もこっち「モテないし家に泊める」 (64)

私がモテないのはどう考えてもお前らがわるい!の二次創作です、よろしくおねがいします。

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~~~~


???「────クロ~」


彼女が呼ばれる声が聞こえる。

このアニメみたいでいてどこか厨ニ臭いこの声色。

振り返らなくてもわかる、ピンクの髪色をした彼女だ。


ネモ「一緒に帰らない?」


???「...智子は、私と帰るんだけど」


そして取り合うのは黒髪の少女。

花の名前を持つ彼女の眼光はどこか狂気を含んだモノ。

一触即発が控えている、そんな彼女らを取り持つのは長い髪の少女。


もこっち「...いや、3人で帰ろうよ」


ゆり「...」


ネモ「田村さんも一緒に帰ろうよ!」


ゆり「...智子がそういうならそうする」


もこっち「あー、けど帰る前に買い物させてくれ」


ネモ「うん、いいよ」


ゆり「...」


3人の寄り道が決まる。

放課後の学校、校門を出るとネモは尋ねた。

これからどこに向かうのか、果たして楽しい時間になるかどうかを。


ネモ「それで、どこに行くの?」


もこっち「スーパー」


ネモ「え? 本当に買い物するの?」


もこっち「そう言っただろ...」


ネモ「いや、てっきりコンビニとかで軽く買うだけだと思っただけ」


ゆり「...」


もこっち「へー...とりあえず私の最寄り駅まで荷物持ち頼んだぞ」


ネモ「...え?」


もこっち「鍛えてんだろ?」


ネモ「...まぁいいけどさぁ...何買うの?」


もこっち「そうだなぁ...」


長考をする髪の長い少女。

その面持ちはまるで、夕飯の献立を考えている主婦のような。

だがそれはまさしく正解であった、彼女がそこに行く理由とは。


もこっち「...鍋」


ネモ「...え?」


もこっち「今日は鍋にしようと思う」


ネモ「...もしかして、クロって黒木家の料理担当なの?」


もこっち「いや、違くてな...実は────」


彼女は彼女に伝えた。

今朝、おじいちゃんが倒れたということを。

それを心配した両親は家を空け、その様子を伺いにいったことを。


ネモ「そうなんだ...おじいちゃん、大丈夫なの?」


もこっち「あぁ、さっきお母さんからLINEきてな...大丈夫だってさ」


もこっち「でも心配だから今日はそのまま帰ってこないって、明日は土曜で休みだし...」


ゆり「...だから、晩御飯の買い物に行くんだ」


もこっち「そういうこと...弟の分も考えねーといけないから、適当に鍋でいいや」


ネモ「ふーん...それじゃ私も鍋に入れる材料を一緒に考えてあげるよ」


もこっち「え?」


ゆり「...私も」


もこっち「...闇鍋じゃないからな?」


ネモ「わかってるよっ! って、スーパー着いたよ?」


もこっち「お、おう...予算は5000円だからな」


スーパーに学生服の3人が入店する。

そのうちの2人の表情はどこか楽しげな。

高校生とはいえまだ子ども、特にピンクの髪の子が顕著であった。


ネモ「~♪」


もこっち「随分と楽しそうだな」


ネモ「え、そう?」


もこっち「鼻歌聞こえてるぞ」


ネモ「...えっ!?」


ゆり「...とりあえず、鍋つゆ買ったら?」


もこっち「あ、それはまだ家にあったはず...具材だけ買いたい」


ゆり「そう...じゃあ白菜とか?」


もこっち「それと...鶏肉とネギと...コーラだね」


ゆり「...コーラ?」


もこっち「いや、弟に注がせる為にね」


ゆり「...よくわかんないけど、買い物カゴとカート取ってくるね」スタスタ


もこっち「あ、うん...ありがと」


ネモ「...それにしても、今日のクロは自由だね」


もこっち「まぁな、明日土曜だし...親も居ないし夜遅くまではしゃげるな」


ネモ「いいね! 私もお泊りしちゃおうかな...なんて」ポツリ


後半の言葉はほぼ意味のないモノであった。

小声で、社交辞令にも近い期待値0の冗談。

だがそれは彼女に届いてしまう、家の主が居ないこその気軽さ故に。


もこっち「え? 別にいいけど」


ネモ「...えっ!? 本当っ!?」


もこっち「あ、あぁ...」


────カラカラカラッ...!

車輪のついたなにかが近寄ってくる音。

それは聞き慣れているはずなのに、嫌な緊張感を産ませる。

背後に感じるのは狂気、それを醸し出すのは花の少女。


ゆり「...」


もこっち「ゆ、ゆりちゃん...?」


ゆり「...私も、泊まる」


もこっち「え...?」


ゆり「いいよね? 智子?」


もこっち「お、おぉ...別にいいけど...弟もいるんだぞ?」


ゆり「...やった、智子の家」ブツブツ


ネモ「クロの家か~、楽しみだな~」ワクワク


もこっち「...聞けよ!」


ネモ「──っ! 着替え持ってこないとっ!」


ゆり「...! 家に帰って荷物もってくるから、最寄り駅で待ってて」


ネモ「私も! じゃあ、またねクロ!」


もこっち「あ、おいっ────」


────ぴゅーっ!

まるで風が駆け抜けるような音。

2人の少女は走って店内を後にした。

カートに入れられた野菜やコーラを残して。


もこっち「...ネモのヤツ、荷物持ちをすっぽかしやがった」


もこっち(それにしても...4人分の材料を買って帰らなきゃいけないのか...)


もこっち(金は足りると思うが...どう持ち帰ったらいいんだよ)


~~~~


~~~~


ネモ「────おまたせっ!」


もこっち「おう」


ゆり「...」


ネモ「田村さんの方が早かったんだ」


もこっち「そうだよ、いいからこの荷物を持ってくれ...」


ネモ「あ、うん」


4人分の鍋材料が手渡される。

ある程度鍛えているネモですら重さを感じるモノ。

これを1人で、しかも己の最寄り駅まで運んだ彼女の腕は乳酸まみれ。


ネモ「結構重たいね」


もこっち「4人分だからな...流石に可哀想だから半分持つよ」グイッ


ネモ「あ、ありがと...」


その光景はまるでアニメのような。

ネモの好きな日常系の代物ではなく、どちらかというと少女漫画のような。

どちらにしろその非日常感がたまらない、2人で買い物袋を運ぶその光景が。


ネモ「~♪」


もこっち(...さっきからヤケに上機嫌だな、ってツッコみたいけど)


もこっち(袋が重すぎて喋る余裕がないわ...それに...)チラッ


横目で見ると何かを感じる。

その何かとは、もはや明白であった。

狂気とまでは行かないが、やや鋭い目線がそこにあった。


ゆり「...」


もこっち(...こっちはヤケに不機嫌だな)


もこっち(...一応フォローしておくか)


もこっち「そういえば...ゆりちゃんが買い物カゴに入れたコーラだけど...」


ゆり「なに?」


もこっち「あれで丁度品切れになってたよ、ありがとうね...へへ」


ゆり「...どういてしまして」


不慣れな微笑みが彼女の狂気を取り払う。

そんな他愛のない話をしていると、目的地が目視できた。

中学時代の友人を除くと初めて友達を家に招くことになる。


もこっち「着いた」


ネモ「ここがクロの家か~」


ゆり「...」


────ガチャッ!

鍵穴に差し込み、ドアノブを撚る。

すると一軒家特有の重厚なドアの音が響いた。

そして家主である彼女は、慣れない言葉を交わした。


もこっち「あ、あがって?」


ネモ「お邪魔しまーす!」


ゆり「...お邪魔します」


もこっち「あ、まだ弟は帰ってきてないみたいだな」


ネモ「そうなんだ、部活かな?」


もこっち「たぶんな...とりあえず鍋の支度始めるか」


ネモ「もう作るの?」


もこっち「鍋ってのは意外と時間がかかるんだよ...ネモは料理したことないのか?」


ネモ「むっ...あ、あるに決まってるじゃん!」


もこっち「...」


彼女のわかりやすい挑発。

そのなんとも言えない絶妙な表情がネモを刺激する。

マウントの取り合いが始まる中、1人黙々と作業を開始する少女が1人。


ゆり「...鍋、どこ?」


もこっち「あっちの戸棚にあると思う...ガスコンロも一緒に入ってるはず」


ゆり「わかったよ...お箸とか勝手に探して並べておくよ?」


もこっち「あ、うんお願いね」


もこっち「...食器系の支度はゆりちゃんに任せよう、私とネモは具材を調理するぞ」


ネモ「わ、わかったよ!」


──ざくっ! ざくっ!

瑞々しい音が鳴り響く、野菜の鮮度が伺える。

不慣れながらももこっちは淡々と調理を終えていく。

野菜や肉を切るだけの簡単な作業だが、それに追いつけない者が。


ネモ「...」


もこっち「お、おい...大丈夫か?」


ネモ「だ、大丈夫...ゆっくりやればできるから...」


もこっち「鍋だから雑に切っていいんだからな?」


ネモ「...その割には、クロの切り方変じゃん!」


もこっち「うるせーよ!」


もこっちのカット方法。

定規で切ったような長方形に揃えられた野菜や肉が並ぶ。

鍋だから味には支障はでないがあまりにもセンスのない調理であった。


~~~~


~~~~


もこっち「...さて、終わったか」


ゆり「あとは鍋つゆ入れて具材入れるだけだね」


ネモ「弟くんは帰ってくるんだよね?」


もこっち「そうだよ、帰ってくるまでゲームでもして待ってようか」


もこっち「私の部屋からゲーム機取ってくるわ」スッ


ネモ「あ、まって! クロの部屋気になるから私も行くっ!」


ゆり「...私も」


3人が階段を駆け上がる。

そこに待ち受けていたのは2つのドア。

1つは弟の部屋、そしてもう1つは待望の彼女の部屋。


ネモ「おー、本が沢山」


もこっち「つっても、漫画とラノベぐらいしかないけどな」


ゆり(...あ、これ前に貸してくれたヤツだ)


ネモ「あ! あのクッションかわいいね!」


もこっち「あん? あれだったら下に持ってっていいぞ」


ネモ「本当? それじゃあ...」スッ


────もふもふ...

その音だけなら可愛らしいはずだった。

だが聞こえたのは固くて重たいモノが落ちたガコンという音。

それは、その正体はネモが手に取ったクッションの裏側に存在していた。


ネモ「あれ、なんか落ち...た...」ピクッ


もこっち「────あっ」


ネモ「...ク、クロっ!?」


ゆり「...」


3人の女子高生の視線を釘付けにしたモノとは。

本来の用途であるならば、全くもって健全な代物だというのに。

世間が植え付けたイメージが先行する、そこにあったのは電動の。


もこっち「いや違うから、肩こり用だからな」


ネモ「そ、そうだよね!」


ゆり「...」


もこっち「...でも、ネモはもう1つの使い方を知ってるみたいだな」


ネモ「...っ!」


ゆり「...」ピクッ


もこっち「意外とむっつりだね」


ネモ「────クロっっ!」スッ


──バチンッ! ドンッ!

2つの音がもこっちに襲いかかる。

1つははたかれた音、そしてもう1つとは。


もこっち「────ぐえっ!?」


ゆり「...」


ネモ「あっ...ご、ごめん...」


もこっち「い、いや...ネモのビンタより、ゆりちゃんの肘鉄の方が...」


ゆり「...なに?」


もこっち「な、なんでもない...」


もこっち(やっぱりゆりも知ってたか...直接むっつりだなんて言ったら殺されるんじゃないだろうか...)


もこっち「と、とりあえず...ゲーム機を下に持っていこうか」


ネモ「う、うん」


ゆり「...」


~~~~


~~~~


???「...」


薄暗い夕方の道を歩く男が1人。

目には隈ができている、それはあの家族の血筋。

彼はもこっちの弟、智貴が家へと帰ろうとしていた。


智貴「...」


智貴(...今日は親父たちが帰ってこねー日だったな)


智貴(アイツと2人きりか...嫌な予感がする...)


そんなことを考えていると辿り着く。

自宅の玄関の扉がいつもより重苦しく感じる。

そのはずだった、しかし耳をすませば居間の方から何かが聞こえる。


智貴(...なんか話し声が聞こえるな)


智貴(電話でもしてんのか? まぁとりあえず家に入るか...)


────ガチャッ!

扉を開けると誰かが反応した。

律儀に弟を出迎える姉、だがそれだけではない。

聞き間違えではなければ足音は余計に2つ聞こえる。


もこっち「おかえり」


ネモ「おかえり! お邪魔してまーす!」


ゆり「...」


智貴「お、おお...」


もこっち「今日は鍋にするからな」


もこっち「具材はもう用意してあるから、後は頼んだぞ」


智貴「...」


智貴(姉の友達か...1人は初対面だな)


智貴「ど、ども...」


ネモ「はじめましてだね、どうぞあがって!」


もこっち「私の家なんだが...」


智貴(俺の家でもあるんだが...)


智貴「おい、友達たちも食っていくのか?」


もこっち「そうだよ、ついでに泊まるぞ」


智貴「...マジかよ」


ネモ「ごめんねー、急すぎるよね?」


智貴「あ、いえ...別に...」


もこっち(...なんだこの反応、ネモ相手だからか?)


もこっち「なにデレデレしてんだよ」


智貴「してねーよ」


もこっち「正直に言ってみろ、美少女3人が家にいて興奮してんだろ?」


智貴「殺すぞ」


ネモ(...なにこの反応、クロのテンションが妙に高いなぁ)


ゆり「...ねぇ、鍋食べようよ」


もこっち「あ、そうだね」


智貴「...とりあえず着替えてくるわ」


~~~~


~~~~


智貴「...相変わらずセンスねーな」


着替えが終わり台所に立つ弟。

そこに並べられた具材たちを鍋に放り投げる。

すると後ろから誰かが言葉を投げかけてきた。


ネモ「手伝おうか?」


智貴「あ、いえ...別にいいっす」


ネモ「そっか、まぁお鍋に入れるだけだしね」


智貴「...あの」


ネモ「うん?」


智貴「...姉の友達でいいんすよね?」


ネモ「そうだよ」


智貴「...」ジー


智貴(見た目は派手だけど、この人はまともそうだな...)


ネモ「あ、そういえば自己紹介まだだったね」


ネモ「私は根元陽菜だよー、よろしくね!」


智貴「...黒木智貴っす」


智貴「鍋、出来たんで居間に運びましょう」


~~~~


~~~~


智貴「...持ってきたぞ」


もこっち「ご苦労」


ゆり「...」


ネモ「お、もう食べる準備できてるねー」


居間のちゃぶ台に座り込む4人。

その中央にはガスコンロ、周りには食器が。

鍋のお供に君臨しているのは、黒い炭酸飲料。


もこっち「コーラ」トン


智貴「自分でつげよ」


もこっち「いいじゃんか、つげよ」


智貴「...チッ」スッ


ネモ「...」ジー


ネモ(クロ、弟くんにすごい甘えてる...知らない一面だなぁ)


智貴「...根元さんも」スッ


ネモ「...え、ありがと」


ゆり「...」ジー


智貴「...どぞ」スッ


ゆり「...ありがとう」


────しゅわ...

炭酸の爽やかな音が聞こえる。

鍋の火加減も丁度いい塩梅、もう問題ないだろう。


もこっち「さてと...」スッ


居間いる以上、そこにはアレがある。

黒木家の食卓では基本的に禁止されているあの娯楽。

もこっちはリモコンでテレビの電源をつけたのであった。


ネモ「まだ夕方だから、ニュースしかやってないね」


もこっち「そうだな、映画のDVDでも流すか?」


ネモ「あ、それいいかも...なにがあるの?」


もこっち「私の部屋にあるから、一緒に探してくれ」スクッ


ネモ「あ、うん」スクッ


ゆり「...」モグモグ


智貴「...」モグモグ


もこっちとネモがDVDを探しに。

すると残るのは、無言で食事を進める2人。

無駄に会話をすることを好まない、だからこその静寂。


智貴「...あの」


ゆり「...え?」


智貴「姉と仲いいんすか?」


ゆり「...うん」


智貴「...」


ゆり「...」


智貴(...この人は、静かだな)


智貴(話すこともないし...こっちの方が気を使わなくて楽だ)


もこっち「──おーい、持ってきたぞ」


先程自室から持ってきたゲーム機。

そこに円盤をセットするとテレビの様子が変化する。

つまらないニュース番組から、なにか盛大なモノへと。


ゆり「...これ知ってる」


もこっち「そう? 別のにしようか?」


ゆり「いいよ、智子と一緒に見るのは初めてだし...」


ネモ「これって、どんな映画なの?」


もこっち「自分の目で確かめろ」


智貴「...」モグモグ


比較的古い洋画であった。

そこにいたのは黒人の女性、彼女が主人公である。

売れない歌手である人物が冒頭のストーリーを彩っていく。


智貴「...これ、親父がよく見てたヤツだな」


もこっち「あぁ、なぜか私の部屋にDVDあったから懐かしくて持ってきた」


ネモ「そうなんだ」


ゆり「...」ジー


皆、食事よりも映画に夢中であった。

名作という物は色あせない、その様子が伺える。

片手間に鍋をつついていると彼女がある行動に移る。


ゆり「...そうだ、鍋の分のお金払ってなかったね」


ネモ「あ、そうだった...流石にご馳走のままだとアレだから、いくらか払うよ」


もこっち「あー...お母さんのお金で買ったから、受け取っておくか...」


ネモ「レシートみせてー」


もこっち「ほらよ」スッ


ネモ「...この会計額なら1人頭1500円でいいよね、計算めんどくさいし」


もこっち「そっちがそれでいいなら、任せる」


会計を済ますと映画の展開が進んでいた。

いつのまにか主人公は教会で過ごすことになってる。

もこっちはそんな様子を頬杖をつけながら眺めていく。


ネモ「あ、シスターさん」


もこっち「日本じゃまずみねーよな」


ネモ「そうだねー巫女さんですら見ないしねー」


ゆり「...」モグモグ


智貴「...」モグモグ


~~~~


~~~~


ネモ「映画、面白かったねー」


もこっち「そうだな」


映画がエンドロールに移行する。

売れない歌手であった主人公は黄金の人生を手に入れた。

音痴だらけの教会、シスターたちの歌唱力を指導をすることで。


ネモ「シスターさんたちが楽しそうに歌ってるのがよかったね」


もこっち「改めて見ると、よく出来た話だったな」


ネモ「うんうん...それにしても歌かぁ」


ネモ「...クロって、カラオケとか行ったりするの?」


もこっち「あー、私は歌うの苦手だから滅多に行かない」


ネモ「へぇーそうなんだ」


ゆり「...ごちそうさまでした」


智貴「...風呂作ってくるわ」スクッ


いつの間にか4人でたいらげた鍋。

そしてこのちゃぶ台から最初に離脱したのは智貴。

彼は自分で使った食器を手に持つと、立ち上がって行ってしまった。


ネモ「結構食べたねー」


ゆり「...片付ける?」


もこっち「そうだな、3人でパパっと片付けようか」


~~~~


~~~~


智貴「...風呂出来たぞ」


もこっち「先入っていいぞ」


智貴「...俺はシャワーで済ませるから、お前の友達たちを先に入らせろよ」


もこっち「そんなこと言って、残り湯を堪能するつもりだろ?」


智貴「...」


ネモ「クロはバカだなー」


ゆり「また馬鹿なこと言ってる...」


智貴「...先入ってくるわ」スッ


彼女たちの前から立ち去った。

いつもなら必ず否定の意を込めて返事をするはずなのに。

なぜか今日は、罵詈雑言が返ってくることはなかった。


もこっち「あれ、いつもなら死ねとか言ってくるのに」


ゆり「...呆れられたんじゃない?」


ネモ「あんまり弟くんを困らせないほうがいいよ?」


~~~~


~~~~


智貴「...」


──しゃぁぁぁぁ...

シャワーからお湯が流れる。

それはまるで洗礼のような光景であった。

頭に被る、この流れるお湯が彼の認識を揺らがせる。


智貴(...アイツ、友達できたんだな)


智貴(さっきみたいなことを言ってきても...あの人たちは別に引いたりしていなかったな)


智貴「...」


智貴「...アホくさ、なんてアイツのこと考えてんだ」


智貴「さっさと洗って寝るか...明日は朝練あるし...」


──ガラッ!

その時だった、後ろかな何かが聞こえる。

まるで引き戸を開けられたような音、まさしくそうであった。

だが音はそこまで、風呂場への扉までは開かれていない。


もこっち「おい、お前タオル忘れてるぞ」


智貴「あぁ...? 悪い...」


もこっち「...」


悪い、それは感謝の意。

違和感が彼女を遮った、やはりどこか様子がおかしい。

いつもなら直接的な言葉は愚かそれを暗喩させることすらないのに。


もこっち「...なぁ、どっか調子悪いのか?」


智貴「...」


智貴「なんでもねぇよ、もう出るからさっさとどっかいけよ」


もこっち「お、おぉ...」


~~~~


~~~~


ネモ「あれ、弟くんは?」


もこっち「もう出た、明日は朝練があるからもう寝るって」


ネモ「そうなんだ...部活動かー」


ゆり「次、誰が入る?」


もこっち「どっちかが先に入ってくれ」


ネモ「じゃあ私が先に入ろうかな」


もこっち「タオルは洗面所の戸棚に置いておいたからなー」


ネモは着替えを持って風呂場に向かう。

居間に残ったのはこの2人、ようやく2人きりになれた。

だが余計な会話など不要、この静かな関係性こそが彼女らなのだから。


もこっち「さてと...ゲームでもするか」


ゆり「...」


もこっち「ゆりちゃんもやる? 2人までなら一緒にできるヤツだよ」


ゆり「いい、私は見てるだけで」


もこっち「おぉ...わかった」スッ


ゲーム機にダウンロードされたゲームが起動する。

するとテレビに映されたのは、古びた演出のタイトル画面。

そして聞こえてくるのは、かなりレトロなジャズテイストのBGM。


もこっち「おー、ぬるぬる動くなぁ」


ゆり「...なんか、昔の海外アニメみたいだね」


もこっち「そうでしょ? これ全部作者の手書きらしいよ」


ゆり「そうなんだ」


もこっち「このゲームの為に、久々にこっちのゲーム機を起動したわ」


ゆり「...見辛いからそっちいってもいい?」スクッ


もこっち「え? いいけど...」


そう言うと彼女は立ち上がる。

そして座り込んだ先は彼女の真横。

ほのかに感じる体温、そして香るのは自分とは比較にならないなにか。


もこっち「...へへへ、いい匂いだね」


ゆり「...はやく進めなよ」


もこっち「う、うん...つっても日本語対応してないから翻訳しながらやらないとね」


ゆり「...」ジー


もこっち(...見られながらゲームやるのは初めてだ)


もこっち(なんかやりづらいな...まぁいいか)


ゆり「...私、この音楽好きかも」


もこっち「え、そう? 確かサウンドトラックが出てたような」


ゆり「そうなんだ」


濃密な時間が過ぎていく。

自分の動かしているゲーム画面が誰かに見られている。

その初めての感覚に、プレイ操作に支障を産ませていた。


ゆり「...あ、やられちゃった」


もこっち「...いや違くて、そもそもこのゲーム難易度が高すぎるんだよ」


ゆり「でも、一番最初のステージだよ?」


もこっち「くそぅ...」


ネモ「────お風呂上がったよー」


すると聞こえるネモの声。

いつぞやの修学旅行で見た、もこもこ系統の寝巻き。

そして彼女の髪はやや濡れており、いつもと違う雰囲気を醸す。


もこっち「...」ジー


ネモ「...なに?」


もこっち(...女子高生の風呂上がり姿ってこんなにエロいのか)


ゆり(...また馬鹿なこと考えてそう)


ネモ「あ、ゲームやってるの?」


もこっち「へへへ...一緒にやるか?」


ネモ「一緒にやりたいけど...なんでそんな変態みたいな息遣いしてるの?」


ネモ「あ、田村さんお風呂空いたからね」


ゆり「...もう少ししたら入る」


ネモ「そっか...よいしょっと」スッ


鼻に香る柔らかな匂い。

彼女も同じく、もこっちの隣に居座り始めたのであった。

同じシャンプーを使ったというのに、どうしてここまで差があるのか。


もこっち(...美少女サンドウィッチだな)


もこっち「ほら、コントローラー」スッ


ネモ「ありがとうー...で、これはどんなゲームなの?」


もこっち「これはだなぁ...作者が制作費の為に家を売った────」


~~~~


~~~~


ネモ「──うわぁっ!? だからこのゲーム難しすぎないっ!?」


もこっち「へたくそっ! そんなところで死んでどーすんだよ!」


ゆり「...」ジー


ネモ「だって! 突然あんな動きしてくるからさぁ!」


このゲームは2Dのアクションシューティング。

そして今対峙しているのは花の姿をしたボスである。

まだ序盤だというのに、このゲーム難易度に彼女らは白熱してしまう。


もこっち「あ、私も死んだ...」


ネモ「...難しすぎない? しかも日本語対応してないし」


もこっち「まぁな...でも、何度もリトライできるし妙にやり込んじまうな」


ネモ「あーわかるかも...ボス戦自体も難しいけどそんなに時間かからないっぽいしね」


もこっち「...よし、もっかいやんぞ」


ネモ「うん!」


ゆり「...」ジー


日常でいて非日常的、その奇妙な感覚が時間を加速させていく。

先程まで夕方だったというのに時刻はもう丑の刻、深夜1時に差し掛かる。

彼女らはまだ18歳前後、その若さ故の集中力がゲームへの情熱を冷まさない。


もこっち「...お、いけるか!?」


ネモ「2人ともライフがまだあるし、必殺技も使えるよ!」


もこっち「つかえつかえつかえ!」


ゆり「...」ジー


~~~~


~~~~


ネモ「あ、このボスかわいいね」


もこっち「...腰つきがエロいな」


ネモ「エロ...なにその男子中学生みたいな発想」


もこっち「うっせーよ、私は少しでもエロさを感じたらそれでいいんだよ」


ネモ「ふーん、だから私のスカート覗いてたりするの?」


もこっち「あぁ? それはお前が────」


──ふわっ...!

すると突然、鼻をくすぐられたかのような。

そして感じる重さ、その感覚の発生源は右肩。

電車で隣の座席に座っていた誰かがもたれ掛かったかのような。


ゆり「──すぅ...すぅ」


もこっち「うお...ゆりちゃん寝ちゃったか...」


ネモ「あらら...ってもう4時なんだ..そりゃ寝落ちしちゃうよね」


もこっち「...起こさないようにこのまま横にすんの手伝って」


ネモ「うん...よいしょっと」


もこっちの肩にもたれかかったゆりちゃん。

その乙女のような仕草を邪魔しないように、2人が協力する。

ゆっくりと、起こさないように彼女の身体を横にさせてあげる。


ゆり「すぅ...すぅ...」


もこっち「...あ、私とゆりちゃん風呂に入ってない」


ネモ「あーそういえばそうだったねー、一応お風呂の蓋はしておいたけど...」


もこっち「...あとで風呂を作り直すか、それよりどうする?」


ネモ「うーん、ゲームしてるとはしゃいで起こしちゃいそうだねー」


もこっち「つっても、全然眠くないしなぁ...ネモはまだ起きてるのか?」


ネモ「私も、眠くないや...というか寝るタイミングがずれると寝れないんだよねー」


もこっち「...私の部屋から漫画でも持ってくるか?」


ネモ「あ、そうしよう」スクッ


音を立てないように2人は立ち上がる。

廊下の電気もつけずに、携帯の明かりを頼りに歩む。

ギシギシと音がなる今宵の階段、1人で進むなら怖いモノがある。


ネモ「...えへへ」


もこっち「あん?」


ネモ「いやね、友達の家に泊まることはたまにあるけど...」


ネモ「ゲームとかマンガで盛り上がって、一晩中起きてたことっていままでないから...」


ネモ「...とっても楽しいよ」


もこっち「...」


寝ていない深夜のテンションだからだろうか。

そのネモの言葉は、あまりにも真っ直ぐなモノであった。

そんなストレートを受け取った彼女も、純粋な言葉を投げ返す。


もこっち「...私も、友達を泊まらせたことないから」


もこっち「まぁ...楽しいな」


ネモ「クロに会えなかったら、ずっとオタク趣味を隠してたかもなぁ~」


もこっち「いや、案外オタサーの姫にでもなってたかもな」


ネモ「えーそうかなー?」


──ガチャッ...

隣の部屋では弟が寝ている。

それを考慮してか、部屋に入る音はかなり静かであった。


ネモ「...日常系の漫画ってある?」


もこっち「私の趣味じゃないからな...ないかも」


ネモ「じゃあなんかオススメしてよ」


もこっち「...じゃあこれとかは?」スッ


ネモ「...うわ懐かしいねこれ、1年くらい前にアニメになってた奴だよね?」


もこっち「...そうだな」


ネモ「あんまり面白くなかったよねー」


もこっち「わかるわ、面白くないんだけど全巻揃えたんだよね」


ネモ「...でもクロがオススメしてくれたから読んでみるかな、あんまり内容覚えてないし」


もこっち「...」


やけに思い出深いその作品。

たいして面白くはない、しかしなぜか全巻揃えてしまっていた。

その出会いは誰にも打ちけることがない、それを彼女にオススメしていた。


ネモ「────あっ」


────カシャンッ!

まだ日は登っていない。

そんな夜更けの時間に1つの鋭い音。

漫画を取ろうとして、なにかを引っ掛けて落としてしまった。


ネモ「ご、ごめん!」


もこっち「気にすんな、なにが落ちた?」


ネモ「えぇっと...CDケースみたいだね」スッ


ネモ「...え?」ピクッ


もこっち「────あっ」


ヤンデレ男子言葉攻めCD。

そこにあったパッケージにはそう書いてあった。

この部屋には、友達に見せられないモノが多々ある。


ネモ「...ふーん、クロってこういうの好きなんだ」


もこっち「あ、あの...」


ネモ「...」ズイッ


もこっち「...ね、ねも?」


たまらない、まるで怯えた猫のようなその眼差し。

久しぶりに取れてしまったマウントは深夜の勢いも加担する。

耳元に吹き付けられたのは、淡い吐息。


ネモ「────ふーっ...」


もこっち「──うひゃいっ...!?」ピクッ


ネモ「...あはは、クロにしては可愛い反応するじゃん」


もこっち「...くぅ」


ネモ「あは...は...って、クロ?」


もこっち「うぅ...お前なぁ...」


ネモ「だ、大丈夫...?」


もこっち「マジで...耳弱いから...やめてくれぇ...」


ネモ「...」


ネモに働いたのはどの感情なのか。

スカートめくりをした時以来のこの表情。

ちょっとしたイタズラのつもりが、蠱惑を見る羽目になるとは。


ネモ「...クロって、不思議だよね」


もこっち「あん...?」


ネモ「んーん、なんでもない...戻ろっ?」


もこっち「あ、あぁ...」


~~~~


~~~~


もこっち「...」


ネモ「...」


────ぺらっ...

紙を捲る心地のいい音。

早朝の黒木家の居間にそれが響く。

朝特有の、やけに低い気温がたまらない。


ネモ「...あれ、次の巻どこ?」


もこっち「私が今読んでる...あと数分まって」


ネモ「しょうがないなー」


ゆり「すぅ...すぅ...」


もこっち「...」


────ぺらっ...

不思議な感覚、ここは他所様の家なのに。

まるで自分の家のように寛いでしまっている。

一体なぜなのか、それは彼女がすぐ側に居てくれるから。


ネモ「...やっぱり、クロって不思議だよね」


もこっち「...あ?」


ネモ「だって、2年間ぼっちだと思ってたら...いつのまにか沢山の人に囲まれてるじゃん」


もこっち「...まぁそうだな」


ネモ「田村さんはともかく、吉田さんや加藤さんや...あーちゃんと仲良くなるとは思わなかったよ」


もこっち「なんじゃそりゃ...」


ネモ「人生なにがあるかわからないなー、さっき見た映画みたいにね」


売れない歌手が教会と出会うことで。

黄金の結末を得ることができた、それが先程の映画。

奇縁とも言える出会いが人生を変える、それは彼女にも当てはまる。


ネモ「なんかねー最近不安なんだー...本当に声優になれるのかって」


もこっち「...」


ネモ「でも、クロを見てたらなんだか...不安が吹き飛ぶよ」


もこっち「...なんで?」


ネモ「...わかんない、なんでだろ」


────ぺらっ...

理屈など必要なのだろうか。

果たして答えなんて見つけたところで。

友情というモノは、そのような定規で当てはめるべきではない。


ゆり「...うぅ」


もこっち「あ、おはよう」


ゆり「...」ゴシゴシ


もこっち「...ゆりちゃん?」


ゆり「...おはよう、智子...根元さん」


ネモ「おはよう、もう6時だね」


もこっち「お風呂入り忘れたでしょ?」


ゆり「あっ...そうだね」


もこっち「作り直すから、朝風呂にする?」


ゆり「...うん、お願い」


~~~~


~~~~


もこっち「...さて、風呂ができるまでヤるか」


ネモ「おー、やろうか!」


ゆり「...もしかして、2人ともずっと起きてたの?」


ネモ「もちろん!」


もこっち「オタクの集中力を舐めないほうがいいよ」


ゆり「...う、うん」


ゲームを起動するとあの音楽が。

ゆりちゃんも好んでしまうこのジャズが目覚めを刺激する。

だが音を奏でるのは楽器だけではない、彼女らのお腹も。


もこっち「...腹減った」


ゆり「...わかる」


ネモ「鍋食べたの夕方だもんねー」


もこっち「...ちょっとコンビニいくか」


ネモ「賛成!」


ゆり「...その格好でいくの?」


ネモ「朝っぱらだし、大丈夫でしょ」


~~~~


~~~~


もこっち「おぉ...テンションあがるな...」


ネモ「...確かに、早朝ってあんまり出歩かないから新鮮味あるよね」


ゆり「...」


もこっち「まぁ、コンビニはすぐそこなんだけどな」


ゆり「...そういえば、智子のお母さんたちはいつ帰ってくるの?」


もこっち「昼ぐらいじゃない? ってヤベ...お母さんにゆりちゃんたちを泊めること言ってなかった」


ネモ「え...それ大丈夫なの?」


もこっち「...まぁ大丈夫だと思う」


ゆり「...昼前に、居間を片付けて家を出ればいいんじゃない?」


もこっち「...それもありだね」


ネモ「そうしよっか...田村さんたちがお風呂入って、あのゲームクリアして片付け始めればOKかな」


もこっち「そうしよう...って、コンビニついたぞ」


────ウィーン...

そして聞こえるのは、いらっしゃいませ。

早朝だというのにも関わらず営業をしている。

コンビニバイトは決してマネできないと刹那的に思うもこっちがそこいた。


もこっち(...大学入ったら、なんのバイトしようかな)


ネモ「田村さんは何買うの?」


ゆり「...ヨーグルト、朝はあんまり食べないから」


ネモ「あーいいね、私も真似しようかな...ヨーグルトとサラダにしよっと」


もこっち「結構食べるのな」


ネモ「うん、私は朝結構食べる派だから」


もこっち「...私はオニギリでいいや、それと────」


~~~~


~~~~


智貴「...」


──ピピピピッ!

煩わしいその音。

起きる時間を知らせる携帯のアラーム。

例え部活の為だとしても、休日の身体は中々起き上がろうとしない。


智貴「...だる」


────ガチャッ!

すると聞こえたのは玄関からの音。

思わず連想するのは、両親の帰宅。

だがそれにしては早すぎる、その好奇心が彼の身体を支える。


智貴「...誰だ?」ムクッ


自室の扉をあけ、階段を下る。

そうすることで答えを見つけることができた。

玄関の扉を開けた者たち、昨日とは真逆の立ち位置に。


ゆり「...おはよう」


ネモ「あ、おはよー...あとただいま?」


智貴「...おはようっす」


もこっち「悪い、起こした?」


智貴「...自分で起きたわ」


もこっち「...ほれ、コンビニで朝飯買ってきたぞ」スッ


智貴「...あ?」


その小さなビニール袋。

そこに入れられた数個のオニギリとお茶。

手作りでもないというのに、どこか暖かみが。


智貴「...って、全部塩むすびじゃねーかよ」


もこっち「うっせーな、それしか陳列してなかったんだよ!」


ネモ「あはは、朝のコンビニって商品棚ガラガラなんだねー」


ゆり「...ふっ」


────ピーッ!

その電子音、それはある合図。

先程もこっちがゆりちゃんの為にセットしたモノ。

聞こえるのは電子音の案内、お風呂が沸きましたというアナウンス。


もこっち「お、風呂できたな」


ゆり「...どっちが先に入る?」


もこっち「...一緒に入ろうか、なんて...へへへ」


ゆり「...いいよ?」


もこっち「...へ?」


ネモ「...え?」


冗談が通じないのが彼女の特徴。

だがそれだけではない、友情関係が進んだからこそ。


もこっち「...じゃ、じゃあ入ろうか」


ゆり「...うん」


ネモ「ちょ、ちょっと!?」


智貴「...」


ネモ「ずるいっ! 私も一緒に入る!」


智貴(...女って、そんなモンなのか?)


智貴(男じゃ考えられねーな...女ってやっぱわからねーわ)


もこっち「...おい、美少女3人が風呂に入るからって覗くなよ」


智貴「...死ね」


~~~~


~~~~


もこっち「...」


────しゅる...ぱさっ...

肌から衣類が離れる音。

同じ女だからこそ見ることが許されるその光景。


ゆり「...なに?」


もこっち「...へへへ、可愛い下着してるなって」


ゆり「...馬鹿」


ネモ「...そんなジロジロみないでよ」


もこっち「...ネモが声優になったら、これを見たがる声豚共が沢山居るんだろうな」


ネモ「...えい」スッ


もこっち「あたっ...叩くなよ!」


ゆり「...」ジー


もこっち「...ゆりちゃん?」


ゆり「...智子、細い」


ネモ「ねー細いよねー、いいなー」


もこっち「...悪かったな貧相で」


ネモ「そんなことないよね、細くて小さくて可愛いよ」


もこっち「え? かわいい?」


ゆり「...そうだね」


もこっち「...」


もこっち(全然実感ないけど、そう言われるとなんか照れるな...)


──しゅる...

そして最後の砦が放たれる。

風呂に入る以上はその姿にならなければならない。


もこっち「...」サワッ


ネモ「──うわああっ!? な、なにっ!?」


もこっち「さっきの仕返しだよ、もうちょいエロい反応しろよな」


ネモ「...クロっ!」スッ


もこっち「うわビンタしようとすんなっ! ゆりちゃん助けて!」


ゆり「...智子ってやっぱり馬鹿」


~~~~


~~~~


ネモ「...流石に3人一緒に浴槽は入れないね」


もこっち「2人が限界だな...私先にシャワーしてるから入っていいよ」


ゆり「...うん」


────ちゃぷっ...

肌にお湯が触れる音が響く。

体操座りを駆使することで2人は湯船に浸かれる。

修学旅行の時はお互いに意識を向けていない関係だというのに。


ネモ「そういえば初めてだなー、友達とお風呂に入るのって」


もこっち「修学旅行の時入っただろ」


ネモ「いやーそれはノーカウントだよー」


もこっち「...まぁでも、私も初めてだな」


ネモ「なんか、女の子同士でもちょっと恥ずかしいね」


ゆり「...じゃあなんで入ったの?」


ネモ「うーん、アニメでこういう場面見ない?」


ゆり「...アニメ見ないからわからない」


もこっち「ゆりちゃん、ネモはオタクだから許してやってあげて」


もこっち「ネモはすぐにアニメのマネごとしたがるんだよ」


ネモ「むっ...」スッ


────さわっ...

あの長い髪を洗っている、当然無防備。

すると感じた異質感、それは彼女が苦手とするあの部分に。


もこっち「──おあああああああっ!?」


ゆり「うわ、なに?」


ネモ「田村さん、クロは耳が弱いらしんだよ」


もこっち「おま...耳はやめろって!」


ゆり「...そうなんだ」


ネモ「クロにセクハラされたら、仕返ししてやるといいよ」


ゆり「...考えておく」


~~~~


~~~~


智貴「...」


お腹には少しばかりの圧迫感。

そして格好は学校指定のジャージへと。

このまま玄関で靴を履き、通学路へと向かおうとした。


智貴「...」


耳をすませばなにかが聞こえる。

家では聞くことができない、彼女の楽しげな声。

友人たちの声に阻まれる姉の声が、未曾有で仕方ない。


智貴(...朝から元気だな、姉の友達たち)


智貴(アイツも、楽しそうじゃねーか)


智貴「...」


もや、彼の心に1つの靄が。

表現できないそれはどうすることもできない。

だがそれを晴らすことができる、それは彼女に関わること。


智貴「...」


智貴「...おい、俺は行ってくるからな」


それは洗面所の扉を開けずに。

少しだけ声を張ることで中にいる彼女らに伝える。

それが彼にできる、素直じゃない弟にできる精一杯であった。


~~~~


~~~~


もこっち「お、おう...いってらっしゃい」


ネモ「いってらっしゃーい、部活頑張ってねー!」


ゆり「...」


ネモ「...あれ、田村さん照れてるの?」


ゆり「...年下の男子相手にどう話していいかわからないから」


ネモ「クロの弟なんだから、そんな気にしなくてもいつもどおりでいいんじゃない?」


ゆり「...そうかな」


ネモ「そうだよね、って...クロ?」


もこっち「...」


風呂場の中から返事をした。

勢いにまかせて思わず返事をしてみたが。

今まで彼からあのような言葉を投げかけられたことは。


もこっち「...」


ゆり「...どうしたの?」


もこっち「...いや、なんでもないよ」


ネモ「そういえば、クロは弟くんのことをどう呼んでるの?」


もこっち「あん? えーと...」


暴言にも近い呼び名は多々ある。

だけどいつからだろうか、あの呼び名を忘れたのは。

昔、お姉ちゃんと呼ばれていたあの時は彼のことを。


もこっち「...智くんだよ」


~~~~


~~~~


ネモ「いやー、長風呂しちゃったね」


ゆり「そうだね...」


もこっち「牛乳でも飲むか?」


ネモ「いいの? 頂きます!」


ゆり「...ありがとう」


もこっち「...これ飲んだら、先にゲーム機以外片付けようか」


ネモ「そうだね、って...さっきまで読んでた漫画まだ読み終わってないや」


もこっち「それなら貸してやるよ」


ネモ「本当? あれってあんまり面白くないけど、妙な中毒性あるから助かるよ」


もこっち「だろ?」


ゆり「...智子、さっきまでやってたゲームなんだけど」


もこっち「うん?」


ゆり「ゲームの音楽...やけに耳に残ってるからサウンドトラックを買いたいんだけど...」


もこっち「あー、それなら確か...」


~~~~


~~~~


ネモ「...よし、片付け終わったかな?」


もこっち「そうだな、それじゃヤるか...」スッ


ゲームを起動すると先程までのデータが。

タイトル画面にはそのデータの進行度が記されている。

それは残り数パーセント、あと少しでゴールにたどり着くことができる。


ネモ「あとどのぐらいかな」


もこっち「あとボス3回倒したら、ラスボスじゃない?」


ネモ「長かったねー」


もこっち「この手のゲームは誰かと一緒にやるに限る...じゃないと心が折れやすいわ」


ゆり「...」


もこっち「ゆりちゃん、サントラ買えた?」


ゆり「うん、買えたよ...ありがとう」


ネモ「そういえば田村さんって、いつもどんな音楽聞いてるの?」


ゆり「え? えっと...色々かな...気に入った曲ならジャンル問わずに買ってるから...」


ネモ「そうなんだ、それじゃ今度私のオススメを教えてあげるねー」


────パキンッ!

それはテレビから聞こえた。

まるで陶器が割れたかのような音。


ネモ「...あ」


もこっち「...おいっ! なに死んでるんだよっ!」


ネモ「ごめんごめん! クロ、あとは頑張って!」


ゆり「...ふっ」


~~~~


~~~~


ネモ「あとちょいあとちょい...あとちょい!」


もこっち「馬鹿、こっからが鬼門だっての!」


ネモ「あーこんなことなら必殺技温存しておけばよかった!」


ゆり「...」ジー


いよいよ終盤、ゲームの最後がそこに。

最後のボスは悪魔、それを退治するべく2人が奮闘する。


ネモ「うわっ!? あぶないっ!?」


もこっち「やべっ! まだ形態残ってるのにHPが1になっちまったじゃねーか!」


ネモ「知らないよっ! 私だって残り1だよっ!」


もこっち「...お、泣いた! 泣いた形態がラストだぞ!」


ネモ「行けそう!? 勝てそう!? もうリトライは嫌だよ!?」


ゆり「...」ジー


まるで自らが悪魔を倒そうとしているような。

オタク特有の卓越した集中力が、臨場感を醸し出す。

あと少し、もうこのラスボスだけで何十回も再挑戦し続けてきた。


ネモ「──うわああああ、ごめん死んじゃった!」


もこっち「ヤバイヤバイ、私ももう限界かも...っ!」


ゆり「...あ! 必殺技使えるんじゃない?」


もこっち「──マジで!?」


正直見ている余裕などない。

第三者の目を持って、ようやく必殺技のゲージを認識できた。

彼女のアドバイスを耳に入れると、すぐさまにコントローラーを激しく動かした。










────A KNOCKOUT!










もこっち「...お」


ノックアウト、それがこのゲームの撃破音。

手に汗握るのは2人だけではない、見ている彼女も同じだ。


ネモ「──やった! やったやったやった!」


ゆり「...やったね」


もこっち「...あああぁぁぁっ...終わった...」


もこっち「ありがとうゆりちゃん、教えてくれなかったらまた負けてたかも」


ゆり「どういたしまして...」


ネモ「あー...終わったぁ...一気に肩の荷が降りたよー...」


────ごろんっ

そのような可愛らしい音を立てた。

彼女はまるで自分の家のようにくつろぎ始めた。

だがそれは必然、彼女は一睡もせずにいたのだから。


ネモ「すぅ...すぅ...」


もこっち「...え、ネモのヤツ寝た?」


ゆり「...寝ちゃってるね」


もこっち「速えーな...って...は、れ...?」カクンッ


集中力が途切れたのは彼女も同じ。

目元の隈は伊達ではない、悪魔には勝てた。

しかし、果たして睡魔という存在に抗えるだろうか。


もこっち「──すぅ...すぅ...」


ゆり「...智子も寝ちゃった」


ゆり「...ふわぁ...私も、眠く────」


なにか忘れているような。

だがどうでもいい、彼女はただ友達の側にいるだけで。

ゲームを見ていただけで、その補助ができればそれだけで。


~~~~


~~~~


???「...ふぅ、ただいま」


玄関には2人組の男女が。

時刻は昼過ぎ、彼らはようやく帰ってこれた。

しかし早々に感じる違和感、見間違えでなければ。


母「あら、靴がいっぱい」


父「...智貴の友達か?」


母「いや、あの子は今日朝練があるって...それに女物の靴だし」


予定通り両親は帰宅していた。

この靴の持ち主を探るため、母は居間へと向かう。

その光景とは、今まで碌に交友関係を知らせてこなかったこの子が。


父「...智子の友達か」


母「泊まったのかしら、連絡は来てないわね」


父「...随分と幸せそうに眠ってるな」


母「もう...お父さん、年頃の女子たちの寝顔なんて見ちゃだめよ」


父「それもそうか...先に荷物整理しているよ」


母「...ふふ、あとで智子に送ってあげよっと」スッ


────カシャッ...

3人の被写体がカメラに映される。

その姿はなんとも言えない微笑ましさが。

傍から見れば気の合いそうにないこの3人が肩を寄せ合って。











「くかぁー...」


「すぅ...すぅ...」


「ぅ...むにゃ...」



















~~おわり~~











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うちもこ派です。
下記は過去作です。

隊長「魔王討伐?」
隊長「魔王討伐?」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1542544023/)

女看守「閉じ込められた」
女看守「閉じ込められた」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1546699817/)


その割にはうっちーの気配の欠片も無かったな


うっちー多分最初のスーパーにいたはず

超乙
キャラ名称は智子でいんじゃねーのとかくだらないこと思った

すげー良かったけどフォローされたいなら渋の方がいいんでは?いや嫌味じゃなくて

加藤さんがいないのは残念


もこっちが遊んでいたのはXboxのCupheadかな?

>>56
うっちーは好きですけど原作遵守とキャラ崩壊のバランスが難しいので、私には動かせませんでした。

>>57
たぶん早朝のコンビニにも居たかもしれません。

>>58
もうしばらく気軽にやれるここでやろうと思います、皆様お付き合いください。

>>59
加藤さんがいらっしゃると、いい子なゆりちゃんを描写できない気がするので今回は見送りました。

>>60
その通りです。

前にスクランの書いてなかった?
読んだ覚えのある文体なんだけど

>>62
すみません、人違いです。
過去作は上記の2つだけなんです。

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