――おしゃれなカフェテラス――
高森藍子「ふ~っ……♪」
<からころ、からころ...
北条加蓮「小さい風車……。なんかいいね。こういうの」
藍子「ねっ? 可愛いでしょ♪」
加蓮「あはは……。どっちかっていうと、それをやってる藍子の方が――」
加蓮「なんてね。なんでもなーい」
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レンアイカフェテラスシリーズ第88話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「9月5日のその後に」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「お団子のカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「向かい目線のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「鼻歌交じりのカフェで」
藍子「ふ~っ♪」
<からころ、からころ...
加蓮「ん~~~~っ」ノビ-
加蓮「何か注文しようよ。少しだけ冷えるし、温かいココアなんて――」
加蓮「……あのね。別に風邪を引いたりしないから。さっと荷物をまとめて中に入ろうとしなくていいから」
加蓮「寒い、とは言ってないでしょ? 涼しいね、ちょっと冷えるね、ってだけなのっ」
加蓮「それとも何? 藍子は加蓮ちゃんに風邪を引いてほしいの? そのまま自分の部屋に連れ込んで看病でもしたいの!?」
藍子「…………」メソラシ
加蓮「…………そう」
藍子「ううん、でも風邪を引いたらやっぱり辛いですよね……。加蓮ちゃん、体がそんなに強くありませんから。もし熱が出たら、何日も苦しんじゃう――」
藍子「あっ。風邪を引いていなくても、来てもらえばいいだけですよね」
藍子「加蓮ちゃん!」
加蓮「えい」ペシ
藍子「痛いっ」
加蓮「1人で話を進めない」
藍子「……うぅ。ごめんなさい」
加蓮「別に予定はないけど、なんとなくそういう気分じゃないから。だから藍子の家には行かない。……じゃあって言ってうちに来るのも駄目だよ?」
藍子「そうですか~……」シューン
加蓮「……今度のオフの日、一緒に遊びに行ってあげるから」
藍子「! それなら……では、約束ですよ。加蓮ちゃんっ」
加蓮「はいはい、約束ね」
藍子「もし、体調を崩しちゃったら、その時は……加蓮ちゃんが嫌だって言っても、帰れって言っても、加蓮ちゃんの体が治るまでずっと加蓮ちゃんの側にいますからっ」
加蓮「分かったってば。ったく、何なのよその使命感……。もう……」
加蓮「しかもいつの間にか私が妥協したみたいになっちゃってるし! 元々アンタがワガママ言い出したことでしょ、これ!」
藍子「ふ~っ♪」
<からころ、からころ...
藍子「見て、見て。加蓮ちゃん。風車、可愛いですよね♪」
加蓮「ほんっとこの子は~~~……」
加蓮「すみませーん。ホットココアと……藍子は?」
藍子「レモンティーでお願いします」
加蓮「だってさ。お願いね店員さん――ん? 何? ……風車が気になるの? じーっと見ちゃって」
藍子「ふふ。じっくり見ていただいて構いませんよ。この風車は、私のお手製なんです。ほんのちょっとだけ自信作で……加蓮ちゃんや店員さんにも見せたくて、持ってきましたっ」
藍子「ふ~っ♪」
<からころ、からころ...
藍子「えへっ」
加蓮「……ふふっ」
加蓮「え、店員さん? ……いやそんな、負けた! みたいな顔されても」
藍子「このカフェの内装や小道具だって、とても素敵だと思いますよ。私も、何か作る時にときどき思い浮かべちゃってます♪」
加蓮「だってさー。自信持っていいんじゃないの? 藍子ちゃんにここまで言わせるんだからさ♪」
藍子「加蓮ちゃんっ。それだとまるで、私がその……すごく偉い人みたいになっちゃうっ」
加蓮「実際偉いアイドルなんだからいいんじゃないの?」
藍子「そういう見られ方をされるのは、あんまり好きではありませんから……」
加蓮「あははっ。ごめんごめん……ほら、藍子。店員さんも頭を下げてるよ。許してあげなよ」
藍子「はい。私は気にしていないので、大丈夫ですっ」
加蓮「良かったねー店員さん。あの藍子に許してもらえたねー?」
藍子「……あの、加蓮ちゃん? だから、それだとまるで私がすごく偉い人みたいになってしまいます。そういうのは嫌です!」
加蓮「あはははっ。ホットココアとレモンティー、お願いねー」
藍子「も~っ」
加蓮「ごめんね? もう言わないから」
藍子「もう。言わないでくださいよ?」
藍子「ところで、加蓮ちゃん。さっき言いかけていた、私の方が――の続きは、何だったんですか?」
加蓮「え」
藍子「……」ジー
加蓮「え、そこ気にする? ただの、ほら、いつものどうでもいいことだよ?」
藍子「そうだとしても、名前を出されたら気にしてしまいますっ」
藍子「それに、加蓮ちゃん……私の名前を読んだ時、なんだかちょっぴり照れていましたよね? だから、なおさら気になっちゃって」
加蓮「またアンタはすぐそうやって人の顔から……! そっ、れが分かってるなら言いにくいってことも推測できるでしょ。蒸し返さないでよ!」
藍子「教えてください、加蓮ちゃん!」ズイ
加蓮「迫ってくるなっ。ちょ、もう……っ! ほら、風車、手で潰しちゃうよ?」
藍子「あっ!」スッ
藍子「……大丈夫みたいです。よかった」ホッ
藍子「……」ジー
加蓮「……別に。風車も可愛いけど、それをふーって息で回してる藍子の方が……可愛いなって、ちょっと思っただけ」
藍子「えっ。……そ、そうですか~。あ、あはは……」
加蓮「何。普通の考えっていうか、普通の考えでしょ?」
藍子「えと……」
加蓮「……それより風車! 手作りって言ってたよね」
藍子「あ、はいっ。風車ですよね。これは――」
<お待たせしました。
加蓮「っと。ありがとー店員さん」
加蓮「……よかった。ココアの量が減らされたりはしてなかった」
藍子「ありがとうございますっ。……その代わりに、去り際に加蓮ちゃんのこと、じとっとした目で見ていきましたね。店員さん」
加蓮「贔屓ー。いただきます」ズズ
藍子「いただきます♪ ずず……」
加蓮「……ふうっ」
藍子「……ふう♪」
藍子「風車のお話でしたよね。加蓮ちゃんにも前にお話したことあったかな? 私、ときどき"ものづくりカフェ"に行って、色んな物を作っているんです」
加蓮「多分聞いたことあるなぁ」
藍子「はい。お仕事に使う小道具とか、髪飾りとか……」
藍子「この前は、特にお仕事の前という訳ではなかったんですけれど、なんとなく足を運んでみたくなって」
藍子「風車は、その時に作りました♪」
加蓮「へー……」ジー
藍子「……じ、自信作ではありますけれど、あんまりじっくり見られると……なんだか変な箇所を見つけられちゃいそう」
加蓮「そんな悪いところ探しみたいなことしないよ? ……ここ、縁のところだけオレンジに塗ってるんだ」
藍子「はい♪ 秋をイメージして、作ったんです」
加蓮「じゃあベースが黄色なのはイチョウっぽく?」
藍子「そうですよ。ちょうど、そのカフェに行く途中にイチョウの並木道があって……。葉っぱを1枚だけお借りして、それを参考に塗りましたっ」
加蓮「だからすごくイチョウっぽい黄色なんだね」
加蓮「……」ジー
藍子「?」
加蓮「……ふー」
<・・・。
加蓮「…………」
加蓮「……ふーーー」
<・・・。
加蓮「何これ回らないんだけど!? 何なの? この世界、人も物も何もかも藍子に甘すぎない!?」
藍子「ええぇ!?」
加蓮「ここの店員は藍子が好きすぎだし風車は藍子が吹きかけた時だけ可愛く回るし事務所のみんなは藍子藍子ってうるさいし!!」
藍子「そ、そんなことありませんよきっと! 加蓮ちゃんにも、優しいと思います!」
加蓮「ちょっと秋になったからってみんなして藍子を取ろうとしてさぁ! そんなに歩きたいなら藍子ちゃん大好き同士で歩いて延々藍子のことでも話してなさいよ!」ゴクゴク
藍子「ああ、ココアをそんな一気に……」
藍子「まあまあ。ええと……。ほら、そのココアだって、いつもの通りの量で、いつも通り美味しかったでしょっ?」
藍子「店員さんだって、ちょっぴりだけ加蓮ちゃんに……その、じと~、って目を向けていたかもしれませんけれど、きっと加蓮ちゃんのことだって大好きなハズですから!」
加蓮「……」
藍子「ね? ねっ?」
加蓮「……」
加蓮「……ん。なんかごめん」
藍子「ううん」フルフル
藍子「何かあった――のでは、ないみたいですね」
加蓮「ん……」スッ
加蓮「げー、空っぽ」
藍子「ぜんぶ一気に飲んじゃうからですよ~。もうっ」
加蓮「ねー藍子ー」
藍子「あげません」ズズ
加蓮「ちぇ」
加蓮「……」
藍子「……」ズズ
加蓮「……ふー」
<・・・。
藍子「……」コトン
加蓮「……」
藍子「加蓮ちゃん。風車を回すのって、ちょっとしたコツがあるんです」
加蓮「コツ?」
藍子「この辺りの角度から……ただ息を吹きかけるだけではなくて、紙を――小鳥さんの羽根を持ち上げるように、やさしく……」
藍子「ふう~っ♪」
<からころ、からころ...
藍子「ねっ?」
加蓮「この角度から、小鳥の羽根を……。……小鳥の羽根??」
藍子「はい。小鳥さんの羽根を持ち上げるイメージですね」
加蓮「小鳥の羽根を持ち上げる???」
藍子「そうですよ。ほら、加蓮ちゃん。やってみて?」
加蓮「例えは全然分からないけど……。……ふー」
<・・・。
加蓮「……」
藍子「……えっと……」
加蓮「これ、アンタにしか反応しないような魔法をかけてるとかじゃないでしょうね……?」
藍子「そんな魔法、かけてません……」
藍子「もし、この風車に魔法をかけられるのなら――」
藍子「誰が吹きかけても、からころ……って回ってくれて、見る人みんなが温かくなれるような、そんな魔法をかけます♪」
加蓮「じゃあそういう魔法をかけなさいよっ。藍子、魔女なんでしょ?」
藍子「魔女じゃありませんよ~。今のは、もし魔法をかけられたら、っていうたとえ話ですから」
加蓮「知ってるわよ……。……ふー」
<・・・。
加蓮「…………」プクー
藍子「…………」ズズ
加蓮「……」
藍子「……」ズズ
藍子「ごちそうさまでした」コトン
加蓮「……なんか、藍子の方からかすかにレモンの匂いがする」
藍子「加蓮ちゃんの方からも、ほんの少しだけココアの香りがしてきますね」
加蓮「レモンとココア……は、ちょっと合わないかな?」
藍子「あまり合わないような……。もしそうなら、しばらく加蓮ちゃんに近づかない方がいいかもしれませんね」
加蓮「……え?」
藍子「おかしな臭いが生まれちゃったら、嫌ですから」
藍子「……? 加蓮ちゃん? だからといって、かちんっ、と固まらなくてもいいと思いますよ?」
加蓮「…………藍子さー」
藍子「はい」
加蓮「分かってておちょくってる訳じゃないんだよね?」
藍子「……???」
□ ■ □ ■ □
藍子「そうだっ」ガサゴソ
藍子「加蓮ちゃんにも、これをあげます。はいっ」スッ
加蓮「お、なに?」ウケトル
加蓮「……メッセージカード?」
藍子「ものづくりカフェでもらったんです。ほら、ものづくり――物って、人に贈るために作ることがあるじゃないですか」
加蓮「うん、あるね。手作りのー……手作り……あんまり贈った覚えがないや」
藍子「ふふ。加蓮ちゃんも、何か作ってみますか~? ものづくりカフェ、おすすめですよっ」
加蓮「うーん……。作るよりは、売ってるのを探してる方が好きかも」
藍子「残念」
加蓮「このメッセージカードは……買ったの? こういうのも売ってるんだ」
藍子「ううんっ。このカードは、もらったものなんです」
加蓮「もらいもの? あ、そっか。よく行くって言ってたし、また常連の特権使っちゃったとかー?」
藍子「ううん。利用された方なら、誰でももらえる物なんです」
加蓮「へー……?」
藍子「ものづくりカフェで作った物を、誰かに贈ってあげる時に、感謝の言葉を直接言うのはちょっぴり照れちゃう――」
藍子「そんな方に、このカードを使ってください、って。帰り際に、店員さんから手渡してもらえるんです」
藍子「ほら、口で言うのが恥ずかしくても、書くことならできるでしょっ?」
加蓮「店員さんなりの気遣いだね」
藍子「前にあのカフェの店員さんから、親しい方に贈り物をするのが恥ずかしくて……ってお話を、して頂いたことがあって」
藍子「このカードは、実体験を元に編み出されたアイディアだそうですよ」
加蓮「ふふっ。でも藍子ちゃんは直接言えるから、無用の品だねー?」
藍子「そんなことありませんよ~。私だって、照れてしまう時くらいありますもんっ」
加蓮「…………」ジトー
藍子「何言ってるのって顔で見ないで~っ」
加蓮「たはは」
藍子「でも……加蓮ちゃんの言う通り、このカードは私にはあまり出番がないかもしれませんね」
藍子「なので、みなさんにお配りしているんです。だから、加蓮ちゃんにもっ」
加蓮「んー……」
藍子「……使う機会、ありませんか?」
加蓮「んー。私も、言いたいことあったら直接言う方が好きなんだよね」
藍子「くすっ。そうでしたね」
加蓮「でもいいきっかけになるし、せっかくだからこれに何か書いて誰かに贈ってみよっか」
藍子「はい♪ ぜひ、そうしてください」
加蓮「誰かに――」
加蓮「……誰に?」
藍子「まずは、それを考えるところからでしょうか?」
加蓮「だねー。……宛先も思いついてないのに誰かに贈るって、なんだかボトルメッセージ? みたい」
藍子「ペットボトルの中に手紙を入れて海に流す、あれのことですか?」
加蓮「そうそう。誰か分からない人に伝わるメッセージ――」
藍子「ロマンですよね。私も、いつか受け取ってみたいなぁ……」
加蓮「でも実際、メッセージって書く時に相手の顔を思い浮かべるの前提だし、誰か分からない人に何か書けって言われても……さぁ?」
藍子「そういうこと言わないでくださいっ」
加蓮「あは、ごめんごめんっ。私は誰かの顔を思い浮かべて書くことにするよ」
藍子「ひょっとして、モバP(以下「P」)さんのこと?」
加蓮「誰かさんは誰かさん。そういうのを探るのはマナー違反だよ」
藍子「は~い。誰かさんは誰かさん、ですね♪」
加蓮「……って、改めて書くとなると書くこと思い浮かばないね……」
藍子「あはは……。私もです」
加蓮「? 藍子も書くんだ」
藍子「はい。その……加蓮ちゃんの言う、"いいきっかけ"――って言ったら、少し失礼になってしまうかもしれませんけれど」
藍子「ほら、夏に行ったひまわり畑の……手紙……」
加蓮「……あー」
藍子「結局、最後まで書ききれませんでしたから。今、書いちゃおうかな~……なんて……」
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「……」
藍子「……」チラ
加蓮「……私が目の前にいたら書きにくくない?」
藍子「……、」
藍子「それは……確かに? これは、家に帰ってから書くことにしようかな?」
藍子「せっかく加蓮ちゃんへの気持ちですもんね。じっくり考えて、綴ることにしますね――」
加蓮「だけど部屋で1人で書いてたら、また前みたいに何書くか思いつかないままになっちゃうかもねー?」
藍子「うっ。そ、それなら逆に加蓮ちゃんに見張ってもらっていた方が書きやすくなるのかな――」
加蓮「私への手紙なのに、私の目の前で書くの?」
藍子「だ、だったら帰ってから――」
藍子「……も~~~~~~~っ! 加蓮ちゃんっ!!」
加蓮「あははははっ!」
加蓮「私も目の前で私のことを書かれるのは照れくさいし。1人で書くと思いつかないままになるなら、帰ってお母さんとかに手伝ってもらいながら書いてもらうのはどう?」
藍子「あっ、それいいですね! お母さんからも、加蓮ちゃんへのメッセージを書いてもらって……♪」
加蓮「……え、藍子のお母さんまで書いてくるの?」
藍子「最近、加蓮ちゃんがなかなか家に来てくれないので……お母さんからせがまれて、大変なんですよ~」
加蓮「えー」
藍子「大変なんですよ~……ちらっ」
加蓮「……」
藍子「…………ちらっ」
加蓮「わざとらしすぎ」ペシ
藍子「ひゃっ」
加蓮「分かったから……。でも今日は本当にそういう気分じゃないの。また今度ね?」
藍子「……はぁい。あ、それなら」ガサゴソ
藍子「加蓮ちゃん。ちょっとだけ失礼しますね」
藍子「次の週末の……うんっ。やっぱり、私も加蓮ちゃんもお仕事入ってないっ。天気は……大丈夫みたいっ」
藍子「お待たせしました。ごほんっ――」
藍子「加蓮ちゃん。次の週末の土曜日に、私の家に来てもらいます!」
加蓮「おー……?」
藍子「最近は寒くなってきたので……温かいお鍋を一緒に食べて、お風呂に入って、冬仕様のパジャマを着て、ふかふかのお布団で寝てもらいますからっ」
加蓮「う、うん。……なんでこう目の前に極楽光景を作り出すかなぁ藍子は」
藍子「今日来てもいいんですよ~?」
加蓮「だから今日は行かないってば」
藍子「……むぅ」
加蓮「オフって言えば、藍子。今度握手会あるよね」
藍子「はい。といっても、小規模なものですよ」
加蓮「うん。……最近忘れそうになってたことがあってさ」
藍子「忘れそうになっていたこと?」
加蓮「ほら、店員さんの依頼」
藍子「あ~……」
藍子「でも私、あの子にここのカフェのこと、どうお伝えすれば良いのか……ぜんぜん、思いつかなくて」
加蓮「私もたまに考えてみるんだけど、さっぱり……」
藍子「最近は、店員さんにどうなっているか聞かれなくなっちゃいましたよね。もしかして、諦められちゃったのかな……」
加蓮「……一応帰りに聞いてみよっか。私達も、ほったらかしにしちゃってたんだし」
藍子「そうですね。一言、謝らなきゃっ」
加蓮「このカフェを伝える方法……。確認なんだけど、店員さんはあくまであの子――藍子のカフェコラムを読んでて、前にカフェコラムに名前を出した子に来てほしいってだけで、いっぱいお客さん……例えば藍子のファンみんなに来てほしいとかじゃないんだよね?」
藍子「はい、そうですよ。名前は出していませんけれど……コラムに書いた、"私と同じ、カフェ好きの仲間"さんに会ってみたいそうです」
加蓮「それカフェが好きっていうより、藍子が好きだからカフェも好きになったんだと思うけどなー……」
藍子「そんなことないと思いますよ。前から1人で色々なカフェに行っていたって言っていましたから」
加蓮「そだっけ。藍子が好きだから……だったら、私と同じだなーって思ったのに」
藍子「ふふ。それなら、もしかしたら加蓮ちゃんと同じかも?」
加蓮「どっちよ」
加蓮「話戻すけど、だからあくまであの子にだけ伝えないといけないんだよね?」
藍子「はい。あまり大勢の方がいらっしゃるのは、店員さんも望んではいないみたいです」
加蓮「だよね。それ以上に私も嫌だし。客がいっぱいいるのは文句言えないけど――」
藍子「もうほんの少しだけ、ここは隠れ家であってほしい……ですよねっ」
加蓮「藍子と2人でいる為に別の場所を探すこともできるけど、藍子も嫌でしょ?」
藍子「そうですね……。場所はどこでも作れるかもしれないけれど、でも、このカフェは……私の好きなここは、この場所にしかりませんから」
加蓮「うん。よかった。……1人にだけ伝える方法かー」
藍子「こっそり耳打ち……なんてしてしまったら、目立ってしまいそうです」
加蓮「それ以前にあの子、急に藍子が顔近づけて来たら気絶するわよ。絶対」
藍子「さ、最近はちゃんとお話してくださるようになりましたから」
加蓮「誰にも見られないようにカフェの場所を書いた紙を渡す……のは、駄目ってなったし」
藍子「前に、もしかしたらできるかもしれない、って言って練習してみましたよね」
加蓮「……忘れてないからね。練習の時、スカートのポケットに入れようとして、人のスカートをずり下ろしたこと」
藍子「あっ、あれはもう忘れてください! そ、そうだ。握手する時にこっそり渡すっていうのは……」
加蓮「こっそり、っていうのがアンタにできるの?」
藍子「うぐ」
加蓮「握手した時に手に入れてる物……小さい紙とかを渡すだけなら藍子にもできるかもしれないけど、よく考えてみなさい」
加蓮「前のファンの人の番が終わって、次にあの子が来るまでの間にどこかに用意していた紙をバレないように握って、そしてうまく渡さないといけないのよ?」
加蓮「それ、緊張せずにできる?」
藍子「…………」
加蓮「はい、目ぇ逸らさない」グニ
藍子「きゃうっ」
加蓮「私がスタッフに変装して手伝ってもいいけど……。万一バレたら、藍子のイベントを潰すことになりかねないし」
藍子「今から練習……」
加蓮「してもいいけど……。手癖はともかく、藍子の心境が不安なのよ。だから"緊張せずにできる?"って聞いたの」
加蓮「私が言うのも何だけど、当日私は側にいないんだよ? 手伝いどころか、見てあげることもできないのよ?」
藍子「…………」
加蓮「……ごめん。ちょっと強い言い方しちゃった」
藍子「ううん……。加蓮ちゃんの言う通りですから」
加蓮「はぁ。何かいい方法ないかなぁ。SNSのアカウントは探してみたけどやってないっぽいし、家とか学校とか当然分かる訳もないし……」
藍子「このメッセージカードみたいに、来たみなさんに配ってあげられるなら、それで解決するのに……」
加蓮「…………」
藍子「はぁ……」
加蓮「……ん? メッセージカード?」
加蓮「…………、いけるくない? いや、でも――」
藍子「?」
加蓮「藍子。その握手会って、小規模なんだよね?」
藍子「はい、そうですよ……。場所も、あまり大きな場所はお借りしないで。ファンの方の数も、数十人もいらっしゃらないくらいかな……?」
加蓮「想定客数の正確な数分かる? 今分からなくてもPさんに教えてもらったりとかは」
藍子「あ、それならもう教えてもらっています。確か前のメッセージのやりとりで……」
藍子「あった。はい、加蓮ちゃん」スッ
加蓮「……この人数ならいける? 日程は……4日後か。確か私は明後日と明々後日に仕事があるけど――」
藍子「加蓮ちゃん……? もしかして、何か思いついたんですかっ?」
加蓮「ん……。うん。ちょっと不安材料が残る方法だけど、1つね」
藍子「本当ですか!? 教えてください、加蓮ちゃん。不安は……その、頑張って取り除いてみますっ」
加蓮「オッケー。とりあえずPさんに頼んでほしいことが1つ。それと、用意しなきゃいけないものがあって、あとそれと練習じゃないけど藍子にもやってもらいたいことが――」
藍子「ま、待ってっ。加蓮ちゃん。落ち着いてお話して?」
藍子「せかしてしまったのは、私ですけれど……」
藍子「あまり早口でまくしたてられると、伝えたいことも、伝わらなくなっちゃいますから。ねっ?」
加蓮「っと。……そうだよね。大丈夫、落ち着いた」
加蓮「まずPさんに頼んでほしいことだけど――ううん。これは何を思いついたか言った方が早いかな」
加蓮「要はこれ。メッセージカード」ヒラヒラ
加蓮「これを、握手会に来てくれた人に配るの。今回限定で」
藍子「メッセージカードを配る……」
加蓮「理由はまあなんでもよくて、そこは藍子が考えてさ……。お礼とか記念とか何でもいいや。で、1枚1枚に藍子がメッセージを書いてあげるの」
藍子「ふんふん」
加蓮「小規模の握手会、それも今度の1回だけならできなくはないでしょ?」
藍子「……え~っと、それはできると思います。でも、加蓮ちゃん? メッセージカードを用意して、それでどうやって、あの子にここのことを伝えるのでしょうか?」
加蓮「藍子こそ焦らないの。あの子に渡す用のメッセージカードに書くのよ。ここのことと、店員さんが会いたがっていることを」
藍子「……あっ!」
加蓮「そうだ。カードをあらかじめ用意するんじゃなくて、ファンの前で書いてあげた方がいいかな?」
加蓮「握手してあげて、その後にカードを書いてあげて……人には見せないように、なんて言ってさ。そしたらオリジナル感も出て、他のファンのみんなも満足してくれるだろうし」
加蓮「あの子が来た時だけ何かを仕込んだり特別な動きをする必要もないから、藍子的には緊張せずに済むでしょ?」
藍子「そうですね。あの子が来てくれた時、どう書いて伝えるかだけ考えておけば――」
加蓮「ねっ? ……一応問題として、メッセージカードを書く時間が確保できる握手会かどうかってこと。ただでさえアンタ、1人あたりに使う時間が長すぎるんだから」
藍子「う……」
加蓮「小規模なイベントってことは時間もそんなに取ってないよね……。ちょっとそこ、Pさんに聞いてみてくれない?」
藍子「分かりましたっ」ガサゴソ
加蓮「もし時間的に確保できないなら、予めメッセージカードを用意するパターンになるなぁ……。4日後だよね。準備、間に合うかな……?」
藍子「返ってきましたよ、加蓮ちゃん」
加蓮「何って?」
藍子「それが……。やっぱり、握手会の間にメッセージカードを書く時間を作ってもらうのは、少し厳しいそうです」
加蓮「そっか……」
藍子「でも、あらかじめカードを用意して渡してあげるのなら大丈夫だと思う、だそうですっ」
加蓮「じゃあそっちで行こっか。……準備の負担が増えちゃうのはごめんね」
藍子「ううんっ。みなさんに感謝の言葉を……なんて、素敵なことですから! そこは大丈夫ですっ」
加蓮「私も手伝うよ。……気分じゃなかったけど、この後藍子の家に行っていい?」
藍子「えっ……はい! もちろんです♪」
藍子「ふふふっ……♪」
加蓮「?」
藍子「加蓮ちゃん。温かいお鍋と、お風呂と、パジャマと、お布団には、やっぱり勝てないんですね……!」
加蓮「いや違うけど。アンタ馬鹿なの……? 手伝いの為なんだけど?」
藍子「あっ。そうですよね」
加蓮「アンタ馬鹿でしょ……」
藍子「あ、あはは~……あ、加蓮ちゃん、加蓮ちゃん。またPさんから返事が来ました」
藍子「ふんふん。改めて、メッセージを事前に書いておいて手渡すのは大丈夫そうですよ、加蓮ちゃん」
加蓮「良かったっ」
藍子「ただ、あまり何回もこれをやるのは……ということで、1回か、せめて2回までくらいならオッケーだそうです」
加蓮「……そうだよね。今回だけのことがいつも通りになって、毎回カードを書くってことになっちゃったら藍子も大変だし……」
加蓮「あとは、その間にあの子が来てくれるのを祈るだけだね」
藍子「そういえば、あの子が来てくれるのを前提に考えちゃっていましたね。来てくれるかな……?」
加蓮「祈るしかないかな、そこは。でも最近よく来てくれてるんでしょ?」
藍子「はい。おかげさまで。今回も来てくれますように……!」
加蓮「来なかったらまた別の方法を考えよっか」
藍子「今日はもう帰って、準備をはじめますか?」
加蓮「私はもうやる気になっちゃった。藍子は? 別にいいんだよ、もうちょっとのんびりしていっても」
藍子「私も、今はやりたい気分です♪ 一緒に帰りましょう、加蓮ちゃんっ」
加蓮「オッケー」
加蓮「あ、その前に……」
藍子「?」
加蓮「最後に1回だけ。……ふーっ」
<・・・。
加蓮「……………………」
藍子「……………………」
加蓮「……ついでに、風車を回すコツも教えてもらっていい? 藍子の家で……」
藍子「は~いっ♪」
【おしまい】
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