アコ (まったく、ひとの気も知らないで……)

奏太 ｢ちょっと待ってくれよー！　ひー、帰る支度してねぇー！｣

アコ (ばか奏太) ｸｽｯ

アコ ｢じゃああと十秒。じゅーう、きゅーう、はーち、なーな……｣

奏太 ｢わー！　待て待て待て待てってばー！｣

アコ ｢よーん、さーん、にーい、いーち――――｣

奏太 ｢――――セーフ！　さ、帰ろうぜ、アコ｣

アコ ｢ふん。待っててもらって他に言いようはないの？｣

奏太 ｢ごめん。悪かった。帰りにカップケーキおごってやるから許してくれって｣

アコ ｢…………｣

奏太 ｢紅茶もつける！　だから許してくれ、な？｣

アコ ｢……仕方ないわね。許してあげるわ｣ ﾆｺｯ

奏太 ｢お、……おう！｣

奏太 (なんか最近……アコ、変わったよなー)

………………帰り道

アコ ｢――そしたらね、響ったらおかしいのよ。カップケーキ全部食べちゃって｣

奏太 ｢はは、響姉ちゃんらしいや｣

奏太 ｢……そういやさあ、アコ。最近、姉ちゃんたちと一緒にいること多いよな？｣

アコ ｢えっ？｣ ｷﾞｸｯ ｢あ、そ、それもそうね……｣

奏太 ｢まぁ、仲良くするのはいいことだと思うけどさ……｣

アコ ｢な、なに？｣

奏太 ｢クラスメイトとも仲良くなろうぜ？　女子、みんなお前と仲良くしたがってたぞ？｣

アコ ｢あ……そ、そう？　そうね……｣ ｼｭﾝ ｢そうね……｣

奏太 ｢？｣

アコ (仲良く、か……)

アコ (でも、わたし……いつかはメイジャーランドに……)

アコ ｢……がんばるわ｣

奏太 ｢ああ……うん｣

アコ ｢……ごめん。ちょっと気分悪いから、今日は帰るわ｣

奏太 ｢えっ？　カップケーキは？｣

アコ ｢……ごめん｣

奏太 ｢そ、そうか……分かった。気をつけてな｣

アコ ｢うん。ありがと。じゃあまた、明日。奏太｣

奏太 ｢お、おう｣

アコ ｢…………｣

奏太 ｢ま、また明日なー！　明日、ちゃんとおごってやるからなー！　カップケーキ！｣

奏太 ｢……行っちゃった。どうしたんだろ、アコ｣

奏太 ｢元々明るい奴ではなかったけど……最近は浮き沈みが激しいし……｣

奏太 ｢やっぱり、何かあったのかな……｣

………………調べの館

ｷﾞｷﾞｨ……

アコ ｢…………｣

～～～～～♪　　～～～～♪

アコ (ピアノの音と、歌声……またやってるのね)

響 ｢あっ、アコちゃん！　学校終わったんだねー｣

――――ﾋﾟﾀｯ……

奏 ｢あら、今日はやけに来るのが早かったわね｣

ハミィ ｢ニャプ？　そういえばそうニャ？｣

エレン ｢こ、こら。ふたりとも、姫様に野暮なこと言うんじゃないわよ……｣

アコ ｢……？｣

ﾊｯ

アコ ｢な、ななな、何を言ってるのよ！　べ、べべべつに奏太は関係ないでしょ！？｣

響 ｢？　奏太？　何で奏太の名前が出てくるの？｣

ハミィ ｢？　何でニャ？｣

アコ ｢あっ……｣ ｶｧｱｱｱ ｢なっ、なんでもないっ！！｣

奏 ｢ははーん｣ ﾆﾔﾘ ｢奏太とケンカでもしたのー？　したのー？　したんでしょー？｣

ｽｽｽｽｽ……

エレン ｢奏……動きがきもちわるい……｣ (というか、目が輝きすぎで怖い……)

響 ｢で？　何で奏太の名前が出てきたの？｣

奏 ｢ニブチンは黙ってなさい！　いつもアコちゃんが遅くくる理由を考えれば分かるでしょ！｣

ハミィ ｢ニャップー？　セイレーンは分かるニャ？｣

エレン ｢そ、それは……///｣ ｶｧｱｱ ｢だ、だから……姫様が、奏太くんと……｣

エレン ｢あっ……///　逢い引き……してるから、って……///｣

アコ ｢なっ……///　え、エレン！！　逢い引きってそんな……アイツはただの……！！｣

アコ ｢た、ただの……///｣

奏 ｢ただの、なぁに？｣ ﾆﾝﾏﾘ

アコ ｢た、ただの……ともだち……よ｣ ﾌﾟｲｯ

響 ｢ねぇねぇー。だからみんな何の話をしてるのー？　わたしにも教えてよー｣

奏 ｢で？　で？　で？　今日はいったいどうしたの？｣

アコ ｢う、うるさいわね！　関係ないでしょ！！｣

響 ｢ねぇねぇエレン。逢い引きってなぁに？　ハンバーグの話？｣

響 ｢だったらわたしは、ビーフ100%がいいな……｣ ﾎﾜﾜｰﾝ

エレン ｢あ、うん。響はいつまでもそのままでいてね｣ ﾆｺｯ

響 ｢(´･ω･`)｣

奏 ｢あら、奏太はわたしの弟よ？　弟のことなら気になって当然でしょ？｣ ﾄﾞﾔｧ

エレン ｢あんたは単に耳年増なだけでしょ……｣

響 ｢ねぇねぇハミィ。みんな何を話してるの？｣ ｼｮﾎﾞｰﾝ

ハミィ ｢ハミィにもわかんないニャ。でも多分、姫様が奏太くんを好き好きーって話ニャ｣

アコ ｢！？　ハミィ！　なんでそんな話になるのよ！！｣

ハミィ ｢違うニャ？｣

アコ ｢あぅ……そ、それは……｣

響 ｢へぇー。アコちゃん、やっぱり奏太のこと好きなんだー｣ ﾆｬﾊｰ ｢わたしも好きだよー、奏太のこと｣

アコ ｢！？｣

アコ ｢ち、ちょっ、まっ……響ぃ！？｣

響 ｢？　どうかしたの？｣

奏 ｢きゃーっ！　自分の弟が取り合いされるなんて夢みたい！　最高！｣

エレン ｢鼻血！！　奏、鼻血！！｣

奏 ｢同級生の美少女と、幼馴染みのお姉ちゃん……むはーーーーー！！！｣

エレン ｢だから奏！！　鼻血出てるわよ！？｣ (この子最近いろいろとひどい！！)

ハミィ ｢みんなどうしたニャ？　ハミィも奏太くんのことは好きだニャ｣

ハミィ ｢優しいし、ときどき奏に内緒でハミィにカップケーキをくれ……っと、これは内緒だったニャ｣

奏 ｢……ハミィ？｣

ハミィ ｢なんでもないニャ！　今のは聞き逃して欲しかったニャ！！｣

奏 ｢…………｣ ｸﾞﾘｸﾞﾘｸﾞﾘ

ハミィ ｢はにゃああああああ！！　肉球ぐりぐりはやめるニャアアアアアア！！｣

エレン (関わり合いになりたくないから、ほっとこ……) ｢でも、たしかに奏太くんは良い子よね｣

エレン ｢なんだかんだ言いながら、お店のお手伝いもやっているし、｣

エレン ｢親切だし、優しいし、さっぱりした性格だし……｣

エレン ｢……わたしが大変だったときも、心配してくれたし｣

―――― 『……大丈夫？』

エレン ｢………///｣ ﾊｯ (あ、あれ……？)

アコ ｢…………｣ ｼﾞﾄｰｰｰｰｰｯ ｢……エレン？｣

エレン ｢ち、違うんです姫様！！　べつに、姫様の奏太くんを取ろうなんて、そんな滅相もない！！｣

アコ ｢そんなこと言ってなーーーーい！！｣

エレン ｢ひっ……ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい！！｣

アコ ｢…………｣ ｵﾎﾝ ｢……それはともかくとして、響｣

響 ｢はぇ？｣

アコ ｢響は、奏太のことを、弟みたいな感じで、好き？　それでいいのね？｣

響 ｢？　うーん……そうだね！　弟っていうのが、一番近そうだね｣

アコ ｢…………｣ ﾎｯ

エレン (……姫様、その反応は自白しているようなものです)

奏 ｢――で、最初の話題に戻るけど、｣

エレン ｢あ、奏、おかえり｣

ハミィ ｢はにゃー……｣ ﾎﾞﾛﾎﾞﾛ ｢酷い目にあったニャ……｣

エレン ｢……ハミィも、おかえり｣

奏 ｢正味な話、どうしたの？　アコちゃん｣

アコ ｢えっ？｣

奏 ｢奏太と何かケンカでもした？｣

奏 ｢あの子、わたしと似て顔はいいし運動神経抜群だしなんだかんだで良い子だけど、｣

エレン (……うぜぇ)

奏 ｢ときどき空気が読めないというか、デリカシーがないというか……｣

アコ ｢……べつに、奏太とはなにもないわよ。ただ、ちょっと先に帰ってきただけ｣

奏 ｢ふぅん？｣

アコ ｢…………｣

音吉 ｢…………｣ ﾋｮｺｯ (……出づらい)

………………夜　調べの館　エレンの部屋

エレン ｢今日も、みんなで、楽しく、過ごしました……っと｣

ﾆｺｯ

エレン ｢うん。今日の日記も完成！　さて、そろそろ寝ようかしら……｣

……ｺﾝｺﾝ

エレン ｢？　誰？｣

？？ 『……わたし。アコよ。少し、いい？』

エレン ｢姫様？　え、ええ。もちろんです。入ってください｣

ｷｨ……

アコ ｢……こんな時間にごめんね、エレン｣

エレン ｢いえ、そんな、滅相もない。どうぞ、入ってください｣

アコ ｢ありがとう｣

エレン ｢あ……いま、お茶を入れて参ります｣

アコ ｢いいの。本当に、少し話をしたいだけだから｣

エレン ｢そう……ですか。わかりました｣

アコ ｢…………｣

エレン ｢……それで、お話というのは？｣

アコ ｢……ねえ、エレン。月がとてもきれいね｣

エレン ｢えっ？　あ、ああ、そうですね。空気が澄んでいるようです｣

アコ ｢この月は、メイジャーランドの月とは違う。あっちに行ったら、もう見られないのね｣

エレン ｢……？｣

アコ ｢ねえ、エレン。あなたは、この戦いが終わったらどうするつもり？｣

エレン ｢どうする、というのは……？｣

アコ ｢メイジャーランドに帰るの？｣

エレン ｢…………｣ ｺｸｯ ｢……ええ。そして、ハミィとともに、幸せのメロディを歌い上げます｣

アコ (……すごいしっかりとした眼差し。エレンの中には、明確な目標があるのね)

アコ ｢でも、こっちで出会ったたくさんの友達と、別れなくちゃいけないのよ？｣

エレン ｢……そうですね。それはとてもさみしいことだと思います｣

エレン ｢けれど、私はメイジャーランドの者です。いつかは、あちらに帰らなければなりません｣

アコ ｢……そう。そう、よね｣

エレン (そうか……姫様も、私と同じ……)

アコ ｢…………｣

エレン ｢……ですが、それを決めたのは、自分です｣

アコ ｢え……？｣

エレン ｢私は、きっと、いつかはメイジャーランドに帰るでしょう｣

エレン ｢ですが、きっと今生の別れというわけではない……そう思います｣

エレン ｢響や奏、この可音町で出会ったたくさんの友達と、まだまだ一緒にいたいですから｣

エレン ｢姫様は、どうですか？　まだまだ、こちらに別れたくない人が、大勢いるのではありませんか？｣

アコ ｢……わたしは、｣

エレン ｢……ゆっくり考えましょう。絶対に帰ると決まったわけではないのですから｣

エレン ｢姫様のしたいこと、姫様が思い描く未来……それを、じっくり考えていきましょう｣ ﾆｺｯ

アコ ｢……うん｣ ﾆｺｯ ｢ありがとう、エレン。少しだけ、心が晴れた気がする｣

アコ ｢あなたに相談してよかった｣

エレン ｢ありがとうございます。そう言っていただけると、私も嬉しいです｣

エレン (……そう。姫様がこちらに残るという選択肢だって……あるのだから)

………………翌朝　奏の家

奏太 ｢…………｣

ﾊｧ……

奏太 (昨日、なんかアコを怒らせるようなこと言ったかなぁ、俺……)

奏太 (それともやっぱり、アコに何か……)

奏 ｢？　奏太、どうしたの？　ため息なんかついちゃって｣

奏太 ｢えっ？　ああ、いや……べつに……｣

奏 ｢ははーん｣ ﾆﾔﾘ ｢……色を知る歳か、奏太｣

奏太 ｢……？　なんだよそれ、姉ちゃん｣

奏 ｢ぶっちゃけ、アコちゃんとはどこまでいったの？｣

奏太 ｢ブッ……！！　い、いきなり何を言ってんだ姉ちゃん！！｣

奏 ｢それとも、やっぱり年上の方がいいの？　響の方がいいの？｣

奏太 ｢ひとの話を少しは聞けよ姉ちゃん！｣

奏 ｢それとも大穴。エレンなの？　一目で好きになっちゃったの？｣

奏太 ｢前々からやばいとは思ってたけど最近ほんとやばいぞ！？　大丈夫か姉ちゃん！？｣

奏 ｢！？　ま、まさか……だ、駄目よ奏太！！　わたしたち、実の姉弟なのよ！？｣

奏太 ｢何を言っているのかはよく分からないけど何を言いたいのかはよくわかったよ！？　寝言は寝て言え！｣

奏 ｢……で？｣

ｽﾞｲｯ

奏 ｢結局あんたは、誰がいいの？｣

奏太 ｢な……何の話だよ……｣

奏 ｢本命、アコちゃん。対抗馬、響、ってとこかしら？｣

奏太 ｢だ、だから、何の話だって……――｣

奏 ｢――そういえば、響がこの前、うちの先輩と良い感じにデートしてたわねー｣

奏太 ｢？　へぇー、響姉ちゃん、とうとうそういうの分かるようになったのかー｣

奏 ｢それから、この前アコちゃんが見知らぬ男の子と歩いてたわねー｣

奏太 ｢！？　お、おい！？　それはどこのどいつだ！！｣

奏 ｢はい分かりました。響にお熱だった頃の奏太くんはもういないのね。少しさみしいわ｣

奏太 ｢……！？　謀ったな姉ちゃん！！｣

奏 ｢ばかねー、あんたも。ま、そういう人がいいところがあんたの美徳かもしれないけど｣

奏太 ｢……で？｣

奏 ｢？　で、って何よ？　アコちゃん大好き奏太くん｣

奏太 ｢……アコが見知らぬ男の子と歩いてたっていうのは、うそなのか？｣

奏 ｢……？｣ ﾌﾟｯ ｢ぷっ……ぷぷ……奏太ったらかわいいわねー！｣

奏 ｢うそに決まってるじゃない。安心しなさいな｣

奏太 ｢…………｣ (……いつか覚えてろよ姉ちゃん。王子さんにあることないこと言いふらしてやる)

美空 ｢あらあら、あなたたちは朝から元気ねぇ。そろそろ出ないと遅刻しちゃうわよ？｣

奏 ｢あっ、いっけない！　わたし今日日直なの！　先行くわね奏太！｣

ﾄﾞﾀﾊﾞﾀﾄﾞﾀﾊﾞﾀ……

奏太 ｢……ったく。日直忘れて弟からかうって、ひどい姉｣

美空 ｢あら、あれであなたのことを心配してるのよ？｣ (最近色々とひどいけど、あの子)

奏太 ｢そうかなぁ……？｣ (最近色々とひどいけど、姉ちゃん)

奏太 ｢あ、そうだ、母ちゃん。ひとつ頼みたいことがあるんだ｣

美空 ｢？｣

………………小学校

アコ ｢…………｣

―――― 『けれど、私はメイジャーランドの者です。いつかは、あちらに帰らなければなりません』

―――― 『響や奏、この可音町で出会ったたくさんの友達と、まだまだ一緒にいたいですから』

―――― 『姫様は、どうですか？　まだまだ、こちらに別れたくない人が、大勢いるのではありませんか？』

―――― 『姫様のしたいこと、姫様が思い描く未来……それを、じっくり考えていきましょう』

アコ ｢……そりゃあ、別れたくないひとなんて、いっぱいいるわよ｣

アコ ｢だから、できるだけ作らないようには、しているけど……でも……｣

？ ｢何を作らないようにしてるって？｣

アコ ｢！？　……なんだ、奏太か｣

奏太 ｢なんだってなんだよー。ほら、帰ろうぜ｣

アコ ｢ふん。奏太のくせに、わたしより先に準備してるなんて、いい心がけじゃない｣

奏太 ｢へへーん。……ってその言い方はなんかおかしくないか！？｣

アコ ｢おかしくなんてないわよ。ほら、変なこと言ってると置いてくわよ？｣

？？ ｢――――あ、あの、調辺さん！｣

アコ ｢え……？｣ (クラスメイトの子たち……？)

女子1 ｢あの、さ……これから、みんなでお裁縫をしようってお話をしてたの｣

女子2 ｢それでね、調辺さん、手先がすごく器用だから、教えてもらえたらな、って｣

女子3 ｢……よかったら、一緒にお裁縫、やらない？｣

アコ ｢……わ、わたし……？｣

女子1 ｢うん！｣

アコ ｢…………｣

―――― 『でも、こっちで出会ったたくさんの友達と、別れなくちゃいけないのよ？』

アコ ｢っ……わ、わたしは……――｣

奏太 ｢――……そうだよなー、アコ。お前って顔の割に裁縫とか得意だもんな｣

アコ ｢？　そ、奏太？｣

奏太 ｢なぁ、よかったらみんな、うちに来てやらないか？　カップケーキもあるぜ？｣

女子2 ｢えっ？　ほ、ほんと！？｣

女子3 ｢ラッキースプーンにお邪魔していいの！？｣

奏太 ｢おう！　特別サービスで、みんなにも俺がおごってやるよ｣

アコ ｢ち、ちょっと奏太――｣

奏太 ｢――いいよな、アコ？｣

アコ ｢あ……｣ ﾌﾟｲｯ ｢か、勝手にしたら｣

アコ (ばか……ひとの気も知らないで……)

奏太 ｢……じゃ、行こうぜ！｣ ﾌﾝﾌｰﾝ

アコ (……のんきな奴。憎たらしい)

………………ラッキースプーン

奏 ｢……あんたのこと、なんとなく貴族様だとは思っていたけれど……｣

奏太 ｢へ？｣

女子1 ｢ええー？　そこ、そうじゃないでしょ？　こう縫うんじゃないの？｣

女子2 ｢違うわよー。ね、調辺さん？｣

アコ ｢えっ？　え、ええ……ここは、こう……こう……｣

女子3 ｢うわっ……すごーい！　縫うのはやーい！｣

アコ ｢こ、これくらい、べつに……｣

奏 ｢貴族どころじゃないわね。モテ王子ね。なんなのよアンタ｣

奏太 ｢俺は帰宅して開口一番の言葉がそれな姉ちゃんの将来がとても心配だよ。日本語喋ってくれ｣

奏 ｢うるさいモテ王子！　テンプレ主人公が！！｣

奏太 ｢姉ちゃんの意味不明な言葉は無視するけど、それより姉ちゃん、ちょっと手伝ってくれよ｣

奏 ｢？　手伝うって、何を？　もう少しで響たちもくるんだけど｣

奏太 ｢カップケーキ運んでこなきゃだから、姉ちゃんは紅茶。頼む｣

奏 ｢仕方ないわねぇ……って、何そのカップケーキ？｣

美空 ｢ふふ、奏太に頼まれたからお父さんに作ってもらったの｣

美空 ｢特別製のカップケーキよ｣

奏 ｢なんでこんな……｣ ﾊｯ ｢……なるほど、我が弟よ。お主も悪よのう｣

奏 ｢意気消沈気味のヒロイン、アコちゃんに取り入るためのアイテム、ね……｣

奏太 ｢姉ちゃんは響姉ちゃんの悪いところばかり吸収してくよね。まぁいいや｣

奏太 ｢なんでもいいから、紅茶頼んだぜ、姉ちゃん｣

美空 ｢ふふ……どんどんあのひとに似ていくわねぇ｣

奏 (……今はイケメンの我が弟も、行き着く先はお父さん……なんだかなぁ)

美空 ｢あんまり失礼なことを考えてると怒るわよー奏ー？｣

ｷｬｯｷｬｳﾌﾌｷｬｯｷｬ

アコ (うぅー、奏太はどこ行ったのよあのばかー！)

アコ (こんなの……初めてで、わたしどうしたらのいいのかわかんないよ……)

女子1 ｢……そういえばさ、調辺さん｣

アコ ｢！　な、なに？｣

女子1 ｢調辺さんってさ、南野くんと仲いいよね｣

アコ ｢！？｣

女子2 ｢あ、それわたしも思ってたー！｣

女子3 ｢っていうか、なんか……クラスの公認カップルだよね……｣

アコ ｢は、はぁ！？　それってどういうこと！？｣

女子3 ｢えっ……？　いや、だって……いつも一緒にいるし、ねぇ？｣

女子1 ｢うんうん。そう思われても仕方ないかも｣

アコ ｢そ、そんな……奏太とわたしは、べつにそんなんじゃ……｣

女子2 ｢…………｣ ﾆﾔﾘ ｢へー、そうなんだ。じゃあ、ただの友達？｣

アコ ｢そ、そうよ！　ただの、友達！　それだけだから｣

女子2 ｢じゃあ、私、南野くんに告白しちゃおっかなー｣

アコ ｢！？　な、なんですって！？｣

女子2 ｢だって南野くん、かっこいいし、優しいし、運動もできるし……｣

アコ ｢でも、馬鹿よ！？｣

女子2 ｢それもいいじゃない。少し馬鹿なくらいがかわいいのよ｣

アコ ｢いや、で、でも、あいつ……｣

アコ ｢あいつ……｣

アコ (……奏太、もし誰かに告白されたりしたら、どうなるのかな？)

アコ (もう、わたしに構うこともなくなるのかな……？)

アコ (もう、ふたりだけで何かしたりとか、できなくなるのかな……)

ｸﾞｽｯ……

女子2 ｢！？　ち、ちょっと、泣かないで、調辺さん！｣

アコ ｢えっ……｣ ｶﾞﾊﾞｯ ｢な、泣いてなんかない！　泣いたりするわけないじゃない！｣ ｺﾞｼｺﾞｼ

女子2 ｢あ、安心して、調辺さん。うそだから。冗談だから！｣

アコ ｢へ……？｣

女子2 ｢だから、南野くんに告白、なんてうそだから、安心して？　ね？｣

女子2 ｢まいったなぁ。ちょっとからかうつもりだったのに、マジ泣きされるとは……ごめんね、調辺さん｣

女子3 ｢もうー、やりすぎだよ｣

女子1 ｢大丈夫、調辺さん？　安心して。誰も南野くんに告白なんてしないから｣

アコ ｢え……？｣ ｸﾞｽｯ ｢で、でも、奏太って、結構モテそうだけど……｣

女子2 ｢うん。モテるね。すごくモテるね｣

アコ ｢じゃあ、なんで……？｣

女子3 ｢そんなの決まってるじゃない。調辺さんがいるからよ｣

アコ ｢へ？｣

女子1 ｢毎日毎日、学校でも学校以外でもあんな風にイチャイチャされたらねぇ……｣

アコ ｢い、イチャイチャ！？　そんなことしてないっ！｣

女子2 ｢してるわよ｣ ｹﾞｯｿﾘ ｢……昨日のカウントダウンなんて、正直砂吐きそうだったわ……｣

女子3 ｢わたしは若干の殺意を憶えたけどねー☆｣

女子1 ｢ってことです。何か釈明は？｣

アコ ｢…………///｣

奏太 ｢へい、おまちぃー！　カップケーキだぜー……って、なんだ？｣

アコ ｢！？　そ、奏太！？｣

女子1 ｢……あらあら、これまたタイミングのいいことで｣

奏太 ｢？　なんだなんだ？　どうしたってんだ？｣

女子2 ｢なんでもない。女子の話だよ。それよりカップケーキは？｣

奏太 ｢あ、そうそう……ほら。俺のお小遣い天引きで作ってもらったカップケーキ｣

女子3 ｢うわああああああ、美味しそう！！　なんか見たことないカップケーキばっかり！｣

奏太 ｢おう。母ちゃんと父ちゃんに無理いって作ってもらった特別製のカップケーキだぜ｣

アコ ｢……きれい｣

奏太 ｢…………｣ (……ほっ。よかった、アコも嬉しそうだ)

女子2 ｢…………｣ ﾆﾔﾘ ｢……きちんと調辺さんの王子様してるねぇ、南野くん｣

奏太 ｢へ？　何の話？｣

アコ ｢！？　そ、奏太は知らなくていいのっ！｣

奏太 ｢そうか？　ならいいけど……とにかく、アコに喜んでもらえたみたいで良かったよ｣ ﾆｺｯ

アコ ｢！？｣ ｶｧｱｱｱｱ

女子1 ｢……砂吐きそう｣

女子2 ｢甘すぎてお腹いっぱい｣

女子3 ｢ふふ。爆発しろー｣

奏太 ｢なんだなんだ？　なんでもいいけど、たくさん食べてけよ、みんな｣

女子1 ｢そうね。食べないとやってらんないし｣ ﾁﾗｯ

アコ ｢……////｣ (奏太、わたしのこと、心配しててくれたんだ……///　えへへ……//)

女子2 ｢調辺さんの分は残さないことに、けって～い！｣

女子3 ｢ってことで、食べるわよ！！｣

アコ ｢あっ！　ち、ちょっと！！　わたしの分も残しておいてよ！？｣

奏太 ｢わわわわ、まだまだあるから落ち着けってお前ら！｣

奏 ｢……ふふふ、奏太ったら、女運がいいのか悪いのか｣

響 ｢ねえ奏、カップケーキまだー？｣

エレン ｢……姫様、よかったですね｣ ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

ハミィ ｢ハミィは早くカップケーキ食べたいニャ｣

………………夕方

女子1 ｢今日はありがと、南野くん。カップケーキ、とっても美味しかったよ｣

女子2 ｢それから、“アコ” も。ありがとね。裁縫がすごく上手になった気がする｣

アコ ｢え……？　な、名前……？｣

女子3 ｢ガールズトークをしたら、もう友達だよ。ね？｣

アコ ｢みんな……｣

奏太 ｢…………｣ ﾆﾔﾆﾔ

アコ ｢……何よ、奏太｣

奏太 ｢べっつにぃー。何でもないですけどぉー？｣

アコ ｢……後で覚えてなさいよ｣

女子1 ｢はいはい。最後の最後までごちそうさま。そじゃ、また明日ね、南野くん、アコ｣

女子2 ｢ばいばーい！｣

女子3 ｢南野くんは、きちんとアコを送ってあげるのよ？｣ ﾊﾟﾁｯ

奏太 ｢お、おう……｣ ﾌﾞﾝﾌﾞﾝ ｢また明日なー！　気をつけて帰れよー！｣

アコ ｢あっ……み、みんな！　今日はありがとう！！　わ、わたしも……｣

―――― 『でも、こっちで出会ったたくさんの友達と、別れなくちゃいけないのよ？』

アコ (っ……そんなの……)

アコ (そんなの！！　そのときになったら考えるわよ！！)

アコ ｢……わたしも、今日はとっても楽しかったから！！　また明日！！｣

アコ ｢…………｣ ｷﾞｭｯ ｢……えへへ｣

奏太 ｢…………｣ ｸｽｯ ｢……さ、帰ろうぜ、アコ｣

奏太 ｢頼まれちまったしな。送ってくよ｣

アコ ｢…………｣ ﾆｺｯ ｢うん！｣

………………

アコ ｢…………｣ ｽｯ ｢……ここら辺でいいわ。もうすぐそこだから｣

奏太 ｢そうか？　わかった｣

アコ ｢……あのさ、奏太｣

奏太 ｢うん？｣

アコ ｢今日は、ありがとね。ほんとに……とっても楽しかった｣

アコ ｢奏太の言うとおり、わたし、もっとたくさん友達作ってみる｣

奏太 ｢そうか。……そうだな｣

アコ ｢……うん。だからね、奏太に、今日のお礼がしたいの｣

奏太 ｢へ？　お礼？｣

奏太 ｢いや、べつにそんなの……お礼がほしかったわけじゃないし｣

アコ ｢でも、しないとわたしの気が済まないの｣ ｽﾞｲｯ

奏太 ｢う、うわっ！｣ ﾊﾞｯ (い、いきなり顔を近づけるなよな……) ﾄﾞｷﾄﾞｷ

アコ ｢……ね、奏太。ちょっと目をつむってほしいな｣

奏太 ｢へ？　目？｣

アコ ｢うん。こんな、風に……｣

ｽｯ

奏太 ｢！？｣ (め、めめめ、目を、つむって、く、くく、くちびるを、少しとがらせて……)

奏太 (こっ、これはまさか……！？)

…………ｺﾞｸﾘ……

奏太 (ま、マジで！？　マジでマジでマジで！？　マジか！！)

ﾄﾞｷﾄﾞｷﾄﾞｷﾄﾞｷﾄﾞｷﾄﾞｷ……

奏太 (いや、これは、その……あの……)

ｸﾞｯ

奏太 (こ、ここで何もしなかったら、男がすたる！)

奏太 (気合いのレシピ、見せてやるよ！)

ｽｯ……

奏太 (め、目を、つむるのが、礼儀……だよな？　で、その後は……――)

―――――― ｢スキありっ｣

ﾋﾟｺｯ

奏太 ｢痛っ……！！　な、なんだぁ！？　デコピン！？｣

アコ ｢ふふ……はははははは……はははははは！！！！｣

アコ ｢あー可笑しい！　奏太ったら！！｣

奏太 ｢！？　アコ、お前……謀ったな！？｣

アコ ｢奏太ったら、まじめな顔して目をつむっちゃって……ふふ……可笑しいったらないわ｣

アコ ｢ねぇ南野奏太くん？　あなたは一体何を期待していたの？｣

奏太 ｢っ――――――――――――――――！！！！｣ ｶｧｱｱｱｱｱｱ

奏太 ｢う、うるさい！！　アコ！｣ ﾌﾟｲｯ ｢もう知らない！！　もう知らないからな！｣

奏太 (……アコの奴、こっちの気も知らないで……！)

アコ ｢ねえ、奏太。奏太って、ほんと馬鹿よね！｣

奏太 ｢ど、どうせ俺は馬鹿だよ！！｣

アコ ｢でもね、わたし、そんな奏太のことが、大好きだから！！｣

奏太 ｢ああそうかい！｣ ﾌﾟｲｯ ｢………………え？｣

アコ ｢……////｣

奏太 ｢な、な、いきなり、何を……？｣

アコ ｢これで最後よ？　わたし、奏太のこと大好きだから｣

ﾆｺｯ

アコ ｢じゃあね、奏太！　また明日！！｣ ﾀｯ

奏太 ｢あ……ちょっ、おい、待てよ！！｣

ｸﾙｯ

アコ ｢ねえ、奏太！！｣

奏太 ｢つ、次から次へと……今度は何だよ！！｣

アコ ｢いつか……わたしのために、本物の王子様になってもらうんだからね。覚悟しておきなさい！｣

奏太 ｢は、はぁあああ？　だからお前、いったい何を言ってるんだよ！！｣

アコ ｢しーらない！　今度こそ、ばいばい、奏太｣

奏太 ｢あっ……行っちゃった……なんなんだ、王子様って……｣

奏太 ｢……つーか、大好きって……それって……｣

奏太 ｢………………｣ ｶｧｱｱｱｱ ｢……あ、明日から、どんな顔して接すればいいんだよぉお……///｣

………………物陰

エレン ｢……………………////｣

エレン ｢姫様、大人すぎて……////｣

奏 ｢それにしても奏太は情けないわねー。もう少し言いようがあるでしょうに｣

奏 ｢それに見た？　あの、アコちゃんが目をつぶった後の奏太の顔｣

奏 ｢鼻の下伸ばしちゃって、いやらしいったらないわ｣

響 ｢あ、そのカップケーキ美味しそう｣ ﾓｸﾞﾓｸﾞ ｢ハミィ、ちょっとちょうだい｣

ハミィ ｢はいニャ｣ ﾓｸﾞﾓｸﾞ ｢代わりに、響のも一口ちょうだいニャ｣

響 ｢はい｣ ﾓｸﾞﾓｸﾞ

エレン (響……)

ﾊｧ

エレン ｢……それにしても、“本物の王子様になってもらう” か……｣

エレン (……これから大変よ、奏太くん)

エレン (王室の礼儀作法に加えて、アフロディテ様とメフィスト様のお相手……) ｿﾞｸｯ

エレン ｢……わたしだったら、絶対にごめん被りたいわ。ご愁傷様、奏太くん｣ ﾅﾑｰ

………………

アコ ｢えへへ……えへへ……言っちゃった……/////｣

アコ ｢奏太に、大好きって、言っちゃった……///｣

アコ ｢奏太、嬉しかったかなぁ？　ドキドキしてくれたかなぁ？｣

アコ ｢えへへ……｣

アコ (……未来のことなんて、なにひとつ分からない)

アコ (いずれ、わたしたちは音符と楽譜を取り戻し、世界中に幸せを届けるだろう)

アコ (けれど、その先のことは分からない。誰にも、ひとの将来なんて見据えられるものではないから)

アコ (けど、だからこそ……)

アコ ｢……わたしは、今を精一杯生きる！！｣

アコ (たとえ、いつかメイジャーランドに帰る日が来たとしても、)

アコ (可音町で得たものが消えるわけじゃない。それはきっと、ずっとずっとわたしの中に残る)

アコ (それに、本当に大事なものは……)

アコ ｢……覚悟しておきなさい、奏太｣

アコ ｢あなたは、わたしがメイジャーランドに持ち帰るんだからっ！｣