古泉「なんでしょう、嘘つくのやめてもらっていいですか?」 ハルヒ「……」 (34)


ハルヒ「……」

古泉「ですから、宇宙人なんて存在しないんですよね」

古泉「世界中の人とか国がこれだけ長い間探しても誰も見つけていないんですよ?」

古泉「この世に存在しないものを探すって無駄じゃないですか?」

長門「……」

ハルヒ「いや、でも写真とか映像で記録に残っているし……」

古泉「うそはうそであると見抜ける人でないと(メディアを使うのは)難しい」

朝比奈「難しい……?」

古泉「ああいう写真や映像って既に大体偽物って証明されているですよね」

古泉「エイプリルフール用に作ったものとか、ただのイタズラで作ったものとか」

古泉「そういうものを本物だと信じてしまう人は情報弱者なんですよね」

ハルヒ「……」

古泉「涼宮さん実際に宇宙人見たことないですよね? 僕もありません」

長門「……」

古泉「逆に実際に見たことあるなんて言う人怪しくないですか?」

古泉「大体そういうのって勘違いなんですよね。幽霊の正体見たり枯れ尾花って言葉があるように」

古泉「昔からこういう言葉があるのに、技術や文明が発達した現代でまだ宇宙人だ何だって言うのってナンセンスじゃないですか?」

古泉「僕はそう思います」

ハルヒ「……」

朝比奈「……」

長門「……」

キョン「……」

キョン「なんだこれ」

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古泉「人間原理ってご存知ですか? そもそも宇宙って―――」

キョン「おい長門」コソッ

長門「なに」

キョン「なんだこれは? というか誰だアイツは」

長門「古泉一樹」

キョン「見てくれは確かに古泉だが……ウザさのベクトルが違う」

長門「涼宮ハルヒの影響」

キョン「だろうな。積もり積もったストレスが原因かとも思ったが……」

キョン「で、ハルヒがどう願ったら古泉がああなる?」

長門「分からない。ただ、古泉一樹の内面そのものが別の人間に入れ替わっているとも感じられる」

長門「涼宮ハルヒが古泉一樹とその人物に類似性を感じ取った可能性がある」

キョン「こいつ古泉に似てるなぁ……って思ったからこうなったってことか?」

長門「そうなる」

キョン「どうなってんだアイツの頭は……」

古泉「―――というわけで、宇宙人なんてこの世にいないんですよ」

キョン「アイツよくあんなことが言えるよな」

長門「……」コクリ

ハルヒ「~~~違うわよ古泉くん! 確かに写真や映像の信憑性は低いかもしれないけど……」

ハルヒ「いるかもしれないというロマンで多くの人を動かしている……それだけで宇宙人は存在していることになるのよ!」

古泉「何を言ってるのか分かりません」

キョン「ここに関しては同感だ」


ハルヒ「大体どうしたのよ急に。部室に入って来るなり急に宇宙人はいないなんて言い出すなんて」

古泉「事実を述べたまでです」

ハルヒ「今更よね!? そんなこと言っちゃうとSOS団の存在意義がなくなっちゃうじゃない!」

キョン「それについては発足当初から不明だ」

古泉「うーん。言ってしまえばそもそもの問題がそこなんですよね?」

古泉「SOS団ってなにをする活動団体か知ってます?」

ハルヒ「当然よ! 宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶこと!」

ハルヒ「世界を 大いに盛り上げる為の 涼宮ハルヒの団! 略してSOS団!!」

古泉「それって何か意味あります?」

ハルヒ「あるわよ!? 意味しかないわよ!!?」

古泉「我々がこの活動を行う意味って、言ってしまえば涼宮さんのエゴなんですよね」

ハルヒ「そっ、そんなことない……ないわよね!? キョン!!」

キョン「えっ、あぁ、まぁ……そうだな」

ハルヒ「濁すな!! 団員全員が目標に向かって一致団結してるんだから!」

古泉「仮に、同じ志を持つ同志だとして、その志がそもそも破綻しているんですよね」

古泉「追い求めるものが存在しないんですから。無い物を探すって太平洋でコンタクトレンズを探すより難しいんですよ」

古泉「可能性がないですからね」

ハルヒ「……スゥ」

ハルヒ「宇宙人! 未来人! 超能力者は、実在する!!!!」ドン!!

キョン「秘宝か」


ハルヒ「じゃあじゃあ! 古泉くんは未来人も存在しないって言うの!?」

朝比奈「!」ドキッ

古泉「しませんよ。未来人なんて」

朝比奈「えええぇぇぇええっ!!?」

ハルヒ「」ビクッ!

ハルヒ「っ! ほ、ほら! みくるちゃんもビックリしてるじゃない! 古泉くんが素っ頓狂なこと言うから!」

朝比奈「じゃ、じゃあわ、わた、わたしは……一体」ブルブル

キョン「朝比奈さん! 大丈夫! 古泉が言ってることは嘘ですから! 信じないでください!」ボソッ!

古泉「いないですよ。未来人なんて。何度も言いますが、涼宮さん会ったことあります?」

ハルヒ「まだ! まだないけど!! 絶対いるわよ!」

ハルヒ「だって未来って絶対にあるじゃない? ほら、こうして話してる間にも1秒、2秒経って今が過去になっていってる」

ハルヒ「過去のあたしたちから見れば今のあたしたちは未来人だし、10秒後、10分後、10年後のあたしたちは存在するんだから」

ハルヒ「それが未来人の証明になるじゃない」

古泉「で。10年後の涼宮さんは今どこにいるんですか?」

ハルヒ「10年後に決まってるじゃない」

古泉「じゃあそれって『10年後の未来の現代人の涼宮さん』じゃないですか」

古泉「この時代にいないと意味がないと思いませんか?」

ハルヒ「ぐぬぬ……」

朝比奈「……」ソォー

キョン「朝比奈さん!! 挙手しようとしないでください! 未来人を主張しちゃダメです!!」ボソッ!


ハルヒ「会ったことない! 会ったことないけどいるわよ! 未来人!」

ハルヒ「この時代にいることがばれたらまずいから自分で未来人とは名乗らないのよ!」

朝比奈「涼宮さん……」パアァ

キョン「(名乗ってたけどな……)」

古泉「なんでばれたらまずいんですか? 未来人にとって不都合あります?」

ハルヒ「あら古泉くん。バタフライエフェクトって知らないの?」フフン

ハルヒ「蝶の羽ばたきひとつが大きな事象の要因になることがあるって考え方」

ハルヒ「未来人が過去にきて一番気をつけないといけないのは、過去で行う自身の行動が、元いた未来を大きく変化させることなのよ!」

ハルヒ「だから未来人が未来人なんて名乗っちゃったら大きな変化が起きて未来そのものが変化しちゃう可能性が……」

朝比奈「……アワ、アワワワ」

キョン「朝比奈さん! 落ち着いて! その辺考えて行動していただいてますよね!? ね!?」

古泉「えーと。バタフライエフェクト、もちろん知ってますよ」

古泉「そのバタフライエフェクトなんですけど、どうして未来人が未来を変えちゃいけないんですか?」

古泉「というかそれって涼宮さんの感想ですよね? 過去で何かしたら未来が変わってしまうっていうの」

ハルヒ「いや、それは……」

古泉「アカシックレコードって知ってます? この世の過去から未来全ての事象は決まっているってことなんですけど」

古泉「つまりそのバタフライエフェクトが起きることも予定通りなんですよね。世界からしてみれば」

古泉「だからバタフライエフェクトって言葉自体の存在がおかしいんですよ。もはや存在していないんですよ、そんな言葉」

キョン「あるだろ」

古泉「そもそも未来を変えることって悪いことじゃないんですよ。聞いたことあります? 未来を変えたら逮捕されたって事件」

古泉「いま日本において、これを取り締まる法律なんてないんですよ。だから別に未来を変えることって悪いことじゃないんですよね」

キョン「……えっ、なんの話をしてるんだコイツ」

古泉「では、なんで誰も未来を変えないのか? 未来人がいないからなんですよね」

古泉「ここまでの話理解できましたか?」

ハルヒ「分かんない! 分かんないわよ! なに言ってるか!!」


ハルヒ「みくるちゃん! 飲み物!! 何か淹れて頂戴!」

朝比奈「は、はぁい! じゃ、じゃあ紅茶でも……」

古泉「……えーっと」

古泉「勘違いしてる人が多いのですが、イギリス人ってあまり紅茶飲まないんですよね」

ハルヒ・朝比奈「「!!?」」

古泉「イメージが先行してイギリス人は紅茶しか飲まない、みたいなこと思ってる人多いのですが、実際は違うんですよね」

古泉「若い人なんてそれが顕著で、コーヒーとかジュース飲む人の方が多いんですよ」

キョン「なんで急にイギリス人の話に……?」

長門「不明」

古泉「だって、日本人もそうじゃないですか? 海外の人からは緑茶ばっかり飲んでると思われてますが、緑茶飲んでる人少ないじゃないですか?」

朝比奈「へー……」

キョン「そう、なのか?」

ハルヒ「ど、どうかしら……?」

古泉「お茶の中では確かに飲まれている方ですが、飲み物なんてすごい種類あるじゃないですか?」

古泉「水、ジュース、コーヒー、乳飲料、アルコール。これだけ種類がある中で緑茶を一番飲みますって人、全然いないんですよ」

キョン「へー、何かそういうデータがあるのか?」

古泉「………………」

キョン「……」

古泉「だからイギリス人=紅茶みたいなイメージの押しつけって、あまりよろしくないんですよね」

キョン「おい」

長門「(あるにはある)」


キョン「コイツこそ感想で話してる気がするぞ」

ハルヒ「別にイギリス人が紅茶ばっかり飲んでるなんて思ってないわよ」ズズ

古泉「音を立てて飲食するのって日本人だけなんですよね」

ハルヒ「!」

古泉「欧米などではスープやパスタ食べる時、絶対音は立てないんですよ」

古泉「何故かというと、マナー違反だからです。日本でも音を立てて食べるなと言われることもありますよね」

古泉「でも蕎麦とかラーメンとかみんな啜って音たてて食べてますよね? あれ海外でやるとマナー違反、教養がないってなるんですよね」

朝比奈「そうなんだ」

古泉「なので、海外いった時に笑われないようにするために、普段からそういうこと意識しておかないとダメなんですよね」

ハルヒ「…………」

ハルヒ「音たててごめんなさい」

キョン・長門・朝比奈「「「(えらい)」」」

古泉「謝って欲しくて言ったわけじゃなくて、そういうこともありますよってだけです」

キョン「もう少し言い方をだな……」

古泉「おや。今日はアールグレイですか。好きですよ、僕」

朝比奈「いえ、ダージリン……」

古泉「……」

ハルヒ「……」

キョン「……」

古泉「……」ズズ

キョン・ハルヒ「「!!!」」


鶴屋「おっすー! みくるいるー!?」ガチャ

朝比奈「あっ、鶴屋さん」

鶴屋「やあやあ諸君! 今日も健やかに活動に勤しんでるっかな?」

鶴屋「はい、みくる。頼まれてたプリント届けに来たよ」

朝比奈「あっ、わざわざありがとうございます」

鶴屋「なんのなんの! おっ、キョンくん! どしたの、なんとも言えない顔して」

キョン「いやぁ、鶴屋さん……」

鶴屋「シャキっとするにょろよ! 一樹くん! こっちは変わらずハンサムだねぇ!」

ハルヒ「あっ……」

古泉「ルッキズムってご存知ですか? 今、社会で結構問題視されているんですよ」

鶴屋「んん?」

キョン「」アチャー

古泉「所謂、外見至上主義のことなんですが……容姿でその人の全てを評価するっていうことで」

古泉「どれほどの能力を持っていたとしても、容姿の優劣でその人の価値を決めてしまうってことなんですね」

鶴屋「……」

古泉「第一印象って言葉があるように、視覚からの情報を重要視するのは仕方ないのかもしれないですが」

古泉「それでその人の全てを決めてしまうって考え方はどうなのかな?って気はしますね」

キョン「お、おい古泉……」

古泉「僕、何か間違ってます?」

朝比奈「ええと、つ、鶴屋さんこれは、そのぅ……」


鶴屋「……うーん。何か気に障るようなこと言っちゃったかな? ごめんね一樹くん」

古泉「いえ、気に障るってわけではないんですが、どうなのかな?っていう」

鶴屋「でもね、もちろんそういう意味で言ったわけじゃないからねっ。ただ、あたしはSOS団のみんなに良いところがあって」

鶴屋「そんなみんなのことが好きなんだっ。一樹くんの爽やかなスマイルもそうだし」

鶴屋「ハルにゃんの元気なところも、みくるの可愛らしいところも、有希っこのクールなとこ、キョンくんの優しい心も」

鶴屋「ぜーーんぶ大好きなのさっ! 一樹くん! 行き過ぎた愛情を許しておくれっ! 今日はおいとまするよ! そんじゃ!」

ハルヒ「……鶴ちゃん」

朝比奈「鶴屋さん……」ウルウル

長門「……」ジッ

キョン「……古泉」

古泉「……」

古泉「僕、一言多いんですよね」スクッ

古泉「知っていますか? 謝罪って早ければ早いほどいいんですよ」ダッ!

朝比奈「古泉くん! わたしも行きます!」パアァ!

キョン「ギリギリ良心は残っていたようだな」

長門「古泉一樹の本来の人間性が垣間見えた」

ハルヒ「まったく! 今日の古泉くんは少しおかしいわよ!」プンスカ!

キョン「少し……?」


古泉「誠心誠意謝れば大抵の事って許されるんですよね」

キョン「反省してるのかコイツ」

朝比奈「ふ、深々と謝罪して鶴屋さんも笑って許してくれたので……」

ハルヒ「それじゃあ、あたしにも謝ってもらおうかしら!」

古泉「僕、何かやっちゃいました?」

ハルヒ「あたしに注意した後、音たてて紅茶飲んだでしょ!!!」ウガー!

キョン「そっち?」

古泉「失礼しましたー」

ハルヒ「よろしい」

朝比奈「いいんだ……」

キョン「ごめんね、いいよのやりとり」

ハルヒ「違う違う。そっちもだけどそうじゃなくて!」

ハルヒ「SOS団の存在意義及び宇宙人、未来人、超能力者の存在を認めなかったことを謝罪してちょうだい!」

古泉「なぜでしょう? 不当な謝罪の要求は裁判でお願いします」

ハルヒ「不当じゃないわよ! 存在を否定された側の気持ちにもなりなさい!」

朝比奈「……ソ、ソウダーソウダー」

キョン「(健気だ……)」

古泉「うーん、いないものはいないんですよ。はい」

ハルヒ「宇宙人、未来人に加えて超能力者もいないっていうの!!?」

古泉「いません」サラリ

キョン「自分のことなんだと思ってるんだ?」


ハルヒ「~~~っ超能力者はいるじゃない! テレビにも何人も出てて、あたしは生で見てないけど、実際に体験した人だっているわよ!」

ハルヒ「動物と会話できるとか、スプーンを曲げるとか、透視することができるとか!」

ハルヒ「色んな種類の超能力者がたっくさんいるのは事実でしょ!?」

古泉「えーと。取りあえず、いま仰られた能力って本当に超能力だと思います?」

ハルヒ「なっ、超能力じゃなきゃ何だって言うのよ!」

古泉「ただの優れた能力じゃないですか? 足が速い人を超能力者って言わないですよね?」

キョン「とんでもないこと言ってるぞ」

ハルヒ「屁理屈じゃない!」

古泉「超能力の定義って誰が決めているんですか? 自分や周りの人の大多数ができないことを超能力と呼ぶなら、様々な業界のプロと呼ばれる人は皆、超能力者ですよね?」

古泉「そういう定義であるなら超能力者はいるってことでいいですが。はい」

ハルヒ「っし!! 勝った!!」グッ!

キョン「目的が変わってるぞ。それでいいならプロ野球にキャッチボールして遊んでもらえ」

古泉「僕は動物と会話できないですし、160km/hのボールを投げることもできません。この2つを超能力とそうでないことに分けるって何か違いませんか?」

ハルヒ「それは……」

古泉「動物と会話できる人だって、点滴穿石、努力して毎日毎日動物に語りかけて、それで能力が目覚めたってかもしれないじゃないですか」

古泉「それって誰しもがその能力を開花させることができるんですよね。万人が可能性を持つ超能力ってそんなに不思議で珍しいですか?」

ハルヒ「……たしかに」

キョン「あ、負けそう」

古泉「皆が努力してできるようになることをできる人って超能力者じゃなくて、ただ努力家なんですよね」

古泉「それをさも天性の超能力って言葉で一括りにするって、努力してきた人に申し訳ないと思いませんか?」

ハルヒ「たしかに!」

キョン「急にいい事風に言われて納得しちまった」


ハルヒ「ちがうちがう!! 危ない危ない! あやうく丸め込まれるところだったわ……」フー

キョン「もう丸め込まれてたぞ」

ハルヒ「ともかく! 宇宙人も未来人も超能力者も必ず存在するの!! いないなんてありえない!」

ハルヒ「宇宙ってどれだけの数の惑星があるか知ってる? 太陽系があって、銀河があって銀河団があって大銀河団があって……!」

ハルヒ「とてつもない数の星が宇宙には存在しているの!! その宇宙の一惑星である地球にしか人間が存在しないわけないじゃない!」

長門「……」

ハルヒ「時間って不思議よね! 考え出すと止まらないほどワクワクする概念だと思わない!?」

ハルヒ「物質の変化を時間と定義した時から、過去と未来ができて、その瞬間に未来人は生まれたのよ! 未来っていつ? 今よ!!」

朝比奈「……(?)」

ハルヒ「超能力者は……テレパシー使えたり、浮いたり、できるわ!」

ハルヒ「だから超能力者はいるのよ!!」

古泉「段々と根拠が雑になっていませんか?」

キョン「すまんハルヒ。古泉に賛同する」

ハルヒ「なんでなんで!! 絶対にいる!! いるんだから!!」

朝比奈「そ、そうですよね! いますよね! ねっ!」

長門「涼宮ハルヒが存在を信じなくなった瞬間、我々は消滅する恐れがある」ボソッ

キョン「こっっっわ!! でもそりゃそうか! ハルヒ!! いるよ! 絶対!」

ハルヒ「キョン~そうよねぇ~」プルプル

キョン「そうだそうだ! 俺見たことあるぞ!」

古泉「なんでしょう、嘘つくのやめてもらっていいですか?」

キョン「てめぇ!」

一旦寝ます。明日には終わらす。


キョン「長門長門、古泉のやつをそろそろ戻さねないとまずいんじゃないか?」

長門「危険。存在が疑われているためか、少し透けてきている」スゥ

キョン「長門!!」

長門「気もする」

キョン「おい……」

長門「涼宮ハルヒ次第と思われる。彼女の影響で古泉一樹はこうなってしまっている」

キョン「なんでハルヒはこんなことを望んだんだ……」

ハルヒ「古泉くん! 今のあなたの心構えじゃ見つけられるものも見つけられないわ!」

古泉「見つけられるもの……? 自分自身、とかですか?」

キョン「深っ……いや、逆に浅いな」

ハルヒ「違うわよ!! 宇宙人や未来人も含まれるけど、そもそも不思議を探すことがSOS団の主な団活でしょ?」

ハルヒ「不思議探索ツアーで何も発見できないのはそういう深層心理、根本が不思議を遠ざけてるんじゃないの!?」

ハルヒ「みんなもよ!」ビシッ!

朝比奈「ひぇっ!」

キョン「飛び火した……」

ハルヒ「みんなも心の底から不思議を信じ、求めているの!? その根っこの部分が不確かだから不思議が現れてくれないんじゃないの!?」

古泉「ご存知ですか? この世に不思議なことって存在しないんですよ」

キョン「お前の世界、さっきから何も存在しないな」

古泉「全部当たり前のことなんですよ。あって当然、起こって当然。森羅万象さもありなん」

キョン「語感で話すな。どういう意味だ」

ハルヒ「こんなんじゃだめだわ! SOS団瓦解の危機! 今一度みんなの気持ちを一つにするわよ!!」


ハルヒ「まずもって。SOS団とは―――」

古泉「同調圧力ってほぼマイナスな効果にしかならないんですよね」

ハルヒ「だああぁぁあああ!! いま団長が話してる途中でしょうが!」

ハルヒ「オホン! はい復唱! SOS団は世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団です。はい!」

朝比奈「え、SOS団は……あれ?」

キョン・長門・古泉「「「……」」」

ハルヒ「ちょっと! 古泉くんだけじゃなくキョンと有希まで! どうしちゃったのよ!?」

キョン「いや、なんか……宗教とかブラック企業みたいだな、って」

ハルヒ「なっ!」

古泉「日本人の国民性が出ていますよね。権力を使って服従を強いられていますよ」

ハルヒ「なっ……なっ……」

ハルヒ「なによ!! どいつもこいつも!! いいわよ! そんなに言うんだったら待ってなさい!!」

ハルヒ「信じる力を持って真剣に探せば、校内にだってUMAの1つや2つ転がってるはずよ!! 目にものを見せてやるわっ!」バタン!

朝比奈「涼宮さ……行っちゃった」

キョン「ハルヒには悪いが、都合のいい状況になったな」

キョン「おい古泉。元のお前に戻すにはどうすればいいか知ってるか?」

朝比奈「(やっぱり今日の古泉くん何か変なんだ……)」

古泉「えっと、質問の意味が分からないのですが……IQって10違えば会話にならないんですよね」

古泉「僕の言っている意味、分かります?」

キョン「物理療法でいくか。長門、手頃な鈍器を」

長門「だめ」


古泉「ベ、ベーシックインカム!! 失礼、くしゃみが……」

朝比奈「今のがくしゃみ……?」

キョン「しかし参ったな。どうすりゃ元の古泉に戻るのか見当がつかん。いや……」

キョン「ハルヒによってこうなっちまったんだから、もう一度ハルヒに元の古泉に戻るよう思わせればいいんだろうが」

キョン「逆にあれだけ言われてまだこの状態なのはなんでだ? 今の古泉に明らかに怒っていたよな?」

古泉「短気な人はよく食べて、しっかり寝ることがいいんですよね。そうすると怒ることが結構どうでもよくなるんです」

キョン「……もしかしてお前、既に元に戻ってるのに戻ってないフリしてるのか?」

朝比奈「えっ……!」

長門「……」

古泉「…………」

古泉「何故かと言うと、怒りって疲れるんですよね。疲れることを進んでやる人っていなくないですか??」

キョン「その間はどっちだよ。ったく……」

キョン「ハルヒはブチ切れて出て行ったが、閉鎖空間とか大丈夫なのか? 古泉、お前の仕事だろ」

長門「今は発生していない」

キョン「それもまた妙だな。ハルヒは怒ってるようで怒ってないのか?」

古泉「怒りって6種類に分かれるみたいで……あっ、ちなみに白色ってあるじゃないですか? あれって200色あるんですよ」

朝比奈「へー!」

キョン「……そういうデータがあるのか?」

古泉「ご自身でネットで調べてみてください」

キョン「腹立つな」イラッ

長門「少しだけ」


キョン「ハルヒのやつ、一体何考えてこんなことに……」

長門「彼女が飽きるまではこのまま」

キョン「はぁ……嫌になるぜ。神頼みでもするか?」

古泉「あ、神様って涼宮さんなんですよね」

キョン・朝比奈「「!!」」

キョン「そ、それは古泉たち『機関』の考え方……!」

朝比奈「も、元の古泉くんに戻ったんですか!?」

古泉「なぜなら、思ったことが何でも実現できる人。それは最早、人知を超越した存在だと思いませんか?」

朝比奈「お、思いません! わ、わたしたちの組織は古泉くんたちとは別の考え方が―――」

キョン「あ、朝比奈さん。一旦そういう、いざこざした話は置いておいて……」

キョン「古泉。神はいてそれがハルヒだって言うんだな?」

古泉「ええ。何か間違ってます?」

キョン「お前はかつてこう言った。神である涼宮ハルヒが望んだから宇宙人、未来人、超能力者であるお前たちがここに存在すると」

キョン「さっきまでいないと言っていたお前の発言と矛盾するよな? こりゃ一体どういうことだ」

古泉「……昔、僕そんなこと言いましたか? 何かそういうデータあるんでしょうか?」

キョン「言ったよ! 都合のいい時だけ記憶なくしてんじゃ……!」

長門「古泉一樹の記憶と別の人物の主張が同時に存在し、矛盾を生んでいる」

長門「そのことに古泉一樹自身が気づき始めている」

キョン「おおっ! てことは……!」

長門「最悪の場合、自我同士が反発し、精神が崩壊し廃人となってしまう可能性も」

キョン「怖いって!! 古泉の自我が戻るとかじゃないのか!!? やばいじゃねえか古泉!!」

古泉「頭痛って思い込みなんですよね。実際はなんの異常も起きていないんですよ」ズキズキ!

キョン「なわけねーだろ!!! 唐突にホラ吹くな!!! だ、大丈夫か古泉!!」


古泉「……朝比奈さん、水をいただけますか?」

朝比奈「は、はい! すぐに!」

キョン「こ、古泉……なのか?」

古泉「水って万能飲料なんですよね。人間はこれさえあれば2~3週間生きられるんですよ」

キョン「だ、ダメだ。まだ別の意思が強い……!」

古泉「で。僕が水を求めたように、やはり緑茶はファーストチョイスに上がりにくいんですよね」

キョン「さっきの会話の伏線まで回収してやがる……くそ!」

キョン「古泉! ハルヒを神とするのは一般的な考え方なのか!?」

古泉「うーん。難しいところではあるんですけど、正直アングラな考え方と思ってます。はい」

古泉「涼宮さんが誕生してから十数年、社会的な浸透率で言えば全然、まだまだなんですよ」

古泉「しかし、彼女が神であることは疑いなき事実であり、我々『機関』としましても―――」

キョン「よし、いいぞ……」

朝比奈「お水です」コト

古泉「水って天然水のことを指して、ミネラルウォーターとはまた別なんですよね」ゴク

キョン「ダメだぁ! 流されちまった!」

長門「別と言えば、涼宮ハルヒの他に別の神は存在する?」

キョン「(―――長門! 少々強引だが上手い!)」

古泉「いませんよ。涼宮さんこそが唯一、絶対の神なのですよ」

キョン「いいぞ……そのまま」

長門「絶対?」

古泉「絶対のパラドックスという言葉があるんですよ。ご存知でした?」

キョン「長門さん?」

長門「すまない。迂闊だった」

休憩ー。最後夕方~夜で終わりです。


長門「涼宮ハルヒ、神、三年前、『機関』、涼宮ハルヒ」ボソボソ

古泉「……」ボーッ

キョン「すごい光景だな……」

朝比奈「せっ、洗脳……」

キョン「これで無理やりにでも古泉の人格を引っ張れれば……」

古泉「神、は……涼宮さん……僕は、与えられた能力……『機関』」

古泉「―――……あれ、僕は一体?」ハッ!

キョン「こ、古泉……なのか?」

古泉「え、ええ。すみません、少し記憶混濁を起こしていまして……えっと」

長門「涼宮ハルヒの能力によって、あなたの人格は別の人物と入れ替わっていた」

古泉「入れ替わり……それで記憶にもやが?」

キョン「こ、古泉。お前は超能力者だよな?」

古泉「はぁ……あえて言うなれば、と言ったところではありますが。超能力者が最も適しているでしょうね」

キョン「……やった」

キョン「あぁぁあああああぁああああ!!! やっと戻ってくれたか!! 古泉!!」

朝比奈「古泉くん!! おかえり!!」

長門「良かった」

古泉「え? そんなに喜ばしいこと……いえ、ありがとう、ございます……?」

キョン「いやー、お前本当にうざかったんだよ!」

古泉「ストレートに傷つく物言い……」

古泉「……ええと、長門さん。僕は彼を怒らせることをしていたのですか??」

長門「ひいては、団員全員」

古泉「……困ったものです」フゥ


古泉「なるほど。涼宮さんがそのようなことお考えに……それで、彼女はどこに?」

キョン「不思議を探しに行った」

朝比奈「たぶん校内を駆けまわってるかと」

長門「飽きたら戻ってくる」

古泉「犬か何かですか?」

キョン「なんにせよ。面倒くさい問題が片付いて一安心だ」

長門「全て問題が解決したとはいえない」

朝比奈「えっ!?」

キョン「……長門、そりゃどういうことだ」

長門「事の発端は涼宮ハルヒによる能力。現在の古泉一樹はその能力の綻びに付けこみ、上書きで人格を修正したに過ぎない」

長門「あなたの中にはまだ別の人格が存在している」

古泉「なんと……」

キョン「人体実験みたいなことされてるな……」

長門「根本的に解決するには、やはり涼宮ハルヒの力が必要」

長門「さきほどまでのあなたではなく、今の古泉一樹が必要であると彼女に思い込ませることが必要」

古泉「涼宮さんにとって、理想の古泉一樹になる、ということでしょうか」

キョン「元々ハルヒの理想のポジションでここに入ってきて、それを守ってきたってのに、思い付きで人格変えられて……」

キョン「…………かわいそ」

古泉「でしたら……もう少し労わりの言葉があると思いますが」

朝比奈「い、いつもの古泉くんできっと大丈夫ですよ! 涼宮さんが帰ってきたらいつも通りでお願いしますね!」

古泉「いつも通りの僕……すみません、いつも通りの僕ってどんな感じでした?」

キョン「短時間で自分を見失っている」

長門「見失うというより、実際に失っていた」


古泉「僕はSOS団の副団長。涼宮さんに望まれた超能力者であり『機関』に属すエージェント。SOS団では団長に対しイエスマンで―――」ブツブツ

朝比奈「洗脳の次は自己暗示……」ヒエッ

キョン「あいつの仕事に対する姿勢に涙が止まらねえよ」

古泉「涙ってなぜ出るかご存知ですか? あれって―――」

キョン「古泉!! 集中しろ!! 偽泉が顔出してきてるぞ!!」

古泉「ハッ! し、失礼しました……神人、閉鎖空間、敵対勢力」ブツブツ

キョン「油断できねえな……」ゴクリ

長門「涼宮ハルヒの力は強大。情報操作での修正がどこまで持つか保証できない」

キョン「仕方ない。ハルヒを探しに行くか」スクッ

キョン「今の状態の古泉を見りゃ、やっぱこっちの古泉の方がいいって―――」



ハルヒ「…………」バタン!!



キョン「……思うよな。よう、ハルヒ。おかえり」

ハルヒ「……ただいま!」ズンズン!

ハルヒ「みくるちゃん! 飲み物!」

朝比奈「は、はぁい!」

古泉「……」

キョン「……さて」


ハルヒ「……」スッ

キョン・朝比奈「「(紅茶の音たててない……)」」

キョン「どうだったハルヒ? 何か見つかったか?」

ハルヒ「……なにも! 見て分かんない!?」

キョン「だろうな。まぁ、そうカリカリするな。そんな簡単にゃみつからねえよ」

キョン「なっ、古泉」

朝比奈「……」ゴクリ

ハルヒ「……」

古泉「……」

古泉「そうですね。しかし涼宮さんなら発見してもおかしくはないでしょう」

ハルヒ「!」

キョン「(よし! いいぞ!)」

ハルヒ「ほ、ほんとに……?」

古泉「ええ。そうですね、今はまだ日が高い……どうでしょう? 今度の不思議探索は、かはたれ時や黄昏時」

古泉「今までと違った時間帯での探索をしてみては? もしかすると不思議を見つけやすい時間、時期、環境などがあるのかもしれません」

ハルヒ「……うんうん、そうよね」

キョン「(いつもは多少ウザく感じる古泉のトークも、さっきまでと比べると心地良く、そして懐かしく感じる……)」

ハルヒ「やっぱり……古泉くんも、そう思う?」

古泉「もちろん。SOS団の団員たるもの、常に不思議を意識しておかねばなりませんからね」

ハルヒ「……」パアァ!

長門「パーフェクト」

キョン「古泉はこうでなくちゃな」


ハルヒ「さすが……さすが副団長だわ! 古泉くん!!」

ハルヒ「さっきまでの古泉くんは、一時の気の迷いだったのね!」

古泉「ええ、僕らしくありませんでした。申し訳ございません」

キョン「気の迷いで納得してくれる単純ないい団長だな」

朝比奈「か、寛容と言ってください!」

ハルヒ「うんうん! 大丈夫よ古泉くん! あなたとその不思議に対する真摯な姿勢に免じ、不問とするわ!」

古泉「ありがとうございます」

ハルヒ「ついでに永世副団長、いえ終身副団長の称号を与えようかしら!」

古泉「光栄です」

キョン「あれよあれよと拍子に出世してる。少しおだてただけなのに」

長門「社会の縮図」

キョン「やめてくれ」

ハルヒ「古泉くん! 今一度聞くけど、宇宙人や未来人や超超能力者は存在すると思う!?」

古泉「……ええ、もちろん。残念ながら僕自身の目で見たことはありませんが」

キョン「どの口が」

古泉「確率論で考えていない方がおかしい。巧妙な手段でその姿を隠匿しているのでしょうが……いずれ」

古泉「その者たちを見つけるのは、他ならぬ涼宮さんだと、僕は思います」

ハルヒ「キョン!! 聞いた!? あたしがそうなんだって!! やっぱ団長ってそうなんだわ!」

キョン「どうなんだって? ったく……」

キョン「……まぁ確かに俺は見つけたわけじゃなく知らされたわけだからな」

キョン「可能性で言えば、あながち間違えでもない、のかもな」


長門「……」パタン

ハルヒ「おっと、もうこんな時間ね。あれから次の不思議探索会議に白熱しちゃったわ」

キョン「盛り上がってたのはハルヒとそれを肯定する古泉だけだろ」

ハルヒ「帰りましょ帰りましょ! 黄昏時黄昏時! 何か不思議が落っこちてるかも!」

キョン「不思議に対するその安っぽさはなんなんだ。道端に落ちてるゴミと同じ価値観じゃないか」

ハルヒ「みくるちゃん! 着替えるの手伝ったげる! あんたたちは早く外でてなさい!」

朝比奈「じ、自分でできますよぉ!!」

キョン「へいへいっと」バタン

古泉「にしても……今日は随分とご迷惑をおかけしたようで」

キョン「まぁ、仕方ないだろ。ハルヒが原因だしな」

古泉「そういってもらえると助かります。いやぁ不思議な体験でしたよ。ほとんど覚えてはいないのですが」

キョン「結局、あれは誰だったんだろうな? 古泉に似てるようでやっぱり似てないどこかの誰か」

古泉「……そうですね。それは一体―――」

キョン「うお、西日が……ん? 古泉?」

古泉「…………黄昏時」

キョン「あぁ? 確かに日が落ちて夕暮れだが……いや、そう易々と不思議なんてもんは―――」

古泉「―――黄昏時というのは実は当て字で、もとは『誰そ彼時』って言うんですよ。日が暮れて相手の顔が分からないから『あなた誰ですか?』という」

キョン「……おいおいおい、まてまてまて古泉お前」

古泉「で、かはたれ時は『彼は誰時』と言って、こっちは明け方に使うんですよ。意味は同じなんですが」

古泉「そして最近は『かたわれ時』なんて造語もできてもう何が何やら、むしろこっちの方が知名度ある、なんて言う人たちもいて」

キョン「お……お……お前は―――!」

古泉「ですので、そういう人たちに僕言ってあげたいのですよ」




















古泉「嘘つくのやめてもらっていいですか? なんかそういうデータあるんですか? それってあなたの感想ですよね? とね」

キョン「お前は誰だああぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁあああああぁあ!!!!!」











おしまい。またね

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