魔女「何か言った?」
魔法使い「い、いえ、何でもありません」
魔女「んじゃよろしくー」
魔法使い「お師匠さまも毎度毎度よくこんな気持ち悪いの作りますねえ(はい、分かりました!)」
魔女「うん、逆だね」
魔法使い「え? はっ! 行ってきまーす!」ダッ
魔女「あ、杖忘れてるわ、あの子。虎とかに襲われたらどうすんだろ。ま、大丈夫か。あたしもそんなやわな子に育てた覚えはないしね」
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続き
山道
魔法使い(お師匠さまに頼まれたのは触手だった。緑でなんかうねってる。正直、気持ち悪い)
魔法使い(というか、届けてきて、ってことはお師匠さまにこれを頼んだ人がいるってことだよね。うわあ、趣味悪う……)
魔法使い(さっさと届けて解放されよう。これから)
虎「グルルルル」
魔法使い(うわ、虎いるじゃん。やばくない、これ? とりあえず見つからないように……あっ)
小枝「」パキ
虎「グル?」
魔法使い(枝踏んじゃった。ばれた。こっち来る。やばい)
魔法使い(あー、こういうときって何の魔法使えばよかったんだっけ。度忘れした。ていうか杖持ってきてないし)
魔法使い(すごい。いろんなものがゆっくりに見える。これが走馬灯ってやつか……)
魔法使い(さよなら、お師匠さま。私、こう見えて貴方のこと結構尊敬……はしてなかったけど感謝は……あんまりしてないですね。面倒ごとばっかり押し付けられてたし)
魔法使い(でも、お師匠さまと過ごした時間はすごく楽しかったです。これは本当ですよ?)
魔法使い(あーもう、お別れですね。そろそろ虎の大きな牙が私の体に食い込んできて……さよなら私の下半身)
触手「」カパッ
虎「グルル!?」
触手「」パクッ
魔法使い(何か生きてた。見間違いじゃなければ私が運んでた触手が虎を丸のみしてた。一口で)
魔法使い(これほど見間違いであってほしいと思ったことは今までなかったね)
魔法使い(……私これ運ばないといけないの?)
魔法使い「さすがに今回の冗談はきついですよ、お師匠さま」
魔法使い「はあ……はあ……」
魔法使い(とりあえず、全速力で山を下りてきた。早くこれを押し付け……いや無事に届けなければ)
魔法使い(お届け先は? そういえば見るひまなかったなあ)
魔法使い(結構遠い……どうしよう。暑いし、しかも走ったらのど渇いてきたし)
魔法使い(何か途中で飲み物買おうっと)
魔法使い「おじちゃーん。ラムネちょーだい」
駄菓子屋のおじさん「はいよー、じゃあ80Gね。ところでお嬢ちゃん、それどうしたの?」
魔法使い「あーこれ? 何かお師匠さまに頼まれちゃってさ。届けてほしいんだって」
魔法使い(あれ? 何か大きくなってない? 虎食べて大きくならない方がおかしいか)
おじさん「へー。こんなに暑いのに大変だねえ。1本おまけしとくよ。途中で飲みな」
魔法使い「ありがとう! おじさん」
おじさん「いいってことよ。じゃ2本で160Gね」
魔法使い「すごいベタなやつ! はい、80G」
おじさん「はい、どうも。お嬢ちゃん、おつかい頑張ってね」
魔法使い「うん!」
魔法使い(んじゃ、早速飲みますか。暑い日にはきんきんに冷えたラムネに限るよ、本当に)
触手「」ヒョイッ パクッ
魔法使い「あっ!」
魔法使い(ラムネ取られちゃった。まあ、おまけしてもらったやつあるしいっか。そっち飲も)
触手「」ヒョイッ パクッ
魔法使い「あっ! ひどいよ……何てことするの?」
??「ふっ。魔法使い、君に涙は似合わないよ。これで拭くといい」
魔法使い「なっ、泣いてないし! ていうか友が何でこんなところにいるの!?」
友「そんなことどーでもいーじゃん。それより、触手ってラムネ、瓶ごといくんだな」
魔法使い「そっちの方がどうでもいいでしょ、絶対。で、何でここにいるの? 私これからおつかいあるんだけど」
友「太陽と追いかけっこしてたらここら辺に来た。そしたらお前がいた。以上。これ運ぶのか? 何か面白そうだからあたしもついてく。とゆーわけでよろしく」
魔法使い「ついてきても面白くないよ。この触手、虎のこと丸のみしてたし。怖いよ」
魔法使い(確かにそうだよね。あのときは助けてもらった感じだったけど、よくよく考えたら虎食べる触手とか怖い)
友「すげえ! なおさら面白そうだし、ついてくわ。ちょうど道に迷ってたことだし」
魔法使い「何がちょうどなのか全然分からないや。ていうか迷ってたんだ?」
魔法使い「ねえ、この触手わざわざ頼む人ってさ、何に使うんだろうね。ぬるぬるしてて気持ち悪いだけなのに」
友「はあ? そりゃあんなことやこんなことに決まってんだろ」
魔法使い「あんなことやこんなこと? どんなこと?」
友「……えっちなことに決まってんだろ。言わせんな恥ずかしい」
魔法使い「えっ…………………………! ちなこと? ってどういうこと?」
友「そりゃあんなことやこんなことだよ」
魔法使い「どんなこと?」
友「だから、……えっちなことに決まってんだろ。言わせんな」
魔法使い「だから! えっちなことってどういうこと!?」
友「ばか! あんまりでかい声でそういうこと言うな!」
魔法使い「えっちなことってどういうこと?」コソコソ
友「だからって小さい声で言えばいいってわけでもないが仕方ねえ……。お前が大人になったら教えてやるよ」
魔法使い「何で友は子供のくせにそういうこと知ってるの!? ずるいずるいずるいずるい……」
友「だから泣くなって。これで拭け」
魔法使い「泣いてないし!」
魔法使い「はあ、はあ」
友「重そうだな、それ」
魔法使い「本当に、そう。最初お家から出てきたときより重いし、大きくなってる」
友「あたしが最初に見たときよりも大きくなってるな。もう鞄に入りきらなくなりそうだな」
魔法使い「はあ、そうだね、はあ、はあ」
友「暑いしな」
魔法使い「はあ、うん」
友「上り坂だしな」
魔法使い「……」
友「本当、大変だな」
魔法使い「だったら手伝ってよ! もう!」
友「あ、当たり前だろ、友達なんだから。それを今言おうとしたところだ」
魔法使い(絶対嘘だ)
魔法使い(鞄の持ち手を分けあい、私たちはやっとのことで坂を上りきった)
魔法使い(確か、お届け先はこの辺りなんだけど……)
友「あ゛ー、あ゛づい゛ー。じぬ゛ー」フラフラ
魔法使い「はあ、さっきから、はあ、うるさいんだけど。はあ、はあ」フラフラ
友「お前が『熱中症』ってゆーっくりいってくれたらもう少し静かになるかも」
魔法使い「え? ほんとに? 分かった。ねっ、ちゅう、」
友「」ドキドキ
魔法使い「あ、この家だ! ここがお届け先だよ!」
友「ちっ」
魔法使い「はあ、やっと終わる! よかったね、友! ……って何でそんな嫌そうな顔してるの?」
友「べつにー」
魔法使い「こんにちはー! お届け物でーす!」コンコン
??「あんまり大きい声出さないでちょうだい! 聞こえてるから!」ガチャ
友「あ、先生じゃん。あたしたち疲れたから牛乳飲みたい」
魔法使い「あ、私は水でいいです」
先生「飲み物を出すなんて一言も言ってないけど……まあいいわ、上がっていきなさい」
友「やったぜ!」
先生「その代わり、飲んだらすぐにそれを置いて帰ること。分かった? ……あれ、こんなに大きいやつ頼んだかしら」
魔法使い「もちろんです!」
魔法使い(飲み物もらったらさっさと帰ろ。こんな気持ち悪いのとはもうおさらばだね!)
友「ぷはー! たまんねーな! 生き返った気分だぜ!」
魔法使い「おかわりください」
先生「飲んだらさっさと帰ってね」
友「分かってるって。ところであんなでっかい触手何に使うんだ? あたしたちが知らないだけで、一段階上の遊び方があるのか?」
先生「友ちゃん。コーヒー牛乳もあるけど飲む?」
友「もちろん! ところであんなでっかい触手」
先生「フルーツ牛乳もあるけど」
友「飲む! 飲む飲む! ところであんな」
先生「牛乳寒天もあるけど」
魔法使い(さっきから話の反らし方が露骨すぎる)
友「食べる! ところで」
魔法使い(友は触手にこだわりすぎ!)
先生「そんなに知りたいの? 実はね、あれは私が頼んだやつじゃないの。私が頼んだのはもっとちっちゃい普通サイズで紫色の……って何てこと言わせんのよ!」
魔法使い「先生割と自分から言ってましたよ。ていうか何で杖……いつの間に。うああ!」
ドア「」バタン
魔法使い「いたた……」
魔法使い(私と友、あと触手も、浮かんだと思ったら家の外に放り出された)
魔法使い(頼まれたやつを届けにきただけなのに)
友「コーヒー牛乳飲みたかったなあ、フルーツ牛乳も牛乳寒天も……。くそっ」
友「あーもおおお!! 牛だけに、なんてね」
魔法使い「ふふ、涼しくなったよ、ありがと」
先生「言い忘れてたけど、何か最近誘拐事件が多いみたいだから、気をつけてね。まあ、あなたたちなら大丈夫だと思うけど」ガチャ、バタン
魔法使い「あ! ちょっと先生!」
魔法使い(そのあと、先生は結局出てこなかった)
魔法使い「ねえ友、先生私たちに冷たすぎじゃない?」
友「うーん……。ま、公務員なんてそんなもんだろ」
魔法使い「そうなの?」
友「次はこっちだな! で、次はこっち、と!」
魔法使い「ねえ友、私たちいまどこに向かってるの?」
友「そりゃ魔女のお姉さんの家に決まってんだろ」
魔法使い「本当? 私こんなところ通ったことないんだけど。何か薄暗くて気味悪いし……」
友「大丈夫だっての! 全部あたしに任せときなって! お姉さんの家なんてちょちょいのちょいよ!」
魔法使い(あれ、さっき友、道に迷ったとか言ってなかったっけ?)
魔法使い(自信満々だったから任せてたけどめちゃくちゃ不安になってきちゃった)
男「お嬢ちゃんたち、どうしたの? もしかして、道に迷ったのかい?」
友「ああ!」
魔法使い「えっ、本当に迷ってたの!?」
男「じゃあ、お兄さんが案内してあげよう……んふふふふふふ」
魔法使い(やばい! この人不審すぎる! 絶対先生が言ってた誘拐犯だ!)
友「ありがとう! 優しいんだな、おっさん!」
魔法使い「友、絶対ついてっちゃダメだって! これ、先生が言ってた……」コソコソ
男「あー、ばれちゃった? んー、でも逃がさないよ? んふふふふふふ」
友「うあっ!」
魔法使い「きゃっ!」
男「抵抗しても無駄だよ。んふふふふふふ。僕が息をしてる限りずーっとこの縄は君たちを縛りつづけるからねえ」
男「んふふふふふふごっ」
魔法使い(やたら鼻にかかった笑い声出してたせいで鼻から変な音出たよ今)
魔法使い(だめだ笑っちゃ。笑ったりなんかしたらひどい目に遭う)
町外れの倉庫
男「お前らー。触手連れの女の子来たぞー。出てこーい。んふふ、んふふふふふふ」
男×5「おーどれどれ」
男1「うひょひょひょひょ。二人ともとびっきりの上玉じゃねえか。たまげたなあ」
男2「ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり。鴨がネギを背負ってくるたあこのことかあ!」
男3「んぎゅひゅひゅひゅ。こりゃたまりまへんなあ」
魔法使い(笑い方がエスカレートしてってる……)
男4「ああ素晴らしい! 私がこの子たちと一生添い遂げる確率、100%!」カタカタッターン、メガネクイッ
魔法使い(0%に決まってるでしょ!)
男5「連れてきてもらってこんなこと言うの悪いけど、ババアじゃん。興味ねーから今日はパス」
魔法使い(何か腹立つ!)
友「くっ、貴様ら卑怯な手を使いやがって……! あたしは貴様らになんて絶対屈しないからな!」
男「さて、その強気がいつまでもつのか……んふふふふふふ。見ものだね」
男「ところで君、友、と言ったかな? お兄さんをおっさん呼ばわりなんてとても罪深いよ、君は! んふふ、んふふふふ、んふふふふふふごっ!」
男3「じゃあ、早速あんたらのご所望している触手プレイとしゃれこみまひょか! んぎゅひゅひゅひゅ」キラリ
魔法使い(ナ、ナイフ。やややばいって、これ)
男3「でもそのままはさすがに大きいでひゅね。ここら辺でちょっと切ってしまいまひょ!」スパッ
触手「」ゴゴゴゴゴゴ
魔法使い「なっ何この音! どうしたの!?」
魔女「さてさてー、私が開発した新兵器、『食手ちゃん1号』の調子はどうかなー?」
魔女「何でそんなの作ったかって? 軍に頼まれたからだよ! 戦争なんてくそくらえだけど、これ作ったらお金いっぱいもらえるからしょうがないよね!」
魔女「これで魔法使いと美味しいものいっぱい食べられるね! やったあ!」
魔女「ちなみにこれ、触手と食べるの『食』がかかってるの! このネーミングセンスにはさすがのあたしも脱帽! ま、あたしが考えたんだけどね!」ガチャ
魔女「」
魔女「……間違えた。あの子に持たせちゃったよ、あれ。今、研究室に置いてあるのが紫のやつ。こないだ頼まれた普通サイズのね」
魔女「んー、まあ誰かが危害を加えたり、例えばちょんぎったりとかね、そういうのしなければ大丈夫だから、うん」
ゴゴゴゴゴゴ
魔女「……どうやら大丈夫じゃなさそうだね。あたしも行かなきゃいけないみたい」
隊員「魔法警備隊だ! 連続誘拐犯め! ついに追い詰めたぞ! 何だ、貴様はなぜここにいる!」
魔法使い「えっ? 私ですか!?」
隊員「お前しかいないだろう!」
魔法使い「あ、あの、私は被害者で……」
隊長「そうか、分かった。じゃあお嬢ちゃんには重要参考人として話を聞かせてもらうことにするよ。隊員!」
隊員「はい!」
隊長「このお嬢ちゃんをあそこに連れていけ!」
魔法使い「えっ、えっ、じゅーよーさんこーにんて何!? 私何も悪いことしてないし!」
隊員「話はこちらで聞くと言っているだろう! いいから来い!」
魔法使い(もうやだ、ほんと最悪。私捕まって刑務所に連れていかれちゃうんだ……)
隊長「あまり厳しくするなよ、相手は子供だからな! って聞こえてないか」
隊長(それにしてもあの子、どこかで見たような……)
ちょっと前 倉庫
触手「」ブンッ
男3「へぴっ」
男「んふふ、嘘だよね……?」
男4「私たちが無事に生き残れる確率……0%」カチャカチャッ ターン!
男2「ば、万事休すたあこのことかあ……」
触手「」ズモモモモモ
魔法使い(触手は一瞬でびっくりするぐらい速く大きくなって、男たちを吸い込んで空にまき散らしましたとさ)
魔法使い(そのときついでに建物の中にあった資材とかも吸い込まれて、私は触手と二人きりになっちゃった)
魔法使い(あれ、触手って人じゃないよね。ということは単位は人じゃないんだろうけど……いやこれ絶対どうでもいいね、今)
隊員「おら! さっさと乗れ!」
魔法使い「ううっ……」
隊員「言っておくが、この馬車、後ろの客車は全部鉄でできている。その上魔法防御も厳重にかかっている。もちろん内側にも、だ」
隊員「くれぐれも逃げようなんて考えるんじゃないぞ? 分かったな?」
ガタゴトガタゴト
魔法使い(……いやこれ絶対おかしいよね? 私何も悪いことしてないし、被害者なんだけど!)
魔法使い(そもそもじゅーよーさんこーにんて何!?)
魔法使い(こうなったら何としてでも逃げ切ってやる!)
老人「馬車が砂ぼこりを巻き上げるせいで家の前に砂がたまって大変じゃあ」
老人「今日だけで何回ほうきではいたことか」
??「おっ、じいさんいいの持ってるじゃねえか、ちょっと借りるぜ」
老人「だめじゃ! それがなきゃ掃除ができん!」
??「別にいーだろ。減るもんじゃあるまいし」
老人「減るもんじゃ! ……ああっ!」
??「悪いな、でもじいさんも掃除してる暇あんなら逃げた方がいいぜ?」ピューン
老人「行ってしもうた……」
16
触手「」ビターン ビターン
隊員1「だめです! こいつ周りのものを吸ってはどんどん大きくなってます!」
隊長「その上、削っても削ってもすぐに再生しやがる! どうなってんだこれ!」
触手「」ブンッ
隊長「危ない! お前ら避けろ! 魔法は役に立たねえぞ! おい、隊員1! お前は竜の魔女様に応援を要請しろ!」
隊員1「は、はいっ!」
魔法使い(さっきは魔法防御がかかってるって言われたけど意外と簡単に壊せたりして)ドン!
魔法使い(あっ本当だ。これちゃんと魔法防御かかってる。って思ったら馬車半分つぶれてるじゃん。触手の攻撃かな?)
魔法使い(やったあ! これで外に出れるね。触手、ちょっと見直したかも。とうっ!)
魔法使い(おっと。着地成功。ちょっとふらついちゃったけど)
隊員「なっ!? あいつ逃げやがった!」ダッ
魔法使い(嘘でしょ、もうばれてる!?)
魔法使い「だいぶ、走ったのに、まだ追いかけてくるの……? もうだめ……走れないや」
隊員「諦めたか! 賢明な判断だ! 貴様にはいろいろと聞きたいことがあるからな!」
隊員「俺の出世もかかってることだしなあ!」
魔法使い「やだ! 来ないで!」
隊員「来るなと言われて素直に帰るやつがいるか!? 大人しくついてこい!」
魔法使い「絶対やだ! 私まだ子供だもん!大人しくなんてしないんだから!」ダッ
魔法使い「な、なにこれ!?」
隊員「重要参考人に対してあまり手荒な真似はしたくなかったんだがな! 仕方ない! 縛らせてもらった!」
隊員「そもそもこんなところでわめいてたって、助けが来るわけないだろうが!」
??「来るんだなこれが」ドゴッ
隊員「へぴっ」
魔法使い「友! どうしてここに!?」
友「友達を助けにきた、これ以上の理由があるかい? 早く乗れよ、魔法使い」
魔法使い「友のばか! あのとき私一人っきりにされて本当に怖かったんだから!」
友「悪かったな。涙なら私の服で拭いていいぞ。特別にな」
魔法使い「ううっ、ぐすっ、ばかあ」ポロポロ
友「よかった。じゃあ逃げるぞ。ちゃんとつかまっておけよ。乱暴な操縦になるからな」
魔法使い「うん、分かった」
友「縄もちゃんと消えてる。強めに膝蹴り入れておいてよかったな」
友「じゃあ、行くか。準備はいいな?」
触手「」ブンッ
友「おらあ!」ギュイン
魔法使い「きゃっ!」ギュッ
触手「」ベシッ
友「こっちだ……!」ギュイン
魔法使い「ひえっ!」ギュッ
友「はあ、魔法使い。ちょっと腕を緩めてくれないか?」
魔法使い「えっ、何で!?」
友「何というか……その、理性がな、やばいっていうか、あんまり抱きつかれると、な」
魔法使い「……やだ」ギュッ
友「そう言ってくれるのは嬉しいんだが、あんまりされると操縦が……うあっ!」
触手「」ベチーン
友「大丈夫か、魔法使い!」
魔法使い「なんでこうなるのおおおおおお」
先生の家
先生「はあ、今日は色々大変だったわ。荷物は来ないし。教え子に趣味はばれるし」
先生「でも、町の方はもっと大変みたいね。触手が大暴れしてるみたい」
先生「まあ、さすがにこっちまでは来ないでしょ。そう考えたら大分まし……ってあれ、もしかして……」
魔法使い「うわあああ今日でわたし死んじゃうんだあああ!」
友「お邪魔しまあああああす! 誰の家かは知らんけどおおおおお!」
ガッシャーン
先生「え……嘘よね?」
友「これが嘘じゃないんだぜ? びっくりだよな、先生」
先生「あなたたちがやったんでしょ!」
魔法使い(あなた「たち」ってもしかして私も含まれてる?)
先生「もう最悪だわ。いつか私が結婚するときのために買ったお家が……」
友「お、先生も人生設計しっかりしてんだな」
先生「当たり前じゃない。私も来年には25歳になるから、そのころには社長と結婚して、その3年後には一男一女を儲けてる予定だもの」
魔法使い(社長と結婚するならわざわざ家建てなくてもよかったような気が)
先生「そんなこと話してたら触手がここにまで……」
友「大丈夫なのか?」
先生「もちろんよ。もう結界を十重二十重に張ってあるわ」
友「先生さっすがー。やるときはやるんだな」
先生「これで触手の件で失ったポイントはチャラね。お釣りも来るかもしれないわ。(生徒を守るのが教師の役目、そうでしょう?)」
魔法使い(先生逆ですよ、逆! 間違えちゃうのは分かりますけど!)
魔法使い(あと、とえはたえってどういう意味?)
触手「」ブオン
先生「あっ、これ駄目みたいね」
ガッシャーン!
友の家
友母「あれ、友妹? 大丈夫!? どこにいるの!?」
友妹「私は大丈夫だよ、お母さん」
友母「よかったあ……! お家もぼろぼろになっちゃったし、友は帰ってこないし、友妹までいなくなっちゃったらと思ったら……」
友母「早く逃げましょう、友妹。こんなとこにいたら危ないわ」
友妹「うん。そうだね」
友母「やっと外に出たけど、ひどいわねこれ。もう辺りのお家ほとんど壊れちゃってるわ」
友妹「触手も大暴れしてるね。早く行かなきゃ!」
触手「」ビターン
友妹「きゃっ」
友母「大丈夫!? 怪我はない?」
友妹「うん……怪我はないんだけどね、腰が抜けて歩けなくなっちゃった。だから私のことは置いてっていいよ」
友母「何言ってるの馬鹿! 私が背負っていくから、ほら乗りなさい!」
友妹「それじゃお母さんもやられちゃうかもしれないでしょ? 私のことはいいから早く逃げて。私、お父さんとお母さんの子供に生まれて幸せだった」ニコッ
友母「そんなこと言わないの! あなたのことはお母さんが守るから、大丈夫よ」
友妹「だめ……もうこっちに来てる」
触手「」ブオンッ
友母「きゃああああ!」
竜「」ゴオオオオオッ
??「大丈夫、お母さんのことはあたしが守るから」
友母・友妹「魔女様!」
魔女「久しぶりだね。あれ、友は?」
友母「それが朝出かけたっきり、帰ってきてないんです」
魔女「そうなの? じゃあ、ちょっと周り探してみるよ。さすがにもう避難してると思うけどね。じゃ、隊員1さん、二人の避難誘導よろしく」
魔女「あたしは触手と戦ってくる」
隊員1「はいっ! 了解いたしました!」
隊員1(隊長がおっしゃってた竜の魔女ってこういうことだったのか……)
魔女(魔法使いも無事でいて……! お願い!)
先生「はあっ、はあっ」
魔法使い「何で私たち生きてるの? さっき2階が丸ごと落っこちてきて……」
先生「私が浮かせてるのよ……。ああもう、せっかく買った家が……」
友「あれか、今日あたしたちをつまみ出すときに使ったやつか!」
先生「んまあ、そうなるわね。でもこれ、二階全体を支えるとなるとすごく力使うの。だからあなたたちは早く逃げて」
友「先生……。でもあたしたちだけ逃げるわけにはいかないよ。あたしたちもここで先生と運命をともにするから」
先生「……あなたたちが逃げなきゃ私が逃げられないでしょうが! もう限界なんだってば!」
魔法使い「友、早く逃げよう! あと、私を巻き込まないで! 私、今死ぬほど生きたいんだから!」
先生「くそ! こんなところで死んでたまるか! 絶対社長つかまえてやるんだからな!」
ガラガラガッシャンドカーン
魔法使い(先生の叫び声は家が崩れる音にかき消されてすぐに聞こえなくなった)
先生(何とか助かったけど、魔法の使いすぎで体が動かない……)
先生(駄目だわ。眠くなってきちゃった。でもこんなところで死ぬわけにはいかないわ。来年には社長捕まえることになってるんだから!)
先生(ああ……もう限界……いやだ……死にたく)
??「要救助者1名発見しました! とりあえず治療所に運びますね!」
??「了解」
魔法使い「……何かもう疲れたよ、友」トボトボ
友「ん? ああ、そうだな……」トボトボ
魔法使い「どうしようね。逃げようにもどこに逃げたらいいのか分かんないし」
友「ああ、そうだな」
魔法使い「……大丈夫?」
友「ああ、そうだな」
魔法使い「今日の朝ごはんは何だった?」
友「ああ、そうだな」
魔法使い「どうしたの!? 友! 大丈夫!?」ユッサユッサ
友「揺らすな揺らすな。ちょっと家族のことが心配になっただけだ。マ……母さんと妹がまだ家にいるかもしれないんだ」
友「今ちょっと落ち着いたから、つい思い出しちゃってな」
魔法使い「あ……そうだね」
友「やっぱりあたし戻ることにするよ」
??「その必要はありません。我々青年団、魔法警備隊の手によって町からは既に大半の人が避難しています」
青年団員「それに魔女様も応援にいらっしゃいましたから、触手も早晩倒されることでしょう」
友「そうなのか……。よかった」ホッ
魔法使い(あ……この人が背負ってるの先生だ。生きててよかった)
青年団員「避難所はこちらです。私が案内しましょう」
避難所
友母「友! それに魔法使いちゃん! 一緒にいたのね! よかったあ……」
友妹「お姉ちゃん、心配したんだからね、もう。魔法使いのお姉ちゃんも大丈夫だった?」
友「マ……母さん! 妹も無事だったんだな。あたしも心配してたぜ。本当によかった……」
魔法使い「ありがとう。何とか無事だったよ」
魔法使い(何で生きてるのか不思議。……本当に)
友母「こっちに場所とってあるから魔法使いちゃんも来なさい。一緒に魔女様を待ちましょう?」
魔法使い「ありがとうございます」
友「パ……父ちゃんは大丈夫かな」
友母「なーに弱気になってんのよ! らしくないわね。こんなのでお父さんが死ぬわけないでしょ!」
友妹「本当だよ、お姉ちゃん」
友「だ、だよな! パ……父ちゃんがこんなので死ぬはずないよな! 魔女様もいることだしな!」
隊長「増援は来たが、負傷者が多すぎる。切っても切っても触手はすぐに再生するし、我々の攻撃が触手の成長についていけてない……」
隊員A「くっ……」
隊員Y「くそっ……。何だこれ強すぎる……」
隊長「はあっ、はあっ。戦えるやつは触手を切り続けろ! くれぐれも倒そうなんて考えるな! あの方がいらっしゃるまで時間稼ぎに徹するんだ!」
触手「」ブンッ
隊長「おらっ!」スパッ
触手「」ニョロニョロ
隊長「なっ……!? 切ったそばから再生して……こいつ明らかに再生速度が上がってる!」
隊長「だが大したことはない! はあっ、一度再生したのならもう一度切り落とすまで!」
隊長「 何より妻と娘が俺を待ってるんだ! こんなところで死ぬわけにはいかねえ!」
隊長(……だめだ。体が動かねえ。魔法を使いすぎちまったみたいだ。すまん、俺だけちょっと先に行ってるよ。色々辛いこともあるかもしれないが三人で頑張ってくれ)
??「結界!」
ガン!
隊長「触手が止まった……。竜の魔女様、来てくれたのか!」
魔女「まあね。あ、君の妻と娘は助けといたから。あとは君だけだよ」
触手「」ピシッ
隊長「触手が縛られて……完全に動きが止まった」
魔女「ほらみんなで一斉攻撃! 回復させたんだからその分働いてもらわなきゃ困るよ!」
「「うおおおおおおお!!!」」
竜(では、私も交ぜてもらいましょうかねえ。ふふふ、久々の戦いで血がたぎってきましたよ)ゴォォォ
魔女「はい、ドカーン!」
触手「」サラサラ
隊長「触手がばらけて……」
隊員たち「消えていく……」
魔女「勝ったみたいだね、あたしたち。じゃあ、あたしは帰らせてもらうよ。隊長も早く家族に会いにいってね。たぶん避難所にいるから」
隊長「ああ、分かった」
隊員たち「隊長、俺たち勝ちましたよ! ちゃんと時間稼ぎきりました! ぱーっといっちゃいましょうよ! もちろん隊長のおごりで!」
隊長「まあ、復興が終わったらな。多分この様子じゃ町もひどいことになってる」
隊員たち「確かにそうっすね! じゃあ約束ですよ! 忘れないで下さいね!」
隊長「分かってるって。 この俺が忘れるわけないだろ!」
隊員たち「言いましたからね!? 俺たちこれからそれを楽しみにして頑張りますから!」
隊長「おう! 任せとけ!」
避難所
魔女「戦いも無事終わったことだし。魔法使いに会いにいこうっと。避難所にいるはず、たぶん」
魔女「お邪魔しまーす。あれ、どこかな」テクテク
魔法使い「あ、お師匠さまだ! よかったあ、無事だったんですね!」
魔女「あたしが無事じゃないわけないだろう」
魔女「本当に生きててくれてよかった……」ギュッ
魔法使い「こんなので死んでたまるもんですか! もう。死因がお師匠さまに間違えて持たされた触手じゃあ、死んでも死にきれませんよ!」ギュッ
魔女「あ……」
魔女(忘れてた。これ全部完全にあたしのせいじゃん)
??「」トントン
魔女「はい……?」
軍服の男「魔女様、いくつかお聞きしたいことが。こちらへいらっしゃってください」
魔法使い「え……お師匠さま、どこに行くんですか?」
魔女「……ごめん、魔法使い。もうお前とは一緒に居られないかもしれない」
魔法使い「え……」
魔女「じゃあな」
魔法使い「お師匠さま!」ダッ
??「お嬢ちゃん。追いかけても無駄だ。やめておいた方がいい」
魔法使い「やめて! 離して!」
魔法使い(結局、お師匠さまは軍服の男の人に連れられてどこかに行ってしまった)
??「で、だ。お嬢ちゃん。おじさんも重要参考人の君に聞きたいことがあるんだ」
魔法使い「やだ! 私何も悪いことしてないのに何で刑務所に入らなきゃいけないの!?」
??「刑務所……? 違うよ、少し話を聞かせてもらうだけだ。君が悪いことをしていないのはみんな分かっている。あ、俺が誰か言ってなかったな」
隊長「俺は隊長だ。さっきは部下が乱暴な扱いをしてしまっていたな、悪かった。ちょっとでいいんだ。来てくれないか?」
魔法使い「あ……そういうことだったんだ」
魔法使い(うーん、それにしてもこの人どこかで見たことがあるような……思い出せないや)
軍の駐屯地
魔法使い(あのときはすごく怖かったけど、何かみんな優しかった)
魔法使い(私を馬車に乗せた隊員さんにも謝られた。お詫びに飴ももらっちゃった)
魔法使い(あの隊員さんにはすごく怖い思いさせられたけど、まあ許してあげてもいいかな)
魔法使い(別に飴がおいしかったからとか、そういうわけじゃないんだからね!)
魔法使い(取り調べ中にもどんどんお菓子が出てきて、みんなにすすめられた)
魔法使い(あのお魚のお菓子、おいしかったなあ。『鮭とば』って言うんだっけ。煮干しもさきいかもおいしかったなあ)
魔法使い(お師匠さまはこの建物にいるって聞いたんだけど、大丈夫かな)
魔法使い(本当に会えなくなっちゃったらどうしよう……)
魔法使い「お師匠さまあ……」ポロポロ
??「泣いてる……あたしと会えなくなるのがそんなに悲しいのか?」
魔法使い「え、あ、お師匠さま!? いや、これはさっき食べたお菓子を思い出してたら、目からよだれが出てきただけです!」
魔法使い「泣いてないですからね!」
魔女「ふぅん……」ニヤニヤ
魔法使い「『鮭とば』ってやつが特に美味しかっただけです! 泣いてませんから!」ポロポロ
魔女「ふぅん……」ニヤニヤ
魔法使い「本当ですよ! ていうかお師匠さまさっき『もう会えなくなるかも』って言ってましたよね!? 何でここにいるんですか!」
魔女「ああ、あれね。あれは単なる魔女ジョークだよ。『次からは気を付けろよ』って釘をさされただけだ」
魔女「魔法警備隊やら青年団やら主に私やらの活躍で奇跡的に死人も出なかったみたいだからね」
魔法使い「えっ!? お師匠さま、釘刺されたんですか!? どこですか!? 私が治しますから!」
魔女「ふふふ、慣用句ってやつさ。さあ、帰ろうか。疲れただろう? 私がおんぶしてやるから、ゆっくり帰ろうじゃないか」
魔法使い「仕方ないですね。私、もうそんなに子供じゃないですけど、特別におんぶされてあげます!」ギュッ
魔女「ふっ、あたしから見たらいつまでも子供だよ。そういえば魔法使いは魚が好きだったな。刺身でも買ってかえるか?」
魔法使い「本当に!? いいんですか!?」
魔女「ああでも、お菓子でお腹いっぱいか」
魔法使い「それは別腹です!」
おしまい
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