唯「ムギちゃん捻挫事件!?」 (58)

ムギちゃんお誕生日記念SSですよ。

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それは、朝の出来事でした。


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トントン、トン。


登校して来た私達軽音部の三年生は、教室へ向かおうと階段を仲良くのぼっていました。

律「でさー、ここでビャーっとやったらカッコ良いと思うんだよなーっ!」

澪「お前はそればっかだな。
そういうのはまず、キチンとした技術を身につけてからだろ?」

律「ぶーぶー! いーじゃんか別にーっ」

後ろでじゃれあっている澪ちゃんとりっちゃんの声を聞きながら、私は隣のムギちゃんと話します。

唯「私はおもちだと思うんだ!」

紬「おぉ〜っ、おもちっ!」

唯「そうそう。
暖めたらこう『ぷく〜』っと伸びるんだよっ!」


くいっ!


一階と二階の真ん中の部分で、私はフンスと鼻を鳴らしながらつま先立ちをしました。

その姿は、まさにおもちでしょう!


ボフッ。


背中に、何かが当たる感触。

澪「ちょっ……唯、いきなり立ち止まるな」

どうやら、澪ちゃんが私の背中にぶつかったようです。

しかし、私より一歩前に居る、
一段だけ階段をのぼっていたムギちゃんが、そんな事は気にせずにキラキラしたお目々で言いました。

紬「唯ちゃん凄い! 私もなるわっ!
おもちに!」

彼女は両手を胸の前でぐっと握り締めると、決意の表情をして──


ぎゅんっっっ!!!!!


激しい勢いで、さっきの私と同じくつま先立ちをしました。

……それがまずかったのでしょう。


かくん。


紬「あ、あらっ?」

澪「あっ!」

律「ムギっ!?」

あまりにもすっごい勢いで足首を動かした為にバランスを崩したムギちゃんは、
倒れそうになるのを、両手をフリフリと振って堪えます。

なまじ階段の上なだけに、狭くて余計に大変そうです。

ムギちゃんのピンチっ!

唯「こりゃあいかんっ!」

私が慌てて手を伸ばしかけますが、

紬「だ、大丈夫っ!」

ムギちゃんは、笑顔で右足だけ階段から下ろし──


ぐきっ!


律「!」

澪「!!」

唯「!!!」

私は……いや、たぶんりっちゃんと澪ちゃんもでしょう。私達は見ました。

床に着いたムギちゃんの右足首が、変な風に曲がったのを。

澪「う、う〜〜〜ん……」


ばたり。


紬「あっ、あらららっ???」


ぺたん。


その『痛そう』な光景に澪ちゃんが気絶して倒れたのと、ムギちゃんが床に座り込んだのはほとんど同時でした。

律「お、おいおいお前ら大丈夫かっ!?」

唯「ムギちゃん澪ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」

……………………………………………

大変です。

澪ちゃんはすぐに目を覚ましましたが、ムギちゃんが怪我をしてしまいました!

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唯「ぅあはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

教室で、私は机に突っ伏していました。

唯(心配だよぉ)

あの後すぐにムギちゃんを保健室に運び、先生に手当てをして貰いましたが……

どうやら彼女は捻挫をしてしまったらしく、しばらく歩けないようでした。

私・澪ちゃん・りっちゃんの三人はムギちゃんについていたかったのですが、
もう授業が始まるという事で教室に送られたのです。

律「唯、ムギなら大丈夫だって。心配するな」

澪「そうだよ」

りっちゃんと澪ちゃんが、いつの間にか私の机の前にやって来ていました。

二人が浮かない表情なのを見ると、彼女達も私と同じ気持ちなのがわかります。

でも、私を励ます為にそんな言葉をかけてくれたのでしょう。

そうです。

ここで私がオロオロしていてもムギちゃんの足がすぐ治る訳ではないし、二人に無駄に心配をかけるだけです。

唯「うん……そうだね」

それはダメな事だと思った私は、澪ちゃんとりっちゃんに笑顔を向けました。

姫子「何、どうかしたの?」

少し重苦しい雰囲気の私達を見てでしょう。隣の席の姫子ちゃんが話しかけてきました。

しずか「そういえば、今日琴吹さん居ないよね?」

たまたま近くで別の子とお喋りしていた、クラスメートのしずかちゃんもやって来ました。

唯「あのね、ムギちゃん怪我しちゃったんだ」

姫子「えっ?」

しずか「けっ、怪我!?」

澪「ああ。
ただの捻挫みたいだけど……」

律「ムギは今、保健室に居るよ」

姫子「それは……心配だね」

しずか「大丈夫かな……」


ガラッ。


さわ子「はーい皆、席着いてね〜」

さわちゃんが教室に入ってきました。

律「っといけねっ!」

りっちゃん達は、それぞれの席に戻ります。

唯「…………」

今日は折角早起きが出来て、皆でのんびり楽しく登校出来たのに、何だか残念です。

気分転換に外を見てみましたが、完全に日が昇っていて気持ちの良い快晴なのに、どこか薄暗く感じました。

きっと、私の心が晴れないからそう見えるのだと思います。

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結局、一時間目の授業の間にムギちゃんは戻って来ませんでした。

休憩時間になって様子を見に行きましたが、やっぱりまだ歩けないみたいです。

保健室の先生は、

『この状態だと授業にも出られないでしょうし、
もし骨に異常があるといけないから、念の為に病院に行った方が良いかも』

と、お家の人に連絡しての早退を進めたみたいですが、
ムギちゃんは『大丈夫ですっ』といつもの感じで断ったと聞きました。

紬「確かに今はまだ歩けないけど、大怪我じゃない事は自分でわかるわ。
私学校大好きだから、こんな事で早退なんかしたくないのっ!」フンスフンスフンス!

保健室のベッドに腰掛けながらそう言って頷く『むぎゅう!』なムギちゃんを見て、
私達のモヤモヤした気持ちは吹き飛びました。

りっちゃんがニコッと笑い、声を上げます。

律「そうだな!
──よっしゃ! じゃあ今日は一日ムギの世話しよーぜー!」

唯「おおっ! さすがりっちゃん隊員、名案ですっ!」

澪「なるほど、良いんじゃないか」

りっちゃんの意見に、私と澪ちゃんは即座に同意します。

紬「えっ? お世話?」

ムギちゃんがきょとんと首を傾げました。

律「おう! 散歩でもトイレでも行きたい所があればいくらでも肩貸すし、欲しい物あったら買ってくるぜ!」

紬「そんな……悪いわ」

唯「いーんだよ、ちっとも悪くないよっ!」

澪「ああ。ムギにはいつもお世話になってるし、こんな時くらい力にならせてくれ」

律「そーだそーだっ」

紬「皆……!」

律「──あっ、でもお使いする時お金は貰うぜー。
私、今金欠だからさ」

唯「はいっ! 私もですっ!」

澪「あー……まあ、そこはあれだな。
すまん、ムギ」

紬「うふふっ、謝る事じゃないわよ。当然だもの。
──うん、じゃあ……何かあったらお願いして良いかしら?」

さっきまでは申し訳なさそうだったムギちゃんですが、ようやく笑ってくれました。

唯「任せんしゃいっ!」

そうです。私やりっちゃんはもちろん、
しっかりしている澪ちゃんやあずにゃんも、何だかんだでムギちゃんにはよく甘えさせて貰っているのです。

だから、こんな日くらいは私達に甘えて欲しいなって、そう思いました。

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二時間目が終わった後にも保健室に行ってみると、あずにゃんが居ました。

梓「皆さん酷いですよ!
ムギ先輩が大変な事になってるのに教えてくれないなんてっ!」

律「いやーすまん。朝はバタバタしてつい忘れてて、な」

私達があずにゃんに『ムギちゃん・捻挫事件』を伝えたのは、二時間目の授業が始まるすぐ前にメールで、でした。

梓「もうっ、あんな時間に連絡されると動けませんし、おかげで授業中まったく集中出来なかったですよ」

唯「ごめんよぉあずにゃん、お詫びにちゅーするよっ」

りっちゃんの言った事は本当です。

でも、確かにあずにゃんには悪い事をしてしまいました。

その罪滅ぼしにと、私は唇を突き出してあずにゃんに近寄ります。

梓「ちょっ! な、何するんですかーっ」

唯「ほらー、あずにゃん〜」

梓「もーっ、やめて下さいっ!」


くいっ!


もう一息でイケそうだったのですが、あずにゃんは首を私から見て右に振って避けやがりました。

その弾みで、あずにゃんのツインテールのこれまた私から見て左側が──


パサァッ!!!


唯「ぐ あ あ !」

私の左目に直撃しました。

梓「あっ……
す、すみません、大丈夫ですか唯先輩っ!」

わたわたと、あずにゃんは私の肩に手をやります。

唯「むぐあぁぁぁ……
ま、まさかあずにゃんがミョルニルハンマーの使い手だったとは……!」

油断したデェス!

梓「いや、意味がわかりません」

律「くっ、くくくっ、ははははっ!
もうっ、お前ら何やってんだよ! 何だよその流れるようなコントはっ!」

りっちゃんが大笑いしています。

酷いです、私は目が痛いのに。ぶーぶー!

梓「コントじゃありませんっ!」

澪「ふふっ、ふふふ……!
馬鹿、律。笑ったら唯にわ、悪いだろ?」

そう言う澪ちゃんも笑っています。

どうやら、二人のツボに何かがハマってしまったみたいです。

梓「もー、澪先輩までっ」

澪「す、すまん梓……くくくっ!」

梓「──あっ! すみませんムギ先輩、騒いじゃって……」

と、あずにゃんが、今までの事をずっとニコニコしながら見ていたムギちゃんに向き直りました。

紬「ううん、むしろありがとうっ!」

梓「えっ?」

紬「いつもの楽しい皆を見ていると、とっても元気が出てくるわっ。
だから、ありがとう♪」

そういうムギちゃんは、まるでほんわか太陽みたいな素敵な笑顔で。

梓「ムギ先輩……」

何だかわからないですけど、どうやらムギちゃんの役に立てたみたいです!

やりましたっ!

唯「いやぁ、そんなにお礼を言われると照れますなぁ///
これもひとえに私の力ですな?///」

梓「ゆ い 先 輩 !?」

唯「ひゃあっ! あずにゃんさんな、何で怒っとるん???」

律「あははははっ!」

澪「ぷくくくくっ!」

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それからも、休憩時間の度にムギちゃんの所に行きました。

おトイレに連れて行ってあげたり、今日の授業のノートを一回毎に渡したり、お喋りしたり……

クラスの他の皆も、ちらほらと彼女のお見舞いに来てくれました。

こう言ってはムギちゃんに失礼ですが、一時間目の時とは真逆で今は楽しいです。

こんな感じに朝から続く、この『ムギちゃん・捻挫事件』の流れに保健室の先生が、

『琴吹さんってどれだけ人気者なのよ』

と苦笑していました。

えへへ、ムギちゃんって凄いでしょ?

ムギちゃんは、いつもにこにこほわほわあったか。

私は、そんなムギちゃんが大好きです。

きっと、皆だって同じだと思います。

……………………

…………

お昼休みの時にはムギちゃんの足の痛みも引いてきたようで、軽音部の五人でお外でお昼しました。

皆、お弁当です。

唯「ふっふっふぅ、今日のお弁当は何かなぁ?」

お弁当箱のフタを開く、この瞬間こそまさに『楽しみ』です。

しかし、他の皆のお弁当だって気になるもの。


パカッ。


私は自分のお弁当箱を開けつつ、ムギちゃん達のにも視線をやります。

……!!!!!!!!!!

唯「なんとぉーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」

紬「ひょ!?」

律「うわっ!?」

澪「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!??」

梓「ちょ、何ですかいきなり!」

ムギちゃんのボリューミーなのも、りっちゃんの家庭的なのも、澪ちゃんの可愛らしいのもどれもたまらんです!

最高です!!

でも、あずにゃんのは。

あずにゃんのお弁当は!

唯「違いますっ! 詳しく言うとあずにゃんのお弁当の中のそのおかずっ!」

梓「は、はい?」

あずにゃんの小ぶりなお弁当箱の中に居やがる、黒い海苔に巻かれた白いそれ……

唯「お も ち !!!!!」


ドドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!(効果音)


梓「へっ?
え、ええ、お餅の海苔巻きですよ? これがどうかしましたか?」

そうです、おもちです。

唯「ムギちゃんっ、奴だよ!
今回の大事件の元凶だよっ!?」

梓「いや、何の話をしているんですか?」

紬「むむむっ、そうね!
ここであったがおもちっ!」

律「ムギは意味わかってんの!?」

あの場に居なかったあずにゃんはともかく、一緒に階段をのぼっていたりっちゃんがこう言うという事は、
彼女はあの時の私達の話を聞いていなかったのでしょう。

まあそれは良いです。

唯「このおもちぃぃぃ!」


がしっ!


梓「あっ!」

まずは私のお箸が宿敵を掴み、

紬「晴らさでおくべきかぁぁぁぁぁっ!」


がししっ!!


続けて、ムギちゃんのお箸もそれに続きました。

そのまま二人で宿敵を持ち上げると、


がぶっ!!


ポッキーゲームの要領で、二人の力を合わせて奴にかじりつきました!

梓「ちょぉぉぉぉぉ!!!」


ぱくぱくムチュッごっくん!


梓「私の……おかずが……」

唯「ふー、美味しかった!
これで復讐は果たせましたですな、ムギちゃんっ!」

紬「そうねっ、これで枕を高くして眠れるわっ!
美味しかったし!」

梓「」

律「いやー、すげぇ連携だったな。
息ピッタリ」

梓「もーーーっ!! 律先輩なに感心してるんですか……
ってあれ、澪先輩?」

律「おやっ?」

私達はようやく気付きました。

澪ちゃんが目を開いたまま気を失っているのを。

どうやら、私の叫び声にやられたみたいです。

ごめんね、澪ちゃん。

……………………

…………

頑張ればいけそうという事で、ムギちゃんは午後から授業に復帰しました。

私達が手を貸してあげれば移動とかはもう全然問題無いのですが、
ずっと同じ体勢で座っていると痛みはぶり返してくるでしょうし、まさにド根性です。

痛くない・しんどくない訳はないはずですが、そんな様子をまったく見せない……

それどころか、楽しそうに授業を受けるムギちゃん。

いや、こんな状況でも本当に楽しんでいるのでしょう。

『私、酷い捻挫をしながら授業に出るの初めて〜♪』と、笑っているムギちゃんのお顔と心が見えるようです。

いや、もしかしたらこれまでの人生ですでに経験済みかもしれませんが。

ともあれ、やっぱり彼女は凄いなあと思いました。

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放課後です。

ムギちゃんは演奏は出来そうにないので、
ソファーでくつろいで貰いつつ、私達の演奏のダメ出しをして貰いました。

といっても、演奏したのはその一回だけで、後はいつも通りのハニー・スイート・ティー・タイムでしたが。

……………………

…………

律「さって、そろそろ帰るかなー」

紅茶を飲み干してカップを置き、りっちゃんが言いました。

机の上にあったお菓子は、ついさっき私が食べたので最後でした。

紬「もうこんな時間になってたのね〜」

外は、ちょっぴり暗くなってきていました。

梓「また大して練習が出来なかった……」

澪「まあ、今日の所は仕方ないよ。
ムギ抜きで演奏を続けるのも何か寂しいしな」

梓「あー、確かにそうですね」

紬「ごめんね、私のせいで……」

澪「あっ、ごめんムギ!
そんな意味じゃないんだ」

梓「はい、ムギ先輩は何も悪くないですっ!」

紬「でも、練習だけじゃなくて、お茶の準備とかまで皆に全部やって貰ったし……」

ムギちゃんはちょっとしょぼんとしてます。

確かに、今日はお茶はりっちゃんが淹れ、お菓子を並べたりとかは私・澪ちゃん・あずにゃんの三人でしました。

唯「そんな事気にしちゃダメだよ〜」

律「そうだぞ。今日はムギのして欲しい事は何でもするって言っただろ?
……って、これは頼まれた事じゃなかったっけ……」

そう、ムギちゃんはお茶会の準備は自分でやりたがっていました。

だいぶ足の痛みが無くなってきたとはいえ、まだ無理はさせられないので、私達でストップをかけましたが。

澪「まあ、お茶もお菓子も例によってムギが持ってきてくれた物だしな。
それだけでありがたいよ」

梓「そうですね。ムギ先輩、いつも本当にありがとうございます」

律「サンキューな、ムギ」

唯「ありがとう、ムギちゃん」

紬「も、もう、いきなりなあに?///」

よかった、ムギちゃんに笑顔が戻りました。

律「かーっ! でもこうして改めて礼言うのってちょっと照れ臭いな!」

澪「ふふっ、そうだな」

梓「はい」

唯「だねぇ」

りっちゃんが頭をかきながら笑うと、皆もそれにつられました。

澪「──と、ムギはどうやって帰るんだ?
何だったら家まで送って行こうか?」

紬「ううん、さすがにそれは悪いもの。
家に連絡して、迎えに来て貰う事にしたわ」

律「それが良いな。
その足で電車乗ってー、は危ない」

紬「ホントはこういうの、嫌なんだけどね」

梓「ふふっ、こんな日くらい良いじゃないですか」

窓の端に、赤い光が見え始めました。

……ああ、一日が終わってしまいます。

紬「唯ちゃん? どうしたの?」

唯「……なんか、今日が終わっちゃう事が寂しくなっちゃった」

紬「……そうね〜。楽しかったものね」

律「おいおい、ムギは大変な一日だったじゃん?」

紬「そうだけど……それ以上に楽しかったわ」

ムギちゃんは、ニッコリと笑いました。

律「……あー。
実は正直さ、私も楽しかった」

澪「……うん」

梓「……はいです」

唯「うん。ムギちゃんのおかげで、とっても楽しかったっ!」

……!

あっ、そっかぁ。

当たり前の事なのに、私はようやく気付きました。

紬「うふふっ、足は痛かったけど、最高の一日だったわ。
皆、今日は本当にありがとう。迷惑かけてごめんね?
クラスの皆にも心配かけちゃったから、明日謝らなきゃ」

こうして楽しかったのは、ムギちゃんのおかげなんだ。

ムギちゃんが居てくれるから。

澪「何言ってんだ。
今日の事を迷惑に思った奴も、謝って欲しい奴も居ないよ」

唯「ムギちゃんっ!」

紬「なあに?」

唯「産まれて来てくれてありがとうっ!」

紬「まあ……!」

真剣に言う私に、ムギちゃんは驚いたように目を開き、口元に手をやりました。

梓「ど、どうしたんですか? 急に」

唯「今日がこんなにこんなに楽しかったのは、ムギちゃんが居たからなんだよ!
ムギちゃんが産まれてこなかったら、ありえなかったんだよっ」

私は、その物凄い発見を皆に伝えようとしましたが、興奮の為か上手く言葉に出来ません。

唯「あっ、いつもも楽しいし、皆も居てくれるってのもあるんだけど、あのね……」

律「──あー、言いたい事は何となくわかったが……」

澪「それで、『産まれて来てくれてありがとう』になる訳か」

梓「いささか飛躍しすぎな気もしますが、相変わらず凄い発想力ですね……
でも、唯先輩らしいです」

けれど、皆はそんな私の言葉を理解してくれたみたいです!

紬「さ、さすがにそんな事を言われると照れちゃうわ///」

唯「照れる必要ないよっ!
堂々とするべきだよっ!」

律「はいはい、んじゃそろそろ帰るぞー。
これ以上残ってると怒られちまう」

澪「そうだな」

──私達は荷物をまとめると、立ち上がります。

ゆっくりとならば、ではありますが、ムギちゃんも一人で歩けるまで回復しました。

でも……


がしっ。


紬「唯ちゃん?」

唯「ふっふっふ。最後まで肩貸すぜ、お嬢さんっ!」

やっぱり、このままただ下校するだけなのがもったいない私は、こうしてしまうのでした。

紬「もう一人でも大丈夫よ?」

唯「まあまあ、気にしなさんな」

梓「あ……私もやらせて下さい」

と、あずにゃんが私とは逆側から、ムギちゃんを支えます。

──きっと、あずにゃんも私と同じ気持ちだったのでしょう。

ううん、澪ちゃんとりっちゃんだって。

澪「じゃあ、私はムギの荷物を持つよ」

律「んじゃ私は……
って、もう手伝える事ねーしお前らずりーし!」

梓「知らないです。帰るです」

と、ムギちゃんを支えて私とあずにゃんは歩き出しました。

律「中野ぉ!」

澪「はははっ」

それに、りっちゃんと澪ちゃんが続きます。

紬「皆……」

唯「……ムギちゃん」

紬「?」

唯「私ね、皆と……ムギちゃんとこうやって過ごすの、幸せっ!」

──そう、

紬「唯ちゃん……
うん、私もっ!」

毎日が幸せです。

皆が居るから。

ムギちゃんが居るから。



おしまい。

以上です。
皆様ありがとうございました〜。

ではでは、最後に挿絵置いておきますね。
http://myup.jp/l9KUr0bg

ムギちゃんお誕生日おめでとうでした〜〜〜〜〜♪

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