【走れメロス】コロナ禍の大学生「メロメロスは激怒しためろ」 (30)

走れメロスの二次創作
とあるVTuberが作った朗読の文字起こしです
https://www.youtube.com/watch?v=qalwFegVFmw

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 メロメロスは激怒しためろ。
必ず、かの、邪知暴虐の教授を除かなければならぬと決意しためろ。
メロメロスには勉強がわからぬめろ。
メロメロスは、オンライン授業の大学生であるめろ。
ソシャゲを楽しみ、田舎で暮して来ためろ。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であっためろ

未明メロメロスはド田舎を出発し、野を越え山越え、30里はなれた此このシラクスの市にやって来ためろ。
メロメロスには彼氏も、彼女も無いめろ。ペットも無いめろ。
三十路の、内気な姉と二人暮しだめろ。この姉は、田舎の或る律気な青年を、近々、花婿として迎える事になっていためろ。
結婚式はコロナ禍を明けてからなのであるめろ。
気の早いメロメロスは、それゆえ、姉へのプレゼントと、ついでにぺこらグッズやらを求め、はるばる市にやって来ためろ。

まず、姉へのプレゼントを買い、それから、みやこをぶらぶら歩きながら大学へと向かっためろ。
メロメロスには竹馬(ちくば)の友があっためろ。セリヌンティウスであるめろ。
今は此のシラクスの市で、同じ大学に通っているめろ。
その友を、これから訪ねてみるつもりめろなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみめろ。

歩いているうちにメロメロスは、大学の様子を怪しく思っためろ。
ひっそりしているめろ。
もう既に日も落ちて、外の暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、大学全体が、やけに寂しいめろ。
のんきなメロメロスも、だんだん不安になって来ためろ。

教授の研究室から出てきた先輩をつかまえて、何かあったのか、二年まえにこの大学に来たときは、夜でも皆が歌をうたって、賑やかであった筈はずだが、と質問しためろ。
先輩は、首を振って答えなかっためろ。

しばらく人を探して若き講師に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問しためろ。
講師は答えなかっためろ。
メロメロスは両手で講師のからだをゆすぶって質問を重ねためろ。
講師は、あたりをはばかる低声で、わずか答えためろ。

「あの教授は、人を退学させます。」
「なぜ退学させるめろ。」
「悪心を抱いてソーシャルディスタンスを守らずにいる、というのですが、誰もそんな、悪心を持ってはおりませぬ。」
「たくさんの人を退学させためろか。」
「はい、はじめはサークルの打ち上げをした学生を。それから、居酒屋で合コンした学生を。それから、帰省した学生を。それから、ライブへ行った学生を。それから、カラオケに行った用務員を。それから、海外旅行をした学生を。」
「おどろいた。それで退学とは教授は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。一度あることは二度、二度目は集団感染すると、お考えになっています。学生を、信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、他の研究者や大学職員の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、ソーシャルディスタンスを命じております。御命令を拒めば十字架にかけられて、社会的に殺されます。きょうは、六人殺されました。」

 聞いて、メロメロスは激怒しためろ。
「呆れた教授めろ。生かして置けぬめろ。」
 メロメロスは、単純な人間であっためろ。
買い物を、背負ったままで、のそのそ研究室にはいって行っためろ。
たちまちメロメロスは、巡邏の院生に捕縛されためろ。
調べられて、メロメロスの懐中からはぺこらグッズが出て来たので、騒ぎが大きくなってしまっためろ。
院生は野うさぎであっためろ。
騒ぎを聞きつけた教授が走ってきためろ。

「このコロナ禍に何をしにきた。言え!」
暴君ディオニス教授は静かに、けれども威厳を以って問いつめためろ。
その教授の顔はそうはくで、眉間みけんの皺は、刻み込まれたように深かっためろ。
「学生を暴君の手から救うのだめろ。」
とメロメロスは悪びれずに答えためろ。
「おまえがか?」
教授は、びんしょうしためろ。
「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの孤独がわからぬ。」
「言うなめろ!」
とメロメロスは、いきり立って、はんばくしためろ。
「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳めろ。教授は、大学生の道徳心をさえ疑っていられるめろ。皆、注意されればソーシャルディスタンスを守るめろ!退学はやりすぎめろ!」
「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。学生の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりさ。信じては、ならぬ。」
暴君は落着いて呟き、ほっと溜息ためいきをついた。
「わしだって、平和を望んでいるのだが。」
「なんの為の平和めろ。自分の地位を守る為めろ?」
こんどはメロメロスが、嘲笑しためろ。
「罪の無い人を退学させて、何が平和だ。」
「だまれ、下賤の者。」
教授は、さっと顔を挙げて、むくいためろ。
「口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。おまえだって、ソーシャルディスタンスを守らずに越県している。いまに、はりつけに、なってから、泣いて詫わびたって聞かぬぞ。」
「ああ、教授は悧巧りこうめろ。自惚うぬぼれているがいいめろ。めろは、ちゃんと退学する覚悟で居るのに。命乞いなど決してしないめろ。ただ、――」
と言いかけて、メロメロスは足もとに視線を落し瞬時ためらい、
「ただメロメロスに情をかけたいつもりなら、退学までに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の姉に、安心して結婚式をあげさせてやりたいめろ。三日のうちに、メロメロスは村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来るめろ」
「ばかな。」
と暴君は、嗄しわがれた声で低く笑っためろ。
「とんでもない嘘うそを言うわい。逃がした野うさぎが帰って来るというのか。」
「そうめろです。帰ってきますめろ。」
メロメロスは必死で言い張っためろ。
「メロメロスは約束を守りますめろ。メロメロスを、三日間だけ許して下さいめろ。姉が、メロメロスの帰りを待っているめろ。そんなにメロメロスを信じられないならば、よろしい、この大学にセリヌンティウスという学生がいますめろ。メロメロスの無二の友人めろ。あれを、人質としてここに置いて行くめろ。メロメロスが逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を退学にして絞め殺して下さいめろ。たのむ、そうして下さいめろ。」

 それを聞いて教授は、残虐な気持で、そっと、ほくそえんだめろ。
生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。
この嘘つきに騙だまされた振りして、放してやるのも面白い。
そうして身代りの男を、三日目に退学させてやるさせてやるのも気味がいい。
人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りの男をマイクロソフトタイムズで公開処刑してやるのだ。
世の中の、パリピとかいう、やつばらにうんと見せつけてやりたいものさ。

「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっと退学させるぞ。ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。」
「なに、何をおっしゃるめろ」
「はは。大卒が大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」
 メロメロスは口惜しく、地団駄踏んだめろ。ものも言いたくなくなっためろ。

 竹馬の友、セリヌンティウスは、深夜、大学にめされためろ。
暴君ディオニス教授の面前で、佳よき友と佳き友は、二年ぶりで、あいあうためろ。
メロメロスは、友に一切の事情を語っためろ。
セリヌンティウスは無言でうなずき、メロメロスをひしと抱きしめためろ。
友と友の間は、それでよかっためろ。
とはならなかっためろ。めちゃくちゃに嫌がられためろ。
最終的にメロメロスが、お願い!お願いお願いお願いお願いお願いめろ!!!!お願いめろお願いめろお願いめろお願いめろお願いめろ。
めろめろめろめろめろめろめろめろめろ。
としか言わなくなって、セリヌンティウスが根負けしためろ。

メロメロスが一生、メロメロス家に自生するタラの芽をセリヌンティウスに献上し続けることを条件に、セリヌンティウスは無言でうなずき、メロメロスをひしと抱きしめためろ。
友と友の間は、それでよかっためろ。
セリヌンティウスは、縄打たれた。
メロメロスは、すぐに出発しためろ。
とはならなかっためろ。新幹線の終電を逃し、切符は明日の夕方の指定席だっためろ。
晩春、満天の星、メロメロスはその夜、予約していたホテルに泊まって、ぐっすり眠っためろ。

メロメロスが起床したのは、翌あくる日の午前、陽は既に高く昇って、メイドたちはメイド喫茶に出て、おきゅうじをはじめていためろ。
メロメロスの推しメイドのモコちゃんは、きょうは午後から、おきゅうじしていためろ。
だからメロメロスはゆっくりとぺこらグッズを買い回り、モコちゃんのいるメイド喫茶へ帰宅しためろ。
「め、めろぉ、めろ……モコちゃん、今日も可愛いめろね……」
緊張顔で話しかけてくるメロメロスの、コミュ障っぷりを見てモコちゃんは驚いた。そうして、うるさくメロメロスに質問を浴びせためろ。
「なんで他県に住んでるのに今ここに居るモコ?越県はダメモコよ?」
「め、めろぉ、めろ……」メロメロスは無理に笑ってごまかそうと努めた。
「市に火急の用事があって来ためろ。でもすぐ田舎にまっすぐ帰るめろ。あす、姉さんの結婚式を挙げるめろだから」
 モコちゃんはオムライスに美味しくなる魔法をかけためろ。メロメロスは頬を赤らめためろ
「嬉しいめろ。美味しいめろ。チェ、チェキもお願いしますめろ」
「メイド服、似合ってるめろ。あの、これからも通うめろ。友達にもこの店のこと知らせるめろ。モコちゃんは、可愛いめろと。」
 メロメロスは、ドキドキしたまま店から出て、田舎行きの新幹線に乗り、ホロライブグッズのブラインド商品を開封し、ぺこらが一つも出ず伏し泣き、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまっためろ。

 眼が覚めたのは夜だっためろ。
メロメロスが新幹線から降りて駅のホームを出てすぐのところに、姉は車を停めて待っていた。
そうしてメロメロスは車に乗り込むと、少し事情があるから、結婚式を明日にして欲しいめろ、と頼んだめろ。
姉は驚き、それはいけない、こちらには未だ何の仕度も出来ていない、コロナ禍が明けるまで待ってくれ、と答えためろ。
メロメロスは、待つことは出来ないめろ、どうか明日にして欲しいめろ、と更に押してたのんだめろ。
姉もがんきょうであっためろ。なかなか承諾してくれないめろ。当然めろ。
家に着いてスカイプで婿もまじえて、夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにか姉と婿をなだめ、すかして、説き伏せためろ。
コロナ禍でいつ結婚式を挙げられるかわからない今、先だって籍は入れようとしていた2人めろ。お祝いしたい気持ちは当然あっためろ。


そこで、結婚式まではいかなくとも、お祝いパーティーをズームで執り行うことになっためろ。結婚式は、親兄弟親戚や会社関係者、友人やお世話になった人に、片っ端からLINEし、来れる人が来ることになり、夜に行われためろ。
新郎新婦の、神々への宣誓が済んだころ、ネット回線が重くなり、ぷつりぷつりと映像が途切れ出し、やがて音声のみ流れるような状態となっためろ。
祝宴に列席していた人たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、狭い画面の中で、目がしょぼしょぼして乾くのもこらえ、陽気に歌をうたい、手をうっためろ。

メロメロスも、満面に喜色を湛たたえ、しばらくは、教授とのあの約束をさえ忘れていためろ。
祝宴は、夜に入っていよいよ乱れ華やかになり、人々は、時々固まる画面を全く気にしなくなっためろ。
メロメロスは、一生このままここにいたい、と思っためろ。
このよい人たちと生涯暮して行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無いめろ。ままならぬ事めろ。
メロメロスは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意しためろ。あすの日没までには、まだ十分の時が在るめろ。
ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しようめろ、と考えためろ。
その頃には、気持ちも落ち着いているめろ。
少しでも永くこの家に愚図愚図とどまっていたかっためろ。
メロメロスほどの人間にも、やはり未練の情というものは在るめろ。

今宵ぼうぜん、歓喜に酔っているらしい花嫁に近寄り、
「おめでとうめろ。メロメロスは疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたいめろ。眼が覚めたら、すぐに市に出かけるめろ。大切な用事があるめろ。めろがいなくても、もう姉さんは優しい旦那さんがあるめろだから、決して寂しい事は無いめろよ。メロメロスの、一ばんきらいなものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事めろ。姉さんも、それは、知っているめろね。旦那さんとの間に、どんな秘密でも作ってはならないめろ。姉さんに言いたいのは、それだけめろ。メロメロスは、たぶん偉い人間めろだから、姉さんもその誇りを持っていて欲しいめろ」
 花嫁は、夢見心地で首肯うなずいためろ。メロメロスは、それから花婿の肩をたたいて、
「仕度の無いのはお互さまめろ。メロメロスの家にも、宝といっては、ソシャゲの星4キャラと姉さんだけめろ。他には、何も無いめろ。もう一つ、メロメロスの兄になったことを誇って欲しいめろ。」
 花婿は頭をかいて、てれていためろ。
メロメロスは笑って出席者たちにも会釈して、宴席から立ち去り、布団にもぐり込んで、死んだように深く眠っためろ。

 眼が覚めたのは翌る日の薄明かりの頃めろ。
メロメロスは跳ね起き、南無三、寝過しためろ?!、いや、まだまだ大丈夫めろ、約束の刻限までには十分間に合うめろ。
きょうは是非とも、あの教授に、人のしんじつの、ぞんするところを見せてやろうめろ。
そうして笑ってマイクロソフトチームズで公開処刑されてやるめろ。
メロメロスは、悠々と身仕度をはじめためろ。
小ぶりの雨が降っているめろ。身仕度は出来ためろ。
さて、メロメロスは、ぶるんと両腕を大きく振って、雨中、駅まで矢の如く走り出ためろ。

 メロメロスは、今宵、退学になるめろ。
退学させられる為に走るめろ。
身代りの友を救う為に走るめろ。
教授の、かんねいじゃちを打ち破る為に走るめろ。
走らなければならぬめろ。そうして、メロメロスは社会的に殺されるめろ。
若い時から名誉を守れめろ。さらば、田舎めろ。
若いメロメロスは、つらかっためろ。幾度か、立ちどまりそうになっためろ。
うっせぇ、うっせぇ、うっせぇわと大声挙げて自身を叱りながら走っためろ。

田舎を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、駅に着いた頃には、雨も止やみ、日は高く昇って、そろそろ暑くなって来ためろ。
メロメロスはひたいの汗をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫めろ、もはや故郷への未練は無いめろ。
姉たちは、きっとよい、めおとになるめろだろう。
メロメロスには、いま、なんの気がかりも無い筈めろ。
まっすぐに大学に行き着けば、それでよいめろ。
そんなに急ぐ必要も無いめろ。
ゆっくり行こう、と持ちまえの呑気のんきさを取り返し、好きな曲をエアーポッズで聞き流しためろ。

ぶらぶら歩いて発券機に行き、お財布を取り出しためろ。
降って湧わいた災難、メロメロスの手は、はたと、とまっためろ。
見よ、お財布の中身を。
新幹線の往復で交通費はかさみ、ネカフェはイヤイヤめろとホテルに泊まり、アニメイトでぺこらグッズを買いあさり、どうどうと推しメイドのモコちゃんに貢いだ結果、めろの所持金は、こっぱみじんなまでに吹っ飛んでいためろ。
メロメロスは茫然と、立ちすくんだめろ。
新幹線の切符が買えないめろ。
あちこちと眺めまわし、代わりの電車はないかと、駅員を見つけ聞いてみためろだけど、買える切符はなかっためろ。

メロメロスはいよいよ、焦りに焦り、とりあえずスマホで調べ始めためろ。
メロメロスは改札前の邪魔にならないところうずくまり、めろ泣きに泣きながら、aubyKDDIに手を挙げて哀願しためろ。
「ああ、なんでめろ!?なんで速度制限になってるめろ!? 時は刻々に過ぎてるめろよ、電車が無理なら高速バスで行きたいから調べたいめろ!!昨日のズームで容量食いすぎためろか!?日没までに、大学に行き着くことが出来なかったら、あのよい友達が、メロメロスのために退学するめろよ!」
 速度制限は、メロメロスの叫びをせせら笑う如く、検索が全く進まないめろ。
ここで愚図愚図していても、そのうち恐竜が現れ、サボテンをジャンプし始め、そうして時は、刻一刻と消えて行くめろ。

今はメロスも覚悟しためろ。スタバに行ってフリーWi-Fiに接続するより他に無いめろ。
ああ、パリピも照覧めろ! 
馴染めないおしゃれ空間と、謎単語と謎サイズによる注文にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せるめろ。
メロメロスは、気取ってスタバに飛び込み、店員の
「無料と有料のカスタマイズがあります。ショート、トール、グランデ、ベンティとご用意しております。いかがなさいますか?」
という、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う質問を相手に、必死の闘争を開始しためろ。渾身のコミュ力を発揮して、謎が押し寄せ渦巻きする頭で、なんのこれしきと聞き返し聞き返し、めくらめっぽう、ししふんじんの客の姿には、店員も哀れと思ったか、ついに丁寧に教えてくれためろ。
心にダメージを受けつつも、見事、一杯のショートサイズのホットコーヒーを、注文することが出来ためろ。
これでフリーWi-Fiにつなげるめろ。ありがたいめろ。
メロメロスは野うさぎのように小さな身震いを一つして、椅子に座り、高速バスを調べためろ。
一刻といえども、むだには出来ないめろ。陽は既に西に傾きかけているめろ。
大学の近くの駅に行ける高速バスを見つけ、コーヒーを急いで飲み干しスタバを出て、ぜいぜい荒い呼吸をしながらバス停へ走り、バス停を見つけ、ほっとした時、突然、目の前に四人の知事が躍り出た。

「待ちなさい」
「何のつもりめろ、井戸、西脇、吉村、そして百合子。メロメロスは陽の沈まぬうちに大学へ行かなければならないめろ。」
「不要不急の外出、越県をお控えいただきますようにお願いしております。」
「メロメロスは火急の用事で越県するめろ。それにメロメロスには大学生の他に肩書は何も無いめろ。その、たった一つの肩書も、これから教授にくれてやるめろ。」
「密です!」
「さては、教授の命令で、ここでメロメロスを待ち伏せしていためろな!?」
 知事たちは、ものも言わず一斉に緊急事態宣言を振りかざしためろ。メロメロスはひょいと、からだを折り曲げ、あすかの如く身近かの一人に襲いかかり、その言葉尻を奪い取って、
「気の毒だが正義のためめろ!」
と猛然一撃、たちまち、三人を殴り倒し、残る百合子のひるむ隙すきに、さっさと走って高速バスに飛び乗っためろ。

一気に座席まで駆け座ったが、流石さすがに疲労し、折から高速に乗ったバスの振動がまともに来て、メロメロスは幾度となく車酔いを感じ、これではならぬめろ、と気を取り直しては、ぼんやり遠くを二、三度見て、ついに、がくりと腹を抱えためろ。
コーヒーでお腹壊しためろ。
天を仰いで、くやし泣きに泣き出しためろ。
ああ、あ、スタバに入店し、知事を三人も撃ち倒し、いだてん、ここまで突破して来たメロメロスめろ。
真の勇者、メロメロスめろ。
今、ここで、具合が悪くなって動けなくなるとは情無いめろ。
愛する友は、おまえを信じたばかりに、やがて殺されなければならぬめろ。
おまえは、稀代の不信の人間、まさしく教授の思う壺つぼめろ、と自分を叱ってみるのめろが、全身なえて、もはや、いもむしほどにも前進かなわぬめろ。後ろを気にせず座席を倒し、ごろりと寝ころがっためろ。
身体疲労すれば、精神も共にやられるめろ。
もう、どうでもいいめろという、勇者に不似合いな、ふてくされた根性が、心の隅に巣喰っためろ。

メロメロスは、これほど努力しためろ。
約束を破る心は、みじんも無かっためろ。
神も照覧めろ、メロメロスは精一ぱいに努めて来ためろ。
動けなくなるまで走って来ためろ。メロメロスは不信の徒では無いめろ。
ああ、できる事なら私の胸をたち割って、真紅の心臓をお目に掛けたいめろ。
愛としんじつの血液だけで動いているこの心臓を見せてやりたいめろ。
けれどもメロメロスは、この大事な時に、精も根も尽きためろ。
メロメロスは、よくよく不幸な人間めろ。
メロメロスは、きっと笑われるめろ。
メロメロスの一家も笑われるめろ。
メロメロスは友を欺あざむいためろ。
中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じ事めろ。
ああ、もう、どうでもいいめろ。
これが、メロメロスのさだまった運命なのかも知れないめろ。
セリヌンティウスよ、ゆるしてくれめろ。
君は、いつでもメロメロスを信じためろ。
メロメロスも君を、欺かなかっためろ。
メロメロスたちは、本当に佳い友と友であっためろ。
いちどだって、暗い疑惑の雲を、お互い胸に宿したことは無かっためろ。
いまだって、君はメロメロスを無心に待っているめろだろう。
ああ、待っているめろだろう。ありがとうめろ、セリヌンティウス。
よくもメロメロスを信じてくれためろ。それを思えば、たまらないめろ。
友と友の間の信実は、この世で一ばん誇るべき宝めろだからな。
セリヌンティウス、メロメロスは走っためろ。
君を欺くつもりは、みじんも無かっためろ。信じてくれめろ!
メロメロスは急ぎに急いでここまで来ためろ。
速度制限を突破しためろ。知事の囲みからも、するりと抜けて一気にバスに飛び乗って来ためろ。
メロメロスだから、出来ためろだよ。
ああ、この上、メロメロスに望み給うなめろ。
放って置いてくれめろ。どうでも、いいめろ。メロメロスは負けためろ。
だらしが無いめろ。笑ってくれめろ。
教授はメロメロスに、ちょっとおくれて来い、と耳打ちしためろ。
おくれたら、身代りを殺して、メロメロスを助けてくれると約束しためろ。
私は教授の卑劣を憎んだめろ。
けれども、今になってみると、メロメロスは教授の言うままになっているめろ。
メロメロスは、おくれて行くめろだろう。
教授は、ひとり合点してメロメロスを笑い、そうして事も無くメロメロスを放免するめろだろう。
そうなったら、メロメロスは、死ぬよりつらいめろ。

メロメロスは、永遠に裏切者めろ。
地上で最も、不名誉の人種めろ。
セリヌンティウスよ、メロメロスも死ぬめろ。君と一緒に死なせてくれめろ。
君だけはメロメロスを信じてくれるにちがい無いめろ。
いや、それもメロメロスの、ひとりよがりめろか? 
ああ、もういっそ、悪徳者として生き伸びてやろうめろか。
田舎にはメロメロスの家が在るめろ。ソシャゲもあるめろ。
姉夫婦は、まさかメロメロスを田舎から追い出すような事はしないめろだろう。
正義めろだの、信実めろだの、愛めろだの、考えてみれば、くだらないめろ。
人を殺して自分が生きる。
それが人間世界のじょうほう、ではなかっためろか。
ああ、何もかも、ばかばかしいめろ。メロメロスは、醜い裏切り者めろだ。
どうとも、勝手にするがよいめろ。やんぬるかなめろ。
――座席を最大まで倒して、四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまったまろ。

 ふと耳に、ボソボソ、添乗員のアナウンスが聞えためろ。
そっと頭をもたげ、息を呑んで耳をすましためろ。
すぐ近くで、停車するするらしいめろ。
よろよろ起き上って、外を見ると、徐々に建物に近づいているめろ。
何か大きなサービスエリアがあるめろ。
そのサービスエリアに吸い込まれるようにメロメロスの乗ったバスは入って行っためろ。
トイレ休憩めろ。

メロメロスはよろよろと立ち上がり、お手洗いに向かった。
ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がしためろ。
歩けるめろ。行くめろ。
肉体の疲労かいふくと共に、わずかながら希望が生れためろ。
義務遂行の希望めろ。
わが身を殺して、名誉を守る希望めろ。
斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いているめろ。
日没までには、まだ間があるめろ。
メロメロスを、待っている人があるめろ。
少しも疑わず、静かに期待してくれている人があるめろだ。
メロメロスは、信じられているめろ。
メロメロスの命なぞは、問題ではないめろ。
死んでお詫び、などと気のいい事は言って居られぬめろ。
メロメロスは、信頼に報いなければならぬめろ。いまはただその、一事だ。

走れ! メロメロス。

 メロメロスは信頼されているめろ。
メロメロスは信頼されているめろ。
先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢めろ。悪い夢めろだ。忘れてしまえめろ。
五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るものめろだ。
メロメロス、おまえの恥ではないめろ。
やはり、おまえは真の勇者めろだ。
再び立って走れるようになっためろではないか。ありがたいめろ! 
メロメロスは、正義のさむらいとして死ぬ事が出来るめろぞ。
ああ、陽が沈むめろ。ずんずん沈むめろ。
待ってくれ、ほとけよめろ。メロメロスは生れた時から正直な人間であっためろ。
正直なメロメロスのままにして死なせて下さいめろ。

 大学の最寄り駅に到着したバスを飛び降り、路行く人を押しのけ、跳はねとばし、メロメロスは黒い風のように走っためろ。
路上飲みの、その、えん席のまっただ中を駈け抜け、路上飲みの人たちを仰天させ、小石を蹴けとばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走っためろ。
歩きスマホの大学生の一団と、さっとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだめろ。
「この動画見ろよ、この男も、磔にかかっているよ。」
ああ、その男、その男のためにメロメロスは、いまこんなに走っているめろだ。
その男をこのまま公開処刑させてはならないめろ。
急げ、メロメロス。おくれてはならぬめろ。
愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよいめろ。
風態なんかは、どうでもいいめろ。

メロスは、いつの間にか、マスクをしていなかっためろ。
呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出ためろ。
見えるめろ。はるか向うに小さく、シラクスの市の大学が見えるめろ。
大学の窓ガラスは、夕陽を受けてきらきら光っているめろ。

「ああ、メロメロス先輩。」
うめくような声が、風と共に聞こえためろ。
「誰めろ。」
メロメロスは走りながら尋ねためろ。
「フィロストラトスです。貴方のお友達セリヌンティウス様の後輩です。」
その若い大学生も、メロメロスの後について走りながら叫んだめろ。
「もう、駄目です。むだです。走るのは、やめて下さい。もう、あの方かたをお助けになることは出来ません。」
「いや、まだ陽は沈まないめろ。」
「ちょうど今、あの方が公開処刑になるところです。ああ、あなたは遅かった。おうらみ申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」
「いや、まだ陽は沈まないめろ。」
メロメロスは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていためろ。走るより他は無いめろ。
「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。あの方は、あなたを信じておりました。大講堂に引き出されても、マイクロソフトチームズでの配信が始まっても、平気でいました。教授が、さんざんあの方をからかっても、メロメロスは来ます、とだけ答え、強い信念を持ちつづけている様子でした。」
「それだから、走るめろ。信じられているから走るめろだ。間に合う、間に合わぬは問題でないめろ。人の命も問題でないめろだ。メロメロスは、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているめろだ。ついて来いめろ! フィロストラトス。」
「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい。」

 言うにや及ぶ。まだ陽は沈まないめろ。
最後の死力を尽して、メロメロスは走っためろ。
メロメロスの頭は、からっぽめろ。何一つ考えていないめろ。
ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて走っためろ。
陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、メロスは疾風の如く大学に突入しためろ。間に合っためろ。

「待てめろ。その人を殺してはならぬめろ。メロメロスが帰って来ためろ。約束のとおり、いま、帰って来ためろ。」
と大声で叫んだつもりであったが、喉つぶれてしわがれた声がかすかに出たばかり、大学は広く、ひとりとしてメロメロスの到着に気がつかない。
スマホでマイクロソフトチームズを開くと、すでに大講堂に磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたセリヌンティウスは、徐々に釣り上げられてゆくところだっためろ。
メロメロスはそれを目撃して最後の勇、先刻、スタバで奮闘したように大学のフリーWi-Fiに繋ごうとし、
「そうだっためろ、こないだ来たときに繋いだめろだった! OKGoogle!OK,Google!大講堂まで案内しろめろ!」
と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、グーグルマップを開き、ついに大講堂にたどり着き、釣り上げられてゆく友の両足に、齧かじりついためろ。
教授の後ろに控えている研究室の学生数人と、マイクロソフトチームズを起動しているPCに映っている群衆は、どよめいためろ。
あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいためろ。
セリヌンティウスの縄は、ほどかれたのであるめろ。

「セリヌンティウス。めろ」
メロメロスは眼に涙を浮べて言っためろ。
「メロメロスを殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れめろ。メロメロスは、途中で一度、悪い夢を見ためろ。君がもしメロメロスを殴ってくれなかったら、メロメロスは君と抱擁する資格さえ無いめろだ。殴れめろ。」
 セリヌンティウスは、すべてを察した様子でうなずき、大講堂一ぱいに鳴り響くほど音高くメロメロスの右頬を殴っためろ。
殴ってから優しく微笑み、
「メロメロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」
 メロメロスは腕に唸うなりをつけてセリヌンティウスの頬を殴っためろ。
「ありがとう、友よ。」
二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いためろ。

 群衆の中からも、むせび泣く声が聞えためろ。
暴君ディオニス教授は、PCの後ろから二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言っためろ。
「おまえらの望みは叶かなったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。退学はとりやめる」
 どっと群衆の間に、歓声が起っためろ。
「万歳、教授万歳。」
 モコちゃんに雰囲気の似た学生が、手作りのマスクをメロスに捧げためろ。メロメロスは、まごついためろ。佳き友は、気をきかせて教えてやっためろ。
「メロメロス、君は、マスク無しじゃないか。早くそのマスクをつけるがいい。この美人さんは、メロメロスの素顔を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」
 勇者は、ひどく赤面しためろ。

おしまい!ありがとうやで!

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