クリスタ「私、マルコが好きなの」(420)
クリスタ「だから、アルミンの気持ちには応えられない……」
アルミン「……」
クリスタ「ごめんなさい、アルミン」
849年
マルコ歓喜
※注意
原作10巻までのネタバレあり
後半に微グロ描写を入れる予定
※留意事項
コニサシャ→中学生カップル
ベルユミ→恋人関係(仮)
アルミン→クリスタに失恋 ←イマココ
前作
アルミン「えっ、僕の好きな人?」アルミン「えっ、僕の好きな人?」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1375244633/)
それより前の話は前作の1参照
クリスタ「……」テクテク
クリスタ「はぁ……」
クリスタ(アルミン、ごめんね。気持ちは嬉しかったけど)
クリスタ(でも――)
ガサガサッ
クリスタ「!?」
クリスタ(今……向こうの茂みから……)
ガサガサ…ガサガサ…
ガサッ!
ユミル「クリスタ!」ガバッ
クリスタ「ユ、ユミ――きゃあっ!」
ユミル「ったく! こんな時間まで出歩いてやがって!」ワシャワシャ
クリスタ「わぷっ……ユミル、心配して来てくれたの?」
ユミル「当たり前だろ。私の可愛いクリスタのためだからな」クシャクシャ
クリスタ「あ、ありがと。でも髪の毛ぐちゃぐちゃになっちゃうからやめてっ!」ジタバタ
ユミル「んー……その前に、聞かなきゃいけないことがあるな」
クリスタ「えっ?」
ユミル「さっきアルミンに言ってたこと、ありゃどういうことだ?」
クリスタ「!」ビクッ
クリスタ「……聞いていたの?」
ユミル「おう」
クリスタ「その……どのへんから?」
ユミル「あのヒョロヒョロがこっぱずかしい口説き文句言い始めたところから」
クリスタ「ちょっ、言い方ってものがあるでしょ! 大体それ、ほぼ全部じゃない……」
ユミル「まぁ正直そこはどうだっていいんだよ。問題はお前が言ってたことだ。なぁクリスタ」
ユミル「私はお前がマルコが好きだなんて、一言も聞いてないぞ?」
クリスタ「……」
ユミル「いつからだ?」
クリスタ「一年前から」
ユミル「はぁ!? そんな前からかよ!」
クリスタ「うん……」
ユミル「その間、私にはなんの相談もなしか。私のことは応援するって言っておいて、自分は私に頼ろうとしなかったのか」
クリスタ「それは――」
ユミル「何だよ」
あ、やっとトリがいつものに戻った。なんだったんだ。
トリ変わったけど>>1です。以降ずっとトリはこれでいきます。
クリスタ「その……無謀だなって、思って」
ユミル「無謀だぁ~?」
クリスタ「うん。私マルコのこと、ずっと好きだし、ずっと見てたんだけど」
クリスタ「好きになればなるほど、叶わない想いだってことが、わかったの――」
―――――――
―――――
―――
848年
トロスト区
第104期訓練兵団兵舎
早朝 女子寮
クリスタ「う……ん」
『ヒストリア様……ヒストリア様……』
『起きてくださいませ……ヒストリア様……』
クリスタ「ん……」
ユミル「クリスタっ!」ガバッ!
クリスタ「んうっ、きゃあ!」
ユミル「もう朝だぞ。いつまで寝てるんだよ」
クリスタ「えっ、あ、ごめん。起こしてくれてありがとうね、ユミル」
ユミル「全くだ。お前、ちったぁ人に起こされずに起きれるようになったらどうだ」
クリスタ「ご、ごめんね」
クリスタ(一人で起きるのって、なかなか大変なんだよね)
ミーナ「よく言うわよ。クリスタに抱きついて起こすの、楽しんでるくせに」
ユミル「なーんか言ったかー? ミーナさんよ」
ミーナ「なーんにもっ。おはよ、クリスタ」
クリスタ「う、うん。おはよう」
クリスタ(『クリスタ』……か)
クリスタ(一年も経つのに、いまだに慣れないなぁ、この名前)
午前
対人格闘訓練
クリスタ「はっ!」ヒュンッ
ミカサ「ふっ!」パシッ
グルンッ
クリスタ「ふわっ!?」
ミカサ「あっ」
ドシーン!
クリスタ「痛たた……」
ミカサ「ごめん、クリスタ。加減に失敗した」
クリスタ「ううん、大丈夫」
ミカサ「でも……クリスタは私と組むのはあまり適していない」
ミカサ「その、華奢で軽いから、傷つけないようにするのは難しい」
ミカサ「私はなるべく、訓練では手を抜きたくない……だから」
クリスタ「……うん。わかるよミカサ」
クリスタ(訓練兵になって一年が過ぎて、みんな訓練内容をこなせるようになってきた。そしてだんだん、器用に点数をとろうと思い始めてる)
クリスタ(頑張る訓練と、頑張らなくてもいい訓練。そんな風に差別化するようになってる)
クリスタ(そういう考え方は……あんまり好きじゃないな)
クリスタ「ミカサは、どの科目でも一生懸命だよね」
ミカサ「私は、強くなりたい……強くならなきゃいけないから」
クリスタ「だったら、私が相手じゃ役不足だよね」
ミカサ「……ごめんなさい」
クリスタ「いいの。ミカサの邪魔したくないし。でも私、誰と組んだらいいかなぁ」
クリスタ(私より体の小さい人って、全然見かけないし……)
ミカサ「――待って、クリスタ」スタスタ
ミカサ「マルコ」
マルコ「うん? 何、ミカサ」
ミカサ「クリスタの対人格闘の相手をしてあげてほしい」
クリスタ「えっ!?」
マルコ「僕がかい? どうして?」
ミカサ「マルコなら、教え方が上手い。クリスタに受け身の取り方を教えてあげて」
ミカサ「ベルトルト、代わりに私と組もう」
クリスタ(えっ、そんな――ミカサ、どういうつもりなの?)
ベルトルト「僕は別に構わないけど……どうする? マルコ」
マルコ「わかった。いいよ」
クリスタ(えぇええ!?)
ミカサ「ありがとう」
クリスタ「ちょっ、ちょっと、ミカサ?」
ミカサ「後は頑張って」スタスタ
クリスタ(が、頑張ってって……)ポカーン
今夜はここまでにします。腹筋スレじゃないです。至極真面目に書きます。
読んでくださってる方ありがとうございます。
クリスタ「……」
マルコ「クリスタ、よろしくね」
クリスタ「う、うん」
クリスタ(どうしよう……私マルコとちゃんと話したこと、ほとんどないんだよね)
クリスタ(ジャンとよく一緒にいるけれど、ジャンがよくエレンと喧嘩してるのを、いなしてる印象しかない)
クリスタ(あとは……憲兵団に入りたいんだっけ、確か)
マルコ「それじゃあ、早速だけどやってみようか」
クリスタ「ねぇ、マルコ」
マルコ「何?」
クリスタ「マルコはこの訓練、いつも真剣にやっているの?」
マルコ「え? どうして?」
クリスタ「だって……みんな、あんまり真面目にやってないから」
マルコ「みんなはそうかもしれないけれど、僕は憲兵団を志望しているからね」
クリスタ「でもこの訓練って、全然点数にならないんでしょ? だから憲兵団を目指してる人も、あんまり力入れてないよ」
クリスタ(例えば……あなたが仲良くしている、ジャンとかも)
マルコ「点数になるかならないかは問題じゃないんだ。この技術は憲兵団になったら絶対に必要だからね」
クリスタ「えっ?」
マルコ「憲兵団の仕事は秩序統制だ。内地にいる要人の警護も、当然仕事内容に入ってくる」
マルコ「僕にとっては点数の高い立体機動より、こうした対人格闘の訓練のほうが、将来のためになるんだ」
クリスタ「そう、なんだ……」
マルコ「まぁ、本当は王を直々に警護したいんだけど、さすがに夢見過ぎかな。いけてせいぜい、側近貴族の護衛ってところだね」
クリスタ(貴族の……護衛――)
『レイス公はいったいどういうおつもりなのか』
『あの子を本気で跡取りにするつもりか。気でも違ったか』
『あんな――卑しい妾の子を』
クリスタ「……あの人たちを護衛して、何になるって言うの」ボソッ
マルコ「うん? 何か言ったかい?」
クリスタ「あっ――何でも、ないよ」
昼食後
廊下
ミカサ「クリスタ、さっきの対人格闘のことだけど」
クリスタ「あっ、ミカサ。もう、びっくりしちゃったよ。いきなりマルコを呼ぶなんて」
ミカサ「マルコなら指導が上手い。そう思わなかった?」
クリスタ「うん。すごくわかりやすかった。受け身、ちゃんととれるようになったよ!」
クリスタ(まぁ、ちょっとマルコに対して苦手意識はわいちゃったけど……)
クリスタ(ごめんねマルコ。マルコは悪くないのにね)
ミカサ「ならよかった。でもまだ無理して向かって行こうとしては駄目」
クリスタ「うん。ありがとう、ミカサ」
ミカサ「……ところでクリスタ、あなたは明後日からの休暇、どうするの?」
クリスタ「え? 休暇?」
ミカサ「そう。明後日からの三日間、訓練兵は帰省許可つきの休暇になる」
クリスタ「あ……」
ミカサ「私やエレン、アルミンは……関係ない。けど、クリスタはどうするの?」
クリスタ(ミカサ……)
クリスタ「私は……その、卒業するまでは、お家に帰っちゃいけないって言われてるから」
ミカサ「そうなの?」
クリスタ「うん。だから、普通に兵舎で過ごそうと思ってる」
クリスタ(実際、帰れるわけないしね……)
ミカサ「そう、なら」
ミーナ「ならクリスタも!」ガシッ
クリスタ「えっ?」
ハンナ「一緒に行こっ!!」ガシッ
クリスタ「えっ? えっ?」キョロキョロ
ミカサ「……ミーナ、ハンナ、今そのことを私が言おうとしていた。でも私より説明が足りていない」
ハンナ「あっ、ごめんね、えへへ」
ミーナ「明後日のお昼にね、帰省に行かない子たちでピクニックに行こうって話をしてるの」
クリスタ「ピクニック?」
ハンナ「そっ。私達もね、今回の休暇は帰省出来そうになくって。だけど何もしないのもつまらないじゃない?」
ミーナ「だから、この機会に人をたくさん集めて、みんなでお出かけしたいねって!」
ミカサ「そういうことらしい。で、私はその話に巻き込まれた」
クリスタ「へぇ、面白そうだね!」
ミーナ「でしょでしょ! クリスタも一緒に行こうよ! 丁度女子が足りてなかったし!」
クリスタ「女の子が足りてないってことは、男の子も来るの?」
ミカサ「エレンとアルミンだけ置いて私が行くわけにもいかない。ので2人も誘っている」
ミーナ「で、男子がその2人だけってのもさみしいから、エレンに他にも誰か誘っといてーって言っておいたのよ。そしたら4人も増やしちゃって」
ハンナ「逆に女子が足りなくなっちゃったから、今探してたところなの!」
ミーナ「今アニも誘ってたんだけど、クリスタも一緒に来てくれる?」
クリスタ「もちろん! 行きたい!」
クリスタ(やったぁ、みんなでお出かけだ!)ワクワク
クリスタ(外に出られる。友達と一緒に)
クリスタ(――なんて自由なんだろう。『クリスタ・レンズ』は)
ハンナ「よかったぁ! これで女子5人、男子6人かな?」
ミカサ「どうせなら女子をもう1人入れてしまいたいところ」
ハンナ「だったら、ユミルを誘ってみる? クリスタが行くなら行くって言い出しそう」
ミーナ「確かに! クリスタ、ユミルを誘ってみてくれない?」
クリスタ「もちろんいいよ。ところで、男の子の方はあと誰が来るの?」
ミーナ「えっとね、ライナーと、ベルトルトと、フランツと、あとマルコ!」
クリスタ「えっ」ドクン
ハンナ「どうしたの? クリスタ」
クリスタ「い、いや、ライナーとベルトルトはわかるけど、フランツとマルコは、珍しい組み合わせだなぁ~って」
ハンナ「なんかあの二人も、今回の休暇は帰省出来ないんだって。コニーやジャンは帰るみたいだけど」
ミカサ「あと女子で言えばサシャも」
ミーナ「まー、むしろ都合がよかったんじゃない? ねーハンナ?」ニヤリ
ハンナ「やだっ、ちょっと、やめてよミーナ!」アセアセ
ミカサ「?」
クリスタ「?」
ミーナ「まーとにかく、そういうことで! 明後日よろしくね、クリスタ!」
クリスタ「うん!」
ハンナ「朝のうちにお弁当作っておかなきゃね。厨房借りれるかな?」
ミカサ「申請すれば大丈夫なはず」
ミーナ「じゃあ明後日の朝8時に、厨房使い始めよっか!」
クリスタ「賛成!」
ミカサ「お弁当……手料理……エレンのために、頑張らねば」キリッ
本日は早いけどここまで。
読んでくださってる方、支援してくださった方ありがとうございます。
もうこれで9作目なのにいまだにSS執筆速度上がらない……精進します。
休日の朝
時刻 09:30
ライナー「最後の弁当箱これなー」ゴトッ
ハンナ「ありがとっ! それじゃあ水筒の用意お願い!」ドタドタ
フランツ「厨房は修羅場になってるね」コポポ
ベルトルト「総勢12人分のお弁当作りだしね」トクトク
アルミン「随分たくさん品数あるみたいだよ。楽しみだね」ゴトッ キュッ
ユミル「お前ら、水筒に茶ぁ入れ終わったらこれで包めよ」バサッ
エレン「なんだこれ?」
ユミル「風呂敷だよバカ」
ミーナ「ユミルー! こっち手伝ってー!」
ユミル「あーもー、はいはい!」
エレン「……ふろしき?」キョトン
アニ「ったくなんでこんなことに……朝っぱらから面倒くさい」ハア
ミーナ「はいはい、アニも手を動かして!」キビキビ
ミカサ「クリスタ、こっちのお弁当、玉子焼きが足りない」
クリスタ「あっ、ごめん! こっちに渡してもらってもいい?」
ミカサ「はい」ゴトッ
ハンナ「クリスタ、こっちもお願い!」ゴトッ
ユミル「悪りいクリスタ、余った卵こっちに回してくれ!」
クリスタ「わわわっ、はぁーい!」アタフタ
クリスタ(ううっ、食事当番でなんとか慣れてきたけど……やっぱり料理は苦手だよぉ)
マルコ「クリスタ、大丈夫?」
クリスタ「ふえっ!?」ビクッ「な、何?」
マルコ「ごめん、驚かせるつもりじゃなかったんだけど……大変そうだから、何か手伝おうかなって」
クリスタ「えっ」
マルコ「食器類の準備が出来て手が空いたんだ。厨房はあんまり人手が増えても、逆に足手まといかもしれないけど」
クリスタ「うっ、ううん! 手伝ってほしい!」
マルコ「それじゃあそこの卵、ユミルのところに持っていっとくね」
クリスタ「うん、ありがとう!」
クリスタ(よかった……なんとかなりそう。マルコのおかげで)
クリスタ(……苦手かもとか、思っちゃってごめんなさい、マルコ。対人格闘の時といい、優しい人だよね)
クリスタ(でも……)
クリスタ(なんとなくだけど、王族や貴族に夢を見過ぎているような感じがして)
クリスタ(ほんの少し、付き合いにくいかな)
時刻 10:15
ミーナ「みんな、荷物は持った?」
エレン「おう……」ズシッ
フランツ「お弁当に水筒……圧倒的な重さだね」ズシッ
ライナー「アルミン、少し持つか?」
アルミン「へ、平気……」プルプル
ベルトルト「無理しなくていいよ」
ハンナ「私達は、食器類とレジャーシート?」
ミカサ「あと、何故かボール」
ユミル「食後の運動用だろ。全く暇なやつらだよな」
ミーナ「実際暇なんだからいいでしょ。じゃあ、出発しよっか!」
時刻 11:00
公園広場
ライナー「着いたぞー」ザッ
ユミル「おぉ、結構広いな」
ベルトルト「芝生がやわらかいね」
ハンナ「わぁ、大きな木!」
フランツ「あの木のあたりでお弁当食べよっか」
ミカサ「……とりあえず、ボールはここに置けばいい?」トン
アルミン「ミカサそこ坂の上……ってあぁ転がってっちゃう!」コロコロ
エレン「よっ、と」トン「何やってんだミカサ」
ミカサ「ごめんなさい」
ミーナ「それじゃあ、レジャーシート広げて! お弁当食べよー!」
クリスタ「頑張って作りました!」パカッ
男子一同「「おぉー」」
アルミン「すごい……美味しそう」
フランツ「女の子って感じがするなぁ。色とりどりだし、盛りつけが丁寧だ」
マルコ「ひとつひとつに手が込んでるね。大変だっただろうに、ありがとうね」
ミーナ「ふふっ、どういたしまして」
エレン「うめえ! なぁこの煮込み誰が作ったんだ?」パクパク
ミーナ「えっ、ちょっ、エレン早すぎ! もうっ!」
アニ「……それは私が作った」
エレン「へぇ、アニ料理上手いんだな」
ミカサ「!」ガチャンッ
ライナー「うおっ、ミカサおい食器落とすな!」
アニ「どうも」
ミカサ「エレン、こっちも食べて」ズイッ
エレン「んあ? 何か見覚えあるな。何だっけ、これ」パクッ
ミカサ「昆布巻き」
エレン「ぶふぉっ!? お、思い出した。これ俺苦手だって前言ったじゃねぇか!」
ミカサ「」ガーン
ユミル「作ってもらっておいて文句言ってんじゃねぇぞエレン」ムシャムシャ
アルミン「そうだよ。美味しいじゃないか」パクパク
ライナー「そうそう、この玉子焼きなんかめちゃくちゃ美味そうだし」ヒョイッ
クリスタ「あ、それ私が」
パクッ
ライナー「……!!??」
クリスタ「えっ?」
ライナー「……」
クリスタ(な、何? どうしたの?)
ベルトルト「ライナー? どうしたんだ?」
ライナー「い、いや……えっと、これはクリスタが作ったのか?」
クリスタ「う、うん、そうだけど」
ライナー「そ、そうか! う、うまい! うまいぞ、うん!」ダラダラ
クリスタ「……本当?」
ライナー「あ、当たり前だろ!」
ユミル「だろうな。なんせ私のクリスタ作だもんな。もらうぞ」ヒョイッ
ライナー「あっ、待てユミル!」
パクッ
ユミル「……んん?」
クリスタ「ユ、ユミル?」
ユミル「なぁ、クリスタ……お前、これ」
エレン「何だ、玉子焼きか?」ヒョイパク
ハンナ「私ももらっていい?」パク
フランツ「僕も」パクッ
パクッ パクッ パクッ
一同「…………」
クリスタ「え? え? 何? どうしたの?」アワアワ
ユミル「クリスタ……お前これ、砂糖どんくらい入れた?」
クリスタ「えっ、えっと……大さじスプーン三杯、だったかな。卵多かったし」
ユミル「……食ってみ」スッ
クリスタ「?」パクッ
クリスタ「うえっ!?」
クリスタ(あ、甘っ! 何これ! こんな味になっちゃったの!?)
クリスタ(でもそういえば、ちゃんと味見してなかったかも……)
クリスタ「うそ……ごめん、みんな」
アルミン「い、いいよ。誰だって失敗することはあるんだし」
フランツ「そ、そうだよ。気にしないで」
クリスタ(……でもみんな、口付けた玉子焼き、それ以上食べようとしない)
クリスタ(うう……何やってるんだろう、私)
パク パク パク
クリスタ(え?)
マルコ「いや、普通に美味しくない?」
クリスタ「マルコ、無理しなくていいよ!」
マルコ「いや、ほんとに美味しいって」パクパク
ユミル「……お前の男気は買うが、私でも庇いきれないレベルの甘さだぞ?」
マルコ「甘党なんだ、僕」モグモグ「他の人の分も、もらっていいかな?」
エレン「お、おう……」
ハンナ「ど、どうぞ……」
マルコ「ありがとう」パクパク
クリスタ(……)
昼食後
一同「「ごちそうさまでしたー!!」」
エレン「アルミン、キャッチボールの相手してくれねぇか?」
アルミン「いいよー」
ミカサ「私も入れてほしい」
ライナー「キャッチボールするにはでかいぞ、これ。どうせなら何か試合してみないか?」
ベルトルト「いいね」
ミーナ「じゃあ私とアニも!」
アニ「勝手に数に入れないでくれる?」
ハンナ「フランツはどうするの?」
フランツ「僕は球技は得意じゃないし……散歩にでも行こうかな」
ハンナ「じゃ、じゃあ、あの、よかったら……一緒にいい?」
フランツ「? いいけど」
ハンナ「!」パアッ
ミーナ「……」ニヤリ
ユミル「クリスタはどうする?」
クリスタ「え、えっと……」チラ
ライナー「マルコも入らないか?」
マルコ「僕はここで休んでるよ。お腹一杯ですぐ動けそうにないんだ」
クリスタ「……」
ユミル「クリスタ?」
クリスタ「私もここで休んでるよ。少し疲れちゃったし」
ユミル「そうか、なら私も」
ミーナ「ユミルー! 女子の数足りてないから入って!」ガシッ
ユミル「おわっ、やめろミーナ!」
ズルズルズルズル…
マルコ「……」
クリスタ「……」
マルコ「ふう」ゴロン「クリスタ、今日はお疲れ様。お弁当作ってくれてありがとう」
クリスタ「私の方こそありがとう。玉子焼き、いっぱい食べてくれて」
マルコ「美味しかったよ、本当に」
クリスタ「嘘。やっぱり甘すぎたよ。残してくれてよかったのに」
マルコ「残したりなんかしないよ。クリスタが一生懸命作ってくれたこと、ちゃんと知ってるんだからさ」
クリスタ「……マルコってさ、やっぱり優しいよね」
マルコ「えっ、やっぱりって?」
クリスタ「今朝の厨房でも、昨日の対人格闘の時もそう」
クリスタ「私のこと、嫌な顔ひとつせず手伝ってくれて」
マルコ「そりゃあ、僕が役立てることがあるなら、進んでやりたいと思うからね。見返りを求めてるわけでもないし」
クリスタ「それが本当に凄いと思うの。誰かが見てるわけでもないのに」
マルコ「でも、クリスタだってそうじゃない?」
クリスタ「えっ?」
マルコ「クリスタもみんなのこと、気遣ってくれるじゃないか。君も十分、優しい子だよ」
クリスタ「私……私は――」
『ヒストリア様は本当にお優しい』
クリスタ「……私は、優しくなんかない」
マルコ「え?」
クリスタ「私は……優しいと、思われたいだけ」
『御父上もきっと喜ばれる』
クリスタ「優しい子だと思われたら、いい子だと思われたら」
クリスタ「必要とされるんじゃないかって――」
誰かに優しくしている時は
自分が居ていい存在だと、思えるから。
マルコ「クリスタ?」ムクッ
クリスタ「ねぇ、どうして? マルコ」
クリスタ「どうしてあなたは、そんな純粋な気持ちで人を助けることが出来るの?」
偽善でもなく、打算でもない、
真っ白な優しさは、初めて見たの。
クリスタ「何の下心も持たず、誰かの役に立とうとするって……難しいことでしょう?」
マルコ「うーん、どうして、か……僕にとっては、それを考える方が難しいかなぁ」
クリスタ「自然と体が動くってこと?」
マルコ「そう、かな。誰かが困ってたら助けたいって思うのは、わりと自然に思うことかもね」
マルコ「それに僕は、なるべく人として恥ずかしくない行動をしたいと思っているんだ。これから王に仕えようとしている身だしね」
マルコ「だから、誰かが助けを必要としているのがわかったら、見て見ぬふりだけはしたくないんだ」
クリスタ「……王様に認められるような人間になるために、人に優しくするの?」
マルコ「うーん、結果的にはそうなるのかなぁ。そうなると僕も、下心がないとは言えないね」
クリスタ「結局は王様のため、か」
マルコ「期待していた答えじゃなくてがっかりした?」
クリスタ「え、いや、そんなんじゃ」
マルコ「ふふ、大丈夫だよ。何となくクリスタが王族にあまりいい印象を持ってないのは、対人格闘の時に感じていたよ」
クリスタ「!」ギクッ
マルコ「確かに王族や貴族とかの上流階級には、僕ら庶民のことを理解しようとしない人や、規律を乱す人がいるって聞くよね」
マルコ「でもそんな彼らだって、自分にしか出来ない役割を果たしていると思うんだ。僕も僕だけの役割を、きちんと果たせる人間になりたくてさ」
クリスタ「自分にしか出来ない……役割?」
マルコ「そう。誰だって、自分の役割ってものを持っていると思うんだ」
マルコ「兵士なら戦うことが一般的な役割なように、王族と貴族は、この世界を治めるという役割を背負っている」
マルコ「頂点にいる人間だろうと、末端にいる人間だろうと変わらない。一人一人が自分の役割を持ってるんだ」
マルコ「だからさ……クリスタ」
マルコ「誰もが役割を担って生きている以上、誰もがこの世界では必要とされているんだと思うよ」
クリスタ「えっ――!?」
『この子が例の……ヒストリアね?』
『愛らしい顔立ち、優しい気性……確かに、レイス公のお気に入りなだけあるわね』
クリスタ「ねぇ……マルコ」
マルコ「何?」
クリスタ「私……私も――」
『なんて邪魔な子なの』
『この子さえいなければ』
『生まれてこなければよかったのに』
クリスタ「必要とされている、人間だと思う?」
マルコ「もちろんだよ!」ニコッ
クリスタ「――!」
マルコ「クリスタ、君は不思議と人にも動物にも好かれる子だ。仲間からの人望も厚く、皆が君に一目置いている」
マルコ「君と話していると、笑顔になる人がたくさんいる。これって本当にすごいことだよ」
マルコ「ただ居てくれるだけで、僕らに幸せを運んでくれるんだもの」
マルコ「君は僕ら104期生にとって、本当に欠かせない人の一人なんだ」
マルコ「例えその優しさに裏があろうとも、それは全く変わらないよ」
クリスタ「……」ドクン
クリスタ(私が……欠かせない人?)
ドクン ドクン
クリスタ(必要とされている人……優しさに裏があろうと――)
ドクン ドクン
ドクン…
クリスタ「……マルコ、私――」
マルコ「わっ!」
クリスタ「えっ?」
バシーン!
クリスタ「きゃあっ!」
エレン「クリスタ! マルコ! 悪りぃ大丈夫か!?」
ミーナ「もう、どこにボール飛ばしてるのよエレン!」
アルミン「マルコー! ナイスキャッチ!」
マルコ「ははっ、ありがとう」
クリスタ(わっ、こんな近くまでボール来てたんだ。気づかなかった)
マルコ「危なかったね。大丈夫だった? クリスタ」
クリスタ「う、うん、平気だよ」
マルコ「よかった」ニコッ
クリスタ「!」ドクン
マルコ「投げるよー!」
ライナー「おーう」
クリスタ「……」
トクン……
そこから、私が自分の気持ちに気づくまで、そう時間はかからなかった。
ハンナがフランツに告白してうまくいった話を聞いてから、私は恋の話に興味を持つようになった。
いつだって相手が気になってしまう気持ち、触れるとドキドキする気持ち、一緒にいるだけで幸せになる気持ち。
人を好きになるということがどんなことか、頭でわかるようになってきた頃――
「ねぇ、クリスタには好きな人いないの?」
頬が熱くなるのがわかった。
クリスタ「えっ、す、好きな人?」
ミーナ「あっ、その顔はいるんでしょ! 教えてよクリスタ!」
ハンナ「そうだよ、私にばっかり話させないで、クリスタもミーナも話してよ! 気になってる人、いるんでしょ?」
クリスタ「えっ、わ、私は――」
真っ先にマルコの顔が浮かんだ。
クリスタ「い、いないよそんな人!」
ミーナ「嘘! 顔赤くなってるよ!」
クリスタ「そっ、それは……そっ、そういうミーナはどうなのっ?」
ミーナ「私~? うーん、気になるっていうか、かっこいいなって思う人はいるよ」
クリスタ「えっ、誰?」
ミーナ「エレンとー、ライナーとー、トーマスとー、うーん、ジャンはちょっとないかな、あとはー」
ハンナ「ちょっとちょっと、ミーナ面食いすぎ! 一人じゃないの?」
ミーナ「だって、まだそういう感じじゃないんだもん。かっこいいなーと思ってるだけだよ」
クリスタ「そ、そうなんだ……」
ミーナ「あーあと、マルコかな!」
クリスタ「えっ」ドキッ
ハンナ「マルコかぁ~、なんかわかるかも」
ミーナ「マルコと一緒の班になると、なんか安心するんだよね」
ハンナ「すごく人当たりがいいよね」
ミーナ「だって、あのジャンと仲良く出来るのよ? それだけで高得点!」
クリスタ「う、うん。優しいよね」ドキドキ
ミーナ「でも、ぜんっぜん恋愛には興味なさそうなんだよねー」
クリスタ「え?」
ミーナ「この前講義教室の掃除中にマルコと話してる時に、フランツとハンナが抱き合ってるところ見ちゃたんだけどね」
ハンナ「やだっ、ちょっとミーナいつの話よ」アワアワ
ミーナ「先週よ先週。私、羨ましいなぁ~って思わず言っちゃって。でもマルコ、なんか乗り気じゃなかったのよね」
ミーナ「それでマルコに聞いてみたの。マルコはああいうの、羨ましいって思わないの? って」
クリスタ「そ、そしたら……?」
ミーナ「『あの二人には悪いけど……羨ましいとは思わないかな』だって」
ハンナ「ええっ、何それ」ムスー
クリスタ「マルコが……?」
ミーナ「何でも、『僕には憲兵団になること以外のことは、今は考えられないから』ってさ」
ミーナ「でも、可愛い子がいたら、可愛いなーくらいは思うでしょう? って聞いたんだけど」
ミーナ「『それは思うけど、そこから好きになるには、ちょっと余裕がないから』だって」
クリスタ「……」
ハンナ「何というか、真面目だね」
ミーナ「ちょーっと理屈っぽいというか、ね」
クリスタ「でも……それだけ、目標に一生懸命なんだね」
『僕は憲兵団を志望しているからね』
クリスタ「……」
クリスタ(好きになる余裕がない、か)
きっと、私のこの気持ちは、
彼が目指す目標の、妨げにしかならない。
クリスタ(もし、私がマルコを好きなことが知られたら――)
叶わない。でもそれ以前のこと。
あの優しい人を困らせてしまう。一途に努力する人の邪魔をしてしまう。
それなら。
この気持ちは、決して伝えない――
マルコのことが、好きだから。
とりあえずここで小休止です。やっと848年終わり。
おかしい……こんな小難しいことを言わせる予定じゃなかったのに……
少女漫画風にマルコ(14)に無双させるのと、重たい理由でマルコを好きになるクリスタ(13)の両立は難しいってわかった。
読んでくださってる方、支援してくださった方ありがとうございます。次あたりはもう少し可愛いクリスタを出します。
――――――――
――――――
――――
849年
クリスタ「ごめんね。今まで黙ってて」
ユミル「……」
クリスタ「でも、私がマルコを好きになったのは……その、私の生まれのことも関わってくるから」
クリスタ「ユミルがそれを知ってるって、この前の雪山訓練で初めて知ったし……言い出せなかったの」
クリスタ「本当に、ごめんね」
マルコもクリスタも大好きだ!
支援
>>83
支援ありがとうございます。読んでくださってる方がいて嬉しいです。(というかほっとしてますw)
引き続きよろしくお願いします。
ユミル「……なぁ」
クリスタ「何?」
ユミル「黙って聞いてて思ったんだが……」ポリポリ
ユミル「一体どこが無謀なんだ?」
クリスタ「え、だって……」
ユミル「お前それ、ただ諦めてるだけだろ?」
クリスタ「だ、だって、マルコは憲兵団に入る夢のために頑張ってて」
ユミル「あいつが憲兵団に入りたいってのと、お前があいつを好きだってことになんの関係がある」
クリスタ「だから、私はマルコを困らせたくないの。わかるでしょう?」
ユミル「わかんねぇな。お前の好きな奴は、自分の夢の為にお前の気持ちを邪魔扱いするような奴か?」
ユミル「お前はただ逃げてるだけだろ。振られるのが怖いだけだ」
クリスタ「そんな――そんなこと」
ユミル「大体なぁ、お前贅沢すぎるぞ!」ガシッ
クリスタ「へっ?」ビクッ
ユミル「こんなちっちゃくて! 可愛くて! 優しいの三拍子だぞ! 普通の男だったらとっくに落ちてる!」バシバシ
クリスタ「痛っ、痛い痛い! 肩強く叩きすぎ!」
ユミル「マルコだってなぁ、あいつだって普通の男だ。お前が全力でアピールしたら、振り向かないわけないだろうが」
クリスタ「痛たた……そんなことないよ。第一マルコは恋愛に興味ないって」
ユミル「だーかーらー! それはお前の言い訳だろ? もっと積極的に攻めてみろ。何もする前から諦めるなよ」
クリスタ「そ、そんな……」
ユミル「とにかく、もう消灯時間も過ぎる。今日はとりあえず戻って寝るぞ」
クリスタ「えっ、あっ、どうしよう、寮の入り口もう閉まっちゃってるんじゃ……」
ユミル「私たちがいないことは分かってるはずだし、多分ミカサが開けてくれてるとは思うが……」
ユミル「裏手に鍵が壊れてる窓がある。もしもの時はそこから入るぞ」スタスタ
クリスタ「わ、わかった!」タタッ
クリスタ「でもユミル、よく知ってるね。鍵の壊れた窓があるって」
ユミル「」ギクッ
クリスタ「……もしかして、しょっちゅう使ってるの?」
ユミル「べ、別にしょっちゅうってわけじゃ」
クリスタ「夜に抜け出して……ベルトルトと会うために?」
ユミル「」
クリスタ「ねぇユミル、結局どういう経緯でベルトルトと付き合うことになったのか、私まだ聞いてないんだけど?」
ユミル「おっと、やっぱり開いてたな」ガチャ「よし、今日はもう話は終わりだクリスタ。また明日な」スタスタ
クリスタ「もうっ、自分のことになるとすぐ誤魔化して」プクー
クリスタ(でも、ちょっとすっきりしたかな。ユミルに隠してるの、やっぱり嫌だったし)
クリスタ(明日からどうなるんだろ……妙に気を遣ったりしないといいけど)
クリスタ(マルコを好きなことは秘密にしているつもりだったのに、今日一日でアルミンとユミル、二人に話しちゃった――)
『クリスタ、僕は、君が好きです』
クリスタ(!)ドキッ
『僕と――付き合ってくれませんか?』
クリスタ(アルミン……)
クリスタ(明日、アルミンにどんな顔すればいいんだろう……)
翌朝
食堂
サシャ「ジャン、コニー、おはようございます!」
ジャン「おう」
コニー「何だよサシャ、俺は後回しかよ」
ジャン「お前が俺の後ろに隠れてんのが悪いんだろ」
コニー「好きで隠れてるわけじゃねぇよ! お前がデカいんだよ!」
ユミル「朝っぱらからうっせーぞお前ら」
クリスタ「ふふ、でも見てると元気になるよね」
ユミル「何言って――あ」
クリスタ「何?」
ユミル「アルミンとマルコだ」
クリスタ「!」ドクン
アルミン「……」
マルコ「おはよう、二人とも」
ユミル「よぉ」
クリスタ「あの、アルミン――」
アルミン「おはよ、クリスタ」ニコッ
クリスタ「!」
アルミン「……」
クリスタ「……うん、おはよ、アルミン」ニコ
マルコ「あのさ、クリスタ」
クリスタ「何?」
マルコ「今日、一緒にご飯食べてくれるかな? 話したいことがあるんだ」
クリスタ「えっ……?」
アルミン「……」
ユミル「……私らは外そうか」
マルコ「そうだね。そうしてもらえるかな」
ユミル「よし、ならアルミン、私もお前に話がある。ちょっと来い」
アルミン「うん、わかった」スタスタ
クリスタ「ちょ、ちょっと二人とも!」
クリスタ(え、う、うそ、これって)ドキドキ
マルコ「とりあえず、食事とりに行こうか」
クリスタ「う、うん」
クリスタ(二人で食事、ってこと? どうしてマルコが……)
クリスタ(でも――)
マルコ「クリスタ、はい」カチャ
クリスタ「あ、ありがとう」ドキッ
クリスタ(ちょっと嬉しいかも、なんて……私、現金すぎるかな?)
マルコ「ここでいいかな?」ガタン
クリスタ「うん。椅子ありがとう」ストン
マルコ「どういたしまして」ガタン
クリスタ「それで、その……話って?」
マルコ「実は、アルミンのことなんだけど」
クリスタ「え」ピクッ「アルミンのこと、って」
マルコ「うん……僕、知ってるんだ。昨日のこと」
クリスタ「!」
マルコ「というより、僕は協力していたんだ。アルミンに」
クリスタ「協力……?」
マルコ「そう。アルミンの気持ちを知って、君とクリスタが上手くいくように、相談に乗ったりしてたんだ」
クリスタ「……」
マルコ「急にこんなこと言われても困るよね。ごめん」
マルコ「ただ、二人が今まで通りになるには、やっぱり時間がかかるだろうなって思ってさ」
マルコ「アルミンは男だし、いつまでもくよくよするような奴じゃない。さっきだって笑ってた。だけど――」
マルコ「事が事だし、お互いなるべく気まずくならないように、接してもらえたらなって」
別テーブル
ユミル「アルミン、どういうつもりだ?」
アルミン「どうって?」モグモグ
ユミル「マルコとクリスタを二人きりにさせて、マルコに何を話させようってんだ?」
アルミン「……ユミルは、知ってるの?」
ユミル「お前の気取った口説き文句から何まで全部な」
アルミン「!」ガチャンッ「き、聞いてたんだ……」カアッ
ユミル「確認するが、クリスタの気持ちはマルコに言ってねぇよな?」
アルミン「勿論言ってないよ」
ユミル「じゃあ、私の天使が今まさに顔を曇らせている理由は何だ」
アルミン「……知ってもらうためだよ。クリスタに」
ユミル「何を」
アルミン「マルコがクリスタをどう思っているか」
アルミン「これから幸せになってもらうために」
クリスタ(……マルコが、アルミンに、協力してた)ズキン
クリスタ(それって……つまり)ズキン
マルコは私のこと、本当に何とも思っていない。
そうじゃないと協力なんてできない。それを話したりもしない。
クリスタ(当たり前だよね。だって私、何もしてこなかったもの)
クリスタ(お料理頑張ったり、苦手な立体機動や座学の成績を伸ばそうとしたりはしたけれど……それはただ、マルコに近づきたかっただけ)
クリスタ(直接マルコにアピールしようとはしてこなかった。近づきたかったけど、気づかれたくはなかった)
クリスタ(そうやって距離を保って……想い続けていられればそれでいいって)
クリスタ(マルコが私のことを何とも思ってなくたって、私は幸せだって――)
でも、だったらどうして私は今、
こんなにも胸が痛いの?
アルミン「残念だけど、マルコはクリスタを友達以上には見ていない」
アルミン「クリスタも多分、マルコに友達としての接し方しかしていないみたいだよね」
アルミン「それはクリスタの希望なのかもしれない……でも」
アルミン「本気で好きじゃなかったら、好きな人を聞かれて、その人の名前を答えたりしない」
アルミン「僕は、クリスタを応援するって決めた。そのためにまずは、クリスタ自身に頑張ってもらわないといけない」
アルミン「頑張るためのスタート地点を、見つめてほしいんだ。辛くても」
イケミン…
続きが気になる
見てる人少ないと思うのでレスがうれしい。めったにやらないけど絶賛全レス中です。
>>102 アルミンはイケミン漢ミン。読んでくださってありがとうございます。
>>103 ありがとうございます。まだまだ続きますがよろしくお願いします。
読んでくださってる方ありがとうございます。長くなりますが最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
ユミル「お前のやってることは、ただの自己満足だろう」
アルミン「わかってる」
ユミル「クリスタはおそらく、お前にそうやって介入されることを望んでない」
アルミン「うん」
ユミル「あの天使クリスタとはいえ、下手したら嫌われるかもな」
アルミン「僕はもう振られ男だからね。それでも構わない」
ユミル「随分潔いな」
アルミン「吹っ切ろうとしているんだよ。必死でね」
ユミル「……」
アルミン「ユミル?」
ユミル「いや、その、何だ……」ポリポリ
ユミル「ありがとな」ボソッ
アルミン「え?」
ユミル「……何でもない」
クリスタ「……」
マルコ「ごめんねクリスタ。クリスタにとってはこんな話、迷惑かもしれないけど……要は、普段通りのクリスタでいてくれれば」
クリスタ「――ないで」
マルコ「えっ?」
クリスタ「謝らないで。マルコ」
クリスタ(マルコに謝られるのは――つらい)
クリスタ(私の気持ち、知らないんだろうけど……なんだかやんわり断られてるみたいで)
マルコ「クリスタ?」
クリスタ「……私は、大丈夫だから」
マルコ「そっか、ありがとう」ニコ
クリスタ「……」カチャ…
クリスタ(どうしよう……これ以上会話が続かない。さっきまで勝手に浮かれてたのがバカみたい)
クリスタ(こんな風に、マルコと二人で話す機会なんてめったにないのに――)
マルコ「クリスタ、最近調子はどう?」
クリスタ「え?」
マルコ「訓練。前に比べて座学や立体機動の成績、伸びが良くなってるよね。すごく頑張ってる」
クリスタ「!」カチャン「マルコ、知ってたの……?」
マルコ「うん。というかやっぱり、クリスタのことも気になってきてね」
クリスタ「えっ!?」ドキッ
マルコ「卒業まであと3か月だからさ。上位陣の成績は、どうしても気になって」
クリスタ「あ、そ、そういうこと……」
マルコ「クリスタは憲兵団行きを狙ってるの?」
クリスタ「そ、そんな無理だよ! 私なんて」アワアワ
マルコ「でも、頑張れば狙える位置じゃない?」
クリスタ「そんなことない。だってユミルがいるもの。コニーやサシャだって、私じゃ追いつけないし」
マルコ「コニーとサシャは一気に伸びてきたよね。あの二人には本当に驚かされるよ」
クリスタ「上位10人はもう、決まったようなものだよ……ミカサに、アニに、ライナーにベルトルト、エレンにジャン」
マルコ「あと、自分で言うのも何だけど、僕もね」
クリスタ「……よかったね。憲兵団になれそうで」
マルコ「まだ油断は出来ないけどね。でも、ありがとう」
クリスタ「……マルコが、憲兵団に入ったら」
マルコ「うん?」
クリスタ「もう、会えないのかな?」
マルコ「……そっか、そうだよね。憲兵団だけ内地に行くことになるし」
マルコ「それでなくとも卒業して所属兵科が違えば、なかなか会えなくなるだろうね」
クリスタ「……」ズキッ
マルコ「寂しくなるなぁ。どうなるにせよ、ここでの生活もあと少しだね」
クリスタ「そう、だね……」
カーン カーン
クリスタ(あ、食事の時間、終わっちゃった……)
マルコ「それじゃあクリスタ。今日はありがとう」ガタン
クリスタ「ううん、私こそ」
マルコ「またね」
クリスタ「うん、また」
クリスタ「……」
これは期待せざるを得ない!クリスタ頑張ってほしいわ。続き待ってます!
>>113
支援ありがとうございます。期待してくださってうれしいです。
短いですが今日ぶんの投下始めます。
ユミル「クリスタ」
クリスタ「ユミル……」
ユミル「浮かねぇ顔してんな」
クリスタ「……」
ユミル「アルミンから聞いて、大体のことはわかってる。その上でお前に問いたいんだが」
ユミル「お前、どうしたい?」
クリスタ「……あのね、ユミル」
クリスタ「訓練の前に、いったん外に出てお話したいんだけど、いいかな?」
女子寮出口付近
ユミル「とりあえず、今お前が思ってること全部、吐き出しちまえよ」
クリスタ「……」
クリスタ「ねぇ、ユミル」
ユミル「何だ」
クリスタ「ユミルは、卒業したら憲兵団に入るの?」
ユミル「は? 憲兵団? 私がか?」
クリスタ「うん。だってユミルは、最終成績上位10名に入れるでしょう?」
ユミル「順位なんてどうだっていいよ私は。憲兵団にも興味はない」
クリスタ「そっか……」
ユミル「憲兵団に入りたいのか? マルコを追って」
クリスタ「憲兵団に入りたい、っていうよりは……もっと一緒にいたい、かな」
ユミル「けっ、クリスタにここまで想われてるとは、どんだけ幸せ者だよあいつは」
クリスタ「でも、マルコはそんなこと知らないよ。だったらマルコにとって私の気持ちは、ないのと同じじゃないかな」
ユミル「……卑屈になってんじゃねぇよ」
クリスタ「違うの。私、それでいいって思ってたの。マルコのこと、好きでいられたらそれでいいって」
クリスタ「でも……今日マルコと話してて、わかったの。マルコになんとも思われていないの、やっぱりショックだった」
クリスタ「ほんの少しでもいいから、私を見てほしいって、思ってる自分がいたの」
クリスタ「ユミルの言う通りだった。私は、振られるのが怖くて逃げてるだけだった」
クリスタ「私がずっと持ち続けたこの気持ちが、マルコに何にも残さないまま卒業して……月日が経って、私のことを忘れられてしまったら」
クリスタ「――それだけは、嫌」
クリスタ「私の存在を、私のこの気持ちを、マルコに覚えていてもらいたい。卒業してもずっと」
クリスタ「だからね、ユミル。私……」
クリスタ「卒業まで、あと三か月。その間だけでも、私の気持ちがマルコに伝わるように頑張ってみたい」
クリスタ「今はマルコにとって、大事な時期だってわかってるけど……私も、悔いを残したくないから」
クリスタ「マルコはきっと憲兵団に入るだろうし、もう我儘になってもいいかなって」ニコッ
ユミル「……」
クリスタ「悪い子だよね、私」
ユミル「……に言ってんだよ」
クリスタ「え?」
ユミル「十分普通だよ、お前は」クシャッ
クリスタ「きゃっ」
ユミル「相手を好きな気持ちに正直になれる……いたって普通の女だよ」ナデナデ
ユミル「それが出来るのが……許されるのが……どんなに羨ましいか――」
クリスタ「ユミル?」
ユミル「……いや、何でもない。忘れろ」パッ
フツーの女の子してていいなぁ
>>121
進撃のメイン女子にはフツーの少女として生きてこられた子が少ない気がします。ミカサ然りアニ然りクリスタ然り。
SSでくらい普通の女の子させてあげたいです。
今日の投下ぼちぼち始めます。支援ありがとうございます。
カーン カーン
ガチャッ
ミーナ「あれ、ユミルにクリスタ、こんなところで何してるの?」
ユミル「別に、ちょっと話してただけだ」
ミーナ「そう。そろそろ訓練始まるよ~」タタッ
ユミル「あぁ」
クリスタ「午前は、対人格闘の時間だね」
ユミル「そうだな」
クリスタ「……早速頑張るよ、私」
ユミル「おう」
クリスタ「じゃあ、私たちも行こっか」
ユミル「クリスタ」
クリスタ「なぁに?」
ユミル「マルコと話す時は、もっと笑顔を見せてやれよ。真剣な顔のクリスタもいいが、笑顔の方が私は好きだ」
クリスタ「……うん。ありがと」
午前
対人格闘訓練
トーマス「今日の獲物は……長剣か」
ミリウス「つっても、用は木刀だけどな」
ユミル「くっそ、重てぇなこれ。振り回すのも大変じゃねぇか」
ベルトルト「貸してユミル。先に僕がならず者をやるよ」
ユミル「おう、そうしてくれ――おっと」
ベルトルト「?」
ユミル「ベルトルさん、ちょとどけ」グイ
ベルトルト「は?」
ユミル「クリスタが見えねぇんだよ」
ベルトルト「いや、今訓練中」
クリスタ「マルコ、よろしくね」
マルコ「こちらこそ。クリスタと組むの、久しぶりだね」
クリスタ(……誘いたい気持ちは、ずっとあったんだけどね)
クリスタ「前に教えてもらったこともあるけど、覚えてる?」
マルコ「もちろんだよ」
クリスタ「あのね、私……あれから格闘術、すごくがんばったの」
クリスタ「だから、成果を見てほしいな」ニコッ
とても面白い乙
終わりが見たくない
長く見てたいスレですね。
ユミル「おぉ、さすがの天使スマイルだ。いいぞクリスタ」
ベルトルト「ユミル、クリスタなら後でも十分見れるじゃないか」
ユミル「今見なきゃ意味ねぇんだよ」
ベルトルト「今って……マルコとの訓練中に何があるっていうのさ」
ユミル「お前なら見てりゃわかるだろ。察しはいいんだから」
ベルトルト「えー……?」
マルコ「じゃあ、僕がならず者をやるね」スチャッ
クリスタ「うん。お願いします」
マルコ「よし、はぁっ!」ダッ
クリスタ「やっ!」ヒュンッ
クリスタ(前にマルコに言われたこと……私は、兵士としての体躯に恵まれていない)
クリスタ(正面から攻撃を受け止めようとしても、いなす前に力負けしちゃう)
クリスタ(だから――)
クリスタ「えい!」ヒュオッ
クリスタ(攻撃を見切ったり、先読みしたりする力をまずはつけること)
クリスタ(そして、それを躱し相手の懐に入る)ガッ
クリスタ(相手の突進する力を利用して、自分は力を使わずに)
クリスタ「はあ!」バシッ
クリスタ(崩す!)
ドサッ!
マルコ「ったた」
クリスタ(わっ、思った以上に派手にやっちゃったかも)
クリスタ「マルコ! ごめんね、大丈夫だった?」
マルコ「大丈夫だよ。受け身はちゃんととれた」
クリスタ「よかった」ホッ
マルコ「すごいねクリスタ。前に僕が教えたのは概念的なことだけだったのに、それをここまで実践で使えるようにするなんて」
クリスタ「えへへ、ありがとう」カアッ
クリスタ「頑張ったんだよ私。マルコにアドバイスしてもらってから」
マルコ「うん。すごく伝わってきたよ」
クリスタ「ほ、本当?」パアア
ベルトルト「……ん?」
ユミル「気づいたか」
ベルトルト「いや、ちょっと待って……え? ほんとに?」
ユミル「本当なんだな、これが」
ベルトルト「え、待って待って、ユミルいいの?」
ユミル「何がだよ」
ベルトルト「いやだって……やけに冷静じゃない? クリスタとられちゃうよ?」
ユミル「別にクリスタは私の所有物なわけじゃないからな」
ベルトルト「へぇ、何か意外。もっと執着あるのかと」
ユミル「そりゃあ、あれがお前の同郷の筋肉ダルマだったら許さねぇけどよ」
ベルトルト「……手厳しいね」
ユミル「でも……話聞いてると、わかるんだよ。あいつがマルコを好きになった理由が。他の奴じゃ駄目で、マルコじゃないといけなかった理由が」
ユミル「それは、あいつにしかない理由だから……出来る限り応援してやりたいんだ」
ベルトルト「けど、マルコは憲兵団に入るんだよね? 例えクリスタの想いが届いても、クリスタと離れ離れになるんじゃ」
ユミル「あいつは別に、両想いになってずっと一緒になんて、メルヘンチックなこと考えちゃいなかったよ」
ベルトルト「えっ?」
ユミル「ほんの少しでも振り向いてもらいたい、今まで隠してきた想いを伝えて、そうして自分を覚えてもらいたいって――」
『本気で好きじゃなかったら、好きな人を聞かれて、その人の名前を答えたりしない』
ユミル「……」
ベルトルト「ユミル?」
ユミル「……いや。とにかく私は、クリスタのやりたいようにやらせたいだけさ。クリスタの願いを叶えてやりたいんだ」
ベルトルト「そっか……ねぇユミル」
ユミル「何だ」
ベルトルト「さっき、クリスタがマルコじゃないといけなかった理由がわかるって言ってたけど」
ベルトルト「君にも――あると思っていいのかな。僕じゃないといけなかった、理由」
ユミル「……」
ユミル「さぁな……」
本日分の投下終わり。
>>127
支援ありがとうございます。まだまだ長くかかりますこのスレ……最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
読んでくださってる方ありがとうございます。こつこつ頑張っていきます。
乙乙!毎回楽しみにしてます
舞っとるで
乙
クリスタが幸せになりますように
3レス……だと……(歓喜)
>>137
乙ありがとうございます。今日も頑張る力になります。
>>138
ありがとうございます。よろしければ明日も舞っとってもらえると嬉しいです。
>>139
乙ありがとうございます。自分もクリスタの幸せを祈ってます。
今日分投下始めます。時間が時間なのでいつも以上に短いかもです。すみません。
クリスタ「じゃあ、次は私がならず者を――」ズシッ
クリスタ(うっ、木刀が重たい……)ヨロヨロ
マルコ「クリスタ、大丈夫?」
クリスタ「う、うん、平気。いくよっ」フラッ
マルコ「あ、ちょっと待って」パシッ
クリスタ「へっ?」
マルコ「握り方を変えた方がいいかも」
マルコ「ちょっと力抜いて。こうやって――」ギュッ
クリスタ「ひゃっ!?」ビクッ
マルコ「あっ、ごめんね」パッ
クリスタ「い、いいの! 続けて!」
マルコ「じゃあ、ちょっと失礼するね」ソッ
クリスタ「……」
クリスタ(なんか、後ろから抱かれてるみたいな格好になってる)ドキドキ
クリスタ(マルコの手、大きいなぁ)ジィー
マルコ「左手の向きをもう少し外側に――そうそう」
クリスタ(わっわっ、近い近い!)
マルコ「ごめんクリスタ、ちょっと離れようか?」
クリスタ「ううん、ぜんっぜん大丈夫!」キリッ
クリスタ(……幸せ~)ポワー
◇
訓練終了後
マルコ「お疲れ様クリスタ」
クリスタ「うん。今日は本当にありがとう」
マルコ「じゃあまたね」
クリスタ「また~」フリフリ
クリスタ「……」
クリスタ「えへへ……」ポワポワ
ユミル「だらしない顔してんな」ザッ
クリスタ「あっ、ユ、ユミル!」カアッ
ユミル「ちょっと一緒にいただけでこうなるなんて、よく今まで誰にも気づかれなかったな」
クリスタ「ちょっとじゃないよ。今日はほんとにいっぱいしゃべれたよ!」
ユミル「まぁ、今まで接触を控えてたんなら、これでも充分に進歩なんだろうな」
クリスタ「うん!」キラキラ
ユミル「さて、とっとと食堂行くぞ。またマルコと二人にしてやろうか?」ニヤッ
クリスタ「いっ、いいよ今日はもう! これ以上は心臓が持たないよ!」アワアワ
ユミル「今日は? もう今日は話さなくていいのか?」
クリスタ「うん……ちょっとずつでいいんだ」
クリスタ「ちょっとずつ、ちょっとずつ、一緒にいる時間を作っていきたいの」
クリスタ「その方が、ずっと覚えてもらえると思うから」
ユミル「……」
ユミル「そうか」
乙
>>147
乙ありがとうございます。ちまちまとしか進まなくてすみません。
読んでくださってる方、支援してくださった方ありがとうございます。この次の投下あたりで全レスおよび小休止はなくなると思いますが、引き続きよろしくお願いします。
クリスタ(そう、焦らなくていいの)
クリスタ(私の気持ちは、そう簡単に伝えきれるものじゃない)
この一年間、ずっとあなたを見てた。
あなたに近づきたかった。
あなたに追いつきたかった。
あなたの傍にいたかった。
この想いに素直になることを、ずっと避けてきたけれど――
クリスタ(もう元には戻れないなぁ)
こんなにも満たされた気持ちになるなんて。
ユミル「……なぁ、クリスタ」
クリスタ「ごめんねユミル、私お手洗い行ってから食堂行くね。また後でね!」タッタッタッタッ…
ユミル「……ああ」
ユミル「……」
◇
クリスタ(次はいつマルコと話そうかな?)
クリスタ(マルコのおかげで頑張れたこと、まだまだいっぱいあるからなぁ~)ウキウキ
翌々日
午前
座学
教官「先日の試験を返却する。アッカーマン」
ミカサ「はい」ガタッ
コニー「やべぇ……今回かなり難しくなかったか?」ヒソヒソ
教官「アルレルト」
アルミン「はい」ガタッ
サシャ「卒業が近いですからね。教官も容赦ありません」ヒソヒソ
クリスタ「……」ジィー
教官「ボット」
マルコ「はい」ガタッ
教官「――」
マルコ「――」
クリスタ(あ、マルコ笑ってる。褒められたんだろうなぁ)
クリスタ(流石だなぁ……マルコは座学得意だもんね)
クリスタ(……かっこいいなぁ)ポケー
教官「――ンズ。レンズ」
クリスタ「あっ、はいっ!」ガタッ
クリスタ(いけない、ぼーっとしちゃった)カアッ
クリスタ「すみません」
教官「いや……よく頑張った」ピラッ
クリスタ「え――わぁっ!?」
クリスタ(はっ、88点!? うそっ、すごい! こんな点数とったことない!)キラキラ
教官「この調子で最後まで励みなさい」
クリスタ「はいっ!」
コニー「どうしたんだクリスタ。そんなでかい声だして」
クリスタ「えっ、あっ、ごめんなさい!」
アハハハハ…
教官「……浮かれるのもいいが、すこし慎みを覚えたほうがいい」
クリスタ「はい」カアアア
教官「今回の試験の順位は、講義後廊下に掲示される。各自よく確認して、最終試験にむけてより上を目指して頑張りなさい」
講義後
廊下
ザワザワ
コニー「だーくそ! またサシャに負けた……」←70点
サシャ「まあまあ、十分頑張ったじゃないですか」←73点
ジャン「っし! こんなもんだな。エレンにも勝ってるし……あ、ミカサ!」←85点
ミカサ「エレン、もう少し頑張らないと」←99点
エレン「わかってるよ! お前に言われなくったって!」←74点
アルミン「まあまあ、僕も手伝うから」←100点
エレン「ったく、ミカサといいアルミンといい、なんで俺の幼馴染はこうも頭がいいんだ……」
ジャン「」
クリスタ(えっと、私の名前私の名前……)
マルコ「あ、クリスタ!」
クリスタ「わっ!」ドキッ「マ、マルコ、何?」
マルコ「すごいねクリスタ。上位10位に入ったよ!」
クリスタ「えっ!?」
クリスタ「ほんとだ……10位だ……!」
いいね
>>157
イイネ(・∀・)キター ありがとうございます。もうちょいほのぼのさせようと思います。
クリスタの頑張りをもうちょい書いていこうと思います。では投下。
クリスタ「うそ、信じられない……やったあ!」
マルコ「おめでとうクリスタ」
ライナー「おっ、クリスタ10位に入ったのか。道理でさっき喜んでたんだな」
ジャン「俺クリスタに負けたの初めてじゃねぇか? すげぇな」
サシャ「おめでとうございます、クリスタ!」
クリスタ「え、えへへ」テレッ「ありがとう!」
マルコ「今回の試験、立体機動装置の知識から巨人の生体の知識まで幅広かったのに、頑張ったね」
クリスタ「うんっ。だって――」ハッ
クリスタ「……」
マルコ「クリスタ?」
クリスタ「あのね、マルコ」コソッ
マルコ「うん?」
クリスタ「私ね、座学はマルコを目標にしてたんだ」
マルコ「え、僕を?」
クリスタ「そう。ほら、私座学苦手だから……誰か座学が得意な人を目標にして、その人に追いつけるように努力しようと思って」
マルコ「それで、僕を目標にしたってことか」
クリスタ「うん」
マルコ「そっか……それじゃあ、僕もうかうかしてられないな。次の試験、お互い頑張ろうね」
クリスタ「! うん!」パアア
ライナー「……」
ベルトルト「ライナー? どこ見てるの?」
ライナー「なぁ、クリスタは……マルコと何コソコソ話してるんだ? どことなく嬉しそうに見えるが」
ベルトルト「あー……ライナー、あの」
アルミン「ライナー、ちょっと」クイクイ
ライナー「へ?」
アルミン「話しておかないといけないことがある」
ナニイイイイイ!?
サシャ「ライナーが騒がしいですね」
コニー「だな。口あんぐり開けてら。アルミン何言ったんだ?」
サシャ「今度はベルトルトが割って入って、ライナーに肩ゆすられてますね」
コニー「お、ユミルが来たぞ。まとめに入ってら」
サシャ「四人で何の話をしてるんでしょう」
コニー「さぁな。まぁ何でもよくねぇ?」
サシャ「そうですね。あまり興味をそそられませんし」
サシャ「それよりコニー」
コニー「何だ?」
サシャ「マルコとクリスタ、見てると何だか癒されませんか?」
コニー「だな。何というか、和む」
サシャ「あの二人のいるところだけ、雰囲気が柔らかいですよね」
コニー「おお、うまいこと言うなサシャ。確かにそんな感じだ」
サシャ「ありがとうございます」
コニー「……」
サシャ「……」
コニー「癒されるな」ホワー
サシャ「ですね」ホワー
サシャ「それよりコニー」
コニー「何だ?」
サシャ「マルコとクリスタ、見てると何だか癒されませんか?」
コニー「だな。何というか、和む」
サシャ「あの二人のいるところだけ、雰囲気が柔らかいですよね」
コニー「おお、うまいこと言うなサシャ。確かにそんな感じだ」
サシャ「ありがとうございます」
コニー「……」
サシャ「……」
コニー「癒されるな」ホワー
サシャ「ですね」ホワー
数日後
昼
厨房
クリスタ「スープの具、ちょっと足りないかも」
アニ「わかった。男子はお皿用意しといて」トントントン
マルコ「食器これでいいんだっけ?」
ジャン「確かな。あーくっそ無駄に重てぇ……」
ライナー「おいそこの馬鹿二人、つまみ食いは禁止だ」
コニー「あっやべ」ササッ
サシャ「見つかっちゃいました」ササッ
コトコト
クリスタ「じゃあアニ、葉物の野菜入れてくれる?」
アニ「はいよ」パラパラ
アニ「いつもの通り、味付けは任せていい?」
クリスタ「うん!」
クリスタ(えーっと、まずお塩から……あれ?)
クリスタ「えっと、お塩どこかな」キョロキョロ
マルコ「はい」スッ
クリスタ「あっ、ありがとう! マルコがスープの食器持ってきてくれたんだね」
マルコ「うん。これから味付け?」
クリスタ「そうなの」ニコッ
マルコ「クリスタが作る日って、いつも味付け凝ってるよね」
クリスタ「えっ」ドキン「知ってたの?」
マルコ「うん。食事当番一緒の時はもちろんだけど、そうじゃない時でも味で分かるよ。これ、クリスタが作ったんだろうなって」
クリスタ「そ、そうなの!?」カアッ
クリスタ「わ、私、変な味付けしてないよね? 美味しくない?」
マルコ「まさか。逆だよ。素材は変わらないのに、より深みが出てて美味しいんだ」
クリスタ「ほ、本当?」
マルコ「うん。僕、クリスタの味付け好きだから、今日も楽しみだよ」
クリスタ「えええ!?」カアアアッ
マルコ「? どうしたの?」
クリスタ「なななななんでもない! わかった、今日も頑張るから!」
クリスタ(い、いきなり『好き』って言われてびっくりしちゃった。味付けのことだけど)
クリスタ(……お料理の本、ちゃんと勉強してきてよかった)
クリスタ「えへへ……」
ライナー「……」ジィー
エレン「ライナー? どうしたんだ。すげぇ悲壮な顔してるな」
ライナー「……兵士には引かなければならない時もあることを、思い知らされただけだ」プルプル
エレン「は?」
二週間後
午後
立体機動訓練
ミカサ「とうとうこの訓練も大詰め……」チャキッ
ミーナ「うー、緊張するなぁ」
フランツ「トリガーよし……ガスよし……」カチャカチャ
サムエル「ベルトよし!」ビシッ
クリスタ「え? 今日で小人数訓練は終わりなの?」
ユミル「らしいぞ。次からはずっと規定の班ごとに分かれた集団訓練になる」
クリスタ「そうなんだ……」
ユミル「心配しなくても、私たちは同じ班なんだからいいだろ?」
クリスタ「う、うん。そうだね」
ユミル「それとも、後方の42班の配置からじゃ、19班班長様の顔が見えづらくて寂しいか?」
クリスタ「なっ、何言ってるの! もうっ!」カアアアッ
ユミル「もー、ここんとこお前ずっとあいつばっかり見てるから、私が寂しいよー」ギュー
クリスタ「わっ、ちょっと待ってユミル声大きいっ、近くにいるからっ」ヒソヒソ
アルミン「……」
マルコ「アルミン? どうしたの?」
アルミン「ううん、何でもない」
教官「注目! これより5つのポイントに分かれて2人組訓練を行う! 各自整列せよ!」
全員「はっ!」バッ!
ゾロゾロ
ユミル「クリスタ、先に行け」
クリスタ「え? う、うん」
クリスタ(――あ、前にマルコがいる。もしかしたら、同じ組になるかも)
クリスタ「ユミル、ありがと」コソッ
ユミル「まだ分かんねぇよ。確立2分の1だ」
教官「前から2人ずつ出発し、目標を討伐し次第帰還ポイントに戻れ! 始め!」
バシュウウウ
教官「次!」
バシュウウウ
クリスタ(えっと、二人ずつだから……)ヒィフゥミィ
クリスタ(あ、駄目。マルコ、前にいるアルミンと組むことになる……)
クリスタ(まぁ、こればっかりは仕方ないよね)シュン
マルコ「アルミン、僕たちが組むみたいだ」
アルミン「みたいだね」クルッ
アルミン「――あ」ハッ
教官「次!」
バシュウウウ
マルコ「アルミン、次だよ」
アルミン「えっと、ごめん、ちょっと待って」ゴソゴソ
ユミル「ん? アルミンの奴何やってんだ?」
クリスタ「アルミン?」
教官「次!」
アルミン「あ、やっぱり。教官!」
教官「何だ、アルレルト」
アルミン「シャフトがやや摩耗していました。いったん列を離れて交換に行ってもよろしいでしょうか?」
教官「何だと、始まる前に何故確認していなかった!」
アルミン「申し訳ありません!」
教官「今すぐ交換し、訓練後夕食まで走ってこい!」
アルミン「はっ!」バッ
クリスタ(えっ?)
教官「組み直しだな。レンズ! 次だ!」
クリスタ「は、はいっ!」
これはイケミン
アルミン「クリスタ」スッ
クリスタ「え?」
アルミン「――頑張ってね」ボソッ
クリスタ「!!」
クリスタ(うそ、まさか……私のために)
クリスタ「ア、アル――」
教官「レンズ! 早くしろ!」
クリスタ「す、すみませんっ!」ダダッ
マルコ「……?」
クリスタ(アルミン……私、あなたの気持ちに応えられなかったのに)
クリスタ(ごめんなさい……)
教官「始め!」
マルコ「――とりあえず行こうか、クリスタ」バシュウウ
クリスタ「うん」バシュウウ
クリスタ(……ありがとう)
バシュウウウ
マルコ「クリスタ、目標見える?」バシュッ キンッ
クリスタ「うん!」バシュッ キンッ
マルコ「じゃあ、僕が足の部分に行くから、クリスタはうなじを!」バシュウウ
クリスタ「はい!」バシュウウ
クリスタ(わぁ、斬撃担当ってめったにやらないから緊張する……頑張らなきゃ!)
マルコ「行くよ!」バシュウウウ…ザンッ!
クリスタ(今だっ!)
クリスタ「えいっ!」ザグッ!
クリスタ(やった! 結構深い!)
マルコ「よし、お疲れ様クリスタ! すぐ離れよう!」バシュウウウ
クリスタ「ありがとう!」バシュウウウ
マルコ「僕らの帰還ポイントは南かな。ちょっと遠いね」ヒュオオオ
クリスタ「そう、だね……あの、マルコ」ヒュオオオ
マルコ「何?」バシュッ キンッ
クリスタ「その……今の私の動き、どうだった?」バシュッ キンッ
マルコ「うん、良かったよ。クリスタ、ちょっと立体機動のスピード上がった?」
クリスタ「そうなの! 前に一緒に5人班で訓練したでしょう? 模型が倒れてくるのに、私の反応が遅くてライナーが怪我しちゃって」
マルコ「あったね、そんなこと。でもあれは模型の内側が腐ってたから」
クリスタ「でも、私がもっと早く動けてたらよかったのになって思って。ずっと思ってたことなんだけど」
クリスタ「ほら、アニやコニーは体大きくないのに、すごく速く動けるし、斬撃も重いでしょう?」
クリスタ「私も、あんな風に動けるようになりたくて。体重移動の仕方とか、いろいろ考えて変えてみたの」
クリスタ「それで……少しでも、指揮官役の人に、上手く使ってもらえるようになりたくて」
マルコ「へぇ……そんなこと考えてたんだ。偉いね、クリスタ」
クリスタ「ありがと」テレッ
マルコ「ただ、あんまり速さばっかり追求するのも、クリスタにとっては危ないんじゃないかな」
クリスタ「え?」
マルコ「確かに、体が小さい人ほど、立体機動では速さが出るね。斬撃の重さもある程度、体重移動で出すことが出来る」
マルコ「でもクリスタ、前に対人格闘の時に言ったことの繰り返しになっちゃうけど……君は体が軽すぎる」
マルコ「あまり速さに気を取られていると……例えば目の前に障害物がある時とかに、急に止まれなくて危ないんだ」
マルコ「だから、スピードも大事だけど、その場合は、きちんと緩急がつけられるようにしないといけない」
マルコ「0から100にするだけじゃなく、100から0にする力も必要だからね」
マルコ「特に――クリスタ、君の身を守るために」
クリスタ「!」
マルコ「今のままだと、少し動きが危なっかしいところもあるから、修正かけていくといいと思うよ」
クリスタ「……」
クリスタ「ありがとう。マルコ」
いつも読んでる
支援
マルコ「あっ、帰還ポイントが見えてきたね。行こうか」バシュウウウ
クリスタ「うん」バシュウウウ
クリスタ「……」
クリスタ(マルコ)
クリスタ(私……あなたと話していると、自分が生きているって実感がわくの)
クリスタ(自分の身なんかどうだっていいって思ってた気持ちが、溶けるように消えていくのがわかるの)
クリスタ(この安らぎがずっと続けばいいのにって、思うのに――)
出来ることならいつまでも、あなたの傍にいたいのに。
もう、時間が残されていない。
ここまで読んでくださった方、支援してくださった方ありがとうございました。
こっから先は全レスなし、小休止なしで淡々と進みます。
今回前置きを>>1でなく>>2に書いたので、おそらく忘れてる人も多いと思いますが注意事項ありです。
プロットをもう少し詰めたら投下再開します。
最後までよろしくお願いします。
850年
解散式当日
朝
女子寮
クリスタ「……」ムクリ
クリスタ(……訓練兵でいられるのも、あとわずか)
クリスタ(今日で訓練兵団を卒業して、明日の夜には所属兵科を決めることになる)
クリスタ(調査兵団、駐屯兵団、憲兵団。ほとんどの人は駐屯兵団を選ぶけれど)
クリスタ(違う兵団を選んだ人とは、きっともう会えなくなる……)
クリスタ(マルコとも、きっと――)
ユミル「クーリスタ!」ガバッ!
クリスタ「わっ、ちょっ、ユミル! 起きてるよ、もうっ」ジタバタ
ユミル「いーだろー別に―」ギュー
クリスタ「もう……」
ユミル「もうお前とも、お別れなんだからさ」ボソッ
クリスタ「えっ――?」
クリスタ(どういうこと? だってユミルは……)ハッ
クリスタ「ユミル……そういえば昨日、就寝時間までに帰ってこなかったよね」
ユミル「そういうのは詮索するもんじゃないぞ」
クリスタ「やっぱり! ベルトルトと一緒に憲兵団に行くことにしたのね? そうでしょ?」
ユミル「は?」
クリスタ「昨日ベルトルトと会ってたんでしょ? ベルトルトに、憲兵団に来てくれって言われたのね?」キラキラ
ユミル「……あー」ポリポリ
クリスタ「よかったねユミル。幸せになってね」ニコッ
ユミル「クリスタ、あのな」
ミーナ「食堂行くよー! みんな仕度仕度!」
クリスタ「はーい! 行こ? ユミル」
ユミル「……あぁ」
食堂
「今日で卒業かー」
「やっとここの訓練から抜け出せるのかと思うと、ほっとするな」
「お前どこの兵科行く?」
ジャン「いよいよだ……」
マルコ「やっと望みが叶うね、ジャン」
ジャン「あぁ。ずっとこの時を待っていたぜ。俺は絶対に憲兵団に入る!」
クリスタ「……」ジィー
ミーナ「クリスタ? どこ見てるの?」チラ
クリスタ「え、あ、いや」アタフタ
ハンナ「あぁ、ジャン達だね。今日、憲兵団に行ける成績上位10名が発表されるから」
ミーナ「ここ数日の上位陣の緊張っぷりはこっちで見ててもハラハラしたよねー。今更どうこうなるものでもないのにね」
クリスタ「仕方ないよ。憲兵団に入れるかどうかがかかってるもの」
ハンナ「そういえば、クリスタは憲兵団狙ってるの?」
クリスタ「えっ!?」
ハンナ「クリスタ、最近すごく頑張ってたじゃない。馬術はもともと成績いいし、憲兵団行けるんじゃない?」
クリスタ「そ、そんなことないって!」
ミーナ「でも、私もクリスタが憲兵団に行っても驚かないな」
クリスタ「もうミーナまで! 私は憲兵団なんて行けないよ!」
ハンナ「じゃあ、どこに行くの?」
クリスタ「え、う、うーん……駐屯兵団、かな?」
ミーナ「わぁ、一緒!」
ハンナ「駐屯兵団行く人って、やっぱり多いのかな」
ミーナ「憲兵団には10人しか行けないし、調査兵団は物好きしか行かないようなところだし、自然とそうなっちゃうんじゃない?」
クリスタ「そ、そうだね……」
クリスタ(本当は私、最初は無事に卒業しちゃったら、調査兵団に行こうとしてたけど)
クリスタ(でも……)
『クリスタ』
クリスタ(もう、自分の命を無駄にするようなことはしない)
『君の身を守るために』
クリスタ(死ぬこと以外で、私を覚えてもらいたいマルコのために)
クリスタ(あの優しいマルコの……望まないようなことは、しない)
解散式の夜
クリスタ(いよいよ、成績上位10名の発表……)
教官「首席、ミカサ・アッカーマン、二番、ライナー・ブラウン、三番ベルトルト・フーバー」
クリスタ(信じては、いる。だけど……)
教官「四番、アニ・レオンハート、五番、エレン・イェーガー、六番、ジャン・キルシュタイン」
クリスタ(神様……)
教官「七番、マルコ・ボット」
クリスタ(やった!)
教官「八番、コニー・スプリンガー、九番、サシャ・ブラウス」
クリスタ(マルコ、よかったね。おめでとう……)
教官「十番、クリスタ・レンズ」
クリスタ(――え?)
教官「レンズ、お前が十番だ。早く前に並べ」
クリスタ(え? 何? 何を言っているの?)
ミーナ「クリスタ、おめでとう!」
ハンナ「やったね!」
クリスタ(私? 私を呼んだの?)
クリスタ(……十番?)
ミーナ「ほら、早く行かないと教官に怒られちゃうよ!」ドンッ
クリスタ「あ……」
サシャ「クリスタ、おめでとうございます!」
コニー「おー、クリスタじゃねぇか。最近頑張ってたもんな」
ライナー「クリスタが入ってくれたか。よかった」
ベルトルト「……」
ミカサ「おめでとう、クリスタ」
クリスタ「……!」
クリスタ(すごい……これが、成績上位10名)
クリスタ(憲兵団に入る権利を、手に入れた人達……)
マルコ「クリスタ」
クリスタ「!」ハッ
マルコ「おめでとう!」ニコッ
クリスタ「――――!!」
教官「本日訓練兵団を卒業する諸君らには、3つの選択肢がある!」
教官「壁の強化に努め、各町を守る駐屯兵団! 犠牲を覚悟して、壁外の巨人領域に挑む調査兵団!」
教官「そして、王の下で民を統制、秩序を守る憲兵団!」
――私
――私は
教官「無論、憲兵団を希望できるのは」
教官「先程発表した成績上位10名だけだ!」
――憲兵団に、入れるの?
食堂
祝宴
コンッ!
コニー「やったー! これで俺も憲兵団だ!」
サシャ「もう食べ物に困りませんね!」
ジャン「何で俺がエレンより下なんだ……くそっ!」
ミーナ「クリスター!! 10番おめでとう!」コンッ!
クリスタ「あ、ありがとう……でも私、まだ信じられなくて」
ハンナ「すごいよ、上位10名に入るなんて!」
クリスタ「でも……私なんかがどうして」
ミーナ「何言ってるの! 私言ったじゃない。クリスタが憲兵団に行っても驚かないって。充分頑張ってたよ!」
クリスタ「憲兵団?」ピクッ
クリスタ(……やっぱりおかしい)
クリスタ(順当にいって、本来憲兵団に行ける位置にいたはずの人は――)
ユミル「クリスタ! 飲め!」ガシッ!
クリスタ「んうっ!? んんーっ!!」ゴフッ!
ミーナ「ちょっ、ユミル! 一気に飲ませちゃ駄目だよ!」
ユミル「平気平気。どうせ訓練兵団に振る舞われるぶどう酒なんて、大したアルコール量じゃないんだからよ」
ミーナ「そういう問題じゃないの!」
クリスタ「ごほっ、げほっ!」
ハンナ「クリスタ、大丈夫?」
クリスタ「な、何とか」ケホッ
ユミル「全く、全然飲んでないじゃないか」
クリスタ「ユミル……」
ユミル「何だよその顔は。もっと喜べよ。10位になったんだぞ」
クリスタ「ユミル」
ユミル「これで晴れてクリスタも憲兵団か。なかなか会えなくなるから寂しくなるなー」
ユミル「でも、内地に行っても私のことは忘れんなよ? な? 可愛いクリスタ!」
クリスタ「あなた、何をしたの?」
ユミル「……何言ってんだよ」
クリスタ「とぼけないで。今朝から様子がおかしかった。こうなるってもう分かってたんでしょう?」
クリスタ「順位は三年間の総合成績で決まる。最近のしか目に見えた成果がない私の成績じゃ、あなたの累積成績を超えられたはずがない」
ユミル「……」
クリスタ「ちゃんと話して。ユミル」
ユミル「――わかった」
ユミル「とりあえず、いったん外に出よう」
兵舎裏
クリスタ「……昨日の夜は、どこに行ってたの?」
ユミル「教官室だ。丁度成績上位10名の公式リストを作ってるところだったからな。話が早かった」
クリスタ「その時、あなたはなんて言ったの?」
ユミル「シンプルにそのまんま言ったさ。『クリスタと私の順位を入れ換えて下さい』ってな」
ユミル「クリスタ、お前は私とお前の点数はかけ離れてるはずだと思ってるみたいだが、それは違う」
ユミル「お前が頑張り始めたのが最近だと思ってる奴は、お前をちゃんと見ていない」
ユミル「お前は最初から……この訓練生活が始まってからずっと、真剣だった。サボろうだとか、ズルをしようとかは一切考えてなかった。まぁ、死にたいとは思ってたみたいだけどな」
ユミル「だから、お前は憲兵団に行っても何ら遜色ない成績を残していた。後は、私が一歩引けばいいだけだったんだ」
クリスタ「教官が、そんなこと認めたの?」
ユミル「消灯をとっくに過ぎてる時間に、わざわざ教官室へ出向いたんだ。わかるだろ?」
クリスタ「……自分から、罰則をもらいに行ったってこと? ユミルが?」
ユミル「驚きだろ。教官にバレない程度に部屋を抜け出すのが、趣味みたいなもんだったのにな」
クリスタ「ベルトルトと一緒に、でしょ?」
ユミル「……」
クリスタ「どうして……どうしてこんなことしたの? 私、ユミルは憲兵団に入るんだって思い込んでたのに」
ユミル「勘違いするなよクリスタ。これはすべて私のためなんだ」
クリスタ「でも」
ユミル「もともと私は憲兵団に興味なかった。ベルトルさんだって別に、私に憲兵団に入れって言ったことはない」
ユミル「それに……何かと不都合だ」
クリスタ「え?」
ユミル「とにかく、お前が気に病むことはないんだ。私はお前が幸せになってくれればそれでいい」
ユミル「後はクリスタ、お前が自分から幸せになろうとするだけだ」ガシッ
クリスタ「ユ、ユミル? 何を」
ユミル「なぁクリスタ、前にも聞いたことだが、改めてもう一度聞きたい」
ユミル「お前――どうしたい?」
クリスタ「……!」
ユミル「成り行きはどうあれ、お前は憲兵団行きの切符を手に入れた。使えば前にお前が言ってた、マルコと一緒にいたいって願いが叶う。これからも、ずっとだ」
ユミル「だけど……今までみたいに、ただ一緒にいるだけで、お前それで満足か?」
ユミル「本当に言いたいこと、ちゃんと言わないままでいいのか?」
クリスタ「それは……」
ユミル「お前は結局、まだ逃げてるんだよ」
ユミル「やろうと思えばあの時、『憲兵団を目指して頑張る』って言えたはずなのに、自分から逃げ道を塞ぎたくなくて、勝手に卒業までっていう期間を作った」
ユミル「確かに、お前の想いは少なからず伝わってると思うよ。マルコは前以上に、お前のこと認めているとは思う」
ユミル「けどな、クリスタ」
ユミル「気持ちを伝えたいって言っても、肝心なことを言わなかったら、ふわふわしたまんまで終わっちまうんだ」
ユミル「あるのかないのか分からない、そんな気持ちは――相手に覚えてもらえないんだ」 グッ…
クリスタ「……ユミル?」
ユミル「っと、悪い」パッ
ユミル「まぁ、色々言ったけどな……結局最後に決めるのはお前だ、クリスタ」
「
ユミル「後は、お前の判断に任せる」ポンッ
ユミル「――丁度時間みたいだしな」チラ
クリスタ「え?」
ユミル「じゃあな、クリスタ」
クリスタ「えっ、ちょっとユミル!」
クリスタ「行っちゃった……時間ってどういうこと?」
クリスタ(それに、さっきの言葉の意味……肝心なことってやっぱり、そういうことだよね)
クリスタ(ユミルの言い方、なんだか悲しそうだった。ユミルは自分の気持ち、伝えられなかったのかな)
クリスタ(私は――どうしたらいいのかな)
クリスタ「マルコ……」
マルコ「あっ、クリスタ?」
クリスタ「ひゃうっ!?」ビクッ!
クリスタ「な、何でマルコがここにいるの!?」
マルコ「何でって、君が呼んでるから後でここに来るようにって、ユミルに言われたんだけど」
クリスタ「……え゛」
クリスタ(もしかして、謀られた?)
マルコ「何か入れ違いがあったのかな」
クリスタ「あ、いや……ううん、そうじゃないの」
クリスタ「話したいことはあるよ。たくさん」
クリスタ「7位、だったね。おめでとうマルコ」
マルコ「クリスタこそ、10位おめでとう。頑張った甲斐があったね」
クリスタ「でも、私なんかが10位で、ホントによかったのかなって」
マルコ「当たり前じゃないか。クリスタ、ずっと頑張ってたもの」
クリスタ「ずっと?」
マルコ「うん。ずっと」
クリスタ「……そっか」
クリスタ「マルコも、願いが叶ってよかったね。憲兵団に入れるよ」
マルコ「ありがとう。クリスタはどうする? 憲兵団に入るの?」
クリスタ「えっと……私は――」
マルコ「もともと憲兵団に入れるって思ってなかったみたいだから、いきなり選択肢が増えちゃったね」
マルコ「でも、この選択肢は誰でも得られるものじゃない。有効に活用するべきだと僕は思うな」
マルコ「だからさ、君も憲兵団においでよ、クリスタ」
クリスタ「マルコ……」
クリスタ(憲兵団に行けば……マルコとずっと一緒にいられる)
クリスタ(このまま……ずっと)
クリスタ(――離れたくない)
クリスタ「……そう、だね。私――」
マルコ「まぁ、それでも他の兵団に行きたいっていう強い意志があるなら、僕は止められないけどさ」
クリスタ「……え?」
マルコ「さっき、エレンが食堂で言っていたんだ。調査兵団に入るって」
マルコ「すごく驚いたけど……話を聞いて、とても、エレンらしいなって思ったんだ」
マルコ「各兵団は、それぞれ他の兵団には出来ないことをやっている。それぞれの役割を果たしているんだ」
マルコ「だから、クリスタがどうしても他の兵団に入りたいっていう意志があるんなら、僕はそれを尊重するよ」
クリスタ「どうして……」
マルコ「え?」
クリスタ「どうしてそんなこと言うの?」
「ねぇ、どうして?」
駄目
「マルコは――」
こんなこと言ったら、今度こそ本当に気づかれてしまう
「マルコは、私と」
あぁ でも
「私と離れても……平気なの?」
――止まらない
『お前は結局、まだ逃げてるんだよ』
ユミルの言う通りだ
振られた後のことを考えるのが、怖かった
こうして自分で逃げ道を塞ぐことが、怖かった
憲兵団に行く
マルコにも、ちゃんと想いを伝える
どちらも叶えたいと願うことを、心のどこかで拒絶していた
だけど、もう
「ねぇ……マルコ」
逃げることさえつらいから
「私、マルコが好きなの」
マルコ「えっ……?」
兵舎からの光は遠くて、月明かりは丁度雲に遮られてしまった。
マルコの顔色は、ここからじゃよくわからない。
クリスタ「マルコ」スッ
一歩一歩彼に近づき、右手をめいっぱい伸ばしてその頬に触れてみる。
熱い。
マルコ「ク、クリスタ?」
クリスタ「私の気持ち……全然気づいてなかったの?」
クリスタ「私、あなたに振り向いてもらいたくて、ずっと頑張ってたんだよ?」
クリスタ「あなたの隣に行きたくて……ずっと、あなたを追いかけてた」
クリスタ「ちょっとずつ、私の気持ちを伝えてきたつもりだったのにな……やっぱり、こうしてはっきり言わないといけなかったみたいだね」
マルコ「あ、あの」
クリスタ「ちゃんと見て、マルコ」
クリスタ「ちゃんと、私を見て」
クリスタ(体が熱くて、頭がぼーっとする……視界もなんだか曇ってきた)
クリスタ(ユミルに飲まされたぶどう酒のせい? 酔いが回ってきてるの……?)
クリスタ「マルコ……」
クリスタ(顔が見えない……もっとマルコに近づかないと……)ザッ
グラッ
クリスタ(あれ?)
マルコ「クリスタ!?」
ドサッ
クリスタ「んう……」
マルコ「ちょっ、ちょっと、クリスタ……あの、大丈夫?」
クリスタ(あれ……私、マルコの上に乗っちゃった?)
マルコ「クリ、スタ、あの、起きてもらえると」
クリスタ(……ここ、心臓の真上かな)ピトッ(すごい、鼓動が速い)
マルコ「クリスタ……」
クリスタ(まだ、顔見えないな……もうちょっと)モゾモゾ
マルコ「ふぁあ!?」ビクッ
クリスタ(真っ暗で見えにくいけど……ここ、肩だよね?)グッ ズズッ
マルコ「わ、あっ」
クリスタ「あっ、シャツめくれちゃった? ごめんね」
マルコ「や、そ、そうじゃなくて」
クリスタ(あ、この辺だ。わっ、どうしよう、吐息がかかりそう)
クリスタ(こんなに近くに来たの、初めて……)
マルコ「クリスタ……酔ってるの?」
クリスタ「……ん」ピトッ
マルコ「っ!」
クリスタ(やっぱりまだ、ほっぺた熱い。汗もかいてるみたいだし……どんな顔して――)
月の光を遮っていた雲がようやく晴れて、草むらに横たわる私達二人が照らされると、
マルコの表情が、くっきりと浮かび上がった。
マルコ「……あ」
顔も、耳も、首も真っ赤にして、明らかに動揺している。
いつも笑顔だった彼が、今まで私が見たことのない表情を向けている。
自分がいけないことをしているという自覚が、急に湧き上がってきた。
クリスタ「あ、の……ごめんなさい、マルコ」
クリスタ「私……私、だけど」
マルコ「クリスタ……泣いているの?」
クリスタ「え?」
マルコ「……」スッ
私がマルコにしてるように、マルコも私の頬を手で包んでくれた。
親指で、目尻に溜まった涙を拭われる。自分が泣いてることを、初めて知った。
マルコ「僕が、傷つけたからかな」
クリスタ「……」
マルコ「ごめんね」
クリスタ「マルコ」
マルコ「うん?」
クリスタ「――好きだよ」ポロッ
マルコ「……うん」
クリスタ「大好きだよ、マルコ」ポロポロ
クリスタ「ごめんね、ごめんね、困らせて」ポタポタ
クリスタ「だけど――私――もう――」
クリスタ「心が限界なの」
マルコ「……」
月明かりの下でも、視界が涙でぼやけているせいで、もうマルコの顔もよく見えない。
クリスタ「うっ……ひっく」ポスッ
力が抜けて、マルコの胸に顔をうずめる。
クリスタ「うぇ……えっ」
涙が止まらない。
マルコ「……」
ギュッ
マルコ「――ごめんね、クリスタ」
マルコ「こんなに……こんなに、僕のことを想ってくれていたなんて」
マルコ「分かっていなかったとはいえ……君に、心無いことばかり言ってしまって」
マルコ「本当にごめん」
クリスタ「……」
マルコ「本当に、ありがとう」
マルコ「それで、あの」
マルコ「返事……なんだけど」
クリスタ「……」
マルコ「えっと、その、僕は――」
クリスタ「……くー」
マルコ「……へっ?」
クリスタ「……」スゥ…スゥ…
マルコ「ちょ、ちょっと待って――えぇ!?」
クリスタ「……」スヤスヤ
マルコ「ク、クリスタ! 起きて、ねぇ!」ユサユサ
クリスタ「むにゃあ……」ZZZ
マルコ「う……」
マルコ「嘘ぉ……」
翌朝
女子寮
クリスタ「~~~~! ~~~~~~!!」ゴロンゴロンゴロンゴロン
サシャ「……クリスタは何をやってるんですか?」モグモグ
ミカサ「わからない。私が起きた時にはもうああやって、ベッドの上で悶えていた」
サシャ「掛け布団被って体育座りしながらベッドを転げまわる人初めて見ました」モグモグ
ミカサ「よほどのことがあったらしい。ユミルがあんなに宥めてる」
サシャ「ですね……あ、ミカサ、お菓子いります?」ヒョイ
ミカサ「頂こう」キリッ
ユミル「なぁ、悪かったって……お前がそんなに酒に弱かったなんて」
クリスタ「言わないでぇえ!」
ユミル「いやでも、そんなに強い酒じゃなかったしさぁ」ポリポリ
ユミル「まぁ、勢いとはいえ、言いたいことは言えたんだろ?」
クリスタ「そりゃあ言えたけど……言っちゃったっていうか……うあぁあん!」ゴロゴロゴロゴロ
ユミル「なぁ、さっきっからそうやって恥ずかしがってばっかだけどさ……一体何をどこまでやったんだよ?」
クリスタ「な、なに、って」ピタ
ユミル「私はマルコが、酔いつぶれたお前を抱きかかえて女子寮に来た、って事実しか今のところわかってないんだよ」
ユミル「酔っぱらったお前が何をしたのか……それとも、マルコに何かされたのか?」
クリスタ「」ボンッ!
ユミル「は!? そうなのか!? おいクリスタ!!」ユサユサ
クリスタ「違う違う違うもん!!」ゴロゴロゴロンゴロン
ユミル「待てクリスタ、ちゃんと説明しろ! 昨日私と別れてから意識失うまで全部だ!」
クリスタ「嫌ぁあだぁあ!!」ゴロンゴロンゴロンゴロン
クリスタ(わ、私、昨日はなんてことを……自分が恥ずかしい!)
クリスタ(酔っていたとはいえ、マルコとのこと押し倒して……せ、迫っ)カアアアッ
クリスタ(あぁああもぉおう! 何考えてんの私!)ゴロゴロゴロゴロ
クリスタ(でも……最後に抱きしめてもらったのは、覚えてる……一瞬、すごく幸せになって)
クリスタ(――のに! そっから先の記憶がないとか! もう信じらんない!)
クリスタ「うぅう……」グスッ
クリスタ(どんな顔して会えばいいの……)
午前
固定砲整備点検
クリスタ「」ズーン
ハンナ「クリスタ、大丈夫? 元気ないね」
クリスタ「えっ、あ、うん。平気」
ハンナ「そう? ならいいけど……何か悩み事? あんまり溜め込んじゃ駄目だからね?」
クリスタ「……それは無理」ズーン
ユミル「……」キョロ
ユミル「おい、ライナー」
ライナー「……何だ」
ユミル「あいつ……どこに――」
――――カッ!!
ユミル「――!」
クリスタ「え……?」
超大型巨人「……」
ドゴオオオオ!!
エレン「固定砲整備4班! 戦闘準備!!」ジャキン!
トロスト区防衛戦開始
キッツ「それでは訓練通り各班ごと分かれ! 駐屯兵団の指揮の下!」
キッツ「補給支援! 情報伝達! 巨人の掃討などを行ってもらう!」
「嫌だ……嫌だ……!」
ジャン「何で今日なんだ……明日から内地に行けたっつうのに!」
クリスタ(こんな……こんなことになるなんて)
ダズ「う……おえええっ!」ビチャッ
クリスタ「!」ダッ「大丈夫?」
ダズ「――ぅ、げぇえっ!」
クリスタ(顔が真っ青……当たり前だ。こんな状況で、冷静になんかなれない)
クリスタ(私だって……怖い)
クリスタ(前は、死んでも構わないって思ってた。けど今は――)
ハンナ「クリスタ」
クリスタ「!」ハッ「ハンナ」
ハンナ「大変なことになっちゃったね」
クリスタ「うん……ハンナは怖くないの?」
ハンナ「怖いよ。だけど、フランツが守ってくれるって信じてるから」
キラッ
クリスタ「ハンナそれ、バングル?」
ハンナ「うん。前にお揃いで買ったの」
ハンナ「まだ結婚とかは出来ないけど……絶対に離れないっていう、私達だけの誓いなの」
駐屯兵「7班集合! 配置につけ!」
ハンナ「……もう行くね、クリスタ」
クリスタ「うん。ハンナ、頑張ってね」
ハンナ「クリスタも」タタッ
クリスタ(……凄いなぁ、ハンナ)
クリスタ(フランツを信じてるから、あんなに強くなれるんだ)
ダズ「うぅ……」
ジャン「行くぞダズ! いつまでも泣いてんじゃねぇ!」
ダズ「あぁ……」
クリスタ「ダズ、落ち着いた?」
ダズ「あぁ……ありがとうな、クリスタ」ザッ
ジャン「とにかく生き残るぞ。こんなところで死んでたまるか」ザッ
クリスタ(ジャンもさっきまで動揺してたのに……みんな、必死で向き合おうとしているんだ)
クリスタ(私は……)
クリスタ「……」カタカタ
クリスタ(嫌だ……死にたくない)
クリスタ(今死んだら、後悔ばかりが残ってしまう)
クリスタ(だって私、まだ――)
マルコ「クリスタ」
クリスタ(生きていたい理由が、ここにあるのに)
クリスタ「――!」ドクン
マルコ「クリスタ、あの」
クリスタ(どうしよう、声が出ない)
クリスタ(そもそも、合わせる顔がないっていうのに)カアッ
クリスタ「……」
マルコ「クリスタ、こっちを向いてくれる?」
マルコ「ちゃんと、僕を見て」
クリスタ「……」チラ
マルコ「手、貸して」スッ
クリスタ(え……?)
キュッ…
クリスタ「!?」ドキン
右手が、マルコの両手で包まれる。壊れやすいものを取り扱うみたいに、そっと。
そのままマルコは私の手を、自分の左胸に持っていった。少し間を置いて、左腕を後ろに回し、右手で私の掌を包むようにして、少しいびつな拳を作った。
丁度、心臓を捧げるように。
クリスタ「マルコ……?」
「17班集合!」
マルコ「クリスタ……」
クリスタ「は、はい」
「18班集合!」
マルコ「何もかも終わったら……昨日のこと、ちゃんと返事をする」
マルコ「だから……」
「19班集合! 配置につけ!」
マルコ「――それまで僕のこと、待っていて」
クリスタ「――!」
マルコ「またね、クリスタ」スッ
タッタッタッタッタッ…
クリスタ「……」
クリスタ「……うん。待ってる」
クリスタ「待ってるよ、マルコ」
ミーナ「クリスター!」ガバッ!
クリスタ「きゃあっ! ミ、ミーナ?」
ミーナ「ふふっ、見ーちゃった」ニヤニヤ
クリスタ「な、何を」
ミーナ「『僕のことを待っていて』」キラキラ
クリスタ「」
ミーナ「『うん、待ってる。待ってるよマル「うわあああっ!」ジタバタ
ミーナ「あははっ、ごめんね。からかって」
クリスタ「恥ずかしくて死にそう」カーッ
ミーナ「駄目だよまだ死んじゃ。返事聞くんでしょ?」
クリスタ「……うん」
ミーナ「やー、それにしても、クリスタが恋する乙女だったなんてなぁ」
クリスタ「もう、その言い方やめてよぉ」
ミーナ「あ、今のはからかってるわけじゃないんだよ? すごく素敵なことだと思うもん」
ミーナ「今のクリスタ、すっごく可愛いよ! それに生き生きしてる」
ミーナ「だから……絶対、生きて帰ってこよう?」
クリスタ「ミーナ……」
「34班! 集合!」
ミーナ「じゃあねクリスタ」タッ
クリスタ「ミーナ!」
ミーナ「なぁに?」クルッ
クリスタ「その……帰ったら、結果、教えるから」
ミーナ「うん! 楽しみにしてる!」ニコッ
クリスタ「……」
ユミル「クリスタ」ザッ
クリスタ「ユミル」
ユミル「何だ、青ざめてるだろうと思って来てみたら。怖くないのか?」
クリスタ「怖いよ。まだ私、死にたくないもん」
ユミル「……良い目になったな」
クリスタ「ありがとう」
「42班! 集合!」
ユミル「行くか」ザッ
クリスタ「うん」ザッ
ユミル「……」
クリスタ「ユミル?」
ユミル「後続の班になるにつれて、招集が早くなっている」
クリスタ「それって……」
ユミル「戦況はあまりよく無さそうだな。覚悟は出来てるか」
クリスタ「……うん」
――死なない。
絶対に、絶対に。
『待っていて』
生きてあなたを待っている。
作戦開始より1時間経過
42班 建物の上
バシュ! キンッ!
ビュオオオオ
男子訓練兵A「おい、どういうことだよこれ!」
男子訓練兵B「前衛の駐屯兵の人達は何をやってるんだ? 巨人を討伐出来ている様子もないし、全く情報も行きわたっていない!」
女子訓練兵「右前方から12m級が2体、こっちに近づいてる!」
ユミル「私達だけで相手するにはリスクが高い。奴らが離れるまでいったん下がるぞ」バシュウウ
男子訓練兵A「くそっ! 指示系統はどうなってるんだ!」バシュウウ
クリスタ「待って! 左からも1体来てる!」バシュッ スタッ
男子訓練兵B「8m級か……こっちを突破するしかないな」
男子訓練兵A「くそっ、どけよ!」バシュウウウ!
ユミル「馬鹿、待て!」
男子訓練兵A「おらぁあ!」ジャキッ
ガシッ
8m級「……」ググ…
男子訓練兵A「が、ぁ……」
ガリッ
↑トリ消えましたすみません。274は1です。
クリスタ「――!」
男子訓練兵B「エンリケぇえ!」
グチャ…グチャ…
女子訓練兵「あ……あ……」ガクガク
男子訓練兵B「よくも……よくもエンリケを!!」バシュウウ!
クリスタ「待って、単騎行動は駄目!」ダッ
ユミル「行くなクリスタ!」ガシッ!
男子訓練兵B「さっさと離せぇ!」バシュウウ!
8m級巨人「……」ギョロ
男子訓練兵B「はぁっ!」
ガブッ
女子訓練兵「いやああああ!!」
クリスタ「ワック!」
ユミル「くそっ……!」
グチャ…ガリ…
ユミル「――!」
ギリ…グチッ…
ユミル「――今だ! 突破する!」バシュウウ!
クリスタ「ユミル!?」
ユミル「あいつが両手で二人を食ってる! 今なら抜けられる!」
女子訓練兵「そ、な」
ユミル「早くしろ! 生き残るんだろ!」
クリスタ「――っ!」ギリッ
バシュウウ!
女子訓練兵「待って……ユミル、クリスタ!」バシュウウ
カシュン
女子訓練兵「え?」
カシュン カシュン
女子訓練兵「うそ……ガス切れ……?」
8m級「……」
ズシン…ズシン…
女子訓練兵「待って……待って……ねぇ」
ズシン…ズシン…
女子訓練兵「待って……」
クリスタ「ユミル! エスタが!」
ユミル「振り向くんじゃねぇ!」
クリスタ「でも!」
ユミル「クリスタ、自分が生き残ることだけを考えろ!」
クリスタ「でも――!」
時間が経つにつれ、あちらこちらで、
指揮する声は絶叫に変わり、
充満する血の臭いはきつくなり、
建物の下に見える、不完全な死体は増えていく。
クリスタ「こんな……こんなのってない……!」
作戦開始より2時間経過
総員撤退命令発動
ごめんなさいミスりました
>>279差し替え
女子訓練兵「待って……ユミル、クリスタ!」バ シュウウ
カシュン
女子訓練兵「え?」
カシュン カシュン
女子訓練兵「うそ……ガス切れ……?」
10m級×2「「……」」
ズシン…ズシン…
女子訓練兵「待って……待って……ねぇ」
ズシン…ズシン…
女子訓練兵「待って……」
ピクシス「これより、トロスト区奪還作戦について説明する!」
トロスト区奪還作戦開始
「街の隅に誘導するだけでいい! 無駄な戦闘は避けろ!」
「待て……まだだ……もう少し……離脱!」バシュウウ
建物の上
クリスタ(さっきよりも、兵士の損害は少ない……のかな)
クリスタ(訓練兵は戦闘の必要はないって言われたけど――)
駐屯兵「今だ、離だ」
ガシィッ!
クリスタ「えっ!?」バッ
駐屯兵「な、あ……うああああ!!」ズチャア
5m級「……」
クリスタ「あ……」
5m「……」ガリ…ガプ…
ギョロ
クリスタ「――っ!」バシュウウ!
クリスタ(嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ!)ビュオオオオ
クリスタ(死にたくない! 死にたくない!)
クリスタ(死にたく――――)
クリスタ(え……?)
ユミル「クリスター!」ビュオオオオ
クリスタ「!」ハッ「ユミル!」バシュウウ スタッ
ユミル「怪我はないか?」スタッ
クリスタ「大丈夫」
ユミル「お前が巨人から逃げてるのが見えて……無事で良かった」
クリスタ「ユミルも……」
パァァ…ン
クリスタ「黄色の煙弾?」
ユミル「作戦が成功したんだな」
クリスタ「本当? もう……もう戦わなくていいの?」
ユミル「後は残った巨人の始末だからな。私達訓練兵の仕事じゃない」
クリスタ「良かった……!」カクン
ユミル「おいおい、座ってんじゃねぇよ。まだ周りに巨人はいるんだ。とっとと壁の上まで飛ぶぞ」バシュウウ
クリスタ「あ、待って」バシュウウ
ユミル「……なぁ、クリスタ」
クリスタ「何?」
ユミル「お前、変わったよな」
クリスタ「私が?」
ユミル「あぁ……前のお前だったら、あそこで巨人に突っ込んでただろうな」
クリスタ「……」
ユミル「昔と比べたら考えられない程に、がむしゃらに生きるようになった」
クリスタ「……そう、だね」
ユミル「それもこれもマルコのおかげ、ってか?」
クリスタ「そ、そんなんじゃ! ユミル、こんな時に不謹慎だよ!」
ユミル「いいんだよ。確かに死んでいった奴は浮かばれないだろうけどさ」
ユミル「今は、自分が生き残れたことを……生き残った奴が、生き残れたことに安心してもいいだろうが」
ユミル「私達は生き残った。それをちゃんと確認してからじゃないと、死者を悼むこともできやしねぇよ」
クリスタ「……」
ユミル「んなふくれっ面すんなって」
クリスタ「言ってることは分かるけど……それでなんで私をからかうことに繋がるのよ」
ユミル「さーあな」スタスタ
クリスタ「もう!」
クリスタ「……」
クリスタ(マルコ……)
お知らせ
ちょっと三日ほど家を離れることになったので更新ががくっと減りそうです。
多分大丈夫だとは思いますが、万が一このスレが落ちそうになったらどなたか保守して下さると助かります。
思ったより早く戻れた。皆さんありがとうございます。
ちょっとしか書けていませんが投下再開します。
※以下 微グロ描写注意
作戦終了より2日後
コニー「は……?」
角を曲がっても曲がっても、死体のない通りは一つもない。
支給された薄い白布には、異臭を遮る効果は皆無と言ってよかった。せいぜいそこらじゅうにたかるハエが、口の中に入るのを防ぐだけだ。
トリガーを握りしめる腕。ワイヤーの絡まった足。潰れた頭。
最早『死体』と呼べるのかも疑わしい。五体満足に揃っている方が珍しいくらいだ。
コニー「……」
ここで死んだ兵士たち。
彼らはこの作戦の大きな括りで言えば、「損失」と言える。
けれど、そのたった一言の中にいるのは、血の通った一人一人の「人間」だ。
自分たちと同じ。
コニー「なぁ……お前ら……」
足元に転がる、大人と呼ぶにはまだ早い肉付きの手に向かって問いかけた。
交差する二本刀の腕章は、血と巨人の体液で濡れている。
コニー「何のために死んだんだ……?」
答える声などない。
サシャ「何ですか……これは……」
駐屯兵「巨人が吐いた跡だ。奴らには消化器官がねぇから、人食って腹いっぱいになったらああやって吐いちまうんだと」
攻撃されているような悪臭よりもなお、強烈な目の前の光景。
巨人は人を食らう。それは捕食行為なのだと、どこかで勝手に納得している自分がいた。
生きるために食べる。自分にとって当然の概念が、巨人にも当てはまると思っていた。
壁が築かれて100年の間、壁外で巨人が生き続けていることの説明がつかなくなることもわかっているのに。
その方が残酷じゃないから。まだ恐怖を感じないですむから。
サシャ「そんな……」
都合のいい思い込みが、一瞬で砕けた。
アルミン「ごめんね、みんな……」
あの時は弔う暇もなかった。
まずは真っ直ぐ空を見上げる。亡骸もない友のために。
アルミン「トーマス……エレンが敵、とってくれたよ」
少しずつ歩を進めると、体の一部しか残っていない遺体が二つ。顔が残ってなくてもわかる。
アルミン「ナック……ミリウス……何も出来なくてごめん」
視線をさらに前に向けると、一対の華奢な足が見えた。
脳裏に浮かぶのは、訓練兵34班、唯一の女性兵士。
アルミン「ミーナ……」
快活で、勝ち気で、芯が強い。それでいて気配りのできる優しい子だった。
一年前、彼女が主宰したピクニックを思い出す。故郷を失った自分にとって、帰省許可つきの休暇は手持無沙汰でしかない。
その日たまたま帰省の都合がつかなかった彼女が企画し、ミカサを誘ってくれたのは、彼女なりの気遣いなのだろう。
彼女は誰とでも親しげに話していた。かつて自分が想いを寄せた少女も、彼女とは仲が良かった――
アルミン「ミーナ……本当に」
「ごめんなさい……ごめんな、さい……」
柱の裏から、聞き覚えのある別の謝罪の声が聞こえた。
ジャン「…………」
ジャン「……おい」
ジャン「お前――……」
トロスト区東
ウォール・ローゼ壁際
クリスタ「あ、コニー」
コニー「クリスタか」
クリスタ「大丈夫? やつれた顔してる」
コニー「そりゃお前もだろ。こんな状況じゃ、顔色良い奴なんていねぇよ」
クリスタ「……そうだね」
サシャ「クリスタ……」
クリスタ「!」バッ「サシャ!」
サシャ「あ、あの」
クリスタ「良かった……作戦始まってからずっと見かけなかったから、心配してたの」
サシャ「クリスタ、私、巨人に屈伏して」
クリスタ「無事で良かった、サシャ。本当に」
サシャ「――!」
サシャ「わ、私のこと……軽蔑しませんか?」
クリスタ「どうして? そんなことしないよ」
サシャ「……」
アルミン「みんな、ここにいたんだ」ザッ
ユミル「何だお前ら、集まって」
コニー「アルミン。作戦中に消えて以来か。エレンはどうなった?」
アルミン「穴を塞いだ後は、巨人から人間の姿に戻って、今は憲兵団に身柄を拘束されている。この後どうなるかは……」
コニー「そっか……ミカサは?」
アルミン「ギリギリまでエレンについていったんだけどね。今は駐屯兵団の精鋭班の人と話してる」
ユミル「……クリスタ」
クリスタ「何?」
ユミル「今、アルミンから聞いた……ミーナの亡骸、向こうの通りにあったって」
クリスタ「!」
サシャ「そんな……」
アルミン「ごめん、クリスタ……その場にいたのに、僕、何も出来なくて」
クリスタ「……ううん、アルミンのせいじゃないよ」
クリスタ「私だって――」
クリスタ「……」
アルミン「クリスタ?」
クリスタ「ねぇ、アルミン……こんな時に、変なこと聞くかもしれないけど」
クリスタ「その……マルコを――」
サシャ「あれ、向こうから来るの、ジャンじゃないですか?」
クリスタ「えっ?」パッ
ジャン「……」
コニー「本当だ。おい、ジャン!」
ユミル「ちょっと待て、様子がおかしくねぇか?」
アルミン「うん、顔が真っ青だ」
コニー「……あいつも、なんかあったのかな。こんな状態だし」
クリスタ「……」スッ
ユミル「クリスタ?」ピクッ
クリスタ「あの……ジャン」ザッ
クリスタ「こんな時に聞くことじゃないけど……ジャンなら知ってるかと思って、その」
クリスタ「……マルコを、見なかった?」
ジャン「……」
コニー「おい、どうしたんだよ、ジャン」
サシャ「何か……あったんですか?」
ジャン「……」
クリスタ「え……?」
コニー「は……?」
アルミン「ジャン、それ……確かなの?」
サシャ「え、そんな、嘘ですよね?」
ジャン「……」
コニー「な、何かの見間違いとか……ほら、もしかしたら違うやつだったってことだって」
ユミル「やめろ」
コニー「だってよ、こんな状況じゃ、そもそも遺体を誰って判別できる方が珍し」
ユミル「やめろっつってんだ馬鹿!」
クリスタ「……」
コニー「だってよ! おかしいだろ! あのマルコだぞ!」
コニー「俺よりもずっと、ずっと実力があるあいつが……死ぬなんてありえないだろ!」
アルミン「コニー、駄目だ!」
コニー「何でだよ! 俺が生きてるのに、何でマルコが!」
ユミル「いい加減にしろコニー!!」ガシッ!
コニー「――っ!」
アルミン「クリスタ……」
クリスタ「な……に……」
クリスタ「何を――言っているの? ジャン……」
ジャン「……」
クリスタ「どうして? どうしてそんなこと言うの?」
ジャン「……クリスタ」
クリスタ「そんなはずないじゃない」
『クリスタ』
クリスタ「そんなはずない」
『クリスタ』
クリスタ「だって私――私、マルコと」
『待っていて』
クリスタ「約束、したもの……」
『またね』
クリスタ「――っ!」
ダッ!
アルミン「クリスタ!? どこに」
ジャン「! まずい!」ダッ
ユミル「クリスタ!!」ダッ
そんなはずない
「はあっ……はあっ……」
マルコが死ぬはずない
「はっ……はあっ……」
でも――だったら、だったら私
どうしてこんなに、迷いなく走れるの?
この先二つ目の角を右
そこに何があるというの?
クリスタ「――」
あの時。
指揮する駐屯兵の人を見捨てて、巨人から必死に逃げた時。
目の端に映っていたものは――
クリスタ「マルコ!」
ザッ!
クリスタ「――――!!」
ジャン「クリスタ! 見んな!」バッ
クリスタ「……ぁ……」グラッ
ユミル「クリスタ!」ガシッ
クリスタ「あ……あぁ……や……」ガクガクガクガク
「いやあぁあああぁぁああああぁあああああああああ!!!」
トロスト区中央
開閉扉付近
ベルトルト「……」
喉の奥底から絞り出す、少女の悲痛な絶叫が響き渡った。
同期の仲間でも、この声の主を特定することは難しいだろう。普段は天使の微笑みをたたえる彼女から迸る、こちらまで震えるような叫び。
だけど、自分には簡単に予測がついた。誰が誰の死を知り、嘆いたのか。
ベルトルト「……」
目の前には二本の腕だけが転がっている。睦まじく手を繋いだ男女のもの。
正確には力の抜けた男の手を、女が指を絡めて握っていた。
手首にはお揃いの、銀のバングルが光っている。
『絶対に離れないっていう、僕達だけの誓いなんだ』
男子寮で聞いたのろけ話。色褪せた思い出が蘇った。
少女の慟哭はまだ、止まない。
クリスタ「……」
泣いて。
泣いて。
叫んで。
叫んで。
目の前が真っ暗になって。
――力が抜けた。
ぼんやりと見える真っ白な天井。消毒液の微かな香り。
クリスタ(あぁ……私)
クリスタ(夢を、見ていたの?)
それともここが夢の中なの?
薄い膜に包まれたみたいに、すべての感覚が鈍っている。ここがどこだかもわからない。
体が深く沈んでいく感覚を覚え、再び意識を手放した。
医務室
ジャン「クリスタ……」
ユミル「私達の顔も見えてないみたいだな。声も聞こえてないようだ」
ジャン「くそっ、なんであの場所がわかったんだ……」
ユミル「……なぁ、ジャン」
ジャン「何だ」
ユミル「お前、どこまで知ってたんだ?」
ジャン「……」
ユミル「いや、今はいい。悪かった」
コニー「なぁ、サシャ」
サシャ「何ですか」
コニー「俺、馬鹿だから、違ってたら違ってるって言ってほしいんだけど」
コニー「その、クリスタは……マルコのことを」
サシャ「……多分、そうでしょうね」
コニー「そっか……」
コニー「あの二人、最近よく一緒にいたよな」
サシャ「ええ」
コニー「あいつらが一緒にいると、なんとなく空気が和んで……こっちまで幸せになる気がして」
サシャ「……」
コニー「何でだろうな」
コニー「何で――こうなるんだろうな。俺達は」
サシャ「コニー……」
ザッ
アルミン「マルコ……」
アルミン「どうしてだよ」
アルミン「僕は……君だから潔く身を引けたのに」
アルミン「クリスタと君が幸せになれるなら、それでもいいって思えたのに」
アルミン「ねぇ……ねぇマルコ」
アルミン「何でだよ……!」
ギリッ…
『クリスタ』
マルコ?
『クリスタ、どこだい?』
あぁ、マルコ、やっぱり死んでなんかなかったのね。
ここだよマルコ。私はここにいるよ。
『クリスタ?』
待って、どこに行くの? そっちは巨人が――
『うわあああ!』
嫌、嫌、やめてやめて嫌だ嫌だ嫌だ嫌――――
クリスタ「マルコ!!」ガバッ
ユミル「クリスタ?」パッ
クリスタ「あ……」
ユミル「気がついたか?」
クリスタ「こ、こは?」
ユミル「医務室だ。お前、ぶっ倒れたからな」
クリスタ「え……?」
ユミル「無事に目が覚めてよかった。お前なんつーか、なかなか起きようとしなかったからな。もう丸一日経とうとしてる」
クリスタ「……」
ユミル「……どうした?」
クリスタ「――マルコ」
ユミル「!」ピクッ
クリスタ「ねぇ、ユミル……マルコは?」
ユミル「……」
クリスタ「私……夢を見たの。マルコが巨人に――殺される夢」
クリスタ「もしかしたら、マルコの身に何か……良くないことが起きるのかもしれない」
クリスタ「ねぇユミル、マルコはどこにいるの?」
クリスタ「私、会いに行かなきゃ……約束したもの。待ってるって、だから」
ユミル「クリスタ」
クリスタ「……」
ユミル「明日の夜、戦死者の遺体が全部火葬されるそうだ」
ユミル「今回の作戦で犠牲になった兵士すべて、訓練兵もまとめてだ。エンリケ、ワック、エスタ、ミーナにハンナ」
ユミル「それに……マルコもだ」
クリスタ「……」
ユミル「向き合うのは辛いだろうけれど……ずっと夢の中にいるわけにはいかないんだ」
ユミル「お前の傷が癒えるまで、私も一緒にいてやるから」
クリスタ「……」
ユミル「クリスタ……」
クリスタ「ごめんね、ユミル」
クリスタ「私は、一人にして欲しいの……」
ユミル「……」
ユミル「わかった」
パタン
クリスタ「……」ポタッ
クリスタ「――っ」ポタッ ポタッ
わかっていた。
あの時、横たわっているマルコの影が見えていた。
それが遺体だと頭が理解することを、心が断固として拒否していた。
どこか引っかかるものを感じながら、それでも信じたくなかった。
マルコが死んでいることを。
もう会えないことを。
約束が果たされないことを。
クリスタ「うっ……っ……」
どうしたらいい?
マルコがもうこの世にいない。
私は、これから、
どうしたらいいの――?
作戦終了より4日後
夕方
医務室
クリスタ「うぅ……ん」ギュッ
ミカサ「クリスタ」
クリスタ「嫌――っ!」ハッ
ミカサ「クリスタ、気がついた?」
クリスタ「あ……ミカサ」
ミカサ「お見舞いに来た。水、飲める?」スッ
クリスタ「ありがとう」コクン
ミカサ「医務官から聞いた。浅い睡眠ばかりとっていて、体が休めていないと。私が来てからも、ずっとうなされていた」
ミカサ「食事もろくにとっていないみたいだし……あなたがこれ以上細くなるのは心配」
クリスタ「ごめんね、ミカサ……」
クリスタ(眠りにつくたびに、あの夢を見てるせいだ)
クリスタ(泣きながら目が覚めても、起きていること自体が辛くて、また眠って……それをずっと繰り返してる)
クリスタ(ユミルが聞いたら、また逃げてるって言われちゃうのかな)
ミカサ「謝らなくていい。辛い思いを抱えているのはわかってる」
ミカサ「その、アルミン達から、事情は聞いた」
クリスタ「……」
ミカサ「……私も今日、もしかしたらエレンを失うかもしれないという場面に立ち会った」
クリスタ「え?」
ミカサ「さっきまで私は審議所にいて、そこでエレンの審議が行われてた」
クリスタ「エレンの、審議?」
ミカサ「そう。エレンの身柄をどうするかの審議。憲兵団に委ねるか、調査兵団に委ねるか」
ミカサ「なんとか調査兵団への引き渡しが決まったけど、もし憲兵団に引き渡されてたら……エレンの命はなかった」
ミカサ「私にとって、家族はもうエレンしかいないから……また失ったらと思うと怖かった」
クリスタ「――ミカサは、お父さんとお母さん、亡くなってるんだよね」
ミカサ「……正確にはお父さんを一人、お母さんを二人亡くしてる」
ミカサ「だから、大切な人を失う時の辛い気持ちはよくわかる。クリスタのそれとは、少し異質かもしれないけれど」
クリスタ「……ミカサ」
ミカサ「何?」
クリスタ「ミカサは……どうやって立ち直ったの? お父さんとお母さんの死から」
ミカサ「……完全に立ち直ったとは言えないかもしれない。でも私にはエレンがいたから」
ミカサ「乗り越えられた、と言った方が正しいかもしれない」
クリスタ「……」
ミカサ「クリスタ、今すぐ乗り越えてほしいとは言わない」
ミカサ「今日の火葬場にも、辛いなら無理に来なくても構わない」
ミカサ「だけど……みんな、あなたのことを心配してる。だから」
クリスタ「ねぇ、ミカサ」
ミカサ「何?」
クリスタ「ミカサはもし……エレンが死んだら、どうするの?」
クリスタ「すぐに乗り越えられる? 他の誰かのために?」
クリスタ「――出来ないよ」
クリスタ「そんなこと出来るわけない」
ミカサ「クリスタ……」
クリスタ「ごめんね、ミカサ……火葬場には、行くから」
ミカサ「……いいえ、私こそ、ごめんなさい」
夜
戦死者火葬
パチパチ…パチパチ…
ゴォオオオ…
クリスタ「……」
サシャ「クリスタ、大丈夫ですか?」
クリスタ「……」
ユミル「そんなわけねぇだろうが。頭使え芋女」
サシャ「ごめんなさい……」
クリスタ「……やめてユミル。サシャ、心配かけてごめんね」
ジャン「おい、お前ら」ザッ
ジャン「所属兵科は……何にするか決めたか」
クリスタ「……?」
ジャン「俺は、決めたぞ」
ジャン「俺は……調査兵団になる」
クリスタ「――!」
ソウダ
チョウサヘイダンニ ハイレバイインダ
チョウサヘイダンニ ハイレバ
マルコノカタキヲトレル
――スグニマルコニアエル
パチパチ…パチパチ
クリスタ「ユミル」
ユミル「……何だ」
クリスタ「ユミル、私……」
クリスタ「調査兵団に入る」
パンッ!
クリスタ「!?」
クリスタ「痛っ……」
ユミル「ふざけんな」グイッ
ユミル「ふざけんなよクリスタ!」
クリスタ「ふざけてなんかない。私は、マルコの仇を」
ユミル「違う。お前は死にたいだけだ。マルコの後を早く追いたいだけだ!」
クリスタ「違う! 私は!」
ユミル「何が違うんだ!」ダンッ!
ユミル「マルコを死ぬ理由に使うな! 私はこんなお前のために順位を譲ったんじゃねぇぞ!」
クリスタ「だったら……っ譲らなきゃよかったじゃない!」
クリスタ「マルコがいないんじゃ……憲兵団に入ったって……」ポロッ
クリスタ「どうして? ねぇどうして!」
クリスタ「なんでマルコが死ななきゃいけなかったの!?」
クリスタ「なんで! なんで!」
クリスタ「なんで――!!」
クリスタ「うわぁああああーーーーん!!!」
パチパチ…パチパチ…
チャリンッ
ベルトルト「あ……」スッ
ユミル「何落としてんだ」ザッ
ベルトルト「……」チャリッ
ユミル「……あいつらのバングルか」
ベルトルト「うん。一緒に埋めてあげようと思って」
ベルトルト「背負ってるのは、クリスタ?」
ユミル「おう」
ベルトルト「……泣き疲れたんだね」
ユミル「あぁ……」
ユミル「……」
パチ…パチ…
ユミル「あのさ、ベルトルさん」
ベルトルト「何?」
ユミル「後で……話がある」
ベルトルト「……わかった」
ユミル「じゃあな」
ザッ ザッ ザッ
ベルトルト「……」
ベルトルト「――終わりだね。ユミル」
クリスタ「……」
遠くに人影が見える。少しずつ、近づいてくる。
もしかして巨人? 今度は私を食べるの?
それとも――あぁ、やっぱり。
マルコだ。
またあなたが死んでしまうのね。私を置いて。
私がここにいるのも気づかないで――
クリスタ「……」
クリスタ「……?」
――あれ?
マルコ「……」
今までの夢と違う。彼は私の名前を呼ばない。私のことを探さない。
真っ直ぐに私の目を見つめている。
クリスタ「――マルコ?」
返事はない。だけど彼は立ち止まると、
――いつものように、微笑んだ。
クリスタ「え――?」
そんな、まさか。
胸の奥底から、何かが込み上げてくる。体が震える。
クリスタ「マル、コ……?」
やはり返事はない。その代わりに彼は、両手を広げた。
唇だけが動く。
――クリスタ。
クリスタ「マルコ!!」ダッ!
頭の中に浮かぶ可能性はひとつだけ。
でも、こんなことが、こんなことが起こるなんて。
まだ疑いが晴れないまま、それでも必死に駆け寄る。
あまりにも焦りすぎて、あと一歩のところでつまづいて、
でも、しっかり抱きとめてくれる。
あぁ、本当に、本当に。
――あなたなんだね。
クリスタ「マルコ……」
あったかい。
優しく、優しく包んでくれる。
夢の中のはずなのに、抱きしめられる力の強さを感じる。自分の流す涙の熱も。
言葉に出来ない驚きと嬉しさが押し寄せてくる。
あなたがここにいる。
クリスタ「うっ……うぇっ……うえぇ、っく」
マルコ「……」スル
クリスタ「……? 何?」
抱きしめる力を緩めて、マルコが向き直る。微笑んだまま、でも切なそうな表情。
そのまま、私の頬にマルコの手が添えられて、涙のすじを拭ってくれた。
苦しくなって気持ちを伝えた月夜の情景が蘇る。マルコの目尻にも、光るものが見えた。
マルコがまた唇を動かす。声にはならないけど、伝わった。
クリスタ「……違うよ、マルコ」
クリスタ「私、あなたのせいで傷ついてなんかいない」
クリスタ「私……私は、本当に幸せだった」
クリスタ「あなたのおかげで、私、自分が生きる意味を見出すことが出来たの」
クリスタ「誰にも必要とされてない存在だと思ってた私を、あなたは救ってくれた」
クリスタ「あなたに出会って、あなたを好きになって、私は」
クリスタ「――何も特別じゃない、普通の女の子になれた」
マルコ「……」
クリスタ「ねぇ、マルコ……もっと、一緒にいたかった」
クリスタ「ずっと、ずっと一緒にいたかった」
クリスタ「出来ることなら、あなたの一番近くにいさせてほしかった。いつもあなたの隣にいる存在になりたかった」
クリスタ「そして――あなたにも、そう思ってほしかった」
クリスタ「マルコ……」
クリスタ「もう会えないの……?」
マルコ「……」
グッ
クリスタ「――えっ?」ピクッ
突然、抱きしめる力が強くなり、私の体はふらりと前に揺れた。
いつの間にか、私の頬を包んでいたはずのマルコの手は、私の後頭部と首の境目を支えている。
目を上げると、マルコの視線とぶつかった。
静かに顔が引き寄せられる。
目を閉じた。
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あったかい。
クリスタ「……」
マルコ「……」
気持ちが落ち着くのを待つと、今度は私から微笑みかけた。
マルコもやっと、照れ臭そうに笑ってくれた。
もう二度と来ない幸せを感じている時間は短かった。
抱きしめる力が、少しずつ弱くなる。
クリスタ「……ありがとう」
か細く震えた声で、それでもなんとか伝えられた。
マルコがまた唇を動かす。はっとして口元を見つめ、理解しようとする。
短い内容だった。
少しずつ、少しずつマルコの体が離れていき、白い空間に溶けていく。
最後まで彼は、笑っていた。
クリスタ「……」
目が覚めると、医務室の白い天井がはっきりと見えた。
優しい夢の中ではない。
それでも、もう涙は出なかった。
作戦終了より5日後
コンコンコン
クリスタ「はい」
ガチャッ
クリスタ「あれ、珍しいね。一人なの?」
ジャン「……おう」
クリスタ「来てくれてありがとう。だらしなくてごめんね」
ジャン「いや、こっちこそ急に来て悪かった。花、ここに生けとくから」
クリスタ「ありがとう……座って?」
ジャン「あぁ」ガタン
クリスタ「ジャンとこうして面と向かって話すの、初めてかな」
ジャン「多分な」
ジャン「……その、クリスタ」
クリスタ「うん」
ジャン「マルコのことなんだが……」ポリポリ
ジャン「昨日……いや今朝か……来なかったか?」
クリスタ「……うん」
ジャン「やっぱりか。俺のところにも来た」
ジャン「他にも今朝、妙な夢を見たって言う奴はいたけれど、はっきりマルコの姿を見た奴はいなかった」
ジャン「お前は……わかったのか」
クリスタ「うん。ちゃんと会いに来てくれた」
ジャン「そうか……」
クリスタ「ジャンにも会いに来てくれたの? マルコ」
ジャン「あぁ。声はかけられなかったけど、ケツ叩かれたような気分だった」
クリスタ「ふふっ」
ジャン「――やっと笑ったな」
クリスタ「あ……ホントだ」
ジャン「気づいてなかったのかよ」
クリスタ「だって今、本当に自然に笑ったから。自分でも信じられないくらい」
ジャン「あいつのおかげなんだな」
クリスタ「……ジャンは私のこと、マルコから何か聞いていたの? さっきも、やっぱりかって言ってたし」
ジャン「あぁ。夢のこともあったし、今日はそのことを言いに来たんだ」
ジャン「あいつ、結局返事してやれたのか? 声出せなかっただろ?」
クリスタ「え、あ、まぁ……一応」カアッ
ジャン「あー、わかったわかった。もう言わなくていい」ヒラヒラ
ジャン「ったく良い思いしやがって。どうせなら生きた体の内にやれよ」
クリスタ「あ、あはは……というか、もう私が告白したことも、返事を待ってたことも知ってるってことだね」
ジャン「あぁ。解散式の後、外行ってしばらく戻んねぇと思ったら、顔真っ赤にしてフラフラになって帰って来たからな。酔ってるようでもなかったし、とりあえず全部吐かせた」
クリスタ「えっ、全部って」ドキッ
ジャン「告白されて、返事しようとしたらクリスタが酔いつぶれたから、女子寮に送ってやったってことだよ」
クリスタ「そ、それだけ? それだけだね?」
ジャン「それだけってことでもないけど、あいつ異常に動揺してたな。他に何かあったのか?」
クリスタ「な、何っ……別に何も! 何もしてないよ! なんっにも!」カアアアッ
ジャン「……お前一体何したんだよ」
クリスタ「もうその話は掘り下げないで……」プシュー
ジャン「はぁ……まぁいい。話戻すぞ」
ジャン「お前に告白されたって聞いて、本当に驚いたんだ」
ジャン「そもそもあいつにそんな話が来るなんて考えもしなかったし、増してクリスタは男子人気が高いからな」
ジャン「それに、俺も酒が入ってたから、つい興奮しちまった」
ジャン「どんな風に返事するつもりだったのか、根掘り葉掘り聞くつもりだったんだ。そしたら――」
ジャン『気持ちの整理がついてない?』
マルコ『うん』
ジャン『何だそりゃ』
マルコ『クリスタは本当に、そういう意味で人気のある子だ。クリスタのことが好きで、僕に相談しに来てくれた人もいる』
マルコ『その人に対して、少し後ろめたい気持ちはあるんだけど……それで彼が僕を嫌いになることはないって信じてるし、例え悪く思われても仕方ないとは思ってる』
ジャン『何でだよ。別にお前は何も悪くないだろ。そいつが気の毒ってだけだ。お前に相談に来るような奴が、簡単にお前から離れようとするかよ』
マルコ『うん、君ならそう言うと思った。でも問題は、僕自身のことなんだ……』
ジャン「あいつは、お前が自分を好きだってことは薄々気づいていた。特に最近になってな」
ジャン「だけど、どうしても確信が持てなかった。まさかって思った。自分の勘違いなんじゃないかって」
ジャン「お前に話しかけられる機会が増えて、自分の気持ちを自覚して……その想いが生んだ勘違いだったら恥ずかしいから、頭の中で否定していた」
ジャン「そのせいでクリスタを、何度も傷つけていたみたいだって言ってたな」
『僕が傷つけたからかな』
『ごめんね』
『こんなに僕のことを想ってくれていたなんて』
ジャン「クリスタを知らないうちに傷つけていたくせに、このまま自分の気持ちに素直になっていいのか、悩んでいたんだ」
クリスタ「……」
ジャン「とにかくあいつは、少なからずお前のことを想ってたよ」
ジャン「お前が好きで、お前のことを大事に想っていた」
ジャン「お前の頑張りは、無駄じゃなかったってことだ」
クリスタ「……」
ジャン「俺がマルコから聞いていたのは、それだけだ」
クリスタ「……ジャン、ありがとう」
ジャン「おう」
クリスタ「それと、ごめんなさい」
ジャン「ん?」
クリスタ「私にマルコが死んだこと話すの、重荷だったよね」
ジャン「……」
クリスタ「ジャンだって辛いのに……それを私に伝えなきゃいけないことになって、余計に辛い思いをさせちゃった」
ジャン「……いい。俺が言わないといけないことだって、わかってたからな」
クリスタ「ありがとう……それにねジャン、大丈夫だよ」
ジャン「何が」
クリスタ「私、昨日ちゃんとマルコに言っておいたの。あなたのせいで傷ついてなんかないって」
ジャン「……そうか」
クリスタ「うん」
ジャン「あいつ、最後に何か言ってたか」
クリスタ「……うん。マルコが消えちゃう前に」
クリスタ「唇読んだだけだから、正確にそうだとは言いきれないけど――」
――クリスタ。
クリスタ「『生きて』って、言ってくれた」
ジャン「……クリスタは、憲兵団志望、だったんだよな」
クリスタ「うん」
ジャン「そのまま憲兵団に進むのか?」
クリスタ「……」
ジャン「生き残りたいんだったら、それがいいだろう。マルコもお前が生きることを望んでる」
ジャン「だから……自分の命を投げ打つために、調査兵団に入ろうとはすんな」
クリスタ「――ユミルから、何か言われた?」
ジャン「お前もとんだ死に急ぎ野郎だってことは聞かされた」
クリスタ「明日だっけ。所属兵団を決めるの」
ジャン「あぁ」
クリスタ「……」
ジャン「クリスタ」
クリスタ「……少し、考えてみる」
クリスタ「自分の役割について」
クリスタ「私が……何をすべきか」
ジャン「……そろそろ俺は戻る。また明日。クリスタ」
クリスタ「うん。ジャン、今日は本当にありがとう」
ジャン「おう」
パタン
クリスタ「……」
クリスタ「マルコ」
――約束を守ってくれて、ありがとう。
作戦終了より6日後
エルヴィン「私は調査兵団団長、エルヴィン・スミス」
エルヴィン「所属兵団を選択する本日、私が話すのは率直に言えば調査兵団への勧誘だ」
エルヴィン「今期の新兵にも、1か月後の壁外調査に参加してもらうが、死亡する確率は3割といったところか」
エルヴィン「4年後にはほとんどが死ぬだろう。しかしそれを超えた者が、生存率の高い優秀な兵士となっていくのだ」
エルヴィン「この惨状を知った上で、自分の命を賭してもやるという者はこの場に残ってくれ」
エルヴィン「自分に聞いてみてくれ。人類の為に、心臓を捧げることが出来るのかを」
エルヴィン「他の兵団の志願者は解散したまえ」
エルヴィン「…………」
エルヴィン「ではここにいる者を、新たに調査兵団に迎え入れる!」
エルヴィン「これが本物の敬礼だ。心臓を捧げよ!」
一同「はっ!!」バッ
クリスタ「……」
ユミル「泣かないんだな。もう」
クリスタ「うん……」
アルミン「クリスタ……どうして調査兵団に? まさか――」
クリスタ「違うよ、アルミン。もう自暴自棄になってるわけじゃないの」
クリスタ「正直怖いよ。死にたくないのに死んじゃうかもしれない」
クリスタ「ただ生き残りたいのなら、憲兵団に行った方がいいのもわかってる。駐屯兵団でもいいかもしれない」
クリスタ「だけど……だけど、私ね」
クリスタ「もう二度と、大好きな人を失いたくないの」
クリスタ「大切な人を、この手で守りたい。守るために、自分が培った力を使いたいの」
アルミン「……クリスタ、変わったね」
クリスタ「そう見える?」
アルミン「うん。こんなに凛々しい目をするようになるなんて、思わなかった」
クリスタ「強くなれたからかな」
アルミン「そうだね。心も体も、強くなったよ」
クリスタ「ありがとう。これからもよろしくね、アルミン」
アルミン「うん」
ユミル「クリスタ、アルミン」
クリスタ「なぁに?」
ユミル「そろそろ入団最初の立体機動演習だ。招集がかかったぞ」
アルミン「わかった。ありがとう」
ユミル「ったく、結局調査兵団なんかに入りやがって。覚悟出来てるんだろうな、クリスタ」
クリスタ「大丈夫だよ。それに、一緒にいてくれるでしょう? ユミル」
ユミル「当たり前だ」
ユミル「ほら、とっとと行くぞ」
クリスタ「……ごめん、二人とも先に行ってて」
アルミン「え?」
クリスタ「すぐ追いつくから。ね?」
ユミル「……早く来いよ」
クリスタ「うん」
アルミン「じゃあ、後でね」
クリスタ「んー……」
日差しが眩しい。
太陽の光が体に染み込んでいく。
クリスタ「……」スラッ
立体機動装置から一本、刃を取り出す。
そのまま天にかざす。太陽に向けて。
クリスタ「マルコ」
穏やかな風が頬を撫で、耳をくすぐる。刃に光が反射する。
クリスタ「私――」
その刃に立てるのは誓い。
あなたと私の。
クリスタ「生きるよ」
――私の中に生きるあなたへ。
終わり
終わりです。
長くなるとは思っていましたが、まさか1か月以上かかるとは思わなんだ。
最後まで読んでくださった方、途中支援してくださった方、このスレを開いてくださったすべての方へ。
ありがとうございました。
おまけ舞台裏書こうかと思ったけど眠いから寝ます。
最後にこのシリーズの過去作だけまとめて晒させて下さい。
サシャ「コニー! 勝負しましょう!」コニー「勝負?」
ユミル「劇場のチケット?」ベルトルト「あっ!」
ベルトルト「このチケット、どうしよう……あれ!?」
アルミン「えっ、僕の好きな人?」
クリスタ「私、マルコが好きなの」←new
時間がとれれば短いベルユミを書いて、コニサシャで完結って形にしたいです……できれば。正直忙しくなってきたんで書けるか微妙ですが伏線残しすぎたし。
ということで、よろしければベルユミの別れ話でまたお会いしましょう。
途中からレスに個別返信できなかったのでこの場でまとめてですがお礼を。読んでくださってありがとうございました。では。
このSSまとめへのコメント
泣い
た
マルコには生きてて欲しかったマルコ生きたバージョンのssが読みたい