ブラックジャック「メソッド演技?」 (30)
〜プロローグ〜
ア○デミー賞授賞式
パシャパシャパシャパシャ!
記者A「ロックさん!主演男優賞おめでとうございます!」
記者B「ロックさん!こっちを向いて下さい!」
記者C「ロックさーん!ぜひ今のお気持ちを教えてください!」
パシャパシャパシャパシャ!
ロック「……そうですね……」
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ロック「まず……今まで支えてくれたスタッフや家族、それから私を選んで下さった審査員の方々に感謝の
気持ちを伝えたいです」
パシャパシャパシャパシャ!
記者A(何だよ、コメントがありきたりすぎてつまんないな)
記者B(緊張してるんだろ、何せ最年少受賞だぜ?)
記者C(ほんとに実力があるのか分からんがな、どうせ落ち目の映画界の話題づくりだろ?)
ロック「ですが……」
記者A・B・C「ですが?」
ロック「今後は賞を貰うことよりも」
ロック「本当に観客を物語に引き込ませられる演技をやりたいと思っています」
記者A・B・C(!)
マネージャー「!!はいはい、取材はここで終わりね!」
ぱちぱちぱちぱち……
記者A「何だ生意気な若造だな」
記者B「だけどおもしろい記事が書けそうだぞー!」
ロック「………………」
〜明朝〜
ー新聞ー
ロック・ホーム、賞はいらない宣言!!
昨日、アカデミー主演男優賞を最年少で受賞したロック・ホーム氏が会見で
「賞を取ること自体には価値が無い、観客からの評価がなければ無意味だ」とコメントしました。
これについて、ものすごく偉い映画界の重鎮、撮画写太郎氏は
「金輪際賞には選んでやらない」と怒っているらしいです。
〜翌年、ア○デミー賞選考会〜
審査員A「今回の審査どうします?ロック・ホームなんかとてもいい演技してましたけど」
審査員B「いいや、駄目だ、あの人は撮画先生に嫌われてるからどうせ受賞できないよ」
審査員B「実は私も初めからいけ好かない奴だと思っていましてね」
審査員C「私もです。傲慢さが演技に滲み出ている」
審査員D「昨年選んでしまったのはア○デミー始まって以来の過ちですな」
審査員A「それでは今年は彼を除く別の人間から……」
〜プロローグ終わり〜
テレビ「続報です、今回のア○デミー主演男優賞には瓢箪つぎが選ばれ――――――」
ピノコ「………………」
ピノコ「ねぇえ?見てよちぇんちぇー、いいわね〜映画の世界って」
ピノコ「華やかで皆ニコニコしてて」
ピノコ「ピノコも女優さんになりたい!」
ブラックジャック「やめとけピノコ」
ブラックジャック「ああいった世界には表に出ない厳しさや理不尽さがあるものだ」
ピノコ「もぉ〜……ちぇんちぇーは言うことにいちいち夢がないのよさ」
BJ「そこのカルテを取ってくれ」
ピノコ「はぁ……ちょーがないわねー……」
トントントン!
ピノコ「!お客さんなのよさ!」
BJ「………………」
ガチャ
ロック「ここはブラックジャック先生のお宅ですか?」
ピノコ「!!!!!」
BJ「……そうですが、何のご用ですかね」
ピノコ「ちぇんちぇー!!!この人!!テレビで見たことあゆ!!」
ロック「………………」
BJ「……………………」
……………………………………………………………………
BJ「何?肉を削ぎ落としてほしい?」
ロック「はい、そうなんです」
ロック「実は僕、次の映画で精神的に追い詰められる患者の役をやることになりまして」
ロック「スケジュール的に減量している時間がないんです」
BJ「だから自分の体を切り落とすと言うのか?馬鹿馬鹿しい」
BJ「仕事の計画に無理があるなら断りたまえ」
ロック「いいえ、そんな簡単に決められることではありません」
ロック「この作品の監督は世界的に有名なエイガ・ダイスキーさんなんですよ?」
ロック「この人の下で僕の演技があれば必ず人を感動させられる!」
BJ「感動ですか、どれだけ緻密に作りこまれていても創作された世界などくだらないと思いますがねえ」
ピノコ「そんなことないのよさ」
BJ「それに今はメイクやCG技術が発達している」
BJ「わざわざ身を削る作業など必要ないだろう」
ロック「いいえ、そんな嘘はすぐ観客に見破られます」
ロック「ブラックジャック先生なら全身を本物と遜色なく整形させられるはずです!」
BJ「……とにかく私は手術しない、帰りたまえ」
ロック「お金ならいくらでも払います!!だから……!!」
BJ「断る、君は健康体だ。切り落とす必要のある箇所はどこにもない」
ロック「………………………………………………」
ロック「……そうですか、残念です……」
キィ……バタン
ピノコ「あ〜あちぇんちぇー、きっとお金いっぱい持ってたのよさ」
BJ「そうか、そいつはおしいことをしたなぁ」
ピノコ「全然そんなこと思ってないのよさ」
………………………………………………………………
一ヵ月後……
トントン
ピノコ「はぁ〜い、だれ〜?」
ガチャ
綺麗な女性「すみません、こちらはブラックジャック先生のお宅でよろしいですか?」
BJ「そうですが……あなたは?」
マネージャー「私は先日こちらへ伺ったロック・ホームのマネージャーを担当しているものです」
BJ「……それで?用件は?」
マネージャー「はい、こちらの写真をご覧ください」
BJ「………………」
ぺらり
BJ(……!)
ピノコ「うわー!何この人、ものすごくげっそりしてるのよさ!」
BJ「短期間でこれだけ痩せて目の下にクマ」
BJ「典型的な拒食症の症状ですな」
マネージャー「はい……ロックはあなたに手術を断られた日からほとんど何も口にしていません」
ピノコ「えー!!これロックなのぉ!?」
BJ「……全く役者バカにもほどがある」
マネージャー「はい、これだけ役柄に入り込んでくれるのはありがたいのですが」
マネージャー「最近では立っているのもままならない状態でして」
マネージャー「ずっと横になっていても頭ははっきり冴えてしまって眠れないそうなんです」
BJ「……危険だな」
BJ「どうしてこうなるまで彼を放っておいたんです?」
マネージャー「……いえ、最近、彼への世間からの評判は芳しくないのですが」
マネージャー「私共は彼の実力を買っているんです」
マネージャー「頑張っている姿を見たらとても止められませんよ」
BJ(…………………………)
BJ「彼は今どこに?」
〜ロック自宅〜
ロック「…………やあ、先生……来てくれたんですか」
BJ「……点滴だ、手を出したまえ」
ロック「……!!だめ……!だめです!」
ロック「栄養を採ってしまったら太るじゃないですか」
BJ「だがこのままだと君は死ぬ」
BJ「空想の世界のために命を落とすなんてバカらしいと思わないか?」
ロック「思いませんね、僕はそれだけ今回の作品に賭けているんです」
ロック「帰ってください、僕からあなたに用はありません」
BJ「……………………」
BJ「もし、君が食事を採って健康になった日には……私も手術をしよう」
ロック「……!」
BJ「ただし、報酬は今回君が出る作品の出演料全て」
BJ「それでも構わないかね?」
ロック「もちろんです……!」
BJ「………………」
そして……
BJ「これから全身整形手術を始める」
ロック「………………」
BJ「その前に……ひとつ聞くが」
BJ「どうして自分の仕事にそこまでこだわる」
ロック「さあ、自分でも分かりません」
ロック「ただ……僕もプロですから、中途半端なことはできないというだけです」
BJ「……そうか」
〜手術終了〜
ロック「すごい……完璧だ……!本物より本物らしい」
BJ「さあ、私の役目はこれで終わった。帰らせて頂きますぜ」
ロック「先生……!作品が仕上がったら、ぜひ見て下さい!」
BJ「さあ、私は映画に興味がないものでね」
BJ「役作り、励みたまえ」
ロック「ふふふ……」
三ヵ月後……
テレビ「ニュース速報です」
テレビ「一昨年ア○デミー主演男優賞を受賞したロック・ホームさんが亡くなりました」
ピノコ「えーーーー!!!???」
BJ「!?」
テレビ「ロックさんは薬を過剰に摂取しており」
テレビ「警察では事件と事故両方の可能性を視野に入れ捜査を進めています」
テレビ「ロックさんは先日、自身が出演するエイガ・ダイスキー監督の作品のクランクアップを迎えたばか
りでした」
コメンテーター「今回は病人の役柄をやってたんでしょう?」
コメンテーター「彼は入り込みますからねー、精神的に参ってしまったんじゃないですか?」
キャスター「さ、それでは次のニュースです」
BJ「そんなバカな!私の手術は完璧だった!完璧だったんだ!!」
ピノコ「ちぇんちぇー……」
BJ「うううう……糞っ!!!」
ドンッ!!!
〜ア○デミー授賞式〜
記者A「作品賞受賞おめでとうございます!」
エイガ・ダイスキー「ありがとう」
エイガ「今まで支えてくれたスタッフや家族」
エイガ「それから私を選んで下さった審査員の皆さんに感謝の気持ちを伝えたいです」
記者B「主演男優賞に選ばれたロック・ホームさんについてコメントをお願いします!」
エイガ「彼は才能に溢れた素晴らしい役者でした」
エイガ「早逝したのが悔やまれます」
テレビ「先月にはロックさんのファン達による葬儀が行われ――――」
ピノコ「ねー見てちぇんちぇー、すごい人の数」
ピノコ「ロックのこと好きな人、こんなにいたんだねー」
BJ「…………………………」
終わり
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