面接官「この面接に落ちたらどうしますか?」
就活生「あなたを殺します」
面接官「この場で殺すのですか?」
就活生「いいえ、そうではありません」
面接官「他の場所で、ということですか。具体的に説明して下さい」
就活生「まず、私はあなたの顔を覚えました」
面接官「それで?」
就活生「面接後、私はこのオフィスの外であなたを待ちかまえます」
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面接官「待ちかまえて、出てきたところをやるのですか? 誰かに目撃されると思いますが」
就活生「そんなことはしません。尾行します」
面接官「続けて下さい」
就活生「尾行すれば、人通りの少ないところを通る時もあるでしょう」
面接官「その時にやるのですか?」
就活生「いいえ、今の時勢、人やカメラがどこで見ているか分かりません。まずは家を突き止めるだけです」
面接官「なるほど」
就活生「帰宅ルートを入念に調査し、ここだという場所を見つけます」
面接官「見つけたらどうするのですか?」
就活生「むろん、そこを殺害現場とします」
面接官「そこまでは分かりました。続いては手段を問いましょう」
就活生「ナイフを考えています」
面接官「オーソドックスですね」
就活生「入手もたやすく扱いやすい。とくれば使わない手はありません」
面接官「ナイフで私を襲うとしましょう」
就活生「はい」
面接官「しかし、私が武術の達人でしたらどうでしょう?」
就活生「達人なのですか?」
面接官「達人です。プロ格闘家や武道の有段者にも勝てる自信があります」
就活生「となると、ナイフでは難しいかもしれませんね」
面接官「はい、奪われて逆に刺されるのが関の山でしょう。さて、どうしますか?」
就活生「ならば手段を変えます」
面接官「おっしゃって下さい」
就活生「吹き矢を使用します」
面接官「吹き矢?」
就活生「吹き矢の射程は十数メートルに達することもあります。あなたがいくら達人でも、四六時中注意を払うわけにはいかないでしょう」
面接官「しかし、吹き矢では殺傷力が足りないと思いますが?」
就活生「その点も問題ありません」
面接官「どう補うのか聞かせてもらいましょう」
就活生「クラーレという名前をご存じですか」
面接官「どこかで聞いたことがあります」
就活生「南米の狩猟で使われる猛毒の総称で、極めて高い致死性を誇ります」
面接官「そうでした。ミステリー小説などで出てきますね」
就活生「これを塗った吹き矢であれば、あなたを暗殺できるはずです」
面接官「しかし、あなたはそのクラーレを入手できるのですか? とても南米の方には見えませんが」
就活生「私の知り合いの調達屋に頼めば可能です」
面接官「大した自信ですね。しかし、それでも私を殺すことは不可能です」
就活生「なぜですか?」
面接官「このペットボトルをご覧ください」
就活生「水が入ってますね」
面接官「この中には青酸カリが溶け込んでいます。飲みます」グビッ
就活生「大丈夫なのですか」
面接官「問題ありません。私は毒に極めて強い体質を持っていますから」
就活生「つまりクラーレも効かないと」
面接官「少なくとも矢に塗られた程度の量では、私を殺すには至らないでしょう」
就活生「ならば拳銃しかありませんね」
面接官「ピストルですか」
就活生「拳銃で頭を撃ち抜かれればあなたでも死ぬでしょう?」
面接官「そうですね、私は不死身の超人ではありません」
就活生「これで再生するなどといわれたらお手上げでした。ほっとしました」
面接官「しかし、拳銃も入手するのが大変でしょう」
就活生「武器商人の知り合いがいます。問題ありません」
面接官「あなたの私を殺すという宣言が決して不可能ではないことは分かりました」
就活生「ありがとうございます」
面接官「しかし、これは面接の場です」
就活生「というと?」
面接官「私が警察に通報したらどうでしょう?」
就活生「するのですか?」
面接官「もししたらの話です。あなたは脅迫罪で逮捕は免れないでしょう」
就活生「問題ありません」
面接官「なぜです?」
就活生「脅迫罪は刑法222条、2年以下の懲役、または罰金刑。懲役になったとしてもすぐ出てくることができます」
面接官「しかし、その間に私が雲隠れしたらどうしましょう?」
就活生「刑務所に入った犯人を恐れてそんなことをするとは考えにくいですし、隠れたとしても見つけてみせます」
面接官「どうやって?」
就活生「私の知り合いには優れた探偵がいます」
面接官「あなたの人脈の広さには驚かされますね」
就活生「恐れ入ります」
面接官「あなたの用意周到さには舌を巻きました」
就活生「ありがとうございます」
面接官「しかし、ここまで下準備ができるようになるには、それ相応の背景があるはずです」
就活生「もちろんです」
面接官「差し支えなければ、教えて頂けるでしょうか」
就活生「かまいませんが、私の幼少期からお話しすることになりますが、よろしいでしょうか?」
面接官「ええ、どうぞ」
就活生「私は母子家庭で育ちました」
面接官「二人家族だったと」
就活生「そうです。そのせいでいじめられることもありましたが、全て跳ね返してきました」
面接官「あなたならばできるでしょうね」
就活生「なにより、母は私を愛してくれていました。ですから不満は何もなかったのです」
面接官「いいお母様を持ったということですね」
就活生「はい、世界一の母親であると思っています」
面接官「お父様はどうされたのでしょう?」
就活生「父は私が生まれる前に失踪してしまったそうです」
面接官「失踪ですか」
就活生「母からは自分がいてはならないと去っていったと聞きましたが、私からすれば捨てられたも同然です」
面接官「その通りですね」
就活生「しかし、母はそうは言いませんでした」
面接官「というと?」
就活生「母は父を愛していました」
面接官「愛していたのですか」
就活生「父のことを話す時の母の目はいつも輝いていました。その時だけ十数年若返ってるように思えました」
面接官「目の錯覚ということはないのですか」
就活生「そんなことはありません。ですが、私にはそれが面白くありませんでした」
面接官「当然でしょうね」
就活生「自分達を捨てた父をなぜ悪く言わないのだ、といつも不満に思っていました」
面接官「私もそう思います」
就活生「心理学の用語で、エディプスコンプレックスという言葉があるのをご存じですか?」
面接官「聞いたことはあります」
就活生「男子が母を愛するあまり、父に嫉妬する現象のことです」
面接官「あなたもそうだった、と」
就活生「はい、中学高校と思春期になるにつれ、この嫉妬は憎悪にすら変わっていきました」
面接官「ほう」
就活生「そのため、いつか必ず父を見つけ出し、この手で殺すと心に誓っていました」
面接官「それで、色々と下準備を始めていたわけですか」
就活生「その通りです。自分自身腕を上げ、人脈を広げていきました」
就活生「光の当たらない場所というべき世界に飛び込み、先ほど紹介した調達屋、武器商人、探偵などと知り合いました」
面接官「他にも知り合いはいそうですね」
就活生「おっしゃる通りですが、本筋を外れてしまうので割愛させていただきます」
面接官「失礼いたしました」
就活生「順調に力をつけていく私ですが、ここで悲劇が起こります」
面接官「なんでしょう」
就活生「母が死んだのです」
面接官「亡くなられたのですか」
就活生「はい。その時、私は初めて父のことを本格的に知らされました」
面接官「なんとおっしゃっていましたか」
就活生「私の父はある暗殺組織に所属しているとおっしゃっていました」
面接官「暗殺組織」
就活生「しかも、その組織は国を守るため絶対不可欠な組織であると。失踪はしたがまとまった養育費は支払われていたと」
面接官「そうですか」
就活生「父は自分がいると家族にも危険が及ぶからという理由でいなくなったのだと言っていました」
面接官「あなたはそれで?」
就活生「私は父の力になりたいと思いました。そして、ようやくこの組織に入る方法を突き止めました」
面接官「大したものです」
就活生「私の父は凄腕で、今やメンバー選別の任にも携わってるとも聞きました。大変重要なポストです」
面接官「情報力も素晴らしいです。よくぞそこまで調べることができましたね」
就活生「そうです。あなたが私の父なのです」
面接官「初めまして。私があなたの父親です」
就活生「面接の結果はどうですか?」
面接官「私を殺す計画、やや難がありますが、人脈の広さは大きな加点ポイントです」
就活生「そうですか」
面接官「法や心理学にも通じ、体もよく鍛えられている。未熟ですが将来性は十分といえましょう。この面接は合格としましょう」
就活生「ありがとうございます」
面接官「今後ともよろしくお願いします」
就活生「はい、よろしくお願いします」
面接官「ところで、聞いておきたいのですが」
就活生「なんでしょう」
面接官「私の妻、つまりあなたの母は、安らかに旅立ちましたか?」
就活生「はい、看取りましたが、苦しむことはなかったと思います」
面接官「ありがとうございます」
就活生「急にうつむいてどうしました?」
面接官「いえ、あなたは面接に落ちなかったのに、私は目から涙を……」
― 終 ―
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