人」の再構成&続き。
ほむら「私のただひとりの友人」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1373975863/)
・前作(ほむら視点)からご覧下さい。短編です。

・MS P明朝  サイズ20で書溜め中。拡大推奨。
・かずみ☆マギカの深刻なネタバレ有り。例の子が登場します。
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SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1376819293


■円環的時間


――叶えたい夢があった たとえ自分を殺してでも



――――
――


二○**年 奇異な事件が見滝原を襲った。


 少々けたはずれの惨劇なのだが、仔細を知る者は少なく、信じる者はもっと少ない。


見滝原――街それ自体は、地球上のどこにでもありふれている開発特区の一つに過ぎない。
自然との調和を重要視し、都市部周辺には街路樹が均等に聳え立っている。


人々はみな穏やかであり、治安もすこぶる良い。耳を澄ませば、鳥の羽ばたきが聞こえ、
川のせせらぎがあなたを優しく包み込んでくれることだろう。


たとえば、あなたが外に出るだけで、石段が迎え入れてくれるし、
電線は足元深くで眠りこけているので、青々とした空はあなたのものである。


深夜に人気のない道を歩こうとも、近代的な水銀灯があなたの視界を補ってくれる。
開発特区にしては、地価も安く商業施設や医療施設にも事欠かない。
居住地区としても実に理想的であると言わざるを得ないわけだ。




 一方、郊外の再開発は大分遅れてしまった。そこに四季は無い。
人工物が全てを支配し、古びた工場が林立している。


朝から晩まで黒煙が大気を穢し、目が沁みるほどの異臭が漂っている。
そこに留まる住民は、須らく、生きるために全ての時間を費やしている。
一昔、二昔の人間の有り様がある。ここの人々は皆生気に満ち溢れているが、休日を持たず、昼夜と言う概念を持たない。


 偏見だという指摘があるかもしれない。しかしこのような街こそが開発特区と呼ばれるにふさわしい。
見滝原がどのように変わり果てたとしても八年振りの再会、といった面持ちであなたを迎え入れてくれるだろう。


そして、見滝原中心地区に暮らす住民は、郊外に興味を持たないし、
郊外に暮らす住民も全くもって同様だった。全く別の国かのように無関心であったようだ。



――――――――――――――――――
――――――――――――


 そんな二面性を持つ見滝原に「災いを招く者」が現れる。
ヴァルプルギスの夜――と呼称されていたが、いささか彼女には似つかわしくない。
私は〔    〕と呼んでいる。情報規制が敷かれているので、あなたは真実を知るすべは無かった。


「一人の少女が殺戮の限りを尽くした」とか「この国の政府が開発した、対人兵器の試運転が行われた」
などと噂されているのはご存知だろう。
勘違いしないでほしい――今現在、見滝原は健在である。もう一度言おう、見滝原は健在だ。


 十八年前――見滝原の住民は一つになった。
宗教に頼り、信仰心を宿した。住民らは名状しがたい出来事を、心の底ではまだ受け入れないでいながらも、
何か暗い力が蔓延っていることだけは明瞭に感じとっていた。


多くの人々は、自分達だけは助かるだろう、と高を括っていた。高を括ってしまった。
友人、母親と子供、夫婦、恋人という分類は消えうせ、消息不明、失踪、神隠し、犠牲者
といった単語群がマスメディアを覆いつくした。




 一ヶ月の間に数万人の命が奪われた



 ヴァルプルギスの夜は実在していたということだ。
おっと、勘違いしないでほしい。アレも元は人間だった。
普通に学校に通い、普通に生活し、普通にヒトを殺し続けた。話が長いか? 申し訳ない。


 自己紹介が遅れた。私は美国織莉子。友人の死をきっかけにインキュベーターと契約を取り結んだ者である。
父と共に国の安寧を保つ者である。それでは「災いを招く者」の人生を追体験しよう。


一人だけ客人を呼んである。これでも十八年近くの付き合いなのだが、
お互いに背負うものが多すぎて堅物に成り果ててしまった。
険悪に見えるかもしれないが、これでも似たもの同士である。気にしないで欲しい。




さて、追体験と言っても性質上、別の何かを識るかも知れないな。
そこらへんは愛嬌だ。御託はこの辺にして早速準備しようか。


 巴、その子じゃない。水晶から目を離さないで――見滝原中央病院の七十二階。
ああ、まだ脆弱だ。巴、魔力が溢れているぞ。気持ちは解るが落ち着け。


そうだ、巴。聞き忘れてたよ。




――奇跡はあると思うか?


――そんなものあるわけないじゃない。あってたまるものですか


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『』内は織莉子とマミさんの発言。一部描写省略。一部台詞、描写追加。
既存の台詞変更なし。時系列順に並び替えました。
〔〕←個人へのテレパシー ≪≫←複数人数へのテレパシー 
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少女が目を覚ます。名前は暁美ほむら。
今にも折れてしまいそうな華奢な体つきに艶やかな黒い髪の毛。
白くてか細い指が、赤いフレームを掴み上げる。


「目、覚めましたね。暁美さん、吐き気は無いですか」

「はい。胸は少し響くけど、体調は凄くいいと思います」

「それは良かった。輸液は交換しましたから。もし変だな、と思ったらナースコールで呼んでくださいね」

「あれ? 私のリボン知りませんか」

「床に落ちてたのでテーブルに置きましたよ」


看護師の手を振り払い、紅いリボンを強引に引っ張るほむら。
ある種の強迫観念さえ覚えるような振る舞いに、看護師から笑顔が消える。
それを横目に見た医師が空かさずフォローに回った。


「それだけ元気ならすぐ退院出来るでしょうね」


医師と看護師は微笑みながら病室を出て行った。
ほむらはその様子を気にも留めず、引き出しから新品のテキストを引っ張り出した。


「さて、勉強しないとね。半年も寝たきりだったんだもの」


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――――――――――――


「午前の検査結果が出ました。凄く良いですね。十六日にも退院出来ますよ」

「あ、ありがとう・・・ございます」

「来月予約入れておきますから、その時また経過を見ましょう」

「はい」


『編転入生の方へ』と書かれた書類を見て、気分を高揚させるほむら。
白に侵食された病室に春色の風が吹き抜ける。
見滝原中学校への編入が現実の物となった瞬間である。



――――――――――――
――――――

二十五日


ほむらが入室すると、クラス全体にどよめきが沸き起こった。
頭から垂れたリボンは退院時よりも紅みが増しているようだった。


「それじゃ、自己紹介行ってみよ」

「暁美ほむらです。よろしくお願いします」




『退院時から、随分とイメージが変わっているわ』

『それもそうだ。見るといい。魔力が溢れ出している。
溢れた魔力は彼女の身体を強化させ、頭脳を明晰にしている。
判断力、記憶力は今までの数十倍にまで上がっているだろう。魔力の一部は頭のリボンが吸収している』

『その口調なんとかならないの?』

『公務中』

『ふうん。そういう――やりづらいわ』




「凄いキレイな髪だね、シャンプーは何を使ってるの」

「部活はしてませんでした。指輪も物心付いたころから付けてて・・・多分東京の雑貨屋だと」

ほむらは紅いリボンと赤紫色の指輪をクラスメイトに見せている。


走り高跳びで百七十センチを悠々と飛び越えるほむら。
先ほどの数学の授業で貼られたレッテルは消え去り、
多数のクラスメイトに囲まれて、ほむらは満足そうにはにかんでいる。


「凄い!本当に入院してたの?」

「ええと、はい。数学の授業、散々でしたし」

「いやー、美人で運動馬鹿! そして馬鹿!キャラ立ってるよ」

「暁美さん、これ県内記録なんだけど」


気まずそうに体育教師が話しかける。
その瞬間、グラウンド中に歓声が響き渡った。


ほむらも体育教師も不思議そうな顔を浮かべている。
この記録は中学二年生の全国歴代記録を塗り替えかねないほどだった。



その日の午後、ほむらは呪いを撒き散らすことになる。
体調は崩れ、吐き気と倦怠感が彼女を襲った。


両横の生徒は青ざめた挙句、嘔吐し、保健室へ運び込まれた。


『これは・・・魔力の制御に失敗している。
あらかたリボンが吸収しているようだけど、周りの生徒にも影響が出ているわ』


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「また明日ね」

「はい、また明日」

夕焼けの中、一人で家路につくほむら。

「うう、吐きソう」

救急車を呼ぼうと試みる。
ほむらの周囲には魔力の波が広がり、リボンは轟々と輝いていた。

「橋を渡りきったら公衆電話があルはず」

「あっ」

地面に顔から倒れる。


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結構な時間、気絶していたようだ。
鼻が折れ曲がり、血がぼたぼたと垂れている。


随分『長いこと』倒れていたようだ。


『美国さん。これは?』

『さあ。何かを思い出しそうになってるのかしら?
どうやら別次元の存在のようですし・・・』

『別次元?』

『彼女は魔法少女として生を受けたのは知ってるわよね。
さらに、円環の理に関連する遺物を持ち合わせている。
この二点からそのように推測した』

『ふふ。美国知事さん。しばらく、素に戻ってたわね』

『言うな』


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――――――


刹那。ほむらの目の前が淡い光で包まれる。
光の中で、優しく微笑みながら、手を包み込んでいる。


――少女


「また会えたね」

内側から、暖かい声が響いた。全身が暖かく思えた。
目のなかに同年代の少女像が現れる。

ほむらは彼女が身に着けているリボンがお揃いだと気づいた。
そして、どこか懐かしみを感じる桃色の瞳を目に焼き付けていた。

「わたしたちは、どこかで――どこかで会ったことあるの? 私と」

「うん。そうだよ。わたしはあなたの、最高の友達。
元の世界に戻っても、リボン 付けてくれてたんだね。嬉しい、な」

「わたし、もうお仕舞いナの?独りぼっチなノ?」

「独りじゃないよ。みんな、みんないつまでも私と一緒だよ」



『日本語すらままならない状況。濁り切る直前に見られる兆候らしいぞ』

『元の世界・・・別の世界でリボンを受け取ったということね』

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――――――


「マミ、こっちだ。円環の理が始まってる」

「どういうことよ。この街の魔法少女は私と美樹さんだけよね?」


大きく目を見開いて、桃色の柱に飛び込む二人、と一匹。


「どっちでも良いよ! 今はあの子を助けなきゃ」


グリーフシードを用意し、ほむらのソウルジェムを浄化するさやか。
しかし、手持ちのグリーフシードを半分使っても濁りは消えない。


「これは、随分と魔力を使ってるわね。いえ、ソウルジェムの容量が桁違いだわ」


リボンを見つめるさやか。
黒くて長い髪、見覚えがあった。同じクラスメイト――転校生だと気がついた。


「マミさんは応急処置をして。絶対に助けるからね、ほむら」


桃色の光は次第に淡く、薄くなっていった。
キュゥべえはそれに気づくと、安堵した素振りを見せて二人の方を向いた。


「ふむ。何とか一命は取り留めたんじゃないかな」




「良かった――ほむらちゃん、がんばって」

耳元に囁きかける声を聞いて――ほむら目の前は真っ暗になった。

■暁


「ほむら! ほむら! 大丈夫?」

「随分濁ってたわね。浄化がなかなか終わらなかったのよ」


どうやらほむらは声が出ないようだった。
眼球を震わせてマミ、さやかの方を向いている。


「キュゥべえ、一体どういうこと?魔法少女になってすぐの子よね」


キュゥべえはしっぽをくるんと一回転させ、真っ赤な目をマミの方へ向けた。

「それがボクもわからないんだ。契約した覚えも無いし。
魔力の波動だって今月の十六日まで全く感知出来なかったのさ」

「それは不思議ね。治療が終わったら私の家まで運ぶわよ、美樹さん、タクシーを呼んできて」

「おっけー。電話かけてくるよ」


さやかは返答しながら橋の向こうまで走っていった。


「あ、あの。あなたは・・・」

「私は巴マミ、貴女と同じ魔法少女。本当に危なかったのよ? 消え去る間近だったもの」


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――――――



何とかティロホームまで運び込み、ほむらを硝子テーブルに座らせるさやか。
念のため、ビニール袋と電話の子機を脇に置いた。

ほむらは終始上の空だった。

三度目の説明をする。


「つまるところ、魔力の使いすぎね。ここ最近、妙に感覚が研ぎ澄まされたりしたでしょ」

「はい。確かに心当たりはありますが」

「そう。美樹さんも昔はそうだったのよ。魔力の制御に苦労していたもの、ね?」

「あはは・・・そりゃマミさんみたいにベテランじゃないし」


退院が早まり、飲み込みが早くなり、視力や聴力の回復――といった出来事、
全てが魔力のお陰であることを思い知った。努力よりも手軽で見返りの多い手段を知り、
多少困惑するものの、ほむらは心を躍らせていた。


キュゥべえが硝子の上にひょいと乗り、赤い瞳でほむらをまじまじと見つめる。
「暁美ほむら。君はどこまで知っているんだい?」

魔法少女として、敵か味方か。反乱分子か否か。率直に問い詰める必要があった。

「!? 何ですかこれ。喋った!」

「白ね」

マミとさやかは安堵した。
ただ単に魔力の制御に失敗しただけ。一般人を巻き込む恐れはないと判断した。


――――――――――――
――――――


「そういや物心付いたころから持ってたんだっけ?ソウルジェム」

「何ですか?この紫タマゴ」

演技では無さそうだと確信するマミ。

「美樹さん、指輪に戻して」

「ああ、うん。これだよほむら」

「指輪に変身した! か、返して下さい」

美樹さんから強引に奪って中指に通す。

「相当昔から持ってたのかしら? この指輪って本来銀白色なのよ」


血でも付いていたのだろうか、指輪はもとの輝きを取り戻していた。

■嘆願

「とどのつまり、ボクの役目は願い事と引き換えに、魔法少女を生み出すことさ。
そして君たちが魔獣を倒し、グリーフシードでソウルジェムを浄化する感じだね」

「じゃぁさっきのが円環の理――ですか」

「魔法少女システムの根幹を担っているわ。
私たちが呪いを撒き散らす前に、ああやって消え去るしかないのよ」

「そうだよ、ほむら。いきなし行方不明になるところだったんだから」


「システム? じゃああの女の子は・・・?」

「女の子? 幻覚か何かじゃないかな」

「嘘じゃないわ、あの子は誰? キュゥべえ教えてよ! 包み隠さず話してくれるんでしょ!!」

「深呼吸するんだ、暁美ほむら。また魔力が漏れ出している」



「教えてよ・・・今すぐ教えなさいよ・・・!」


無我夢中でキュゥべえの両耳を掴み、力を込めるほむら。
自ずと筋肉の強化が成されている。


「暁美さん、少し落ち着きなさい」


キュゥべえの耳から鮮血がにじみ出ていた。
目に余る凶暴性。マミは躊躇うことなく、ほむらに強制催眠を仕掛ける。



『見せないで頂戴。ここは見たくないの』

『ある種、巴のお陰じゃないか? この悲劇が魔法少女システムを大幅に変えたと聞く。
幼いうちに契約をし、魔力のコントロールを重視するようになったのだ。
巴は弟子を取らないから実感がわかないだろうな』

『建前に過ぎないわ。暁美さんのようなバケモノを生まないようにするため。
五年かけて少数精鋭の魔法少女を育て上げ、お互いに監視しあうシステムよ』

『巴は変わったな』

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――――――


「鬼の形相だったね・・・」

溜息をつくさやか。疲れきった表情でほむらの髪を撫でている。
血餅がカーペットに降りかかり、それを見たマミは少しイラついていた。


「催眠の魔術を使ったから数時間は起きないわ。美樹さん、彼女の親御さんに連絡入れてくれる?」

「大丈夫ですよ。ほむら一人暮らしって言ってたから」

「それは幸いね。もう遅いし美樹さんは帰ったほうがいい頃合いね。
大丈夫、この子は私とキュゥべえが看てるから」


さやかが帰宅した後、マミはキュゥべえに頼み込んで写本を借りた。
追加のグリーフシードで穢れを取り除いた。マミはほむらを懐柔する用意があった。


「キュゥべえ、濡らしたタオル持ってきて頂戴。暁美さんの体を今のうちに拭いておきましょう」

「ころころはもういいのかい」

「絨毯は綺麗になったの?」

「・・・とれてないよ」

「じゃあ続けて。あとタオルはまだ?」

急な怪我人にてんてこ舞いのマミとキュゥべえだった。




『巴も大胆だな。写本は秘匿中の秘匿じゃないか。
私だって二度伝え聞いただけだ』

『ええ。最初は良心のつもりだったのよ。結果としてヴァルプルギスの夜を生み出したわけなのだけど。
管理も不十分。全ての元凶は私よ』

『気にするな、巴。それに暁美が盗んだ写本は取り戻せたのだろう?』

『もちろん。少し暗赤色のフレーズが追加されていたわ』

『暁美が足したのか?』

『多分』




――ほむらちゃん

なあに。まどか。

――リボンに想いを込めてくれるかな

こうかしら。

――上手だよ

何もおきないわ。

――振ってみて

何もおきないわ。

――耳を澄まして

何も聞こえないわ。

――よおく、澄ましてみて




ほむらが何かを呟いている。
マミはソウルジェムを片手に、ほむらの体をゆすった。


「――けみさん? 暁美さん、起きた?」

「巴・・・さん」

「こんばんは。もう夜中の3時よ、今日は泊まっていきなさい」

「え? もうそんな時間ですか」

「ふふ、目が醒めちゃったかしら?」

「はい・・・」

「じゃあ、話の続き。しましょうか」


マミは羊皮紙を硝子テーブルに広げる。
白い光沢の上に黒く、はっきりと文字列が刻み込んである。
とはいえ、この世の言語とは程遠く、その羊皮紙は歪んでいた。


「これは特別だよ。君みたいに円環の理に接触して、生き残った子は極めて稀だからね。
有史以前から口伝されてきたものを、ボク達はこうして保護しているのさ」

そういうとキュゥべえはテーブルに乗っかり、文字列をじっと眺めた。

「残念ながら、ボク達も円環の理の把握に苦慮している。正確な情報でないと認識した上で聞いてくれ」


マミは眠気と戦っていた。キュゥべえは文字列と戦っていた。
見かねたほむらがキュゥべえを睨み付ける。


「早く・・・早くして下さい」

「原本の石版はもっと読みやすかったんだけどね、有機物の写本は乾燥に強くないね。
シワが寄ってて見づらいよ。よし、出来た。それじゃ読むよ」




その ことば は きこ え なくとも
むねの おくへは と ど く は ず

あらゆるもの に すがた を かえて
かがやく こな を まく の です

まち の うえ でも なみ の した でも

よばれる ことの ない かわりには
いつでも そこに いるのです

うつろい ゆく この すべて は
あおのひ の きぼう の ひゆ に すぎま せん

かつての すべては いま みたされる

ことば に できぬ まほうたち で さえ
ここ に とげられる

いつか えいえんの その きぼうが
わたしたち を むかえに くるのです

「と・・・もえさん、巴さん」

「暁美さん・・・?」

「どうしてでしょう。涙が。涙が、溢れて――止まりません、何ででしょう。胸が、凄く痛いです」

「暁美さん、大丈夫よ。もう大丈夫だから」

「あの子にもう一度会いたい・・・です」


――もう一度



『さて、暁美の行動原理が顕わになったな。ここから彼女は大きく道を外すことになる』

『それも別の次元・・・が関係してるのかしら』

『さて。それくらい円環の理が魅力的に映ったのかもしれない。
そもそも、円環の理は彼女をよく知っていたではないか?』

『最高の友達・・・ねえ。狂言に思えるわ』

『暁美はそれに魅かれたのだろう。リボンを身につけたアノ死神の容姿をみれば尚更だ』

『美国さんも懲りないわね』


>>23
一行目訂正

○『暁美の行動原理が顕わになったな。ここから彼女は大きく道を外すことになる』

■仕事

クラスメイトの誘いを全て断り、たった一人で帰路に付くほむら。
右手に持ったリボンを眺めながらゆらりと歩いている。


『円環の理に出遭ってからずっとこの調子ね』

『見かねたクラスメイトが追いかけてきたぞ』


それを垣間見た仁美がほむらの後を追いかけてきた。

「暁美さん、何をしているのですか」

「少しリボンを眺めていただけです・・・」

「ボーっとしてると危ないですわ」

「心配・・・ありがとうございます。でも見てると、安心出来るから」


「何か悩み事でも?」

「そんな感じです。ううん違うかもしれません」

「と申しますと――」

「最近、リボンの色が濃くなっているような・・・」


「まあ。それは暁美さんに何かを知らせているのですわ。
よくよく観察するのが良いと、ある書籍に書いてありました」


興味深そうにほむらのリボンを見つめる仁美。

「少し触らせてくださいませ。とても綺麗なリボンですこと」

どうぞ、とほむらが渡した瞬間、仁美がふらついた。

「?」

「いえ、お返ししますわ。何だか私には合いませんでした」

貧血のような目眩を感じた仁美はすぐにリボンを手放した。
なんとも言えぬ気持ち悪さとはこのことかと心の中で理解する。


「観察・・・ところで志筑さんは今日も習い事ですか?」

「ええ、この後お茶のお稽古が。お陰でずっと一人ぼっちですわ」

ほむらが積極的に話しかけてきたことに仁美は喜び、また同時に自分の立場を怨んだ。

「それでは・・・駅まで一緒に行きませんか」

「それは嬉しいですわ。内心辛かったのです。
上条君は半年前に事故に遭ってしまって。さやかさんも最近よそよそしくて・・・」

「美樹さん・・・がですか?」


これも何かの縁だと嘘をつくのは諦め、ありのままに話そうと腹をくくった。
こほん、と咳をする仁美。


「私のただ一人の友人。私の良き理解者でした――が、近頃疎遠になってしまいました」

「美樹さんも事情があって――」

「さあどうでしょう。さやかさんは何かを隠し通して、私に察知されるのを恐れているように思えるのです。
ですから、私はそれを受け入れるまでです。この考え、おかしいでしょうか?」

「おかしいです! 私なら追いかけると思います。どんな手段を使ってでも理由を聞きたいです」

「まあ! 暁美さんは何処か遠くを見つめていらっしゃる。これだけ元気なら学校生活も安心ですね」



「美樹さんもきっと同じだと思います! 話したくても話せない、そんな事情があるんです」

「そうかも知れません――でも相談くらいして下さっても・・・」




□見滝原駅前

「それではこの辺で。そうそう暁美さん――」

「なんですか? 志筑さん」

「――先ほど、どんな手段でもと仰いましたが、どこまでする気ですか?」

「力ずく・・・は駄目ですね。穏便に、録音くらいでしょうか」

「面白いお方。ふふ、それではまた明日」


ほむらが視界から消え去るまで、仁美は気丈に振る舞った。

「志筑さん――ですか」

最後の最後までほむらと打ち解けられなかったことを痛感した。




仁美と別れた後、再びリボンを見つめ続けるほむら。

「さっきより色が濃いよね・・・」


――リボンに想いを込めてくれるかな


夢の中で聞いた台詞を思い出し、魔力を注ぎ込んでみるほむら。
するとリボンがますます紅みを帯びた。

「やっぱり・・・! あの夢は本当だったのかな」


投下終わり。映画までには終わらせたい。

既視感ぱねぇ

>>27
8-9行目 修正
これも何かの縁だと嘘をつくのは諦め、ありのままに話そうと腹をくくった。
意を決した仁美。こほん、と咳をしてから言葉を選んでいく。

>>32
再構成部分とはいえ、続きとの兼ね合いで推敲が大変です
前作と見比べると面白いかも。少なくとも>>1は楽しい
ほむら独白の多かった後半ほど、違いが顕著になると思います

投下

■結婚Ⅰ


その日からほむらはリボンに魔力を注ぎ続けた。


既に深夜。今日も眠気と戦いながらリボンを眺め続けた。
ほむらは気づいた――リボンに貯めこんでいた膨大な魔力が、容貌を変えて安定していたことに。

魔力を構成する波動の種類が明らかに異なっていた。
ほむらの魔力を色に喩えるなら――紫であるが、その波動は桃色を感じさせた。


「 しづき さん が いって たとおり 」

「・・・」



「 みつけた わ 」


「 わた しの ただ ひとり の ゆ うじん 」



朦朧としたまま、虚空に囁きかける。


その瞬間からは寝食を忘れ、研究に没頭した。
研究と言っても、リボンの魔力をほむらの身に注ぎ込む平易なものだった。


また、学校近くに住み着いている野良ネコにも魔力を注ぎ込むなど
自分以外の生物に対しても、興味本位から研究対象とするようになった。



ほむらの肉体はリボンの魔力に耐えられなかった。
桃色の力を体に注ぎ込んでは喀血、嘔吐を繰り返す日々を送っていた。

その光景はもはや人体実験に等しく、失った何かを埋め合わせるかのごとき所業だった。




『酷い光景ね。確かに、このころから様子がおかしかったわ』


『只のバケモノに成り果てた瞬間だ――ほら、また吐いた。
アノ得体の知れない暗い力が、暁美の自我を創り出したのさ。
知っているだろう? 暁美が持っていた怪奇小説に書いてあったぞ』




「ご めんね まだ あな たの名前 思い 出せない」


「でも あなたの力  私の中 に入って るよ」


「ももいろで とっても あった かい」




以来、ほむらは単独で行動するようになる。

マミの特訓も、さやかの誘いも徐々に断るようになった。


和気藹々と集団で魔獣狩りする気は既に消え失せ、魔力に囚われるようになった。

赤いリボンに魔力を注ぐため、グリーフシードを集め続け、戦闘スタイルを吟味し魔力の節約を重視した。
しかし、この程度で採算が付くほど生半可な作業ではない。ほむらは最後の手段を選択することになる。


それはほむらも何処か頭の片隅にあった妙案だったのだが、
見てみぬ振りを続けるにはあまりにも――それほど魅力的で革命的な唯一のアイデア。

□地下室


「・・・次は頭」


魂を吸われた人間を引きずりだし、リボンの魔力を注ぎ込んだ。
瞬間、水風船の如く四散した。


「駄目ね。これではキリが無いわ」

目に入った液体を魔力で蒸発させる。

「あーあ。次の人間を拾ってきましょう」

「魔力の補充もしないと」


魔獣に人間の魂を喰わせることで、穢れを取り除く唯一の手段
――グリーフシードをより効率的に収穫する、と同時に実験台も入手することが出来た。


実験台の使い道はただ一つ、『円環の理』を現世に宿すため、再現するため。
ほむらを突き動かす原動力は、「あの子にもう一度だけ逢いたい」ただそれのみ。


あの時、『円環の理』との只ならぬ因果を感じさせる出会いにほむらは魅了されていた。
目的を達成させるために人間をやめる覚悟だった。


否。


暁美ほむらは既にバケモノに成り果てていた。


既に――魔力に魅了されていた。


『その子の名前は覚えてないのね』

『名前なんて当てにならないさ。誰かが「名は体を表す」なんて戯言を吐いていたが』


――――――――――――――――――
――――――――――――



久しぶりの集団戦闘。マミ、さやか、杏子、ほむらの五人が一堂に会した。


佐倉杏子と呼ばれる風見野の魔法少女。
初めての顔合わせゆえ、ほむらは情報を手にする必要があった。



暁美ほむらは得物の弓だけを用いて、巧みに使いこなす。
魔獣が群がる戦場。文字通り、蝶のように舞い、蜂のように突き刺した。


ベテランの杏子が舌を巻くような戦闘技術、そのバトルスタイルにマミは最高の評価を下した。
さやかも負けじと魔獣と交戦するが、マミ、杏子にやや遅れをとっている。




清掃作業を終え――


「お疲れ様。いまからあなたに魔力をあげるからね」
愛おしそうな様子でリボンに話しかける。


――ほむら達はマミ達の元へ向かった。



「四人ともお疲れ様。この地区は二ヶ月先までは平気だろう。さあ、早く浄化してくれ」

「うへえ、一番しんどかったよ」


ほむらはキュゥべえを睨み付け、路肩に横たわるさやかを尻目に、小粒のキューブを鷲掴みにする。
リボンを人数に勘定しないキュゥべえに苛立ちを覚えていた。



「暁美さん? 意外と濁ってるのね」

「私は燃費が悪いのよ。もう爆発するくらい」

「「・・・」」


不信感を募らせるマミとさやか。
魔力をセーブした戦いを続けた割には、元の紫色が認識できないほど黒く穢れていた。


「ははは、ルーキーの癖に大口叩くんだな」

「いいじゃない。グリーフシードは掃いて捨てるほどあるのだから」

「それもそうだな」


竹を割ったような性格。
ほむらは見た目や言動のみで杏子を判断してしまった。



『そういえば暁美は五人と言い、インキュベーターは四人と言っていたな?』

『暁美さんはリボンを人間扱いしていたのよ。
円環の理がリボンの中に居ると考えていたのかしら』

『インキュベーター曰く、結論は今も出てないだろう。
リボンは魔力の変換機と増幅器の役目を持つ。それ以上は推論の域を出ない』


――――――――――――――――――
――――――――――――


数週間後

マミ、さやか、杏子、ほむらの四人は魔獣討伐のために共闘していた。

ほむらはリボンを付けていなかった。

さらに数日後

マミ、さやか、杏子、の三人は、お茶会と称して連携を強める訓練をしていた。
ほむらが出席していれば全員、美味しい紅茶にありつけただろう。

その数日後

マミ、さやか、杏子、ほむらの四人は魔獣討伐のために共闘していた。

マミがさやか、杏子をアシストする形で狩りは続いた。
ほむらはただ一人で魔獣を蹂躙した。極力手の内を見せないように振る舞いながら。



「暁美ほむら。最近気が立っているようだけど、どうかしたのかい?」

「そんなこと無いわ。いえ、佳境を迎えてきた、ということかしらね」

「そうかい? 君が度々姿を現さないから心配してたのさ」

「余計なお世話よ、キュゥべえ。私にもプライベートというものがあるのだから」

「ふうん。君がそういうのなら、きっとそうなんだろう」



ほむらはキュゥべえの不審な動きに、前々から勘付いていたが、
以前にも増して積極的に、表立ってが問いかけて来た事に焦りを覚えた。

寝床を変えたことが致命的だったと、ほむらは直感した。

――――――――――――
――――――

□見滝原中学 屋上


「ねえ、最近ほむらの様子。おかしくない?」

「そう。美樹さんも気づいてしまったのね」


キュゥべえは階段の側に寝転んでいた。他に誰も入らないように監視している。

ほむらは魔獣狩りに於いて、全くといって良いほど魔力を消費していない。
狩りの後、にもかかわらず彼女のソウルジェムは澄み切っているほどだ。


一方で狩りを始める前のソウルジェムは穢れきっているかのようだった。
それを隠そうとして、集合前に大量のグリーフシードを使用している姿も確認されていた。

キュゥべえと契約した覚えの無い魔法少女。急激な性格の変化。
トレードマークである赤いリボンも付けていない。


また、キュゥべえによると、ほむらのキューブ回収量は突出して多いらしい。
この事実に疑を抱いた二人は頻繁に意見を交わすようになっていった。


元々、個々人で調べていたのだ。
杏子はいざ知らず、マミとさやかは以前から、ほむらの観察を怠っていない。

紫の魔法少女――ほむらは信用するに足る人物か、改めて考えなおす時期が来ていた



「うん、クラスの人に聞いて回ってるんだけど、全然わからなかった。
住所も変わっててさ――」

「――不老不死だったりして」

「そうでしょ? 行方不明者が――」

「今日も図書館に篭ってるって――」

「――そういえば、家にあった写本が盗まれてたのよ。キュゥべえも全然知らなくて」

「また聞いて回ってみたんだけど、何も――」



――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――

■結婚Ⅱ

見滝原中学校別館。
県内で最大級の蔵書数を誇る図書館――の裏門に志筑仁美は居た。


二時間近くそこに立っている。
凛とした表情で、背筋を伸ばして、堂々としていた。



『志筑氏との絡みが多いな』

『それもそうよ。美樹さんが困ってたら全力で手助けするような子よ』

『随分と疎遠らしかったじゃないか』

『魔法少女のことは隠し通さないとね。そもそも魔力コントロールに慣れてなくて、
美樹さんも暁美さんと同様、クラスの子を入院させてしまったから・・・』

『志筑氏を巻き込みたくない気持ちはわかるが、美樹も不器用な子だな』


――――――――――――
――――――

閉館時刻の二十二時を少し過ぎた頃、建物から待ち人が現れる。


「あら、暁美さん。このような夜分に、奇遇ですわ」

「こんばんは。では失礼するわ」


足早に去るほむらを必死に引き止めようとする仁美。


「お待ち下さい。目すら合わせないなんて、失礼ではありませんか」


失礼と言われた。眉間にしわが寄る。


「殆ど初対面の私と貴女。待ち伏せする方が、余程失礼では無いのかしら」

「何となく、今宵は、いつにも増して寒気がするので連れを探していたのです。
暴漢に襲われるやも知れませんし、駅前まで一緒に如何でしょう」

「学級委員長さんだったかしら? 私はこれから大事な用があるのだけれど」


「大事な用事――わかりますとも。夜更かしはお肌の大敵ですわ。
それと志筑とお呼びください。ささ、急いで駅まで行きましょう」


以前、ほむらが仁美にかけた台詞をここで使った。
仁美は何としてでもほむらに興味を惹かせねば、と腐心した。


「手を離してくれるかしら。歩き辛いわ」


無意識に右手を掴む。氷のような――底知れぬ感触に吐き気を覚えるが、
仁美は笑顔を絶やさずに演技を続ける必要があった。




「手を離してくれるかしら。歩き辛いわ」


無意識に右手を掴む。氷のような――底知れぬ感触に吐き気を覚えるが、
仁美は笑顔を絶やさずに演技を続ける必要があった。


「いいえ、そうはいきません。ところで暁美さん、学校は慣れましたか。
最近、ずっと塞ぎ込んでいる様に見えます」

「随分と辛辣な物言いね、志筑さん。成績優秀者の掲示を見ればわかるでしょう。
それに今、夢中になっている事柄があるの。口を出さないで貰える?」

「事柄・・・ですか。金銀財宝、不老不死、満漢全席のうち、どれでしょうか」


恭介が入院して間もなく、さやかが仁美に問いかけたフレーズだ。
つい口を突いて出てきてしまったが、ほむらの反応は存外悪くなかった。




「強いて言うなら、不老不死が一番近いわ。
だって残りの二つ、志筑さんなら簡単に実現出来るでしょう?」


「不老不死ですか――うんうん、わかりますとも。
永遠の美貌というものは私達女性の憧れですよね」



「時じくの香の木の実」

「?」

「聞き流して頂戴」



酷く落胆するほむら。トキジクノカグノコノミ――何かのアナグラムではないか、と
仁美は頭の中でパズルを組み立てる。しかし、止まらぬ吐き気が思考を邪魔する。


体中から冷や汗が止まらない。仁美は核心を突くであろう話題を出すことにした。


「時に暁美さん。不老不死になったらどうなさいますか」

「そんな易々と仮定しないでくれる? 虫唾が走るわ」


仁美は必死に別の解釈を探し始めた。
ここで怒らせては元も子もない。右手にも力を入れる。



「いいえ。そういうことではありません。
どのようにして、不老不死を確かめるつもりでしょうか」


「そうね。同じ方法を誰かに施して――殺してみればいい」


「飄々と言ってくれますね。でも暁美さんなら・・・そう云うと思いました」

「どういう意味よ。まあ、望んで不老不死になろうとする愚か者は
――そんな与太話どうでもいいわね」

「与太ですか」


仁美は酷く焦った。駅が視界に入ってきたためだ。
絶好の機会をみすみす逃すまい。残された時間を逆算し、己の話術に全てをゆだねた。



「私にとっては、ね。気づいたら永遠と生きている、位が丁度いいのよ」


「では永遠は副次的な物だと。愛し合った果てに永遠があるのだと。
暁美さんはそう仰るのですか」


「飛躍しすぎよ。でも何だかとても素敵な響きね」


焦りと吐き気と達成感の三つ巴が仁美に降りかかった。
ほむらは終始つかみどころの無い印象で、その真意は全く持って掴めないままだった。


□見滝原駅前


「では私はこの辺で。暁美さん、お付き合い感謝いたします」

「ええ。貴女と話した二十五分は無駄ではなかったわ」

「愛――について、ですか」


「いいえ。目は心の鏡。目は心の窓。目というのは人間を構成する重要な器官なのね」

「何のことでしょうか」

「目は口ほどにものを言う、という事よ。眼球は大事よね」


最後の台詞に思わず顔を引き攣らせる仁美。
ほむらはほむらで仁美の方向すら向いていない。


以前と変わらない――どこか遠くを見つめる眼差し。それを見た仁美は肩を撫で下ろした。


――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――



□志筑邸宅


駅から自宅に戻るまで、仁美は何度も嘔吐した。
魂が抉られる――比喩抜きの率直な痛みが脳内を支配した。

自分の思惑が見透けてしまったか、と仁美は幾度も肝を冷やしていた。
目は口ほどにものを言う。とても恐ろしい捨て台詞だった。


それでも仁美は高揚している。
指定鞄の底に潜めていたICレコーダーを取り出して、握り締める。


「やりました。やりましたよ・・・さやかさん。
これで暁美さんの行動理念を掌握できるはずです」


ICレコーダーのバックアップの準備に取り掛かる。
額の脂汗をガーゼタオルで拭う。



「だってそうじゃないですか。只の中学生に何が出来るんですか。
殺人? とんでもない。況してや不老不死なんて常軌を逸してます」


汗で下着が透けていることに気づいた。


「流石に暁美さんが『不老不死』と宣った時は生きた心地がしませんでしたが。
一瞬、暁美さんを疑ってしまいましたが・・・」


「度重なる失踪者と暁美さんの振る舞いは、何の関係も無かったのです。
さやかさんは間違っていました。さやかさんの抱く疑いは私が晴らしました」


鞄からペットボトルを取り出し、全て飲み干す。



「後は偶然を装い続けるだけです。さやかさんが暁美さんの近況を知りたがった時、
私は何の役にも立てませんでした。ですが、今度は違います」



「次も、その次もきっと、真っ先に私を頼って下さるはずです。やっと役に立てる時が来ました。
唯一無二の親友のためなら嘘も突き通しましょう。演じきってみせましょう」


「ICレコーダーは護身用で所持しています。偶然帰りが遅れ、偶然暁美さんと遭遇し、
偶然、突拍子もない話題になった。当然、レコーダーの起動も不本意です、と」




『美樹さん・・・志筑さんにどんな聞き方をしたのよ』

『金銀財宝のくだり、失踪者の話題が出てる辺り、美樹は余計なことを口走ったらしい』

『美樹さんは正義に燃えて突っ走る子だった・・・から』



『ところで美国さん。どうして志筑さんの記憶が・・・』

『――基本的に暁美の人生を、水晶の目で追っている。わかるか巴?』

『どういうことよ』

『志筑は失敗している。全て暁美に筒抜けだ』



同日――二十六時過ぎ


魔力を補充し、ほむらは急いで帰宅した。
消費量を悟られないように、グリーフシードは別の地区に掃き捨てている。


今日もまた失敗作を自室の地下に保存した。

見た目はほむらと瓜二つの人型。


「動くけど、この素体は脆弱。使い物にならない」


ほむらは五段階の魔力障壁を展開した。
キュゥべえ、仁美が余計な詮索をし、計画が邪魔されることを案じた上の策だ。



『キュゥべえや私たちはおろか、志筑さんにまで疑われて・・・。
だからなりふり構っていられなかったのね』

『そうだな。そしてこの二十日後、暁美は――』

―――――――――――――――――
投下終了

後日談は前作並みの量に・・・
書き溜めを読み直すたびに描写が増えていき、エラいことになってますノシ

・一部流血表現があります
・かずみ組は丁寧な描写を心がけましたが、原作を知っておくといいかもしれません

投下


□ティロホーム


硝子製のローテーブルを囲んで座るマミとさやか。
マミお手製のハーブティを飲みながら、お互いの心積もりを披露していた。


「でも、どうしてマミさんはあたしの意見を――?」


「暁美さんが裏で何かをしている、ってことには感付いていたわ。
魔力の管理に関しては、私以上に気を遣っているはずだもの」


あの濁り具合――不可解だわ、とマミは呟く。


「ただ、私利私欲で動くような子じゃ無かったから、ね」

「あたしもそう考えてたし、今でもほむらを信じてる。
あいつ、前々から何か一人で抱え込んでる様子だったけど」

「そうね。暁美さんはそういう子よね。でも意外だわ。
こういう時って、キュゥべえが真っ先に動くイメージだったのよ?」


「あたしもキュゥべえも――決め手に欠いていた。
友達から奇妙な話を聞いたのが、一番大きいかな」





「話? 此処最近増え続けている失踪者のことかしら?」

「それも含んでるのかな? 正直考えたくないけど。話を戻すよ。
ほむらと仲良くなった子が居てね、幼馴染の――その子が色々話してくれて」


「あら、上条くんね。美樹さんも人が悪いわ」

「違いますって! んで、その話を聞いたら大分絞れてきたというか。
マミさんが保存してたアレも無くなった、ってことはやっぱりソレ絡みだろうなって」

「でもソレが事実だったら私達には荷が重過ぎないかしら?」

「いいの、いいの。ほんのちょっと早くなるだけなんだから」



――――――――――――

『好奇心は――をも殺す』

『アレは写本、羊皮紙のこと。ソレは円環の理。
何が早くなるかはわかるでしょ?』


□公園

夕焼けの中で遅めの昼食を摂るほむら。
久しぶりに赤いリボンを取り出し、二人きりで魔獣狩りをした直後のことである。


「まろかーまろか!」

年の頃は三、四か。茶髪の子供が擦り寄ってきた。
ほむらが至極迷惑そうに睨み付けると、元居た場所に逃げ帰っていった。

よくみると、右手に持った棒切れで地面に絵を描いている。

「まろか。それはあなたの名前?」

「あい?」

子供の横に屈んだ。

「その絵は・・・」


「えへー」

女の子の絵である。フリルの、いかにも魔法少女な服を着ていて、リボンを付けていた。


――ツインテール


良くみるとあの子に似てないことも無い、とほむらは頷く。


「りぼん・・・まろか」

突然、ほむらのリボンを引っ張る子供。
リボンに触れ続けても、子供は何の変化も示さない。


「えっ? 嘘でしょ・・・」

「?」


これはいいものを見つけた。


「いま、りぼん。つかんだよね」

「あいっ」

「きぶん、わるくないの?」


首をブンブンと横に振る子供。



リボンに触れるだけでも、大抵の人間は魔力中毒を起こす。
魔法少女とて例外ではない。掴んで引っ張ればそれだけ魔力が移動する。


具合が悪くなることは当然、下手をすればその身が崩れ去るほどの力である。
素体探し――あの子の体を創る上で欠かせない作業。


リボンの魔力に耐えられなければ、当然ながら『円環の理』の前に砕け散るよりない。
ほむらは家族に女児が居る可能性を考慮して、もう少し相手をすることにした。




「あれ? 貴女もまどかを知ってるの?」

隣に立っていると、三十代の女性が話しかけてきた。

どうやら保護者らしい。


「わからないわね。聞き覚えがあるような無いような」


ほむらが答えると、女性は眉間にしわを寄せた。
女性はただならぬ何かを感じ取っていた。


「ふーん、変なこと言っちゃってごめんね。
 ・・・そのリボン可愛いねえ。あたしの好みにド直球だわ」

「あげませんよ」

「いいじゃん、いいじゃん。ハチマキはやめてツインにしようよ」


そういってリボンに触れる女性。
この親も耐性――のようなものがあった。


「もういいでしょ。それじゃあさようなら」

ほむらは喜びをひた隠しながら公園を去った。

「あっ。素っ気無いなあ、最近の子は」



素っ気無い? そんなことないわ、と背中で語るほむら。



付けて来た。


三人家族

表札には

『鹿目』



捜し求めていた



最高の素体



そして、今日。この時間。

あの子は私の部屋で本を読んでいる。

陽の光に照らされて、かつて夢見たあの子は本を読んでいる。

まだまだぎこちないけれど、私はとても満足している。



悠久の時の流れに逆らってでも創り上げる程の遺志が、私に味方してくれたのだ。

否。時空を越えて廻り逢った運命の二人なのだから、遺志も意思も関係ない。

私たち二人は、そうなるように創られたのだ。



魔力さえ注げば、あの子は微笑んでくれる。

魔力さえあれば、私は生き続ける。



『桃色の髪・・・』

『目を背けないでくれ。これが鹿目タツヤの成れの果てだ。
もし姉が居たとすればこのように可愛らしい子――おっと、とんでもない失言だった』


――――――――――――――――――
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数日後


□風見野

マミと杏子の打ち合わせが始まった。

テレパシーが傍受される恐れがあったので、
極めて原始的な手段――直接、風見野で会うことになった。


「ほむらが円環の理を創り出したって?」

「だからそれを確かめるんじゃない」

「わざわざ人ん家までねえ・・・」


「私の家から盗まれた写本。最近の失踪者の減少。暁美さんの思惑と魔力消費量の推移。
この三つを踏まえると、一番自然な可能性がこれなのよ」

「創ったとして自分の家に置いとくか?」

「住所も偽装しているらしいわ」


「マミも考えるよなあ」

「何よ。そもそも、美樹さんの提案よ」

「そんな都合良く居るわけないだろ」

「あら、私の言う事、いつも正しかったでしょ?」

「知らねえな。昔のことは全部忘れちまったよ」


「住所は此処。念のためキュゥべえも連れて行きなさい。
いいわね。見滝原では、単独行動は絶対に控える。解った?」

「マミ。アンタはどうするんだ?」

「私と美樹さんはキューブの収集を続けるわ。
キュゥべえも、秘密裏に手伝ってくれるって。使わないで済むのが一番なんだけどね」


「戦うのか?」

「暁美さんは――変わったわ」

「ふうん。なら外から偵察するまでも無いだろ。隙を見計らって燃やし尽くせばいいさ」

「美樹さんがまだ暁美さんを信じてるから駄目。私達の思い違いかもしれないわよ?」


■戦争

幾日かの準備を経て、杏子は見滝原に移動した。
強烈な魔力の波動を感じ、二度引き返した上での、三度目の見滝原である。


□ランドマークタワーの展望台


コイン式双眼鏡には赤いソウルジェムがめり込み、即席の魔道具と化している。


「マミによると、あの辺なんだが・・・」

「本当に彼女と事を構えるつもりかい?」

「アイツの実力は折り紙つきだ。だけどな――キュゥべえ」


佐倉杏子が顔をあげ、双眼鏡からソウルジェムを取り出す。



「アイツはもう、手遅れかもしれないんだ。話して駄目なら殴れば良い。
殴っても駄目なら――それに、魔法少女は否が応でも、命懸けで戦わなきゃいけないときがくるものさ」

「君らしくもないね」

「知ってて言ってるのか?」


ソウルジェムを指輪へと戻し、怪訝そうな顔付きでキュゥべえを見つめる。


「親父は、カラッポの教会に一人で突っ立って、誰かが来るのを待ってた。
自分の努力があたしの魔法だった、って気づいたとき親父はぶっ壊れた」


もの思わしげな様子で話し続ける。


「アイツは違った。魔法の力を受け入れた。受け入れて、徹頭徹尾、自分のために使ってる。
それが悪いとは言わないよ。言わないけどね」


「暁美ほむらは魔法に魅せられている、ってことかい」

「さあな。努力を履き違えてる。親父が心中してなかったらこうなってただろうさ」

「それでさやか達が言ってたことは本当だったのかい」



佐倉杏子は視線を反らした。

「ああ、この目でしかと見届けたよ」

「黒だ。それも、真っ黒」




――『円環の理』がこの街に居る




「マミ達に伝えておけ。対象を捉えた、接触には細心の注意を、ってね」



あの子の存在は創りだせた。

次はあの子そのものを宿したい。

魂や錬金術に関する書籍を片っ端から集め、時間の許す限り、読みふける日々だった。



休日は市街へと足を運び、閲覧禁止の棚を探しては頭に詰め込む日々だった。

勿論、あの子に今すぐ逢いたいという気持ちも無視できないが。

あの子で満足するわけにはいかなかった。

あの子は、あの懐かしく、暖かい桃色の光は持ち合わせていなかった。

あの子は、姿形がよく似た只の器に過ぎない。


『このときは具体的なアイデアが浮かんでいなかったようね』

『少量の魔力を注ぎ続けていたようだ。他の選択肢が見つからなかったのだな』

二日後

□暁美邸宅前


巴マミ、キュゥべえは下見をしていた。
杏子の報告を疑っているわけではない。半ば好奇心のようなものだ。


ただ、周囲に満ち溢れる禍禍しい魔力を考えると、果たしてそれが『円環の理』かどうか疑わしい。
そこで二人は邸宅を一周してみたが、生憎それ以外の力は感知できなかった。


「ここの二階の窓際に座ってたのよね。霞んでいてよく見えないわ」

「魔力障壁が邪魔をしているね。六層かな、入り混じっててわからないよ」


魔力障壁の性質は様々だが、少なくとも魔法使用の制限、
外部からの観察妨害、人払いと言った呪術が施されていることは判明した。


「ハシゴを使ったらどうかしら」



「無理そうだね。障壁を何とかしないと近寄ることすら困難だ」



「障壁の薄い正面玄関を壊すか、障壁を中和するしかなさそうね。
暁美さんに小手先の手段が効くかわからないけど」


「それもそうだけど、魔力障壁の発生源が『円環の理』だったら非常に不味い。
無闇に刺激を加えることでシステムが発動するかもしれない。

あれは魔法少女に於ける、最大の天敵と言っても過言ではないよ」



一般に『円環の理』は、「呪いを撒き散らす前に魔法少女を消し去る」ものであり
そこに自我は無く、粛々と続く化学反応のような前提があった。


だが、暁美ほむらの「少女が話しかけてきた」という伝聞を前にすると、
『円環の理』が喜怒哀楽を持つ少女――魔法少女の可能性さえ否定できない。


刺激すること、それ自体が非常に危険な行為である。
化学反応より複雑であろう少女の自我。素手で触るなど以ての外だった。



「作戦開始は明日にしましょう。少し障壁に細工して、それから接触を試みるわ」

「わかった。ボクも準備しておこう」

翌日


この日も、ほむらは学校の図書館に篭っていた。


昨日、ほむらは異物を感知したため、障壁を十層に増築していた。

【不信、執着、妄想、憧憬、自由、独善、渇望、恋慕、虚栄、不信】

九の性質を持つ障壁群は、複雑に、深く、混じり合っていた。

――――――――――――――――――

『これは、かつてあったかもしれない世界の怪物をモチーフとしているのよ』

『魔女の厨で調べてもいいかも知れない。ただし、あれは魔方陣だがな』

『若返りの薬を作るときの呪文ね。道理で同心円状に展開してあったわけだわ』

――――――――――――――――――
――――――――――――



ハードカバーの分厚い書籍を枕にして、外を眺めるほむら。
今にも雨が降りそうな、そんなどんよりとした空に浮かぶ雲を、目で追いかけ続けていた。


そこに、新しい図書委員が近づいてきた。学級委員長でもある、緑髪の優等生。


「お久しぶりですね。暁美さん」


志筑仁美がほむらの正面に座る。


「なんだ志筑か。さやかとの仲はどうなったのかしら」

「よそよそしさも薄まり、比較的良好だと思いますわ」


興味無さそうに外を眺めるほむら。


「今日は晴れたり曇ったりして落ち着かないわね」

「にわか雨かも知れませんね。あちらの方は陽が燦々としているみたいで――」



「少し伺いたいことがあるのだけど」

「私もそう思っていたところです。暁美さん。『さやか』とはどういうことでしょう」

「さやかにだって私のような友達が居るわよ? 嫉妬は良くないわ」


「違います。暁美さんは変わってしまいました。
あの日、勇気を出して話しかけた時――あのときの面影がありませんの」

「夜中は皆そういうものでしょう。用事も邪魔されたとあれば、気が立つくらい造作も無いわ」


勘違いをしているほむらを見て仁美は溜息を吐いた。


「違います。夕方。あなたがリボンを見つめていた日のことです。
 ――暁美さん、リボンは? 随分前から外されているようですが」



「あれはもう必要ないわ。本来の姿を取り戻した。後は魂だけよ」


「本来? 魂・・・って」

「志筑、貴女はどこまで鈍感なのよ」


いい終わると、何かを思い出したように含み笑いをする。
二人しか居ない図書館。居たとしても人目を気にせず、ほむらは笑っただろう。


仁美の眼球を指差し、声高々に宣言した。


「志筑――貴女はもう一人ぼっちよ。私と貴女は似た物同士、でも私には魔法がある。
永遠に近い時間も持っている。仲間外れにされて可哀想。貴女はもう独りぼっち――」




「魔法・・・一体何を」

「ICレコーダー。発信機。貴女は私に挑んだけれど全部筒抜け。
志筑、つまらない子だったわ。さやかなら、もっと上手く騙してくれるはずよ」


ほむらは見開いていた目を伏せ、酷く落ち込んだ様子でぼそぼそと呟いた。
感情の起伏が激しいほむらの様子を見て、仁美はただならぬ恐怖を覚えた。


「ICレコーダー? よく存じませんが・・・」


ほむらは再び目を見開いて、仁美の緩くウェーブがかった髪を思いっきり引っ張る。
仁美は血の気が引いた。よもや、自分が暴力を受けるとは思っていも居なかった。

今にも「魂が抉られる」ような気がした。



「嘘は善くないわ。お目目がくるくるしてるわよ。貴女は私を売った。
貴女の『ただ一人の友人』さんは貴女を売った。それだけのことよ」


「さやかさんが私を売った・・・?」


「違う、違うわ。気がついたら値札が貼ってあったのよ」

「嘘よ。嘘・・・私の唯一無二の、ただ一人の・・・」



翡翠色の髪をさらに引っ張る。額と額とがくっつくほど近づく。
ひし形状のソウルジェムを仁美の首元に突き刺し、不安を煽ってみるほむら。


「これは私。綺麗な宝石でしょう? 澄んでいるでしょう? 鋭いでしょう?」


「痛い! 離してください、やめて」

「貴女は私と違って、澱んでいるし鈍いのよ」



「いやあ! いやあ!」

「ああ! エレシュキガルよ、エレシュキガル。貴女のお目目じゃ私は殺せないわ。
はぁ、きれいなお目目。貴女じゃ全然立ち向かえな――」

――――――――――――――――――
――――――――――――



「人間ってこんなにも脆かったかしら?」

髪の毛を離すと、糸が切れた人形のようにパタンとその場に倒れこんだ。
テーブルごと仁美を蹴り飛ばし――


「・・・」

「障壁に異常・・・」


周囲に隠匿の魔術をかけて、ほむらは神速で自宅を目指した。


□暁美邸宅  正面玄関


「キュゥべえは何かあったら私たちに知らせること。いいわね」

「了解したよ」

「それじゃ、全員で入りましょう。佐倉さん、美樹さん準備は?」

「「おっけー」」

「生き残ってくれよ。キミ達はボクの自慢の魔法少女達なんだから」

「へっ、言われるまでもねえよ」


QBは障壁に阻まれて、中に入ることが出来なかった。

>>90
×QB
○キュゥべえ

>>86の一人ぼっちと独りぼっちは仕様です、はい


□内部


「一階建てじゃないよな? 何でワンルームなんだよ」

「階段が無いわ。移動手段を探さないと・・・」

「へえ、随分と広いんだね。こっちのほむらの家は」



素材のよくわからない、淡紫色のラウンドテーブルが中心に一脚。
それを円形に囲んでいるソファが二列。内側から青、赤系の暖色である。

円形といっても所々欠けていて、さながら出来の悪いランドルト環のようだった。


最外殻には直方体のオブジェが等間隔に十二。
高貴な翡翠色で、ハイセンスと言ってもいい代物だ。


一方で、呪符や毒々しい紋様が至る所に散らばっていた。
得体の知れぬ気持ち悪さが三人の精神力を蝕んでいる。


「こっちの家? どういうこった」

杏子は壁に描かれた紋章を見ながら、さやかの相手をした。


「いやあ、学校の名簿を盗み見たんだけどね。
もう一つの家は擦り切れた、抜け殻みたいなボロアパートだったんだよ。
勿論、魔力は全然無かったから親御さんの――ああ! ほむらは一人暮らしだったね」


辺りを物色しながら、溌剌と受け応えるさやか。


住所を偽装していることは知っていたが、
杏子は二つ以上の所在地があることを聞かされていなかった。


情報に齟齬がある。


――時として悲劇を起こしかねない、致命的なミスである。




「おい、迂闊に触るんじゃねえ。魔力の護符が至る所に貼ってあるんだ」

「ふふん、甘いね杏子。こういう時は額縁やソファの配置を――」

「美樹さん? 罠もあるかもしれないから気をつけるのよ」


突然、轟音と振動が彼女達を揺らした。
テーブルの中央に大きな穴が現れる。


「マミさん・・・。杏子・・・。隠し部屋、見つけちゃった」

「「はあ?」」

「赤いソファが鍵だったのね。青いソファならきっと二階に――」


造作なく移動させると、今度は天井の一部が崩れ落ち、屋根裏へと続くはしごが顔を覗かせた。


「――ビンゴ! さ、行きましょう」

「一応、地下から見てみようよ」


□地下室

「瘴気が凄まじいな。息苦しいし、性質が悪い」

「薄暗くて良く見えないよ。ん、マミさん何してるの?」

「ちょっと、ね。昨日垂らして置いたリボンを伸ばしてるのよ。
私の性質なら障壁を構成する魔力を掬いとれるから」

「繋ぎ止める、って奴か? マミは多芸だよなあ」

「ふうん。何の変哲も無い、黄色い布にしか見えな――ぁ」


「どうした?」


対してさやかは無言のままだった。
顔を引き攣らせたままで、遠くの人工物を指差した。


「水槽、なのかしら。少し澱んでいて良く見えないけど・・・それがどうか――」


直後


絹を裂くような悲鳴が響き渡り、空間を支配した。



無理も無い。
元人間がそこに在ったのだから。入っていたのだから。



上半身だけの物
手足が綺麗に切断された物
指先だけ切り取られた物
お腹に大きな穴が開いた物
左半分がすっかり無くなっている物

――――――――――――
―――――――
――



死体が幾つも幾つもあった。


死体。死体。死体。死体。死体――


その全てが、漏れなく、例外なく、尽く、徹底的に、



両目を抉られていた。



「・・・引き返すぞ」


杏子は二人の手をとった。
二人とも棒立ちになっていた。


「おいっ。聞いてるのか」

「ぁ・・・あ、この人たち全部・・・」

「目に焼き付ける時間は後だ。さっさと引くぞ」


杏子はそのままマミとさやかを引っ張っていった。



数十分の休息をとり、二階へ足を運んだ。


「・・・」


「流石に何も無さそうね」

「地下の施設はすごかったけどねー。もう吐きそう」

「立ち直り早いわね・・・」



「佐倉さん。本当に、こんな場所に女の子が居たのかしら?」


「魔力で丁寧に編んであった上、障壁も多くて見づらかった。
でもね、確かに見たのさ。不可解な魔力の波動を宿した存在をね」

「そうなの杏子? あたしには何も感じられないよ」


「今は微弱だ。集中しないと全然感知できないが・・・こっちだな、ついてこい」


杏子は好奇心に溺れていた。
ほむらが求めていたものを一目、焼き付けておきたかった。




―――――――――――――――――――――


木造りの一室。小綺麗な書斎だった。

霧のように細かく、落ち着いた匂いがあたりに漂う。

窓から漏れ入る静かな残照。

慎ましやかで、しっとりとした情感あふれる光景。




陽だまりの中。少女――


――『円環の理』が椅子に腰掛けている



―――――――――――――――――――――



赤いリボンで丁寧に束ねられた桃色の髪。象牙のように澄んでいる桃色の瞳。

ティアードフリルレースの、白くて清貧なワンピースを身に付けている。


少女は三人の訪問者に興味を示さず、読書に没頭している。

表情を見ても、何一つ窺い知ることは出来ない。



「こいつが――『理』」

「・・・」

「こんにちは。貴女、お名前は?」

「・・・」

「・・・」

「・・・」



少女は黙々と読んでいた本に栞紐を挟む。
それをおもむろに机に置くと、三人の方を向いてにこりと笑った。



「あら、かわいい」

少女はにこりと笑った。

「このリボンは、ほむらのかい?」

少女はにこりと笑った。

「へえ、本当に存在するんだな。アタシはさやか達みたいに消え去る瞬間見たことなかったし」

少女はにこりと笑った。

「触ったら天国いけるんじゃね? さやかが実験台な」




「はあ? 戸籍上死んでるあんたが一番の適役じゃない」

「フン、怖気づきやがって」


少女はにこりと笑った。
少女はにこりと笑った。
少女はにこりと笑った。
少女はにこりと笑った。
少女はにこりと笑った。


「これ。本当に『理』か? それとも、死の間際だけ『理』として機能するのか?」

「わからないけど、今のところ無害だよね」

「槍越しなら、つついても平気だよな」

ソウルジェムから多節棍の一節を取り出す。

「あ、駄目よ佐倉さん。乱暴しないの」



トン、と押された少女は倒れこんだ。


二つの眼球がコロコロと床に転がり落ちる。

眼窩から血が噴き上がった。


「ひぃ!」


その噴水は止まる事無く、辺り一面に広がった。
木の机も、木の床も、レースの服も、全て真っ赤に染め上げた。

ソレはにこりともしなかった。



「やっべ、隠すぞ」

「さっきの地下室にしましょう」

「急げ」


佐倉杏子がソレを引っ張ると、指がぼろぼろと取れてしまった。


「見つかったらヤベえな」

「で、どうするのよ」

「幻術を敷くから今すぐ引き返せ。言質は取った。ほむらと敵対する」

「はあ、確かにあの実験台の数、人間の所業じゃないけどさ・・・でも」

「美樹さん、急ぐわよ。拡散した魔力を感じれば暁美さんが引き返してくるはずだわ」




「マミさん。あたしは残ります」

「美樹さん? 悠長な事を言ってる場合じゃないわ」


「あたし達、魔法少女なんだよ。もう人間じゃない。
でもね、マミさん。想いは伝わるんだよ――魔法少女ってそういうものなんだよ」

「美樹さん・・・」

「言う様になったね、さやか。もう一人前だな。
説得して駄目なら拳で語り合えばいい。想いは徹頭徹尾貫くものさ」

「うん。あたしはほむらを信じてる」


「私は結界を何とかするわ。絶対に死なないでね」


二人のソウルジェム各々に、手をかざしながら呟いた。


「内部はまかせろ。マミは外部、さやかは待機。
急げ、八十秒後に結界を展開させる」

「「心得た!」」

□外


「急いで、マミ。暁美ほむらの魔力を感じるよ」

「今から、見滝原全域に守護の魔術を植えつける。それが終わったら障壁の中和。
キュゥべえは見張っていて頂戴。それと別の固体に運搬を頼めるかしら。
追加でキューブを百八十個ほど届けて欲しいの」



「もう手配はしてある。そしてこの場に六十個。マミ達も各々四十個持ってたよね。
それなら問題ない。心置きなく、全力を出してくれ」


「それじゃいくわよ」


「まって、全域にかい? それは無駄じゃないか」


「街全体を巻き込んでしまったら大変だもの。出し惜しみはしないわよ」


憔悴しきった様子を見せまいと、気丈な笑顔をつくる。


「それに、暁美さんの魔力障壁は数も錬度も型破り。
だから守護の結界を展開すれば、きっと障壁の反応も垣間見ることが出来る。
昨日仕掛けたリボンも考慮すれば、厳密に、性質を突き止められるんだから」




障壁は魔術の行使を妨害し、効力を減退させ、侵入者の精神を蝕む。
邸宅に残った二人の安否を考えると、直ちにこれを除去する必要があった。


グリーフシードを鷲づかみにし、詠唱を始める巴マミ。
大気中に淡い粒子が霧状に広がり始めた。


「展開している障壁は――
不信、執着、妄想、憧憬、自由、独善、渇望、恋慕、虚栄、不信
――十層構造になっているようね」


使い終わったグリーフシードをキュゥべえに与え、足元に魔法円を形成する。


魔法円――魔術作業の場となる聖域を定義する物質的基盤である。
また魔術作業にとって邪魔になりうる外部の魔力を遮断する結界としての役割を持っている。




余談だが、暁美邸宅のオブジェも同様の役割を保持している。
魔術師の作業領域を区切るために床に「円環」が描かれていた。


この円環は、敵対的な想念(魔術作業の妨げになる想念)を締め出すために
魔術師が頼みとするところの、威光としての、神聖なる名前によって護られる。


無造作に散らばっているかのように思えた紋様や家具の配置は、
全て余す事無く魔術のための道具であり、触媒であり、増幅器であった。


「無力、慈悲、祝福で中和を試みるわ。次に救済、敬愛、献身で佐倉さん達の補助を。
成功したら暁美さんを『招待』するわよ」


「どうして、さやかと杏子を連れて逃げなかったのかい?」



「そうするのが正解だったかもしれない。でも彼女達の魔法を補助することにしたわ
――大丈夫、安心して。私達は魔法少女。希望を振りまく存在なんだから」



花柄の髪飾りを外し、自分を激しく鼓舞した。



「それとキュゥべえ。ソウルジェムを渡しておくわ」


「マミ、殊勝な心がけだよ」


ほむらに勘付かれて奇襲された場合への備えだった。




魔法円の作成、呪文の詠唱、身振り等の印は、魔術を具体化するために必要な工程ではある。
高度な呪文になるほど魔法に関する造詣の深さが求められるのだが、

「想う」だけでも魔術の行使は可能である。勿論、威力や精度は大幅に下がる。


換言すると、魔獣程度の相手には「想う」だけで十分である。
魔法少女が相手であれば、詠唱や印を行うことによるリスクを考えなければならない。



また、訓練を積んだ魔法少女は、五感を失ったとしても魔法の発現が可能である。


巴マミとて例外ではなかった。


ソウルジェムが砕かれない限り、魔法少女は戦い続けることの出来る不死身の存在だ。





「絶対に殺させない。美樹さんのソウルジェムに施した『絶対領域』
佐倉さんへの『アイギスの鏡』がきっと役に立つはずなんだから」




ほむらは十数分で自宅にたどり着いた。
玄関が破壊されたことに気づくと、周囲には目もくれず隠し階段を駆けていった。


「待ちくたびれたよ、ほむら」


部屋の端に見知った顔。


「久しいわね。さやか」


その脇には――変わり果てた「あの子」の姿


「どういうことかしら? 美樹さやか」


部屋は赤で染め上げられ、リボンの魔力が漏出していた。


さやかは正義感が強く、向こう見ずであるが、勘が人一倍鋭い。
制服の状態で、派手に返り血を浴びることで、マミ、杏子を庇おうとした。


現に、ほむらは今回の災厄がさやか一人の手で行われたと錯覚していた。




「ほむらこそどういうつもりだよ! 魔法少女は正義を守るためにあるんだ。
皆を護るための力だ! 街を護るための力だ!」


「そうね。あなたたちはそうすればいいわ。私はあの子の為だけに生きているの。
永遠に近い時間をあの子と、二人っきりで過ごすのよ。邪魔はさせない」



さやかが変身する。


「ほむら、変わったね」


ほむらも変身する。


「私は、変わらない」




――寂しいのに 悲しいのに この気持ちを 誰にも解って貰えない

ほむらは従順だった。目的のためなら犠牲を厭わない。純粋な想いが彼女をそうさせていた。




「私の気持ちはずうっと一緒よ。あのときから」

「全部見たよ。ほむら、命を冒涜するなんて――」



間髪入れず、弱点の腹部を本弭で突き刺す。


「い――ッ」



さやかは紙一重で避けたつもりだったが、
ソウルジェムから大きく逸れた位置に穴が開いていることに驚き、目を見開く。


身体の強化が施されていたのだ。マミが結界を中和したことは判っていたが、
補助の上塗りまでしていることを、今初めて実感した。


そして痛みは殆ど無く――いや、痛みを感じる前に穴は塞がっていた。




「潔く殺されなさい。お互いのために」


ほむらは本気でさやかを殺す気だった。さやかは薄々そうなるのではと覚悟していた。


「拳で語るしか無さそうだね。目が虚ろだもん」


「そうね。貴女には理解出来ない」


さやかはマントをはためかせてカットラスを周囲に召喚した。
ほむらは髪を掻き上げ、余裕を魅せつけている。



カットラスにはあるギミックが施されている。
近、中距離戦を得意とするさやかは六つの刀身を飛ばした。


小部屋は小回りの利く剣士に味方している。
弓使いのほむらは十分に戦えない事を想定した上での戦略である。





「な・・・なんて奴!」



ほむらは刀身を全て、難無く掴み取っていた。


「貴女がそれを言うのかしら? 私の希望を奪っておいて」


さやかは狼狽した振りをした。
まずはほむらが冷静になるまでやり過ごすしかない。


ほむらは刀身をカタパルトのように一本一本飛ばしてきた。


強化が施された身とは言え、さやかには避けがたい連撃である。
それは閃光かのごとく襲い掛かり、胸部と右太腿に深く入り込んだ。



さやかが二つの圧力を感じた瞬間




ほむらが 跳ねた




瞬刻の出来事だった。

全身のバランスが崩れ、目の前が真っ赤になった。

鼻を潰され――と脳が認識したときには



「あ・・・がぁ」



口の中に異物が入り込んでいた。




頭を串刺しにされ、血が吹き出る。


力が一瞬抜けた。


人が倒れるには十分な時間だ。


さやかは難無く立ち上がると、刺された刃を思いっきり引き抜いた。
まるでほむらに見せ付けるかのように易々と回復を終えている。


「――全然響かないよ。これは予想以上だわ」

「そうでなくちゃ。私も殺し甲斐が有るってものよ」


戦いは止まらない――






戦いと言っても地稽古のような、練習試合のような雰囲気だ。
加護を受けていたさやかを相手に、ほむらは思うがままに動き回っていた。


動かされてもいた。


お互いにカットラスを操っているが、ほむらは素人同然。


まして魔法少女を相手にした経験は乏しい。
魔獣にうつつを抜かしている間、対人戦が疎かになっていた。


さやかはそれを把握した上で動いていた。
精彩に欠ける不規則な攻撃をし続け、体力の消耗を狙うのが彼女の作戦だった。


より相手を動かし、限りある魔力を奪う戦術である。


そのため、さやかのソウルジェムが何度か狙われた。
幸いなことに、これもマミが何らかの細工を施していたようで、
カットラスの方が砕けるほどの強度を誇っていた。





完全に泥沼だと捉えたほむらは手を休めた。


「一太刀位浴びせなさいよ、美樹さやか。このままじゃ濁り死ぬわよ」

「あたしは全然平気だよ。気が済むまで付き合ってあげる。
良いよ。それでほむらが救われるなら――」


ほむらはそれを聞くと頭を垂れた。


「私が間違っていたわ。無益な争いはもう終わらせましょう」

ほむらは、事もなく変身を解いた。



「一体・・・何のつもり?」


露骨に不信感をあらわした。
先ほどまで修羅だったほむらが急にしおらしくなっている。 


「ごめんなさい。ほんの出来心だったのよ。
私は一目だけでもあの子に逢いたかったの」


さやかはほむらに抱きつかれた。

ほむらの目は潤んでいた。


「ほ、ほむら・・・?え、罠?」

「ううん、違うの。嬉しいの」

「何を・・・言ってるのさ・・・」



ほむらは右手に魔力を集中させる。

「お腹のソウルジェム。ちょっと借りるわよ」


――――――――――――――――――

『ジェムごと取られたら絶対領域も無意味ってことね』

『美樹は倒れたままだな』

『傷の回復速度が遅すぎる。これは気絶ね。
意図的に体とソウルジェムのリンクを切断したら、傷の修復はされない設定よ』

――――――――――――――――――
――――――――――――



「嬉しい。これで逢える」

「待っててね。ちゃんと命を吹き込んであげるんだから」

ほむらは、さやかと、抜け殻と、腹部から毟り取ったソウルジェムを地下室に運んだ。



若干休憩
前作と読み比べると色々キツい描写がふええます

投下

■平和


魂の色と血液が混じったさやかのソウルジェムを硝子テーブルに置いた。
色は赤紫の様だった。


ミスリルで編んだ袋を用意し、中に二十五個のグリーフシードを流し込む。
多少の頭脳労働をした後、先ほどの違和感について考え始めた。


「美樹さやかの異常な生命力は一体・・・」


気づいた。

魔力障壁が消えていることに。



戦闘で予想以上のリソースを割いたのだと結論付け、
グリーフシードが入った袋に左手を突っ込んだ。




――――――――――――――――――
――――――――――――


『暁美さんは私の策に気づいていなかったのね。
てっきり無視されていただけかなって』

『巴は見つからなくて幸運だったな。
これは皮肉だぞ? 見つかっていれば戦いは続かなかったのだから』




「濁りが進んでいないわね」

肉片がこびり付いたソウルジェムを眺める。

「ああ。無理も無いわ。美樹さやかは気絶してるだけ」

少しでも濁りを加速させるため、さやかに近づいて四肢を圧し折るほむら。

「おかしいわ。怪我が全く回復していない」

「まさか。ジェムと肉体のリンクが切断されてる?」


さやかの肉体と魂を接続させるため、ソウルジェムに向かった。

それを拾い上げようとした。

――――――
――――
――




「―――・――――ズマ」



赤い靄が地下室に潜むほむらに纏わりついた。
薄明かりの中でただ一人歓喜する声が響き渡る。


「始まったわ! 現れた!」

「円環の理!」


地下室全体が震動しているほどのエネルギーをほむらは感じていた。


薄暗い地下室の虚空を指差し、視力を奪われるほどの、
燃えあがる濃桃色の光をほむらは観ていた。




大げさに振る舞うほむらの真後ろに、赤い魔法少女が立っている。



「馬鹿みてえだな。ただの人形に回復魔法かけてやがる。
魔力が移動するだけで何も起きないっつーのに」


〔杏子だよねー? 居るなら接続戻してよ。体に触れさせれば戻るから〕


テレパシーを受け取った杏子は、幻影に躍るほむらを一瞥して、
「あの子」の側に置いてあるソウルジェムを拾い上げた。


「助かったぁ。もう駄目かと思ったよ」

塞がったお腹を叩きながら穢れを取り除くさやか。

「あぁ。まだ詠唱してるから黙ってな」


――――――――――――――――――

『ここからが佐倉さんの番みたいね。
隙を見てRosso-Fantasmaを暁美さんにかけた。五感を全て支配したの』

『あれは円環の理じゃなかったのか?』

『濃桃色・・・円環の理とは随分色合いが違うのよ?
本物は大規模な光の柱だから、外に居た私が駆けつけているわ』

『ところで八十秒後に幻覚を敷いてたはずだが、二回も使わないだろうに』

『障壁に邪魔されて無理だったのよ。
私は外で色々してて・・・その、佐倉さんには悪かったわ』

――――――――――――――――――
――――――――――――



「幻覚が効き辛いな。無意識に抵抗してるのか?」

「Echeggiato――Lorelei」

さやかが唱えると、蒼い音波が部屋全体に広がっていった。
それをまともに浴び、ほむらはそのまま崩れ落ちた。

「なんだ? 今の」

「ローレライの旋律。眠りにいざなうトドメの一撃必殺技なのだ!」

「いや、名前――あれ? 単体攻撃じゃないよな・・・その」

「言われてみると。杏子も寝てないとおかしいよね」




「「?」」


「まあいいや。次だ次。アタシはこのまま幻覚をかけ続けるよ」

「正義を愛するさやかちゃんは施設を壊しまくっちゃいますか。
これならほむらも諦めてくれるよね。はい、これ」

「おう。後はまかせな」

残る全てのグリーフシードを杏子に渡し、さやかは施設の中に消えていった。


――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――


ほむらが目を覚ます。


「・・・ぅう」

タイルは暗い色に染まっている。
右手でタイルを引っかいても剥がれない。血ではないようだ。
随分『長いこと』倒れていた。



――――――


『倒れていたというか、寝ていたぞ』

『美樹さんがローレライの旋律を発動させたの。
佐倉さんに仕掛けたアイギスの鏡が無くなっているから効果は二倍よ』

『反射魔法か。無意識に陣形を取るほどの実戦を重ねたのだな』




ほむらの正面には、杏子と抜け殻が立っている。
抜け殻の眼球を介在して、ほむらにロッソ・ファンタズマを掛け続けている。


その首元には真紅の紋章が浮かび上がっていた。
魔力で動く人形に、ほむらは語らい始める。


「また、会えたわね」

「ここは地下室よ。」

「ええ。寂しくないわ。いつまでも、私と一緒だもの」

「良かった――良かったわ。本当に嬉しい」


象牙のように高貴な桃色の瞳を、ほむらは何時間も覗きこんでいた。
杏子は人形の横でひたすら呪文をかけ続けている。


「こいつは一体何を見ているんだろうな。
満面の笑みじゃねえか、気色悪い」



「これはビーカーよ」

「これは貯水槽よ」


――――――――――――――――――
――――――――――――


『独り言みたい。魔法を掛け続けてる佐倉さんが難儀ね』

『あいつ、美樹は何をしてるんだ? 剣なんか振り回して』


たまに真空ポンプやアセトン溶液を落としてしまう無邪気さも愛おしい。


『壊して回ってるのよ。美樹さんらしいわね』


――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――

―――
――



手持ちのグリーフシードが二十個を切った。
杏子は撤退を決断する。さやかは既に地下室の大半を廻り終え、地上に戻っている。


「そろそろ退却するか。人形の耳と目だけリンクさせて、テレパシーで語りかけるか・・・。
さてさて、夢見るお嬢さんの相手はもうじき終わりだな」


再びロッソ・ファンタズマをほむらへ忍ばせた後、杏子は地上へ向かった。


人形が知覚した視覚、聴覚は杏子にそのまま伝わっている。
そのため邸宅を出る、といってもその過程は極めて困難な物であった。




〔この子は動物じゃないよ?〕

「どれかしら」

〔ほむらちゃんと似てる〕


「素体、Vertebrate-02498ね」


〔素体?〕

「心を失った体のことよ」

〔それじゃあ、私も素体だったの?〕

「勿論よ。でもあなたはあなたなのよ」

〔どういうこと? ほむらちゃん〕

「私たちは等しく、同じ素材で出来ている。そしてこれがあなたの原材料」

〔私の?〕



「大抵の子はリボンの魔力を注ぎこむだけで暴発――飛び散るのよ。
普通の魔力ですら、人間には荷が重過ぎるの。吐いたりしちゃうの。
私だって、リボン――『理』の魔力を取り込むのに苦労したんだから」




『佐倉さんは最小限の魔法に切り替えてるわね。何日も幻惑をかけ続けるわけには行かないもの』

『今の佐倉はテレパシーを駆使して人形が話してるように見せかけている。
美樹も巴も無事離脱したのだから悪戯に長引かせる必要はないな』




〔それじゃあ、たくさんの人が亡くなったの?〕

「些細なことよ。あなたに比べれば、安い犠牲なのだから」

〔そうだね。ほむらちゃん〕

「ふふ、リボン似合ってるわよ」

〔ありがとう。ほむらちゃん〕





訂正

>>139から再投下


〔どういうこと? ほむらちゃん〕

「私たちは等しく、同じ素材で出来ている。そしてこれがあなたの原材料」

〔私の?〕


「シカメ って人よ。この近所で一番相性がよかったわ」

〔シカメ・・・〕


「大抵の子はリボンの魔力を注ぎこむだけで暴発――飛び散るのよ。
普通の魔力ですら、人間には荷が重過ぎるの。長時間摂ると吐いたりしちゃうの。
私だって、リボン――『理』の魔力を取り込むのに苦労したんだから」


〔シカメ?〕


「ええ、そうよ。シカメ――いえ、鹿目という表札しか見てないから、カノメかも知れないわ」


〔カノメ カナメ? 私と見た目が違うよ?〕


「只の原料に過ぎないわ。そこに、私の想いと叡智と貴女の光を注ぎ込んだのよ」







『佐倉さんは最小限の魔法に切り替えてるわね。何日も幻惑をかけ続けるわけには行かないもの』

『今の佐倉はテレパシーを駆使して人形が話してるように見せかけている。
美樹も巴も無事離脱したのだから悪戯に長引かせる必要はないな』


――――――――――――


〔それじゃあ、たくさんの人が亡くなったの?〕

「些細なことよ。あなたに比べれば、安い犠牲なのだから」

〔そうだね。ほむらちゃん〕

「ふふ、リボン似合ってるわよ」

〔ありがとう。ほむらちゃん〕




「・・・」


ほむらは魔法少女に変身した。

地下空間に広がる実験台、素体、触媒、溶媒の多くが散乱していた。


〔ねえ、ほむらちゃん?〕

「・・・」

〔ほむらちゃん。返事してよ。ほむらちゃん〕


神速で、ソレの首をへし折り

「ホ・・・チャ・・・ん」

矢を組成し、その体に衝き立てる。

右側頭部

「痛・・・・・・ィ」

左手の甲

下腹部上方

「ア・・・ァ・・・」

そして首元

首元を刺しぬいた瞬間、白い粉となって消えた。





『これは、ソウルジェムの位置を狙っているようね』

『佐倉は平気なのか?』

『暁美さんの言う「素体」がベースだから大丈夫よ。
だけど私たちの仕組みと同様、リンクは切れてしまったわね』


『終盤は佐倉がテレパシーで人形の会話を再現していたはずだ。
それなら、人形は何故呻いていたのか? 佐倉はそこまで気が回らないと思うのだ』


『本当にあの子が宿ったとしたら、それは奇跡と呼んでいいわ。
でも、そんなものあるわけないじゃない。あってたまるものですか』

――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――


「佐倉杏子。貴女の仕業だったのね」

〔ああ、まあな。しんどかったぞ、お前の相手は〕

頭の中に声が響く。テレパシーだ。

〔どうしてわかったんだ?〕

「あの子は、心優しい子なの。慈悲深い子なの。
私が導かれそうになった時――あのとき『良かった』って言ってくれたのだから。
あの子は、犠牲を悲しむ子なのよ? こんな利己的な人形・・・此方から願い下げだわ」

〔ははは、それをお前が言うのか。懲りない奴だな〕

「・・・今に見ていなさい。私には魔法がある。不死身の肉体だってあるのだから」

ほむらはうわ言のように繰り返す。

「今に見てなさい・・・」


――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――



「リボン・・・」


「あった・・・良かった」



液体で塗れている床に座り込み、嗚咽を上げながら泣いた。


ほむらは涙を流し続けた。





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ーニ二_,イ::::::!:::::::、::::::l:::::::::::::::::':,::::::::::::\:::::::::::::::::::::::l
    /::,イ::::/,::::::::l:::::ト、:::::::、:::::::':,:::::::::::':,:\::::::::::::::::::l

    ,:::/ l:::/r/ヽ‐、-、_、`ヽ、::、:::::l、_:::::::::ヽ::::\::::::::::::::.
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    |   ヽl{ ´、 ,   〈!  、__ッ'|::l ,::,:::::::::',:::::::::::\::. 、:::`ヽ
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二ニ=-ニ - '´::/!   `ヽ/ ー=っ !,.イ !:!//!:::l//`ヽl:::!::::::::\:::::::::::.

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「すこし、夢見すぎた」



「――疲れたわ」



「・・・」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――
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□会議室


「そろそろ時間か。あなたは、ここまでの事実を受け留めて貰わねばならない」

「これで暁美さんに降りかかった出来事は大体把握できたと思うわよ」

「何か質問はあるか?」



「――よろしい。では少々休憩しよう。久しぶりに魔法を使ったら眠くなってきた」

「美国さんも大変ね・・・」




□談話室

「客人は帰りましたわ。巴さん――また二人ぼっちですね」

「あの悲劇が全てを奪ってしまったのよ。全部私のせいなの」


「まだそう仰いますか。まあ無理もない事なのですが・・・。
それにしても、あの客人を見て何も気づかないとは、巴さんの目も節穴になったものです」


「ええと、私は初対面だったはずよ」


「あの方こそ鹿目詢子。私の友人の計らいで海外に移住させていたの。
元々は見滝原の住民――子供が『円環の理』の素体に利用されてしまったから、夫婦を退避させたのよ。
悪夢を繰り返さないためにね。そして今、九歳になる双子がいるの」







「桃髪の子の・・・。美国さんはどこまで私を追い詰めるの?」


「どこまででしょう。スケジュールは空けておいてくださいね。
鹿目さんと、その子供達が近々ここに来ますから」



「私はあの日から独りで戦ってきたの。美国さんと違ってね。
だから魔法少女絡みの件だったら、間違いなくノーを突きつけるわ」


「巴さんは変わりました。お茶会次いでに子供たちと遊ぶのも良い気分転換かも知れません」

「美国さん、口調はどうするの? 親御さんには事務的に当たっていたけれど」


「いいのよ。私はこういう性分なの」

「あなたも十分変わってるわね!」




ちょっとした口論を肴に、二人で仲良く紅茶を啜ってみる。






マミはクッキーを一つまみしては、黙々と口に運んでいる。
織莉子は長時間の頭脳労働を終え、うつらうつらとしている。


談話室は心地よい静寂に包まれていた。


クッキーを全て食べ終えた頃、マミはソファをぱんぱんと叩いて織莉子を起こした。


「それで、ヴァルプルギス――暁美さんの暴走も見届けさせる気?
気の強い方だと思えたけど、一般人には間違い無く耐えられないわよ」

「私の『願い』はそこにあるのだけど、巴さんにとってイヤな出来事を思い出させてしまうから・・・」


「今の今になって忠告? その心配は無いわよ」

「強がりは良くないわ」

「大丈夫。目を閉じるだけで鮮やかに映る・・・十八年も昔の出来事なのに」


「――巴さん、涙が流れていますよ」





     物語は運命悲劇から始まる



■Tragoidia


リボンを手に持ち、優しく頬ずりをした。
夢のようなひと時は、全て偽りだったことを思い知った。


「・・・魔力が足りない。もうあの子を創れない」

「・・・いえ。創っても殺されてしまう」

「先にあの二人を殺してでも――」

「魔力が足りない。魔力が・・・」



魔力を得るには、魔獣の落とすグリーフシードが必要である。
魔獣による人魂の加工が不可欠である。


「魔獣を介さない手段・・・穢れを吸う代替。きっとあるはず」


ほむらは今にも崩れ落ちてしまいそうな足取りで図書館へ忍び込んだ。
ふとあることが気になったためだ。隠匿の術をかけっぱなしだった事に。





□図書館


「独りぼっちで可哀想に。いますぐ魔術を解いてあげる」


魔術の使用から十日間。仁美はあの時と同じ姿で横たわっていた。
水気は失われておらず、生きているかのように感じられた。しかし体は真っ黒に変色している。


「これは生きているの? なによこれは」


今日のほむらは冴えていた。冷酷だった。
ポケットからグリーフシードを幾つか取り出す。それらを地面にばら撒くと、一瞬で瘴気を吸いきった。



「ぁあ・・・私に何をなさった のです か」


仁美が意識を取り戻した。人形のように白く、美しく、儚い姿に戻っていた。
水を手渡すと、むせながらも全てを飲み干した。


ほむらは満足そうにその様子を眺め終えると、戸惑いながらも質問をぶつけた。



「貴女は、何故生きているの?」


「何故、私は生きているのでしょう」



片方は生理学的な意味で問いかけ、片方は哲学的な意味で問いかけた。





「その答え、志筑は何だと思う?」

「奇跡を――」

「そんなものあるわけないじゃない」

「答えを知りたいなら、私に利用されなさい」

「暁美さんは、何をしようとしているのですか。何を考えているのですか」




「既存のシステムに叛逆する」



□暁美邸宅――二階



「美樹さやか。佐倉杏子。私の苦痛を思い知らせてあげる」


ほむらは、復讐の第一段階として、まず志筑仁美を手元に置く必要があった。
次に、より効率的な浄化の仕組みを開発する必要があった。


既存のシステムでは魔獣という二次捕食者を介さないと魔力の補充が不可能である。
食物連鎖として見ると、エネルギーに多大なロスが生じる。時間の無駄でもある。



「魔獣は、人間の持つ負の感情を糧に魂を吸い取り、グリーフシードを生む。
そのグリーフシードが穢れを吸い、私は生存し続ける」



それなら人間の魂に直接、穢れを移せばいいのではないか。



「理屈としては正しいけれど、リボンの魔力に人間は耐えられなかった」

「今まで注いでいたのは魔力。穢れだけを意図的に移す方法があれば」



そして仁美の下へ詰め寄る。


「貴女はかつてリボンを持ったとき体調を崩した。
私の手を握り続けた後、何度も嘔吐を起こした」


「・・・それがどうかしましたか」


「今の貴女は、少しくらい魔力を吸っても生き残れるはずよ。
でなければ、穢れに埋もれて十日も生き残れるはずがない」



仁美の体にソウルジェムを押し付ける。白い肌に赤い血が滲みでてきた。





「な・・・何を。その宝石で何を」

ソウルジェムの穢れは若干消え去っていた。
思惑通り、一定の条件下で穢れが人間に移ることを証明した。


「おかしいわね――いやこんなものね。
魚はお腹いっぱいになるけど、プランクトンじゃ全然足りないもの」


「志筑。ここで留守番してなさい。いいわね」

「・・・はい」


仁美なら明日にも逃げ出すだろう、泳がすのも悪くない、と考えながら指示をした。



□暁美邸宅――最深部


「私は一人ぼっち。次こそ生きて残れない」

「私の遺志を継ぐもの――やはり必要ね。大切に保管しておいてよかったわ」

「間もなく起動する。さて、全てを移植し終えたら・・・フィールドワークよ」


■Deus Ex Machina


家の外でテレパシーを送った。
泣き沈んでいるほむらの前に白い生き物が現れる。


「キュゥべえ・・・。何がおきているの? 私は血まみれで・・・その」

「暁美ほむら。覚えていないのかい? 美樹さやかと戦ってたそうじゃないか」

驚いた表情でキュゥべえを見つめるほむら。

「そんな、美樹さんが私と・・・。あぁ、美樹さんは無事ですか」

「ふむ、一命は取り留めているよ。錯乱――短期的な記憶障害かな?
マミの家まで行こうか。聞きたいこともあるし」



□ティロホーム


マミとキュゥべえしかいない。
さやか、杏子が居た場合、厄介なことになっていたかもしれない。
マミとキュゥべえしかいなかったため、もっと厄介なことになってしまった。


――――――――――――
――――――



「そのときは、外に居たから全然気づかなかったわ。
でもまさか美樹さんと佐倉さんがねえ・・・。ちょっと信じられないわ」

「丁度、ボクは隣町で探し物をしてたんだ。
佐倉杏子はここには居ない。美樹さやかは大怪我をしていたよ」

「そうですか・・・。もしも、二人が私の命を狙ってたとしたら、巴さんは・・・」

「もしそれが事実なら、暁美さんの味方に徹するわね」

「キュゥべえは――」

「勿論ほむら側を支援する。犠牲は最小限で済ませたいからね」



「巴さん、キュゥべえ、ありがとうございます。
ちょっと探し物をしてきますね、紅茶ごちそう様でした」

「またいつでもいらっしゃい」

嬉しそうな、悲しそうな、複雑な表情で出て行くほむらを見送った。





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玄関の鍵を掛け、盗聴器具がない事を確認し、マミは顔を曇らせた。


「あの子、何を考えているのかしら」

「演劇には向いていないね」

「それにしても全然わからないわ。もう少し様子を見ましょうか」

「暁美ほむらはすぐに行動を起こした。次の目処が立っているんだろう」

「『円環の理』を――まだ諦めていないの・・・」

「そうだろうね。また数百人規模の行方不明者がでるんじゃないかな」



「だとしたらソウルジェムを破壊しなければ・・・。それが私たちの使命」

「邸宅から出てきた二人の話を聞いて、決断したのはマミじゃないか。
それとも何か気になることでもあったのかい?」


暁美ほむらが一般人に甚大な被害を与えた、と判断できた場合、
美樹さやか、佐倉杏子、巴マミの三名は暁美ほむらを探し出し、
彼女の左手甲にあるソウルジェムを砕く手筈になっていた。


深く考える素振りを見せるマミ。


「とりあえず、美樹さんに連絡するわね。最悪の事態に備えて、戦力の確保をしないとね」

――――――――――――――――――――――――――――――
ここまで。前スレの質問から
>>11>>134の『長い』は順に
ループの精神的、心理的な時間 と 気絶から復帰するまでの物理的な時間 で対比してます

思い出を振り返れば一瞬、でも長かった。後者だと十二時間労働は長い的な・・・ 
上の説明でなんとなく伝われば僥倖

投下


――――――――――――
――――――


■In Vivo


黄昏時。


清流に柿色が吹き込まれ、初風にアキアカネが躍る。
増えに増えた苔むしろは石畳の合間に身を潜めていた。


人影はほとんど無く、車道もつかの間の休息といった所か。


耳を澄ませば、樹々の音色が見滝原に響き渡る頃。







人のものとは思えない叫喚。



――安寧秩序は失われる






新しい犠牲者が出た。


地面には放射状に広がった鮮血。固形物は何一つ残っていない。
穢れを移したためか、赤の中にタールのようなものが浮かんでいる。





赤の上に赤いリボンの少女。

沈黙を貫いて、考え事をしていた。




やはり、穢れと一緒に魔力も移った。総合すれば『得』したわけだけど。
穢れだけ魂に移せればもっと効率的な運用が出来そう。


魔力の移動量は志筑と同じ。彼女は耐性がついているようね。


そういえば、志筑は穢れで覆われていた。


リボンや私に触れたことと、今回の出来事で魔力に慣れたとしか・・・。
でも、どうして、穢れを身にまとっていたのかしら。



「実験データがもっと必要になる・・・。魔力は実験対象が補ってくれる」

ほむらは地べたを見ながら呟いた。




頭のリボンに自分の魔力を注ぎ、『円環の理』の魔力として自分の肉体に戻す。
その力は密度が濃く、強く、桃色のような異なる波動を生み出す。魔力の増幅器のような役割だ。


二分子のATPから四分子のATPが生み出されるような経路だった。



以前こそ、嘔吐や体色の変化が見られたが、今のほむらは全てを克服している。
きわめて単純で、機械的な作業が続いた。


ほむらが消費した魔力はすぐに取り戻せるようになった。
魔獣を狩るときもあれば、魔獣を介さず『回復』させることもあった。





人間に穢れを移す――理論上は簡単だ。
ソウルジェムの穢れを能動的に、魂へと輸送すれば良い。


実際には魔力も穢れも全身に移動するので、一般の人間は形を保てず四散する。
また、血の一部だけが痕跡と残るのが常なので、ほむらとしても隠す手間が省けた。



前回は『円環の理』の力に耐えうる肉体を探していた。
結局、最高の素体は見滝原の魔法少女達によって失うことになった。



今回は、素体と同時に、より多くの穢れを移す方法も模索している。



『円環の理』を創り出すための一定の方法論が確立された現在、ほむらを縛る制約は無きに等しかった。











「素体探しだと思えば一石二鳥。志筑は放っておけばいい」


多くの犠牲があったとしても、あの子が生まれるとすれば、それはとっても素敵なことなのよ。


そのためには、“私”を閉じ込めてでも修羅になってみせるわ。




耳から離れぬ断末魔




身を震わせながら、赤と黒の上でほむらは心を鬼にした。






好奇心は猫をも殺す――イギリスの諺。
九つの命を持つネコでさえ、好奇心が原因で命を落とす、という意味合いだ。



ほむらはネコ以上の好奇心を持ち合わせ、すぐに行動を起こす性分である。
ほむらは危うかった。危うくて、とても脆い。



その脆さを補うために――魔力、魔力容量の拡充と次の素体探しに努めた。


三日後



行方不明、犠牲者は既に三桁へと差し迫っていた。
集団登下校が主となった。県警が街中に投入された。



午後九時以降の外出は制限された。
それでも見滝原の住民はどこか人事かのように、新聞を広げ、ニュースを流し見た。



国内でも治安の良い地域なのだ。きっと明日にでも犯人が見つかるだろう。



大黒柱はワイン片手に、甘すぎる見通しを立てる。誰一人として気に留めることは無かった。
それどころか、雷や台風を見て大騒ぎする児童のように、興奮を覚える愚者ばかりであった。







――魔法少女達にとっては違った。





日和見する状況は既に過ぎ、可及的速やかに、確実に暁美ほむらを排除する必要があった。


原因は既に把握している。目的も掴んでいる。


ただ、死体の形状が今までと異なっていた。
地下室に放置してあった物とは明らかに異なる。



これはマミとキュゥべえを悩ませた。
ほむらが突然訪問するなど、奇怪な出来事が続いた。




さやか、杏子勢は昔馴染みの魔法少女組織がいる他県へと遠征している。


現状報告と情報開示を行い、ほむらと対峙した直後から同盟を求め続けた。


見滝原に残るマミは新人魔法少女の教育に身を砕いた。








キュゥべえは街に二体。マミとほむらに付いて回っている。


魔獣討伐において、ほむらのエネルギー回収効率は目を見張る物である。



比類なきその躍動と破壊は、誰もが認めざるを得ないものであり、
彼女が行った重大な「法益侵害行為」を知らないものは皆、尊敬の眼差しを向けるだろう。



インキュベーターにとっても例外ではなかった。
暁美ほむらが持つ天賦の才を無駄には出来ない。一騎当千とは言いえて妙である。



すなわち、状況によってはインキュベーターが寝返り――ほむらに組する可能性があった。
実際、魔法少女達は無闇にキュゥべえを信認することができなかった。




――――――――――――
――――――

同日夜間



『円環の理』を宿すための素体を見つけて、ほむらは歓喜する。


「私はとても愚かだったわ。素体はあるじゃない」


涙が止め処も無くあふれ出し、顔が紅潮する。
道行く人に一人一人、後ろから抱きつきたくなるような気分だ。



「後はあの子の光。それまで魔力容量の強化に努めましょう」



月光に活路を見出した少女は、年相応の笑みを浮かべ、闇に消えた。


――――――――――――――――――――――――――――――
ここまで。サブタイの解説は要らないですよね。

        *'``・* 。
       ,マ|-─-'、`*。
       ,。∩(ノノ`ヽ)  *    もうどうにでも
      +ξゝ*^ヮ゚ノξ*。+゚     ティロフィナ~レ♪
      `*。 ヽ、巴 つ *゚*
       `・+。*・' ゚⊃ +゚

       ☆   ∪~ 。*゚
        `・+。*・ ゚

■Duverger's Law




――戦力の確保




武力は争いを鎮め、いらぬ争いを生みだす。




暁美ほむらという一人の相手に、魔法少女三人を要した。

三日間にわたる幻覚。

使用したグリーフシードは二百を超える。







――ほむらが『円環の理』を諦めない可能性



美樹さやか、佐倉杏子は、万が一に備えて戦力を欲した。
そこで巴マミは魔法少女同士の協定を結ぶことを提案する。




ほむらが地下室で慟哭した一週間のうちに、魔法少女の勢力図は大きく変わっていた。





そして――


――さやか、杏子が他県から戻ってきた



マミは無事に帰ってきた二人を見て落涙し、その生を喜んだ。



□ティロホーム


暫くの歓談を終え、本題に入るマミ。


「ニュースは見てるわね? 死者21人 行方不明者143人 
昨日だけで70人近く・・・そろそろ動かないと不味い事になるわよ」



見滝原の住民に甚大な被害があったと認められる数値である。


暁美ほむらのソウルジェムを砕くことが確定した。



「この前は何百人だっけ。もうほむらの好きにさせたらいいんじゃないの。
また戦ったら・・・勝てば別だけど、相打ちになったら今回みたいに繰り返すと思う」


「一理あるぞ。『円環の理』に執着している以上、目的を支援すれば犠牲は止まるはずだからな」


「私は表向き味方だから良いけど、美樹さんは特に恨まれてるはずよ。
佐倉さんも街の人を天秤にかけないで。救える命は救いたいから」



心変わりだ。



三人で相談したときは、さやかと杏子はほむらに敵対することで一致していた。
数日の間、二人の心境に何が起きたかわからない。


マミは遠まわしに非難の意を伝えたが、二人は何とも思っていない様子だった。



「キュゥべえはほむらの行動をどう考えてるの?」

「暁美ほむらの魔翌力容量は増大している。
彼女は『円環の理』ではなく、力を欲しているように見えたよ」

「アイツはもう十分強いと思うんだが」

「それでもマミ達には及ばなかったのだろう? まず、反乱分子を排除するのが先決と踏んだのさ。
どういう原理か解らないけど、リボンを媒介にして魔翌力の強化に充てているのは事実だ」

>>189訂正


「この前は何百人だっけ。もうほむらの好きにさせたらいいんじゃないの。
また戦ったら・・・勝てば別だけど、相打ちになったら今回みたいに繰り返すと思う」


「一理あるぞ。『円環の理』に執着している以上、目的を支援すれば犠牲は止まるはずだからな」


「私は表向き味方だから良いけど、美樹さんは特に恨まれてるはずよ。
佐倉さんも街の人を天秤にかけないで。救える命は救いたいから」



心変わりだ。



三人で相談したときは、さやかと杏子はほむらに敵対することで一致していた。
数日の間、二人の心境に何が起きたかわからない。


マミは遠まわしに非難の意を伝えたが、二人は何とも思っていない様子だった。



「キュゥべえはほむらの行動をどう考えてるの?」

「暁美ほむらの魔力容量が増大している。
彼女は『円環の理』ではなく、力を欲しているように見えたよ」

「アイツはもう十分強いと思うんだが」

「それでもマミ達には及ばなかったのだろう? まず、反乱分子を排除するのが先決と踏んだのさ。
どういう原理か解らないけど、リボンを媒介にして魔力の強化に充てているのは事実だ」



キュゥべえは窓辺から空を見つめて話し続ける。


「暁美ほむらは、人間を消費することで穢れを回復している。
知らぬ間に新しい技術を生み出したようだ。何が起きるのか察しがつくだろう?」

「前回以上に人が死ぬ・・・?」

「それだけじゃないよ」


キュゥべえの発言に息を呑む三人。ティロホームを沈黙が包み込んだ。



「魔法少女も標的だってことさ。『円環の理』を宿すのが彼女の願いだとしたら、
きっとキミ達の誰かを呼び水にするだろうね。その姿は、紛れも無く知能を持った魔獣――」

少し考えていた。間を置いただけかもしれないが。

「――いや『死神』と形容しよう。キミ達の出来ることはただ一つ、息の根を止めるしかない」





キュゥべえは矢継ぎ早に質問をする。


「マミ。新人――あの子の調子はどうだい?」

「・・・だいぶ使えるようになってるわ」

「さやか、杏子。話は付いたかい?」


「ばっちりだ。プレイアデスの七人はとっくに到着している。
報酬はアイツの家、所有物、地下室――遺産全部ってな」



「到着・・・している?」


マミが復唱する。動揺を隠し切れず、さやかに問う。


「協定――どころか顔合わせもしてない。独自に行動してるってことよね・・・」

「そうだよ?」

「プレイアデス聖団が暁美さん側に付いてもおかしくないわ」

「あぁー。『円環の理』のことを話したらヤケに喰い付きが良かったなあ」


杏子の能天気な発言に頭を抱えるマミ。




「ちょっと佐倉さん! それは早く言いなさいよ」

「ははは、もう遅い・・・」


「でもあたし達はちゃんと話したから味方になってくれるよ」

「味方のフリをして内側から壊すのは常套手段よ? 美樹さんも一応警戒しなさい」



マミはこの二人をよくよく観察した。瞳孔、呼吸回数、皮膚の色など。
得られる情報は全て得ようとした。
その上での、裏切りへの牽制を込めた発言であった。



「はあい」

「じゃあアレか。プレイアデスがほむらと組んだら一網打尽にされるわな」


「そういうこと。報酬の遺産も要らなくなるし、活きた知識が手に入るわ」

「それってもしかして・・・」


さやかが不安げに呟く。






「私達は八人の敵に囲まれているってことよ」







マミはそう答えると、目を閉じて沈黙を貫く。



プレイアデス聖団

――あまり良い噂は聞かないけど、あの子達ならと思った私が馬鹿だった。

暁美さんは狂っているみたいだし、キュゥべえは何だか最近、よそよそしくなっている。

佐倉さんと美樹さんはプレイアデス聖団と裏で取引をしているかもしれないわ。





このままでは、私は誰にも頼れない――。




あらゆる可能性が渦巻いていた。

マミにとって、心臓の高鳴りだけが唯一の理解者だった。










――流血の舞台に役者が揃った












■願はくは 花の下にて 春死なむ


□自然公園


「やっと見つけたァ。そこのお前・・・アタシと同じ種類の匂いだよォ」


『食後』のほむらに話しかける一人の少女。
暗闇の中。弱弱しく点滅する水銀灯の下にショッキングピンクが浮き上がった。


金髪でツインテール。腹部を中心に大怪我を負って、もたれ掛かっている。
別の地域から逃げてきた魔法少女だと思われた。







「貴女、もう長く無さそうね。命乞いなら引き受けないわ」

「あってるよ、けど違う。お願いがあるのさ、死ぬ前にね」


重傷を負いながらもニタニタ笑う少女に不信感を抱くほむら。


「聖職者気取りの人殺し集団を潰してくれ・・・」

「人殺し集団・・・?」

「ここまで追ってきたけど、仇とれなかったんだよおおおおお」



突然、少女はボタボタと涙を落としながら叫んだ。澄み切った空気が震えるほどに。
ぺたんと座りこんでもなお、彼女は長い間泣き続けていた。


ほむらは状況を飲み込めなかった。自分のことを言ってるのかとさえ思った。
眼前の惨めな有様に思わずほむらは立ちすくんでしまう。





泣き止んだ頃、ほむらはピンクの前に屈んで、グリーフシードを一粒与えた。


「詳しく聞かせて頂戴」

「チッ、しけてんなァ・・・。ディヴァイン-ジャッジメント喰らうぞ?」

「私は、食べ物を粗末にはしないの。全部話してくれたらもっと食べさせてあげる」


「プレイアデス聖団。
アタシの大事な大事な大事な大事な、たった一人の友人を見殺しにしたんだ。
だから決めたんだよ。一人残らず殺してやるって」



魔法少女集団がこの街に潜伏していることを知り驚いた、と同時に、
目の前の少女が自分と似た境遇であることを聞き、ほむらは深い興味を示した。


私からあの子を奪った、青と赤を思いだすわね。
その気概も悪くない。まるでネメアーに潜む獅子のようだわ。







「見殺し?」


「そう! あいつらは友人を見殺しにした。桃色の柱に驚いていたら、友人が中に居たのさ。
あいつらは取り込まれるまでずっと見てただけ!」


「それは『円環の理』ね。とても素敵なことだと思うわ」


「変な奴。あんなのは死神だよォ。友人を全部持って行きやがった! 
体ぐらい残してほしいよなァ? お前もそう思うだろ?」


「心配しないで。そのプレイアデスは私が責任を持って処理するわ。
そうそう、私は暁美ほむら。貴女のお名前は?」


ほむらはやおら立ち上がる。


「・・・・・・飛鳥ユウリ」

「さようなら。飛鳥ユウリ」


ヒールで路上のソウルジェムを思いっきり踏み潰した。
砕け散った宝石と黒いキューブは美しく輝いている。




「――お望み通り、体だけは残してあげたわ」







『夜食』を済ませて帰路に着く。
帰路、といっても街中を転々と彷徨うのが主で、自宅へ戻ることはなるべく控えていた。


「プレイアデス――か。キュゥべえに聞く価値はあるわ」


ピンクの獅子は何故あそこに居たの?
どうして、トドメを刺さないで生き地獄を味わわせていたの?


自ずと一つの答えが浮かび上がる。


「もしかしたら飛鳥ユウリは囮だったのかもしれない。
すぐに行動を起こさないと。奇襲されたらひとたまりも無いわ」


アレだけじゃ足りないわ。プレイアデスは恐らく七人。

飛鳥ユウリが聖団の可能性――これも考慮に入れないとね。




何れにせよ、相当量の魔力が必要だと判断し、ほむらは闇を駆けていった。


ほむら「でも飛鳥ユウリじゃないんでしょ?」

ユウリ「ユウリ様だよ。将来の夢は探偵。Iを捨ててYOUになったいい子だよ」
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=19937085

>>174はエムデン-マイヤーホフ経路ノシ

      ∧,,∧
     (;`・ω・) ζζ 焼きそば作るよ!
     /   oー-,===、
     しー-J | ̄ ̄ ̄|
            ̄ ̄ ̄

     ∧,,∧ パッ!!パッ!!
     (;`・ω・)つー-,===、

     /o  U 彡  i♯ノ
     しー-J     ̄

        ____  チーン
        |l  l:|
∩ヾ∧,,∧ | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
⊂⌒( ´・ω・)
`ヽっ⌒ll⌒c
   ⌒ ⌒

■無慚

□見滝原――喫茶店


鋭い目つきにキュッと結んだ唇、冷静で利発そうな麗人が座っていた。
群青色に輝くストレートヘアはさながらアズライトのようで、椅子の背もたれから顔を出している。



その正面には、橙色のショートヘア。
足を組んで座っている。ボーイッシュで肌が浅黒い。
遠めにみると性別を間違えてしまいそうなほどである。



何もかもが正反対に見えるこの二人、実はプレイアデス聖団のメンバー。


あすなろ市から見滝原に来た魔法少女達。



御崎海香と牧カオル両名が見滝原に居た。



この二人は竹馬の友であり、同聖団の中核――カズミの親友でもある。


人通りの多い繁華街。


外だけでなく店内も賑わっているので、盗み聞きされる心配は無かった。
正面の声すら伝わりがたいほどの有様だ。



「カオル、本当に暁美ほむらをやれるの?
あの巴マミとその弟子達。三人がかりでやっと食い止めたそうじゃない」



「ミチル――ミチルの魂を宿す方法、暁美ほむらなら知っているはずさ。
何せ全くのゼロから『円環の理』の器を創ったんだもん。
魂の定着なんて造作も無いと思う。だからこそ暁美ほむらの知識が欲しいんだよねえ」


「人間を殺して生きてるってキュゥべえが言ってたわ。
私たち側に加入してくれたら、穢れの研究に役立つと思うのだけど」


「無いね~。暁美ほむらと同類の飛鳥ユウリ――は死んでたし。
暁美ほむらはあいつを助けなかった。んで、ほむらが見つからない。
プレイアデスが来てる事はとっくにばれてるよ」



「見つからないのは宜しくないわ。明日から早速行動を起こすわよ」






カオルが問う。暁美ほむらに対抗する手段に若干の疑問を感じていた。

「それ、それなんだけど。七等分したのって」


「勿論、かずみのため」

「もしかずみが暁美ほむらと出遭ったらどうする気?」

「大丈夫。実際は七等分じゃない。ニコが近所に居るし、二人が自然公園に一番近いから」



「それなら・・・いいんだ」


作戦の内容を反芻し、カオルはラテを口に含む。苦々しい味が広がった。





海香が俯く。いつものアレか、とカオルは身構えた。近々その頻度は増しているように思えた。


「ミチルを殺したのは・・・正しかったのかしら」

「器は失わずに済んだ。もちろん、正解に決まっているさ」


いつものやり取り。散会の合図のような物でもある。





「死を冒涜してる気がしてならないの。
『円環の理』に導かれていたほうがミチルも安らいだんじゃないかなって」


予想に反して海香は続けた。いつものやり取りがより濃くなった。
カオルは熟慮して次のように言った。


「みんな迷っている。でもね、正しいと思ったら突き進むしかないんだ。
それは海香だってわかっているだろう? 十二の過程を無かったことには出来ない。
十二の過程が犠牲になったとき、プレイアデスは殺人集団になってしまう」


「・・・暁美ほむらは私達と同類だと思うのよ」



「違う――過程はどうであれアイツは失敗した。だから死神と呼ばれた。
生命の作製に成功していたら、神と呼ばれていたかもしれないけどね」


「それでも――暁美ほむらは諦めない。私達と同類。想いは同じなのよね」



「想いは同じかもしれない。でも、神は二人も要らないよ。
死者の蘇生はプレイアデスが担う。『円環の理』にうつつを抜かす悪魔は消さないと」




■無愧


インキュベーターによると、不可解な死者・行方不明者は9000人を超えている。
急増、という次元を超えていた。指数関数のような勢いだった。


報道各社は、正確な人数が割り出せないという建前
(実際に困難な作業ではある)のもと、数字の公表は控えている。


週刊誌やウェブ上では164人――という根拠あるデータから、人々は好き勝手に妄想を広げた。
とはいえ、精々三桁後半であり、最も過激な意見でさえ二千前後で落ち着いている。



この数字は見滝原、あすなろ市を担当する魔法少女全員が既知である。
そして、暁美ほむら含めた全員が重く受け止めていた。








翌朝、プレイアデス聖団が動いた




プレイアデス聖団を構成する七名は数キロ間隔で、円形に配置。
暁美ほむらであることがわかり次第、奇襲。


失敗したら離脱。


テレパシーで報告しながら、円の中心――見滝原自然公園まで逃げる。

ほむらを釣り上げ、集まった七人で一気に叩く寸法だ。


立案者である御崎海香は絶対の自信を持っていた。
実際に、飛鳥ユウリを見滝原まで誘導し、瀕死の状態にまで追い詰めている。
 



飛鳥ユウリは作戦の要であった。

ほむらが正常であるか判断する材料として、プレイアデス聖団はユウリを利用した。



普通の魔法少女であればユウリを助ける。

利己的な魔法少女なら交換条件でユウリを助ける。



しかしほむらは、どちらでもない――冷酷な魔法少女だった。
情報を聞きだした後、ユウリを殺害する手段をとった。



この事実はプレイアデス聖団としても味方に加えるべき存在でないと結論付けている。
身内にスパイを取り込むも同然であったためだ。





■空蝉


閑散とした住宅地をうろつく少女の姿。プレイアデス聖団の一人がその後ろを付けている。


少女は一般人を文字通り吸い取っていた。

目的地も無く、ふらふらと歩き回っている。


人間を見つけると紫色で、ひし形状の物体を取り外す。
音沙汰もなく背後からブスリと突き刺していた。


吸い尽くした後には黒ずんだ血だけが広がっていた。



「紫のソウルジェム、黒い長髪。間違いない・・・。私が殺さなくちゃ」




「Fantasma Bisbiglio――苦しんで死ね」



端的に言えば、洗脳、憑依魔法と同系統の高等魔術である。
自我の強い人間に対しては、不意打ちを狙って耳元で囁く。




自分の意思ではない何かがほむらの中を引っ掻き回す。


「え・・・なに?」

――苦しんで死ね








右手に矢を生成し、何度も自分の体を突き刺し始めた。
ほむらの体は際限なく、自傷行為を繰り返した。


「・・・ッ!」


虚ろになったほむらは、支配されまいと必死に抵抗する。


体から魔力が漏れ出している。息絶えるのも時間の問題だった。



――苦しんで死ね

――苦しんで死ね

――苦しんで死ね



「イヤ・・・死にたくない・・・だれか――」






数十分の格闘の後、生命を司る宝石が砕けた。
紫の破片がアスファルトの上で輝いている。



見滝原を恐怖に陥れた魔法少女はここに潰えた。実に呆気ない最期だった。




英雄の名は宇佐木里美


破片を入念に踏み潰し、勝利に酔いしれている。



「うふっ。殺しちゃった」


――――――――――――――――――――――――――――――

ほむら「かずみ☆マギカ?」

海香「はーとふるぼっこ漫画ですことよ。吐いた読者も居たのよ?」

ほむら「壁ドンね。そんなの嘘だよ、も衝撃的だったわ」

カオル「聖団だけで七人も居る。一度じゃキャラ把握できないんだよねえ」

ほむら「でも主役級はあなた達とかずみでしょ」

海香「まっ否定はしないわ」

ほむら「・・・出番終わったわよ、私もあなた達も」

カオル「・・・」

海香「え?」





 .__
ヽ|・∀・|ノ<投下?
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  | |

■惨劇



〔暁美ほむらは、たった今殺しちゃった。これで――〕





〔遠くに『円環の理』が発動してるわ。ちゃんと見えてるわよ、お疲れ様〕






里美のテレパシーを受け取り、海香は安堵した。



単独行動というものは常に危険と隣り合わせである。
それでもこの作戦を取らざるを得なかった。



マミ、さやか、杏子がほむら側と結託していた場合



――つまり聖団全体がおびき出されて、叩かれる可能性もあった。



そのため海香は一箇所に七人集まることを恐れた。
集団戦になれば此方側の犠牲も大きく、混乱によって連携が崩れる。



逆に拡散した配置を取ることで、撤退する時間が稼げる。
犠牲は一人で済むし、ゲリラ的に報復する手段も失われないと踏んでいた。




犠牲が一人で済む。




プレイアデス聖団全体にとって、これは言葉以上の意味を持っていた。



しかしその安堵は一瞬で吹き飛ぶことになる。




〔ボク、暁美ほむらを倒した! 大した事無かったかな〕



数分後、みらいのテレパシーを受け取る。



〔そう、二人で倒したのね。お疲れ様〕



作戦は成功した。しかし単独行動という取り決めを破っている。


里美、みらいに詳細を求ねばと海香が息巻いた瞬間




〔違うよ、ボク一人だよ。だって元々そういう作戦だっ――〕




≪こちらカオル、今から陽動するよ!≫



「これは・・・どういうこと?」








違和感を感じた海香は直ぐにその場を離れた。
赤錆で朽ち果てた非常階段を使い、近所で一番高いと思われる建物の屋上に移動した。


広々とした、黒いタイル張りの屋上から、辺りをくまなく見渡した。





一箇所




また一箇所





海香は顔を覆いたくなった。自然と視界がぼやける。
何もかも捨てて逃げたくなるほどだったが、感情を押し殺して戦況の把握に努めた。




桃色の柱が合計、四箇所にあった。





これは四人の魔法少女が『円環の理』に導かれていることを示していた。



「何なのよ・・・。何がおきているの?」


「連絡! テ、テレパシー! 安否を確認しないと・・・」




数分後、返事は来た。



申し訳なさに、無力さに、悔しさに、海香は苛まれた。



どうかした? と言った気遣うような温かい反応が二つ。




海香はむせび泣いた。

自分の行いを、自分の過ちを心から嘆いた。









牧カオル 浅海サキ 若葉みらい 宇佐木里美






上記の四名はテレパシーの返信が来なかった。

プレイアデス聖団のうち半数以上が死亡していた。




「逝ってしまった・・・。全部私のせいだ・・・」




海香は全ての『円環の理』が終息するまで祈り続けた。








■黒い鳥人







『円環の理』を見届けた海香は全ての生存者、かずみとニコにテレパシーを送った。


内容は簡潔なものだ。


≪生存者は自然公園に集合。その後、直ちに退避せよ≫



「・・・」

「急いで合流しないと」


刹那――彼女の蒼く麗しい髪が大きくゆれた。



屋上に紫をモチーフとした魔法少女が居た。
背中から生えた禍禍しい羽が辺りを覆い、真紅のリボンは頭の上で、ひらひらと靡いている。




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ニ>、          `≪≫ \                               ,,,//    人__>≦三
三三> - _        `≪\__             x≦ニニ弋>、_     /ニ_/     /三三三三三三
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三三三三三三三三三三三三フ´   `≪≫、    不川Ⅴ rテ|::fノ/::l    /ニl   ,,,_ ー<三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三> __  ノ三ヽ    ' リ丸 `´メヒノ)::|  ./三三`´三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ヽ   ノ人 -   ノ::イ:::::|,/三三三三三三三三三三三三三三三
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                      廴 /  , !!イ rニニニニニニニ>rrノ` ≪三` ´三三三≫

                        `T 〈ニニニニ〉ヘ V ̄ ̄〈|
                            从"  V//// , ,////}{
                             V////l V///}{
                             V///i!  ,///}{
                              ヽ//ハ  ,//ハ



「何がおきていると思う? 御崎海香さん」


はっきりと、力強い声でほむらは言った。




どこか嬉しそうな、そんな雰囲気が憎くてたまらない。
海香はありのままの形状を、ありのままに述べた。



「黒い鳥人、とても禍禍しい」



里美が殺した、みらいが殺した、見滝原の死神がなんで私の前にいるの・・・?


これは好機。敵討ち――いや、今すぐ逃げるべきよ・・・これ。




補助魔法主体の御崎海香にとって、暁美ほむらは出遭ってはいけない存在だった。

プレイアデス聖団でも一二を争う牧カオルでも適わなかったのだから。

形容しがたいプレッシャーが海香を襲った。





「あなたが・・・暁美ほむら」


「初めまして。あの子の光はとても美しかったわ。
でもまだ足りないのよ・・・全然足りないし、あの子の声も聞こえない」


「これ以上近づくなら、攻撃するわよ」


「でも、あの子の桃色の光――四回も浴びちゃった。ふふっ。でもまだ足りないのよ・・・全然足りない。
私の付き人にも浴びせたけど、あの子はまだ宿ってくれない――魔力が足りない」


「聞いている? 近づかないで」


思い出したように海香を見るほむら。
まるで今の今まで気がついてなかったような素振りを見せている。





「付き人は二体ずつ七箇所に派遣したのだけれど――貴女の担当は死んだ。
貴女はプレイアデス聖団の参謀よね?」

「ち、違うわ。私達はただの――」

「殺人集団」


ほむらがうっすらと微笑んで挑発した。
海香は震えを押さえ、すぐに切り返す。


「暁美ほむらも護衛を連れていたのね。それならお相子だと思わない?」

「付き人を殺したのは貴女達。私の大事な大事な大事な大事な付き人をね」


ユウリとのやり取りをそのまま重ねた。ほむらは海香を挑発することに徹していた。
特に深い理由はない。ただ、ユウリの涙を見て共感を覚えたことは否定できない。


「付き人・・・巴マミ、美樹さやか、佐倉杏子のことね。くそっ」

「あってるよ、けど違う」


ユウリの台詞をそのまま流用する。他人の台詞だと気づかない海香を見下した。


「二かける七で十四人だったわね・・・。他にも居るってことを言ってるのかしら」

「それは大外れ。マミは味方――だと思うのよ。美樹さやかと佐倉杏子は敵」


「それで・・・残りの十三人は?」






海香は内心焦っていた。かずみ、ニコを待たせるわけには行かない。


そして巴マミの思惑が全然読み取れなかった。
現在の状況を客観的に見る。


プレイアデス聖団が魔法少女狩りの被害にあっているだけだ。

正義の魔法少女を自負し、ミチルとプレイアデス聖団の発展に大きな影響を与えた巴マミが

――暁美ほむらに味方しているのか。ここまで用意周到な作戦を考えていたのか、と苦悩する海香。


「マミは味方かもって言ったでしょ? 付き人じゃない」


「これと別に十四人・・・。なんてこと・・・」




「ええ、暁美ほむらと――」


海香にとって、付き人とやらの名前なんてどうでも良かった。時間稼ぎに徹する。
時間稼ぎ――それしか出来ることがなかった。


海香の思惑を知ってか知らずか、ほむらは続けた。




「暁美ほむら――で三人目の付き人、名前は暁美ほむら」


え? 同じ名前よ?


ほむらの襲名披露宴は続く。




暁美ほむら

暁美ほむら

暁美ほむら

暁美ほむら

暁美ほむら

暁美ほむら

暁美ほむら

暁美ほむら

暁美ほむら

暁美ほむら

暁美ほむら



「これで十四人だと思うわ。でもその内、何体も破壊された」


耳がイカれたのかと疑った。吐き気をもよおす海香を尻目にほむらは続けた。



「私が造った付き人――貴重な素体。あの子を宿せる唯一の肉体。
あの子の全てを受け止められる抜け殻。貴女達って本当、人の邪魔しかしないのね」


「全部素体。抜け殻――」

「名前で呼んで頂戴。貴重な素体だからこそ名前があるのよ」




「『円環の理』を宿すために何人も殺したってこと・・・よね」


「たった四人でしょ? 運の悪い交通事故だとでも思えば安い物だわ。
そうそう、一般人はどうせ魔獣に殺されるんだしノーカウントよ。結末は一緒だものね」



共に戦い、同じ目標のために苦心した仲間を貶された。
海香は悲しみと怒り、後悔の混じった感情をもって、目の前の敵にぶち撒ける。



「あなたは、もう人じゃない! 暁美ほむらじゃない!」

「トチ狂ってるわね、御崎海香さん。私は暁――」

「魔女よ! 魔女! 『死者を囲い込むもの』ヴァルプルギスの夜よ!」




「私を侮辱しているの?――」


――――――――――――――――――――――――――――――
Tips


ほむら「このリボン凄いのよ。魔力を注ぐと桃色の力になるの」

ほむら「魔力は人間の魂かグリーフシードから得ているわ」

ほむら「魔力容量が生まれつき多いから、穢れの浄化以上の効果があるの」


魔力→魔力容量UP、身体強化etc  →  穢れ発生  ←魂、グリーフシードで浄化


さやか「ほむらの実験場所を壊したよ。一人前の魔法少女だよ」

杏子「さやかとあすなろ市に行ったぞ。プレイアデス聖団に協力を仰いだ」

マミ「暁美さんが見滝原に被害を与えたら、次こそ止めないと、って美樹さん達と相談したの」

マミ「でも二人の意見は変わってしまったわ。プレイアデスと「同盟」を組むだけだったのに」

マミ「暁美さんとプレイアデスが組んだら拙いわ。いつの間にか見滝原に来ているの」

              /\        ,へ、     O
            /::::|\\___//い   o

               /:::::::| ,ゝ::::::::::::::::::::::::\| |
            /::::::::::|/::/三三三三三ヽ::ヽ    と思うほむほむであった
          /:::::::::::::::::::|::::i::::::::::::::::::/|:::::ヽ:::::\
           i:::::::::::::::::::::|::丁厂|:::::::/「T:::::::ヽ:::::::i
            |:::::::::::|:::::::::|ヽ|八 |::::/ iハ::::从::ト、:|
            |:::::::::::|:::::::::「「  ̄「レ' 「 ̄「/::::/ iノ
 (⌒ヽ.     |:::::::::::|:::::::::圦 丿  丶ノ |/

  ヽ:::::l    人:::::::::|:::::::::|///      //ヽ =3 ホムッ
   |::::| )) /:::::::::::::::|:::::::::|≧ェ _ V_ . イ|

 (( |::::|   /:::::::::::::::::|从::::!:::::├┬ュ:::::::::|::|:|
   |::::|   / :::::::::::::::::::::/ヽ|ヽ  ̄A ̄フ\!::::|
   ゝ::ヽ /:::::::::::::::::::::::く  ハ/ ∨ /::::|

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■宇佐木里美の悲劇


ほむらの鎖骨にある宝石は既にヒビが入っていた。
人間から集めた魔力が漏れ出している。


「イヤ・・・死にたくない・・・だれか――」


「バイバイ」

「――ぁ」

「あはは、あっけなかったわ。のんきに外を歩いてるからそうなるのよ」



硝子を磨り潰すように、入念に石を処理した。



そのままうつ伏せに倒れたほむらに足を乗せ、一時の興奮を楽しむ。




「海香ちゃんの作戦もまあまあ上手くいったわね」

「うんうん。早くあすなろに戻りましょう」









〔暁美ほむらはたった今殺しちゃった。これで――〕




海香にテレパシーをしている最中、目を疑うような光景を視た。




里美の真横に暁美ほむらが居た。




そこにいるのが当然かのように、気配なく、至近距離に立っていた。

動揺のあまり、テレパシーが途切れる。


集中力無しに情報の送受信は困難――況して先ほど殺害した人物が立っていたとすれば、
驚きの程度は甚だしいと言わざるを得なかった。



「貴女が最初の生け贄」


「!!」






「初めまして」


「どうして・・・ソウルジェムが本体じゃない・・・」

「ソウルジェムは私達、魔法少女の本体よ?」


「壊したのに。どうして生きているの・・・」



ほむらは里美が踏みつけている死体を指差し、猫なで声で耳元に囁いた。



「私の付き人は十四体。残り十三体。13って死の数字よね。そういうこと」


「かずみちゃんと同じ? いやあああ! 死にたくない、死にたくないっ!」


里美は逃げようとしたが、今すぐこの場を離れようとしたが、体が動かなかった。
完全にイレギュラーな事態に、脳の処理が追いつかない。




「もう穢れ始めてる。私が今すぐ楽にしてあげるから」


里美の左胸にソウルジェムを接触させる。
突風で紅いリボンが大きく靡いている。


「ふぁ、ファンタズマ・ビス――」

「精神を落ち着かせないと魔法は発動しないわよ? あら似た色なのね、縁を感じるわ」

「止めて。私まだ逝きたくない・・・導かれたくない」

「穢れを移すだけよ。あの子を宿す練習でもあるけど」


穢れは既に移し終え、里美の魔力を吸い尽くす形になっていた。
魔力を吸い切るか、里美が絶望すればほむらの計画が始まる。


「あノ子って円カんノこトワ――?」




桃色の柱が上がった。里美のソウルジェムは既に濁りきっていた。


「ああ! 逢いたかったわ。本物のあの子にまた逢えた。私に姿を見せて・・・声を聞かせて・・・」


淡くて優しい桃色の中に入るほむら。全身に安堵は感じるが、
一向に『円環の理』が宿る気配は見られない。声も聞こえない。



呪を唱えたが、その身に変化は起きない。



「人の身に二つの魂は無理なのかしら?
魂は外にあるから、私の肉体に宿せば・・・と思ってたのだけれど。
外付けのハードウェアにあの子を拒絶する理由は無いはずよね」


桃色の中でほむらは独り言を続けた。


「付き人の方は上手く行ってるかしら。次は付き人にも浴びせないと。あれらは魂を持たない」


桃色から名残惜しそうに出て行った。紅いリボンは真紅に煌めいている。





>>243   3行目訂正、追記

ほむら「魔力容量が生まれつき多いから、より多くの魔力を保有できるの」

ほむら「リボンに貯めた魔力も考慮すると、アドバンテージは相当のものよ」

■浅海サキの悲劇


サキは高台を陣取っていた。


どこか抜けている彼女は地の利を活かすことを忘れ、
いつでも敵の奇襲を受けかねない場所に仁王立ちし、腕を組んでいた。


周囲には誰もいない。たとえ、一般人が居たとしてもサキは気にしないだろう。





「記憶喪失・・・何も植えつけていない。クローンの器・・・ミチルより頑丈」

「ミチルの魂さえ手に入れば・・・暁美ほむら。奴さえ味方になってくれれば」

「ミチル――ミチルのためなら魔法少女システムの破戒も厭わない」


後ろに二体の影が近づく。サキは振り向かずにそのままの体勢だ。


「あの子の破戒は許さないわ。ええとプレイアデスのメンバーよね」


その内の一人が警戒心を示しながら問いかけた。
サキは待ちかねていたかのように後ろを向いて、ベレー帽を脱いでお辞儀をした。


「浅海サキ。暁美ほむらを仲間にしたい。どっちが本物だ?」


「「私よ」」

「どれでも良いよ。一つくれ」

「「何が目的でここに来たの?」」

「器に魂を宿したい。話は聞いているんだ。素体――と呼んでるらしいじゃないか」

「「そこまで知っているのね。でも誰の魂?」」




「和紗ミチル。魂を呼ぶ方法と、器に定着させる方法を教えて欲しい」


「「どちらも魔力が要るわ。ものすごく沢山の。だから私達はヒトを殺し続けている」」

「最近の行方不明者具合から察しは付いてたよ。どうしても魔力が足りないんだな」


「「そうね。貴女、話がわかるじゃない」」

「わからないよ。暁美ほむらは人間を殺して魔力を得ようとしている。魔獣狩りも結局は同じ。
数千の命とひとりの友人、どっちも重すぎてわからないよ、私には」



「迷っているうちはまだまだ未熟よ」

左手を差し出す一人のほむら。サキはミチルを想いながら手を重ねた。




そこに三人目が現れる。真紅いリボンが特徴――先の二人とは何かが違っていた。


「仕上げは私。貴女達二人には処理が難しいわ」

「「ふん。コイツは浅海サキ。プレイアデス聖団も私と同じ目的で――」」

「死んだ友人の魂を探し出して器に宿すことだ」

サキが間髪入れず説明をする。ほむらは全てを理解した。


「そう。浅海サキさん。私よりも難しいことに挑戦するのね」

「禁断の果実に難しいも何も無いだろう」

「あの子は、魔法少女の数だけここに現れる。
サキさんの友人はどうなのかしら。来れるの? ここに」





「それを探し続けている。だから知恵を貸して欲しいんだ」


ほむらはサキの発言を気にも留めず、
左手甲にある常磐色のソウルジェムに興味を向けた。


「あら、同じ位置なのね。縁を感じるわ」

「おい。人の話を」

「イヤよ。却下」


二つのソウルジェムが接触する。

生命力を吸い尽くされる勢い――全身が気だるくなり、頭が重くなってきた。



死期を悟ったサキはポケットから一対のピアスを取り出した。

右手のひらにそれを乗せ、ほむらの方を向いて口を開閉しているが、
ほむらは無視を決め込んでいる。


最期の頼みは聞き入れて貰えそうに無い。


サキは涙を流した。




「そろそろ限界? 案外早かったわね」

「・・・その罪ヲ身に心に刻みつづケろ」

「心に来るわね――」



桃色の柱が上がった。二度目の『円環の理』である。




「貴女達が味わいなさい。私は軽く浴びてから次のところに行くから。
グリーフシードを上手く使えば、結構長持ちするわよ。この現象」

真紅のリボンが他二人に命令する。
二人は口答えする事無く、柱の中へと入っていった。






■若葉みらいの悲劇


「・・・」



「最初から全力全壊でいくよっ」

「La Bestia」



無数のテディベアを召喚し、黒髪の少女を拘束した。
三十センチ大のBestia――獣は対象の腕や脚に向かって噛み付き、痛々しい裂傷を与え続けた。
普通の人間にとっては見物しているだけでパニックに陥るほどの惨状である。



しかし、相手は魔法少女――ソウルジェムを砕かれない限り無敵の存在である。
たとえ、テディベアに四肢を食べられたとしても死ぬことは無い。




「もういいかな」


既に脚は無く、失血によって全身が青ざめている。
傍目に見ると、生きているのか死んでいるのかわからない。

その少女は、死戦期呼吸を魔力で抑え、白い顔をあげた。


「プレイアデス聖団・・・」

「ソウルジェムが無いよ。どこに隠したの?」

「ノルマは達成してたから・・・ホンモノに渡した」

「?」




「私はニセモノだったのよ。もう濁ってしまいそう。濁る魂すら持ってないけど」




「よくわからない・・・けど死ね」


みらいは身の丈を凌駕するほどの巨大な刃を生成し、これ見よがしに振りかぶった。


「ありがとう」


車道がほむら色に染まった。


「変な奴」






「さてさて報告っと」



〔ボク、暁美ほむらを倒した! 大した事無かったかな〕

海香にテレパシーを送る。

〔そう、二人で倒したのね。お疲れ様〕

誰と? みらいはすぐに返事を送りかえす。

〔違うよ、ボク一人だよ。だって元々そういう作戦だっ――



少し離れたところに桃色の柱が上がっていた。
丁度サキがいる方角だ。ほむらを倒したというのに胸騒ぎが止まらない。


「誰か・・・導かれてるの?」


みらいは高台の方まで全速力で走った。


――――――――――――――――――
――――――――――――


みらいは一部始終を見てしまった。



桃色の中に三つの影。

一つの影がそそくさと出ていった。

暫くして二つの影が立ち去る。



最後に桃色の柱は消え去った。

「まさか・・・違うよね」

意を決して発生源だった場所まで向かった。






――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――
□あすなろ市 海岸


海香「さあ? 記憶もゼロ、人格もゼロ。でもミチルみたいに明るくていい子になるわよ」

みらい「『かずみ』かあ、やっぱり姿はミチルなんだよね」

海香「複雑?」

みらい「そんなことないよ。サキはボクの魅力で勝ち取る、そして――」

綺麗に手入れが施されているテディベアを取り出した。

みらい「――かずみはボクの弟子にするんだ。その証拠にこれをあげるの」



里美「私はこの子をかずみちゃんに。やっと人になつくようになったの」

ネコと、腕にある引っかき傷を見せながら微笑む。

海香「私は執筆中の小説・・・を最初に読んでもらうわ」

カオル「なんだよ。みんなプレゼント用意してるのか。あたしは全日本のユニに――」

ニコ「私はアメリカ旅行――でプレイアデス星団を見る」

カオル「アメリカ!?」

ニコ「そしたら 私のこと全部話せるかも」



サキ「私はこのピアスを送ろうと思う。ミチルの願いを託すために」

サキ「そしてこのピアスにミチルではなく、かずみだけを見られるようになりたい」

サキ「その決意が出来たら、必ず渡すんだ」

――――――――――――
――――――






足元に、一対のピアスが転がっていた。







「サキが持ってたピアス?」

「サキ・・・サキ?」


『キミを見ていると、昔の自分を見ているようで嬉しくなる』


「嫌・・・嫌。ボクの最初の・・・人間のトモダチが」


『私はニセモノだったのよ。もう濁ってしまいそう。濁る魂すら持ってないけど』


「ボクは、踊らされてた」

「サキは・・・もう」


『似ているんだキミは』


「サキ」




「・・・サキ」



サキと同じ場所に、桃色の柱が上がった。


     _
   ,r´===ヽ
   !l|从ハノリ!| 戦闘回だよ
   |リ、゚ ー ゚ノl|    
__ノノ_(つ/ ̄ ̄ ̄/__

   \/homura/

バンバンバンバンバンバンバンバンバン

バンバン  _ バンバンバンバンバン
バン  ,r´===ヽ バンバンバンバン
バン  !l|从ハノリ!| バンバンバンバン
バン∩リ、#゚ ヮ゚ノl|

__(_ミつ/ ̄ ̄ ̄/__
   \/homura/

♪Leap the Precipice
http://www.youtube.com/watch?v=TM3BIOvEJSw
♪Agatio and Karst
http://www.youtube.com/watch?v=1K62LvNZSFk

■牧カオルの悲劇


右太腿のホルスターが軋む。
硬質化させた手足で暁美ほむらに挑んでいた。




奇跡や魔法ではどうにもならない――




     ――悪夢のような数分




事の発端はカオルの強襲である。




「長い黒髪、赤いリボン――」



「Capitano Potenza」


カピターノ・ポテンザ

前腕、下腿を、手足含めて硬質化させる魔法である。
魔導装甲やシュルツェンとは異なり、指の先まで自由に動かすことが出来る。


汎用性は高く、身体強化との相性が非常に良い。


トリッキーな使い手の多いプレイアデス聖団――
硬質部分の強度と重量を自由に変えるだけのシンプルな魔法と思う無かれ。


聖団随一の防御力と、純粋で直接的な“力”を前にして生き残るのは至難の技である。



冷血で強烈な一撃を浴びた者は、皆言葉を失い後悔の念を抱く。


――こいつには勝てない


歯向かった者には、残酷な現実と、冷酷な蹴りが襲い掛かる。
プレイアデスを取りまとめる二強の一人。


          “力の牧カオル”


牧カオルは格闘術を駆使する魔法少女であり、
リーチの短さという対魔法少女において致命的な欠点は、天性の運動能力によって補われた。






「――見つけたよ、死神さん」


塀の上を全力疾走し、街を徘徊するほむらへ飛び蹴りを喰らわせる。
カオルのスパイクは、勢いが収まるまで彼女の背中を抉り続けた。


鉄のように硬く、熱い衝突によって倒れるほむら。
焦げた肉のような匂いがカオルの鼻腔に入り込む。


「魔法・・・少女!」

「君が暁美だろ? 覚悟してよね」


背中に馬乗りになると、間断なく鋼の腕を叩きつける。
ほむらの背中は膨れ上がり、痛々しいうめき声だけを上げている。


硬化していない左手で服を剥ぎ取っていき、
青白い臀部にソウルジェムをみつける。




カオルはそれを粉砕する。手際よく奇襲を成功させたかのように思えた。

摩擦熱と殴打によって変色し、スパイクで蚯蚓腫れした死体から視線を上げると









暁美ほむらが居た







「貴女、相当の手練ね」

「二人目・・・ロッソ・ファンタズマじゃないな。何者だ?」

「私は暁美ほむら。さっきのは付き人、基本的に二人一組で行動しているわ」

「・・・ッち」



「最初から本気でいくわよ」

「来い!」






遠距離 対 近距離


ほむらは躊躇せず、ホルスター中央のソウルジェムを狙ってきた。
カオルからすれば愚の骨頂と言ってもいい戦術だ。


カオルは硬化、軽量化した四肢を駆使して矢を軽々避ける。


「ソウルジェムが狙いか、安直過ぎるよ」

「体そのものが武器。矢は当たりそうにない・・・わね」

「――勝てないよ? そんな考えじゃ」

「早っ――すぎる」


そのまま壁を蹴り、ほむらの方向へ飛び込む。





と見せかけ、反対側の壁まで跳躍する。


カオルは一撃離脱戦法を選んだ。

丁度ジグザグに接近し、矢の照準を困難にさせる目論見でもある。

プロサッカー選手を凌駕する俊敏さに、ほむらは立ち尽くすしかない。



ほむらとカオルの目が合う。カオルの息が、ほむらの頬にかかる。



目と鼻の先



間合いは完全に消えた。
相性、戦術、攻め手、全てにおいてカオルが勝っていた。


ほむらは咄嗟に、カオルの片腕を掴む。



「待ってたんだ。それ」


掴まれた腕を最大まで重量化させる。
ほむらは耐え切れなかった。カオルの腕が手から滑り落ちた。


腕は重力に従ってほむらの左足の甲と、その下の石畳を砕いた。
言葉通り、骨身に響く鈍痛がほむらを襲った。



「ぁああ゛あ゛あ゛」



カオルは妥協しない。油断しない性分だ。
そのまま慣性に従って、側面に蹴りを二発叩き込む。

脚の関節はカオルの攻撃に耐え切れず、ペキッっと音を上げた。


「まだまだ。後ろが御留守!!」


うずくまるほむらの脳天に、かかと落としを決める。
ほむらは既に動かなくなっていた。


「気絶したかな。かの暁美ほむらでも痛覚遮断は使わないんだね」


「Tocco Del Male」

ほむらの脇腹から紫色の宝石を吸い出した。
そのまま硬化した手で握りつぶした。


「早く帰ってかずみの作った牛角煮こまだれとんこつチャーハン――」




路地裏から少女が出てきた。
至極、機嫌が悪そうな様子である。


「よくも私の付き人達を潰してくれたわね」


冷静そうな、仏頂面。しかし声だけはヒステリックに上ずっている。


赤いリボンに黒い髪の魔法少女。


これも間違いなく、疑う余地もなく、紛れもなく暁美ほむらであった。




「三人目? 勘弁してくれよ、洒落にならないや」

肩で息をしながら手足を硬質、軽量化する。

「三人目じゃない。真打――本物の暁美ほむら、直々に相手をしてあげるわ」




「二度あることは――ってね!」

少し接近を試みると、弓が鼻先をかすめた。


「!!」


矢は用いず、弦も張っていない。弓だけで戦っている。
鉄パイプのように弓を扱うその姿は、今までの二体とは大きく異なっていた。


流石、動きが段違いだ――強敵はこうあるものなのかとカオルは舌を巻いた。




カオルは石畳を蹴り、ほむらの真上に跳んだ。


「これならどうだ! 避けられるものなら避けてみろ」


「馬鹿ね。私から遠ざかるほど、貴女は死に近づくのよ」


ほむらは矢を上に構えて、十数メートル上空の右腿を狙っている。



真下の魔法少女にカオルは呟く。




「馬鹿はお前だよ」





四肢に重さを生じさせ、急速に落下する。

矢が放たれた頃には、石片と土埃が舞っていた。
カオルは既に地表面に急降下し、隙だらけの鳩尾に二発攻撃を与えていた。



紫電一閃



脇腹に一撃をもらい、カオルは大きく飛ばされた。



ノーモーションからの返し技は痛恨だった。


カオルの外見には問題ないだろうが、
複数の内臓が破裂したような、重く、鈍い痛みが全身を駆け巡る。


硬質化していない部分の損傷は計り知れない。
自動回復にリソースを割きつつ、暁美ほむらという強敵を褒め称えた。


「今のは・・・弓か、見えなかった。思った以上に厄介だな」


「貴女こそ。全身凶器の相手は骨が折れる――文字通りね」




攻撃の余波によって壁は崩れていた。側面の足場がなくなった。地の利が奪われたのだ。
カオルは撤退の準備を始める。このままでは殺されてしまう、そんな直感が脳裏をよぎった。


露骨に、追い詰められているフリをして自然公園まで誘導する。



≪こちらカオル、今から陽動するよ!≫

プレイアデス聖団全員にテレパシーを送り、脱兎の如く反対方向に走り出した。



ほむらは追いかけてきた。作戦は成功。
走りながら、疑問をぶつける。余計なことを考えさせないために。


「結局、さっきのはソウルジェムじゃなかったんだろう?」

「付き人は素体だから魂を持っていないっ」


塀を走り、信号機を踏み台にして、屋根と屋根の間を跳ぶ二つの姿があった。


「じゃあなんで砕いたら死ぬのかな・・・っと」


着地に失敗し、車のボンネットに足を取られるも、
すぐに体勢を立て直して自分のペースに持っていく。


「魔力の回収装置、同時に動力源でもある。
それが壊れたら、体内に遺された魔力で補う。数分も持たない」


「付き人とやらは命懸けで魔力を集めてたんだな」


「回収した魔力をリボンに注いで、円環の力として再び取り出し、吸収するためにも、ね。
そして、魔力を奪い取った後の素体は、あの子を宿す器になるっ」


「効率的だな! 反吐が出るよ」





罵倒しながら追いかけっこをする二人の頭上が紫色に輝いた。



走りながら、振り返って見上げるカオル。



空に魔法円が描かれている。



それは方形や円形が組み合わさった幾何学的模様で、
数学的で、合理的で、理性的なモノだった。



天上の青に浮かぶ、爛々とした紫。
それはほむらの頭上にあった。






「おいおい、市街地をぶっ壊す気かよ」


「ち・・・違う。私じゃない」


「でも暁美を中心にしてるじゃないか」



これまで経験したことの無い、皮膚に刺さるほどの鋭いエネルギーを感じ、
カオルは魔法円から大きく距離をとる。


「私をおいて逃げないで!」


「そんだけ大きな魔法円敷いといて何言ってるのさ」




「助けて――」



紫の線がほむらの体を貫通した。
その線はどんどん数を増していった。



ほむらは光の中に消えた。



魔法円が紫の柱になった、とカオルは認識した。


「ち・・・がう。あれは矢か? 全部矢なのか・・・」


円柱と思われたそれは、高密度に降り注ぐ、無数の矢だった。


一本一本が、豪雨のように降り注いだ。


特筆すべきはその音である。
ほとんど小雨のように、静かで、絹糸のように滑らかであった。


それらは魔法円から射出され、真下にあるもの全てを飲み込んだ。





「自滅・・・? どういうことだ」



消し炭と化した円形の領域に何かが立っていた。


「トッコ・デル・マーレ。邪悪の感触って所かしら。便利なワザね。
でも邪悪ってソウルジェムのことよね? ちょっとイヤだわ」


そういって左手のソウルジェムに、同じ形をしたソウルジェムを当てている。
それは、おびき出した方のほむらから掠め取ったジェムである。



「途中からだけど、全部見てたわ。貴女のワザのお陰で貴重な魔力を回収できた」


「お前は――誰だ?」





これも暁美ほむらの様に思われた。

しかし、カオルが接触した三人とは明らかに違っている。


剣呑な目つき、見下した目つき、殺意を顕にした目つき。
白と紫を基調とした魔法少女服に、二メートル超のロングボウ。
長く黒い髪の毛に、燃えあがるような真紅いリボンを纏っている。



「無駄に魔力を使ってしまったわ。次は気をつけないと」


「質問に答えろ。お前は・・・何者だ?」


「暁美ほむら。『円環の理』に焦がれる者」


ほむらは、付き人がかき集めた魔力をその身に取り込み終えると、
掠め取ったソウルジェムを無造作に砕いた。




沈黙が続く。



「何しに来た」

「あの素体は喋り過ぎた。口封じ」

「あれも付き人だったのか」

「ええ、そうよ。アレにあの子を宿す予定だった」

「何故だ?」

「あの子の力に耐えられる素体が見つからないから。
だから私の付き人で代用している。宿ってからミテクレを書き換えればいい」

「・・・狂ってるよ」

「見た目は大事よ?」


「どうして『円環の理』にこだわるの?」

「私のただひとりの友人だから。あの子にとって私は、最高の友達」



「えっ――と」

「話しすぎたから貴女も口封じ。トッコ・デル・マーレ」

呪文によってホルスターに輝く五角形のソウルジェム――とカオルの肉体が引き寄せられる。

「どういうことかしら」

「Tocco Del Male は対策済みさ。甘く見ないでくれ!」




一度大きく距離をとった。
トッコ・デル・マーレで引き寄せられたとき、キツい一撃をお見舞いするためだ。


上部に殺気を感じ、緊急回避をする。

自分の居た場所には数本の矢が突き立っていた。


「これはシャレにならないね・・・」


空から降ってくる矢の連撃を必死に避け、懐に入り込むカオル。

焦土と化した円形の中で、二つの影が重なり合った。



カオルのホルスターが軋む。
硬質化させた手足で暁美ほむらに挑んでいる。


攻撃は当たるが、当てたときの反動が尋常ではない。


脚蹴りをしてみれば、鋼にヒビが入る。
顎に全身全霊の一撃を与えたと思えば、肩が脱臼する。



奇跡や魔法ではどうにもならない悪夢のような数分。





身体強化ここに極まれり



今度の暁美ほむらは桁違いの強さを誇っていた。


死神、冥界の王、死を司る魔法少女――二つ名を考えているうちに
カオルの浅黒く、健康的な太腿がベリベリと剥がされた。


言葉通り、剥がされたのである。


「私達相手に頑張ったほうよ?」

「四連戦・・・ちょっと無茶しすぎたな」

「潔く魔力の一部となりなさい。序でにあの子に遭わせてあげる」

「右足――サッカーはもう無理か」




〔かずみ、聞こえるか? 逃げろ。ホンモノの暁美は桁違いだ〕



かずみだけに聞こえるテレパシーを送った。



「ほむらちゃんが逢いたがってるって伝えておいてね」


〔最期にかずみのチャーハン、食べたかったなあ〕


「聞いてるの? 無視?」





「聞こえるさ。友人の声が――」





『円環の理』が発動した。

――――――――――――――――――
書いてて具合が悪くなった回でした
見滝原に漂う絶望感を汲み取っていただければ幸い

書き溜めは尽きかけ、残りの戦闘は9回位あるのかな?
某黒い魔法少女達をプロットに入れられない状態で困ってますよっ




かずみ未読だからカオルの能力よく分からないんだけど肉体硬化以外に重力か引力の操作も持ってるの?

節子、重力と引力は同じモンや
カオルの能力は肉体硬化だけだけど、作中でありえないレベルのハイジャンプしたり、数mある魔女の力押しを体で止めたりしてるから>>1の解釈は妥当といえば妥当

>>295
メーテルもどきはオリジナルがコピーを消費してのうのうとしている姿見たらプッツンして参戦しちゃいましたとか
ほむらが人類虐殺してるからいっしょにつるんでヒュアデスの世界作ろうって交渉しにきましたとかでいいんじゃない

>>299
遠心力は万有引力に比べればかなり小さいし概ね重力≒引力だから多少は、ね?(震え声)

>>281
てっきりカオルの体重増加についてだと思ってたよ
原作では基本的に各キャラの見せ場のコマはそのキャラだけだから加速の比較対象が…
今晩の>>1の説明に期待しよう

カオル「50kgと50kgで100kg!!」

カオル「いつもの2倍のジャンプが加わって200kg!!」

カオル「そしていつもの3倍の回転を加えれば600kg!!」

カオル「うおーーーっ!!」

自由落下の話ですよね?


カオルの質量を50kg
落下距離は20mと仮定する

空気抵抗係数は0.24kg/m
標準重力加速度を採用します

50kg条件下では2.052sec

600kgで再計算すると2.022sec



現実は非情である


――――――――――――――――――
最初は磁場操作を考えましたが
足場でいいじゃんってことで消した名残ですね
エルザマリア戦のさやかみたいなものだと思ってください

>重い物が早く落ちるギャグ

距離の変化による重力の変化(地表面での落下)、空気抵抗の無視(真空)
さらに対象の質量が地球よりも十分に小さいとき
重いものも軽い物も同時に落ちると言われています


例えば、カオルの体重が地球の質量(5.972×10^24 kg)に対して無視できないとき
地球とカオルはより速く衝突します

衝突、と書いたのは地球もカオルに近づくからです
近づくにつれて重力加速度が急速に増えます

結論から言うと重い物は早く落ちます

訂正
×距離の変化による重力の変化
○距離の変化による重力の変化を無視

>>301
電場、磁場のクーロン力とか電磁的な力とか見ると「重力と引力は同じ」ではない
(例えば磁石がくっつくことは「引力」とはなるけど、明らかに重力じゃないよね)
ってことで、単に「言葉」について言いたかったんだよ

>>297
そろそろ例の子が出ますので気をつけて
>>298
どう退場させるかで悩んでます
とある独自設定の関係上かずみさんの見せ場が作れない!改変後怖い!


次で書き溜めが尽きますので更新ペースが下がります
――――――――――――――――――

■神那ニコの悲劇


人通りの全く無い歩道橋の上、ニコはほむらと対峙していた。



「その姿、魔法少女ですか。遭いたくありませんでした」

「アンラッキーだね 君がアケミホムラだろ?」

「噂は聞いています。プレイアデス聖団のメンバーですね」

「我が名は 神那ニコ おまえを殺しに来た」


ふら付きながら後ろに下がるほむら。
どうやら魔力切れ寸前の状態らしい。


「勝負なら受けて立ちます・・・」

「ああ 無理しなくていいよ カミ様に救済させるようなヘマはしないから」






『円環の理』に導かれるべき存在ではないと見なした。
派手な戦闘をすれば、魔力切れを起こした殺人鬼が救済されてしまう可能性がある。


魔力を使い切る前にソウルジェムを砕く、神の御前にほむらを逝かせる気は無い。
ニコはこのように判断し、そして行動を起こした。


「Tocco Del Male」


ほむらの身には何も起きなかった。
ニコとしては予想外の事態である。仕方が無いので拘束行動に出る。


「Prodotto Secondario――」


「――おっと抵抗は無駄だ これ以上魔力を使ったらキちゃうよ?」



――――――――――――――――――
――――――――――――



足を縛られたほむら。
縛り上げた複製ニコは既に、全て消失している。


「気をつけよう ドッペルゲンガー 生き写し」

「命だけは助けて・・・」

「おまえ 数千人も殺しておいて何?」

「えっ、私は誰も殺してな――」


ほむらの着衣を掴み、上半分を剥いだ。無抵抗のまま目を背けている。
すすり泣く少女を片手で持ち上げ、白くて華奢な肉体を目でなぞっていった。


「私、何もしてない。どうしてこんなことをするの?」


おまえはこの街を喰らう怪物だからね、と反論したくなった。
そんなこと口にするまでもなく、お互いにわかりきっているはずなのに。




「魂を出してよ 砕くから」


胸、臍、脇、背中、首筋と見ていったがソウルジェムは見つからない。
ほむらは視姦されている間、一言も発していない。


「吐かないか 強情だね」


そういって、ダイヤ柄のタイツを破き始めた。
ほむらは目を瞑ったまま何の反応も示さない。


「Tocco Del Male」


ソウルジェムを掠め取る呪文。
服を剥いでも反応しないと言うことは、百メートル圏内の何処かに置いている可能性。
或いは体内に飲み込んでいるのかもしれない。


ニコは暫くの間、ほむらを付けていた。

ほむらは、誰かを探すかのように見渡しながら、
大通りからわき道、裏道から歩道橋までくまなく歩いている。

したがって、前者の可能性は自然と消える。




「うーん 教えてよ 裸はヤでしょ?」

「・・・・・・」


沈黙し続けるほむらを見てニコはもう一度「邪悪の感触」を唱えた。
ほむらの頬がキュっと収縮していた。


「見つけた あーんしてよ あーん」


首を横に振るほむら。
ニコは右手で額を掴み、もう一方で無理やり口を開けた。



「じゃ 痛いかもしれないけど 摘み取るよ」

「い゛ッッ!」

切り取ったソウルジェムをまじまじと眺める。
どこか人工的な違和感を覚え、その石を光に照らしたり、手で弾いたりした。




「潰しても無駄ですよ・・・。別の私が居ることは知ってますから」

「アケミホムラのは ソウルジェムじゃないね エネルギーをためる装置だ」

「何を言っているんですか?」


「ためたものを 注げるようになっているのか
目の前の女 おまえは アケミホムラじゃないね」

「私は暁美ほむら。それだってソウルジェムです。戯言もほどほどにしてくれますか」

「ははん じゃあ使い方教えてあげるよ こう使うのさ」


ニコは首の後ろにある水色のソウルジェムを取り、ほむらが隠していた宝石に近付けた。
すると宝石が段々と、徐々に昏い色になってきた。


「こんな感じ アケミホムラのソウルジェムは 充電式のグリーフシードみたいなもの」

「え? そ、それじゃあ私のソウルジェムは何処に?」



「おまえは ニセモノだ 人格も 記憶も 見た目も 全部ニセモノ」

「ニセモノ・・・魂は」

「ナイね だって魔力で動いてるもん」


「嘘よ、そんなの嘘よ゛」

しゃっくり上げて泣き始めるほむら。





「残念 その感情もニセモノ」

「!!」





とどめの一言をほむらに投げかけると、ニコは本物のほむらを探し始めた。


「報酬は珍妙な宝石一つ 気を取り直して次に行こうか」


――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――


□見滝原――大通り


≪こちらカオル、今から陽動するよ!≫


カオルの広域テレパシーがプレイアデス聖団全体に発された。
無事、受信したニコは交差点の前で立ち止まる。



「公園はどっちだったかな」



「こっちだよ、神那ニコ」



「ああ助かるよ 通行人の方――」


ニコは目の前に居る人物を見て絶句する。





「初めまして、かな。さっきのやり取りは頂けないなあ。
自分がツクリモノだと気づいたときの絶望は計り知れないんだよね」


「まさか おまえ」


「冥土の土産に教えてやろう。我が名は聖カンナ――おまえの操り人形さ。
おまえは二度も過ちを犯した。だからここで死ぬ」


フードを被った少女が魔法少女に変身する。



肩の露出した分厚いレザーコートを纏い、その下には体に密着したズボンを履いている。
黒いミリタリーベレーからはクリーム色のツインテールが垂れている。


全身黒尽くめの容姿が、服の上に刺繍してある数個の緑と白の水玉を引き立たせていた。
カンナはどす黒い笑みを浮かべて、丁寧に頭を垂れた。




「似合っているでしょ。この紋様はヒュアデス星団をかたどってるんだ。
ヒュアデス――プレイアデスの異母姉妹。因果だろう?」


「因果だ 幸せな人生を捨てて おまえは魔法少女になってしまったのか」


「ツクリモノの人生――の間違いだろ。おまえの作った設定に魅力は無い。
『IF』の私は、オリジナルのおまえが自滅する瞬間を、待ち望んでいるだけさ」


「恨んでいるのか・・・ アケミホムラに挑む前に 殺されて殉職かな」

「ノン。おまえは自滅する」




神那ニコの契約は 「IFの自分を造り出し、幸せな人生を送らせること」であった。
聖カンナは、とある出来事からニコの存在を知り、インキュベーターに仔細を聞いた。







       そして契約を取り結んだ




            コネクト 
           Connect







カンナは復讐を望んだ。対の破滅を望んだ。ホンモノになることを望んだ。
相手に気づかれずに接続する力を駆使し、見滝原の地までニコを追いかけてきた。




「暁美ほむらのジェムを使っただろう? あれには得体の知れない魔力が混じっている。
神那ニコのような普通の魔法少女にはきっと猛毒。そろそろオダブツさ」


「魔力で死ぬわけが無い 現に穢れが浄化された」


「ま、『円環の理』に導かれるべき存在じゃないよ、おまえ。
ニセモノを二度も悲しませたんだ。やっぱり殺そう。これはデス・ペナルティに値する」


『円環の理』は比較的規模の大きい現象である。
カンナは本来ニコの自滅を目に焼き付けるために、ここまで追ってきたのだが、
プレイアデス聖団のメンバーに知られては新規の計画に支障をきたす。


――――――――――――――――――
――――――――――――






「私の生き様に、おまえは何を見た」



「合成品に潰された人生、おまえは何を感じた」




ニコだった物から紫色の石を拾い上げ、自分の魔力を注ぐ。



「赦さないよ。暁美ほむら――哀れなニセモノを産み出し続ける魔法少女め」



□歩道橋


半裸で泣き崩れる少女が居た。
上着は無く、タイツは引き裂かれている。


「やあ、君のソウルジェムは取り返したよ。
さっきの魔法少女は私が適切に始末した」

「ひぐっ・・・えっぐ」

「泣かないでくれ」


「・・・」


「私もニセモノなんだ」

「え?」

「さっき君が戦ったのは黄緑だっただろう? 私は黒衣の魔法少女だ」

「は、はい。でもどうして私なんかを」

「新たな人類――HyadesとしてHumanに復讐しないか?」

「そんな・・・無理よ」

「ソウルジェムに十二分の魔力を注いだ。君なら創造主に叛逆出来る」



悲しみを堪えながら、返事をする同類を見て、カンナは優しく諭した。



「神は人間を創った。神はここにいるかい?」

「いない」

「人間は私達を造った。人間はここにいるかい?」

「・・・いる」

「なら消えてもらおう」

「私は――」



「まずは身の回りから。魔力を極限まで集めて暁美ほむらに挑むといい。
私は残りのプレイアデスに溶け込んで、内側から破壊する」

そう言ってほむらの服を修復し、肩を叩いた。


「私は聖カンナ。おまえは、暁美ほむら と名乗れ。オリジナルになれ」

「・・・魔力を集めてきます」




涙を拭って歩道橋を飛び降りるほむら。
活路を見出したその姿にカンナは最大の賛辞を送った。











「敵を欺くには まず味方から ってね」












――――――――――――――――――――――――――――――
ほむら「『付き人』の呼称が増えてきたわ」

ほむら「素体、器、暁美ほむら、Hyades、別称はまだまだ増えていく予定よ」

ほむら「それにしても、ちょっとキャラ多すぎない?」

ほむら「一気に七人で襲えば良かったのに」

ほむら「でも、単独行動には深い理由があったのよね・・・」


カンナ「ちゃんと減っている。神那は死んだぞ」

ほむら「カンナが出てきたじゃない」

カンナ「案ずるな」

ほむら「貴女は誰の味方なの?」

カンナ「さあ? 取りあえず、残りのプレイアデスは二人だ。かずみと御崎海香だね」


神那ニコ http://wiki.puella-magi.net/File:Yoshiki_nico_fanart.jpg
聖カンナ http://wiki.puella-magi.net/File:Chapter_18_spoilers.jpg


  ___

/||     .(|| ∧_∧
|....||___|| (     )>>60の伏線伝わったかな
| ̄ ̄\三 ⊂/ ̄ ̄ ̄/

|    |  ( ./     /

  ___
/||(・ω・) || ∧_∧
|....||___|| (  ・ω・)
| ̄ ̄\三 ⊂/ ̄ ̄ ̄/
|    |  ( ./     /

  ___

/||     .(|| ∧_∧
|....||___|| (     )悲劇シリーズは後二回か
| ̄ ̄\三 ⊂/ ̄ ̄ ̄/

|    |  ( ./     /

    ∧_∧
   (  ・ω・)
/ ||/ ⊃ ⊃∧_∧
|  ||___ノ(  ・ω・)
| ̄ ̄\三⊂/ ̄ ̄ ̄/
|    | ( ./    /

  ___         
/||      ||        
|....||___||        
| ̄ ̄\三   / ̄ ̄ ̄/
|    |  ( ./     /

荒らしと意見が合うのは癪だが、

>自分に酔い杉できもいだけの文章

これは同意せざるおえない
「俺めっちゃ高尚なミステリ書いてる! 読者どもが俺を尊敬の眼差しで見つめちゃってる! 俺SUGEEEEEEEEEEEEEEEEE!」
ってのがビンビン伝わってくる

>>327から3レス投下

■かずみの悲劇


≪こちらカオル、今から陽動するよ!≫


「みんな、頑張ってるけど――ううん。民間人を襲うワルい奴だから・・・仕方ないよね」

「プレイアデスのみんなは平和を取り戻すために、悪の魔法少女と戦っているんだもん」



□自然公園


「あっ。ニコも来てたんだね、二人だけ?」
 ・ ・
「人は誰も来てないさ・・・。カオルはまだかな」

「言いだしっぺは最後にくるものなんだよ」

「そうなのか? それにしても残りは何をしているんだか」


カンナの上機嫌な声が周囲に響く。


「まだ来ないよ。あすなろと違って道に迷いやすいし」

「確かに入り組んでいる。典型的な開発途――」


〔かずみ、聞こえるか? 逃げろ。ホンモノの暁美は桁違いだ〕


「カオル!?」

「私には聞こえないぞ。テレパスかい」



〔わかった。逃げるから、一緒に!〕

〔もう無理だ。最期にかずみのチャーハン、食べたかったなあ〕

〔いつでも作って上げるから・・・そんな悲しいこと言わないで〕





〔カオル? カオル・・・〕


「ニコ・・・カオルが返事しないの」

「そっか。死んだか」



「チャーハンのこと言ってた」

「それが遺言かい?」




「それだけじゃない。ホンモノに気をつけろって」

「すっごく――ココロに来るね」


これじゃちょっと誰が喋ってるのかわからないな

>>341こんな感じです。すみません。
――
かずみ「あっ。ニコも来てたんだね、二人だけ?」

カンナ「人は誰も来てないさ・・・。カオルはまだかな」

かずみ「言いだしっぺは最後にくるものなんだよ」

カンナ「そうなのか? それにしても残りは何をしているんだか」

かずみ「まだ来ないよ。あすなろと違って道に迷いやすいし」

カンナ「確かに入り組んでいる。典型的な開発途――」
――
カオル〔かずみ、聞こえるか? 逃げろ。ホンモノの暁美は桁違いだ〕

かずみ「カオル!?」


カンナ「私には聞こえないぞ。テレパスかい」


かずみ〔わかった。逃げるから、一緒に!〕

カオル〔もう無理だ。最期にかずみのチャーハン、食べたかったなあ〕

かずみ〔いつでも作って上げるから・・・そんな悲しいこと言わないで〕
――
かずみ〔カオル? カオル・・・〕
――
かずみ「ニコ・・・カオルが返事しないの」

カンナ「そっか。死んだか」

かずみ「チャーハンのこと言ってた」

カンナ「それが遺言かい?」

かずみ「それだけじゃない。ホンモノに気をつけろって」

カンナ「すっごく――ココロに来るね」
――

ナイトメアが可愛かった
マミほむとさやほむの戦闘が茶の間で見れるとは・・・
まどかがほむらに三つ編みするシーンは感無量でした

投下

>>336
元ネタはゲームですしそんな気は無いです
むしろ怯えながら投下してます

■暁美ほむらの悲劇


――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――

「あなたは、もう人じゃない! 暁美ほむらじゃない!」

「トチ狂ってるわね、御崎海香さん。私は暁――」



「あなたは魔女よ! 魔女! 『死者を囲い込むもの』ヴァルプルギスの夜よ!」



「私を侮辱しているの? 無性に腹が立つ」

「博覧強記な貴女はご存知のようね! それとも博覧狂気ってところかしら? 
貴女にお似合いの二つ名ですことよ」

「狂ってるって、別の子にも言われた。私としては普通の道理なのだけど。
死んだ子を生き返らせたいと思うのと同じで、私はあの子に逢いたいだけよ」

「死者蘇生でさえ禁断の果実。ましてや無から有を創るなんて神の御技よ」





「『円環の理』は貴女も見たとおり存在する――貴女は認識から間違っているわ。
万が一、無だとしても私には関係ない。私は私のやり方であの子に逢ってみせる。
そのためには神にだってなってみせるわ」


「大きく出たわね。法則を実体化させようとする試みは面白いけど、それが出来ると思って?」




「私には時間の概念が無い。知識も魔法もある。魔力だけ、力だけが足りない」


「あなたは、道理も倫理も持たない。仲間もいない。力だって足りてないわ」




「言ってくれるわね。知識は全てを解決してくれるのよ」



海香の所有する魔道書が色調を変えた。
前もって仕掛けておいたイクス・フィーレが、対象の性質、弱点を読み取った。


「Ics File――弱点分析完了。随分と時間がかかったわ」


「・・・時間稼ぎ」


「知識は全てを解決してくれる。私の好きな言葉よ。魔法少女の暴走も、また知識が解決してくれる。
ヴァルプルギスの夜、あなたの性質と弱点は・・・」

魔道書に刻まれた真実を見て、戸惑う海香。ほむらも海香につられて首をかしげている。





「弱点が・・・・・・わからない」

「あははは、何て無様な子。今まで見てきた中で一番の愚者だわ」

「英語が、読めない」


「「・・・」」


お互いに固まった。




00001という数字を挟んで、五つの英単語。


頭文字をとって並べても特に意味は無さそうだ。
最後の英単語以外、海香は読み取れない。


読み取れた唯一の語もほむらとは全く関係が無いように思えた。


(るみのうねが、べてぶらて1えれっきが? こんなの初めてよ。
最後の単語は連結・・・よね。どれも私の役に立ちそうに無い。
なんとしてでも生き残って、六つの光明を示さないと)


口をつぐんで思案する海香。
痺れを切らしたほむらは固有武器の魔道書を奪おうと動いた。


「ちょっと見せなさい。英語ならわかるから」

「謹んでお断りよ! それっバリア!」



海香は本を内側に向けて、自分の周囲にシールドを展開した。
光の壁はバチバチと音を立ててほむらを威嚇している。


「これは、実に厄介ね」


気楽そうに言い放ち、弓に弦を張った。
海香はその場から動いていない。シールドに包まれて動けないようだ。



ほむらは若干の距離をとり、矢を射る。




ギィィィィイイン




金属が摩擦するような不快な音色が数刻続いた。


紫の矢はシールドを抉っているかのように見えたが、
ギリギリと軌道が反れて、海香の斜め後ろのビルに着弾した。



「甘く見すぎじゃなくて? この分なら三時間は持つわよ」


シールドで声が反響しているが、三時間という単語は聞き取れた。
ほむらは腕を組んで、光の壁をじっくりと観察した。


「訂正、実に厄介ね・・・」


ほむらは攻めあぐねていた。
目的は邪魔者を消すこと、『円環の理』をここに呼び寄せること、素体にあの子を宿すこと。
このまま、海香の魔力切れまで待っても構わない状況ではあった。





「三時間もあれば十分ですよ。私がお手伝いします」


ほむらの後ろに、付き人が居た。
外見こそ区別は付かないが、弱弱しい口調が違いを引き立たせる。



「貴女・・・私の遺志を継ぐもの――誰も殺せなかった出来損ない。
精神も貧弱。死に掛けていた割には元気そうね」

「巴さんから聞きました。美樹さんと戦ってたのは貴女でしたか――何日も探しましたよ」

「佐倉杏子も居たわ。貴女、記憶は戻っていないようね」

「徐々に戻って来ましたし、キュゥべえから幾つか情報を得ました。だから準備万端です」



ほむらは素体に道を譲った。
海香の前に立たせて、次のように述べた。


「私の遺志を継ぐもの――Vertebrate-00001に命ずる。
御崎海香を囲むシールドを破壊しなさい」




両手を強く握って、全身を震えさせ、素体は応答する。

「嫌です。最初の実験台、Vertebrate-00001は、
命を粗末にする貴女を殺してオリジナルになります」


「なっ!」


ほむらは素体の行動に魂消た。


記憶の殆どを移植した。どの素体も自分が本物であり、
自分以外は偽者――と全ての素体が思い込んでいた。


だからこそほむらは驚いた。真実を受け入れても尚、運命に抵抗する素体の可能性に。




「魔力中毒を起こした臓器ごときが! 生みの親である私に勝てるわけ無い。
聞かなかったことにしてあげる。もう一度命令するわ――」


「嫌! 私は私のために生きる。歩道橋で私は生まれた」

「まだ記憶は戻ってないわね! 私の臓器で貴女が生まれたこと、忘れたの?」

「忘れるものですか、志筑さんにも手を出しておいて・・・」




暁美ほむらが最初に起動したコピーは、
自ら取り出した臓器を組み合わせて生み出したものである。


万が一肉体が失われたときに備えて造って置いた。
端的に言えば予備の体。ほむらは、これを第一の付き人とした。


残りの十三体は『円環の理』の力を克服したほむらの臓器から造ったものである。
これらにかんしては記憶の選択的移植に成功した個体達で、第二から第十四の付き人とした。




第一の付き人は、起動時までの記憶を全て移植したため
オーバーヒートを起こして、せん妄や解離性健忘に近い状態を起こしていた。
オリジナルのように人間を殺さないし、魔力の補充もロクにしない失敗作だった。


以後の付き人にかんしては、ほむらの思うとおりの動きを見せていた。
勿論、集めた魔力――殺害した人間や魔獣の数によって、思考や行動に大きな違いがあった。
二人行動を守らない者、魔力を別の付き人に与える者など、様々である。




「貴女はとんでもない失敗作ね。地下深くに閉じ込めておくべきだったわ」

「それでも私は這い上がって見せる。Hyadesを知らしめてやる」

「ヒュアデス? 『円環の理』にその身を奪われる存在よ、余命幾許。好きにするといいわ」

「奪われるのはあなたです。全てを無かったことにして見せます」

「ふうん。五分と持てば僥倖と思いなさい」




黒い屋上に揺れる二つの火。




「愚か者は散れ」

「邪魔者は消してあげます」





「「私には叶えたい願いがあるの」」







「たとえ自分を殺してでも?」

黒翼を収納し、ほむらが問う。




「たとえ自分を殺してでも」

弓を取り出し、コピーは答えた。




「そこまで言うなら仕方ないわね」

「そこまで疑うなら仕方ありません」


――――――――――――――――――――――――――――――
投下終了


沈黙する海香の前で、ほむらとコピーの戦闘が始まった。




ほむらは手始めに、コピーの胴体に矢を向けた。
コピーはエイムされている部位を的確に予想し、弓を地面に押し付け、しならせる。

棒高跳びの要領で、斜めに飛ぶことでビームを避けた。



ほむらは既に弓を構えなおしている。



コピーは詠唱によって生成した三本の矢をつくり上げた。
正攻法で勝てる相手ではない。一つ一つに仕掛けを組み入れてある。





ほむらの第二波と第三波を紙一重で回避し、一撃を放った。




「ウルズよ!」



コピーが手を振りかざすと、矢はひとりでに飛んでいった。



ほむらは黄金色の矢を、弓の先端で叩き落とそうとする。
ところが矢に触れた瞬間、黄金色が爆ぜた。


耳をつんざくような高音が周囲を襲った。


お互いに耳を塞ぎたくなるほどの異音が続く。




意識を吸い上げられるような感覚に、お互いの攻撃の手が止む。
身体強化が劣っているコピーはほむらよりも素早く行動を再開する。



「まだ・・・まだッ! ソウイル!」



コピーは身体強化をさらに低倍率へ移行させた。
海香の陰に隠れて、二本目の矢を上空に投げようとする。




ほむらは髪の毛ほどの、細長い紫色の矢を無数に造り出して海香を指差した。


「ええい! 邪魔よ」




第四波




海香のシールドにアローが幾つも突き刺さる。


おぞましい異音に金属音が交じり合う。



コピーの身にも数え切れないほどの矢が立った。
激痛に悶えながらも口を動かす。


「私の、勝ちです」


ほむらには聞こえないし、自分にも聞き取れない。
二本目――ソウイルの投擲に成功した。身をもって実感する。





上空に強い熱源が現れる。





その場に居たもの全ての視力を奪った。コピーの世界は真っ暗である。



ソウイル――太陽のように眩い光が、眼底の隅々まで行き渡り、
目を構成する三つの膜全てを焼き切った。



さらに光情報は視覚野を支配し、脳の処理を中止させた。



三本目


赤く燃え滾る矢だった。
目が役に立たないので、追尾型の矢をほむらが居るであろう方向へ射る。



「カ・・・ノ」



ソウイルの効果によって喉が焼けてしまったが、力ある言葉を唱えた。


発声による位置情報の特定は防ぐことが出来た。
事前に視覚と聴覚を奪ったため、その心配はないとコピーは踏んでいる。


魔術は詠唱や意思、印によってその効果を増強させる。
コピーは威力ある一撃を望み、全てを託した。




矢を撃ち終え、即座に回復を行う。
ほむらと同様、コピーにとっても不得手な分野なのだが、
オリジナルのほむらよりも早く修復を終え、戦闘態勢に戻れる自信があった。



ほむらは魔法少女である。そして際限ない身体強化を行っている。
したがって、通常の魔法少女よりも強く、頑丈で、感覚が研ぎ澄まされていた。



コピーも同様に強化魔法をかけているが、純粋な魔力量はオリジナルの方が何倍も上である。
このため、オリジナルの五感は想像を絶するほど鋭いと分析し、上記の攻撃を選んだ。




コピーが回復を終え、前方に歩み出る。


何もかも読みどおりだった。



「どうですか。この魔力、戦術、判断力」

「・・・・・・」



ほむらはまだ治癒魔法をかけ続けていた。
ただれた腕を後頭部にかざしている。


身体強化をすればするほどダメージが増す攻撃を、ほむらはまともに喰らっていたようだ。


「全てオリジナルに劣ってる。なのに、私が勝ちました」

「・・・おかしい。素体にしては魔力が多すぎる」


かすれた声でほむらは反論する。
焼き切れた喉から空気が漏れ出していた。


「これは皆の怒りです。皆の想いです。
残りの素体――Hyadesの皆さんが、私に全ての魔力を注いでくれました」

「それは・・・本当なの」

「だからこうして戦うんです。戦えるんです!」


「――――ったわね・・・やってくれたわね!!」




攻撃されたこと。


回収する予定の魔力を奪われたこと。


コピーと接触した素体全てが無駄に終わってしまったこと。


ほむらは激昂した。


ほむらは悔やんだ。


ほむらは嘆いた。


ほむらは――



黒い翼を広げ、大空に舞った。



諸刃の剣であることはお互い承知だった。
コピーは羽ばたくだけの力を持たない。空からの攻撃とあらば、一方的な蹂躙に違いない。

しかし、双方が弓使い。遠距離ほどその特性は生かせるし、標的だって大きいほど有利である。
ほむらの飛行能力がずば抜けていたとしても、コピーの攻撃は避けられまい。



「絶対に赦さない」

桃色の魔法円を繰り出す。


「させません」

魔法円を視認したコピーは、間髪いれず七本の矢を放った。



「全然痛くないわよ」

「そんな!」



コピーの放った矢は全て当たった。にもかかわらず、ほむらは止まらない。
ほむらは魔法円を重ね始めた。



「痛覚を切ったのよ」

「そんなの、わかってます!」


コピーは十、二十と攻撃を重ねていく。


「早く左手に当てないと、貴女の存在が消えてしまうわよ」

「ソウルジェムが・・・砕けない!」


コピーは二十、三十と攻撃を重ねていく。


「美樹さやかと同じよ。ソウルジェムに防御魔法をかけたの」

「ひ、卑怯よ!」



――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――



「待たせたわね。私の全身全霊」


魔法円をそのまま伸ばした巨大な円柱があった。


直径三メートル弱。長さは視認できない。


避けるという選択肢が失せるほどの、残酷な現実が天上に渦巻いていた。





「これは、まるで・・・」




まるで『円環の理』のようだった。





「全ての魔力を注いだ。でもそれだけの価値があるのよ」


「全て・・・ですか」


コピーは防御壁作成に全力を注いだ。
アレを放った後の硬直時間に勝機があると信じて。



後ろで観戦していた海香は、シールドを四角錘状に変成していた。



「貴女の負けよ。言い残すことはある?」


「オリジナルになってやる。絶対に!」


「まだそんな下らない狂言を吐くのね!」



―― む ち 

  に。■■■。

――   ン  想 を  て れ かな

こ  か  ら。

――  手  よ

何    い 。

―― っ   て

   な わ。

―― を澄  し   

  も    わ 

――  お    みて




「記憶は足りない。それでも――」



「この一撃に耐えられるかしら――Finitora Freccia!」



「間に合えっ」




『円環の理』を連想させる眩い柱が見滝原のビル群を薙いだ。


――――――――――――――――――――――――――――――
ウルズ【ある程度の犠牲が必要な事があっても、代わりに新たなものを得られる「挑戦」のルーン】
逆位置【エネルギー不足、意志力の弱さ。脆弱さや優柔不断さは、自分の状況を悪くしかねない。弱気は禁物である】

カノ【燃え盛る炎を意味するルーン。純粋でダイナミックなエネルギーや情熱を意味する】
逆位置【情熱が冷める、別れ、希望を失う。状況を無理やり変化させようとするよりも、現状維持に努めたほうがよい】



「02499から02511の素体、生存している付き人を探さないと。
裏切ったのは00001だけとは限らない」


ほむらのソウルジェムは限界に近づいている。


「感情に身を任せすぎた。このままでは付き人にさえ太刀打ち出来ない」



見滝原を一望する。


矢の軌道上にあった高層ビル群は暁色に染まり、ガラスは赤く茹で上がっている。
吹き荒む熱風は、空高く舞うほむらの体勢を崩しかねないほどであった。



「・・・・・・っ」

「どうしてこんなことになってしまったの」


ほむらは光明を求めて見滝原を彷徨う。




抗ったコピーはここに潰えた。


カンナのHyades論に理想を抱いたコピーは、七箇所に散らばっている付き人
――姉妹を探し、魔力を一つのソウルジェムに集めていた。


『円環の理』の魔力に耐えられない肉体の一部を捨て、
別の個体から持ち出し、補強した上での敢然たる戦いだった。



「全員、跳べ!」

「あっちのビルが崩れる!」

「みんな、早く」

「まずいわ! こっちよ」



「きゃっ」

「佐倉さんはこの人を!」

「ほいさ」

■好い鳥


キュゥべえの「暁美ほむら同士が戦っている」という情報を受けて、近くのビルを陣取るマミ達。


にわかには信じがたい。
悲しそうなほむらと、哀しそうなほむらが対峙していたのだ。


その後ろにはさやかと杏子の良く知る魔法少女がシールドに包まれていた。

この三人と一匹は、隙を見て強襲を仕掛けるつもりだったが、
強烈な閃光を浴び、突入するタイミングを完全に逃していた。


メンバーが動けるようになった頃には、幕が降りていた。




愚者は消え、主役は飛び、観客は墓石に座り込んでいた。




□ティロホーム


「皮肉なものね。注意深く行動したために多くを失ってしまった」


「あなた達プレイアデス聖団の生存者は三人。
辛かったと思うわ。でも、注意深く――と言うのなら、どうして私達に無断で行動したのよ」


回収したばかりの海香にキツくあたるマミ。


「あわよくば味方に加えるつもりだった。彼女の真意を見極めた結果、殺害を決定したの。
だけど、ヴァルプルギスの夜は想像以上の災厄だった」

「真意を見極めた? 真意はさやかとアタシが話したじゃないか」


海香の返答に杏子が突っ込みを入れる。
海香は溜息一つ、適当にはぐらかした。


「真意は真意。十四体の素体のことも知ったから尚更。
そもそもプレイアデスを呼んだのは貴女方ですことよ」


挑発的に海香は笑う。そうでもしないと心が折れてしまいそうだった。



「御崎さん達は、どこまで閉鎖的なの。だから私が暁美さんと組んでる、と思い違いするのよ」

「遠方から急に協力を求められたら疑うのが当然。裏切りほど恐ろしいものは無いわ」

「わかってるの? あんた達のせいで沢山の人が死んだんだ。一体どこから情報が漏れたのだか」


マミとさやかが次々に攻め立てる。

事実、情報はユウリから漏れている。
だが佐倉杏子がいる手前、海香はその名を出すことは許されない。




「擦り付け合いはほどほどにしろ。さっさと次の手を考えるのが先決さ。
おい、海香。あの戦いを詳しく教えなよ。ほむらと対峙して生き残った唯一の生存者だろ?」


杏子がクラッカーを頬張りながら、どうでも良さそうに喋り散らす。
海香は、暁美ほむらと対峙して生き残った三人に敬意を払って全てを話した。



「あれはヴァルプルギスの夜。十四の死者を囲って魔力を集めていたわ。
具体的には、人間の魂をグリーフシードのように扱って、穢れを除き、魔力を貯蓄し、
親玉のソウルジェムに移動させていた。それが死者――付き人の仕事だと思う」


さやかは腑に落ちなかった。


「それって『円環の理』に必要なの? 戦いの痕跡を見る限り、十分魔力集まってたよねえ」


「あの『円環の理』を固定するのがヴァルプルギスの夜の仕事。
素体にも浴びせさせたと言ってたから、あの力を現世に止めるつもりで動いている。
邪魔者を屠るために魔力を集めていた線も考えて良いわ」


「美樹さん達のことかもしれないわね。あるいは対プレイアデス用に集めていたのかも」


マミの言葉が海香の胸に突き刺さる。
暗に非難されているが、聖団全員が殺されても文句は言えない。


「幸いなことに、素体が結託して、同士討ち――と思えた。
シールド越しではっきりとは見えなかったのだけど。演技なら大したものだわ」


海香がつたなく話を反らしていると、さやかと杏子の顔色が変わった。


「あの桃色の柱を制御するのにも生半可な魔力じゃ足り無そう。素体か・・・杏子?」

「ああ、覚えているよ。『シカメ』がまた狙われるな。最後の犠牲者ばーてぶれーと2498だ。
親族もろとも、どっかに逃がさないとな」

「シカメさんの家に暁美さんが来るってことは、私達が先手を打てる好機ね」

「マミさん、どういうこと?」

「私達の決戦の地――ここで全てを終わらせるわよ」



「政府の避難勧告に従っていれば楽に済みそうだけどね」

「さやかはヌけてるな。見滝原外部までアイツが追っていったら逆に不味いだろ」

「仮に見滝原に居るとして、私達が見つけられるものなのかしら」

「それが問題だ。シカメの全員がくたばってるかも知れない」


盛り上がっている三人。
キュゥべえは冷凍庫を開けて氷を漁っている、こいつは役に立たない。
意を決して海香は話に割り込むことにした。


「仲良く話しているところ悪いのだけど、ばーてぶれーと? それって・・・」


海香はほむらに用いたイクス・フィーレを確認するため、
ソウルジェムから白い魔道書を取り出し、分析したページを開く。


「弱点わっwhackるワックる!whackる神よ~」

「わっ! 何事?」

「プレイアデスの子って本当に変わってるわね」

「おお、大体こんなヤツらだった」

――――――――――――
――――――

「ちょっと灰色の脳細胞が暴れてしまったわ」

落ち着き払って、こほんと咳をする海香。


「御崎さん・・・大丈夫?」

「私の魔法が、ヴァルプルギスの夜の性質と弱点を教えてくれてたのよ。
だから、伝えてあげます。その代わり、かずみとニコ、聖団の生き残りを保護してくれませんか」


三人は快諾した。戦力は多いに越したことはない。
そっぽを向いていたキュゥべえが関心を寄せる。


「それ、ボクにも見せて貰えないかい? 少し気になることがあってね」

「さあ存分にご覧あれ」



海香が魔道書を開いて呪を唱えると、
真っ白いページに複数のアルファベットと数字が現れた。



「るみのうねが、べてぶらて1えれっきが? こんなの初めて、マミさん辞書」


何処かで聞き覚えのある音型に苦笑する海香。
英和辞典を持ってくるマミ。後ろの杏子は日伊辞典を片手に悪い顔をしている。


「で、どれが性質?」

「それがランダムなの、そもそも四つ以上でたのは初めてよ」

「このさやかちゃんで実験したらいいんじゃない?」

「お前の性質はボウヤに貢ぐこと、弱点はマミの特訓だろ」

お腹を抱えながら笑う杏子。さやかはキュゥべえを掴んで投げつけた。
キュゥべえは弧を描き、ソファにのめり込んだ。

「佐倉さん、それどういうこと?」

マミが辞書を片手にニコニコしている。

生命の危険を感じた。杏子は手を八の字に、上体を伏せて謝罪の意を伝えた。



――――――――――――
――――――

イクス・フィーレはキュゥべえに解析させよう。
四人が初めて一つになった瞬間である。


「最初からそうしとけば良かったんだ」

「佐倉さんはどうしてイタリア語の辞書を持ってるのかしら?」

「関係ないだろ、キュゥべえの邪魔しちゃ悪いって」


キュゥべえがイクス・フィーレを読み解き、音読した。


「なるほど。中学生には難しいかもしれないね。最後以外」

「あたしには最後も読めなかったよ」

「・・・」

「00001はさっきの戦いで死んだ子、暁美ほむらの臓器らしいわ」


海香が思い出したように付け加える。
キュゥべえは仮説を立てて説明をし始めた。


「先頭の語は形容詞、これはおそらく暁美ほむらの性質だね。やわらかく輝く意さ」


「ふーん、さっぱりだな。マミ達は心当たりあるのか?」

杏子が神妙そうな顔で二人に言った。

「暁美さんは光ってるってこと? 多分弱点の方じゃないかしら」

「あの戦いの時は光ってたけどね。他の単語はさっぱりだよ」



「キミ達じゃその程度だろうね。五番目については心当たりがある」

「随分と自信満々だねえ」


「仮説という上で聞いてくれ。『円環の理』、或いは志筑仁美のことを指しているね。
帰還することの無い土地――すなわち死を司る女神だ」


「仁美は関係ないでしょ」


さやかが声を荒げる。


「あれは魔法少女候補になったんだ。聞かれなかったから言わなかったけど。
だから、マミに提案をしたうえで監視、保護の対象としているんだ」

「嘘・・・」


驚きを隠せないマミとさやか。


契約における条件として、因果律だとか第二次性徴といった
様々な要因が関わっていることは承知の上だったが、最も重要なファクターは
「どうしても叶えたい願い」が出来ることである。


恵まれた地位、環境にある仁美が願いを持つとは、二人とも考えてすらいなかった。


「ほむらに隠匿の魔術をかけられた頃には、候補に挙がっている。
ボク達インキュベーターは最低限の干渉で彼女の生命を守りきった。
数日間の栄養補給に加えて、肉体を瘴気で覆って魔獣の目を欺いたり――寧ろ感謝して欲しいくらいだ」




「で、どこにその、何とかって要素があるの?」


さやかは五番目の単語を指差し、キュゥべえを問い詰めた。


「修羅と化したほむらがそう罵っていたのさ」

「それだけ?」

「十分な根拠さ。何度もほむらと仁美は接触していたからね」

「それってあたしが変なこと聞いたから・・・?」

「さやかも薄々志筑仁美に期待していたようだし、こればっかりは否定しないよ。
お陰でICレコーダーから、暁美ほむらの貴重な発言を得る事ができた」

「知ってて黙ってたの?」

「優先順位は低かった。あの時は失踪者の件で精一杯だっただろう?」


さやかとキュゥべえは暫く、丁々発止の激論を繰り広げた。




そんなやり取りを、息を呑んで見守る海香と杏子の二人。

マミだけはノートに黒鉛を刻み込んでいた。



マミが顔を上げた。


「終わったことはもういいでしょ。それより皆聞いて、ニコさん、かずみさんの保護が第二、
シカメさんの特定と避難が第三の課題ね」


「第一の目的はほむら征伐だな」


血気盛んに杏子が言い放った。
違うわ、とマミが否定する。



「全員が・・・・・・生き残ることよ」


――――――――――――――――――――――――――――――
ワックるってどういう意味なんだろう

御崎海香のイクス・フィーレはカタカナ、魔女文字等様々な形態を取ってたので
間を取ってアルファベットを採用

わかりにくい点があればどうぞ気軽に


■エリドゥ


□美国邸宅前

巴マミと呉キリカが門の前で話をしている。
神那ニコとかずみの保護を依頼した――今も生きていれば、の話だが。


「はあ。それで織莉子を護れるなら容易い要求だ」

「念を押しておくけど、暁美さんと出会っても戦っては駄目よ」


「織莉子に尽くせれば私はどうなっても良いよ。
要はニコ、かずみ、まあ他所の連中をここに匿えばいいんだよね」


「そうよ。私の家だと見つかる可能性が高くなるから。
美国さんの護衛が増えるとでも思えばいいわ」


「私と織莉子の仲を邪魔する気かい?」

「・・・。使用人だと思えばいいわ」

「大いに結構! 給料は出さないよ」

「出すのは美国さんのお父様でしょう・・・」

「話は以上だろ? 伝えておくよ、バイバイ!」


話が終わるとすぐに家の中に消えるキリカ。
動かしにくい子だなとマミはつくづく思った。




□美国邸宅


志筑仁美――暁美ほむらに軟禁されていたが、呉キリカの手によって救出されている。
今現在、キュゥべえとキリカの管理下にあった。


美国織莉子と志筑仁美は見滝原における最後の魔法少女候補だ。


この二名は暁美ほむらに対抗しうる有力なカードとして、
インキュベーターが大切に保護している。





ここは見滝原でも安全な場所のひとつ。政治家――美国久臣の自宅である。
織莉子の父親は対話戦略に長け、国内外から治安部隊を見滝原に派遣した張本人だ。


治安といっても得体の知れない殺戮者を外に出さないように、
徹底的な交通規制と流通制限を行うだけの平和的な武力部隊である。


取り合えず、複数の国から戦力を借り入れる外交手腕は持ち合わせていた。




織莉子は手持ち無沙汰だった。
珍しく巴マミが訪ねてきたかと思えば、深刻な表情でキリカを呼び出した。



織莉子はほっぺを膨らませてマミに抵抗するも視線さえ向けてくれなかった。
きっと魔法少女絡みなのだろう、と知ることを諦めて、広間に引き返す。



志筑仁美が気だるそうに見つめてきた。
ソファの横には携帯端末が無造作においてある。




「志筑さん、お電話でしたか」



「はい、さやかさんにこっぴどく怒られてしまいました。
どうやら心配をかけてしまったようで」

気のいい声色が返ってきた。



「魔法少女のことですね、候補であることが漏れたの?」

「暁美さんとの関わりもキュゥべえさんが話してしまったそうな。
電話口の向こう側が別世界のようでした。ところでシカメさんという方はご存知ですか」


「シカメ。心当たりは無いですが、魔法少女絡みですか?」

「暁美さんと深い関わりがあるとか。いち早く避難させたいそうです」


「暁美・・・ほむらさんね。志筑さん、いつか詳細を教えてくださいな。
皆さん口をつぐんでしまって、好奇心だけが空回りしているのですよ」


「全部解決したら、きっと。それか、打つ手が無くなったら知ることが出来るかもしれません」


「キュゥべえも悪い子ね。最後の切り札、聞こえは好いですけど、如何にも――」


「利用されるのはいい気がしませんが、頼みの綱であることは変わらないのですから。
それでは、人探しをしますので、お部屋と電源をお借りしますね」


「相変わらず礼儀正しい子。自分の家だと思ってゆるりとして好いのですよ。
愛しのキリカはお父様の部屋まで巡回済みですもの」








「シカメかあ――緑頭より早く見つけてあげよう。織莉子の負担は出来るだけ削がないとね」


聞き耳を立てていたキリカは何事も無かったかのように部屋へ戻っていった。



■善きサマリア人


場所は見滝原。夕暮れの空に溶け込んで、赤いビル群が遠方に漂っていた。

無数の消防車が忙しなくカンナとかずみを横切っている。


「ニコ、あすなろに戻らないの?」

「散り散りになるのは良くない。巴マミという魔法少女を探すのが一番かな」

「巴マミ? 赤い髪の人だっけ」


「黄髪の銃使いさ。・・・かずみ、具合悪くないか?」


かずみのピアスが暗い色になっている。
不思議に思ったカンナはかずみを気遣った。


「少し体が重たいだけ、大丈夫だよ」

「カオルのことは気に病んでも仕方がない。敵討ちだけを考えよう」


「ニコはどうしてそんなに強いの?」



「強くないよ、弱かった――とても脆かった。だから私が生まれたんだ」

「ニコ?」


「今はわからなくてもいい。でもね、真実を知ったときの絶望は計り知れないよ」

「うん。覚悟はしてる」




カンナとかずみはすぐに見つかった。
美国邸の警備員が、門に寄りかかっている二人に声をかけたためだ。


「わあ! このケーキおいしいっ」

「上手くいったな」

「ん? 道に迷ってたんじゃ・・・」


くつろいでいる二人に織莉子が声をかける。


「初めまして。美国織莉子――巴マミさんの友人です」

「えっ? マミってニコが探してた・・・」

「無事で何よりです。さて何から話せばよいのでしょう」


カンナは魔法少女に変身した。

「この姿は知っているだろう?」


指から細長いケーブルを出して、織莉子に接続した。
数刻後、もう一本を部屋の外に流した。


「ええ、魔法少女・・・。あすなろ市から来たと伺ってますが」

「なら話は早い。巴マミの家に行こう」

カンナは満足そうに頷き、変身を解いた。


「神那さん、待って。外はとても危険――」


「すぐ戻ってくる。かずみはココに居ていいよ」

「はーいっ。気をつけてね!」


そそくさと立ち去るカンナ。



「地図・・・要らなかったのかしら」

「ニコはいつもあんな感じだよー」

「かずみさんもう一つ食べますか」

「頂きまーす。あっ」

「どうかされましたか」


「今日のニコは黒かったよ」

「はい?」


「服も、心も黒かった。別人に生まれ変わったみたい」

「どういうことでしょう」


「わたしに聞かれてもわかんないよ」

「かずみさんも魔法少女と伺ってますが」

「魔法は使えるよ? 契約の内容はね、えっと――」


話が終わってないのに追加のケーキを食べ始めるかずみ。
変わった子だなと織莉子はつくづく思った。


「・・・」

「・・・」

「織莉子さん」

「なんでしょう」


「ケーキ、本当に・・・おいしい」

「か、かずみさん?」

「生きてるとこんなにも――」



さめざめと頬を濡らすかずみを前に、織莉子はかける言葉が見つからなかった。



――――――――――――――――――――――――――――――
次回は説明回

外伝組は海香とカンナとかずみが生き残ってます。
キリカと織莉子はしばらくお休み。


■受難者

□ティロホーム

美国織莉子から連絡を受けていたのだろう。
カンナがエレベーターから降りると、何者かに腕を引っ張られた。

無抵抗のまま巴マミの自宅まで連れ込まれる形になった。



「ニコ! 無事だったのね」



腕を掴んだまま、昂ぶった様子を見せている。声の主は御崎海香だ。
カンナにとって海香は感謝すべき対象、と同時に宿敵でもある。


カンナは口元に人差し指を立てる。
落ち着くように促した後、少し間をおいて述べた。


「とても苦しい戦いだった。ニコは無事じゃないだろうね」


カンナは肩をすくめながら、面倒くさそうに溜息を吐いた。


「かずみは・・・?」

「ああ、生きていないよ。無事だろうけどね」


今度もやれやれと肩をすくめる。



「ちょっと! 何てことを言うの?」

「美国織莉子の家でケーキを食べているよ。最後の晩餐だ」

「巴さん? ちょっと二人にしてもらえるかしら!」


海香が怒る怒る。
カンナは湧き出る喜びを噛み締め、勝手気ままな生き物を嘲笑している。


「御崎さん。見てわかるけど、ワンルームなのよ。物置なら・・・」


「ちょっと下まで行ってきます!」

「海香の言うとおり、一度退場しよう。
外に出て風に当たってくるよ。今朝の戦いで少し興奮しすぎてね」



「漢字はわかったけど、見滝原一体に散らばってて総当りじゃ何日かかるか・・・」

突然の来訪者に目もくれず、さやかと杏子は鹿目家の場所を探していた。



マミはイクス・フィーレの文言と格闘している。

「こっちもこっちで大変なのに・・・」

□ティロエントランス


「あまりにも嬉しすぎて気が昂ぶっていた」

「ニコらしくないわね。暁美ほむらについて聞きたいことはある?」

「まずはかずみの件だ。プレイアデス聖団は何人生き残った?」

「ニコ含めて三人。私とニコとかずみ」

「マジ?」


それは海香とかずみ以外死に絶えたことを意味した。
海香と話している人物はカンナに置き換わっている。


「大マジよ。かずみの身が危険ね。二人の魔力じゃ支えきれない」

「グリーフシードは幾つ残ってるんだ」

「二十個。これは半分こしましょう」


海香は断腸の思いで数少ないキューブを取り出した。


プレイアデス聖団の六人は、ミチルからかずみを造り出し、六人で魔力を供給している。
かずみ――13番目の死体をピアスで動かして、ありし日のミチルを投影していた。


かずみの左耳にあるピアスは、ミチルのソウルジェムそのものであり
六色が渦巻き状に交じり合った奇抜な鈴に形を変えていた。


残念ながら、暁美ほむらの付き人と同様、人造魔法少女を動かす手段は魔力のみ。



現在、かずみに魔力供給しているのは海香ただ一人である。
神那ニコは死に絶え、聖カンナは供給に加わる術を持たない。
かずみの持つピアスの色が暗くなった原因でもあった。


「このままじゃ本当に最後の晩餐じゃないか・・・次。暁美ほむらの『ホンモノ』はどうなった?」

「まだ生きてるわよ。幸いなことにイクス・フィーレでの解析が出来た。
ただ、ワードが六つ。それだけ弱点があるってことだろうけど、その解釈が難しいの」


「敵は討てるってことか・・・燃えてきたよ」

「詳しくは巴さんという金髪の方に――」



「承知。ちょっと一人にさせてくれ」

カンナは俯いて地面に話しかけた。



「つらい気持ちはわかるけど、悲しむ余裕はそこまで無いわよ。
残された時間は短すぎる。ひとまず心の整理をしたら、すぐに戻ってきなさい」

きびすを返し、海香は足早に戻っていった。
その後姿に失意のオーラが滲み出ている。


カンナは愉快でたまらない。
たくさんの鳩が一気に飛び立つような、言葉にし難い清々しさに身を委ねていた。



「かずみが魔力を使うほど御崎海香は死に近づく。
自業自得を体現した理想のシチュエーションじゃないか」


「しかし、はじめから七人で暁美ほむらを襲わなかったのは幸いだった。
アイツの立案した計画は結局かずみしか見ていない」


「一人欠けた程度なら、かずみの動力に問題はないからなあ!
プレイアデスが自滅していく姿はマーベラスだよ」


見滝原の地形、暁美ほむらと志筑仁美に関する三度のやり取りを考察する。
聖カンナはコネクトで吸い取った知識を丁寧に反芻した。



(志筑仁美に数日間の空白。ここで接続を切るんじゃなかった。
大方、暴漢にでも襲われたのだろうが・・・)




「後はどうやって暁美ほむらを始末するか――」




石段に座り、何度も何度も考えをめぐらせた。
無機質な石の冷たさを楽しみながら。


――――――――――――――――――――――――――――――
お知らせ
前スレの形式に準じていたのですが、以降(大体)台本形式に
「」の前に喋っている人物の名前を書きますね

極力、一場面に二人までと決めてたのですが回避できそうに無いですし、
次の場面は六人もいて、ト書きが冗長になりそうなのです
――――――――――――――――――――――――――――――

□ティロホーム

カンナは大体の状況を把握した。
イクス・フィーレの解読に、鹿目の住所特定と避難が急務らしい。


鹿目の家にほむらが訪れるだろうという推測。
反旗を翻した最初の素体――コピーとの戦いで、ほむらは多くの魔力を使ったそうだ。


カンナ
(暁美ほむらはどうも短絡的な性格らしい。魔力はチビチビと使うものだろうに)

マミ
「で、これが御崎さんのイクス・フィーレ」


マミがカンナにメモ用紙を見せる。


カンナ
「ほう、Vertebrate-00001か。きっと私が遭ったほむらだ」


歩道橋の上で出遭い、知らぬ間に散っていったHyadesの一員。
カンナはHyadesの死を悲しむつもりはない。


むしろ、ニコと自分の応酬にHyadesを重ねている。
自分がオリジナルに敗北した『IF』の時間軸を見ているような不思議な感覚を楽しんだ。


さやか
「会った? 詳しく聞かせて!」

カンナ
「何だ青いの。死に絶えたものに興味があるのか?」

さやか
「ほ、ほら。仲間割れする理由とか知りたいじゃない」

カンナ
「ははん」

カンナ
「生みの親に反抗するのはよくあることさ」




【Ereshkigal】



次の項に目を奪われた。図らずも、おおっと声が上がっていた。
カンナはすっと立ち上がる。

カンナ
「エレシュキガル――か、キュゥべえ居るんだろ?」

QB
「なんだい? カンナ」

カンナ
「・・・。危うく吹っ飛ばすところだった。
全くインキュベーターは――っと、鹿目の家にデコイランを置こう」

QB
「デコイラン、囮のことだね。でもどうしてだい?」



カンナ
「忌々しい暁美ほむらに一泡も二泡も吹かせてやる。
ツクリモノの気持ちを考えないクズは最高の演出で葬ってやるのさ」


マミ
「私としてはそこまでする必要が・・・」



話の腰を折るマミをにらみつけ、カンナは覚悟を決めた。
海香と杏子は調べ物に夢中だ。暴露大会は今のうちに済ませておこう。


カンナ
「私の性質はConnectだからね。これと、Vertebrate-00001は私が提供しよう。
多分それらが暁美ほむらの切り札になる」


黒い笑みを浮かべて天井を仰ぐ。


マミ
「でもコピーはもう生きてないわよ」


海香の目が届いていないことを確認してから、カンナはソウルジェムを照らした。


カンナ
「私は00001と呼ばれた暁美ほむらの宝石に触ったからな。こんなことも容易い」


テーブルの上に菱形の宝石が生まれた。

QB
「これはまさか暁美ほむらの・・・」

カンナ
「キュゥべえは賢いな。素体とやらにくっついてた魔力の回収装置さ」


マミ
「で、それをどうするのかしら」

カンナ
「デコイランを使って暁美ほむらに付着させる。
アイツの魔力を完全に削ぎ落とすんだよ、そして巴マミら三人で決着をつけたらどうだ」

QB
「ボクは異存ないよ。回収装置を改良すれば何とか実行に移せるね」

マミ
「神那さんと御崎さんはどうするの?」

カンナ
「私は、デコイランの失敗に備えて、鹿目家までの行く手を阻む。
かずみにも働いてもらおう。他の魔法少女は好きにしてくれ」

さやか
「神那さん、そのデコイランって何?」


さやかが突っかかってきた。
カンナは少し頭を捻ってからゆっくりと話し始める。

カンナ
「デコイランはデコイランさ。そして神那は再生成の使い手だ。
カンナが創った宝石を見ただろう? カンナにとって囮なぞ造作も無いこと」

さやか
「あんた、悪いけど信じられない」

カンナ
「私もだ。どこまでも自分勝手な生き物なんぞ滅びてしまえ」

カンナは菱形の宝石を取り上げる。乱暴にドアを開けるとそのまま姿を消した。




マミ
「美樹さん。あの魔法少女は味方だと思う? 敵だと思う?」

さやか
「武器――だと思う。ほむらを殺すための」

マミ
「・・・」

さやか
「マミさんはどっちだと思ったんですか」

マミ
「さあ。でも美樹さんはたまに鋭いわね」

さやか
「あはは、照れちゃいますよ」

マミ
(美樹さんも、神那さんも――同じ匂いがした)

――――――――――――――――――――――――――――――
Tips

かずみ「魔法が使えるよ。織莉子さんの家に居るよ」

海香「ニコとかずみ以外、暁美ほむらの手によって逝ったわ」


カンナ「イクス・フィーレの4/6は解読出来た。御崎海香はもう持たない」

カンナ「赦さないよ。暁美ほむら――哀れなニセモノを産み出し続ける魔法少女め」


ほむら「反逆者の始末、及び失った魔力を補充しているわ」

さやか「神那は信用出来ない」

マミ「美樹さんと佐倉さんも怪しい」

杏子「鹿目はどこに住んでるんだ?」

キリカ「シカメ? 何それ?」

仁美「美国さんのお屋敷で待機。契約対象ですわ」
――――――――――――――――――――――――――――――

    、〃"〃,

    ミ.*    彡
~ ξ   ゚ ヮ゚ ξ
   彡     ミ
    "〃,,〃ミ


■あなたがたは、十日の間苦しめられるであろう。


□暁美邸宅

暁美ほむらは自宅で静養していた。
なりふり構わず行動した結果、精神的にも、肉体的にも、相当なツケが回っていた。

ほむらの味方は、真紅いリボンと、魔力を提供してくれる魔獣と、餌の住民くらい。


自分と同じ志を持つはずの素体は創造主に牙を向けた。
暁美ほむらを支えていた拠り所はついに自壊する運びになった。


「魔法少女は裏切った。インキュベーターは日和見。
付き人は裏切った。志筑は・・・逃げた。私の周りは敵だらけね」


「でもあの子なら全部受け止めてくれる。私の全てを理解してくれる。
『鹿目』を探し出してこんな街から出て行きましょう」


「――いや、一人息子が行方不明だろうから、昔の知り合いを探し出すほうが・・・。
鹿目は引っ越しているかもしれないし、自害しているかもしれない」


(駅前には、掃いて捨てるほどの警察官や駐留部隊がひしめき合っている。
プレイアデス聖団の生き残りとマミが接触していることはインキュベーターから聞いた)


ほむらに憑りついた疑いの念は晴れない。




(キュゥべえは情報の断片のみを提供して、認識の齟齬を意図的に生み出しているのかも)


あらゆる状況がほむらの行動を制限している。
何も考えずに、のうのうと外出するわけにはいかなかった。



「美樹さやか、佐倉杏子は黒。神那ニコ、かずみ、御崎海香も黒。キュゥべえと巴マミはきっとグレー」

「あれらもきっと、鹿目の保護を企てている」



「どうすればいいの。どうするのが正しいの」



急に脂汗が出てきた。目眩もするのでソファに横たわった。
お守り代わりのグリーフシードを握り締めて。


「この場所は割れている。家が焼き尽くされるかもしれない」

「命が奪われるかもしれない。リボンが奪われるかもしれない――」






「もう一度逢いたいだけなのに。どうして・・・どうして?」



「・・・誰か助けて。誰でもいいから」







       ――助けて









ほむらは吐いた。何度も、である。

口を数回濯いで、苦しみを和らげようと試みる。
とどまるところを知らない嘔吐物と廃液。旧式の排水溝は悲鳴をあげていた。



■死に至るまで忠実であれ

□美国邸宅

志筑仁美は見つけてしまった。手がかりを。
恐ろしいほどに手際よく事が運んでしまった。

まるでDNAに刻み込まれたかのように、そのためだけに生まれてきたかのように。
以前の仁美では、全く持って思いつきもしない手段で、「鹿目」を探し当てた。

なあに、いざとなれば揉み消せば良いのです、と自分の指先を説得して後先考えずに
市の基幹サーバーにアクセスして情報を吸い取ったのだ。


キュゥべえを呼びつける。


仁美
「鹿目詢子さんと連絡が取れました。鹿目知久さん、詢子さん、この二人は健在です。
ですから今すぐ海外に、と話したのですが見滝原を離れるつもりは無いと――」

QB
「住所がわかったのなら、呉キリカを使って強奪する手段はあるよ」

仁美
「そんなのは駄目です。私が呉さんに抱えられたとき、死の匂いを感じましたわ」


無邪気な目で拒絶の意を示す。


QB
「普通は見滝原を離れたいと思うものだろう? 直近の死者はボク達でも把握し切れていないのに。
それとも、苛政は虎よりも猛し、という教えに忠実なのかい?」

仁美
「あの日から毎日、息子さんを探しているようなのです。
ご両親の気持ちもわかりますが、このままでは哀れな虎に襲われてしまいます」

QB
「死んだことを話せばいいだろう。避難先の件は美国久臣にも協力を仰ごう」

仁美
「避難に関しては志筑財閥が全ての責任を負います。こればかりは誰にも邪魔はさせません」


QB
「そこまで言うならまかせるけど、無理は禁物だ」




キュゥべえから重要なキーワードを引き出した。
仁美の口角はゆっくりと上がっていく。
間髪いれず、次のように述べた。自ら鍛えぬいた弁論術と悪運に感謝しながら。


仁美
「今、任せる――と言いましたね?」

QB
「気に障ったかな」

仁美
「では、準備をしますので。一度ここを離れます」

QB
「それは無茶だ! 安全の確保が出来ない」

仁美
「インキュベーターは私達人類と対等に付き合い、お互いに尊重するものだと仰っていました。
目の前の個体は私を尊重してくださらないのですか?」

QB
「それは志筑仁美を尊重した上での・・・」

仁美
「私に嘘を付き、積極的に騙そうとする気ですか? 
これはもう精神疾患と判断されてもおかしくないですわね」

QB
「・・・わかった。呉キリカを呼ぶからそこで待っててくれ」



仁美
「はじめからそうすれば良いのです」

QB
「全く、キミは本当に興味深いよ。
重要な候補者だからといってあらゆる情報を提供するのは良くなかった」


仁美はあごを軽く撫でて口を開いた。


仁美
「キュゥべえさんのお陰で、美国さんは可哀想なほど何も知らないのですよ?」

QB
「美国織莉子はキミと違う種類の人間だ。
漠然とした願いしか持たない織莉子と、目的のためなら手段を選ばない仁美。
良くも悪くもボク達の持つカードが増えたのは感謝しきれないけどね」

仁美
「そのカードを育てたのはあなた達インキュベーターではありませんか。
美国さんは自分が真っ白なカードであることに嘆いています」

QB
「同じ種類の切り札はキミ達人類にとっても喜ばしくないんじゃないかな。
さて、護衛の件だけど、少しばかり時間がかかるかもしれないね」



一つの空間に、二つの溜息が漏れていた。


――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――


キュゥべえは呉キリカを探した。
台所にはプレイアデス聖団が産み落としたおもちゃが一つ。


(かずみ・・・キミはまだだね)


念のため、第三応接室まで覗いてみるがやはりキリカは見つからない。
その代わり、美国織莉子が居た。


織莉子
「キュゥべえ? どうしたの」

QB
「織莉子。キリカを知らないかい?」

織莉子
「キュゥべえに頼まれたから、人を訪ねて――どういうこと? キュゥべえ」



織莉子は睨み付ける。キリカの優しい嘘に気づき、どうしようもなく苛立っていた。
キュゥべえのしっぽは力なく垂れている。


QB
「キリカの嘘だろう。元々キミ達を守るために置いているのだから」

織莉子
「テレパシーは使ったの?」

QB
「後でしておこう。少し、志筑仁美を借りていくよ」

織莉子
「理由を教えてもらえるかしら」

QB
「鹿目家の居場所が判明した。海外に避難させる腹積もりだろう」

織莉子
「街に残る人を放って置いて、そんなことが許されるのですか? 
確かに、暁美さんが絡んでると、志筑さんは言ってましたが」



QB
「今までの犠牲者は、ある種、鹿目詢子のような人間を探すためらしいからね」

織莉子
「鹿目詢子。その方は魔法少女なのですか?」

QB
「この先は話せない。暁美ほむらが捜し求める素――人物ではある。
暁美ほむらもまた、見滝原を脅かす存在だから、キミにとって敵対すべき存在だ。
くれぐれも賢く行動してくれ。呉キリカは簡単にやられるほど弱くないのは知っているだろう?」

織莉子
「釈然としませんが、私には待つほか無いのですね。
わかっていますとも。見滝原の安寧のためなら無知を貫きましょう」





キュゥべえは仁美の護衛として聖カンナを就けた。
ほむらが把握していないであろう魔法少女。凶悪な魔法の使い手ゆえに適当な人材であった。




「ほむらと聖カンナが出会ってしまう可能性は否定できない。
ただ、今の彼女はお疲れのようだ。聖カンナの行動を分析するには良いタイミングだと思う」


「知ってのとおり、リスクは大きい。切り札が失われる程度で済めばいい。
無知な聖カンナが暁美ほむらを知ってしまうことだけは避けるべきだ」




カンナの弱みを握っていることもまたキュゥべえにとってプラスに働いた。
志筑仁美という切り札を動かすほど、聖カンナもまた重要な人物である。



キリカとは連絡が付かない。織莉子には話していないが、既に何度もテレパシーを送っていた。
彼女の性格上、織莉子への奉仕を第一に考えている。キュゥべえは推論を立てた。


それは見滝原の騒動を鎮圧――暁美ほむらへの対立に自ずと繋がるはずだ。
とすればマミ達と合流しているはずで、すぐにティロホームに居た別個体から報告が飛んでくる。


何の報告も無い。


つまり、キリカは道中でほむらに接触してしまい、殺害されている可能性が高かった。


■テオトコス

□閑散とした街

見滝原から半数近くの人間が逃げ出した。もはや外出制限は機能していない。
残されたものは魔獣に魂を喰われるか、コピーキャット――模倣犯の餌になるのみ。


人々は神仏に祈りを捧げるようになった。
自衛のために出刃包丁やバットなど、比較的簡単に入手出来る武器を買い揃えようとしている。



派遣部隊や私服警官の一部にも行方不明者が出ていた。

連絡が途絶える間際、被害者は皆、口をそろえてこう言った。


「死神だ」


入電を受けた生き残りは死を身近に覚えた。
無線が入るたびに悪夢の「五文字」が耳を突き刺す。


次は自分が発する番かもしれない。


ヴァルプルギスの夜が終息した後も、耳に残る「五文字」は屈強な人間をも蝕んだそうだ。
生き残ったものは精神を病み、自殺するものもいたという。





二十二時過ぎ。カンナと仁美は死神の潜む街を闊歩している。


鹿目の家に向かっていた。




――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――

カンナは仁美の持つ情報量に驚いた。
インキュベーターが一枚噛んでいるのは明白。

魔法少女や直近の話題をふると、すぐに返答がある。
なによりも自分が聖カンナと知った上での自然な応対に恐怖を覚えた。


仁美
「ニコさんは暁美さんを恨んでいるのですね」

カンナ
「何度も言っただろう? 聖カンナでいい。
私を貶しているのか、私に媚びているのかわからないヤツだ」

仁美
「カンナさんの存在がばれてしまったら大変ですもの」

カンナ
「私は大変かもしれないが、おまえは別に変わるまい」

仁美
「いいえ、これは大事なことなのですよ」

カンナ
「底知れないやつ。何を企んでいるんだ」



仁美
「デコイラン」

カンナ
「私の名前だけでなく、それも知っているのか」


私の能力も知っているのかと問いたかった。
喉元まで出かけたセリフを寸でのところで飲み込む。


仁美
「キュゥべえさんが警告してくれました。キュゥべえさんは誰にも話してないので安心をば」

カンナ
「説明が省けた。実はその話をしようと思っていたのだ。
こうして二人きりになる機会がなかったら、きっと強制させていただろう」

仁美
「まあ、それは恐ろしい。魔法少女は強引な方が多いのですか?」

カンナ
「器用に生きることが出来ないだけだ。不器用揃いなのさ」



――――――――――――――――――
――――――――――――


仁美
「ここが鹿目さんの家ですね。では私一人で」

カンナ
「約束の時間は過ぎてる、急いでこい。私はここで待っているよ」

仁美
「帰りもよろしくお願いしますわ。美国さんのお屋敷ゆえ、もっと遠いかと思います」

カンナ
「ああ、わかっている」




大きく深呼吸をしてインターホンを押した。


□鹿目家

三十代前半と思わしき中肉中背の女性がリビングに座っていた。
無用心なことに、玄関の鍵は開いていた。


「何度も電話くれた子だよね。すまないね、手間かけさせちゃって」


仁美
「夜分に失礼します。鹿目詢子さんですよね」

詢子
「ああ、わたしだ」


目に覇気は無く、疲れ果てた様子で仁美を眺めている。
手元には褐色のアルコール飲料。


仁美
「知久さんは・・・」

詢子
「あれは朝から晩まで探してるから。二人揃ってないとまずかったか?」

仁美
「少し意外だなと。つい思ってしまっただけです」



アルコールを全て飲み干し、詢子は眉をひそめた。

詢子
「で、教えてくれるんだろ? タツヤを何処に隠した」

仁美
「隠した? 滅相も無いです」

詢子
「黙れ。わたしには何となくわかるんだよ」

仁美
「タ、タツヤ君は・・・とりあえずあなた達の安全を――」

詢子
「これでもバリキャリなんだ。あんたの何倍も情報通だろうよ。あ?」


酔いつぶれているのか、語気がどんどん荒くなっていく。

気圧されないように心がけた。仁美の声も自然と大きくなっている。


仁美
「話せません。でも、どうしても知りたいなら、全てが終わってからに・・・」



仁美の焦り具合を見て思い当たる節があったのだろう。
詢子は姿勢を整えると、ぐいと前に出て仁美の顔を見つめた。



詢子
「全てって何だ? あんた達は何をしているんだ?」

仁美
「見滝原が元に戻るまで話せません!」




詢子
「試して悪かった――いないんだろ。タツヤは殺されちまったんだろ?」


仁美
「!!」



息を呑む仁美。何もかも諦めた眼差しが仁美の脳裏に刻み込まれる。
詢子は氷を含み、奥歯で思いっきり砕いて話し始めた。



詢子
「ある日の夕方、女の子に出遭ったんだ。赤いリボンが特徴的な、とても綺麗な子でね。
少しタツヤが迷惑をかけてしまったから、声をかけたんだよ」


仁美
「どんな風に――」

詢子
「あなたもまどかを知ってるんですかって」

仁美
「まどか・・・?」

詢子
「タツヤがよく描いてた女の子さ。でも、リボンの子――死臭がしたんだ。
よくわからない不気味さがあったんだ。つい嫌な顔をみせてしまった」

仁美
「はぁ・・・。そんなことがあったのですね」



詢子
「わたし達が帰る間も、死臭は離れない。本当に死神みたいな子だった。
やっと死臭が消えたと思ったら、タツヤも居なくなってたのさ」

仁美
「それを私に話すのは何故・・・」

詢子
「リボンの子、見たことあるかい?」

仁美
「いいえ。そのような方は存じません」




暁美ほむらのことは話せなかった。
インキュベーターに固く口止めされている。

魔法少女である美樹さやかでさえ、
ほむらと仁美の接触はインキュベーター越しに聞き及んだだけだ。

まして、同じ候補者の美国織莉子は名前しか知らないといっても過言ではない。



詢子
「存じません、か。残念だ」

仁美
「お役に立てそうも――でも、今すぐここを離れて」



詢子
「目が泳いでいる。わたしを騙そうなんて二十年早いよ」

仁美
「嘘なんて――ついて」



仁美の手が震える。口の中はとっくに乾ききっていた。



詢子
「あんたの何倍も情報通だって言ったよな? 人の話聞いてたか?」

仁美
「それは言葉の綾でそう言ったのでは・・・」





「暁美ほむら」




「ひっ」





思わず声に出てしまった。草臥れきった鹿目詢子は消えていた。
疲労を見せながらも、フクロウの様に剣呑な目つきで獲物を睨んでいる。



詢子
「こんなわたしにも親友がいるんだ。中学からの知り合い。
名前は何だったかな――年は取りたくないね」



呆気にとられている仁美を詢子はまじまじと見つめた。
気の強い令嬢は黙ったまま思考停止している。



ああ、そうそう、と勝手に頷いて詢子は続けた。




詢子
「早乙女和子。うん、どこかの学校で英語を教えてたかな」

仁美
「・・・っ」


詢子
「中学二年の担――だった、ような」


仁美の返事は無い。
目を力いっぱい瞑って、何かに耐えている様子だった。


詢子
「・・・聞いたことある? あるよね、なあ? おい! 何故嘘をついた」


仁美
「い、言えません。お父様にも、織莉子さんにも言えないんです。
だから、一般人の貴女に言えるはずありません!」



詢子
「当事者も無理ってことか。とんでもないことに首突っ込んでたのかなあ」



がさがさと鞄を漁って一枚の写真を取り出した。
顔写真。これは――鹿目タツヤのものではない。


黒くて長い髪。鼻がすうっと通っていて、どこか幼さが見え隠れしている女性の姿。


仁美
「まさか、暁美さんを探してたのでは!」

詢子
「そのまさかさ。薄情だと思うなら、好きに思っていればいい。
敵討ちってもんでも無いけど、重要な手がかりになるからね」


仁美
「今すぐ――今すぐ逃げてください」

詢子
「嫌だね。わたしは探し続けるよ、たとえその身が滅びても」


仁美
「近々私は暁美さんに会うかも知れません。言伝なら承るので。これでも駄目ですか」

詢子
「こんなもんでわたしが動くとでも?」


仁美
「私が暁美さんを殺す、と言ったら海外に飛ばされて下さいますか」

詢子
「大法螺吹きだよ、あんた。そんな気全然無いくせに。
でも良いよ、乗った。仁美ちゃんの気概に免じて従ってあげよう」


仁美
「・・・実は、最初から私の提案を受け入れる気だった・・・なんてことは」

詢子
「まだまだ熟れてないね、仁美ちゃん。直接会ってから決めるつもりだった」

仁美
「そうでしたか」


詢子
「それと――ちょっとばかし、仁美ちゃんにも死臭が付いてるね。
ひとつ、アドバイスだ。自分が正しいと思ったことをしろ。
よくわからない理屈や一時の思考に邪魔されちゃ駄目だ」


仁美
「何が何やらさっぱり・・・。でも、はい。わかりました」


――――――――――――――――――
――――――――――――



仁美
「伝言はよろしいのですか」

詢子
「いいんだ。直接会う日が来るかもしれないからね」


小声で詢子に耳打ちする。早口で。

仁美
「・・・。暁美さんが生きていたら、何処までも鹿目さんを追いかけてきます。
何処へ逃げても無駄でしょう。逃がす場所は私とお父様しか知りません。
でも私がつい口を漏らしてしまうかもしれません。ゆめゆめ、お気をつけて」


詢子
「やっと本音が出たね。嬉しい限りだ」

仁美
「私は、あなたのような大人になりたかったですわ・・・」

詢子
「遺言か? そうだな、仁美ちゃんに一言だけ」

仁美
「なんなりと」


詢子
「こんな悲劇が二度と起こらないようにしてくれるかな。夫もわたしも疲れた」

仁美
「はい。約束は出来ませんが、努めます」

詢子
「それでいい。いつか、全部話してくれる日を楽しみにしてるよ」

伏線に沿ったデリケートな部分が続きますので
次の投下は大分遅くなると思います

■Ea


志筑仁美を待つ間、聖カンナはとりとめのない根拠を元に暗号を解き続けた。
暁美ほむらが使役した素体の動力である宝石のニセモノを握り締めて、
御崎海香が見出したアルファベットを脳内に描いた。


神那ニコの性質をその身に宿した聖カンナは幾つもの宝石を創り出す。

多種多様。

種種雑多。

脳内に浮かぶ宝石はアメーバのようにかたちを変え続けた。





音のない世界に、扉の開く音。

規則的な足音も追随した。


カンナ
「待ちくたびれたよ。結果はどうだったの」

仁美
「まずまずです。いえ、カンナさん――貴女は知っているでしょう?」

カンナ
「ニコ・・・は止めたのか。いいや、私はずっと目を閉じていたから知らないね」

仁美
「そうでしょうか。デコイランの話、私は詳しく聞いているのです。
プレイアデス聖団のある記述から囮の発想を得られたとか」

カンナ
「何か言いたげだが。お前、回りくどいよ」


仁美
「・・・。何故、私が囮――デコイランだと思ったのですか」

カンナ
「イクス・フィーレに書いてあったからに決まっている」

カンナ
「暁美ほむらを解析した結果、Ereshkigalという単語があった。ただそれだけだ」


仁美
「キュゥべえさんは貴女にエレシュキガルの事は話していない。
そこから、私は連想できない。つまり、カンナさんは私の記憶を盗み見ましたね?
私と暁美さんの、図書館での、二人きりの会話を盗み見ましたね?」



「ふむ」



カンナの声が闇夜に響く。


カンナ
「やるな、志筑仁美。鎌をかけたのだろうが、その洞察はなかなかのものだ」

仁美
「お褒めに預かり光栄ですわ」

カンナ
「私はConnectを用いることで、人間や魔法少女にアクセスすることが出来る。
誰にも気づかれずにな。多少魔力を喰うが、無意識に操る――洗脳も容易い」

仁美
「取引をしませんか」

カンナ
「言ってみろ」

仁美
「デコイランの心配は要りません、計画があればそれに則って動きましょう。
その代わり、これ以上私に接続しないで下さい。私は、私の意思で暁美さんの前に立つのですから」

カンナ
「――潰すときは正々堂々。約束を取り付けるまでも無い」

仁美
「良かった。ではニコさん。今後のことも踏まえながら、楽しく歓談をしましょう」

カンナ
「おまえは変わったヤツだな。人間は人間らしくしていればいいのに」

仁美
「もうすぐ午前様。皆に心配をかけてしまいますよ」

カンナ
「急ごうか。何事も早いほうがいい」


仁美
「そうでした。もう一つ頼みが」

カンナ
「何だ? 聞くだけ聞いてやる」

仁美
「鹿目さんの自宅の場所、皆さんに話すのは何日か後にします」

カンナ
「準備期間というやつか?」

仁美
「そうです。機が来るまで、さやかさん達には内緒にします。だからニコさんも内密に。
勿論、キュゥべえさんにも協力して貰います」

カンナ
「たかが人間にインキュベーターを説き伏せることが出来るのか?」


仁美
「出来ますよ。だって私は――最後の切り札なのですから」


カンナ
「そうか。やはり、お前が切り札だったのか」

仁美
「ええ。ニコさんも知っているはずじゃ」

カンナ
「なんとなく感づいていただけ。今、知った」



しばらく沈黙が続いた。
長い道のりの中、二人とも歩くことだけに集中していた。



――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――


カンナ
「誰にも会わず、難無く到着できた。喜ばしい限りだよ。
私は少しばかり雑務があるから、かずみには心配するなと伝えて欲しい」

仁美
「ありがとうございました。ニコさん」





目の前の女が視界から消えたのを確認して、カンナは穏やかな声で闇に話しかける。





カンナ
「ずっと付けていたな? インキュベーターよ」

QB
「鹿目詢子と鹿目知久の安否を確かめるためだ」

カンナ
「それだけじゃないだろう? 確かめさせてもらうよ・・・。
あの女に入れ知恵して、一体何をするつもりかな」

QB
「話すわけには行かないよ。ボク達インキュベーターの存在意義に関わるからね」




カンナ
「なら奪うまでだ! おおよそ数ヶ月分の出来事、読み込ませて貰おう!」



指先からケーブルを解き放って、小動物の額に接着させた。



カンナ
「私はね、正確な情報が欲しいんだヨ」

カンナ
「そうだ。鹿目の家は内密に。いいね?」

■IL DESTINO E SEGNATO


外で何が起きているか知らぬまま、仁美は無事に帰宅を遂げた。


織莉子とかずみはリビングで寝ていた。
多分、帰宅を待ってくれたのだろう。


どうしようもなく優しい方々なのですね、と二人に毛布をかけながら呟いた。



電気を消して、二階へ向かう。



「何も言わないで消えるのは良くないですわね」

「お手紙にしましょう」

「そうです。それがいいですわ」


「鹿目さんには悪いけれど、私はきっと生きて帰れないでしょう」

「私が全部話す日など来ません。でも、頼むことなら出来るはず」


美国家の書斎――美国織莉子に手紙を綴る。


「この前、言ってましたよね?」


――いつか詳細を話して欲しい


織莉子の無垢なお願いは叶えられそうにない。
だから二三お詫びをした。




胸の奥に収めた心の重みを誰かに告白したかった。
長い間閉ざしてきた本音をぶちまけたかった。


「美国さんは生き残って下さい。私に出来るのはそれだけ」


生き残って、何が起きたのかを鹿目夫妻に伝えて欲しい。




「きっと、美国さんは素敵な女性になるのでしょうね」




――羨ましいですわ。沢山ご学友が居て、自分の思いに実直。
私は今まで両親に縛られ続けて、自我というものがありませんでした。


その姿はさながら、舞台で踊らされる人形のごとく。
最後の最後くらい自分の意思で舞台を走り回りたいのです。


走って、飛んで、遊びたいのです。

自我を感じたいのです。

生を感じたいのです。



「だから私は暁美さんに逢います」

「自分の足跡を舞台に刻み込んでやります」




――たとえ、そこが血にまみれた舞台だとしても。



「鹿目さんにも頼まれてしまいましたから。こんな悲劇が二度と起きないように、と」



「もう後戻りは出来ませんね」


「本当に、これで良いのでしょうか・・・」

■生産

□ティロホーム


さやか
「マミさんが居ない。あれれ、また?」

杏子
「また魔獣狩りに出かけた。凄い執念だよ。いつ寝てるんだかわからないくらいだ」

さやか
「グリーフシードは・・・」

杏子
「玄関に四個だけ置いてあった。今が踏ん張りどころってこった」



マミとキュゥべえは魔獣狩りに向かっている。


最近の事象によって見滝原は瘴気に溢れきっている。
連日寝る間を惜しんで戦いに身を沈める必要があった。


暁美ほむらに出会わないように注意深く、
ゲリラ的に魔獣を退治するには巴マミの戦闘スタイルが一番理に適っているのだ。




美樹さやかと佐倉杏子はひたすら待機している。



御崎海香の体調を管理すること

暁美ほむらの行動を特定すること

鹿目家の場所を特定すること



三つの役割が与えられた。


さやか
「また昏くなってる」

海香
「ごめんなさいね。こんなことになって」


海香の穢れがとても早い。
かずみを動かすのに必要な魔力が吸われているのだが、海香は誰にも話していない。


最期の希望であるかずみを機能停止させるくらいなら、
自分が逝った方が良いと即決するほどの歪んだ友情を持っていた。



かずみは二度と造り直せない。



みらい、サキ、ニコ、カオル、海香、里美の持つ力が不可欠である。
暁美ほむらに頼ればミチルのような器は作れるかもしれない。
しかし、今の海香には交渉材料も、魔力も、時間も足りなかった。



海香
「パソコンを取ってください」

さやか
「あのねえ。病人は大人しく寝てたほうが良いって」

海香
「私にはやらなくてはいけないことがあるのですよ」

唸るように、さやかにパソコンを催促をした。
杏子は頭をかきながら、さやかに提言する。

杏子
「好きにさせとけよ、プレイアデスのかずみは向こうだし、ニコも戻ってこない。
海香にも思うところがあるんじゃないのか」


海香
「『ヴァルプルギスの夜』の小説を書くのです。
この御崎海香――限られた時間は誰にも邪魔させません」

さやか
「ヴァルプルギスってほむらのことでしょ? なんでそう呼んでるの?」

海香
「暁美ほむらを見てそう思ったからよ。無為に殺し続ける舞台装置のようだと。
この悲劇は絶望で終わらせない。小説の中くらいハッピーエンドになりたいじゃない」

さやか
「もう好きにしたら? まっ、出来上がったらあたしに一冊頂戴」

海香
「ベストセラー作家の御崎海香様に何たる言い分。
でもグリーフシードの件もあるし、出来上がるまでに生き残ってたら十冊は送ってあげるわ」

さやか
「癪に障るやつ・・・」

海香
「ふん。大筋はもう出来ているのよ。だってノンフィクションなのだから」

海香はさやかの膝をつねった。


杏子
「どこまで事実を書くんだ?」

海香
「そうね、プレイアデスは皆生きてて――あなた達も生かしてあげる」


海香は構想を話し始める。


海香
「星の神話を下地にしたわ」

――オーリーオーンがプレイアデスの七姉妹を追いかけ回すようになった。
これを憐れんだゼウスは彼女らを聖なるハトに――


海香
「オーリーオーンは弓使い、暁美ほむらみたいでしょ?」

さやか
「御崎さんはハトにでもなる気?」

海香
「美樹さやか。結構バカって言われない?」

さやか
「ぐぬぬ」

杏子
「その手の逸話は有名だ。検索すればすぐに出てくるだろ、こんな感じに」

さやか
「本当だ。でも、ゼウスに当たる人は居ないよね?」

アルテミスは、『死の中の生』と『生の中の死』の姿をとる月女神である。

という記述がさやかの目に入った。月の女神は弓の名手らしい。


海香
「そうね。ゼウスは居ない。だから私達は逃げられなかったし、殺された。まあ、続けるわ」


――七人の魔法少女が現れて、ヴァルプルギスの夜に挑む。
大本の話に、インキュベーターから得た情報を混ぜる。
見滝原で何が起きたのか、後世に残すためのシナリオだった。


杏子
「でもオーリーオーンはアルテミスに殺されるんだよな」

海香
「佐倉さんは少し勘違いよ。相思相愛だった二人の弓使いの色恋沙汰。
片方が気づかずに――殺めてしまった、というのが正しいわ」

さやか
「ふむふむ、さやかちゃんは全部わかったよ。
ほむらの大好きな『円環の理』は弓が得物なのかな」

海香
「・・・馬鹿? 無尽蔵の魔力を造るヴァルプルギスの夜に『円環の理』はやってこないわ」

さやか
「ひっどい! ちょっとボケただけなのに」

杏子
「かといってここに弓使いは居ない。あのVertebrateが唯一の頼みだったか」

海香
「これも所詮こじ付け。神話に頼らず、泥臭く、決着をつけるのよ」


さやか
「え? 無視?」


海香
「話が逸れたけど、概ねの流れは話したわ。
私が消えたらあなた達が編集に伝えなさい」

さやか
「んー。何だかんだで、みんな揃って悪の魔法少女を倒す話なんだね」

杏子
「倒せるかねえ。頼みのプレイアデスさんは残り三人だし」

海香
「――小説の中でしか生きられないのよ。あの子達は」



さやかは叫んでいた。

「杏子っ!」


杏子は直線に、ソファまで飛ばされた。
鈍い音と皮膚の痛みで気づく。魔力を込めた平手打ちを受けていたのだ。


杏子
「病人をなじるなんて・・・アタシらしくない。悪かった。完成すると良いな」

海香
「・・・ええ、絶対に」


さやかは目をまんまるに見開いて、自分の手を見つめている。
杏子を叩き飛ばしたことを後悔しているわけではない。


さやか
「――今、あたしは何をしたの? 何で手が痛いの?」

杏子
「はぁ? ついに呆けたか」

さやか
「わかんない。無意識になってた。気のせい?」

杏子
「あれ。一瞬殴られた気がしたけど」

さやか
「ちょっと眠くなってきた」

海香
「美樹さん――? 佐倉さん――?」

  ∧_∧ ==-
 //(・ー・)ヽ 三==- ゴアシャアアアア
/ノ ( uu ) ヽ) 三==-


■死に至る病Ⅰ

□暁美邸宅


暁美ほむらは堪えていた。
数日前からやけに調子が悪い。体が重い。力が入らない。


だから、外出をするときは専ら魔力収集。
今のほむらは生き残るためだけに魔力を集めていた。



リボンを手に持ち、自分は孤独でないと言い聞かせる日々が続いた。
自分と全く同じ存在 Vertebrate に裏切られてから、ほむらの心は揺らいでいた。


同じ記憶、同じ思考回路なら、コピーは何故、『円環の理』を求めなかったのか。
何故、素体同士が結託して創造主の暁美ほむらに叛逆したのか。




ほむらは忙しなく指を動かして不安を取り除いている。


あの子にもう一度だけ逢いたい、という結論に至らないコピーが理解できなかった。
その結論に至った「自分」が狂っているのでは、間違っているのでは、とすら思ってしまう。



「初秋の断末魔が耳から離れない」


――多くの犠牲があったとしても、あの子が生まれるとすれば、それはとっても素敵なことなのよ。


――そのためには、“私”を閉じ込めてでも修羅になってみせるわ。


希望は潰えかけている。
閉じ込めたはずの罪悪感が静かに溢れ出てくる。


「あの子に逢えないで、多くの犠牲だけが残ったら・・・それは」

「それは――」


受け入れたくなかった。
ミネラルウォーターと一緒にその言葉を飲み込む。


洗面台で水と一緒に罪悪感を吐き出した後、二階に向かった。


「あった。はぁ・・・」


(誰の仕業なの? 皆目見当がつかない)



茶封筒をていねいに開けて、紙切れを取り出した。



最近届き始めた不可解な手紙も、ほむらを苦しめる一因だった。

場所は決まって二階の書斎。窓の隙間に差し込まれている。


「嫌がらせじゃないのよね」


四枚の手紙に目を通す。
各々、二つの名前が記されていた。だから残りは三通。



【初めまして、かな。さてお前は14の悲劇を造り出したと聞いている。
名は体を表すと言ってね。悲劇にも名前をつけてあげようと思う。
それが終わった日に、最高の演出をもって招待したい場所があるんだ。
忠告だ。あの女に気をつけろ。どうやらお前を気に入っている節がある。
私自身、あの女はお前以上に恐ろしい。実に聡い。
そうそう、名前だ。_ベンヌ__________フルバシュ__】


【ハトは死者の魂を現しているらしいぞ。鳥人は何の象徴なんだろうな。
そろそろ私の正体に気づいただろう。お前は私のためにヒトを殺し続けている。
私のためでなくても、結果として私のためになっているのは喜ばしい限りだ。
忠告だ。あの女を殺せ。どうやらお前を慕っている節がある。
私自身、あの女はお前以上に恐ろしい。実に賢い。
そうそう、名前だ。_シャラブドゥ________ ミキト____】


【ココロの調子はどうかな。すこぶる悪いと嬉しいのだが。
お前の求めるものはまだそこにある。しかし、あの女が何処かへ運び去ってしまう。
さあ、準備が整うまでおとなしく寝込んでいてくれ。私も忙しいんだ。
忠告だ。あの女が出す食べ物には手を出すな。お前を殺そうとする節がある。
私自身、あの女はお前以上に恐ろしい。実に手際がいい。
そうそう、名前だ。___ ティリド______ ベールリ ____】


【やっと出来たんだ。名付けてイーブルナッツ。
形はお前のと同じだ。小さいけどな。グリーフシードの逆みたいなものと思ってくれ。
これで一番最初のワード以外は解明されたわけだな。
忠告だ。あの女が出す飲み物には手を出すな。お前を冒そうとする節がある。
私自身、あの女はお前以上に恐ろしい。実に要領がいい。
そうそう、名前だ。____ムタブリク_____ラビス_____】





読んでるだけで頭がどうにかなりそうな文章だった。
手に持って、読み返すたびに目の奥に痛みが走る。



ほむら
(わけがわからないわ。筆跡は殺意が滲んでいるのに丁寧な忠告が書かれている)

ほむら
(グリーフシードかあ。まず、魔法少女関係を疑うべきだったのに。どうして気づかなかったのかしら)


ほむらはよろめきながら一階へ戻り、キュゥべえを呼びつけた。
キュゥべえとの頭脳戦は堪える。精神力が削られる。
だから、敵意がないことを端的に伝えたかった。


ほむら
「キュゥべえ、手を貸して欲しい」

QB
「珍しいね。キミから呼ぶなんて。障壁は外したのかい」

キュゥべえはまっすぐほむらの前に移動し、正面に座った。

QB
「相当堪えているね。まだ生きているのが不思議なくらいだ」

ほむら
「私には希望があるから。でも儚くて、弱弱しくて、今にも千切れてしまいそうなの」

QB
「ボク単体としては、ほむらに生きていてもらいたいものだけどね」


キュゥべえはグリーフシードを取り出してほむらのソウルジェムに近付けた。


ほむら
「? 嬉しいわ。でも――この恩は返せそうにないわよ」
QB
「いいんだ。暁美ほむら、せめてもの罪滅ぼし、という慣習だ」
QB
「時間を費やしすぎた。すまなかった」


突然降って沸いた言葉にほむらは悩んだ。
キュゥべえは何かやらかしたのかと問う前に、全てを察した彼から説明があった。


QB
「いいかい。よおく聞いておくれ。遠くない未来、キミの命が狙われる。
ボク達インキュベーターは議論を続けていたが、先日ついに意見が割れた。
だからボク達はほむらに味方しよう。その死を見届けてあげよう」

ほむら
「えっ? 唐突すぎてわからないわ。軽く説明してくれると嬉しいのだけれど」

QB
「人類にとって致命的な損害を与えうるものは排除する。
それが有史以前からの基本方針なのは知っているよね」


初めて「あの子」にあった日に聞いた文言だ。春先の長閑な雰囲気が一瞬蘇った。


QB
「そして、聖カンナがここに現れた。現れたならまだしも行動が大規模になっている。
聖カンナは人類全てを心の底から恨んでいて、滅ぼそうとしているんだ」


ほむら
「聖カンナ・・・。初めて聞く名前だけど、魔法少女よね」

QB
「うん。固有魔法のConnectが発動した瞬間、彼女の勝利が約束される。
契約した当初は大人しかったのに、ずいぶんと扱いに困る存在になった」

ほむら
「Connect?」

QB
「洗脳、記憶回収、身体操作、能力取得などの性質を持つ。最強と言っても過言じゃない。
厄介なことに、ほむらにConnectされると宇宙が終わる」


ほむら
「どうして宇宙が終わるのよ」

QB
「カンナがキミの知識を回収することで宇宙が終わるんだ」

ほむら
「・・・洗脳じゃなくて? 知識?」

QB
「洗脳は解ける可能性が残されている。身体操作もね。
能力の取得と記憶に関しては別物だ」

QB
「ほむらの記憶を見尽くしたら、キミ同様、『円環の理』に感化されるだろう。
聖カンナはあらゆる知識を吸収できる。ほむらを宿したカンナなら、全人類を滅ぼすのも朝飯前だ」

ほむら
「私だって人類の天敵みたいなものじゃない?
自分のために、壊して、壊して、壊しまくったんだから。
なのに見滝原は大丈夫。つまり、聖カンナが私の経験や知識を手に入れても人類は安泰よ」

QB
「その行動は『円環の理』を得るための手段だろう。聖カンナは人類の破滅が目的だ。
ヒトを殺すたびに穢れを浄化し、魔力を得る技術。使う人間が違えば、結果もまた変わっていくのさ」

ほむら
「なるほど。ヒトが消え去れば感情エネルギーの回収が出来ない。
だから宇宙が滅びると言ったのね」




QB
「そのとおり。だから早急に聖カンナを排除しなければいけない。
或いは、聖カンナに知識を与えない。この二点が人類存亡の鍵だ」


ほむら
(ややこしくなってきたわね)

ほむら
「Connectされる前に、誰かが私を排除する。これで円満解決じゃないの?」

QB
「ほむらを短期間で倒せる人材は限りなく少ない。聖カンナも同様にね。
二人とも強すぎるんだ。特に、聖カンナは対人に向いている魔法少女だし尚更難しい」

ほむら
「私でも聖カンナに勝てないと言うの?」

QB
「キミの存在がばれてしまった以上、勝率はどんどん下がっているね」

ほむら
「・・・。最初に言ってたわよね。意見が割れたって」

ほむら
「聖カンナを入念に潰すか、私を真っ先に潰すか。それとも共倒れを誘っているのかしら」

QB
「“彼ら”インキュベーターは、マミ達を信じている。
“ボク達”インキュベーターは、ほむらを信じている。この違いだよ」
QB
「マミ達なら聖カンナをとめられるはずだってね。でもボク達はそう思わなかった。
客観的に見ると、マミ達はまず全滅する。誰も生き残らない」



ほむら
「・・・。私が聖カンナに会ったらどうすればいいの?」


QB
「全力で戦って欲しい。
Connectされないように、何十にも障壁を展開して欲しい」
QB
「ボクに言えるのはそれだけだ」

ほむら
「聖カンナに会ったら、どうなるかわからないと?」

QB
「まあね。勝てば御の字。Connectされる前にキミが死んでも御の字。
Connectされてしまったら、聖カンナは誰にも止められない」




ほむら
「何故・・・今日になるまで黙っていたの」

QB
「聖カンナを監視していた個体のリンクが切れたんだよ」

ほむら
「Connectされたってこと?」

QB
「そうだ。余波がボク達にまで及んでいないか確認するのに手間取った。
戦いの火蓋が落とされた瞬間でもあるね。重ねてお詫びするしかない」



ほむら
「ふう・・・少し休んでから続きを聞かせてもらうわ。今、魔力を節約しているのよ」



糸が切れたかのように、ひっそりと倒れた。

静かな寝息だけがそこにある。



QB
「やれやれ」


QB
「マミ、さやか、杏子、海香、かずみ、織莉子、仁美」
QB
「新しいプレイアデスはとても脆い。末っ子の仁美は揺れているしね。
一歩間違えればヒュアデスに成り果てるものを何故彼らインキュベーターは信じるのだか。
カードが多い分、不確定要素が爆発的にうまれるというのに」


QB
「聖カンナも大概だけどね。殺すなら手っ取り早く済ませて欲しかった」
QB
「ほむらの価値が気づかれる前に」





QB
「まったく、わけがわからないよ」





QB
「おや、この手紙はなんだろう?」



キュゥべえは、ほむらの手にあった紙切れを取り上げた。



QB
「この吸着剤は――聖カンナの方が一手早かったか・・・」

■死に至る病Ⅱ


目を覚ますと白い生き物が手紙の横に座っていた。


ほむら
(キュゥべえが居る・・・。そうだ、思い出した。聖カンナの処分よね)


インキュベーターが味方につくと言ったら、間違いなく味方なのだ。

この難所を乗り越えれば、『円環の理』に出逢うことをも公式に認められる。
支援だってしてくれるだろう。寝ぼけた頭でもわかる単純な理屈だ。


QB
「ほむら、聖カンナは動き出している。
彼女の目的は全人類の抹殺――なのかわからなくなってきた。
こればっかりは本人に聞いてみるしかなさそうだ」

ほむら
「五通目、来てたんでしょ」

QB
「ほむらも見るかい?」

ほむら
「勿論。何か腑に落ちないところがあるし」



【先日、掴み取った一匹のリンクが外されていた。実に残念だ。
私のコネクトが公に漏れたのは想定していたわけだがな。
七通目が届いた日。お前は『円環の理』を見るだろう。
忠告だ。あの女が出す家具には手を出すな。お前を潰そうとする節がある。
私自身、あの女はお前以上に恐ろしい。実に小聡明い。
そうそう、名前だ。_____イディブトゥ __ツィダヌ _____】



QB
「暁美ほむら。この手紙には触れないように。それと――」


QB
「一人、円環の理に導いて欲しい子が居るんだ」

ほむら
「・・・わかったわ。実験をしてもいいのかしら?」


美樹さやか。佐倉杏子。或いはプレイアデス聖団の生き残りか。
前者の二名なら然るべき復讐を、と考える。


実験――かつての悲劇は今、蘇った。
記憶の中の自分に及ばないまでも、あの子に至る道しるべを作り出す手段を考えた。



QB
「任せるよ。魔力は足りてるのかい」

ほむら
「少なすぎる。でも仕方ないわ、まともに補給出来る状況ではないし、消耗も激しい」

QB
「そう思って三十個用意しておいたよ。きっと戦いになる。
時刻は午前四時以降。裏口に行けば見つかるだろう」

ほむら
「見つかる? それは怪文書のこと?」



頷くキュゥべえ。

なるほど封筒の送り主が来るらしい。


決めた。今、決めた。誰でも良いからこの鬱憤を晴らしたい。気だるさが癒えるなら何でもしよう。
しかし、アナログな伝達手段をとるなんて、世に疎い魔法少女なのだろうか。


QB
「ほむらにしか出来ない仕事だ」
QB
「念のため、彼女に一つ質問をしてほしいことがある」


ほむら
「聞く余裕があれば、聞いてあげないでもないわ――」


翌日


裏口近くの壁を背に、暇をもてあましていると見慣れぬ影が現れた。
障壁を敷いている以上、この場に入れる人間は限られる。


接続されないように、気をつけてはいた。気休め程度だが。
対魔装甲ではなく、リボンから抽出した『円環の理』の力。


それを全身に軽く纏わせて挨拶をする。


ほむら
「こんな朝早くに郵便? 趣味悪いわよ」


目の前の少女は漆黒の装いだった。
フードの中から見え隠れする黄金色の瞳に長い睫毛。


茶封筒を持って立っている。



少女はどす黒い笑みを浮かべて、丁寧に頭を垂れた。



「遅いね。遅すぎるよ。私の行動はルーチンだ。
キミならもっと早く気づくと思ったんだけどなあ?」


ほむら
「私の知らない魔法少女。何用かしら」


「わかっているんだろう? 封筒を渡しに来たんだ。
ヒントだよ、ヒント。最高の演出でキミを迎えるんだよ、暁美ほむら」


これ見よがしと言わんばかりに、封筒をひらひらさせていた。


わかっている? ということはこの魔法少女は――




ほむら
「貴女の口から直接聞きたいことがあるのよ。何が目的? 聖カンナ」




キリカ
「ハッ。勘違いしてるよ。呉キリカだ、呉キリカ。呉キリカと呼んでくれ」

ほむら
(・・・初めて聞く名前)

キリカ
「キミの言うカンナ様に頼まれてね、何日か前からお使いゴッコだよ」

ほむら
「聖カンナの使い魔? 付き人? それとも、立体映像なの?」

キリカ
「カンナの使い魔ではない、呉キリカだ。付き人ではない、呉キリカだ。
立体映像でもないよ、呉キリカだ。魔法少女の呉キリカ。呉キリカ」



ほむら
「壊れてるわね」



キリカ
「マぁ、些細だ。お使いがバレたからキミをコロさないといけない。そんな気がする。
だから大人しく私に切り刻まれるといいよ。暁美暁美暁美暁美暁美にしてアげよう」




キリカが薄暗いソウルジェムをかざす。
腰にソレを装着し、無駄なく変身を終えた。
その佇まいに一分の隙も無く、手甲から伸びた鉤爪が得物――暗器といったか。




間違いない。コイツは牧カオルと同様、格闘スタイルの魔法少女。非常にやりづらい相手だ。
黄金色の左目に両手の黒い爪。眼帯で覆っている右目にも注意を払わなければいけない。



目は口以上にものを言う。
視野を減らしてでもなお、眼球を隠す手段を取った。それだけ対人戦を意識しているに違いない。




そして、インキュベーターが恐れた聖カンナの息がかかっているのだ。




近接主体と思わせて幻術を使う佐倉杏子のような魔法少女もいる。
実際に戦ってみるまでは敵の「特性」を汲み取ることは出来ないが。


ほむら
(魔力が充実してない身体とはいえ、弓を好き勝手に振り回したら、外壁が崩れかねない)

ほむら
(相性も良くないし、変身は控えましょう)





196倍の身体強化のみで様子を見ることにした。
油断して両断されました、などという陳腐なエンドマークを迎えるわけには行かない。



指輪状態のソウルジェムであれば爪で引き裂かれる危険性も下がる。
魔力の消耗も少ない。最高の選択肢だ。


ほむら
(キュゥべえから聞いた「呪文」もある。それに――)



生体実験 In Vivo としての価値は十二分にある。
むき出しの殺意には、冷酷な現実をもって応えてあげるのが礼儀だろう。



ほむら
「牧カオルほどのお持て成しをするまでもない。
貴女のような、名前も知られてないぽっと出。生身で十分よ」


大仰に言い放った。


ほむら
「弱点は見せてあげない」



キリカ
「へえ、身体強化だけかイ?」

ほむらは首肯する。




キリカ
「私を甘く見すぎだよ。指一本触れられずに散ね」





キリカは身体の向きを斜めにしたまま、ほむらに近づく。
脇を絞めて、中段の構えを維持しながら、じりじり間合いをつめてきた。



ほむらは自然体――と言えば聞こえは良いが、完全に棒立ちで対応する。



初対面の魔法少女を相手に、である。



素人同然。ベタ足で身体が開いていた。

普通の人間相手なら足払いですぐに甲乙付いてしまうのではないか。




ほむら
「どこからでもかかってきなさい。貴女は私に絶対勝てない」



ほむらが言い終わると同時に、キリカは唸り声を上げて襲い掛かってきた。








跳躍。そして――






獰猛染みた黒金の一振





空手や合気道でよく見る基本形から、野生の獣のように本能を剥き出しにした一手は意外だった。
ほむらは慌てて体を捩って回避するも、キリカの両手から繰り出される爪の応酬は伊達ではない。


反撃する隙の無い怒涛の攻撃に、思わず一歩二歩と後ずさりしてしまう。




キリカ
「フッッッ!」

ほむら
(――――迅いっ)



ほむらからしてみれば、キリカの常軌を逸した高速の連撃は目で追うのがやっとで、
全力の回避をひたすら行うと同時に、適当な間合いを保つより無かった。


一方のキリカは澄ました顔で、執拗に、続けざまに、正面の空間を穿ち、切り裂いた。



華奢な体躯から生み出される純粋な圧力。純然たる暴力。
軌道を読んで必死に避けたとしても、余波の突風が吹き荒み、ほむらの姿勢は容易く崩れてしまう。



ほむら
(特殊能力は・・・無さそう?)



ほんの僅かな隙を見定めるために、ほむらは防戦を貫いた。


呉キリカの手の内をよくよく考えなければならない。
付き人はもういないし、予備の器も用意していない。



キリカは淡々と殺人術を行使していた。



ほむら
(このままじゃ埒が明かないわね・・・)


ほむらはそう思っていた。
しかし片方が朽ち果てるまで続くと思われた闘争は、キリカの一言で呆気なく終わる。



突然、両腕の牙はだらんと垂れ下がる。
二つの足音が息を潜め、場違いの突風も自ずと止んだ。




キリカ
「遅すぎ。期待外れだよ」




躊躇なく言った。


抑揚なく言った。



車道で潰れたハトを見てしまったときのような、汚らわしい物を見る目。
人間として最低限の哀れみすら持ち合わせない残酷な目つき。



ほむら
「一撃も浴びせられない魔法少女が何を言ってるの?
悪いけれど、牧カオルという怪物には遠く及ばないわよ」


キリカ
「あー、暁美ほむら。もう死んでも良いんだよ。何でキミが立っているのか不思議なくらいだ」


ほら、自分の体を見てみろ、と言わんばかりにキリカは指を突き出した。


ほむら
「――――――――――!!」



脚。

膝。

太腿。

脇腹。

胸部。

両腕。



全身が真っ赤になっていた。正確には、制服が赤く染まっていたわけだが。
間違いない。数分前まで、ほむらの血管に流れていたはずの生命のシンボル。



ほむら
「嘘・・・でしょ」



まさかと思い、頬に手を触れると、どろっとした感触があった。
見なくてもわかる。こんなに生温かい脂汗があってたまるものか。


キリカ
「なに? 全部避けたとでも思ってたのかい。これは傑作だ」


ほむら
「傷跡は・・・一つもないのに・・・」

キリカ
「落ちぶれたものだね。それがキミの回復力、身体強化のあるべき姿だよ」


なるほど。血が噴出した直後に、自然治癒したということか。
ただ、魔力を節約した割には妙な回復力だ。



キリカ
「さあ。変身しないと八つ裂きだ。キミの本気を見せてくれ」



このセリフに、ほむらは大きな違和感を覚えた。
トドメを刺す前にキリカが手を止めたことも相まって、尚更裏があるのではと思考が働いた。



ほむら
「・・・。殺すならこのままの方が好都合でしょ? どうしても変身して欲しいなら別だけど」

キリカ
「――――ン。確かにそうだ。私はキミをコロしたいんだ」

ほむら
「変身しろと言われて、はいそうですかと従うのも愚かだけど」

キリカ
「一理あるよ。うん、その――アレ? なんで私はキミをコロしたいんだ」


キリカ
「違う違う。シカメの家を探してたんだから暁美ほむらを殺せ――?」



急に頭を抱えてしゃがみ込むキリカ。
ぶつぶつと何かを唱えているようだった。



キリカ
「おっかしいなァ。封筒を渡すためにここにきたんだよ。
なのにシカメの家を探しに来たんだけど・・・。しかし、コ、殺す?」



キリカは耳を塞ぎ、長い鉤爪をわなわなと震わせた。
もはや言語として成り立っていないその独り言は、瞬く間に叫びへと変貌してゆく。


キリカ
「いや、何だこれは!」

キリカ
「私の知らない情報が・・・何故、私は鹿目詢子の棲家を知っている!!」





泡を吹いて倒れるのではと思うほどの狼狽振り。
キュゥべえに教えられた「呪文」を唱えるべきタイミングだと判断した。


ほむら
「呉キリカ。聞きたいことがあるの」

キリカ
「取り込み中だ!! 私は一切の質問を受け付けなILんだよッ!」




赤に染まった紫の少女は、闇に染まった黒い少女に問うた。
白い小動物に言われたとおりに。



――その魔法少女が、瘴気を散らし始めたら次のように聞いて欲しい。



ほむら
「貴女に愛する人はいるの?」

キリカ
「あたりまEじゃないかァア?」



――もし、彼女が答えられなかったら・・・


ほむら
「・・・。愛する人は居るのね。名前は?」

キリカ
「居るけどね! 名前は教えられないなッ」


――手遅れだ。


ほむら
「私はどうでもいい。呉キリカ。貴女はその人の名前を思い出せるの?」

キリカ
「・・・かんな」



ほむら
「はぁ・・・。カンナねぇ、どうしましょう」


この返事は、一介の魔法少女の手に余る。
昨日、キュゥべえはコイツが質問に答えられない前提で話を振ってきたからだ。


ほむら
(そういえばカンナ様に頼まれた云々言ってたわね)

――――――――――――
今回はここまで
また書き溜めてきます




ほむら
「・・・」



首根っこをとっ捕まえてキュゥべえの元に連れて行こうかと考えていた矢先。
興奮しきっていたキリカは苦しそうにして言葉を紡いだ。



キリカ
「・・・わかんない」


キリカ
「思い出せない」



キリカの紅潮した顔が真っ青になる過程を、ほむらは冷静に見つめていた。



QB
「やっぱりね」

ほむら
「やっぱりって?」

QB
「呉キリカは行方不明だったんだ。てっきりキミに殺害された思ってたけど」

ほむら
「失礼ね。でも、変身してなかったら気づかないでヤッてたかも」


突然のらりくらりと現れたキュゥべえは仮説を立てる。
一部始終を見ていたようだ。


QB
「目の前の存在に、聖カンナの魔力を感じるよ。
ファンタズマ・ビスビーリオと何かの複合・・・Connectは間違いなく使われている。
それじゃあ、荘厳に葬ってくれ。このカードは失敗に終わった」


ほむら
「呉キリカで何かしようとしてたの? 喰えないわね。でも話してくれてよかったわ」



キリカ
「おい・・・死神」

キリカ
「私の役割は愛すること。奉仕すること。早く殺し・・・」



QB
「ほむらにしか出来ない仕事だ。さあ」

ほむら
「ええ。呉キリカも哀れね。愛する人の名前すら思い出せないなんて」



キリカの魔力を、ほむらが作成した宝石に移し変える。
吸収はしない。複数の洗脳魔法を介した魔力はまさに毒といっても過言ではないからだ。


念には念をいれて呉キリカを導く。


キリカ
「助かるよ。恩人。六日目。チャンスだ。鹿目の住居へ。」


淡く輝く桃色の中で、呉キリカは確かにそう呟いていた。



QB
「キリカの言う事も気になるけど、まずは手紙だ」

ほむら
「導かれる最中で放っておくのも気が引ける・・・けど、急いで確認しましょう」

QB
「待って。触ると危険だ。ボクが読み上げよう」

ほむら
「手紙に何か仕掛けが? 昨日も触るなといっていたけど」

QB
「四枚目の記述にあるイーブルナッツらしきものが付着してるんだ。輝く粉が装飾してあるだろう?
誰構わず魔力を吸い取る対人兵器だよ。さあ、読んでいくよ――」



【かつての全ては明日、満たされるだろう。
暁美ほむらは全ての罠を避けて、私に挑むのだ。
七つの扉を開いたお前に感謝する。
残念だが、くぐるのは私だ。私が『本物』になる日は近い。
私がお前の全てを引き継ごう。
名前か? お前はもう一生知らなくていいよ。】




桃色の光に照らされた文字列を反復して読み込む。


ほむら
「また随分とテイストが変わったわね。これは何を示しているの」

QB
「七つの扉? ちょっとわかりかねるね。
聖カンナは、ほむらの知識に執着しているようだけど」

ほむら
「それくらい馬鹿でもわかるわよ」

QB
「で、どうするんだい? 別に、逃げても良いんだ。
イーブルナッツが完成した今、聖カンナに対抗できる魔法少女は皆無だよ」


ほむら
「弱気ねキュゥべえ。殺される前に殺せばいい」

ほむら
「私はそうやって、生き延びてきたのよ」



QB
「・・・ふう。わかったよ。初めからキミに従うつもりだったし。
ところで聖カンナは鹿目の家に居ると思って良いのかな」

ほむら
「何処に居ようと関係ないわ。見つけたら殺す」

ほむら
「早めに向かえば、聖カンナを迎え撃てるかもしれない。
それに鹿目詢子だっけ? 素体の元は回収しておきたいわね」


ほむら
「準備してくる・・・。時間かかるわ」

QB
「わかったよ」


QB
「さて――聖カンナ。ほむらは去ったよ」

キリカ
「?」

QB
「どうしてConnectしなかったのかい」

キリカ
「知らない」

キリカ
「知らない」

QB
「ほむらを殺すいい機会じゃないのかい」

キリカ
「知らなイ」

キリカ
「知らナイ」

QB
「ううん。聖カンナがわからない」

キリカ
「シ――」


QB
「呉キリカ? 美国織莉子、だよ・・・」

QB
「美国、織莉子・・・」



消え去ってもなお名前を呼び続けるキュゥべえのもとに、別の個体が一匹現れた。


「『円環の理』が発動してたね。呉キリカか」

「そうだよ。どうだった?」

「駄目だった。キミもまた、Connectされていたようだ」


「『一歩間違えればヒュアデスに成り果てるものを何故彼らインキュベーターは信じるのだか』だね?」


「うん。キミの発言したヒュアデス――だ。属性を示すような用語だけど」

「口を衝いて出てきたからね。そうじゃないかと思ってた。
多分、裏切るとか、そういう意味合いなのだろう。さて、引き継いでもらえるかい?」


「必ず聖カンナをとめて見せるよ。安心して逝ってくれ」

「ほむらは任せたよ」


「勿論。ボク達インキュベーターが信頼出来る、唯一のカードだからね」

「良かった。それと――」


「なんだい?」

「シロマルって呼んでみてくれないか? ボクはもうキュゥべえじゃないし」



QB
「じゃあね。シロマル。後は任せてくれ」

シロマル
「まだしっくりこないなあ。呉キr――」


□地下室


「これがイーブルナッツか。私の造った装置とよく似ている・・・」


中世で言うところの白魔法といった具合の浄化呪文を全身に施すと、頭がクリアに働き始めた。
と同時に、身体に付着していたと思われる粉がぽろぽろと剥がれ落ちる。


魔力を吸い尽くすコレが、ほむらの造った宝石より数段劣っている証拠だった。
このイーブルナッツと呼ばれるものは、術式の異なる魔法にはとことん脆いらしい。


悲嘆に暮れている精神状態で、こんな吸着剤を連日触っていたのだ。
ますます暗い気分になるというもの。


「なるほど悪意たっぷり。反吐が出そうになるわ、聖カンナ」


身体に密着した服と格闘する。

血でべっとりと貼り付いていたので、なかなかの重労働だった。



「あぁ。よく考えたら、聖カンナの顔すらわからないのよね」



少し熱めに設定して湯浴み。

紅くなった肢体をスポンジで撫でる。


「イーブルナッツ・・・」

「一通目の手紙にも付着していたということは、初めから完成していたってことよね」


「何だか踊らされている気がする。
六通目の文体だけ今までと違う。普通、七通目に書くべき内容のはず」


リンスが切れてる。
明日買いに行きましょう。


「どうして手紙ごときで魔法少女を派遣してきたのかしら。
第一、聖カンナが直接来ていれば、それで済んだ」


イーブルナッツを投げつけて、魔力を吸い取った隙にConnectで知識を得れば良い。
私なら一日とかからずにやってのけるわ、と思った。



「ん、ふぅ・・・」


ちょっと温いか。まあいいや。

好い匂い。


それにしても聖カンナのお披露目は余りにも不自然。
突然現れて、人類を脅かす存在になりました? 何の冗談だと一蹴したくなるわ。

さっさと来て、私の浄化技術を得て、人類を滅ぼせば良いのに。


実に回りくどい人間だ。
こんなときはよくよく考える必要がある。


真意は他に在る。あらゆる可能性を考慮しないと。



「原因は誰かの契約、或いは予言。他には浮かびそうも無いわね」



契約?


呉キリカ――。


あまり関係ないわね。
インキュベーターが頼っていた・・・。
私を殺すために訓練を重ねた節も見受けられたし。


聖カンナ――。


人類を恨んでいる。もしも私が聖カンナなら、契約するときに人類の絶滅を願うわ。
つまり、何かに接続した結果、好ましくない事実に気づいたということになるわね。



キュゥべえにConnectしたから?


多分Yes。


キュゥべえは議論を繰り返してきたらしいし、意見が割れた時期と重なる。
それで私の魔術を知って、知識を渇望した?


保留。




まだある。

予言じみた何か。


イクス・フィーレ

そう! イクス・フィーレだ!



何が書いてあったのかわからないが、辻褄は合う。
弱点を解析する魔法だと聞き及んでいたが、何がしかの行動に従わざるを得ない――とか。


御崎海香が関与していると見ていいのか。
いや、Connectの被害者かもしれない。馬鹿だし。




「あの怪文書は何だろう」


あの手紙はブラフと考えてもいいのかしら。
曲がりなりにも魔法少女からの手紙、というわけなんだし。


これは時間が解決するでしょう。それに、

「私の持つ魔法を、聖カンナは求めている。だったらそれまでやりたい放題」


殺されはしない。時間はある。




いいや、まだだ。まだ推察は足りない。



そうなるとプレイアデス聖団。私を襲ってきた理由がはっきりしそう。
美樹さやかと佐倉杏子が一枚噛んでいるものと思いこんでいたのだけれど。


皆、聖カンナが私の知識を欲していることを知っていた?


それは無いか。



でも結果として私の命が狙いだったのは同じ。
あの時は実験に夢中だったし、ある意味人類の危機。キュゥべえが私の排除を誘導してもおかしくない。




「終わったことは二の次でいいわ」



!!


真水のシャワーは冷たいぅ。




「もしも、よ。考えたくないけど」



タオルが湿ってる・・・。
陰干しだったものね。



「もしも――」







――私が既に操られているとしたら。




既にConnectされているとしたら。







最悪の可能性が残っている。



「あの子」の材料を回収している場合ではない。


キュゥべえはそれをも見越して行動しているとしたら。
だからマミ達を支持するインキュベーターが現れたのでは?



白の下着が無い。
黒は変身したときに浮き上がるのよね。



何れにせよ――


「私は、アイツを殺すしかない。洗脳されていたとしても解けるし」


「でも、聖カンナは何を企んでいる?」




「長い一日になりそう」


袋に左手を突っ込んで穢れを浄化した。
先日からの体調不良はすっかり回復していた。


カモフラージュ用として学校指定の制服を着る。
別に図書館に篭るわけではない。



真紅いリボンを丁寧に巻く。


結ぶ。


撫でる。



――もう少しよ。もう少しで貴女に逢える。



「だから、邪魔者は殺しましょう?」


短い休息だった。
今日の私は冴えていると思った。

■死に至る病Ⅲ


外に出ると、キュゥべえは尻尾を振って答えてくれた。
清冽な空気の流れに包まれた、そんな早朝。


ほむら
「お待たせ」

QB
「長かったね。待ってたよ。鹿目の家に行くのだろう?」

ほむら
「勿論。不安要素は出来るだけ取り除きたい」

ほむら
「だから、質問。絶対に答えなさい?」

QB
「いいよ」


ほむら
「聖カンナの特徴、仲間について、貴方が知っていることを教えて欲しい」

QB
「端的に言えば漆黒の魔法少女だ。特徴は、黒いことかな」

ほむら
「他には?」

QB
「それだけだ。彼女の存在を知る魔法少女は居ないと思う」

QB
「存在を知っているとすれば、呉キリカの様にConnectされた魔法少女」

ほむら
「・・・使役させられてる人物、と」

QB
「今朝のとおりだね。だから仲間なんて居ない」

ほむら
「私そっくり!」

QB
「自虐はよしてくれ」


ほむら
「で、誰が操られているかわかる方法はある?」

QB
「宇佐木里美や御崎海香のような洗脳を並行して使っていればわかるさ。
Connect単体だと話は別だよ。気づく人はまずいない」


QB
「ボクが一昨日教えたように、弁論術で探るのが一番だ」

ほむら
「知らないことを知っていたり、思ってもない行動を始める・・・ってことね」


QB
「ただ、区別は難しいよ。見知った相手だからこそ、差異に気づくわけだし。
呉キリカはキミみたいに、執着していたものがあったから」

ほむら
「わかりやすくてチョロい奴だったわ」

QB
「・・・。ちなみにボクもConnectされていたから、さっき交換してきたんだ」


ほむら
「さらっと凄いこと言うわね」

QB
「聞いた事の無い言葉を発してたんだ。自分でも冷静に驚いてたよ」

ほむら
「ううん。Connectを簡単に確かめる手段って無いのかしら」


QB
「それならどうだろう。お互いに思いの丈を明らかにしようじゃないか。
心の奥底に秘めた思いをさらけだしたら、聖カンナへの牽制になる」

ほむら
「冴えてるわね。いいわ――」



ほむら
「もう一度だけ逢いたい」


ほむら
「私の唯一無二の行動理念よ」



QB
「ボク達の行動理念は、宇宙を救うこと。ただそれのみだ」


QB
「人類の繁栄は言うまでも無く包括されている」



ほむら
「最後に。聖カンナのことを、どうして私だけに話したの?
この街には大勢の魔法少女がいる。プレイアデス聖団の搾りカスもね。
協力して戦う――手段もあったわよね」

QB
「無理だ」

QB
「プレイアデスはほむらを目の敵にしている。
見滝原を蹂躙したほむらに、和解の道はない。ほむらだって誰も信用してないだろう?」


ほむら
「そうだった。殺しておいて仲良く、なんて度台無茶が過ぎたわ」

QB
「そして、Connect。悪夢の本質を知った人間は耐えられないよ。
ほむらも十分苦しんだんじゃないか?」

QB
「自分は既に接続されていて操り人形と化しているのでは、って感じにね」


ほむら
「確かに貴方の言うとおりだとは思うけど、知らないほど怖いものは無いわ」

QB
「知るほど怖いものは無いよ。真実を知ったときの絶望は計り知れない。
ひょっとしたら、ほむらは自殺するんじゃないかと思っていたくらいだ」


QB
「聖カンナは恐ろしいだろう? たとえ何もしてなくても、精神が削がれていく。
ただ知るだけで、プレッシャーを与える存在なんだ」


ほむら
「若干、迷いはしたけれど平気よ。「あの子」の器を壊されたときは本気で死のうと思ってたわ。
聖カンナくらいじゃ、精々思考をかき乱される程度に過ぎない」


QB
「執念深いね。それに思考をかき乱されたって、結構重症じゃないか」


ほむら
「ふん。何とでも言いなさい」



ほむら
「行きましょうか」

QB
「行こうか」



私は変身を済ませて、黒翼を展開する。
これで鹿目の近所まで楽々飛べるというものだ。



QB
「この魔術は?」

ほむら
「固有魔法。触れたら死ぬわよ」

QB
「目立つじゃないか」

ほむら
「いいのよ。まだ朝早いし」


ぎゅい。

キュゥべえから小気味良い音がした。


QB
「わわ、しっぽがちぎれる!」

ほむら
「そーれっ」


急上昇し、閑散とした見滝原の上空を眺めてゆく。
私が跋扈したかは知らないが、人通りは全くなかった。良い心がけである。



QB
「それにしても」

ほむら
「同じ意見よ。言うまでも無く」



とにもかくにも酷い有様だった。




中心部から南の方向へ、一直線の黒煙が長々と続いている。


メランコリーな気分に一瞬陥るが、別に思い入れのある街ではないし
どれだけ焼き尽くされようが知ったことではない。


蒸発していた河川は元通りになっているのだ。
街だって雑草のように、すぐ直る。そうでしょう?


この街は怠け者ね。


川沿いに自然公園を見つけ、急降下する。


あとは道なりに進んでいけば、住宅街に出るはず。
表札を一つ一つ見ていけば着くだろう。




ほむら
「さっさと鹿目家を探しまいましょう」

QB
「今何時だっけ?」

ほむら
「午前五時過ぎ」

QB
「だよね・・・」



ほむら
「――で、この状況は何かしらね」


木陰からぞろぞろと、人間が這い出てくる。
待ち伏せされていたわけだ。


――――――――――――
五時だから五時更新
わかりにくい点があれば気軽にどうぞ


QB
「これが聖カンナの罠なのかな」



「いたぞ」


「あいつだ」



ほむら
「幻滅するわよ? こんな発泡スチロールみたいな連中。梃子摺るわけ無いじゃない」



ざっと数えて三百人?



五百?



「あの女だ」



刃物や拳銃をもった一般市民。



「間違いない」



千?



私服警官か。


「見つけたぞ!」

「殺せ!」


二千? えっ?



QB
「ん――。ここは一旦引こう」

ほむら
「こんなの朝飯前よ。十分対処できる」

QB
「ボクが危ないんだよ!」





「殺せ! 殺せ!」



ほむら
「一蓮托生。地獄まで付き合ってもらうわよ。
リボンと弓には触らないでね。死ぬから」


QB
「あんまりだよ」



大規模な運動会のようだった。
磁石に引き寄せられる砂鉄が如く、私服の連中が押し寄せてきた。



俯瞰して見ると面白いかもしれない、などと考えながら矢を放つ。



一撃。



たったの一撃で視界のはるか向こうまで貫通する。



正面の視界が開ける。


準備運動にもならない。


QB
「五時方向に――」


キュゥべえに指摘される前に、背部の敵を蹴散らす。


構えていた弓を振りかざし、水平に鞭打つような動作を加えることで対応した。

多分、後ろに居た連中は軒並み、悲鳴をあげる前に絶命していたと思う。


振り向いて確認するまでもなかった。



QB
「――必要なかったね」


お墨付きも頂いた。




半径二メートルの範囲には絶対踏み込ませない。


愛しい愛しい私のリボンは誰にも触らせたくないの。


誰にも。


絶対。



「味方を撃ってもいい!」

「何をしてでも殺せ!」



弾や刃物が当たったところで子ネコに噛まれた程度だろう。


が、一応全て防いだ。


「殺せ!」


直線に飛んできた刃を掴み、投げ返す。


二、三、断末魔が聞こえただけ。


これは非効率。




「殺せ!」


三千?


乙女に群がる野郎の集団。


五千かも。



洒落にならない。


数の暴力。


矢を四、五本同時に撃ち続けた。



「弾が防がれた!」

「死神だ!」



弓を両手持ちに。弧を描くように薙ぎ払っていった。



「うろたえるな!」


「殺せ!」



回転切りの要領で、容赦なく分断していった。




QB
「一気に倒さないのかい?」

ほむら
「迂闊に魔力を解き放つと、魔法少女に気づかれるから」

QB
「無駄に慎重だね」



「あいつだ!」



淡々と。粛々と。


「ええい! 何をしている!」


周囲の人間にエンドマークを捺していった。



やや退屈で牧歌的な、やわらかい朝の日常はどこへ。



「救援を呼べ!」



生命の噴水が形作られる。
オーボエ初学者が発する音色のような、不快で乾ききった呼吸音が混じった。



こんな音色聴いていられない。



魔力を用いて、聴覚を一時的に減退させる。



矢を番う。


弦を絞る。



殺さなきゃ殺されるのだから。


夜明けのジュリア谷の噴水を見出した私は、白い生き物に訊ねる。


ほむら
「いつ終わるの?」

QB
「なんでボクに聞くんだ」


インキュベーター、足にしがみ付くのはやめろ。


「いたぞ!」


「潰せ! 潰せ!」


一閃。


吹き飛ぶ上体らを背後に、一呼吸。


状況の把握。


八千、いや一万は居る。


いやいや。なんか増えてない?


降伏するなら今のうちよ。



「あの女だ!」



「――!」


矢を直接投擲していた。

弓で大きく薙ぐ。



気づけば片手持ちになっていた。



「死神だ! やはり死神がいるぞ!」



迷彩色の防弾チョッキを着ている集団を見た。

白シャツやスーツを着ていた私服警官とは異なる装いだ。

インターセプターボディアーマーだったか。
アルマジロの甲羅みたいな物々しい装備をしている一団が迫ってくる。



「殺せ!」

「応援が来たぞ!」



無骨な火薬の匂い。

重機関銃の一斉掃射。

先進都市にあるまじき残響音の連続。



本格的になってきた。


「殺せ!」



しかし紫色の魔法少女を相手に、装備の華やかさなど関係ない。

左に持った弓の勢いは何ら変わらない。


器官系を、

器官を、

組織を、

細胞を、


潰れる前に切断していった。

右人差し指でひたすら印を結び、虚空から矢を生み出した。



ほむら
「逢うためには何だって捨ててやる――」

ほむら
「――私の想いは変わらないわ」



冷たく澄み切った薄明かりの世界に、破壊を象徴する紫の光が解き放たれた。


幾度も。幾度も。


解き放たれる。









殺戮の紫は生命の赤と混じり合い、「死」に魅入られる色へと昇華した。







――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――



ほむら
「永遠に続くかと思った」


柔らかく不安定な「足場」に立ち、全てを打ち払ったことを確認する。
時折、足場から弱弱しいうめき声が聞こえるが気のせいだろう。



ほむら
「一瞬、ロッソ・ファンタズマを思い出したのだけど」

QB
「強力な魔力は感じられないよ。幻覚の心配は無い」




何もかもが血に染まっている。

死滅した世界が広がっていた。


ほむら
「これだけの功績を挙げれば、死神から冥王に昇格してもいいわよね」

QB
「ほむらのジョークはレベルが高すぎる」

ほむら
「死者への手向けよ。こんな私にだって感情はあるのだから」

QB
「躊躇なく殺せるなんて流石だ。感心するよ」

ほむら
「ふん。貴方は何だか人間臭いわね・・・」

QB
「いやいや、本当に感心してるんだ」


ほむら
「私はどんな罪を背負おうと、私の戦いを続けなきゃならないから。
多少の犠牲は厭わないわ。今回に限っては正当防衛のようなものだし」


QB
「それ。それなんだけど」

ほむら
「何か気づいたの?」


QB
「兵士はここまで屈強なものなのかどうか、気になった。
勝機も無いのに、寄って集って襲いに来るなんてどうかしてるよ」

ほむら
「認識の差異でしょ。あいつらは勝機アリと判断した。
私達の見事な連携の前に、敢え無く散ったわけだけど」

QB
「私達? 案外ボクも捨てたものじゃないね」

ほむら
「皮肉よ。寧ろ邪魔だった」


QB
「でも闘争に明け暮れるほど人間は愚かじゃない。いいサンプルは無いかな」


キュゥべえは不機嫌そうに――いや、正しい表現じゃない。
バツが悪そうに? 眉間にしわを寄せて? 


消極的な姿勢で遠くの足場を観察していった。


QB
「この人の装備を外してくれないか」


キュゥべえは適当な対象をすぐに見つけたようだ。



ほむら
「・・・」

この死体に傷は一つも見られない。
かといって魔力中毒を引き起こす距離でもない。


でも死んでる。


ほむら
「なるほど。おかしいわね」


迷彩色の防護装備を外すと、屈強な男性の蒼白顔が目に入った。

QB
「服も全部脱がしてくれないか」

ほむら
「悪趣味ね。食べるの?」

QB
「食べる、という発想はフォローできないほど狂っているよ」

ほむら
「あれ。キュゥべえはよく共食いしてるじゃない」

QB
「そういう揚げ足はいいから早く」


靴下や下着も? と聞く前に異変に気づいた。


ほむら
「何よ。この斑点は・・・」


グローブを外し終えて一言。
生気の消え失せた蒼白い右手に、季節外れの虫刺され?


違う。数が多すぎる。


男の袖を捲くる。


指先から腕にかけて紅い斑点が無数にあった。
なるほど。内出血だ。





案外、冷静になってみると視野が開けるものである。
目と鼻の先に『答え』が転がっていることもあるのだな、と思った。





QB
「皮下の毛細血管が全部破裂しているんだ。極端に血流量が増えたんだね」

ほむら
「血管形成異常じゃないの? 先天性の遺伝病」

QB
「遺伝性疾患を抱えて、特殊部隊に配属されるのは考えにくい。
顔面蒼白に、過剰な発汗。多分、心室細動が死因だ」


ほむら
「変な薬でも飲んだわけ?」

QB
「モノアミン酸化酵素の阻害剤と副腎髄質から――」

ほむら
「そういうのはいいから。融通が利かないわね」


QB
「やれやれ、ドーパミンやノルアドレナリンは知ってるよね?」

ほむら
「交感神経系の神経伝達物質よね。流石に小学生レベルよ」

QB
「それらの分泌量が増したり、分解が阻害されると、理性的判断力が低下して、
強迫観念、自殺願望、パニック、癇癪 といった容態に陥るんだ」

QB
「換言すると、増幅された怒りや恐怖がこの男性を支配していたんだね」

ほむら
「つまり、私を襲った人たちは薬物中毒者だと言いたいの? 変よそれ」



内因性の急死だから何?
薬物を飲んだから何?


私達は魔法という存在を知っている。
楽に説明がつくじゃないか。


ほむら
「普通に魔法で済む話よ」


QB
「魔法だとしたら一体全体、誰の仕業なんだろうね」

ほむら
「聖カンナしか居ないでしょ。刺客よ刺客」

QB
「彼女が直接くればいい話だと思わなかったかい?」

ほむら
「入浴中、私も同じこと考えたけど結論は出なかったわ。
とりあえず屠れるものは屠っていくまでよ」


QB
「ほむららしいね」


私は笑みを浮かべていた。
喜びなのか諦めなのか自分でもわからないが、妙にスッキリした。



――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――

キュゥべえと私の憶測は正しかった。


戦闘は終わらない。
公園を離れ、道なりに歩いていた頃から死臭は増していった。


生き残り? わからない。


ゲリラ的に襲い掛かってきた人間を片っ端から掃除した。



木陰から果物ナイフのような暗器を投げつけた女性――に穴が開いた。



何人目だろう。



ほむら
「何人目だと思う?」

QB
「今ので七十二人。ほむら、梃子摺ってるように見えるよ」


ほむら
「個人で迫られると、それだけ手数が増えるの。ほら」


愚かにも、男が何かを大きく振りかぶって突進してきた。
そいつの攻撃を素手で受け止め、顎先にパンチ。


体中に赤ワインを浴びてしまった。

ほむら
「これがアイアン? ゴルフクラブって軽いのね」

QB
「今ので七十三人だ」

ほむら
「わかってるわよ・・・」



女子中学生には似つかわしくない。

ゴルフクラブを右前方に投げる。


ほむら
「そこの貴方。七十四人目」

倒れた中年と思わしき男性に番号を付けた。
首には十字架。手には出刃包丁。


鋭利だ。


ほむら
「これは危険! 柔肌が傷ついちゃうわ」


我ながら昂ぶっている。
血を浴び続け、殺戮者として身をやつした。


冗談を言わないとやってられなかった。


QB
「白々しいよ。肌もね」

ほむら
「血で真っ赤なのだけど」

QB
「皮肉だよ」


キュゥべえも理解していた。


死臭は増していく。止まらない。

曲がり角に数百人。

さらに曲がったところに数百。


幹線沿いに出ると――数千?


多分、鹿目詢子の家まで続いているのだろう。

QB
「随分と手が込んでるね。やはり聖カンナかもしれない」


そんな分析関係なかった。
邪魔者は消す。


国が動いたかもしれない。
ウェブ上で、計画が立案されてたかもしれない。


近日の騒動にかこつけたシリアルキラーかもしれない。
はたまた、私怨で私にたどり着いた一般人かも。


全員が聖カンナに操られたのだとすれば、既に魔力切れでしょうね。

事切れてると楽なのだけど。


ほむら
「うんざりしてきた」


清酒、ニンニクや偶像。

銀色の杭やデタラメな呪符に十字架。

精神安定だとは思うのだが、さっぱり理解できない。


QB
「人間は多種多様だね。色んな考え方があるものだよ」

ほむら
「杭はまだわかるけど、食べ物はちょっと勘違いされてない?
それにしても寝巻きの連中は何を考えてるのよ」


QB
「さあね。でも、カモフラージュも居るから気をつけて」

ほむら
「ミニミを抱えた老人は危なかったわ」



近寄ってきた子供を蹴り飛ばしながら答えた。
腰に、筒状のものを巻きつけているのだから仕方ない。



老若男女ところ構わず絶命させる私は狂っていると思う。
でも、血塗れの私に近づくほうもどうかしている。


私は命懸けで目的地を探しているのよ。



一人


また一人


死出の旅へ追いやる。



ほむら
「ねえ、キュゥべえ」

QB
「なんだい?」


――何人目だと思う?


独り言のように質問しながら、邪魔者を排除し続けた。

――――――――――――


そんな下らないやり取りの末に、辿りついた住宅地。


大見得切って襲ってきた連中はもう居ない。


私には敵わないと察したのかわからない。
急に、蜘蛛の子を散らすように逃げ帰っていった。


本当に薬剤を投与されてたりして。



QB
「静まってきたね」

ほむら
「不気味。廃墟みたい」

QB
「だね」

ほむら
「覚えてるわ。確かここらへんよ」



見覚えのある石畳に街路樹。
この景色に赤色は無い。実に平和な空間だった。


人工的な建物。人工的な観葉植物。
虫一匹いないのではと思うほどの人工っぷりだ。


規則的に並んでいるガラス張りのデザイナーハウスを一つ一つ確認する。




どこかしら。



QB
「あったよ」


見た。

あった。



『鹿目』



ほむら
「寸分の狂いも無い。記憶どおりの外観だわ」


一気に疲れが取れた。



問題は、明日来るであろう聖カンナの先手に立てたか。
鹿目詢子が無事かどうか。


ほむら
「精神的に来る罠だったわ。聖カンナやるわね」

QB
「別人の可能性も頭の片隅に置いといてよ。先入観に囚われてはいけない」




ほむら
「罠には違いないわ。んで、この家は平気?」

QB
「大丈夫だよ。生命反応は一つだけ。だけど・・・」


ほむら
「だけど?」

キュゥべえは何かに気づいたらしく溜息を吐いた。

QB
「しかし、避難は任せろと言ってたくせに」

ほむら
「その言い方、鹿目詢子か誰かを逃がそうとしたの?」

QB
「そうだよ。鹿目詢子が殺される前に避難させる計画があったからね。
成功したか不明だけど、鹿目家の方々は避難しました――という置き手紙はあった」

ほむら
「鹿目詢子は逃げて無かったと言いたいのね」

QB
「ちゃんと逃げたみたい。少なくとも今は居ないよ」


視点を変えれば、先の争いに巻き込まれずに済んだということ。


ほむら
「聖カンナの手から保護出来たということじゃない。感謝するわ」

QB
「微妙に違うけど」

ほむら
「ふうん」


QB
「じゃあ、ここで燻ってないで入ろうか。まだ生命反応が残ってるんだから」

ほむら
「誰なのよ。キュゥべえの知ってる人よね? 聖カンナじゃ無いわよね」

QB
「ほむらも良く知る人間だよ」


思わせぶりな態度に腹が立ったが、扉を開けば済むこと。


ほむら
「あら? 玄関に鍵が掛かってない」


入りましょう。

QB
「インターホンを押す前にドアノブを握るなんてどうかしてるよ」

ほむら
「ちょっと黙りなさいよ。お邪魔します」

■死に至る病Ⅳ


緑髪の少女が迎え入れてくれた。
私は、目の前にひれ伏す少女を知っている。


「お待ちし てま した」


声も聞いたことがある。


「お・・・お待ちしてまし たわ。あ、会 えて嬉 しいですわ」


少女が顔をあげる。
なるほど翡翠の眼球だ。


大粒の涙を流している。
久しく見ていなかったが、紛れも無く――


ほむら
「貴女は志筑仁美。何故? 何故、鹿目の家に居るのよ」


志筑は、ゆっくりと口を開けた。


表現しづらいが、微笑みの中に筋肉のこわばりが見受けられる。
口を無理やり抉じ開けられたように、志筑は話し始めた。


仁美
「暁美さん。その格 好、赤ワインの海にでも落っこち たのですか」


頬を濡らしながら、私の麗しい衣装に言及した。


酷く狼狽した。


ほむら
「志筑、質問に答えてくれると有り難いのだけど」

仁美
「さあ。上がって下さいませ。お疲 れのご様子」

QB
「ほむら。落ち着いてからでもいいだろう」

ほむら
「ええと。そうね、お邪魔するわ」

仁美
「キュゥべえさんも お元気そうで。い・・・忙しく なりそうですわぁ」

そのままパタパタと志筑は奥に消えた。



志筑はキュゥべえが見えてたっけ?
ICレコーダーを美樹さやかに渡していたときは、無視していたように見えたけど。


でも意外だったわね。
あの志筑が泣いて迎え入れるなんて。


ほむら
「感情が駄々漏れ。嬉し泣きだなんて初めて見たかもしれない」

QB
「・・・」

ほむら
「シリアスな表情をしているけど」

QB
「何か得体の知れない感覚があった」

ほむら
「? 様子を見ましょうか」



仁美
「暁美さん? キュゥべえさん? 早くこちらへ」

来客用のスリッパを履き、私達は言われるがままに奥へと入っていった。



□ リビング


仁美
「さあ、座ってください。今お食事を用意しますから」


志筑は目に涙を浮かべて微笑んでいる。

シュールだ。


QB
「座らないほうがいいんじゃないか」

ほむら
「そうね。血塗れだし、椅子が傷むわ」

仁美
「いいえ、大事なお客人。気にすることは無いですわ」

ほむら
「そのお客人が座りたくないと言ってるのだけど?」

仁美
「カ、カバーをご用意します。少々お待ちを」

ほむら
「絶対に座らないわ。水を持ってきてくれる?」


仁美
「そうでした! ああ、忙しい!」


右往左往している志筑を見て、なんだか可哀想に思った。
しかし、この椅子。何か異質なものを感じる。


QB
「この椅子はイーブルナッツそのものだろうね」


ほむら
「あら、不穏なものを感じたのよ。少し離れたほうが良さそうね」


黒曜石を髣髴とさせる漆黒の家具。
カラフルな配色に凝ったインテリアの中で、この黒い椅子だけが調和を乱していた。


ほむら
「聖カンナの所有物を盗んだのかしら。イーブルナッツだし」

QB
「ボクにもよくわからない。志筑仁美は何を企んでいるんだろう」

ほむら
「何もわからないの? 殺意を隠しきれてないわよ、これ」

QB
「心当たりはあるよ。聖カンナが名前を偽ってマミ達の前に現れた日にね――」


――――――――――――
――――――

QB
「ほむらが造った宝石で魔力を吸い取らせて、マミ達三人でほむらを殺害する手筈だった。
その内容には、志筑仁美を囮として鹿目家に置くことも含まれていたんだ」


QB
「聖カンナも当然ノコノコ来る予定だったけど、無駄に終わった」


『Connectされる前に、誰かが私を排除する』 方法は既にあったのか。
インキュベーターを敵に回すとロクなことにならないわ。


QB
「逆手にとって、聖カンナを挟み撃ちできそうな作戦でもあった。
どちらか一方を排除するにはこの上なく理想的な展開だよね。
今は残念ながらパワーバランスが完全に崩れてしまったから無為なんだけど」


残念ながら、などと悪びれず暴露する。

驚きだ。

でもキュゥべえなりの愛情表現なのだ。


QB
「この計画を流用しているのが志筑仁美だ」

ほむら
「志筑が泣いてたのは私を殺さざるを得ないから?」



志筑が戻ってきた。

仁美
「違いますわ。逢えて嬉 しいのです・・・。さあ、お水 をどうぞ。」

断片的に聞かれていたようだ。
まあいい。


グラスに何も仕掛けがない事を信じて受け取る。

ほむら
「今、何か――」

透明の液体が入っている。

ほむら
「どう? 毒とか入ってたら教えて頂戴」

QB
「入ってないよ」


受け取った水を一口だけ飲んでグラスを水平に傾ける。



中身は床一面に零れていった。

仁美
「あの・・・暁美さん?」

ほむら
「ちょっと気分が悪くなったから捨てたわ。
志筑は一々得体が知れないのよ」


悪態をついた。
反応を見る必要があった。


ほむら
「それはそうと、料理はまだかしら? 用意してくれたんでしょ」


仁美
「はい、少しばかりお待 ち ください」



もう一度志筑を追いやる。



ほむら
「飲み物はセーフか。手紙――」

『あの女が出す食べ物には手を出すな。』


家具はアウトだった。

次は食べ物。

モンブランが食べたい。


鹿目詢子を避難させたのは志筑。
先ほどキュゥべえが言ってた置き手紙・・・のことは知らないが、これも志筑だろう。


あの怪文書にも似たような記述があったか。
『お前の求めるものはまだそこにある。しかし、あの女が何処かへ運び去ってしまう。』

志筑に聞こう。そうしよう。


ほむら
「怪文書の主が志筑ってことは無いわよね?」

QB
「保留すべき事案だよ。今は別に考えることがあるだろう」

ほむら
「別に考えること?」

仁美
「お、お待た せしました。 Duelos y quebrantos です。
さ・・・あ、お召し上が りくださ い」


白い皿に、卵と肉をグチャグチャに混ぜたものがでてきた。


最悪。


早朝の出来事を思い出してしまった。


QB
「この料理を見て何を感じるかどうかだよ」


ああ!

ボロが出たと言いたいのね。



ほむら
「気色悪いベーコンエッグ?」

仁美
「スペイン、ラ・マンチャ地方 の郷 土料理 ですわ」

ほむら
「ありがたく頂くわ。残さず食べるのよ、キュゥべえ」


受け取った皿をそのままキュゥべえに与えた。


食べたくない。


QB
「嫌ならはっきり言えばいいよ。毒は入ってないみたいだし」

仁美
「暁美さん・・・ 手造り なのですが」

ほむら
「じゃあ一口だけ食べようかしら」


塩辛い。


ほむら
「変な肉ね。レバーかしら」


何だかミルフィーユが食べたい。


ほむら
「残りは全部貴女にあげるわ」


私が皿を突き出すと、志筑は悲しそうな顔で残飯を受け取った。
いや、笑みを浮かべていた。


仁美
「・・・。お風呂に入っては如何? 二階にありますゆえ」


微笑もここまでくると恐怖を覚える。
何十分も泣いているおまけ付き。


だから尚更恐ろしい。

志筑が?


違う。聖カンナが恐ろしい。


ほむら
「悪くない提案ね。私が温まっている間、貴女も頭を冷やしたらどう?」

キュゥべえを連れて、バスルームに立てこもった。

QB
「どうしたんだい」

ほむら
「キュゥべえに聞きたいことがあるのよ」


志筑は操られている。

彼女から飲食物を受け取るとき、仄かな魔力を感じた。言質も取れた。


ほむら
「ドゥエロス・イ・ケブラントスという料理の意味が知りたい。教えてくれるかしら」

QB
「今の彼女を表しているような意味だ。名は体を表すということじゃないかな」


意味は教えてくれないか。
きっと卑猥なんだ。



ほむら
「キュゥべえの違和感は正しかったわね」

QB
「洗脳系魔術で見られる症状があったし、妙な知識を持っている。間違いないよね」

ほむら
「そう。志筑がスペイン語を知っているとは思えない。
序でに微小な魔力を放出していて――表情がおかしいのが決め手」



志筑は「操られている」ことを自覚しているのだ。


QB
「ファンタズマ・ビスビーリオ系統の洗脳は厄介だね」

ほむら
「でも、洗脳なら戻せなくも無い」

ほむら
「聖カンナの魔力を切断しましょう。私にいい考えがあるの」

QB
「へえ。まかせてもいいのかい?」

ほむら
「今日の私は冴えてるのよ」


□ リビング

こびり付いた血液を浄化させて志筑の元に戻った。
相変わらず、志筑は嬉し泣きをしている。

心は悲しんでいるのかもしれない。


ほむら
「貴女、操られてるでしょ」

仁美
「そ、そんなことないですわ」

ほむら
「人形みたいよ。目に生気が宿ってない」

仁美
「無礼すぎます」

ほむら
「目は口ほどにものを言う。今の志筑は空虚も空虚、自我が無いわ」

仁美
「・・・」

私は本当に冴えている。
志筑の髪を引っ張り、椅子状のイーブルナッツに座らせた。


足掻いて抵抗する志筑を無理やり押さえつけて。


QB
「なるほど、考えたね。体内の魔力を全て吸い取るのか」


魔法少女でない志筑なら、魔力を必要としない。
イーブルナッツに座ったところで命に別状は無いのだ。


――――――――――――――――――
――――――――――――


ほむら
「ねえ。もう大丈夫よ、辛かったわね」

仁美
「あ・・・あ!」

魔力は全部尽きたようだ。

仁美
「あ。暁美さん・・・暁美さん!」


泣きながら抱きついてくる志筑を、追い払うことが出来なかった。
彼女の慟哭が止むには相当な時間が掛かりそうだ。



ほむら
「はあ。落ち着いた?」

仁美
「ご迷惑をかけてしまいました。」

仁美
「何日ぶりでしょう。自分で話すことが出来るのは」

ほむら
「身体に異常は無さそうね」

仁美
「多分。それにしても何故こんなことに・・・」

ほむら
「あー、聖カンナって知ってる? 貴女は悪い魔法少女に襲われたのよ」

仁美
「既知ですわ。私は騙されたのです。カンナさんに騙されていました」

ほむら
「カンナさんですって?」

まだ操られているのか?


QB
「詳しく聞かせて貰えるかな」

仁美
「カンナさんのConnectを暴いたまでは良かったのですが――」


と、恐ろしい発言から始まった。


鹿目詢子を説き伏せた深夜のこと。

聖カンナの計画に従う代わりに、接続をしないでほしい。
志筑自身の意思で私に逢いたいという口約束をした。

しかし、手紙に思いをさらけ出した翌朝以降。
聖カンナの魔術によって身体の自由だけが奪われたそうだ。


QB
「インキュベーターへのアクセスが行われた日だよ」

ほむら
「Connectは使わない。だけど別の魔法で身体を乗っ取りましたってこと?
それはもう、完全に志筑の詰めが甘かったのね」

QB
「接続される前に牽制できたのは上々だと思うよ」


仁美
「いいえ。無意識に操る呪術は、すでに掛けられていました」

QB
「何故そう思うんだい?」

仁美
「キュゥべえさん。今思えば、鹿目さんの住所を特定したのは私じゃなかったのです。
急に頭が冴えて、両手が勝手に動いて、気づけば鹿目さんに電話をしてました」


とっくに接続してたのね。


QB
「これは黒だね。ほむら、間違いなくConnectだよ」

ほむら
「やってられないわね。今も接続されていると見て良いのかしら」


仁美
「それを確かめる唯一の方法があります」



志筑は朗らかな表情で言った。
生きた存在に死を見た瞬間だった。


――――――――――――
ここまで書きました。
まもなく終盤です。

>>560の続き
――――――――――――



QB
「まさか・・・」

ほむら
「言ってご覧なさい」

仁美
「私は、契約します。インキュベーター、準備はいいですか」

QB
「ほむら、準備は良いね」


私は、頷いた。



契約の内容次第によっては即座に殺害せよ、という博打に出たのだ。


例えば「人類を滅ぼしたい」「目の前の魔法少女を滅ぼしたい」などと志筑が祈れば、
聖カンナのConnectが影響しているといった風に。
志筑は志筑で叶えたい願いがあるらしいのだが、それはさておき。



実に恐ろしい女だと思う。
私は弓を生成して、彼女の首筋に近付けた。


耳を澄ませた。


手首に力をこめた。





仁美
「契約します」



志筑仁美は祈った。




              こんな悲劇が二度と起こらないようにして欲しい





                   さあ、叶えてください 


                    インキュベーター






「キミの祈りはエントロピーを凌駕した」


「さあ解き放ってごらん。その力を」






仁美
「ふう。賭けには成功しました」


志筑らしくない、実に抽象的な願いだと思った。
かといって、人類を脅かすような祈りでも無さそうなので白と判断。

QB
「通常の願いだ。Connectの心配は無いよ」

ほむら
「悲劇、ねえ。ひどく曖昧、よく叶えられたわね」

仁美
「いいえ、まだ叶っていません。ここからが勝負どころですわ」


QB
「そんなはずは無いんだけど・・・何かしらの変化は起きたはずだよ?」



志筑から柔和な笑顔が消え去った。





仁美
「暁美さん。いいえ、ほむらさん」

仁美
「私を殺してください。それが最期の望みです」


ほむら
「私を殺してください?」



少々耳を疑ったが、この女なら言いかねない。
何故か納得してしまった。


仁美
「貴女は何故生きているの、といつぞや仰ってましたね。
私なりの答えを用意しました。受け止めてください、ほむらさん」


ほむら
「ええ。そ、そうね」


こ、言葉が出ない。



仁美
「聞きましたよ? 素体を探していると。鹿目さんを探していると。
だから、私にリボンの力を注いでください。私も『円環の理』の力に耐えうるはず」


ほむら
「貴女は、リボン、私の右手、私のソウルジェムに接触した。
三度、あの子の魔力を受容して、耐性がついたわね・・・」


変な返事だ。
それだけ動揺しているのだけど。



仁美
「私が『円環の理』の器になって、ほむらさんの悲劇を終わらせましょう」

仁美
「だから、私を愛してください。器で良いですから愛してください」


ほむら
「・・・」

ほむら
「やってみるわ」




リボンから桃色の力を多めに取り出す。
耐性があるとはいえ、今一度確かめなければ。


念には念を入れて。


腕に桃色の力を注ぐ。


それは次第に変色した後、崩れ去った。


QB
「志筑仁美・・・腕が」

仁美
「!!」

仁美
「お、おかしいですわね。次は足を・・・」

志筑の声が霞んでいた。


ほむら
「ごめんなさい。今の貴女でも、あの子を宿す器たりえない。
人体が四散しない程度の耐性だった・・・わけよ」

仁美
「そうですか」


消え入りそうに言った。
もう消えているのだと思うくらいに。


QB
「無念を晴らす手段はまだ残っているよ」

仁美
「・・・」

QB
「ほむらは桃色の力を受け止められる。だから、志筑仁美が呼び水になるんだ」


仁美
「ほむらさん自身を器に――妙案ですわ。
私が『円環の理』に導かれれば良いのですね」

ほむら
「腕は治癒出来るけれど、本当に死を選ぶのね?」

仁美
「そうです。私はもう絶望しているのです。
ほむらさんを救えば、悪夢は終わるはずです。そう思ったのがきっかけですから」



殺せだの愛せだの、注文の多いお嬢様だとは思っていた。



ほむら
「貴女はそういう人だったのね」


やっとわかった。
志筑仁美は、どうしようもなく利他的な人間なのだ。



私の救済の先に何を見ているのだろう。

確かめたくなった。
好奇心は止められない。


ほむら
「遠くに見滝原の平和を見据えているのかしら? それとも――美樹さやか?」

ほむら
「悪夢を生んだのが私というのなら何れかのはず」

仁美
「自分でも・・・わからなくなってきました」



ほむら
「自分を抑えすぎよ志筑仁美。
優しい嘘はもういらないから、今思っていることを素直に吐きなさい」

仁美
「名前を口にするのも憚られる、恐怖の旋律――Connectから逃げ出したい。
“私”を奪われたくありません! あんな魔法少女に!」

ほむら
「わかったわ、逝ってしまいなさい。『円環の理』に導かれて」


私は悲劇の舞台に迷い込んだ少女を救いたかった。
自分の身体に「あの子」が宿らないことは知っていた。


せめて雰囲気だけでも。
せめてミテクレだけでも。


プレイアデス聖団で、何度も試したのだから。


可能性はゼロに近い。


その上で演技をするのは大変だ。


淡い桃色の柱の下。
私は駆け寄って、涙を流す。いや、自然に流れていた。


演技ではなく――


ほむら
「ほむらちゃんの身体を乗っ取って? そこに居るんでしょ?」

桃色に話しかける。
「あの子」は確かに存在しているのだから。


――奇跡を希った。


仁美
「本当に悪いお人ね」


小悪魔のような笑顔を浮かべている。


ほむら
「――志筑?」

仁美
「ほむらさんが逢いたがっている『理』さんは、きっと傍で見守っていま――」




仁美
「ああ。嘘・・・」


志筑は突然苦しみだした。


仁美
「最後の最後くらい――」


志筑は自分の首を絞めていた。


ほむら
「な、何をしているの!」

仁美
「自分の意 思だと 信じたかッ た・・・」

QB
「仁美?」


桃色の光が一層強くなった。


ほむら
「逝ったわ」



その死に様はさながら、舞台で踊らされる人形のようだった。





ほむら
「私は正しかったの・・・?」



QB
「ほむらがどんな選択をしようとも、ボクは着いていくよ」



――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――

よくわからんがカンナをこの世から消し去りたいとでも願わせれば良かったんじゃないの?

仁美の自由意志に任せたら
それこそ操られてるかどうかわからんと思うんだけどねぇ

乙です。ここまで2回読みました。
意味不明、説明不足?な部分が多いけど、後で伏線回収されるかもと思うと質問しづらい…。


誤字脱字は少ないけど言葉使いの微妙なミスがちらほら。


続きに期待して待ってます。

>>593
誤 着いていく
正 ついていく
>>596
直後に類似描写があります(書き溜め
>>597
大規模な戦闘の後に描写があります(書き溜め
>>604
わかりやすい描写で書き加えるかもです。伏線ならスルーします


■メロペー

ほむら
「志筑の願い・・・結局なんだったの? 悲劇って何よ」

QB
「わからない。でも志筑仁美らしい祈りだとは思ったよ。
彼女の置き手紙によると、鹿目詢子の頼みそのものらしいからね」


置手紙? 遺書じゃないのそれ。


ほむら
「志筑らしくないと思った。彼女なら聖カンナを八つ裂きにしかねない子よ。
志筑がどうしても叶えたい願い、というのはその程度で良かったの?」


QB
「それはあの世で本人に聞いてみるしかないね。
でもね、彼女の祈りが不利益なものでさえなければ、願い事なんて何でも良かったんだ」


ほむら
「キュゥべえ・・・?」

QB
「“彼ら”インキュベーターがどう思うか知らないけど、“ボク達”インキュベーターはほむらに味方しているんだ。
ボク達にとって、志筑仁美という不確定要素がほむらを邪魔しなければそれで十分」

ほむら
「わざと殺したというの?」

QB
「その意味で言ったわけじゃないよ。志筑仁美には荷が重すぎたということさ」

ほむら
「荷が重いとは到底思えないけど・・・」


QB
「ほむらじゃなきゃ聖カンナは倒せない、とボク達は結論付けている。
何度シミュレーションしても、マミ達はまず全滅する」


前もそんなこと言ってたわね。


QB
「だからね。マミ達が聖カンナに敵うはずがないんだ。ほむらにしか成しえないのさ」


マミ達、には志筑も含まれていたようだ。


ほむら
「ん? 仲間割れよ。誰が聖カンナを倒すかにこだわってる場合じゃないわ」

QB
「こだわるとも。意見が分かれて離反するほどに。それにボク達は願いを強制できない。
もう一度言うけど、志筑仁美がマイナスの祈りをしなければそれで良かったんだ」

ほむら
「そういう意味じゃ悪くない願いなのね」

QB
「そうだね。志筑仁美はほむらと聖カンナの両方を救いたかったんじゃないかな」

ほむら
「救われた気がしないわ」

QB
「もちろんただの憶測だよ」


志筑の遺した料理を食べながら意見を交わし続けた。
箸が進まない。


気がつけば昼下がり。

ほむら
「鹿目詢子の避難先、結局聞きそびれたわね」

QB
「すっかり忘れていたよ。志筑仁美というイレギュラーで手一杯だったし」

ほむら
「あの最期も気になるわね。理解に苦しむと言うか、理解してはいけないようで」


死の間際に自分の首を絞めていた志筑仁美。
信じられない。


QB
「ボク達が観測してきた最期のなかでも、極めて稀だと思うよ」

ほむら
「これからどうしましょうか」

QB
「魔法円を沢山配置して、明日の決戦に備えたほうがいい」

ほむら
「冷蔵庫のものは食べていいのかしら」

QB
「好きにすると良いよ。ただ用心してくれ」

ほむら
「何に用心するの。賞味期限なんて飾りよ」


冷蔵庫を開けてみるとマヨネーズやソースなどの調味料しかない。
何だか物寂しい気がした。


ほむら
「全部使い切ったのかしら、お肉もお魚も見当たらないわ」

QB
「何だ。マヨネーズがあるじゃないか」

ほむら
「明日が決戦なのに。悲しすぎる晩餐になりそうね」


キュゥべえにマヨネーズを与え、リビングの間取りをチェックしていた頃。

ほむら
「ねえ、話は遡るけど、志筑の願いで色々話したわよね」

QB
「うん、何か疑問でもあった?」

ほむら
「聖カンナのソウルジェムを砕きたいって志筑が祈ればハッピーエンドよ。
こんな状況だもの。鹿目詢子の頼みなんて無視しちゃっていいと思わない?」

QB
「だから、ボク達は願いを強制できないんだって。現に祈らなかっただろう」

ほむら
「そこは時機を見て契約すれば――」


と返答した矢先、玄関の扉が轟音と共に飛んできた。


ほむら
「危ない!」


強めの魔力と共に、それはまっすぐキュゥべえの方向へ。
身を挺して、キュゥべえに覆いかぶさる。




暗転。




ガンッという鈍い音。


常人なら頭の骨にヒビが入るであろう攻撃を、見事に喰らってしまった。


次いで、目に見えて赤い熱風が私を襲った。
簡単な障壁を形成し、熱源の中和に神経を集中させる。



ほむら
「誰? 何?」


不意打ちを決めた魔法少女の姿が現れる。
その姿は黒く、布地の少ない衣装を着ていた。



「ちゃおー。殺したがりの暁美さん! 当たった?」



いかにも魔法少女らしい装い。黒い三角帽子に黒いマント。
十字架状の杖を器用に操っている。



「カンナを苦しめる祈りは私が許さない。そのまえにキュゥべえをぺしゃんこだよ!」


ほむら
「あら。やるじゃない」


「フツーの反応だね・・・。もう一回やったら本性をあらわしてくれるかなっ?」


天真爛漫が服を着たような少女。やってることは陰湿だ。


QB
「思いっきり監視されてたね」

ほむら
「今度から二匹用意しましょう」




「カンナぁー。何もしてないのにまた魔力が減っちゃった」

「今日は調子悪そうだ。得意技の威力が低い」

「うーん。いまのは人様のお家を壊さないように加減したからだよ」

「ここまではおおよそ上手くいったな。私はまずインキュベーターと交渉しよう。
かずみはどうしようか。戦いたい?」


「なんかぞわぞわするけどやってみる」


恐らく私に攻撃を浴びせたのがかずみ。



掴みどころの無さそうな、寝起き顔の奴が聖カンナだろう。

素人目に見ても上品な、漆黒の装束に包まれている。
そのままボルドーグラス片手にパーティ会場へ紛れ込んでも通用しそうなほどに。


ただ漆黒の上に、数個の円が配列されているのは戴けない。
どこか彼女の本性が見え隠れする完全な、完璧な円だ。

ほむら
「悪趣味な円ね。立食パーティでお気に入りの皿でも見つけた?」

「そうだよ暁美ほむら。モーニン」

ほむら
「モーニン。もうすぐ夕方ね」

まだ昼だ。

「私達を相手に余裕綽々だねェー」



ほむら
「御崎海香はどうしたの。万が一生きてるなら三人がかりで来てもいいのに」


「ばっちり生きてるよ。今のところは」


ほむら
「何それ遅刻してるわけ?」


「遅れてはいるけどね、御崎海香では無いけど」



QB
「ほむら! 黒い少女が聖カンナで黒い方がかずみだよ」

ほむら
「二人のやりとりを見る限り仲が良さそうね。神那ニコっぽいミテクレだし親戚よきっと」

QB
「聖カンナ・・・と戦うのは明日だと怪文書にあったのに変だね」

ほむら
「解釈の違いか嘘よ。飲み物や食べ物は平気だったじゃない」

QB
「椅子は危険極まりなかったね」


接続されないように幾重にも防護壁を編んだ。キュゥべえにも一応。
ただの気休めに過ぎないけど無いよりマシだ。


QB
「ほむら、いつ襲われてもいいように準備してくれ。ボクは聖カンナと会話してみようと思う。
不意打ちするなら家を壊さない程度にね」



カンナ
「か―ずみ、そういうことになった。キュゥべえと対話を試みるよ」

カンナ
「ッち。めっちゃ遠いな、鈍る。集中しないと魔力が漏れそうだ」

かずみ
「カンナも大変だね。ニコが死んじゃったから複製の――」


カンナ
「ストーップ、かずみ。周りをよおく見ろ、今は時間を稼ぐのが適当だと思うぞ。
暁美ほむらに目をつけられた以上、戦って生き延びるしかないよ」

ほむら
「ええと、知的行動はキュゥべえに一任するわ」


キュゥべえとかずみの「わかった」という声が重なる。
深呼吸を一回。追加の障壁を展開してフィジカルを強化した。


カンナとキュゥべえが向かい合って着席する。

カンナ
「やあ。魅力的な休戦条約を持ってきたよ」

QB
「魔術の使用は禁止だ。それなら交渉に応じよう」


そんな立場じゃないだろ、と吐き捨てながら
カンナは胸のソウルジェムを指差していった。

カンナ
「恐れなくていいよインキュベーター。コネクトは結構濁るんだ。
接続を使ったら宝石に陰りが出る手筈。では――かずみの戦いを見るとしよう」

QB
「なんでだい?」

カンナ
「嫌われ者のインキュベーターに嬉しいニュースを教えるため。何事にも段取りというものがあってね」

カンナ
「勿論、お前の大好きな暁美ほむらには手を出さないよ。正確には出せないというか」

QB
「別に構わないけど、あの暁美ほむら相手にかずみ一人かい?」

カンナ
「だから段取りなんだよね。アレも暁美ほむらに一矢報いたいようだし」

>>622からの続き、今日中に終える予定でしたがなかなか難しいものです



かずみ
「そーゆーことっ」

ほむら
「間違って殺してしまったらごめんなさい。黒い魔法少女達」

カンナ
「不可視のシールドが展開されているから気にするな。私と宇宙生物に攻撃は通らない」

ほむら
「それはありがた迷惑というやつね」



できれば聖カンナから仕留めたいところだが、二人の実力は全くわからない。
まずは一対一で戦える場を与えてくれた漆黒の女に感謝したい。


と思いつつも両方に気を払わねばいけないわけで。


視線で人を殺しかねない、絶対的な存在感が椅子に座り込んで頬杖をついているのだ。
少しでも隙を見せたら全部終わってしまう。全部無駄になってしまう。


聖カンナの冷たい視線を感じる。


かずみ
「すぐにやっつけちゃうんだから! わたしの活躍見ててねカンナ」

聖カンナにウインクすると、十字架をモチーフとした杖を私に向ける。
こほんと咳払い。まるで正義の魔法少女のように口上を述べた。

かずみ
「ドゥ・オア・ダーイ。暁美さん? カオル達の弔い合戦だよ!」

ほむら
「受けて立ちましょう、聖カンナに与する魔法少女」



さて室内戦。
弓を振るうには狭すぎるか。




かずみ
「この杖、とーっても痛いんだよ。手加減しても魔獣さんは一撃!」


槍と同じと見ていいのだろうか。
十字架の先端には殺気が集束し、私の心臓を貫かんばかりに照準を合わせていた。



ほむら
「手が震えているわよ」

かずみ
「えっ?」


ぴくりと杖が痙攣した瞬間、超反応で十字架を蹴り飛ばす。
それはかずみの手から吹き飛び、一瞬で後方の壁をぶち抜いた。


かずみ
「はっやい! さすがだね。でもわたしも本気じゃないんだっ」


とろい、と思った。



かずみ
「いっくよぉー。リーミティ――ぐふぉあっ」


回し蹴り。
何の変哲もない回し蹴りによって、黒の肉体が不自然に曲がり真横に飛ぶ。


聖カンナの手前で静止した黒。
直後、あらぬ方向へ再度はじき飛んだ。


カンナ
「もう少しで私もろともオダブツじゃないか」


声が良く響く。時間が止まった気がした。


ほむら
「強力な障壁・・・。御崎海香以上ね」


近づくに近づけない。実にもどかしい。




かずみ
「けふっ。カンナ?」

コイツもコイツで間合いを知らない。
対人経験が無いようだ。



ほむら
「・・・その程度?」

かずみ
「まだまだっ! La Bestia」


苦しそうに患部を押さえながら、反対の手で印を結ぶ。
私の四方に小柄なヌイグルミが十数匹召喚された。


かずみ
「ちちんぷりん。クマさん達! がんばって!」

ほむら
「貴女は私を馬鹿にしているの?」

かずみ
「してないよー」


若葉みらいが素体相手に行使した魔術、のはずだが随分と小規模だ。


何が狙い?

魔力不足か?


「むぎゅ」

「ぐにぁ」


ひとつひとつ、ヒールの下敷きにしていった。
数が圧倒的に少なかったので簡単に対処出来た。


罠か。

あるいは様子見。



かずみ
「あれっ。踏み潰されるはず・・・」


ほむら
「これ、御崎海香より弱いんじゃないの」


かずみを指差して、説明を求める。

聖カンナは聞いているのかよくわからない態度。
キュゥべえもまた首をかしげるだけだった。



ほむら
「図星ね。張り合いがないわ」

かずみ
「もう許さない」


電撃のようなものを全身に纏って私を睨み付ける黒。
強烈な雷光が視界を眩くする。


かずみ
「手加減なしだよ」


ほむら
「凄い電撃っ。変なこと言って怒らせてしまったかしら」

かずみ
「ずっと怒ってるもん!」



強化補助魔法と思っていいのだろうか。
心なしか雰囲気が随分と大人びたというか、いや髪が伸びている。


ほむら
「第二形態・・・」


聖カンナに牽制。一瞥した。
様子を見て、かずみに矢を投擲する。


かずみ
「Capitano Potenza! 避けるまでも無いよ!」

かずみの手が鋼色へと変色する。硬化したのだ。
牧カオルの魔術よりやや淡い色合い。


そのまま矢を薙ぎ払おうとし――肩ごと持っていかれた。



かずみ
「ぁあ゛っ!!」


悲鳴と共に、赤い霧が矢の延長上に拡散した。


まるで虐め。


傷口を塞ぐように手を当てて、回復魔法を行使している。



ほむら
「ちょっと聖カンナ。どういうつもり?」


聖カンナは冷めた目のまま一言も発しない。
すっかり飽きてしまったようだ。


かずみ
「まだ・・・。まだだよ」


体液を散らしながらかずみが立ち上がった。


電光が消えている。


見ていられない。
やめてくれとすら思った。



かずみ
「まだ戦えるもん!」



ほむら
「とてもじゃないけど力の差が・・・」

かずみ
「ファンタズマ・ビス――」



幻覚魔法! と脳が認識した瞬間。



かずみ
「ぎゃんっっ」




両手が赤くなっていた。
返り血も盛大に浴びてしまったようだ。


ほむら
「はい、お終い。ソウルジェムは・・・ソウルジェムは?」


床に押し付けて、馬乗りになる。
勿論、聖カンナに背を向けないように注意を払って。


かずみ
「カンナ? 何で見てるの? 助けてよ」

回復を終えたかずみの救難信号に、聖カンナは冷ややかな視線で応えた。



かずみ
「ねえ、仲間でしょ・・・」

カンナ
「仲間だって? ばーっかみたい」


聖カンナが口を開く。軋轢を見た瞬間だった。


ほむら
「プレイアデス聖団の、神那ニコの親戚じゃなくて?」

かずみ
「カンナはニコの形見だよ。再生成で造った予備だって・・・この前教えてくれたもん」



予備?

誰よりも強くて悪質な?

本当に予備?



かずみの獲得した情報が正しいとは限らない。
無理やり私と戦わせるように、かずみを言いくるめた疑いが濃い。


ほむら
「それ嘘でしょ」


鎌をかける。



カンナ
「ま、かずみに話したのは嘘だよ。まずは譲歩して色々話してやろうか」


仏頂面。壁掛け時計をちらっと見て、話し始めた。聞いてもいないのに。


カンナ
「私はニコが契約で生み出したニセモノなんだよね。予備じゃない。
強いて言うならHyades。プレイアデスでもないし、かずみの仲間では無いよ」


ほむら
「真偽を証明できる人物が居ないわ」

QB
「ボクが保証しよう。カンナはニコの監視のために契約したんだ」


監視?
素体が私に刃向かうような感じと思えばいいのね。


カンナ
「そう。だからこんな馴れ合い集団は滅べばいい」

かずみ
「一緒に美国さんの家まで逃げたのに・・・なんでそんなこというの?
全部嘘だったの? ねえ、カンナ」

カンナ
「理由知りたそうだけど、悲しみはもう産みたくないから教えない」

かずみ
「わたしなら・・・平気だよ。どんな事実だって受け止めるから」

カンナ
「駄目。真実を知ったときの絶望は計り知れない」


かずみ
「本当の本当に平気だから、大丈夫だよ」

カンナ
「然るべき場じゃないとね。馬乗りされたままじゃこっちも話せないよ」


延々とこのやり取りを続ける気か?
キュゥべえは全てを天に任せているようだし、私が終止符を打とうか。


ほむら
「いつまで続けるつもり? 話したらいいじゃない」

カンナ
「暁美ほむらが言うなら仕方ないな。よし、暁美ほむらの命令に従おう」

ほむら
「そんなに軽いノリでいいの?」




私の意見をあっさり飲み込む。まるで待っていたかのように。
聖カンナの漆黒がさらに増したようだった。




カンナ
「眠り際の子守唄。かずみはプレイアデスが造った合成人間なんだよね」

さらりと言ってのける。



私はかずみ以上に目を見開いていたはずだ。
合成人間――あまりの完成度の高さに心臓も高鳴りはじめる。



よく動く。

よく喋る。



私に押し倒されている少女が急に宝物かのように映った。


ほむら
「素体の延長上にみた完成品が・・・これなのね」



カンナ
「かずみは不良品だぞ。ホンモノとニセモノの中間種という稀有な例だ」

カンナ
「和紗ミチルという魔法少女の砕けたソウルジェムに、和紗ミチルの肉体を元に造った器」

カンナ
「サイテーのヘテロ。今や御崎海香の魔力だけで動いてるガラクタだな」




ふっ、と自嘲的な溜息を吐いて脚を組む。




カンナ
「当の御崎海香は自滅寸前だが、かずみは何分持つか気になるよ」


かずみ
「それ・・・嘘だよね」


カンナ
「鎌かけか? 認めたくないのか? 可哀想に。肩から噴き出た血は、他人の血だ」

かずみ
「嘘に決まってる! わたし魔法使えるもん」


カンナ
「あ? 関係ないよ。錯乱したか? プレイアデス全員の血が流れている人間モドキめ。
かといって純粋なニセモノではない。つーか、メンバーの技を楽々使えるチートがいてたまるかよ」

かずみ
「ソウルジェムだって砕けてないもん・・・」


カンナ
「暁美ほむら。左耳のピアスを外してやれ。ミチルのソウルジェムだ」


ほむら
「これ? とっても素敵な色ね」



馬乗りの姿勢のまま、ピアスを一番見えやすい位置まで持っていった。
どう見ても複数個所に亀裂が入っている。
和紗ミチルが導かれる間際に一度砕いたのだろう。浅海サキが魂が~と言ってたし。



かずみ
「あ・・・そんな」


それだけではない。濁りきったソウルジェムが青い輝きを取り戻しつつあるのだ。
グリーフシードを当てているわけではない。

聖カンナの言うように、御崎海香の青い魔力を吸い取っているのである。


かずみ
「いやあああああ嘘だよぉぉおお」


かずみの悲愴な表情、叫び。思わず目を背けてしまう。


QB
「聖カンナ。何がしたいんだ?」

カンナ
「よく見ろよ、インキュベーター。
これだけ感情が昂ぶっていれば契約だって結べそうだ」

QB
「聖カンナはそういう人物だったね。そうだよ、契約はたった今可能になった」


契約させていいのだろうか。
素体なら契約したがるかしら――違う。素体は魂を持たないから契約できない。


「あの子」は結局魂を宿したのかわからないままだけど・・・。
椅子に座って、黙々と書籍を読む「あの子」なら契約したがるかしら?


私の下で慟哭する少女を大切に取っておきたい。
きっと役立つ。私の理論に新しい風を。だから――。


六つの工学チップが付着したソウルジェムを見つめる。


ほむら
「本当に人造かテストしてあげる」

かずみ
「え? 何を?」




ソウルジェムを握りつぶした。


かずみ
「なんてこと・・・」

ほむら
「貴女、まだ生きてるってことはそういうことなのよ」


人間ベースの素体と同じく、魔力が流れている分には機能停止しない。


かずみ
「そっか。そうなんだ」


嘆きを見た。目に悲哀の色が漂っていた。
殺してほしい、と私に訴えかけているみたいで。


かずみ
「・・・」

ほむら
「・・・」


おそるおそる首に手をかける。




温かい。




彼女の表情はどこか安らいでいるように感じた。




次に瓶を取り出した。



カンナ
「おい。交渉材料に何してやがる」

ほむら
「みていて可哀想だったから殺してあげたのよ」

カンナ
「死体をどうするつもりだ?」

ほむら
「瓶に溜めておきたい。あの子のサンプル体として役立ちそうだし。
プレイアデス聖団が死体に命を吹き込んだなら、私にも間違いなく出来る」

カンナ
「おーおー。お前は変わったやつだな。私の目は曇ってなかった」


ほむら
「私はそういう人間。あの子に逢うためなら何だってする。全部捨ててやる」


ほむら
「それが正しいかどうかは知らないけど」




カンナ
「でも――もっと可哀想な存在になったぞ。ビン詰めかよ? 発言と行動が矛盾してるな」




ほむら
「果たしてそうかしら。彼女は自分で死を選んだのよ。
身内を騙して踊らせ続けるほど狂っていないわ」

カンナ
「くっくっく。ああ言えばこう言う。お互い似たもの同士だなあ」


聖カンナが初めて笑った。とてもご機嫌そうだ。


ほむら
「似たもの同士? 何処がよ」

カンナ
「お前は美樹さやかと佐倉杏子を恨んでいたが・・・」

ほむら
「何故知っている」

カンナ
「おおっと、演出を削ぐような真似はしない性質でね。接続はしてないよ。
もうちょっとしたら戦わせてやろう、という優しい心意気だ」

ほむら
「聖カンナ。貴女に何のメリットも無いわよ」

カンナ
「私もあいつらを恨んでいるという点で似たもの同士。正確には現人類」


暁美ほむらは違うケドネ、などと理解に苦しむフォローをして続けた。


カンナ
「殺したいなら応援してあげるよ。お互いに恨みを晴らせて最高じゃないか。
でもそのまえに――キュゥべえ。話の続きだ」


QB
「もう話すことは無さそうだけど、ほむらと戦わないのかい?」

カンナ
「ここからが本題ってやつ。前座ですらないけど。
ちなみに、あのかずみは死なれても問題ないんだよね。殺してもらって助かったくらい」

ほむら
「不自然な言い回しね。自分で処分すればいいのに」


一瞬、聖カンナの顔が引き攣ったのを私は見逃さなかった。


カンナ
「ところで、私はプレイアデス聖団全員の魔術を行使できるんだ」


露骨に話を反らす黒幕。


ほむら
「・・・。想像に難くないわ。神那ニコを監視してたそうだし接続も容易いでしょう」

カンナ
「第二、第三のかずみを造り出せることには気づいたかな。
完全なヒュアデス。ヒトの血でない! ヒトの動力でない! 本物のヒュアデスを聖カンナは造れるんだ!」

QB
「ヒュアデス・・・合成体のことなのか」

カンナ
「ん。ああ。些細だ」

カンナ
「要するに、だ。私達HyadesがHumanに成り代わり、インキュベーターの手となり足となろう」

カンナ
「これで人類の消耗にケチを付けなくて済むね?」

ほむら
「なんて暴論なの」



私の方を指差して声高に宣言する。


カンナ
「良い話だと思わないか。好きなだけ人類を潰せるぞ。好きなだけ魔力を造り出せる」

QB
「興味深いね。人類の代用品にするのかい」

カンナ
「人類には消えてもらう。代わりに宇宙のエネルギー問題を解決してやろう、というだけだ」

QB
「ひとつ問題があるよ。聖カンナが『円環の理』に導かれたらどうするつもりだい?
少数のヒュアデスが残るだけの崩壊した未来しか残らない」

QB
「聖カンナを複数造り出すなら交渉は決裂。敵対関係だ」

カンナ
「同じ顔が沢山か、そんなキモイこと私には理解できない」


外をじっと眺めてから悩ましそうに答えた。



カンナ
「例えば、例えばだな。契約して死に続けるエネルギー源を生むのはどうだろう。
ヒュアデスがヒュアデスの誕生を願う増殖炉とかね。管理はインキュベーターに任せてしまえばいい」


カンナ
「どうだ? え? インキュベーター同士が対立している今、余計なトラブルを解決する最高の案だぞ」


ほむら
「む。説得力はあるわね」


聖カンナが偉そうに講釈垂れている。


休戦条約? の対価の果てが人類の滅亡――よく考えなくてもおかしな話だと思う。
ところがキュゥべえ視点でみると、新人類がはびこるし宇宙も助かる。好いとこ取りかもしれない。


QB
「参考に値する意見だね。事実だとすれば、お互いの利潤は確約される。
それはそうと、かずみを完璧に造れる魔力をキミは持つのかい?」

カンナ
「心配無用。聖カンナはインキュベーターと多少コネクトした。造るどころか契約も、破壊も思いのままだ」

QB
「そのエネルギー源。本当に信用できるか怪しいよ」

ほむら
「じゃあやってみなさいよ。聖カンナ」


自滅するまで魔力を使ってもらおう。


カンナ
「魔力が勿体無いからまずは一体だけ」


用心深い魔法少女だった。



かずみの残骸を指差して消し去る。


ピエトラディ・トゥーノ
プロドット・セコンダ-リオ
イル・フラース


から始まる高速詠唱。
正確にはこの三つしか聞き取れなかったわけで。


椅子に座ったままでぶつぶつと呟いている。
しかも彼女のソウルジェムは全く濁っていない。不思議だ。


カンナ
「さあ――私の同類よ目覚めるがいい! 喜劇の開幕だ!」

QB
「魔法円?」


何も無かった空間に魔法円と、かずみそっくりの物体が現れた。
それは初めからそこにあったかのように動き始め、人語を口にした。



「カンナ? カンナ・・・ッ!」


カンナ
「大成功、に決まってるよな・・・。名付けてsystem:kazumi_magica_ver_hyades。
略して――略さなくて良いか。かずみの記憶はどうかなあ?」


ほむら
「凄いわね。まるで生きているみたい」

QB
「間違いなくかずみだよ。元々魔法が使えるし、契約もできそうだ」

カンナ
「果たしてそうかな? フフ。さあ――かずみ」

かずみ
「何? カンナ」

カンナ
「私と契約してヒュゥーァアデスになろうよぉおおおお?」


かずみ
「いいよ。願い事は――」



聖カンナを睨み付けた。


かずみ
「カンナなんて死んでしまえっ」

カンナ
「かずみの願いはエントロピーを凌駕した! 契約は成立だぞ」


聖カンナはニタニタしている。
かずみの身にも、漆黒の魔法少女にも変化が起きない。


カンナ
「だが残念だったなぁぁあああ? 願い事が叶わなくて!」


カンナが絶叫する。
歓喜とも嘆きともとれる奇声が部屋中を支配した。


カンナ
「計画以上だ。みろよインキュベーター! 志筑仁美が! あの女やりやがった!」


QB
「何をしたんだ。聖カンナがまだ生きているだなんて」


QBが珍しく動揺を見せていた。
私は色々と理解が及ばなかった。冷たくてじっとりとした汗が額から流れる。



ほむら
「契約したフリよ。キュゥべえもう一度!」

QB
「違う。契約は成立した」

カンナ
「私じゃない。あの女が! 志筑仁美がルールを変えたんだ」

かずみ
「キュゥべえ。何をしてるの。早くカンナをやっつけてよっ」


今度はキュゥべえがかずみの眼前に立つ。

QB
「なんてことだ。契約適正年齢が九歳、いや違う」

カンナ
「そうだ。五年間の魔力コントロールの果てに契約が完了するシステムが採用された」

QB
「志筑仁美の祈りは・・・!」




――こんな悲劇が二度と起こらないようにして欲しい



ほむら
「適正年齢は十四歳のまま。五年の訓練を要するってことね。
それって二度と悲劇が起こらないシステムなの?」

QB
「知識を蓄えるだけでなく、魔力の正しい運用を学ぶ機会が与えられる。
期日までは願い事も変更できるようになっているね。契約完了は第二次性徴期を意識しているけど――」

ほむら
「随分と良心的になったと思っていいの?」

QB
「効率は悪くない・・・んだけど」





泣き崩れるかずみと、ソウルジェムを一回り小さくした物体が全てを物語っていた。


聖カンナは生きている。




カンナ
「これが嬉しいニュースだよ、インキュベーター」

ほむら
「初めから知っていたのね、どこまでも意地悪なやつ」

カンナ
「んー、そうでもないんだな。おおよそ二時間前にバッチリ判明したわけだ」


QB
「二時間前は聖カンナ達が来るちょっと前だけど」

ほむら
「ちょうどお腹が空いたころね」


二時間前。
お昼時に誰か契約しようとしたのか?



カンナ
「さて、暁美ほむらへのプレゼントが整った。素敵なイベントを用意してあげたよ」

QB
「ソウルジェムが若干翳りを見せた?」

カンナ
「ノン。役者を二人呼んでたから“濁らせた”のだろう。新規にコネクトはしてないよ」

ほむら
「美樹さやかと佐倉杏子・・・ね」

カンナ
「近所まで呼び寄せたぞ。お外で戸惑っているんだろうな」

ほむら
「美樹さやか達に接続していたのが驚き。いつ繋いだのかはっきりさせてくれる?
ひょっとすると復讐の対象が変わるかもしれない」


カンナ
「ああ。一ヶ月ほど前に思いついた作戦でな・・・」


聖カンナは面倒くさそうに説明を始めた。
小物の悪役が返り討ちの間際にする暴露形式で。



プレイアデス聖団に例の二人が、「私」を討伐するための協力関係を結びに来た。
これを好機と判断した聖カンナが、体よくConnectしてテキトーに操ったのだとか。


話半分で聞く。


カンナ
「プレイアデスと巴マミらの「協定案」を「遠征」に変更させるのが本来の目的だった。
聖団連中に見切り発車させて、死地に送り込み、全滅してもらうためにね」

カンナ
「聖団を見滝原に来させるには赤と青に踊ってもらわねば無理だったのさ」

QB
「ずっと繋いでいたとはお見それしたよ」

カンナ
「それは魔力の無駄遣い過ぎる。だが、かつてのコネクトは消えないよ。
赤に単語の知識を与えてみたり、青に平手打ちをさせて再接続を確認したのさ」



ほむら
「単語に平手打ち? 何言ってるのかさっぱりわからないわ」

カンナ
「解らないなら赤と青に聞けばいい。でも真実は残酷極まりないよ。話したら泣いちゃうかも?」

ほむら
「鵜呑みにするのは嫌だけど信じてあげる。貴女のバリアを剥いで、全部潰してからアイツらに挑むわ」


カンナ
「それは短絡的な考えだよ、暁美ほむら。今すぐ出て行かないと大変なことになっちゃう。
ここで待つつもりなら――復讐を果たせずに死を迎える覚悟でな」


QB
「ほむら。聖カンナの言うとおり、美樹さやかと佐倉杏子を止めに行ったほうがいい」

ほむら
「聖カンナを置き去りにしてでも?」

QB
「手紙が正しいのなら置き去りで平気だ」

ほむら
「意味がわからないわ。貴方一匹じゃ聖カンナの思うつぼよ」

QB
「後で詳しく話すから、今は準備を!」


マミ達を信じる“彼ら”インキュベーターの戦力を削りたいの?
操られてるとはいえ、聖カンナを倒せば治るはず。
私側に付いたインキュベーターの勝ち、それでいいじゃない。


一応準備だけしておこう。いざとなれば三人相手に戦ってやる。
ありったけのグリーフシードを用意し、赤黒い血液の瓶にも隠匿の魔術を潜ませた後、適切にしまった。




ほむら
「あの・・・準備できたわよ」



キュゥべえとカンナは相変わらず舌戦を繰り広げている。


QB
「新規のルールを確認できたことには感謝するよ」

カンナ
「五年も基礎魔法だけで生き永らえる、優秀な人材が見つかるといいな?」


キュゥべえに皮肉のようなものを浴びせていた。
生成したかずみを透明で細長い円筒容器に閉じ込めながら。


QB
「残念だがエネルギー源の話はご破算だね。
五年間後の取引材料は信用するに足らない。かずみの願い事もヒュアデスを造るものではなかったし」

カンナ
「自己分裂やエネルギー源になりたいなどと祈るように洗脳すればいい」

QB
「聖カンナ。今の不安定なかずみシステムを使うのは考え物だよ。
もう一体生み出してくれるなら考えても良いけど」


カンナ
「今はもっと大事なことがあるんだ。二体目は造らないよ」


まだ話してる。聖カンナは何がしたいんだろう。しきりに時計なんか見て。


ほむら
「キュゥべえ?」

カンナ
「まだ居たのかよ。女々しいな」



ほむら
「キュゥべえ? どうなっても知らないわよ」

QB
「リボンを肌身離さず持っていてくれれば十分だ」

ほむら
「リボン? 聖カンナを先に潰せば悔いなく二人と戦えるのに――」



「Prodotto Secondario」


首に痛みを感じた。


首が痛い。


首が痛い。


首が痛い?


振り向いて殴り返す。


力なく吹っ飛び、照明器具にぶつかって消えたのは聖カンナのカタチをしていた。
プロドット・セコンダーリオと呼ばれる物質生成魔法に、してやられたのだ。


注射器が床に転がっている。何かを打ち込まれたらしい。



カンナ
「ホイ。カクシアジ。あの女が遺した気付け薬さ。さあ本能のままに暴れて来い。
大丈夫、もう私の魔力は残ってないよ。インキュベーターと歓談する元気は残ってるけど」


椅子に座っている方の聖カンナが嬉しそうに言った。


QB
「聖カンナ――キミはやはり!」

ほむら
「よくわからないけど魔法少女に効くはず無いわ」

QB
「ただの阻害剤だ。一応、具合が悪くなったらすぐ逃げるんだ」

ほむら
「何? この状況でも操られた二人が優先事項なわけ?」

QB
「そうだよ。ほむらにしか出来ないんだ」

ほむら
「話が違うわよ。どうしちゃったのよ、キュゥべえ」



戦うためにここまで来たのに。
ごく少量のイーブルナッツなら対処出来るし、勝算もゼロではない。

もしかして私が勝てないとでも踏んでいるのか?



QB
〔落ち着いてほむら。今の聖カンナはボロを出し始めた〕

テレパシーだ。久しぶり。

ほむら
〔だから殺しましょうよ聖カンナを。宝石も濁っているわ〕

QB
〔今のほむらじゃどうしようもないよ〕

ほむら
〔もう知らないわ。黒幕を前にして引き返すだなんて!〕

QB
〔あの聖カンナに攻撃を加えたところでどうにもならない。
だってあれもプロドット・セコンダーリオで造った複製体なんだから〕

ほむら
「は?」

カンナ
「どうかしたか」

ほむら
「いいえ。ちょっと考え事」


QB
〔二人に接続して、特定の位置まで連れて行こうとするならソウルジェムが濁り続けるはずだ。
でも聖カンナは急激に濁った。手紙の内容は真実だったんだ、罠だよ〕

ほむら
〔濁りすらも演技だったらどうするのよ〕

QB
〔確信している。聖カンナは第二のかずみ、とやらを造ったようだけど。
正面の聖カンナが造った訳じゃない。タイミングよく召喚魔法を一個唱えたのをボクは見逃さなかった〕

ほむら
〔ホンモノが予め造っていて、複製体が転送したというの?〕

QB
〔そうだよ。だけど案外近くに聖カンナが潜んでいるかもしれない。気をつけて〕


ほむら
〔あの二人から居場所を聞き出してやるわ〕


ほむら
「聖カンナ、やっぱり行くわ」


カンナ
「達者でな。死ぬなよ」




私は目もくれず、鹿目邸宅を出た。
聖カンナの勝利宣言とも思える笑顔から逃げ出すように。




ほむら
「用心深すぎる・・・聖カンナ。一体何がしたいの?」

ほむら
「駄目。今は復讐だけを考えるのよ暁美ほむら。あの子の悲しみもきっと癒えるわ」



■復讐悲劇


見滝原中心地区の一角。幅広い車道に少女が放り出されていた。
二人仲良く、姉妹のように仲良く、家族のように仲良く。


杏子
「悪夢を見ているみたいだ。朝方から記憶が無いし、もう日が傾いてやがる」

さやか
「あたし達御崎さんの看病をずっとしてたよね――」

杏子
「わからねえ、でも全部アイツの仕業だろうな」

さやか
「全くだよ。ちょっと見ないうちに腐りきっちゃって」

杏子
「殺るしかないと前から思ってたんだ。そんだけの罪を背負ってる」

さやか
「もう躊躇わないよ。かつての友人としてそれだけの責務があるんだから」

杏子
「友人ねえ。そんじゃ冥府の果てまで付き合ってもらおうか」

さやか
「友人だった、だよ。何が何でも勝たないとクラスのみんなに示しがつかないよ」



青と赤は一瞬で魔道装束を纏った。
完全にベテランといったところ、歴戦の勇士のごとき立ち振る舞い。
青はカットラスを、赤は槍を、それぞれ肩に担いで余裕の表情を浮かべている。




さやか
「杏子はどっちに分があると思う?」

杏子
「そりゃ自分らに決まってるだろ。千円賭けてもいいね」


さやか
「これから命を賭けるというのに安っぽいね。もう二千円足してもいいかな」

杏子
「そりゃ大金だな。命張っても悔いはないぜ――ところで」



杏子
「アンタはどっちが勝つと思う? なんて妙な訊き方しちゃったね。
否が応でもこの世界から消し去ってやるよ。死んで詫びな!」






ほむら
「逢いたかったわ。美樹さやか。佐倉杏子。さあ構えなさい」






「杏子はどっち分があ
「そりゃ自分らに決まってるだろ
「これから命を賭けるというのに安っぽいね。もう二千足してもいいかな」

杏子
「そりゃ大金だな。命張っても悔いはない


杏子
「アンタはどっちが勝つと思う? なんて妙な訊き方しちゃったね。
否が応でもこの世界
「逢いたかったわ。美樹さやか。佐倉杏子。さあ構えなさい」



かずみの残骸を指差

ピエトゥーノ
プロセコンダ-リオ

から始まる高速詠唱。
正確にはこの三つしか聞き取れ


椅子に座ったままでぶつぶつ
しかも彼女のソウルジェムは全く濁っていない。不思議だ。


カよ目覚めるがいい! 喜劇の開幕だ!」

QB
「魔法
何も無かった空間に魔法円と、かずみそっくりの物体そこにあったかのように動き始め、人語を口にし
「カンナ? カンナ
「大成功、に決まってるよな・・・。名付けてsy_magica_ver_hyades。
略して――略さなくて良いか。かずみの記憶はどう
ほむら
「凄いわね。まるで生きているみたい」かずみだよ。元々魔法が使えるし、契約もできそうだ」

カンナ
「果かな? 契約してヒュゥーなろうよぉおおおお?
かずみ
「いいは――」

え? どうなっても知らないわよ」

QB
「リボンを肌身離さず持っていてくれれば十分だ」

ほむら
「リボン? 聖カンナを先に潰せば悔いなく二人と戦えるのに――」



「Prodotto Secon

首に痛み
首が痛い。


首が痛い。


力なく照明器具にぶつかって消えのカタチをしていた。
プロドット・セコンダーリオやられたのだ。

逃げ
「何? この状況でも操られた二人が
QB
「そうだよ。ほむらにし
「話が違うわよ。どうし

指差して消し去
ピエトラディ
プロドッ-リオ
イル・


から始まる高速詠唱。
正確には三つしか聞き取れ


椅子にでぶつぶつと呟いている。
しかも彼女のソウルジェムは全く濁―私の同類よ目覚めるがいい! 喜劇の開幕だ!」

QB



何も無魔法円と、かずみそっくりの物体が現れた。
それは初めからそこにあったかのように動き始め、人語を口にした。



「カンナ? カンナ・・・ッ!」


カンナ
「大成功、に決まってるよな・・・。名付けてsymagica_ver_hyades。
略して――略さなくて良いか。かずみの記憶はどうかな


ほむら
「凄いわね。まるで生きているみたい」

QB
「間違い魔法が使えるし、契約もできそうだ」

カンナ
「果たな? フフ。さあ――かずみ」

かずみ
「何カンナ
「私と契約してヒュゥーァアデスに

ウルジェムを握り
「なんてこと・・・」

生きてるってことはそういうことなのよ」


人間ベーと同じく、魔翌力が流れている止しない。

「そっかんだ」


嘆きを目に悲哀の色が漂っていた。
殺してほしい、と私に訴え
「・・・

おそるお
彼女の表安らいでいる

>>1からの続き、今日中に終える予定でしたがなかなか難しいものです

>>1からの続き、今日中に終える予定でしたがなかなか難しいものです


ソウルジェム
「なんてるってことはそうことなのよ」


人間ベースの素体と同じく、魔翌力が流れている分に


嘆き悲哀の色が漂っていた。
殺してほしい、と私に訴えかけ


かず
「・

おそるおそる首に手を



彼女の表情はいるように感じた

ぞ。ホンモノとニセモノの中間種という稀有な例だ」

カンナ
「和紗ミチルという魔法少女の砕けたソウルジェムに、和紗ミチルの肉体を今や御崎海香の魔翌力だけで動いてるガ




ふっ、と自嘲的な溜脚を組む。


「当の御崎海香は自滅寸前だが、かずみは何分持つか気になる


カンナ
「鎌かけたくないのか? 可哀想に。肩から噴き出た血は、他人の

「嘘に決まってる! わたし魔法使錯乱したか? プレイアデス全員の血が流れている
かといって純ではない。つーか、使えるチートがいてたまるかよ」

かずみ
「ソウルジェムだって

>>192からの続き、今日中に終える予定でしたがなかなか難しいものです

え? どうなっても知らないわよ」

QB
「リボンを肌身離さず持っていてくれれば十分だ」

ほむら
「リボン? 聖カンナを先に潰せば悔いなく二人と戦えるのに――」



「Prodotto Secon

首に痛み
首が痛い。


首が痛い。


力なく照明器具にぶつかって消えのカタチをしていた。
プロドット・セコンダーリオやられたのだ。

逃げ
「何? この状況でも操られた二人が
QB
「そうだよ。ほむらにし
「話が違うわよ。どうし



かずみの残骸を指差

ピエトゥーノ
プロセコンダ-リオ

から始まる高速詠唱。
正確にはこの三つしか聞き取れ


椅子に座ったままでぶつぶつ
しかも彼女のソウルジェムは全く濁っていない。不思議だ。


カよ目覚めるがいい! 喜劇の開幕だ!」

QB
「魔法
何も無かった空間に魔法円と、かずみそっくりの物体そこにあったかのように動き始め、人語を口にし
「カンナ? カンナ
「大成功、に決まってるよな・・・。名付けてsy_magica_ver_hyades。
略して――略さなくて良いか。かずみの記憶はどう
ほむら
「凄いわね。まるで生きているみたい」かずみだよ。元々魔法が使えるし、契約もできそうだ」

カンナ
「果かな? 契約してヒュゥーなろうよぉおおおお?
かずみ
「いいは――」

ぞ。ホンモノとニセモノの中間種という稀有な例だ」

カンナ
「和紗ミチルという魔法少女の砕けたソウルジェムに、和紗ミチルの肉体を今や御崎海香の魔翌翌翌力だけで動いてるガ




ふっ、と自嘲的な溜脚を組む。


「当の御崎海香は自滅寸前だが、かずみは何分持つか気になる


カンナ
「鎌かけたくないのか? 可哀想に。肩から噴き出た血は、他人の

「嘘に決まってる! わたし魔法使錯乱したか? プレイアデス全員の血が流れている
かといって純ではない。つーか、使えるチートがいてたまるかよ」

かずみ
「ソウルジェムだって

ぞ。ホンモノとニセモノの中間種という稀有な例だ」

カンナ
「和紗ミチルという魔法少女の砕けたソウルジェムに、和紗ミチルの肉体を今や御崎海香の魔翌翌翌力だけで動いてるガ




ふっ、と自嘲的な溜脚を組む。


「当の御崎海香は自滅寸前だが、かずみは何分持つか気になる


カンナ
「鎌かけたくないのか? 可哀想に。肩から噴き出た血は、他人の

「嘘に決まってる! わたし魔法使錯乱したか? プレイアデス全員の血が流れている
かといって純ではない。つーか、使えるチートがいてたまるかよ」

かずみ
「ソウルジェムだって

>>1からの続き、今日中に終える予定でしたがなかなか難しいものです

ぞ。ホンモノとニセモノの中間種という稀有な例だ」

カンナ
「和紗ミチルという魔法少女の砕けたソウルジェムに、和紗ミチルの肉体を今や御崎海香の魔翌翌翌翌翌翌翌力だけで動いてるガ




ふっ、と自嘲的な溜脚を組む。


「当の御崎海香は自滅寸前だが、かずみは何分持つか気になる


カンナ
「鎌かけたくないのか? 可哀想に。肩から噴き出た血は、他人の

「嘘に決まってる! わたし魔法使錯乱したか? プレイアデス全員の血が流れている
かといって純ではない。つーか、使えるチートがいてたまるかよ」

かずみ
「ソウルジェムだって

ぞ。ホンモノとニセモノの中間種という稀有な例だ」

カンナ
「和紗ミチルという魔法少女の砕けたソウルジェムに、和紗ミチルの肉体を今や御崎海香の魔翌翌翌翌翌翌翌力だけで動いてるガ




ふっ、と自嘲的な溜脚を組む。


「当の御崎海香は自滅寸前だが、かずみは何分持つか気になる


カンナ
「鎌かけたくないのか? 可哀想に。肩から噴き出た血は、他人の

「嘘に決まってる! わたし魔法使錯乱したか? プレイアデス全員の血が流れている
かといって純ではない。つーか、使えるチートがいてたまるかよ」

かずみ
「ソウルジェムだって

>>1からの続き、今日中に終える予定でしたがなかなか難しいものです

>>1からの続き、今日中に終える予定でしたがなかなか難しいものです

>>1からの続き、今日中に終える予定でしたがなかなか難しいものです

え? どうなっても知らないわよ」

QB
「リボンを肌身離さず持っていてくれれば十分だ」

ほむら
「リボン? 聖カンナを先に潰せば悔いなく二人と戦えるのに――」



「Prodotto Secon

首に痛み
首が痛い。


首が痛い。


力なく照明器具にぶつかって消えのカタチをしていた。
プロドット・セコンダーリオやられたのだ。

逃げ
「何? この状況でも操られた二人が
QB
「そうだよ。ほむらにし
「話が違うわよ。どうし



なら対処出来るし、勝ではない。

もしかして私が勝てないとでも
〔落ち着いてほむら。今の聖カンナはボロを

テレパシうよ聖カンナを。宝石も濁ってい
QB
〔今のほしよほむら
〔もう知らないわ。黒幕を前に

QB
〔あの聖カンナに攻撃を加えたところで・セコンダーリオで造った複製体なんだから〕

ほむらほむら
「いい



なら対処出来るし、勝ではない。

もしかして私が勝てないとでも
〔落ち着いてほむら。今の聖カンナはボロを

テレパシうよ聖カンナを。宝石も濁ってい
QB
〔今のほしよほむら
〔もう知らないわ。黒幕を前に

QB
〔あの聖カンナに攻撃を加えたところで・セコンダーリオで造った複製体なんだから〕

ほむらほむら
「いい



なら対処出来るし、勝ではない。

もしかして私が勝てないとでも
〔落ち着いてほむら。今の聖カンナはボロを

テレパシうよ聖カンナを。宝石も濁ってい
QB
〔今のほしよほむら
〔もう知らないわ。黒幕を前に

QB
〔あの聖カンナに攻撃を加えたところで・セコンダーリオで造った複製体なんだから〕

ほむらほむら
「いい



なら対処出来るし、勝ではない。

もしかして私が勝てないとでも
〔落ち着いてほむら。今の聖カンナはボロを

テレパシうよ聖カンナを。宝石も濁ってい
QB
〔今のほしよほむら
〔もう知らないわ。黒幕を前に

QB
〔あの聖カンナに攻撃を加えたところで・セコンダーリオで造った複製体なんだから〕

ほむらほむら
「いい



なら対処出来るし、勝ではない。

もしかして私が勝てないとでも
〔落ち着いてほむら。今の聖カンナはボロを

テレパシうよ聖カンナを。宝石も濁ってい
QB
〔今のほしよほむら
〔もう知らないわ。黒幕を前に

QB
〔あの聖カンナに攻撃を加えたところで・セコンダーリオで造った複製体なんだから〕

ほむらほむら
「いい



なら対処出来るし、勝ではない。

もしかして私が勝てないとでも
〔落ち着いてほむら。今の聖カンナはボロを

テレパシうよ聖カンナを。宝石も濁ってい
QB
〔今のほしよほむら
〔もう知らないわ。黒幕を前に

QB
〔あの聖カンナに攻撃を加えたところで・セコンダーリオで造った複製体なんだから〕

ほむらほむら
「いい



なら対処出来るし、勝ではない。

もしかして私が勝てないとでも
〔落ち着いてほむら。今の聖カンナはボロを

テレパシうよ聖カンナを。宝石も濁ってい
QB
〔今のほしよほむら
〔もう知らないわ。黒幕を前に

QB
〔あの聖カンナに攻撃を加えたところで・セコンダーリオで造った複製体なんだから〕

ほむらほむら
「いい



なら対処出来るし、勝ではない。

もしかして私が勝てないとでも
〔落ち着いてほむら。今の聖カンナはボロを

テレパシうよ聖カンナを。宝石も濁ってい
QB
〔今のほしよほむら
〔もう知らないわ。黒幕を前に

QB
〔あの聖カンナに攻撃を加えたところで・セコンダーリオで造った複製体なんだから〕

ほむらほむら
「いい



なら対処出来るし、勝ではない。

もしかして私が勝てないとでも
〔落ち着いてほむら。今の聖カンナはボロを

テレパシうよ聖カンナを。宝石も濁ってい
QB
〔今のほしよほむら
〔もう知らないわ。黒幕を前に

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ほむらほむら
「いい



なら対処出来るし、勝ではない。

もしかして私が勝てないとでも
〔落ち着いてほむら。今の聖カンナはボロを

テレパシうよ聖カンナを。宝石も濁ってい
QB
〔今のほしよほむら
〔もう知らないわ。黒幕を前に

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〔あの聖カンナに攻撃を加えたところで・セコンダーリオで造った複製体なんだから〕

ほむらほむら
「いい

ほむら「もう一度だけ逢いたくない」

ほむら「もう一度だけ逢いたくない」



なら対処出来るし、勝ではない。

もしかして私が勝てないとでも
〔落ち着いてほむら。今の聖カンナはボロを

テレパシうよ聖カンナを。宝石も濁ってい
QB
〔今のほしよほむら
〔もう知らないわ。黒幕を前に

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〔あの聖カンナに攻撃を加えたところで・セコンダーリオで造った複製体なんだから〕

ほむらほむら
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なら対処出来るし、勝ではない。

もしかして私が勝てないとでも
〔落ち着いてほむら。今の聖カンナはボロを

テレパシうよ聖カンナを。宝石も濁ってい
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〔今のほしよほむら
〔もう知らないわ。黒幕を前に

QB
〔あの聖カンナに攻撃を加えたところで・セコンダーリオで造った複製体なんだから〕

ほむらほむら
「いい



なら対処出来るし、勝ではない。

もしかして私が勝てないとでも
〔落ち着いてほむら。今の聖カンナはボロを

テレパシうよ聖カンナを。宝石も濁ってい
QB
〔今のほしよほむら
〔もう知らないわ。黒幕を前に

QB
〔あの聖カンナに攻撃を加えたところで・セコンダーリオで造った複製体なんだから〕

ほむらほむら
「いい

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あるぞ、オレも信者だ

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お前等悔しいんだろうが無駄にレスするな埋まるぞ
ここはお前等の悔しさを書き殴ったり雑談する場所ではない
ちゃんと読んでたらもう終わるのが判るだろう
>>1を思うなら終わるまで見守ってやれ
オレは信者だからそうする
引き続き支援

気が付けば900ですか
終わるか微妙なライン。もしかしたら次スレ立てるかもです
ではでは、本日MX3話と一挙放送があるのでノシ

>>673から再投下します



■復讐悲劇


見滝原中心地区の一角。幅広い車道に少女が放り出されていた。
二人仲良く、姉妹のように仲良く、家族のように仲良く。


杏子
「悪夢を見ているみたいだ。朝方から記憶が無いし、もう日が傾いてやがる」

さやか
「あたし達御崎さんの看病をずっとしてたよね――」

杏子
「わからねえ、でも全部アイツの仕業だろうな」

さやか
「全くだよ。ちょっと見ないうちに腐りきっちゃって」

杏子
「殺るしかないと前から思ってたんだ。そんだけの罪を背負ってる」

さやか
「もう躊躇わないよ。かつての友人としてそれだけの責務があるんだから」

杏子
「友人ねえ。そんじゃ冥府の果てまで付き合ってもらおうか」

さやか
「友人だった、だよ。何が何でも勝たないとクラスのみんなに示しがつかないよ」



青と赤は一瞬で魔道装束を纏った。
完全にベテランといったところ、歴戦の勇士のごとき立ち振る舞い。
青はカットラスを、赤は槍を、それぞれ肩に担いで余裕の表情を浮かべている。



さやか
「杏子はどっちに分があると思う?」

杏子
「そりゃ自分らに決まってるだろ。千円賭けてもいいね」


さやか
「これから命を賭けるというのに安っぽいね。もう二千円足してもいいかな」

杏子
「そいつは大金だな。命張っても悔いはないぜ――ところで」



杏子
「アンタはどっちが勝つと思う? なんて妙な訊き方しちゃったね。
否が応でもこの世界から消し去ってやるよ。死んで詫びな!」







ほむら
「逢いたかったわ。美樹さやか。佐倉杏子。さあ構えなさい」





□ 見滝原中心地区



ほむら
「すぐに死ねとは言わないわ! 好きなだけ抵抗してみなさい!」


一声。決戦の火蓋が下ろされた。
弓を生み出す。青と赤が左右に散る。



車道、歩道関係なく、人通りをも気にせず、勢いに身を任せて魔法を使った。
青も赤も同様に、乗用車を投げ、歩道橋を刻み、あらゆる空間を斬り、薙いだ。



幾重にも障壁を広げ、一般人が入れないように配慮した上だから気にやまないで欲しい。
目視、数キロメートルの箱庭を造り上げたのは、キュゥべえがいる鹿目邸宅に被害が及ばないようにしたため。



あと、重要参考人――いや復讐の対象を捕らえて逃がさないのが本音。


補足しておくと今現在、結界の内側では雨が降っている。追尾式の紫色の雨が。




さやか
「シールドを広げたけどきっついね」

杏子
「リソースを割かせるとは賭けに出たな。槍の硬度が下がっちまったが、向こうはそれ以下の条件だ」



赤と青がちょこまかと交互に斬撃を放ってくる。
物量作戦というにはやや盛り上がりに欠けるわけだが、私を苦しめようとする気迫だけは一流だ。



二種類の高位魔法を詠唱しているため、生成する矢はいつもの五分の一にも及ばない威力。
相手側はバリアを展開している。お互いのステータスは低下していた。


さやか
「潰れろぉー!!」


矢を弾かれた。返す刀で両断しようと青が接近し、振りかぶる。
弓の部分で受け止め、滑らせるように受け流そうと構えたところに赤の三段突き。


ほむら
「チッ。やるじゃない」


緊急回避。


緊急回避。



左後方。正確には七時の方向から爆発音。


高速詠唱をしながら印を結び、即座に防御体制に移行。


時間差で襲ってくる爆風を中和した。




さやか
「苦戦してそうだね」


燃え滾る乗用車の上に青を見た。


ほむら
「当たったところで屁でもな――」



後頭部に鈍痛。


後頭部。


また後頭部。


前腕。


後頭部。




杏子
「ぺちゃくちゃ喋ってんじゃねーよ、うすのろ」



弓を大きく振り回して多節槍の追撃を止める。
手ごたえは無い、避けられたか。



カットラスが正面から七本、そのまま弓で吹き飛――


私が吹き飛ばされた。


今のは何?


杏子
「いけるぞ。こっちが押してる!」



鉄塔が降ってきた。
追尾式のアローで串刺しには出来たが、どうにもしがたい状況に息をのむ。


傾いた鉄塔の上に青。


シールドを展開し矢を防ぎながら青は叫ぶ。

さやか
「容赦しないんだから」


突然、青が鉄塔ごと消えた。







否。




「まだ生きているのか」



赤の声。



「天上から襲い掛かる矢は消えたけど・・・」



青の声。



視界が何かに遮られてよくわからない。





何かの下敷きになっているのはわかった。タイヤが見える。
意識が途切れているので確証は無いが、大型車に轢き飛ばされたらしい。



ほむら
「この程度で安心しないで!」


力いっぱい蹴り飛ばし戦闘態勢に戻る。



はっきり言って劣勢だ。
甘く見すぎていた気がする。


杏子
「矢が消えたが、わざとか?」


横転したトラックの脇から声が聞こえた。


ほむら
「小細工無しの方が燃えるでしょう?」


余裕を見せながら近づく。赤に迫り、殴った。

手ごたえはあるけれど・・・何故抵抗しない。




刹那。




背後の殺気を避ける。赤が槍に突き刺さって消えた。



ほむら
「殺気が隠せてないわよ」

杏子
「幻覚には慣れたかい?」


槍をぶんぶんと回して、へらへら笑う赤。



ほむら
「これも幻覚。コツは掴んでいるわ」


杏子
「そうでもないな。よく見てみろ――」



近づいてくる赤に悪寒を覚える。



二重の障壁で目の前を覆うや否や、赤が四散した。
時限爆弾か。器用な。



上空に強烈な魔力の痕跡がある。次いで炸裂音。



降って来る何かを弓でひとつひとつ打ち払っていく。
地には多数の刃が立っていた。


ほむら
「回復する余裕すらないわね」


地面に刺さったカットラスを投げ返し、一進一退の攻防が続いた。


久しぶりの狂騒に高笑いしてしまう。


□ 見滝原災害区域


周囲360度、火の海と化した街に紫の光線が飛び交う。
黒焦げの金属塊を蹴ると、面白いくらいに地面を擦り、激烈な悪臭がさらに深みを帯びる。
ガソリンが漏れ出すたびに戦闘フィールドが減っていく。


障壁を展開したから一般人の死傷者はゼロ。閉じ込められたほうの一般人は知らない。
青空はだんだんと赤く塗り替えられていた。




ほむら
「さっきまでの勢いはどうしたの?」



多節槍を弓で絡めとり、赤ごと地面に叩きつける。
生命力をガリガリ削り取る手ごたえを感じ、全身の筋肉が歓喜する。



直後、背部に痛み。
青の投擲を思いっきり受けてしまった。


大した怪我ではないだろう。隙を見せた赤が優先だ。


何度も蹴り飛ばし、弓を突き刺す。


さやか
「ほむらあああああ!!!」


左腕が落ちる感覚。


杏子
「ざまあみろ」



血の塊をぼとぼと吐きながら言う赤。




初めから狙ってたわね。




身体強化を最大に、振り向いて青を殴る。
ブチブチと千切れる音は私の無理な姿勢のせい。


腕と魂を救出し、全身に回復魔法。
結構な隙を見せてしまったかもしれない。




回復を終えていた赤に衝かれ、後ろ向きのまま空中に放り出される。




視界の片隅に青。お腹を押さえて縮こまっている。
ソウルジェムの穢れを浄化しているようだ。



弓矢を生み出し、狙いを定めて射る。
牽制になればと思っていたが命中した。



落下地点には赤。槍を構えている。


杏子
「よう。短い空の旅は楽しかったか?」



傾いた足場を空中に作り軌道をずらす。


近場の乗用車に魔力弾を撃つ。炎上させながら受身。
粗雑な手段だが、それを赤目掛けて蹴り飛ばす。


誰かが足に攻撃した。背後に青がいる。



ほむら
「まだまだ楽しめそうね」

さやか
「読まれてた!」


青の引き攣った表情が心地よい。


魔力のリソースを攻撃されるであろう部位に割いて、強化魔法を集中させていたのだ。
砕けたカットラスが軸足の強度を保証している。

流れに身を任せて青の膝を蹴り、破壊する。再び距離を広げながら弦を絞った。



血の昂ぶりに私は高笑いしてしまう。



□ 見滝原 大規模災害区域


火の海は徐々に落ち着いてきた。
しかし熱気は増すばかり。アスファルトからは黒煙が上がっている。
突っ立っているだけでも体力を奪われ、酸素の取り込みがおろそかになる。


障壁が全体的に薄まっている。それだけお互い追い詰められている証拠だが。
万が一逃げられてしまえば憂いが残ってしまう。



左手に意識が向いた。魔力が半分以上減っているのに気づく。



赤も青も二桁回は魔力を補充していたわね。
魔力容量がケタ外れとはいえ、油断禁物。


浄化しましょう。
いつ聖カンナが乱入してもいいように。


ソウルジェムの穢れを取り去ろうと左手を布地の下に忍ばせる。



杏子
「おっと、させないぜ」



地から幾つも槍が召喚され、無数の刃が襲い掛かってきた。
青と赤の本気をみた。地面が隆起し、戦火が広がる。


流石に片手を引っ込めては対処しきれない。




さやか
「やっと一回目の浄化かあ」


ほむら
「ああ、奪ってから回復しましょう。今日は何だか冴えてないわ・・・」

さやか
「グリーフシードを見つけられればいいけどね」


この青は何か勘違いをしている。


ほむら
「奪わないわそんなもの」



言ってやった。




杏子
「隙を見せるんじゃないよ、さやか。ペースに飲み込まれたらおしまいだ」


足元の振動に気づき、反射的に避ける。


ほむら
「しまった!」


避けた先からも槍が生えてきた。
回避・・・に失敗し、腿部から色々噴き出る。


ほむら
「もう終わりにしましょう――今すぐ後悔させて上げるわ」


中度の全身打撲。左手切断。左大腿部割創。
特筆すべき被弾はこのていど。



左足を引きずりながら青に近づく。



杏子
「逃げろ。何かする気だ!」

さやか
「っちくしょう」




反転。背中を向けて逃げ出す青。
目いっぱい右足で地面を蹴って呪文を唱える。


ほむら
「トッコ・デル・マーレ」


姿勢を大きく崩してアスファルトを何度も転がった。右手に何かが収まる感触に鳥肌が立つ。


トッコ・デル・マーレの射程内だったことに感謝した。美樹さやかのソウルジェムを摘み取ったのだ。
意外なことに強化魔法は仕掛けられていない。


さやか
「杏子! あたしは良いから逃げて! 壁が脆くなった今なら!」

杏子
「んなことできるかよ!」



強制摘出によって装束が消え去った美樹さやかなど敵ではない。



ほむら
「ゲームオーバーよ」

さやか
「あたしは駄目でも杏子が遺志を・・・」




ほむら
「遺言中、とても申し訳ないけど、聞きたいことがあるの。二人居ないと駄目なのよね」


美樹さやかの接続が切れても構わない。佐倉杏子も捕縛しなければ聖カンナの場所を聞き出せない。
接続が切れた状態、つまり生身で地面に伏せたら焼けただれてしまうだろう。


赤を追いかけ――



違う。



赤の幻覚だ。複数の足音が聞こえている。

手当たり次第に矢を射った。
実体を持った幻覚をひとつひとつ破壊する。


外れ。


また手ごたえが無い。


ほむら
「逃がすわけにはいかない・・・」




傾いた高層ビルの最上部。赤に狙いを定めて矢を放った瞬間、世界が傾いた。




痛みは全くなかった。蒸発する赤い霞を見てやっと気づく。
両膝から下をバッサリ切り取られてしまった。




杏子
「さやかのジェムは返して貰った」

杏子
「死ん――」



何か。

何でもいい。

閃け。

奪われたくない。



ほむら
「トッコ・デル・マーレ!」


手元には何も無い。



終わった。





終わった・・・?


ほむら
「殺気が消えた」


こつんと青のソウルジェムが降ってきた。


次いでバンッという音。
空気が震える異音に目を遣ると、人のカタチをしていたものが地面にあった。

ビルからの飛び降り自殺、ではなく。


ほむら
「そっちがホンモノだったのね」


内ポケットに左手を忍ばせて、魔力を補充しながら近づく。
ぽっかりと穴を開けている佐倉杏子がいた。




ほむら
「気絶か。勝利に酔える内容じゃないわね」

ほむら
「障壁が疎かになっていたし」



再度、適当な結界を練り直して街を覆う。
振り返ってみるとそこそこ苦戦を強いられる戦いだった。



何か寄りかかれるものを探し、何もない事に気づく。
佐倉杏子の内臓がじわじわと再生するのを観察しながら魔力の補充を続けた。




□ 見滝原 激甚災害区域


日がほとんど沈んでいた。
辺りはすっかり黒く焦げ上がり、歩道と車道の区別がつかない。
破壊の傷跡は、溶け出したアスファルトによって塞がれて自然治癒している。


三人の加害者がいた。



杏子
「魔力さえ漏れなければ勝てたんだがな」

ほむら
「身体強化しながら言うセリフじゃないわ」

さやか
「聞くだけ聞いて早く殺しなさいよ」

ほむら
「だから隙を見計らうのはおかしいわ」


フランクな語りに殺気を漂わせて訊ねる。


ほむら
「聖カンナって知ってるわよね?」



二人は首を横に振った。


ほむら
「漆黒の魔法少女。知ってるかしら」


二人はまたもや首を横に振った。


ほむら
「魔法少女の名前よ。アイツは――」


彼女の能力だけ軽く説明した。
知らないことを知ってたり――などと症状も明かす。


次。


ほむら
「平手打ちや単語で心当たりのあることは?」



単語、で青が微妙に反応した。気まずそうに口を開く


さやか
「単語って・・・イクス・フィーレの?」


赤の顔がみるみる暗くなっていく。


杏子
「さやか。あんた鋭すぎだよ。嫌になっちゃうね」

ほむら
「詳しく聞かせてくれる?」


佐倉杏子に手がかり。
青いソウルジェムを取り出して訊いた。


杏子
「しかも青かよ。尋問の才能があるな」


青いソウルジェムを握って同じ質問を繰り返す。



杏子
「ばーてぶれーとだな。知らないうちに正しい意味や綴りが頭の中にあった」

ほむら
「ばー“て”ぶれーと? ブイ、イー、アール・・・のvertebrateで良いのよね」



杏子
「あの日、地下室で人形越しに聞いたから曖昧だし、そのときの名残だ。
発音が間違っていることをも何故か知っていたのさ。本場の帰国子女みたいにな」



知らないことを知っている。無意識に操られた。



聖カンナは、佐倉杏子の能力を読み取っているのだろう。
幻覚使い相手にやりあえるか・・・。厄介だ。



ほむら
「イクス・フィーレについて、詳細に教えてくれる?」

さやか
「性質、弱点を分析する魔法。御――」

ほむら
「知っているわ。御崎海香にしてやられたもの。私の弱点を詳しく教えなさいと言っているの」


さやか
「あたしは穢れが弱点らしいけど、あんたのは解析が大変だからわからない。
精々二つ、三つ。ほむらは六つあった。それだけ弱点が多くて脆いってことだよ」


その単語を教える気は無いらしい。
嘘をつくと思って聞いて見たわけだが意外と素直だ。



ほむら
「平手打ちは?」


二人とも無言のまま放心している。心当たりは無さそう。


ほむら
「プレイアデス聖団を呼んだのは貴女達でいいのね」

さやか
「・・・だからなに?」

ほむら
「あーあ。これじゃ何を聞いても疑うしかないわね」


聖カンナの言ったとおり。
Connectによってはじめから全部仕組まれていたようだ。


杏子
「何とでも言いやがれ。洗脳されてるって言いたいんだろ」


織り込み済みの質問。
聖カンナの場所はおろか、存在すら知らない彼女なら憤怒するだろう。
自分の足で私と決戦に来たとでも思っているのならとんだ誤解ね。




ほむら
「そう、洗脳より性質が悪い魔法。百パーセント操られているわね。
無意識に行動、思考させられている。貴女達の自我はもう自我じゃない。恐ろしいわ」


突然青が血相を変えて迫ってきた。


さやか
「あんたも似たようなものじゃない!」

杏子
「おい! 無闇に刺激するな」

さやか
「狂い果てて、クラスメイトを何十人も殺して、街のみんなも! 挙句の果てにあんたの顔をした同類まで!」

ほむら
「同類? アレは全然違う。あの愚か者は『円環の理』を求めなかったし逢おうとすら思ってない」

さやか
「同類だよ、今のあんたそっくりだ。『円環の理』に会うだとかいって、ひたすら人間を殺してるだけだもんね?」

さやか
「人を殺すために人を殺してる。知ってる? 死神って呼ばれてるんだよ、あんた」

ほむら
「それは貴女のせいでしょ、美樹さやか。貴女のせいで殺すハメになったの。
桃色の力に耐えられるあの子を壊したせいで!」

さやか
「杏子っ」

ほむら
「させないわ!」


隙を見てソウルジェムを奪おうとした赤に肘鉄。
赤は何十メートルも派手に飛んでいった。


身体を丸めて横たわっている。



さやか
「万事休す、もう打つ手無しだよ。参った」

ほむら
「作戦だか本心だか知らないけど・・・あの子を殺した罪は重すぎるのよ」

さやか
「この街の死者。四万二千よりも?」

ほむら
「カウントするなんていい性格してるのね」

さやか
「聖カンナって人のお陰だね。何か知ってた」



やはりそうだ。知らないことを知る機会が与えられる。
もしかしたら美樹さやかが聖カンナの場所を知るかもしれない。

すこし会話を続けようと思った。


さやか
「戦闘が温和だったのは聖カンナって人を探してるせいだね?」

ほむら
「そうよ、貴女って鋭いわ」



ほむら
「で、その手は何?」


ソウルジェムを捕らえんとした青の手を掴む。
後ろから赤も接近しているのか。


さやか
「言わなくてもわかるでしょ? これが正義の魔法少女だよ」




一旦冷め切った身体がにわかに熱くなる。
まだ復讐できるんだと、青を平手打ちして実感した。



ほむら
「さあ生身で抵抗してみなさい。戦いは始まったばかりよ!」



ほむら「もう一度だけ逢いたい」 その2

ほむら「もう一度だけ逢いたい」 その2 - SSまとめ速報
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次スレ立てました
映画で色々被っても気にせず投下していきます
お休みなさいノ

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