勇者「君には感謝してもしきれない。何の労いも出来ないが…。」
男「いえ…。これが封魔の宝玉、そして剣でございます。」スチャッ
勇者「確かに……。むっ」
キュィィィン
一行「おぉ…。」
魔法使い「今までこれらから何の力の輝きを感じられなかったけど……。」
僧侶「やはり"真"の勇者様の血に共鳴するのか…。」
勇者「力が漲ってくるのを感じるぞ…。」
戦士「………。」
男「これにて私の役目は終わりました。では、勇者様。どうか魔王を倒して永久の平和をこの地上にもたらすようお頼み申しあげます。」
男「そして今まで旅を支えてくれたみんな。全員無事に生きて帰れるように祈っている。多大な迷惑を掛けたことをすまない。」
男「あとは任せました。真の勇者様。」
戦士「おい!これからどうするんだ!」
男「!…。ああ、そうだな。 とりあえずは故郷へ戻るさ。 世話になったな。」
戦士「……。」
…………
勇者「では改めて挨拶しておこう。私は"天"の力を授かりし者。天の導きによりこうして封魔の力授かりし貴方達と巡り逢う事ができた。」
勇者「かの甦りし古の魔王。勢い止まる所をしらず大国達もついに彼奴等の前に敗れ去った。その憎き魔王を倒す術はただ一つ。古の勇者達が宿せし"天"光"地"人"の力をもってこの封魔の剣を彼に突き立てこの宝玉に封印すること。」
勇者「まだ逢って日が浅いが力を宿した勇者達よ、よろしく頼む。」
一行「 応ッ !!」
ある街の酒場___
ガヤガヤ ワイワイ
男「…。」
客1「よう知ってるかい?なんでも今まで活躍しなさった勇者様は実は勇者じゃなかったってよ。」
客2「へぇ面白え。どういうこったい?」
客1「どういうわけか勇者様はもう1人居てそっちが本物だってよ。なんでもあの中央の大国の大占い師様が預言を間違えたって話じゃねえか。」
客2「なんでぇ。当たるも八卦当たらぬも八卦って奴かい。」
客1「んでも真の勇者様が現れたんならこら魔王に勝ったもおんなじだなぁ。」
客2「ほんとなぁ。まぁ、あんなバケモン共が攻めてくるとなりゃあ俺達おちおち夜も眠れねえもんなぁ。よかったよかった。」
男「マスター。もう一杯。」
マスター「へい。」
男(魔王甦りし夜、東西南北の地の中央に閃光走る。閃光と共に封魔の力宿せし者この地に現る。)
男(その封魔の力を宿した勇者は俺であるらしかった。が、違った。)
男(魔王が封印されたのは遥か1000年前。言い伝えから大占い師は預言を得たらしいが違えたらしい。)
男(そんな笑い話のような事が俺に降りかかるとは思いもしなかった。)
男(周りは俺を勇者として祭り上げ俺も勇者として育てられ勇者としての誇りを胸に生きてきた。)
男(あの男が現れるまでは俺は勇者だった。)
男(彼は地の東西南北にある古の祈りの祠の中央の地に産まれたようだ。)
男(俺は魔王が封印されたあと東西南北の各大国に建てられた新しい祈りの祠の中央の地に産まれた。)
男(どちらが本物かどうかは一目瞭然だった。)
男(人間離れした身体能力に強大な魔力を待ち合わせ、魔物に触れずとも倒してしまう。)
男(彼の噂は旅の途中で何度も聞いていた。しかし実際に逢ってみるとここまで違うものかと驚嘆した。)
男(長い旅を続けて自らの強さを自負していたが認めざるを得なかった。)
男(そうして自分の長い旅に終止符が打たれた。)
男(俺の唯一の功績。それは封魔の剣と宝玉を得る為の試練を克服した事。)
男(それが出来て勇者にその二つを渡す事が出来ただけでも上出来だろう。)
男(だがその功績は俺だけの力で成し遂げたものじゃない。)
男(力を持った僧侶、魔法使い、戦士達の助けがあったからだ。)
男(俺には…何の力も無かった……。)
男(思えば俺はただ力を持つ彼等の足を引っ張っていただけだ。)
男「マスター。金はここに置いておくぞ。」
マスター「あいよ。毎度あり。」
ヒソヒソ
客1「あいつ偽物の勇者じゃねえか?」
客2「へぇ?あれが噂の?」
客1「なんでぇ。やっぱ偽物なだけあって何の凄みもねえわなぁ。」
客2「へっへっ。聞こえちまうぞ。」
客1「いっけね。」
帰路の途中の森__
ザッザッザッ
男「……! 誰だ!!出てこい!!」
野盗 ゾロゾロ
野盗頭「お兄さん。悪いことはいわねえ。金目のもの置いていきな。命だけは助けてやる。」
男「あいにく貴様らにやるものは何もない。命が惜しかったら立ち去れ!」
野盗頭「へぇ。この頭数を前にそんな事言うかい。殺しちまえっ!!」
ウォォ
帰路の途中の森__
ザッザッザッ
男「……! 誰だ!!出てこい!!」
野盗 ゾロゾロ
野盗頭「お兄さん。悪いことはいわねえ。金目のもの置いていきな。命だけは助けてやる。」
男「あいにく貴様らにやるものは何もない。命が惜しかったら立ち去れ!」
野盗頭「へぇ。この頭数を前にそんな事言うかい。殺しちまえっ!!」
ウォォ
男「……。」
グァァ…
イテェヨォ‥
男「俺は確かに勇者ではなかったが…。」
男「ただ勇者を名乗って甘んじていた訳ではない…。」
男(勇者として育てられてきてその事が重荷と感じていた。)
男(俺は本当に選ばれし者なのか。勇者の名に見合った男なのか。何度も自分を疑っていた。)
男(しかしその資格を賜った以上、周りの期待に応える為にも俺は必死にやってきた。実際はそんな力を与えられて居なかったのだが…。)
男(しかし潜ってきた修羅場は確かに経験として、俺の力として俺に備わっている…。)
荒野__
パチッ… パチパチッ…
男(こうやって仲間と火を囲んで語り合った日々…。)
男(皆それぞれの悩みを抱えて戦っていた…。)
男(力を持つが故の重責。しかし俺の悩みは彼等とは違った。)
男(俺は勇者と認められながら魔力を持ち合わせていなかった。)
男(農夫でさえ魔力を使って火を起こせるというのに、俺にはまるでそういう事ができない。仲間の助けがあったにせよ、よくここまで生き残れたものだ。)
男(俺はいずれ力が覚醒し魔力を操れるようになれると信じていた。しかしそれは叶わなかった。)
男(俺はこの世界のあらゆる魔法使い、僧侶、道士達に教えを乞うた。そして修行にあけくれた。)
男(いかなる修行を持ってしてもついに覚醒することはなかった。あの剣・宝玉の試練を超えた後でさえ。)
男(この勇者としての自尊心を深く傷つけたのは言うまでもない。俺は選ばれし勇者であるということだけが唯一俺の存在を認め、俺を支えてくれたモノであった。)
男(しかしそれも無くなった今。俺はただの無能な男でしかない……。)
男(頑丈さだけがとりえ…。)
パチパチッ…
男「ふっ…ふふふっ…。はっはっはっ!!!!」
男「あっはっはっはっは!!!!!!わはは!!!!」
男「全く笑える話だ!!!!なぁ神よ!!!はっはっはっ!!!!」
男「生まれてすぐに孤児院に捨てられ両親の顔を知らずに育ち!!勇者として囃し立てられ!!それを信じて死にそうな思いをしながら戦い!!!!試練を克服し、魔王を目の前にしてお前は勇者では無かっただと!!!???」
男「なら俺は何者だ!!!???なぜ俺の根幹を奪い去った!!!???これならば貧民街でのさばりうだつの上がらない日々を過ごしていた方がまだ良かったぁじゃないか!!!!!」
男「滑稽だ!!!!滑稽…!!!酷い話だ……!」
男「俺の日々の全てが……虚だったんだ………!!!!」
……………
………
…
朝__
ゴソゴソ ガチャリ カチャッ
男「発つか……。」
男(これからどう生きようか…。人里離れた所にひっこむか?)
男(まずは…、故郷を見たい。この旅に出て8年…。)
男(孤児院長さんは……。みんなは元気にしているか…。)
2ヶ月後 中央の地 外れにある孤児院跡__
男「…………」(朽ちてしまっている。)
男「閉めてしまったのか…。」
ガチャ ギイイイッ
男(埃っぽい。もう何年も人は住んでいないようだな。)
シーン
男(空っぽだ…。本も家具も何も残っていない…。)
男(いつもこの二階の窓から山下に見える街を見つめていたっけ…。)
男(大きくなったらあの街よりももっと大きい国に出稼ぎに行って院長さんを助けようって思ってた…。)
男(ある日あの街から兵隊達がやってくるのが見えた。)
男(彼等は中央の王国の使者で魔王が甦った夜に雷と共に生まれた子供を探していると院長さんに尋ねてきた。)
男(それが俺だった。)
男「あの木に落ちたのか…。」
男(孤児院の外にある大木に雷が落ちた夜。俺はこの孤児院に捨てられていた。)
男(厳密に言えばその日に生まれた訳ではない。しかし彼等はようやく見つけたというような安堵と喜びの表情を見せていた。)
男(俺はすぐ引き取られる事となった。それが堪らなく悲しかった。まだ幼く事由を理解できない俺にはここのみんなと優しい院長さんの下を離れる事が嫌だった。)
男(それから俺は中央の地の王国にいるかつて勇者と共に魔王と戦った子孫である武術師の養父の下で育った。)
男(良い人だった…。厳しいながらも愛に溢れた人だった……。)
男(その養父の下で魔王を打ち倒す為に修行する日々を過ごした。)
男(養父は俺の魔力に頭を悩ませていた。)
男(魔力の強さは先天的才能であるものの誰しも必ず備えている能力であるにも関わらず、俺にはまったくその魔力自体が感じられなかったようだ。)
男(俺自身も彼の下で修行を重ねる内に自分の力の無さに疑問を感じるようになった。)
男(俺は本当に勇者であるのか?と……。)
………
……
…
男『体調は如何ですか父さん。』
養父『……ダメだな。長くないだろう。お前に身体を張って指導してやれなくてすまなんだ。』
男『僕の力不足を許してください……。なんとしてでも勇者に相応しい魔力を備えてみせます。』
養父『……。男。お前はもうすぐ成年の歳を迎える。魔王も日に日に勢力を増してこの地の連合軍も押されている有様だ。もはやここに留まるべきではない。』
養父『旅立ち、一刻も早くこの地に安寧をもたらせねばならぬ身であるぞ。お前の魔力は一向にその片鱗を見せん。私も病の身だ。そうなればもうその魔王討伐の道すがら各地の強者に教えを乞う外あるまいよ。』
男『父さん…。僕は日々思うのです。果たして僕はその勇者に相応しい力を持っているのかと。』
養父『……。男。人は誰にでも果たすべき使命を持ってこの世に生を受ける。だが生きている内にその使命を果たせず、はたまたその使命にすら気づかずこの世を去っていく者の多いことよ。』
養父『しかしお前は幼年よりその使命を果たそうと努力している。それだけでも意味があるのではないか?』
養父『この私も勇者と共に戦った者の子孫として生を受け、お前を勇者として育て上げる使命を賜った。そしてこの生を終えんとしている。私はとても幸せだよ。』
男『しかし…しかしその使命そのものが周りの人間達の勘違いであるとしたら…?』
養父『……。ふっふっふ。そうだなぁ…。そしたら本当の使命を探す外はあるまいて。』
男『…。』
養父『お前なら大丈夫だよ。自分を信じてみなさい。じゃなければ人生でなくなってしまう。』
………
……
…
男(養父の葬式を執り行ったと同時に魔王討伐に赴くと中央国王に宣言した。)
男(それから8年。このような?末になってしまったことを養父に謝りたい。)
後日 ある山の中の家__
情報屋「ひぃ…ひぃ…あいや着きましたよぉ!依頼主さんよぉ!!」
情報屋「人里離れた隠棲に持ってこいの家って言ったらここくらいでさぁ!!はぁ~疲れたぁ!!」
男「…ここに決めた。」
情報屋「あんら即決かい!?はぁ助かったぁ!!これで気に入らなんだらどうするべやって思ってたわぁ!!」
情報屋「ほんでもいいのかぇ!?ここから街まではこの山ともう一つ山越えなばならんですよ!?」
男「ああ、気に入った。ここで暮らす。しかし…、この家の他にもう一つ小屋があるがあれは?」
情報屋「あれかぇ!?あれはここの前の住人が雇った下働きの小屋さねぇ!!男一人じゃあ何かと不便しょ!?依頼主さんはどうするね!?ここの持ち主に話通せるけども!!」
男「それでは隠棲にはならんな…。」
情報屋「はぃ!?」
男「構わん。報酬だ。」
ズシッ
情報屋「ほぉぇ~!太っ腹さね依頼主さんよ!!よっ!勇者様だよあんた!!んじゃ、さっそく持ち主に話通してくるよね!!」
男(うるさい男だ……。)
夜__
『山下の街で頼った情報屋のおかげで棲家を手に入れる事が出来た。ここには井戸に家具、生活に必要なおおよそのものは揃っている。情報屋は気の利いた男で後日街で食糧とその他の雑貨を運んで来てくれるようだ。その分報酬は掛かるが…。情報の売り買いだけでは生活が出来ないのだろうか。
そして手記を残す事にした。誰に見せる訳でもないがこの与えられた平穏な日々を書き記す事にしよう。』
サラサラ パタン
リーンリーン
男「……。静かだ…。」
ガチャ
男「……。おぉ。 綺麗な星空じゃないか…。」
男(……。)
男(不思議な気分だ…。勇者という重責が取り払われたからだろうか…?)
男(あれ程拠り所にしていた勇者という事実が否定されたのにも関わらず何故こんな安堵した気持ちでいるんだ…。)
北東 連合軍 兵営___
隊長「よくぞ、よくぞお越になられました勇者様。」
勇者「ああ、戦況は。」
勇者「魔王の軍はそこまで力をつけているのか。」
隊長「はい…。2000人居た兵士のうち生き残ったのはわずか700人ほど。負傷兵も含めてです。あの東方へと続く魔王の小さな拠点さえ落とさればなんとか反撃の足掛かりに出来るというのにその小さな拠点さえも落とせず、反撃され追撃に追撃が重なり退却に至りました。」
隊長「しかしこのまま退けば我らの北東の小国達への道を明け渡してしまいます。奴等の手に落ちればいよいよ北と東の地は魔王の物となってしまう。」
隊長「この状況です。兵の士気もまるで無くなってこれでは農民兵となんら変わりありません…。」
隊長「勇者様。私達は退く訳にはいかんのです。もうこれ以上我らの民、国を蹂躙される訳には……。」
勇者「相分かった。この戦況、必ずひっくり返してみせる。」
負傷兵「うぐぁああ……っ……。」
魔法使い「……」 パァァァ
負傷兵「こ、こっちにも来てくれぇ…!!痛くて死にそうだぁ……。」
魔法使い「もう少し待って!この人が終わってからよ!」
魔法使い(ふぅ…。こんなに酷い負傷だと回復魔法も楽に施せないわ。)
______
兵士「」
僧侶「神よ、みもとに召された人々に、永遠の安らぎを与え、天の光の中にその魂を憩わせ給え。かの国を守りてここに眠ったその魂に栄えある光が降り注がんことを。……!」
勇者&戦士
勇者「死んだか…。」
僧侶「勇者様。……ええ。」
勇者「明日俺は戦士と先陣を切って出る。君達はここで負傷した者共を頼む。」
僧侶「わかりました。御武運を祈っております。」
勇者「戦士よ。君とは初めて戦場に出るな。背中は任せた。」
戦士「……。ああ。」
翌 未明 ____
斥候兵「伝令えええええい!!!!!北東拠点魔王の軍勢がこちらに向かって進行中であります!!!!」
ザワザワ
隊長「ついに来たか!!伝えろ!!各兵は迎撃の用意を!!ここを退く訳にはいかん!!なんとしてでも食い止める!!俺も出るぞ!!!!」
部下「はっ!!」
ワーワー
隊長「この僅かな手勢…。抑えられるか…?」
ヒヒン ブルル
戦士「……。」
勇者「行こう。」
隊長「!勇者様!」
勇者「私と戦士が先頭を切る。後から来てくれ。はぁ!!」
ヒヒーン
パカラッパカラッ
ドドドッ
戦士「見えた…。」
勇者「うむ。おおよそ2000程か?」
戦士「頭を叩くのが早い。急ごう!」
勇者「おう!!」
______
魔軍兵「!! ゼンポウに人影がミエマス!!」
魔将兵「! コウフクか!!?進軍ヤメええええ!!!!」
ゾロゾロゾロ…
魔軍兵「トマラズこちらに向かっテオリマスガ!!」
魔将兵「カマワン!!」
ドドドッ
戦士「止まったな。……アレが頭か。」
勇者「見えるのか!!」
戦士「ああ!!」 スッ ギリリリリ
戦士は馬上からその逞しい身体に見合った大きな弓の弦を引いた。
ビュンッ
矢は空に向かって鋭く放たれていった。
魔将兵「コウフクをウケイレルと奴ラを陣に引き入れぇい!!!!クビだけにして本陣のニンゲン共に見せつけてヤロウゾ!!!!」
部下「ハッ!!」
ヒュルルル ドッ!!!!
魔将兵「ぁぐっ…! ア…!!?」
部下「あっ!!」
ドヨッ
刹那に魔将兵は頭部を射抜かれた。それを見ていた魔軍兵士達は混乱を表せずにはいられなかった。
_______
ドドドドドドッ
戦士「殺った。さぁ、勇者様よ。アンタの番だ!」
勇者「流石だ!さながら千里眼だな!! ハッ!!!」
勇者が乗った馬はさらに勢いをつけた。勇者単身、敵軍勢へと斬り込んでいった。
勇者(雷を司りしママラガンよ。猛く稲妻、義の鉄槌が邪を退けん!!!!)
キィィィィン
バヂッ" バヂバヂバヂッ
勇者「おおおおおお!!!!!」
魔軍兵「なんだあれは!!くるぞ!!!!」
ポゥッ
戦士「うおっ!!」
閃光瞬き、目が眩む。瞬間に激しい電光が軍勢に落ち、凄まじい轟音が大地に響いた。
ウギャアアアアア‼︎‼︎
ウワアアアア
天の雷により一瞬にして多数の兵が吹き飛ばされてしまった。
魔軍は目まぐるしく起こる事柄に大混乱に陥り、もはや逃げる事以外にできることはなかった。
戦士「なんて魔力だ…!!これが勇者なのか…!!」
____
隊長「なんと……!!あの軍勢を一人で押している…!!!!」
隊長「勝てる!!勝てるぞ!! いくぞ皆共!!!!我ら勇者と共にあり!!!!彼に続くのだ!!!!!」
ウオオオオオ
凄まじい力を目の前にして連合軍兵士達の士気が戻った。
少ない軍勢ながら果敢に進軍を開始した。
_____
勇者「であああ!!!!」
ザシュ ドスッ ドッ
刃を尽く潜り抜け、封魔の剣は容赦なく相手を切り捨てる。斬り進む勇者の背後には切り捨てた邪が横たわり、神々しい白い鎧がみるみるうちに魔の血の色に染め上がっていく。
戦士「ふん!! オラァ!!!」
華麗に敵を斬り伏せる勇者とは対照的に戦士は力任せに鋼の棍棒で敵を叩きのめしていく。鉄の拳が顎を砕き、蹴りが骨を砕く。同じ人間とは思えぬ怪力が敵の体を蹂躙していった。
「であああ!!!!」
ヒュン ヒュッ ヒュッ
ザッ ヒュヒュン
男「………。 ハァッ…。 ハァハァ…。」
ある山の中の家____
男(駆けた戦場。血の匂い、肉を斬る感触、敵味方の断末魔……。)
男(懐かしいとは思わんが、決して消えることのない勇者として生きた日々の痕は俺の存在を確かにしてくれる…。)
男(俺は確かにこの世界の為に生きたという事だ…)ゼェゼェ
男「!」
情報屋「あんれえ!依頼主さんは剣士でしたかいねぇ!!裸で修行ってかっこよかなあ!!いい身体してんもん!!あっ、ほらぇ!生活のもん沢山持ってきたんねやぁ!!!!」
山下の街の気の利いた情報屋が荷馬車に乗ってやってきた。
情報屋「よいしょいやぁ!!」 ゴトッ
情報屋「ふぅ~!!荷物まだまだあるがよぉ!!なんせ依頼主さんの為にたぁーっくさん持ってきたかんね!!」
男「おいおい…。そんな何でそんなに張り切ってくれるんだ…。」
情報屋「んぁ!?さぁなぇ?なんかあんたさん良い人だしょもん!山下ん街で僕さんに誠実に頼み込むん人居なかったかんね!!」
男「そうか…。」
情報屋「あーあー!!あとね!!忘れとったんありゃんせ!!おーい!!おーい!!」
男(しかし相変わらずうるさい男だ…。)
情報屋は荷馬車の中に大きな声で何かに呼びかけていた。
「そなえおっきな声ださんねえ!聞こえてるがね!!」
情報屋「早くせってぇ!!依頼主さんよ早か顔合わせってえ!!」
「はいはい!今行くといよ!!もぉ~全くうるさみ人んよ君さん!!」
「はぇ~!せっかくあたしさん集中して服さ編んどったんにや!!」
手伝いの女「んしょ! はぁー!今日良い天気さね!!」
手伝いの女「あんらあ!!あなたがあたしさんの主人さんね!よろしくもんねぇ!」
男「?…。情報屋、この嬢さんは。」
情報屋「あんれぇ?依頼主さんに使える下働きさんね!!」
男「は!?」
訂正 使える→ 仕える
男「そんなもの頼んでないぞ!!」
情報屋「あんれえー!だけどもん依頼主さん構わんて確かに言ったんね!!」
男「なんてことだ…!これでは隠棲にはならんじゃないか!」
情報屋「そなん言いなさんね!!そう言ってもここでの男一人の暮らしゃ不便も不便だもん!!下働きはいた方が良しゃんね!!そう!!それがいいってえ!!」
手伝い女「そうよお!!洗濯、家事、掃除何でもやるもんねあたしさん!!なえ!兄さん!!」
男「! 情報屋の家族か!」
情報屋「あっへへ…。そうよ!僕さんの妹さんなんね!実はに
、僕さんの稼ぎだけじゃあ家族食べていかれんもんでぇ…。依頼主さんお金持ってそうだし良かりゃぁ雇ってくなんね……?」
情報屋「まだ幼ぇ弟さん妹さんもおるんね…。毎日腹一杯食わしてやりたいんよ……。」
手伝い女「ねぇ?お願いもんよぉ~。あたしさんいりゃぜっったい良かったん思うもんね!」
男「………。はぁ…。」
男「分かった。分かったよ。雇おう…。」
手伝い女「あんれえ!!太っ腹お人さん!!やった兄さん!!」
情報屋「良かったや!!これで食い扶持稼げんね!!」
男(うるさい男は身内もうるさいのか…。厄介なことになったな…。)
家____
情報屋「依頼主さん!ああもうめんどか!!主人さんて呼ぶね!!食糧はここに置いて良かなぇ!」
男「か、構わん!!好きに置いてくれ!!全く重い荷物だなこれは!!」グググッ
ドスン
男「ふぅ…!これは応える……なっ!!」
手伝い女「はいはいチャッチャと運ぶもんねえ!!主人さんなんね!!もうへたってんのぉ!!」ドスン
手伝い女「~♩」
男「お前の妹は怪力だな…。」ヒソヒソ
情報屋「そうだしょ?…僕さん住んでる所でも有名ね、男の鼻折っちまうくらいなんてことないんね…。俺も逆らえんてぇ…。」ヒソヒソ
手伝い女「何してんなあなたさん達は!!チャッチャとやったらに!!!!兄さんまたあたしさんの変なこと言ってぇ!!!!!」
情報屋「はいやぁ~!!ようやく運び終わったぁ!!」
手伝い女「よしゃ!そしたらご飯作るもんね!!まだまだ働くよぉ~!! ~♩」
男「……本当によく働くな。」
情報屋「だしょ?自慢の妹さんよぉ。」
手伝い女「主人さん!あたしさん食材用意するんね!台所の火ぃつけてぇ!」
男「あ、ああ……。」
男(手伝いなのにアゴで使われる事が多くなりそうだな…。)
男(薪をくべ…。)ゴトッ
男「むっ、火打ち石が…。情報屋!俺の荷袋の中に火打ち石がある。持ってきてくれないか。」
情報屋&手伝い女「はぇえ??」
男「……。」
手伝い女「火打ち石ってえ。そなもん魔力で火ぃつけりゃいいもんしょ!」
男「……。俺は魔力が全く使えないんだ…。」
情報屋「あんれぇ~…。そうなの?そな人さん初めてだよぉ~。」
男「恥ずかしいがそうなんだ…。」
手伝い女「んへぇ~!面白い人さんねぇ~!んだばあたしさんが全部世話すんなぇ!!はい!どいてどいてぇ!」
手伝い女「ほらぇ~!」
ボゥン
パチッ パチパチッ
手伝い女「はいよ主人さん!あなたさんは座って待ちなさんね!」
男「すまない…。」
食後___
手伝い女「お粗末さんよね!んだば洗い物しなんさね!」
カチャカチャ
情報屋「主人さんて剣士よね?先程は剣振り回して修行してたけんど?」
男「ああ。元な。世界を8年ほど旅して回ってた。」
情報屋「あんれ8年もぉ!そな旅人剣士さんがなぜこんな山奥に引っ込むのね?」
男「……。昨今魔王軍と連合軍の争いが激しくなっているだろう。段々と旅先で身に危険が及ぶようになったんでな。そろそろ腰を落ち着けようと思った次第さ。」
情報屋「はぇ~!8年もかぇ~!いいさなぁ~!僕さんも主人さんみたいにあちこち旅して見聞を広げてみたいよさねえ!」
情報屋「そしたら用心棒みたいな仕事してたんさな?」
男「……。まぁそんな真似事して路銀を稼いでいた。」
情報屋「はいや長居しちゃったよぉ!!んだば僕さんは帰るよね!!」
手伝い女「兄さんも気をつけてよねぇ!弟さん妹さん父さん母さん頼んだよぉ!!」
情報屋「あいよぉ!任せときねぇ!!ほいじゃ主人さん!」
男「ああ。」
情報屋「妹さんは僕さんに似てちょと騒がしんけど、気の利いたいい子さんだしね!報酬以上に働く子よぉ!!大事にしてやってくださいねぇ!!」
そう言って情報屋の乗った荷馬車は行った。
手伝い女は改めて男に挨拶をし、済ませると家事に戻っていった。
『例の気の利く情報屋が約束の食糧雑貨等を運んできてくれた。想像以上の荷物の量に驚いた。それらを積みあの山を越えてくるには相当苦労しただろう。それをおくびに出さない彼に大いに好感を持った。想定外だったのは彼の妹が下働きとしてこの地にやってきた事だ。雇って欲しいと頼み込まれ、仕方なく雇う事にした。だがよく働く女だ。俺一人で隠棲するつもりだったがこれでも良かったのかもしれない。』
手伝い女「何さ書いとるんさ?」
男「うおっ!びっくりした…。手記だ。ここでの生活を記そうと思ってな。」
手伝い女「手記ぃ?あははぁ!こな山奥でなんもない所で生活して書く事なんかあるさねぇ!」
男「…。そうだな…。君の事くらいか…。」
手伝い女「あたしさんねぇ!?あたしさんの事書いてもなんも面白く無いよねぇ!それよりもさぁ!」
男「なんだ?」
手伝い女「主人さんの旅の話聞かせてほしいんよぉ!8年も旅してたんでしょぉ?あたしさんここに来たのが人生で1番の遠出だったもんねぇ!もっと外の事聞きたいんさぁ。」
男「俺の旅の話なんぞ面白くもなんともないぞ…。」
手伝い女「そんな事無いよね!あたしさんの知らん事は全部面白いもんだもん!お願いさぁ、聞かせて欲しいんよぉ!」
男「むぅ…。まぁそこまで言うならば…。」
手伝い女「!!」パァ
男「だが今日はもう遅い。寝ろ。」
手伝い女「そんなぁ…。しょうがないもんかぇ…。」ブー
手伝い女「んだばあたしさん寝るもんね!主人さんお休みぃ!」
不服そうな顔でおきゃんらしい振る舞いで彼女は離れの自分の住まいに戻っていった。
男「旅か……。仲間たちは今頃どこで戦って居るのだろうか…。」
________
このSSまとめへのコメント
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