魔王「ト、トーキョー?」 女「う……うん。東京」 (32)

魔王『勇者よ、よくここまできたな。ここは素直に誉めておいてやろう』

勇者『……』

魔王『確かにこの吾が輩さえ倒せば、人間界侵略は撤退となるだろう。みごとクーデター成功というわけだ』

勇者『……』

魔王『だが、お前では吾が輩を倒すことはできない』
『なぜなら吾が輩には、数億年単位でこの地を支配するべく、不死の魔法が掛けられているからだ』

勇者『……』

魔王『人ながらに魔力を有するとは珍しい。貴様に興味が湧いた、今忠誠を誓えば我が配下にしてやろう』

勇者『いいえ』

魔王『……少し冷静になるがいい勇者よ。貴様が配下になるということは、人間への支配を、貴様がある程度和らげることができるということだぞ?』

勇者『いいえ』

魔王『……なら、仕方あるまいな。わかりやすいだけの正義に殉ずることだけが望みだと言うならば、惨めにここで犬死にするがいい』スッ

勇者『……』

魔王『…………』

魔王『ここは、どこだ?』

魔王『……体が重い、記憶があやふやだ。吾が輩は、長く寝ていたとでも言うのか?』

魔王『人間界にしては進み過ぎている、魔界にしては遅れ過ぎている。幻界か冥界か?』キョロキョロ

女「なんだろ、あのボロボロの布纏った人。浮浪者……にしては若いし」

魔王『……あれは人間? 文明レベルが上がるほどの歳月を吾が輩は寝ていたというのか』

魔王『……どうやら、今の今まで勇者に封印でもされていた、というのが現状の説明に一番しっくりきそうだな』

魔王『とりあえず、そこの小娘を魔力エネルギーに変換しておくか』ギロッ

女「うわっ……あの人、めっちゃこっち見てる。最近ここ痴漢多いらしいし逃げよう。私みたいに可愛い女の子なんて、絶好の標的だろうし」
スッ

魔王『ふんっ』ガツッ

女「痛っ! はな……離してよ!」

魔王『……魔力が、得られない?』パッ

女「きゃっ!」ドサッ

魔王『ここは、本当に人間界なのか?』

魔王『おい小娘、ここはどこなのだ?』

女(うわっ外人じゃん。……私を捕まえて大慌てしてるあたり、複雑な事実を抱えた困ってるお方っぽいけど、コレ何語だよ)

女「あ……あいきゃんとすぴーくいんぐりっしゅ」

魔王(おい、小娘、ここはどこだ?)サッ サッ サッ

女「ひ……ひょっとしてジェスチャーのつもりなの? 奇怪な踊りにしか見えないけど」

ーー30分後ーー

魔王「もう大丈夫です。私は大勢のここの話しを学びました」

女「え?」

魔王「私は高い知能を持ち得るため、辺りの会話を耳にして、すぐにそれを実践することをします」

女「す、すごい。色々間違ってるけど、それを差し引いてもギリギリすごい」

女「あなたは、何者なの?」

魔王「私は人の家に出没する、触覚の生えた黒い侵略者でした」

女「え……えっと、ゴキブリだったの?」

魔王「私はゴキブリを知らない。しかし、あなたがそう言うならば、私はきっとゴキブリなのでしょう」

女「違うと思う」

魔王「私はこの地で、大勢のエネルギーを得ることに成功しました」

女「人の家の残飯でも漁ってたの?」

魔王「しかし私は負け、長い間閉じ込められていました」

女「ゴキブリホイホイ!?」

魔王「私はゴキブリホイホイを知らない。しかしあなたが言うならば、あれはきっとゴキブリホイホイだったのでしょう」

女「違うと思う」

魔王「……」ブルッ

女「ど、どうしたの?」

魔王「私の肉体は酷く衰えている」ガタガタ

女「風邪でもひいたの?」

魔王「すいません。私をあなたの家で休ませることはできないでしょうか?」

女「おっ、男を連れ込むなんてそんなふしだらな……」

魔王「……」ガタガタ

女「……いいよ」

テレビ「現在、犯人は逃走中で……」

魔王「……」ジー

女「何、アンタ、ひょっとしてテレビのない国からきたの?」

魔王「私は思う。テレビとはこの立方体のことだろうかと」

女「どちらかと言えば立方体じゃあなくて直方体かな、うん」

魔王「軽んじないで欲しい。私の住んでいた世界では、テレビに羽がついて飛んでいた」

女「すごいけど羽付けて飛ばす意味あるの?」

魔王「私がテレビを見ている。なぜなら私の不完全な言語を補うことが理由です」

魔王「私のいたところでは風変わりな技術が生まれ、それによって酷く栄えていました」

女「風変わりな技術?」

魔王「魔法とはエネルギーの抽出と放出のことです。魔法は物質を消失させです、その時に生まれるエネルギーを得ることです。及び、そのエネルギーを使用することをさします」

女「物体を消失させてエネルギー……って、まさか原子力エネルギーのこと?」

魔王「まさか、この地にも『魔法』があるというのですか」

女「いや、いや、あんまり知らないよ。私、学生時代物理苦手だったし」

魔王「また、私達は有を無にして得たエネルギーによって無から有を作ることができました」

女(だんだん日本語上手くなってきてる)

魔王「それによって誰もがあらゆる幸せを得ることができました。つまりは私達は、ここより裕福なものだった、と言えるかも知れない」

女(急に技術の話しだしたなコイツ。ひょっとして、テレビ初めて見たのって訊いたこと、根に持ってんの?)

女(にしても原子力エネルギーの発展版だなんて、そんなもの無名な小国にあるはずが……)

女(いや、あり得る。まさかコイツの故郷、アメリカ辺りの実験に利用されているんじゃあ……)

魔王「……体が本当に衰えているようです。私はこれから意識を失います」

女「多分それは寝るって言うんだよ」

…………

オタク「…………」

不良「で? お前、今週分の金は取ってきたのかよ」

オタク「…………」

不良「おいおい、黙ってたらわかんねぇだろうが」

不良2「なに? ひょっとして、十万円用意できてねぇの?」

不良3「よくもまぁそれで、のこのことここまでこようと思えたなあ」スッ

不良「まあまあ、待てって、オタクにも事情があるんだろ。話しぐらいは聞いてやれよ」ニヤニヤ

不良「で、払う気はもちろんあるんだよなあ?」

オタク「…………」

不良「おい、聞いてんのかよっ……」

オタク「いいえ」

不良「ん?」

不良2「おい、お前、ふざけてるんじゃあ……」

魔王「起きてください小娘」ペシッ

女「……痛っ、朝から起こさないでよ」

魔王「人間界は変わった風習を持っているようですね」

女「……すいません、寝言で世迷い言を吐きました」

魔王「私は目的を落としました。藪から棒なことに、上司からの連絡が届かない時期に位置するからです」

女「よくわからないんなら、変わった言い回しは使わない方がいいんじゃないかな」

魔王「私は目的を落としましたが、それと同時に、二人の新しい卵が生まれました」

女「解読はよ」

魔王「私は、魔力を持った人間を目の中に入れたことがあるます」

女「あるます」

魔王「……あります」

女(訂正するんだ)

魔王「私はそれによって、人間を深い興味の中に入れました」

女「はあ」

魔王「だからアナタの行動を、観察しようと思います」

女「ごめん意味がわからない」

魔王「アナタの行動を、夏休みのアサガオのように観察日記につけようと思います」

女「いや、分かり易いように喩えを出して欲しいとかじゃなくてえっと……」

魔王「とにかく私は、あなたを二十四時間つけ回して観察日記をつけます」

女「ダメに決まってんだろ、今すぐから家から追い出すぞ」

魔王「あなたを二十四時間観察してブログをつけます」

女「その言葉、どこで覚えたの?」

魔王「そして炎上します」

女「あんた本当に何がしたいの?」

魔王「人間の持つ魔力について研究し、もし故郷に帰ることができたらその研究成果を発表してエネルギー問題を解決したいのです」

女「お、思ったより普通に真面目だ……」

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