希「のぞみドライブ (18)

凛「わ~海が綺麗だ~」

後部座席に座っている凛ちゃんがはしゃぎながらシートベルトが伸びる限界まで身を乗り出して来た。

海未「凛。車の中ではしゃがない。危ないでしょう」

凛「だって~」

凛ちゃんに注意をする海未ちゃんのその口調はまるで昔と変わらず懐かしいなぁと感じる。

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昔と言ってもそんなに前ではないのだけれど高校を卒業してお互い多忙で仲間で集まる機会も減って来ていたからそう感じるんだろう。

今日も何となく皆んなに声を掛けたけれど集まれたのはこの3人だけだった。

なんていい方をするとこの三人が暇人と捉えられてしまいそうなので補足しておくと海未ちゃんも凛ちゃんも大学生になってから多忙を極めている。

海未ちゃんは日舞と弓道、凛ちゃんは大学からまた陸上を始めたし私は社会人一年目。期待の新人だ。

ピロリーン

海未ちゃんのスマートフォンが鳴った。

海未「穂乃果からです」

希「何だって?」

これっと言って見せて来たスマホの画面には

「お土産楽しみにしてます」

の一文とよく分からないキャラクターのスタンプが写っていた。

希「一番楽しみにしてたのになぁ」

凛「ね~。穂乃果ちゃん久しぶりだから楽しみにしてたのになぁ。当日になって風邪を引くなんて穂乃果ちゃんらしいと言えばらしいけど」

穂乃果ちゃんは風邪を引いてしまったらしく急遽来れなくなってしまったらしい。今頃家でクシャミでもしているだろう。

ウインカーを出して車線変更する時に私の方をじっと見つめる海未ちゃんと目が合った。

希「何かな?そんなに見つめられると照れちゃうよ」

海未「いえ。随分と運転に慣れているなと思って」

希「免許取ってだいぶ経ったからね」

海未「なんか不思議ですね。希が車を運転するなんて」

えりち以外の仲間には運転する姿なんて滅多に見せた事がないからそう思うんだろうな。

海未「少しづつ私の知らない希や凛が増えていきます。それが寂しい事だとは思いませんが・・・大人になって行くってこう言う事なのかなぁ」

さっきまで私を見つめていたその瞳は窓の外の海を見ていた。

FMラジオから季節外れのサザンオールスターズの曲が流れていた。

凛「懐かしい歌だよね」

希「生まれる前の歌やけど」

凛「小学校のお昼の時間によく流れてたよ」

そう言いながら曖昧に歌詞を口ずさんで私達の笑いを誘った。

海未「もう。さっきから間違えてばかりじゃないですか」

凛「えへへ。そうだっけぇ」

海未「そうですよ。そこはLove and SoulじゃなくてHeart and Soulですよ」

英語は苦手だからとまた凛ちゃんは私達の笑いを誘った。

希「でも、凛ちゃんの歌って久しぶりに聞いたな」

凛「ん~そう?私は二人の歌声の方がしばらく聞いてないよ」

希「まあ、確かに歌ってないかもなぁ。ウチは高校卒業してだいぶ経ったしね」

凛「でしょう?」

希「うん」

そんな私達の会話を聞いて海未ちゃんが笑いながら

海未「久し振りに聞きました」

凛「私の歌?」

海未「ううん。希のそのエセ関西弁」

希「え?出てた?いやぁ二人といるとつい・・・」

海未「途中から。やっぱり私にとって希はその喋り方がしっくりきます。凛もですけど」

凛「流石に大学生になってまでにゃあにゃあ言ってられない・・・にゃ!」

私も似たような理由だ。けど、私と凛ちゃんとは違う。

希「私はむしろ関西弁の方が偽りだったって言うか」

凛「偽りの希ちゃんなんて居ないよ。今も昔も。喋り方が違っても希ちゃんは希ちゃんだよ」

海未「そうですね」

ああ、やっぱり私はこの二人が好きだなぁ。

ラジオからは今流行りのアイドルの曲が流れ始める。道が空いているので車はどんどん進む。

希「そう言えば前に皆んなで海に合宿に行った時の事覚えてる?」

凛「海未ちゃん張り切ってたよね」

海未「そうでしたっけ?」

昔話に花が咲く。車が進むに連れてまるで昔に戻る様な感覚だった。

海未「陽が落ちて来ましたね」

凛「そうだね」

希「一回、どこかで降りようか?」

海未「どこかって?」

希「そこら辺に止めて海でも見ようよ」

私は駐車場を探したがなかなか見つからず見つけた頃にはすっかり夕日が辺りを染めていた。

海辺の駐車場に車を止めドアを開けると空気が肌に纏わりついて来て体の温度を奪っていった。

海未「もう夜はだいぶ冷えますね」

これっと鞄から三つカイロを取り出した。

希「準備がいいね」

海未「まあ、こうなるとは思っていませんでしたが」

凛「ねえ。こんな所で話してないで早く下に降りようよ」

凛ちゃんに促され私達は海岸まで降りた。

海未「冬の海も風情がありますね」

希「そうだね」

私も季節の海辺は夏と違いとても空気が澄んでいて神秘的に感じていた。

そんな私達とは打って変わって凛ちゃんは砂浜を走り回っている。

海未「喋り方は変わっても凛のああいう所は本当に変わりませんね」

希「うん。きっとずっとあんな感じなんじゃない?」

それは困りますねと海未ちゃんはクスッと笑った。

海未「海は好きです」

希「ん?自分の事?」

言うと思ったと苦笑いをされてしまった。

海未「目の前に広がる海ですよ。確かに自分の名前がそうだからと言うのもあるかもしれませんが」

真っ直ぐ海を見つめて海未ちゃんは続ける。

海未「知っていますか?私達が生まれる前、この大きな水の塊に名前がつくずっと前から地球上にあって人類はそこから生まれたんです」

希「知ってるよ」

海未「だからですね。きっと細胞レベルで私達は海に惹かれるんでしょうね」

希「うん。だからなのかな。私が海未ちゃんを好きなのも」

海未ちゃんが顔を真っ赤にすると思って言ったつもりだったが

海未「じゃあ相思相愛ですね。私達」

と私の顔を見て言うのでこっちの方が顔を赤くしてしまった。

海未「ふふっ。私だっていつまでもやられっぱなしじゃないですからね」

それからしばらく沈黙が続いた。気がつくととっくに日は沈んでいて海はすっかり色を失っていた。

海未「覚えてますか?」

沈黙を破る様に海未ちゃんが口を開いた。

希「ん?」

海未「4年前、私達は今みたいにこうして肩を並べて海を眺めたんです」

希「うん。今は二人やけど」

凛「仲間外れにするな~。三人だよ!」

海未「ふふっ、今も変わりません。例え同じ場所に居なくても心は繋がってますから。だから・・・」

希「そうやね」

凛「あっ!流星!」

希「本当だ!」

海未「いつかも見ましたね。流れ星」

希「あれも合宿の時だったかな」

凛「うん。今頃皆んなもあの星を見てるのかな」

海未「きっと。空も海もそして心も繋がっていますから」

それからしばらく誰も何も喋らなかった。ただ、ひたすらに海と星を黙って眺めた。

告白します。私が今日皆んなに声を掛けたのは何となくなんかじゃありませんでした。

私は今不安で挫けそうで泣いて逃げてしまいそうでした。

今まで何となく何でも器用にこなしてきました。持ち前の容量の良さでそれなりの会社に入社して初めて仕事を任されて。けど今壁にぶち当たっています。

きっと誰しもが経験する事なんだと思います。むしろ若手の内にそれを経験出来るのは幸運だと思います。

けど、このまま我慢し続けていると壊れてしまいそうだから。ただ、皆んなの顔を見たかった。それだけで私は明日からも頑張れると思ったから。

帰りの車、ミラーに目をやると凛ちゃんはぐっすりと眠っていた。

希「ふふっ。疲れちゃったかな。あれだったら海未ちゃんも寝てて良いよ」

海未「私は大丈夫です。希こそ一日中運転して疲れたでしょう?」

希「あ~大丈夫だよ。慣れてるから」

海未「本当ですか?」

希「本当だよ」

海未「心配です。希は・・・嘘つきですから」

希「そんなイメージあるんだ」

海未「あまり無理はしないで下さい」

もう大丈夫だよ。二人の顔を見れたから。次は皆んなで来ようね。

こういうの好き

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