久遠寺高校に通う篠原夏希は高校3年生。
明るく快活で愛想が良く容姿端麗な彼女は剣道部に所属しており、誰もが目を惹く才色兼備。
そんな彼女に頼み事をされたら誰もが NO!とは言えない。そうあの、空条承太郎ですら。
「いきなりごめんなさい、承太郎さん」
「まったく、いい迷惑だぜ」
とかなんとか言いつつも、承太郎はJO機嫌だ。
「それで? 何故この俺に声をかけたんだ?」
「どうしてもおばあちゃんに会わせたくて」
「ほう……そいつは楽しみだ」
承太郎の脳内では既にご挨拶から結納、結婚、披露宴、出産、3年目の浮気、穏やかな老後まで全てが完璧に想定されている。やれやれだぜ。
ところがどっこい。
「侘助!」
「ばあちゃん……」
この侘助とかいうチャラいおっさんが出て来てからというものの、承太郎は苛ついていた。
なんでもこの下郎は篠原夏希の叔父であり、彼女は大層慕っているようで、面白くなかった。
「借りた金は利子つけて返すからさ……」
「侘助! 今ここで……!」
「おっと、待ちな。そこから先はこの空条承太郎が許さねぇ。ばばあは引っ込んでな」
薙刀を振り回しながら規制ワードを口走ろうとした危険な老婆を宥めて、承太郎が前に出る。
ザ ッ
「誰だ、お前は……?」
「俺は空条承太郎。しかと覚えておきな」
「夏希の友達か?」
「俺の女を呼び捨てにすんじゃあねぇよ」
ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド
格好良く決めたつもりだった承太郎であるものの侘助と同じく肝心な篠原夏希も首を傾げていた為、やれやれだぜと首を振り体裁を整えた。
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「そもそもてめーここへ何しに来やがった?」
「俺はただばあちゃんに恩返しがしたくて……」
「恩着せがましいんだよ、消えな」
ウダウダ煩いおっさんにそう吐き捨てると。
「……今日のところは出直す」
「もう二度と来るんじゃあねぇ」
「ばあちゃん、また来るよ」
「侘助……」
「来んじゃあねぇって言ってんだろーが!!」
この空条承太郎ですら蚊帳の外の込み入った事情に胸を痛めた老婆は、翌朝ポックリ逝った。
「老衰だろうなぁ」
医者をやっている老婆の息子はそう診断したが承太郎の鼻は誤魔化されない。嘘の匂いだぜ。
「俺は絶対にあのおっさんのせいだと思うぜ」
「言わないで……」
はっきりあの侘助とかいう馬鹿息子のせいで老婆がくたばったと告げると篠原夏希の美しい瞳が涙で潤み、ポロポロと涙が頬を伝い始めた。
「とめて……涙」
ご要望にお応えしてスタープラチナを発動し滴る涙を鉄拳で吹き飛ばそうとした、その瞬間。
「涙よ止まれぇええいっ! ザ・ワールド!!」
突如現れたDIOがスタンドを発動して、篠原夏希の涙はおろか全世界の時が凍結して静止した。
「ふぅ……元武田家臣の血、実に美味であった」
吸血鬼であるDIOは老婆の血を啜っていた。
「あの侘助とかいう放蕩息子に変装してこの家に潜り込んだのはいいが、まさか空条承太郎と出くわすとはな。糞忌々しきJOJOめが……!」
計算外の承太郎との遭遇にもめげずに吸血の機会を伺っていたところ、好機が到来した。
「よもやあの程度の軽口でババアが激昂し、そしてくたばるとは……このDIO様に都合良く事が進みおったわ! これぞまさに天啓なりぃ!!」
DIOはこの奇跡の復活を天啓と見なし、天が再び自らの台頭を望んでいると都合良く解釈した。
「武田家臣の血を飲んだ今、もはやジョースター家の小僧など恐るるに足らぬただの雑魚!」
静止している承太郎の頬をペチペチと叩いて。
「ひとまずは間抜けで愚かしい承太郎が絶賛懸想中のこの小娘を美味しく頂くとしようか!」
時を止めている今ならば、接吻しようが泥水で口を漱がれることはあるまいと、唇を寄せて。
「オラァッ!!」
ボ ム ギ !
「ぐふぇっ!?」
やはりというべきか当然ながらスタープラチナの鉄拳により、その悪事は未然に阻止された。
「よぉ……久しぶりだな、DIO」
「馬鹿なっ!? 貴様何故動ける!?」
衝撃で頬骨が砕け散り両方の鼻の穴からダラダラと鼻血を垂らしながら、DIOが問いただすと。
「簡単なことさ。極めて単純なトリックだ」
「ト、トリックだとぉ!?」
「ああ、お前が時を止める前に俺はスタープラチナで夏希の涙を消し飛ばそうと決めていた。要するに、その確定された未来にお前は自ら飛び込み、間抜けにも遅れて追いついただけのこと。そして一瞬前、俺の時は再び動き始めた」
「ええい! 何を言っているのかわからん!!」
そのあまりに要領を得ない説明に困惑するDIOを見て承太郎はほくそ笑む。これが狙いだった。
「別にその仕組みについて理解する必要はない。いいかDIO、俺がお前に言いたいことはただひとつ。たったひとつの、シンプルな質問だ」
あっさりとザ・ワールドへの対処方法の説明義務を放棄した承太郎は、有無を言わさぬジャンプ漫画主人公特有のオーラを放って、その理不尽さに言葉を失うDIOに対し質問を投げかけた。
「時を止めて、夏希の涙は止まるのか?」
「ぐぬっ!?」
「答えは否。そんなわけがない。お前はただ、悲劇を先延ばしにしたに過ぎない。たとえるならば、そうだな……糞を漏らした直後に生じた愉悦に浸り、しとしきり哄笑した後にいそいそと後始末をするような、そんな糞みたいな情けなさが滲み出てやがるぜ。そうだろう、DIO?」
「ぐぬぬぬ……言わせておけばぁ!!」
問題の本質を突かれたDIOは怒りによってワナワナと身を震わせながら怒鳴り、吠え散らした。
「黙れぇええいっ! この薄汚い阿呆がぁ!!」
「それがてめーの答えか。やれやれだぜ」
「くっ……かくなる上は……!」
DIOは懸命に策を巡らせる。
この絶望的な状況を打破する奇策。
武田家臣の血を最大限に活用した秘策。
「ほう……これはこれは。たまらんな」
ちらりと横目で篠原夏希の又従兄弟であり、そしてDIO好みの可愛い褐色ショタでもある池沢佳主馬のPCを見て、瞬く間に計画を練り上げた。
「よろしくぅお願いしまああああああすっ!」
「む? 野郎、何をするつもりだ……?」
ボタボタと鼻血を流しながら這々の体でキーボードへと這いずり、佳主馬の生足をペロリとひと舐めしてショタ成分を摂取した後、すぐさま高らかにエンターキーをDIOが押したその瞬間。
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
「この音……まさか人工衛星を落とす気か!?」
「フハハハハハハッ! ご明察だ! JOJO!!」
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
静止している筈の空間を揺るがし、轟く爆音。
各方面に顔が効く名家の立場を利用しNASAとJAXAを説き伏せ頂戴した暗号を入手したDIOは人工衛星をこの場所に向けて落下させていた。
「どこまでも……どこまでもふざけた野郎だぜ」
「残念だったなぁJOJO! このDIOの勝利だ!」
「そいつはどうかな……」
万事休すの承太郎は懐から花札を取り出した。
「世界の命運をかけて、こいつで一丁勝負といこうじゃあないか。どうだ、DIO? 乗るか?」
「その勝負、乗ったぁ!!」
ノリの良いDIOであるがいかんせん花札は弱く。
「どうした、DIO? この程度か?」
「くっ! こんなものぉ! こうしてくれる!!」
「おいおい、何をするつもりだ?」
「ロォオオオド・ロォオオラアアアだぁ!!」
メ メ タ ァ !
負けず嫌いなDIOはどこからか拝借したロードローラーで座布団ごと花札をペチャンコにした。
「URYYYYYYYYYYYYY!!!!」
ロードローラーにより全てを踏みにじり、奇声をあげて勝ち誇るDIOを冷ややかに見下す承太郎は一切動じることなく不敵に口の端を曲げて。
「この瞬間を待ちわびていたぜ、DIO」
「なにぃいい!?」
「花札に負けて癇癪を起こした貴様がロードローラーを持ち出すのはわかっていた。それを利用して、飛来する人工衛星を跳ね返す算段だ」
「馬鹿め! そんな芸当、出来っこないわぁ!」
「…………」
「ええい無視するなぁ!? 何か言い返せぇ!」
鼻で嘲笑ったDIOを完璧且つ華麗にスルーして、承太郎は黙ってスタンドのスタープラチナを発動し、ロードローラーを天空高く打ち上げた。
ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」
ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド
人工衛星の落下軌道上にロードローラーを飛ばそうとする承太郎と、まさにそのロードローラーに飛び乗り再び地に叩き落とさんとするDIO。
「オラァ!」
「無駄ァ!」
2人の間に挟まれたロードローラーはもやは原型を留めておらず、そしてDIOが邪魔をしたことによって高度が足らず、再び自由落下を始めた。
「フハハハッ! 残念だったなぁJOJO!」
「いや、案外そうでもないさ」
「なんだぁ? まだ悪足掻きをするつもりか? まったく貴様の諦めの悪さはまるで、糞を漏らした羞恥を隠す為に高らかに嗤って誤魔化し狂人を気取るただの変態のようだなぁ、JOJO!!」
「…………」
「だからこのDIO様を無視するなあああ!!」
「俺はただ、この足場が欲しかっただけだ」
承太郎はひとえに、空中に足場を欲していた。
両者の拳のぶつかり合いによって潰れて一枚の板のようになったロードローラーという名の足場を踏みしめて、真下からDIOの腹部を殴る。
「オラァアアアアアアアアアアアッ!!!!」
「ぐふぇえええええええっ!?!!」
「第二宇宙速度で吹き飛びな、DIO」
「おのぉれぇえええええええええっ!!!!」
フ ヒ ィ ーーー ン
承太郎の狙い通りDIOは大気圏外へと吹き飛び、無重力空間で何か支えを求めて足掻いた末、人工衛星にしがみつき、第二宇宙速度を保ったまま地球の重力圏から離れいき、そして彼は考えることをやめた。
「そして時は再び動きだす」
パ チ ィ イ イ ィ ン !
承太郎が指を鳴らすと夏希の涙が頬を伝った。
「悪いな、夏希」
「承太郎さん……」
「俺はお前の涙を止められなかった」
DIOとの死闘を繰り広げボロボロになった承太郎の背中に夏希は息を飲み、恐らく彼は知らぬ間に世界を救ったのだろうと察して押し黙った。
「だが、時には泣いた方がいい場合もある」
「例えば、どんな時ですか……?」
「良い女が綺麗な涙を流している今、とかな」
ズ キ ュ ウ ウ ゥ ン !
その言葉に、夏希は再び涙を流す。
しかしその表情には先程までの悲壮感はなく、嬉し涙のキラキラと光るその白金の輝きは、まるで星のようにも見え、女泣かせの承太郎は。
「ふっ……まったく、やれやれだぜ。我ながら、スタープラチナとはよく言ったもんだ」
「えっ? 承太郎さん、今なんて……?」
「なんでもないぜ。ただの独り言だ」
話をはぐらかす承太郎に夏希が見惚れていると、ふと潰れた座布団から異臭が漂ってきた。
「承太郎さん、座布団が臭いんですが……」
「なんだと? どれどれ……フハッ!」
グ ッ パ オ ン !
嗅いでみるとそれは紛れもなく芳しいDIO様の便の香りであり、花札に負けたあの時あの瞬間、激昂した奴が糞を漏らしていたのだと気づいた承太郎は高らかに哄笑し、愉悦を漏らした。
「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
承太郎は嗤う。星屑に届くように。
まるであの薄汚い悪党のように邪悪に。
それが汚い花火となったDIOへの弔いであった。
【ジョジョの奇妙なサマー・ウオラァズ】
FIN
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