エレン「死人が生き返って、人を灰にする化物になる?」(115)

エレン「……なんだよ、それ?」

アルミン「最近、そんな噂が流れてるんだよ。死んだはずの人が立ち上がってこっちを襲ってくるんだ」

エレン「それはただ、意識が朦朧としてたとかじゃないのか? 死にかけたけどギリギリ生きてるとか」

アルミン「いや。確かに死んでるはずなんだ……巨人から狙われなくなるんだから」

エレン「……巨人から?」

アルミン「あぁ。そしてその化物に殺されると人は灰になって死んでしまう」

エレン「妙な話だな。人間だったっていうならなんで同じ人間を襲う? 巨人に狙われなくなるっていうなら奴らを倒すのだって簡単だろ?」

アルミン「……それはね、エレン」

エレン「あぁ、そういえば妙に詳しいんだなアルミン? 噂ってのは──」

アルミン「仲間が増えるからさ……灰になるのは出来損ないだけなんだ」

エレン「……アル、ミン?」

アルミン「どうしたんだ、エレン? 僕の顔になにかついてるかな?」

エレン「お前……本当にアルミンか? なにがあったんだ」

アルミン「別に、なにもないさ。なにもね……ただ、エレン」

エレン「……!」ヒュッ

   ガインッ!

アルミン「あ。防いじゃうか……やっぱりエレンはすごいや」

エレン「なんだよ、それ……触、手?」

アルミン「そうだよ。これが人を灰にする手段。人間を超えた証だ、エレン」

エレン「アルミン……どういうことだ! 説明しろ!!」

アルミン「やだなぁ、怒鳴らなくてもいいじゃないか。エレン、僕と君の仲だろ?」

エレン「なんで俺を殺そうとした? その触手は、人を超えるってのは、どういう意味だ?」

アルミン「そのままの意味だよ。今の僕はほんの少し前までの人間の僕とは違う」

エレン「ふざけんな! 何考えてるんだアルミン!!」

アルミン「エレンなら大丈夫さ。だって僕が生き返ってこうしてオルフェノクの力を使えるんだ……エレンだって……」

エレン「オルフェノク……?」

アルミン「あぁ、生き返った化物の呼び名だってさ。でも名前の由来は外を自由に行き来してた時代の神話の神様なんだ」ニコッ

エレン「……ッ」

アルミン「さぁ、エレン。痛くないようにがんばるから……」

エレン(クソッ……なんだよ、なんなんだよ……! アルミンが人間じゃなく、化物? 巨人でも、人間でもないって……!)

アルミン「……」ゾゾゾゾ…

エレン「くそ……アルミン……!」

アルミン「終わりだよ」ヒュンッ


   ドスドスッ


エレン「かっ……ハッ……!」

アルミン「ちゃんと蘇ってくれよ、エレン。寂しいのはイヤだからさ」

エレン「アル………ミ………………」

――――

――


エレン「はっ……!?」

ミカサ「エレン、どうしたの?」

エレン「ミカ、サ……? アルミンは!?」

ミカサ「アルミン? 街のほうだと思う」

エレン「街って………あ、れ?」

ミカサ「エレン?」

エレン「傷が、ない……いや……なにか、縮んで……?」

ミカサ「どうして、泣いてるの?」

エレン「俺は……街は……壁、壁がある! ここはどこだ、ミカサ!」

ミカサ「どこって……私たちは薪を拾いに来た。エレンは疲れているのか、寝てしまっていたけど」

エレン「………じゃあ、これって」

ミカサ「エレン?」

エレン「なんでもねぇ……ちょっと考える時間をくれ」

ハンネス「よう、エレンにミカサじゃないか……アルミンはどうした?」

エレン「ハ、ハンネスさん!」

ミカサ「……アルミンは、今はいない」

ハンネス「そうか……」

エレン「そ、そうだ! アルミンは見なかった!?」

ハンネス「アルミン? いや、俺も今日は見かけないな」

エレン「くそっ!」

ハンネス「……待てエレン、何があった?」

エレン「何って、アルミンが見つからねえんだよ!」

ハンネス「お前ら、もしかして今日ずっとアルミンを探してんのか?」

ミカサ「……」コクッ

ハンネス「……」

エレン「ハンネスさん?」

ハンネス「……おい、お前ら、これはあんまり人に話すんじゃねえぞ?」

エレン「え?」

ハンネス「そのうち嫌でも噂で耳に入ってくるだろうから、今のうちに言っておく」

ハンネス「これはまだ公表されてないことなんだがな……最近、原因不明の行方不明者が多い」

エレン「!」

ハンネス「報告があるだけでも、もう20人近く消えてる。しかし消えたヤツの共通点は未だ掴めない」

エレン「ほ、本当に……!?」

ハンネス「ああ……アルミンがそうだとは言わないが、もしかしたらってこともある」

エレン「何だよそれ……何でそんなことが!」

ハンネス「それは俺たちにも分からねえ。ただ、消えたと思ってたヤツがひょっこり戻ってくることもあるんだ」

ミカサ「……聞き取りは」

ハンネス「もちろんやったさ。だが、誰も消えた時のことは覚えちゃいないんだ」

ハンネス「どうにもおかしい。絶対にこれは何かある」

エレン「……」

ハンネス「俺たちもアルミンのことは探しておく。お前らは早く家に帰ったほうがいい」

ミカサ「分かった、行こうエレン」グイッ

エレン「そんな……アルミン……」

その日はミカサに家まで連れて行かれ、一歩も外へ出られなかった
ミカサから事情を聞いた母さんの判断で、外出の禁止を命じられたのだ

俺はミカサと共に家の中の仕事を手伝っていた
しかしアルミンのことばかりが気になり、どうしても手元に集中できなかった


エレン「……」サクサク

ミカサ「エレン、しっかり手元を見ていないと危険」サクサク

エレン「……」サク

ミカサ「アルミンのことなら、きっと大丈夫」サクサク

ミカサ「駐屯兵団がちゃんと調べてくれている」サクサク

エレン「……いい加減なこと言うなよ!」ガタッ

カルラ「……」チラッ

ミカサ「エレン、今焦ったってアルミンは戻ってこない」

エレン「分かってる! 分かってるんだよ!」

カルラ「エレン……」

ミカサ「きっと明日になれば、全てハッキリする」

エレン「そうじゃねえんだよ! くそっ!」ダダッ

カルラ「エレン!」

エレン「ぐ……」

ミカサ「今はむやみに外へ出て行ってはダメ」

ミカサ「あなたもそれに同意したはず」

カルラ「……お友達が大事なのは分かるわ。でも、万が一あなたにまで何かあったらどうするの?」

エレン「……」

自分でも何となく予感していた
もうアルミンは帰ってこない
おそらく憲兵団の精鋭が派遣されても、アルミンの行方は掴めないだろう

翌日、朝早くにハンネスさんが訊ねて来て、母さんに何か説明していた
アルミンのことがハッキリしていないと予想できていた俺には、何を話していたかは興味がなかった

ハンネス「……それと、これをあの方から任されました」スッ

カルラ「これは…?」

ハンネス「これを必ず、エレンに渡すようにと……」

カルラ「あの子に?」

ハンネス「はい、あの方が仰るには、これがエレンを守ってくれるのだと」

カルラ「……」

ハンネスさんがやや大きめのカバンのようなものを持っている
それは普通のものとは違い、金属製と思しき作りだった
全てのパーツを金属で作ったカバンなど、聞いた試しが無い

やたら頑丈に作られた珍奇な品に、俺は目を奪われていた
そしてちょうどその時だった


ズズゥン…

ズズゥン…

ハンネス「何の音だ?」

エレン「何だ? 地震か?」

カルラ「地震にしては変だわ……」

ハンネス「ちょっと見てきます」

ガチャ

タッタッタッ


ハンネスさんがドアを開けると、人の悲鳴が聞こえてきた
その言葉は俺たちには信じがたい単語が含まれていた

「な、何だぁ!?」

「キャーッ!!」

「巨人だ!巨人が来たぞぉ!!」

「に、逃げろぉっ!!」


タッタッタッ…

ガンッ!

ハンネス「お、お前ら!早く逃げろ!」

エレン「え……」

ハンネス「巨人だ!巨人が攻めて来やがったんだ!」

ミカサ「!」ガタッ

エレン「な、何だって!? 壁があるのに、どうして……!」

ハンネス「後で考えろ! 今は逃げるんだ!」


呆然とする俺の手を引いて、ハンネスさんが壁の内側に向かって走る
母さんとミカサもそれに続いた

エレン「はぁっ!はぁっ!……本当に、巨人がっ!?」

ハンネス「しゃべるなエレン! 走るんだ!」

エレン「くっ……」チラッ


ほんの一瞬後ろを振り返ると、そこには明らかに人間とは思えないほど歪で大きな動くものがあった
それが一つだけではなく、いくつも歩き回っているのだ


ハンネス「見るな!エレン! 今は走れ!」

ハンネス「……!」ザザッ

俺たちが角を曲がると、そこには別の巨人が待ち構えていた
巨人は俺たちに気付き、その手を伸ばしてきた


7m級「」ググ…

エレン「う、うわあぁ!!」

ハンネス「くそっ! こっちだ!」ダダッ


直後にハンネスさんが方向転換し、巨人の手から逃れる
半ば引きずられる形になりながら、俺はそこに巨人以外の何かを見つけた
巨人の足元にいた灰色のそれは、確かに歩いていた

??「……」

ボゴッ!

ドシャッ…


標的を逃した巨人の手は近くの家に当り、ぶつかって崩れた落ちた破片が土埃を舞わせる
灰色の塊は土埃に包まれた
その瞬間、俺は信じられないものを見る

??「…………」シュルシュルッ…


ズバシュッ!!


7m級「」グラッ…

ズズゥン…


エレン「……!!」


巨人の足元から灰色の何かが伸びてきて、その太い糸のようなものが巨人のうなじをなぞった
直後に巨人は倒れ、ピクリとも動かなくなった

エレン「あ、あいつ……巨人を殺しやがったぞ!」

ミカサ「エレン、よそ見してはいけない」

カルラ「走りなさい!エレン!」

エレン「く……」


ワケが分からない
アルミンが消え、巨人が現れ、正体の分からない灰色の化け物までいる
何も分からないまま、俺は走り続けるしかなかった

ドスドスッ!

バタッ…


ハンネス「!?……カ、カルラさんっ!」

エレン「え……?」クルッ

ミカサ「……!」


何だよ…
何で倒れてんだよ、母さん…

???「やっと見つけたぞ」

ハンネス「……」ジリッ

???「さあ、ソイツを返してもらおうか」


倒れた母さんのその先に、さっきとは違う灰色の化け物がいた
そして、そいつは間違いなく人間の言葉をしゃべっていた

ハンネス「くそっ……ミカサ、エレン!」

???「……」

ハンネス「お前たちは早く逃げろ! こいつは俺がやる!」ガチャ


ハンネスさんはずっと手離さずにいたカバンを開け、そこから何かを取り出す

そうだ、何でそんなモン大事に抱えてたんだよ…
そんなガラクタ、何の役にも立たねえだろ…

???「無駄なことを……」

ハンネス「ぬかせ!今に吠え面かかせてやる!」スチャ


『5』ピリッ 『5』ピリッ 『5』ピリッ 『ENTER』ピピッ!

『standing by』キュワー!キュワー!キュワー!キュワー!


???「……」

ハンネス「行くぜ!」ガチャッ

『error』

バチンッ!!


ハンネス「がぁっ!!」ドサッ…

???「無駄だと言っただろう」

???「貴様らのような下等種族に、それは扱えん」

ハンネス「くそっ! も、もう一度……!」ガシッ


『5』ピリッ 『5』ピリッ 『5』ピリッ 『ENTER』ピピッ!

『standing by』

???「見苦しいぞ、人間よ」シュルシュル

バシッ!

ハンネス「ぐっ……!」

ガシャ…


俺はハンネスさんの落とした奇怪なガラクタを見ていた
ハンネスさんはそれで灰色の化け物に対抗する気でいたらしい

よく分からないが、そんなガラクタが化け物に通用するはずがない
なのに……

ダダッ

ハンネス「!?」

???「む?」

ミカサ「エ、エレン!」


俺はそのガラクタに向かって一直線に走っていた
自分でもどうしてだか分からない

キュワー!キュワー!キュワー!キュワー!

ただ、母さんを襲ったこいつが許せなかった
俺の頭にはそれしかなかった


スチャッ!


???「それに触れるな、小僧!」シュルシュルッッ


ドスドスッ!


エレン「……!」グラッ…

ミカサ「エレン!!」


化け物から伸びた触手に、俺の胸は貫かれた


エレン「……」ザザッ

???「!?」


キュワー!キュワー!キュワー!キュワー!

それでも俺の体は止まったりしなかった
どうしてなのか、そんなことは知ったこっちゃない

エレン「ゴフッ…………へっ……」


キュワー!キュワー!キュワー!キュワー!

コイツを……今すぐぶっ殺す!!


ガチャッ!

『complete』

ピコピリピリリリ♪

ギィィィン!

エレン?「……」ザッ

ミカサ「エ、エレン……?」

???「適合者だと!? こんな所に……!」


シュルッ! シュルシュル!

ガキンッ!


???「チッ!」

エレン?「……フゥー……」

エレン?「ハアッ!」ダダッ


ズゴッ! ドゴッ!


???「ごはっ……!」ドサッ


赤と黒の装甲らしきものに覆われた俺には、もはや目の前にいる化け物は恐怖の対象ではなかった
とてつもない力がこの装甲から溢れ出てくる
巨人だろうと、化け物だろうと、今の俺なら倒せる気がした


???「く、くそっ!」ババッ

ガキンッ!

???「!」ザザッ…

ハンネス「逃がすかよっ……!」ギシギシ…

???「貴様ッ! そこをどけぇ!!」ググ…

ハンネス「エレンッ!!」

ヒュンッ

エレン?「!」パシッ

ハンネス「それを手にはめろ! こいつをブッ飛ばせ!!」グググ…

ハンネス「バックルを開けろ! 一番デカいキーを押すんだ!」


バックル? キー?? 何を言ってるんだ??


エレン?「……」パカッ

エレン?「これか?…ええい!どうにかなれっ!!」ピピッ タンッ!


ギキィィン…

手にはめたガラクタからは真っ赤な光が灯り始めた
その光を見た瞬間、俺は全身の細胞が震えるのを感じた

赤い光に強烈な『殺意』が込められていることを悟ったからだ
つまり、これは敵を殺す武器なのだ


ギィィン… ギィィン… ギィィン…

エレン?「う……」

ギィィンギィィンギィィンギィィン

エレン?「うわああああああッッ!!」ダダダッ

ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!ギィン!


???「う…おおああああ!!」


ガガガガガガガガガ!!!

バキィィィン……!!

???「お…あ……」

ガクッ

???「おぉ…………」

ドサッ……

ザザァー……


真っ赤な光をぶち込まれた化け物は、その場に崩れ落ちる
直後に全身が灰となり、あっけなく消えていった

エレン?「た、倒した……?」

ミカサ「……」

ハンネス「……エレン、それを今すぐに外すんだ」

エレン?「外す? どうやって……?」

ハンネス「……」ガチャ

ピッ

『cansel』

ドシュゥン…

エレン「ハ、ハンネスさん……俺は……」

ハンネス「今は何も考えるな……巨人もすぐそこまで追って来ている。逃げるのが先だ!」

エレン「そ、そうだ、母さんは……!?」


母さんが倒れた場所を見ると、そこには衣服と灰しか残っていなかった


エレン「お、おい……」

エレン「母さんは……?」

ハンネス「……」

エレン「な、何で服しかねえんだよっ!」

ミカサ「……」

エレン「う……?」ガクッ


そこから先の記憶は無かった
火を消したように突然意識が途絶えたのだ


タッタッタッ…

ハンネス「はっ、はっ……ミカサ!灰色のバケモンに気を付けろ!」

ハンネス「次鉢合せしたら、今度こそ本当におしまいだぞ!」

ミカサ「……」コクッ


ハンネスは急に気を失ったエレンと、さっきの道具を抱えて、目の前を走っている
私はただその背中を追って付いて行くだけだった

……さっきのエレンの姿は一体なんだったのか
鎧のようにも見えたが、あれは明らかに私たちの社会で知られているカタチではない
あらはどこから持ち込まれたものなのか


ズシン…

ズシン…


ハンネス「はっ、はっ……くそっ!こっちにもいやがった!」

ハンネス「ミカサ!こっちだ!」

ミカサ「……」コクッ


今考えられることは一つ
あれはきっと、私たちの知らない外の世界からもたらされたのだろう
赤く光る戦士の甲冑は、灰色の怪物と共に壁の内側へ入ってきたのだ


ハンネス「はっ、はっ、はっ……よぉし!内門だ!」

ハンネス「ここを越えれば……!?」


ハンネスがそこで一瞬立ち止まる
内門近くに異様なものが散らばっていたからだ


ハンネス「こ、これは……」


そこにはいくつもの駐屯兵団の制服と立体機動が横たわっていた
慌てて落としていった感じではない
まるでついさっきまでそれを着込んでいる人がいて、そこから人間だけを抜き取ったような形をしているのだ
そして制服の中には少しばかりの灰が詰まっている

その光景はエレンの母親の最期の姿と、まるで同じだった


ハンネス「……くそっ!」


おそらくハンネスも私と同じことを考えている
見ると内門は完全に開かれている
門の近辺には巨人も化け物もいなかったが、私たちは悟ってしまった
もはやこの内側も今は安全ではなくなってしまったのだ


ミカサ「……迷っても無駄。ここに留まっていれば、私たちはいずれ死ぬ」

ハンネス「あ、ああ……そうだなミカサ、お前の言う通りだ」

ドォーン…

ゴガッ…

ズズゥン…


はるか後方より衝撃音が聞こえる
振り返ると、遠くに巨人が何体も集まっているのが見えた


ズシン… ズシン…

ドドォン…


一体の巨人に他の巨人が近づいていく
その中心にいた巨人は、寄って来た巨人に掴みかかり暴れていた
私の目には、それは巨人同士でケンカをしているように見えた


ハンネス「仕方ねえ、中に進むぞ!ミカサ!」

ミカサ「分かった」


後方の騒ぎを無視して、私たちは壁の内側へと逃げ込む


10m級「」グググ…

4m級「」ドシン… ドシン…


ドゴッ!

グシャッ!

ドドォン…


10m級「」シュウゥゥ…

4m級「」シュウゥゥ…


2体の巨人は目の前の筋張った巨人に向かって行くが、即座に頭部を砕かれ活動不能となる
この筋張った巨人は、そうやって近づいてくる巨人をもう20体近くも葬っている


?A「さすがは知性種だ。ゴミではろくに時間稼ぎもできんな」

?B「このまま続けますか? まだこちらには余剰がございます」

ザッ

?C「いや、もう終わりだ。ヤツには最新型の実験台になってもらう」

?A「シィナ様!……も、申し訳ございません。未だヤツは仕留め切れず……」

シィナ「今すぐゴミを下がらせろ。戦いの邪魔だ」

?A「はっ……!」

?B「ご用心なさいませ……」


シィナ「さあて、試し斬りと行こうか、デカブツ」ズオゥゥ…

スチャッ!


灰色の怪物の一人が人間の男の姿になり、同時に手に持っていた物を腰に装着する
そしてバックルの部分を取り外し、コードを入力する


『9』ポッ 『1』ポッ 『3』ポッ 『ENTER』ピピッ!


『STANDING BY』


ゴォォン… ゴォォン… ゴォォン… ゴォォン…


?A「……サイドバッシャーはお呼びしますか?」

シィナ「キサマは黙っていろ。これは俺の戦いだ…………変身」

ガチャッ!

『COMPLETE』


ギィィィン!!


黒と黄色の装甲が現れ、一瞬で全身が包まれた
その姿はエレンの変身した姿に似ていた


?B「これが最新型……」

?A「ダブルストリーム、もう実用化していたのか」


シィナΧ「ふむ、中々の高出力だ…………ハァッ!」ダンッ


筋張った巨人「!」グッ


巨人は突如現れた未知の敵に警戒し、構えの姿勢を取る
相手は立体機動もなしに、剣のようなものを携えたままこちらに向かって走ってくる


あれはどうやら灰色の怪物達の幹部らしい
他の怪物の手強さから考えても、勝てるかどうかは怪しい
だがこんな所でやられるつもりなど毛頭ない


筋張った巨人「ウヲオオオオ!!」ブンッ

シィナΧ「遅い!」サッ

ドガンッッ!!


空振りした巨人の右腕が地面に突き刺さる
無防備になった腕にシィナが斬りかかる


シィナΧ「ハッ!!」ブンッ

ガギン!

シィナΧ「む?」バッ


ブゥンッ

バガンッ!!


スタッ…

シィナΧ「……フン、硬さがご自慢のようだな」

筋張った巨人「……」ググッ


カイザは一瞬の跳躍で巨人から20m近くの距離を取る
ここまでの跳躍は怪物自身の筋力をもってしても不可能である
その身体能力は、明らかに装甲によって引き上げられたものだった


シィナΧ「コレにも捕縛機能はあるのか?」スチャ

『READY』

シィナΧ「食らえ」カチッ

ドシュン!



筋張った巨人「!」サッ

ドスン…




シィナΧ「……ほう、やはり飛び道具は警戒するか」

カチッ

『BURST MODE』

ダンダン! ダダン!



筋張った巨人「!!」ググッ

ドゴォン! ズゴォン! ドォン!



巨人は連射される飛び道具をかわし切れず、体を縮めて身を守る


シィナΧ「のろい……カメですらもっとマシな動きをするぞ?」スチャ

ドシュン!



バシッ!

筋張った巨人「!?」ググググ…


巨人は網状の光に包まれ、身動きができなくなる
シィナはその様子を見ながらゆっくり近づいていく


シィナΧ「ふむ、ちゃんと使えるようだな」


シィナΧ「……では終わりだ」パカッ ピピッ タンッ!


『EXCEED CHARGE』


ギィィン…… 


ブゥン… ブゥン… ブゥン… ブゥン…


シィナΧ「……」ググッ



筋張った巨人「グ……!」ギシギシ…


後ろに引かれ構えられた剣に光が集まる
一撃必殺の技が放たれることは明らかだ
巨人は必死で光の網から脱出しようとする


筋張った巨人「ウウ…オオアアアア!!」ミシミシミシ…



シィナΧ「無駄だ。その縛鎖から逃れられた巨人などいない」



筋張った巨人「ゴオオ……ッッ ガアアアアア!!」

ピシッ



シィナΧ「……ん?」



バキィィン!!

筋張った巨人「オオオオオオ!!」ドシン! ドシン! ドシン!


シィナΧ「は……」

シィナΧ「ハッハッハ! コイツぁ面白い!」

シィナΧ「お前ほどしぶといのは初めてだぞ! これは本気でいかんとなぁ!」


巨人がシィナとの距離を詰めていく
そしてその小さい的に右の張り手を叩き込む
しかし、あとほんの数メートルという所で横槍が入る


ボガァァン!!

筋張った巨人「!?」ドドォン…


ドドドドド……!


強烈な榴弾の衝撃と共に、巨人は横倒しにされる
その発射元と思しき場所から、巨人に並ぶほどの大きな黒い鉄の塊が走ってきた


シィナΧ「サイドバッシャー! デカブツを真上に放り投げろ!」


ガチン! ガチン!

筋張った巨人「!!」

グワッ! ブンッッ!!


サイドバッシャーと呼ばれた鉄の塊は巨人を上空に放り投げた
重力と共に巨人の落ちていく場所は、シィナの頭上であった



筋張った巨人「……!……!」



パカッ…

シィナΧ「卵の殻の硬さを突破できない猛禽類は、重力の助けを借りて中身をすするそうだな」ピピッ タンッ!


『EXCEED CHARGE』


ギィィン……


シィナΧ「当然、お前は卵の殻より硬いんだろう?」ググッ


ブゥン… ブゥン… ブゥン… ブゥン…


シィナΧ「ハァッ!!」ダンッ!


キィィィィン!!




シィナは真上に跳び上がり、同時に自分自身が矢の形の光となった
光の矢は巨人の胸元に向かってまっすぐ飛んで行く
ただ落下するだけの巨人には、その矢を逃れる術(すべ)はない


筋張った巨人「オオオオオオ!!」




ズドォッッ!!!




……ドドォォン………




筋張った巨人「」シュウゥゥ…


スタッ

シィナΧ「……中々良い動きができるようだな。このベルトは成功と言っていいだろう」ピッ

ドシュゥン…


胸に大きな穴を開けられた巨人は活動不能となり、そのまま蒸発していく


?A「お見事です、シィナ様」

シィナ「さっさと中にいるヤツを引きずり出せ」

?B「これは……もう、死んでいるのでは?」

シィナ「急所はわずかにずらしてある。巨人化できる人間がそんな簡単に死にはしない」

?B「はっ、仰せのままに」


ズル… ズルズル……

ドシャッ…

金髪の男「ぐあっ!……ごほっ、ごほっ……」


巨人の後ろ側の首に触手が伸びていき、そこから一人の男が引きずり出された
最後の一撃によるものか、その男の両足は膝から下が消失していた


シィナ「気分はどうだ?知性種よ」グリッ

金髪の男「があああああっっ!!」

シィナ「お前にはお仲間と一緒に聞いておきたい事がある。もうしばらくは生かしておいてやろう」

シィナ「連れて行け」

?B「はっ」

ガシッ

金髪の男「お、お前ら……ゴフッ……一体……何者だ……」


シィナ「何者だと? ただの知的生命体さ……中には進化した人類などと名乗る者もいるがな」

金髪の男「進化した……人、類……??」

ガクッ…


そこまで言って、男は気絶した


シィナ「だいぶ遅れてしまったな」

?A「はい、申し訳ございません」

シィナ「まあいい、ちょうど2人目のみやげも手に入った。少しは釈明の弁も立つだろう」

?A「ええ」


怪物達は瓦礫を踏み越えながら、内門へと進んでいった


続く


ハンネス「フゥ……ここまで来れば、何とか……」

ミカサ「はぁ……はぁ……」


内門を潜ってさらに内へ内へと走っていったハンネスとミカサ
巨人と怪物の気配が感じられなくなるまでは一心不乱であった


ハンネス「しかしここは妙だな、まるで平穏そのものじゃねえか」


男A「急げ!お前らも早く荷物をまとめるんだ!」

女A「な、何?何があったの?」

男A「俺にも分からん! 噂だと外門と内門の両方が破られたってことらしいが……」

男B「それ、本当かよ!」

男A「嘘でも本当でも、とにかく移動できるようにしておけ! 何かあってからじゃ遅いんだぞ!」



内門付近はパニックに陥った人間で溢れかえっていたというのに、より内側に近い所では大した騒ぎもない
慌しく叫んだり動き回る者はいくらでもいるが、目の前の脅威に怯えているという感じではない


ハンネス「ヤツらは間違いなくここに入ってきている。のん気に身支度なんてできるワケがない」

ハンネス「……しかし、こっち側では灰にされちまったヤツを見かけないってのも事実だ」

ミカサ「……」コクッ

ハンネス「そういえば、巨人もここまでは入ってきてこなかった気がするな……いや、気のせいか?」

ミカサ「……ハンネス」

ハンネス「ん?」

ミカサ「今は怪物よりも、エレンが心配。ちゃんと息はしてる?」

ハンネス「大丈夫だ。ぐっすり眠ってるぜ?」

ミカサ「なら、いい」


ハンネス「……まだ油断はできねえが、あまり体力も無駄にできない」チラッ

ミカサ「?」


ここまで必死だったとはいえ、今までミカサには走らせっぱなしであった
ミカサが同年代の奴らよりもずっとタフであることは知っていたが、それでも所詮は子供だ
自分に両手が塞がっている以上、無理に急がせるわけにもいかない


ハンネス「ミカサ、しばらくは歩いて行くぞ」

ミカサ「分かった」コクッ


テクテクテク…


エレン「……ん」

ハンネス「おっ、ようやく起きたか」

ミカサ「エレン、ケガはない?」

エレン「ハンネスさん……ミカサ……」

エレン「……!」

バッ

スタッ!

ハンネス「お、おいエレン!」

エレン「あ、あいつら! あいつらは!?」


目が覚めたエレンはハンネスの腕から飛び降り、辺りをせわしなく見回す


ミカサ「エレン、落ち着いて。怪物は死んだ」

エレン「!……そ、そうか、確か俺が――」


ガシッ…


ハンネス「エレン、辛いだろうが、今は気をしっかり保つんだ」

エレン「ハンネスさん……」

エレン「そうだ! ハンネスさん、母さんは……」

ハンネス「……」

ミカサ「……」

エレン「そ、そんな……」ガクッ


エレンはよく知る人物から聞いた言葉を頭の中で反芻していた

『化物に殺されると人は灰になって死んでしまう』

母の亡骸がそこに残されていなかったことに、わずかな希望を持っていた
しかし、2人の反応はどうしようもない現実をエレンに突きつける


ミカサ「エレン、今は考えないで」

ミカサ「あなたはまだ生きている。それだけは確か」

ハンネス「……とにかく、今は先を急ごう。落ち着いたら後で説明する」

エレン「……」


エレンは抜け殻のような表情のまま、ハンネスに手を引かれていった


~開拓地~

ミカサ「……エレン、早く食べないと冷めてしまう」

エレン「分かってる……」

ミカサ「分かってるのなら、早く食べて」スッ

ミカサ「ほら、口を開けて」

サッ

エレン「い、いいって!自分で食べるから!」カチャカチャ…

ミカサ「それなら、いい」


壁の内側に逃げ込んだ俺たちは、行くあてもなくそのまま開拓地送りになった
ここでの生活は子供の俺たちには重労働だった
しかし肉体的な辛さは失ったものへの悲しみを和らげてくれる
いつの間にか、俺たちはアルミンの話もしなくなっていた


始めのうちは毎日筋肉痛に悩まされていたが、それにもかなり慣れてきていた
働けば最低限の食糧はもらえたし、何よりここでは人類を脅かす者が現れない


エレン「……」カチャカチャ…

エレン「……ハンネスさんの言ったこと、俺にはまだ信じらんねえよ」

ミカサ「エレン、今は食事に集中すべき」

エレン「ミカサ、お前だって話聞いてただろ? お前はどう思ったんだよ」

ミカサ「……」カチャカチャ…

エレン「おいミカサ」

ミカサ「……あの話が嘘でも本当でも、今の私たちにできることは食べることと働くことだけ」

ミカサ「どんなに考えても、やるべきことは変わらない」カチャ…

エレン「……そうかよ」


ハンネスさんの話だと、化け物たちの手によって内門も開け放たれてしまったらしい
しかし実際には巨人たちは内門より先には進んできていない
どういうわけだか、内門そのものも今はしっかり閉鎖されているというのだ


エレン「どうなってtやがんだ……?」

エレン「攻め落とすなら、ブッ壊しゃいいはずなのに……」

ミカサ「エレン」

ミカサ「……」カチャカチャカチャ…


これ以上ミカサに急かされるのは面倒だ
俺は急いで目の前の粗末な食糧を平らげた


エレン「……よいしょ」

ガタッ

パカッ…

エレン「……うん、ちゃんとあるな」


今の俺の唯一の楽しみは、ハンネスさんに渡されたこの妙な道具の中身を確認することだった
ハンネスさんはその中身を絶対誰にも渡してはならないと言っていた
しかしこの道具は見た目には飾り物にすらならないガラクタそのものだった
物盗りだってこんなものには目もくれないだろう


エレン「確か、このパーツが足に付けるヤツで……」カチャカチャ…

エレン「……入力キー……この3つでいいんだよな?」カチカチ

エレン「しかし、ホントに使えんのか? 前みたいに」

ミカサ「……」

エレン「やっぱ実際に使ってみないと……」

ミカサ「エレン……」

エレン「んだよ、冗談だって」


このガラクタには使用方法に手順がある
俺はハンネスさんから教わった手順を確認するだけで、実際にそれを使うことはなかった
これを使い過ぎると体に強い負担がかかり、最悪死ぬことになると言うのだ


ミカサ「エレン、その道具を過信してはいけない」

ミカサ「きっとそれは、都合のいい魔法の杖なんかじゃない」

エレン「分かってるって……でも……」

ミカサ「……」

エレン「お前だって見ただろ? コイツのすっげえパワー!」

エレン「コレをうまく使えりゃ、巨人だろうが化け物だろうがブッ倒すことができんだぞ!」

ミカサ「落ち着いて、エレン」

ミカサ「確かにそれは、恐ろしい力を秘めてる。でも」

エレン「……」コクッ


ミカサ「……それを使えるのはたった一人」

ミカサ「どんなに強くても、一人だけじゃ何も変わらないし、変えられない」

エレン「……それでも、これはハンネスさんの言ってたことが嘘じゃないって証拠になる」

ミカサ「……」


巨人とは灰色の化け物の力を研究する過程で生み出された「失敗作」の一つなのだと聞かされた
しかし失敗作の中では最も使い勝手が良いため、あの灰色の化け物たちに使役されているとの話だった

だが俺たちはその失敗作のために、数百年間も壁の内側に閉じ込められていた
詰まるところ、俺たちは先行した祖先に見放された「棄民」だったのだ


エレン「……」ギリッ…


分からないのは、その見放したはずの領域になぜ今更ヤツらが踏み込んできたのかだ
ハンネスさんにも、何かを探しているらしいとしか分からないとのことだった

分かっているのは、この『ファイズギア』もヤツらの探し物の一つに入っているということだ
これはヤツらにとっても重要なものだということだ


エレン「……あんなヤツらの気まぐれのせいで、俺たちは故郷を追われ、母さんは……殺されちまった!」ググッ…

ミカサ「……」

エレン「ミカサ、俺はやってやる」

ミカサ「エレン……」

エレン「……必ず、必ず辿り着いてやる!」


エレン「俺たちを壁の中に閉じ込めやがったこと、必ず後悔させてやるぞ!!」


俺は『ファイズギア』を握り締めながら、復讐の志を新たにした

既に俺の道筋も決まっていた
ハンネスさんが、ヤツらの目を掻い潜るための場所を指し示してくれたのだ
俺はそこで兵士としての力も獲得する手はずになっていた


~住宅地~

男A「そこのボク? ちょっといいかな?」

少年「え? 何?」

男A「おじさん、ここらへんで大人の人がたくさん集まる場所を探してるんだ」

男A「もし知っているなら、教えてくれないかなぁ」

少年「んー、市場に行けばいいんじゃない?」

男A「なるほどね。でも市場はもう知ってるんだ、ごめんね」

少年「んー、そしたら噴水の所とかじゃない?」


男A「噴水? それはどこにあるんだい?」

少年「あそこに赤い屋根の家があるでしょ? そこを右に曲がってず~っと行けばいいんだよ」

男A「そうだったのか!ありがとう」

男A「じゃあキミにはお礼にコレをあげよう」

サッ

少年「……これなに??」


男が取り出したのは岩の破片のようなものだった
どこからどうみても食べられるようなものではない


男A「おっと!ごめんね、間違えちゃったよ」

男A「こっちこっち」

サッ

少年「これ飴玉??」

男A「そうだよ? 果物の味がするからとっても美味しいんだ」

少年「へ~、食べてもいい?」

男A「もちろんいいとも!」


ガサガサ…


少年「うわ~、ブドウの味がする!」

男A「はっはっは、喜んでくれて嬉しいよ」

男A「ではおじさんもそろそろ行くよ、じゃあねー」ササッ

少年「おじさん!ありがとー!」タッタッタッ…


少年はそう言って走り去っていった
その姿に手を振る男の背後に、近づいてくる者がいた


男B「……また遊んでおられるのですか?」

男A「遊んではいないさ。こうやって地道に探してるんじゃないか」

男B「疑わしい者だけで何人いるのか、それぐらいご存知でしょう」

男A「それでもやるしかないじゃないか」

男B「諦めてください。そんなこと続けていたら、終わる頃には何十年経っていることか……」

男A「……」

男B「やはりここは決定通り、覚醒を待つ他ありません」


男A「……そうか」

男B「念のため、あの子供は部下に始末させましょう」

男A「……」

男B「……よろしいですね? ローゼ様」

ローゼ「ふぅ、仕方ないな……分かったよ」

男B「では……」スッ


ローゼ「……」


ローゼ「あの子には、悪いことをしてしまったな……」


ローゼと呼ばれた男は、去っていく仲間の後ろ姿をつまらなそうに眺めていた


続く

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