【悲報】夢魔の集落に男一人で流れ着いてしまった【たすけて】【安価スレ】 (45)

終わらないと思っていた眠りから目覚めた時、視界に入ったのは見知らぬ天井だった。

恐る恐る左目に触れる。そこには潰れたはずの眼球があった。
今は光を宿していないが、確かにそれは存在している。

胸に手を当てると、当てた部分が激しく痛んだ。清潔な包帯が巻かれていたそこには、赤い染みができている。

目の再生を優先したばかりに胸の傷がそこまで癒えなかったのだと、目覚めたばかりの頭を働かせてどうにか結論へと辿り着く。
正しいのか分からないし分かったところでどうにかなるわけではないが、現状の把握には必要なことである。

何故自分が生きているのか。そんなの誰かが助けてくれたからに決まっている。
では誰が助けたのか。何故助けてくれたのか。そんなの実際に下手人に訊かねば分からないに決まっている。

真相を確かめようと寝床を立つ。すると、周囲からは気配が感じ取れた。
そこまで長くもないがとても濃密な人生の中で、一度たりとも感じたことのない無数の魔の気配を。

魔の一族と関わったことはそれなりにあるし、友好的な関係は築けているという自負はあるのだが、それにしたってこれはない。
両手足の指では到底数えきれない人数に囲まれるのは生まれて初めてだ。
それも、感じる気配全てが女性の魔族とは。夢ならばどれほど良かっただろう。
だが、悲しいことにこれは現実だ。頬を引っ叩こうが腹を切ろうが、身を取り巻く環境は変わらないだろう。

ああ、どうしてこんなことになってしまったのだろう。
そんな感情と共に、涙が溢れそうになった。

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灰色の雲が空を覆う。曇天には稲光が走り、天候が大荒れになるのも秒読みの段階に入っていた。

『そろそろ大雨ですな。目的地も近いし、どこかで休息でも取りますかい?』

『それには及ばぬ。我々の身を案じてくれるのは歓喜の極みだが、貴様の想定しているほど軟弱ではないつもりだ。部下も含めてな』

外套を羽織り森林内を疾駆する影が六つ。その中で一際存在感を放つのは、先鋒を務める二人組だ。

一人は無骨な鎧に身を包みながらも、驚異的な機動力を発揮してみせている。
軽い表情で足を進める最前列の青年とは違い鋭い眼光を放ったままの近寄り難い空気を纏っていたが、消耗はしていない。流石は騎士団長と言ったところか。

そりゃ結構とだけ返し、青年は速度を緩める。
見渡す限りの森林は数を大きく減らし、眼前には長大な吊り橋が伸びている。
ロープは劣化し桁も所々割れたり抜け落ちているが、ロープに施された保護の術式は未だ健在なので強い衝撃を与えなければ問題なく利用できるだろう。

橋下に視線を移す。下界にも同様に森林が広がっているが、直下には細い清流が流れていた。
上流の方で雨が降ったのか勢いが強まっており、川に流されたら常人はいとも容易く死ぬだろう。

試しに青年が一往復する。その間はギシギシと大きく揺れ、保ってくれるか不安になったが、見事耐え切ってくれた。
最悪、往路の間だけでも持ち堪えてくれれば後はどうとでもなる。
後のことは後で考えれば良いのだと投げやりな提案をし、半ば無理矢理それを飲ませた。

そして、吊り橋を全員で渡っている最中。

『………っ』

『…許せ、ゼノ』

雨が降るのと時を同じくして、随伴していた仲間に後ろから剣で貫かれた。

直前にほんの僅かに感じた殺気。それがどうか嘘であってほしかったと、青年は瞑目しながら胸元から突き出る剣先を撫でる。
赤い液体が指に触れる。生温かい感触がし、身体の熱が冷めていく。

振り向いた瞬間。残りの四人から矢を放たれた。魔力を纏った矢は四肢を穿ち、眼窩に突き刺さる。

ああ、本当に俺を殺す気なんだ。そう理解するのに時間など必要なかった。

矢が刺さった衝撃で身体がよろめく。だが、膝を突くまでには至らない。

『…貴様は本当に良い奴だった。幾度も民を救い、災厄を退け、民の安らぎのために尽力してくれたな。皆、貴様のことを好いていただろう。私もその一人だ』

『そりゃ、嬉しい、ねえ』

深々と二本目の剣が腹に突き刺さる。剣を通じて伝わる力からは絶殺の意志だけが感じ取れ、その双眸は確かな決意だけを映している。

『断言しよう。貴様は民に愛されていた。王も。姫も。国民全てが貴様に惹かれていた。人々を照らす光…そう、紛れもなく貴様は我らの英雄で、我が国の希望だった。…だが、貴様の光は強すぎたのだ』

『強すぎる光は瞳を焼き焦がし、本来宿していた光を奪い去ってしまうものだ。貴様に救われ心を惹かれた者は、やがて貴様以外の全てを一切見ようと、信じようとしなくなる。その果てにあるのは、血で血を洗う凄惨な内乱だ』

『既に、貴様を王に据えようと画策している貴族がいる。貴様にとっては寝耳に水の事態かもしれんがな。今は水際で防がれているが、それもいつまで続くか解らぬ。故に、手を打つ必要があった』

『だから、俺を、殺す、と?』

『左様。貴様が死んでしまえば、王の統治を脅かす者は居なくなる。尊い平和が維持される。貴様という英雄の死こそが、恒久平和の礎となるのだ』

『…貴様を秘密裏に放逐するだけで事足りるのは、我らも承知している。だが、我々は…貴様ほど優しくもなければ、強い心を持ってもいない。未来の可能性に怯えた臆病者が故に、貴様を殺すのだ』

『そうかい』

騎士団長が言い切るのと同時に、青年は手に魔力を込め、振り払った。
光の刃が吊り橋を両断し、崩壊を始める。
元々当てる気のない一撃だったが、あっさりとそれは躱された。

『…すまない、ゼノ。貴様は祖国のために尽くしてくれたというのに』

『愛国心、なんざ、欠片も、無いがな。ただ、俺は…』

人のためになれりゃそれで良かったと言い切る前に、青年は崩壊する吊り橋から振り落とされる。
辛くも崖まで退避した騎士団長は敬礼をしながら何かを言っていた。
もう何も聞こえないし、どんな表情をしているのかも、見えなかった。

『…ひっ…!』

逃げ遅れたのか、弓兵が二人、青年と同じように墜落する。
その顔は恐怖と涙でぐちゃぐちゃになっていた。

あと少しで墜落死する運命が決まっている上に、つい先程まで殺そうとしていた相手に見られているのだ。その恐怖も無理はないだろう。

その姿を視認した青年は、途絶えかけている意識を保ち、半ば反射的に風魔法を詠唱した。

『ひぇああぁぁあぁぁ!?!!』

『ぶべぇぇぇえぇー!!!?』

凄まじいまでの上昇気流に攫われ、弓兵たちは崖上へと吹き飛ばされる。
騎士団長が受け止めたのを確認し、青年は笑った。

『俺を、生贄、にして、作る、平和なら。ちゃんと、続けて、くれよ』

臓腑から吐き出した言葉と共に見た、嵐の空。それが、最後に見た景色だった。

大雨が硝子を打ち据え、雷鳴が鳴り響く大嵐。雷雨の音が奏でるオーケストラの中で。

『………』

ロスヘイム王国の王宮には、お通夜ムードが漂っていた。

『…やっぱり殺したの?殺しちゃったの?ゼノ君』

『…はい。胴体に剣を二本刺して全身を弓矢でぶち抜き、トドメに奈落へ突き落としました。あれで死んでなかったら化け物です』

『そっかあ…やっちゃったかあ…』

盛大な溜め息を吐き、玉座の男性はがっくりと項垂れる。

『もし生きてたら儂たち皆殺しにされるよね。寧ろされて然るべきだよね』

『されても文句は言えませぬ。あれだけ国に尽くしたのにこの仕打ちとか、主人公を痛め付けるのが目的の小説や劇でさえここまでしないでしょうな』

『そりゃそうだ。…しかし、どうする?ゼノ君が死んだことをひた隠しにはできないし、するべきじゃないからどっかのタイミングで公表しなきゃならないわけなんだけど。流石に反逆の罪で粛清しましたー!なんて頭のおかしい発表をしたら翌日から革命パーティー連日開催確定だし』

『…我々の都合で殺したのです。彼を貶めるような行為は慎しむべきかと』

『それは何があっても絶対にしないが?…常識的に考えれば、今までの功績を讃えて式典とかをするべきだよね。いっそ英霊として祀るか』

『それは良い判断です。彼の死を無駄にはできませぬからな。…して、彼の保有していた財産等はいかがなさいますか』

『そんなのゼノ君が懇意にしてた孤児院に寄付するしかないでしょ。もし拒否られたら良い感じに使おう。医療費だとかインフラ整備だとか使える場所は沢山あるし…』

こんな会話をしている二人の表情は、とても暗かった。
後悔するくらいならしなけりゃ良かったのに。
と、この場にいる誰もがそう思っていたという。

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意識が戻ったことで身体が本調子を取り戻したのか、包帯の下で肉がぐじゅぐじゅと蠢く感覚を感じる。
包帯を外して傷口の状態を拝見しようと一瞬考えたが、その愚考は速やかに破棄することにした。

「…あの時ファフニールを仕留めておいて良かったよ。あれが無きゃ、俺は死んでいたな」

一週間ほど前に、暇つぶしに国境付近を探索していた時のこと。
どこからか流れ着いた邪龍ファフニールと偶然遭遇し、ガチンコで戦り合うことになったのだ。

三日三晩続いたその戦闘で現場は荒れに荒れ、植物が全て枯れた不毛地帯と化した。
夥しい量の血と肉を散らし、勝利を掴み取ったのは人間だった。
一刀のもとに邪龍の首は斬り落とされ、紫色の血を垂れ流し幕引きとなった。

邪龍の血は生命を蝕み腐敗させる呪毒の血であり、大地に一滴滴るだけで木々は枯れ、川に落ちれば水魚が消え死の川となる劇物。
そんなものを野放しにすることはできなかった青年は、しでかしたことの責任を取ってその全てを飲み干し、遺体をその場で解体した。

その結果がこの並外れた再生能力である。

古来より、邪龍ファフニールの血には特殊な力が宿っており、それを浴びることによって不死の肉体を得られると伝えられていた。

まあ、そんなお伽話は嘘っぱちで正しくはファフニールの血を取り込み、尚且つその毒で死なないのが、不死の肉体を得る条件だったわけだが。
それに、別にそこまでしても不死になれることはない。化け物じみた再生能力は得られるが限界はある。
首を断たれれば。再生できない程の傷を負えば。息絶えるのだ。それはファフニールも変わらなかった。

ちなみに、控えめに言って邪龍ファフニールの味はゲロマズだった。
それでいて、たった一口取り込んだだけで腹の内側から決して消えぬ地獄の業火に焼かれる感覚に苛まされる上に、全身の血液がハリネズミの棘になったような激痛に襲われ、挙げ句の果てには皮膚という皮膚が凶暴な蟻の大群に喰われていくような感覚を感じるという拷問を遥かに超える地獄を味わう羽目になった。

これで何も得られなかったら発狂ものだったから、再生能力を得られて本当に良かった。
おかげで謀殺からも生き延びることができたので邪龍様々である。

邪龍との戦い、その回想を終えた青年は、ゆっくりと玄関の扉を開く。

その目に映ったのは、歓喜に目を輝かせる魔族の集団だった。

このスレは謀殺によってちょっと塞ぎ込んでしまった主人公が冒険者として復帰するまでのお話になります。


名前:ゼノ
性別:男性
種族:人間
年齢:たぶん23歳
得意魔法:炎、風、水など多岐にわたる

ロスヘイム王国で活動していた冒険者。
若年ながら多大な功績を残しており、幾度となく国を救った。
ある時は辺境へ赴き疫病の根絶、ある時は空より飛来する龍の大群の迎撃、またある時は貧民街での炊き出しや水道の清掃、ゴミ拾い活動など頼まれたことは基本何でもするお人よし。

特殊な能力を持っているため、多種多様な魔法や戦術に長ける。最近は毒を吐ける(物理)ようになった。

どういうわけか老若男女問わず人気があり、一時期は彼を王にしようという運動があったり無かったりした。
だから謀殺されたがしぶとく生きている。


夢魔族

人の夢や意識に干渉し、精気をもらうことによって生き永らえる魔族。
サキュバス、インキュバス、リリム、リリスなどの種族が存在しており、大多数の夢魔は世界各地で人間に混じり生活している。

人間に強く依存した生態を持っているため、人類にとても友好的。だが、同性からは滅法嫌われている。

サキュバス

夢魔族の最下級。別称淫魔であり、サキュバスの男性版がインキュバスとなる。

眠れる男性諸君にエッチな夢を見せ、対価として精気を分けてもらうことで生きている。
実はエッチな夢以外にもマトモな夢を見せることができ、悪夢や不眠に悩む人をその能力で助けたりしている。当然お代は精気である。

昔は精気以外は栄養にできなかったのだが、人類と関わり文化的な生活に触れてからは、食事でも栄養を得られるようになった。
だが一番美味いのはいたいけな男の子の精気らしい。


リリム

サキュバスの上位種であり、サキュバスリーダーとも呼ばれる。

概ねサキュバスと変わらないが、彼女らの方が当然強い。
意識に干渉する能力も強まっており、夢を見せる以外にも認識を改変する能力を新たに獲得している。
旅をしている夢魔の一団がいたら、リーダーはだいたいリリムである。


リリス

サキュバスクイーンとも呼ばれる夢魔族の女王。別称夜魔。

一人いたら小国が滅ぶと言われるほどの魔力を持ち、夢だけではなく夜という概念にさえ干渉してくる。

空間を捻じ曲げることで昼間でも局所的に夜を創りだしたり、大多数の人間の意識を操り下僕とするなど、規模が下位種と段違いに大きくなる。

当たり前だが、夢魔族は全員光魔法に弱い。
なので聖職者には基本近寄らない。
夢魔が怖いと思ったら十字架を掛けて眠るだけでもだいぶ変わる。

妖狐族

永い時を生き強い魔力を宿した狐のみが成れる存在。その末裔。
人の世に混じるために人間に変じていたその術は、いつしか妖狐を人に変えた。

外見は狐耳と尻尾が生えた人間そのもの。妖術と呼ばれる独自の魔法を使える。尻尾が多いほど強い。
男女が存在するが、呼び方は変わらない。後述する妲己、玉藻の二種族にも普通に男性は存在する。


妲己

上位の妖狐族。陰の妖術に長けた妖狐族のみがこう呼ばれる。

陰の妖術を応用した呪術を得意としており、妲己の逆鱗に触れ祟りに遭う愚か者は後を断たない。
別に性格が悪いわけではなく、困った人がいれば助けたりする。


玉藻

上位の妖狐族。妲己とは対照的に陽の妖術に長け、呪いの解除や悪霊の退治が生業。

陽の妖術を扱っているが、悪さをする輩を祟る程度ならでき、イタズラ好きな玉藻は夜道を往く旅人に幻覚を見せたり道に迷わせたりするのだとか。


九尾

上位の妖狐族。妲己でも玉藻でもない、尻尾を九本持つ妖狐族のみが九尾となる。

単純に妖狐族の力を強化したような存在で、陰、陽の妖術は使えないがその他の妖術は大得意。
呪いを掛けたり逆に解除したりも妖狐族の嗜みとして当然できるので、各地の昔話に妖狐が出てきたらだいたいこれ。

ちなみに、妖狐族は皆油揚げが大好き。

夢魔族、妖狐族の人を三人ずつ募集します。
一番コンマが高いキャラが主人公を助け出した張本人になります。

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