双葉杏「GANTZ?」 (64)


下腹部に鋭い痛みがゆったりと走る。
杏の血が床を赤く染めていた。
警備員さんが男の人を取り押さえる。

杏「ああ、あ……」

きらり「杏ちゃん……!」

杏「何だか眠いよ……きらりぃ……」

きらり「ダメだよ杏ちゃん!死じゃいやぁ!」

杏「杏……ちょっと……休憩…す……………」



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“朝だ夜明けだ潮の息吹き♪”

遠くの音楽がゆらゆら近づいてくる。
目覚ましアラームをかけた覚えはないぞ。

“うんと吸い込むあかがね色の♪”

「ちょっと!」

“胸に若さ漲る誇り♪”
“海の男の艦隊勤務♪”

「起きて!」

“月月火水木金金♪♪”

杏「うぅ……最悪じゃないか……」

目を覚ますとそこはマンションの一室。
コンクリート張りの無機質で冷たい部屋。

「よかった。やっと起きたね」

杏「ここは……」

杏を起こしてくれたのは。
透き通るような白い肌の金髪美女だった。


金髪女「まさか
こんな子どもが来ちゃうなんて……」

杏「ん……?」

明らかに異質なモノに気づく。

大きな黒い玉。
その表面には文字が表示されていた。

【貴様達の命は無くなった。】
【新しい命をどう使おうと私の勝手。】
【という理屈である。】

杏「んんん?」

文字は続けて浮き出る。

【貴様達には今から】
【こいつを排除せよ。】

【ミミズ星人】
【特徴。長い、黒い、複数】
【好物。髄液】
【弱点。光】

杏「何なの……これ……」


すると突然、黒い玉の側面が飛び出した。
そこにはたくさんの銃が収納されており
その隙間からは……。

杏「え……!」

人間が見えた。

金髪女「とりあえずこれ着て!」

いきなり手渡されたのは黒いスーツ。
ヒーローとか仮面ライダーが着るような。

この女の人も着ている。

金髪女「早く!」
杏「そんなに言うなら着るけど……」

金髪女「はい!バンザイして」

杏「着替えさせてくれるの?」
金髪女「うんコレ、着るの難しいから」

杏「それじゃあお言葉に甘えて……ばんざーいっと」


杏「まさか下着まで脱ぐことになるとは……」

金髪女「これ本当にピッタリだから……」

【健闘を祈る。】
【00:59:58】

ジジジジジジジ

杏「ちょっと!お姉さん!
腕が無くなってるよ大丈夫?」

金髪女「転送が始まったの」

杏「て、転送ぅ?」

金髪女「いい?あなたもどこかに
転送されるけどできるだけ隠れててね
必ずむかいにいくから……!」

杏「そうした方がいいならそうするけど……」

金髪女「もし見つかったら全力で逃げ」

話終える前に彼女の姿は完全に無くなった。
さっきの話が本当ならどこかに転送されたの?


ジジジジジジジジ

杏「わっ!わわ!」

杏はお腹から上下に消えていく。

杏「う、うぇ~……」

その断面からは内蔵が見えた。

ジジジジジジジジ

ジジジジジジジジジジジジ

黒い玉の部屋から杏の身体は消えた。

【00:58:03】


杏「お、おぉー」

杏「本当に転送された……!」

夜中。周囲は田んぼに囲まれていた。
お姉さんはもちろん他の人の姿も見えない。

杏「隠れる場所なんてないじゃん」

月明かりを頼りに、杏は歩く。

杏「あぁ……何なんだろうこれ……」

杏「夢なのか?」

杏「このスーツも、あの玉も意味わかんないし……」


杏「よし!プロデューサー!それかきらり!」
杏「今だけは杏を叩き起こすことを許そう!」

杏「…………」

杏「そんなわけないか」
杏「妙にリアルだもんなぁ」

これが現実だという確信は一応ある。


杏「携帯もないし……」
杏「ここ東京じゃないよねー」

杏「…………?」

杏「何だ?あの穴……」

田んぼに大きな穴があいていた。
底が見えないほどの深い穴だ。

杏「落ちたらひとたまりもなさそう…」

ぼんやり穴を覗いているとあることに気づく。

杏「何か……動いてる?」

底が見えないんじゃない。
黒い何かが穴の奥で密集しているんだ。

怖くなって後退る。

杏「ひぇっ」

足にロープのようなものが巻き付いていた。
杏はトテンとしりもちをつく。

黒いロープがくねくねと動いて杏の目の前までくる。

杏「ロープじゃない……」

ーーー【ミミズ星人】

杏「……ミミズ!しかもデカっ!!」
とっさにそのミミズを振り払った。

すると想像以上の勢いでミミズは吹き飛び
ぶつかった外灯をへし折った。

杏「…………え?」
杏「こ、このスーツ……?」

ゾゾゾゾ

杏「!」



ゾゾゾゾゾゾゾゾ
ゾゾゾゾゾゾゾゾ
ゾゾゾゾゾゾゾゾ

何かが這う音が幾重にも重なる。

杏「うそだよね……」

穴からは何千、何万という
ミミズがゾロゾロクネクネと出てきていた。

杏「うううっ気持ち悪ーっ!!」
とっさに後ろへ跳び跳ねる。

杏「うぇ?」

次の瞬間、杏は上空にいた。
雲より上ではないけど電柱や外灯より上。

杏「わ、わぁあああっ!」

何が何やら分からないまま杏は
田んぼと田んぼを分けている車道に落下する。

そして背中を強くうちつけた。はずなのに。

杏「ぜ、ぜんぜん痛くない」

杏「やっぱりこのスーツ……」


ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾッ

杏「げっ!」

ミミズの軍勢が迫りくる。
じっくり考えてるヒマはない。

ーーーー【こいつを排除せよ。】

杏「これがゲームなら
ターゲットを倒すまで終わらないよね……」

杏「信じるしかない……」

このスーツを!

アスファルトの車道は一本道。
舗装されていないらしく一筋の亀裂が入っている。

杏はその亀裂に指を突っ込んだ。

杏「んぐぐぐぅ!」

全身に力が出るよう集中する。

キュイィィィィンッ

すると杏の身体から変な音が鳴り出した。
いやスーツからか?

スーツが青い光を放ち
筋肉のように膨張し始める。

杏「もう……少し……!」
アスファルトの板が地面から離れ始めた。

デカミミズたちは一斉にこちらへ向かってくる。


杏「とりゃあっ!」

長いアスファルトの板がひっくり返し返り
ミミズの一団をズシンと押し潰す。

杏「……ゲームクリアか?」

杏「す、すごいなこのスーツ。
身体能力を増幅するんだ……」

ゾゾ……

杏「ん?」

ゾゾゾゾ……

杏「うそ……!」

ミミズは潰れてなんかいない。
アスファルト板の下敷きになっただけだ。

ゾゾゾゾゾゾゾゾ……

板ごとミミズたちは動き始める。

杏「うう……。こうなったら……!」

杏は跳び跳ね、
思い切りミミズ達の上の板に着地した。

そしてミミズ達はびちゃびちゃと潰される。

しかし割れた板の隙間や端の方から
潰れるのを逃れた
数十匹のミミズが襲いかかってきた。


杏「んなっ……!」

青い閃光が杏の目の前に現れる。
そしてとてつもない速さでミミズ達を処理していった。

右手、左手、右足、左足。
その全てからムチのような速さ、
剣のような鋭さで攻撃が繰り出される。

最後の一匹をしなやかな蹴りで
真っ二つにすると彼女は振り向いた。

頬がミミズの黒い体液で汚れてしまってはいるが
相変わらず端正な顔立ちの綺麗な人。

金髪女「自己紹介がまだだったよね……」

金髪女「私はメアリー」

メアリー「メアリー・マクレーン」

メアリー「一応言っておくけど外国人じゃないし
英語も喋れないよ」


杏は黒い玉の部屋へ戻された。

杏「またここか……
何となく予想はしてたけどさー」

ジジジジジジジジ

そして次の転送が始まった。
おそらくメアリーだろう。

「にゃはー!」

杏「ってあれ?」

メアリーだと思っていた口元から
能天気な言葉が漏れた。
少なくともメアリーの声じゃない。

「すっごいねーキミ!」

転送が終わるとそこにいたのは
小豆色の長い髪をした少女だった。
可愛らしいけどどこか妖艶さも感じる。

女の子「こーんなおチビちゃんが
星人を倒しちゃうなんてさー」

女の子「キミの身体にぃ
何かヒミツでもあるのかな??」

女の子は杏の肩に手をおいて鼻を近づけてくる。

女の子「ハスハス。分析なのだ~」

杏「過大評価されたくないから言っとくけど
杏はこれでも17歳だよ?」

女の子「おーじゃあ、あたしの1っこ下かぁ」


杏「杏がここに来たときには
メアリーしかいなかったよね?」

女の子「あたしもいたよー?隠れてただけでね」
玄関の方か他の部屋にでもいたのか?

杏「隠れるって……何でさ?」

女の子「えーだって、
ここはどこだーとか星人ってなんなんだーとか
いろいろ質問攻めにされるのヤだもーん」

杏「それは確かにメンドくさいかも……」

女の子「メアリーの説明も必要最低限というかー
説明したらそれで終わりって感じなんだけどね」

女の子「キミが……、杏ちゃんが
子どもに見えたから
今回は面倒見がよかったのかも」

ジジジジ

メアリー「お疲れ様。2人とも」

杏「あ、メアリー」
いつのまにかメアリーの転送が完了していた。

杏「メアリー…さっきはありがとう……」

メアリー「ううん気にしないで」

女の子「ねぇメアリー
この子17歳だってよー?」

メアリー「えっ!?」


メアリー「ま、まぁ星人と戦ってたし
ただの子どもじゃないとは思ってたけど……」

チーーーーーン

杏「なになに?今度は何なんだ?」
女の子「採点の時間だよ」

【それでは採点をはじめる】

杏「採点?」

【メアリー】
【13点】【TOTAL70点】
【あと30点で完了】

メアリー「こうやって倒した
星人の強さとか数で点数が決まる」

【杏】
【7点】【TOTAL7点】
【あと93点で完了】

杏「これ完了?するとどうなるの?」

女の子「そりゃあ……」

【志希】
【0点】【前線に出るべし】
【あと55点で完了】

志希「ゲームクリアでここから解放されるんだよ~」


志希「入って入って~」
杏「お邪魔しまーす」

黒い玉の部屋のから出られた杏は
志希の家に来ていた。家というかガレージ。

杏「おー結構広いね」

志希「散らかっててごめんねー」

杏「いいよいいよ
杏の部屋も似たようなもんだし」

杏「まったく……
地方の握手会へ来てるときに
こんなことになるなんてなぁ」

志希「杏ちゃんってアイドルなんだよね?」
杏「うん。わりと有名なんだぜ」

志希「じゃあ今ごろニュースになってるかもね」

杏「ニュース?何で?」

志希「そりゃそうでしょー
いくらシキちゃんがテレビ観てないからって
それくらいは分かるよ~」

そう言って志希は
テレビのスイッチを直接オンにした。


テレビにニュース番組が映る。

『ニュースをお伝えします』

『今日昼過ぎ岩手県で行われていた
アイドルの握手会イベントで』

『男が参加していたアイドル
双葉杏さんを包丁で突き刺しました』

杏「…………えっと」
杏「これは……」

ーーダメだよ杏ちゃん!死じゃいやぁ!ーー
そうだ……。杏はあの時、刺されて……。

志希「杏ちゃん?」

志希「ごめん……もしかして
自分が死んでるって気づいてなかった?」

杏「ハァ……ハァっ……」
息が苦しい。

志希「あの部屋には
死んだ人間が集められるんだよ……」

杏「……思い出したよ。
杏はあのとき刺されて……」

………………死んだ?

ニュースキャスターは淡々と話す。

『双葉杏さんは病院に搬送されましたが
意識はまだ戻っていません』

志希「って、あれ?」
杏「……杏、死んでないの?」


ガレージの小窓から夕日がこぼれる。

志希「ふにゃあ~。おはよー杏ちゃん」

杏「やっぱり夢じゃなかったんだ…」

何だかんだで杏たちが寝たのは
明るくなってからだった。

志希「どうするの?帰っちゃうのー?」

杏「帰るにしても
杏が2人もいたんじゃなー……」

志希「じゃあさ」
志希「どうするか決まるまでここにいなよー」

志希「あたしキョーミがあるんだ杏ちゃんに」

杏「えっ!養ってくれるのー?」

志希「養うのだー」

杏「ありがとう志希~!」


デパート。

志希「まずはー服を買わないとねー」

現在ある杏の服は
あの部屋から持ってきていた黒い服と
握手会のとき来ていたアイドル衣装だけ。

どっちもコスプレ同然。

今着ている志希の服も
あまりにもブカブカだった。

志希「うんうん似合う似合う~」

杏「ちょっと暑苦しくない?」

大きなフードのある長袖パーカーに長ズボン。

志希「下に着てるスーツが
見えないほうがいいでしょ?」

杏「このスーツ着てる必要あるの?」

志希「大ありだよ
持ち帰ったときは常に着てた方がいいよ」

ゾクリ

杏「ひっ」

背筋に寒気が走った。

キィーン

そして耳鳴り。

志希「ほらね着てた方がいい」

杏「か……身体が動かない…………」

ジジジジジジジジ

転送が始まった。


また黒い玉の部屋。

そこにはもうメアリーがいた。

杏「メアリー」
メアリー「杏、スーツは着てる?」

杏「うん着てるよ」
パーカーをめくってみせた。

メアリー「よかった……」

志希「珍しいよねぇ2日連続なんてさ」
志希は上着を脱ぎながら言う。

ジジジジジジジジ
男「な、なんだここ!?なんだよお前ら!!」
知らない男が転送されてきた。

杏「あれ?」
志希がいつのまにかいなくなってる。
違う部屋にいった様子なんてなかったのに。


“朝だ夜明けだ潮の息吹き♪”

黒い玉から例の音楽が響く。

“うんと吸い込むあかがね色の♪”

男「何なんだよこれぇ!!」

“胸に若さ漲る誇り♪”
“海の男の艦隊勤務♪”
“月月火水木金金♪♪”


【貴様達の命は無くなった。】
【新しい命をどう使おうと私の勝手。】
【という理屈である。】

男「はぁ!?意味わかんねぇよ!」

杏「落ち着いてくださいお兄さん
気持ちは分かりますけど」

男「黙れ!くそガキ!」

【貴様達は今から】
【こいつを排除せよ。】

【犬星人】
【特徴。犬、素早い、強い】
【好物。人肉】
【弱点。水】

男「おい何なんだよ!
お前らなんか知ってんなら説明しろよ!」

メアリー「私たちは今からこの
犬星人を倒しに行かなくちゃいけない」

メアリー「そのためには
このスーツが必要だから着て」

男「おいおいイカれてんのか?」


【健闘を祈る。】
【00:59:59】

ジジジジジジジジ
メアリーの転送が始まる。

メアリー「杏、気をつけてね」
メアリー「特徴に強いって書かれてる敵は……」
メアリー「すごく危険だから」

ジジジジジジジジ

杏「……危険……ねぇ」
このスーツ着てれば大丈夫なんじゃないの?

男「くそっ何なんだよ!」
男の人ははりつめた場の空気を察したのか
急いでスーツを着はじめる。

志希「そこにある銃持っていったほうがいいよ」
耳元で志希の声が聞こえた。

でも志希の姿は見えない。
杏「志希?」

少し間が空いて男の転送がはじまる。

男「お、おい何だよ!何だよこれぇ!!」

杏「スーツ着替え終わっててよかったですね」

そして杏の転送がはじまった。

杏「この変な銃……」
おもちゃみたいだけど志希が言うんだから
持っていったほうがいいんだよね。

黒いハンドガンを手に取った。


夜の田舎町が視界に広がる。

杏「あー。早く帰りたい……」
杏はいくあてもなく歩きだす。

「おらぁ!」

杏「んぇ?」
近くで男の声が聞こえた。
声とした家の庭を覗いてみる。

男「くらえっ!!」
そこには柴犬を蹴飛ばす男がいた。
さっき黒い玉の部屋に来たばかりの男だ。

杏「ちょっと何やってるんですか!」

犬は小屋から離れた場所でぐったりしている。

男「ああ?
犬星人とかいうのを倒すんじゃねぇのかよ?」

杏「どうみたってただの飼い犬じゃん!」

男「知るかよ!」


男「さっさとトドメ刺してやる」

杏「……トドメ?」

……あれ?

杏「お兄さんそこの柴犬
蹴ったんですよね?手加減なしで」

男「あ?そうだけど?」

おかしくない?

ミミズのときは
振り払っただけで真っ二つになって
ぶつかった外灯をへし折ったのに。

それどころかあの犬は死んでもいない。

犬「グルル……」

杏「やばっ……」

犬「グルァッ!!」

杏「逃げて!」

男「あぁ?」


犬「グァン!」

とてつもない跳躍力で
犬は男の人にとびかかった。

男「うぐぁ!!」

犬「グゥアァッ!!」

男「クソ!離れやがれ!!」

犬はスーツを噛んで引っ張る。

男「おら!おら!おらっ!!」

男は犬のお腹を何度も殴る。
しかし犬はスーツを離そうとしない。

杏「あのスーツの力が通じてない……?」

犬「グルルルルゥ!」

ビリッ

男「この野郎……っ!」

ビリリリリリリッ
ついに男のスーツが破れた。

杏「こんのー!」
働く覚悟を決める。
スーツの光が増し、膨張する。


杏は犬の首根っこをつかんで
男の腕からひっぺがした。

杏「ごめん!」

そしてそのまま犬を投げ飛ばす。

犬は大気圏へ突入するような勢いで
地面に追突し巨大な亀裂を生んだ。

杏「はぁはぁ……」

男「くそっ!何なんだよ!
意味わかんねーよ!」

犬「グルルルル!!」

犬は再び起き上がる。

杏「これは確かに“強い”かもなー……」

男「ひぃっ!」
男は犬の反対側へと逃げる。


杏「これで杏とコロの1対1だねー」

コロ、この柴犬の名前だ。
小屋にそう書いてあった。

コロは真っ直ぐ杏へ突撃する。

杏「おもちゃじゃありませんように……!」

ヘンテコ銃を構えてトリガーを引いた。

カチッ

杏「…………あれ?」

コロ「ガァアアアッ!」
コロが杏の腕に噛みつく。

杏「この……離せ……!」

再びスーツが膨張を始め、
杏はコロを何度も何度も殴り付ける。

しかしコロは噛むのを止めない。

ビリッ

杏「え!」

ビリリリリリリッ

杏のスーツが腕部分から大きく破れた。


杏「……なっ何ぃーっ!?」

ヒュウウウウウ

機械の電源が落ちるような音がした。

そしてスーツに付いている
円形の金具からも
ドロリと謎の液体が流れ出た。

杏「な、何これ……」

コロはスーツの破れた部分を吐き捨てて
再び襲いかかってきた。

杏「うわっ!!」
咄嗟に右腕を前に出す。

グシャ

杏「へ?」
コロは杏の右腕を
いとも簡単に噛み千切った。

杏「うわっわっ、あ、あっ、あ」

杏「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」


痛い!痛い!痛い痛い痛い!!

右腕がない!!
コロが貪り食べてるじゃん!!

杏「返してよ!杏の腕ええええ!!」

あのスーツが機能してたから
コロの攻撃もそれなりに耐えてられたんだ……。

コロ「グブッギャブッギャブッ」

コロは今、杏の腕に夢中。

杏「に、逃げないと……」

全身の抜けた力を再び集めて立ち上がる。
ビチャビチャビチャア
道路に大量の血液がこぼれた。

杏「はぁ、はぁはぁ……っ!」

足を一歩ずつ前に出す。

逃げる……逃げないと……!


橋の上までさしかかると

ピンポロパンポンピンポロパンポン

杏「なにっ、うるさー……」
頭の中から変な音が聞こえる。

しかもそのすぐ先には男の死体。
頭が無くなってる。
着ているスーツを見るに
さっきの逃げた男だろう。

杏「もしかして……エリア外?」

コロ「グルルルァアッ!!」
そして後ろからはコロ。

杏「あー帰りたい……」

コロ「ギャンッ」
杏「あっ!」

肩に噛みつかれる。

左手で引き離そうとしてもビクともしない。
どんどん牙が肩の肉に食い込んでいく。

肩を抉られるのも時間の問題だ。

杏「このっ」
身体を振り回して
コロから逃れようとするが。

杏「あ」
バランスを崩して杏は橋から落っこちた。


ザブーーーン

杏「ぐはっ!はぁっ……げほっ!」

杏の血が川の水にまざる。

このまま溺れ死ぬか、
出血多量で死ぬか、
コロに食べられるか、

生きる道はなさそう……。

こんなことなら
きらりに会っておきたかったな……。

コロ「ギャアァギャァ」

プロデューサーにも……。

コロ「ギャンムギャアンムアァアッ」

意識不明の杏よ……。
ちゃんと起きるんだぞ
私はもうダメそうだから……。

コロ「グガァアギャアアァアッ」

杏「もううるさいぞ……コロ
せっかく杏が干渉に浸ってるのに」


杏「ってあれっ」

コロ「ギャァアアアッ」

杏「どうしたんだコロ!?」

コロはまるで
酸にでも浸かったように
身体が溶けていっている。

杏「あ……そっかそういえば」

ーー【弱点。水】ーー

やがてコロは跡形もなく消えた。

杏「いやコロに擬態した何か……か」

ジジジジジジジジ

杏「わっ」

杏の転送がはじまる。
今回はこれでゲームクリア?

杏「本当に…………
死ぬほど働いてしまった……」


メアリー「お疲れ様」

志希「おぉー
今回も生き残れたんだね~♪」

黒い玉の部屋。

杏「杏も生きてるのが不思議だよ」

杏「右腕もあるし……」
手を握ったり広げたりして確かめる。

志希「何ー?無くなっちゃってたのー?」
メアリー「苦戦したんだね……それもそうか」

チーーーーーン

【それでは採点をはじめる】

【メアリー】
【20点】【TOTAL90点】
【あと10点で完了】

【杏】
【10点】【TOTAL17点】
【あと83点で完了】

【志希】
【10点】【TOTAL55点】
【あと45点で完了】

杏「志希とメアリーにも
点が入ってるってことは他にも敵がいたんだ」

メアリー「ごめんね助けにいけなくて」


杏「それはいいんだけど……」

杏「……志希!」

志希「はにゃあ?」

杏「どういうことなんだ!
この銃ぜんぜん使えなかったぞー!」

志希「あートリガー上だけしか
引かなかったんでしょ」

志希「この銃は
上下のトリガー両方同時に引かないとー」

杏「それを先に言ってよ……」

メアリー「でも武器に
頼りすぎるのもよくないし
これはこれでよかったんじゃない?」

メアリー「基本は身体、格闘なんだから」

志希「メアリーは武器に頼らなすぎー」

メアリー「う、うるさいな……」


その夜、杏はメアリーに誘われて山奥にいた。
半強制的に連れてこられた。

着ているスーツのおかげなのか
疲れは全くない。
けれど私みたいな人間は
こんなに移動すると蓄積した疲労に関わらず
こう口に出してしまうのだ。

杏「うー疲れたー……」

メアリー「この辺りでいいかな」

数時間はかかるであろう山道を
このスーツは数分に短縮する。

メアリー「それじゃあ
この辺りで訓練しようか」

杏「うう……
訓練とかレッスンとか苦手なんだよね」

杏「なるべく短くね?」

メアリー「それは杏次第」

メアリーはふてきに笑った。


メアリー「ふっ」

杏「んっ!」

メアリー「とっ」

杏「くっ!」

その後も杏はメアリーの攻撃をかわし続けた。

メアリー「うん。動きは
だいぶ板についてきたかな」

杏「いきなり
レッスンだなんてどうしたの?」

メアリー「素質のある人には
頑張ってもらわないとね」

杏「杏にそんなものはない!」

メアリー「そんなことないよ
志希の他に2回目も生き残ったのは
杏が初めてなんだから」

杏「…………まぁでも
戦い方を教えてくれたのは
素直にありがたいかな」

杏「嫌でも戦わないといけないんでしょ?」

メアリー「そうだね
あの部屋から解放されたいなら戦わないと」

杏「まぁなるべく
死なないようにはするよ」

杏「ありがとねメアリー」

立ち去ろうとすると
メアリーが杏の手首をつかんだ。

メアリー「次は攻撃の訓練だよ杏」

杏「い、いやだーっ!」


志希のガレージ。朝。

昨日の夜メアリーに絞られた杏は
志希の元に帰るとすぐに深い眠りについた。

杏「むぐぐ……」

まだまだ惰眠を貪りたいんだけど
なんだか寝苦しい。

重いまぶたをあけてみる。

志希「すぅすぅ」

杏の体にすがりつくようにして
志希が寝ていた。

杏「ちょっと志希ー苦しいって」
志希の頬をグイグイと押し出す。

志希「杏ちゃんおはよ~」

志希「んーー
杏ちゃんやっぱりいい匂い~♪」

杏「くふっ、ふふっ!
ちょお腹に顔当てながら話さないでよ」


志希「ねぇー杏ちゃーん
シキちゃんともレッスンしようよ~」

杏「えー昨日の今日で
何でそんなことしないといけないのさ」

志希「メアリーは武器の使い方
教えてくれなかったでしょー?」

杏「それはそうだけど……
スーツさえあれば大丈夫なんじゃないの?」

志希「そんなことないよー
犬星人にはスーツ破られちゃったんでしょ?」

杏「うぐぅ……それはそうだけど」

志希「まぁ武器も壊されちゃったり
効かなかったりするから」

志希「メアリーに教えてもらったことは
決してムダではないんだけど~」

志希「杏ちゃんの体型だと素手での
戦闘は適さないんじゃない?」

杏「ん~そうなのかなぁ」

志希「それに武器で戦ったほうが楽だよ?」

杏「……楽!?」

杏「まぁ確かにゲームでも
装備無しだと苦労するもんね……」

杏「よし志希の口車に乗ろうじゃないか!」


志希が持ってきていた武器の説明を受けて
実際に使ってみたりもした。

銃口がX型のXガン。
射程距離は10メートルほどで
標的にダメージが入るまで
数秒のタイムラグがある。

同じく銃口がX型のXライフル。
射程距離は1キロ程で威力も高い。
しかしXガンより数倍も大きく
杏には特に取り扱いが難しかった。

銃口がY型のYガン。
光るワイヤーを打ち出して
標的を拘束。
そのまま空に転送されるらしい。
Xガンとは違いタイムラグがない。

スーツコントローラー。
携帯型ゲーム機みたいな見た目で
スーツのポケットに収納されていていた。
星人の居場所を把握できるらしく
周波数?を操作することで透明になれるとか。
志希はそれで隠れてたんだな。

最後に刃が黒い刀、ブレード。
柄のスイッチで
刃の長さを自在に変えられる。
岩や鉄、何でも斬れてしまうらしい。

杏「んー杏のお気に入りは
Yガンとブレードかなぁ」

志希「おー通だねー」

杏「タイムラグは無い方がいいもん」

ゾクリ
寒気が走る。

杏「わっまた転送される?」

志希「え……?何で……?」

志希「まだ昼間なのに……」

ジジジジジジジジジジジジ


ジジジジジジジジジジジジ

杏「またこの強制出勤か……」

杏「これで三連勤だぞ!」
杏「杏は週休七日を希望するぅ!」

志希「メアリーこれどういうこと?」
志希「こんな昼間に
呼び出されるなんて今までにあった?」

メアリー「いや私もこんなこと初めてだよ」

杏「緊急ミッションってこと?」

例の音楽もならないで
唐突に星人の情報が映し出される。

【黒服星人】
【特徴。黒服、強い】
【好物。人間の血液】
【弱点。太陽光】

表示された情報とともに映る男は
人間そのものだ。

メアリー「何これ人間じゃん……」

杏「でも前の犬星人も
犬の形をしてただけで犬じゃなかったよね」

志希「人間に擬態している星人……」

【健闘を祈る。】
【00:59:59】

ジジジジジジジジジジジジ


ジジジジジジジジ

メアリー「何ここ……工事現場?」

黒服「うお!本当に出て来やがったぞ」
黒服「おーい準備しろー」

黒服星人12体。



ジジジジジジジジ

志希「はにゃ?森?」

黒服「おしさっさと片付けるぞ」

黒服星人3体。



ジジジジジジジジ

杏「何だぁこの廃墟?」

黒服「おいお前ら来たぞ」
黒服「ははっガキじゃねぇか!」

黒服星人10体。


杏「こいつら……」
杏がここにくることを知ってた?

スーツコントローラーで確認する。
やっぱりこの黒服たちが星人らしい。

黒服「駆除開始ー」

黒服たちの手のひらから
日本刀や拳銃が出現する。

黒服「いくぞぉ!!」

黒服「おらぁ!!」

杏「なっなんだーっ!?
話合うことはできないのかぁ!」

黒服たちが斬りかかってきたので
迫り来る5本の刃をかわした。

次に残りの5人が銃弾を放つ。

私は腰に携えていた
ブレードで全ての銃弾を弾いた。

杏「嫌だな……」

この黒服たちが
人間でないのは分かりきっている。

でもやっぱり人の形をした
生物を殺すのには抵抗がある。

杏「すぅーはぁ」
杏「これはゲーム。これはゲーム。」


【00:55:46】

黒服「おらぁ!!」
杏「とっ!」

ズシャアアッ

杏は黒服の刀をかわして
腹部を斬りつけた。

黒服「ぐはぁっ!」

杏「1」

【00:55:45】

黒腹「んのやろぉっ!」
黒服「くそが!!」

2人の黒服が斬りかかってくる。
杏は黒服の脚の間をすり抜けてその背後に回った。

ズシャアアッ

黒服「ぐぁっ」
黒服「があ……!」

杏「2、3」

【00:55:43】

黒服「チョコマカしやがって!」

杏はブレードを伸ばす。

勢いよく伸びたブレードが
黒服の胸をグサリと突き刺った。

黒服「ふぐっ!」

杏「4」

【00:55:42】

黒服「早く撃っ……!!」

伸びたブレードをそのまま
横にスライドさせる。

黒服「飛べえええぇっ!!」

ザザザザザン

後方で銃を構えていた
黒服たちの身体が切断される。

杏「5、6、7、8、9…………」

【00:55:40】


黒服「おいおいマジかよ……!」

1匹の黒服がジャンプして
ブレードをかわしていた。

振ったブレードをそのまま離す。

黒服が地面へ着地する前に
Yガンを取り出し構える。

黒服の足が地面に付いたのと同時に
Yガンのトリガーを引いた。

黒服「なっ!」

Yガンから放たれた
ワイヤーが黒服に巻き付く。

杏「…………10」

【00:55:38】

黒服「くそっ!ざけんなっ!!
離せくそガキ!」

杏「Yガンか……。
生け捕りできるのも良い所だね」

杏「あのさーお兄さんたち何者?」
杏「何が目的なの?」

黒服「誰が言うかよ‥‥!!」

杏「じゃあいいや
そこまで知りたいわけじゃないし」

杏はブレードを拾いあげた。

黒服「ま、待て待て待て!!」

杏「何?どうしたの?」

黒服「お、俺たちは……‥‥吸血鬼だ」

杏「吸血鬼ぃ?ヴァンパイアなの?」


黒服「あ、ああ……」

杏「それでー?」

黒服「俺たちの食料は人間……」

黒服「俺たちは
食物連鎖の頂点になるはずだった」

杏「はずだった?」

黒服「お前ら……
黒い機械の服を着た連中さえいなければな」

黒服「お前らは俺たちの天敵‥‥
吸血鬼の目的は黒い機械の服を着た連中を
根絶やしにすることだ」

杏「ふーんそうだったんだ」
私たちの存在を確認してる星人もいる‥‥‥‥。

杏「さっきから
俺たち俺たちって言ってるけど」

杏「他にも吸血鬼がいるの?」

黒服「……そうだ」

杏「こんなところにもいるってことは
全国にいるってこと?」

黒服「いや……俺たちは出張だ」
黒服「吸血鬼のほとんどは東京にいる」

杏「と、東京?」

きらりが……みんながいる東京に
こんな危険なやつらがたくさんいる?

黒服「も、もう俺は何も知らねぇ!
頼むから助けてくれよぉ!」

杏「んー……お兄さんは
杏がそう言ったら助けてくれてた?」

黒服「……っ!」


杏「まぁいいや」

杏「別に殺したいわけじゃないし
殺さないでって頼まれれば殺しはしないよ」

杏はYガンを黒服に向ける。

黒服「おい!話がちげぇぞ!」

杏「大丈夫大丈夫
これ死なないやつらしいから」

黒服「そんなやつがあるのかよ…!?」

杏は再びYガンのトリガーを引いた。

ギョオッ

一筋の光が天井を貫いて
黒服の頭に当たる。

ジジジジジジジジ

黒服は上へ
吸い込まれるように消えていく。

黒服「うお、あ、ああお、おおおお!!」

杏「どこに転送されたのか
分かったら連絡ちょうだいねー」


杏「さてと…」
コントローラーを確認した。

まだ星人の反応がいくつかある。

杏「はぁー。いった方がいいのかなー
めんどくさいなー」

杏「でもあいつら結構強かったよね…」

勝てたのはたぶん
あいつらが杏を子どもだと思って
油断してたからだし……。

杏「んんんんんんんんん!」

杏「いくか…………
いったほうがいいよねぇ……」


【00:12:24】

杏「この辺りに1つ反応があるけど……」

とりあえず杏は
廃墟から一番近い森の中にきていた。

杏「わっ!」

頭の爆散した
黒服の死体を2つ見つけてしまった。

杏「う、うわぁ~」

メアリーは素手だろうから
こんな倒しかたはできない。

杏「ってことは志希かな……?」

杏「おーい志希ー!」

黒服「来たな。援軍」

木の影から現れたのは
タバコを咥えた金髪の男。

右手には刀。左手には……。

杏「し、志希……?」


その黒服の左手には
志希の頭部だけが握られていた。

黒服「シキ?」
黒服「ああ、こいつか」

黒服「ったく苦労したぜ」

黒服「幹部クラスを2人も
殺っちまうんだからな」

黒服は志希の頭をぽいと投げ捨てる。

黒服「大損害だぜ」

杏「うわああああああっ!!」

杏は黒服に突撃する。

黒服「お前はすぐに殺れそうだ」

黒服はタイミングを合わせて刀を振った。
杏の首に刃が触れる。

杏「…………」

あ。

まずい。

これ。

しぬ。


メアリー「はっ!!」

ドガッ

黒服「うおっ!」

杏の首が切り落とされるより前に
黒服にメアリーの蹴りが当たった。

ザザーッ

黒服は後退る。

杏「メアリー!!志希が!志希がぁ!!」

メアリー「分かってる!
でも今は落ち着いて!お願いだから!」

杏「はぁはぁっはぁっ」

杏「こ、これ……これは……っ」

ゲームなんだ……!

頭に音楽が流れ始める。
有名なRPGゲームの戦闘BGM。

杏「はぁはぁっ、はぁ……」

メアリー「大丈夫?」

杏「うん少し落ち着いた
ありがとうメアリー……」


メアリー「杏準備はいい?」

杏「うん…大丈夫……」
ブレードを構える。

黒服「2体1かよ」

メアリー「はぁっ!」
杏「とっ!」

黒服はメアリーの蹴りを屈んでかわす。

かわしたところに
杏がブレードを振り下ろす。

しかし黒服の刀に受け止められた。

黒服の手に銃が出現。
メアリーに3発の銃弾を撃ち込む。
それと同時に杏のお腹を蹴った。

メアリー「……!」
メアリーは身をねじって銃弾を避ける。

黒服「おっやるね」

杏「ぐぅ!」
杏は蹴られた勢いで後方の木に衝突した。


杏「……くらえ」
ブレードを伸ばして
黒服の背後から横薙ぎにする。

大丈夫。黒服の正面にいた
メアリーにはブレードが見えてる。

メアリー「っと」
メアリーはとび跳ねた。

黒服「!」
黒服もそれを見てとび跳ねる。

黒服の靴の裏側が薄くスライスされた。
黒服「あぶねぇな、おい」

メアリー「…っ!」

空中でメアリーが蹴りを放つ。
黒服は上体を反らしてそれをかわした。

2人は同時に着地する。

ギョオッ

その瞬間。
杏は黒服に向かってYガンを撃った。

黒服「おらっ!」
黒服は飛んできたワイヤーを刀で切断する。

メアリー「せいっ!」
その隙にメアリーの蹴りが直撃した。
黒服は吹っ飛んで体勢を大きく崩す。

メアリー「っ!」

黒服「脚もーらい」

蹴りをおみまいした
メアリーの脚は切り落とされていた。


杏「……っ!」
すかさず杏は黒服に斬りかかる。

黒服「ふっ!」

ギンッ!

しかし受け止められた。

杏「はあああああああああっ!」
黒服「うおおおおおおおおおっ!」

黒服の刀と杏のブレードが
何度も何度も衝突し火花を散らす。

そしてついに。

ズシャアアッ

黒服「なっ……!」
黒服の肩から胸にかけて
深い切り傷を与えた。

杏「……う」
しかしブレードを握っていた
両腕が杏の元から無くなっている。

ドサッ

杏の両腕が
ブレードを持ったまま地面に落ちた。

黒服に切断された。


黒服「くそっマジかよ……!」

黒服「こんなガキが……」

杏「うぅ…うう……」
メアリー「く……くそ…………」

立っているのは黒服だけだ。

黒服「こいつらは危険だ……
早く殺さねぇとな……」

けど立っているのがやっとらしい。

黒服「げほっ!ぐふっ!」

【00:00:00】
ピーーーーーーーーーーーー。

ジジジジジジジジ

黒服「やべぇ……!」
黒服「待ち……やが……れ!」

ジジジジジジジジジジジジ


黒い玉の部屋に帰ってきた。

メアリー「はーっ!はーっ!」

杏「はぁ……はぁはぁっ……!」

志希はいない、帰らない。

チーーーーーーン

【それでは採点をはじめる】

【メアリー】
【ー90点】【TOTAL0点】
【ふりだしに戻る】

【杏】
【ー10点】【TOTAL0点】
【ふりだしに戻る】

杏「…………」
メアリー「……杏…」

メアリーはそっと杏を抱き寄せた。

杏「メアリー…私、東京に帰ってみる」

いつ死ぬか分からない。
もしかしたら次が最期かもしれない。

最後に一度だけきらりやみんなに会いたい。

メアリー「うん……気をつけて」


翌日。東京。病院。

パーカーの下に着ているスーツ。
そのステルス機能を利用して
私は双葉杏の病室まで来ていた。

双葉杏はベッドで眠りこけている。
そのすぐそばにきらりが
心配そうな顔をして椅子に座っていた。

顔色が悪い。目が赤い。隈もある。

これじゃあ
どっちが入院してるのか分からない。

例えば……。例えばなんだけど。

この双葉杏を
Yガンでどこかに転送してしまえば。

私もきらりもみんな元通りの生活に
戻れるんじゃないのだろうか。

私が双葉杏と入れ替われば………………。

杏「…………ふが」

きらり「……はわ、わぁ」

杏「ん……おはよー。きらり」

きらり「杏ちゃん……!杏ちゃん!?」

杏「えっと……今、朝だよね?」

きらり「おはにょ……おっはにょー☆」

杏「おう何だよぅいきなりー!」

きらりは力強く
けれど優しく双葉杏を抱きしめる。


杏「おーよしよし仕方ないなぁ」

きらり「よかった……!
本当によかったにぃ!」

杏「きらり……」

きらり「そうだ!みんなに知らせないと!」

きらり「プロデューサーに電話してくるね!」

杏「飴よろしくって伝えといてー」

きらり「りょーかい!びしっ☆」

きらりは病室の外に出る。

今なら双葉杏と私の2人きり。

意識が戻ろうと
私が彼女の代わりになることはできる。

カチャ

双葉杏にYガンを向ける。

杏「まったく……やっぱりみんな
杏がいないとだめなんだからなー」

杏「おちおち眠ってらんないよ」

“杏がいないとだめ”…か……。


きらり「うん!そう!
あと飴もよろしくだって☆」

きらり「じゃあまたねっ!」

杏「きらり」

きらり「うきゅ?杏ちゃん
歩いて大丈夫なの……?」

杏「うんまぁね」

きらり「いつの間にか服もかわってるよ?」

杏「まーね」

きらり「……杏ちゃん?」

杏「ありがとね、きらり」

杏「きらりがいたから
私はアイドルを続けられたし
何だかんだで楽しめたんだと思う」

きらり「杏ちゃん?どうしたの?
とっても悲しい顔してるにぃ……」

杏「だからこれからもよろしく頼むよ」

杏「…………杏のこと」

きらり「杏ちゃんまって!」


プロデューサー「おお、きらりここにいたか」

きらり「あ、Pちゃん、あっちに杏ちゃんが……」

プロデューサー「杏?
杏なら病室で飴ころがしてるぞ?」

きらり「はにゃあ??どゆことぉ!?」


夜。病院の屋上。

杏「結局……杏は消せなかったなぁ」

杏「たぶんもう私は
元の双葉杏には戻れない……」

杏「私は本当の双葉杏じゃないんだ……」

ゾクリ
またこの寒気。

私の居場所はもうあそこしかない……。

私は二つ結んであった髪をほどいた。


ジジジジジジジジ

「なっ何だこれ!?」

「また一人来た!子どもかな?」

「俺らも…こんな風に出てきたのか?」

杏「……えっ?」
杏「どこ……ここ……?」

「キミも死にかけたのかい?」

杏「……?……?」

「ああ、僕ってばダメだ
子どもにこんなこと……」

黒い玉がある部屋。それは変わらない
だけど間取りも床も壁も違う。

何よりメアリーがいない!

窓の外の電飾が目についた。
杏「あれ……東京タワー?」

じゃあここは東京?
東京の黒い玉の部屋ってこと?

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