< 闇賢者の家 >
闇の師弟の一日は、挨拶から始まる。
弟子「おはようございます、師匠」
闇賢者「うむ……おはよう」
弟子「昨日いいコーヒー豆をもらったので、今朝はコーヒーを入れてみました」コトッ
闇賢者「おお、コーヒーは久しぶりだな。気が利くではないか」
弟子「砂糖はどのぐらい入れます?」スッ…
闇賢者「なんという愚問だ! 俺は闇の賢者だぞ……!」ギロッ
闇賢者「白い砂糖なぞ似合わんだろうが! もちろんミルクもなしだ……!」
弟子「すっ、すみませんっ! じゃあ、ブラックで──」
闇賢者「黒砂糖を入れろ」ニタァ…
弟子「わ、分かりました(すごいこだわりだ……!)」
闇賢者「…………」ゴクッ…
闇賢者「うん……いい味だ。クックック……やるではないか」
弟子「ありがとうございます!」
闇賢者「さて、コーヒーを嗜みつつ、朝刊を読むとするか……」バサッ…
闇賢者「…………」バサ…
闇賢者「!」ピクッ
弟子「?」
闇賢者「ぐ……ぐぬぬ……ぐぬ……」ワナワナ…
闇賢者「くそぉぉぉぉぉっ!」バンッ!
新聞をテーブルに叩きつける闇賢者。
弟子「ど、どうしたんですか、師匠!? いきなり!」
闇賢者「この記事を読んでみろ……!」サッ
弟子「はいっ!」
弟子「えぇと……光司祭が若い魔法使いに向けた講演会を開催……」
弟子「会場は満員で、『感動した』『励みになった』『すばらしい』との声多数……」
弟子「…………?」
弟子「いいニュースじゃないですか! ボクも行けばよかった!」
闇賢者「よくないッ!」ギリッ…
弟子「どうしてです?」
闇賢者「実はな……光司祭は俺と同い年で、魔法学校で同期だった男なんだ」
弟子「へぇ~、初耳です!」
闇賢者「成績はもちろん、魔力も、戦闘訓練も、ほとんど互角だった」
闇賢者「つまり……俺のライバルだったのだ」
弟子「あっ……」
闇賢者「あっ……じゃない!」
闇賢者「こんなに差がついちゃったんだ、って顔に書いてあるぞ! この正直者め!」
弟子「すっ、すみませんっ!」
闇賢者「だが、正直なのはよいことだ。あまり嘘をつくと闇に呑まれる」ニタァ…
闇賢者「学校では俺とヤツは常にトップを争い合う間柄で──」
闇賢者「俺は闇魔法、ヤツは光魔法を特に極める道を選んだ……」
闇賢者「結果!」
闇賢者「ヤツは若くして聖教会の司祭に任命された!」
闇賢者「まぁ、司祭といっても聖職者というよりは」
闇賢者「光魔法の第一人者的な意味合いが強いんだが……」
闇賢者「町を歩けば人々から尊敬の声を浴び、講演会にも引っぱりだこ」
闇賢者「大勢の弟子を抱え、年収は1000万ゴールドを超えるという!」
弟子「すごいですね!」
闇賢者「しかし、一方の俺はどうだ……!?」
闇賢者「魔法使いの最高峰である賢者称号こそ手に入れたが」
闇賢者「人々からは怪しい目で見られ、弟子はお前だけ」
闇賢者「魔法アイテム生成などで、とりあえず生活はできているが……」
闇賢者「なぜだッ!」
闇賢者「なぜ闇魔法使いはこうも冷遇されるんだ……!」
弟子「そんなことないですよ!」
弟子「ほら……ファンレターだって来てるじゃないですか!」ガサッ…
闇賢者「お前、中身を読んだのか?」
弟子「いえ、読んでませんけど。師匠にきた手紙ですし」
闇賢者「どこかのイジメられっ子が『イジメてくる奴を呪い殺してくれ!』だそうだ」
弟子「え」
闇賢者「ふざけるな! 俺は殺し屋じゃないんだぞ!」
闇賢者「放っておくのもなんだから、一応返事はしといたがな……」
弟子(一体どんな返事をしたんだろう……)
闇賢者「他にも手紙といえば、わけ分からんオカルト研究会からも来てたな」
闇賢者「来たる世界滅亡の日について語り合いましょうとかなんとか……」
闇賢者「まったく……闇魔法をなんだと思っているんだ」ハァ…
弟子「それは……仕方ない部分もありますよ」
弟子「魔法には光と闇、他にも炎、水、風、土、雷、木……と色んな属性がありますけど」
弟子「闇っていうのは、どうしても……他と比べて怖いイメージがありますから」
闇賢者「闇のどこが怖い!?」
闇賢者「日が沈めば闇になるし、目をつむれば闇になる」
闇賢者「闇というのは人間にとって欠かせない存在なのだ……!」
闇賢者「日が沈んでも明るかったり、目をつむっても明るかったら困るだろう!?」
闇賢者「困らんのか!? どうなんだ!? ──困るでしょ!?」
弟子「わ、分かってます。分かってますよ、師匠!」
弟子「あとは……そうですねえ。闇魔法の源となるのは」
弟子「あちこちを漂っている人間の怨念などの負のエネルギーですし」
弟子「そういったところも怖がられる要因なのでは?」
闇賢者「なんだと!?」
闇賢者「いいか、たしかに闇魔法ってのは負のエネルギーを利用する」
闇賢者「しかし! 人間生きてりゃイライラするし、恨んだり妬んだりする!」
闇賢者「お前だって俺に叱られたら、『このクソ師匠が!』ってなるだろう!?」
弟子「いえ、なりませんけど」
闇賢者「ならないのか!? まったく!? ──ほんの少しも!?」
弟子「はい」
闇賢者「……な、なってもいいんだよ?」
弟子「じゃあ次からはそうします」
闇賢者「と……とにかくだ!」
闇賢者「こうして生じた負の感情は辺りに飛び散り、そこら中に蔓延する」
闇賢者「闇魔法はそれら負のエネルギーを有効活用しているのだ」
闇賢者「いわば、行き場のない恨みや妬みを解消しているともいえる……!」
闇賢者「もし闇魔法がなければ、この世はもっとよどんだ世界になっていただろう!」
闇賢者「つまり、闇魔法使いはむしろ、世界のためになっているんだ!」
弟子「お、おっしゃる通りです!」
弟子「ボクとて魔法使いのはしくれ」
弟子「闇魔法が一般に考えられているようなものじゃないことは、よく知っています!」
闇賢者「うんうん」ニコニコ…
弟子「闇魔法はすばらしい魔法です!」
闇賢者「うんうん」ニコニコ…
闇賢者「じゃあなぜ、闇魔法はこんなに嫌われてるんだ!?」
弟子(ああ、また戻ってしまった)ガクッ
弟子「これはあまりいいたくはないのですが──」
弟子「やはり、あの事件があったのも大きいかと……」
闇賢者「ああ、魔法を悪用していたアホ集団“破壊魔法結社”か」
弟子「メンバーのほとんどが騎士団や魔法兵団に討伐、逮捕され、壊滅しましたが」
弟子「彼らの半数近くを占めていたのは、闇魔法使いでしたから……」
闇賢者「そのせいで、俺も破壊魔法結社の一員だと疑われたことがある」
闇賢者「たしかに、奴らはひどかった」
闇賢者「炎魔法で放火、水魔法で水害、風魔法で風害、と次々事件を巻き起こし」
闇賢者「特に闇魔法の評判は、どん底にまで陥れられた……」
弟子「はい……」
闇賢者「だがな、罪があるのは使い手であって、闇魔法に罪はない!」
闇賢者「ナイフで人を刺した愚か者がいたら、ナイフが悪いという理論だ!」
闇賢者「ったく、ああいう愚か者どもがいるから、俺たちが苦労するのだ! なぁ!?」
弟子「おっしゃる通りです!(今日はいつになく燃えてるなぁ……)」
闇賢者「だがまぁ……このままにしておくのは少々まずい」
闇賢者「よし、決めた……。俺はやるぞ」
弟子「何をです?」
闇賢者「クックック……決まっているだろう?」
闇賢者「闇魔法のイメージアップ運動だ……!」ニタァ…
闇賢者「俺たち闇の師弟で、闇魔法を少しでも名誉回復させてやるのだ!」
弟子「いつやるんです?」
闇賢者「決まっているだろう、今からだ! ──行くぞッ!」
弟子「ええっ!?」
思い立ったら即行動、闇賢者は弟子を連れて町に飛び出した。
< 町 >
ヒソヒソ…… ヒソヒソ……
町民の中には、闇賢者を毛嫌いしている者も少なくない。
「おい、あれ闇賢者だ……」 「闇魔法の達人なんだろ?」 「近づくなよ……」
「濁った目してやがる」 「きっと闇魔法の副作用だ」 「おお、おっかねえ」
闇賢者「ククッ、世間の視線が突き刺さるな。もっとも、いつものことだがな」ニタァ…
闇賢者「それに濁った目は、生まれつきだ」
弟子「師匠はなにも悪いことしてないのに、どうして……」
闇賢者「なぁに、気にすることはない」
闇賢者「闇魔法のイメージを上げてしまえば、それで済むのだからな!」
闇賢者「クゥ~ックックックック……!」
< 公園 >
闇賢者「よし、ここらでいいか……」
弟子(いったい何をする気なんだ……?)
闇賢者「…………」スゥ…
大きく息を吸い込む闇賢者。
闇賢者「よってらっしゃい、見てらっしゃい!」
闇賢者「闇魔法は皆さんが思うような、怖いものではありまっしぇん!」
弟子(普段出さない大声出すから、声が裏返ってる……)
闇賢者「ほぉら」ボワァ…
闇賢者の右手から、怨念渦巻く闇の瘴気が生み出される。
ウオォォォン…… オォォォォン……
「なんか出したぞ!」 「怨霊だァ!」 「うわぁっ!」
キャァァ……! ヒィィ……! ウワァァ……!
闇賢者「クックック、反応は上々だな。歓声が上がったぞ」ウォォォン…
弟子(そうかなぁ……)
闇賢者「オイ……なにを黙って見ている」
弟子「え」
闇賢者「ただ遊んでいるわけではない……これはお前の修業も兼ねているのだ」
闇賢者「俺に続けッ!」
弟子「はいっ!」
闇賢者「大気中に漂う負の力を体内に蓄え──」スゥ…
闇賢者「己の魔力と融合させ、闇と化すのだ。これが闇魔法の源泉となる」ズズ…
闇賢者「闇に支配されるな……闇を支配しようとするな……」
闇賢者「闇を受け入れ、闇に溶け込め……」
闇賢者「そしてそれを……一気に放出!」ズオォォォ…
弟子「放出!」ズォォ…
ズォォォォォ…… ズオォォ……
闇賢者「これぞ、闇のスペクタクル! クゥ~クックックック!」
キャアァァァ……! ヒィィィ……! ウワァァァ……!
しかし──
闇賢者「……だれもいなくなった」
闇賢者「なぜだ!?」ズォォ…
弟子(なぜ分からないんだ、この人は……)
闇賢者「弟子、もっと派手にすべきだったか?」
弟子「い、いや! もっと地味で! 控えめにした方がいいと思います!」
闇賢者「そうか?」
弟子「それより闇魔法のイメージアップを図るんでしたら」
弟子「闇を直接用いるより、魔法を実際に役立てる方がいいかと……」
闇賢者「ふむ……なるほど」
闇賢者「行商人がよくやっている実演販売のようなものか……面白い」
闇賢者「よし……やってみるか」ニタァ…
弟子「とはいえ、そんなチャンスはなかなか──」
青年「いだっ!」ドダッ
青年「いってぇ……すりむいちった。なにやってんだ俺は……」ムクッ…
闇賢者&弟子「!」ピクッ
弟子(ナイスタイミング!)
闇賢者「そこの君……こっちへ来い」クイクイッ
青年「ひっ!?」ビクッ
闇賢者「怯えるな」
闇賢者「無料で傷を治してやろう……俺の魔法でな。10秒で終わる」ニタァ…
青年「え、じゃあせっかくなんで」
青年(魔法使いに治療してもらうと高いからな……ラッキー!)
闇賢者が呪文を唱えると、両手にどす黒い軟体生物が湧き出てきた。
闇賢者「魔界ゲル召喚!」グジュル…
青年「うげっ!?」
闇賢者「こいつをこう短時間で呼び出せる魔法使いは、そうはおらんぞ」ニタァ…
弟子(すごい、さすが師匠! すごいけど──)
闇賢者「こいつを傷口にはわせれば、この程度の傷はすぐ治る」グジュグジュ…
青年「ひいっ!?」
青年(やっぱり……タダより高いものなんてないんだ!)
青年「すみません、急いでるんで!」ダッ
闇賢者「あっ!? おい、ちょっと待て! すぐ終わるって!」グジュグジュ…
青年「ひいいいいいっ!」タタタッ
闇賢者「あっ……」
闇賢者「くそっ……なぜ逃げられた!? 魔界ゲルなんてなかなか見られんぞ!?」
弟子(そりゃ逃げるよなぁ……)
その後しばらくして──
闇賢者「──うん?」
弟子「あれは……」
チンピラ「ようよう姉ちゃん、ちょっと付き合ってくれよォ」グイッ
女「は、はなして……!」
弟子「ひどいことを……!」
闇賢者「ふむ……けしからん輩だ。どれ、ちょいとお灸をすえてやるか」ズゴゴ…
弟子(ま、まずい! やりすぎても逆効果になる!)
弟子「師匠、くれぐれも穏便に!」
闇賢者「おっと、そうだったな。では──」
闇賢者「オイ」
チンピラ「なんだテメェ、今取り込んでんだよ……やんのか、コラ!」
闇賢者「いや……」スッ
闇賢者がチンピラを指差す。
闇賢者「背中……燃えているぞ?」
チンピラ「え!?」モクモク…
チンピラ「うおっ!? な、なんだこの黒い煙は!?」モクモク…
闇賢者「あっちに池があるから、飛び込んでくるといい」
チンピラ「うわわわわわっ!」スタタタッ
弟子(“黒煙の術”は、ただ黒い煙を出すだけの闇魔法だけど──)
弟子(ああいう使い方もあるのか……勉強になる)
女「あ、あの……さっきの煙って魔法……ですよね?」
女「ありがとうございましたっ!」
闇賢者「クックック……かまわん」
闇賢者「ところで俺たちは今、闇魔法のイメージアップ運動をしていてな」
闇賢者「せっかくだから君のことを闇魔法で占ってやろう」ニタァ…
女(ちょっと怖いけど……私のこと助けてくれたんだし……)
女「はいっ! お願いします!」
弟子(よし……いい感じだ。あとは怖がらせないようにすれば──)
闇賢者「出でよ、邪神!」ズゴゴゴ…
女&弟子「は!?」
まもなく、異形を誇る邪神が召喚された。
邪神『グフフ……このワシが占ってしんぜよう』シュゥゥ…
女「ひっ……!」
邪神『おぬしの本日のアンラッキーカラーとアンラッキーアイテムは──』
女「いやぁぁぁっ!」タタタッ
闇賢者「あっ、ちょっと! なんで!?」
闇賢者「おのれ……! 女性には占いがウケるはずだったのに……!」
闇賢者「お前のせいだ!」
邪神『なぜワシのせいなのだ!?』
闇賢者「アンラッキーカラーじゃなくラッキーカラーの方が女性ウケするだろうが!」
邪神『邪神であるワシにそんなことできるか!』
邪神『それにアンラッキーを占うことで逆にそれを回避できるではないか!』
闇賢者「回りくどい!」
邪神『だったらワシなんか呼ぶな!』
闇賢者「なにい!? かなりの魔力を消費して呼び出してやったのに……」
ギャーギャー……!
弟子「ああもう……」
闇賢者と邪神の口論は、およそ30分も続いた。
< 闇賢者の家 >
闇賢者「むう……あまり成果は得られなかったな」
弟子(得られたどころか、色々と手放したような……)
闇賢者「明日こそは……!」
弟子「えっ、明日もやるんですか!?」
闇賢者「当たり前だ……このままでは闇賢者の名がすたる!」
弟子「あのう、無理してイメージアップを図らない方がいいんじゃ……?」
弟子(やればやるほど逆効果になるような気がするし)
闇賢者「いや、やる! なんとしても闇魔法のイメージを変えねば!」
闇賢者「お前も闇魔法の未来は己の手にあるくらいの気持ちで臨め!」
弟子「は、はいっ!(師匠はすごくやる気だし……やるしかない、か)」
< 公園 >
翌日、再び闇賢者たちはパフォーマンスを行うが──
闇賢者「どうだ、闇魔法ってかっこいいだろう?」ズズズ…
弟子「ど、どうです? ちょっと黒いけど無害ですよ~」ズズ…
商人(なんだこの黒いオーラを放っている二人組は!? 怖すぎる!)
~
闇賢者「この魔界虫“ダークネスインセクト”で、あなたの家のゴキブリを退治!」
ダークネスインセクト「グゲゲゲゲ……」ギチギチ…
主婦「こっちのが大きいしよっぽど怖いわよ!」
~
闇賢者「この怨霊をまとえば、毎日決まった時間に起こしてくれるぞ」ウオォォン…
弟子「え……と、すごい叫び声を上げてくれますよ! 絶対起きられます!」ウォォォン…
学生「い、いらないよ!」
芳しい成果は得られなかった。
その夜──
< 闇賢者の家 >
闇賢者「はぁ……」
闇賢者「いい方法はないものか……」
弟子(師匠、だいぶ落ち込んでるな……)
弟子(なにか明るい話題はないだろうか……。今夜の夕刊は、と……)ガサ…
弟子「(特にないけど……この際なんでもいいか!)あ、師匠っ!」
闇賢者「なんだ……?」ハァ…
弟子「今、巷では“ゆるキャラ”ブームらしいですよ!」
闇賢者「ゆるキャラ……? いったいどういうキャラクターだ?」
弟子「ようするに、マスコットキャラクターですよ」
弟子「村や町のイメージから、ゆるくて可愛いキャラクターを作るんです」
弟子「それでそのキャラクターを使って宣伝をしたり、パフォーマンスをしたり……」
闇賢者「!」ハッ
弟子「ほら、このキャラクターなんかとても可愛い──」
闇賢者「クックック……そうか、そういう手もあるか! でかしたぞ、弟子!」
弟子「え?」
闇賢者「闇魔法に必要だったのは、ゆるキャラだったのだ……!」
弟子「えぇ?」
闇賢者「今から俺は、“闇のゆるキャラ”を作成するッ!」
弟子「えええええ!?」
弟子はゆるキャラの記事を紹介したことを、だいぶ後悔した。
翌朝──
弟子「おはようございます!」
闇賢者「おお……おはよう……」ヨタッ…
闇賢者の目にはクマができ、ただでさえ濁っている目がさらに暗くなっていた。
弟子「ど、どうしたんですか!? まさか、寝てないんですか!?」
闇賢者「夜なべしたのだ……闇のゆるキャラ作成のためにな」
弟子「いってくだされば、ボクも手伝いましたのに!」
闇賢者「かまわん……。修業中の身で、寝不足になるのはよくない」
弟子(こういう妙なところでボクを気遣ってくれるんだよな、師匠は……)
闇賢者「さて、見せてやろう。あれが──」
闇賢者「闇のゆるキャラ『やみっしー』だッ!!!」ビシッ
弟子「やみっしー!?」
弟子(な、なんだこりゃ……)
闇のゆるキャラ『やみっしー』の姿に、言葉を失う弟子。
弟子(たしかに“闇”を、生き物として表現するとこんな感じなのかも……)
弟子(全体的に黒くて造形もグロテスクなんだけど──)
弟子(顔だけはゆるキャラらしく妙に可愛い)
弟子(だけどその可愛さが、よりいっそう全体の不気味さを引き立ててる……)
闇賢者「どうだ……?」ニタァ…
弟子「い、いいんじゃないでしょうか……」
闇賢者「そうか!」
闇賢者「このやみっしーは着ぐるみになっていてな」
闇賢者「朝食を済ませたら、お前がこれを着ろ」
弟子「え、ボクがですか!?」
闇賢者「当然だろう。闇魔法の未来は、お前の手にかかっているのだ!」
弟子「分かりました……がんばります!」
< 公園 >
公園の一角に陣取る闇賢者と弟子──ではなく、やみっしー。
ワイワイ…… ガヤガヤ……
闇賢者「今日は休日だからか、人が大勢いるな」
やみっしー「そうですね」
闇賢者「そうですね、じゃないだろう! ちゃんとゆるキャラになりきるのだ……!」
やみっしー「はいっ! ──じゃない、うんっ!」
闇賢者「はぁ~い、みなさぁ~ん!」
闇賢者「今日はこのやみっしーが、闇魔法の素晴らしさを楽しくお伝えするぞぉ~!」
やみっしー「ヤ……ヤッホー!」バタバタ…
ザワザワ…… ドヨドヨ……
「なんだありゃ?」 「不気味だ……」ゴクッ… 「でもちょっと興味あるかも……」
ワイワイ……
闇賢者(ククク……やはり人が集まってきたか)
闇賢者(俺のやみっしーのキュートさに心を打たれたようだな……)
やみっしー(絶対また人がいなくなると思ったのに……)
やみっしー(今日は人通りが多いし、あと不気味ではあるけれど着ぐるみというのが)
やみっしー(町の人たちの警戒心を薄れさせたんだろうか?)
やみっしー(よぉし……こうなったらボクも本気にならなきゃ!)
やみっしー(闇魔法のために……師匠のために……やみっしーとして全力を尽くす!)
闇賢者「ほら、やみっしー。みんなにご挨拶しなさい」
やみっしー「やぁ、こんにちは! ボク、やみっしーだよ!」パタパタ…
やみっしー「今日は闇賢者さんとこのボクで、闇魔法のパフォーマンスをしまぁす!」
パチパチパチパチ……!
これまでの教えを思い出し、必死にパフォーマンスを行うやみっしー。
やみっしー「たとえばすっごい猛暑の日! 闇をこうやってまとうと……」ズォォ…
やみっしー「闇が日光を遮断してくれるので、涼しくなりまぁす!」
「あ、ホントに涼しい!」 「それに落ちつく!」 「こんな闇魔法もあるのか!」
やみっしー「あと、闇魔法が負のエネルギーを源とするのがご存じかと思いますが」
やみっしー「それは決して悪いことじゃないんでぇす!」
やみっしー「イライラしてる人や落ち込んでる人の負のエネルギーを吸い取り」
やみっしー「イライラや落ち込みを解消することもできるのでぇす!」
「いいなぁ、それ!」 「知らなかった……」 「へぇ~」
やみっしー「闇はたしかに暗くて怖いかもしれませんが、闇に善悪はないんです!」
やみっしー「闇というものを正しく認識すれば、正しく使うことだってできるんです!」
やみっしー「皆さま、どうか闇魔法は怖くないということを知って下さい!」
パチパチ…… パチパチ……
闇賢者(ほぉう……多少は成長したではないか)
< 闇賢者の家 >
闇賢者「ふむ……なかなかよかったぞ」
弟子「ありがとうございます!」
闇賢者「闇に善悪はない、とはなかなか洒落たことをいうではないか」
弟子「師匠の受け売りですけどね!」
闇賢者(受け売り? そんなこといったかな……まぁいいか)
闇賢者「だが……ゆるキャラとは“ゆるいキャラクター”のことだ」
闇賢者「ゆるキャラとしては、お前は少し真面目で、固すぎる。インパクトも薄い」
弟子「それは……たしかにそうですね。師匠のおっしゃるとおりです……」
闇賢者「クゥ~ックック、では特別に明日は俺がやみっしーをやってやろう」
弟子「ですが、師匠ほどの魔法使いが着ぐるみに入るなんて……」
闇賢者「かまわん。俺のやみっしーぶりをしっかり勉強するのだぞ?」ニタァ…
弟子「はいっ!」
弟子「……あと、サイズは大丈夫ですか?」
闇賢者「伸び縮みする素材で作ったから、なんとか着られるはずだ」
翌日──
< 公園 >
やみっしー「クックック……準備オーケーだ。弟子、始めろ」
弟子「はいっ!」
弟子「さぁさぁ、闇魔法のパフォーマンス始まるよ~!」
弟子「今日もやみっしーが来てくれたよ~!」
ワイワイ……
「あ、やみっしーだ!」 「昨日も来てたらしいな」 「どれどれ……」
ザワザワ……
昨日の評判がよかったためか、かなりの人数が集まってきた。
弟子「師匠、お願いします」ボソッ…
やみっしー「うむ」ボソッ
やみっしー「ヤミィィィィィッ!!!」バババッ
弟子「!?」
ドヨッ……
やみっしー「やみっしーは闇の妖精っしー!」バババッ
やみっしー「今日は闇魔法のすごさをとくと味わわせてやるっしィィィ!」バババッ
やみっしー「きょええええええええッ!!!」ジタバタ
凄まじい速度で、踊りとも発狂ともつかぬ動きを繰り返すやみっしー。
「すんげぇ速さだ!」 「ひいいっ!」 「き、気持ち悪い!」
やみっしー「闇バク転!」ズバババッ
「うおっ!?」 「バク転しながらこっちきた!」 「昨日と全然ちがうじゃん!」
弟子(ゆる……キャラ……?)
やみっしー「子供たちよ!」ピタッ…
男児「ひっ!?」ビクッ
女児「なにっ!?」ビクッ
やみっしー「闇汁ブシャァァァッ!」ブッシャアアア…
やみっしーの口から、黒い液体が飛び出した。
ブシャアァァァァァ……
男児「うわぁぁぁっ!」
女児「きゃあああっ!」
やみっしー「闇汁ブッシャアアアッ!」ブッシャアアア…
やみっしー「闇汁ブッシャアアアアアアッ!」ブッシャアアアアア…
子供たち「うわあああああっ!」
おぞましい声と動作で闇汁をまき散らすやみっしーに、公園中がパニックになった。
ウワァ~ン…… キャアァァ…… ヒイィィィ……
弟子「あわわ……」
その夜──
< 闇賢者の家 >
闇賢者「なにが……いけなかったんだ?」ショボン…
闇賢者「ゆるくて、しかもインパクトも絶大だったはず……」
弟子「師匠……ここは正直にいわせていただきます」
弟子「あんな素早い動きで、黒い液体をまき散らしたら、誰だって怖いですよ!」
弟子「子供たちは大泣きしてましたし……正直、ボクも怖かったです!」
弟子(トラウマにならなきゃいいけど……)
闇賢者「俺は子供の頃、ああいうの大好きだったんだがな……」
弟子(ああいうのって、どういうのだ……)
弟子「そもそも、あの“闇汁”はなんなんです? 魔法ではないですよね?」
闇賢者「ああ、あれか……」
闇賢者「あれは、イカ墨を入れたポンプを中に仕込んでおいたのだ」
弟子「いつの間に……!」
闇賢者「凝ってるだろう?」ニタァ…
弟子「笑わないで下さい! 掃除も大変だったんですから!」
闇賢者「……すまん」
弟子(師匠、ずいぶん落ち込んでるな……)
弟子(そうだ、師匠だって決してふざけてたわけじゃないんだ!)
弟子(闇魔法のためにやったことなんだから! ……やり方はともかく)
弟子(まだ挽回できる! いや、してみせる!)
弟子「師匠、明日からはまたボクがやみっしーをやります!」
弟子「きっと評判を取り戻せますよ! がんばりましょう!」
闇賢者「うむ……そうだな」
< 公園 >
やみっしー「昨日ははしゃぎすぎちゃって、ごめんなさぁ~い」
やみっしー「今日は闇汁なんか出さないよ~!」
やみっしー「さぁ、今日も闇魔法のパフォーマンスを始めるよ~」
闇賢者「クックック……俺はやみっしーの助手だ」
「またやみっしーだ」 「闇汁は勘弁してくれよ?」 「今日は大丈夫そうだぞ」
ワイワイ…… ガヤガヤ……
やみっしー(ふうっ、どうにかまた町の人たちを集めることができた)
やみっしー(こうして地道に活動を続ければ、きっと闇魔法のイメージはよくなる!)
闇賢者たちの活動は少しずつ評判を伸ばすことになるのだが──
そんな彼らの前に予想だにしなかった敵が立ちはだかる。
ある日のこと──
< 公園 >
闇賢者「弟子、準備はいいか?」
やみっしー「バッチリです!」ビシッ
闇賢者「そろそろ新聞社あたりに取り上げられてもよさそうなものだがな」
やみっしー(それはちょっと恥ずかしい……)
闇賢者「……しかし、今日はまったく人通りがないな」
やみっしー「そうですね、どうしたんでしょう?」
ザワザワ…… ザワザワ……
闇賢者「なにやら向こうが騒がしいな……」
やみっしー「人だかりができてますね」
闇賢者「闇魔法で解決できるような事件かもしれぬ……行ってみよう」スッ…
人だかりの中心には──
ワイワイ…… ガヤガヤ……
ライトガール「こんにちはぁ~、みなさぁ~ん」
ライトガール「光魔法の使者、“ライトガール”でぇ~す!」
ライトガール「今日は皆さんに光魔法の素晴らしさをお伝えしちゃいま~す!」
「へぇ~、光魔法か」 「可愛いお嬢さんだな」 「面白そうだ!」
光をイメージしたと思われる、きらびやかな衣装を身に付けた女の子がいた。
闇賢者「なんだあの女の子は!?」
闇賢者「俺たちがやっていることの、二番煎じではないか……!」
やみっしー(か、可愛い……)
やみっしー「それともう一人、横に男性がいますね。あっ、あの人は──」
闇賢者(もう一人……)
“もう一人”に気づいた闇賢者の表情が一変する。
闇賢者「あ、あれは……光司祭……ッ!」
いかにも好青年といった、さわやかな笑みを振りまく光司祭。
光司祭「こんにちは、私は光司祭と申します」ニコッ…
光司祭「このたびは皆さまに光魔法についてより知っていただくために」
光司祭「しばらくこの町に滞在することにいたしました、どうぞよろしく」
パチパチ…… パチパチ……
「光司祭様だ!」 「将来必ずや魔法界を背負う人だぜ!」 「かっこいいなぁ~」
「ありがたや、ありがたや……」 「すげぇ~」 「生で見られるなんて……!」
ワイワイ……
闇賢者「な、な、なんで……!? なんでアイツがこんなところに……!?」
闇賢者「しかも当てつけのように、俺たちと全く同じことを……!」ギリッ…
闇賢者「お、おのれぇっ……!」グゴゴゴ…
やみっしー「落ちつきましょう、師匠!」
やみっしー(これは単なる偶然なのか? それとも──)
今回はここまでとなります
次回へ続きます
光司祭とライトガールによる光魔法パフォーマンスは、大盛況のうちに幕を閉じた。
光司祭「女魔道士、よくがんばったな」
女魔道士「いえ、これぐらいへっちゃらです、先生!」
撤収しようとする二人の前に──
闇賢者「オイ、光司祭……!」ザッ
弟子「こ、こんにちは」ザッ
弟子(いつも新聞で見る人が目の前に……不思議な気分だ)
光司祭「──ん?」
光司祭「なんだ闇賢者か。そっちの君は闇賢者の弟子、のようだな」
光司祭「いったいなんの用だ?」
闇賢者「なんの用だ、だと? しらばっくれおって……」
闇賢者「俺たちが闇魔法のパフォーマンスを行っている公園で」
闇賢者「まったく同じことを行うとは……いったいどういうことだ!?」
光司祭「…………」
光司祭「フフフッ、簡単なことだ」
光司祭「この町で、闇魔法のパフォーマンスをしている者がいると聞いてな」
光司祭「光魔法の方がより優れていることを証明するためにやってきた」
光司祭「そして、どうやら……それは正しかったようだな」ニッ
闇賢者「なんだとォ……!?」
光司祭「現に、お前の方にはまったく人が集まってなかったじゃないか」
闇賢者「ぬうぅ……」ギリッ…
弟子(たしかに……ボクたちがあそこまでの人数を集めたことはなかった……)
闇賢者「そのような若い女の子を雇って、人気取りをするなど……卑怯者めが!」
光司祭「雇う?」
光司祭「彼女は私の弟子だよ」
女魔道士「あたしは女魔道士、先生の弟子よ!」
闇賢者「弟子……だと……!?」
女魔道士「今、先生の“住み込み弟子”はあたしだけだから、手伝わせてもらっているの」
弟子「あれ……? 光司祭さんには大勢お弟子さんがいるはずじゃ……」
光司祭「私の弟子は、ほとんどが“通い弟子”だ」
光司祭「私が開く学び舎にやってくる、という形式のね」
光司祭「小さな魔法学校、といえば分かりやすいか」
光司祭「ちょうどそっちは長期休暇に入ったところだったのでね」
光司祭「しばらくこの町に滞在することにしたのだ」
弟子「……なるほど」
闇賢者(小さな魔法学校だと……。ぐぐぐ、羨ましい……!)
闇賢者「……ふ、ふんっ」
闇賢者「クックック……年頃の女の子と一つ屋根の下とは、下心が見え見えだ!」
光司祭「お前じゃあるまいし」
闇賢者「な、なんだとォ!?」
女魔道士「あら、あたしは先生ならかまわないですよ?」
光司祭「おいおい」
光司祭「ところで、そっちの君」
弟子「は、はいっ!」
光司祭「なかなか見所がありそうだ。どうだい、私の弟子にならないか?」
弟子「!」
光司祭「闇賢者などといたら、それこそ世からはじかれ、闇に埋もれてしまうぞ」
光司祭「今ならまだ、十分に間に合う」ニコッ…
闇賢者「光司祭ィ……!」ギロッ
弟子「ボクは……師匠──闇賢者のもとで魔法使いになります!」
光司祭「フフッ、そうか。だが、私はいつでも歓迎するよ」
光司祭「未来ある人間が、闇賢者などに人生を台無しにされるのは気の毒だからな」
女魔道士「先生、やっさしい!」
すると──
闇賢者「オイ……光司祭ッ!」
光司祭「なんだ?」
闇賢者「さっきから聞いていれば、好き勝手いいよって……」
闇賢者「俺にケンカを売っているのか?」
光司祭「…………」
光司祭「その通りだが?」
闇賢者「なっ!?」
光司祭「いい機会だ」
光司祭「この際ハッキリと、光魔法が闇魔法より優れていると証明してやろう」
闇賢者「面白い……望むところ!」ズォォォ…
光司祭「強がるなよ」パァァァ…
闇賢者と光司祭が、右手から魔力を放出し合う。
バリバリバリ……! バチバチバチ……!
闇賢者「ぬうぅ……!」ビリビリ…
光司祭「ぐっ……!」ビリビリ…
闇と光、相反する両者の魔力が激しく火花を散らす。
両者、一歩も譲らない。
女魔道士(ウソでしょ!? 先生と張り合えるだなんて!)
弟子「まったくの互角だ……!」
女魔道士「互角じゃないわ! 先生の方が上よ!」
弟子「ご、ごめん」
魔力の放出合戦は、決着がつかなかった。
光司祭「フフフッ、腕は衰えていなかったか」シュゥゥ…
闇賢者「こちらのセリフだ」シュゥゥ…
光司祭「今の時代、戦いで優劣を決めるというのもナンセンスだ」
光司祭「やはり……パフォーマンスで決着をつけるしかないようだな」
光司祭「我々二人かお前たち二人……どちらがより多くの町民に支持されるか勝負だ」
闇賢者「クックック……面白い」
闇賢者「俺とやみっしーは、お前などに負けんぞ!」
師匠同士のいがみ合いに影響される、弟子二人。
女魔道士「あたしも、あなたなんかに負けないわよ!」
弟子「ボ、ボクだって!」
< 闇賢者の家 >
闇賢者「おのれぇ……!」
闇賢者「まさか光司祭のヤツが現れるとは……!」
弟子「ボクもお会いしたことはなかったので、ビックリしましたよ」
闇賢者「闇魔法使いとしても、俺個人としても、ヤツにだけは負けるわけにはいかん!」
闇賢者「なんとしても……勝つぞ!」
弟子「はいっ!」
弟子(ボクも師匠の役に立ちたい……!)
弟子(だけどあの二人、光司祭さんと女魔道士さんに勝てるだろうか……?)
弟子(厳しい勝負になりそうだ……)
さっそく翌日から、対決は始まった。
< 公園 >
闇賢者とやみっしーが町民たちに呼びかけるが──
闇賢者「いらっしゃ~い、いらっしゃ~い!」
闇賢者「楽しい闇魔法パフォーマンスの始まり始まりィ~!」
やみっしー「闇魔法は怖くないよ~、楽しいよ~!」
シ~ン……
やみっしー「……誰も来ないですね」
闇賢者「うむ……」
一方、光司祭陣営──
老婆に治療を施す光司祭。
光司祭「関節痛ですね、どうぞお大事になさって下さい」パァァ…
老婆「ああっ、痛みがやわらいでいく……!」
老婆「ありがとうございます、ありがとうございます。光司祭様……」ペコッ…
光司祭「いえいえ」ニコッ
「すっげぇ!」 「キャ~、ステキ~!」 「嫌みのないエリートって感じだ」
ワイワイ……
女魔道士扮するライトガールは、光魔法で子供たちを楽しませる。
ライトガール「ほ~ら、キレイな虹よ~!」キラキラ…
男児「うわぁ、キレ~イ! 七色だ!」
女児「もっと見せて~!」
ライトガール「じゃあ次は虹のリングを見せてあげるね!」
キャッキャッ……
闇賢者「疲れているなら、この闇を浴びると落ちつくぞ……!」ズズ…
青年「ひいっ! すみません、けっこうです!」タタタッ
~
光司祭「この光を浴びると、心身ともにリフレッシュできますよ」パァァ…
中年「おぉ~、心も体も癒されるよ……」
~
闇賢者「明日、あなたが事故を起こす確率を占ってやろう……」ズォォ…
主婦「そんなの占って欲しくないわよ!」
~
光司祭「明日は水に近づくのはよした方がいいですね」ボワァ…
職人「水難ってやつかい……気をつけるよ!」
一週間後──
< 闇賢者の家 >
闇賢者「うぐぐ……」
闇賢者「光司祭が来てからというもの、俺たちの方にはほとんど人が来なくなった!」
闇賢者「それなりに人気を得ていたやみっしーも、今や効果薄だ!」
闇賢者「ちくしょう……光司祭め、ちくしょう……!」
闇賢者「なんとしても……俺は、勝たなければならないのに……!」ギリッ…
弟子(師匠……こんなに悔しがっているところを初めて見た)
弟子(ライバルに負けるっていうのは、やっぱりただ負けるのとはちがうのか……)
弟子(ライバル、か……。いずれボクにもできるのかな?)
弟子「あっ、あの……晩ご飯の材料を買ってきます!」
闇賢者「……ああ、頼む」
< 商店街 >
弟子(なんとか師匠を元気づけるためにも、今日はスタミナがつく料理を……)
弟子が買い物かごを片手に、商店街を見回っていると──
女魔道士「あら? あなた、闇賢者さんのお弟子さんじゃない」
弟子「あ……女魔道士、さん」
女魔道士「奇遇じゃない。なにしてるの?」
弟子「夕ご飯の買い出しを……」
女魔道士「ふうん」
弟子(ライトガール姿でも可愛いけど、普段着でも可愛いな……)
弟子(なんとかこのチャンスに友だちになりたいけど……)
女魔道士「ねえ」
女魔道士「あたしの将来の夢は、もちろん立派な魔法使いになることだけど」
女魔道士「あなたももちろん、魔法使いを目指してるんでしょ?」
弟子「うん」
女魔道士「今は魔法使い目指すんなら、魔法学校に通うのが主流だけど」
女魔道士「どうしても画一的な教育しか受けられないし」
女魔道士「弟子入りの方がコアな勉強ができて、高い実力が身につくっていうもんね」
女魔道士「この間、魔法学校に通ってる同年代の子と魔法勝負をしたら」
女魔道士「あたしのがずっと上だったし」
弟子「へぇ~、すごいね」
弟子(聞いてもいないのに、よくしゃべるなぁ……)
女魔道士「だけど当たり外れも大きいからね~、特に住み込み弟子って」
女魔道士「変な人に弟子入りしちゃったら、それこそ才能潰されるケースもあるし」
女魔道士「……あなたみたいにさ」クスッ
弟子「!」ムッ…
弟子「それ……どういう意味だよ」
女魔道士「分からないの~?」ニヤニヤ…
弟子「分からないよ」
女魔道士「あんな変な人に弟子入りしてたら、あなた魔法使いになんかなれないわよ?」
女魔道士「目は濁ってるし、ローブは不気味だし、雰囲気も暗いし……」
女魔道士「おまけに町の人からは腫れ物をさわるような扱いだし……」
女魔道士「しかも、なんなのあのパフォーマンス? あれウケ狙いでやってるの?」
女魔道士「あんなんじゃ、闇魔法のイメージが余計悪化するに決まってるじゃない」ケラケラ…
弟子「…………」
女魔道士「それに比べて、先生はすっごいんだから!」
女魔道士「魔法界のホープとして期待され、優しいし、品もいいし……」
女魔道士「なんかもう、あなたの師匠とじゃ月とスッポンって感じ!」
弟子「…………」
女魔道士「そういえばさ、いつだったか住み込み弟子の子が師匠の魔法実験台にされて」
女魔道士「廃人みたいにされちゃった事件があったわよね」
女魔道士「このままだと、あなたもいずれそうなっちゃうんじゃない?」
女魔道士「ま、そうならないうちに──」
弟子「やめてくれっ!!!」
女魔道士「!?」ビクッ
弟子「君や光司祭さんがすごいのは分かる……ボクの悪口もいくらでもいっていい」
弟子「だけど……師匠の悪口だけはやめてくれっ! ……お願いだから」
女魔道士「な、なによ……」
女魔道士「あの闇賢者がそんなにすごいっていうの!?」
弟子「ボクはあの人がすごいとか、そういう理由で弟子入りしたわけじゃないよ」
女魔道士「じゃあ、どんな理由よ!?」
弟子「あの人はボクの恩人なんだ……」
女魔道士「恩人?」
弟子「昔、ボクが友だちと山で遊んでてはぐれた時──」
………………
…………
……
~ 回想 ~
< 山の中 >
険しい山の中を、あてもなくさまよう少年。
少年「どうしよう、はぐれちゃった……」オロオロ…
少年(あの時、珍しいキノコを見つけて……みんなからはなれて……)オロオロ…
少年(このまま夜になったらどうしよう……)オロオロ…
少年「おーい、みんなぁ~!」
少年「返事してよぉ~!」
少年(どうしよう、どうしよう……!)
結局、山の中で夜を迎えてしまった少年。
少年(もう……ほとんどなにも見えない……)
少年(今夜は月もないし……)
暗闇は少年から、希望や楽観といった感情を奪っていく。
少年(ボク……このまま死んじゃうのかな……?)
少年「やだ!」ゾクッ
少年「絶対やだ! 死にたくない!」
少年「ボクは魔法使いになるんだ!」
少年「うわぁぁぁぁ~~~~~っ! だれかぁぁぁぁ~~~~~っ!!!」
ダダダッ!
少年は暗い山の中をがむしゃらに走り始めた。
ブニュッ……
少年「うわっ!? 柔らかい……なんだこれ!?」プニッ
「クックック……危なかったな、小僧」
少年「だれ!?」
ボワァ……
青白い炎が、黒いローブをまとった魔法使いを映し出す。
少年「うわぁっ、おっかない目! ゆ、幽霊か!?」
闇賢者「人間だよ。あとこの濁った目は生まれつきだ。悪かったな」
闇賢者「それより俺が魔界ゲルでガードしなければ、全力疾走で木に激突していたぞ」
少年「あ……」プニッ…
少年「あ、ありがとう……。変なこといって、ごめんなさい……」
闇賢者「かまわん」
少年「お兄さんは……魔法使い、なんですか?」
闇賢者「うむ……。しかもこの若さで、賢者称号を取得している」ニタァ…
少年「そ、そう(自分でいうか、ふつう)」
少年「でもよかった……。明かりがあれば、もう怖くない──」
闇賢者「いや、この炎は消す」フッ…
少年「えっ、ちょっ、なにも見えない! なにやってるの!? 消さないでよ!」
闇賢者「静かにしろ、せっかくの闇が台無しだ」
闇賢者「明日になったら一緒に山を下りてやるから、一晩ぐらい闇を堪能しろ」
闇賢者「こんな極上の暗闇……なかなか味わえるものではないぞ、クククッ……」
少年「闇を……堪能する?」
少年「できるわけないじゃん! 闇って暗いし怖いし……絶対悪いこと起きるもん!」
闇賢者「闇はたしかに暗いし怖いかもしれんが、闇に善悪はない」
少年「!」
闇賢者「この世に闇ほど包容力があるものはないぞ。なにもかも平等に包み込んでくれる」
闇賢者「だが……決して甘くはない」
闇賢者「ひとたび闇に呑まれれば、戻ることは難しい」
闇賢者「むやみに闇を怖がったり悪などと認識すれば、あっという間に呑まれるぞ」
闇賢者「闇を恐れるな。闇を支配しようなどとも考えるな。闇を受け入れ、溶け込め」
闇賢者「そうすれば、いずれこの暗闇の中でも自在に歩き回れるようになる」
少年「……は、はいっ!」
闇賢者「さて……そろそろ寝るとするか。虫除けの闇魔法をかけてやろう」ムワァァァ…
虫を寄せつけない効果のあるガスが、少年を包み込む。
少年「うわっ、くっさ!」オエッ…
闇賢者「いい匂いだと思うがな……。それじゃ、寝る」ゴロン…
少年「お、おやすみなさい……」
少年(なんだろ、この気持ち……)
少年(ボク、今までずっと炎や雷を使う魔法使いになりたかったけど……)
少年(ボク、この人みたいになりたい……)
少年(この人みたいな闇魔法使いになりたい……!)
二人の出会いから、しばしの時を経たある日──
< 闇賢者の家 >
少年「……闇賢者さんですよね!? やっと見つけました!」
闇賢者「ん? だれだ君は」
少年「いつぞやは山で遭難していたところを助けていただき、ありがとうございました!」
闇賢者「ん、ああ、あの時の……。背が伸びてたから分からなかった」
闇賢者「……で、なにか用か?」
少年「ボクを……あなたの弟子にして下さい!」
闇賢者「!!!」
闇賢者「…………」プルプル…
少年「ダメですか……? だけど、ボク本気なんです!」
少年「お父さんとお母さんにも、もちろん許しを得てきました! どうかっ……!」
闇賢者(つ、ついにこの俺に……初の弟子入り志願者が……ッ!)プルプル…
闇賢者(賢者は弟子を育ててようやく一人前といわれるが──)プルプル…
闇賢者(光司祭にはすでに10人いると聞いて焦っていたが、ついに……ッ!)プルプル…
闇賢者(ダメだ、笑うな……笑うと威厳が薄れてしまう……!)グッ…
こみ上げる笑みを抑えながら、闇賢者はおごそかに告げる。
闇賢者「本当はダメなのだが、君の本気に免じて……特別に許可しよう」
闇賢者「特別だからな……うん、特別だ。あくまでも特別なんだぞ」
少年「ありがとうございますっ!」ガバッ
闇賢者に妥協はなく、修業の日々は厳しかった。
闇賢者「余計なことを考えるな! 魔力を練ることだけを考えろ! 集中しろ!」
弟子「は……はいっ!」ブゥゥ…ン…
闇賢者「返事する暇があったら、魔力を練るのだッ!」
~
弟子「うぅぅ……心を蝕まれる……!」ズズズ…
闇賢者「この暗黒瘴気に耐えられねば、闇魔法使いにはなれんぞ!」
弟子「は、はいっ!」ズズズ…
~
闇賢者「クククッ……」
闇賢者「そろそろこの暗黒ローブを授与する時がきたようだな」バサッ…
弟子「ありがとうございます!」グスッ…
しかし、弟子も必死に食らいついていった。
……
…………
………………
~ 現在 ~
弟子「あの時、師匠に出会わなきゃボクは山で死んじゃってたかもしれない」
弟子「だから──」
女魔道士「ふぁぁ……」
弟子「ちょ、ちょっと! ひどいよ!」
女魔道士「ああ、ちゃんと聞いてたってば」
女魔道士「あなたがあの人に入れ込んでる理由は分かったけど……」
女魔道士「今、闇魔法って特に風当たりが強いのに、よくご両親が許してくれたわね」
弟子「お父さんもお母さんもそういうところは無頓着だったから──」
父『闇魔法? いいんじゃないか? ようするに夜みたいなもんだろ?』
母『お昼に夕食を食べたい時は便利そうねえ……』オホホ…
父『ま、やるんならしっかりやるんだぞ』
母『体に気をつけなさいね。嫌になったら帰ってきなさいよ』
弟子「──って感じだった」
女魔道士「そ、そう……」
弟子「だから……師匠のことを悪くいわれたくないんだ……」
女魔道士「ふぅ~ん」
女魔道士「さっきもいったけど今は住み込み弟子ってあまりいないしさ」
女魔道士「男二人屋根の下で、怪しい関係なんじゃないの~?」クスクス…
女魔道士「二人揃って異性に興味ないとか、さ」
弟子「……そんなことないよ!」
弟子「師匠の本棚は魔術書とエッチな本が半々くらいだし!」
女魔道士「え……」
弟子「ボク、君のこと、とても可愛いと思うし!」
女魔道士「な……!」カァァ…
女魔道士「な、な、な……!」
弟子「いや、ちょっ、あの」
女魔道士「なんなのいきなり! もうっ! あ、あたし帰る!」スタスタ…
女魔道士は弟子を突き放すように去って行った。
弟子「あ……」
< 闇賢者の家 >
弟子「はぁ……」
闇賢者「どうした?」
弟子「ボクは……とんでもないことをしてしまいました」
闇賢者「ほぉう、とんでもないこととは大きく出たな」ニタァ…
闇賢者「いったい何をしたのだ?」
弟子「初恋はあっさり終わって、師匠の個人情報まで流出させてしまいました……!」
闇賢者「!?」
闇賢者「──ふむ」
闇賢者「そういうことか……」
闇賢者「なんの脈絡もなく、“可愛い”などといえば」
闇賢者「女というのは嬉しいと思うより、警戒してしまうものだ」
闇賢者「ましてや、俺のエッチ本のことまでバラしたとあらば──」
闇賢者「もはやあの娘にとって、俺たちは性欲の権化“暗黒エロスコンビ”だろう」
闇賢者「ここから挽回するのは難しいかもしれんな……」
弟子「はい……」
闇賢者「だが、気に病むな! 失恋とは人生につきもの!」
闇賢者「闇魔法を極めることで、見返してやればよいのだ!」
弟子「ありがとうございます……師匠」
その後もたびたび、闇賢者と光司祭は対決したが──
ワイワイ……
光司祭「では今日は光魔法を用いた、映像魔法を楽しんで下さい」
ライトガール「始まり始まりィ~!」
「すげぇ~」 「万華鏡みたいだ!」 「サ、サインください!」
~
闇賢者(だれも俺の闇映像魔法には見向きもしない……!)
闇賢者「サイン……欲しくないか? 家でいっぱい書いてきたのだが」スッ…
通行人「いや……なんか呪われそうだし……」スタスタ…
闇賢者「…………」
やみっしー(師匠……)
< 闇賢者の家 >
闇賢者「う、ぐ、ぐ、ぐ、ぐ……!」
闇賢者「うおおぉぉぉぉぉぉん……!」
闇賢者「なぜだ!? 実力では、決して劣っていないはずなのに──」
闇賢者「なぜこうも差がつく!? 差が開く!? なにをどうすればいいんだ!?」
闇賢者「うぐうううぅぅぅぅぅ……!」ズオォォォ…
弟子「師匠、あまり気に病まない方が──」
闇賢者「分かっているッ!」
闇賢者「……すまん」
弟子(師匠……すっかり参っちゃってるな)
弟子(でもたしかに、光司祭さんたちの人気はすさまじい……とてもかなわない)
弟子(ボクはどうすれば……どうすればっ……!?)
二人揃ってスランプに陥る闇の師弟。
さて、そんな彼らの知らぬところで、恐るべき計画が進行しつつあった。
< 地下祭壇 >
「魔法の存在価値とは、“破壊”にこそある」という狂信的な理念のもと、
かつて世間を震撼させた秘密結社、破壊魔法結社。
激しい抗争の末、主要メンバーはすでに全員討伐されるなり投獄されるなりしたが、
彼らの理念を受け継ぐ者はまだ残っていた。
密談を交わす数人の男たち。
リーダー「我らの生贄とする町は決まったか?」
残党A「この近くですと、聖教会の支部がある北の町、商業都市としてにぎわう東の都市」
残党A「女神像がそびえ立つ南西の港町などが候補になっています」
リーダー「ふむ……どれもヤツのお披露目の場としては物足りんな……」
残党B「それとついさっき入手した情報ですが」
残党B「あの光司祭が、ここから西にある町に滞在しているとのことです」
残党B「町そのものにはこれといった特色はありませんが……」
リーダー「光司祭か……うむ、実に面白い!」
リーダー「聖教会のエースで若手ナンバーワンといわれる光司祭を打倒すれば」
リーダー「世間へのダメージは計り知れない」
リーダー「『破壊魔法結社』再興の生贄には申し分ない!」
残党A「はい」
残党B「いかに光司祭といえど、ヤツには勝てませんよ」
リーダー「そのとおりだ」
リーダー「決まりだな……。我らのターゲットは、光司祭が滞在する町だ!」
祭壇の奥から、不気味な唸り声が響き渡る。
グルルルル…… ガルルルル…… フシュゥゥ……
リーダー「キサマも興奮を抑えきれない、か」
リーダー「すぐ暴れてもらうことになる。我らが再び浮上するためにな」ニヤッ
レスありがとうございました
今回はここで終わりです
< 闇賢者の家 >
弟子「おはようございます!」
弟子「師匠、今日は光司祭さんたちと魔法パフォーマンス勝負をする日ですよ!」
弟子「早く行きましょう!」
闇賢者「…………」ゴロン…
闇賢者「いや……今日はやめておく」
弟子「師匠……?」
闇賢者「すまん……」
闇賢者はすっかり自信を失くしてしまったようだ。
弟子「…………」
弟子「いえ、かまいません! じゃあ今日はボク一人で行ってきますので!」
弟子「戻ってきたら、また修業をつけて下さいね!」
闇賢者「……ああ」
< 公園 >
弟子が公園に到着すると、光司祭師弟も準備を始めていた。
光司祭「おや? 今日は君一人か」
弟子「ええ、師匠は用事がありまして。今日はボク一人でやみっしーを──」チラッ
女魔道士「!」
女魔道士「…………」プイッ
弟子「あっ……」
弟子(こっちを見てもくれない……。やっぱりもうダメか……)
光司祭「ところで……」
光司祭「闇賢者は私に対して、怒りをあらわにしていただろう?」
弟子「えぇと、その……多少は……」
光司祭「フフッ、君はウソがつけないタイプのようだ」
光司祭「闇魔法を扱うのは向いているのかもしれないな」
弟子「ど、どうも」
光司祭「今頃ふて寝でもしてるのだろう闇賢者に、伝えておいてくれ」
弟子「!」ギクッ
光司祭「もうすぐ私はこの町を去るから安心しろ、とな」
弟子(そうだ……。光司祭さんはずっとこの町にいるわけじゃなかったんだ……)
弟子(光司祭さんの学び舎が再開したら、いなくなってしまう……)
弟子(女魔道士さんも……)
弟子「あ、あの……! 一度聞きたかったんですが……」
弟子「光司祭さんは女魔道士さん以外にも、大勢のお弟子さんを抱えていて」
弟子「本来は授業や講演会でめまぐるしいほど忙しいはず──」
弟子「なのになぜ、今回わざわざ光魔法の優位性を示すためだけに」
弟子「この町に来られたのですか?」
弟子「ボクにはもっと他の理由がある気がしてならないんです」
光司祭「…………」
光司祭「それは──」
──ズガァンッ!
町の平穏を塗りつぶす、つんざくような轟音であった。
光司祭「!」
女魔道士「!」
弟子「!」
女魔道士「な、なに今の音……!?」
弟子「爆発したような音だったね……。小麦粉とかの爆発、かな?」
光司祭(いや……)
まもなく、町の人々の悲鳴が聞こえてきた。
キャァァァ…… ワァァァ…… ヒイィィィ……
光司祭「大通りの方角だな……行くぞ! 女魔道士! 弟子君!」
女魔道士「はいっ!」
弟子「分かりました!」
< 大通り >
家一軒ほどの大きさの獣が、メチャクチャに暴れ回っていた。
魔獣「グオオォォォンッ! ギャオオオォォォンッ!」ズシンッ…
ドガァンッ! ズガァンッ!
「ば、化け物だァ!」 「助けてくれぇ~!」 「逃げろぉっ!」
女魔道士「ひどい……! なんなのあれ!?」
弟子「魔獣……!? 山で暮らしてたのが、どこからか紛れ込んできたのか!?」
光司祭「……そうじゃない」
光司祭「造形や発している魔力に違和感がある……おそらくは人造魔獣だ」
女魔道士&弟子「人造!?」
光司祭「とにかく、今は推理よりヤツをどうにかしなくてはならない」
光司祭「二人は下がっていろ。この私が相手をする!」サッ
女魔道士&弟子「はいっ!」
光司祭「はああああ……」ボウッ…
光司祭の右手から、極めて高密度の光球が生み出される。
弟子「す、すごい!(あれほどの魔力を一瞬で練り上げるなんて!)」
女魔道士「先生、やっちゃえ~!」
光司祭「いくぞ!」バシュッ
光球が放たれる。しかし──
ボシュッ……!
光司祭「ん!?」
魔獣「グエッゲッゲッゲッゲッ! ギャアオォォォォンッ!」ズシンッ…
光司祭(まったく効いていない……無効化されたか!)
光司祭(光魔法では倒せないのかもしれん……他の属性魔法を試してみるか!)
炎、水、土、風、雷、木、さらには闇と、さまざまな属性をぶつけてみるが──
魔獣「グルルゥゥゥ……」フシュゥゥ…
光司祭「くっ……(どれも無効化されてしまう!)」
女魔道士「先生、あたしも手伝います!」バッ
弟子「ボクも!」バッ
女魔道士は光魔法、弟子は闇魔法で攻撃する。
光司祭の魔法が通用しない相手に、通用するはずがないのだが──
ドォンッ!
魔獣「ギギッ……」
女魔道士「あれっ、無効化されなかった?」
弟子「本当だ! といっても皮がめくれたぐらいだけど……」
二人の攻撃をヒントに、光司祭が魔獣の性質に気づく。
光司祭「そうか、分かった!」
光司祭「二つの属性を同時にぶつければ、ヤツも無効化することができないんだ!」
魔獣「グルルルル……」シュウウ…
弟子「あっ、めくれた皮が元に戻った!」
女魔道士「再生するの!? ずっる~い!」
光司祭(再生する一瞬、再生箇所に異質な魔力を感じた……)
光司祭(おそらくどこかから、ヤツに魔力を供給している者がいるのだろう)
光司祭(他にもまだ隠された特性があるかもしれんし、これは長期戦になる)
光司祭(ならば……)
光司祭が二人に指示を出す。
光司祭「女魔道士、弟子君。私はヤツをここに釘付けにしておくから──」
光司祭「二人は町の人々を避難させてくれ!」
女魔道士「だけど、先生!」
光司祭「私のことは心配するな!」
光司祭「高位魔法であれば決め手にはならなくても、ヤツの動きを止めることはできる!」
光司祭「とにかく急ぐんだ!」
女魔道士「はいっ!」
弟子「分かりました!」
タッタッタ……
光司祭「さぁ化け物……この大通りからは一歩も出さんぞ!」サッ
魔獣「グルルルルゥ……!」フシュゥゥ…
弟子と女魔道士は町中を走りまわり、避難を呼びかける。
女魔道士「みなさ~ん、少しでも大通りから遠くに避難して!」
弟子「近所の人にも知らせてあげてください!」
ドヨドヨ…… ザワザワ……
弟子(光司祭さん……大丈夫だろうか)
弟子(いくら光司祭さんでも、あんな無効化能力と再生能力を持った相手じゃ……)
弟子(二つの属性を同時に当てれば効くっていうのなら)
弟子(もう一人、光司祭さんくらいの魔法使いがいれば──)
弟子「!」ハッ
弟子(──って師匠がいるじゃないか! 色々ありすぎてすっかり忘れてた!)
弟子(だけど……師匠は動いてくれるだろうか?)
弟子(あれほど光司祭さんに怒ってたし、今日は落ち込んでもいたし……)
弟子(下手したら光司祭さんなんか助けたくない、なんていうかも……)
弟子(とにかく、説得するしかない! 師匠しかいないんだ!)
弟子「女魔道士さん!」
女魔道士「なに?」
弟子「ボク、師匠を呼んでくる!」
女魔道士「えっ……だけどあの人来るの!? 先生のこと大嫌いじゃない!」
弟子「大丈夫、必ず説得してみせる!」
どう説得するか考えつつ、弟子は家まで走った。
< 闇賢者の家 >
闇賢者(気分が沈んでいると、エロ本を読んでもなにも感じぬな……)ペラ…
──バタンッ!
闇賢者「うわっ!?」バサバサッ…
弟子「ハァ、ハァ、ハァ……」
闇賢者「なんだお前か……驚かせおって。なにかあったのか?」
弟子(なんとか……師匠に動いてもらわなきゃ!)
弟子「光司祭さんが……大変なんです!(ダメだ、もっとちゃんと伝えなきゃ──)」
闇賢者「なんだと!?」ガバッ
弟子「!?」
闇賢者「場所は!?」
弟子「大通りです! 状況は──」
闇賢者「説明せんでいい……行くぞ!」
弟子「は、はいっ!」
< 大通り >
魔獣「グオォォォオンッ!」シュバッ
光司祭「おっと!」パキィン…
魔獣の巨大な爪を、光で作った壁で食い止める。
光司祭(この壁を砕き、そのまま破片の散弾とし、ぶつける!)パリィンッ!
ズガガガガッ!
魔獣が多少のけぞるが、無効化能力によりダメージはない。
光司祭(どうにか戦えているが……このままではジリ貧だな)
光司祭(さて、どうするか……)
すると、大通りに不気味な笑い声が響き渡る。
「クゥ~ックックックック……苦戦しているようだな、光司祭!」
光司祭「!」
光司祭「闇賢者……!」
闇賢者「どれ……手伝ってやろうか?」
光司祭「フッ、気取ってないでとっとと手伝え!」
闇賢者「弟子に“俺を連れてこい”と頼めば、早かったものを」
光司祭「それはある意味では、魔獣にやられるよりもイヤだったものでね」
闇賢者「クックック……」ニタァ…
光司祭「フフフッ……」ニッ
魔獣「グルルルルル……!」フシュゥゥ…
笑うライバル同士と、唸り声を上げる魔獣。
タタタッ……
女魔道士「先生、町の人はみんな避難を始め──」ハァハァ…
女魔道士「あっ、闇賢者さん!? 来てくれたの!?」
弟子「うん……師匠と光司祭さん、最強タッグ結成だ!」
闇魔法と光魔法のエキスパートが、並び立つ。
光司祭「あの魔獣はおそらく、対魔法使い用に改造された魔獣だ」
光司祭「二属性の魔法を同時に当てなければならない……しかも同程度の威力でな」
闇賢者「心得た……」ニタァ…
光司祭「私にタイミングを合わせろ!」ボワァ…
闇賢者「よかろう」ズズズ…
闇賢者は闇エネルギーの塊を、光司祭は光で生み出した球を、それぞれ叩き込む。
ズオォォォンッ!
魔獣「グギャアアァッ!?」グラッ…
初めてまともなダメージが入った。
魔獣「グオォォ……グルル……」グラッ…
弟子「苦しんでる!」
女魔道士「うん! だけど──」
魔獣「グオォォォルルル……!」シュゥゥ…
せっかく与えた傷も、すぐに再生してしまった。
闇賢者「!」ピクッ
闇賢者「再生能力……。なるほど……そういうことか」
光司祭「ああ、そういうことだ」
弟子&女魔道士(二人だけで理解しないで欲しい!)
闇賢者「かなりの魔力が常時供給されているな」
闇賢者「魔獣を使役する術者は、おそらく一人や二人ではあるまい……」
闇賢者「つまり、奴を倒すには再生能力を遥かに上回る威力の魔法を浴びせるしかない」
光司祭「私と闇賢者がそれぞれ光と闇の最上級クラスの魔法を使えば」
光司祭「おそらく魔獣を仕留めることはできる……が」
弟子「“が”というのは?」
女魔道士「仕留められるんなら、すぐ仕留めた方がいいんじゃ……」
闇賢者「ククク……甘いなァ」
女魔道士「むっ!」
光司祭「もしそれをやれば、まずこの大通りは壊滅するだろう」
光司祭「……おそらく敵はそれも計算に入れているはずだ」
弟子&女魔道士「!」
闇賢者「むろん、手加減して魔獣に敗れるよりはマシではあろうが……」
光司祭「できる限り使いたくない手でもある」
闇賢者「他者への魔力供給は、あまり遠距離になると効果が薄い」
闇賢者「供給者どもはこの町のどこかに潜んでいるのだろうが」
闇賢者「この町は広いし、魔獣を食い止めながら今それを探している余裕はない……」
光司祭「私とお前の二人で、戦いながら他の方法を探すしかないだろうな」
魔獣「グオオオオオッ!」ズシンッ
闇賢者&光司祭「作戦会議中だ!」ババッ
ズガァンッ!
ダブル魔法が炸裂するが──
魔獣「ギャゴォォォォ……グルル……!」シュウウ…
魔獣も負けじとすぐさま再生する。
死闘が始まった。
ズドォンッ! ドゴォンッ! ギャオォォォォンッ! ドォンッ! グオォォォン……!
闇賢者「少し止まっていろ……ケダモノ!」ウォォォォン…
怨霊を用いた闇魔法で魔獣の体を縛り付け──
光司祭「はあっ!」ズドドドドッ!
光司祭が光弾の雨あられをブチ込む。
魔獣「グゴォォォォ……」シュゥゥ…
闇賢者「また再生か……。キリがないとは、このことだなァ……」チッ
光司祭「しかも、魔力を送るだけの供給者より、魔法を使う我々の方が消耗が激しい」
光司祭「我々が10の魔力でダメージを与えても、供給者は1の魔力で再生できる」
女魔道士(あたしも二人を手伝いたいけど……)
女魔道士(とても、入り込める戦いじゃないわね……)
弟子「…………」
弟子「──あ、あのっ! 師匠、光司祭さんっ!」
闇賢者&光司祭「!」
弟子「ボクが……供給者を探して、その人たちを止めてみせますっ!」
闇賢者が弟子を睨みつける。
闇賢者「弟子……」ギロッ
弟子「…………!」
闇賢者「やれるのか?」
弟子「分かりません……だけど」
弟子「お二人が町を壊さず、あの魔獣を倒せる方法があるのなら──」
弟子「その方法に挑戦したい!」
弟子「ボクも……闇魔法が人を傷つけるだけじゃなく、人を救えるって証明したい!」
闇賢者「……よかろう」ニタァ…
闇賢者「ただし、俺たちがあの化け物相手に粘れるのは、あとせいぜい15分だ」
闇賢者「それを過ぎれば、町を壊すことになっても大魔法でケリをつけるしかない」
闇賢者「よいな?」
弟子「……はい!」
闇賢者「よし……いつもいってるが、闇に呑まれるなよ」
光司祭「無茶だ! 相手が何者かも分からないんだぞ!?」
光司祭「それに、未来ある弟子君にこんな危険な任務は──」
女魔道士「あたしも、彼と一緒に行きます!」
光司祭「なっ……!」
女魔道士「先生……お願いしますっ!」
闇賢者「ククク……どうするね、光司祭」
闇賢者「俺たちが直々に鍛え上げた二人組だ……」
闇賢者「少なくとも闇魔法と光魔法に関しちゃ、そこらの魔法使いにも負けまい」
闇賢者「敵も魔獣に魔力を与え続けているのだ。そう悪くはない賭けだと思うがねえ」
光司祭「…………」グッ…
光司祭「……君たちに託してみよう。ただし絶対に無理はしないこと!」
弟子&女魔道士「はいっ!」
レスありがとうございました
今回はここで終わりです
< 町 >
大通りを出た弟子と女魔道士。
女魔道士「ボクが止めてみせます、ってのは勇ましかったけど」
女魔道士「犯人がどこにいるか、目星はついてるわけ?」
弟子「あ、いや……」
女魔道士「もう……しょうがないんだから」
女魔道士「えいっ!」パァァ…
女魔道士が地面に手を置くと、そこから光が放射状にばら撒かれる。
女魔道士「この光が怪しい魔力を探し出してくれる、ハズだけど……」
女魔道士「今のあたしじゃ、まだ探索範囲が狭くって……」
弟子「だったらボクの闇の魔力を!」ズオォォ…
女魔道士(光と闇の相乗効果で、探索範囲が広がった!?)パァァ…
どうにか光は町の隅々まで行き渡り──
女魔道士「怪しい魔力! ──町の北だわ!」
弟子「急ごう!」
< 町の北 >
タッタッタ……
女魔道士「あそこっ!」
魔法陣を囲む、魔法使い数人の姿があった。
女魔道士「あの服装と紋章……『破壊魔法結社』の奴らだわ!」
弟子「まだ活動してる人がいたのか……」
弟子(残党とはいえ、相手はかつて世の中を恐怖に陥れた魔法集団……)
弟子(闇魔法を始めとした魔法を、悪用にしか使わないような人たちだ)
弟子(ボクたちだけで勝てるだろうか……?)
弟子(いや、やらなきゃ!)
弟子(町のためにも、師匠のためにも、闇魔法のためにも)
弟子(光司祭さんと女魔道士さんのためにも)
弟子(ボク自身のためにも!)
弟子「行こう!」ダッ
女魔道士「探索に時間を食ったから……あと10分もないわよっ!」ダッ
< 魔法陣 >
この魔法陣こそが、彼らの魔力を魔獣に伝達する役割を担っている。
リーダー「魔力の消費が激しい……魔獣が再生を繰り返しているようだ」
残党A「光司祭が粘っているようですね」
リーダー「しかし、あの魔獣は属性を重ねた魔法でなければダメージを与えられんし」
リーダー「こうして魔力を与えている限り決して死なん」
リーダー「もし仮に、光司祭が魔獣の再生力を超える魔法を撃てたとしても」
リーダー「それほどの威力の魔法なら、まちがいなくこの町は半壊する」
残党B「光司祭が敗れようと、魔獣が敗れようと」
残党B「我らの名を再び世に知らしめることができますな」
リーダー「うむ……そしていずれは捕らわれている幹部やメンバーを救い出し」
リーダー「再び世を恐怖と混乱の渦に陥れるのだ! それが我らの使命!」
魔法陣を囲む彼らの前に、弟子と女魔道士が駆けつける。
弟子「こ、こんにちは」ザッ
女魔道士「なにいってんの! そこまでよ、破壊魔法結社!」ザッ
ザワッ……!
残党A「なんだ?」
残党B「ずいぶん若いが魔法使いか……? 光司祭以外にもいたのか!」
リーダー「一応聞いておこうか……キサマら、なんの用だ?」
弟子「町で──」
女魔道士「町で暴れる魔獣を止めるために、あなたたちを止めにきたのよ!」
弟子「そうだ!」
二人を見て、リーダーはおおよその事情を察した。
リーダー「キサマたちは光司祭の弟子かなにかか?」
女魔道士「そうよ!」
弟子「ボクは……闇賢者の弟子だ!」
リーダー「だれだそれ」
残党A「知ってるか?」
残党B「いや……」
弟子(うう……やっぱり知られてないか……)
弟子(──って、そんなこと気にしてる場合じゃない!)
弟子「今すぐ魔法陣を解くんだ!」
リーダー「我々がキサマらのような子供のいうことを聞くと思うか?」
リーダー「魔力供給は私が引き受けるから、お前たちはすぐ奴らを始末しろ!」
残党A「ははっ!」
女魔道士「ふん、あたしたちをナメないでよね!」
残党たちが、次々に魔法を唱える。
残党A「炎よ、敵を燃やせ!」バッ
残党B「冷気よ、凍らせろ!」ババッ
残党C「雷よ、打ち砕けっ!」バッ
弟子(闇のシールドで防御しないと──)ササッ
ズガガガガッ!
弟子「うわわぁっ!」ドザァッ…
女魔道士「んもう、最初から張ってなきゃダメじゃない!」パァァ…
女魔道士は光の壁できちんとガードしていた。
女魔道士「あなたはどいてて! 今度はこっちからいくわよ! ──光よ!」パァァ…
残党A「ふん、光魔法は攻撃には秀でていないはずだ!」
生み出した小さな光球を、残党たちに連射する。
ズドドドドッ!
残党A「ぐおおっ!?」
残党B「ぬっ!」
残党C「なんだと……!?」
女魔道士「残念でした! 光魔法は補助や回復だけじゃなく、攻撃力もあるのよ!」
残党A「くそっ……調子に乗るなよ、小娘!」
女魔道士「あたしは先生に鍛えてもらってるんだもん」
女魔道士「まだ見習いだけど、そんじょそこらの魔法使いになんか負けない!」
弟子(すごい……! 光魔法に関しては、彼女はもう並みの魔法使い以上だ!)
女魔道士「あなたたちなんて、あたしだけで十分よ!」
女魔道士「さぁ、覚悟なさい!」パァァ…
ズドドドドドドドドドッ!
女魔道士の猛攻に、残党たちは手を出せない。
「ぐおおっ!?」 「うぐっ……!」 「反撃する隙がない!」
残党A(く、くそっ……あんな小娘に手こずるとは……!)
リーダー「…………」
リーダー(小僧の方は見習いレベルだが、あの小娘はやっかいだな)
リーダー「どれ、私が出よう」ズイッ
リーダー「お前たちは魔法陣へと戻り、魔力供給を再開しろ」
残党A「……ははっ!」
リーダーと女魔道士が対峙する。
女魔道士「あなたがボスね!」
女魔道士(さすがに他の連中とは格が違いそうだけど……)
女魔道士(今、あたしが出せる一番大きな光魔法を当てられれば、倒せるはず!)
リーダー「小娘、どうやらキサマは光魔法が得意──」
リーダー「というか、まだ光魔法しか習得していないんだろう?」
女魔道士「そ、それがなによ!」
リーダー「つまり、私とは相性が最悪だということだ」
リーダー「私がもっとも得意とするのは、“闇魔法”だからな」ニヤッ
女魔道士&弟子「!」
リーダー「闇の霧よ、広がれ!」バババッ
ズオオォォォ……
リーダーの全身から黒い霧が放出され、瞬く間に辺り一帯を包み込んだ。
モワァァァ……
女魔道士「やだ、暗い! いったいどうなってるの!?」
女魔道士「そうだ、光で照らし──」バッ
女魔道士「あれっ!?」
女魔道士「ウソ、魔法が……出ない!?」バッバッ
リーダー「無駄だ」
リーダー「光魔法と闇魔法は相反する属性ゆえ、互いが互いを弱点としている」
リーダー「つまり、先手を取った者が圧倒的に有利となる」
リーダー「この“闇の霧”の中では、キサマはもう光魔法を使えない」
リーダー「私以上の術者であればともかく──」
リーダー「発展途上のキサマではムリだ」
女魔道士「そ、そんな……!」
モワァァァ……
リーダー「もちろん、この中では闇の魔力や闇魔法の威力は増幅される!」
女魔道士(ますます暗くなっていく……! どうなっちゃうの……!)
リーダー「分かるぞ、キサマが恐怖しているのが!」
リーダー「闇とは全てを呑み込む、恐怖と絶望の象徴!」
リーダー「闇魔法を得意とするこの私は、いわばその代弁者!」
リーダー「私はこの闇魔法で破壊を尽くし、再び『破壊魔法結社』を再興してみせる!」
リーダー「まずは小娘……キサマから闇の彼方に葬ってやろう!」
女魔道士(ダ、ダメ……どんどん心が蝕まれていく……! こ、怖い……!)
弟子「…………」
リーダー「私の闇エネルギーを濃縮した、この魔法で朽ちるがいい!」ズォォ…
リーダーの両手から、黒い大蛇のような魔法が放たれた。
女魔道士「いっ、いやぁっ!」
弟子「させない!」バッ
女魔道士「なにやってんの!?」
弟子「大丈夫、君はボクの後ろにいて!」
まもなくリーダーの魔法が、弟子を呑み込んだ。
女魔道士「ああっ……!」
リーダー「順番が変わったか。闇に全身を黒く蝕まれて朽ちるがいい……」
ズオォォォ……
ところが──
弟子「あいにく……まだ朽ちていませんよ」シュゥゥ…
リーダー「──な!?」
女魔道士(よ、よかった……!)
弟子の体には傷一つついていなかった。
弟子「そんな魔法じゃ……ボクは倒せませんよ」
リーダー「たしかに命中したはずだ……! いったいどうなっている!?」
リーダー「なにかの間違いだ! ええい、お前たちも闇魔法を撃て!」
リーダー「この中なら、威力が増幅するんだからな!」
残党A「は、はいっ!」サッ
ウォォォン…… グォォォン…… オォォォン……
残党たちが一斉に闇魔法を撃つが──
弟子「無駄ですよ」シュウウ…
女魔道士(すっごい……!)
リーダー「闇魔法を完全に無効化するだとォ……!?」
リーダー「な、なぜこんなマネができる!? キサマは私以上の闇魔法使いなのか!?」
リーダー「私の方が闇を深く理解しているはずだ!」
弟子「…………」
弟子「闇に呑まれてるあなたたちなんかが、ボクに敵うわけがない」
弟子「あなたたちみたいな人がいるから──」
闇賢者『闇はたしかに暗いし怖いかもしれんが、闇に善悪はない』
闇賢者『なぜ闇魔法使いはこうも冷遇されるんだ……!』
闇賢者『ククッ、世間の視線が突き刺さるな。もっとも、いつものことだがな』
闇賢者『闇のゆるキャラ『やみっしー』だッ!!!』
闇賢者『よし……いつもいってるが、闇に呑まれるなよ』
弟子「師匠が……」
弟子「師匠がッ!」
弟子「苦労するハメになるんだ……ッ!」
弟子(闇を恐れず、支配しようともせず、受け入れ、溶け込む……!)ズズズ…
リーダー(なんだ!? 心なしか、小僧の体が“闇の霧”と同化しているような……)
弟子「はああああ……!」バッ
ズオォォォ……!
弟子が両手を天にかざすと、闇の霧が頭上に集まり始めた。
集められた霧は巨大な黒い球体と化す。
残党A「う、うわぁっ! あんなことできるのか……!?」
リーダー「私の魔法が……! そ、それを、どうするつもりだっ!?」
弟子「分からないんですか? 決まってるでしょう?」
残党A「げぇっ!? あんなものぶつけられたら……!」
「ひいいっ!」 「逃げろぉっ!」 「もう破壊魔法結社なんかどうでもいいっ!」
ダダダッ……!
リーダーを見捨てて、我先にと逃げ出す残党たち。
一人残されたリーダーの心も、すでに弟子が操る闇に呑まれていた。
リーダー「わ、分かった! 魔法陣は解除する!」ガタガタ…
リーダー「な、だから……それをぶつけるのはやめてくれっ! 頼むっ!」ガタガタ…
弟子「うるさいっ!」ズオオ…
弟子「ここで見逃したら、あなたはきっとまた悪さをする!」
リーダー「や、や、やめてええっ!」
弟子「覚悟しろ……!」
リーダー「や、やだぁぁぁっ!」
パシッ!
弟子の頬に平手打ち。
弟子「!」
女魔道士「なぁ~にやってんの。あなたまで闇に呑まれてどうするの?」
女魔道士「闇賢者さんにいわれたこと、もう忘れたの?」
弟子「ハ、ハハ……そうだったね」
リーダー「ひ、ひいいっ……」ガタガタ…
女魔道士「さぁ、闇の霧もなくなったし、あいつを捕えちゃいましょ!」パァァ…
弟子「うん!」
闇と光の弟子二人 対 破壊魔法結社残党
弟子二人の勝利にて決着──
同時刻──
< 大通り >
魔獣「ギャオオォォォォンッ!」ガクッ…
光司祭「再生しない……! どうやら、あの二人がやったようだな!」
闇賢者「クックック、だからいっただろう?」
光司祭「フフッ……さぁ決めるか! といっても町を壊さない程度にな」
光司祭「聖なる女神よ!」キィィィン…
女神『わらわになにか用か……?』
闇賢者「お前が女神なら、俺も合わせるか……出でよ、邪神!」ズォォォン…
邪神『キサマ、あれだけワシに文句を垂れておいて、よく呼べたな!』ギロッ
闇賢者「また根に持ってたのか……」
邪神『当たり前だ! ……まぁ、今回は特別にやってやるがな! 命じろ!』
光司祭&闇賢者「敵を討て!」バッ
ズドドドドォォォンッ……!!!
女神『ではさらばだ』スゥゥ…
邪神『次呼ぶ時は、お茶ぐらい出すのだぞ! レモンティーなんかがいいな!』スゥゥ…
シュゥゥゥ……
魔獣「ピーピー……」トコトコ…
闇賢者「これが魔獣の正体か……ずいぶん可愛いものだ」
光司祭「なぜ手加減をした……? 邪神召喚の威力はあんなものではないだろう……」
闇賢者「それはお前も、だろうが」
光司祭「私は殺生は好まないからだ。なるべくなら、な」
闇賢者「模範的な回答だ……実にお前らしい」
闇賢者「俺は……魔法を悪用する輩の被害にあったこいつが他人に思えなくてなぁ」
闇賢者「ついつい手心を加えてしまったよ」
魔獣「ピーピー……」トコトコ…
闇賢者「!」
光司祭「おっ、懐かれているぞ。闇の賢者と魔獣、お似合いじゃないか」フフッ…
闇賢者「抜かせ。どれ……家で飼ってやるか」クククッ…
< 魔法陣 >
戦意喪失したリーダーを魔法で拘束し、魔法陣を制圧した二人。
女魔道士「こいつを憲兵に引き渡せば、いずれ他の連中も捕まるでしょ」
女魔道士「さぁて──」
弟子「うっ……!」ガクッ
弟子「うぐぅ……」ゲホゲホッ…
女魔道士「ちょっと、どうしたの!?」
弟子「彼らの闇魔法のダメージが……やっぱり大きかったみたい、だ」ゲホッ
女魔道士「ウソ、無傷で受け流してたじゃない!」
弟子「いや、あれは表面上は受け流したように見えただろうけど」
弟子「ダメージ自体の遮断は完璧じゃなかったんだ」
女魔道士「どういうこと?」
弟子「例えるなら、炎魔法を浴びて火傷は負ってないけど熱は受けた……って感じかな」
弟子「師匠なら……全部受け流せたんだろうけどね。ボクにはやっぱり無理だった」ゲホッ
弟子「それに……さっきの闇の霧もうまく集めたはいいけど」
弟子「このダメージじゃ……あれ以上どうすることもできなかった……」
女魔道士「なぁんだ。すごく怒ってはいたけど、ハッタリみたいなものだったの」
弟子「うん、ハッタリだった」ニコッ
女魔道士「!」ドキッ
女魔道士「じゃ、じゃあ回復しないとね」パァァ…
弟子「女魔道士さんは、回復魔法まで使えるの……?」
女魔道士「当たり前じゃない。むしろ攻撃魔法よりずっと得意よ」パァァ…
弟子の“目には見えないダメージ”が癒されていく。
弟子(ああ……なんて温かい光なんだ……)
女魔道士「どう? 大丈夫? ……まだ痛みがある?」
弟子「おかげさまで回復したよ。ありがとう!」スクッ
女魔道士「さ、行きましょ! 先生と闇賢者さんが待ってる!」
< 大通り >
闇賢者「クゥ~ックックッ……でかしたぞ、二人とも」
闇賢者「──といいたいところだが」
闇賢者「魔力供給が途絶えたのは、19分38秒後だった! オーバーしすぎだ!」
弟子「す、すみませんっ!」
女魔道士「ごめんなさいっ!」
光司祭「だが15分経過し、私が町を壊してでも大魔法でケリをつけようといった時──」
光司祭「“もう少し待ってやってくれ”といったのは、誰だったかな?」
闇賢者「ちぃっ、余計なことをいうでないわ!」ギロッ
弟子(師匠……! ボクたちを信じてくれてたんですね……)
魔獣「ピィーピィー」トコトコ…
弟子「あれ、可愛い。この動物はいったい?」
闇賢者「ああ、あの魔獣だ。ウチで飼うことにした」
弟子「え!?」
そして──
ワイワイ…… ガヤガヤ……
「さっすが光司祭様!」 「魔獣を退治してくれたんですね!」 「あなたは英雄だ!」
光司祭「当然のことをしたまでです。それより怪我人が出なくてよかった……」ニコッ…
「闇賢者もサンキュー!」 「少しだけ見直したぜ」 「キャンディやろうか?」
闇賢者「クックック……どういたしまして、といっておこうか」ニタァ…
弟子「町の人に喜ばれて、師匠もすごく嬉しそうだ……!」
女魔道士(あんなんで嬉しいんだ……)
弟子「あ、そうだ! 女魔道士さん、今日はありがとう!」
女魔道士「!」ギクッ
女魔道士「……別に」プイッ
弟子(やっぱり……嫌われたまま、か……)
レスありがとうございます
今回はここまでとなります
一ヶ所気づいたので訂正です
>>126
闇賢者「また根に持ってたのか……」
↓
闇賢者「まだ根に持ってたのか……」
その夜──
< 闇賢者の家 >
闇賢者「クックック、結局嫌われたまま、か」
弟子「はい……」シュン…
闇賢者「一つアドバイスをしておくと」
闇賢者「闇の霧を集めたのがハッタリだとバラしたのは、失策だったなぁ」
闇賢者「そこでこれがボクの実力なんだ、スゴイだろ、とでもいっておけば──」
闇賢者「女魔道士もお前の強さに惚れていたにちがいあるまい」
弟子(やっぱりそうだったのかなぁ……)
闇賢者「とはいえ正直は悪いことではないし、済んでしまったことは仕方ない」
闇賢者「いずれまたチャンスはくるだろう」
弟子「……はい」
闇賢者「それに、今回のことに関してはきっぱりいわせてもらおう」
闇賢者「よくやった」ニタァ…
弟子「!」
闇賢者「破壊魔法結社の残党を潰せたし、闇魔法のイメージも多少上がった」
闇賢者「なにより……お前の成長が嬉しい」
闇賢者「あの残党のリーダーは、魔法使いとしては中の上クラスにはあったであろう」
闇賢者「それをハッタリとはいえ、退けたのだからな……」
弟子「師匠……!」ウルッ…
闇賢者「なにも泣くやつがあるか! なんか普段、俺が褒めてないみたいではないか!」
弟子「あっ……!」ゴシゴシ…
弟子「師匠こそ、ボクたちを信じてくれてありがとうございました!」
闇賢者「バ、バカ……そんなことはどうでもよいことだ」
弟子「それに──」
弟子「ボクは感動したんです! 師匠に!」
闇賢者「……俺に?」
弟子「ボクが師匠を呼びにいった時──」
弟子「光司祭さんのために、師匠はすぐ動いてくれたじゃないですか!」
弟子「ボク、正直いって師匠は光司祭さんを嫌ってると思ってましたから……」
闇賢者「なにいっている。俺はアイツのことが嫌いだよ」
闇賢者「いや、嫌いなんてものではない……大嫌いだ」
弟子「え」
弟子「じゃあなぜ、すぐに光司祭さんのところに向かったんですか?」
闇賢者「いまいましいが……アイツには借りがあったからな」
闇賢者「かつて破壊魔法結社が滅びた時、憲兵どもが俺も一味だと決めつけてきたのだ」
憲兵『一味だったんだろ? 認めちまえって』
闇賢者『いや、断じてちがう』
憲兵『んじゃなんで賢者なのに、通い弟子ですら一人もいないんだよ。おかしいだろ』
闇賢者『ぐ……』
憲兵『しかも、こんなひっそりと暮らしてるしよ。なんか悪さしてんだろォ?』
闇賢者『悪さはしてないが……町の人にはなにかと避けられておるからな』
憲兵『ほら、避けられるには避けられる理由があるんだよ。認めちまえよォ!』
闇賢者『なんだと……!』
闇賢者「──という具合になァ」
弟子「ひどいいいがかりだ……!」
闇賢者「破壊魔法結社への対処について、官憲もかなりのバッシングを受けていたし」
闇賢者「少しでも逮捕者を増やして、手柄を水増ししたかったのだろう」
闇賢者「もういっそ無実の罪を認めてしまうか、憲兵を倒して逃げるか──」
闇賢者「その二択しかなくなった時、光司祭に助けられた」
闇賢者「俺が破壊魔法結社の一員ではないことを、理路整然と証明してくれた」
闇賢者「聖教会のホープであり絶大の信頼があった奴の発言は、まさに鶴の一声だった」
闇賢者「もし、奴がいなければ……俺は今頃牢獄にいるか、指名手配犯だったろう」
弟子(光司祭さんが、師匠を……)
闇賢者「──というわけだ」
闇賢者「俺が奴を助けたのは、借りを返したかっただけのことだ」
闇賢者「そうでもなければ、だれが奴と共闘などするものか」
弟子(なるほど……そういうことだったのか……)
魔獣「ピーピーッ!」トコトコ…
弟子「あ、ごめんごめん。すぐご飯にするからね!」
その頃、光司祭たちが滞在している宿屋では──
< 宿屋 >
女魔道士「…………」
女魔道士(ふん……)
女魔道士(ちょっとかっこよかったと思ったらやっぱりへばっちゃって)
女魔道士(ハッタリだよ、なんて笑っちゃってさ)
女魔道士(わざわざ自分からいう?)
女魔道士(あたしが今まで出会った同世代の魔法使いは、強さを誇示する人ばかり)
女魔道士(先生だって昔はそうだったっていってたっけ……)
女魔道士(なのにアイツは……)ドキッ…
女魔道士(あ、やだ、なにこれ!?)ドキドキ…
女魔道士「なんでよ~、なんでなの~!?」ドキドキ…
光司祭「?」
それから二日後──
< 商店街 >
光司祭「おや、弟子君じゃないか」
弟子「光司祭さん! 今日は女魔道士さんはご一緒じゃないんですか?」
光司祭「ちょっと気分がよくないみたいでね……ま、心配はないよ」
光司祭「あと……闇賢者にはよろしくいっといてくれ。助かった、と」
弟子「いえ……お礼をいわなきゃならないのはボクたちの方です!」
光司祭「ん?」
弟子「光司祭さんは昔、師匠の冤罪を晴らしてくれたとか……」
弟子「そういうことでもなきゃ共闘なんてゴメンだ、なんていってましたよ」
弟子「師匠は光司祭さんをライバル視してますから……(今では一方的に、だけど)」
光司祭「フフフッ、それは私も同じさ」
弟子「同じ?」
光司祭「私も昔アイツに助けられたことがあってな……そうでなきゃ放っておいただろう」
弟子「師匠に助けられた……?」
光司祭「魔法学校時代、私は光の魔法使い、アイツは闇の魔法使いを目指していたが」
光司祭「光魔法に特化した魔法使いを目指すには、聖教会への入会が必須だ」
光司祭「あそこほど光魔法の研究が進んでいる団体は、他にないからね」
光司祭「もちろん、私も卒業後の進路は聖教会を希望していた」
光司祭「だが、聖教会に入会にするには厳しい条件がある」
光司祭「経歴に、どんな小さな傷があってもいけないんだ」
光司祭「例えば、魔法学校を停学になるなど、絶対あってはならない」
弟子(そんなに厳しいのか……)
光司祭「しかし……ある時、私はやらかしてしまった」
光司祭「魔法学校の高価な彫刻を、うっかり魔法で壊してしまったんだ」
弟子「!」
光司祭「発覚すれば、数日間の停学は免れない……」
光司祭「もはや、聖教会への入会は絶望的になったと覚悟した──その時だった」
~ 回想 ~
闇生徒「この罪……俺が被ってやろう」ニタァ…
光生徒「なにいってるんだ! そんなことさせられるか!」
光生徒「お前に助けられるくらいなら、聖教会に入れない方がずっとマシだ!」
闇生徒「勘違いするなよ……?」ジロッ
闇生徒「俺はこんな下らん形でお前と決着したくないだけだ」
闇生徒「今の時代、聖教会に入らず光魔法を極めるのはほぼ不可能だしな」
闇生徒「それに少しぐらいの前科があった方が、俺も闇魔法使いとしてハクがつく」
光生徒「しかし……!」
闇生徒「ただし、これだけはいっておくぞ」
闇生徒「以後、お前は最強の光魔法使いを目指せ! 絶対に道を逸れるな!」
闇生徒「むろん……俺も最強の闇魔法使いになってみせるがな」ニタァ…
光生徒「礼は……いわないぞ……」グッ…
闇生徒「いらん、気持ち悪い」
~ 現在 ~
光司祭「悔しいが……アイツがいなければ、今の私はなかっただろう」
弟子(二人にそんな過去があったなんて……)
光司祭「それともう一つ、君は『なぜ私がこの町に来たか?』といってたね?」
弟子「はい」
光司祭「答えは簡単……私はアイツと勝負して、勝ちたかったんだよ」
弟子「え!?」
光司祭「アイツが私に勝ちたいと思ってるのと同様──」
光司祭「私もアイツに勝ちたい。チャンスがあれば競って、叩きのめしたい」
光司祭「お互いめったに会わなくなった今でも、常々そう思っている」
光司祭「だからやってきた……それだけのことさ」
光司祭「それに──」
光司祭「私の直弟子ではない君だからいうが……実は、私は限界にきていたんだ」
弟子「限界……?」
光司祭「光魔法使いは常に尊敬され、模範的な存在でなければならない」
光司祭「道を少々だらしない格好で歩くことすら許されない」
光司祭「落とし物を拾っただけで、感謝され、地面にひれ伏されることだってある」
光司祭「私の弟子たちも、おそらく私を“魔法使いの理想像”として見ているだろう」
光司祭「自分で選んだ道とはいえ、苦痛だった……」
光司祭「なぜ光魔法使いは、こうも人々から敬われてしまうのか、と……」
弟子(師匠とはまるで正反対だ……)
光司祭「君たちの闇魔法パフォーマンスのことを知ったのは、そんな時だった」
光司祭「私の中に、魔法学校時代の情熱がみるみるよみがえった」
光司祭「また闇賢者と勝負したい、そして勝ちたい、と……!」
光司祭「あんな気分になるのは、本当に久しぶりのことだったよ」
光司祭「そして……この町で光魔法のパフォーマンスをしているうちに」
光司祭「私は初心にかえることができた」
光司祭「もっと人の役に立ちたい、闇賢者に負けないような魔法使いになりたい、と」
光司祭「それに、後進も決して私に憧れているだけではない……」
光司祭「着実に育っていると分かった」
光司祭「女魔道士や、君のようにね。いや、他の弟子たちだってそうなのだろう」
弟子「光司祭さん……」
光司祭「君たちのおかげで、私は大切なものを取り戻せたんだ。ありがとう」
弟子「と、とんでもないです!」
弟子「ボクは今回たまたま役に立っただけで、いつもは全然ダメですし……」
弟子「それこそ、もっと師匠の役に立ちたいと思ってるんですが……」
光司祭「……いや」
光司祭「きっと君は、闇賢者をも救ったんだよ。それもずっと前からね」
弟子「ボクが……ですか?」
光司祭「私はね、闇賢者が闇魔法のイメージアップ運動を始めたと知った時──」
光司祭「最初は耳を疑ったよ」
光司祭「アイツは闇魔法のイメージが悪いのなら悪いで」
光司祭「“悪いと思ってる奴が愚かなんだ”とあざ笑うタイプだったからな」
光司祭「たとえ私への対抗心があったとしてもね」
光司祭「それがなぜ……変われたのか。おそらく、君のおかげだろう」
光司祭「君という後継者を得たから、アイツも変わることができた」
光司祭「君がいずれ巣立つ時のために、少しでも闇魔法のイメージを……とね」
弟子「師匠が……ボクのために……?」
光司祭「ま、私の買い被りすぎかもしれないがな」フフ…
光司祭「私たちはもうすぐこの町を出るが、あと何度かは会えるだろう」
光司祭「時間を取らせてすまなかった。それじゃまた」
弟子「貴重なお話、ありがとうございました!」
< 公園 >
光司祭と別れてから、弟子は公園に立ち寄っていた。
弟子(ボクたちがパフォーマンスしてないと、ここも静かなもんだな……)
弟子(あの二人はきっと、ずっとああやって競い合って助け合ってきたんだろうな……)
眼鏡男子「あ、あの」
弟子「うん?」
眼鏡男子「さっき人に聞いたんですが、あなたは闇賢者さんのお弟子さん、ですよね?」
弟子「うん、そうだけど」
弟子(見たことない子だな……別の町から来たのかな?)
眼鏡男子「実はぼく、むかし闇賢者さんに『いじめっ子を呪い殺してくれ』って」
眼鏡男子「手紙を送ったんです」
弟子「手紙を……?」
弟子(そういえばそんな話があったな……。この子がそうだったのか……)
眼鏡男子「そしたら──」
眼鏡男子「闇賢者さんからすぐお返事がきました」
眼鏡男子「呪い殺すよりずっといい方法を教える、と」
眼鏡男子「びっしりとイジメへの対処法が書いてあって……」
弟子「!」
眼鏡男子「殴られたらこうしろ、とか、無視されたらこうしろ、とか」
眼鏡男子「そして、最後に──」
眼鏡男子「『どうしようもならなくなったら、訪ねてこい。絶対何とかする』」
眼鏡男子「とまで書いてあって……」
弟子(師匠……)
眼鏡男子「おかげでぼく……ぼくには味方がいるんだって、すごく楽になって……」
眼鏡男子「どうにかこうにか、イジメを克服できたんです」
眼鏡男子「今はぼく、学者めざして勉強してます!」
眼鏡男子「これからすぐ、学校のある都市に行かなきゃならないんですが──」
眼鏡男子「ぜひお礼をいっておいて下さい!」
弟子「……分かった。伝えておくよ!」
弟子「だけど機会があったら、直接いった方が師匠も喜ぶと思うよ」
弟子(喜びすぎてどうにかなっちゃう気もするけど)
眼鏡男子「はいっ!」
公園の通行人から、ちらほらとこんな声が聞こえてきた。
「ちぇっ、今日は闇賢者のパフォーマンスは無しか」 「光司祭様に会いたかったわ~」
「ライトガールちゃん可愛いよな」 「やみっしーもなかなか面白いぜ?」
「やっぱり光魔法だよなぁ~」 「いやいや闇魔法だって意外と……」
弟子(いつの間にか、ボクたちもこんなに認められてたんだ……)
弟子(師匠……)
弟子(あなたは決して光司祭さんに負けてませんよ!)
弟子(…………)
弟子(……そうだ!)
< 闇賢者の家 >
闇賢者「交流会?」
弟子「はい、あの二人ももうすぐ町を出てしまいますし」
弟子「最後に四人で盛り上がりましょうよ!」
闇賢者「まぁ……よかろう」
< 宿屋 >
光司祭「今度、闇賢者の家で交流会をやるそうだ。女魔道士も来るだろう?」
女魔道士「え……」
光司祭「最近体調が優れないようだし、無理にとはいわないが──」
女魔道士「いえ、行きます、行きますっ!」
交流会当日──
< 宿屋 >
着ていく服が決まらず、四苦八苦する女魔道士。
女魔道士「う~ん……」
女魔道士(これもいいけど、こっちも捨てがたい……どうしよう……)
光司祭「ずいぶん悩んでいるようだが」
光司祭「気心の知れた相手なんだから、あまり着飾らなくていいんだぞ」
女魔道士「は、はいっ!」
女魔道士(なんであたし……こんなに時間かけてるんだろ……)
< 闇賢者の家 >
光司祭「おジャマするよ」
女魔道士「お、おジャマします」ドキドキ…
闇賢者「おお、来たか」
やみっしー「やぁ、いらっしゃい! ボク、闇の妖精やみっしー!」バタバタ…
光司祭(フフフッ、弟子君か)
女魔道士「…………」ギロッ
やみっしー「!?」ビクッ
女魔道士「あたしはあんなに悩んだのに、なんであなたはやみっしーなわけ!?」グイッ
やみっしー「ご、ごめんなさい……ウケると思って……」
女魔道士「んもう、悩んだあたしがバカみたいじゃない!」プイッ
闇賢者「…………」
ワイワイ……
酒を飲む闇賢者と光司祭、ジュースで楽しむ弟子と女魔道士。
闇賢者「ウイ~……お前たちも飲めよ」
弟子「ボクたちはまだ、お酒は飲めない年齢ですから……」
闇賢者「なにい!? なんてこった……ウイィ~……」
光司祭(そういやコイツ、あまり酒強くないんだった……。すっかり忘れてた……)
闇賢者「クゥ~ックックッ……まぁいいか」
闇賢者「ところで女魔道士ちゃん」
女魔道士「はい」
闇賢者「光司祭みたいなカタブツとじゃ、毎日退屈だろう」
闇賢者「どうだ、ウチに来ないか?」
女魔道士「えっ?」
闇賢者「俺と弟子が……たっぷり楽しませてやるぞォ~?」ヒック…
女魔道士「な……!」
弟子「師匠、なにいってるんですか!」
女魔道士「あたしは……今でも十分楽しいですから」
闇賢者「ふぅ~ん。だが、刺激は足りんだろう?」
闇賢者「そうだ、俺のエロ本コレクションを見せてやろうか? 弟子から聞いたろ?」
女魔道士「あたしは興味ないので……」
光司祭(どうしたんだ、闇賢者のヤツ……酔いすぎだ)
光司祭(それに、女魔道士も妙に大人しい)
光司祭(いつもなら、こんなこといわれて黙っている子じゃないのに……)
闇賢者「よぉ~し、今すぐ持ってくるか。俺のコレクションをな……」ガタッ
弟子「…………」
光司祭「オイ、悪ふざけもその辺に──」
弟子「師匠、いい加減にして下さいっ!!!」
闇賢者「ウ~イ……? クククッ……うん? 今お前、俺に怒鳴りつけたな?」
闇賢者「弟子、お前に俺と戦う度胸があるのかぁ……?」ギロッ
弟子「やっと師匠や闇魔法が……少しずつ認められてきたんです」
弟子「だから、師匠が間違っていることをしたら……ボクが止めてみせます!」
女魔道士「…………!」ドキッ…
闇賢者「ほぉう? いい度胸ではないか。よぉ~し、さっそく──」ズォォ…
光司祭「よせ、闇賢者! 弟子君、女魔道士を連れて外に出ていてくれ!」
弟子「分かりましたっ! さ、行こう!」ギュッ…
女魔道士「う、うん!(手、握られちゃった……)」
光司祭「まったくだらしない奴だ……見損なったぞ」
闇賢者「しかし、こうでもしなきゃ……なァ」
光司祭「?」
闇賢者「男らしさを見せるチャンス、なんてそうあるもんじゃない」
闇賢者「今のアイツなら、俺に反抗するぐらいできると思ってたしなぁ……」ヒック…
光司祭「お前……わざとか!」
光司祭「あの二人を仲良くさせるなら、もっといい方法がいくらでもあったろうに……」
闇賢者「いや……飲みすぎたのも事実、だ……」
闇賢者「弟子と暮らすようになってから、酒は控えてた、し……」
闇賢者「闇に呑まれないより、酒に呑まれない方が、むず、かしい……」
闇賢者「うっ!」ウプッ…
光司祭「うわっ! バ、バカ、やめろっ! トイレ行けっ!」
魔獣「ピーピーッ!」トコトコ…
光司祭「あっ、こっちは危険区域だ! 来ちゃいけないッ!」
< 家の外 >
弟子「ふう……ごめんね。師匠があんなことするなんて」
弟子「普段、酒なんて飲まないからそれで──」
女魔道士「全然気にしてないわ。だから、あなたも気にしないでいいわよ」
弟子「…………」
弟子「君は師匠に対してなにも言い返さなかったけど──」
弟子「もしかして、ボクが師匠の悪口はいうなって頼んだから?」
女魔道士「!」ギクッ
女魔道士「ち、ち、ちがうわよ! ぜ、ぜ、全然ちがうわ!」
弟子「君は……優しいんだね」
女魔道士「!」ドキッ
女魔道士「や、やめてよっ! そ、そんなんじゃ、ないってばっ!」ドキドキ…
弟子(い、今しかない……!)
弟子「あの……」
弟子「光司祭さんと君はもうすぐ、この町を去っちゃうけど……」
弟子「これからも……ボクたち、会えないかな?」
女魔道士「!」ドクン…
女魔道士「そ、それぐらいいいわよ!」ドキドキ…
女魔道士「先生の家も、そこまでこの町から遠いわけじゃないし!」ドキドキ…
弟子「よかった! だってボクは君と──」
女魔道士「な、な、なに!?」ドクッドクッ…
弟子「…………」
女魔道士「は、早くいってよ!(心臓バクハツしそう!)」ドクッドクッ…
弟子(互いに競い合い、助け合い、認め合い、高め合う……)
弟子「師匠と光司祭さんみたいな関係になりたいんだ!」
女魔道士「は……」
弟子(い、いった……! これって告白みたいなものだよな……!)ドキドキ…
女魔道士(え、なにこれ……)
女魔道士(あの二人みたいにってことは、つまり勝負を挑まれてるってこと?)
女魔道士「フ、フフフ……」
女魔道士「いいわよ、なってあげる!」
弟子「本当!?」
女魔道士「あなたにだけは、絶対負けないわよ! 絶対にね!」
弟子「ボクだって! これからもよろしくね!」
二人をかげながら見つめる師匠二人。
闇賢者「クックック……弟子め、うまくやったではないか。狙い通りだ」ニタァ…
光司祭「心なしか、重大なすれ違いが起こっているようだがな……」
光司祭「あの二人を見ていると、次の世代の魔法使いも着々と育っているのを感じるな」
闇賢者「年寄りくさいことを……俺たちとてまだ若いではないか」
光司祭「フフッ、まぁな。魔法使いとしても指導者としても、絶対お前には負けないぞ」
闇賢者「クククッ、望むところ──うっ!」ゲプッ…
光司祭「ゲッ、またか!」
光司祭「お~い、二人とも! 悪いが手伝ってくれ! 私一人じゃ手に負えない!」
魔獣「ピーピーッ!」バタバタ…
弟子「大丈夫ですか、師匠!」
女魔道士「んもう、しょうがないんだから!」
闇賢者「ふう、だいぶ楽になった……。クゥ~ックック、飲み直しといくか……!」
弟子「えぇ~!? やめといた方がいいですよ! いやホントに!」
女魔道士「いいんじゃない? また変な酔い方したら、今度は容赦しないけど!」
光司祭「闇賢者……お前はもう水以外飲むな」
技や知識、信念に生き方と、師から弟子に受け継がれるものは数多い。
特にこの四人に関しては、ライバル関係も受け継がれていくことになりそうだ──
~ おわり ~
これで完結となります
本当にありがとうございました!
おやすみなさい!
闇賢者「クゥークックック。俺の信頼者も増えてきたではないか...」
弟子「そうですね!」ニコッ
光司祭「...おい」
闇賢者「…なんだ?」
光司祭「あの二人のことだが…」
闇賢者「クゥークックックッ。エッチ系なら手伝ってやるか。」ニタァ
光司祭「な…なにを!(\`д´\)」怒り
闇賢者「おはよう」
弟子「コーヒーです!」
闇賢者「きがきくではないか」
ああすまん闇賢者カッコイイ抱きしめたい
女魔道士「もーそれだからモテなんいのよ弟子君!カワイソウだからケーキ作ってきたげる☆」
弟子「いらないよ!///」
なぞのそうぞうず
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