【艦これ】愛宕「箱庭お月は太陽に憧れる」 (14)

艦これです。地の文ありです。ちょっと苦めな恋愛ものです。

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月が綺麗だった。別に十五夜でもスーパームーンでもないけど、月は一辺もかけることなく丸みを保ち、うさぎはせっせと餅をついていた。

僕は鎮守府内にあるコンビニで買ったビールを一つ開けた。

そして月に乾杯、と言おうとしたところで鎮守府内ではいかなる場所であっても禁煙、飲酒禁止だったのを思い出した。

だったらコンビニなんて置くなよ、と思ったけど娯楽の少ない艦娘には必要な設備だった。

艤装の修理改修で連日残業続きだ。せっかく明日は休みだし、月をおつまみに飲んでやろうと思ったいたのに、残念だ。


しかし、今日の僕はどうにもおかしい。

勤務態度は評価が高く、入社から二年経つが無断欠勤、無遅刻無欠席の皆勤を果たしている僕に、邪な考えが顔を出した。

男「バレなきゃ犯罪じゃねーじゃん」

独り言呟いて、一人で納得した僕は再び歩き出した。目的地は決まっている。我ら鎮守府で働く者が知っている、秘密の場所へ。

行き方は簡単だ。まず女のお化けが出る、無駄にでかい洋式トイレ群に行き、蛇語で開けという。

そうすると真ん中にある洗面台が機械仕掛けで開いて、大きな穴があく。

動力源をよくわからん。そこを通り抜けると、でかい蛇と、でかい態度の若い男が。

そんな魔法使いの想像をしながら歩く。現実、おとぎ話は一切なく、あるのは以前艦娘がよくわからん乱痴気騒ぎで破壊した施設だけ。風穴だらけで復興しようにも資金が足りず、そのまま風化している。


立ち入り禁止の黄色いテープを超え、瓦礫まみれの床を行く。

夏特有の蒸し暑さに海の湿気が混じり、汗が額に滲む。服の袖で拭いながら、じゃりじゃりとガラスを踏みしめる。

建物をこんなにも無残にできる艦娘の力に、改めて恐ろしさを認識した。どうやったらこんな喧嘩ができるのだろう。

この施設を進むと、海が見える。夜間は明かりを灯してはならないため、夜は暗さを増し、その闇を取り込んだ海はより一層恐ろしさを誇示する。

お前なんてこのちっぽけな俺には敵わないんだよ、と言いたげだ。

どうせ闇さえなければ明るくてきらきらしてるだけなのに、調子に乗るなよ。

適当に、生きているレンガ造りの残骸に座る。すっかり温く炭酸が抜け切ったビールを啜り、とりあえず胸ポケットからタバコを一つ取り出した。火をつけようとポケットを漁るが、中々出てこない。

すると、使いますか、と火を渡された。

僕は、あ、ありがとう。と言う。そして一服。ビールを飲む。横を見た。そこには長く流れる三日月がいた。


愛宕「こんばんわ~」

男「......」

どこかで見たことある。僕は整備士だから艦娘はあまり見ることがない。

あまり、というのは本当で何度か見ることがある。見るたび人間のようだし、人間だったらモデルかグラビアやればいいのにって、思うようなのばっかだ。

特にこの金髪はグラビアやればいいのにって思う。無駄にでかい乳、安産体型の尻、男のロマンスがみっちり凝縮したこの艦娘は。

男「ひぃ!!殺される!!!」

愛宕「なんで殺ろさないといけないの!?」

だめだ艦娘に殺される。乱痴気騒ぎで施設ぶっ壊す怪力の持ち主だ。

アルコールとタバコなんて見つけたら、風紀を重んじて息の根を止めにかかるのは明白だ。

男「勘弁してくだぁあさい!ほらビールこれ実はノンアルで!すみません!すぐ飲みます!あとタバコはニコチンなしのやつなんです!!」

僕はビールを飲み干しタバコを缶にぶち込む。そしてそれを捻り潰し後ろに隠した。

まさか自分もこの缶の様になると思うと、感慨深い。


愛宕さんは軽く笑い始めた。そして意地の悪い顔つきをしながらこう言った。

愛宕「おもしろい人ね。.....ふ~ん、ほんとかどうか確かめたいから、ノンアル一つ、貰えるかしら?」

手を差し出した。僕は首を横に振ると、急かす様に手を軽く振る。笑顔を添えて。その問答を二度繰り返し、愛宕さんはため息をついた。

愛宕「あの、アルコールを一つ?」

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人形を思い出す。人形は作られるもの故、可愛らしく美しく仕上げられる。

それは見る者の心を掴み取り、主人とするためだからだ。

生まれて初めて間近で見る艦娘は、とても綺麗だった。自分が生きてきた可愛い、美しい人間をどれも凌駕するほどの見た目。

その作られた美に、僕は見惚れていた。この廃墟の中でただ缶ビールを啜るだけで、一枚の退廃の美を表現するようなアートになってしまう。

その視線に気がついた愛宕さんは、横目で僕を見た。

そして微笑むと唇を飲み口から話した。一つ一つの挙動に時が緩やかになる。

愛宕「なにか顔に付いてるの?」

男「いぇ.....」

愛宕「ならなんでそんなにじろじろ見るの?」


また意地らしく笑うと。缶ビールを啜り始めた。まるで僕で遊んでいるようだ。

僕は何か仕返ししてやろうと思ったけど、頭の中は現実を受け入れられず目まぐるしく考えが及ぶ。

男「いえ....なんでもないっす....」

でた言葉にうんざりする。考えた結果がこれか。でも何故か、愛宕さんはまた笑う。

するとは何かを察したのか、迷子の子どもに語りかけるように、優しい口調で話し始めた。

愛宕「あなた、艦娘と話すのは初めてなの?」

男「はい....」

愛宕「いいのよべつに。そんなに畏まらなくて。もっとフレンドリーに話して♪」

男「はぁ.....」

艦娘と話す機会は、僕のような整備士には全くない。

あるとしたら偉い人か、食堂のおばさんか、提督だけだ。近くて遠い存在、それが艦娘。高嶺の花だ。

まさかそんな存在と僕が話すなんて、夢にも思っていなかった。だから余計に緊張する。無性にタバコを吸いたくなる。

愛宕「.....あなたは、どこの部署の人?」

男「僕ですか?整備課です」

愛宕「あ、整備の人なのね。いつも艤装直しくれてありがとう♪助かってるわ~」


男「いえいえ....」

僕ははずかしくなって下を向き、頭をかいた。でも自分はまだ艤装を修理したことはない。

二年目、だとしても僕なんかまだ下っ端で、道具を運んだり足みたいなものなのだから。

訂正しよう、と思い顔を上げた矢先。

愛宕「ねぇ艤装って、やっぱり直すの難しいの?あんなにボロボロなのを新品みたいに治すけど、やっぱり大変よね?」

ぐいと僕に近づいて話しかけてきた。間近に見る艦娘の美しさに呆気とられながら、きらきらと、少女の様に目を光らせた愛宕さんに、嘘ですなんて言えない。

仕方なく僕は先輩が修理している姿を思い出し、感想を伝えることにした。

男「まぁ、なんていうか大変ですね....」

愛宕「やっぱり.....」

納得したのか。呆けた顔でうんうんと頷いた。

僕はなんだか体が熱くなって、ビールを喉に流し込んだ。でもぬるま湯だから、体から熱を奪うことは決してできなかった。飲みきる。

男「愛宕さんは....艦娘、ですよね?」


愛宕「当たり前じゃない....」

男「深海棲艦との戦いってどんな感じなんですか?」

うーん。と答えた愛宕さんは顎に手を付け、夜空を見上げた。

きっと愛宕さんが見ているのは月夜ではなく、過去の出来事だろう。

そのせいだろう。あんなに楽しそうにしていた愛宕さんの顔からは悩み。何を話していいのか、話の取捨選択から苦悩が見えた。

僕は鎮守府に勤めていると言っても、深海棲艦とは戦わないし、艦娘おろか、ここでは一番偉い提督とすら会話を交わしたことがない。

関わりといえば、入社式の会場で提督の話しを少し聞いただけだ。

そのくらいしか僕と普通の人間の世界は、この深海棲艦と艦娘の世界に関われていない。

だから僕や普通の人は思うことがある。本当に、艦娘は深海棲艦と戦っているのか。

戦時中とはいえ、僕たちは普通の生活を送っている。コンビニで酒を買ったり、煙草をふかして月見をする。ニュースで流れるのは強盗や季節の話題ぱかり。


こんな平穏な戦争があるのか。

艦娘と深海棲艦の情報なんて、僕たちの世界には浸透しない。

だから艦娘は必要ないなんてデモがあるし、予算削減を謳う政党も現れる。

行き過ぎた情報統制だとしたら、なんてことを考える。

不安は憶測を深め、疑心暗鬼は、少なくとも現場にいる僕をさらに疑心させる。

愛宕さんは、答えなかった。苦笑いを含んで僕の方を向くと。

愛宕「.....答えられる範囲と、られないことがあるのよねぇ」

と答えた。わかりきった答えだ。情報を料理されたテレビや、生きたままのネットですら嘘か真か分からないことを、艦娘。愛宕さんが答えられるわけがない。

情報を伝えるのは責任があり、受け取る側にも取捨選択の責任があるのだから。


男「ですよね.....」

愛宕「なんていうか....ごめんね。期待に応えられなくて。あ、でも今度会った時には、話せる範囲のことをまとめておくからね」

男「え?」

愛宕「だから、また会いましょう?」

手のひらをひらひらとして愛宕さんは、ごちそうさま、と言う。

缶ビールを持ち立ち上がると瓦礫とガラスの道を行く。そのまま歩きながら。

愛宕「時間も結構ギリギリだし、またこんどね~♪」

突然のことで呆気にとられていた僕は、二秒くらい経つと急いで立ち上がる。

男「明日は僕休みなんで!明後日また会ってくれますか!?」

と大きな声で言ってしまった。もしかしたら他の人に聞かれたかもしれない。

暗黙の了解で、艦娘とはあまり喋ってはいけない、なんてルールがある。

もしもルールを破れば、何かあるわけではないけど、暗幕を破れば批判はあるはずだ。僕はしまった、と思った。

愛宕さんは豊かな金髪を靡かせてこちらを向くと、人差し指でしー、として悪戯っ子のような顔をした。僕とは裏腹に小さな声で。

愛宕「艦娘とは喋っちゃいけないルールがあるんでしょ?.....みんなには内緒だからね?」

なんて間違ったことを言い去って行った。僕はその後ろ姿を見送った後に、ため息混じりに独り言を呟いた。

男「艦娘って、やっぱりいいな」

そして愛宕さんは、僕が明後日来ると言ったことをわかっているのか急に不安になった。


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一般市民と艦娘のファーストコンタクトでした。入院なうなんで、退院前に頑張って完結させたいです。またがんばります。

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