1日目 朝
喫茶リコリコ
千束「えへへー」ウキウキ
たきな「もう、何を浮かれているんですか」
千束「だって今日はたきなとデートなんだも~ん」ニヒヒ-
たきな「本当、子供みたいなんだから。それに、遊んでいいのは午後だけですよ。午前中はあくまで病院の検査への付き添いですからね」
千束「定期健診なんていうけど、全然問題ないのになぁ。DAの山岸先生のところで済めば早いのに……」
たきな「山岸先生は町医者でしょ?異常が見つからないかを大きな病院で定期的に診てもらわないといけないからこその定期健診じゃないですか。それに、心臓を新しくしたのは、ついこないだの話ですし」
千束「ぶ~」
ミズキ「ま、確かに見守り役は必要ね」
千束「私、そんなに子供じゃないよーだ」
たきな「行きますよ。山岸先生からの紹介状は持ちましたか?」
千束「あ、いっけな~い!」
ミカ「ははは、二人とも気を付けてな」
ミズキ「行ってら~」
千束・たきな「行ってきます!」カランカラン
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お昼前
都内 K医大病院
心臓血管外科医「うん、人工心臓の調子は良さそうだね」
循環器内科医「そうですね。足に浮腫もなし、画像も問題なし……と。はい、心エコー終わり。服を着ていいよ」
千束「うぅ……おっぱいにローション塗りたくられて弄られた……お嫁に行けないよぉ……」
循環器内科医「まったく……人聞きの悪いことを……」
たきな「そうですよ。ちゃんとした検査なんだから、茶化しちゃだめです」
千束「えへへ」テヘペロ
心臓血管外科医「特変なし……ということで山岸先生には返書書いておくよ。えっと山岸先生は……総合診療科だったっけ……」
千束「ありがとうございました!」
循環器内科医「……ただね、よく聞いて。君は元々拡張型心筋症だ。今更言うまでもないが、いくら今が元気だと言っても、薬は一生飲み続けなければならないし、癌や感染症になるリスクも高い。突然死を起こす可能性だって、ないとは言えないんだ」
千束「……!」
循環器内科医「それだけは肝に銘じて、今を大切に生きて欲しい」
千束「……はい!」
心臓血管外科医「次はまた半年後に来てね」
循環器内科医「何か異常があったらすぐに山岸先生のところに行くんだよ」
千束「は~い」
たきな「お世話になりました」
その頃 都内
警視庁による一斉検問
警察官1「はいご協力ありがとうございました~行ってくださ~い」
警察官2「次、ハイエース二台来ます」
警察官1「すみません、窓開けてもらっていいですか」
運転手「……」スーッ
警察官1「免許証の提示をお願いします」
運転手「……」スッ
警察官1「ありがとうございました」
警察官2(……このハイエース二台、えらく車体が沈んでるな)
警察官2「すみません、念のため車内を見せてもらってもいいですか」
運転手「……!!」
ブォォォン!
警察官1「うわ!急にバックするな!止まれ!」
キキッ ブォオオオオ
警察官1「うわあ!!突っ込んでくる!」
警察官2「こ、こいつら突破するつもりだ!!威嚇射撃!!」チャッ
パン!パン!
ブォオオオオ ドカッ ガシャアアアン
警察官1「け、検問を突破しやがった!」チャッ
警察官2「撃て!撃て!」
パン!パン!
警察官1「●●検問・警視47号より!白のトヨタ・ハイエース2台が検問を突破し港区方面へ逃走!ナンバーはねずみのね、●●―●●、たぬきのた、●●―●●!検問PCは自走不能!手配願います……!」
K医大病院 病院食堂
心臓血管外科医「お、助教、お疲れ様」
外科医「あ、お疲れ様です。今日は珍しいですね、お二人揃ってるなんて」
心臓血管外科医「行政からの依頼で、ちょっとVIPな患者がいてね、特別に二人揃ったんだ。今から帰るとこだよ」
外科医(……心臓移植でも受けた患者か?まぁウチは設備の充実に関しては都内有数だからな)
循環器内科医「調子はどう?」
外科医「救急外来なんて、もうかったるいですよ。僕、もう当直医から外してもらおうかなと」
循環器内科医「まあまあ、まだ若いんだから」
外科医「あ~あ、毎日早く帰ってゆっくりしたいんだけどな」
心臓血管外科医「中々そうはいかないよね~」
外科医「こんな事なら、先生方のように非常勤になるか、どっか転職してもっと楽な訪問診療とかやろうかなって思っちゃいますよ。先生、良いところご存じないですか」
心臓血管外科医「はは……いやぁ……」
心臓血管外科医・循環器内科医(こいつ、助教のくせに、ほんっとモチベ低いなぁ……)
お昼過ぎ
K医大病院 1階ロビー
クラーク「はい、処方箋と明細とお釣りです。お疲れ様でしたー」
たきな「病院の会計って時間かかりますね。さて、お金も払ったし……」
千束「あとは処方箋を持ってお薬もらうだけだね。薬局はどこだっけ……」
たきな「いったん正面玄関を出て左みたいですね。あっちが玄関なので、行きま……」
パパパパーン
たきな「!?」
千束「銃声っ!?」
たきな「ど、どうしてここで銃声が!?」
千束「見て、たきな!」
たきな「っ!!玄関に武装した男がおよそ一個小隊……!!」
パパパパン
たきな「た、建物の裏側からも……!」
たきな「どうします、応戦しますか!?」チャッ
千束「ダメ!一般の人が多すぎる!銃はしまって、私について来て!」ダッ
たきな「了解です!」ダッ
1階ロビー 女子トイレ
千束「たきな、銃と予備弾倉とDA貸与のスマホ出して!」
たきな「は、はい!」チャッ
千束「借りるよ!それと、そこのトイレのタンクの蓋を開けて!」
たきな「え……!?」
千束「急いで!」
たきな「は……はい!」ガコッ
千束「えい!」パチャン トプン
たきな「な、何するんですか!」
千束「私のもこの中に沈めとくから!」パチャン トプン
たきな「ええええ!?」
千束「……いいの。だって、今から……」ガコン
ガチャ
テロリスト「おい、そこの学生、両手を挙げてロビーに出てこい!!」チャッ
千束「……こうなるんだから」
たきな「……分かりました。ここは彼らに従いましょう……」
その後 喫茶リコリコ
カランカラン
ミカ「いらっしゃ……おや」
ミズキ「珍しいお客が来るもんだね」
クルミ(やば、DAの司令官じゃん。押し入れに隠れよっと)ソソクサ
楠木「邪魔するぞ……私だって、美味いコーヒーを飲みたいと思う時もある。それにしてもここは静かだな」
ミカ「まぁ、今日は千束もたきなも外出しているからな。それを見計らって来たのか?」
楠木「あの二人はいないんですか。偶然ですね」
ミカ「仕事の話か?」
楠木「それも今日は特にありません」
ミカ「そうか。ほら、ブラックで良かったな?コーヒーお待ちどうさま」
楠木「ん……やはり、ミカのコーヒーは逸品ですね」ズズッ
ミカ「今度来るときはフキとサクラも連れてくればいい。おかわりはどうだ?」
楠木「頂きます」スッ
TV「……番組の途中ですが、臨時ニュースです。警視庁によりますと、正午前に都内●●の警察の検問で、不審な車二台が警察官の制止を振り切って逃走、またこれの関係は不明ですが、都内のK医大病院の一部が、先ほど詳細不明の武装勢力に占拠された模様です」
楠木・ミカ・ミズキ「!?」
楠木「な、何だと……」
ミズキ「……その様子だと、DAも兆候は掴んでなかったようね。ラジアータもヤキが回ったのかしら?」
楠木「恥ずかしい話……言い訳かも知れんが、この占拠事件はおそらく計画的ではないと思う。何か偶発的な……」
ミカ「……なんてことだ」
楠木「どうしました?」
ミズキ「千束とたきなが、今日、あの病院に行ってるの」
1階ロビー
テロリストのリーダー「我々は武装組織・日本赤色解放戦線である!!」
リーダー「傷ついた同志の治療の為、やむなくこのK医大病院を占拠した次第である!」
リーダー「日本警察が更なる手出しをしてこない限り、本病院の安全は保障される!」
リーダー「こちらからの要求については、追ってまた連絡する!」
リーダー「という訳だ。先生、仲間の治療をお願いしますよ。さっき警察の検問で何発か喰らって、軽傷とはいえ怪我人が出てるんでね」ニヤリ
外科医「わ、分かった……治療が終われば、すぐに解放してくれるのか?」
リーダー「それは、日本政府の心がけ次第だな」
リーダー「ったく、想定外だったな。海路で国外へ出るはずが、予期せぬ検問のせいで予定が狂っちまった」
副リーダー「日本の警察も、なぜか分かりませんが神経質になっていますね。今日も、ためらいを見せずに水平射撃してきましたし……」
リーダー「……日本警察も、我々にとっては悪い意味で欧化していくのかもしれん」
副リーダー「しかし、あの限られた時間の中で、病院を占拠して交渉カードにするというのはいい判断でしたね」
リーダー「元々考えていたことだ。同志の治療はもちろん、インフラも人質も揃ってるからな、まさにおあつらえ向きの拠点というわけだ。と言って、長居するつもりもないがな」
テロリスト「人質の諸君は、ここ1階ロビーに集まって昼夜過ごすように!許可なく行動した場合は、生命の保障はしない!!」
ザワザワ ヒソヒソ
千束「AKの……あれ、47かな?74かな?」
たきな「弾倉とストックの形からして、あれはAK74です」
千束「マカロフ持ってる奴もいる。共産圏の骨董品ばっかだね」
たきな「殺傷力の高い骨董品ですね。でも、時代遅れのAKなら、千束なら余裕ですよね!」
千束(……そうでもないんだよ、たきな。AKは弾がブレやすいから、避けるのも地味にしんどいんだよ……)
たきな「身のこなしからしても、奴ら、一定以上の軍事訓練は受けていますね」
千束「爆弾やブービートラップの類は……今のところ、どこにも仕掛けてなさそうだね」
たきな「はい」
千束「とりあえず、今分かってる情報だけ楠木さんに報告してくるね!」
たきな「ありがとうございます、お願いします」
千束「すみませ~ん!おしっこ行きたいで~す!」ブンブン
たきな「なっ……ちょっと千束!」
喫茶リコリコ
ピコーン
楠木「……!!」
ミカ「楠木、スマホが鳴ったぞ。それ、もしかして・・・・・・」
楠木「ああ……千束からです。やはり、たきなと一緒に病院の旧棟で人質にされてます。敵の全体数はおよそ二十名、メインウエポンはAK74。リーダー格らしいのはマカロフ拳銃も持っている……と」
楠木「人質は、棟内の介護医療院に入院している25名と、見舞客5名、外来は千束と付添いのたきなのみ、医療関係者は救急外来の外科医1名、看護師12名、クラーク1名、MSW(医療相談員)1名」
ミズキ「共産圏で武装訓練と武器を得た連中だったとはね。面倒ね」
ミカ「どうするんだ?」
楠木「当然、情報は警察に上げます」
ミカ「DAは……出る幕ではないな」
楠木「これは既に周知の事件になってしまっています。警察が対処すべき事案です」
ミズキ「で、私達はどうするの?」
ミカ「現に千束達が人質となっているだろう、当然フォローだ。それで、千束達にはこれからどうさせる?」
楠木「とりあえずは情報収集させるにとどめておきます。どの道、敵と人質の人数が報告通りとすれば、あいつらも今はそれしかできません」
ミカ「……そうだな。あとは、警察が対応を誤らなければいいんだが……」
楠木「……」
楠木「…………」
楠木「………………」ウーン
その後
首相官邸 地下 危機管理センター
ワイワイ ガヤガヤ
警察庁警備局長「長官!!お電話です!!」
警察庁長官「ああ!?誰からだ?」
警備局長「DAの楠木局長です!」
警察庁長官「DAだと?今はそれどころじゃない!!後にしろ!!」
警備局長「は、はぁ……」
警察庁長官「……お待たせしました、総理」ガチャ バタン
警視総監「お疲れ様です、長官」
警察庁長官「おう、お疲れ様」
首相「二人とも呼び立てて済まない。共有しておきたい情報がある。アメリカからだ。K医大病院を占拠した日本赤色解放戦線についてだが、奴ら、昨年中東●●国の米大使館を攻撃した国際武装勢力の一味らしい」
警視総監「そうだと思いました。やはり地続きでしたか……」
首相「生かして日本国内から出すな、だそうだ。逮捕……もしくは射殺せねばならん。国外に厄介払いするというのも、さすがに諸外国に対して無責任だ」
警視総監「恐らく彼らは、我々に航空機を用意させて中東辺りへ高飛びする計画でしょう。過去のよど号ハイジャック事件のように」
警察庁長官「彼らだけで出国する、とはまず考えにくいです。目的地に着くまでは、敵は人質を手放さないでしょう。そうなると、離陸後に遠隔で機を爆破して処置、という訳にもいきますまい」
首相「つまり……何が何でも奴らが病院を占拠しているうちに事件を処理しなければならんということか」
警察庁長官「はい。ちなみに、アメリカは手出ししてくるのでしょうか?」
首相「例のごとく静観だ。装備が必要なら貸すと言ってはいる」
警察庁長官「屁の突っ張りにもなりませんな」
警視総監「我々のSATにお任せください」
首相「報道は管制下にある。その点は先ほど総務相とも話をした。存分にやり給え」
その後 喫茶リコリコ
プルルルル ガチャ
警察庁長官『なんだ、しつこいぞ』
楠木「DAの楠木だ。さっそく報告がある。K医大病院で、リコリスが二人人質となっている」
警察庁長官『なんだと……?』
楠木「おや、そちらではやはり未確認の情報だったか」
警察庁長官『憎まれ口をたたくな。それで、その人質はどうなっている?』
楠木「敵の監視下にあるが、武装と通信機器は隠匿に成功し、定時連絡は可能な状態にある。目下、敵の情報収集をさせている状況だ」
警察庁長官『情報収集ならこちらでもやっている。敵の戦力はあらかた見当がついたところだ』
楠木「現場の要員からの情報も重要だ。どうせ、SATを使う作戦を予定しているんだろ?別に貸し借りにするつもりはないから、情報提供はさせてもらいたい」
警察庁長官『お断りだ!貴様らDAが関わると、ロクなことにはならん!だいたい、この間の延空木事件とその後の銃器回収で、貴様らのケツを拭いてやったのは誰だと思ってるんだ!』
楠木「それについては感謝している!だが今は……」
警察庁長官『とにかくだ!貴様らDAの関与は拒否する!』
楠木「そんな意地を張っている場合か!」
ガチャン ツー ツー
楠木「……頭の固い木っ端役人めが!」
ミカ「先が思いやられる……」
ミズキ「とりあえず、私達でできることをやるしかないわね」
危機管理センター
警視総監「今の電話は、DAの局長からですか?」
警視庁長官「ああ。この国の汚れ仕事は全部自分たちが背負ってると勘違いして我々警察を見下し、いい気になっているいけ好かん奴らだ!」プンスカ
警視総監「そのくせ予算はふんだんに使っているようですから、腑に落ちませんね。一人一人の装備も交番巡査より充実しているようですし」
警察庁長官「DAは金喰い虫だ。あれだけの規模の組織を国民の眼から秘密裏に運営するには、かなりのカネがかかってる。噂では、全てのインフラに優先する最強のAIも動かしているそうだからな」
警視総監「その予算を出しているのはこちらなのですから、もうちょっと我々に従順になってもいいのにですね。独自に予算を請求できるほど明朗な組織でもないくせに……」
警察庁長官「……ちょっと語弊があるな、総監」
警視総監「え?」
警察庁長官「確かに我が警察庁はDAの運営費を拠出しているが、それは一部に過ぎんのだよ。考えてもみたまえ、警察庁が100%も拠出したら、必ず国会で追及される額になってしまう」
警視総監「となると……残りはどこから?」
警察庁長官「それが分からん」
警視総監「……内閣機密費でしょうか」
警察庁長官「それもどうも違うらしい。それに内閣機密費程度では足らんだろう」
警視総監「いずれにしても、気味の悪い組織ですね」
警察庁長官「いずれにしても、奴らDAの指図は受けんぞ!」
2日目 朝
病院1階ロビー
たきな「おはようございます、千束」
千束「おはよ。うーん……さすがに床にマットレスだと、腰が痛いよー」ノビー
たきな「ですね……」イタタ
テロリスト「食事が搬入されてきた。人質諸君、取りに来い」
たきな「ザ・病院食ですね。お粥に薄い味噌汁、パサパサのメザシ、果物ゼリー……」
千束「仕方ないよ。こんな状況下で、ちゃんとした食べ物が出るだけでも感謝しなきゃ!」
たきな「……そうですよね」
子ども「……」ジー
千束「あれれ?僕、ゼリー欲しいの?じゃ、あげる!」
子ども「ありがとう、お姉ちゃん!」
母親「すみません、ありがとうございます……」
たきな「子どもに優しいのは良いことかもしれませんが……千束も栄養はしっかり摂らないと……」
千束「私……グレープフルーツは食べられないから」
たきな「……そうでしたね」
千束「ってことで、ご馳走様でした!じゃあ食後のお薬……」
千束「あ……」
千束(……そっか。お薬、受け取れなかったんだった……)
千束(たぶん数日で解放されるだろうし……ま、いっか!)
たきな「千束?どうかしましたか?」
千束「う、ううん、何でもないよ!」
ちょっと外します
その頃
喫茶リコリコ
クルミ「病棟の防犯・監視カメラに入り込めたぞ。ついでに、K医大病院の電子カルテにも潜入成功だ」
ミズキ「電子カルテ?」
クルミ「カルテってのは病院の患者ごとの診療録で、電子カルテってのはそれをPC上で管理しているシステムのことだ」
ミズキ「病院のシステムってことでしょ?よく入り込めたわね」
クルミ「こんなもの、病院の職員が自宅のPCやスマホからでもやろうと思えば入り込めるレベルだぞ」
ミズキ「え、何それやばっ」
ミカ「千束のカルテを出してくれ。特に異常はなさそうなのか?」
クルミ「大丈夫。DAの山岸っていう医者宛てに、特変なしっていう旨の診療情報提供書が昨日付けで作成されてる。次回受診は半年後でいいそうだ」
ミカ「ああ……良かった。とりあえず、体調面は一安心というところだな」
クルミ「それはそうとして……ちょっと気になることがある……」
ミカ「何か問題が?」
クルミ「この病棟、古いよね。カメラもあまり解像度が高くないやつだし、そもそも病棟内全部をカバーできてない」
ミカ「ああ、確かK医大病院は旧棟から新棟へ機能移転をしている最中って話だ」
ミズキ「旧棟は1階にロビー、事務室、食堂、そして救急外来センターとナースステーションと地域連携室があって、2階から4階は病室。5階は屋上。新棟とは3階の連絡通路で繋がっていたが、既に解体作業により孤立……か」
クルミ「もし警察がこのカメラだけを頼って敵の戦力分析に当たっているとしたら……けっこうザルだ。警察の画像解析能力が、僕やDAのラジアータに勝ってるなんて思えないしな。ラジアータも……恐らく、同じことを懸念してるんじゃないだろうか」
ミカ「……とりあえず、警察に任せるしかないが、分かることがあったら探ってみてくれ」
クルミ「分かった」
K医大病院 1階 事務室
リーダー「羽田にC2輸送機と、こちらの屋上にCH47ヘリを今日中に速やかに準備させろ。もちろんパイロット付き、燃料は満タンでだ。ヘリとの通信周波数も準備するよう伝えろ。金は要らん、余計な時間は取りたくない」
副リーダー「分かりました。これを日本政府が速やかに承諾し実行すれば、我々も晴れて海外拠点へ戻れると言う訳ですね」
リーダー「……ならいいんだがな。油断は禁物だ」
4階 介護医療院病室
千束「は~いおばあちゃん、オムツ替えますよ~。向こう向いてくれますか?」
おばあちゃん「あら、済まないねぇ」
おばあちゃん「長生きなんか、するもんじゃないねぇ」
千束「そう……かな……」
おばあちゃん「でも、お嬢ちゃんみたいな優しい子に会えたから、満更でもないかもねぇ」
千束「……!」
千束「ありがとね、おばあちゃん。じゃあ、今度はこっち向いてね」
1階ロビー
千束「ふぅ……オムツ交換は終わりっと。もうすぐお昼ごはんか……」
看護師「ごめんなさいね、千束ちゃん。本当に助かるわ、ありがとう」
千束「全然です!」
たきな「……千束。病院側も人手が足りてないのは分かりますが、ちょっと頑張りすぎじゃないですか?」
千束「いいのいいの!こうして動いてないと、身体がなまっちゃうでしょ?」
千束「ほら、たきなも!この子に絵本読んであげて!!私は定時連絡を確認してくるから……」
子ども「お姉ちゃん、ご本読んでくれるの……?」ジーッ
たきな「え、えっと、じゃあ読むね。『そらいろのたね』……」
1階ロビー 女子トイレ
チャプ……
千束「水の中でも使えるのがDAのスマホのいい所だけど、そろそろ充電が心もとなくなってきたなぁ……」
千束「お、来てる来てる。クルミからだ。えっと……」
千束「『病棟の防犯カメラを遡って精査したところ、2階のリネン室に、敵がトランク大の荷物を幾つか持ち込んでいる模様。恐らく何らかの武器と思われるが、リネン室内にはカメラがないため、可能なら肉眼にて確認して欲しい……』か……」
千束「了解……っと」
1階ロビー
千束「……って内容だった。私が見てくるよ」
たきな「か、確認は私がやります!」
千束「たきな、無理しなくていいんだよ。視力も私の方が良いんだし、あそこには見張りもいるんだし」
たきな「無理してるのは千束の方です。私だって眼は良いですから、私に任せて下さい!」
千束「わ、分かったよ。じゃあ、くれぐれも気を付けて……」
2階 リネン室
たきな「2階のシーツ交換をするので、シーツを取りに来ました」
テロリスト「入れ」
たきな「ありがとうございます」
テロリスト「手早く済ませろ」
たきな「シーツ、シーツっと……」
たきな(……あれだ!部屋の隅にある金属製のケース……)
たきな(何だろう、確かに軍用ぽいケースだ。も、もうちょっと近づけば……)
テロリスト「……おい、何を見ている」チャッ
たきな「!!」
たきな「あ、え~っと、シーツの枚数がどうも足らないみたいなので、ひょっとしたら新しいのがその中に入ってるのかな~って……」
テロリスト「……」
テロリスト「その荷物は我々の食糧だ。必要な枚数を取ったのならもう出ろ」
1階ロビー
千束「ご苦労様!で、どうだった!?」
たきな「『食糧だ』って言われました」
千束「なぁんだぁ、レーションかよぉ」
たきな「ただのレーションに、わざわざ見張りをつけるわけがないですよ……一瞬だけチラ見したら、箱の側に小さく刻印がありました」
千束「なんて書いてあったの?」
たきな「不鮮明でしたが……私の視力に狂いがなければ……」
たきな「〝RPG―7〟でした」
首相官邸 地下 危機管理センター
警視監「犯人……いえ、敵と呼称しますが、敵は大型ヘリと輸送機の要求をしてきました。傷ついたメンバーの治療は終了したようです」
警視総監「予想通りだな」
首相「それで、SATはどう対応するのかね」
警視監「敵を回収する大型ヘリにSAT隊員を載せ、敵の要求通り、K医大病院の屋上へ降下します」
警視監「同時に、独歩可能な人質回収目的で用意した大型バスを正面玄関前につけます。これにも、SAT隊員を載せます」
警視庁長官「なるほど、病棟の上下から突入して挟み撃ち、という訳だな」
警視監「病棟の防犯・監視カメラの分析によれば、人質は1階ロビーに固まっているそうです。その上、恐らく敵もヘリの確保のためにまとまった人数を屋上に廻すでしょう。つまり、敵の戦力を大まかに二分できるという形です」
首相「なるほど……」
警視監「作戦名は、『トロイの木馬』と呼称します。作戦開始は、本日18時とします!」
コンコンコン ガチャッ
警備局長「失礼します。総監、長官、DAの楠木局長からご伝言です」
警察庁長官「DAから伝言だと!?……まあいい、一体何だ?」
警備局長「それが……その、K医大病院にいるリコリスからの報告によれば、『敵はRPG-7を院内に数基程度持ち込んでいる模様』とのことです」
警察庁長官「……」
首相「私の記憶が正しければ、RPG-7とは確か携帯対戦車擲弾……だったな」
警備局長「おっしゃる通りです。仮にですが、敵がこれを使用した場合……」
警察庁長官「使用した場合だと?それはどういう状況だ」
警備局長「対人に使用するとは考えにくいですが……例えば、SAT隊員を載せたヘリに対して使用された場合……至近距離であれば、回避するのはほぼ不可能です」
警察庁長官「何を言っているんだ。ヘリに対して使用?そもそもヘリを要求してきたのはあいつらだ。自分たちの羽田までの足を自分たちで叩き落とすなど、常識的に考えられるか!ヘリは絶対安全だ」
警備局長「も、申し訳ございません」
警視総監「長官のおっしゃる通りだ。それに、我々のカメラ解析によれば、そもそもRPG-7と疑わしきものは存在していない。そうだろう?」
警視監「はい」
警視総監「存在するかどうかも分からんモノに踊らされる必要はない。そのリコリスが不確かな情報を伝達して来ただけだ。まったく、けしからん小娘どもだ」
警察庁長官「我々はかねての予定通り、我々の『トロイの木馬』作戦を粛々と実行するだけだ。それでよろしいですね、総理」
首相「あ、ああ。構わん」
喫茶リコリコ
クルミ「……!警察が動くぞ、今日の18時だ!」カタカタ
ミカ「何、間違いないのか!?」
クルミ「ああ、警視庁のSAT一個班が動いてるようだ」
ミカ「念のために楠木にも共有しよう」ピポパ
ミズキ「……何もなければいいけど、落ち着かないわね」
クルミ「ああ。一応、僕のドローンを飛ばして現場の様子を見ていようか」
ミズキ「それが良いわね。お願い!」
18時前
K医大病院 旧棟 屋上
リーダー「18時には輸送機もヘリも用意できる……か。日本政府の動きも早いようで何よりだ」
バラバラバラ
テロリスト「来ました!CH47です!」
副リーダー「お、駐車場にバスも来ました。人質の受け入れ用のやつです」
リーダー「……」
1階ロビー
テロリスト「人質諸君!まもなく18時に解放する。ご苦労だった」
ザワザワ ヨカッター アトスコシダヨ
たきな「15時の定時連絡通りですね。人質解放の時間です。バスが来ました……やっぱり、カーテンを閉め切ってますね」
千束「そうだね……あ、ヘリのローター音だ!……いよいよ、上下からSATが突入してくるんだね」
たきな「どうします、私達も動きますか?」
千束「そうだね。上はヘリに任せて、私達は人質を守るフォーメーションをとろう!私達の存在はSATも知ってるとは思うけど、敵の一味に間違われないように注意!」
たきな「了解です。銃も回収済みですから、いつでも……!」
屋上
バラバラバラ……
副リーダー「おかしいですね、あのヘリ、さっきからホバリングしたままだ。なぜ、さっさと降りてこないんでしょう?」
リーダー「……嫌な予感がする。まるで何かのタイミングを待っているように感じる」
リーダー「トランシーバーはあるか?ヘリのパイロットに通信。ヘリを屋上でなく駐車場に降ろさせろ」
副リーダー「……は?1階にですか?」
リーダー「そうだ。急げ」
副リーダー「こちら日赤戦線。着陸場所の変更を指示する。正面玄関前駐車場に着陸せよ」
ヘリパイ『な、何だと?今更着陸場所を変えられるか!』
副リーダー「屋上に亀裂を確認した。旧棟のため老朽化したものと思われる。着陸場所を変更せよ」
ヘリパイ『待て!駐車場にはバスがいるだろう!』
副リーダー「バスはこれからどかす」
ヘリパイ『そ、それに駐車場周囲には電線もあるため危険だ!安全に着陸する自信がない!』
副リーダー「だったら亀裂の入った屋上に着陸を強行するか?そちらはおろか、我々と人質の安全も危険に晒すことになるぞ」
ヘリパイ『そ、そうであれば、屋上には接地せずに超低空でホバリングしながら君らを受け入れる!それなら問題ないだろう!』
副リーダー「申し訳ないが、我々は貴官の操縦の腕を完全に信頼している訳ではない。それに、我々はいいとしても、人質として連れていく医療従事者らが安全に搭乗できる保証もない」
リーダー(いやに抵抗するじゃないか。どうしても屋上に着陸したいという訳か)
リーダー「……ということは、嫌な予感は的中という訳だ」
ヘリパイ『と、とにかくいったん上に確認する!しばらく待て!』
危機管理センター
警視監「総監!敵がヘリを屋上ではなく1階駐車場に着陸させろと指示してきたとのことです!」
警視総監「……そうなると、病棟の上下から挟撃するという作戦が実施不可になるな」
警察庁長官「敵に感付かれたということか……?」
警視監「総監、いかがされますか?敵の指示に従った上で、SATをすべて1階から突入させるという形に変更しますか?」
首相「ま、待て!その場合、1階の人質に被害が出る可能性は高まるのか!?」
警視監「敵も1階に全員下りてくるでしょうから、可能性は上がります!」
首相「そ、それは困る!何としてもヘリを屋上に行かせろ!」
リーダー「……タイムオーバーだ。もう遅い。撃て」
テロリスト「RPG―7、発射!」
バシュッ!
ドガァアアアアンン!!!
リーダー「1階に降りるぞ。仕上げだ」
1階ロビー
千束「こ、この音はっ!?」
たきな「ああっ、千束!外を見て下さい、ヘリが……」
ヒュルヒュルヒュル…… ドシャアア
千束「ヘリが……駐車場のバスの上に堕ちた……!」
ゴォォォォォ…… ギャアアアア!!
千束「嘘……ヘリとバスから、火だるまになった人たちが……!」
たきな「あれ、SATの隊員ですよ……!」
リーダー「やはり、我々を騙していたな。我々と人質を回収すると見せかけ、SATを投入する肚だったのだな!」
千束「は、早くあの人たちを手当てしないと!!」
たきな「千束……!」
リーダー「無駄だよ。あの火傷ではどのみち助かるまい。なぁ?先生、そうだろう?」
外科医「あれでは、手当のしようがない……手遅れだ……」
千束「そんな……」
リーダー「だが、慈悲はくれてやる。玄関ドアを開けろ」
テロリスト「はっ!」
ウィーン
リーダー「日本警察よ、これが貴様らの愚かさの代償だ。思い知れ!」チャッ!
タタタタタタタタタッ!!
千束「っ……!」
リーダー「全員、楽にしてやった。いいか!人質諸君!!我々は本気だ!!」
その後
危機管理センター
警視監「長官、来客です」
警察庁長官「……帰らせろ。誰かに会える気分じゃない……」
警視監「そ、それが……DAの局長と教官が……」
ツカツカ
楠木「なぜ私達の情報を無視してSATをヘリで投入した!?」バンッ!
ミカ「……愚の骨頂だな」
警察庁長官「……」
楠木「追加の情報にあったはずだ、敵の武装にはRPGー7もあると!!それがあると分かっていれば、無闇にヘリを使うオプションは取り下げることができたはずだ、そうだろう!?」
警察庁長官「……」
楠木「おかげで虎の子のSAT隊員が大勢殉職した。その責任は、長官、あんたにあるんだからな!!」
ミカ「それに、警察の今回の失態は、大勢の人質を危険に晒したも同然だ。幸い、今のところ何もないようだが、相手によっては激高して人質に報復的処刑をしてもおかしくなかった。そうだろう?」
警察庁長官「……」
楠木「何か言いたそうだな。警察の初手がいきなり躓いたから、我々の手を貸してほしい、とか?」
警察庁長官「……情報収集に関しては、やはりそちらに一日の長があることは否定しない。情報については、今後はぜひともそっちのパイプを使わせてほしい」
楠木「貸しだな。……で、次の作戦はどうする?」
警察庁長官「敵にRPGがあることは分かった。もう地上から突破するよりほかない」
楠木「リコリスも次の作戦に参加させる。あんたらだけでは頼りないからな」
警察庁長官(自分たちの存在を政府にアピールする場が欲しいか……まぁ、今度ばかりは仕方ない)
ミカ「千束とたきなは、今は私が預かっている。私が親だ。私も話に加えて欲しい」
警察庁長官「人質となっているリコリスのことか。……仕方なかろう」
楠木「現状では、あの二人の身元は割れていない。定時通信で生存は確認できているし、それに携帯しているはずの銃とスマホも見つかっていないということだからな。人質になる前に、どこかに上手く隠匿したんだろう」
ミカ「だが問題は、スマホのバッテリーがいつまで保つか、ということだな」
楠木「まさにそれだ。軍用の代物だから水中でも2日は電源が保つが、それ以降は通信もできなくなる」
楠木「次の作戦をフォローするためにも、怪しまれずに病院内に入れる要員があと二人は欲しいな……」
ミカ「……私にアイデアがあるが、いいかな?」
楠木「助かります」
ミカ「これには、東京消防庁にも協力してもらう必要がある。ふふっ、彼らに協力してもらうのは、二度目だな」
警察庁長官「消防庁に……?よく分からんが協力できるよう手配はする」
ミカ「よろしくお願いしたい」
その後
首相官邸 廊下
楠木「……あ」
厚労相「おお、久しぶりだな」
楠木「ご無沙汰しております、大臣」
厚労相「元気そうだな……とも言い難いか。K医大病院占拠事件の件で、君も頭を悩ませているだろう」
楠木「は、はい。……恐縮です」
厚労相「身体を壊さんように。頑張ってくれ」
楠木「はい……大臣。いつもDAの運営にご協力頂き、ありがとうございます」
厚労相「我々の財布もそう暖かくはないが、まぁ力になれているのなら嬉しい」
厚労相「……DAの存在を黙認し、なおかつ援助しているという事実。私は死んでも極楽には行けんな」
楠木「それは私もです、大臣」
厚労相「……望まない・恵まれない妊娠による棄て子、災害孤児、交通遺児……。里親・養子縁組制度が根付かない我が日本社会において、君らDAは唯一、積極的に彼ら・彼女らを受け入れてくれている。それに感謝している厚生労働大臣たる私を、君は軽蔑するかね」
楠木「我々は……必要悪ですから」
厚労相「……我々厚生労働省はしょせん二流官庁扱いだ。何か積極的な生産活動に従事しているわけでもない。だが、仕事に誇りは持つべきだ。そうだろう、楠木局長」
楠木「……はい!」
夜中
1階ロビー
子ども「あ~ん!お家に帰りたいよ~!」
テロリスト「うるさいぞ!さっさと黙らせろ!!」
母親「す、すみません……ほら、いい子だからねんねしましょ……」
子ども「やだぁ!うわぁ~ん!!」
テロリスト「うるさいっつってんだろうが!!」
たきな「子どもなんだからしょうがないでしょう!むしろ、うるさいのはあなたの方です!」
テロリスト「な、何だと!」
千束「ちょっといいですか、お母さん。お子さんをお借りします」
母親「は、はい……」
千束「ほ~ら怖くない怖くない、べろべろばぁ~」
子ども「……」
子ども「……」ニコ
千束「夕方のあの光景が怖かったんだよね……でも、今はほら、怖くないでしょ?」ユサユサ
子ども「うん!」キャッキャ
母親「いつも済みません……」
テロリスト「ちっ……」
たきな「……」ホッ
たきな(SATの件で、人質はもちろんだけど、敵もストレスがかなり溜まってきてる……)
3日目 朝
1階ロビー 事務所
TⅤ「K医大病院の占拠事件のニュースです。警察は、人質救出のために警視庁特殊部隊・SATを現場に投入しましたが、武装組織・日本赤色解放戦線側の抵抗により、殉職者を出し、人質救出には至らなかったと発表しました。なお、この件につきましては、出所は不明ですが映像もネット上に出回っており……」
副リーダー「SAT隊員の遺体回収と、人質の一部開放。よく受け入れましたね」
リーダー「……ヘリ撃墜の映像が、どこかのドローンに録画されてネット上に流れた。誰がやったのか知らんが、こっちにとってはいい迷惑だ。このままでは、我々に対する国内外からのイメージが最悪なものになってしまう」
副リーダー「今更な気もしますが……」
リーダー「それに、自力での身動き困難な重症の人質はこちらも抱え込んでおきたくない。介護医療院の入院患者はこの際出て行ってもらう。どの道、この病棟は閉鎖される予定だったらしいしな。残る人質は見舞客と外来の患者だけで十分だ」
リーダー「我々はISのような人殺し集団ではない。そこははっきりとさせておきたい」
副リーダー「日本政府に、更なる要求はしますか?」
リーダー「輸送機は言うまでもないが、我々の羽田までの移動手段については今回は防弾車両を要求する。我々全員と、人質が載るだけのやつをだ。あとは要らん」
副リーダー「はい、日本政府に通告します」
テロリスト「隊長、副隊長。ちょっと来てください。地域連携室に電話が入っておりまして……」
リーダー「何だ……?」
K医大病院 地域連携室
救急隊員『こちら東京03及び04救急隊。●●通りで女子高生のバイクの二人乗りの単独事故発生。二人とも外傷あり、意識はあります。受け入れ願います』
MSW(医療相談員)「あの、こちらの状況をニュースで見てないんですか?ここは武装勢力に占拠されてるんです!」
救急隊員『それは分かっていますが、救急外来に余裕がある受け入れ病院が他にないんです。地域的にもそちらが近く設備も整ってますので、どうか受け入れ願います』
MSW「えらく粘ってくるわね……ちょっと待ってください」チラ
リーダー「話は聞こえていた」
副リーダー「どうします?どうせ人質も一部解放しますし、突っぱねましょうか」
リーダー「……いや、受けよう。これで外部に好印象を稼げれば言うことはない」
副リーダー「分かりました」
MSW「ありがとうございます。医師に連絡してきます」ダッ
外科医「はぁ!?二人も受け入れるのかよ……こんな時に、まったく……」ブツブツ
看護師「意識はある女子高生二人ですね、分かりました」
MSW「す、すみません……よろしくお願いします……」
ピーポーピーポー
救急隊員「救急隊です!女子高生二名、搬送しました!ストレッチャーを降ろします!」
ガラガラガラ
テロリスト「おっと!そこまでだ。救急隊はそのまま怪我人を置いて帰れ」
救急隊員「え、でも……ストr」
テロリスト「なんだ、貴様らも人質になりたいのか?」チャッ
救急隊員「わ、分かりました!帰ります!」
ブロロ……
テロリスト「さて先生、悪いが自分も処置に立ち会わせて頂く」
外科医「ダメだ!感染症の危険がある、不必要な人間は出てってくれ!」
テロリスト「何だと……」
外科医「どうしても立ち会いたければ、全身消毒のうえガウンとN95マスクを着用してくれ。そうでなければ立ち会いは医師として絶対に拒否する」
テロリスト(……医療用のガウンとマスクを着ければ、こちらの動きが鈍る)
テロリスト「……分かった。ただしすぐ外に控えているからな。この機に乗じて変な真似をしようとするなよ」ガチャ バタン
外科医「分かってるっつーの……」ボソッ
外科医「まったく、一人で二人を捌けって……いい加減にしろってんだ」ブツブツ
看護師(この先生、手技は確かなのに、口は悪いんだから)
外科医「……ん?これは……血じゃない?何かの塗料か……?」
外科医「……」クンクン
外科医「アル綿を」
看護師「はい」サッ
外科医「……」スッスッ
外科医「おいおい……この子、どこにも外傷なんかないじゃないか……」
フキ「先生、お静かに」
外科医「う、うわっ」
フキ「私達は〝警察〟の者です。皆さんを救出するために来ました」
看護師「ええっ!?」
外科医「え、ということは、もう一人も警察ってことか?」
フキ「はい」
サクラ「ども~」ピース
外科医「ち、ちょっと待ってくれ!怪我人でもなく、ましてや警察を受け入れたとバレたら、危ないのはこっちなんだぞ!」
フキ「ですが、今さら私達をつまみ出すのも不審がられると思います」
外科医「~~!!」
フキ「私達は大ケガをした女子高生です。先生はそれを通常通りに受入れ治療しているだけ。その体でお願いします。それと、人質の女子高生二人に連絡を」
テロリスト「怪我人の女子高生の受け入れ、終わりました。外科医と看護師が処置に当たっています」
リーダー「お前も立ち会え、と言ったはずだが?」
テロリスト「それが、感染症のリスクを盾に、拒絶されてしまいまして……」
リーダー「……なるほど。で、何も異常はなさそうだったか?」
テロリスト「はい。救急隊がストレッチャーを降ろしたので、そのまま受け入れて帰らせました」
リーダー「……」
リーダー「……ん?その救急車はストレッチャーごと患者を置いていったのか?」
テロリスト「は、はい」
リーダー「バカ野郎!お前の眼は節穴か!?」
テロリスト「え?」
リーダー「救急隊が自分たちのストレッチャーを回収していかないなんてことがあるか!普通、救急隊は運んだ患者を病院のストレッチャーに移してから自分たちのストレッチャーを回収して撤収していくんだ!」
リーダー「行くぞ!ついて来い!」
テロリスト「は、はい!」
救急外来 処置室
リーダー「邪魔するぞ、先生!」
外科医「な、何だ!」ビクッ
リーダー「処置は一通り終わったのか?」
外科医「あ、ああ。今終わったところだ。ベッドに横にしている」
リーダー「ベッドに……と言うことは、救急隊のストレッチャーは今どこにある!?」
看護師「そ、そこに置いてます……」
リーダー「あんたたち、医療従事者でありながら、救急隊がストレッチャーを残して行ったことに何も疑問を抱かなかったのか?」
看護師「だって、あ、あなたが『そのまま怪我人を置いて帰れ』と言ってたじゃないですか」
テロリスト「あ……」
リーダー「お前、そんな事言ったのか」
テロリスト「は、はい……言いました」
リーダー「それでビビッて置いてったのか、その救急隊は」
リーダー「何だ……思い過ごしだったようだな」
リーダー「……」
リーダー「念のため、ストレッチャーを改める」チャ!
看護師「きゃあ!!!!」
パパパパン!
ストレッチャー「」バラバラ
リーダー「……特に何も隠している様子はないな」
リーダー「騒がしくして悪かった。邪魔したな」ガチャ バタン
外科医「ふぅ……まったく、肝を冷やしたぜ」
看護師「……」ヘナヘナ
サクラ「へへっ……先生、あっしらのせいで、済みませんね……」
外科医「……君はどう見ても中学生か高校生にしか見えないな。しかもそんな髪型だ。本当に警察官か?」
サクラ「」ギクッ
サクラ「わ、私けっこう幼く見られちゃうんっすよねー!だから今回の役目を任されたって訳で……あはは……」
外科医「それに君ら……つい最近、何かの広告でも見た気がするんだが……何だっけな……」
サクラ「…………」ダラダラ
外科医「ま、いいか……」
外科医「……それにしても……君ら以外に救搬受け入れのない病棟は……暇だな」
サクラ「先生は暇なの、しんどいっすか?」
外科医「しんどいって訳じゃないが……今までが忙しすぎたから……逆に拍子抜けしてる」
サクラ「……なんだかんだで、忙しい方がいい感じすか?」
外科医「……ふん」ボリボリ
サクラ「まあ、救急外来の外科の先生っすもんね」
外科医「……」
外科医「ったく、面倒ごとばっかり降って来やがって……まったく問題のない患者の受け入れなんか、前代未聞だよ」ブツブツ
サクラ「……」
サクラ「……でも、受け入れてくれてありがとうっす、先生!」
外科医「……ふん」
1階ロビー
千束(……痛っ……)ズキン
たきな「千束、どうかしましたか?」
千束「う、ううん!大丈夫だよ!」
たきな「ちょっと疲れてるんじゃないですか?占拠以来、ずっと動いてるから……」
千束「そ、そうかな……」ヘヘヘ……
看護師「ねぇ……ちょっと」
たきな「はい?」
看護師「……二人とも、救急外来まで手伝いに来てくれるかしら?」
千束「わっかりました!」
たきな「……?」
看護師「すみません、この二人を救急外来の手伝いにお借りします」
テロリスト「よし、行け」
救急外来
千束「ちょっ……援軍が来たかと思ったらフキかよ!」
フキ「ああん!?私らで悪かったな!?」
サクラ「あんたら、仲が良いのも今は止しましょうよ……」
たきな「そうですよ。私達もあまりここに長居は出来ません。早く!」
フキ「私達が来たことの意味は説明しなくても分かるな。新たなSATの突入作戦が、明朝実施される。私達はそのフォローだ」
千束(明朝か……やっとお薬が手に入る。良かった……)ホッ
フキ「とりあえず、ほれ、予備のスマホとモバイルバッテリーだ」
千束「さんきゅ!」
たきな「ありがとうございます」
フキ「それと予備弾倉。一人五マガジンな。ストレッチャー内に分解して持ち込めたのはそれが限界だ。最後に音響閃光弾っと。奴らが感付く前にストレッチャーから出しておいて良かったぜ」
フキ「千束がフランジブル弾、たきなが9パラ弾だったか。ったく、揃いも揃ってバラエティに富んだ弾丸を使いやがって。お前らは旧日本陸軍か」
千束「へへへ……」
たきな「……すみませんね」
フキ「作戦概要を伝える。あ、先に言っておくが、基本的に私らはSATのサポートに当たるわけだが、SATはSATの指揮系統で動くとして、私ら四人の現場の指揮はそれに準じて私が執るからな」
たきな「ちょっと待ってください。現場は私達のほうが熟知しています。現場での行動は私達にイニチアチブを持たせてください」
フキ「ぁあ!?セカンドが指揮するってのか?指揮はあくまでファーストの私、私が倒れたら千束ってのがセオリーだろうが」
千束「……たきな。DAや警察からの情報を客観的に見てきたのはフキ達の方だよ。それに、フキとサクラは、あらかじめAK74の射撃速成訓練も受けて来てるはず。でしょ?」
フキ「ご明察だ。拳銃弾を撃ち尽くしちまえば、AKを奪って戦うシミュレーションも済ませて来てる。なぁ、相棒?」
サクラ「は、はい!(……今、相棒って言ってくれた!)」パァア
千束「ここは、同じファーストとして、私はフキに現場指揮を執ってもらおうと思うんだ」
たきな「千束がそう言うなら……」
フキ(何だ……?それにしても千束のやつ、今日はえらくしおらしいじゃねえか……?)
フキ「……ふん。まぁ、付け加えたい情報があるんならあとでまとめて言え。今は私が話をする番だ」
たきな「……失礼しました」
フキ「Xデーは明日、X時は0700時。敵の大部分と人質が一階ロビーに会する朝食時を狙う」
フキ「前回のヘリ撃墜の失敗を鑑みて、屋上からの強襲は期待できない。事前に発見されれば、またぞろ撃墜されてしまうからな。その穴は私ら四人で内側からカバーする」
フキ「間髪入れず、SATの二個小隊が正面玄関と裏から突入してくることになっている」
フキ「最初に私らがしなければならないのは、何と言っても1階にあるRPG-7の無力化だ。これができないと、突入してくるSATが車輌ごと吹き飛ばされてしまう」
フキ「その点ではヘリ強襲と同じリスクを負うが、少なくとも空からヘリで接近するよりは敵に暴露する時間が短いからリスクは低い。それでSATは全員車輌で投入されることとなった」
フキ「同時に、人質達の防衛だ。戦闘中にパニックになって走り回られたら大ごとだ。SATが突入と同時に、車輌の陰に受け入れる体制を取ってくれるから、私らは私らで人質を病棟外に誘導する必要がある」
フキ「人質の誘導役は、たきなに任せたい」
たきな「ま、待って下さい。私の射撃スコアはこの中でもトップクラスです。攻撃班に入れてください!」
フキ「人質の誘導も重要な任務だ。人質を伏せさせて、タイミングを見計らって誘導し、SATに保護をリレーする。どれ一つミスっても成功しねぇ。私や千束のようなファーストならともかく、経験の浅いサクラには任せられねえし……」
サクラ「……」グヌヌ
たきな「ですが……」
フキ「それに、いくら千束とお前の射撃スコアが良いとは言っても、私らが持ち弾丸を使い果たしてしまった場合を考えろ。AKの扱いは、今の私とサクラには及ばねぇはずだ」
サクラ「……」フンス
フキ「ましてやお前はただでさえ血の気が多い。下手したら銃撃戦に夢中になって、周りが見えなくなるだろ」
たきな「……、……」
フキ「って訳だ。たきな、嫌か?」
千束「私も、たきなが適役だと思うな」
フキ「SATに人質をリレーしたら、思う存分攻撃に加われ。そっから先はスタンドプレーで構わねぇ。前みてぇにな」
たきな「……分かりました。たびたびわがままを言って、済みません……」
フキ(ふん……先生のところに行ってから、前に比べりゃずいぶん成長したじゃねえか)
フキ「私達は一人一人が一個小隊の動きをしなくちゃなんねぇ」
千束「質問だけど、他にDAからの増援はないの?」
フキ「ああ、私らだけだ。あまり大勢で動くと、またマスコミにバレちまうだろうしな」
千束「ふ~ん……(何だろう、何か嫌な予感がする……)」
フキ「解散だ。明日に備えて、今夜はしっかり休養しろ」
千束「おっけ~。んじゃ、たきな行こう?」
たきな「……」
たきな「……フキさん」
フキ「何だ」
たきな「今更と言われるかもしれませんが、あの銃器取引事件の件、覚えてますか」
フキ「ふん……忘れようにも忘れらんねぇよ。確かに今更だな」
たきな「あの時、私がとった行動について、私は今でも最善の行動だったと思っています」
フキ「……ちっ、何だ。現場指揮官として何もできなかった私を、いまだに責めてるのか」
たきな「そうじゃありません。とにかく、私は後悔していません。ただ……」
フキ「……何だよ」
たきな「あの時、行動の前に、現場指揮官であるフキさんに、ひとこと言っておくだった……それだけは、反省しています」
フキ「……へっ。そうされたところで私は反対したろうし、時間もなかったし、お前はどのみち撃ちまくったろうさ」
たきな「……そうだったとしても……とにかく、私の話は終わりです」
フキ「……」
たきな「明日は、よろしくお願いします」
千束「……」フフッ
ガチャ バタン
サクラ「今の……たきななりの、けじめのつけ方だったんすかね……」
フキ「……知るかよ。寝るぞ」
サクラ「先輩、今、すごく晴れ晴れとした顔をしてますよ」
フキ「……うるせぇよ」
>>53 訂正
たきな「……フキさん」
フキ「何だ」
たきな「今更と言われるかもしれませんが、あの銃器取引事件の件、覚えてますか」
フキ「ふん……忘れようにも忘れらんねぇよ。確かに今更だな」
たきな「あの時、私がとった行動について、私は今でも最善の行動だったと思っています」
フキ「……ちっ、何だ。現場指揮官として何もできなかった私を、いまだに責めてるのか」
たきな「そうじゃありません。とにかく、私は後悔していません。ただ……」
フキ「……何だよ」
たきな「あの時、行動の前に、現場指揮官であるフキさんに、ひとこと言っておくべきだった……それだけは、反省しています」
フキ「……へっ。そうされたところで私は反対したろうし、時間もなかったし、お前はどのみち撃ちまくったろうさ」
たきな「……そうだったとしても……とにかく、私の話は終わりです」
フキ「……」
たきな「明日は、よろしくお願いします」
千束「……」フフッ
ガチャ バタン
サクラ「今の……たきななりの、けじめのつけ方だったんすかね……」
フキ「……知るかよ。寝るぞ」
サクラ「先輩、今、すごく晴れ晴れとした顔をしてますよ」
フキ「……うるせぇよ」
4日目 夜明け前
皇居前広場
SAT隊長「長官に対し!敬礼っ!」
ザッ!
警察庁長官「警視庁SAT隊員の諸君、この度は、日本赤色解放戦線の占拠下にあるK医大病院への出動、誠にご苦労である!」
警察庁長官「不幸にして、諸君の同僚で先鋒を勤めた一個班が全滅してしまったこと、これは本官にも責任がある。指揮官の一人として陳謝したい……!」
警察庁長官「だが今次作戦は前回の反省を踏まえ、必ず成功するものと信じている!」
警察庁長官「人質の生命の安全を第一に、この任務を全うしてもらいたい!」
警察庁長官「以上、解散!!」
SAT隊長「各員、車輌に乗車しろ!」
ザッ!
警視総監「……隊長、ちょっと」
SAT隊長「総監、お疲れ様です」
警視総監「あちらで長官がお話があるそうだ。行ってくれ」
SAT隊長「は、はい……?」
警視庁長官「ご苦労さん。しっかり頼むぞ」
SAT隊長「長官、激励のお言葉ありがとうございました」
警察庁長官「今次作戦だが、DAのリコリス四名が参加する。ギリギリまで伏せていて済まなかった」
SAT隊長「リコリスが……?既に潜入しているんですか?」
警察庁長官「ああ。露払いとして参加してくれるそうだ」
SAT隊長「それはありがたい話です。女子高生くらいのリコリスと共闘するというのも気恥ずかしい話ですが、お互いに犠牲者を出さないよう、しっかりと……」
警察庁長官「その話だ。敵を無力化したのち、速やかに、彼女らリコリス四名を……」
警察庁長官「処分してもらいたい」ボソッ
SAT隊長「!!??」
SAT隊長「そんなことを……よろしいのですか!?」
警察庁長官「問題はない。罪には問われん。その点は法務省にも確認した。首相も法務相も警視総監も承知の上だ」
SAT隊長「そういう問題ではありません、もっと……」
警察庁長官「……我々日本警察は、もっと強くあらねばならんと思っている。銃器を有する凶悪犯に対しても、我々は警察官一人一人が装備と訓練、そして心構えからして対抗できるようにならねばならん。それは君も同じ考えだろう?」
SAT隊長「確かに、年端もいかない少女に銃を持たせて凶悪犯に当たらせるというのは……我々警察官という存在がありながら、いかがなものかと……」
警察庁長官「君の言うとおりだ。我々は強くならなければならん。明治以来の悪しき伝習はここで絶たねばならんのだ。……今回作戦に参加するリコリスはほぼ全員が、現在のリコリスの要と言える能力者であるとの事だ。彼女らが消えれば、DAの影響力は間違いなく低下する」
警察庁長官「……SATは隊員を務められるのも25歳まで。隊員がそれ以降のキャリア形成に不安を抱えていることも、私は重々承知している」ポン
SAT隊長「……」
警察庁長官「DAを、潰すのだ。……君らにはその嚆矢を務めてもらいたい」
4日目 朝6時
K医大病院 1階ロビー 事務室
副リーダー「おはようございます、隊長。いよいよ今度こそ、日本最後の朝ですね」
リーダー「……7時に人質解放、および警察の用意した車で医療関係者の人質とともに出発予定だが、今回も日本政府は何かしら小細工をしてくるだろうか。それが気になる」
副リーダー「ヘリ撃墜とSAT全滅で、奴らも少しは学んだでしょう。杞憂かと思いますが」
リーダー「……にしては不審な点がまだある。昨日の女子高生バイク事故の件だ」
副リーダー「何か気になる点が?」
リーダー「なぜあの事故の件がまったく報道されない……?今朝辺りには出ると思ってたが……」
副リーダー「……報道されていないんですか?」
リーダー「ネットニュースくらい見ろ。敵の出方が透けて見えることもあるからな」
副リーダー「まさか、あの女子高生たちが警察のエージェントとか」ハハハ
リーダー「……それ、あるかもな」
副リーダー「え、冗談ですよ」
リーダー「いや、あの救急搬送のゴリ押し……よく考えれば不自然だ」
リーダー「副隊長、しばらくロビーを任せる。二名、ついて来い!」
テロリスト「はいっ!」
1階ロビー
千束「ふぁあ、おはよう、たきな!」ノビー
たきな「おはようございます。いよいよですね……。銃とバッグ、持ちました?」
千束「うん、準備オーケー!」
たきな「……」
千束「そんなおっかない顔しないの。ね~?」
子ども「お姉ちゃん、大丈夫……?」
たきな「お、お姉ちゃんは大丈夫よ!ありがとね!」ナデナデ
千束「ねえ僕、たきなお姉ちゃんにご本読んでもらいなよ~」
子ども「わぁ!」キラキラ
たきな「じゃ、じゃあ読むね。『はらぺこあおむし』……」
千束「ふふふ……」
千束「」ズキン
千束(!!……また、胸が……)
救急外来
リーダー「……」ツカツカ
サクラ「おはようございます。もうメシっすか~?早いっすね!」
フキ(……こいつが敵の頭目だったな)
リーダー「全身打撲で運ばれてきた割には、ずいぶん元気そうじゃないか」
サクラ「う、運が良かったってやつですかね」
フキ(……嫌な予感がする)
リーダー「これは邪魔だな」バッ
サクラ「きゃっ!何するんすか!毛布、返してくださいよ!」
リーダー「搬送されてきた怪我人が、どうして病衣に着替えず、制服のまま寝ている……?」
フキ(……!)
サクラ「な、何なんっすか!?何をするってんですか……?」
リーダー「お前らは一体何なんだ……?二人とも、身体に聞いてやろうか……!?」
サクラ「やだ……やめろよ……!こっちは全身怪我して動けねえんだから……!」
リーダー「それを確かめてやるっつってんだ。おい、この女の股を開いてみろ」
テロリスト「はい!」ウヒヒ
外科医「や、やめろ!重症患者に何をする!」
看護師「乱暴はやめて下さい!」
リーダー「お前らは黙ってろ!」チャッ
サクラ「ひっ……やめろ!マジでやめてーっ!!」ガタガタ
テロリスト「うるせえ、大人しくしろ!!」ガシッ
サクラ「嫌ぁーっ!!」
フキ「……!!」
テロリスト「……あ?股が開かねえ……」グググ
サクラ「……ふっ!!」
ガシッ
テロリスト「ぐ、ぐぇっ……」
リーダー「な……両太腿で首を絞めやがった……!?」
サクラ「乙女の股に手ぇ掛けるなんざ、良い度胸だなぁおい……!」グッ
グキッ
テロリスト「」ドサッ
リーダー「や、やっぱりこいつら、警察の……」
フキ「動くなっ!」チャッ
リーダー「こ、こいつ!」チャッ
パパーン!
1階ロビー
副リーダー「銃声だ!全員戦闘態勢っ!」
テロリスト「副隊長!救急外来の女二人から拳銃を含む攻撃を受けました!ただちに小隊を呼集してください!」
副リーダー「……何だと、やはりあいつらが!?おい、小隊集まれーっ!救急外来へ向かえ!」
SAT特殊車輛内
SAT隊員「病院内で銃声です!」
SAT隊員「どうします、作戦を前倒しして開始しますか……?」
SAT隊長「司令本部にお伺いを立てている暇はない。直ちに突入!!」
1階ロビー
千束「予定時刻前に銃声……!」
たきな「ねえ僕、また後でご本読んであげるからね!」
子ども「え、うん……」
母親「さ、ママのところにおいで!」ダキッ
たきな「あ、テロリストの半分近くが移動を開始しました!」
千束「フキ達との間に、何かあったんだよ!!」
たきな「でも、うまい具合に敵が分断されました!!人質たちも伏せてくれてます!!」
ブォオオ……
たきな「!!」
たきな「SATの車輌が突入してきます!もうやるしかありません!」チャッ!
千束「分かった。スタングレネードを投げるよ!」
たきな「人質の皆さん、耳を塞いで下さい!」
千束「うりゃ!」ブン
バンッ……!!
千束「いっくよ!!」ダッ
副リーダー「い、今の音響閃光弾はどこから飛んで来やがった……!?」
テロリスト「くそっ……敵の車輌だ!RPG―っ!!」ジャキン!
千束「RPGはそこかっ!!」ダッ
テロリスト「なっ……人質の女……?」
千束「ふっ!」シュバッ!
テロリスト「うわっ!跳んだ……高っ……!!」
千束「喰らえっ!!」パン
テロリスト「がぁっ!!」ドサッ
SAT隊長「全員降車―っ!!突入っ!!」
SAT隊員「ああっ!!屋上の敵二名が、こちらへRPG-7を指向っ!!」
SAT隊長「何だと!屋上にもRPGを配していたのか!!」
パパパパン ギャァーッ
SAT隊員「あれ?……敵二名、沈黙!」
ブーン……
K医大病院 新棟 駐車場
クルミ「やっぱり、武装ドローンを飛ばしといて正解だったね」
ミカ「でかしたぞ、クルミ」
ミズキ「私らにできることはここまでね。あとは、千束達とSATに任せるしか……」
たきな(……現時点で千束が敵五名を無力化。残るは五名、遮蔽物に身を隠しているが戦闘力は健在、だけど音響閃光弾のお陰で視・聴力は回復しきれていない……今だっ!!)
たきな「皆さん立ってください!!頭を低くして、駐車場の大型車輌の陰まで走って下さい!!」
テロリスト「この……させるかっ!!」チャッ
たきな(くっ……敵一名が立ち直った!)
たきな(落ち着いて非致死的部位を狙ってる余裕は……ない!)
たきな「っ!」パァン
テロリスト「ぐぁっ……」ドサッ
子ども「……ひっ!」
たきな「早く!走って!!」
子ども「わぁっ!!」ステーン
母親「あっ!!」
SAT隊員「奥さん!早くこっちへ!!」ガシッ
母親「離して!!子どもが……!!」
子ども「うぅ……うわぁ~ん!!」
たきな「ほら、いい子だから立って!!お姉ちゃんと一緒にあそこまで走るの!!」ギュッ
子ども「う……うぅ……」ヨロヨロ
たきな「ね、もう大丈夫よ!はやく向こうのおじさんのところに……」
子ども「やだぁ!」ドン!
たきな「あっ……」ヨロ……
子ども「おねえちゃん……お顔、怖いよ……」ブルブル
たきな「……っ!」
たきな「……ごめん、ね」スッ……
SAT隊員「君!!ロビーの人質は、この子で最後か!?」
たきな「……はい、医療関係者以外はこれで全員です!敵一個小隊が1階ロビー反対側の救急外来へ移動しました!残りは依然ロビーで抵抗中!私は戻ります!」
SAT隊員「了解した!君の銃はグロックか!?予備弾倉は要るか!?」
たきな「大丈夫です!」ダッ!
たきな(やっぱり……私の……私の居場所は……)ジャキン!
たきな(硝煙の中にしか……ないんだ……!!)チャッ!
千束「ふぅ……ふぅ……」
千束(ちょっと、無理しすぎたかな……)ハァハァ
たきな「千束っ!戻りました!」ハァハァ
千束「ロビーの敵は一掃したよ!!たきな、フキ達の援護に行こう!」
たきな「はいっ!!」
救急外来 処置室
テロリスト「小隊、参りました!」ザッ
リーダー「おい小娘ども、人質がどうなってもいいのか!?」チャッ
看護師「きゃあ!」
外科医「畜生……!」
フキ「くっ……いったん処置室から退却!」ダッ
サクラ「は、はい!」ダッ
フキ「サクラ、怪我はないか!?」
サクラ「大丈夫っす!!」
フキ「くそっ……こっち側でも人質を取られちまった……畜生!」
サクラ「ど、どうします!?」
フキ「……私が単独で突入して敵を掻き回す。その間に千束たちやSATと連携して、お前が二人を救出しろ」
サクラ「それ……先輩、死ぬつもりじゃないっすか……?」
フキ「……簡単にはやられねえよ。私の超低姿勢による高速移動を舐めるなってんだ」
千束「そうそう。あのちょこまかした動きは本当に厄介なんだよねー」
フキ「千束!ロビーは制圧できたのか!?」
たきな「はい。向こうの人質は保護完了です!」
千束「こっちは手こずってるようだねー。仕方ないなぁ、ここは私が一人で……」
千束「」ズキン
千束(くっ……また胸が……!)
フキ「ぁあ!?また独断専行しようってか?お前は旧日本陸軍か!」
千束「……じょーだん。フキ、一緒に突入しよ」
フキ「あ、ああ!」
千束「たきなとサクラは、私達が暴れてる間に、人質をとってる敵を無力化して!」
たきな・サクラ「は、はいっ!」
千束「SATもそれでいいですね?」
SAT隊長「状況は分かった。救急外来の内部の詳細は我々も分からん、ここで援護する」
フキ「サクラ、私の銃、預かっといてくれ」スッ
サクラ「嘘っしょ!?素手で行くんすか!?」
フキ「限られた空間で揉み合うんだ、同士撃ちの可能性がある。いいか、頼んだぞ!」
千束「いい判断だねぃ、フキ!」
フキ「ふん……てめぇの弾なら、当たったところでどうってことはねえからな!」
たきな「スタングレネード!!」ブン
バッ……!
千束「行くよフキ!」
フキ「おっしゃ!」
テロリスト「敵二名、吶喊してきます!」
テロリスト「くそ、撃ち殺してやる!」チャッ
リーダー「視力が完全に戻ってない状態で無闇に撃つな!味方に当たる!!」
テロリスト「このチビ、AKの銃剣を喰らえ!」ブン
フキ「はっ……遅ぇよ!」ヒョイ
テロリスト「あ!?どこに消え……」
フキ「下だよ!」ブン ボグッ
テロリスト「ぐほぁ!」
千束「一人目っ……」パパン
テロリスト「ぎゃあ!」ドサッ
千束「二人目っ……!」パパパン
テロリスト「うげっ!」ドサッ
千束「っ……!弾切れ!」
千束(余計に撃ちすぎた……!やっぱり身体の動きが悪い……!リロードを……)
テロリスト「弾切れか、残念だな!くたばれ!」チャッ
パパパパン
千束「……ぐっ!」ヒョイヒョイ
テロリスト「あ、当たらねえ!?これだけ至近距離のフルオートで……」
フキ「この野郎!」ゴン
テロリスト「」ドサ
千束「フキ……めんごめんご」
フキ「千束てめぇ、後方に下がってろ!!」グッ
千束「な、何でよ!」ドサッ
フキ「一体どうしたんだ!今日のお前、動きがメチャクチャ悪ぃぞ!!」
千束(やっぱり……フキの眼は誤魔化せないか……)
フキ「いったん退け!あとは私らとSATに任せろ!!」
リーダー「くそ、瞬く間に四人がやられた……!」
リーダー「おい警察!人質がどうなってもいいのか!?……よし、一人血祭りに上げてやる。まずは女の方からだ!」チャッ
看護師「ひぃっ……!」
外科医「や、やめろ!」
たきな「させないっ!」パァン
リーダー「ぐぁっ!右肩が!!」ガシャッ
たきな「早く人質を!」
サクラ「了解!」ダッ
サクラ「先生、看護師さん、頭を低くしてロビーに走って!」
外科医「あ、ああ!」ダッ
看護師「はい!」ダッ
SAT隊長「残りの人質確保っ!数人でカバーして駐車場へ!」
SAT隊員「はっ!」
リーダー「くそ、このままじゃ全滅だ……!」
リーダー「動ける奴はついて来い、ナースステーションまで撤退する!やられた奴の弾倉も忘れるな!!」
ダダダダダダッ!パパパパン チューン!バキッ!!
SAT隊員「敵残党数名がナースステーションに立て籠もりました!!」
SAT隊長「日本赤色解放戦線に告ぐ!!諦めて投降しろ!!」
リーダー「うるせぇ!誰が投降するか!!」
リーダー「医療用酸素ボンベをありったけ転がせ!!」
ガランゴロン
SAT隊員「何か転がってきます!!」
リーダー「あのボンベを撃て!」
パーン
ドゴォォオオオオン!!バラバラ
SAT隊員「くそっ!諦めの悪い奴らめ!」
SAT隊長「……説得は無駄なようだな」
SAT隊長(……三人、ナースステーションの裏側に回れ。こちらの射撃開始を合図に、挟撃する)クイッ
SAT隊員(了解!)バッ
サクラ「先輩、お疲れ様っした。銃、お返しします!」
フキ「ああ、悪ぃ」チャッ
千束(SATは敵を殲滅する気だ……!)
千束(その前に……多少無理してでも、私が敵を無力化する!)
千束「フキごめーん!!独断専行しま~す!!」ダッ
SAT隊長「あっ……」
たきな「ち、千束!!」
フキ「おいこら千束!!やめろ、今のお前の動きじゃ……」
リーダー「撃て撃てっ!!弾幕を張れっ!」
タタタタタタタタタタタッ!!!!
フキ「~~っ畜生!!援護射撃っ!」パンッ
サクラ「はい!」タタタタタタタッ
たきな「千束っ!一人だけで無茶をっ……!!」パンッ
千束「……よっと!!」クルン
リーダー「くそ、一人ナースステーションに入り込んだ!向こうのデスクの裏に隠れたぞ!」
千束「胸が……痛い!」ズキズキッ
千束「こんな時に……!!もうちょっと頑張って、私の心臓・・・・・・!!」
テロリスト「何なんですかあの金髪の女は!こっちの弾丸が、ことごとく避けられてます!!」
リーダー「……恐らく、眼と洞察力が恐ろしく良いんだろう。それでこっちの射線を見切って弾丸を避けている」
テロリスト「そ、そんな化け物が……?」
リーダー「他に可能性はない、そうとしか考えられん」
テロリスト「そ、そんなの無理だ!と、投降しましょう!」
リーダー「ふざけるな!形ばかりの裁判で死刑になりてえのか!」
リーダー「奴はまた必ず出てくる!その時は奴本体ではなく、奴の足元手前の床や柱を狙え!」
テロリスト「床と柱……ですか?」
リーダー「こちらの射線を見切れるといっても、さすがに無軌道の跳弾までは見切れまい!」
SAT隊員「隊長、我々はどうしますか?」
SAT隊長「もう人質も救出した。何の憂いもない。あとは……思う存分潰し合ってもらうしかない」
SAT隊長(……せめて、我々の手で彼女らを葬るのだけは避けたい)
SAT隊員「了解!」
千束「よし……行くよ!」ダッ
リーダー「撃て撃て!足元だ!!」
ダダダダダダダダダッ!!チューン!
千束「わぁっ!!ちょっ待ってうわぁああああああ!!」ピョンピョン
リーダー「ははは、見ろ!手も足も出ずに隠れたぞ!!」
千束「悪知恵ばっかり回って……!もうお姉さん怒ったつーの!」
千束「この消火器をぶん投げてやる……どっせーい!!」ブン
ヒュルヒュル
千束(お願い、たきな、気づいて!!私のフランジブル弾じゃ、消火器は撃ち抜けない!)
テロリスト「消火器が飛んできます!」チャッ
リーダー「ま、待て撃つな!やめろ!」
たきな「っ!」パン!パン!
バァアアアアン!!
リーダー「ぐわっ!消火剤が宙に舞って、視界が……」ゲホゲホ
千束「ありがと、たきな!!」
たきな「フキさん、今です!ナースステーションを制圧しましょう!」
フキ「待て!消火剤が晴れてからだ!」
たきな「ですが!!」
フキ「視界の効かない状況下で私達と千束が挟撃する形になっちまうのは危険だ!それが分かってるから、千束もまだ動いてねえんだよ……!」
たきな「……」
フキ「どうせ、じきに視界は晴れる!そうなったら思う存分やるぞ!その間に私らは、五メートル先の遮蔽物まで前進っ!!」
たきな「はい……!」
リーダー「まだ奥の手がある……最後の切り札代わりに隠してたが……俺の右手は効かん!お前がこいつであの女を倒せ!」ヒョイ
テロリスト「は、はいっ!」ジャコン!
フキ「ま、まずい!あれは……ソードオフした散弾銃だ!」
フキ「いくら千束でも、間合いを空けてあれを使われたらもう避けられねえ!!!」
たきな「っ!!もう視界はあらかた戻ってますから、私、出ます!!」
フキ「ダメだ!たきな、伏せろ!」ガッ
リーダー「敵に援護をさせるな!AKを持ってる奴は撃ちまくれ!」
ダダダダダダダダダッ!!
フキ「くそ、頭が上げられねえ!」
たきな「千束っ!千束っ……!!」
サクラ「……ファーストの危機を救ったとあれば、手柄になって私もファーストになれる!」
サクラ「先輩、私が出ますっ!うおおおっ!!!」ダッ
フキ「ば、バカ!戻れサクラ!お前もか!」
サクラ「防御エアバッグ、解放!」バッ!
リーダー「なんだあれは!?弾丸が弾かれてるぞ!」
千束「この隙にっ……!」ダッ
テロリスト「はははは!出たな化け物!喰らえ!!」ジャキ!
千束「くっ……!二連発の散弾銃……!バ、バッグで防御……」
ドゴォォオオオオン!
千束「ぐぁっ!痛っ……!!!」
バサッ
テロリスト「防弾の鞄か!!だがその鞄も吹っ飛んだ!!あとはもう一発、とどめだ!!」
千束「ま、まずっ……!銃もどこか飛んじゃった……!」
テロリスト「あばよ!」ジャコン!
サクラ「させっかよ!!」パン!
テロリスト「ぐぁ!」ドサ
千束「サクラ、ナーイス!」
リーダー「あっ!畜生、こうなったら俺が散弾銃を、もう一発……!」ガッ
リーダー「喰らえ、化け物……!」チャッ
ドゴォォオオオオン!
千束「……」ヒョイ
リーダー「は、外された……!」
千束「……ふふ、左腕じゃまともに狙えやしなかったね。あ、私の銃あった」ニヒヒ
サクラ「ふん、右腕を撃たれてちゃざまぁねぇってんだ。ほら、他の奴はダウンしちまったぞ!さあ立て、悪の親玉野郎!」グイッ
リーダー(まだ…………マカロフがある……!)
リーダー「せめてお前は……道連れだ……!!」スッ…
サクラ「あ……」
パン
サクラ「うがっ……ああああああああああああああああ!!!」ヨロッ ドサッ
フキ「サクラぁっ!!!!」
たきな「ああっ……至近距離から腹部に……!」
千束「し、しまった……!!!!このっ!」パァン
リーダー「」ドサッ
SAT隊長「……隊長より各員へ。敵武装組織員は全員無力化を確認。これより最終フェーズに移行する。自分の装備は使うな、敵の遺棄したAK74をとれ」ピッ
フキ「こっちです、早く!!銃創を受けたんです!!」
看護師「何てこと……早くこの子を側臥位にっ!!」グイッ
サクラ「ひぎっ……!!」ゴロン
看護師「ハサミかナイフ、誰か持ってませんか!?」
フキ「あ、アーミーナイフならここに!」スッ
看護師「ごめんなさい、この服切るわね!!ってなんなのこの制服、中々切れない……!」
フキ「これ、防刃布なんです!貸して!」ビリーッ バッ
看護師「……!!弾が腹部の真ん中に当たってる……!!腸管は出てないけど、出血がひどい……!」
サクラ「痛ぇ……くそっ……ぐぅぁあっ!!!」ジタバタ
看護師「暴れないで!!血が止まらない……!!」ググッ
看護師「あなたたち、この子の手足を押さえて!!」
たきな「は、はい……!!」ガシッ
フキ「くっ……落ち着け、サクラ・・・・・・!」ガシッ
看護師「腹圧を上げるから、この子の膝を伸ばして、膝と足首を何かで縛って!」
たきな「はい!えっと……何か縛るもの……」
フキ「制服のリボンがあんだろ!これ使うぞ!」シュルッ
たきな「あ、はい!」シュルッ
MSW「私、先生探してきます!」ダッ
サクラ「」ゴボッ
千束「あ!口から血が……」
看護師「吐血……」
看護師(……当たり所が悪すぎる。腹部が硬くなってきてる。急性腹膜炎……胃酸が他の内臓を溶かし始めてるとしたら、オペをしないと、もう10分も保たないかも……)
サクラ「……、……て」ボソッ
フキ「何だ!?何が言いたい!?」
サクラ「……いっ…………こ、ころして……」ヒュー…
フキ「ばっ……バカ野郎!!」
SAT隊長「看護師さん。その子から離れて下さい」チャッ
看護師「な、何ですって……」
SAT隊長「……君らには済まないと思うが、どうか許してほしい」チャ
SAT隊員達「」ズラッ
たきな「何の……真似ですか?私達に銃を……向けるなんて……」
外科医「呼ばれて来てみれば、いったい何だ、この状況は……」ハァハァ
SAT隊長「ここに君らは居なかった。事件を解決したのは、あくまで我々警察SATだ」
千束「……本気で言ってるの、それ」
SAT隊長「本官の意思じゃない!……これは命令なんだ」
千束(嫌な予感の正体は、これだったんだ……!)
たきな「私達、この現場にいたリコリスを……ここで消そうと言うんですか。この戦闘で、敵弾を受けて死んだ……そう見せかけるために敵のAKを使うんですか!」
千束「やってみる?さっき見てたでしょ、私、弾道読めるんだよ?」
SAT隊長「……君が伝説のリコリスとやらか。だったら猶更……」チャッ
たきな「……国はリコリスを潰すのを、まだあきらめてなかったんですね」
千束(たきな……私が援護するから、サクラを連れてフキと二人で逃げて……!)チラ
たきな(何でですか……一緒に戦いましょう!)ブンブン
千束(……ダメ。今の私の身体じゃ、もうそんな動きは出来ない……!)フルフル
たきな(え……?)
フキ「……」チャッ
SAT隊長「銃を下ろせ!」
フキ「……」カシャ
たきな「フキさん……弾倉を抜いた?」
千束「ちょ、ちょっとフキ!!諦めんの!?」
フキ「……一発だけでいい」チャッ
SAT隊長「え?」
フキ「一発だけ、私に使わせてください」
たきな「な、何言って……」
SAT隊長「自殺したいのか?」
フキ「……こいつを、サクラを楽にしてやります」チャッ
千束「!!!」
たきな「え……」
フキ「……私もサクラも、リコリスとして、曲がりなりにも一所懸命に戦ってきた」
フキ「……他に、居場所なんてなかったから」
フキ「はっ……思えば私ら、つまんねえ人生だったよな?」
千束「フキ……」
たきな「……」
フキ「親に棄てられ……社会に棄てられ……DAには拾われたけどさ、ただがむしゃらに戦わされて……最後は私達が守っていたはずの国そのものに棄てられたんだぜ?」
フキ「何のために……生まれてきたんだよって……話だよな……」
サクラ「……、……」
看護師「この子、何か言ってる……」
サクラ「……」ボソッ
看護師「……ありがとうございます、先輩……って……」
たきな「そんな……」
千束「っ……!」
フキ「こいつは妹みたいな、家族みたいなもんなんだ!!生き延びることが許されないってのなら、せめて私の手で終わりを迎えさせてやってくれ!!それから私を殺してくれ!!」
千束「やだよ……そんなの……」
外科医「……」
千束「そ、そうだ……ねえ先生、サクラを、この子を助けてよ!」
たきな「千束……」
外科医「……」
外科医「……乙女サクラの緊急オペを開始する。輸血も含め準備を」
看護師「は、はい!!ストレッチャーを準備します!」ダッ
SAT隊長「せ、先生、勝手な真似をされては困ります」
外科医「勝手ではありません。彼女は僕の患者です。この病院内で勝手なことをしているのはあなた方のほうだ」
SAT隊長「ここにいたリコリスには永遠に口を噤んでもらわないと困るんです!」
外科医「リコリス……というんですね。警察官じゃなかったんですね、彼女らは」
SAT隊長「……」
外科医「医師には応召義務があります。拒否することは出来ません。ましてや乙女サクラはステりそうになっている。そしてここは設備の整った医療機関だ。いま医療者が動かなくてどうしますか」
SAT隊長「しかし……」
外科医「僕を撃ちたいなら撃ってください。その場合、日本医師会と厚生労働省を敵にしても構わなければ、の話ですが」
SAT隊長「待ってくださいよ……彼女らリコリスは、医療保険証はおろか戸籍すらないんです!!いわば消耗品として生まれ、死ぬだけの存在だ!」
外科医「戸籍がない……?そうか、そんな存在だからこそ、彼女らは銃を持たされていたということか……」
SAT隊長「処分しても罪には問われないような存在なんです!どうしてそこまでされるんですか!」
外科医「言ったでしょう、僕の患者だからです。我々人質を、身を挺して守った……ね」
外科医「……君の銃、実弾が入ってるんだろ?」
フキ「え……はい」
外科医「オペが終わるまで、手術室の前で待っていて欲しい。邪魔が入らないようにするために」
フキ「は、はい!」
MSW「先生、先生の今の体力では、オペはきついのでは……」
外科医「1時間が限度だろう。新棟の外科ドクターとナースにも応援に来てもらってくれ!」
MSW「承りました!」
千束「よ、良かった……」
千束「良かった…………………」フラ ドサッ
たきな「……千束!?」
千束「む……胸が……く、苦しいよ……!!」ハァハァ
たきな「千束!!しっかりして!!」ユサユサ
フキ「千束のやつ、調子が出てねえと思ったら、心臓がおかしかったのか……!」
看護師「揺らさないで!!……体熱感が……恐らく熱発してます!!」
たきな「ど、どうして、定期健診では何もなかったのに……!?」
千束「お薬……切れてなくなっちゃってたから……」
たきな「あっ……!!!!」ハッ
たきな「ど……どうして言ってくれなかったんですか!!」
千束「こんな時に……心配なんかさせたくなかったから……」
たきな「私のバカ……どうして千束の服薬が滞ってることに気づかなかったの……!!」
フキ「千束のバカ野郎!DAに報告しといて、私らが潜入する時に持ち込むようにすればよかったじゃねえか!」
千束「へへっ……だって処方箋は私が持ってたもん……処方箋がないとお薬もらえないでしょ……」
フキ「律儀なのかバカなのか分かんねえよ、こいつ……!」
看護師「ねえ、処方箋かいつも飲んでいるお薬のカラかお薬手帳とかないの!?」
千束「こ、これ、処方箋……です……」スッ
看護師「先生、これは……」スッ
外科医「……やっぱり免疫抑制剤か。専門外だからよく分からないが、恐らくそれが切れたのが胸痛と熱発の原因だろう。いま、ウチには担当医の二人がいない……他の設備が整った医療機関に搬送するしかないな……」
MSW「急搬ですか!?」
たきな「ちょっと待ってください……ここで診てはもらえないんですか……!?千束、山岸先生以外だと、ここしか診てもらえる病院がないって話なのに……!」
外科医「言っただろう、専門医である担当医の先生が今居ないんだ。非常勤の先生方だからな……」
たきな「さっき話に出たでしょう!?私達、戸籍も医療保険証もないんです……!」
たきな「そんな私達を、他にどこの病院が受け入れてくれるって言うんですか……!?」
看護師「先生、そろそろオペに……」ハラハラ
外科医「……僕の名前で紹介状を書こう。診療情報提供書があれば、受け入れを拒否する医療機関はないだろう。内容は、えっと……くそっ……普段自分で書かないからな……
〝御担当医 先生 御待史……〟」
MSW「そ、その子のカルテなら私、見覚えがあります!えっと……
〝平素より大変お世話になっております。当院にてフォローしております17歳女性を紹介させて頂きます。
先天性心疾患(DCM)にて201●年◆月に無拍動完全置換型人工心臓移植術施行、202●年冬に同心臓交換術施行、その後当院フォローにて在宅生活継続できておりましたが、諸事情により免疫抑制剤の内服が数日滞り、本日202●年▼月▼日に胸痛と熱発が見られております。
当院担当医が不在であり、小職も専門外でありましたので、今回救急搬送のオーダーと致しました。
なお、薬情・サマリー・採血結果・その他画像結果は別添させて頂きます。
ご不明な点等ございましたら、ご遠慮なく当院地域連携室までご連絡賜れれば幸いです。
ご多忙のところ恐れ入りますが、貴科的御高診のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。〟
……これでよろしいでしょうか!?」
外科医「十分だ、一字一句それでいい!」
MSW「ありがとうございます!出力して救急隊を呼ばなきゃ!」ダッ
看護師「先生、こちらへ!」ダッ
SAT隊長「……」ポカーン
たきな「……」
たきな「私達、人を[ピーーー]ことしかできないのに……」
フキ「……人を生かすことのできる人たちもいるんだな」
たきな「……」グスッ
フキ「……何泣いてやがる!それより、千束の付き添いに行ってこい!グズグズしてっと、SATのおっさん達に撃たれっぞ!」
たきな「は、はい!」
その後
警察庁 長官室
楠木「入るぞ、長官!!」バターン
楠木「K医大病院の要員から報告を受けた……本当にあんたは……私達をどこまでも潰したいようだな……!!」
警察庁長官「……」
楠木「さんざん私達の世話になっておきながら、よくも私のリコリスを処分しようとしてくれたな……!」
警察庁長官「……本来、治安の担い手は我々警察だ。そろそろ、その役割を我々に返してほしかった。それだけだ。……局長である君なら分かってくれるはずだ」
楠木「ほう。では、今後銃器で武装した凶悪犯に対して、警察はこれまで通り警棒と回転式拳銃と、がんじがらめの法規制だけに頼って正面から対峙するというのか?」
警察庁長官「……少しづつだが、改善には動き始めている。凶悪犯に対しても、何とか向かい合えるように……」
楠木「警察にその勇気があるか!?公務員にその気概があるか!?リコリスのように最前線で命を張り、どんなに傷ついても、どんなに後ろ指を指されても、凶悪な殺意を全身に受けつつ、実弾を薬室に装填した銃とともに駆け抜ける覚悟が、今の警察にあるのかと聞いているんだ!!」
警察庁長官「……、……」
楠木「……何と言われても構わない。人道?倫理?法律?知った事か。社会秩序の維持という目的達成のためには、安穏とした建前と組織と装備だけでは限界がある。それはあんたらが一番よく知っているだろう!」
警察庁長官「……」
楠木「それに、いくら人の道に反していると言われようと、親から棄てられた子は年々増え続けている。そんな被害児に、政府は満足な受け入れ先を準備できているか?現状の施策は、不幸の再生産にしかなっていないじゃないか!!」
警察庁長官「それを貴様らDAが言えるのか!?現代の十字軍を気取り、自分らを正当化する気か!?」
楠木「黙れ!そんなリコリスを処分しようとしたあんたが、人道や倫理を語れるか!?……最善の揺籠と言えなくても、私達DAは彼女らを受け入れ続ける。それを貴様ら警察に否定される筋合いはない!!」
警察庁長官「……」
楠木「私達は存在し続ける。いいか、日本という国家が存在を望むのであれば、私達はどんなに陽の当たらない地獄でも存在し続けるぞ……!!」
首相官邸 総理執務室
首相秘書官「総理、お忙しいところ申し訳ございません」
首相「なんだ。後にしろ。これから会見だ」
首相秘書官「それが……」
厚労相「失礼します、総理」スッ
首相「どうして君がここに……」
厚労相「あの現場にいたリコリスの口封じを命じられたそうですな」
首相「……いかにも、私の指示だ」
厚労相「申し訳ありません、私はそれに反する指示を出しました」
首相「なに?」
厚労相「作戦で重傷を負ったリコリスを、いまK医大病院の外科医が執刀しています。また、心疾患を発症した別のリコリスを、T大病院に受け入れさせました」
首相「なんだと!?何を勝手なことを……」
厚労相「医師会を経由して私に報告がありました」
首相「それで……私の指示を知っていながら、君は救命を追認したのか。戸籍もない、あの使い捨ての小娘どもの……」
厚労相「はい。情において忍び難いものでしたので。医療費は公費で賄うよう、私が特別に指示しました。国保連も了承済みです」
首相「バカなことを……!」
厚労相「彼女らは見舞客として人質となり、不幸にも銃撃戦に巻き込まれたが、治療し事なきを得た。そのシナリオでよろしいではありませんか。何も口封じにする必要などない」
首相「そうする場合、マスコミ対策やら何やらでかなりの手間がかかるのだ!」
厚労相「本音は、この機にDAを潰すか規模を縮小させたかった……そうではありませんか?」
首相「……」
厚労相「私の専門外ですが、聞くところによれば、警察内部にはDAを危険視し、解体するか傘下に置くかという議論が未だにあるようですな」
首相「……」
厚労相「総理は内務官僚のご出身でいらっしゃるがゆえに、そうした声を無視することができなくなっていた……と。それでも、私に事前にご相談は頂きたかったです」
首相「……そうか。DAの運営予算の一部は、厚労省から出ていたんだったな」
厚労相「この事件解決の立役者は、私が見る限りDA……リコリスです。違いますか?」
首相「……」
厚労相「倫理上の問題はどうあれ、リコリスは必要悪でしょう。それは私のような医師をはじめとした医療者も、それに警察官も同じです。社会秩序を、ひいては国を守るために戦っている者を蔑ろにする……そんな政権なら、倒れて然るべきだと私は思います」
首相「……私が泥をかぶる事すら、君は許してくれんのか」
厚労相「次の選挙では覚悟しております。ですが、任期中はしっかり仕事はさせて頂きます。リコリスとならざるを得ない孤児がこれ以上増えないような施策が残せれば……その後は故郷の地元で小さな診療所でもやりますかな……では、失礼しました」カチャ バタン
首相「……」カチャ ピポパ
首相「……私だ。警察庁長官に繋いでくれ。官房長官を呼べ。会見が始まるまでにだ」
それからしばらく経ち
K医大病院 新棟のとある病室
コンコンコン
ミカ「千束、邪魔するぞ。退院……ではないか、転院おめでとう」ガラガラ
千束「あ~先生!!たきな!!来てくれたの!」パァア
たきな「千束!!……今回は病院から逃げ出してなくて、良かったです」
千束「うっ……あはは……」
ミカ「ミズキ達は店があるからな、私とたきなが見舞いの代表だ」
ミカ「それよりも、まずは元気そうで何よりだ、良かった、良かった……」
千束「えへへ……ご心配おかけしまして……」
ミカ「……それでな……たきなから、千束に話があるそうだ」
たきな「……」ジッ
千束「う……たきな、さん?」ビクビク
たきな「~~っ!」ガバッ
千束「ひ、ひぃっ!?」
たきな「……」ダキッ
千束「た……たき、な?」
たきな「……ぅして」
千束「え……?」
たきな「どうしていつも、一人で勝手に突っ走って、勝手に傷ついて、私の前から消えてしまうんですか!?どうしてですか!?そんなに私のことが嫌なんですか!?」
千束「……ごめんね。たきなを大事に想ってるつもりが、逆にたきなを傷つけちゃったね……」
たきな「私のことはもういいんですっ!!」
千束「たきな……」
たきな「もう……いいんです。ですけど一つだけ、約束してください。……二度と自分を蔑ろにしないで、大切にして下さい!これから、ずっと、永遠にっ!!!!」
千束「……うん、分かった。分かったよ、たきな……」
たきな「……本当に?」
千束「うん」コクン
たきな「……絶対にですか?」
千束「うん!」
たきな「約束して、くれますか?」
千束「うん!!」
たきな「……じゃあ、これ、してください」スッ
千束「これは……」
たきな「指きり、げんまん……嘘、ついたら……」
千束「嘘……ついたら?」
たきな「……9ミリパラベラム弾、撃ち込みます」
ミカ「はははっ!!!」ケラケラ
千束「ちょっ……笑い事じゃないよ先生!何爆笑してるの!?」
たきな「私ならやりかねない……ですか……?」
千束「そ、そそそんなことも言ってないけどさぁ!?」
たきな「……嘘です。そんな事しません。しませんから……」
たきな「私を、ずっと千束のそばに居させてください」ポス
千束「ん~……仕方ないなぁ!この可愛いやつめ!!」ナデナデ
たきな「きゃっ!くすぐったい……!」
千束「うら!このこのっ!」
たきな「ちょ……やめて……あははっ!!」
ミカ「こらこら、あまり騒がしくしては迷惑だぞ」
たきな「あははっ……ははっ……は……」
たきな「……」
たきな「…………」
千束「たきな……?どうかしたの?……まだ、怒ってる?」
たきな「ち、違うんです!さっきのことは……もういいんです。そうじゃなくて……」
〝ひっ……!!おねえちゃん、お顔、怖いよ……!〟
たきな「……」
千束「……そっか……」
たきな「……私、やっぱり居場所はDAにしかないんだなって思っちゃいました」
千束「そんなことないって。リコリコだってあるし……」
たきな「でも不安になったんです。いつかDAを去るときが来たとして、社会が私を受け入れてくれるのかなぁって……」
千束「たきな……」
ミカ「……」
ミカ「……そうそう。お前達に預かってたものがあるんだ」
たきな「え?」
ミカ「今の今まで忘れてたよ。警察に届いて、巡り巡ってここに来たって訳だ」
ミカ「警察庁長官から伝言だ……〝市民からのありがたいメッセージだから大切にしろ〟とさ」スッ……
たきな「誰からだろう?」
千束「たきな、開けてみてよ」
ガサ……
「けいさつのおねえちゃん ごめんなさい そして ありがとう」
たきな(……あの子だ!!)
たきな「~~っ!!」ブワッ
千束「よかったじゃん、たきな!」
ミカ「似顔絵を見てみろ、こっちの髪の黒いのがたきなで、金髪なのが千束だ。これは二人に宛てたメッセージだよ」
千束「あ、そっか!うわぁ、可愛く描けてる!んじゃ、このお礼状は私がもらうね!」
たきな「ダメですっ……!!これは私が厳重に保管しますっ……!!」ボロボロ
ミカ「……安心してくれ。今後、警察がお前達に手出しをする事は一切ない。もしそうなったら、私が警察トップの息の根を止めてやるからな」
千束「あ、あはは……」
たきな「当然ですっ……」グシッ
千束「はぁー……良かったよかった!んじゃ、先生、たきな、ちょっと散歩に付き合っておくんなまし!」
ミカ「散歩……?」
たきな「む、無理はしないでくださいよ……?」ハラハラ
千束「そう遠くへ行くわけじゃないよ。ほら、二人とも来て!」ガラッ
K医大病院 新棟のとある病室
フキ「邪魔するぜ」ガラガラ
サクラ「あ……先輩!」パァア
フキ「何だ、仔犬みてぇに喜びやがって。すっかり元気そうじゃねえか」
サクラ「そりゃそうっすよー!だってドクターと看護師以外、誰とも会えなかったんすから!」
フキ「当たり前だ。……でもまぁ、集中治療室を出られるようになって、本当に良かったな。さすがに二回目ともなりゃあ、もう懲りただろ?」
サクラ「先輩……その、私がまたヘマやって迷惑かけちまって、本当にすいませんでした!」
フキ「……こっちこそ、土壇場のところでお前を止められなかった。はっ……ファーストが聞いて呆れるよな……今回、結局、指揮もクソもない、行き当たりばったりの現場だった。悔しいが、千束とたきなには世話になりっぱなしだ。……私って本当、何なのかな」
サクラ「先輩……」
フキ「……あ?」
サクラ「私らセカンドもサードも、千束・たきなコンビみたいな規格外なんかじゃなくて、先輩みたいな常識的なファーストがいてくれて、本当に救われてるんっすよ。先輩、真面目っすから、しんどいだろうなって思いますけど」
フキ「……そっかよ」
フキ「にしても、お前、髪伸びたな……」
サクラ「すんません、ムサいっすよね」
フキ「いや、伸びてるのも女子らしくていいと思うぜ」
サクラ「……///」カァ
フキ「そうそう、これは土産替わりだ」
ポン
サクラ「あ……これ……」
フキ「お前の銃だ。点滴が外れたら、分解と組み立てのトレーニング、それに照準訓練くらいは出来んだろ。誰にも見つからないようにやれよ」
サクラ「あざっす、先輩」
サクラ「はー……。早く口から栄養摂りたいなぁ……。先生んとこのパフェ、腹一杯食べたいなぁ……」
フキ「そのうち食えるようになるってドクターも言ってんだろうが。もうちょっと我慢しろ。くたばっちゃいねえんだから、上出来だろ……今度、連れてってやるよ」
サクラ「まぁじっすか!?やった!」
フキ「おいおい、暴れんな。傷に障んだろうが……」
サクラ「はっ……でも……そうっすね……」
サクラ「生きてて……良かったっす……」ブワッ
フキ「ふん……何泣いてやがる。らしくねぇ」
サクラ「だって……妹みたいな……家族みたいなもんって……言ってもらえて……///」カァ
フキ「ばっ……///……あの時の……聞こえてたのかよ!!」カァ
ガラガラガラ
千束「おっ邪魔するぜぃー!!」
ミカ「サクラ、お邪魔するよ」
フキ「あ……せ、先生っ!」
千束「なぁんだよー、フキも来てたのかよー」
フキ「ああ!?悪いかぁー!?」
サクラ「ふっ……相変わらずっすね」
たきな「本当ですね。……サクラ、生還おめでとうございます」
ミカ「サクラ、お前も無事で良かったな。本当に何よりだ。私も嬉しいよ」
サクラ「あざーっす!」
フキ「おいサクラ、先生に対して……ありがとうございます、だろうが!」ポカッ
サクラ「痛ぇ!先輩、怪我人にそりゃないっすよー!」
千束「あははっ!」ケラケラ
サクラ「……?たきなさん、目ぇ赤いっすよ。泣いてたんすか?」
たきな「なっ……?あ、あなたこそ、目が腫れてるでしょ……」ゴシゴシ
サクラ「……ちっ違!これはあれっす、花粉のせいですって……」ゴシゴシ
千束「ねぇ……サクラんぼ……ちゃん」
サクラ「はい……?」
千束「……」ダキッ
サクラ「え……あ、ちょっと千束さんっ!?」アタフタ
千束「私、サクラのおかげで生き延びることが出来たんだよ?」ギュッ……
サクラ「え……あ、あの散弾銃の時っすか……?」
千束「あの時、散弾銃の二発目をまともに受けてたら、私もただじゃ済まなかったんだから……ありがとね!」
サクラ「べ……別に、仲間のピンチだったんすから……それに、私……そもそも功を焦って無茶しただけだったっすし……」
千束「で~も!私は生き延びられた!それがうれしい!!」ギュー
サクラ「ちょ、苦しい……」
千束「うれしい、うれしい!!」モフモフ
サクラ「苦しぃ、くるしぃ……ってフキ先輩、見てないで助けて下さいよぉ!」ジタバタ
フキ「ちっ……んだよ、そんなに千束がいいんなら、これからはパートナー解消だ!」プンスカ
サクラ「な、そんなっ!!誤解っすよぉ!!」ガーン
千束「ぷはぁー……ってあれ、たきな……さん?」
たきな「……そうですか。私はもう千束には不要ということですね。そうなんですね」プンスカ
千束「そ、そんなぁ~!だぎなぁ~!!私はたきなが一番だよぉ~!!」
ミカ「ははははっ!!お前たちは本当に、いいリコリスだな!!」
フキ「ふん……」フフ
サクラ「へへっ……」イヒヒ
たきな「……」クスッ
千束「あはは!!」
「「「「ありがとうございます、先生!!」」」」
おわり
長文すみません、ありがとうございました。
過去作
サシャ「大切な人に」
提督「鎮守府一般公開?」
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