お嬢様「・・・」メイド「・・・」 (32)



お嬢様「・・・」カキカキ

メイド「・・・」

お嬢様「・・・」カキカキ

メイド「・・・」

お嬢様「・・・」カキカキ

メイド「・・・」

お嬢様「・・・」ポンッ

メイド「・・・」

お嬢様「ふぅ・・・」

メイド「お嬢様」

お嬢様「なんだ?」

メイド「そろそろ新しく雇った使用人が挨拶に来る時間です」

お嬢様「そうか」

コンコン

お嬢様「入れ」

執事「失礼します。新しい使用人をお連れしました」

執事「こちらがこの屋敷の主人、お嬢様です」

使用人「は、初めまして!これからよろしくお願いいたします!」

お嬢様「ああ・・・よろしく」

使用人(わぁ・・・凛々しくて綺麗な人だなぁ)

使用人(机の上には書類がたくさん・・・あまり年上には見えないけどもうお仕事してるのかな?)

メイド「私はメイドです。よろしくお願いいたします」

お嬢様「使用人の教育は執事に一任する。下がっていいぞ」

執事「かしこまりました。では失礼します」

使用人「失礼します!」

お嬢様「ああ、待て」

執事「はい、なにか?」

お嬢様「アレに関しては特に教育を徹底しておけ」

執事「心得ております、では・・・」

ガチャッ バタン

お嬢様「・・・」

メイド「・・・」

お嬢様「・・・紅茶を」

メイド「かしこまりました」


・・・・・・


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執事「さて、屋敷の案内はこんなものか」

使用人「すごく大きいお屋敷ですね!」

使用人「ところでお嬢様が仰っていたアレってなんのことですか?」

執事「ちょうどそれを説明しようとしたところさ」

執事「先ほどお嬢様がいた部屋の前の廊下をさらに奥に行くと資料室があるんだ」

執事「名前の通り、あそこはお嬢様の仕事に関する様々な資料や書類が納められている」

執事「重要なものなのでお嬢様以外は決して近付かないように、というのがこの屋敷の決まりになっているのさ」

使用人「そういうことですか、わかりました!」

執事「この屋敷で働く者達には『開かずの間』なんて呼ばれているけどね」

使用人「へえ・・・屋敷に資料室があるなんて凄いですね」

使用人「お嬢様はバリバリ仕事出来そうな感じの人でしたし」

使用人「ちょっと冷たい感じもしましたけど・・・」

執事「ほう・・・」

使用人「あっ、そのっ・・・違うんです!悪い意味じゃなくって!」

執事「はははっ!まあ、口数は多い人ではないからそう思うのも無理はないさ」

執事「だけどアレで中々可愛らしいところもあるんだよ」

使用人「そ、そうなんですか?」

執事「・・・さて、次は仕事を教えるとしようか」


・・・・・・



お嬢様「・・・」カキカキ

メイド「・・・」

お嬢様「・・・」カキカキ

メイド「・・・」

お嬢様「・・・」

メイド「・・・」

お嬢様「・・・今日はここまでにしておこう」

メイド「かしこまりました。すぐに夕食になさいますか?」

お嬢様「ああ、頼む」


・・・・・・



~夜・開かずの間~



「お待たせいたしました、お嬢様」

「・・・」

「夕食の時間でございます」

「・・・!」ダッ

「慌てなくても御飯は逃げませんよ~」

「・・・!」ペロペロ

「お味はいかがですか?」

「・・・!」ペロペロ

「そうですか、光栄でございます」

「・・・」スリスリ

「食べ終わりましたか。ではこれからいかがいたしましょう?」

「・・・」ウトウト

「あら、もうお眠ですか・・・」

「では僭越ながら私が枕になりますね。どうぞこちらへ」

「・・・」コテン

「好きなだけ甘えてくださいね」

「・・・」zzz

「私は貴女だけのメイドなのですから」


・・・・・・


~昼・執務室~


お嬢様「・・・」カキカキ

メイド「・・・」

お嬢様「・・・」カキカキ

メイド「・・・」

お嬢様「・・・」

メイド「・・・」


コンコン


お嬢様「入れ」

使用人「失礼します、お茶とお菓子をお持ちしました」

お嬢様「ああ、そこのテーブルに」

使用人「はいっ!」

お嬢様「メイド、休憩にしよう」

メイド「かしこまりました」

使用人「・・・・・・」

お嬢様「・・・どうした?下がっていいぞ」

使用人「あ、あの、出来れば味の感想をお聞かせ願いたいなと」


使用人「私の祖母に教わった秘伝のレシピで作ったんですよ」

お嬢様「わかった・・・ふむ、旨いな」

メイド「ええ、とてもまろやかで舌触りが素晴らしいです」

使用人「そうでしょ~!ミルクの量が決め手でこの配分の研究に祖母はかなり時間をかけたそうなんです!」

使用人「クリームだけじゃなくて生地も云々」

使用人「あっ!じゃなくて・・・お、お褒めに与り光栄です!」

使用人(しまった~!なんて口の聞き方を・・・)

お嬢様「・・・気にするな。語るだけの価値はある味だ」

メイド「今後とも期待しております」

使用人「ありがとうございます!」

お嬢様「・・・・・・ふむ、ミルクの量か・・・」

お嬢様「・・・そろそろ、可能な時期か・・・?」

使用人「・・・?」

メイド「・・・」

お嬢様「いや、なんでもない。下がっていいぞ」

使用人「はいっ、失礼します!」

お嬢様「・・・」

メイド「・・・」

お嬢様「・・・」

メイド「・・・」

お嬢様「・・・」

メイド「美味しいですね」

お嬢様「ああ・・・」

メイド「・・・」

お嬢様「・・・」


・・・・・・


~夜・開かずの間~



「・・・!」チュパチュパ

「お嬢様、まだおっぱい離れはできませんか?」

「・・・!」ペロペロ

「仕方ありませんねぇ、もう少しだけですよ~」

「・・・」ムニムニ

「残念ですがそんなにしても母乳は出ません」

「・・・」ムニムニ

「ふふっ・・・好きにさせてあげましょうか」ナデナデ

「・・・」ウトウト

「お休みなさいませ、お嬢様」

「・・・」zzz


・・・・・・


~昼・執務室~


お嬢様「・・・」イライラ

メイド「・・・」

お嬢様「・・・」イライラ

メイド「・・・」

お嬢様「むぅ・・・」

メイド「・・・煮詰まっておいでのようですね」

お嬢様「ああ、○×社との交渉が難航している」

メイド「そうですか」

お嬢様「・・・」イライラ

メイド「何か甘いものでも用意しましょうか?」

お嬢様「いや、ブラックのコーヒーを頼む」

お嬢様「今日は机から離れられそうもない」

メイド「かしこまりました」

お嬢様「チッ・・・あの頑固社長め・・・」

メイド(今日は荒れそうですね・・・)

・・・・・・


~夜・開かずの間~


「・・・!」プイッ

「あらあら、今日はご機嫌斜めでございますか?」

「・・・」ツーン

「ふふっ、拗ねた顔も可愛らしいですね」

「・・・」ツーン

「日中にお相手出来なかったことは謝りますので、触ってもよろしいですか?」ソー

「!!」ペシッ!

「・・・ああ、お仕置きしていただけるのですね?」

「!!」ペシッ!ペシッ!

「どうぞお嬢様の気が済むまで、存分にお仕置きを・・・」

「!!」ペシッ!ペシッ!


・・・・・・


~深夜~


使用人(真夜中のお屋敷ってなんかすごく雰囲気があるなぁ)

使用人(トイレに行くだけなのにちょっと怖い・・・)


カチャッ


使用人(ひっ!?何の音!?)

使用人(お嬢様の執務室の方から聞こえた気が・・・)

使用人(いや、違う?資料室から誰かが出てきた?)

使用人(あれは・・・顔はよく見えないけどメイド服を着ているような・・・)

使用人(おかしいな、あそこはお嬢様以外入っちゃいけないって言ってたはずたけど)ブルッ

使用人(あっ・・・取り敢えず用を足そう)


・・・・・・


~昼~


使用人「あの、執事さん」

執事「なんだい?」

使用人「見間違いかもしれないんですけど、深夜に資料室からメイド服を着た人が出てくるのを見たんです」

執事「そんなはずは・・・鍵はお嬢様しか持っていないんだけどな」

執事「使用人君、寝惚けてたんじゃないかい?」

使用人「えっと、その可能性も否定できないかも・・・」

執事「・・・・・・」

使用人「えっ、どうしたんですか?急に神妙な顔をして」

執事「ふと、先代の旦那様が話していたことを思い出してね・・・」

執事「何十年か前にここで働いていたメイドさんが事故で亡くなったそうなんだ」

執事「とても忠義に篤い方だったそうで当時の奥方様に献身的に尽くしていたらしい」

執事「彼女は忠義のあまり成仏できず・・・」

執事「元々は奥様の部屋であった開かずの間に夜な夜な現れる・・・」

使用人「こ、怖いこと言わないで下さいよ!冗談ですよね!?」

執事「さあ・・・どうかな?」

使用人「冗談だっていってくださいよぉ!!」


メイド「おはようございます」

執事「おはようございます」

使用人「おはようございます、メイドさん!」

執事「おや、その腕の包帯は?」

メイド「私としたことが昨夜転んでしまいまして・・・」

使用人「大丈夫なんですか?」

メイド「軽傷ですので業務に支障はありません。ご心配なさらずに」

執事「そうですか、なら良かった」

執事「ところで貴女は数十年前に亡くなったここのメイドの幽霊が出るという噂を聞いたことはありますか?」

メイド「・・・・・・・・・」

メイド「私はその手のオカルト話は信じない質なのですが」

メイド「先代のメイド長は『見た』と言っておられました」

使用人「ひいぃっ!勘弁してくださいよぉ!」

メイド「メイド長からの助言によりますと、そのような存在に遭遇してしまった場合は」

メイド「『見えていないフリ』をするのが一番良い対処法なのだそうです」

執事「あ~幽霊って見えてる人に絡むってよく言いますもんね」

使用人「はいそうしますそうさせていただきます!」

執事「どうやら君はその手の話を信じる質のようだね」

使用人「さあ執事さん仕事しましょう仕事!」


お嬢様「・・・」カツカツ

メイド「おはようございます、お嬢様」

使用人「おはようございます!」

執事「おはようございます」

お嬢様「ああ、おはよう」

お嬢様「・・・」カツカツ ファサァ

使用人「わぁ・・・キレイな髪だなぁ・・・」

お嬢様「・・・」

お嬢様「今日は・・・アレをやるか・・・」ボソッ

使用人「・・・?」


・・・・・・


~夜・開かずの間~



「~~♪」

「気持ちいいですか、お嬢様?」シュッシュッ

「~~♪」

「ブラシが髪を鋤く感触、たまりませんわ」シュッシュッ

「~~♪」

「お嬢様の身だしなみを整えるのもメイドの役目ですから、遠慮なく身を委ねてくださいませ」

「~~♪」


・・・・・・


~深夜~


使用人(う~~夜中にトイレに行くの怖いな~・・・)

使用人(こないだ見たメイド服の人はきっと見間違いにちがいない、うん)


カチャッ


使用人(ひぃっ!?また資料室の方から音が!?)

使用人(うわぁ~~!!また見ちゃった!!メイド服の人だ!!)

使用人(見えていないフリしなきゃ!!そのまま廊下の角に隠れてやり過ごそう!)

・・・・・・

使用人(そろそろいなくなったかな・・・?)

使用人(ふぅ・・・いったいなんだったんだ?この屋敷、大丈夫なのかな?)

・・・・・・


~朝~


使用人「おはようございます、庭師さん!」

庭師「よう、新入りか!なにか用か?」

使用人「庭師さんはこの屋敷に勤めて長いんですよね?」

庭師「おう、かれこれ何年になるか・・・お嬢が生まれる前からだな」

使用人「あの・・・庭師さんは昔、事故で亡くなったメイドさんの幽霊が出るって噂は聞いたことがありますか?」

庭師「!!」

庭師「まさかお前さん、見ちまったのか!?」

使用人「はい・・・実は・・・」

庭師「あ~~~うん、そうか・・・」

庭師「あ!そりゃそうとお前さん、なんでこの屋敷で働こうと思ったんだ?」

使用人「ちょっとぉ!そんなあからさまに話を逸らさないで下さいよ!?」

使用人「気になるじゃないですかぁ!!」

庭師「まあまあ、あんな与太話は気にしないのが一番なのさ」

庭師「ひとつこの年寄りに身の上話でも聞かせおくれや」

使用人「むぅ~・・・わかりました・・・」

使用人「と言っても大した話じゃないですよ?」

使用人「単に学費を稼ぐためです」

使用人「子供の頃から獣医さんになりたくて、そっち方面の大学に進学したかったんですけど」

使用人「実家があまり裕福じゃなかったので、自分で稼ぐことにしたんです」

庭師「ほーう、立派な志じゃねえか!気に入ったぜ!」

庭師「ここは住み込みで働けて給料もいいからなあ!まあしっかり稼いでくれや」

使用人「でも不安だなあ・・・幽霊が出る屋敷なんて・・・」

庭師「だ~からそりゃ気にするなって!」


・・・・・・


~昼~


庭師「おい」

執事「ああ、庭師さん。どうしました?」

庭師「新入りにメイドの幽霊がどうとか吹き込んだのはお前さんか?」

執事「・・・はい、まあ・・・」

庭師「なんでそんなことをした?」

執事「ただの冗談ですよ」

庭師「・・・また、お嬢の病気が出ちまったのか?」

執事「・・・貴方に隠し事はできませんか」

庭師「まあな、お前さんよりも付き合いは長いからな。わかるさ」

庭師「お嬢のあの様を親父さんに知られたらどうなることか・・・」

執事「ええ、早いところ対処しないといけませんね」

庭師「まったく、親父さんに厳しく育てられた反動がこんな形で出てくるとはなぁ・・・」


・・・・・・


~十年前~


「お前はいずれこの家を継がねばならん」

「・・・」

「お前に必要なのは私の指導と勉強だけだ。つまらん遊びにうつつをぬかす暇などない」

「・・・」

「執事よ、メイドたちには娘に必要以上に親しく接するなと命じておけ」

「・・・!」

「いや、しかしそれは・・・」

「いっそ今のメイドたちをクビにしてもっとビジネスライクな者を雇うか」

「!?」

「おい旦那!そりゃ横暴ってもんだろ!?」

「雇われの身で私に意見する気か?お前もクビにしてやってもかまわんのだぞ?」

「くっ・・・」

「拾ってきたアレも捨てておけ」

「!!?」


・・・・・・


「・・・・・・」ポロポロ

「すまねえなぁ、お嬢・・・俺たちじゃこのあたりが限界だ」

「申し訳ありません・・・お嬢様」


・・・・・・


~夜・開かずの間~


「失礼します」

「・・・?」

「お嬢様、今日は僕がお相手させていただきます」

「・・・」

「と、言っても・・・僕の役目は『お薬』を飲ませるだけですが」

「!?」ビクッ!

「どうか大人しくしててくださいね~苦いですが痛くはありませんから」

「!!!」ジタバタジタバタ

「これも貴女のためなのです。どうかご理解ください」

「!!!」ジタバタジタバタ

「はあ、毎度一苦労ですね・・・」

「・・・!」クワッ!

「まったく、僕にばっかり嫌われものの役を押し付けるんですから・・・」


・・・・・・


~朝~


お嬢様「出掛けてくる。執事、メイド、留守を頼む」

お嬢様「夕方には帰る予定だ。昼食は外でとる」

メイド「かしこまりました」

執事「お任せくださいませ」

使用人「いってらっしゃいませ!お気を付けて!」

執事「さて、お見送りも無事に済んだし、朝ごはんにしようか」

使用人「待ってました!」

メイド「私は少々やることがありますので、どうぞお二人で」

執事「そうですか、わかりました」

使用人「は~い」

メイド「・・・」スタスタ


使用人(そういえば、働きはじめてからメイドさんが笑ったりしてるところ見たことないなぁ)

使用人(お嬢様もだけど、メイドさんも口数少ないしちょっと冷たい感じがするなぁ)

使用人(あんなのでお嬢様付きのメイドなんて勤まるのかなぁ?)


・・・・・・


~昼・開かずの間~


「失礼します」

「・・・?」

「・・・」

「・・・?」

「・・・」

「・・・?」

「・・・問題ないようですね」

「・・・?」

「では、また・・・」


・・・・・・



~夕方・執務室~


お嬢様「ただいま」

メイド「おかえりなさいませ」

メイド「このままお仕事をなされますか?」

お嬢様「ああ」

メイド「かしこまりました」

お嬢様「・・・」

メイド「・・・」

お嬢様「・・・」

メイド「・・・」

お嬢様「・・・」

メイド「・・・」

お嬢様「・・・」

メイド「ところでお嬢様」

お嬢様「なんだ?」

メイド「少し前に資料室の書類の一部を電子化して処分し、スペースを作ったそうですが」

メイド「なにか理由が?」

お嬢様「・・・ふむ、それは・・・」

お嬢様「アレだ・・・一部の取引先がようやく電子化してな、それに合わせただけだ」

お嬢様「何か問題でもあったか・・・?」

メイド「・・・いえ」

メイド「・・・」

お嬢様「・・・」

メイド「・・・」


・・・・・・


~夜・開かずの間~



「お嬢様、お待たせしました」

「~~♪」

「・・・貴女を隠し通すのも、そろそろ厳しくなってきましたね・・・」

「・・・?」

「このような姿をお父様に見られたら、いったいどうなってしまうのやら・・・」

「・・・?」

「でもご安心ください。何があっても私は貴女のメイドです」ナデナデ

「~~♪」

「一生、私が面倒みてあげますからね~」


・・・・・・


~昼・執務室~


お嬢様「・・・」

メイド「・・・」

お嬢様「・・・」

メイド「・・・」

お嬢様「・・・」

メイド「・・・」

お嬢様「・・・」

メイド「・・・」

お嬢様「・・・」

メイド「・・・あの」

お嬢様「なんだ?」

メイド「折り入ってお話があります」

お嬢様「ふむ・・・」



メイド「突然で申し訳ないのですが、お暇をいただけないかと」



お嬢様「それは長期の休暇が欲しいという意味か?」



お嬢様「それとも退職したいという意味か?」



メイド「後者でございます」


お嬢様「そうか・・・理由を聞いてもいいか?」

メイド「祖母が体調を崩してしまい介護が必要となりました」

メイド「父は亡くなっていますし、母だけでは面倒をみるのが難しいため、私も故郷に帰ろうかと」

お嬢様「そうか・・・やむを得んな」

メイド「申し訳ありません」

お嬢様「気にしなくていい。ただ引き継ぎはしっかり頼む」

メイド「心得ております」

メイド「それと、ひとつお願いがあるのですが」

お嬢様「言ってみろ。可能な限り応えよう」



メイド「『もう一人のお嬢様』にご挨拶させてほしいのです」

お嬢様「!!?」ガタッ!



お嬢様「気付いて・・・いたのか・・・」

メイド「はい、全て存じ上げております」



メイド「お嬢様が隠れて子猫を飼っていることも」

お嬢様「  」



メイド「子猫を『お嬢様』と呼んで溺愛していることも」

お嬢様「  」



メイド「夜な夜なメイド服を着て資料室に入り浸っていることも」

お嬢様「  」



メイド「子猫のために書類を電子化して資料室にスペースを作ったことも」

お嬢様「  」



メイド「執事さんもグルで子猫に嫌われる役目を押し付けていることも」

お嬢様「  」



メイド「全て知っています」

お嬢様「  」



メイド「ちなみにメイド服姿のお嬢様は使用人に目撃されております」

お嬢様「  」


メイド「使用人や他の従業員にことが露見しないよう取り繕うのはなかなか骨が折れました」

お嬢様「そ、そうか」

お嬢様「なあ、その、お父様には内緒にしておいてくれないか?」

お嬢様「バレたら、また捨てられてしまう・・・あの時のように・・・」

メイド「その必要はありません」

メイド「すでに旦那様に直談判して許可を得ておりますので」

お嬢様「なにっ!?」

お嬢様「バカな!今までそんな説得に応じてくれたことなどなかったのに・・・」

お嬢様「それにお父様に意見しようものなら下手するとクビに・・・」

お嬢様「まさか、今回の退職の話もお父様に!?」

メイド「いえ、退職の件は私の都合であることは本当です」

メイド「ただ・・・どうせ辞めるのならその前にひとつ旦那様に物申しておこうかと思っただけです」

お嬢様「よく説得できたな・・・あの人が他人の意見を汲むなど有り得ないことだと思っていた」

メイド「案外、簡単でしたよ?」


・・・・・・



父「ならん!!動物を飼うなど無駄極まりない!!」

メイド「どうしても聞き入れてはいただけませんか?」

父「無論だ」

メイド「でしたら、こちらも相応の手段をとらせていただきます」

メイド「旦那様はとても忙しい方でいらっしゃいますね・・・」

メイド「であるがゆえに・・・」



メイド「ただでさえ少ないお嬢様と触れ合える時間をメイドやペットに取られたくない」

父「  」



メイド「そんな我が儘のために従業員を解雇しようと横暴に振る舞ったことを」

父「  」



メイド「お嬢様に報告させていただきます」

父「  」



メイド「家や会社の将来のためではなく、そんな理由で権力を振りかざしたことを知ったら」

父「  」



メイド「お嬢様はドン引きされるでしょうね・・・下手をしたら逆勘当ものです」

父「  」



父「なぜ・・・それを知っている?」

メイド「亡くなった奥様に託されました」

メイド「横暴が過ぎるようなら諫めてやってくれと」

メイド「それに父親がこの様ではお嬢様に友達ができないだろうと」

父「そうか・・・」

メイド「まったく、とんだツンデレでごさいますね」

メイド「いえ、ここまでいくとヤンデレでしょうか?」

父「・・・」

メイド「もう、よいのではないでしょうか?」

メイド「お嬢様はもう立派な大人です」

メイド「お仕事も順調にこなしておりますし、動物の一匹や二匹飼ったところで支障はありません」

父「・・・わかった、許可しよう」





父「だから娘には内緒にしといてくれ」

メイド「かしこまりました、取引成立ですね」


・・・・・・


お嬢様「いったいどうやって説得したんだ?」

メイド「機密事項でございます」

メイド「まあ・・・これからは旦那様の態度も多少軟化するかと思います」

お嬢様「そうか、とにかく礼を言っておく」

お嬢様「ありがとう」

メイド「いえ、ただ私が正しいと思ったことをしただけです」

お嬢様「そうだ、代わりといってはなんだが、職に困るようなことがあったらいつでも戻って来てくれ」

お嬢様「何ならうちの系列の会社に・・・」

メイド「お気持ちはありがたいのですが、この屋敷のメイドに戻るつもりはございません」

お嬢様「そ、そうか・・・」

メイド「新しい使用人は獣医志望の方を雇いましたので、『お嬢様』になにかあったときは力になってくれるでしょう」

お嬢様「そこまで考えてくれていたのか・・・」

メイド「私がいなくなっても、しっかりやっていけるでしょう」



メイド「ですので、今度は友人としてこの屋敷にお邪魔させていただいてもよろしいですか?」

お嬢様「あ・・・ああ!もちろんだ!歓迎しよう!!」


・・・・・・


~数日後~


お嬢様「ふふふっ、今日も可愛いなあ!!」

猫「~~♪」


執事「いやあ、まさか旦那様が許可なされるとは思いませんでした」

庭師「ああ、どんな心境の変化があっのやら・・・」

執事「ともあれ、これでようやく里親探しから解放されますね」

庭師「お嬢がこっそり動物を拾ってきては、俺たちが奔走するってのを何回繰り返したことか・・・」

庭師「親父さんに見つからないよう匿うってのは心臓に悪かったぜ・・・」


猫「ミャーオ」

お嬢様「なんと愛らしい声だ!」

お嬢様「聞いたか使用人!お嬢様は滅多に鳴かれないのだ!今日は運がいい!」


執事「メイドさん、どんな手品を使ったんでしょうか?」

庭師「そうだな、あんな強情張りな奴を説得するなんて並大抵のことじゃないぞ」

メイド「機密事項です・・・ただ・・・」


使用人「そうなんですか?私の前ではけっこう鳴きますよ?」ナデナデ

猫「ミャーオ♪」スリスリ

お嬢様「な、なにぃっ!?私よりお嬢様に愛されるなど許さんぞ!クビだぁ!!」

使用人「そんな横暴な!?」



メイド「案外、似た者親子だったというだけです」





使用人「ところでなんでメイド服なんですか?」

お嬢様「お嬢様に仕えるのはメイドと相場が決まっているだろう!」

メイド(まあ、可愛いので全てよしとしましょう)



おわり


以上。
今年も猫を飼えませんでした。
飼ってる奴が羨ましすぎて書いた。
世の人間どもはみんな私の呪いで猫の下僕になればいいのに。
来年こそは飼えますように。

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