ほむら「時の檻」 (41)

まどか(人はいつか必ず死ぬとして、私はその死を受け入れられるかな)

まどか(死んだその人は、今の今までちゃんと後悔なく生きられたって、そう思えるのかな)

まどか(私は、何かやり残したことは無いか、あの日からそればかりを考えてる)

まどか(いつ死んでもいいように、突然死んだとしても後悔がひとつも残らないように)

まどか(私もいつか必ず死ぬとして、そして突然死んでしまって、その時)

まどか(私は後悔するのかな)

まどか(私は、今を楽しんでる?)

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QB「綺麗な月だねえ、今夜は」

まどか「そうだね」

QB「こういうのを、落ちてくるようなって言うのかな?」

まどか「…」

QB「その沈黙は警戒かな、それとも1人になりたいだけかな?」

まどか「警戒…はないかな、私はあなたと契約する気は無いし」

まどか「1人になりたいって言うのは半分正解、最近少し考えちゃうから」

QB「考える?何をだい?」

まどか「…」

まどか「今私が死んだとして、後悔があるかなって」

QB「…」

QB「あの日、ワルプルギスの夜が来て自らや近しい間柄の人間の死が迫ったことで、そういう風な考えが頭から離れない、そういう事かい?」

まどか「…あの日から、私の中で誰かの死が近くなった、遠い物語の話じゃなくて、現実味を帯びた事実になった」

まどか「今回は偶然、誰も死ななかった、さやかちゃんもマミさんも、杏子ちゃんも、家族も、皆生きていた」

まどか「けど、またワルプルギスの夜が来たら?その時は無事だなんて思えない」

QB「安心するといいよ、君の生きているあいだにワルプルギスの夜が来ることは有り得ない」

まどか「ううん、そういう事じゃないの、あの一日で分かったんだ」

まどか「人は簡単に死ぬ、そして一瞬で」

まどか「それは魔法少女っていう存在でも同じ、生きてるものはみんな死んじゃうんだ」

まどか「私はそれが分かっていなかった、死はこんなにも近くにあるって事が」

QB「その君が気がついた事実が、君の悩みなわけかい?」

QB「それは困ったね、そんな願いを叶えるような方法は僕らの契約じゃ思いつかないな」

まどか「だから、私は今を楽しむ」

QB「メメントモリ、明日死ぬ=今日を楽しめ、だったかな」

QB「君の言うことは理解は出来たよ、生きるという行動においてムラのない僕らからすれば共感は到底出来ないけれど」

QB「それに、君の言う後悔しない生き方ってやつにも興味があるね」

QB「君は、何をなしとげれば後悔しないんだい?」

まどか「それは、わかんない」

まどか「周りの人への感謝を伝えたとしても、死ぬ一瞬の間に、私はきっと「もっと伝えておけば」って後悔すると思うし」

QB「それじゃあ堂々巡りじゃないか」

まどか「そう、だから悩んでるの」

QB「うーん、厄介だなぁ、本当人間は無駄な思考が多い生き物だ」

まどか「…まぁ、QBなんかから解決案が出るとは思ってないよ」

まどか「そういうのって私にとって大切な存在がどうにかしてくれそうな気がするし」

QB「酷いこと言うなぁ」

まどか「ごめんね、QBはQBで大切なことがあるんだもんね」

まどか「でも、私は私にとって大切な存在に線を引くことにしたんだ」

まどか「そうじゃないと、間違いを起こしてしまいそうだから」

QB「変わったね、今の君なら目の前で他人が死にかけていても無視しそうだ」

まどか「…」

QB「変わらざるを得なかったのか、そうでないと大切なものとの境界線が分からなくなって」

QB「いずれは天秤にかけた時に、分からなくなってしまいそうだから、かな」

QB「まるで僕らみたいだ、まぁ僕らは意識して線引きをしている訳では無いけれど」

まどか「究極的に合理的、あなた達らしいね」

QB「契約は出来なさそうだね、してみないと分からないとはいえ、今の君からは到底エントロピーを回収出来なさそうだ」

まどか「…そう」

QB「話し込んでいたらもうこんな時間だ、君も早く寝るといい」

QB「夜更かしは乙女のなんとやら、だろう?」

まどか「うん、おやすみ」

QB「うん、おやすみ」

まどか「…」

まどか(そう、それがきっと正しいんだ)

まどか(大切なものを失わないためには、私にとって大切なものを定義する必要がある)

まどか(そして、その他を見捨てるという覚悟も必要だ)

まどか(きっとそれが、私にとってのメメントモリ、今を楽しむってこと)

まどか(そうに違いないんだ)

さやか「まどか、おっはよー」

まどか「おはよう」

さやか「ちょっと聞いてよー、杏子の奴が夜中までゲームしててさあ」

まどか「…うぅ~ん…ふあぁ…」

さやか「ってあれ?まどかももしかして寝不足?」

まどか「そうかも…最近寝られなくて…」

さやか「良くないなー、夜更かしは乙女の天敵だぞ~」

まどか「えへへ」

さやか「何笑ってんのさー」

さやか「…」

さやか「復興作業、だいぶ進んでるね」

まどか「うん」

さやか「…本当、良かったよ、誰も死ななくて、こうしてまた皆と学校に通えるんだから」

まどか「…でも、死んじゃった人もいたよ」

さやか「…それはそうだけどさ、それでもこうやって街全体が活気を取り戻そうとするのって、なんて言うか…人間の強さってやつを感じるなー」

まどか「…」

さやか「酷い目にあっても、立ち直ろうって言う感じのさ」

まどか「それはきっと、私たちの身近な誰もが死んでないから」

さやか「…っ」

まどか「死んでたら、きっとそんな風には言えないよ、きっと私はそれこそ死んじゃう程落ち込んじゃうと思う」

さやか「…なんかまどかの言い分、この状況が最悪って感じに聞こえるね」

まどか「ううん、でもきっとそういう不幸な人達にとっては最悪だと思うよ」

さやか「…なんでそういうこと言うのさ…それならその分私たちが支えてあげればいいじゃんか!」

まどか「見ず知らずの人をどうやって私たちが支えるって言うの!?」

さやか「…それはっ…」

まどか「さやかちゃんの言うことは間違ってないよ、でもきっとその人たちは一生後悔するよ!」

まどか「辛くて辛くて死んじゃいたいって思ってるよ!」

まどか「私はそんな人達もいる状況を、人の強さが!なんて言えないよ!」

まどか「…だって私は、さやかちゃんが死んじゃったら、悲しいもん…」

まどか「きっと…立ち直れないよ…!」

マミ「公道で何を怒鳴ってるのかしら」

さやか「…!マミさん…」

まどか「…」

マミ「珍しいわね、鹿目さんと美樹さんが喧嘩なんて」

さやか「…喧嘩ってほどじゃ」

マミ「…まぁ、少し聞こえていたけれど、2人の言うことは、どっちも間違ってないと私は思うわよ」

まどか「…」

マミ「今日は、悪い子にでもなっちゃいましょうか?」

さやか「…?」

マミ「1日くらい学校をサボっちゃっても誰も文句は言わないでしょ?美味しい紅茶が入ったの、ちょっとだけ頭を冷やさない?」

ガチャッ

杏子「オラァーーーっ!」

さやか「うわっ!びっくりするなぁ!」

杏子「おう、さやか!今このゲームやってんだけどさ!さやか…?さやか?」

杏子「お前ついに留年したのか?」

杏子「ちゃんと勉強しねえからだぞ、さやばか」

さやか「違うわ!」

まどか「えへへ、ごめんね杏子ちゃん」

杏子「まどかまで?頭があまり良くないのは知ってたけどお前もか?マミ、お前は?」

マミ「全体的に勘違いしているわね」

杏子「で?」

杏子「あんた達の微妙な距離感見てたら何があったのかは想像つくけどな」

杏子「お前が悪い、謝れさやか」

さやか「話くらい聞きなさいよ!」

マミ「…2人ともね、とっても大切なことについて話してたのよ」

杏子「…大切なこと?」

マミ「この、町の状況よ」

杏子「…???」

杏子「はぁ、なるほどねえ」

杏子「結構めんどくさい事で悩んでんだな」

さやか「めんどくさいって…あんたねぇ」

杏子「あたしは大して何も思わねえよ、自分が生きててよかったなぁ、もっと言えばお前らが死ななくてほんと良かったなぁ、位だ」

さやか「…それは私にとっても、きっとまどかにとっても大前提だよ」

まどか「…私は、この街の今が活気づいてるにしろ、手放しにこの状況を喜べない」

まどか「きっと身近な存在がいなくなってしまった人がいるから」

まどか「…だから、私は線引きしたいの」

まどか「…本当はこんなこと言いたくないけれど、それでも」

まどか「私は皆が大切、そして、それ以外の人達は…」

まどか「…」

杏子「…変なやつだな、お前」

杏子「大切なものを線引きするってーなら、そんなヤツらのこと気にしなけりゃいいじゃねえか」

杏子「線引きするって言う割に、お前はその不幸な奴らのことを考えてるだろうが」

まどか「…それは…」

杏子「あんな事があったんだ、そりゃ変わっちまう部分もあるだろうよ」

杏子「でも、お前の根っこはきっと変わってないよ、お前はどうせ目の前で人が死にかけてたら自分を顧みないで飛び込む甘ちゃんでバカだ」

まどか「…っ!それが嫌だから…!」

杏子「あたしはそれが良いな」

まどか「っ…!」

杏子「そんなまどかが、あたしは良い」

マミ「…佐倉さん…」

杏子「あんたが自分を顧みないことなんかあたし達は重々承知だ、きっとあんたはまた馬鹿やらかす」

杏子「その度にあたし達が助けてやるよ、あんたが私達を助けようとしてくれたみたいにな」

杏子「身近な奴が死んじまった、大変な事じゃねえか、そりゃきっと赤の他人にはどうにも出来ねえよ」

杏子「だからこそ、そいつは他の誰でもない自分自身の足で立ち直るべきなんだ」

杏子「立ち上がるまでは人の手を借りてもいいさ、でも立ち上がったとき誰かがそばにいないとダメってんじゃ話にならねえ」

杏子「さやかの言ってる強さがどういうもんかは知らねーが、少なくともあたしが思う人の強さってそういうもんだと思うぜ」

杏子「…な?…マミ」

マミ「…ふふっ、そうね」

マミ「大切な人が死んでしまったということは、とても辛いことかもしれない」

マミ「けど、それを忘れずに、生きてさえいれば、きっと人は…また何度だって立ち直れるわよ」

さやか「…まど…」

まどか「…くせに…」

杏子「まどか…?」

まどか「忘れてるくせにっ!」

マミ「か、鹿目さん…?」

まどか「皆!覚えていないくせにっ!私たちの大切な人のこと、忘れてるくせに!」

まどか「だから私は、もう失わないように生きていきたいの!失ってしまったら!忘れる方が楽だって思ってしまうから!」

さやか「まどか…!あんた何を…!」

まどか「私は後悔したくない!誰も誰もこれ以上失いたくない!」

まどか「私はっ!もうこんなの嫌だよ!!」

マミ「行ってしまったわ…」

さやか「…まどか、なんて言ってた?忘れてる?私たちが?」

杏子「…」

マミ「もしそうだとしたら、彼女に酷いことを言ってしまったかもしれないわね」

さやか「…まどかだけが覚えていて、私たちが忘れてる?」

杏子「そりゃ…キツイな、まどかだけが苦しい思いをしてるところに、あたしたちが知った顔で説教垂れて良いもんじゃねえ」

マミ「…居る?QB」

杏子「おいおい、マジか」

さやか「マミさん…」

マミ「ちょっと雲行きが怪しいわ、仕方の無いことだと思ってちょうだい」

QB「呼んだかい?マミ」

マミ「どこまで聞いていたか知らないけれど、あなたの見解を教えてちょうだい」

QB「まるで僕らがずっと君たちを監視しているみたいじゃないか」

杏子「事実そうだろうが、お前ら何匹いるんだよ」

さやか「QB、どうなのさ?」

QB「どうも何も、彼女からそういう話を聞いたことはないよ」

QB「ただ口ぶりからして、それに近しいことはあったんじゃないのかなって予測はしていたけどね」

さやか「なんで言わないのさ!」

QB「言って君たちは納得が言ったかい?ともすれば彼女の妄言、ただの夢物語かもしれない言葉を君たちは受け入れたかい?」

QB「こういう状況に陥った時の君たち魔法少女は理解の範疇に位置する何かを、驚くほどあっさり切り捨てるからねえ」

マミ「それで、あなたはそれが事実だと思う?」

QB「鹿目まどかの夢物語を、かい?」

QB「そうだね、気になるところといえば、彼女はどうして、君たちにその事を伝えずして「皆が忘れてる」という確信に至ったか、だね」

杏子「どういう事だ?」

QB「だってそうだろう?「自分以外の人間が特定の人物を忘れてる」という事実が確定するのは、彼女がその特定の人物の話題を口にしたときぐらいだ」

QB「でも君たちはその話を今聞いた、ということは、彼女は君たちの前で忘れてる何かの話をしていない、もちろん、僕らにもね」

QB「不可解だよ、どうやって鹿目まどかは「自分以外の人間が特定の人物を忘れてる」という事実に行き着いたのかな?」

マミ「その人物についての予想は?」

QB「立てようと思えば立てられるよ、忘却の魔法を使う魔法少女だとか、魔女からの精神攻撃だとか」

QB「けれどそれは単なる可能性の網羅だ、言おうと思えばいくらでも言える」

杏子「結局、分かんねえってことか」

QB「ただ、やっぱりそれについて事実に近い予測を立てるなら」

QB「「それ」は魔法少女であり、ワルプルギスの夜を君たちと共に超えた存在であり」

QB「鹿目まどかの心に奥深く根をはった人物だという事だ」

QB「そんな存在を君たち魔法少女が忘れると言うなら、それはきっと、魔法、なんだろうね」

マミ「私たちと共に夜を超えた…」

さやか「魔法…少女…」

杏子「…」

まどか(…本当に、誰も彼女のことを覚えていない)

まどか(それは分かってた、彼女の魔法が暴走を始めた時に、直感がした)

まどか(彼女と撮った数少ない写真にも、出席簿からも、この世界の全てから彼女のいた痕跡が消えている)

まどか(分かっていたはずなのに…つい感情的になっちゃって…)

まどか(そんなの辛いだけなのに…どうしてこう、上手くいかないんだろう)

まどか(逢いたいよ、もう一度だけ)



『まーどか』

まどか「…!?杏子ちゃん…!?」

QB『僕も居るよ』

まどか「…どうして…」

まどか「…」ガチャッ

杏子「ようまどか、食うかい?」

まどか「…うん、ありがとう」

QB「僕はあっちに行ってようかな、僕がいると話しづらそうだし」

まどか「いいよ、別に」

まどか「彼女との最後の約束を、破るつもりなんてないから」

まどか「それにどうせ、あとから聞くんでしょう?」

まどか「…さやかちゃんと、マミさんは…?」

杏子「…居ねぇよ…2人とも飯の準備してくれてんだ」

まどか「…そっか」

まどか「…それで、何から聞きたいのかな」

杏子「…あんたが忘れたってやつについてだ」

まどか「…」

まどか「彼女は、私にとっての大切なお友達、私のことを思って、ワルプルギスの夜に立ち向かってくれた人」

杏子「そんなやつの事だ、きっとあたし達にとっても大切なやつだったんだろ?なんであんただけが覚えてる?」

まどか「…きっと彼女の願いの中心に私がいたから…それと、彼女の魔法の暴走が始まった時、最後の最後まで彼女に触れていたのが私だったから」

杏子「解せねえな、けど魔法だしなんとも言えねえか」

杏子「じゃあ、どうして皆が忘れてるって知ったんだ?」

まどか「…」

まどか「最初は、直感」

まどか「この人がこの世から居なくなってしまうんじゃないかっていう、直感」

まどか「そして、違和感」

まどか「彼女が見当たらなくなっても、誰も彼女のことを気にとめない」

まどか「彼女のいたはずの席はなくなってて、出席だって彼女の名前は飛ばされる、彼女との思い出からも、彼女は消えた」

まどか「…きっとみんなは優しいから、そんな事を言うと一緒に苦しむって、そう思ったんだ」

杏子「1人で抱え込むなって怒鳴りたいところだけどな…お前はそういうやつだよな」

杏子「なぁ、名前くらいは聞かせてくれよ、彼女彼女じゃ、まるでお前の恋人の話聞いてるみてえだ」

まどか「…恋人って…!」

まどか「…」

まどか「名前、名前ね」

まどか「證∫セ弱⊇繧?繧」

杏子「…は?」

まどか「證∫セ弱⊇繧?繧、證∫セ弱⊇繧?繧、證∫セ弱⊇繧?繧」

杏子「…っ」ゾッ

まどか「おかしいでしょ?私は、彼女の名前を呼ぶことすら、許されないんだ」

まどか「文字で書いてあげてもいいけれど、きっとあなた達には伝わらない」

まどか「…ふふ、ねぇ」

まどか「彼女が何をしたっていうの…?ただ、私を助けようとしてくれただけじゃない」

まどか「彼女は言ったよ、ここまで来るのに大変な事をしてきた、数えきれないだけの罪を重ねてきたって」

まどか「けれど、それでも最終的にはこうして皆と夜を超えたじゃない」

まどか「沢山の人を、助けてくれたじゃない…」

まどか「こんなのが罰だって言うなら私は神様を軽蔑するよ…!」

まどか「間違ってる…間違ってるよ!」

杏子「…まどか」

まどか「だから私は決めたんだ、私は私の大切な人を優先しようって、もうこんな思いを二度としないように、もうこんな残酷なことが起きないように」

まどか「誰にも死んで欲しくない、絶対に死なせなくない、それが私の今を楽しめ」

杏子「…」

まどか「…」

QB「…」

QB「ねえ、まどか」

まどか「…何?」

QB「杏子は言ったよね、君が窮地なら、必ず助けに来るって」

QB「それはきっと彼女が口に出さずとも当然君にも伝わっていたはずだ」

QB「それなのに君はどうして、彼女たちに頼ることをしなかったんだい?」

まどか「してどうにかなるの?」

QB「どうしてどうにかならないと思うんだい?同じ魔法少女だよ?どうにかならない方が不条理だと僕は思うけれどね」

杏子「…QB…?」

まどか「…それは…!」

QB「要は君は彼女たちを信用していなかったわけだ、もしかしたら君は自分一人が苦しんでいるという状況自体に陶酔していたのかもしれない」

まどか「そんなわけないでしょっ!!!」

QB「そんなわけないというのなら」

QB「何故君は、誰にも助けを求めないんだい?」

まどか「…だっ…て…!そんなこと言ったら…みんなをまた酷い目に合わせちゃうかもしれない…!そうでしょ!?」

QB「あの夜を超えた時、僕は思ったよ」

QB「人間は、これがあるから強いのかもしれないってね」

QB「それはもしかしたら、君の言う彼女を欠いた偽りの記憶かもしれない、それでもあの時僕に少しだけ起こったバグは本物だ」

QB「あの夜を超えておいて、出来ないなんて言わせないよ、まどか」

QB「あの夜を超えておいて、不可能なんかあるものか」

QB「愚かで、無知かもしれない、けれど君たちは不可能を可能にしてきたじゃないか」

QB「君はその秘密を抱え込む期間が長かった、淀んだ澱が随分と心を蝕んでしまったようだ」

QB「秘密を打ち明けるのが遅かった、それはそうだね、でも」

QB「遅すぎたわけじゃない、そうだよね?」

さやか「もちろん」

マミ「今からだって、まだ間に合うわ」

杏子「…飯の準備は、済んだのかよ?」

さやか「あと少し!」

杏子「終わってねーのかよ、…ま、そういう事だ、まどか」

杏子「あんたがあたし達を大切に思ってくれてるように、あたし達だってあんたが大切だ」

杏子「知っちまったんだ、もう巻き込むななんて言ってもおせえぞ」

さやか「何がなんでも、その人を連れ帰ってやるんだから!」

まどか「…いいの…?」

まどか「…本当に、彼女を、取り戻して…くれるの…!?」

マミ「当然よ、その人だって、仲間なんでしょう?」

まどか「…うぅ…!」

まどか「…うぅ、うぅううぅぅ…!うわぁぁぁあ………!」






ほむら「…」

ほむら「…」

ほむら「…」

QB「少しは眠ったらどうだい?」

ほむら「あなたこそ、眠ったらどうなの?」

QB「僕らに睡眠は必要ないよ、けれど、眠るという行為は出来たはずだけれどなぁ」

ほむら「そう、眠くもならない、お腹も減らない、便利な空間ね」

QB「身動きが取れて、周りに何かあれば言うことがないね」

ほむら「…」

ほむら「ここへ来て、どれくらい経ったのかしら」

QB「3ヶ月、もしくはもっと長いだろうね」

ほむら「…そう」

QB「彼女たちのことが心配かい?」

ほむら「あなたに言う必要はないわ」

QB「気休めにもならないだろうけど、巻き込んでしまった僕のことは気にしなくてもいいよ」

ほむら「本当に気休めにもならないわね、あなたがまどかの傍にいたから巻き込まれただけの事じゃない」

QB「しかし話には聞いてみたけど興味深い空間だね」

QB「現実と隔絶された空間を、魔法少女1人の力で生み出してしまうなんて」

QB「これは興味深い事実だよ」

ほむら「あなた的には痛手じゃないのかしら?ここじゃ記録のやり取りなんて出来ないでしょう?」

QB「そうだね、でも大丈夫かな?」

ほむら「…」

QB「君と同じかはしらないけれど、妙な確信があるよ」

QB「いつかきっと、彼女達が君を見つけて連れ戻してくれるんだろう?」

ほむら「…ふふ、その時は、直ぐにあなたを殺してやるわよ」

QB「それは考えてなかったなぁ」

ほむら「そうね、名前をつけるなら刻の牢獄と言ったところかしら」

QB「ちょっとマミ入ってるね、時の檻くらいが丁度いいんじゃないかい?」

ほむら「時の檻」

ほむら「そうね、それくらいでいいかしら」

QB「…」

QB「それにしても災難だったね、君の時間遡行がこんな暴走をするなんて」

ほむら「懸念が無いわけではなかったわ、今までも不具合みたいなのは多々あったから」

QB「へぇ」

ほむら「…本当に、最後のチャンスだったのかもしれないわね」

QB「それを物にしたわけだ、良かったじゃないか」

ほむら「…」

ほむら「良かったのかしら」

QB「…?」

ほむら「成し遂げた今だからこそ思うけれど、私は、一人の人間の人生を捻じ曲げてしまったのではないかって、考えてしまうのよ」

QB「納得がいかなかったから、君は魔法少女になったんだろう?」

ほむら「そうね、だからこそ、成し遂げた今だから、なのよ」

QB「不毛だなぁ、じゃあもう一度時間を巻き戻して彼女を助けない道を選ぶかい?」

ほむら「いいえ」

QB「ほらね」

ほむら「本当にここは時間の流れがゆっくりで、静寂で、たくさんのことを考えてしまうわ」

QB「…そうだね」

ほむら「思えば色んな時間軸があった、けど、どんな時間軸でも決してぶれないものがあったわ」

QB「なんだい?」

ほむら「まどか、よ」

ほむら「彼女はいつだってまどかだった」

ほむら「私が助けたいまどかで、私を助けてくれたまどかで」

ほむら「私が大好きな、まどか」

ほむら「無理だというのなら、私なんか助けてくれなくたって構わない」

ほむら「ただ、彼女が人間として生きてくれさえすれば、それで…」

ほむら「…それで…それで…」

ほむら「…」

ほむら「嫌ね…鎖で縛られてるから拭くことも出来ないわ」

QB「余計な嘘をつくからじゃないかな」

ほむら「…そうね…」

ほむら「…まどかと一緒に、生きたかったなぁ」

ほむら「彼女と、彼女たちと、たとえ人間には戻れなくたって」

ほむら「それでも、普通の人間と同じように、生きられたら、どれだけ楽しかったかしら」

ほむら「…でも、あぁ、そうね」

ほむら「…やっぱり、私は、まどかが助かってくれた、それだけでいい…」

ほむら「こんなにも多くを望むなんて、バチが当たってしまいそうだもの」







まどか「…」

まどか「本当に、できるかな」

杏子「あぁ」

さやか「出来るよ、まどかなら」

マミ「信じてるわ」

QB「…」

QB(鹿目まどかの言う彼女はきっとこの世界とは隔絶された空間にいる)

QB(その現象自体は、少ないながらも前例がある)

QB(けれど、この世界から繋がりが無くなったわけじゃない)

QB(魔法がそうさせたのか、強い思いがそうさせたのか、鹿目まどかは彼女のことを覚えている)

QB(だったら魔法少女の魔力で通り道を作ってまどかがそれを辿っていけばいい)

QB(世界を隔ててなおその存在を確信している鹿目まどかなら、きっとできるはずだ)

QB(…いいや、違う)

QB(出来ると、信じているんだろう?)

QB(信じる、か、それは今までの僕にはなかった感情だ)

QB(僕らは統計的に見て確率の高い方を選択するだけだからね)

QB(信じる気持ちが強ければ強いほど、その結果に確信が持てる)

QB(もう一度見せておくれよ、夜を超えた日の、奇跡を)

まどか「帰ってきてよっ!」



まどか「ほむらちゃんっ!」

ほむら「…」

QB「迎えが来たようだね」

ほむら「…当然よ、彼女達が失敗するはずないんだもの」

QB「その割には、酷い顔だけれど」

ほむら「…乙女の顔をそう見るもんじゃないわ」

QB「乙女か、そうか、そう生きればいい」

QB「魔女を殺すことだけが、魔法少女の生き方ではないからね」

ほむら「ふふっ…あなたがそれを言うの?」

QB「さぁ、どうでもいいよ」

QB「暁美ほむら、君は今を楽しめそうかい?」

QB「君にとってのこれからの楽しみは何かな?」

ほむら「…」

ほむら「決まってるじゃない」




まどか「迎えに来たよ!ほむらちゃん!!」









ほむら「彼女と共に、生きることよ」

おわ

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