ルーデウス・グレイラット「あれ? 先生、穿いてないんですか?」 (8)

「ルディ、何度言えば分かるのですか?」

ロキシー・ミグルディア。
青髪でどこからどう見ても中学生くらいにしか見えない体格の美少女だが、実は既に成人している。彼女は魔族で長寿なのだ。

まあ、寿命の長さを差し引いてもミグルディア族はある程度成長すると身体的成長が止まるようで、ミニチュア・ダックスフンドのようにこの先ずっと小さいままらしい。

「黙秘は無意味ですよ。私にはもう既に誰が犯人なのかわかっていますから」

さて、そんな愛らしい容姿をしたロキシーと俺は先程から睨めっこをしていた。
とはいえ、俺はずっと目を逸らしているが。

「私の目を見なさい。そんな風に目を逸らすのは疾しいことがある証拠になりますよ」

いかにロキシーが小柄とはいえ、まだ幼児の俺が背丈で追いつくことは不可能であり、彼女が俺と目を合わせるには目の前にしゃがみ込むことが必要不可欠だ。すると、どうだ。

「あれ? 先生、穿いてないんですか?」
「っ!? だ、誰のせいだと思っているんですか! ルディが私の下着を盗んだせいです!」

明らかに穿いていないロキシーの下半身事情について追求すると、俺の魔術の先生は慌てて立ち上がり、顔を真っ赤にして激怒した。

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すみません!
ミグルディア族ではなくミグルド族でした。
謹んで訂正します。

以下、続きです。

「なるほど。それは困りましたね」
「ええ。本当にとても困っています」
「ちなみに替えの下着は?」
「丁度、お洗濯に出していてありません」

だろうな。そのタイミングを見計らってかっぱらったのだから、ノーパンは必然なのだ。

「ルディ、まさかあなた狙って……?」
「そういうことなら早く犯人を探さないと」
「いえ、犯人はもう私の目の前にいます」

どうやらこの世界には推定無罪の原則が存在しないらしい。これだから異世界は困る。

「僕は先生の下着を盗んでいません」
「どうして目を逸らしながら言うのですか」
「だって、先生は今、ノーパンだから……」
「っ!?」

なんとも、我ながら素晴らしい正論である。
いや、もはや性論と言い換えても良い。
生きとし生けるもの全て、目の前の異性が下着を身につけていなければ視線は下がろう。

「ルディにはまだ早いと思います」
「でも予習は大切でしょう?」
「私はあくまでも魔術に関する家庭教師を引き受けただけで、その他の科目についてあなたに教育を施す義務はありませんので」
「そんな!? これまで先生は魔術以外にもたくさんのことを僕に教えて、熱心に諭してくれたではないですか!!」
「そ、そんな覚えは……」

気炎をあげて反論すると、ロキシーはたじろぎつつ本当に覚えがないように首を傾げた。
なんたることだ。今一度、教えてやらねば。

「先生は僕を外に連れ出してくれました」
「はい? それが何か?」
「先生のおかげで僕は外に出られました」
「監禁されていたわけでもあるまいし、いくらなんでもそんな大袈裟な……」
「大袈裟などではありません!」

魔術教本をバシンッ!と机に叩きつける。
流石にロキシーもびっくりした面持ちだ。
勢いに乗った俺は、そのまま捲し立てた。

「僕は先生のおかげで、自分が今どんなところに暮らしているのかを把握することが出来ました。先生のおかげでこの家の窓から見える風景以外の景色を見ることが出来たのです。それはとても大切で、得難いものです」
「ルディ……」

こちらの真剣さが伝わり、呆気に取られたロキシーであったが、照れ臭そうに頬を?き、こほんと咳払いをひとつして話を戻した。

「それとこれとは関係ありませんよね?」
「関係大アリですとも!」

会話の主導権を握られてなるものかと、生前の引きこもり生活で鍛えた屁理屈と詭弁で攻勢に打って出る。退いたら負けなのだ。

「外に出れた僕はこれまでよりも様々なことに興味を持つことが出来ました!」
「たとえば?」
「まだ見たことがない何か、です!」

元居た世界の漫画の台詞をアレンジして熱弁するも、ロキシーは冷ややかに見下して。

「それは私のスカートの中のことですか?」
「さすが師匠! ご明察です!」

これ以上のごり押しは不可能だと判断して白旗代わりにロキシーのパンツをポッケから取り出して振りながら、土下座を敢行した。

「つい出来心で! 申し訳ありません!!」

土下座とはすなわち、暴力と等しい。
文化は違えど、頭を床に擦りつける姿を見れば、どんな種族とて憐れみを抱くものだ。

「ごめんなさいでした」
「はあ……わかりましたから顔を上げてください。仮にも自分の弟子にそんな無様を晒して欲しくはありません。仲直りしましょう」

ほらな。チョロいもんだぜ。土下座最強!

「もう怒ってないですか?」
「もともとそこまで怒っていたわけではありません。ただ下着がないと困るので返して欲しかっただけですから」

やれやれ。甘い、甘すぎるぜロキシー。
そんなんでこの世界を生きていけるのか心配だ。まあ、だからこそ大好きなのだけど。

「それにしても、明日旅立つ師匠から下着を盗むなんて、とんだ恩知らずな弟子も居たものですね」
「本当に出て行ってしまうのですか……?」

ロキシーが居なくなる。それは嫌だった。
しかし、彼女には彼女の人生がある。
こんな寂れた田舎に腰を落ち着けるにはまだ若すぎるだろう。長寿の魔族なら尚更だ。

「ルディ。旅は良いものですよ」
「でも危険と隣り合わせです」
「だからこそ身を守る力が必要なのです」

ロキシー・ミグルディアは水聖級魔術師だ。
家庭教師としてではなく、冒険者としてならかなり強い部類だろう。少しドジだけど。
それでも実戦となれば、授業の時のお遊びのような魔術ではなく、本来の力を発揮する。

「私と同じ水聖級となった今のルディなら、私のように旅に出る力があります」

実戦経験がないのでなんとも言えないが、ロキシーに鍛えられた俺は少なくとも、手のひらを人に向けて攻撃魔術を使うことに躊躇いを覚えるようになったのは事実だった。

「先程、まだ見たことがない何かと言いましたね。良い言葉です。この世界には見たこともない様々なもので溢れています。それを見たいと望むのは良い傾向です。ただし……」

師匠らしく弟子を諭すロキシーを尊敬の眼差しで見つめていると、不意にデコピンされ。

「私のスカートの中身まで追い求める必要はありません。わかりましたか?」
「僕ただ先生がここに居た証明が欲しくて」
「杖とミグルド族の首飾りをあげたではないですか。それに離れていてもあなたは私の生徒なのですから、いつも想っていますとも」
「ほんと?」

子供のように問うとロキシーは笑って頷き。

「ええ、本当ですとも。旅先で手紙も書きます。受け取ってくれますよね?」
「もちろんです! 約束ですよ!?」
「はい。必ず、ルディにお手紙を書きます」

なんて弟子思いの師匠なのだろうか。
それなのに俺はパンツを盗もうとして。
いや手紙よりもパンツの方が価値は高いな。

「さてと。それでは私は返して貰った下着を今から穿くので、部屋から出てください」
「おかまいなく」
「ルディ」
「はい! すぐに退室します!」

睨まれたのでスタコラさっさと部屋から出る間際、ロキシーの細い腕が伸びてきて、俺を背後から抱きしめた。そして耳元で囁く。

「また会える日を楽しみにしてます」
「はい……どうか、お元気で」

家の外に連れ出してくれた際、カラヴァッジョに乗りながら感じたものと同じロキシーの薄い胸の感触が後頭部に伝わり俺は泣いた。

湿っぽいのは嫌だったのに、やられたぜ。

翌日、ロキシーは旅立った。
俺がポケットに入れていたパンツを穿いて。
よもや、それが囮とは知らずに。

「我ながら、酷い弟子だな……」

本命は洗濯に出した下着であった。
未使用のパンツには価値などない。
1日穿いて染み付いたものが至高。

「すぅーっ……はぁーっ」

流石文明が未発達な異世界。空気が美味い。

「本当はウン筋付きのが良かったけど……」

そちらは弟子の俺がしっかり洗濯しといた。

「でも全然臭くなかったな」

いや、臭いことは臭いのだが嫌いではない。
美少女補正だろう。やはり、可愛いは正義。
糞尿ですら、美少女のものならば問題ない。

「フハッ!」
「ぼ、坊ちゃん……?」

ニチャッとほくそ笑んで、愉悦を漏らす。
メイドのリーリャに目撃されたようだが、構うものか。この哄笑は誰にも止められない。

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

猛り昂る感情に伴い迸る魔力。紫電が走る。
腰を抜かしたリーリャが恐怖で失禁する。
昔話によるとこの世界には魔王が存在する。

「ふぅ……まだ見たことがない何か、か」

なってみるか。本気で、この世界の魔王に。


【無職転生 ~異世界行ったら本気で出す~】


FIN

無職転生アニメ化おめでとうございます!
なろう作品のなかでも大好きな作品なので、今後盛り上がっていくのが楽しみです。
SS内でのネタバレは極力しないように書いたので、興味がある方は原作もしくは漫画のほうを是非読んでみてくださいね。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!

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