――おしゃれなカフェ――
『ダブルフレーバークレープ』
片方には生チョコとイチゴを、片方にはがっつりウインナーを。今日はどっちの気分?
※ご希望に応じて中身を変更することもできます
※お一方のみに正解をお伝えすることもできます。クイズにしてみるのも……。
北条加蓮「あー、これのことだったんだ……」
高森藍子「これのこと?」
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レンアイカフェテラスシリーズ第76話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「2人きりのカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「しっとり雨模様のカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「真剣勝負のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「そわそわ気分のカフェで」
加蓮「ほら、前に私と藍子でさ、勝負したじゃん」
藍子「勝負……。私が、髪飾りを持ってきた時の?」
加蓮「ん。あの時店員がなんかしたり顔っていうか、いいこと思いついた! みたいな顔してたから」
藍子「それならこのメニューは、あの時の私と加蓮ちゃんをアイディアになったもの、ってことでしょうか?」
加蓮「かもね」
藍子「私と加蓮ちゃんが元になって、新しく生まれたメニュー……」ジー
藍子「これ、注文してみましょうっ」
加蓮「……そこまで食いつく?」
藍子「だって加蓮ちゃんも気になりませんか? 私と加蓮ちゃんによって生まれたメニューがどんな感じになったのか!」
加蓮「いやそこまでのことはしてないと思うんだけど……」
藍子「すみませ~んっ。この、ダブルフレーバークレープをお1つくださいっ」
加蓮「もう聞いてないし。まいっか」
藍子「あれ? これは、お1つってことになるんでしょうか。……あっ、1つ注文すると、ワンセットで1つずつ頂けるんですね」
藍子「じゃあ、お1つお願いしますっ」
加蓮「よろしくねー。……そっか。これってまた勝負するってことだよね。今度も勝てるかな……」
藍子「あっ。せっかくなら、本当に私と加蓮ちゃんがモデルになったのか、聞いておけばよかったぁ……」
加蓮「藍子、すごく手強くなったもんね。でもそれが楽し――」
藍子「加蓮ちゃんは、どう思いますか?」
加蓮「へっ? あ、いやいや。うん……そうだね。勝負って言うからには絶対に勝つよ。気合だけじゃなくて、頭脳と心理戦、その人について知ってること全部を使ってね!」
藍子「…………?」
加蓮「……あれっ」
藍子「ええと……?」
加蓮「勝負についてどう思うかとかじゃなかったの……?」
藍子「……違います」プクー
藍子「ほら、このメニュー。気になってしまうじゃないですか。本当に、元になったのは私と加蓮ちゃんなのかな? って」
藍子「もしかしたら、ぜんぜん違う番組とかを見て思いついたものなのかも……」
加蓮「それはあるかもね。たまにやってるじゃん、カードを裏返しにして心理戦を……みたいなヤツ」
藍子「それって裕子ちゃんのやってる――」
加蓮「あれはサイキックだから別物」
藍子「そうでしたっ」
加蓮「……。サイキックだから別物ってどういうこと?」
藍子「言ったの加蓮ちゃん……。そうですね~。サイキックだから、別物ってことですっ」
加蓮「ミラクル?」
藍子「テレパシーっ」
加蓮「……いや無いから。超能力とか。魔法とか。ある世界にはあるけど、この世界にはないから」
藍子「でも、もし加蓮ちゃんの手に持っているポテトがいっぱい増えるサイキックがあったら?」
加蓮「私今日からパッショングループになります」
藍子「なんだかいろいろ飛び越えちゃってませんか!?」
加蓮「ボンバーって言えばパッションになれるんですよね。大丈夫です。言えます」
藍子「それは茜ちゃんです、いえ茜ちゃんでもないと思いますけどっ」
藍子「……そんなにポテトが食べたいなら、私が作ってあげましょうか?」
加蓮「藍子」
藍子「はい」
加蓮「それは――違うの」
藍子「……!」
加蓮「ジャンクフードのポテトとそうじゃないポテトは別物なの。私の好きなポテトは、ジャンクフードの店に行って、列に並んで、べたべたでしなしなのポテトを呪いながら食べるポテトなの」
藍子「揚げたてのポテトに出会えると、幸せになれそうですね」
加蓮「ポテト占いかー。……脂っこい占いって絶対流行らないと思うよ?」
藍子「あはは……。なんだか、イメージと少し違うような?」
加蓮「それに藍子が作るとカロリーオフとか油っこくないとかになるじゃん」
藍子「ぎくっ」
加蓮「優等生のポテトなんて興味ない!」
藍子「優等生のポテト」
加蓮「不良のポテト、出来損ないのポテト、そして宝石のようなポテト……。そういうのが全部あって、私の好きなポテトなの」
藍子「なるほど……? でも加蓮ちゃん、前に、しなしなのポテトを出したお店に怒っていましたよね」
加蓮「出来損ないのポテトを出すジャンクフード店なんて、この世界で神様の次に死ぬべき存在だし」
藍子「そこまでなんですね……」
加蓮「……っと、店員さんが来たね」
藍子「ありがとうございますっ」
……。
…………。
加蓮「さて、クレープが2つ来たね」
藍子「来ましたね。味を変えてください、ってお願いはしていないので、片方が生チョコとイチゴのクレープ。そして、もう片方がウィンナーのクレープのハズです」
加蓮「見た目は全然変わらないね。ま、じゃないとクイズにならないけど」
藍子「これ、クレープ生地をすごく厚く作っているのかな? 目をこらして見ても、中が透けて見えたりはしませんね」ジー
加蓮「おっ、仕掛けるの早いね。さては藍子、早速リベンジの為の先手を打ってきた? ズルいなー」
藍子「えっ? あ……違います、そんなつもりはっ。って、リベンジ?」
加蓮「ふーん。まだ戦いたくないーとか争いは嫌いなんですーって言い張るの? そこから勝負してみる?」
藍子「え、えっと……?」
加蓮「……あれっ」
藍子「あっ。そっか。これ、また私と加蓮ちゃんで勝負することになっちゃうんだ……」
加蓮「それ今まで気付いてなかったの……? 藍子はどっちが食べたい?」
藍子「う~ん。今日は、朝ごはんをあまり食べてないから、ウインナーの方が食べたいかな?」
加蓮「肉食系藍子ちゃん。私は生チョコの方がいいなー。甘いのが食べたい気分だし♪」
加蓮「いつもとはタイプが違うけど、やっぱり新作スイーツはチェックしとかないとねっ」
藍子「私がウインナーの方を希望で、加蓮ちゃんは生チョコの方ですね。……これ、勝負する必要ありますか?」
加蓮「あるに決まってるわよ。あーそう。分かった。もし藍子が勝負から降りるなら、この前のハンカチ自作自演事件のこと言いふらしてあげる」
藍子「わ~っ!? ……っ」キョロキョロ
藍子「……ほっ」
藍子「ごほん。あれはっ、自作自演とかじゃなくて、私がその……、うっかりしてただけですっ」
加蓮「歌鈴と愛梨がこっちへようこそって顔で手招きしてるわよ?」
藍子「ううぅ~~~。そのお誘いは……だって、手のかかるうっかりさんだってモバP(以下「P」)さんに思われるのは、その、ちょっと……」
加蓮「うっわー、藍子ちゃん冷たー。あーあ、あの2人がどんな顔するかなー。きっとがっかりって感じで肩を落とすんだろうなー」
藍子「そういう罪悪感が生まれるようなこと言わないでくださいっ」
加蓮(……これ、つまり藍子は歌鈴達のことを"Pさんの手を煩わせる奴"って言ってるようにも聞こえちゃうけど……。ま、それは言わないであげとこ)
加蓮「ま、大丈夫大丈夫。何か賭ける訳じゃないし、ほら、ウインナーの方を当てれば勝ちって考えれば!」
藍子「そうですね。当てられたらラッキー、ってくらいで、気楽にやってもいいですか? それなら、楽しめそうっ」
加蓮「どーぞ。……ふふっ。この前絶対に勝ってやるーって意気込んでたのは、どこの誰なんだか」
――少しだけ経ってから――
※作者注:これ以降の「左」「右」は、明確な前置きがない限り「加蓮から見て」となります
加蓮「改めてだけど、目の前には生地が厚くて見えないクレープが2つ。片方はチョコ&イチゴでもう片方はウインナー」
加蓮「藍子は、朝ごはんが少なかったからがっつりウインナーでいきたい。私は答えを教えてもらってる」
加蓮「さらに言えば、このクイズは"隠す側が、自分の意志で左側と右側を決めること"が結構大切になってくるんだよね」
加蓮「だから、店員から答えを聞いた後に私は皿を両手に持って、シャッフルしたよ。もちろん最終的にどっちが正解なのかは知ってる」
加蓮「これでいいよね?」
藍子「はい。よろしくお願いしますね、加蓮ちゃん」
加蓮「ふふっ。どこからでも来てみなさい」
藍子「では――うんっ」
藍子「じ~」
加蓮「じー」
藍子「じぃ~~~」
加蓮「……、じー……」
藍子「じぃ~~~~~……♪」
加蓮「……、」チラ
藍子「あっ、加蓮ちゃん、目をそらした!」
加蓮「……今はにらめっこじゃなくてクイズでの勝負でしょ」
藍子「あは、そうでしたね」
加蓮「ほら、藍子? 勝負はもう始まってるんだよ。いつかの誕生日の時と違ってノーヒントのクイズなんだし、何か言ってくれないと私も反応しようがないよ?」
藍子「そうですね……。じゃあ、加蓮ちゃん。正解は――」ハッ
藍子「待ってください。ここで"正解は左ですか?"って聞いたら、それで質問回数が1回減ってしまいます!」
藍子「もしかして、それで質問の回数を減らそうとして……? 加蓮ちゃん、ずるいっ」
加蓮「ちっ」
藍子「あれ? でも、加蓮ちゃんは前に何度も私に、"正解はこっちかな? それとも、こっち?"って聞いていたような……?」
加蓮「……今の人差し指を顎の下に当てて首を傾げるポーズって、私の真似か何か?」
藍子「意識してみました。似ていましたか?」
加蓮「そこまであざといことした覚えはないんだけど」
加蓮「藍子、1つアドバイスをしてあげる。質問は3回だけど、質問形にしないで、かつ私が反応せざるを得ない言い方にすればいいの」
藍子「質問にしないで、加蓮ちゃんが反応しないといけない言い方……。なるほど。え~っと……」
藍子「――正解は、加蓮ちゃんから見て、右のクレープですよね」キリッ
藍子「こんな感じですか……? 質問ではなくて、確認のつもりで言ってみましたっ」
加蓮「そうそう! こういうルールって穴をつくのが常識だからねー」
藍子「騙し合いの常識なんですね……。加蓮ちゃん、こういうの強そうっ」
加蓮「弱くはないと思うよ。で、右のクレープが正解だって? あははっ、そうかもしれないねー」
藍子「……正解は、加蓮ちゃんから見て、左のクレープですか?」
加蓮「質問形になってるけどいいの?」
藍子「ああ~っ。うぅ、難しい。いっ、今の無しでお願いしますっ」
加蓮「しょうがないなぁ」
加蓮「こういうのも慣れればいいの。藍子にとってのダンスレッスンと同じ。騙し慣れてないなら騙し慣れればいいの」
藍子「……できれば、人をダマすことには慣れたくないですね」アハハ
加蓮「盗賊の次は詐欺師の役が来たりして?」
藍子「それはPさんからお話が来ても断りますっ。やるなら加蓮ちゃんがやってくださいっ」
加蓮「ほー。私なら詐欺師をやっても違和感ないと。私なら"乗った!"って言って飛びついてくると」
藍子「違いますか?」
加蓮「……、うん、違わないかもね」
藍子「それに加蓮ちゃんなら、Pさんからお仕事のお話が来たら、すごく喜びそうだから――」
加蓮「はーい余計なこと言わなーい。また蹴るよー?」
藍子「ふふ。は~い」
□ ■ □ ■ □
藍子「加蓮ちゃんは、私の手の力や、目線を見てぴたりと当てたんですよね」
加蓮「そうだね」
藍子「でもクレープは、手には入らないから……あの時みたいに、手の力で判断するのは難しそう」
藍子「他に、なにか手がかりになることはあるかな……? う~ん……」
加蓮「いい感じいい感じ。さ、どこからでもかかってきなさい」
藍子「では、1回目の質問です。加蓮ちゃんは、店員さんに答えを聞いてから、お皿を両手に持って入れ替えましたよね」
藍子「その時に加蓮ちゃんは、最初の答えと入れ替えた後の答えを、同じにしましたか?」
加蓮「んーと。例えば最初の答え――。答えって"ウインナーの方"ってことでいい?」
藍子「じゃあ、それで」
加蓮「オッケー。で、最初の答えが左だったとして、混ぜた後も左にしたかどうか、ってことだよね」
加蓮「答えはノーだよ。やっぱり、正解はこっちっていうのは自分で決めたいでしょ?」
藍子「なるほど~」
加蓮「ま、"最初に決まってた答えの逆にした"ってだけだから、完璧に自分で決めたっていうのも変な話だし……」
加蓮「うーん……。そう考えると、このクイズメニューってちょっと微妙なのかもね」
藍子「へ?」
加蓮「やっぱりこういうクイズって、出題……はともかく、答えって出した側が全部決めるべきだと思うの」
加蓮「だから、例えば最初に置く皿の方向もお客さんに決めてもらうとか……」
加蓮「いや、でもここまで2択クイズにガチになるのって私達くらいなのかも……。普通はテキトーにパッと決めて、当たったー、外れたー、ってくらいで終わるような……。軽くやるだけならいい感じなのかな?」ブツブツ
藍子「……くすっ」
加蓮「む。何がおかしいの」
藍子「おかしくなんてありませんよ。加蓮ちゃんも、すっかりカフェのお客さん――ううんっ、カフェの住人さんだなって♪」
加蓮「……一応私、これでも住んでる家があるんだけど?」
藍子「もちろんそうですね。私だって、カフェに住んではいませんから」
藍子「だから、これは例え話なんです。1箇所のカフェに、長い時間いたら……他のお客さんと、時間を共有している気持ちになれませんか?」
藍子「同じ場所で、同じ時間を過ごしてて……。そこに、のんびりした気持ちが加わって」
藍子「そうしたら、なんだかまるで、同じ家に住んでいる住人さんみたいだなって。そう思うことがあって……」
加蓮「ちょっと前に流行ったシェアハウス的なの?」
藍子「あっ。それが近いかもしれませんね。ってことで、加蓮ちゃんもカフェの住人さんの仲間入りですっ」
加蓮「なるほど。家出します。探さないでください」
藍子「なんで~っ」
加蓮「手のかかるノロマで面倒くさくて目の前の勝負から逃げようとするアホな妹がいるから」
藍子「そこまでっ!? かっ、加蓮ちゃんこそ……ええと……。口がうまくて頭が回ってイタズラが得意で真面目すぎる、あっ、あほな妹さんじゃないですか!」
加蓮「くくっ。慣れてないのに無理しちゃって。それ褒めてない? ……で、勝負から逃げようとするのはよくないと思うんだけどなー?」
藍子「はっ。そういえば、今はクレープ当てのクイズをやってる途中でしたね」
加蓮「藍子にかかるとなんでもゆるふわ化するなぁ。もうちょっとピリピリしたのが好きなのに」
藍子「私は、勝負ものんびりしていきたいけれどなぁ……」
藍子「でも、加蓮ちゃんが相手ですもん。……ごほんっ! 2つ目の質問です!」
藍子「これは、質問っていうより、加蓮ちゃんにやってほしいことかもしれません」
加蓮「へぇー? 加蓮ちゃんにやってほしいことがあるんだー。藍子のためならなんでもやっちゃうよー」
藍子「ふぇっ? ……う、ううんっ。今は勝負してる時だもん……」
藍子「やってほしいことって言うのは……加蓮ちゃん。"こっちがオススメだよ!"っていうお皿を、私の方に出してください!」
加蓮「……地味にキツイこと言うね」
藍子「ほらほらっ♪」
加蓮「ったく。いい気になっちゃってさー。外したら後でいっぱい煽ってやるからっ」
加蓮「さて、どうしよっか……」
藍子「……♪」ジー
加蓮「それなら……こっち。左の方にするね」
加蓮「はい、こっちがオススメだよ?」スッ
藍子「こっちが、加蓮ちゃんのオススメなんですね?」ジー
加蓮「……まぁね」
藍子「ありがとうございますっ。あとは――」ジー
加蓮「……クレープをじーっと見ても、生地が厚いから中が透けることはないと思うけど」
藍子「じ~」
加蓮「聞いてない」
藍子「じ~……」
加蓮「今度は私の方見てきた。……じー」
藍子「じ~~~」
加蓮「じー」
藍子「じ~~~~~」
加蓮「……藍子ちゃーん? そんなに私の顔をじーっと見てどうしたのかなぁー……?」
藍子「じ~~~~~~~」
加蓮「うー……」
加蓮(……未だに慣れない、いや、違うんだよね。前と今とで)
加蓮(じーっと見られて、耐えきれなくて目を逸らす理由。今は藍子を見続けてると……)
藍子「……」ショボン
加蓮「……ん? どうしたの藍子。急に悲しそうな顔して」
藍子「ううん……。やっぱり私では、加蓮ちゃんみたいに、相手の目や動きを見て正解を当てるのって、できないんだなって……」
加蓮「あー。まぁ……私のはちょっと特殊なんだし、できなくてもおかしくはなくない?」
藍子「そういうことじゃないですっ」
加蓮「それに藍子はいつも私の考えてることを当ててくれるでしょ? ちらっと見るだけでさ。心を覗き込んでるかのように」
加蓮「当ててほしくないことまで容赦なくね」ボソ
藍子「あはは……。あれは私がすごいんじゃなくて、加蓮ちゃんが顔で言ってるからだと思うな……」
加蓮「顔で言ってる」
藍子「顔に出ていますもん。私のことを見て、って、加蓮ちゃんが思っている時に」
加蓮「……あー……。分かるような分かんないような」
加蓮「じゃあ今は顔に出てないんだ、私。これでも結構期待してるんだけどなー? 藍子ちゃんがズバッと正解を引き当ててくれること」
藍子「……、」
藍子「加蓮ちゃん。3つ目の質問、いいですか?」
加蓮「ん」
藍子「加蓮ちゃんが嘘をつくのが嫌いっていうこと。それは、今もそのままですか?」
加蓮「……、」
藍子「もし私が加蓮ちゃんの何かに気付けても、それが本当のことかどうかなんて、私には分かることができません」
藍子「もしかしたら、加蓮ちゃん自身も……強がりだったり、嘘だったり、本当のことは分からないのかも」
藍子「だから、教えて? 加蓮ちゃんが、今でも嘘が嫌いかどうかってこと」
加蓮「……、」
加蓮「ま、嫌いだよね。嘘をつかれて生きてきた人生の中で、嘘をつきようもないくらいに素直で、まっすぐに手を伸ばしてくれた子と出会ったんだから」
加蓮「綺麗なものを知ってるから、汚いものが余計に嫌いになる、ってことかな……」
藍子「加蓮ちゃん――」
加蓮「まぁそいつは手のかかるノロマで面倒くさくて目の前の勝負から逃げようとするアホだけど」
藍子「加蓮ちゃん!?」
加蓮「あはははっ。ごめんごめん。なんか今日はシリアスって気分じゃないかも」
藍子「……もうっ」アハハ
加蓮「不思議なんだよね。この前藍子と勝負した時は割と真面目にいけたのに。なんか今日はビミョーなの。……やっぱりこれも藍子のゆるふわのせいかな?」
藍子「そろそろ違う理由も探しましょうっ。きっと何かあるハズです!」
加蓮「違う理由かぁ。……マジなとこ、こういうクイズとか企画とかって1から作らないと気がすまないタイプかも。私」
加蓮「ほら、ちょっと前からさ。アイドルやってる時も、Pさんと企画のことを話したり、私ってちょっとだけプロデューサー側に回ってるっていうの? そんな感じなんだよね」
藍子「よくミーティングルームで楽しそうに会議してますよね。前を通った時に、声が聞こえてきたことがありましたっ」
加蓮「げ、聞かれてたんだ。変なこと言ってなかった? 私」
藍子「大丈夫。私が聞いたのは、加蓮ちゃんとPさんの楽しそうな声だけで……。それでつい足を止めてしまいましたけれど、内容までは聞こえませんでしたから」
加蓮「ほっ。でもこのメニューは、私達がモデルになってるかもしれないけど私の作った物じゃない。ビミョーに乗り切れないんだよね」
加蓮「もちろんこのメニューのことを悪いとか思わないし、モデルにするのも全然オッケー」
加蓮「なんならメニュー名に私と藍子の名前を入れてもいいくらいなんだよ?」
藍子「それは私の方が遠慮したいような……」
加蓮「ふふっ。っと、それでも勝負は勝負だよね。っていうか、勝負から逃げようとするアホって藍子のこと煽ってんのに、私が逃げちゃダメだよね」
藍子「まず煽るのをやめればいいと思うのに……。それと、これだって勝負ですよ」
加蓮「そう?」
藍子「加蓮ちゃん風に言うなら……。敢えていつも通りみたいにお話をして、相手のスキを窺う――実はこれは、そういう作戦なんですっ」
加蓮「なっ……! 藍子がそんな高度な作戦を!」
藍子「私だって、加蓮ちゃんにいっぱい鍛えてもらいましたから!」
加蓮「ぐぬぬ。すっかり藍子に騙された……!」
藍子「ふっふっふ~」
加蓮「……ところでその作戦で何か分かったことはあったの?」
藍子「……」
加蓮「さっきの罵倒に1つ追加。なんかそれっぽいこと言うけど結局頭はパッション」
藍子「だから、パッションを悪口みたいに言うのはやめて~っ」
加蓮「うやむやになりそうだったけど、さっきの質問の答えは"YES"。嘘は嫌い。つくのも、つかれるのもね」
藍子「分かりました。……よかった。本音まで偽られたら、もう私には加蓮ちゃんが見えなくなっちゃいますから」
加蓮「そろそろ1時間経つけど、正解は分かった?」
藍子「そうですね……。今回は、あんまり自信がなくて。こっちなのかな? ってくらいですけれど、それでもいいですか?」
加蓮「いいよ。っていうか自信満々の方が怖いんだって。私の考えたことを全部ドンピシャで当ててくるような……あれはあれで嬉しいけど……」
藍子「正解は、こっちっ。加蓮ちゃんから見て、左の方!」
加蓮「へーぇ。どうしてそう思うの?」
藍子「そうですね……。加蓮ちゃん、嘘をつくのは嫌いなんですよね」
藍子「もし、それでも嘘をつかないといけない時があったら、きっと加蓮ちゃん、嫌そうな顔をすると思うんです」
藍子「さっき、私がオススメを聞いた質問の時、加蓮ちゃんは悔しそうにしながら、」
加蓮「してない」
藍子「でも嫌そうな顔は――って、えっ? でも、そうきたかー、みたいな顔をして……」
加蓮「いやいや。あれ演技。あれ演技だから」
藍子「……じゃあそういうことにしておきますね。嫌そうな顔はしていなかったから、嘘はついていなくて、正解は本当に左側なんだなって思って」
加蓮「他にはある?」
藍子「他には……。う~ん」
加蓮「1つ目の質問の時とか。なんか分かったこととかないの?」
藍子「……特にありません。だから、今回はあまり自信がないんです」
藍子「加蓮ちゃんの言った、最初からぜんぶ自分で企画したクイズではないから、そうなのかもしれませんねっ」
加蓮「そ……」
藍子「……? えっと……間違っていたらごめんなさい」
加蓮「何? なんか思い出した?」
藍子「もしかして加蓮ちゃん、私に見抜かれたいって思っていたり……?」
加蓮「うぇ゛!?」
藍子「根拠を聞いたり、今も、何かを思い出してほしいっ、って感じに見えたから」
藍子「もしかしたら、加蓮ちゃんの気付いていないことを私が気付いていてほしかったとか、見抜いてほしいって思っていたりとか、そう見えちゃって」
加蓮「いやいや。それ演技。それも演技だから」
藍子「どれですか」ジトー
加蓮「演技って言えば演技なの。ほら藍子。そういうことにしといてよ」
藍子「……私も1つ、さっきの言葉に追加しておきますね。"本当は自分のことをじ~っと見てほしいくせに、ものすごく意地っ張りな女の子"」
加蓮「ここに来てガチの罵倒を入れるのやめなさいよ!」
藍子「だってそうにしか見えませんもんっ!」
加蓮「ほら、さっさとクレープ食べるよ! 藍子の言った方で正解なんだからっ」
藍子「よかった。じゃあ、いただきま――」
加蓮「……まだ何か言いたい悪口でもあるの」
藍子「それはないですよっ。そうじゃなくて……。加蓮ちゃん。正解したってことは、私の勝ちってことですよね」
加蓮「そうだね。……半分ゆるふわに呑まれてたとはいえ改めて言われると腹立つねー」
藍子「景品をくださいっ」
加蓮「は?」
藍子「この前だって、加蓮ちゃんがピタリと当てたから、もう1つ髪飾りをプレゼントしたじゃないですか。今、つけてくれているのを」
加蓮「小さい紫陽花の花飾りなんて今しかつけれないし、そうだけどさ」
藍子「私だって、何かもらう権利があります。あるハズです! だから、何かくださいっ」
加蓮「いや……景品っていっても。……そう。今回はやる前に景品の話をしてないじゃん。メニューを注文しただけ!」
藍子「なっ――」
加蓮「ってことで景品はありませーん。いただきまーす」
加蓮「もぐっ……うん、美味しー♪ 生チョコが甘い分イチゴの酸っぱさがいい感じに出るね。あっ、でもふんわり溶けてく感じもいいかもっ」
藍子「……………………」
加蓮「分厚い生地は歯ごたえになるし、食べてて満足するってヤツ?」
加蓮「ほら、藍子も食べなよ。この生地にウインナーがどうなるか気になるし。藍子が食べないと、私も一口もらえないでしょ?」
藍子「……、」ガサゴソ
藍子「……もしもし? お母さん? うん、今加蓮ちゃんと一緒にいるの。いつものところ」
加蓮「えちょ、」
藍子「今日迎えに来てもらってもいいかな? それと、晩ご飯は加蓮ちゃんの分も――あははっ、そんなに張り切らなくても、大丈夫だよ?」
加蓮「ちょ、藍子?」
藍子「うん。お願いねっ」ピッ
加蓮「……藍子ちゃん?」
藍子「はい、何ですかっ♪」
加蓮「それは卑怯じゃないかな?」
藍子「なにのことでしょうか」
加蓮「何って」
藍子「勝負に勝ったからっていうお話ではありませんよ。私はただ、なんとなくお母さんに連絡したくなって、そのついでに加蓮ちゃんも連れて行こうかなって思っただけで――」
加蓮「連れて行くって時点で故意犯でしょうが!」
藍子「クレープ、いただきま~す♪ ぱくっ……わっ、美味しい! 生地が分厚いから、ウインナーの味は強めにしたのかな? ぱさぱさしていなくて、すぐにお腹がいっぱいになっちゃいそうっ」
加蓮「……」ガクッ
加蓮「……藍子の家に行ったらもっかい勝負するわよ。今度は題材も1から作って。勝ったら私は藍子の家から脱出する!」
藍子「じゃあ、私が勝ったら加蓮ちゃんは1週間私の家でお泊りですね。絶対に負けられないですっ」
【おしまい】
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