白菊ほたる『人身御供』 (14)

モバマスSSです。

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山の神(山奥に立派な豪邸をおっ建ててもらって)

山の神(食いもんは、ふもとの村の村長が定期的に届けにくる)

山の神(食って寝るだけの、悠々自適のニート生活や。楽やわ、楽なんやけど――)

山の神「……さみしいな」

山の神「うん、さみしいわ。そらひとりごとも出るってもんやわ。村長以外の人間はウチ来てくれへんし、村長も佐川急便の兄ちゃんみたいにさっさと帰るし、たまに勝手に置き配してくし、盗まれたらどないすんねん。いや盗まれんけどな? ひと来えへんのやから」

山の神「……はあ」



ほたる「……」テクテク

山の神(お?)

ほたる「……」キョロキョロ

山の神(人間! 人間の女の子や!)

ほたる「!」トテテテ

山の神(あれは、キノコ? 採取に夢中になって、ここまで来てもうたんか)

ほたる「~♪」ヒョイヒョイ

山の神(どないしよ。話しかけたいけど、驚かれるやろし――って!)



山の神「おい嬢ちゃん!」

ほたる「ひっ、神様!? あ、ここは禁足地でした! すみませんすみません!」

山の神「いや、それはええねん。それよりもな、それ毒キノコやで」

ほたる「ど、毒!? えっと……どれがですか?」

山の神「どれっちゅうか、いまそのカゴに入っとんの、ぜんぶ」

ほたる「そ、そんな……」ガーン

山の神(知らんで採ってたんか。誰か毒殺する気かと思ったわ)

ほたる「せっかく、いっぱい採ったのに……」ショボン

山の神「……あー、嬢ちゃん、ちょいそこで待っとって」

ほたる「え?」

山の神「ほいお待ち! 嬢ちゃんのキノコ、これと交換してくれへん?」ドサッ

ほたる「あ……お芋に、お野菜がたくさん。でも交換って、これ毒なんじゃ?」

山の神「ワイ神やから、毒とか効かんねんな」

ほたる「でも……悪いです。毒キノコなんか、おいしくないでしょう……」

山の神「いや、ここだけの話、毒キノコめっちゃうまいねん。人間でもあの手この手で毒抜きして食っとるヤツおるで?」

ほたる「え、そんな人います?」

山の神「おるおる。でも毒の成分自体が旨味だったりもするから、ホンマは毒抜きなんかせんと、そのまま食うのがいっちゃんええねん」

ほたる「そうなんですか……」

山の神「まあ、人がやったら死ぬけどな(笑)」

ほたる「へえ……」パクッ

山の神「うおおおい!!!」

ほたる「うっ!」パタッ

山の神「なにを聞いとったん!? オイ嬢ちゃん! オイ!!」

ほたる「…………」シーン

山の神「アカン! ええと、この毒は麻痺で窒息死するんやったか? ……なら、呼吸さえ確保しとけば助かるか?」

ほたる「…………」

山の神「……こ、呼吸をな、呼吸を」

ほたる「…………」

山の神「…………」ドキドキ

山の神「神の力!」ペカー

ほたる「はっ!」ムクリ

山の神「ほっ……、嬢ちゃんなにしとんねん、アホなんか?」

ほたる「す、すみません! その……私なら平気かと思って」

山の神「どっから湧いてくる自信や、びっくりしすぎて色々と血迷ったわ」

ほたる「色々?」

山の神「気にせんといて。あー、今日はもうそれ持って、はよ帰り」

ほたる「……すみませんでした。勝手に入ってきたのに、食べものまでこんなに」

山の神「いや、ワイ基本ヒマやし、そんな遠慮せんと雑に絡んでくれてええからな」

ほたる「暇なんですか」クスッ

山の神(おっ……)

ほたる「ありがとうございました。それでは失礼します」ペコリ

山の神「はー、久々に女の子と会話したわ。緊張して手汗ヤバいわ」」

山の神「……かわいい子やったな」

山の神「しかし百発百中で毒キノコ拾ってるって、どういうこっちゃねん」

山の神「あ、名前聞いとらんかった」

山の神「…………」

山の神「……ちらっとな、ちらっとだけ」



~~~~~

村の子供「あ、白菊だ。こっちくるな不幸がうつる!」(投石)

『カーン!』

ほたる「いたっ! うう……」

~~~~~



山の神「罰当てたろか、あのクソガキ」

山の神「それはそうと、なんか音おかしかったな」

山の神「……不幸がうつるって……なんや?」

   *

村長「チャーッス、お届け物でーす」

山の神「村長、その口調でええんか?」

村長「大変失礼いたしました。今年も神様のおかげで豊作でございます。ありがたやありがたや」ナムナム

山の神「これはこれでイラっとくるな……なあ、村長」

村長「なんでしょう?」

山の神「ワイな、今まで村人にあれせえとかこれせえとか言わんかったやろ? 神とはいえな、あんま無茶な要求しとると旅の武士とか僧侶に退治されてまうねん。ワイは詳しいんや」

村長「はあ……」

山の神「充分ええ暮らしさせてもらっとんのもわかっとる。せやけどな? こう長いことぼっち暮らししとると、たまには寂しさに涙する夜もあってな……その、つまり……嫁さんとか、欲しいかなと思って」

村長「婚活を?」

山の神「ちゃうねん」

村長「……?」

山の神「首かしげんなや、神は婚活せんねん。だからその、村のオナゴをな、ひとりワイの嫁によこしてほしいちゅう話や」

村長「なるほど、そのような話でしたか。わかりました、考えておきます」

山の神「それ考えるゆうて放置する流れやな?」

村長「ははは」

山の神「否定せえや。……実はひとり、もうワイのほうで見当つけとるのがおんねん」

村長「ふむ? 名前はわかりますかな?」

山の神「ええと……名前はな、その……しら……しら……」

村長「シラット?」

山の神「なんで東南アジアに伝わる伝統的な武術やねん。女の子の話しとったやろ」

村長「なるほど。すると、しら……白坂小梅?」

山の神「白坂小梅、村におらんやろ」

村長「白雪千夜?」

山の神「だから、おらんやろ」

村長「白瀬咲耶?」

山の神「他社や」

村長「他社、といいますと?」

山の神「ワイもようわからん。なんか言っとかなアカン気がした」

村長「それにしても皆、名前は白でも服装は黒っぽいですな(笑)」

山の神「できたらもうひとり挙げてからその流れ行ってほしかったんやけど」

村長「しかし、我が村で『しら』から始まる住人など、白菊ぐらいしかおりませんが」

山の神「それ!!!!!」

村長「はい?」

山の神「それ! その子! しら! ぎく!!!」

村長「しかし白菊さんは既婚者ですよ。たしかに収穫祭の巫女役を張ったこともある美女ではありますが」

山の神「なんやて?」

村長「それも一児の母ですよ。旦那さんもまだ健在ですし、いかに神様といえど……」

山の神「あ、ちょい待ち、自分勘違いしとるわ。ワイが言っとるんはオカンやなくて、その一児のほうや。女の子やろ?」

村長「女の子、白菊……ほたるですか……」

山の神「うんうん、たぶんそのほたるちゃんや」

村長「ロリコン?」

山の神「やかましわ。そう言われる思っとったから言いよどんでたんやろが……アカンかな?」

村長「それは一般的にはアカンでしょう、白菊さんのお子さんはまだ13歳ですよ。……ほたるちゃん13歳!?!?!?」

山の神「落ち着き、どうした」

村長「いえ、大人びてるからもう少し上かと思ってたんですが、まだ13歳なのかと」

山の神「自分でゆうといてびっくりすんなや、こっちが驚くわ。で、そのほたるちゃん、どんな子なん?」

村長「はい、4月19日生まれの13歳で、出身は鳥取の……まあこの村ですな。趣味は笑顔の練習とお守り集め、身長156センチ、意外と高いですね。体重は42キロ。牡羊座AB型、スリーサイズは77-53-79で――」

山の神「まてまてまて! なんでそんなとこまで知っとるん!?」

村長「プロフィールに書いてありますので……」

山の神「村人のプロフ管理しとるん? プライバシーの侵害ちゃう?」

村長「で、将来の夢はトップアイドル、とのことです」

山の神「アイドル?」

村長「あるときテレビの音楽番組で見たアイドルに憧れたみたいですな」

山の神「ほーん……」

村長「幼いころから村の行事なんかも手伝ってくれようとしていたんですが、よく物を壊してしまうので、周りからは『頼むからなにもしないでくれ』と言われていて、近頃はそういったものには参加しておりません」

山の神「物を壊す? そんな乱暴者には見えんけど?」

村長「なぜか、近くにあるものがよく壊れるみたいです。他にもなにかが落ちてきたり、地割れが発生したりと。小さい子を持つ親などは、危ないからほたるちゃんには近づくなと自分の子供に言い聞かせているようです」

山の神「ああ……それでか」

村長「?」

山の神「いや……だったら、ワイの嫁によこせば、村としてもなにかと都合がええんちゃう?」

村長「村人を――生贄に捧げろと?」

山の神「人聞き悪いな。嫁や嫁、殺したりはせん。ぜったい幸せにしたるから」

村長「そうですね、ほたるちゃんを移籍させるとなると、2千万円はいただかないと」

山の神「なんの話を始めた!? 移籍!?」

村長「いや、神様からの頼みなんて珍しいですし、せっかくだから絞れるだけ絞っといたほうがいいかと、お金でなくともいいのですが」

山の神「いくらなんでも正直すぎんか? ……ほな、向こう50年の大豊作を約束したるわ」

村長「それじゃ今までと変わらないじゃないですか、もっと他にこう、なんかあるでしょう?」

山の神「……温泉湧かしたるわ。村外れの、なんも使っとらんとこに」

   *

ほたる「すみません、村長さんから言われて来ました……白菊ほたるです」

山の神「お、来た来た。ほたるちゃん、これからよろしくな」

ほたる「はい、よろしくお願いします。がんばります」

山の神「あんま恐がらんとってな、いきなり取って食ったりはせんから」

ほたる「わかってます、だいじょうぶです」

山の神「どうせ村はすぐそこやし、寂しくなったらちょっと帰るぐらいは、いつでもできるし」

ほたる「そんな寂しがったりしませんよ。私、もう13歳なんですよ」

山の神「あ、あとアッチのほうはな、やっぱお互いの合意あってのことや思うし、その……」

ほたる「あっち?」

山の神「いやいやいや、なんでもない。ほたるちゃんはまだ子供やからな、まだ早かったわ、うん」

ほたる「?」

山の神「いったん忘れて」

ほたる「はい……あの、荷物はどこに置けば?」

山の神「あー、そこの部屋空いとるから、好きに使って。着替えとか生活に必要そうなもんも、適当に揃えとるから」

ほたる「ありがとうございます、では少し失礼します」ペコリ

山の神(……んん?)

ほたる「お待たせしました。ここ、いいところですね。静かで、景色もよくて」

山の神「あっさりしすぎとる」

ほたる「はい?」

山の神「なあ、ほたるちゃん。村長からなんて言われて来たん?」

ほたる「ええと、『神様に温泉湧かしてもらったから、お礼に何日か泊まり込んで身の回りの世話をしてやってくれ』って」

山の神「……あんの、クソジジイ」

ほたる「嬉しかったんですよね」

山の神「ん? なにが?」

ほたる「私、不幸体質で、村の厄介者だったから……。指名されて、私なんかが人の役にたてるって言われて」

山の神「…………」

ほたる「あ、人じゃなくて神様の、ですね。……なので、神様にもご迷惑おかけしちゃうかもしれないんですけど……」

山の神「平気や。ワイは死なんし、ほたるちゃんのほうになんかあっても、神の力でなんとかするから」

ほたる「ありがとうございます。それで、私のお仕事なんですけど……」

山の神「ん」

ほたる「実は私、お母さんからずっと刃物と火には近づかないようにって言われてて、お料理とかはからっきしで……」

山の神「ああ、ほな飯はワイが作るわ。独身生活長いし慣れたもんやで。ちゃんとほたるちゃんにも食えるもん用意するから」

ほたる「すみません。では私はお掃除とか……ここ、綺麗ですね?」

山の神「そのへんは神の力でぱーっとやっとるから」

ほたる「じゃあ……私は、なにをすれば……?」

山の神「こうして話相手してくれとるだけで助かっとるよ」

山の神(この子は――自分が人身御供にされたことも気付いとらん)

山の神(話がちゃうやんけ。でも今更温泉涸らしたるのもカッコ悪いしなぁ)

山の神(村長のアホに文句言っとかな。はあ……)



ほたる「あの……さすがに気が済まないので……なにか、私にできることはありませんか?」

山の神「うん? なんかちゅうても、べつに……」



――将来の夢はトップアイドル、とのことです

――あるときテレビの音楽番組で見たアイドルに憧れたみたいで



山の神「あー……ほな、ほたるちゃん」

ほたる「はい」

山の神「歌、歌ってや」

   *****

ほたる「……あれ?」

ほたる(ここ……どこだろう。私、なにしてたんだっけ?)キョロキョロ

ほたる(……村の近くの山、かな? 神様が住んでいるから、入っちゃいけないって言われてる) 

父「ほたる!」ガサガサ

ほたる「あ、お父さん……」

父「こんなところにいたのか、ああ、こんなにやつれて――ないな? たっぷり食ってたっぷり寝てたみたいにやたら血色いいな。元気でいてくれて嬉しいけど、少しぐらい心細い思いをしててくれないとこっちが寂しいような気もする。俺はこの想いをどうしたらいいんだ?」

ほたる「お父さん、なに言ってるの?」

父「心配してたんだよ。ほたるが行方をくらまして3日も経つんだ。ああ、無事でよかった」

ほたる「3日!?」

父「覚えてないのか?」

ほたる「うん……」

父「そうか……お前みたいな子は神隠しに遭いやすいんだから、もうひとりでこんなところ来ちゃだめだぞ」

ほたる「私みたいって……不幸体質?」

父「いや、かわいいから」



母「ほたる! 無事だったのね! ああ、こんなにやつれて――ないわね?」

ほたる「その流れ、さっきお父さんがやった」

母「あらそう」

父「じゃあ俺は、村のみんなに見つかったって言ってくるから」

母「いってらっしゃい」

ほたる「いってらっしゃい。あの、私からごめんなさいって……」

父「伝えておくよ。みんな、心配してたから」

ほたる「……うん」

   *

母「そうだ。ほたる、収穫祭の巫女をやってみる気ない?」

ほたる「巫女?」

父「ああ、この村では年に一度、神様に豊作を感謝する祭りがおこなわれており、村に住む未婚の女性の中からひとりが選ばれ、巫女として歌と踊りを披露する慣わしとなっている。巫女役は村の大人たちが協議して決めるものだが、美しい娘が選ばれる傾向があるため、村に住む若い娘の間では、これに選ばれることがある種のステータスともなっている、収穫祭の巫女のことだな」

ほたる「えっと……どうして私が? 私、お祭りとかはずっと参加してないんだけど……」

父「村長さんの推薦なんだって。きっと、神様が喜ぶだろうからって」



   ~Fin~

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