千早「欲望に負けた私は」 (57)
「気づいたら春香に睡眠薬を盛って誘拐していた」
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私は何も悪くはないわ
だって仕方ないでしょう?
目の前にまだ図鑑にも載っていない
珍しい生き物がいたとき
人は必ず捕獲したりしてしまうでしょう?
それと同じようなことだわ
目の前に天使がいた
どうしても捕まえたかった
どうにかして捕まえた
ただそれだけのこと
だから何も問題はない
もしも問題があったというのなら
それは天使が天使であったせいだわ
だから何度でも言うわ
私は何も悪くない
「すぅ……すぅ……」
「……ふふっ、よく眠っているわね」
髪の毛をそっとかき分けて
見える春香のおでこに優しくキスをする
寝ている間に唇を奪うなんて
そんな常識の欠けたことはさすがにしないわ
「すぅ……すぅ……」
微動だにしない
ちょっと多く薬を盛りすぎちゃったのかもしれないわ
それはそれで
春香の可愛い寝顔を長く見られるのだから
嬉しいのだけれど
「というより、起きたら不味いんじゃないかしら」
事務所から私の家までタクシーで運んだけれど
春香にしてみれば、事務所から私の家に瞬間移動したようなものだものね
「ちょっと待ちなさい。何も問題ないわ」
事務所で眠ってしまいそうだったから
私の家に連れてきてあげただけでしょう?
なにも困ることなんてないし
なにも不味い事なんてないわ
「んっ……」
「春香、服が……ぁっ」
寝返りをうったせいで
春香の服が乱れて私の理性が乱されてしまったわ
「こほんっ」
さ、さて。私が直してあげないといけないのだけれど
服を直すのは良いが
別に、春香の体に触れてしまっても構わないわよね?
……も、もちろん偶然ならよ?
「柔らかいわね……春香の体」
寝返りをうったからか
温められていた部分が表になっていて
温かく
触れるとふにっと反発して私の指を弾こうとする
春香から抱きしめられることはあっても
私から抱きしめるなんてことはなかった
抱きしめたりなんかしたら
その感触の虜になって
もう二度と手放せなくなってしまいそうだから
「その考えは間違いではなかったようね」
服を直すつもりが
気づけば服を脱がしていたのだから。
この世界は何が起こるかわからないということを
私は再度肝に銘じさせられた
でもまだ大丈夫
気づくことができた以上
理性は戻ってきてくれたわ
もう二度と手放したりしないから安心して、春香
今から服を着せてあげるから
下着にまで手をかけることはなくて良かった
下着を履かせるなんて
考えただけで倒れそうだもの
「……春香、もう少し寝ていて頂戴」
「すぅ……すぅ……」
春香の静かな寝息をBGMに
私は繊細かつ迅速な手つきで春香の服を再度着させることに成功した
何度も着て、脱いだことある春香の服だからこその技術
よかったわ
あのレッスンは全て無駄じゃなかったのね
いっそ、このまま2人で居たい
一人でいるこのマンションの一室は楽しくない
今まではそれでいいと思ってた
ただ一人で生きて歌さえ歌えればいいと思っていた
でも、それじゃダメだと貴女が気づかせた
それでは寂しいと、悲しいと、苦しいと
楽しくもなんともないと……貴女が気づかせた
「知っているかしら。春香が泊まりに来てくれる日を、私はいつも楽しみにしているのよ」
自分のスケジュール、春香のスケジュール
すべてをしっかりと把握して
春香が朝早い仕事があるときの前々日に食料を買い込み
春香のどんな要望にだって答えられるようにしているし
春香のために買った布団は毎日洗濯したり、干したりして100%の清潔を保っているわ
それも全部、貴女に傍に居て欲しいから
今日は大丈夫だからと、手を振り駅に向かう貴女の後ろ姿
それを見送る時、私はいつも……苦しいの
辛いのよ、寂しいのよ
冬なんかはね?
一緒にいてくれる時は温かい右肩がとても冷たく感じるの
夏なんかはね?
貴女が駄々をこねて買うアイスを
一口だけと言いながら半分分けてくれる冷たさが
とても恋しくて……いつも買ってしまうの
「……春香」
どうして貴女は遠くにいるの?
どうして私は遠くにいるの?
一緒にいたい、その温かさも、冷たさも、優しさも、心が救われるその笑顔も私は欲しい
……貴女一人手に入れられればそれで全て叶う
なのに、世界はそれを強欲だと遠ざけているの?
だから……貴女の家はあんなにも遠いの?
既成事実を作りたいと考えたこともあったわ
それさえ作れば
貴女はもう私から離れていくことはないって
でも、世界は残酷だわ
私は女で、貴女も女
既成事実なんて作ることはできないし
もしもどちらかが男であるなら
そもそも出会うことすらできなかったのだから
「でも、それでいいとも思っているわ」
強引な手段で手に入れたとしても
貴女の笑顔には欲しかった明るさがなく
貴女の優しさには温かさがなく
貴女の温かさには心がない
そうでしょう?
本当に欲しかった心は、手に入る頃には壊れてしまっているのだから
そっと優しく春香の頬をなぞり
たどり着いた柔らかな唇
寝息が漏れて爪の間に入り込んだり
皮膚を流れていくせいか擽ったく感じる
もしも私が常識を損ない
理性を投げ捨てて貴女にキスをしたら怒る?
それとも、受け入れてくれるかしら?
「……言われなくても答えは解る」
貴女は私に何かがあったんだって心配してくれるのよ
自分が無理やり唇を奪われたことなんて忘れて
私が心に傷を負って人肌が恋しかったんだろうと
優しさゆえの勘違いをしてくれる
「……春香。私は貴女を」
好きなのよ
どうしようもないほどに
貴女のことを、私は好きなの
高槻さんと春香は仲が良くて
好きとか可愛いとかいつも言い合っているのを見て
微笑ましいと思うと同時に、妬ましく思うことさえあった
どうしてそんな簡単に好きだと言えるのか
どうしてそんな簡単に可愛いと言えるのか
私は家に泊まりに来て欲しいということさえ
春香の仕事が朝早いという条件でもない限りできないのに
私だって好きだと言いたい、可愛いって褒めてあげたい
なのにいつも、すごいわねって言う事しかできない。似合ってるわねとしか言えない
そのせいで、春香と買い物に行くのが怖くなった
自分とは行かない方が春香も楽しいはずだからって
ほかの人と行けばって……断ることが多くなった
こんなにも貴女を愛しているのに、言葉は貴女を遠ざけてしまう
嫌よ……このまま貴女がほかの誰かのものになるのなんて
このまま、貴女が私との関わりを絶ってしまうなんて
絶対に嫌なのよ。春香
そんな強い思いでさえ言うことはできず
こんな風に誘拐することしかできなかった
強い思いが起こした行動は
貴女にとっては迷惑なことだから
きっと私を軽蔑して、離れていくんでしょう?
だからそうなるくらいなら
欲望に忠実に
貴女のすべてを蹂躙してやりたいことをすべてやって
貴女に嫌われる方がまだいいと思うの
どちらにせよ貴女を失う
なら、心と体に
貴女のことを永遠に忘れないほど強く思い出を作った方が得でしょう?
「んっ……ぅ? ぁれ? 千早ちゃん?」
「……春香」
現実は残酷だ
いざやろうと決意すると、私の邪魔をするのだから
中断
千早ちゃんは愛が重いんじゃない、一途なんだよ
「ここ……千早ちゃんの家だよね?」
寝ぼけ眼をこすりながら
寝起きの頭を動かすこともなく春香はそうだと気づいてくれて
それが嬉しかったのは言うまでもない
「ええ。春香が事務所のソファで眠ってしまったから連れてきたのよ」
「そっか、寝ちゃったんだ……ごめんね?」
「ううん、良いのよ。貴女だって疲れているのだから」
謝らないで、春香
悪いのは私、貴女は何も悪くないわ
私が春香の飲み物に睡眠薬を仕込んだのだから
……そう、正直に言う勇気なんてない
「でも、千早ちゃん。何か話があるって言ってなかったっけ?」
「そうかしら? ほんの些細な世間話だと思うわ。別に良いのよ」
「それよりも迷惑じゃなかった?」
「え?」
「私の家に無断で連れてきちゃったでしょう?」
「ううん、ちゃんとした布団で寝れたからむしろ感謝してるし、私こそ迷惑じゃなかった?」
「いいえ、迷惑なんてとんでもないわ」
貴女には今まで助けられてきた恩がある
一生かけても返せないほどの大きな恩があるもの
なにより
一週間以上私という存在しかなかったこの家に
春香の匂いがまた補充されたことに感謝しているわ
これで私はまた、生きていける
虚しいけれど寂しくはなくなる
「えへへ、ありがと」
「ふふっ」
笑い返すだけ
どういたしましてなんて、心が引き裂かれても言えない
「起きて早々アレだけど」
「…………………」
春香が何かを言おうとする
春香が言って欲しくない言葉を言おうとする
口を塞いで言わせない?
そんなことしたら驚かれて嫌われて
もう金輪際話すことも出来なくなるわ
未来を賭ける勇気がなくて
私は私達を裂くために
世界が用意した悪戯を聞くことしかできなかった
「時間も時間だから、私帰るね?」
「ぁ……ぇ、ええ……」
「ごめんね? 明日何か作ってきてあげるから」
「私をお菓子で釣ろうとするなんて……」
言いたいことはそれじゃない
行かないでって、帰らないでって
おいしいお菓子に免じて許すわってせめてそんな妥協でもしたら良いのに
どうして。そんな意地悪を貴女は言うの? 如月千早
「あはは……やっぱだめ?」
「別に。なんでも良いけれど」
どうしてこうも素っ気ないのか
良いよ。と、どうして許すことができないのか
その理由は
春香が離れていこうとする理由を全て否定すれば
今のようにずっと傍にいてくれるのではないか
そんな絶望的希望を胸に抱いているからだ
「う~っじゃぁじゃぁ!」
「なにかしら」
「千早ちゃんの好きなお菓子を作ってきてあげる! 何が好き?」
「……好きなお菓子?」
私の好みにお菓子なんてない
市販のお菓子を食べることに意味はあるのかしら
結論は言うまでもなく
答えはもとより決まっているのよ
好みのお菓子と聞かれ
好みにはお菓子がないと思い
そもそも、市販のものを食べることがないことに気づく
「貴女が作ったものなら良いわ。別に、なんでも」
「そ、そんな投げやりな言い方は止めてよ……」
「お菓子なんて私はあまり食べないもの。仕方ないわ」
春香の趣味を
私は【なんて】と、見下した
そんなつもりはなかったはずなのに
気づいた瞬間、耐え難い罪悪感が心を蝕み
私に触れる空気の重さ、地中に引きずり込もうとする重力が何倍にも膨れ上がったような
そんな感覚に襲われ、私は俯いてしまった
「じゃぁ、お弁当を作ってきてあげる。それでどう?」
そんなことも露知らない私の親友であり
私の支えであり、優しい女の子は
そんな提案を出してきた
「お弁当? 貴女が?」
「何その反応……私だって料理できるんだよ?」
頬を膨らませ
怒ったように見せかける春香は
やっぱり可愛かった
「知ってるわ。貴女が泊まった時。作ってくれることもあったでしょう?」
「覚えてるならそこはほら、春香のお弁当!? 嬉しい! くらいは言ってくれないと」
誰と私をくっつけたのは知らないけれど
そういう反応はあまり得意じゃない
「美希達ではないのだから。無理は言わないで」
「む~……」
春香は小さく唸って
まっすぐ私のことを見つめてきた
「なにかしら。顔になにか付いているの?」
私が顔をそらせば
一緒に動いてまた顔を、目を見つめてくる
まるで中身まで見ようとしているかのように
「ねぇ、千早ちゃん」
「なに? 春香」
「何かあったの?」
春香の問いは私の動きを思考を
呼吸も、時間の流れさえも……全てを止めてしまった
「ちょっと変だよ」
「……いつもとあまり変わりないと思うのだけれど」
「うん。あまり変わりないけど。でも、【あまり】の部分が変なんだよね」
「例えば?」
「例えば、いつもよりも暗い。何か後ろめたいことがあるみたいだよ?」
「…………………」
春香は超能力者でもなければ
四条さんのように勘が鋭いわけでもない
なのにも関わらず
春香はたまにこうやって核心を付いてくるから怖い
「何もないわ」
「本当に? 私は千早ちゃんがそう言うなら信じるよ?」
「……………………」
「でももし、違うなら本当のこと言ってよ。私はいつでも千早ちゃんの味方でいたいから」
どうして?
どうして貴女は平然とそんなことを言えてしまうの?
これ以上……私を苦しめるのは止めて、止めてよ春香!
心の悲鳴は、悲劇を呼び起こしてしまった
「きゃぅっ」
「……………………」
強引に押し倒し
足を足で、手を手で
体には馬乗りになって押さえ込んでしまった
後戻りは、できる? できない?
きっとできない
リミッターの外れた私の頭は
目の前の少女を傷つけてしまえと
同等の苦しみを与えてやれと
凶悪な考えを次から次へと思い浮かばせてくる
「千早ちゃん……?」
「いつでも、味方でいてくれるのでしょう?」
「どうしたの? ねぇ……」
「味方でいるっていうことは、どんなことでも受け入れてくれるということよね?」
「千早ちゃん、なんか変だよ?」
「ええ、おかしいわ。狂っているわ。でも、受け入れてくれるんでしょう?」
抑えきれない欲望
目の前にいる春香を
私は押さえ込んでしまっているのだから
こうなった時点でもう、未来は捨てたようなもの
寝ている時にしようとしたことを
春香が起きている時にすることになっただけ
抵抗があるかないかの違い
「なんだか怖いよ……ねぇ、放して?」
「嫌よ。嫌。絶対に放したりしないわ」
ゆっくりと春香の顔に顔を近づけていく
生暖かいマシュマロのような唇
私に見えるのはその一点だけ
止めた方が良いという自分
ここまでやったんだからもう滅茶苦茶にしてしまえと誘う自分
私は後者を選んでしまっている
だからもう――……
「やめ……て?」
「春香……?」
唇が震えていて、漏れてきた拒絶
見開いた私の瞳は春香の顔を映し
ようやく、春香が泣いてしまっていることに気づいた
中断
「私は……」
「怖い、千早ちゃんが怖いよ……」
涙は頬に伝い落ちることなく
瞳を潤し溢れ出したものだけが
そのまま耳の方へと流れていく
乱れた服、流れていく涙
広がった春香の髪
「私は貴女が好きなの……」
ここまでしてしまったからこそ
拒絶されてしまったからこそ
もはや空気よりも軽くなってしまった
そんな言葉は、簡単に漏れ出し、抜けて消えていく
だけだと思っていたのに
「……こんな形で言わないでよ」
春香は、言葉を返してきた
「好きなら、こんな酷い事しないでよ……」
「ごめんなさい」
「好きなら、ちゃんと相談してよ……」
「ごめんなさい」
「好きなら、初めからそう言ってよ」
「ごめんなさい――……え?」
春香は恐怖をかき消し
ただただニコッと笑っていた
私がちょっとしたミスをすると
もう、しょうがないなぁ~と、呆れながらも
助け舟を出してくれる時の笑顔
「千早ちゃん、それが言いたかったから。話したいことがあるって言ったんでしょ?」
「それは……」
それは違う
確かに、音無さんや他のみんなも追い出して告白するには絶好の場所にしていたし
話したいことはたくさんあった、したいことはたくさんあった
でも、しようとしていたのは貴女を眠らせて家に連れて行くっていうことだけだった
「ごめんなさい、貴女に家に来て欲しかっただけ」
「どうして?」
「この家に一人でいることが……寂しかったの」
寂しくて、悲しくて
辛くて、苦しくて、恋しかった
天海春香という最愛の親友の存在が
この家の中からだんだんと薄れていくことが怖かった
「放して、千早ちゃん」
「え?」
「腕、放して」
春香は静かにそう言ってきた
それもそうよね
気持ち悪いし、寂しいからってこんなことまでする人なんて
親友でもなければ仲間でもなんでもないものね
今すぐ、逃げ出したいわよね
羽ばたく力を失った鳥のように、私の心は絶望に落ちていく
でも。
優しさと、温かさと、力強い何かが
私の心も体も、全部まとめて抱きしめてくれた
「ごめんね?」
「春……香?」
「気づいてあげられなくて……ごめんね?」
「どうして謝るの? 貴女は何も悪くはないのに」
春香は何も悪くない
私が全部悪い。何もかも
勇気を出せない弱い心だったのも
ここまで自分を追い込んだのも
何もかも全部私自身の責任なのに
「千早ちゃんがこんなにも思っていてくれてるなんて。寂しくさせていたなんて気付かなかった」
「それは、私が何も口にしなかったのがいけないのよ。春香は何も悪くないわ」
「ううん……嫌われるのが怖くて逃げてきた私がいけないんだよ」
「どういうこと?」
「私も……千早ちゃんが好きだってことだよ」
目の前にある春香の表情は
困り笑顔ではなく、申し訳なさそうな表情だった
「……春香、それは本当なの?」
「私は嘘はつかないよ」
それは知ってる
でも、だからこそ
この現実を現実と認識できなくなりそうなほどに
夢のような言葉を伝えてくれた春香が
本当は夢で、私は一人家のベッドで目を覚ますのではないかと
気が気でなかった
「夢だと思うなら、試してみる?」
「……ええ。優しくお願いするわ」
私を抱きしめる力が片腕分消え
頬を引っ張られる痛みに備えようと目を閉じる
けれど、痛みが来ることはなく、
その代わりに来たのは――優しいキスだった
「えへへっどうかな?」
「ぁ、あな、春、キ……」
「お味噌なら?」
「春香……今」
顔がものすごく熱い
熱いを通り越し痛みにさえなりそうなほど熱い
つまり、夢なんかじゃないことは確かだった
「うん、キスしたよ? 私だって恥ずかしいけど、夢じゃないって確かめたかったんだもん」
春香も同様に
耳まで赤くしながら
でも決して瞳を逸らすことなく答えた
「じゃぁ……春香は私を?」
「うん、好きだよ? 千早ちゃんは?」
「っ……」
その言葉に意味が出来た途端
抱えきれないほどの重さとなって、喉元から消えていってしまった
言いたい
言いたい!
春香に、この気持ちを伝えたい!
そう思う気持ちあれど
支えきれない重さの言葉は
出てこようとはしない
「ぁ、ぅ……」
「千早ちゃん?」
空気だけが抜けていく
泣きそうなほどに頑張っているのに
春香に好きということができない
「千早ちゃん」
涙を、春香が拭う
そして、ただ静かに名前を呼んでくれた瞬間
「うんっ好き……貴女が、春香が……好きっ」
と、私は簡単に言うことができた
言おう、言おうとするのではなく
ただ、春香だけを想うだけで
その言葉は簡単にこぼれ落ちていった
「好き、好きよ春香。私、貴女が好きなの」
「そ、そんないっぱい言われたら恥ずかしいよ」
春香はそう言いながら
人差し指を私の唇に当てた
「や、止めよ? 恥ずかしすぎて爆発しそうだから」
「どうして? もっと、言えなかった分もっと――」
「それは、これからいつでも言えるでしょ?」
春香はそう言って笑うと
自分の携帯を簡単に操作し
小さく良しっと呟いて脇に置いた
「春香、帰るの?」
「違うよ。泊まるんだよ。今日は千早ちゃんと、一緒にいたい気分なんだ」
泊まってくれる?
春香が、私と一緒にいてくれるの?
「春香っ!」
「えへへっ千早ちゃん目がキラキラしてるよ?判りやすいね」
「そ、そう?」
私はクールキャラと言われるから
そんなに顔には出ていないと思っていたのに……
ううん、確かにその通りかもしれない
基本的には顔には出さず、無関心に見える私
でも、私は
「貴女の前だと、綻びやすくなっちゃうのよ」
「それは、心を許してくれてるからかな」
「ええ、貴女になら……知られてもいいと思っているからよ」
私は春香が好きで春香も私が好きで
つまりそれは両思いということで、だから
「春香……これからも、私の家に来てくれるのよね? 傍に、いてくれるのよね?」
「うん。ずっと一緒だよ……千早ちゃん」
もう一度キスをする
現実を現実と確かめるものではなく
ずっと一緒という約束の――キスを
終わり
欲望に負けた千早は
なんと春香と結ばれました
そんな彼女は言いました
「もう、何も怖くない」
と……
はるるん可愛い!
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