売れない作家「俺の小説が売れないのは読者に媚びてないからだ!」 (18)

テーブルの上に山積みにされた本。

編集者「今度出したあなたの新作です」

作家「……」

編集者「ご覧の通り、全く売れませんでした。全くね。社にはこれ以上の返本の山が出来上がってますよ」

作家「つ、次こそは……」

編集者「次なんてもんがあればいいですがね。ま、この山を見てせいぜい反省して下さいよ」

作家「は、はい……」

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作家「くそっ、なぜだ! なぜ売れないんだ! 俺の小説は絶対面白いはずなのに……自信作だったのに……」

作家「……」

作家「そうか、分かったぞ!」

作家「俺の小説が売れないのは、読者に媚びてないからだ!」

作家「いくら面白くても売れる要素を全く取り入れてないんだから、売れるわけがない!」

作家「読者の意見をくみ取り、ウケる題材で勝負すれば絶対売れるはず! 少なくとも今よりマシにはなるはず!」

作家「よーし、そうと決まれば市場調査だ!」

友「え、どういう小説が読みたいか?」

作家「ああ、遠慮なく聞かせてくれ」

友「といわれてもなぁ……うーん……」

作家「何でもいいから」

友「異世界系が読みたいかなぁ。ほら今流行りの。ヨーロッパ風の世界で主人公が活躍するようなやつ」

作家「異世界……」

作家「坊や」

少年「なに、おじさん?」

作家「坊やはこういう小説を読みたい、っていうのあるかな?」

少年「あるよ!」

作家「よかったら教えてくれないかな?」

少年「ぼくはね、主人公が最強で、無双するお話が読みたい!」

作家「主人公が最強……」

作家「ちょっとお時間よろしいですか?」

会社員「はい?」

作家「今アンケートを取ってまして……好きな小説のジャンルってあります?」

会社員「小説? よく読むのはミステリーだね」

会社員「探偵や刑事が殺人事件をズバッと解決! ドキドキしながら読んじゃうよ!」

会社員「犯人を当てられることは滅多にないけどね」

作家「ミステリー……」

オタク「小説?」

作家「うん、こういうのが読みたいってのがあれば……」

オタク「アイドルだね!」

オタク「ボク、アイドル大好きなんだけどさぁ。何人も推しがいるし」

オタク「アイドルが出てくる小説なら、それだけで買っちゃうかも!」

作家「アイドル……」

作家「君……小説読むかい?」

不良「あ? バカにすんなよ! これでも月に何冊かは読んでるぜ!」

作家「質問なんだけど、こういう題材の小説が好きだっていうのはあるかな?」

不良「題材? うーん……」

不良「俺はアクション物が好きだなぁ! 銃でドンパチするようなやつがよ!」

作家「銃でドンパチ……」

作家「今の時代、どういう小説が売れると思う?」

眼鏡「愚問ですね」クイッ

作家「というと?」

眼鏡「主人公とヒロインをイチャイチャさせておけば、愚かな大衆は満足します」

眼鏡「中身なんて必要ありません。ひたすらイチャイチャさせておけばいいんです」クイッ

作家「イチャイチャ……」

作家「(ちょっと怖い感じの女性だけど……)こ、こんにちは」

女「あら、なにかご用ぅ?」

作家「小説の需要調査をしてるんですが、読みたい題材ってありますか?」

女「あるわよぉ、ホラー!」

作家「例えば、幽霊や妖怪が出てくるような……?」

女「そうそう、ホラー小説には映画になるようなヒット作も多いしね!」

作家「ホラー……」

作家(今は高齢社会だし、おばあさんにも聞いてみよう)

作家「好みの小説のジャンルってあります?」

老婆「ああ、あるともさ」

作家「よかったら教えて頂けませんか?」

老婆「そりゃもちろんかっこいい侍が活躍するようなやつよ!」

老婆「刀でばっさばっさと悪代官や盗賊をぶった斬るようなのは痛快だねえ!」

作家「刀……」

中年「読みたい小説のジャンル?」

作家「はい、こういうのが好き……っていうのがあれば」

中年「私の場合はあれだね。社会問題に斬り込むような作品が好みだね」

中年「政治とか金融とか医療とか色々あるけど、そういうところにメスを入れて」

中年「主人公が業界の闇を暴いていく、みたいなやつを読みたい」

作家「社会問題……」

作家「お嬢ちゃんは小説読むかな?」

少女「読むー!」

作家「どんなの読むかな?」

少女「えーとね、えーとね……」

少女「魔法が出てくるようなやつー! 呪文を唱えるとボボーンみたいなー!」

作家「魔法……」

自宅に戻った作家は、浴びるように酒を飲んでいた。

作家「……」グビッ

作家「くそっ、くそっ、くそぉっ!」

作家「俺は題材が悪いから、読者に媚びてないから、小説が売れないんだと思ってた……」

作家「だけど、そうじゃなかった! そんなの単なる言い訳だった!」

作家「うわああああああっ……!」

号泣しながらテーブルに突っ伏す。彼は調査を始める前以上の絶望に打ちひしがれていた。

テーブルの上に山積みにされた小説のタイトルは――



『最強の俺が異世界でアイドルとイチャイチャしながら妖怪や社会問題と戦いつつ銃や魔法や日本刀で殺人事件を解決!』






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