如月千早「眠れない夜」 (20)
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~~♪ ピッ
千早「……誰よこんな時間に」
??「だ~れだ?」
千早「ああ、その声は」
千早「『ポジティブ赤リボン』」
天海春香「それ私の登録名じゃないよね?」
千早「今何時だと思ってるの?」
春香「午前2時」
千早「踏み切りに?」
春香「望遠鏡を?」
千早「担いで行って寝なさい」
春香「徒労じゃん」
千早「で、こんな時間に何で電話してきたの?」
春香「単純に眠れなくて」
千早「自分の首絞めてたら眠れるわよ」
春香「サイコパスみたいな入眠すすめてくるね」
春香「だから眠たくなるまで私とお話して?」
千早「嫌よ。私は眠たいし、春香の電話長いから肩がこるのよ」
千早「……!」
千早「やっぱり少しだけ話しましょうか」
春香「千早ちゃん。肩がこるから胸が大きくなるんじゃなくて、胸が大きいから肩がこるんだよ」
千早「くっ」
千早「じゃあおやすみなさい」
春香「あっ、待って! 私が悪かったから!」
千早「私明日6時起きなのよ」
春香「6時なの? 私なんて5時だよ!」
春香「私の方が早いんだから少し付き合ってよ」
千早「春香が私より朝早いのが何?私の睡眠時間が削れることとどんな関連性があるの?自分より朝早い人が居たらその人が寝るまで寝てはいけないの?それに朝5時起きってことはたぶん仕事だと思うのだけれどそれなら早く寝て万全の状態で仕事に臨むようにするのがプロじゃないかしら」
春香「めっちゃ正論で殴ってくる」
春香「じゃあせめて私が眠たくなるような子守唄歌ってよ」
千早「分かったわ。歌います」
千早「『inferno』」
春香「寝れないよね」
千早「大体なんで寝れないのよ」
春香「実は怖い夢見ちゃって……」
千早「私なんて今怖い現実と戦ってるわよ」
春香「それはほんとごめんだけど」
春香「だから誰かの声を聞きたくて」
千早「なるほど。それなら別に私じゃなくても良い話よね?」
春香「ううん。千早ちゃんじゃないとダメなんだよ」
千早「……それならしょうがな――」
春香「他の人誰も電話に出てくれなくて」
千早「さよなら」
春香「OK。失言は認める」
千早「それでどんな怖い夢を見たの?」
春香「……言わなきゃダメ」
千早「別に言わなくてもいいわ」
春香「そう? 案外優しいね」
千早「ただ、こんな深夜に電話をかけてきて、少しも詳細を話さないことにものすごく軽蔑はする」
春香「正論で反論できなくするのやめよう!」
千早「まあ、後は春香の良心に任せるわ」
春香「あー、恥ずかしいからあんまり言いたくなかったんだけど……」
千早「……!」
千早「春香、何となく言いたいことは分かったわよ」
春香「ホント?」
千早「ええ、私と春香の仲じゃない。以心伝心よ」
春香「すごいね千早ちゃん!」
千早「おねしょしたのね」
春香「両生類あたりと繋がってない? その心」
千早「自分が哺乳類だと思ってたの?」
春香「まさかの反論ですよ」
千早「じゃあ何よ」
春香「千早ちゃんがいなくなっちゃう夢を見たんだ」
千早「そんなこと?」フッ
春香「あっ、今笑ったでしょ! 失礼だよ!」
千早「違うわ。眠る前の愛の囁きよ」
春香「その返しは無理矢理すぎるよ」
千早「まあ、それは置いといて」
春香「逃げたね」
千早「私がいなくなる夢なんて見たの?」
春香「うん。だから私は千早ちゃんの声が聞きたかったの」
千早「『如月千早 CD 即日お届け』で検索」
春香「それでは解決しないし、しれっとCD購入させようとしてるし」
春香「私は千早ちゃんの生の声が聞きたかったの」
千早「眠いから電話切ってもいいかしら?」
春香「その生の声ではなくてね?」
春香「千早ちゃんが居なくなってないか確認の為に電話したって面もあるからね」
千早「私をそこら辺の野良猫か何かと勘違いしてないかしら?」
春香「それはないよ。野良猫の方がもっと表情あるもん」
千早「私に色んな表情をさせない春香が悪い」
春香「私は千早ちゃんの彼女じゃありませんが?」
春香「まぁ、千早ちゃんの声を聞けて安心したよ」
千早「それならもっと早い段階で電話を切っても良かったじゃない」
春香「せっかく電話繋がったのにすぐ切るのは勿体ないと思って」
千早「私は睡眠時間の方がもったいないと思うわ」
春香「そうだね。じゃあそろそろ寝るよ」
千早「ちゃんと首絞めなさいね?」
春香「おやすみって意味だよね? いやその意味で言ったのだとしても意味分かんないけど」
春香「それじゃおやすみ」
千早「待って、春香」
春香「何? あっ、もしかして実はもっと話したいとか?」
千早「さっきの『五・七・五・七・七』じゃないわよ?」
春香「何故辞世の句を詠ませようとするの? 千早ちゃんにとって眠る=死なの?」
千早「冗談よ。おやすみなさい」
春香「はいはい。おやすみ」
春香「『また明日も 澄んだ歌声 聞かせてね 私にとっての 活力になる』」
千早「春香のそういうとこ好きよ」
ピッ
千早「ふぅ……それにしても春香ったら、私がいなくなる夢を見ただけで電話をかけてくるなんて」
千早「私がいなくなる訳ないのにね、私を救ってくれたこの事務所から。それに――」
千早「かけがえのない親友もいるのにね」
千早「ふふっ」
千早「さて、私も眠ろうかしら」
ピッ
千早「もしもし春香、寝れないのだけど……はぁ!?『首絞めたら?』って何バカなこと言ってるの!サイコパスみたいなこと言ってないで子守唄の一つでも――」
END
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
お目汚し失礼しました。
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