摂津のきり丸「む。なんか胸が膨らんできたような……」土井半助(え?) (7)

「土井先生まだかなぁ……」

摂津のきり丸は天涯孤独。ひとりぼっちだ。
戦で両親を亡くしたきり丸はアルバイトで学費を稼いで忍術学園に通っており、その境遇を不憫に思った担任の土井半助の家に居候している。家主は本日残業で帰りが遅かった。

「そろそろご飯を炊くべきか……でも冷めたら美味しくないしなぁ」

ならばと、きり丸は風呂場の扉を開け放ち。

「湯を沸かしておくべきか……でも冷めたら水風呂だもんなぁ」

結局、帰る時刻がわからなければ動けない。

「仕方ない。宿題を片付けるか……」

渋々勉強道具を取り出して滅多にやらない宿題に取り組むきり丸。その健気な姿を見て、とっくに帰宅していた土井半助は涙ぐむ。

「くぅ……なんて良い子なんだ」

遅くまできり丸を待たせないようになるべく早く帰宅するべく急いで仕事を終わらせた土井先生は帰路でそういえば今日授業で宿題を出したことを思い出し、きり丸がそれに取り組むまで待っていたのである。功を奏した。

「へへっ。宿題終わらせておけば土井先生喜ぶだろうなぁ。お駄賃くれるかも」

(もちろん大いに喜ぶがお駄賃はやらん!)

忍者たる者、姑息でケチである必要がある。

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「ま、こんなもんかな」

パパッと宿題を片付けたきり丸。あまり考えたり悩んでいなかったのでほとんど適当に解答したことは見え透いているが、偉かった。

(偉いぞきり丸。自主的に宿題に取り組むことに意味がある。先生はお前が誇らしいよ)

そろそろ姿を見せようと身を乗り出して、ふと迷う。盗み見ていたことを打ち明けるべきか、それともそんな素振りを見せずに普通に帰宅するべきか。前者は間違いなく拗ねる。

(お駄賃を要求されたら面倒だ。となれば)

普通に帰宅しようとして、はたと気づいた。

(普通に帰宅すれば宿題の件を褒めれない)

偉かった生徒を褒められない。先生失格だ。

(くそっ……俺はいったいどうしたら……!)

「あっ! 服に墨が跳ねてら。着替えないと」

苦悩する土井半助の気も知らず、宿題を片付ける際に服に跳ねた墨に気づいたきり丸が着替え始めた。あらわになった背中はまるで女のように美しかった。思わず見惚れて、土井半助は赤面した。あれは男で自分の生徒じゃないか。正気に戻れ。しかし目が離せない。

「む。なんか胸が膨らんできたような……」

(え?)

「なーんて、気のせいか!」

待て待て。何故きり丸の胸が膨らむんだ。お前は男だろ。そうだよな。たぶん。きっと。
いや待て。もしやもともと女だったりして。
そんなわけがない。しかし万が一そうなら。

(アホか俺は! そもそも生徒だろうが!?)

土井半助も若い男。きり丸はかわいかった。
先生にとって生徒は皆かわいい。けれども。
ひとつ屋根の下に暮らすきり丸が女の子で。
それでも土井半助。生徒だからと言えるか。

(仮にそうなら、肌を見た責任を取らねば)

結論に至った。幸い独身の身。娶るべきだ。

「よし。きり丸……俺はお前を必ず幸せに」
「さっきからなにしてんすか、土井先生?」
「どあっ!?」

覚悟を決めた土井半助は見つかった。無念。

「き、きり丸、いつから気づいていた?」
「宿題やるあたりから。たぶん見てんだろうなって思ってたら予想通りだったすね」
「そ、そうか。偉かったぞ。先生は思わず感動して、声をかける機会を失ってしまって」
「そんで着替えを覗いてたんすか。ふうん」

(言い逃れは厳しいか……かくなる上は!)

「きり丸」
「な、なんすか」
「俺と結婚しよう」

忍びたる者、窮地こそ強くならねばならん。

「土井先生とぼくが結婚?」
「ああ。必ず幸せにしてやる!」

固く手を握って誓うと、きり丸は頬を染め。

「マ、マジになんないでくださいよ……」
「きり丸……?」
「胸が膨らんだ云々は冗談っすから」

(な、なんだ。冗談だったのか。きり丸め)

してやられたと思いつつ、ちょっぴり残念。

「あれれ~? 土井先生落ち込んでます?」
「そ、そんなわけあるか!」

揶揄われて怒鳴り散らすときり丸は微笑み。

「ま、今のところはただの居候ってことで」
「へ?」
「おかえりなさい、土井先生。まずはご飯にします? それともお風呂にしますか?」
「ま、待て。今のはどういう意味……」

問い質そうとするも、きり丸が鼻を摘んで。

「なんか臭いますんで、まずは風呂っすね」
「フハッ!」

忍びたる者、仰天しても糞漏らすべからず。

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
「さ、脱いだ脱いだ。急いで帰ってきてくれたから、洗濯はサービスしとくっすよ」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

きり丸は将来良い嫁になると先生は思った。

「ついでにお背中をお流ししましょうか?」

夢は、でかくなけりゃ、つまらないだろう。

「……お駄賃はやらんぞ」
「ええっ!? ドケチ!!」

などと冗談めかして嗤うきり丸はそこらのくノ一などよりもよほど妖艶で蠱惑的で魅力的であり、財布の紐が緩みかけるのであった。


【土井フハッん助のお嫁さんの段】


FIN

土井先生の一人称は"俺"ではなく"私"でしたね
もしも気になるようなら確認不足で申し訳ありませんでした
最後までお読みくださりありがとうございました!

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外野の反応に負けてエタった先人たち
彼らの冥福を祈りつつ我々は二の舞を演じない様に注意しよう

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