女「死んじゃってゴメン」少女「ほんとにゴメンて思ってます?」 (28)

女「いや、実はそれほどでもない」

少女「カスがよ」

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女「だってだって、人はいつか必ず死ぬんだもん。しょうがなくない?」

少女「『しょうがない』という言葉は、あとからいくらでも取り返しがつく立場でだけ許されるんですよ。死は不可逆です」

女「まあ、そうかもしれないけど」

少女「……お姉さん、もしかしてこの期に及んでまだどうにかなると思ってるんですか?」

女「どうにかって、もうどうにもならないよ。どうにもならないからどうにでもなーれって感じで」

少女「そうですよ、もう全部終わりです」

女「……」

少女「だって、あなた死んだんですから」

女「うん、それはわかってるよ」

少女「ほんとにわかってますか?」

女「わかってるよ! 死んだんでしょ、わたし」

少女「はい、死にました。そりゃあもう、見るも無残に腐れ果てて――」

女「わー! わー!! わたしの死体の様子とかはいいから! ね?」

少女「そうですか」

女「わたし死んじゃったんだよねー……。うーん」

少女「おや? やっぱり未練とかある感じですか? そうは見えませんでしたけど」

女「いや、逆に未練とかなーんにも無いのが未練というか」

少女「だと思いました。私からすれば、もはや緩慢な自殺にしか見えませんでしたしね。生前のあなたの生活は」

女「そんなに!? ……いや、そうかも」

少女「どうしてあんな生活してたんです?」

女「……とくに理由があったわけじゃないよ。ただ、やる気がなかったんだ。生活というものに対してさ」

少女「それは、死ぬほどやる気が無かったんですか?」

女「うん、死ぬほどやる気が無かった」

少女「お姉さんは、やっぱり救えないおろかものですよ」

女「ごめんねぇ」

少女「基本的に昼夜は逆転。ほとんど引きこもりで、運動などもってのほか。食事はだいたいピザポテト一袋とかで、何も食べない日もしばしば。こんなの死ぬに決まってますよ」

女「いやーまいっちゃうね。そりゃあ長生きするつもりは無かったけどさ、まさかこの歳で死ぬとはね」

少女「栄養失調をナメちゃいけませんよ。あれは死に至る病です」

女「肝に銘じておくよ。もう銘じる肝も無いけどね」

少女「そうですね。全部手遅れです」

女「わはははは」

少女「あははははっ!」

女「なにわろてんねん」

少女「お姉さんこそ」

女「それで、わたしは死んだわけだけど、キミはどうしてこんなとこにいるの? もしかしてもしかして、キミも死んだの?」

少女「バカ言わないでください。私はもともとこっち出身です」

女「あ、そうなんだ」

少女「……驚かないんですね」

女「まあ、こうなってみたらね、もう驚くもなにも無いっていうかさ。そういうもんだなあとしか」

少女「それもそうだ」

女「それに、前々からなーんかただ者じゃないと思ってたよ。なんとなく」

少女「そういうとこだけ鋭いんですから。惜しい人を亡くしましたね、地上は」

女「いやー、それほどでもないって。ほめてもなにも出ないよお」

少女「ええ、褒めてはないです」

女「こっち出身っていうけど、どうして日本に来てたの? なんかの特殊任務とか?」

少女「そんな御大層なものじゃないですよ。しょせんは平社員なので。地上にいたのは、ただの出稼ぎです」

女「出稼ぎって」

少女「地上では通貨安がひどかったみたいですけどね、こっちだってひどいもんですよ。日毎に物価が上がる上がる」

女「はぁー、なるほどね。どこに行っても下級国民の悩みは変わらないね」

少女「全くです」

女「ちなみにさ、こっちのお金ってなんなの? 円?」

少女「マルクといいます」

女「うーん、なんとなく弱そうだ」

少女「最近じゃ、btc決済のほうが主流ですけどね」

女「え、こっちにもあるんだ」

少女「ちょっと前に、百万btc抱えて堕ちてきた人がいましてね、それ以来ちょっとしたブームです」

女「へえ、サトシナカモトって亡くなってたんだ」

少女「焦熱地獄の上にタービン乗せてマイニングするのが産業の一つになっちゃってますね」

女「死後の世界って思ったより俗っぽいんだねえ」

少女「正直、ちょっと不健全な気もします」

少女「さーて、あんまり長居してもなんですし、本題に入りましょうか」

女「本題って?」

少女「というわけで、判決を言い渡します。心して聴くように」

女「あ、はい。そういうことね。正座したほうがいいかな」

少女「主文。被告人を無期禁固刑に処す。以上です。お姉さんは、以後永遠にこの虚無の空間で過ごしていただきます」

女「はあ……。重いような軽いような、そんな感じだね」

少女「度重なる刑罰の改変で、もう無期禁固しか残ってないんですよ。だから、有罪か無罪かくらいの差ですね」

女「そうなの!? てっきり血の池とか針の山とかあるもんだと」

少女「まあ、それも昔の話ですよ」

女「やっぱり地上の伝承もあてにならないもんだね」

少女「広報担当の部署がもっと頑張ってくれたら良いんですけどね。もっと死後の裁きの恐ろしさを喧伝してこそ、人はよく生きようと思うものです」

女「広報担当なんてあるんだ」

少女「地上ではずいぶんと"死"が遠くなりました。一生懸命生きようなんていう殊勝な人は、もうほとんどいません」

女「わたしとかね」

少女「はい。と言っても、お姉さんほどの命の無駄づかいは初めて見ましたけどね」

女「うーん、手厳しい!」

少女「なにか、ご質問は」

女「山ほどあるけど」

少女「ええ、良いですよ。いくらでも付き合います」

女「え、良いんだ。太っ腹だあ」

少女「無期禁固刑の受刑者は、刑の執行前にいくらでもおしゃべりを聞いてもらう権利があるんですよ。そういう慣習です」

女「それは良心的だね! じゃあこのまま百年くらいお話しようよ」

少女「はい、構いませんよ。その後の永遠の虚無にくらべれば、百年でも五億年でも誤差です」

女「……そうなんだ。そう言われてみると、重い罰だね」

少女「ええ。阿鼻だろうが叫喚だろうが、虚無にまさる刑罰はない、というのが最新の見解です」

女「はあ?」

女「じゃあ、質問」

少女「はい」

女「キミは、結局何者なの?」

少女「そこから聞くんですか」

女「まあ……いい機会だからね。お互い自分のこと話すほうじゃなかったわけだし」

少女「うーん、と言ってもそんなに特筆すべきことは無いですよ。ちょっと地上でバイトしてただけの、一般獄卒です」

女「ごくそつ……。ああ、獄卒ね。まあ、そんなところだよね」

少女「それ以外は、普通の女の子だと思っていいですよ」

女「わたしのお隣さんで、しょっちゅうわたしの部屋に入り浸って、さんざっぱらゲームして帰っていくだけの中学生女子、っていうくらいしか知らないよ」

少女「それで十分ですよ。そして、そんな日々ももう終わりです」

女「そうだったね……」

少女「……」

女「……」

少女「ちなみに年齢はもうちょっとで五百億歳です。中学生じゃないですよ」

女「マジで!!??」

少女「ふふふっ」

女「じゃあさ、じゃあさ、獄卒ってどんな仕事してるの?」

少女「改めて訊かれると難しい質問ですね……。まあ、地獄の雑用とおもっていただければ」

女「雑用ねえ」

少女「あとは、こうやって罪人とお話したりとか」

女「そっか、これも仕事かあ。仕事でこうやってお話されてると思うと、ちょっと興奮する」

少女「なんですか、それ……」

女「わたしの他にはどんな罪人さんがいるの?」

少女「さあ、よく知りません。執行前にここまで話し込むのなんてそうそう無いんで、印象に残らないんです」

女「そういうもんなんだ。見回りとかするんじゃないの?」

少女「いえ。今の制度だと、見回りとかそういうの無いんですよ。仕組み上、一度ここを出るとほぼ100%同じ部屋には戻れないそうです。部屋番号が書いてないので」

女「ええっ? 番号くらいなくても場所とかわかるんじゃないの?」

少女「何部屋あると思ってるんですか……。たとえて言うなら、適当な単語を思い浮かべながら適当に辞書を開いて、たまたまそのページに思い浮かべた単語が載っていた、くらいの確率です。しかも、その辞書は掲載順がランダムであるものとします」

女「なんかわかりにくいね……」

少女「まあ、これが今生の別れという認識で間違いないです。さみしくなりますね」

女「はあ~……。ちょっと落ち込む。死んだのに今生の別れというのもおかしな話だ」

少女「そうですね」

少女「だから今のこの問答は、『最後に言い残すことはあるか?』というやつですね」

女「そっかー……。わたしのことはあんまり忘れないでいてほしい……。一週間くらいは」

少女「一週間といわず、お姉さんみたいな人なら私は忘れませんよ。安心してください」

女「ありがと」

少女「他に、なにか言い残すことはありますか?」

女「ちょっと待ってね、今考えてるから……」

少女「いくらでも待ちますよ」

女「えーと……」

少女「……」

女「あ、そうだ。わたし、これからどうなるの? ずっとここで過ごすって話だけど、いまいちピンとこないんだよね」

少女「なるほど、受刑者の末路が気になる、と」

女「だいたいそんなところ」

少女「どうなるのと訊かれても、どうにもならないとしか言いようが無いんですよね。本当に、なにもないので」

女「うーん、わからん。退屈で死にそう、というのが永遠に続くと辛いのはわかるんだけどね」

少女「まあ、その認識で間違ってはいませんよ。ただ、文字通り『永遠』かと言うと、そうでもないらしいというのが定説です」

女「というと?」

少女「なにもない部屋に長時間いると、時間の感覚が麻痺するんですよ。時間なんていう概念は、所詮は相対的なものなので。何もない場所だと曖昧になります」

女「ちょっとわかるかも。生前でもそんな感じだったしね、暗い部屋で天井見てたら十時間経ってたり」

少女「いえいえ、そんなレベルじゃないですよ。だってお姉さんの生活がいくら破綻していても、朝になれば日は昇ってたじゃないですか」

女「まあ、確かに」

少女「結局、物理的に何かが変化することで初めて"時間"というものが存在する……とも言えます。それは天体の運動だったり、時計の針だったり、心臓の鼓動だったりするわけですね。この部屋にはそういうものがなにもないので、お姉さんの主観時間だけが唯一の時計になります」

女「なるほどねえ。そういう世界観で考えたことなかったなあ。まず時間があって、その後に物があると思ってた」

少女「生きてる限りは、それで間違いないですよ」

少女「お姉さんの主観時間がどんどん引き伸ばされていって、いつか無限大に発散すれば、そこが"末路"です。これで答えになってますか?」

女「ろくな末路じゃないというのがわかったよ」

少女「わかってくれてなによりです」

女「でもさあ……やっぱりわからないことがあるんだよ」

少女「はい、なんでしょう?」

女「確かに生前ろくな人間じゃなかったけど、わたしの罪ってそんなに重いの?」

少女「……まあ気持ちはわかりますね。でも、今の地獄は罪の軽重じゃなくて有無だけで判断するので、仕方ないですよ」

女「だからってさあ……。わたしの罪状、『死』でしょ? 死んだことって、そんなに悪い?」

少女「……」

女「みんな、いつかは死ぬわけじゃん」

少女「……本当は言わないほうがいいということになってるんですけど、言ったところでどうにかなるものでもないので、話しちゃいます」

女「なあに?」

少女「『死』は、明確に罪です。なので、死者は例外なくここに来ます。実は、天国なんてないのですよ」

女「ええ!?」

少女「地上の伝承でわかりやすいのは、賽の河原あたりでしょうか。あれなんて、明らかに『若くして死んだこと』への罰です」

女「あれは、幼い子どもが亡くなったときに限った話じゃないの? だったら老いて死ぬのは罪ではないの?」

少女「子供だろうが老人だろうが同じことですよ」

女「……おかしな話だ」

少女「そうですね。便宜上『死』を罪としているだけであって、死ぬことそれ自体が直接的に罪というわけではないです。さて、ここでクエスチョン。ではズバリ、『罪』とは何でしょう? シンキングタイムは無制限です」

女「うーん……」

少女「……」

女「……主の意思に背くこと、とか?」

少女「またまた、ご冗談を。お姉さんだって本気でそんなこと考えてるわけじゃないでしょう?」

女「そりゃあね」

少女「正解は、『誰かを悲しませること』です。簡単でしょう」

女「まあ、『神』的なものを持ち出さないのならそういうことになるかな」

少女「地上の法律とやらも、おおよそこういう尺度で決めているはずですよ。もっとも、為政者にとって都合がいい範囲の中で、の話ですが」

女「じゃあ、わたしが死んで誰が悲しむのさ」

少女「家族とか、友人とか。あなたに親しい誰かですよ。あなたが死ぬことで、その人たちが悲しみます」

女「わたしぼっちだし、実家からもほとんど勘当されてるようなもんだし……」

少女「学校とか、仕事とかではどうですか?」

女「大学はずいぶん前に中退したしなあ……。最近は、仕事もしてなかった」

少女「少なくとも、あの部屋の家賃くらいは払えてたじゃないですか。ちょっとはアテがあったんじゃないですか?」

女「昔ツイッター芸人やっててね、そのときのツテでWebライターみたいなことやってたんだよね。そのときの貯金とか」

少女「どこから生活費出てるのかと思ってましたが……そういうことだったんですね」

女「最近はずっとやってなかったよ。めんどうでね。万バズすれば承認欲求は満たされたけどさ、それ以上に人と関わるのがだるかった」

少女「……」

女「そんなわけで、人間関係はどんどん切れていったよ。だから、もう地上ではわたしのことを悲しむ人はいないと思うんだよね。家族を含めてさ」

少女「地上に限った話じゃないですよ」

女「と、言うと?」

少女「私が、いるじゃないですか」

女「……」

少女「お姉さんがいなくなると、私が悲しみます」

女「それ、は」

少女「これから私は、誰とスマブラやれば良いんですか? 誰とマリカすれば良いんですか?」

女「……」

少女「誰にメイクを教われば良いんですか。誰に、ファッションを教われば、良いんですか」

女「……」

少女「私の許可無く死にやがって。呪いますよ、ずっと」

女「わたしのことはさ、もう忘れてよ」

少女「言ってることが、さっきと違うじゃないですか」

女「ゴメン……。わたしなんかさ、本当にろくなやつじゃないんだよ。ゲームだって、熱帯行けばもっと上手い人いるよ。街に出れば、わたしよりおしゃれな人は大勢いる」

少女「おいしいお菓子とか、食べさせてくれたじゃないですか」

女「都会に行けば、もっと良いお菓子はあるよ」

少女「あなたは、あなたが思ってるよりもずっと賢くて、やさしかった」

女「……そんなことは、ない。ないんだよ。わたしは何も持ってない」

少女「……」

女「お金もなければ学歴もない。あたまもわりい。ゲームもうまくないし、ファッションセンスもなくて、対人能力も皆無だし、おまけに生活能力すらない。なんにもないんだ。本当は、キミに教えられることなんてなんにもなかった。年長者の立場でマウントとって、ちょっと気持ちよくなりたかっただけなんだよ」

少女「それでも、私はうれしかったんです。それは、あなたのやさしさだと思いましたよ」

女「わたしは、やさしさだって持ってない。キミの気のせいなんだ。ぜんぶぜんぶ、自分のためにやったこと。わたしよりやさしい人なんて、いっぱいいるんだよ」

少女「そういうのはどうでもいいんです! 誰かと比べて何が足りないとか、何を持ってないとか。そんなの全部、地上の価値観じゃないですか。資本主義とか競争社会とか、そういうものをうまく回すためのローカルルールに過ぎません。地獄出身の私には、なんにも関係ないです」

女「……まあ、たしかに」

少女「私は、あなたを好きになったんです。他の誰かなんて関係なくて、お姉さんだけを好きになったんですよ」

女「そっか……、そうだよね。ありがとう」

少女「はい」

女「ありがとう。わたしを好きでいてくれて。わたしも、キミのことが好きだったよ」

少女「はい。知ってますよ」

女「死んでキミが悲しんでくれるのなら、もうちょっと生きていても良かったかなあ、なんて思わなくもないね」

少女「私は散々言ったつもりだったんですけどね。結局、お姉さんは聞く耳を持っちゃくれませんでした」

女「わたしのこと好き好きーって?」

少女「まあ、それも言いましたけど……もっと直接的に、『生きてください』って」

女「うーん」

少女「覚えてませんか?」

女「覚えてるよ。ご飯食べてくださいとか、ちゃんと寝てくださいとか。あとは……少しお外出てみませんかとか。でもあのときは、全く響かなかった。たぶん、何よりも生きるのが辛かったから」

少女「そう、ですか……」

女「なにをするにも、やる気が起きなかったんだよ。なにをやっていても劣等感がついてまわるんだ。わたしはなにもできないから、どこにいても迷惑がかかる。そして、それを取り返すにはもう遅すぎた」

少女「それは、今でもそう思ってますか?」

女「ううん。死んでみてわかったけど、ささいなことだったね、全部」

少女「そうですよ。死ぬのに比べたら、全部ささいなことです」

女「あーあ。結局、どうすればよかったんだろうな……」

少女「私の立場で言えることは……お姉さんがやるべきだったことは、たった一つ単純なことです」

女「なに?」

少女「生きるべきでした。あなたが死んで悲しむ人が一人でもいるうちは、死ぬべきじゃなかった。それだけです」

女「もちろん、そうだね。でも――」

少女「はい。きっとそれは単純だけど、簡単なことではないです。だって、やる気が無かったんでしょう?」

女「うん」

少女「なら、しょうがないです。自己肯定感の低さというのは、死に至る病です。独力でどうにかなるものでもないですよ。だから結局、一番近くにいた私がなんとかするべきだった、とも言えます。それが、私の罪」

女「それに『うん』と言えるほど、ずうずうしくはなれないよ」

少女「まあ、そうでしょうね。なんにせよ、もう取り返しがつかないです」

女「じゃあ、最後にもう一つききたいことがあります」

少女「最後ですか? 別に、遠慮しなくていいのに」

女「このままずっとキミを束縛するのも良くないしね」

少女「……そうですね」

女「そもそも、さっきの話からすれば……この『最後のお話』ってそんなに長々と話さないんでしょ、ふつうは」

少女「そりゃあもちろん。たまたま私の担当の受刑者が顔見知りだったから、こうやって話し込んでるってだけです」

女「じゃ、急がなきゃね。上司の人とかに怒られちゃうかもだし」

少女「そんな心配は別にいいんですけど……。いえ、そうですね、聞きましょう。なんでしょうか」

女「最後にぎゅーってさせてください……。いつものやつ」

少女「ええー……」

女「ゴメンなさい、カスのロリコンでゴメンなさい……」

少女「べつに良いですよ。そもそも、ロリじゃないですし」

女「じゃあ、失礼して……」

少女「というか前から思ってましたけど、お姉さんが『カスのロリコンでゴメンなさい』って言っているときが一番充実してそうなんですよね……」

女「そうだね。キミを後ろから抱きしめてうなじを吸ってるときだけ、いやなこととか全部忘れられるんだよ」

少女「うーん、キモい」

女「ゴメンなさい……」

少女「でも。そういうことならもっとさせてあげれば良かったんでしょうかね」

女「たぶん、それだとわたしが遠慮しちゃうな」

少女「そうかもしれないですね」

女「……」

少女「……」

女「……なーんにも感じねえや」

少女「そりゃあ、そうでしょうね。心臓も、脳も、皮膚もないんですから」

女「いつもはこう……なんか温泉みたいなにおいで、吸うとめっちゃキマるんだよ。それがない」

少女「え、そんなクサかったですか」

女「いや、いいにおい」

少女「温泉みたいなって、きっと硫黄とかですよ。地獄の」

女「ああ、そういうことだったんだ」

少女「やだなあ。自分のにおいってわかんないもんですよね。慣れちゃうから」

女「よし! もう気は済んだよ。もうどこへなりとも行きな!」

少女「そうですか。じゃあ、そろそろ行きますね」

女「……さみしくなるねえ」

少女「……はい」

女「また来てよ。そのときは、こうやってまたお話しようよ」

少女「言ったでしょう。部屋番号が書いていないんです。ひとたび出ていったら最後、因果の流れの速さに飲まれて、同じ部屋には二度と戻れません」

女「でも、可能性はゼロじゃないんでしょう?」

少女「まあ、計算上はゼロにはなりませんね」

女「なら、待つよ。そのときを楽しみにしてさ」

少女「……それこそが、重い罰なんですよ。もう何も起きないのに、原理的には極小の可能性だけ残っている。こんなに重い罰は無いです」

女「皮肉なもんだねえ。それって、わたしの罪にぴったりじゃない」

少女「なんだ、わかってるじゃないですか」

女「そうだね。……本当は、ずっと前からわかってたのかもしれないね。まだまだ全然、どうにかなるかもしれなかったって」

少女「散々、私が言ってたのに。なんとかなるって。なんとでもなるって言ったのに。お姉さんは聞いてくれなかった」

女「ゴメン」

少女「可能性を投げ捨てた」

女「ゴメン」

少女「生きることに向き合わなかった」

女「ゴメン」

少女「私といっしょに、生きてくれなかった」

女「……ゴメンね」

少女「ほんとにゴメンて思ってます?」

女「死ぬのが罪だなんて、やっぱり思えないよ。だって、遅かれ早かれみんな死ぬんだからさ。でもさ、もっとキミの話を聞けばよかったって、今は後悔してる。それは、間違いなくわたしの罪だ」

少女「それだけわかってくれたら、今は十分です。いっぱい後悔して下さい。幸い、時間は山程あるんですから」

女「うん」

少女「私も、後悔を抱えて生きていきますよ。親しい隣人として、あなたを救えたかもしれないんだから」

女「……わたしが死んだのはわたしのせいだよ。もう忘れなよ。こんなカスのロリコンのことなんてさ」

少女「お姉さんが私のこと忘れるのなら、考えてやらないこともないですけど」

女「そりゃあ無理な相談だ」

少女「じゃ、私も無理です」

女「ぐぬぬぬ」

少女「じゃあ、今度こそ行きます」

女「バイバイ、またね。……あと、最後に一つだけ」

少女「なんでしょう?」

女「体に気をつけてね。人の体で地上にいると、意外とすぐ死ぬみたいだからさ」

少女「……そういうところですよ」

女「なんて?」

少女「いえ、なんでもありません。肝に銘じておきましょう」

女「そう」

少女「ふふふっ」

少女「さようなら。おろかでやさしくて、愛しいお姉さん。私はあなたが大好きでした」

女「ありがとう。わたしはわたしが大嫌いだったよ。でも、キミのことは好きだった」

少女「なかなか最悪な物言いですね。やっぱり地獄行きがお似合いですよ」

女「わはははっ、違いない」

ガチャ
バタン

終わりです
おやすみなさい

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