最後にちょっとだけ安価で投票があります
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1556019177
提督「大淀! 助けてくれ!」
大淀「あらあら、どうかしましたか、提督」
提督「漣に嫌われてしまった……!」
大淀「……本当ですか? 何かの誤解なのでは?」
提督「本当なんだよ! 俺のことを完全に無視して全く口もきいてくれないんだ!」
大淀「はあ……? でも、いったいどうして?」
提督「それがわからなくて困ってる。朝、普通に挨拶をしたら……」
―― 今朝 鎮守府廊下
提督「あー今日も眠いな。しかし仕事だ」
提督「深海棲艦どもめ。戦争が終わったら一年くらい休みを取ってどっか旅行したいぜ」
提督「ん、向こうから歩いてくるあれは……今日の第一艦娘か」
漣「…………」
提督「よ、おはよう、漣」
漣「…………」
提督「……おい? 漣? なぜ黙って俺の横を通り過ぎて行く」
漣「…………」
提督「おいまて! 漣!」
漣「…………」
提督「待てっての、漣! なぜ俺を無視する!」グイッ
漣「…………」パシッ
提督「さ、漣……」
漣「…………」
――現在
提督「という感じでな」
大淀「ほ、本当ですか? あの漣ちゃんが?」
提督「こっちを見てもくれないんだぜ。傷つく」
大淀「……でも、私がさっき話した時は普通でしたよ」
提督「俺がもう一度話そうとした時は無視された」
大淀「少し信じられませんけど」
提督「全く、俺が何をしたってんだ」
大淀「いきなり目の前で全裸になって襲い掛かったとか」
提督「してねーよ」
大淀「ですよね」
提督「仮にしたとしても、漣はそのくらいであんな怒んないだろ」
大淀「……ですかね?」
提督「よし、こうなったら大淀! 漣を探して会話をしてくれ!」
大淀「え?」
提督「そこに俺がやってきて、自然に会話に混ざる」
大淀「ふむ」
提督「そうすりゃ、とりあえず会話はできる。多少ぎこちなくなったとしても、何に怒ってるのかを聞き出すきっかけくらいにはなるだろ」
大淀「なるほど」
提督「頼んだぞ。俺は後ろのほうに隠れている」
大淀「わかりました。会話の内容はどうしましょう?」
提督「そうだな……。仕事の話から入って、さりげなく俺の話を振るというのはどうだ。うまくいけばそのまま理由を聞いてくれても構わない」
大淀「了解です。それでしたら、さきほど漣ちゃんと話した遠征の件を……」
提督「ふむ。それなら……こういう感じで……」
大淀「ええ!? 本気ですか!? ……わ、わかりました……」
提督「よし、作戦決行だ!」
大淀「あ、いたいた。漣ちゃーん」
漣「大淀さん? どしたの? また漣に何かご用?」
大淀「ええ、さっき話した次の遠征なんだけど、詳細が決まったから伝えておこうと思って」
漣「はや!? まじで? 急ぎ?」
大淀「いえ、たまたま提督の手が空いていたので、先に決めてもらったんです。提督も漣ちゃんもそのほうが助かるだろうからって」
漣「……あ、そ……ふーん……」
大淀(露骨に機嫌と態度が悪くなった)
大淀「……どうかしました?」
漣「……べつにー」
大淀「ひょっとして、提督と何かあった、とか?」
漣「……なにもぉー。というか、ご主人様とかどうでもいいし。遠征の話をしましょ」
大淀「あ、はい……」
提督(……大淀でも聞き出せなかったか。こうなったら俺みずから行くしかないな)
提督「よ! 二人ともこんなところで何してるんだ? ひょっとしてさっきの遠征の話か」
大淀「あら、こんにちは提督。ええ、その話をしてました」
漣「………………」
大淀・提督(完全に無視!)
提督「あー、漣。なんで黙ってるんだ?」
漣「………………」
大淀「漣ちゃん、やっぱり何かあったの?」
漣「何もないです」
提督「何もないなら普通に話くらいしてくれたっていいだろ?」
漣「………………」
大淀(思った以上にかたくなだわ。これはよっぽどのことが……?)
提督(もっと思い切った攻め方をする必要があるな。よし!)
提督「漣、なぜ何も言わないんだ。『俺は何もしていない。そうだろ?』」
漣「ふんっ」
大淀(……! このセリフはさっき打ち合わせたパターンCのサイン……ほ、本当にいいのかしら?)
提督(構わん! 来い!)クワッ
大淀(じゃ、じゃあ……えいっ!)
パシーン!
提督「ぐわっ!」
漣「!? お、大淀さん!?」
大淀「提督! 漣ちゃんに何をしたんですか!」
提督「な、何をって。だから俺は何もしていない!」
大淀「嘘です! こんなに漣ちゃんを怒らせて……何かひどいことをしたんでしょう!」
提督「い、いや、俺は本当に何も……」
漣「あ、あの、えっ、えっ」
大淀「本当ですか? 本当に、天地神明に誓って、絶対に100%完全に徹底的に何もしていないと言えるんですか!?」
提督「う、いや、その……。確かに俺は気の利かない男だ。もしかすると気づかないうちに漣を傷つけてしまったのかもしれない」
大淀「やっぱり! さあ、ちゃんと謝ってください!」
提督「すまなかった! 漣! 許してくれ!」
漣「えっ、ま、まあご主人様がそこまで言うなら……?」
大淀「誠意が足りないんじゃないですか、提督! ほら、ちゃんと頭を地面にこすりつけて謝らないと!」グイグイッ
提督「ううっすまない漣ぃ……。本当に悪かったぁ……」
漣「や、やや、やめて! 大淀さんも、漣はもういいから!」
大淀「そうですか……。提督、反省しましたか? 漣ちゃんの寛大で慈悲深い心に感謝してください」
提督「ああ、悪かった……」
提督(完璧だったな、大淀!)
大淀(こっちのほうがドキドキしました!)
提督(この手は使えるな、覚えておこう)
大淀(私以外の艦娘とお願いします)
大淀「……こほん。それで、漣ちゃん。本当は何があったの? 提督は覚えていなかったけど、もしも法に触れるようなことなら私から報告してしかるべき罰を……」
提督「どんな処罰も受ける所存です」
漣「そ、そういうわけじゃないですけど」
大淀「話しにくいことなら、私にだけでも……」
漣「いえ……よく考えたら、ちゃんと話をしてご主人様にも反省してもらわないといけないし!」
提督(何をしたんだ、俺は)
漣「ご主人様、昨日の夕食を覚えてる?」
提督「へ? おや……」
漣「親子丼でしたよね!?」
提督「は、はい。なぜそれを」
漣「間宮で親子丼。ご主人様は気づかなかっただろうけど、漣は見てた!」
提督「なにっ、そうだったのか! ……え? だから?」
漣「はぁ!? しらばっくれる気!?」
提督「ちょっとまて本当に何がなんだかわからない!」
大淀「あ、あのー、漣ちゃん? 私にもわかるように、順を追って最初から話してくれる?」
漣「……わかりました。そう、あれは一年前の2月20日のこと……」
提督・大淀(一年前にさかのぼる話なの!?)
―― 一年前 2月7日 21時55分( 提督・大淀(分単位で覚えてるの!?) )
提督「腹減ったな……」
漣「うー、早く終わらせてよ、ご主人様」
提督「そうは言ってもこの書類の山が……」
漣「溜め込みすぎ!」
提督「すまん、色々忙しくて……。これ徹夜コースかもしれない」
漣「はあ……」
提督「漣、コンビニに行って何か買ってきてくれるか。外出許可は俺がいまここで出す。書類も用意……」
漣「仕事を増やしてどうするんですか! ……しょうがないなー。漣がいまから何か食べるものを作りますよ」
提督「漣が!? 料理とかできたのか!? 見たことないぞ!?」
漣「漣様にかかれば余裕ですしー。えーとスマホスマホ」
提督「……なんでスマホを見てるんだ」
漣「決まってるでしょ? レシピ検索ですよ」
提督「本当に料理できるのか……?」
漣「ご主人様こそ料理を甘く見てるんじゃないですか? ちゃんとしたレシピを見ながら作業したほうが成功率は高いんですよ!」
提督「成功率……。まあいいや。全てまかせる」
漣「はーい。えーとご飯の炊き方っと」
提督「そこからかよ! 二つの意味で!」
( 現在の提督(あー、そういえばそんなこともあったような……) )
( 現在の大淀(提督が完全に忘れてたって顔してますね) )
―― 23時40分
提督「……いま冷静に考えると漣に外出許可を出して、料理にかける時間を俺の手伝いに回したほうが効率が良かったな」
漣「なにブツブツ言ってるんです? もうすぐできますからねー」
提督「楽しそうだな、漣……」
漣「楽しいですよー」
提督「書類とにらめっこするよりもか」
漣「……あのねえ、ワタクシはご主人様のためにやったことのない料理をしてあげてるんですよ? もうちょっと感謝の気持ちを表してくれてもいいんじゃね? と漣は思うのでした」
提督「そうだな、ありがとう漣。で、終わったら俺の仕事も手伝ってくれるんだよな」
漣「おっと労働基準法違反をうながすパワハラですな! 漣の何気ないツイートから鎮守府炎上! 提督解任!」
提督「うるさい。戦時下における特別艦娘法では、指揮官が艦娘の労働時間と内容に関する裁量権が委任されている。イヤなら艤装を解体して放り出してやる」
漣「ホントにパワハラっぽいセリフ……。えーと、後は卵を落として……はい、できあがりっと」
提督「……できたか」
漣「できたよー! じゃーん! 漣特製、親子が! ドーン!」ドーン
提督「ほう。これは親子丼だな」
漣「そう言ったよ?」
提督「さっそくいただきます」
漣「めしあがりやがってくださーい」
提督「ふむ……見た目は普通だ」
漣「漣が料理できないキャラみたいに言うのやめてもらえます?」
提督「実際、初挑戦だったんだろ。どれ、味は……」モグモグ
漣「漣もいただきまーす」モグモグ
提督(ふむ……至って普通の味だな。ネットのレシピを見ながら作っただけのことはある。食材は冷蔵庫に残っていた肉と玉ねぎだし、味付けも市販の麺つゆだし)
提督「……これは……」チラッ
漣「…………………」ジーーーーーーーッ
提督(……とはいえ、普通の味だなんて感想は言えない雰囲気。実際、初挑戦でこれだけできれば大したものだ。ネットのレシピを忠実に守れるだけの力はあるわけだからな。よし!)
提督「……うまい! これはうまいな!」
漣「ホント!?」
提督「ものすごくうまい! すばらしい……。これほどの味を出せるとは。作り手の顔が浮かぶようだ……」
漣「えへへへ、えへへへへへ……」
提督(作り手は目の前にいるだろ、というツッコミもないくらい喜んで照れてる。褒め甲斐があるやつだ)
提督「うーむ、こんな親子丼を食べてしまったら、もう他の親子丼は食べられないかもしれないな……」モグモグ
漣「そ、そこまで?」
提督「ああ、きっとそうだ。……ごちそうさま」
( 現在の提督(あっ! そういや、そんなこと言ってたっけ!) )
( 現在の大淀(だから漣ちゃんは怒ってたんですね……) )
漣「もう食べ終わったの?」
提督「あまりにもうまいからあっというまに無くなってしまった。今は寂しさを感じている」
漣「そ……そんなにおいしいかな? ちょっと大げさに言ってない?」モグモグ
提督「そうか? 漣の気持ちがこめられていたからかもな」
漣「ちょ、何言ってるかなこの人」
提督「漣がどれだけ俺を愛しているか伝わってきたぞ」
漣「あ、愛してねーし!」
提督「そうか? 俺は愛してるぞ」
漣「きゅ!? きゅっ、急に何言ってんの!」
提督「いや、ベッドの上で言うだけじゃ芸がないから、たまにはいいかなと思って」
漣「……ふん。さっきは漣のこと、放り出してやるとか言ってたくせに」
提督「ん? ひょっとして気にしてた?」
漣「べ、べつに」
提督「……バカだな、そんなことするわけがない。俺は漣無しじゃ生きていけないよ。もし漣がやめたいと言い出しても、あらゆる手を尽くして引き止める」
漣「えっ、重……」
提督「素で引くなよ! 言っとくがお前がこのまえ言ってほしいっつってたセリフだからなこれ」
漣「急すぎてちょっと……」
提督「わがままだな」
漣「だって、ほんと急なんだもん……。なんでそんな、いつも言わないことばっかり……」
提督「きっと漣の親子丼のせいだ。本当にうまい親子丼を食べたとき、人は心底ホッとして本音を言ってしまうという」
漣「飲み干しちまったな命のスープ……いやそれラーメンでしょ!」
提督「気にするな」
漣「適当~」
提督「漣、愛してるぞ」
漣「だから、適当!」
提督「キスしていいか」
漣「………………………………食べ終わったら」モグモグ
――現在
漣「ということがあったのに!」
大淀「…………」
提督(大淀の表情がすごいことになっている。写真に収めたい)
提督「いや……確かに、もう他の親子丼は食べられないかも、とは言ったな。すまない」
漣「それだけ?」
提督「で、でもな。漣の親子丼は確かに絶品だったが、間宮の親子丼もそれに負けず劣らずな逸品で……って、いや、言い訳じゃなくて」
漣「違うでしょ?」
提督「え」
漣「きのうの! ご主人様は! そうじゃなかったでしょ!?」
――きのうの間宮
漣「あー……今日の訓練きつかったっす……まじ……やむ……」
皐月「そう? ボクはまだまだいけるけど」
吹雪「皐月ちゃんは頑丈だねえ……」
不知火「基礎体力づくりができている、ということなのでしょう。不知火も見習わなくては」
漣「そういうぬいっちも平気そう~」
不知火「そうですか? 実際はもう不知火も限界ですよ」
皐月「顔に出さないよね。大丈夫? 無理してない?」
不知火「弱いところを見せないのも、戦術です。敵に弱さを見せれば甘く見られてしまいますから」
漣「そう? あえて見せるのも戦術じゃない? チョーシにのらせてガッ、ってさ」
不知火「なるほど。駆け引きですね」
吹雪「うーん、私はどっちも無理かなあ……。はあ、疲れたあ……」
ガラッ
提督「あー……疲れた」
漣「!」ピクッ
皐月「あ、司令官だ」
吹雪「司令官も疲れてるみたいだね」
不知火「……いえ、司令はあえてそう見せているのかもしれません」
皐月「ボクたち、ガッてされちゃうのかな?」
漣「…………」
吹雪「漣ちゃん、どうしたの? 急に黙ってうつむいちゃって」
漣「え、べ、べ、べ、べつになんでも~」
皐月「あはは、漣は司令官に弱いところを見せたくないんだよね。だから黙って気配を殺してるんでしょ?」
漣「モロバレの上にネタバラシッ……」
不知火「弱いところを見せるのも戦術では?」
漣「み、見せないのも戦術でしょ」
吹雪「そうだったんだ……でも、どうして?」
皐月「司令官はさ、漣が弱ってると結構心配しちゃうんだよね。いつも元気なイメージだから」
不知火「教導艦娘に、さりげなく訓練をもう少し易しくできないかと聞いたこともあります」
皐月「過保護すぎだよね」
不知火「愛されているのでしょう」
漣「あーッあーッ、やめてーッ……」
吹雪「へえ~? ふ~ん?」
漣「その顔もやめてー……」
提督「えーっと、何を食べようかな……」
バイトしてる陽炎「いらっしゃーい、司令。はい水。なんと、タダ!」
提督「何言ってんだ。水は普通タダだろ」
陽炎「そうとは限らないわよ? 撤退中に海上に一人取り残されたりすると特に」
提督「その状況じゃいくら金を積んでも水は買えないだろ……」
陽炎「タダで水を飲める平和に感謝、そして平和をもたらしてくれる艦娘に感謝しようってこと! あ、ちなみに私も艦娘なんですよ~。知ってた?」
提督「すごい繋げ方してくるな。感謝します。ありがとう陽炎さん。ついでに明日から遠征いってきて」
陽炎「えー! 明日もここでバイトのシフトが入ってるんだけど!」
提督「……訓練の後なのに、新作料理の試食ができるってだけでよくやるよな……。ともかく、副業よりも本業が優先で」
陽炎「ちぇー。で、ご注文は?」
提督「んー。今日のオススメをくれ」
陽炎「このお店はご存知のとおり、なんでも美味しいわよ。なんと水も真水でタダ」
提督「参考にならねえ。なら、陽炎の好きなもので頼む」
陽炎「なにそれ? えーと……親子丼でいい?」
提督「ああ」
漣「!」ガタッ
吹雪「きゃっ!」
漣「…………」
皐月「どうしたの、漣」
不知火「……身を乗り出して司令のほうを見つめていますね」
陽炎「親子丼おまちー」
提督「配膳をありがとう。あと親子丼を食べられる平和をありがとう、艦娘の陽炎さん」
陽炎「そうそうその調子! もっと感謝して!」
提督「本当にこんなんでいいのか……? それじゃ、いただきます」モグモグ
陽炎「どう? どう?」
提督「え? いや、すごくおいしいけど」
陽炎「よかったー! 実はその親子丼、私が作ったの!」
提督「嘘だろ」
陽炎「ひどくない!? 本当だってば!」
提督「こんなに美味しい親子丼を陽炎が作れるわけないだろ……。多分、俺の生涯で一、二を争う味だぞ」
漣「……」ベキィ
吹雪「ひっ!」
皐月「大丈夫、漣?」
不知火「……握り折った箸が刺さって、掌から血が出ていますよ」
陽炎「本当なの!」
提督「じゃあ、どうやって作ったんだ」
陽炎「こうやってご飯をよそって……で、こんな感じで丼に親子を乗せたのよ」
提督「いや、確かに手つきは様になっている気がするけど、そこじゃなくて……」
陽炎「だから、厨房はみんな忙しいから私が仕上げと盛り付けをしてるってわけ」
提督「え、本当にそれだけで作ったって言ったの!?」
陽炎「それだけとは何よ。仕上げと盛り付けは料理の大事な工程でしょ? 間宮さんも褒めてくれるし」
提督「あ、あー、うーん。なるほど」
提督(間宮は何でも褒めて伸ばすからな……。おそらく、最初はさぞ危なっかしい手つきだったのだろう。ここは自分も乗っておくか)
提督「確かに陽炎がこの味に(ほんのわずかでも)貢献しているのは確かだな。作ったというのも(完全には)嘘ではないし」
陽炎「でしょ!」
提督「ああ、頑張ったな、陽炎」
陽炎「そう? そうかな? ふふっ」
提督「この調子で工程を一つずつ習熟してけば、、全部自分で作れるようになるんじゃないか?」
陽炎「確かに、そうかも……」
提督「作れるようになったら、ぜひ食べさせてほしいな」
陽炎「わかった! 私、がんばる!」
提督「よし、頑張れ。これだけの味ならきっと店を開いてもいけるはずだ。戦争が終わったら姉妹と一緒にどうだ?」
陽炎「あー! それいいかも! ありがとう、司令!」ギュッ
提督「うわっ、おいおい、仕事中だろ? いや、仕事中じゃなくてもアレだが」
陽炎「あっごめん、嬉しくて! それじゃ仕事に戻るね」
提督「おお。明日もよろしく頼む」
陽炎「うん! それじゃあね! せんきゅっ!」
提督(……ふう。ちょっとおだてすぎた気もするが、艦娘のやる気を引き出すのも仕事のうちということにしておこう)
提督「うむ。親子丼がうまい」モグモグ
漣「…………」
吹雪「ひいぃ……」
皐月「漣ー? 聞こえてるー?」
不知火「顔が真っ赤を通り越して真っ白ですね……」
漣「…………」スッ スタスタスタスタスタスタ ガラッ
吹雪「あっ……さ、さざな……」
皐月「……行っちゃったね。これはしばらく放っておくしかないよ」
吹雪「し、司令官に話したほうがいいんじゃないかな?」
皐月「んー、あんまり二人の問題に首をつっこまないほうがいいよ」
吹雪「でも……」
皐月「っていうか、あの二人にはつっこむだけ損だから大丈夫」
吹雪「そうなの? 不知火ちゃんはどう思……」
不知火「……!」ガタッ
吹雪「ど、どうしたの!?」
不知火「不知火は今、重大なことに気がつきました」
皐月「重大なこと……?」
吹雪「な、なに……?」
不知火「はい。それは……」
吹雪・皐月「「それは?」」
不知火「漣が……支払いをせずに店を出て行ってしまいました」
吹雪・皐月「「あっ」」
三人「「「…………」」」
吹雪「と、とりあえず私が出しておくよ……」
皐月「いや! 司令官にツケておこ!」
不知火「陽炎にツケておいても構いません」
――現在
漣「って感じだったでしょ! きのうは!」
提督「い、いやあれは別に……」
漣「別に、なに!? 漣の親子丼をあんなに褒めてたクセにすっかり忘れて、よそっただけの陽炎におべっかを使ってイチャイチャして……!」
提督「ま、まて、これも提督の仕事であって……」
漣「浮気してイチャつくのが仕事なの!?」
提督「そうじゃないって。単に陽炎にやる気を出してもらおうとしてだな……」
漣「……それ、やる気のために適当言ってたってこと? 漣にも陽炎にも?」
提督「そんな言い方はないだろ!」
漣「やっぱりそうなんだ! このスケコマシ! チャラ男! 浮気もの!」
提督「そうじゃない! 誰がチャラ男だ! ……大淀、何か言ってやれ!」
大淀「え」
漣「大淀さん! このクソご主人にバシッと言ってやってください!」
大淀「え」
提督「いくらなんでも俺は悪くないよな、大淀!」
大淀「え」
漣「どう考えてもご主人様が悪いよね、大淀さん!」
大淀「えー……っと……」
果たして大淀の決断は!
投票を23時くらいまで募集します
票数が同じ場合は、先に票が入った方を採用します
1 調子のいいことを言いつつ、一年前のことをすっかり忘れた上にほかの艦娘とベタベタする提督が悪い
2 一年前のなんでもない話を引きずりすぎて、提督を誤解して嫉妬する漣はもう少し落ち着いたほうがいい
3 痴話喧嘩に付き合わせてきた提督と、どう考えてもノロケでしかない話を聞かせてきた漣に、この大淀が思い知らせてやる
大淀「ああああああああああ! もう!!」
提督「おわっ」
漣「ひゃっ」
大淀「いいかげんにしてください、二人とも!!」
提督「あ、その」
漣「さ、漣は」
大淀「黙って聞いてれば、ただの痴話喧嘩じゃないですか! 二人の間で解決するべきことでしょう!」
提督「さ、漣が俺を無視するから……!」
漣「ご、ご主人様が色目を使って……!」
大淀「はいそこ! また私の前でケンカを始めるつもりですか!?」
提督「滅相もございません……」
漣「申し訳ありませんでした……」
大淀「……ちょっと二人とも、こっちに来てください。こんなところで騒いでいたら迷惑なので」
提督「あ、はい」
漣「そ、そうですね」
――執務室
大淀「いいですか、二人とも」
正座してる提督「はい」
正座してる漣「はい」
大淀「貴方達は私を何だと思ってるんですか?」
提督「はっ、他に類を見ない有能な軽巡洋艦娘であると思っております」
漣「いつも優しくて頼りになる軽巡かなって……」
大淀「過分な評価をいただき、ありがとうございます。ですが、有能で頼りになるからといって、果たして痴話喧嘩の裁定役を任せてよいものでしょうか」
提督「……いえ、そうは思いません」
漣「その……ごめんなさい」
大淀「よろしい。しかし一度は役目を仰せつかった身。卑小なわが身ですが、精一杯にお二人の裁定をさせていただきましょう」
提督「い、いやそれは」
漣「そ、そんなお手間を取らせるわけには」
大淀「これより、貴方がたの発言は内容次第で、私の裁定に対して不利に働く可能性が生じます」
提督・漣「「…………………」」
大淀「では、まず提督」
提督「はい」
大淀「あなたは一年前、駆逐艦娘の漣にこう発言したそうですね。『こんな親子丼を食べてしまったら、もう他の親子丼は食べられないかもしれない』、と」
提督「はい……少し記憶が怪しい部分がありますが、そういった意味のことを言った覚えがあります」
漣「…………」
大淀「この発言は一片の偽りもなく、真実ですか?」
提督「…………」
漣「…………!」ジーーーー
大淀「答えて」
提督「……真実とは、言い難いかもしれません」
漣「やっぱり! 適当なことを言って漣をおだててたんでしょ!」
提督「そうじゃなくて……!」
大淀「黙りなさい。二人とも」
提督・漣「「ぅ…………」」
大淀「真実とは言い難い。では、どういった意図の発言だったのですか?」
提督「それは、そのー」
大淀「答えられないならこの場で提督への罰則を決定します。死刑です」
提督「さ、漣が自分のために慣れない料理をしてくれて嬉しかったので、つい大げさに味を高く評価してしまいました!」
漣「…………」モジモジ
大淀「それから?」
提督「そ、それからも何も……」
漣「……?」
大淀「死刑」
提督「さ、漣を褒めていい気分にさせたらやる気を出してくれるかなーと……。あと、また料理を作ってくれるんじゃないかな、と期待していました」
大淀「もっと正直に。本音で」
提督「ぐ……」
大淀「早く」
提督「……こ、ここで雰囲気を作っておけば後の展開に繋がるかな、と……」
大淀「後の展開というのは漣との肉体関係のことですね」
提督「……はい……」
漣「へー。そんなこと考えてたんだー……」
提督「…………す、すまない」
大淀「よろしい。提督は仕事中にも関わらず、駆逐艦娘の漣に欲情し心にもない……いえ、それは言いすぎですね。実際の感想よりも大幅に過剰な褒め言葉を口にして、それが今回のトラブルに繋がった、と」
提督「…………」
大淀「繋がった、と」
提督「そ、その通りです……」
大淀「では、昨日の間宮における駆逐艦娘陽炎に対する発言も、そういった意図があったのですか?」
提督「いえ、それはありません」
漣「ご主人……」
大淀「なぜですか?」
提督「え、なぜ、と言われても」
大淀「陽炎も漣と同じ駆逐艦娘であり、提督に対し親子丼を供しています。なぜ陽炎にはそういった意図を抱かなかったのかと聞いています」
提督「……いや、自分は陽炎に対してはそういった感情は持っておらず」
大淀「死刑」
提督「……ま、全く持っていないということはありませんが!」
漣「最低」
提督「く……。じ、自分は漣を愛しているため、そういった意図の発言を陽炎に対して行うことはありませんでした」
大淀「漣との精神と肉体による行為に満足しているということですね」
提督「その言い方なんとかならない!?」
大淀「漣との精神と肉体による行為で性欲を充分に解消できている、ということですね」
提督「より悪くなった……!」
大淀「……ということですね?」
提督「は、はいぃ……」
漣(……あれ? これひょっとして、わ、わたしもこの後……?)ガタガタ
大淀「よろしい。提督の一年前の発言は決して感情のこもらないものではなかった。しかし、明らかにその内容は過剰であり、また今回の陽炎への発言と照らし合わせれば、誠意を感じないものであったと判断します」
提督「……うう……」
大淀「艦娘に対し、こうした軽率な発言を行う人間に提督としての資質を認めるべきか否か。それはこれからの行動と発言を見て判断していこうと思います。また、これまでの功績も、けして無視できるものではありません」
提督「あ、ありがとうございます……!」
大淀「では、漣」
漣「っ……」ビクッ
大淀「あなたは本日早朝に、提督を意図的に無視しましたね」
漣「は、はい」
大淀「なぜですか?」
漣「それは……。きのう、ご主人様が陽炎を褒めてたから、ちょっとムカッとして……」
大淀「それだけではありませんね。正直に言いなさい」
漣「うっ……」
提督「な、なんだ? 違うのか?」
大淀「言えないなら供述はここまでにしますが……死刑です」
漣「その、ご主人様の気を引きたくて、わざと冷たくしようかなって」
大淀「それから?」
漣「うぐ」
大淀「2秒以内に答えなさい。2、1」
漣「ちょ、ちょっと冷たくしたらご主人様は平謝りして、言いなりになってくれるかなって思ってました!」
提督「え、そんなこと考えてたんだー」
漣「うう」
大淀「まだ理由がありますね」
提督「まだあるの!?」
漣「ぐぐっ……!」
大淀「さあ、その懐に入っているものを出しなさい」
漣「ううううう……!」ゴソゴソ カタッ
提督「こ、これは……ボイスレコーダー?」
漣「……バレちゃった……」
大淀「このレコーダーを何に使うつもりだったのですか」
漣「……言いなりにしたご主人様の言葉を録音しようとしていました」
大淀「それを何に使うつもりだったのですか」
漣「も、もちろん、個人の範囲で色々と恥ずかしい使い方を」
大淀「死刑」
漣「もしもご主人様が浮気したり別れたいって言い出したら録音した音声で脅迫するつもりでした!!」
提督「ええええええええええええええええ!!!」
漣「そのために今日から脅迫の材料になりそうな音声や映像を集めて保管しておくつもりでした!!」
提督「ええええええええええええええええええええええええ!!!!!」
大淀「正直でよろしい」
提督「よろしくねえ!」
漣「だって、だってご主人様が陽炎を褒めたりするから!」
提督「お前、一年前に俺の気持ちが重いとかよく言えたな!」
漣「あ、あの時は急だったからしかたないでしょ!」
大淀「提督」チラ
提督「あ、はい、黙ります……」
大淀「さて、漣。貴女がこうした行為に手を染めようとしたのは、今日が初めてではありませんね」
漣「……!」ギクッ
大淀「一年前、貴女が提督に発言を求めたセリフ。それは本来、2月20日の深夜ではなく、別のタイミング……貴女が録音を行える状況下で発言させようとしたセリフだった」
漣「ぐはっ……!」
提督(そういう計画だったのか!)
大淀「その時から脅迫を行うつもりはあったのですか」
漣「……いえ、そこまでは。ちょっとした悪戯心だったんです。こっそり録るだけのつもりで……。でも、ご主人様がちょっと突然すぎて、つい素で反応してしまい……」
大淀「ふむ」
漣「ご主人様はスネて同じことを言ってくれなくなっちゃったから、私も諦めてました」
大淀「なるほど。しかし、今回はもっと積極的に録音を行おうとした」
漣「……ご主人様が親子丼を出した陽炎を褒めるから……。もし本気で言ってたなら、いつか漣を捨ててもおかしくないと思ったの……」
提督(飛躍しすぎだろ!)
漣「だから無理にでも言わせてやろうと思って、ご主人様を無視して謝らせようと思ったのに……!」
大淀「提督は一年前の発言を忘れてしまっていた」
漣「す、すぐ気づいたけど、引っ込みがつかなくなったからしばらく無視しようと思って……。でも、大淀さんがご主人様を無理やり謝らせたから、話して思い出してもらおうとしました」
提督「そういうことだったのか……」
漣「…………」
大淀「では。漣が提督を無視し始めたのは確かに提督の無責任な発言が原因だった。しかし、それに伴う犯罪行為は、未遂とはいえ見過ごすことができるものではありません」
漣「はい……」
大淀「一方的な秘密録音は通常ならば法に反しません。が、艦娘が提督の発言を録音することは機密漏洩に繋がる恐れがあるため、余程の事情を除いて基本的には禁止されています。漣は当然、この規則を知っていましたね」
漣「はい……」
大淀「今回のケースは当然ながら許される範囲を逸脱しています。もし脅迫が実際に行われていれば、重大な違反となったでしょう。漣個人だけでなく、この鎮守府自体に罰が科せられた可能性もあります。それも漣は理解していたはずです。そうですね」
漣「はい……!」
大淀「提督。漣の除籍、艤装の解体を進言いたします」
漣「…………」
提督「却下だ」
漣「え」
提督「なんで意外そうな顔するんだそこで」
漣「だって……漣は……」
提督「漣をいきなり放り出すなら、その理由を他の艦娘たちに説明しないわけにはいかない。それは漣の行為を表沙汰にするのとさして変わらない。未遂とはいえ、この失態は上層部につつかれかねない」
漣「あ……」
大淀「…………」
提督「だから、ここにいる3人の中で納めるのが最もこの鎮守府のためになる。上層部も、この鎮守府にわざわざ波風を立てたいとは思わない程度には功績を上げているしな。面倒な横槍を入れたがるやつらを喜ばせても仕方ない。その上で、漣には鎮守府内で何らかのペナルティを与える……」
大淀「…………」
漣「…………」
提督「ってくらいの建前でいいかな、大淀」
大淀「ですね。そうしましょうか」
漣「え?」
大淀「いい、漣ちゃん? もうこんなことしちゃダメだからね。どうせなら、こんなことをする前に私に相談してくれたほうがいいわ。提督ならこうやって、いくらでも締め上げてあげるから」
提督「やめろマジで」
漣「は……はい。あの、ごめんなさい。ありがとうございます……」
大淀「うん、よろしい! それじゃ解散しましょ! ほらほら、漣ちゃんも提督も立って立って」
漣「は、はい」
提督「まて、まて、立てつってもずっと正座だったから……うおお、足が!」
大淀「人間は不便ですねえ。明石に艦娘に改造してもらったらどうです? 浮気もできなくなるし」
提督「サラッと恐ろしいことを言うな! そんなことできるわけないだろ! ……え、できないよね?」
大淀「どうでしょう。少なくとも明石は大喜びすると思いますけど」
提督「大喜びで何をされるんだよ! ぐぐぐぐ……早く逃げないと改造されてしまう」
大淀「この鎮守府からどこに逃げるんです? 職安ですか? ……ところで漣ちゃんは今日も訓練よね?」
漣「あ! 忘れてた……!」
大淀「それじゃ、普通に遅刻ということで。たくさん走ったり腕立て伏せしたりして汗をかいてきてね」
漣「あー! し、失礼します!」
提督「おお、頑張れよ……いててて」
漣「うん! ……あの、ご主人様
提督「ん」
漣「ごめんなさい」ペコ ガチャッ ダッ タタタタ
提督「ああいや、俺こそ……って」
大淀「行っちゃいましたね」
提督「そうだな……」
大淀「…………」
提督「…………」
大淀「…………」
提督「…………」
大淀「あー……」
提督「はあ……」
大淀「あー! 疲れた!」
提督「あー……」
大淀「まさか漣ちゃんがあんなことを考えてたなんて、ぜんぜん気づかなかったんですけど! どうなってるんですかあれ!」
提督「俺もビックリだよ!」
大淀「確かに、ちょっと嫉妬深い子だとは思っていたんですけど」
提督「親子丼がよっぽど効いたのか? でも俺、あの親子丼以来、漣に料理作ってもらったことないんだけど。だからすっかり忘れてたわけだし……」
大淀「そうなんですか? ……あ、なるほど?」
提督「何かわかったのか? 何でもわかるなあ、大淀は」
大淀「でも、これは内緒にしておきましょう……」
提督「もったいぶるな……俺の本音は全部暴かれて死ぬかと思った。漣も死にそうだったし」
大淀「貴方がたが顔に出しすぎなんです。『陽炎に対してはそういった感情は持っておらず』なんて、本当に殺してやろうかと思う顔してましたよ」
提督「………………」
大淀「あーあ! すっごく疲れた! 私、今日はもう休みますね! 甘いもの食べてちょっと寝ます」
提督「え」
大淀「そこの書類、お願いしますね」
提督「えっほぼ塔なんだけど! これ一人でやんの!?」
大淀「ふーん。愛しの漣ちゃんか、浮気相手の陽炎ちゃんにお手伝いしてもらえばいーんじゃないですかー?」
提督「どっちも漣に殺されるわ!」
大淀「では失礼しまーす」
提督「あ、ちょっと待て」
大淀「なんです?」
提督「これ」ピラッ
大淀「え、これ、食堂の無料券?」
提督「甘いものを食べるんだろ? まあ、色々迷惑かけた上に助けてもらったし……色々ありがとな」
大淀「…………はあ……」
提督「な、なんだそのため息は」
大淀「いえ、別に。どうせなら現金がよかったなと思って」
提督「ええ……」
大淀「そんな引かないでくださいよ。冗談です」
提督「悪い冗談だな!」
大淀「今度、もっと高いものもおごってくださいね」
提督「お、おう」
大淀「それじゃ、おやすみなさーい」
提督「はいはい、おやすみ」
もう少しつづきます
―― 一週間後 廊下
提督「さーて……今日の仕事も終わりだな」
大淀「お疲れさまでした」
提督「あ、そうだ。大淀、この後少しいいか?」
大淀「何でしょう?」
提督「実は少し予定があってな。付き合ってほしいんだが……」
大淀「構いませんが……。それなら、その前に漣ちゃんのことで少し話をしたいのですけれど」
提督「漣のこと? え、また何かあったの?」
大淀「いえ、それをお聞きしておこうかなと。あれから漣ちゃんとしっかり仲直りしました?」
提督「……ああ。そういえばアレがあったな」
大淀「アレとは。すべて話してください」
提督「な、なんかぐいぐいくるな。わかったよ。と言っても、大淀がこの前言ってたことで……」
―― 2日前 深夜 執務室
提督「漣? ここにいるのか?」ガチャ
漣「ご主人様! いらっしゃいませ!」
提督「な、なんだ? その格好……メイド?」
漣「えへへ、どう? 似合うっしょ?」クルン
提督「ま、まあな。かわいいよ。ロングスカートでフリルが少ないデザイン……ずいぶんと本格的だな」
漣「でしょ? 専門店でオーダーメイドしてもらったんだよ」
提督「えっ、そこまでしたの!?」
漣「だからサイズもぴったりだし、すごく動きやすい仕様なわけですよ!」
提督「そうは見えないけどな……」
漣「ほら、こういうところの生地がよく伸びるから」
提督「ふーん。見た目ではわからない機能性か。艦娘の制服に似てるかもな」
漣「そう、これは漣のもうひとつの戦闘服なわけですよ」
提督「……で、俺をわざわざ手紙で呼び出した用事って、そのメイド服の紹介だけ?」
漣「いえいえまさか! ここからがご主人様のオモテナシの本番というわけでして」
提督「そうか、じゃあさっそく!」グイッ
漣「ちょちょちょちょちょちょちょ! 何勘違いしてんですか!」
提督「え? メイドご奉仕プレイをしてくれるんじゃないの? あ、俺もご主人様っぽく紳士服とか着たほうがいい? いや今持ってるの礼服くらいだけど」
漣「あのねえ、そんなことのためだけにこんな高い服買うわけないでしょ! そういうのは後で!」
提督「わ、わかった」
(提督(……あんまり関係ないし、この辺のエピソードは飛ばそう))
(大淀(いやらしいことを考えている顔をしてる……))
提督「で、漣は何のために俺を呼び出したんだ」
漣「まあまあ座っていてくださいよ。はい、お席をどうぞ」スッ
提督「おお。椅子を引く所作がメイドっぽい……いやメイドそのものだ」ストン
漣「……ふっふっふ」ゴソゴソ
提督「ん? その袋は……」
漣「じゃーん!」ザラザラザララ
提督「こっ、これは! 鶏肉と卵と玉ねぎと醤油と砂糖……あとその他いろいろ!」
漣「そう! いまこそリベンジの時!」
提督「リ、リベンジ?」
漣「ご主人様が漣の親子丼を、適当なお世辞で褒めちぎったリベンジですよ!」ビシッ
提督「い、いや適当ってわけじゃ……初めてのわりにはよくできてたし、何より気持ちがうれしかったんだよ」
漣「それ!! その気遣いが漣の料理人としてのプライドを傷つけた!! だからこれはリベンジなの!!」
提督「な、なんか申し訳ない……」
漣「じゃあご主人様はそこで待っててね。今から作るから」
提督「ああ、わかった……」
漣「えーと、まずはご飯を炊いて……」
提督「またそこからかよ、明日も仕事なんだけど! 朝食にしてくれない!?」
漣「うるさい、それじゃメイド服で作業ができないでしょ!」
提督「そこもよくわかんないこだわりなんだけど!」
漣「ご主人様は、明日処理する予定だった書類をやっててください」ドサッ
提督「な……なぜ俺は部下がメイド服を着て料理をするのにつきあって、残業をさせられるんだ」
漣「すぐできますからねー」
提督「頼むぞホントに」
漣「ふんふんふーん」シャッシャッ
提督「ほう……」
提督(素人目に見ても、漣の手際は格段によくなっている。まるでプロのようだ。一年前もひどくはなかったが……)
提督(俺も自分で料理はするほうだけど、所詮は素人料理だしな)
提督(よっぽど練習したのか……ん? ひょっとして)
【提督「でも俺、あの親子丼以来、漣に料理作ってもらったことないんだけど」】
【大淀「そうなんですか? ……あ、なるほど?」】
【提督「何かわかったのか? 何でもわかるな大淀は」】
【大淀「そうですか? でも、これは内緒にしておきましょう……」】
提督「そういうことか……」
漣「何がそういうことなんです?」
提督「えっ? ……いや、何でもない」
漣「ふーん、一人で『そういうことか』とか言う人、かなり面白いですよ」
提督「面白くて悪かったな……。それより漣。ずいぶん料理がうまくなったんじゃないか?」
漣「…………」
提督「漣?」
漣「…………」
提督「なんで無視するのかな……?」
漣「いえ、少しイラッとしたので」
提督「え、なんで!?」
漣「いいからご主人様は仕事しててください」
提督「わ、わかりました」
(大淀「なるほど。それは『一年前は料理がヘタだったな』と言われたようなものと受け取っちゃったんですね」)
(提督「難しすぎるだろ……!」)
提督「…………」スヤスヤ
漣「ご主人様ー? おーい」ペチペチ
提督「うおっ」ガタッ
漣「あ、起きた」
提督「ん……! わ、悪い。寝てたのか」
漣「いえいえ。もう0125なので、無理もないです」
提督「え、もうそんな時間か……。ずいぶんと長い間作業してたんだな」
漣「そりゃもう、鶏肉を漬け込んだり、玉ねぎを炒めたり? 工程の量が一年前とは段違いですからね?」
提督「ますます朝食でよかったんじゃないかって気がする」
漣「というわけで、お夜食どうぞ」ゴトッ
提督「お、おう。……ちゃんとした丼に入ってるな。蓋もしてある。これ、見たことない丼だけど、わざわざ用意したのか」
漣「もちろんですとも。いくつもお店を回って、いいやつを探したのですよ」
提督「そこまでするか……」
漣「気をつけてくださいね、この器、3万円くらいしますから」
提督「そこまでするか!?」
漣「あ、今のは蓋の値段でした」
提督「そこまでするの!? 蓋だけで!?」
漣「漣の本気、わかったでしょ?」
提督「……わかった。わかったよ。俺もおろそかにはこの親子丼に望めないな」
漣「いいですか? しょーじきに! 正直に感想を言ってくださいね!」
提督「ああ、もちろんだ。俺は命をかけて食い、天地神明に誓って感じたままを述べる!」
漣「わあ、大げさ」
提督「水を差すな! では!」
漣「どうぞ、召し上がってくださいませ、ご主人様……!」
提督「頂きます……!」カパッ
提督(むう、一年前とは違うことが一目でわかる。非常にバランスのいい具の配置。中心に乗せた三つ葉の切り方まで計算されている気がする)
提督(では、いただくか。……よく見るとこの箸も高級品だな。箸置きは……ん!?)
提督「漣、この箸置き……。駆逐艦の漣か?」
漣「お気づきになりましたか……。そう、その箸置きは漣の自作です」
提督「焼き物でここまで精巧なものを……。本人だから当然だが武装の配置まで完璧だな。俺も欲しい……」
漣「それは一番よくできたやつです。他にもたくさん作ったので、後でみんなに配ろうかなって思ってます」
提督「マジで!? 欲しい!」
漣「箸置きの話は後でいいから、早く食べてください」
提督「あ、はい。では……いただきます」モグモグ
漣「…………」ドキドキ
提督「うっ……! こ、これは……!」ガタッ
漣「ど、どうですか!?」
提督「これは……これは……!」ガツガツガツガツガツガツガツガツ ゴトッ
漣「どうです? どうなんです!?」
提督「うまい! うまかったよ漣! もしかすると、俺の生涯で一番か二番……」
漣「は?」
提督「あっ! ち、違うんだ! 単に俺の語彙が少ないだけ! ……本当においしかった」
漣「……本当?」
提督「本当! 本当に本当に本当!」
漣「……それじゃ、陽炎のと、どっちがおいしいの?」
提督「えっ。い、いや、陽炎はたんによそっただけで作ったのは専門職の間宮なわけで」
漣「どっちがおいしかったって聞いてるの。ご主人様の生涯で、一番なの? 二番なの?」
提督「う……! それは……」
漣「はっきり言って。……二番でもいいから……」
提督「そうじゃない! どっちも本当にいい味なんだ。嘘は言わないって言っただろ? だから難しい……」
漣「…………」
提督「そうだな。……一年前よりもずっとうまかったよ。ずっと練習してたんだろ?」
漣「……まあ」
提督「高級な器に箸、箸置きまで用意してくれた」
漣「……メイド服もですよ」ピラッ
提督(こだわるな、そこ……)
提督「……ああ。そうしてくれたことが嬉しい。だから、味は甲乙つけ難いが、この漣の親子丼のほうが俺は……ずっと嬉しい」
漣「……そ、そうですか」
提督「そうだとも」スッ カツカツカツ
漣「ご、ご主人様……? あっ……」
提督「ありがとう、漣。ごちそうさま」ギュッ
漣「……うん」ギュッ
提督「という感じでうまくいった」
大淀「その後に性的なことをしたと」
提督「してねーよ! さすがに翌日に響くから普通に寝たわ!」
大淀「響かなかったらしてたわけですね」
提督「それはそうかもしれないが……」
大淀「はあ……。なぜ私はこんな話を聞いてしまったのでしょう」
提督「全部話せって言ったのはお前だろう」
大淀「そうですけど。……それで、提督のご用は何です?」
提督「ああ。一緒に食事でもどうかなと。この前に言ってただろ、もっと高いものをおごれって。焼肉とかどうだ」
大淀「…………」
提督「なぜそんな渋い顔をする。焼肉好きだろ」
大淀「私が提督に漣ちゃんのことを聞いたのは、なにか漣ちゃんが勘違いをするといけないと思ったからなのですが」
提督「勘違いって、俺と大淀のことを? 大丈夫じゃないか?」
大淀「む……。そう言いきれる無神経さが招いた事態でしょう?」
提督「えー? そんなに心配なら漣も連れていくか……」
大淀「3人で、ですか。それもちょっと考えてしまいますね……」
提督「なんでだ」
大淀「嫉妬深い女の子と、無神経な男性のカップルに挟まれる私の気持ちの問題です」
提督「言われ放題……。まあ、結局どうする? 大淀のしたいようにしてくれ。大淀へのお礼なんだからさ」
大淀「ううん、そうですね……」
果たして大淀の決断は!!
投票をなんか適当な時間まで募集します
23日の0時くらいまでは締め切らないです
票数が同じ場合は、先に票が入った方を採用します
1 なんだかんだで二人きりで行く。
2 漣と3人で行く。
3 今回はやめておく。その結果、漣と提督が二人で行く。
投票ありがとうございました
1と2が同票でしたが、最初に票が入ったのが1だったので…
1 なんだかんだで二人きりで行く。
…で続きます そのうちに
大淀「……まあその、二人で行くというのもやぶさかではないのですが」
提督「じゃあ行くか」
大淀「あ、でもですね、やっぱり漣ちゃんがもうちょっと落ち着いてからでも……念を入れて三人で……」
提督「ちょっとまってくれ、漣にLINEで連絡する。今日は外食する、と」
大淀「あっ」
提督「……なんかめんどくさい返信が来た。ちょっと待っててくれ」
大淀「あの……」
提督「……浮気か殺す、だって。あいつほんとめんどくさいよなー……返信がどんどん積み重なっていくぞ」
大淀「ほ、ほら、やっぱりそうなりますよ。食堂で他の子と話をしただけで盗聴して脅迫しようとする漣ちゃんですから」
提督「大丈夫大丈夫。……あれ、反応ないな。まあいいや。出ようぜ」
大淀「え!? 大丈夫な要素ありました!?」
提督「漣の嫉妬に全部付き合ってたら、他の艦娘と話もできなくなるからいいって」
大淀「この食事も、その嫉妬に付き合わされた結果なんですけれど……」
提督「いいからいいから。お互い着替えて正門で集合ってことで」
大淀「う、うーん」
―― 鎮守府 正門
提督「やあやあ、防空駆逐衛視艦どの。元気にやってるかい」
門の前に立っている初月「ん? なんだ提督。今日は漣と外出……」
大淀「あ、ど、どうも。お疲れ様です、初月ちゃん」
初月「大淀? 珍しいな……。いや、提督の横に漣がいないのは初めてじゃないか」
提督「あー、最近はずっとべったりだったからな……。たまには他の艦娘にもサービスしないとね」
大淀(みんな漣ちゃんに遠慮して、提督と外出しなくなったんですよね)
初月「で、今日はどこに行くんだ」
提督「焼肉」
初月「なに。僕も行きたい」
提督「初月は仕事だろ。また今度な」
初月「本当?」
提督「たぶん」
初月「約束だぞ」
提督「たぶんだって。それじゃな」
初月「期待させてもらおう。では、お帰りをお待ちしております。お気をつけて、提督」
提督「ああ。この鎮守府をよろしく頼む」
初月「ちなみにお土産を買ってきてくれても僕は一向に構わないぞ」
提督「へいへい」
大淀「それじゃ、いってきます」
大淀「いいんですか? あんな約束しちゃって」
提督「たぶんだからな」
大淀「たぶんじゃないんでしょ」
提督「たぶんなんとかなるって意味だよ」
大淀「また漣ちゃんが怒るかもしれませんよ」
提督「ああ、そういや漣から許可は下りたよ。いや下りなくても行くけど」
大淀「許可!? 本当ですか!?」
提督「うん。さっき返信が来た。大淀ならいいってさ」
大淀「……申し訳ないのですが、私も確認をさせていただいてもよろしいですか? もしかすると致命的な見落としがあるかもしれません」
提督「信用ないな、俺! 前科があるから否定はできないけど……ほら、これだよ」
大淀「ありがとうございます。ええと……」
―― 漣と提督のやりとり
提督:今日外食する
漣:漣も行く
提督:二人で行くから留守番してて
漣:は?
漣:浮気か 死ね
漣:いや殺す
漣:誰と行くの? 二人とも殺す
漣:殺す
漣:さんざんにくるしめていのちごいをさせてからころす
漣:誰と行くの? 陽炎? ご主人様が性的魅力を感じている陽炎?
提督:アホか、浮気の予告なんかするか
漣:じゃあ何
漣:浮気じゃないなら漣も連れて行って
漣:どうなの? 早く答えて
漣:早く早く早く早く早く
漣:なんで答えてくれないの?
提督:てかレスはえーよ 落ち着け
提督:この前の埋め合わせに大淀と行くんだよ 逆にお前が何をされるかわからんぞ
漣:え
提督:陽炎は全く関係ないからな
(しばらくの間)
提督:漣? どうした?
提督:おーい
提督:もう出るからな
(さらにしばしの間)
漣:大淀さんと二人で行くの?
提督:おっと悪いスマホ置いてた そうだよ
漣:大淀さんと二人かあ そっかあ なるほど
提督:なにがなるほど?
漣:大淀さんなら…
漣:しょうがないにゃあ・・
漣:いいよ。
提督:いいのか ありがとう
漣:うん いいよ。
大淀「よくない!!」
提督「うわびっくりした!」
大淀「……提督、この返信……」
提督「しょうがないからいいよ、ってやつ?」
大淀「いえ、そうじゃなくて意味……。提督、ネットゲームをやったことはあります? RPGの」
提督「んー? ないな」
大淀「そうですか」
提督「……え、それが何」
大淀「なんでもありません。私、ちょっと漣ちゃんに電話しますね」
提督「なんでわざわざ? いいよって言ってるのに」
大淀「そのニュアンスが……とにかく、申し訳ありませんが少しここでお待ちください」スタスタスタ
提督「あっ、おい……。なんなんだ」
―― 10分後
提督「……あ、戻ってきた。結構長かったな」
大淀「お、お、お、おまた、おまたせしましたたたた」
提督「どうした大淀!?」
大淀「いいいいいえええいえいえいえべべべべべつに」
提督「絶対おかしいだろ! 何を話したんだよ!」
大淀「すーはー、すーはー……。いえ、特に何も。駆逐艦・漣と今後の鎮守府運営に関わる事務的な会話を交わしただけです」キリッ
提督「……完全に嘘だとわかるがいいだろう。何も聞かないでおこう」
大淀「……ありがとうございます。それでは焼いた肉を食べましょう。たくさん」
提督「う、うむ」
2年ぶりにつづきを投稿します
―― やきにく鎮守府 2番席
提督「相変わらずこの店名はどうなんだ」
大淀「鎮守府近くの店はこういう名前が多いんですよね……」
提督「まあ、地域貢献と思おう……。さあ大淀よ。なんでも好きなものを頼んでくれたまえ」
大淀「そうさせていただきましょう……よーし……」パラパラ
提督(メニューをめくった瞬間から目の色が変わった)
大淀「あら……? ずいぶんとお求めやすい価格になっていますね」パラパラ
提督「おお、確かに」パラパラ
大淀「牛肉の価格が下落しているんでしょうか」
提督「というよりも、食料品の物価が安定しているんだろう」
大淀「そうなんですか?」
提督「深海棲艦の通商破壊に、十分以上に対抗できているということだ。つまりすべて艦娘さんのおかげです。ありがとう艦娘さんの大淀さん」
大淀「急に何ですかそれ」
提督「いや、食堂で陽炎に言われたことを思い出して。平和をもたらしてくれる艦娘への感謝の気持ちを表明するべき、みたいなことを言ってた」
大淀「それを言ったら、提督だって私たちを指揮してくれているんですから……」
提督「いやあ、俺なんか椅子に座って書類に判子を押すだけだからさ。楽なもんだよ」
大淀「そんなことはありません、私たちよりもむしろ、提督のほうこそ……」
提督「いやいや、俺なんか現場の苦労に比べたらさ……そういう意味では、事務も現場もやってる大淀には二重の苦労を背負わせてるようなものかもな」
大淀「わ、私はそういう風には思っていませんよ」
提督「わはは、そうか。じゃ、そう言ってくれる大淀に感謝ってことで。肉を食おう」
大淀「あの……」
提督「いや、本当に気にしないでくれ。悪かった、冗談のつもりだったんだが変な感じになってしまった」
大淀「……いえ、構いませんよ。……そうですね! 考えてみたら私も普段は結構大変です! だから、今日は存分に労っていただくことにしましょう!」
提督「そういうことだ!」
大淀「では……。注文をお願いします! この三式カルビ改と、一式徹甲ロースを三人前ずつ!」
提督「いきなり高いのから来たな! いいぞ! あ、あとウーロン茶ひとつください」
大淀「私も飲み物……あ、夏みかんサワーがある。これをお願いします」
提督「あと小ライスひとつ」
大淀「提督、ご飯は後でいいじゃないですか。お酒を飲みましょう」
提督「俺は初手ライス派なんだっつーの。……この会話懐かしいな」
大淀「ふふ」
提督「昔はこうやって三人で食事してたな……」
大淀「明石を入れて四人だったころなんか、懐かしいですね」
提督「ああ。俺と艦娘三人、しかも実働できるのが漣だけ。なんて無茶を言うんだと呆れていたけど、なんとかなるもんだ」
大淀「……長かったですけど、戦争も終わりが見えてきました」
提督「ありがたいことだ」
大淀「提督は……戦争が終わったらどうするんですか?」
提督「この仕事を続けるかどうかはわからないが……ひとまずは、一年くらい休みを取って旅行する」
大淀「へえ、どこに行くんですか」
提督「そりゃまあ海外だな。今は国外旅行なんて夢のまた夢だけど、戦争が終わったら夢じゃなくなる。戦争に巻き込まれてないあたりを適当にめぐってみたいよ」
大淀「ああ、いいですね……」
提督「ま、実際は戦争が終わってから結構経ってからになるだろうけどな」
大淀「……漣ちゃんも? 一緒に連れていくんですか?」
提督「行きたいって言い出したら、そうするかな」
大淀「もう。そこは一緒に来てくれ、じゃないんです?」
提督「あいつにもやりたいことがあるかもしれないだろ?」
大淀「それが何かは、提督が一番わかっているでしょう」
提督「ん……どうかな。自惚れていたくはないと思ってるよ。……そう言う大淀は? どうするんだ」
大淀「私はもちろん……仕事をしていると思います」
提督「なんだよ。大淀も休んだらいいじゃないか」
大淀「いえいえ。そういうのはもっと後で、です。これは私の夢ですから」
提督「夢?」
大淀「……まだ話してませんでしたっけ」
提督「ん、初めて聞く、と思う」
大淀「そうでしたか」
提督「こういう話は、あまりしなかったな。どんな夢なんだ?」
大淀「ふふ。私は……戦争が終わった世界で仕事をしてみたい」
提督「……!」
大淀「思う存分!」
提督「そうか……。いいな」
大淀「はい。夢が、夢で終わらないで済みそうですね」
提督「うん、そうだ。絶対にそうさ。……お、肉が来たか」
大淀「お酒も、ですね」
提督「それじゃあ、いつか実現する大淀の夢に。乾杯だ」
大淀「すぐそこに近づいている、平和に行き来できる海に。乾杯です」
――二時間後
大淀「提督ー……もうちょっと飲みますー……?」
提督「いや俺はもう、さすがに……ちとハメをはずしすぎたぜ」
大淀「私はもうちょっといけますけどねー」
提督「顔赤いぞ大淀。このへんにしとこう。今日は漣もいないし」
大淀「ふっ、ふふっ。つぶれた提督をー漣ちゃんがおんぶしてー。あのときの衛視艦の呆れた顔ったら、ふっ、うふふっ、あははっ!」
提督「大淀に言われたかないわ! 俺が肩貸して漣が腰をささえて……じぐざぐに歩きながら帰っただろ、くくっ、ははっ」
提督・大淀「「あははははははは!」」
提督「……はあ! ひさしぶりに大淀と飲めたよ。よかった」
大淀「二人きりっていうのは初めてでしたよね」
提督「ん……そうだったっけ」
大淀「忘れすぎですよ提督~」
提督「やー、もうしわけない」
大淀「それじゃ、これ飲んで……んっ、よし。行きましょうか」
提督「ああ」
――帰り道
大淀「あー、外さむい」
提督「まだ二月だからな」
大淀「はー、海暗いですね」
提督「ふらふらしてるぞ大淀」
大淀「そりゃ久しぶりに飲んだんですから、ふらふらもします!」
提督「落ち着けってばよ」
大淀「はあ……まったく提督あなたというひとは」
提督「なんだそれ」
大淀「……さっき、私、漣ちゃんに電話かけましたよねー」
提督「んーー? あーー。鎮守府出たときの話ね。はいはい」
大淀「漣ちゃん、なんて言ってたと思います?????」
提督「知らんって。えーと……事務的な会話をしたとか言ってただろ」
大淀「そんな話したわけないでしょー?」
提督「それはわかっとるわ。で、なに話したんだよ」
大淀「はー……。そういうこと聞きます? デリカシーないですねえ」
提督「すっごいうざい絡み方してきた」
大淀「じゃあねえ。どうしても聞きたい~って言ってください」
提督「別にいいよ」
大淀「こらー! いえー!」バシバシ
提督「いたた。なんなのよ大淀さん。久しぶりに飲んだからなの?」
大淀「はーやーくー」ユサユサ
提督「わかったわかった。どうしても聞きたいから聞かせてください、大淀さん」
大淀「漣ちゃん、浮気してもいいよーだって」
提督「……は?」
大淀「大淀さんならいいよーって言ってたんですよ。なんだそりゃ! って思うじゃないですか」
提督「え、これ俺が聞いていい話だったのかな。やば……」
大淀「こっちはねえ、そりゃそういう気持ちゼロってわけじゃないですよ! でも、本妻に許可もらって浮気ってありえないでしょ!」
提督「俺、何もコメントしないでおくわ」
大淀「帰り明日になってもいいようにしとくとか、よく使うホテルの場所とか!」
提督「…………」
大淀「あのねえ、許可なんだかのろけなんだか余裕なんだかハッキリしてほしいわけですよこっちは!」
提督「…………」
大淀「提督がたぶんゴム持ってるけどもしアレだったら今からお薬もとか、もーーーなんなのーーーーー! はー、私の青春ってどこ!?」
提督「…………」
大淀「あ、もう私キレました。今キレた。ホテル寄りましょう提督」
提督「おいまてこの流れはダメだ、大淀」
大淀「ほら! 私、この街のことだったらねえ、漣ちゃんに聞かなくても知ってますんで、お得なとこなんかじゃなくてもっといいとこいきましょ!」
提督「まてまてまて目を覚ませ大淀」
大淀「うっさい! 行くったら行くんです! 来い、男でしょ! 提督は!」グイッ
提督「くそ、艦娘に力で勝てるはずもなく、助けを呼べるはずもなく……流されてしまうのか俺は……」ズルズルズル
――翌朝
大淀「ハッ」
大淀「……え、ここどこ? 何、この部屋。このベッド。私の部屋じゃない……」
提督「……起きたか?」
大淀「提督? ここはどこですか……いやいやいやいやいやいやいやいやいやまってまってまってまってまって」
提督「この街で一番高いホテルだよ。まー、シーズン外れてるからいい部屋入れたな……」
大淀「うそ、でしょ……私、本当に……」
提督「あのな、大淀」
大淀「あああああああああああああああああああああああああああああああああ」
提督「落ち着け! 壊れるな! 何もなかった! なかったから!」
大淀「な、なにもなかった!? つまりどこまでしたんですか!?」
提督「なにもしてない。部屋に入る前に、エレベーターでお前はもう寝てた」
大淀「……それはそれで早すぎるでしょ寝るの~~~~~~!」
提督「全くだ。もう放置して帰ろうかと思った」
大淀「恐縮です……」
提督「……ま、いいよ。俺も迷惑かけたしさ」
大淀「はい……いえ、私のほうこそ……」
提督「うん。とりあえず、朝食を食べて帰ろう。な?」
大淀「あーーーー……漣ちゃんに何て言おう……」
提督「昨日のうちに連絡してあるから大丈夫だよ。まったくアイツは……。浮気していいとか言ってた割にめちゃくちゃ疑ってくるんだからなあ」
大淀「うう。絶対それじゃ済まないです。どう説得しよう」
提督「……。帰ってから考えよう」
大淀「はい。…………」
大淀(これで、終わり……も、なんだか……)
大淀(私、もしかして後悔するかもしれないし)
大淀(ううん。どっちにしても後悔するんだろうなあ……)
大淀(じゃあいっそ、気持ちよく後悔しちゃおうかな……!)
提督「どうした?」
大淀「あの、提督……」
提督「うん?」
大淀「私、すさまじく醜態を晒したと思うんですけど」
提督「いや、まあ、この前は俺も……」
大淀「でも、もうひとつ! 醜態を晒しても、かまいませんか?」
提督「な、なに? なんだ?」
大淀「ひとつ聞かせてほしいことがあります」
提督「おお……」
大淀「もし、もしですよ」
提督「うん」
大淀「もし……私が酔っていなくて。本気で誘っていたら、提督はどうしていましたか?」
提督「………………」
大淀「はい。ありがとうございます。その沈黙、しかと受け取りました」
提督「あっ……」
大淀「提督はわかりやすくて助かります」
提督「……はあ……。敵わないなぁ。大淀にはさ」
大淀「ふふふ」
提督「さあて! 朝飯を食うか」
大淀「朝から親子丼、いきますか?」
提督「そのジョークはきついって」
――鎮守府 正門
漣「あ! 帰ってきた!」
初月「……漣もヒマだな」
漣「ヒマじゃねーし!」
初月「一晩中、仕事でもないのに門の前に立っているのはヒマだろう」
漣「これも仕事なの! 鎮守府の風紀は漣が守る……!」
初月「お前が言うな」
漣「こらー! この浮気ご主人ー!」ダダダダダダダダ
初月「やれやれ。お土産は買ってきたんだろうな、提督」
漣「うおー!!!! 朝帰りかー!!!!」
提督「漣!? 何やってんだお前は」
漣「大淀さんと、浮気者のご主人を待ってたの!!!」
提督「おまえ当直でもないのに、一晩中、門の前に立ってたのか……」
漣「大淀さん! ご主人は大淀さんはもう眠っちゃったとか言い訳してたけど、本当はどうなの!?」
大淀「うーん。漣ちゃん、もうちょっと小さな声で話しましょう?」
漣「だ、だってだって……」
大淀「そうね。私たちは、本当に何もなかった」
漣「え、マジに……?」
提督「うむ」
大淀「……か、どうかは、漣ちゃんのご想像にお任せします♪」
漣・提督「「ええええーーーーーっ!?」」
漣「ご、ご主人やはりキサマ!」
提督「おい大淀!! 何を……」
大淀「それでは、私はお先に失礼」スタスタ
漣「このー! うわきものー!」ゴスゴスゴス
提督「は、腹を殴るな……! てか何で俺だけ攻められんの……!?」
大淀「初月さん、これお土産。温めてから姉妹で食べてね」
初月「おお、ありがとう。あのホテルの中華まんか。贅沢したな」
大淀「たまには、ね?」
漣「しょせん駆逐艦の漣では大人の男を満足させることはできないとでもー!」ボコボコボコ
提督「わかったわかった、いいから中に入るぞ! ……体が冷えてるじゃないか。初月みたいにちゃんと防寒しろ」パサッ
漣「なっ……こ、コートをかけられたくらいで漣は誤魔化されないんだからね!」
提督「はいはい。漣にもお土産はあるからな」
漣「こ、これ! あのホテルのケーキじゃん!」
提督「姉妹で食べてくれ。今日は午後から休みだろ?」
漣「この、この、こんな程度で誤魔化されるとでも……!」
提督「誤魔化してないってば。バカだな。そんなことするわけがない。俺は漣がいれば生きていけるんだ」
漣「……!?」
提督「ん、どうした?」
漣「い、いいえ……こ、今回だけは信じてあげてもいいんだからね!」
提督「そうか。ありがとう」
漣「むう……ご主人様はこれだから……やんなるね……」ブツブツ
大淀「二人ともー! そろそろ鎮守府に入りましょう? お仕事がたくさん待ってますからね」
提督「……だな。行くか」
漣「りょ!」
おわり
くぅ~疲れました
もし続きを待っていたかたがいらっしゃいましたら、申し訳ありませんでした。お待たせしました。
新しく読んでいただいた方もいらっしゃいましたら、ありがとうございます。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません