【ミリオン】昴は今より可愛くなりたい (63)

本日、9/20は永吉昴クンの誕生日ということで、
昴クンのSSを投下します。

昴クンと箱根に温泉旅行に行くお話です!

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「……たぶんこの時間は……兄ちゃんたちいないとおもうケド……」


オレ、永吉昴はジブンちなのにきょろきょろあたりを伺う。
兄ちゃん達がいないのを見計らって、買ってきた本を取り出す。

「『モテ女子が教える!秘密のモテテク100か条!ーカワイイジブンになっちゃおっ!ー』

って……なんかすっげータイトル……」


我ながらスゲー本買ってきちゃったよなぁ…!
近所のフリーマーケットでどれでも3冊100円の古本で、
散々迷った挙げ句、野球の本と漫画の間に挟んで買ってきたんだ!



普段ならぜってーこんな本買わないし、手に取ろうとも思わないのに!

別にオレ、モテたいわけでもないんだけど。
どっちかって言うとそのあとの……カワイイジブンに……ってところが……!


最近ちょっと思うところもあるし……っ!
よ、読むだけ!ちょっと読んで参考にするだけ!

だれも聞いてないのにそんなことを呟く。



オレはペラリと本をめくる………っ!




ー765プロ事務所ー




「ふぁああああ……ねみー……」


オレはデケーあくびしながら、
事務所のソファーに寝そべりながら昨日持ってきた本を読む。


モテ女子100か条が1つ!
『カワイイ女子になるためには、恋しちゃおっ♪
恋するとオンナノコは魅力度100倍アップ!』

って感じで、マジで100項目とそれの解説が書かれてる。
……いってもオレ、恋とかわかんないしさぁ。




『もし身近にイケメンがいなかったら、身近なオトコノコを実験台にして弄んじゃおっ!』



身近なオトコノコって…
うーん、クラスの男子じゃないしなぁ。
兄ちゃんたちは絶対嫌だし……
オレにとっての身近な………


あ!



「おいおい昴、眠そうだなぁ。昼からの仕事、大丈夫か?」


Pが呆れた感じで聞いてくる。
うん!オレにとっての身近な男といったら、Pしかいねぇよなぉ!
実験台、決定!




「…あ、いっけね!へへ…大丈夫!
昨日、本読んでてさぁ。眠れなくなっちゃって!」

「昴が読書!?本の内容も気になるけど…。
忠告しておくが、百合子にはそのことは言わないほうがいいぞ…?」


「あはは…そうだな!1時間は返してくれなさそう!
内容については……秘密で!」

持ってた本をサッと後ろ手に隠す。

「ふーん、まぁいいけど。
 あ、そうそう明日のボイストレーニングだけど、中止になったぞ」

トレーナーさんが家の用事で急に来れなくなったみたいだ、ってPは続けた。




「なーんだ。じゃあ明日から土日だし、オレ暇になっちゃったなー。
Pは?休みなの?」

「オレは……箱根へ出張営業だな!」

「箱根って!すげーじゃん!温泉街だっけ?
いいなぁP!オレも行きてーなぁ!」

そう言うと、Pはニヤリと笑う。

「ほう、昴。一緒に来たいか?
なら明日、もし良かったら一緒に来るか?」

「えっ、マジで!?いいの!?」

「実は、社長から言われていてなぁ。俺もワケを聞いたんだけど……」


『今回の出張にあたっては、永吉昴くんも誘ってみてくれたまえ。
きっと彼女の存在は今回の営業に大いに手助けになるだろう!』
って言ってたみたい。




「えー!オレを名指し!?
悪い気しないけど、なんかちょっと怖いな……」

「どうする?おれも得体がしれなくて、言おうか迷ってたんだけど……」


そこでオレは、ハッと思い出す。

モテ女子100か条が1つ!
『デートは一度断って、食い下がってきたところをOKすること!!
恋のカケヒキ、楽しんじゃおっ?』

だっけ!?
なんで一度断ることがカケヒキなのか全然わかんねーけど……


「えっと……
『わたしには予定があるの!どうしても予定を空けてほしいなら、一度出直してきなさいっ!』」

本の凡例通りに応えるオレ!
どうだ……!?




「え?さっきレッスン中止になって、予定空いたって……」


うっ!墓穴った!?
いきなり初球ホームラン打たれたピッチャーの顔になるオレ!
オレはあわてて話す!


「えっ、えっと……ジョーダン!ジョーダンだよ!
行きたいなぁオレ!!連れてってくれよ!」

「えー、でもムリに誘うのも悪いし、俺ひとりで行ってくるかなぁ」


「……うう、Pとでかけたいのはホントなんだよぉ。
『ね、ねぇ…だ、だめぇ……?』かな?」

おねだり上手な翼のマネをして上目遣いでPを見る。


「……プッ、あははは!それ、翼のマネか!?
昴には似合わないなぁ!だははは!」


そう言ってPにめっちゃ笑われるオレ…!
うわぁ…なんかオレ…今めっちゃハズいこと言ってないか!?





「お、おいPぁ!笑いすぎだから!!
それ以上笑うんなら、千本ノックの刑だかんな!!」

オレはしかめ面を作ってPに言い寄る!


「あー笑った笑った…。悪かったよ昴!
……そんなに言うなら、一緒に行くか!?」

「……えっ!?いいのか!?」

オレは笑顔を作ってPに詰め寄る!

「ククっ…また翼が増えたらたまらないからな!」

「もーーっ!忘れてくれよ!Pぁ!」

オレは腹立ちまぎれにPのムネをポコポコ叩いてやる!






ー翌日ー




「まだ着かないなんて、意外と遠いんだな!箱根!」

「はは……経費削減で、休日のETC割引で社用車で移動だからな……」

いまはパーキングエリアに止まって休憩中。
車の中にずっと居ると体、なまってくるよなぁ
キャッチボールでもやりたくなってくるなぁ!

スマホで調べたら、劇場から箱根まで90キロくらいってあんのに、1時間走ってもまだ半分くらい!
途中で渋滞もあったし、こんなもんなのかなぁ?


「なにか食いたいものあるか?
ちょっと早いけど、混む前に飯でも済ませておくか?」

パーキングエリアの屋外フードコートの席に座って聞いてくるP。
待ってました!とばかりにおれはトートバッグを探る。




「へへー、実は今日、弁当作ってきたんだ!
……ジャーン!これ!」

父さんの使ってる、アルミのでっけー弁当箱と、
オレ用のちいさい弁当箱を取り出す。

「おお……こりゃすごいな!そうか。昴は家事が得意だったな」

へへー、モテ女子100か条が1つ!
『家事や料理できるアピールはすかさずやっちゃお!カレを胃袋からトリコにしちゃえっ!』
ってな!


「今回はさ!
 の…のり弁当にしたんだ!開けてみてくれよ!」


……そう!今回ののり弁当にはある仕掛けをしたんだ!


弁当の海苔に、


i Love P


って文字を切り抜いた海苔を貼ったんだ!
ハートマークとか書いちゃったし…
ど、どんな反応するかな?
切り抜いてるときからかなりドキドキしてたんだけど!


「おう、開けるぞ!それっ!
 おおっ、かなり色鮮やかだなぁ!」



おかずはかなり多めにしたつもりだけど…。
玉子焼きとか、肉じゃがとか、たこさんウィンナーとか、かなりフツーのしか入れてない。

……でも、あれ?



「ん?のり弁って話だったのに、おかかご飯になってるぞ?」


えーーー!?苦労して切り抜いた海苔がなくなってる!
たしかに入れたはずなのに!

まさかと思って、弁当箱の上蓋をみてみると、
海苔が完全にひっついていた!

うわーーーっ!ひっでぇ!!

「あれ?なんだ、上蓋に海苔がひっついちゃったか!それっ!」

そういって雑に海苔を引っペがすP。

「わぁーーー!もっと丁寧に剥がしてくれよ!…あーあ…」

せっかく苦労して切り抜いた文字も、
海苔がニャフニャになってまともに読めなくなってた!
おまけに、雑に剥がすもんだから、
ハートマークの部分から真っ二つに裂けて海苔がちょうど食べやすい大きさに……!


ちくしょー……っ!



悔しがる俺なんか見向きもしないでPは弁当にがっついてる。

「……なぁ…お、美味しい?」

「……んっ!ああ!普段はレトルトや出来あいばっかりだからな。
誰かの手料理は久々だ!
美味いぞ、昴!とくにこの玉子焼きなんか……」


えへへ……あんなうまそうに言われたら、なんか嬉しいな♪

いつも兄ちゃんたちのメシ作るけど、うまいもまずいも言わずに食うだけだからなぁ。
こんなふうに褒められたの、スゲー新鮮!

海苔は残念だったけど、まぁいいかな!
いつか、リベンジしてやる!




ー箱根湯本ー


「んーーっ!やっとついたなぁ!」

オレたちは箱根湯本駅の近くの駐車場にクルマを停めた。

「アポの時間まで時間あるなぁ…。
ちょっと観光でもしていくか?」


箱根!
初めてきたけど、人通りはかなり多い!
けど、あんまり温泉街って感じしないなぁ。
温泉っぽい匂いもしないし!

なんてぼやくと、Pが補足する。


「まぁ、ここはいわゆる箱根の玄関口だからな!
温泉街はココからは山を登っていったところに点在してるんだ。
今日はクルマはここに置いておいて、電車に乗って山を登るか!」


へー!山を登る電車とか、面白そう!
きっぷを買ってPと電車を待ってると、
赤色のスッゲー目立つ電車が来た!


「この電車も強烈だけど、終着駅から乗り継ぐ車両もすごいぞ!」






「いやー、すごかったー!あんな急な斜面を登っていく電車…じゃなくて、
ケーブルカーなんてもんがあるなんてなぁ!」

今はそれをさらに乗り継いで、
山のスッゲー高いところで宙吊りになったロープウェイに乗ってる!

「ははは!しかし、これも…ちょっとすごいなぁ!」

山の上から垂れ下がった頼りない線に宙吊りになってるゴンドラにちょっとビビるけど
…それよりも景色がすっげぇ!

「ほら!P!山のあちこちから煙が吹き出てるぜ!」

「ああ、ほんとだな!活火山ってのが良くわかるなぁ」


なんてふたりで席から立って景色に夢中になってると、
正面の席のカップルが、「きゃーこわーい!」
とかいって抱き付き合ってる!




そこでハッとするオレ!
つい景色に夢中で忘れてたぜ!


モテ女子100か条が1つ…
『時にはかよわいフリをしてカレに甘えて親密度アゲアゲ♪』

だったか!?ちょ、ちょっとハズいけど……


「あ、あーーーん……なんかオレ……酔ってきちゃったみたああーい……」

「え?さっきまであんなに元気そうだったけど…?」

「いや、急!急に車酔いと吐き気とめまいが来たんだよ!
あ、あーん…なんだかふらついてきたわぁ……」


なんてふらつくフリしてると、
ホントにゴンドラがガタン!と少し揺れて足がもつれるーーーっ!!




あっ!ころぶーーーー




っていう寸前に、Pがオレをソッと抱きとめる。


「とと……!大丈夫か!?気持ち悪くはないか?もうちょっとで着くけど、我慢できるか?」


Pは、片手でオレの肩を優しく抱いて、
もう片方は腰に手を当てて倒れないように支えてくれてる……!
めっちゃ近くで目をジッとみてオレを心配するP……!


うわあああ……なんかこれ……やりすぎじゃねぇ!?




「う、うん!だ、大丈夫……!だから、その……さ!」

「そうか?……んー?なんか顔も赤くなってるし……」

「そ、そうじゃなくって!えっと…近いし…もう、大丈夫だから!」

「ん…そうか?なら……」

と、やっと手が離される。
あーーー!なんか……心臓……破裂するかとおもったぁ……!
まだドキドキしてるし……!
これじゃオレが翻弄するどころか、Pに翻弄されちまってるよぉ…!


そんなことしてるうちに、ロープウェイの頂上に着いたっぽい!




ロープウェイ頂上の大涌谷駅は、降りた瞬間から硫黄臭?っていうのかな。
あんまり嗅いだことのない匂いがしてる!

山の頂上付近ってこともあるけど、すげー景色がよくて展望台から富士山がキレイに見える!

あたりは赤茶けた山肌が広がってて、
ときどきある黄土色の岩と岩の間から煙がシューシュー上がってて、
みんなそれを写真撮ってる。



オレの体調を気づかってくれたPは、
ベンチにオレを座らせて土産屋で飲み物を買いに行ってくれてる。


あーあ、オレも行きたかったなぁ。
かよわいフリなんかするんじゃなかったぜ…!



「お、待たせたな昴。ほら冷たい水だ。
…体調はどうだ?」


「ああ、もう大丈夫!ありがとな……

……って、あーーっ!!Pぁ!なんだよそれー!!!」

「え?なにって大涌谷名物たまごソフトクリームだけど?」


黒ソフトと迷ったけどな!っていいながら、
Pはキレイな黄色のソフトクリームをペロリと舐めてる!

「ズリー!なんでオレは水で、Pはソフトクリームなんだよぉー!!」

「そりゃ、体調悪いヤツにソフトクリームなんか買ってくるわけ無いだろ……
んーっ、んまっ!」

もっともな理由にグヌヌヌ……ってなるっ!
やっぱ、かよわいフリなんかコリゴリだ!



そこで、おれはまたハッとなる。

モテ女子100か条が1つ!
『カレと違うモノを買い合って、食べ比べアーン♪チャンス!!』

……よし!野球も恋もチャンスは逃さないぜ!


「ぷ、プロデューサー!オレ、なんだかソフトクリームが食べたいなぁ……」

「んー……見た感じ体調も良くなってるみたいだし、いいのかな?
 買ってこようか」

「あーもう、違うって!
その……ひと口だけでいいんだよ!

……だから、さ!
その……あ…、アーン……」


「……いや、俺の食べかけだけど…いいのか?」


「いいから!オレ食べかけとか気にしないし!
ほら!溶ける溶ける!」




「…そうか?なら……」

Pは渋々といった感じでソフトクリームを差し出す。
オレはそれに思いっきり大きなクチを開けてコーンごとバクっと食べる!!



「あーーーーっ!!!おい、昴!一気に食いすぎだろ!!
あー!!ひどい!!半分くらいもってったな……!!」

口いっぱいに冷たい濃厚なカスタードの風味が広がる!

「んーー!んふぁいなほれ!」

「あーあ……そりゃそんだけ食えばうまいだろうよ……とほほ……」

口いっぱいに入れたソフトクリームを飲み込む。
あーうまかったー!
…あ、いっけね!そういえば食い物の交換だったな!


「なぁ♪ もらってばっかじゃ悪いし、オレのも交換な!
はい、アーーーン!!」




「いや、それ水だろ……」







それから大涌谷をひととおり回ってきたら、
オレたちは待ち合わせの時間に合わせて、来た道を戻って箱根湯本に戻ってきた。

約束してた場所に行ってみると、60過ぎくらいのおっさんが待ってた。
なんか地元のよくわかんないトコロの会長とか言ってたかな?


「いやぁ、高木クンとは古い仲でねぇ!
毎年11月にやる箱根名物の大名行列の催しモノで、若い連中が、
アイドルのライブなんかやりたいと言ってきてねぇ!」


「なるほど!それは大きいイベントですね!ぜひうちにお任せください!」


「ははは!そのことで高木クンに相談したら、
若いのを寄こすと聞いたが、まさかアイドルも一緒とは!」


「はは……こちら、うちの永吉です。よろしくお願いします!」

「あ、よろしく……おねがいします……」

なんかこういう営業?っていうのに来たの初めてだから、
どうにも勝手が分かんなくてぎこちなくなっちまうなぁ。
なんで名字で呼ぶんだろ?



「ほー、さすがアイドルだけあって可愛らしい娘だ。
孫と年端が同じくらいかな?
アイドルは詳しくないが、特技とかはあるのかい?」

おっさんがニコニコと聞いてくる。


「特技……っつーんなら、やっぱ野球かな!やるのも見るのも好きだぜ!」


野球、という単語が出た途端、ピシッとおっさんの雰囲気が変わったのを感じる!
Pも感じたのか、オレとPは顔を見合わす。


「……ほほう!野球好きかね!
じつはわし、野球には目がなくてなぁ!
好きな球団はどこかね!?
わしは断然、ジャイアンツなんだが、今季は監督が………」



このおっさん、相当の野球好きみたいで、もう話がとまんなくなっちゃって!
オレも兄ちゃん達以外とここまで野球談義することもないから、
すっげー楽しくて時間を忘れておっさんと野球談義する!
3時間くらい?わかんねーけどすっげー話し込んでたら、すっかり日が暮れちゃってた!


「いやー、いつもは煙たがれる話も、
昴クンは楽しそうに聞いてくれて、わしもつい嬉しくなってしまって…。
いや、こんな時間になってしまって申し訳ない!」

「そんなことないぜおっさん!今度は坂本と長野のダブル最多安打賞のこと話そうな!」


おお、アレには泣かされて…とおっさんが話し始める前にPが遮る。

「で、では!!! イベントの詳しい話は後日詰めるということで…これで失礼します」



話に付き合わされてグッタリ疲れた感じのPが挨拶したとき、
おっさんに呼び止められる。

「あー、そうそう。君たち!箱根に来たからには、温泉には入っていったのかね?」

「え?いやぁ、予定はありませんが…」


「そりゃぁいかん!箱根に来て風呂に入っていかないとはもったいない!
……今日はもう遅い!わしのツテで宿をとるから、今日はゆっくりしていきなさい」



それからPとおっさんのいいえいいえなんのなんのと押し問答が始まったーーー!




ー箱根 旅館ー



「はぁー……まさか泊まることになるとは……」

「へへー!オレは別に構わないけどさ!」

決め手は帰りの高速道路がひどい事故渋滞で、
これから帰っても深夜になる可能性があるってことだった!

母さんに連絡したらPさんと一緒なら何泊でもしてきなさいときた!
話がわかるぜ!


「しかし、この料理は大したもんだ!食べ切れるかな?」


Pの部屋に料理を運んでもらったんだけど、乗り切らないくらいの料理が並んでる!
す、すげぇ!



「急な客だったろうに、ちゃんと対応してもらえてすごいな…」

「なんでもいいよ!さっさと食おうぜ!オレ、腹減っちまったよ!」

「まてまて昴。こういう料理は、食前酒を飲んでからじっくり味わって食うもんだ!
さっき新人の中居さんも言ってたろ?」


メシの配膳をしてくれたのは、まだ日が浅い新人の中居さんだって話を女将さんから聞いた。
こっちは急な客だし、オレたちいい練習相手ってところなんだろうなぁ。
たとたどしい感じで料理の説明をしてくれた。
それも承知だったし、いいんだけど!


食前酒なんてオレ始めてだけど、
Pは梅酒で、オレは梅ジュースなんだし、オレは関係なくないか!?



「こういうのは雰囲気が大事なんだぞ!

おほん!
じゃあ、箱根で新しい仕事が決まった記念に!」

「へへー!オレとPの箱根ドライブに!」


「「カンパーイ!」」

チン、と小さなおちょこを鳴らして、
おちょこ半分くらいの梅ジュースをグビッ!と飲み干す。

なんか変わった風味のジュース!
Pも同じように飲み干すけど、不思議な顔をしてる。

「ん?んー?…薄めの酒ってきいたけど、こんなものなのか?」


「さぁP、食おう食おう!」



腹いっぱい美味い晩飯を食ったあと、オレとPはお互い温泉に入りに行った。

広い湯船を独り占めして、オレは熱めの温泉をゆっくり味わってきた。
こんなに気持ちいいんなら、次は百合子とかロコとか劇場のみんなも連れてきたいなぁ!




湯上がりは体に浴衣を雑に巻いて、
火照った体を窓際のイスに座ってウチワを扇ぐ。

山の中ってのもあるけど、涼しい風がオレの体を優しくなでる。


でもーー



「お、先に上がってたのか。気持ちよかったなぁ風呂!」


「うん…そうだな…」

風呂から上がってきたPにテキトーな返事を返す。




…なんかいくら扇いでも体から火照りが抜けないーー
なんか心臓バクバクしてるし、
ちょっと頭もぼんやりするし……!
そんなに長湯したわけでもないんだけどな…




ーーああ、でもPに確かめなきゃいけないことがあるんだ……






「なぁプロデューサー……
 今日のオレ、さ。
 どうだった?」


「え?どうって……?」

「その……ちゃんと女の子らしく……できてたかな?
オレ、ちゃんとPのこと…ほんろー……できてたかな?」


「……なんのことかわからないけど……。
でも確かに、今日の昴はちょっと…いつもと違ったかな?」


「ほんとか!?ど、どんなところが!?」


「んー、うまく言えないけどいつもの昴らしくないなって思ったんだ。
何が、って言われるとわからないけど……」




ーーーダメだ。ぜんぜんつたわってないじゃん!

そんなんじゃオレ……いつまでも……かわいくなれない!


そこでオレはさっきまで読んでた本をおもいだす。
モテ女子100か条が…ひとつ……


オレはイスからぬらり、と立ち上がって座ってるPへ歩みよるーーーっ!


「お、おい昴、どうした?」


「『ときにはむりやり、おそいかかっちゃえ☆』」


Pへ、たおれ込むように襲いかかるーーーっ!
むぼうびだったPをあっさり倒して、オレはPへうま乗りになる。



「いてて……おい、ほんとにおかしいぞ昴……大丈夫か?」


それでもオレのからだ……熱さがとまらない……とまらないんだ……


「たしか、胸元をだしてセクシーアピール…って……かいてあった……んしょ……」

「ぅ、うわっ昴っ、お前下着は……っ!?」


バカだなP!浴衣なんだし着てるわけないじゃん!





「オレさ……風花みたいに胸もでかくねーし…… 
詩歌みたいに可愛くもないけど……さ!


こんなオレでも、今日はプロデューサーを……ドキドキさせたいんだ……!


どうかな?プロデューサー……

今のオレ……
ううん…!


わたしに、ドキドキ……してくれてますか?」


「す、昴……っ!」





ーーーああ、Pの顔……すっげー赤くなってる……っ!
へへ、これは……オレのかち……だな……ははは!ははーー


そこでオレの視界はグルんと回るーーーーっ!








「ん、んーーー……んん?」

あれ?オレ……いつ寝たんだろ?
オレが今いるのは……布団の上。
その横で本を読んでる誰か…
…ああ、Pか。

あれ?今は……箱根の民宿か。
んんー?

「なんでPが俺の部屋にいんの?」

「お、目が覚めたか?
 俺に襲いかかってから、急に寝ちゃったんだよ。
 2時間くらいかな?
 あと、ここは俺の部屋な」

あ、そっか。オレ、確かPにーーー

「あれ?なんかオレ、とんでもないことしてなかったか……!?」



起き上がろうとするオレをPが制する。

「おっと、寝てろ寝てろ…。
はは……一応自覚はあったんだな……」

「なんか、あのとき体がスゲー熱くて、心臓バクバクいって……!」

「多分だけど……」

食前酒で出された梅酒と梅ジュースが入れ替わってたんじゃないのか、って!
その酔いが遅れてきたか、温泉でのぼせたからなのか…
今じゃ確かめようもないけど!


……つか、Pの読んでる本……っ!!
ボンヤリしてた頭が急にクリアになるーーーっ!!


「あっ!そっ、それ!!!オレの……っ!!!」



「ああ、これな!
昴が倒れたときにそばに落ちてた。
悪いけど、看病してる間読ませてもらってたぞ。
……まぁ、だいたい分かったよ」


そう静かに言ってパタン、と本を閉じるP。


「今日1日、様子が変だったのもコレの受け売りだな。
いきなりどうしたんだ?」


そう心配して聞いてくるP。

オレは白状する。



「うん…オレさ、Pやファンのみんなにいっつもスゲー応援されてんじゃん?
でも、考えてみたら、オレいっつももらってばっかりでさ…」


どうしたらみんなに感謝のキモチを伝えられるかなってオレ、考えてみたんだ。
歌やダンスをがんばるのもそうだけどさ。
やっぱアイドルなんだし、
今より『かわいいオレ』をみんなに見てほしいなって思ったんだ!


「でも、前のセンター公演でも考えたけど、
かわいいってなんなのかやっぱオレ、わかんなくって……。


劇場のみんなにどうしたら今よりかわいくなれるか聞いても、
『昴はそのままでかわいい』っていうんだ!

でもオレ、やっぱり今よりかわいくなりたいし……!
そんなとき、この本が……」



「なるほど…『かわいいの練習』をすればかわいくなれるかも、と」

「そう!それ!
実験台にしちゃったPにはわりぃなって思ったんだけどさ」

「それは別にいいんだけど。
……で、1日これのとおりにやってみて、どうだった?」

「うん……なんか……ちげぇなぁって思った」

「だろうなぁ。
誰かのマネやフリをするのなんて、そんなの昴じゃないよな?」


……そうだよなァ。
それはオレが一番思った!
でも、じゃあどうすればもっとかわいくなれるんだろ?
オレはまた考え込む。
Pも少し考えてから、口を開く。


「うーん、みんなが言ってた『今のままの昴』でかわいくなっていけばいいんじゃないか?」

「え?なんだよ、それ!」

「急に変わろうとしたり、焦るから昴らしくならないんだよ。

今の昴にはそうは思えないかもしれないけど、
他の劇場のみんなもまだまだアイドルとしては未熟で、成長してる途中なんだ。
一見大人に見える歌織さんや風花だって……
それは昴もそうなんだ!

昴だって、1日でカーブボールを投げられるようになったんじゃないだろ?」


……ああ!投げれるようになるまで、スゲー練習した。
日が暮れるまでずっとボール投げて、
出来なきゃコツを調べて、何度も試して!



「……あ、そっか!なるほど!
『かわいさの道は1日にしてならず』
って感じか!?」


「はは、まぁ、だいたいそういうこと…かな?
焦ることはないさ。これからゆっくり
『昴のなりたい昴(アイドル)』を探して、なっていけばいいんだ。
ファンの人も、きっとそうなっていく昴を見たいんだと思う」


「オレの…なりたい、オレになる……!」


…うん!なんか分かった!
まだ、どんなオレになりたいかわかんねーけど!
でも、スゲーしっくりきた気がする!



「やっぱ、Pはスゲェなぁ……!
いつも悩んでるオレに助けをくれてさ!
ほんと、いつもサンキュな!P!」

素直にPへの感謝のキモチを伝える!

「お礼なんかいいさ。
 俺はただ、アイドルの手助けをしてるだけだからな!」

そういって、ちょっと照れたように話すP。

「もー!P、いつもそんなこといってる!
褒めてんだから、たまには素直に受け取れよな!」

「はは……まぁ、そのうちな!

 ……さぁ!もう夜も遅い。
明日も車で帰らないといけないんだから、もう寝よう。
俺はもうひとつの部屋で寝るから…」


そう言って、オレの布団のとなりから腰を上げようとする。



オレは布団から腕を伸ばしてPの浴衣の袖をすこしひっぱる。

「……?どうした?」

「なぁ……P。まだ、聞けてない」

「え?なにが?」

「さっきの、オレに……ドキドキしてくれたか……さ」

「なっ………!覚えてたのか!?」


「うん…まだ聞けてない!
聞けないと、オレ、この手離さないかんな!」


オレはニヤッて笑う!
俺が寝てる間に勝手に本を読みやがった、バツ!



「お、おい!また本の受け売りか!?それはやめるんじゃなかったのか!?」


「なんのことー?これは本には書いてないぜ?
 さぁさぁ!P、どうなんだよぉ??」


みるみる顔が真っ赤になってくP!
それを見てるとおかしくて、つい笑いがこぼれる!

オレも、ちょっとハズいけど…
でも答え、顔に出てんぞP!


へへ、もうちょっとからかってから袖、離してやろうかな?





ーーそれからーー



あの箱根ドライブから数日後。
休み明けの劇場は、オレとPが外泊旅行したって話題でもちきり!
みんなからスゲー質問攻めを受けた!
オレとPのふたりで説明してどうにか解放されたけど!



旅行から帰ってきてから、例のあの本は開いてない!
オレにはもう必要のないものだって分かったから。

でも、不思議と捨てる気になれなくて、本棚の肥やしになってる!

たしかにあの日、本に書かれてることに振り回されて、
すげーハズい想いしたけど、
やっぱ楽しかったし、なんか忘れたくないなって思うんだよな!



それからしばらく経って、Pがまた箱根に行くことになった。


オレは何時に出発するかあらかじめ聞いていたから、
それより前に劇場に着いて、事務所でPを待つ。

朝が早いからか、劇場にはまだ誰も来てなかった。



「あれ?昴おはよう!今日はずいぶん早いんだな!」

「あ、おっす!Pぁ、まってたぜ!今日は箱根なんだろ?」


「そうだな!
今日は箱根の祭りの実行委員会との初顔合わせだ。
色々と検討事項が多い大事な会議だ!がんばってくるぞ!」


そう言って、Pは気合十分!といった感じでチカラコブを作る!

それからPは机から書類とかを取り出していく。

「……よし、準備完了!
じゃあ、行ってくるな!
昴も今日レッスンだろ?遅刻しないようにな!」


そういっていそいそ出ていこうとするP。


「……あ、待ってくれよ!Pぁ!」


そう言ってオレはPを呼び止める。




「その……今日が大事な会議って聞いてたから……

これ!
弁当!作ってきたんだ!よかったら持ってってくれよ!」


そう言って、弁当が入った袋を手渡す。


「おっ……、いいのか!?昴!」


「へへ……いいも悪いも、そのために早起きしてここに来たんだぜ?」


「ああ!ありがとう!中身が気になるなぁ。
……いま、弁当の中、見てもいいか?」


そう言って、弁当の入った袋を取り出そうとする……っっ!



「は、はあああああ!?
だ、ダメ!ぜってーダメだから!!!
ひとり!ひとりで見てくれよ!!
これは絶対な!!!
破ったら一万本ノックの刑だかんな!!!」


「い、一万本ノックはいやだな……。
わかったよ!
ひとりで食えばいいんだな?」


その一言にホッとする!
ほんと、Pってするどいっつーか、
わざとやってんじゃねーかって思うときあるよな!




「コホン…!
 えっと…この弁当はさ、その……『応援』な!」


「応援?」


「ほら!前言ったじゃん?

『オレのなりたいオレ』になっていこう、って!
…で、もう一度オレがどんなアイドルになりたいのか考えたんだ!」


「……!
 ……で、それは見つかったか?」


「ううん!まだ分かんね!」

オレは目いっぱい、元気よく言い切る!
オレは続ける。



「……でもさ!分かんないからこそ、後悔したくない!
今のオレができることをめいっぱいやってさ!
後から見たらベストじゃないかもだけど、
そのとき1番頑張って可愛くしてるオレを、ファンに届けたいって思うんだ!」


「……ははは!そうきたか!
 ……うん。ファン想いの昴らしい、直球勝負のいい答えだと思う!」


Pは、すごく満足そうにオレの答えを聞いてくれた!
へへ、よかった!


「…でさ、さっそくオレをアイドルへドラフト指名してくれたファン1号のPにさ、
なにかしてやりたいなって考えて……」



「なるほど!だからこの弁当は『応援』……か!」

「そう、応援!
今日が大事な会議って聞いてさ!
いろいろ考えたんだけど、オレが今日のPにできることって、
やっぱ料理くらいだしさ!」

「いや、そんなことない。すごく嬉しいよ!
 ……じゃあ、アイドルからもらった応援にはちゃんと応えなきゃ、
ファンじゃないな?」


「……あ♪ へへ、そうだぜ!P!
 オレのセンターでもとってくる勢いでキメてきてくれよな!」

「ああ、まかせろ!行ってくるな!」

勢いよく荷物を持ち上げて…
でも弁当が崩れないように姿勢を正して、飛び出してくP!

その後ろ姿をオレは見送る。




ーーホント、いつもありがとな!

ちょっとでも……もらった分、返せてたら…いいな!





ーー箱根 某所会議室ーー


午前中からライブの打ち合わせをしているが、
検討事項が思ったより多い……。
そして主催者側の熱量もすごい!
積極的に意見が飛び出るから、まとめに骨が折れそうだ!

ステージの設営場所や公演回数の打ち合わせなんかは昼からに持ち越された。


「ふぅ……」


昼休憩ということで、緊張していた体から少し力を抜く。



「ああ、君!これからウチの若いのと一緒に昼ごはんを食べに行くんだが、来るかい?」

野球好きの会長に声をかけられる。
地物(じもの)にありつける願ってもない機会だけど、


今日はーー

「ありがとうございます!
……せっかくのお誘いですが……今日は、わたしは弁当があるので……」

「お、ははは!愛妻弁当かね!?君も、スミに置けないねぇ!」

「はは……まぁ、そういうことにしておいてください……」


「……ところで、今度のライブの件……
その、わしは昴クンをセンターにしたいと思っているのだが……」

「えっ!永吉をですか!それは……本人も喜ぶと思います!」


「ははは!
あの野球談義をしてから、すっかり昴くんのファンになってしまったよ!
ただ、ウチの若いのも若いので誰をセンターにするかで揉めてるみたいでなぁ。
昼からは、センター談義で長くなりそうだよ?
ハハハ!」

そう豪快に笑って会議室から出ていく会長。
これは……長丁場になりそうだ。




賑やかだった会議室は、今は俺ひとりだけ。


俺は昴が作ってきた弁当を取り出す。
飾りっ気のない使い込まれたアルミの無骨な弁当箱。
父親のを借りてきたのかな?とクスリと笑みが溢れる。


弁当の蓋を開ける。
献立は、唐翌揚げ、かぼちゃの煮物、ほうれん草のおひたし、
おっ、俺の好きな卵焼きも!
……すごいな!おかずがギュウギュウに詰め込んである。
これは食べがいありそうだな!


ご飯の部分にはアルミホイルがかけてある。


今回ものり弁かな?
前みたいに海苔がフタにひっつかないようにしたんだな。
考えたな!昴!


ホイルをそっと剥がすと、
海苔のいち面の黒がーーー



ん?





そこには、海苔を切り抜いて書かれた、
文字みたいなものがご飯の上に浮かび上がってる。





      か ッ と ば セ !


     プ ロ デ ユ ー サ ー !




少しよれてるし、所々大きさも違うケド…
たしかにそう読める、
大きな大きな、海苔の切り抜き文字。



シンプルな言葉。
でも、たしかに昴の言葉だ。



自然と顔がほころぶ。




応援、か!
俺は食べる前からムクムクと活力が溢れてくるのを感じる!





ーーーうん、昼からも頑張れそうだ!!






以上です。
長いお話でしたが、ありがとうございました。
昴クンお誕生日おめでとう!!
これからも隠れて応援しています!

箱根に行ったのはもう5年ほどまえなので写真を見て思い出しながら書きました。
事実と違うトコロがあるかもですが、ご容赦を!

皆様のお暇つぶしになれれば、幸いです。


作者の過去作まとめです。よろしければ!

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