「GUNGRAVE SIDE STORY」 (27)

GUNGRAVEのスピンオフ的なSSです
マイナーなアニメのマイナーなキャラを主人公にしてます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1391184882



――― 僕は、孤独だった。


冷たい雨に打たれようが、吹きすさぶ風に曝されようが、望むと望まないとに関わらず、弱い僕に孤独を強いる。

誰かに寄り添おうとすれば、巧みな嘘が僕を惑わせる。

誰かに手を伸べようとすれば、嘲りが僕の手を振り払う。

この街は、そういう街。

そう思って、孤独を受け入れて細々と暮らしていた。いずれ奪われるだろう命をぶら下げて、粗雑に暮らしていた。



――― gungrave side story ―――


      『warmth』


そんな冷めきった生活を変えてくれたのは、君たちだよ。

ネイサン、ケニー、ハリー、ブランドン。君たちと共に過ごしていくうちに得た温もりを、僕は忘れない。

冷たい雨が降りしきる夜に、大事に抱えて眠るよ。


その日は、雨が降っていた。

冷たい雨が、この街の体温を奪っている。行き交う人の影はなく、ただただ雨粒が僕の店の屋根を叩く。

僕は、きっとお客さんは雨に打たれて寒い思いをして来るのだろうと勝手に想像して、温かいシチューの仕込みをしていた。

一通り仕込みを終えて、窓の外を見る。重たく立ち込める雨雲のせいか、外は薄暗い。

ふと、不安と寂しさが僕の心に顔を出した。強まる一方の雨音が、それを助長する。

僕は、不安と寂しさに押し潰されない様に必死で堪えながら、鍋の中のシチューをかき回していた。

ジョリス「お客さん、来ないな……」

ジョリス「酷い雨だ……」

ジョリス「せっかくシチューが美味しく作れたのに……無駄になっちゃうかな……」

ジョリス「…………」

ガチャ カランコロン

ジョリス「あ、いらっしゃ……」

?「うぅ、さみぃ……」

?「ったく、ケニーのせいで天気も財布も湿気てるぜ……」

ケニー「お、俺のせいじゃねぇって!ケビンの野郎がデマを掴ませやがったんだよ!!」

?「だから、おめぇのせいだろう」

ケニー「ケビンのせいだ!だろう?ハリー、ブランドン!!」

ハリー「どっちでも良いだろ……」

ブランドン「……俺は、ケビンが悪いと思う」

ケニー「だろう!さっすがブランドンはわかってんなぁ!!ほら見ろネイサン!やっぱりケビンのせいじゃねぇか」

ネイサン「ばーか!ブランドンは優しいからおめぇに同情して言ってんだよ」

ケニー「そうなのか!?」

ブランドン「…………」

ケニー「ブランドーーン!?」

ハリー「ケニー静かにしろよ。どっかが悪いとか決めても仕方ねぇだろう」

ケニー「だけどさ~」


やっと来たお客さんは、僕の苦手なタイプの人達だった。

白いジャケットの男、恰幅の良い男、黒人で背の低い男、寡黙な男、彼らの様な人達はこの街にたくさん居て、僕の様な弱い人間を食い物にして暮らしている。

僕は、何度も被害にあった。

騙され、殴られ、殺されると思った事もあった。それでも、僕は彼らの様な人間に従うしかない。

そういう事にならない様に、僕は出来るだけ静かに対応した。些細な事でも、彼らの気に障ってしまえば、僕は何をされるかわからない。そうやってしか自分の身を守れない僕は、情けない奴だ。

騒がしく会話をしている彼らに、恐る恐る水を運ぶ。彼らは、この雨の中を傘も差さずに来たのだろう。全身ずぶ濡れで、黒人の小さい男は小刻みに震えてすらいた。

なんとなくその様子が気にかかり、注文をとる前に奥へタオルを取りに行った。

ジョリス「あ、あの……タオル使ってください……」

ケニー「おお!助かる!!寒くて寒くて仕方なかったんだよ」

ネイサン「おめぇ、気が利くじゃねぇか」

ブランドン「…………」ペコッ

ハリー「悪いな。席を濡らしちまってよ」

ジョリス「い、いえ……」

ハリー「飯食ったら直ぐに出て行くからよ。つーわけで、一番安い料理頼むよ」

ケニー「ハリーのおごりか!?」

ハリー「ばーか、俺だって金なんかねぇよ。一番安い料理を四人で分けんだよ。割り勘だからな」

ケニー「えー…」

ネイサン「おめぇがガセネタ掴ませられてなきりゃしっかり食えたんだよ」

ケニー「……悪い」

ハリー「仕方ねぇな……明日、女に金をせびってなんか食わせてやるよ」

ケニー・ネイサン「「マジか!?」」

ブランドン「……ハリー……俺はいいよ」

ハリー「気にすんなブランドン。『貸し』だからよ」

ケニー・ネイサン「「なんだ……」」

ジョリス「ただいまお持ちしますね」

ケニー「んでよーフランクの奴がよ!許してくれ~って逃げやがんの!!俺、腹抱えて笑っちまってよ」

ネイサン「ハッハッハッ、フランクの野郎ざまぁねぇな」

ハリー「ちげぇねぇ。あの野郎、普段からいけすかねぇからな」

ジョリス「お待たせしました」

ハリー「ん?俺は一人前頼んだんだぜ?四人前なんて払う金は俺らにはねぇよ」

ジョリス「あ、これは僕の奢りです」

ケニー「うおおマジか!?」

ネイサン「正直助かるぜ!2日ほど何も食ってねぇから腹が減って仕方なかったんだよ」

ハリー「本当に良いのか?」

ジョリス「ええ、どうせこの雨じゃ他のお客さんは来ないだろうし余らせて捨てるよりはずっと良いですから」

ケニー「うめぇ!!こいつはうめぇ」ガツガツ

ネイサン「本当だな。このシチューは絶品だぜ」

ハリー「お前ら、遠慮もなしに食ってんじゃねぇよ……」

ブランドン「……ハリー食べよう」

ハリー「……まぁ、正直腹が減ってキツかったし……あんたの厚意に甘えるよ」

ジョリス「ええ、遠慮せずにどうぞ。おかわりも有りますからね」


ただの気まぐれって訳でもないんだ。勿論、すべてが善意による行動って訳でもない。

彼らのご機嫌とりの様な気持ちと、せっかく作ったシチューを余らせては勿体ないと言う気持ちがあった。

そこに、僕自身もなぜだか分からないんだけど、彼らに僕の料理をお腹一杯食べて欲しいと言う気持ちが芽生えた。

彼らの様な人達は、苦手で、嫌で、怖くて、一時も一緒に居たくないなんて思っていたはずなのに、そう思った。

彼らの騒々しさが、僕の寂しい気持ちを紛らわせたからそのお礼なんて無理矢理に理由付けてみたけれど、本当は全然違う。

彼らの何が、僕にそうさせたのだろう。

考えてるうちに、凍える様に寒かったはずの僕の店が暖かく感じていた。

ケニー「ああ……もう食えねぇ……」ケプッ

ネイサン「おめぇは食い過ぎなんだよ」

ケニー「だってよ~こんな美味い飯、次はいつ食えるかわかんねぇんだぜ~」

ハリー「まぁ、な……だけどケニーは食い過ぎだ。お前は少し遠慮ってもんを覚えた方が良い。なぁ、ブランドン」

ブランドン「…………」コクッ

ケニー「ブランドンまで!そんなお前らだってさんざん食ってたじゃねぇかよ~」

ジョリス「…………」クスクス

ハリー「さぁて、そろそろおいとまするか。雨も弱まって来たしな」

ケニー「えー……もうちょっと居ようぜ……」

ブランドン「…………」フルフル

ネイサン「おら、さっさと立て」

ケニー「……わーったよ」

ハリー「おい、あんた」

ジョリス「は、はい」

ハリー「俺はハリー・マクドゥエルだ。世話んなったな」

ブランドン「ブランドン・ヒート」

ネイサン「ネイサンだ。気ィ使わせちまって悪かったな」

ケニー「俺はケニーってんだ。あんたのシチューめちゃくちゃ美味かったよ!」

ジョリス「ジョリスです。喜んでもらえて良かったです」

ハリー「長居しちまったな。さぁ、行こうぜ。本当にありがとなジョリス」ガチャ

ネイサン「じゃあなジョリス」

ケニー「久し振りに温かいもんが食えたぜ。ジョリスじゃあな」

ブランドン「…………」ペコッ

バタン カランコロン

ジョリス「またの……お越しを」


彼らが帰った後、僕の店にまた静けさがよみがえった。

雨も弱まり、重い雲間から光がこぼれ出しているのが窓から見える。僕は、食器もろくに片付けずに彼らが座っていた席から、その様子を眺めていた。

雲間が次第に大きな裂け目になり、光が茜色に染まって、この街に降り注ぐ。

夕暮れは、寂しさや虚しさを彷彿とさせるものだと思ってあまり好かなかった。

なのに、今の僕はまるで茜色に燃える様な空を眺めて、本当に微かな温もりを感じていた。

なぜ、こんな気持ちになるのだろう。

この温もりは、彼らがもたらしてくれたのだろうか。

ハリー、ブランドン、ネイサン、ケニー、僕は彼らの名前を呟いては、微かな温もりに戸惑っていた。

―― 翌日 ――

ジョリス「…………」カチャカチャ

ガチャ カランコロン

ジョリス「あ、いらっしゃい。ちょっと待ってくださいね」

ブランドン「……ああ」

ジョリス「あれ?……ブランドンさん」

ブランドン「……ブランドンでいい」

ジョリス「あ、あの……まだ仕込みが終わってないんですが……」

ブランドン「……いや、これを」チャリン

ジョリス「これは……?」

ブランドン「……昨日の代金」

ジョリス「わざわざ届けに?」

ブランドン「……ああ」

ジョリス「あ、えっと……取り敢えずコーヒーでも……」

ガチャ カランコロン

ネイサン「うーっす……って、ブランドンじゃねぇか」

ジョリス「ネイサンさん?」

ネイサン「ネイサンでいいよ。昨日は世話んなったな。ちぃとばかし足りねぇかもしんねぇが受け取ってくれ」

ガチャ カランコロン

ケニー「ジョリスーいるかーって、なんだよお前ら!?」

ネイサン「ブランドンはなんとなく来そうな感じはしてたが、まさかお前が来るとはな。飯でもせがみに来たか?」

ケニー「馬鹿野郎!そんなんじゃねぇよ!!美味いシチュー食わせて貰ったのに金も払わねぇなんて筋が通らねぇだろ」

ネイサン「おめぇが筋を通すなんてな……今日も雨か」

ケニー「なんだよー俺が筋を通しちゃ悪いってのかよー!!」

ジョリス「と、取り敢えず、皆さんコーヒーでも飲みますか?」

ネイサン「そうしてぇのはやまやまだが……なぁ」

ケニー「お前らもかよ……」

ブランドン「…………」コクッ

ジョリス「サービスしますよ?」

ネイサン「アハハハ、悪いな……」

ガチャ カランコロン

ハリー「やっぱり此処に居やがったか。俺だけ除け者にしようったってそうはいかねぇぞ」

ジョリス「ハリーさん、いらっしゃい」

ハリー「かてぇな?ハリーでいいよ。しっかし、ブランドンとネイサンはなんとなく居そうな感じはしたがケニーまで居やがるとは今日も雨が降るぞ」

ケニー「ハリー!!」

ネイサン「アハハハ、俺もさっきそう言ったのよ」

ブランドン「…………」クスクス

ケニー「あー!ブランドンまで笑いやがって!!」

ジョリス「ハリーさ……ハリーもコーヒーどう?」

ハリー「ああ、もらうよ。あと、料理適当に頼む」

ネイサン・ケニー「「あ、あの……ハリーの旦那……」」

ハリー「わーってるよ。この貧乏人共め」

ケニー「さっすがハリーだぜ!!」

ブランドン「……ハリー……大丈夫なのか?」

ハリー「おう、思わぬ臨時収入って奴だ。まぁ、気にすんなよ」

ジョリス「まだ、仕込みが終わってないんだけど……」

ハリー「ゆっくりで構わねぇよ。そのかわり、昨日のシチューみたいにとびっきりの奴を頼むぜ?」

ジョリス「うん、任せといて」


思わぬ事でびっくりした。

まさか、次の日に代金を払いに来てくれるなんて予想もしていなかったから。

月並みな言葉で言えば、彼らは良い奴だった。僕が嫌ってた様な人達とは、まったく違う。

彼らには、優しさや明るさみたいなものがあって、今を楽しみながらも一生懸命に生きている。

僕が、何かを諦めて生きていたのとはまったく違う。

人間らしい温かみがあった。

その温かみが、冷めきった僕に伝わっていたのだろう。昨日の僕の行動は、そんな彼らに対しての無意識の感謝の印だったのかもしれない。


それから、彼らは僕の店に良く来る様になった。

コーヒー一杯で他愛ない会話をして、僕もたまにその輪に入って話をした。

満たされていた。何も無くとも、僕が感じた事のない充実感があった。いや、僕が望んでいた温もりが、彼らとの関係性の中にあったのだろう。

いつの間にか、彼ら四人の輪の中に僕も入っていた。

それがどんなに素晴らしい事で、それがどんなに喜ばしい事だったか、今でもたまに思い出しては噛み締めている。

ハリー、ブランドン、ネイサン、ケニー、君たちに会えた事を僕は誇りに思う。


この街には、突然なんて事はない。

目を覆いたくなるような事でも、さも当たり前に起きて僕らの心を薄ら笑いながら揺さぶる。

ただ、誰も予想が出来ないだけだ。

日々の暮らしに追われ、脇目も振らずに走り続けていれば、そんな事を考える余地なんてないんだ。

その日の僕もそうだった。

ハリー達は、犬猿の仲のディードと喧嘩をした。そんなハリー達に、ご飯を作った。

ディードのお兄さんが、ギャングになってこの街に帰ってきた。ケニーが素敵なネックレスを持ってきた。ブランドンがマリアとデートをした。


様々な出来事に追われる日々。僕は、そんな日々に追われながら彼らがくれた温もりを守る事だけを考えていた。

ネイサン「お、おい!ま、まさかミランダの所に行くつもりか!?今さらそんなの返したところで許してくれるわけねぇって!!」

ハリー「確かにケニーは馬鹿だ……だけど、仲間だろ?」

ブランドン「…………」コクッ

ガチャ

ネイサン「……ったく、仕方ねぇな」

ジョリス「あ、あの……僕も!!」

ネイサン「ばーか、お前は飯作って待ってろ。きっちり『5人分』な?」

ジョリス「うん!」

バタン

ジョリス「ハリー、ブランドン、ネイサン、ケニー……ちゃんと帰って来てね」


ケニーがヘマをした。

貧しい生活の中でどうにかして僕らは遣り繰りをしていた。汚い事もしたし、人を傷つけもした。

僕は、直接何かをした訳ではないけど、僕たちは共に過ごしていたんだから同罪だろう。

そんな生活の中で、ケニーは手を出してはいけない相手から盗みをしてしまった。彼に悪気はないんだ。

だって、僕らは生きるために一生懸命だったんだ。それを悪いなんて言う権利は、誰にもない。

ミランダから僕らの仲間を取り返すために、ハリー、ブランドン、ネイサンは雨の中、出掛けていった。

僕は、凍えて帰って来るだろう四人に温もりを与えるために彼らと出会った時のシチューを作っていた。

きっちり5人分。

ジョリス「酷い雨だな……」

ジョリス「これじゃ、きっとハリー達は寒い思いをして帰って来るだろうな……タオル用意しとこうかな?」


――― 普通だった


ジョリス「よし、これで良いな。あとはシチューを仕上げて」


―――― とても普通だった


ガチャ カランコロン

ジョリス「あ、おかえり」

ラッド「ただいま」

ドォン

―――― 今、目の前で死んでいる男が、俺たちの仲間だってこと以外は、この街では良くある事だった。


冷たい雨に打たれようが、吹きすさぶ風に曝されようが、望むと望まないとに関わらず、弱い僕たちに孤独を強いる。

誰かに寄り添おうとすれば、巧みな嘘が僕たちを惑わせる。

誰かに手を伸べようとすれば、嘲りが僕たちの手を振り払う。

この街は、そういう街。

だから、僕たちは互いに寄り添いあって生きていたのだろうか。


――― 違う。きっと、違う。


何も無くとも満たされていた僕たちの日々を、そんな簡単な事で片付けられるはずはない。

孤独の中に居た僕は分かる。

他愛ない会話で笑い、些細な事で喜んだ僕たちの日々は、かけがえのないものなんだ。

僕は、改めてそう思う。

ふと、そんな事を考えながら薄れ行く景色の中で、いつかの事を思い返していた。

ジョリス『ねぇ、ハリー、ブランドン』

ハリー『ん?なんだ?』

ジョリス『僕は……孤独だったんだ。不安に怯えて、独りで暮らしていた。だけど、君たちと出会った。ハリーとブランドンとケニーとネイサンに……僕は孤独じゃなくなった。君たちが僕に温もりをくれたんだ。凍えるような夜でも、笑って眠れるような温もりを……改めて言わせて欲しい。ありがとう』

ハリー『ばーか、今さらなに言ってんだよ』

ブランドン『……ジョリス、俺たちは仲間だ。今までも、これからも』

ジョリス『そうだね……そうだよね』

ハリー『そうだ』

ブランドン『ああ、そうだ』

ジョリス『そうだね』


――― 《warmth=思いやり、温情、優しさ》


END

以上です。
GUNGRAVEは本当に良いアニメなので興味があるなら北米版BD-BOXを

五千円弱ですので

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