――おしゃれなカフェテラス――
高森藍子「――あっ、店員さん。ありがとうございます♪」
北条加蓮「ありがとねー。……そういえば、パフェなんて食べるの久しぶりかも」
藍子「いただきます」
加蓮「いただきまーす」
藍子「……、」モグモグ
加蓮「……、」モグモグ
加蓮(……んー……)
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レンアイカフェテラスシリーズ第71話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「隣り合う日のカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「膝の上で ごかいめ」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「爽やかなカフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「写真日和のカフェテラスで」
藍子「……、」モグモグ
加蓮「……、」モグモグ
藍子「……」チラ
加蓮「…………」
加蓮「……美味しい?」
藍子「あ、はい。美味しいですねっ」
加蓮「だねー」
藍子「……」
加蓮「……」
加蓮(これって、前にも言ったことだけどさ……)
加蓮(私と藍子は、いつも喋ってるって訳じゃない)
加蓮(たまにこうして、ほとんど言葉も交わさないでいることがあるの)
加蓮(それは喧嘩したとか、気まずいとか、そういうことじゃなくて――いや、そういう時だってあるけどさ……)
加蓮(とにかくっ。普段はそうじゃなくて。そうしたい時、っていうのかな……)
藍子「あ……」
加蓮「?」
藍子「忘れてたっ。写真、撮っておきたかったのに……」
加蓮「あー……。食べてる途中のを撮るのはちょっとね……。でも珍しいね。このカフェで藍子が写真撮ってるとこ、そんなに見ないよ?」
藍子「いつもはそうですね。でも、ちょっと前に、未央ちゃんにお願いされちゃって。カフェの写真を見てみたい、って」
加蓮「ふーん」
藍子「それを今思い出しちゃったんです。未央ちゃんへの写真は……また、別の機会にしておきますね」
加蓮「それがいいかもね。カフェの写真はいいけど、私を無断で撮るのはやめてよ?」
藍子「そ、そんな悪いことしているみたいに言わないでくださいよ~」
加蓮「写真と食べ物の時の藍子は隙もゆるふわもないから。こうして釘を刺しておかなきゃ」
藍子「…………そ、それより加蓮ちゃんもいっぱい食べましょ?」
加蓮「逃げた」
藍子「甘さ控えめで、口どけもすっきりで。ほら、まるで加蓮ちゃんのためにあるようなパフェですよ~」
加蓮「前からずっとある定番メニューでしょうがこれ……」
藍子「あはは……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」モグモグ
藍子「……」モグモグ
加蓮(思いついたように、ちょっと喋っては、話が途切れて……)
加蓮(続けようと思えば続けれるけど、続けたくなくなるんだよね)
加蓮(私と藍子の、"静かにしていたい時モード"って感じ?)
加蓮(そうやって、一緒の時間を過ごしてるんだなぁ……って、浸ったり。それとも、藍子のほけーっとした顔を見てたり)
加蓮(あははっ。そんな感じかな? とにかく、なんとなく喋りたくない時ってあるよね。みんなも。そういう時ってないかな?)
加蓮「……あ、でもさ」
藍子「?」
加蓮「味、ちょっと変わった気はする……」
加蓮「ううん、食感? 前より食べやすくなってる気はするよね」
藍子「言われてみれば……。前よりふんわりしましたよね。例えば、この生クリームとかっ」
加蓮「分かる。あとスコーンも。超さくっとしてない?」
藍子「超さくっと――」
加蓮「あれっ。カフェマスター藍子ちゃん的には気に食わない言い方だったかな?」
藍子「ふふ、そんなことありませんよ。加蓮ちゃんらしいなぁって……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」モグモグ
藍子「……♪」モグモグ
加蓮(今日は、たぶんそういうモードの日なんだって思う。そして藍子も、それには気付いてる筈)
加蓮(不思議なんだよね。私が静かにしていたい時モードだったら、藍子もそうなることが多くて)
加蓮(ずっと前に、じゃあ今日は全然話さないで一緒にいない? なんて、提案してみたこともあったっけ)
加蓮(とにかく、これも……そう、私達の日常。いつもの風景の1つなの。ちょっとレアだけどね♪)
加蓮(……)
加蓮(……なんだけど、ね)
加蓮「あ、もうパフェなくなってきちゃった……。そんなに量少なかったっけ? これ」
加蓮「藍子の方は……。うん。まだまだあるよね。藍子だし」
藍子「私だから、ってどういうことですか~」
加蓮「分かってる癖に。んー、でもこんなに少なかったっけ? このパフェ」
藍子「もしかしたら、本当に減っちゃったのかもしれませんね」
藍子「最近、同じお菓子でも、量がちょっぴり減っちゃってたり――」
加蓮「あるある。クッキーが気付いたら何枚かなくなってたり、ポテチの数が少なくなってたり!」
藍子「いろいろなものが高くなっている、って、お母さんがちょっぴり不機嫌そうに言ってましたっ」
加蓮「みたいだねー。ほら、前にさ――」
藍子「前に?」
加蓮「……、あははっ」
藍子「……あははっ」
加蓮「……」モグモグ
藍子「……」モグモグ
加蓮(なんだろ。この……微妙な気まずさ?)
加蓮(ううん。気まずくはないの。私も藍子も、ケンカもしてないし、不機嫌にもなってない)
加蓮(分かんないな……。分かんないけど……とにかく、違和感みたいな何かがずっとあって、それがなんだか気持ち悪い)
加蓮(ご飯の中に、すごく短い髪の毛が1本だけ入っちゃって、頑張っても取り出せないでいる時のような)
加蓮(ううん、そこまでじゃないかな? じゃあ……。いいたとえが思いつかないや)
加蓮(なんだろね。この気持ち悪さ)
加蓮「……前にさー」
藍子「あ、結局お話するんですね」
加蓮「私の分のパフェ、もうなくなっちゃってヒマになっちゃうし」
加蓮「あっ。別にー? 藍子ちゃんが美味しそうにパフェを頬張るとこ、ずっと見ててもいいけどー?」
藍子「お話しましょう! わっ、わたし加蓮ちゃんのおはなしすっごくきになるな~」
加蓮「はい棒読み」
藍子「うぅ」
加蓮「んー……。何? ホントは気にならないけど仕方ないから聞いてやろうって? 藍子の癖に偉そうな」
藍子「え? ……あ、えっ、そうじゃないですっ。そういうつもりじゃないです!」
加蓮「ま、でもここはカフェだもんね。カフェでの藍子が誰よりも一番偉いのは仕方ないっか。あっ、敬語とか使ってみた方がいいですか藍子さん」
藍子「だから違――あっ。えっ、店員さん? どうして――ってどうして深々と私にお辞儀するんですか!?」
加蓮「うくっ……。だ、だって藍子さんの方が偉い人なんだし?」
藍子「違うんです! 加蓮ちゃんの方こそわかってるくせに~~~!」
藍子「もうっ、加蓮ちゃん! ちゃんと説明してくださいよ!」
加蓮「あははははははっ!! 店員さん、コーヒーありがとー」
藍子「あの、あれは加蓮ちゃんの冗談で……。うぅ、笑っていないで説明……」
加蓮「うわ、見るからにすっごく苦そうっ。さっすが店員さん。分かってるー」
藍子「……もうっ」
藍子「それ、いつ注文していたんですか?」
加蓮「さっき藍子ちゃんが美味しそーにパフェ頬張ってた時。って、それなら藍子の分も注文した方がよかったかもね」
藍子「それなら……せっかくですから、私も加蓮ちゃんと同じ、コーヒーお願いしますっ……あっ、でもそんなに苦くなくて大丈夫です」
加蓮「お願いねー」
藍子「……うぅ。またすごく深々とお辞儀されました」
加蓮「ベストタイミングだったね」
藍子「バッドタイミングですよ……。もしかして、そこまで狙って?」
加蓮「タイミング? うん、なんとなくね。ここまでジャストで来るとは思わなかったけど」
藍子「いつの間にそこまで計算していたんですか……」
加蓮「藍子ちゃんがパフェを美味しそーに頬張ってた時?」
藍子「今度からは、食べている時も加蓮ちゃんをじっくり見なきゃっ」
加蓮「それは私が照れるからやめよ?」
藍子「悪さをする加蓮ちゃんなんて、照れさせちゃいますっ」
加蓮「ふうん。まぁ頑張れば?」
藍子「……絶対ですから」
加蓮「あはは、怖い怖い♪」
藍子「……」モグモグ
加蓮「……」ズズ
加蓮(うんうん。コーヒー美味しいなぁ。美味しいっていうより、大人の味と香りがする……♪)
加蓮(静かなカフェ。私はコーヒーを啜りながら、藍子の顔を見て)
加蓮(藍子は、ゆっくりとパフェを食べて、たまにもったいなさそうに口の中でもぐもぐさせたり……)
加蓮(そうやって、時間は流れていく)
加蓮(……)
加蓮(……やっぱり、ちょっと気持ち悪い)
加蓮(例えば、汗びっしょりなのにお風呂にもシャワーにも入れない時みたいな――)
加蓮(……それもちょっと違うなぁ)
加蓮「藍子さ、」藍子「加蓮ちゃんって、」
加蓮「あ……」
藍子「……あははっ」
加蓮「いいよ。何? 藍子」
藍子「加蓮ちゃんこそ。先に言っていいですよ?」
加蓮「私のは大したことじゃないもん。藍子の話の後でいいよ」
藍子「私のお話こそ、そんなに今話さなくてもいいことだから……。加蓮ちゃん、お先にどうぞっ」
加蓮「……藍子が先でいいってば」
藍子「加蓮ちゃんが先でいいですって」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」ズズ
藍子「……」モグモグ...
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……私に押し付けたいだけでしょ。私の方が先に言ったってことにしたくて」
藍子「……それは加蓮ちゃんだって同じですよね」
加蓮「私は別に……。気にしないし。どっちが先とか。っていうか喋っても喋らなくても、そんなのホントはどーでもよくない?」
藍子「私だってそうです。学校の授業中や、ドラマの撮影中ではないんですから。お話して、怒る人なんていないんですよ?」
加蓮「いないだろうけど、藍子は後ろめたいだけでしょ」
藍子「それこそ加蓮ちゃんの方ですっ」
加蓮「藍子の方でしょ!」
藍子「加蓮ちゃんの方っ!」
加蓮「そーやって自分の気持ちから逃げる人、見れば分かるんだよ?」
藍子「…………」
加蓮「……黙ってないでなんとか言いなさいよ」
藍子「…………」
加蓮「自分が先に喋ったってことにしたくないんでしょ。ルール破ったの、私ってことにしたいんでしょ。
そうやって優等生になりたいタイプだもんね。藍子って」
藍子「…………」
加蓮「……、いーよ。それなら私も、藍子が何か言うまで何も言わないから!」
藍子「…………」
加蓮「…………」
加蓮「…………」
加蓮「…………っ」
加蓮「……」
加蓮「……藍子」
藍子「……!」
加蓮「意地張ってごめんっ、だから――」
藍子「私っ、私の方こそちょっと意地っ張りになってしまいましたっ、加蓮ちゃん、泣かないで――!」
加蓮「ハァ!? 泣いてなんてないし……」
藍子「でもっ、」
加蓮「でもほら、ほら、さ。えーっと……。ほ、ほら、店員がそろそろ藍子のコーヒー持ってきそうだし私ちょっとトイレっ!」
藍子「そうですねっ、そうした方がいいと思いますっ。店員さんには、私から――ってもう行っちゃった……」
<すたすた
――カフェ店内のお手洗い――
加蓮(……馬鹿みたい)グシグシ
加蓮(雰囲気も、暗黙のルールも、楽しむためにあるのに……。無駄に意地を張っちゃって、こんなことになって)
加蓮(何やってんだろ、私……)
加蓮「はー……」
<ブブブ
加蓮「ん……」チラ
『さっきは、ごめんなさい』
『戻ってきたら、いっぱいお話しましょ』
『加蓮ちゃん、泣かないで』
加蓮「……、」
加蓮「あははっ。ばーかっ!」
加蓮「そんなの送らなくてもすぐ戻るのに。言わなくても喋りたいこと山ほどあるし、泣かせたのってそもそもアンタ――」
加蓮「って違う違う。泣いてない。泣いてないんだから」
加蓮「……」
加蓮「……目、赤くなってないよね?」
加蓮「もうちょっとだけ顔洗ってから戻ろ……」
――おしゃれなカフェテラス――
加蓮「ただいまー」
藍子「……よかった。ごほんっ♪ おかえりなさい、加蓮ちゃんっ!」
加蓮「ちょっとお手洗いに行っただけなのに、変なメッセージが届いてて大変だったよー」
藍子「へ、変なメッセージ……」
加蓮「返信するかどうかすっごく悩んじゃうヤツ。藍子にもそういうの来たりしない? これ返した方がいいのかなってなるヤツ」
藍子「ど、どうでしょうね~……」
加蓮「しかもそのメッセってホントに変なんだよ? 別に泣いてもないのに、泣かないでーとか書いてて――」
藍子「それやっぱり私のメッセージのことですよね!? いっ……いいじゃないですか! 加蓮ちゃんのことしんぱいだったもんっ!」
加蓮「うっさいわね! 泣いてないって言ってるし心配されること何もしてないけど!?」
藍子「あんな顔っ――」
藍子「あんな、顔されて……。心配するなっていう方が、無理なお話ですよ……!」
加蓮「……」
藍子「……、」
加蓮「……ま、それもそっか……」
加蓮「ごめんね。心配させちゃって」
藍子「私の方こそ、変に意地を張ってしまって、加蓮ちゃんを不安にさせて――」
加蓮「いやだから不安なんてなってないんだってば」
藍子「だっ、だから、あんな顔をしておいてそれは無理があります!」
加蓮「アンタさっきから私のことばっかり言うけどアンタこそどうなのよ! いつもの泣く5秒前みたいな顔して!」
藍子「してません!」
加蓮「してた!」
藍子「加蓮ちゃんのは誤魔化しているかもしれませんけど私は本当にしていませんっ」
加蓮「してた!!」
藍子「してませんっ! 加蓮ちゃん、わかってて言ってるでしょ!」
加蓮「してたの!」
藍子「もうっ……。意地っ張り!」
加蓮「はいはいそうだね意地っ張りだねー。藍子ちゃんの方が私より1000倍くらい意地っ張りだけどね!」
藍子「私も意地っ張りになっちゃったかもしれませんけど加蓮ちゃんの方がずっとずっと意地っ張りですっ!」
加蓮「はー!? 藍子の方が私より――」
<お待たせしまし――
加蓮「ずっ、と……」
藍子「加蓮ちゃんの方、が……」
<……
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……こ、コーヒー、こっち」
藍子「ありがとう、ござい……ま……」
<…………
加蓮「行っちゃった……」
藍子「私たち、何を言い争っていました、っけ……?」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……コーヒー……飲んで、大人の気分になっとく?」
藍子「そうしましょう……。それと、後で一緒に謝っておきましょう……」
加蓮「うん……」ズズ
藍子「あうぅ……」ズズ
□ ■ □ ■ □
加蓮(さて)
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮(コーヒーを飲み終えて、私たちは)
加蓮(迷惑をかけたこと以上に、さっきまでの言い争いが、その……相当、なんというか……アレだったことに気がついて、すごく恥ずかしくなって)
加蓮(すぐに店員さんに謝りにいった。幸い、苦笑いで許してくれたけど)
加蓮(……あと私には微妙に視線がキツかった。はいはいどうせ私が悪者ですよ)
加蓮(それからまたテラス席に戻ってきて)
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮(こうなった)
加蓮(相変わらず、どこか嫌な感じ。例えば、学校の授業中チョークの音がすごく気になってるけど、みんな真剣だから指摘できない時みたいな……)
加蓮(……それも違うなぁ。ホント何なんだろ。これ)
加蓮「……この前さー」
藍子「?」
加蓮「学校の、ほら、授業」
藍子「学校の授業――」
加蓮「先生のチョークの音ってあるじゃん。あれがすごく気持ち悪くて……」
加蓮「なんかクラスの雰囲気が真面目だし、指摘できる感じでもなくてさ」
藍子「あ~……。ありますよね、そういう時」
加蓮「だから仮病使って逃げちゃった」
藍子「……何してるんですか」
加蓮「実際ちょっと体調悪かったからいいの。そのまま悪化するよりいいでしょ?」
藍子「それはそうですね……。あ、もしかして、体調が悪かったから、チョークの音が気になったのかも?」
加蓮「そなの?」
藍子「そういうことってありませんか? 具合が悪かったら、いつもやっているなんでもないことが、急にしんどくなってしまったり……っていうこと」
加蓮「あ、分かるかも……。藍子、詳しいね」
藍子「加蓮ちゃんとお話するようになって、そういうのを調べてみたり、思い出して、チェックしておいたりしてますからっ」
加蓮「何それー。私がいつ体調を崩してもいいようにってこと?」
藍子「そうですね……」
加蓮「何それー! そんないつでもどこでも吐いたりしないわよっ」
藍子「……え? 吐いたことがあるんですか?」
加蓮「…………それはホントのホントに限界を迎えた時だよ。最近はなかったから」
藍子「またそんな心配になることを……。今は、大丈夫なんですよね」
加蓮「大丈夫大丈夫っ。最近は、ホントに無理することがなくなったし……」
藍子「加蓮ちゃん……?」
加蓮「ん……。なんだろ」
加蓮「…………」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮(お喋りはここまで、って、心の何処かで私が言った)
加蓮(だから、ここからはまた、静かにしていたい時――)
加蓮(嫌だ、って、心の奥底で私が言った)
加蓮(そもそも静かにしていたい時モードなんて勝手に決めたのは私。藍子だって、同じ気持ちだとしても、私に強制なんてしない)
加蓮(だったら、それを辞めちゃうのも、私なんだよね)
加蓮(……あぁ、そっか。わかった)
加蓮(これ、気持ち悪いんじゃないんだ)
加蓮(私が、そうしたくない、って思ってたんだよね)
加蓮「ちょっと前に撮影の仕事があったの。その内容が、すごくってさ……」
藍子「少し前……。あっ、もしかして?」
加蓮「そう。そのもしかして。ラグジュアリー系の大人っぽいドレスを渡してもらって。ラピスラズリの宝石をモチーフにした、撮影のお仕事」
加蓮「ふふっ。藍子も見てくれたんだ」
藍子「はい、見ましたよ。撮影の現場に行くことはできなかったから、完成品をですけれど……」
加蓮「ふふっ……そっか」
藍子「……あ。今、来なくてよかった、なんて思いませんでしたか?」
加蓮「えー? 気のせい気のせい」
藍子「じ~……」
藍子「……絶対気のせいじゃありませんよね?」
加蓮「藍子は手強いなぁ。ホント隠せないし」
加蓮「悪い意味でじゃないよ。藍子の顔なんて見たら、私の顔に戻っちゃうもん。アイドルとして着飾った私から、いつもの私に」
藍子「……」
加蓮「特にあの時は、自分でも分かるくらい、いつもと全然違う私だったから……」
加蓮「ねっ? ほら、オフモードの加蓮ちゃんを独占できると思って。それで許してっ?」
藍子「……、それなら、本当に独占しちゃいますよ?」
加蓮「……?」
藍子「……」
加蓮「……?? ま、まあとにかく。お仕事があったの」
藍子「そ、そうですね。お仕事があったんですよねっ」
加蓮「うんうん。でさ、さっきから言ってるけどかなり大人モードっていうか、もうムードとかシチュエーションとかすごくて」
加蓮「……」
加蓮「……あとから思い返してみたら私モバP(以下「P」)さんに何言ったんだろ。結構なこと言っちゃったかも――」
藍子「あとで、私からPさんに確認しておきましょうか?」
加蓮「それはヤダ! なんかっ……他の誰かに聞かせたらマズイ気がする!」
藍子「む……。私でも?」
加蓮「藍子とか関係なく! ってことでこれは許してっ。ねっ! 今度埋め合わせるから!」
藍子「……じゃあ……それを楽しみにしてますからねっ」
加蓮「ほっ……」
加蓮「えっと……。それで、仕事はまぁ、私なりにちゃんとできたかな? って感じでさー」
藍子「……あれで"ちゃんとできた"ってくらいの評価なんですね」
加蓮「そう?」
藍子「私なんて、初めて完成品を見た時、魅入っちゃいましたもん……。ずっと目が離せなくて、いつまでも見ていられて……」
藍子「近くにいたPさんが揺さぶってくれて、初めて時間が経っていたことに気が付いたくらいですっ」
加蓮「そ、そぉ……。……ふふっ? また自信なくしちゃったー?」
藍子「からかわないでください~っ」
加蓮「あははっ」
加蓮「……演じれば、本当にそうなるかもしれない、って言って、藍子は分かる?」
藍子「なんとなく……ですけれど」
藍子「周りのみんなを幸せにする役割を担えば、本当に自分が天使になれた気分になって」
藍子「周りのみんなを見守る役を頂ければ、もっとみなさんのことが気になり始めて――」
加蓮「そっか。実際この前やったばっかりだもんね」
藍子「はいっ♪ ……か、加蓮ちゃんと比べると、ずいぶん子どもっぽい役になっちゃいましたけれど。今思い出すとなんだか恥ずかしいかも……」
加蓮「そこは比べることじゃないでしょ。それに、あれだって藍子らしくなってたと思うよ?」
藍子「そう言ってもらえると、よかったです」
加蓮「うん」
藍子「加蓮ちゃんは……なにを、演じたんですか?」
加蓮「……大人な私。完成されたアイドルの私。Pさんの隣に立っても大丈夫なように。完全に対等な立場でいられる、宝石のようなアイドル」
藍子「……」
加蓮「子供な自分を卑下する気はないよ。……いやさすがにさっきは騒ぎすぎちゃったんだけどさ。あはは……」
藍子「……あはは」
加蓮「あの時の私は確かに大人になってた。……ううん、なろうとして背伸びをしてた。最初は、そうだったよ」
加蓮「それでも、撮影中の私は本物だったの。きっとね。本物の宝石みたいに、煌めき耀いていた」
加蓮「……」
加蓮「……と、思うよ」
藍子「そこで不安にならなくても……。大丈夫。あの時の加蓮ちゃんは、誰よりも強く煌めいていたハズですから」
加蓮「あはは……。そしたらさ、今までこう……今までの私って、無茶しすぎたなーって気持ちになって」
加蓮「いつか吐くまでレッスンし続けてたことがあった。凛や奈緒に追いつけるように。Pさんのアイドルになれるように」
加蓮「それもそれで、1つの思い出だけど……」
加蓮「もう、そんな無理をするのは違うよね。宝石だって削るところを削ってより強く輝くけど、いらないところを全部削ぎ落としたりなんてしないもん」
藍子「加蓮ちゃん……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……ねぇ。何その"お前今頃そんなことに気付いたのかよ!"って顔!!」
藍子「ぎくっ。……そそそそそんなこと思ってませんよ~~~??」
加蓮「だからもうほんのちょっとくらい誤魔化すフリをしなさい! もうっ……!」
藍子「ご、ごめんなさい。でも、加蓮ちゃんを変に思っていた訳じゃなくてっ……」
加蓮「分かってるわよ。それに、今さらそんなことに気付いたんだ、って、自分に呆れてるのも一緒」
加蓮「あーあ……」
加蓮「ふふっ。なんだかすっきりしたっ。ん~~~~~」ノビ
藍子「……あはっ♪」
加蓮「今度は着せたいなー。キラキラのドレス。これ以上磨くところなんてないくらいに美しい宝石」
加蓮「また着せてもらいたい気持ちはあるけど、今度は別の子に……ねぇ?」
藍子「え~っと……ど、どうして私を見るんでしょうか?」
加蓮「さあ? どうしてだと思う?」
藍子「どうしてでしょうね~……」
加蓮「あ、そうだ。ねえ藍子」
藍子「ねえ加蓮ちゃん。まずはそのスマートフォンを置いてからお話しましょ?」
加蓮「今度はさ、逆のことしてみない? 私は思いっきり子どもの役になりきって、こう……走り回るの! そして藍子は――」
藍子「だからまずそれを置いてからにしましょう! あっ、Pさんに連絡しようとしないでっ! 加蓮ちゃんっ、最近いつもPさんとお仕事のお話してるから絶対実現しちゃいますよねそれ!」
加蓮「藍子はやっぱり緑系が映えそうだし、ってことはエメラルドかな。あ、でも宝石言葉ってあるしちゃんと調べてからにしないと、」
藍子「待ってっ、本当に待ってっ!」
加蓮「えー。なんで」
藍子「なんで、って……」
加蓮「なんで?」
藍子「……ええと……」
加蓮「あ、もしもしPさん? 今藍子といるとこー。あのさ、いい企画を思いついたんだけど、」
藍子「ごめんなさいお電話間違えました! また電話しますねPさんっ!!」ピッ
加蓮「うわぉ」
藍子「って、きゃあっ!?」(勢い余ってつんのめる)
加蓮「ちょっこらっ!」(どうにか抱きかかえる)
藍子「…………」
加蓮「…………」
藍子「……………………」
加蓮「……………………」
藍子「……えと」
加蓮「落ち着いた?」
藍子「はぃ」
加蓮「ん」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……いや、離れよう?」
藍子「あ、え」
藍子「……」
藍子「……」ギュー
加蓮「……なんでしがみついてくるの?」
藍子「あっ……あ、あはは。急に、こうしたくなっちゃって……?」
加蓮「はあ。まあいいけど。満足したら離れてよ?」
藍子「……はいっ♪」ギュー
加蓮「腕の力、強くなってるし……もう」
藍子「♪」
加蓮「……」
加蓮(――確かに、静かにしていたい時モードだってあるかもしれない。でも今日の私は、それが嫌だった)
加蓮(一緒の時間を感じるだけじゃ、足りなくて……もっと、藍子と喋っていたかった。笑ったり、困らせたり、……悲しませるのは、さすがに、だけど)
加蓮(でも、藍子のいろんな顔が見ていたかった。そして、藍子に話したいことがいっぱいあった)
加蓮(……私、もしかして)
加蓮(前より、藍子のこと――)
藍子「……♪」ギュー
加蓮「……って……いつまでくっついてんのよ。さすがに離れなさいよ。離れろ!」グイー
藍子「きゃっ」
加蓮「ったく。一応ここカフェテラスでしょ……。誰もいないし通りかからなかったけどさ……。アンタ何十分ひっついて、」ガサゴソ
加蓮「わ、もう7時じゃん! お母さん、メール送ってきてるし――」チラ
藍子「……」
加蓮「……。また藍子が泊まりに来ると思うからごめんけどそのつもりでお願い、と」ピッ
藍子「…………」
加蓮「あはは……。これはちょっと、機嫌を直すまで時間がかかっちゃうかな?」
加蓮(まっ、それはそれでいっぱい喋れるからいいんだけどね♪)
加蓮(それにしても……)
加蓮(……そっか)
加蓮(そっかぁ……)
【おしまい】
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