【安価】で異世界なろう転生 (236)



俺の名は男。



至って普通のアニメやゲームといったサブカル大好きボーイの高校2年生。



クラスカーストで言えば底辺に位置するが、それなりに楽しく過ごしている。



日頃から主人公という物に憧れていた俺は、赤信号の横断歩道へボールを取りに出た少年を、大型トラックに轢かれそうになった少年を、飛び出して救ってしまった。



身体中に言葉に出来ない程の痛みを感じた瞬間、その痛みは消えた。
何故かは分からない。視界は真っ暗、意識はある。



目を開きたいが開けない。いや、開いているかもしれない。
一体俺はどうなってしまったのか、もしかして死んでいるのだろうか。



男「……?」



闇の中、丁度顔の前にホログラムの様な長方形の画面が映し出される。
日本語で何か書いてあるが、何だろうこれは。



だが、見覚えはある。
例えるならそう、ゲームでいうステータス画面だ。



男「なになに…」




男のステータス
安価下

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1579590670


生命 0/45
精神 42/50

体力 11
技術 11
感性 18
知力 17

幽体


男「なるほど」


一瞬生命力が0で何事かと思いきや、今の俺は幽体。
死んだって事か。


まぁそうだよな、あんな大型トラックに轢かれりゃそうだ。
新しいゲームや今期のアニメに触れられないのは残念だが、俺はそこまで悲観しない。


残された家族や友人が悲しむだろうが、俺はあの少年を救った。
誇らしいし、カッコよく死ねた……とは建前で、この今俺に起きてる現象。


まさかとは思うが、俺の知識が合っているならば、これは。


男「異世界への転生…」


なによりこのステータス画面がその証拠。
異世界転生物の序盤はこういったステータス画面を見る作品が多いからな。


見た感じ平凡。いやそれ以下かもしれないステータスだがきっと……ほらあれだ、スキルとかもあるだろうし。


どっかに書いてないかな。




男のスキル
安価下


男「……実体化」



え?それだけ?
ますます異世界転生する流れには間違い無さそうだけど、これで異世界を生き抜くの?


ステータス9999とか超絶怒涛の魔法とか……そういうの無いの?
てか実体化自体も使い方わかんないし、どうしたら良いんだ。



?「聞こえますか?男さん」


男「は、はい?え?誰ですか?」


?「聞こえているのですね。して…貴方にはこれから、とある世界を救って頂きます」



男「(やっぱりだ)」



?「あまり、驚かないのですね。では、すぐにお送りします」



男「あ!ちょっと待った!異世界を救うのは良いんですけど、ひとつ相談が!」



?「何でしょう?」



男「えっと、俺のステータスが貧弱過ぎるんですけど……何か女神的な力とか加護とか……貰えたりしないですかね?」



?「……なるほど」





男に授ける物、スキル等
安価下


?「ひとつ…とある本を授けます。必ず貴方の役に立ちますので、有効にお使い下さい」




男「本?魔導書?あ、やっぱ魔法ならこの精神力ってのを使うんですか?」




?「ご武運を」



ちょっと待ってと手を伸ばすと、自分の手が見えた。
いつの間にか俺は知らない場所に転送…いや、転生されていた。


見た感じ教会らしき所の空中に俺は居る。
下を見れば多からず少なからずの人達が祈りを捧げていた。



男「(いきなりだな、ほんとに)」



俺の真下にはいかにもな魔法陣が敷かれており、これは察するに召喚の義だろう。


つまりここでスキルを使えば俺が英雄、または勇者として爆誕するという展開だ。
そうとなれば話は早い、早速使おうじゃないか。



男「……どうやって使うんだ?」



ただの一般人だった俺にスキルの使い方なんか分かるはずもない。
謎の声の主め…そういうとこだぞ。



男「あ、そうだ」



そういえば本を貰った筈だ。俺の役に立つと言うなら、そこに何か書かれていてもおかしくはない。
先程から俺の隣でフワフワと分厚い本が浮いているが、恐らくこれが貰ったという魔導書だ。



男「どれどれ……【攻略本】……え?」



何だこれは?攻略本?とてもじゃないが魔導書には見えないぞ。
最初のページを開くと目次が大量に書かれている。


異世界の歩き方、スキルの使い方、魔物図鑑etc.....数えたらキリがない。
物凄く文句を言いたいが、あまり時間もかけてられないな。
スキルの使い方のページを開き、しっかりと読み込む。



男「よし……」



精神力という曖昧な概念を意識して声に出せば発動するみたいだ。



男「実体化」


魔法陣を見ながら呟いたら、急に地面が近くなった。
そしてこの、地に立っている感覚、身体が在るという実感、どうやら成功したみたいだ。
視線を前に向けると、皆跪いていた。



神父「ようこそ、勇者様。貴方様の降臨を、我々は待ち望んでおりました」


男「…………」



ここは俺の事を誰一人として知らない世界。
普段の俺を誰も知らないのだ。
つまり、最初が肝心。


どういった態度で今後やっていこうか。





1 いつも通り
2 謙虚に
3 偉そうに
4 自由安価

安価下


ここは謙虚にいこう。勇者って言っても特別な力や超人的な能力がある訳でもないしな。
それにこの攻略本…どの程度役に立つかは分からないが、何も無いよりはマシだな。



男「あ、どうも…」


「「オォォォーーッ!!」」



突然の歓声に吃驚してしまう。この世界での勇者ってのはこんなにも期待されているのか。



神父「お許し下さい勇者様。我々は貴方様の顕現を待ち望んでおりました故…騒がしくて申し訳ありません」


男「あ、頭を上げて下さい。俺は大丈夫ですよ」



俺に期待を寄せられれば寄せられるだけ、自分の能力の低さに引け目を感じてしまう。
持ち上げられる事に縁が無かった俺には非常に気まずい。



神父「ありがとうございます。早々で申し訳無いのですが、この私めにご同行願えますでしょうか?」


男「はい、いいですよ」



一刻も早くこの場から離れたい。視線が刺さるという表現をここまで実感するのは初めてだ。



━━━━━



俺が神父に案内されたのは、城の玉座の間。
城なんて写真でしか見た事ないが、生は迫力が違う。
案内された部屋の玉座に腰掛けるのは、見るからに王様と分かる風貌のビゲモジャのおじさん。



神父「勇者様。この方が我が国、光の都の王で御座います。では、私はこれで…失礼致します」


男「はい、ありがとうございます」



神父は俺と王様に一礼すると、玉座の間を後にする。
とはいえ勝手が分からないので、とりあえず王様に向かって跪いて頭を垂らす。



王様「よい。堅苦しいのは無しだ、勇者よ。頭を上げよ」


男「はい」


王様「うむ。改めて歓迎するぞ、勇者。貴殿が何故此処へ召喚されたのか…そこから話そう」


男「あ、自分が転s……召喚されたのは、この世界を救う為です王様」


王様「神父から聞いたのか?その通りだ」



話長そうだし、分かってる事はちゃちゃっと答えてしまおう。


王様「ならば話は早い。魔王の復活により、この世界再び危機へと陥っておる。勇者よ、魔王討伐…頼まれてくれるか」


男「勿論です、その為に来ましたから」


王様「うむ。それと…だ。貴殿かからすれば見知らぬ世界、一人では何かと不安もあるだろう。2人程旅のお供として同行させよう」


男「ありがとうございます」


酒場で仲間を集めるみたいな感じかと思ったけど、手間が省けたな。
2人か、どんなやつが来るんだろう。



王様「うむ。呼んで参れ」


護衛兵「はっ!」



王様は玉座の脇に居た兵士に指示を出し、兵士は扉へと駆けていく。
それから2分くらい経って先程の兵士が帰ってきた。



兵士「連れて参りました!どうぞ、お入り下さい!」


男「お…」









同行させる2人



【種族】
【職業】
【性別】
【強さ】


安価下
安価下2


中に入ってきたのは着崩した和服に刀を腰に差している男。
もう1人は修道女の様な服に、少し大きめの十字架を手に持った女。
2人は入るなり俺を一瞥すると、その場で片膝をつく。



王様「紹介しよう。刀使いの冒険者、侍と光教会司祭の娘、シスター。この2人を同行させよう」


男「あ、ありがとうございます」


王様「うむ。して、今後についての話になるが───



━━━━━



王様から仲間を2人あてがって貰った後、俺は城の一室で休憩している。


あの後王様から聞いた話では、魔王に対抗する為に四大精霊と契約を行わなければならないらしい。
四大精霊は各都に居る姫と契約していて、その契約をこちらへ更新するという話だ。


勇者の俺にはその適正があるらしいが、ステータスを見た感じそんなものは無いと思ったが…。
まぁ適正があると、この世界の住人が言うのならそうなんだろう。


他には軍資金を貰ったが、贅沢をしなければ3人で半年は持つ金額だそうだ。
ゲームなら装備買ったら無くなる程度の軍資金を貰うのが定番だが、やはりこれはゲームとは違うね。


出発は明日からとなっている為、今日は自由行動が可能だ。




何をする?

1 観光
2 攻略本を読む
3 待機している仲間の部屋に行く
4 自由安価

安価下


もう一度ステータスでも確認しておくか。
ええと、ステータスの出し方は…


攻略本を開き、該当するページへと飛ぶ。
開いてみると出し方ではなく、そこにステータスが書かれているではないか。


ただ分厚い本の為、その都度探すのは面倒だな。
俺はステータスのページに折り目を付けて、今後開きやすいように細工をする。


栞があれば良いんだが、まぁこれでも十分だ。
見た所ステータスもこれと言って変化は……



男「ん?」



いや、変化はしている。
俺の状態を示していた項目が幽体から実体になっているのと、精神力が大分減っている。


俺が実体化してからは数時間は経過している筈だ。
これがバフ系ならば一定時間で幽体に戻ってもおかしくない。


もしかして切り替え型なのか?つまりは反対の幽体化が必要なのではないか。
俺は目次へと戻り、スキルのページへと飛ぶ。


俺の勘が当たっているならば幽体化がある筈だ。
探している最中、俺はこの攻略本の凄さに驚かされる。


共通する魔法の他、個人が所有するスキル、固有スキルまでもが網羅されているのだ。
正直ここを見ているだけでも厨二心が刺激されて堪らないのだが、これは後後の楽しみにしておこう。



男「…あ。あるじゃん」



見つけた、幽体化。
このスキルは高位魔術のひとつで、本来ならば実体化と並行して覚える魔法らしい。


俺は特殊なせいなのか、実体化しか持ち合わせていない。
この世界にレベルを上げてスキルを覚えるという概念があるかは分からないが、この先覚えられなければ幽体には戻れないみたいだな。


まぁいつでも幽体実体切り替えられたら普通に考えて強いよな。
いや、転生なんだからそれくらいしてくれても良いのになーとは思うが言っても仕方の無い事。



コンコン


お?誰か来たようだ。
ベットから腰を上げ、扉を開ける。



男「あ、君は…」


「やっほー勇者様、さっきぶりだね」



扉を開けた先には、シスターという修道女が立っていた。
修道女という職は、温厚でお淑やかなイメージを持っていたんだが、この子はどうやら当てはまりそうに無い。



シスター「入っていい?」


男「あ、うん。どうぞ」



シスターを部屋へと入れて扉を閉める。
何しに来たんだろうか。
男女が密室で2人きり、何も起きない筈もなく。



シスター「…あのね」


男「え?なに?」


シスター「実は…最初見た時から、気になってたんだよね」


男「え?えっ!?」



おいおいマジかよ、いきなり来る?展開はえーなおい!
俺はまだ君の事何も知りませんけど??
まぁ据え膳食わぬは男の恥とも言うし俺的にはやぶさかではないていうかなんていうかねぇ!



シスター「あれ…見てもいい?」


男「……あれ?」



シスターの指の先、それはベットに置かれた攻略本に向いていた。
なんだよ気になってたってそっちかよ!
でも残念だったな!それはえっちな本じゃ無いんだよ!



シスター「だめ?」






1 良いよ
2 企業秘密だ
3 取引だ
4 自由安価

安価下


男「良いよ」


シスター「やった、ありがとー」



期待から大分外れたけど、シスターの笑顔が可愛かったのでそれで良しとする。



シスター「………?」



不思議そうな顔をして攻略本をパラパラと捲り続けるシスター。
目当てのページが見つからないのかな?



シスター「ねぇ、勇者様」


男「ん?」


シスター「何でこれ…全部白紙なの?」


男「え?白紙?」



そんな馬鹿な。俺はシスターの側に寄って攻略本を覗き込む。
そこには白紙なんかではなく、普通に文字や挿絵が描かれている。



男「白紙じゃないよ?ほら、いっぱい書いてある」


シスター「え…?私には何も見えないけど…」


男「マジで?」



つまりは攻略本は俺にしか見えない?
これは転生者の特権みたいなもんなのかな。まぁ確かに色々と赤裸々に書いてあるしな、この世界の人が見たらたまげてしまう内容かもしれない。



シスター「勇者様にしか見えないんだー残念だなー」


男「そうみたいだね。あ、読んであげようか?」



見えないならば俺が読めば良い。
我ながら気の利いた男よ。



シスター「聞きたい聞きたい!でも、これって何の本なの?」


男「あー…」




攻略本って言っても伝わらなさそうだしな、何て言えば良いんだ。
ゲームの攻略本みたいになんでも書いてあるしなー…ん?
そうか、そのまま伝えれば良いのか。



男「この世界の事なら何でも書いてあるよ。何が知りたい?」


シスター「え、この世界の事を何でも?」


男「そうそう。俺もまだ全部読んだ訳じゃないけどね」


シスター「今日の晩御飯もわかるの?」


男「ごめん、それは書いてないと思う…」


シスター「えー!何でも書いてあるんじゃなかったの?」


男「何て言うか、そういうんじゃなくてね…もっとこう、知りたい事?みたいな。何か無い?知りたい物とか」


シスター「知りたい物ー?……んー…あ、えー…でもわかるかなー…」



何でもというのは逆に難しいのはわかる。何食べたいからの何でもいい、みたいな。
顎に拳を置いて、シスターはぶつぶつと唸っている。



シスター「…あのね、勇者様」


男「?」


シスター「私の将来とか…わかるかなぁ?」


男「いやぁそれも…」



いや待てよ、攻略本には人物紹介があったはずだ。
将来かは分からないが、何かしら書いてあるかもしれないな。



男「あるかは分からないけど、見てみるね」


シスター「ほんとに?お願い!」


目次を確認した後、人物紹介へと飛ぶ。
名前順になっていて、人物紹介は1ページ丸々使った設定資料みたいなものだ。


シスターの行までパラパラと捲る。
そして、今目の前に居る子とそっくりの設定資料を見つけた。


光教会に務める司祭の娘。
修道女としての振る舞いが苦手で、いつも司祭からは怒られている。
食事全てスイーツで良いと豪語するくらいの甘党。

この世界では珍しいとされる治癒魔法を使い、勇者を手助ける。
戦闘能力は皆無に等しいが、アンデットや不死の魔物に対しては浄化と称した神聖術を使える。

前回の勇者に同行して命を落とした母は聖女が呼ばれる存在であり、シスターもまた聖女の血を引いている。
適正の無い勇者に代わり──────代償として────。



男「……?」


シスター「手が止まってるけど、あったの?」


男「あ、いや…」



不自然に文字間に空白がある。何かしら書いてあったんだろうが、これでは読めない。
というかこれ…伝えて良いのか?



シスター「勇者様?」





1 伝える
2 ごめん、書いてなかった
3 それよりケーキでも食べに行かない?
4 自由安価

安価下

undefined


見た感じ本人なら知っていそうな部分もあるし、話しても問題ないかな。
俺は先程黙読した部分をシスターに教えた。



シスター「それって、私が聖女って事?」


男「そうなるよね。シスターは聖女なんだ」


シスター「えぇ!凄くない!?私聖女だって!」


男「う、うん?凄いね」


シスター「聖女だよ!!」


男「いでで!わかってるって!」


シスター「んふふ…」


男「な、なんだよ…」



コンコン


男「あれ、また誰か来た。ちょっと待ってて」


シスター「はーい!」



次は誰かな、なんて思って扉を開ける。
そこには祭服を着た中年の男性、俺は直感でシスターの父親だとわかった。ここへ来た理由も単純明快。


男「あちらに」


祭司「えっ…あ!やっぱりここに居たか!馬鹿娘が!」


シスター「げっ」



苦虫を噛み潰したような顔で父親を睨む娘。
祭司は俺に一礼してから中へと入り、ずかずかとシスターの元へと行く。



祭司「明日から発つというのにお前まだ荷造り済んでないだろ!すみません勇者様!何か失礼を…すぐに連れ戻します!」


男「いえいえ、特に何も」


シスター「失礼なんてそんな事しないよ!荷造りだって後でやろうと思ってたし…」


祭司「言い訳はいい!行くぞ!」



祭司はシスターの修道服の襟首を掴み、ずいずいとシスターを引きずる。



シスター「いやぁ~~!勇者様助けてぇ~!」


男「また明日ね~」


シスター「うらぎりものぉぉ!」



引きずられて行くシスターに俺は手を合わせ、特に意味もなく黙祷した。



─────



翌日。
軽く朝食を済ませた後、正門で侍とシスターが待っているというので俺は軽い手荷物を持って正門へと急いだ。



男「ごめーん、お待たせー!」


シスター「おはよー勇者様…」



シスターに元気が無い、あの後こってりと絞られたんだろうなぁ。



侍「応、来たな勇者」


男「あ、どうも。たしか…侍さんですよね。男です、宜しくお願いします」


侍「あー!硬っ苦しいのは無し無し!これから共に旅する仲間なんだから、もっと気楽に行こうぜ?」


男「あ、じゃあ……わかった。改めて宜しく、侍」


侍「そうそう!それで良い!」


もっと怖い人かと思ったけど全然そんな事は無くて少し安心した。



侍「っと、その前に少し良いか?勇者」


男「ん?」


侍「ほれ」



侍は腰に差していた刀を俺に向かって放り投げてくる。
吃驚したが、なんとか落とさずにキャッチした。



シスター「ちょっと!危ないじゃん!勇者様が怪我したらどーすんのよ!」


侍「おーそりゃ悪かった。でも取っただろ?」


シスター「それは結果ー!」


男「それより何で俺に刀を?」


侍「旅立つ前に、俺と少し腕試ししようぜ」


シスター「は」


男「え…」


侍「やっぱ勇者って言うからには、さぞ腕が立つんだろ?仲間の力量を知る上でも大事な事だしな、良いだろ?」


シスター「……」


侍「この娘っ子も見たいってよ、勇者」


シスター「や、別にそんなんじゃ…」



そんなチラチラ俺を見られても困る。



侍「別に本気でやる訳じゃねぇさ、軽くだよ軽く」






1 戦う
2 戦わない
3 自由安価


安価下


男「…確かに侍の言う通り、仲間の実力を知っておくのは大事だね」


侍「どうやら…やってくれるみたいだな?話が分かる奴で良かったぜ。そうと決まりゃあ場所を移そう、ここじゃ目立つからな」


男「わかった、案内して」



俺達は正門を抜け、都の外へと出た。
少し歩いて人気の無い辺り、言うてもだだっ広い草原の適当な場所でやる事にした。


何事もやってみなくては分からない。
刀なんて使った事も持つのも初めてだし、少し慎重に行こう。



侍「ここら辺で良いだろ。さぁ、早速始めようぜ」


男「…ふぅー」



分かっては居たが、緊張する。ろくすっぽ喧嘩もしないような平和な生活をしていた俺に、これから斬り合いをしろと言うのだ。


だが、今更引けない。平常心だ、平常心。
呼吸を整え、俺は某漫画の真似をして居合いの構えに移行する。
それに呼応する様に、侍も刀を抜いて、だらりと垂らして構える。


侍「"それ"…使えんのか?」


男「……」


シスター「頑張って勇者様ー!」



俺が構えを取ってから数十秒。
互いに動かず、いや俺は動けないだけだけども。
お見合いが続いている。



侍「どうした?来て良いんだぜ?」


男「はは…ちょっとね」



来て良いと言われても、踏み込む勇気が無いよ。
下手に動くより、まずは様子見だ。



侍「ま、来ないならこっちから行くぜ」



語尾を聞き取ると同時に侍は俺に向かって駆けてくる。
よくある高速移動とかでは無いが、見えない訳じゃないが、とにかく……速い。



男「くっ──!」




1 ビビって適当に斬りまくる
2 飛天●●流
3 よく見て、避けてみる
4 自由安価

安価下


正攻法じゃダメだ。理由は分からないが俺の勘がそう言っている。
相手の意表を突く、それなら──。


俺はタイミングを合わせて、構えのまま右足で前蹴りを繰り出す。
トンファーキックならぬイアイキックじゃい。が、意表を突いたつもりの攻撃虚しく足は空を突く。というか侍が消えた。



男「消え──」
侍「まさか蹴ってくるとはねぇ」


男「なっ!?」



背後から侍の声がして、咄嗟に振り向く。
侍は薄ら笑いを浮かべながら顎をさすっている。
いつの間に移動したんだ?全く見えなかったぞ。



侍「ほら、チャンスだぜ?」



侍は挑発しているのか、刀をしまって両手を挙げている。
流石に力量は測られただろうが、このまま終わるのは癪だ。
一太刀でも浴びせてやる!



男「オラァァ!」



もはや構えは崩れ、俺は刀を抜いて上段で襲いかかる。
侍は俺のその様を見て、また笑った。



シスター「勇者様!?」



─────



後頭部には柔らかい感触。おでこ辺りを誰かに撫でられていて、俺は目を覚ます。



男「ん…」


シスター「あ、起きた!勇者様!大丈夫?」


男「あれ…俺…」



ついさっきまで侍と勝負していた筈なのに、何でシスターに膝枕されて……膝枕…だと…?



侍「よう、やっと起きたか」


男「……一体何が?」


シスター「覚えてないの?」


男「うん。何が起きたの?」


シスター「あのおっさんが刀を飛ばしたの!」


侍「おい、俺はおっさんじゃねぇ。まだ20代前半だ」


男「刀を飛ばすって?」


侍「今のは嬢ちゃんの言い方が悪ぃ。要は鍔を弾いたのさ、こうやってな」



侍は刀を立てて親指で鍔を弾くと、刀が数センチ上へと上がる。



シスター「そう。それが勇者様の顎に当たっちゃって…」


男「なるほど、それで気を失ったって訳か」


侍「加減したつもりだったんだけどな、打ち所が悪かったみてぇだ。すまん!」


男「いやいや、俺が弱いから…」



侍「そうだなぁ、確かに俺が抱いてた期待からは大分外れてたな」


男「だよね…」


侍「なに、気に病むことはねぇさ。弱ぇなら強くなりゃ良いだけの事。お前次第という訳よ」


男「俺次第…」


シスター「大丈夫!勇者様なら強くなるよ!絶対!私が保証する!」


男「はは、言い切ってくれるね。でも…ありがとう」


侍「どんなモンでも磨きゃぁ光る。積み上げたモンは裏切らねぇ。だから、頑張ろうぜ」


男「ありがとう。頑張ってみるよ」



異世界転生者としての補正で今後強くなる可能性は捨てられないけど、それを抜きにしても俺は強くなろうと心に決めた。


侍「さてと、少し動いたら腹減っちまったな。嬢ちゃん!野営の準備くらいあるんだろう?飯にしようぜメシ!」


シスター「あるけど…てかおっさん荷物少なすぎ!勇者様のサポートするのが私達の役目でしょーが」


侍「おっさんじゃねぇ!」



─────



設営後。
シスターは魔道具を使って調理をし、もらう事になり基礎体力や筋力作りをしている。



侍「それが限界かー?」


男「はぁ…はぁ…もう、無理ぃ…」


侍「まぁ、平均ってとこだな。教えるのは構わねぇんだが、勇者はまだ身体が出来てないからな。戦いを覚える前に、まずは基盤を作らねぇと話にならん。技術はその後だ」


男「はぁ…が、頑張ります…」


シスター「ほらーそこまでー!ご飯出来たよー!」


侍「おー!今行くー!」



筋トレから解放され、少し安堵する。
強くなりたいと言ったとはいえ、やはりキツイ物はキツイ。


悲鳴を上げる筋肉に無理をいわせ、突っ伏した身体を起こして用意された椅子へ座った。



簡素な物になるかと思った食事だが、思いの他しっかりとした飯だった。
大皿の上に肉や野菜に米、缶詰とかスープみたいな物と思っていたからこれは嬉しい。



侍「美味そうだなぁ!中々やるな、嬢ちゃん」


シスター「別にこれくらい…」


男「でもほんと美味しそうだよ。普段から作ってるの?」


シスター「うん、普段からお父さんの分も作ってたから」


男「へぇ、偉いねー」


シスター「自然とそういう風になっちゃっただけだから。でも褒められると嬉しいね、えへへ…」


侍「ここに酒がありゃ最高だったんだけどな、あるか?」


シスター「ない」


侍「ぐぅ…残念だ」


男「あ、そういえば今ってどこに向かってるの?」


シスター「風の都だね。5日くらいあれば着くかなー」


男「へぇ5日……5日!?近いのに?」


侍「足があれば話は別だが、徒歩だからな」


男「そうかぁ…そういうもんなのか…」


シスター「途中から魔物の出現頻度も上がるから気を付けようね勇者様」


男「魔物……うん、気を付けよう」


侍「心配すんな、魔物からは俺が守ってやる。安心していい」


男「うん。侍が頼りだよ今は」


シスター「ちゃんと勇者様守るんだよ。怪我させたらご飯抜きだからね」


侍「ははは!そりゃあ命懸けで守らんとな!」



その後も他愛ない会話が続き、歩を進めて陽が落ちてきた。
今夜は道中にあった森の中へ入り、そこで野宿する事になった。


食事を済ませ、朝までは自由行動だ。




何かする
安価下


やはり謎多き攻略本を俺が攻略しなくては。
この世界の事をゲームの攻略本の様に書いてくれているが、とてもじゃないが読み切れる量ではない。


余談になるがこの本、厚さの割には全然軽い。
昨日シスターから重くないの?と言われて初めて気が付いた。
これもあの神様の計らいかね。


そうと決めたら天幕の中へと入って攻略本を取り出す。
今回は適当に開いた場所を読む事にしよう。



男「さぁ、何が出るかな」





開いた内容
安価下


男「……なにこれ?」



●神界情報処理局業務の実態へ迫る!

私:
本日は宜しくお願いします。早速なんですが『攻略本』が完成した時のお気持ちは?


?:
そうですねー、幻界の情報を集めるのにスタッフ騒動員で掻き集めましたから、騒々しかったけど楽しかったね(笑)
普段と違う事するから疲れちゃった(笑)


私:
普段と違う事とは?


?:
私達局員の仕事って転生者に『神託(アンカー)』を渡す事なんですけど、基本的には超人的な能力や最高位の魔術を使えるとかが多くてですね、こういった『物』を渡すというのは初めてでしたね。


私:
大変だったんですね。でも、能力とかでは無ければ転生者は辛くないですか?


?:
本来ならとても辛いです。ですが私達の作った『神託』というのは、リアルタイムで転生者の思考や行動の強制、或いは能力の覚醒、臨機応変に対応しています。
序盤は苦しいかもしれませんが、物語が進むにつれて転生者は強くなる様に設定してあります。


私:なるほど。では管理している幻界のバグ、『魔王』の処理は完璧という訳ですね。


?:
そうですね、攻略本の手順通りに働いてくれれば問題無く除去出来ます。
ただ『神託』というのは気まぐれなので、実際はどう転ぶか私達にもわかりません(笑)
局員はあくまで『傍観者』ですからね、悪い流れでも手を出せないのはもどかしいです。


私:
まさに『神の気まぐれ』ですね。本日はありがとうございました。



男「……ゲームかな?」



攻略本らしいっちゃらしいけど、こんな物まであるとは。


他にもあるけど、一体何人関わってるんだろうか。
天界だの幻界だの神託だのと、聞き慣れない単語もあるし。


結局その日は、寝るまでスタッフインタビューなる物を読み耽る事になった。



─────



3日後。
俺達は今、広大な森の中に居る。
ここを抜けなければ風の都へと行けないらしい。



侍「見ろ、魔物の足跡だ。ここでの野営は魔物に襲われる可能性が高くなるからな、気ぃ付けろよ」


男「りょーかい」


シスター「出てきちゃったらパパパーってやっつけちゃってよね」


侍「応。何かあったらすぐに──しっ!」



先頭を歩く侍が警戒しろという合図を出す。
俺は何も感じられないが、魔物が近いのだろう。



侍「そこの茂みに隠れるぞ」



無言で頷き、指示された茂みへと入る。
数秒後、進行方向の脇から魔物の群れが現れた。
数にして5匹、それぞれ手には槍を持っている。



侍「コボルトか。奴ら、強くはないが知恵があるのが厄介だぞ」


シスター「弱いんでしょ?倒しちゃえば?」


侍「倒すのは簡単だが、1匹でも逃げられたら後々面倒なんだ」


シスター「そうなの?でもこんなとこで足止め食らいたくないし」


男「侍なら普通にやれそうだけど…」


侍「魔物の群れってのには役割があってだな、1匹でも逃がした日にゃ倍の数で報復に来るだろうよ。奴らは匂いを追えるからな」


男「なるほど。野宿の危険性が高まるのか」


侍「そういう事」




安価下
1 殺っちまおう
2 やり過ごそう
3 自由安価


男「…こっちにはまだ気付いてないんだよね?」


侍「ああ。それがどうした?」



なら…と呟き俺は攻略本を取り出す。勿論開くのは魔物図鑑と書いてある所だ。



シスター「え、何でこんな時に本呼んでるの…」


男「……」


侍「何か考えがあるんだろうさ。それにしたって本当に白紙にしか見えないよな。どんな仕掛けなんだ?」


男「俺にもその辺はさっぱりで──あった」



魔物図鑑からコボルトの項目を発見。


●コボルト
ランク:E

生命:50
精神:5
体力:25
技術:5
感性:30
知力:30

経験値:70

弱点:炎

主要ドロップ:
汚れた細槍、ボロ布のマント
レアドロップ:
コボルトの首飾り

概要:
森に住処を作り、縄張りに入った人間を攻撃する犬頭が特徴の小人族。
群れで行動する習性があり、腕にスカーフを巻いたコボルトはリーダー兼、戦闘から離脱して増援を呼ぶ役割を持つ。



男「なるほどね」



こうやって見ると本当にゲームの攻略本見てる気分になるな。
経験値があるって事はレベルの概念もある?書いてないけど。


少なくとも基礎値は俺より高いって事は、1匹でも倒せば俺自身の成長は見込めそうだ。
問題はパーティとしての経験値があるか、だ。
俺自身が倒さなくてはならないのなら、1匹どうにかして倒してみたいな。


男「侍」


侍「どうした?」


男「あいつら、倒してみよう」


シスター「え?やり過ごした方が良くない?」


侍「別に構わないが、良いんだな?」


男「うん。腕にスカーフ巻いた奴を最初に狙って、それで何とかなるから」


侍「ほう?」


シスター「大丈夫なの?逃げられたらやばいんでしょ?」


男「そこは侍を信じるよ」


侍「任せときな。確実に1匹仕留めるなんざ造作もない。念の為に勇者も刀持っときな」



侍は差している刀を俺に渡す。



男「ありがとう。でも…使わない事を祈るよ」


シスター「本当に?本当に大丈夫?」


侍「おいおい、とんだ心配性だな嬢ちゃんは」



侍はシスターの頭をポンポンと叩き、静かに茂みから出る。
刀を抜き、重心を落として刺突の構えを取る。



侍「見とけよ勇者、これが"技"だ」



重心が前に傾いたと思ったその瞬間、侍の姿が消えた。
いや、消えた訳では無い。初動が速すぎて目で追えなかったのだ。


群れへ目をやると既に1匹、スカーフを巻いたコボルトが絶命していた。
その一撃でコボルトは1匹が残って他は散り散りに逃げるが、侍はそれを許さない。
2.3匹目をすぐに斬り伏せ、反対へ逃げた2匹を追う。


男「すげぇ…あっという間に倒しちゃってる」


シスター「い、言うだけはあるね…」



視界から消え、見えない所で戦っている侍の心配は先程の戦闘を見て心配は無くなった。


ガサガサ!



男「え?」
シスター「何の音──」


俺達の後ろの茂みから音──と思った時には遅い、こちらへ向かってコボルトが飛び出して来た。


だが好都合だ。先程侍が倒しても変化は起きなかった。つまりは俺が倒さないと駄目だ。
この1匹、何としてでも倒す。



シスター「きゃぁぁ!」


男「シスター下がって!」



俺はシスターの前に立ち、刀を抜く。
勢いを殺さずに直進してくるコボルトの気迫に負けそうになるが、ここで怖気付く訳にはいかないんだ。


コボルトは勢いのまま、細槍を繰り出してきた。



展開安価
安価下

安価早くくれるのに、いつも亀レスですまん


狙いは腹。大丈夫、避けれる。避けるのは簡単。
…なのに、俺の頭によぎるのは『死』という一文字。


殺意の込められた一撃に足が竦んでしまっているのだ。



男「う、うわあああっ!」



恐怖に呑み込まれ目を閉じてしまい、無我夢中で刀を振る。



コボルト「グギ……!」


男「えっ…」



何が起こったか分からないが、俺はコボルトの一撃を避けていて、振り下ろした刀はコボルトの首に深く食い込んでいる。


次第にコボルトの抵抗が弱くなり、そのまま地に伏せる。
倒したのか…?俺が?



シスター「や、やった…!倒した!凄いよ勇者様ー!」


男「う、うん…」



生き物を斬る感触の気持ち悪さよりも、倒したという高揚感に支配されていく。
やったんだ…俺が、倒したんだ…。
拳を握り締め、勝利を噛み締める。



男「ん……何だこの感覚…」



身体の奥底から何かを感じる。
次第にその感覚は消え失せ、よく分からないなリフレッシュした様な気分になり、力が湧いてくる。



男「(もしかして…レベルが上がった?)」



俺は身体の感覚を確かめ、攻略本を取り出す。



シスター「勇者様?どうしたの?」


男「ちょっとね」



俺は折り目を付けたステータス画面を開いた。
侍に鍛えられているおかげか、体力の数値が元より上がっている。



安価下
生命 45/45→?
精神 50/50→
??体力 15→?
技術 11→?
感性 18→?
知力 17→?


スキル:
『実体化』『安価下2』

説明不足だった、すまん
安価下は好きな数値に書き換えてもらってOK
安価下2は新しいスキル

改めて
ステータス上昇安価下
新スキル安価下2



生命:51/51?
精神:56/56?
体力:15?
技術:13
?感性:19?
知力:23

スキル:
『実体化』『空中浮遊』




やはり成長していた。著しい伸び方なのかは分からないけど、魔物を倒せば俺は強くなれる。
それに新しいスキルも覚えてるじゃないか。


空中浮遊!これはかなり便利じゃないか?
後で攻略本で詳細を調べておこう。


俺は本を閉じて周りを警戒する。コボルトがもう居ないとは限らないからな。



シスター「あれ?これ何?」


男「ん?あ、それは…」



シスターが拾ったのは首飾り。パーツに骨で作られた造形物があるが、何の骨かは分からない。先程倒したコボルトの辺りにあった様だ。


確かレアドロップにコボルトの首飾りがあったよな、運が良い。



男「コボルトの首飾りだね。装備してみる?」


シスター「へぇ~。でも趣味じゃないかな。勇者様が倒したんだし、勇者様が貰って」



それもそうかと頷き、シスターから首飾りを受け取り、掛ける。


シスター「ぷ…あはは!」


男「え、なんで笑うの…?変かな?」


シスター「あ、ごめんね違うの。ただね、勇者様が本当に嬉しそうにそれ掛けるから、何か可愛いなって」


男「俺そんな顔してた?全然気付かなかったよ」


シスター「してたしてた」



シスターはまた少し笑う。可愛いって言われるのは何か変な感じだな。



ガサガサ…



男「…!シスター離れて!」



またか?もう一度あんな事出来るなんて限らないってのに!



侍「お、こっちだったか。やっぱ森の中を走り回ると迷子になって駄目だな……っておい?」


男「侍か…なんだ…はぁぁ~」



侍の顔を見て変に脱力してしまい、ぐにゃぐにゃと膝から落ちる。


シスター「もー!驚かせないでよね!」


侍「なんだなんだ?何があった?」



俺は侍にここで起きた事を話すと、やるじゃねーかと褒められて頭を撫でられた。
撫でるのはどうなんだと思ったけど、悪い気はしない。


死ぬかと思ったけど、俺達は再び風の都へと歩き出した。



─────



2日後。
辺りが暗くなった頃に俺達は風の都に到着した。
夜風が吹いており、肌寒くなく心地良い。
光の都は中世な街並みだったが風の都は中央に巨大な大木が生えていて、太い枝木の上には建物がいくつも並んでいる。


大木から離れた四方には大きな風車塔があり、それぞれ何かしら役割をしていると侍が教えてくれた。
田舎物の様に俺は辺りを見回し、街道を歩きながら宿を目指す。


男「何か緑ー!って感じだね、ここは」


シスター「風の都は見ての通り草木がいっぱいあるしね。作物も豊かだし、自然に囲まれてて長閑なとこだよ」


男「長閑って……魔物に襲われたりは?」


侍「なぁーに、この都には『風障壁』があるからな」


男「風障壁?」


シスター「風姫様の結界だね。絶対不可侵領域の風障壁って言われるくらい強固なの」


男「へぇ~そりゃ凄いな」


侍「おっ、宿が見えてきたな。久しぶりに風呂にありつけるなぁ!」


シスター「ほんとだよね、森とか入って臭うし…。あ、風姫様への謁見は私が明日話通しとくから、今日はゆっくり休んでね。勇者様!部屋とったら後で買い出し行こ!」


男「うん、良いよ」


侍「なんだー?俺は仲間外れかー?おーん?」



侍はシスターの頬をぷにぷにとつつく。
もー!とその指を払い除けるシスターはぷんぷんと腰に手を当て侍を指さす。



シスター「おっさんは自分で好きな物買ってきて!1人で!どーせ酒とツマミだろうけど!」


侍「おっさん言うな!なぁ勇者~嬢ちゃんが冷たい!どうにか言ってくれぇ!」


男「ぷ、あはは!」



俺は今更ながらこの2人と仲間なんだなーと、しみじみ思う。元の世界では味わえなかった経験だ。
が、道のど真ん中で勇者とか騒ぐから道行く人の興味を集めてしまい、俺達はそそくさと宿へと入った。



─────



翌日。
昼頃に王城へ向かったシスターの帰りを待ちながら、俺と侍は都を練り歩いていた。


侍「んぐ…うんめぇなー!この鳥串!そして…酒!ごく…くーっ!たまらんッ!」


男「行くとこ行くとこの露店で買い食いしすぎじゃない?夕飯食えなくなるよ」


侍「それはまた別腹だ」



よく食うなと呆れつつ、俺はふとした店が目に留まる。
表に出ている物からして、武具屋だろう。



男「魔物の侵攻が無いのに、武器とか売ってるんだね」


侍「んぐ……ん?ああ、そりゃどこの都にも冒険者は居るからな。ここも然りだ」


男「そっか、そうだよね」


侍「ちょっと覗いてくか?何ならおめぇさんに合う武器があるかもしれないぜ?」



1 侍の刀で良いよ
2 ちょっと覗いてこうかな
3 無駄遣いダメ、絶対
4 自由安価


男「いや、俺は侍の刀で良いよ。使いにくい訳じゃないし」


侍「そうか?ま、おめぇさんがそう言うなら良いけどよ」


男「そういえば気になってたんだけど、何で刀を2本持ってるの?二刀流って訳でも無いし、別に俺の為に持ってる訳じゃあるまいし」


侍「ああそれはだな……あー…趣味…かな?」



若干濁した?話したくないのかな。
深く聞いてもはぐらかされそうだ。



男「そうなんだ」


侍「それより、おめぇさんが刀を使うってんなら…」



侍はいつもの刀を鞘ごと俺に渡してくる。
こんな街中でと少し困惑しながら受け取った。



侍「やるよ」


男「え、いいの?」


侍「良いさ。おめぇさんに使ってもらった方がそいつも喜ぶ」


男「そっか。ありがとう」


侍「応!」



歯を見せるその笑顔を見て、俺も小さく笑ってみせる。


シスター「あー!いたいた!やーっと見つけたー!」


侍「遅かったじゃねぇか。どこで道草食ってたんだ?」


シスター「食ってないし!ていうかね、宿から出るなら置き手紙くらいしてよね!私がどれだけ探したか…はぁ~…」


男「確かに。ごめんね」


侍「そう怒るなって。甘菓子奢ってやるから」



提案する侍にシスターは再び深い溜息を吐く。
顔を俯けると指を4本立て、こちらへ向けてくる。



シスター「…4つ…」


侍「え?なんだって?」


シスター「あそこの特製パフェ4つで許してあげる!って言ってるの!」


男「あそこって…昨日の夜食べたあのお店?」


侍「4つも食うのか!?どんだけ食うんだよ!」


シスター「これでも抑えた方だし!甘い物はいくらでも入るもーん!自腹で払ってよね、こんな事で国のお金使えないし!」


侍「自腹だと!?おまっ!そんな!」



侍が俺に顔を向けてくる。
残念だが、財布を握るのはシスターなんだ。
自腹となっては俺にはどうしようもないぞ。



シスター「勇者様は国のお金しか持ってないから全部おっさんの奢りだね♪」



侍「そんな…!勇者…!」



俺は無言で侍の肩に手を置き、諦めろと首を振る。
その時の侍の顔は、しばらく忘れそうにない。



─────



同日、夜。
俺と侍は同室で部屋をとり、シスターだけ別の部屋になっている。


謁見は明日となり、またもや自由な時間が訪れる。



何をする?
安価下


そういえば空中浮遊をまだ試してなかったな。
とりあえずは攻略本で詳細を調べよう。



俺「ふむ…」



『空中浮遊』

取得難度:
B+

消費精神力:
5/秒

種別:
Active

詳細:
精神力を消費して100M上空まで飛ぶ事が出来る。
縦の移動は早いが、横には通常の半分の速度になる。




男「ふーん…」



となると、飛べるのは11秒ってとこか。
物は試しだ、浮くという感覚を味わってみよう。俺は深呼吸をして、空中浮遊を唱える。


男「お…?おおっ!?」


侍「ん?どう──なにぃ!?」



身体が浮いてる!何だこの感覚、凄い!
地面から2Mくらいの高さをふわふわと、俺は浮いているのだ。


侍「お、おい勇者…?おめぇさん一体何を…?」


男「見て!凄くない?俺の新しいスキル!」


侍「浮遊魔法ってやつか?凄いな!」


男「そろそろかな。よっ…と」



空中浮遊を解除して地面へと着地する。
楽しいが、これを使うと消費が激しい上に長くても今は11秒。
練習と使い所を見極めないとな。



侍「いつの間にそんなの出来る様になったんだよ~うりうり~」



首元をホールドされて、頭を拳でぐりぐりされる。
手加減しているだろうが普通に痛い…痛い!



男「割れる!痛い!割れちゃう!」


侍「おぉすまんすまん、軽くやったつもりだったんだが」



腕を何度もタップして解放してもらい、痛む部分を摩る。



侍「で、どうしたんだ?」


男「あれだよ、前のコボルト。あいつ倒したら使える様になった」


侍「へぇ…倒しただけで?鍛錬しないでか?」


男「そう。倒した時にこう…身体から力が湧いてきて…で、使える様に」



ジェスチャーで表現するが、なんだそれと侍に笑われてしまった。頑張ったのに。



侍「おいおい悪かったって、いじけるな。ほれ、お前も呑め呑め」



侍はテーブルに置いたお猪口を持ってきて俺に差し出してくる。


男「俺、飲んだ事ないし」


侍「だぁーい丈夫だって!案外イけるかもしんねーぞ?」



未成年だし、と思いつつもここは元の世界とは違うからと自分に言い聞かせ。
俺は人生初の酒を飲む。



香り良く、透明で、見た目は水。
口当たり良く、喉が焼け、俺は吹き出した。



侍は大笑いしていた。



─────



翌日。
本日は風姫との謁見の為、俺達は王城へと向かう。
シスターが久しぶりだな~と呟いていたので、風姫とは顔見知りなのかな。


王城まで着くと、鎧を着込んだ人物が城門前で軽く会釈をする。
その爽やかな笑顔と顔立ちは、俺が女だったら一目惚れしてもおかしくない程クソイケメン。


シスター「風騎士さーん、久しぶり~!」


風騎士「久しぶり。シスターちゃん大きくなったねぇ。昔から可愛かったけど、今も凄く可愛いね」


シスター「ちょ、もー!やめてってばー!恥ずかしいってぇー!」



シスターは頭を撫でられて、照れ隠しに風騎士なる男の鎧を叩く。
なんやこいつ!とブチ切れそうになるが、親戚のおじさん的反応だと自分を制して深呼吸をする。



風騎士「其方のお二人も、初めまして。僕は風の都、第一精鋭騎士団、団長をやっている風騎士です」



握手を求めてきたので、よろしくと渋々手を握り返す。
次に侍と握手をすると、風騎士は不敵な笑みを浮かべた。



風騎士「貴方…強いですね」


侍「あんたこそな。いつかやり合ってみたいもんだ」



侍も笑みを返し、握手を終えると風騎士は王城内へと案内してくれた。


広いエントランスを通り、二又の階段の踊り場に巨大な鉄製の扉。恐らくここに風姫が居るのだろう。


だが、その大扉には入らず二又の階段を上がり、俺達は客間へと案内される。



風騎士「申し訳ありません。先客の方が少々長引いているみたいで、しばしお待ち下さい」



風騎士は軽く頭を下げると客間から退室する。
俺達は円卓に置かれた椅子にそれぞれ腰掛け、中央に置かれたお菓子を摘んで時間を潰す。



シスター「んー♪おいひー♪」



侍「そうかぁ?甘ったるくてしょうがねぇ」


男「(見た事も食った事もないのに、元の世界の何かに味が似てる。何だったかは思い出せないけど)」



シスター「あ、そういえば勇者様」


男「ん?何?」


シスター「今は私達だけだけど、仲間って今後増やして行きたい?」


男「あー、仲間か」


侍「多いに越した事はないんじゃないか?相手はあの魔王だ」


シスター「でもさ、多いとその分お金もかかるよ?」


侍「この旅だって長引きゃ金も尽きて稼がなきゃならないだろ?早いか遅いかの違いじゃねぇか?」


シスター「そうなんだけどさ。勇者様はどう?」


男「そうだな…」



俺は、今後仲間を───




1 増やしていく
2 増やさない
3 自由安価


男「増やしていくよ。ただ適当に見繕うよりちゃんと選びたいけどね」


侍「ま、当然だな」


シスター「勇者様が増やすって言うなら私は文句なーし!」


男「はは、ありが───



ドォーーーン!!!



突如、爆音と地震が俺達を襲う。



男「な、なに…?」


シスター「なんだろ…今の音…」


侍「只事じゃねぇのは確かだな、どうする?」



1 皆で行こう
2 俺が見てくる
3 シスターを残して2人で
4 自由安価


男「行こう。ここでじっとしてるのも飽きたしね」


侍「だよな!」


シスター「言えてる。とりあえず風姫様の所行こっか」



俺達は部屋を飛び出して案内された道を戻り、2階の通路から中央のエントランスが見下ろせるフロアまで到着する。
1階のエントランスには衛兵が何十人も倒れており、生死は不明だ。



男「一体何が…!」


シスター「酷い…」


侍「……ありゃ死んでるな。ちっ、しかも相当な手練だぜ」


シスター「わかるの?」


侍「ああ。情報は沢山あるからな、それを見れば解る。さぁ急ごうぜ、グズグズしてちゃ風姫が危ねぇ」


男「うん、急ごう!」



階段を降りて、大扉の前に辿り着いた。
この先に"何か"が居る。
深く息を吸い、大扉をゆっくりと押し開ける。


開いた先。
そこに居たのは膝を付く風騎士と、つまらなそうに風騎士を見下ろす謎の男。


俺達は急いで駆け寄り、風騎士の容態を確認する。



シスター「風騎士さん!!」


男「風騎士さん!大丈夫ですか!」



風騎士「…勇者さんにシスターちゃん?…はは、格好悪い所を見せ…ゲホッ!」


「なんだァ?お前ら。邪魔すんじゃねぇよ」


男「…ッ!!」


シスター「あ……あ…」



素人でも十分に分かる。この男は…危険だ。
睨まれただけで俺とシスターは硬直してしまう。

が、その硬直を破るのは───


───侍。



男「侍!?」



前に森で見せた電光石火の如きあの技を謎の男に放つが、その刃は男に受け止められてしまう。




「おいおい!久しぶりだってのに、とんだご挨拶じゃねェか!」


侍「この…!クソ野郎が!!」


「はーっはっは!なんだよ俺ァ会えて嬉しいんだぜ?」



「お前だって嬉しいだろ、なあ?……"弟"よ」






謎の男の職業は
安価下


な、なんだと…?弟?侍が?



侍「ふざけんな!死霊術師!てめぇはもう兄貴じゃねぇ!」


死霊術師「そうかい。そりゃ残念だ」



侍の刀を受け止めていた禍々しい杖を軽く動かすと、侍は派手に転んでしまう。



死霊術師「ちったぁマシになったかと思ってたんだが…がっかりだぜ」


侍「うるせぇ!」



すぐに立ち上がった侍は刀を掬い上げる様に斬り掛かる。
俺の目には逆袈裟から斬り掛かった様に見えたが、一瞬で侍は袈裟斬りに切り替わっている。


だがその技は当然の如く死霊術師に受け流され、腹部を杖先で強打されて侍は遠くへ吹き飛ばされる。



シスター「おっさん!!」


死霊術師「なるほどな。さっきといい今のといい…馬鹿かお前。俺に"それ"は通用しねぇのは良くわかってんだろうが。刀なんか使いやがって…お前、"杖"はどうした?」


侍「関係ねぇだろ…!ぐっ…!くそっ…!」



侍は辛そうに腹部を抑えて片膝を付いてしまう。
あの侍がこんな簡単にやられるなんて…。



男「侍──」
侍「来るなッ!!」



見た事のない侍の顔と怒号に、俺は萎縮して動けなくなってしまった。
呼吸を整えた侍は立ち上がり、再び刀を構える。


死霊術師「やめとけ。無駄だって───」
風騎士「忘れてもらっちゃ困るよ」



負傷していたはずの風騎士が一瞬で距離を詰め、死霊術師を杖ごと薙ぎ払う。
傷は与えられなかったが、衝撃で地を少し後退りさせる。



死霊術師「ヒュー、危ねぇ危ねぇ。騎士様は教練で不意打ちもやってんのかい?」


風騎士「全く…検討したくもなるよ…!」



風騎士と死霊術師の激しい打ち合いが始まるが、真剣表情の風騎士に対し死霊術師は楽しそうに笑う。
誰が見ても優位は一目瞭然だ。


そしてその激しい打ち合いに、再び侍が迫る。



侍「てめぇは此処で!俺が殺す!」


死霊術師「良い感じに邪魔だよ、お前!」



なんて恐ろしい奴だ。
2人相手だというのに、遅れをとることなく捌き、弾き、躱し、迎撃する。


シスター「ね、ねぇ…大丈夫かな、あれ…」



すっかりモブと化した俺とシスターは、ただこの戦いを見守る事しか出来ない。
下手に横槍を入れるなら大人しくする他ないのだ。



男「多分…拮抗してるし、このまま行けば…」



だがその想い虚しく、その拮抗は崩れた。
躱しながら振り回す死霊術師の杖頭が風騎士の顎に当たり、風騎士が糸が切れたかの様に崩れ落ちる。



死霊術師「はっ!やっとくたばったか!」


侍「ちぃっ!」



侍は距離を一直線に詰める。
それに対して死霊術師は杖頭による打突を繰り出すが、その打突は侍の幻影を突く。
当の本人は瞬時に死霊術師の背後に回っていた。



男「あれは!」



侍と勝負をした時に見た技だ。
こうして横から見ても凄い速さ。
鬼気迫る侍の上段、決まった。


と思ったのに──



侍「……がはっ!」



その刃は届かず、死霊術師の杖先が侍の腹を


貫いていた。



死霊術師「はぁ~…」



死霊術師は深い溜息を吐き、侍の腹部を貫いた杖を引き抜く。
血が噴出し、侍はその場に倒れ込む。



死霊術師「"空蝉"ってのは本来、間合いで加速して相手の横をすり抜けざまに腹部、振り向いて頚椎を強打する2連打」


死霊術師「さっきの"しょーもない"技もそうだ。ありゃぁ"瞬電"を崩しただけだろ?得物が変わりゃ歩法も感覚も変わる。慣れねぇ事すっから未完成なんだよ、お前の技は」


死霊術師「ま、言っても仕方のねぇ事か。じゃあな」



死霊術師が杖を振り上げ、トドメを刺そうとしたので俺とシスターか咄嗟に飛び出して侍を庇う。



男「侍!おい!しっかりしろ!」


シスター「起きてよおっさん!こんなとこで死んだら許さないから!」



死霊術師「何だァ今更…退けよ」


男「」




台詞or行動安価
安価下


男「や、やめろ!もう良い──」
死霊術師「あ?なんだそれ」



死霊術師と俺は同じ所、俺の持つ攻略本へと目をやる。
本の隙間から主張するような光が漏れている。



男「な、なんだ…?」


死霊術師「……」



死霊術師は杖を降ろして背にしまうと、腕を組んで俺の様子を伺い始めた。
開いてもいいって事なのか。
光が放たれるページを開いてみると……



男「…購入者特典…シリアルコード…」



羅列された数字が光っている。
こんな物まで作っていたのか、凝ってるな。
じゃなくて!何の冗談だこれは。



死霊術師「おい、そりゃぁ何だ?」


男「いや…俺だって訳が…」






開いた事により起きた事安価
安価下


オオォォォォォン…


男「え…今度は何…」



遠く。いや、恐らく外から何かの雄叫びが聞こえた。
シリアルコードの光は既に消え失せ、元の攻略本へと戻っている。



死霊術師「……上か」



死霊術師は見上げると一気に後方へ飛ぶ。
その瞬間、玉座の…いや城の天井を突き破って巨大な黒龍が俺の前に降り立つ。


衝撃で城は揺れて瓦礫が所狭しと落ちてくるが、黒龍が俺達を覆うように羽を広げて落石から守ってくれている。


俺は呆気に取られ、何が起こっているのか分からず黒龍を見据えて呆然とする。
だが、俺が……いや、この攻略本がこいつを呼び寄せたのは間違いない。



男「味方…なのか…?」



俺の言葉に呼応したのか、顔を俺の高さにまで下ろして目の前に黒龍の鼻先が来る。


腰が抜けるくらいにビビるが、俺は怖気付きながらも差し出されたその鼻先に手を伸ばして、撫でてみる。


「オォォン…」


男「は、はは……味方…何だな…」



偏に言うならこれは、召喚獣か何かなのか。
刺々しい漆黒の巨体、鼻から生える一本角、爬虫類の様な大きな瞳、巨大を覆い尽くせる程の巨大な翼。


こんな恐ろしいやつを俺が呼び寄せたのか?
もしかして俺は実はビーストテイマーか何かだった…?
流石にこれは規格外過ぎるが…。



死霊術師「はははは!!おいおい!あんちゃんよぉ!お前一体何者なんだァ!?」



黒龍の反対側から死霊術師の声が聞こえる。
どうやら瓦礫の下敷きにはなっていないようだ。
ただの転生者だよと言いたい所だが俺は黙りを決め込む。



死霊術師「まぁいい!思わぬ収穫だ!今日の所は退いてやるよ!次会うときゃぁこのドラゴン!"貰って"くぜ!」



そして、ずっと感じていた死霊術師からの圧が次第と消えていき、俺達は本当に見逃して貰えたようだ。



男「た、助かった……はっ!侍!侍は!?」


シスター「ねぇ……勇者様……」


男「え?なに?」


シスター「前に…私の事、その本で見てくれたよね…覚えてる?」


男「え、あ、うん…それが…?」



そんな事より侍は、と聞きたいが彼女から発せられる声色と雰囲気から言葉が詰まる。



シスター「…嘘、ついた?」


男「え?」

https://i.imgur.com/AUuoOgK.jpg

こんな感じで



─────



俺は風の都の宿に戻り、ベットで横になって天井を見上げていた。

何故かあの後すぐに崩壊した玉座の間に、治癒魔法の使える者と医療班なる人らが侍と風騎士を保護して連れて行ってしまった。


関係の無い者が黒龍に最初は驚いていたが、俺が何を言うでも無く、王城の広大な庭に置かせてもらっている。


シスターが言うには治療も黒龍の事も、風姫様が手配してくれたそうだ。
あの場には居なかったが、見ていたのだろうか?


それに……シスターが言ったあの言葉。
あれが頭から離れず、今も俺の思考を支配していた。


そのままの意味で取れば、俺が読み上げたアレが嘘って事だよな。
でも嘘は言ってなかった筈なんだが…どういう意味なんだ。


シスターは頭冷やしてくると言って、どこかへ行ってしまって俺は今一人だ。
侍の傷が癒えるまでは風の都からは出られないし、シスターも居ないし、俺はどうすれば…。






自由安価
安価下

>>97
え、凄いww
安価下


まぁ……何にせよ、だ。あの黒龍の事を知っておくのは先決だろう。
俺は攻略本を開いて手が止まる。
そういえば、黒龍の名を俺は知らない。


この膨大な量から探すのは相当だぞ…。
一先ず目安として目次を開くと、案外すぐに目当ての項目が見つかる。



男「使役可能魔物一覧……」



ペラペラと捲り、そこに載っている魔物の数は実に数百。
あの黒龍は後ろの方に居た。


─────
●狂滅龍

使役ランク:
S+

種族:
ドラゴン

種別:
固有


概要:
本土外にある孤島に位置する闇の都の山岳地帯に眠っていた古代龍。

同胞を食い殺し、本土大戦時に自ら戦地へと赴いて両軍に致命となる深手を負わせる戦狂い。

巨大な口から放たれる紫炎は全てを滅し、敵味方問わずに焼き付くす。
本土を荒らし回った末、勇者一行により討伐された。


●使役説明
使役可能時間:
6時間

使役時間に関わらず解除した時点で使用者は72時間催眠状態となる。
使役紋章をスライドて使役開始、使役解除。
──────



男「……これは…ヤバいの手に入れたんじゃないか…?」



伝説級じゃね?割とマジで。
気になるのは72時間の睡眠と使役紋章だ。


6時間…狂滅龍を呼んでからどれくらい経ったんだっけ、もうすぐかな。
にしても3日か……長いな。


危機が迫ってる時や死霊術師みたいな…ああいう危険な相手には使って良いと思うけど、普段使いとしては勝手が悪い。


待てよ。どうせ寝てしまうなら今のうちに使役解除とやらをやってしまおう。
俺は起き上がり、使役紋章を探す。



男「んん…?どこだ…?」



手鏡を取りに行き、顔やらを見るが肌が見えている部分には無い。
次に服の袖を捲ると、左手の前腕の表側に刺青の様な紋章がある。
やだ、かっこいい。


早速スライドしようとした時、俺は思いとどまる。
そうだ、3日も寝込むなら書き置きしておかなきゃな。


またシスターに怒られてしまう。
俺は書き置きを残す為に、備品の紙とペンを取り出した。




─────



男「ん…」


シスター「あ、起きた?」



目を開けると、そこにはいつもと何ら変わらぬシスターがベットに腰掛けて俺を見下ろしていた。



侍「よっ!」


男「侍…?え、侍!?」



真横で椅子に座り、腹部を刺されて重体だったはずの侍が居て俺は飛び起きた。
ついでにベットに腰掛けていたシスターは変な声を出して転げ落ちる。


いくらなんでも動くには早すぎないか?
あ、でも3日経ったのか…いや3日だけじゃん!



男「き、傷は…?もう治ったの?大丈夫?」


侍「心配かけちまったよな。ほれ、この通り」



侍は着物をずらして刺されたであろう腹部を俺に見せてくる。
サラシの如く巻かれた包帯の下には傷口があるそうだが、数日激しい運動をしなければ完治するそうだ。
数日て……異世界の治癒魔法ってのは凄いな。



男「そ、そっか…良かったぁ…」


侍「あん時は悪かった、怒鳴っちまったよな。すまん」



両膝に手を置き、深々と頭を下げる侍。



男「いや、良いんだよ。アイツと何があったかなんて聞かないし、行為を責めたりはしないけど」


侍「悪ぃ…」


男「ただ…」


侍「…ただ?」



顔を上げる侍に、俺は拳を突き出す。



男「つ、次はぶっ飛ばせよ」



ちょっと照れくさく言う俺に、一瞬呆気に取られた侍はすぐに歯を見せて笑い、拳を俺に合わせてくれる。



侍「応!」



クサい事やったなと互いに笑い合い、いきなり起き上がるなとさっきからポカポカ俺を叩くシスターの手が止まった。



シスター「あ、そうだ勇者様。風姫様との謁見明日になったけど、大丈夫?」


男「うん、問題ないよ」


シスター「そ、良かった。じゃ、ご飯食べにいこー♪」



飯、という単語を聞いた途端に俺の腹の音が大きく鳴る。
そりゃそうだよな、3日食ってないんだしな。



侍「おーおー、すげぇ音だな」


男「意識したら腹が…早く、飯を……!」


シスター「あはは!じゃ、今日は枝木の上にあるお店ね!」



枝木って少し距離あるよね?腹減って死にそうなんだけど?と口には出さず、俺達は宿を後にした。



─────



翌日。
王城は再建中になっていて、今は入れないそうだ。原因は俺だけど。
風姫と会う場所は、大木の樹頭付近に手を加えた屋外テラスみたいな所。


景色が良く、中心にあるので都全てが見渡せる。
観光気分の俺達の元へ、眼鏡を掛けた女性が近付いて来ていて、俺と目が合う。


何となく会釈をすると、シスター達も気が付いたみたいだ。



シスター「あっ!風侍女さんだ!やだ、全然変わってないー!」



シスターは小走りで風侍女の前まで行き、俺と侍はシスターが可愛い系ならあの人は美人系だねとか小声で話ながら後に続く。



風侍女「ありがとうございます。シスターさんもお元気で何よりです」


シスター「あれから良い人は見つかったの?そろそろ4──じゅっ!?」



何かを言いかけたシスターの口を塞ぐのではなく、鷲掴む風侍女。



シスター「いひゃい!いひゃああい!」


風侍女「あら…ごめんなさい。悪い虫がいたので…フフ」



あ、笑顔が怖いや。
解放されたシスターは両頬を摩って唸る。



風侍女「失礼致しました。お初にお目にかかります。勇者様。侍様。この度はご迷惑をお掛け致しまして申し訳御座いません」


男「いや迷惑だなんてそんな!仕方のない事と言うか…ね!?」


侍「ん、ああ。流石にアレは災害みたいなモンだろ。それに怪我の手配もしてくれたしな、助かったぜ」


風侍女「寛大な心遣い…感謝致します。それでは、風姫様の元へご案内致します」



風侍女の後について行き、俺はいよいよ風姫とのご対面に少し緊張する。


そうだ、たしかシスターは顔見知りなんだよな。
何か聞いてみよう。




安価下


男「ねぇねぇ」



俺は前を歩くシスターに小声で話しかけると、シスターも同調してくれて小声で何?と返してくれる。



男「俺こうやって偉い人に会いに行くとか初めて何だけど…」


シスター「初めてだっけ。光の都で王様と会ってたよね?」


男「あれは不可抗力というか何と言うか……謁見とはまた違う…礼節は当たり前として注意事項とかない?」


シスター「注意…あ、あるかも」


男「教えて教えて」


シスター「あのね、風姫様はすーっっごい人見知りであまり表には出ないんだけど、風姫様が姿を見せたら絶対に驚いちゃだめだからね」


男「それはなんで…?」


シスター「風姫様はね、希少種族の"エルフ"なの」


男「へぇ、そうなんだ」


シスター「……あれ?それだけ?」


男「ん?ああ、エルフって良いよね」



シスターは俺のその様子を見て笑うが、そんなに驚く内容なのか。


耳長族のエルフなんぞ俺からしたら日常的にアニメや漫画で見てきたが、この世界じゃ希少種だから見たら驚く様な物なのかな。



シスター「あはは、その感じなら平気そうだね」


風侍女「到着致しました」



案内されたのは屋外テラスに設置された木造小屋。
言っちゃ悪いがこんな所にお姫様が居るのか。
まぁ俺のせいだけど。


風侍女は扉を開け、中に入るよう諭す。
室内も外見通りというか、質素な部屋だ。


目の前にある長テーブルの向かいには場違いな大きい背長椅子があり、俺達は手前の木の椅子に横並びに腰掛けて風姫を待つ。


風侍女は背長椅子の脇に立ち、しばらく無言の時間が続く。
場の空気に呑まれて俺は沈黙するが、侍とシスターは間にいる俺を介して野営時の飯の内容等を話していた。


風侍女「姫様。勇者様方がお見えになられてますよ」


風姫「う、うん…わかってる…けど…」



正面の背長椅子から可愛い声がする。
声はするが肝心の風姫の姿が見当たらない。



シスター「風姫様ー!久しぶり!大丈夫だよーこの人達は良い人だよー」


風姫「シスターちゃん!……あぅ…でも…」



背長椅子の下の方からチラリと金髪と尖った耳が見えた。あの位置に耳があるって事は背が低いのかな。
というか本当に人見知りなんだな。



風侍女「……はぁ」



風侍女はやれやれといった感じで首を振り、背長椅子の後ろに居るであろう風姫に手を伸ばす。



風姫「え、ちょっ!なに、や、やめ!」


風侍女「諦めなさい、これでは話が進みませんよ」



両脇を持ち上げられて出てきたのは金髪の小さい女の子。
その耳はしっかりと長く、先は尖っている。

予想通りというか、本当にエルフなんだなという感じだ。
風姫は風侍女により無理矢理椅子に座らされ、真っ赤を両手で隠してしまう。


侍「へぇ、こんな可愛らしいお嬢ちゃんが風姫様なのか」


風姫「か、かわ…!うぅ…はいぃ…」



男「は、初めまして…?風姫様、お逢い出来て光栄です。自分は男と言います」


風姫「か、風姫と申しますぅぅ!」



以前顔を隠したままの風姫に俺はシスターを見やると、あははとシスターは笑い、いつもこんなんだよと言う。



シスター「相変わらずだね。お姫様なんだからもう少し人慣れしなきゃだめだよ?」


風姫「シスターちゃぁん…わ、わかってるんだけど…でもぉ…」


風侍女「姫様」


風姫「ひゃい!」


風侍女「勇者様方も暇ではありませんので、早く精霊を呼び出してはいかがですか」


風姫「う、うん…そうだよね、うん」



顔を隠していた両手をついに下ろし、幼子の様な顔付きがハッキリとわかる。
胸の前に手で空間を空けて合わせると、その空間に風が収束し、塊が生まれる。


次に出来上がったその塊を潰すと、風姫の上辺りに妖精?の様な半透明の女の子が現れる。



風精霊「んにゃ…あれ、呼んだ?」


風姫「あ、寝てたの…ご、ごめんね」


風精霊「もうアレ使うの?……ってそうじゃ無さそうだね。へぇ……キミが次の勇者かな?」


風精霊は興味深そうに俺を見る。
関係ないが、空中で両足の裏を合わせて座る風精霊がスカートじゃないのは実に残念だ。



男「はい、まぁ…初めまして」


風精霊「あーあ。ついにこの時が来ちゃったかー、要件は契約者の更新でしょ?大丈夫?あたし居なくて平気?風姫ちゃん」


風姫「だ、大丈夫だよ!………たぶん」


風精霊「あはは!ま、あんたが居れば大丈夫か」


風侍女「……」



風精霊は流し目に風侍女を見ると、彼女は無言で頭を下げる。



風精霊「さてと、契約にあたっての説明だけど…あ、契約って知ってる?勇者くん」






1 知らないけどバッチリ(攻略本を叩いて主張)
2 知りません
3 自由安価

安価下



男「いえ、契約については何も…」


風精霊「そっかそっか。じゃあかるーく説明するね」


男「お願いします」


風精霊「まず契約ってのは2種類あるんだけど、ひとつはお姫様達と結んでる《魔力契約》」


風精霊「あたし達からするとね、魔力って一人一人"味"が違うんだ。その中でも膨大で質が良くて生成の早いお姫様としか結べないのが魔力契約」


風精霊「次に勇者と聖女が持つ適正があって初めて結べる《元素契約》」


風精霊「これが最高に美味しくてね!適正を持ってると四大元素を無限生成出来るから、あたし達の力も最大限に活用出来る。それが元素契約」


男「……」


風精霊「ん?難しい顔してるけど、何かわからない事があったかな?」


男「あ、いえ…」



俺は適正という言葉を聞いて、攻略本に書かれたシスターの概要欄を思い出す。
特に最後の記述……《適正のない勇者に代わり》……という部分だ。


攻略本の通りなら俺は風精霊の言う元素契約は俺は結べないが、聖女であるシスターなら結べるのだろう。


不自然な空白があったにしろ、それは文章から読み取れる内容だ。
ただ、代償とも書いてあったが風精霊はその事には触れていない。






1 代償について聞く
2 契約の内容はわかった、契約しよう
3 自由安価
安価下



俺は横目でシスターを見ると、たまたま目が合うが、すぐに目を逸らされた。
なんでだ。


まぁいい念の為…念の為だ。
一応聞いておこう。



男「1つ……良いですか」


風精霊「うんうん、何かな?」


男「契約による代償は…無いんですか」


風精霊「……へぇ?」



話している間は笑顔を絶やさなかった風精霊から笑顔が消えた。
訝しむ様な目で俺を見てくる。



風姫「…代償…?」


風精霊「何も知らないって言ってたのに……何で誰にも言った事の無い"その事"を知ってるのかな?勇者くん」


男「……それは」



これは…見抜かれているな。
攻略本の事は伏せてしまったが、代償というのは風姫の反応を見る限り、知られていないみたいだ。



風精霊「ま、良いよ。本当は契約者だけが知る事なんだけど、今回は特別。ご察しの通り、実はもう1つ契約があるんだ。これは物凄くレアで、滅多に見れる物じゃない。それはね、適正を持たない"器"だけ持っている者が結べる《依代契約》」


男「依代契約…ですか」


風精霊「契約の対価として主に五感と身体機能を失う。これは選べる物でも無いし、あたし達にも何が代償となるのかはわからない。これが依代契約」



やはりそういう系か。
定番っちゃ定番だけど。
でも、これから他の精霊とも結ぶとなると…。


風精霊「あはは!そんな深刻な顔をしないでよ。たしかに依代契約は対価が大きいけど、器が完成すれば元素契約になるから安心して」


男「そうなんですか?」


風精霊「うんうん。さて、説明は終わりだよ。ちゃちゃっと契約しちゃおうか」



風精霊は体勢を直すと、シスターの眼前へと近付いて手を差し出す。
俺はわかっていても、他の者はそうはいかない。
その風精霊の行動に皆驚いている。


その中でも特にシスターが一番驚いていた。



風姫「えっ……シスターちゃん…?」


風侍女「何を…」


侍「…どういう事だ?」


シスター「な、なんで…?だって私…」


風精霊「察しが悪いな~勇者くんの質問の意図からわかるでしょ?キミが"聖女"なんだよ。器は未完成だけどね」


男「……」


風精霊「ふふ、やっぱり勇者くんは知ってたんだね」


侍「お、おい…それってつまり依代契約ってやつじゃ…」


風精霊「うん、そうだよ」


風姫「シスターちゃんが…?ほんとに…?」


風侍女「…大丈夫なのですか?何が対価に選ばれるかわからないのですよ」


シスター「…大丈夫」


シスター「えへへ……私…やっぱり…聖女なんだ…ちゃんと……」



聖女と認められて、どこか嬉しそうにするシスターを見て俺は疑問に思った。
前に自分は聖女だって騒いていた筈なのに、何でそんなに喜ぶ?



風精霊「あくまで器、だからね。この契約じゃ四大が揃うまであたしの力は使えないし、繋ぎ止めておくってだけのイメージが妥当かな」


シスター「う、うん…!それでも良い!」


侍「待て待て、勇者じゃダメなのか?嬢ちゃんにそんな契約を負わせるのか?」


風精霊「ここまで来て察しが悪いとは…呆れるね。この勇者くんには適正も、器も、何も無いって事だよ」


侍「何?だがこいつは…」


風精霊「たしかに勇者としての"資格"は持ってるみたいだけど、契約者としての"資格"があるかどうかは別だよ。まぁ勇者が適正を持ってないなんて初めてだけど」

undefined


侍「む……そうなのか」


男「ごめんシスター。俺の代わりに契約──」
シスター「良いの!」


男「…?」


シスター「これが…私の"役割"だから大丈夫!謝らないで…ね?」


男「……うん。わかったよ」


シスター「良し!じゃあ、早速結ぼ!契約!」


風精霊「あはは、怖くないんだ?良いね、気に入ったよキミ……いや、シスター」


風精霊「これから宜しく、ちょっとビックリするけど我慢してね」


シスター「こちらこそ!」



差し出された風精霊の手を取るシスター。
すると風精霊はシスターを引き寄せ立ち上がらせ、口付けをする。



シスター「んんーっ!?」


男「なん…だと…!?」


侍「契約の仕方よ」



風姫はキャーと言いながら風侍女に目を塞がれている。
口付けを終えた風精霊は舌なめずりをして、小さく笑う。



風精霊「契約完了♪そしてご馳走様♪」


シスター「……」

シスターは完全に放心状態だ。
適正が無い事をここまで悔しいと思うとは…神託だかなんだか知らないがしっかりしろ!



風精霊「じゃ、しばらくはシスターの中に居るから。用があったら呼んでね~」



風精霊は俺達に手を振り、存在が消えていった。
待てよ、完了したならば代償は…?
俺はシスターの肩を揺らして正気を取り戻させる。



男「シスター?大丈夫?」


シスター「…はっ!キス!わ、私のふぁーすときすは…!?」


侍「安心しろよ、バッチリ奪われてたぞ」


シスター「安心できるかーっ!」


風姫「だ、大丈夫シスターちゃん!精霊だから不成立だよっ!」


シスター「風姫様!だよね!そうだよね!」


男「それよりどこか異常はない?」


シスター「それよりって何!?代償とファーストキスどっちが大事だと思ってんの!!」


男「えぇー!代償じゃない!?てかキスはノーカンなんでしょ!?」


シスター「うるさぁぁーい!」





風侍女「やれやれ…ですね」



─────



同日、夜。
契約を更新した俺達は翌日にはこの都を発つ。
風の都の最後の飯は宿屋のルームサービスで済ませる事にした。
俺達は飯を食いながら、明日の事を話す。



侍「んで、次は何処に行くよ?」

シスター「次は火の都かなー」


男「えーと…そこは何日くらい…?」


シスター「同じくらいだよ」


男「はーー…また5日ですか…」


侍「まぁ良いじゃねぇか。それとも馬車でも借りてくかぁ?」


男「俺は是非そうしたいんだけど…」



俺はチラリとシスターを見る。



シスター「だーめ。勇者様の頼みでも馬車は借りません。だって馬車借りるのって高いんだからね!」


男「この通りよ」


侍「ははは!こりゃぁ諦めるしかねぇわな」


男「火の都…ねぇ。どんな所なんだろ」


侍「どんな所と言われりゃぁ…とにかく暑い」


シスター「私風の都以外行った事無いんだよねー暑いのは知ってるけど。おっさんは行った事あるんだ?」


侍「おっさ──…まぁいい。俺は冒険者だからな、各地はそれなりに回ってるぜ」


シスター「あ、そうだったね。何か名産物とかあるの?」


侍「あるある。火の都と言えば"冷やし麺"は食っとかなきゃな。中毒性でもあんのか、あれはハマるな、うん」


男「冷やし中華とはまた違うのかな」


侍「ちゅうか?なんだそれ」


男「ああ、俺の居たトコにはあったんだよね。冷えた麺に酸味のあるスープと好きな具材を乗せて食べるんだ」


侍「おーそれだよそれ、火の都の冷やし麺まんまだぜ」


男「あ、そうなの?それはちょっと楽しみかも。好きだったし」


シスター「二人だけ知ってるのずるい!私も食べたい!」


男「じゃあ馬車借り───」
シスター「それはダメ」


男「…はい」


侍「ははは。あと暑さ対策はしておけ、あの地域は本当に暑いからな。明日出立の前に涼しい服を買っても良いかもしれんぞ」


男「良いね、いい加減このシャツにジーパンも飽き飽きしてたし」


シスター「そういう事なら…まぁ。勇者様の所じゃ、そういう服装が普通なの?」


男「まぁ割と…普通だと思う」


シスター「へぇ~」


男「変?…かな」


シスター「いやいや!似合ってるよ!珍しいなーって」


侍「確かにな。同じ材料はあっても、こういう風には作ってないさ」


男「やっぱ目立つか。やっぱり明日は服を買おう。この世界らしいやつを」


侍「風の都は薄くて風通しの良いやつが多いからな、丁度良い」


シスター「私は別にこのままでも涼しいけど…どうせなら買っちゃおうかな…良いかな?」


侍「良いんじゃねぇか?女は粧してなんぼだ」


男「」



俺も何か言ってあげよう。
台詞安価

安価下2

見切り発車で始めたこれ、思い付いたのポンポン書いちゃうから
設定の矛盾とか生まれたりしそう
安価いつも感謝

ん?ってなったので一応
職業=名前
にしちゃってるので、修道服を脱いでもシスター呼びで!
再安価下

本気でシスターから呼び名を変えて欲しくて言ったんじゃなくて、単なる話題ふりのつもりだったんだけど、紛らわしかったならごめんね。

>>136
確かにそういう風に話題振れた!
字面のまま受け取りすぎて申し訳ない!次は気を付けます!


男「修道服から着替えるなら、呼び方も変えた方が良いかな?」


シスター「え?なんで?」


男「だって修道服脱いだらシスターじゃ無くなるじゃん」


シスター「これ脱いだって私がシスターである事には変わらないけどー!」


男「そうだよね。会った時からシスターとしての振る舞いが出来てないから服替えても変わんないか、ははは」


シスター「ちょっとぉ!どーゆー意味なのそれー!」


男「冗談冗談。お詫びに似合いそうな服を探すの手伝うよ」



勇者様意地悪かー!という声を聞きながら俺は攻略本を取り出して、装備一覧を開く。
そこには写真付きの装備だけではなく、一般服は都事にまとめられている。



男「おー…いっぱいある」


シスター「そんなのも載ってるの?それ」


男「わりかし何でも。物なら本当になんでもあるんじゃないかな」


侍「すげぇよなぁそれ。直接目で見なくても良いなんて便利過ぎだ」



最初はなんだこれと思ってた攻略本も、何だかんだで有用性は高い。



シスター「でも私には見えないしなー…」


男「んだよね。シスターは……」



シスターの見た目は黄髪の背中くらいまであるロングヘアに碧眼。
頭巾?は着用していなくて、修道服は髪色と良く合っている。
身体の凹凸も無い訳じゃないが…まぁ普通だな。



シスター「ちょっと、今変な事考えなかった?」


男「まさか、気のせい気のせい」


服のセンスなんて皆無だし、完全に俺の好みになりそうだな。
それに攻略本を見る限り風の都は緑基調が多い。


緑の服に黄髪も似合わない訳では無さそうだが。
涼しい服のとなると腕は出てた方が良いよな…下はスカートにするか…?


俺はしばらく本とにらめっこをし、天啓が降りた。



男「……んー、これにするか」


シスター「え?決まったの?」


男「決まった。明日を楽しみにしてて、多分似合うから」


侍「こりゃ楽しみだな。勇者様直々のお仕立てだぜ?」


シスター「う、嬉しいけど…ちょっと不安…」


男「ははは…自信は無いけど」



─────



翌日。
俺達は旅立ちの前に服飾屋に訪れ、新しい服を新調していた。


俺は昨日見た服が売っているのを確認し、集めてシスターへと手渡して試着待ちをする。



侍「で?一体どんな服にしたんだ?」


男「まぁ見てのお楽しみだよ」



そうこう言ってる間にシスターの試着が終わり、試着室のカーテンが開かれる。






シスターの服装
安価下


開かれたカーテンの先には、蒼く煌めくドレスを着たシスターが恥ずかしそうに立っていた。


様々な形の氷の結晶が散りばめられ、ウェディングドレスに近い形状をし、大きな薄青の肩ベールにより上品さが一段と増し、束ねた髪を後ろでまとめていて普段のシスターからは感じる事の無い艶やかさを醸し出す。



シスター「ど、どう…かな…」



ベールを絡めてくるりと回って魅せるシスターの動きはぎこちなく、思わず顔が綻んでしまう。



男「うん、似合ってるよ」


シスター「…!あ、ありがと!」


侍「でもよ勇者……こんなの何処で見つけてきたんだ。風の都にこんなモン売ってたか?」


男「まぁ…俺にはコレがあるからね」



攻略本を軽く叩き、侍は顎をさすって苦笑いする。



侍「ほんとに何でも知ってんなぁ…それ」


シスター「で、でもこれって…凄く高いんじゃない…?」


男「まぁ、うん…」


侍「どう見ても逸品だしな」



半年衣食住に困らない軍資金の半分の値段はするこの《氷結晶のドレス》
このドレスのスキル効果を見るに火の都で役に立ちそうだが、値は張る。



シスター「高いならだめだよ……もっと安いのにしよ」



歯切れが悪い、欲しいのかな。
買ったとしても1~2ヶ月分くらいの金は余るが、近いうちに日銭稼ぎも始めなきゃならなくなる。



侍「買うのか?」





安価下


男「買おうか」


シスター「えっ!?い、いいの?……じゃなくて!ダメだよ、高いし…」



財布を握るのはシスターだというのに、迷いが見え見えだ。
もう一押しだな。



男「でも、欲しくない?」


侍「買っとけ買っとけ。折角勇者が嬢ちゃんの為に見繕ってくれたんだ」


シスター「欲しい……けど、この先の事考えると…」


男「なーに、この本があれば金稼ぎなんて楽勝だよ」



知らんけど。
あるでしょ、効率的な資金稼ぎ方法…みたいなの。



侍「そうそう。その辺の事は勇者がやってくれるさ」


シスター「そんな事まで……凄いね。じゃあ……か、買っちゃおうかな…?」


男「うん、良いよ」


侍「決まりだな」



まだ渋りそうなシスターにそう言うと、不安そうだったシスターの口元が緩み、本当に嬉しそうに口角が上がっていく。


痛い出費だが、ここまでシスターが喜んでくれたのなら安い買い物だ。
シスターはお会計済ませるねと、カーテンを閉めてドレスを脱ぎ始める。



侍「さて、次は勇者だが……自分の分は決まってんのか?」


男「目立たない服で薄着なら何でもいいかな。稼げるとはいえ、流石に高額なのは怖いな」


侍「そういやその稼ぎ方ってのはどんな方法なんだ?」


男「えーっと…ちょっと待って」



俺は攻略本を取りだし、そんな方法が載っているかを探す。
だが……あるんだよなぁ~!流石攻略本だよ。



男「あったあった。えーとね───」







資金稼ぎ方法(勝手に設定作ってもOK)
安価下


男「侍は知ってる?ゴールデンと名がつく魔物の事」


侍「ゴールデン…まさか、あの滅多に遭遇出来ないって言われてる魔物の事か?」


男「そうそれ。そのゴールデンから換金素材を売りまくるって方法」


侍「……いや、それが出来るなら──」
男「召喚魔法がある」


侍「…何?召喚魔法?」


男「そう。ゴールデンを無限に召喚出来る魔法がこの世には存在する」


侍「まさか…!勇者……!」


男「くく…御察しの通りだよ…!」


侍「使えるのか!?」


男「……え!?使えないけど!」


侍「何!?…んん!?今の流れは…そうだろ!」


男「違う、"覚える"んだ。俺は仮にも勇者だし、可能性はある!」



何を隠そう俺には《神託》というシステムが付いていると、スタッフインタビューに書いてあった。
つまり俺の解釈が正しければスキルを授けるのも神託というシステムの筈だ。



侍「覚えるって……ぶははは!大した奴だなおめぇさんは!楽観的にも程があるぜ!」


シスター「どうしたのー?大笑いなんかして」



お会計を済ませたシスターが大きな包み袋を持って帰ってきた。



侍「応!聞いてくれ嬢ちゃん!」


男「くくく…聞いて驚くなよ…」


シスター「うん?」



先程見つけた資金稼ぎ方法をシスターに説明した。最初のうちは凄い!とか言っていたのに、最後の方はへぇーしか言わなくなり、ゴミを見るような目はしばらく忘れられそうにない。




─────



3日後。
昼食を終えて数時間、遠くには砂地が見え始めた。



侍「火の都の領地にもうすぐ入る。あの辺から同じ陽の光でも体感温度が変化するから着替えておけよ」


男「あれか、火の都は砂漠に囲まれてるのか?」


侍「囲まれてるのは確かだが、都付近はそうでもない。途中からは混凝土で出来た道になる。砂や砂利には困らない所だしな」


シスター「へぇ~おっさん詳しい」


侍「見聞を広めるのも冒険者の一環だからな……って誰がおっさんだ!」


シスター「あははは!もう慣れてよ~」


男「飽きないね、そのやり取り。ちょっと早いけど着替えようか。今日中にはあそこで野宿するんだろうし」


シスター「うん。でもここじゃアレだよね……」


侍「なんでだ?ここで着替えれば良いだろう?」


シスター「は?何言ってんの!こんな道のど真ん中で着替えれる訳ないでしょーが!」


侍「そうかぁ?誰も見てねぇだろ」



ははは、何を言ってるんだこいつは。
良いぞ、もっと言え。
俺は無言のエールを侍に送る。


シスター「見るじゃん!二人とも!」


侍「別に見ないが。嬢ちゃんの着替えに興味ないしな。だろ?」



俺に振るか!?
興味あるに決まってんだろ!



男「まぁ…うん…」


シスター「ぐぬぬ…!それはそれでムカつく…!とにかく!ちょっと先に大きいな茂みあるから!そこで着替えるから!」


侍「何怒ってんだよ?着替えひとつでそんなに怒る事ねぇのになぁ…おめぇさんもそう思うだろ?」


シスター「馬鹿!バーカ!」


男「は、ははは…」



いちいち俺に同意を求めるんじゃねぇーー!!
しばらく進んだ俺達は、大きな茂みの中で服を着替え始める。


シスターはやっぱり服が汚れるからと、近くの木の裏で着替える事になり、俺も男同士とはいえ生着替えを見られるのは何かなと思い、茂みで着替える。


俺が購入したのは、黒いインナーシャツと紺色の半袖パーカーに、紺色の膝下まであるハーフパンツ。


らしき物だ。
正確には違うだろうが、近い形をしている。


生地は分からないが風通しが良く、これなら暑い所でも大丈夫そう。
風の都特有の刺繍や柄のおかげで、この世界に馴染んだ服装になっているはずだ。


俺はジーパンに手を掛けて脱ぎ、ふと近くの背の高い草むらの奥が変に空間を作っているのに気付く。


なんか変だな。
俺はハーフパンツを履くと、その空間へと近付いていく。



男「え」



そこには───




倒れていた者安価
【種族】
【職業】
【性別】
【強さ】


安価下

攻略本に運命を決められてるみたいでちょっと怖いな


長い銀髪の女の子がうつ伏せに倒れていた。



男「……マジ?」



落ち着け俺。
まずこういう時はどうするんだ?とりあえず意識の確認?
とりあえず女の子の背に手を置き、揺らしてみる。



男「あ、あのー…生きてますかー…」


「んに…」



女の子は寝返りをうち、その全貌が露になる。
とりあえずは生きてるな、良かった。
それが分かると少し落ち着いて、寝息を立てる女の子を観察する。


近くに大きめのリュックと、魔法陣の描かれた本。
頭に黒いリボンを結び、膝裏まであるマント。
股下まである黒色のチュニックにサイハイブーツによって見事な絶対領域が完成している。
スカートや短パンは履いてない…だと…。


そして服の上からでもわかる。シスターよりも…でかい。


年齢はどのくらいだろうか。雰囲気は年上なんだがな、身長は俺とシスターの間くらいだけど。
俺はその場に座り込んで女の子…いや、お姉さんの事を考えていると、ふと悪魔の囁きが聞こえてきた。



この服丈が短いよ~誰も見てないよ~
覗けるよ~見ていいよ~



……ふむ。
って馬鹿か!俺はそんな変態じゃない!
俺は煩悩退散とばかりに顔を振り、とりあえずもう一度起こそうと手を伸ばす。


その直後、背後からガサガサと茂みを掻き分ける音がした。



侍「何やってんだぁ?遅いから見に来た…が…」


男「あ、侍」



俺は身を乗り出して、お姉さんに手を伸ばしている状態なんだが、それを見た侍は大きな溜め息を吐く。



侍「…おめぇさん……いくら嬢ちゃんが好みじゃないからって…」



侍は目頭を抑え、首を振る。



男「…は?」



そのまま近寄って来た侍は俺の肩に手を置き、再び首を振る。
なんだその仕方ないよ…みたいな爽やかな顔は。



侍「俺は何も見なかった…だから手遅れになる前に戻…逃げようぜ」


男「は!?待て待て!違うから!」


「んにゃ……うるさ…ぃ…」


侍「おい起きたぞ!逃げた方が良いんじゃねぇか!?」


男「何でそっちの方向に持ってくの!?何もしてないし見つけただけだコラ!」



俺はふざける侍にヘッドロックをキメていると、いつの間にかお姉さんは上半身を起こしていて、辺りを見回した後に疑問符が見えるくらいに首を傾げて悩む仕草を取る。



「あれ、れ?」


男「あ!起きたみたいだね!」


侍「いででで!」


「ふぁぁ……あなたたち、だれ?」


侍「なに、怪しい者じゃない。俺ぁこいつが淫行に走るのを止めた──」
男「その口を閉じろォ!」


侍「冗談だってぇ!」


「いんこー?」


男「え?そんな事言ったかな?HAHAHA!それよりこんな所で一人で居たけど、大丈夫?」


「大丈夫、というのは、何が、かしら?」


男「えっ」



お姉さんの発言に呆気に取られ、技をキメていた侍は抜け出し、俺の襟首をグイっと引っ張る。
俺達はお姉さんに背を向け、座り込んでコソコソと話し始めた。



侍「おい、何かこいつ変じゃねぇか?」


男「いや…こんな所で倒れてたくらいだし、ちょっと混乱してるだけじゃない…?」


侍「にしてもだろ。喋り方もなんつーか……な?」



確かに吃音症みたいな喋り方だと一瞬思ったけど、何と言うか…雰囲気は柔らかく、眠そうな声色が不思議ちゃんオーラを醸し出す。


とにかく、元々そういう喋り方みたいな感じがする。
俺に言わせるなら、おっとり系のお姉さんだ。



「…無視、しないで、ほしいわね」



後ろから…いやほぼ真後ろから俺と侍の顔の間にお姉さんが割り込んでくる。
当然、身体は俺達にくっ付く訳で。


男「あひぁ!?」

シスターちゃん描いてもいいの?


平静を装いたい。おっぱい。
この二つの感情が意識の支配権を争って殴り合ってらぁ!



侍「ああ、悪ぃな。無視してた訳じゃねぇんだ」



何で侍は平然としてるの?ホモなの?
実は女慣れしてる?童貞じゃない?
…俺、許せねぇよ!



男「この…裏切り者め」


侍「…?どうした、急に」


「それより、お腹が、空いたわ」



お姉さんは俺達から離れると、フラフラと自分の手荷物であるリュックを漁り始めるが、すぐにその手は止まった。



「あら、ら?」


男「…もしかして、ご飯ないの?」


「…そうね。そうとも、言うわね」


侍「なんだそりゃ…あぁ、そうだ」


何かを思い付いたのか、侍は着物の胸の中をまさぐる。
その中から出て来たのは揚げたイカゲソが包まれた透明な小袋。


侍「これならあるぞ、ミニクラーケンの足揚げ。食うか?」


「…あなた、へんなもの、持ってるのね」



フラフラとした足取りで、侍から小袋を受け取るお姉さん。



「でも、いただくわ、ね。ありがとう」


男「侍さぁ…何でそんな物をそんな所に忍ばせてんの?」


侍「そんな物とは酷ぇな、この足揚げ結構イケるぞ」


男「いや、そういう事じゃないんだよなぁ…」


侍「なんだなんだ、変な奴だな」



お前が言うか、と思うだけで口には出さない。
それよりこのお姉さんの事だ。このまま置いていく訳にも行かないし。



男「お姉さん。俺達これから火の都に行くんだけど、良かったら一緒に行かない?侍も良いよね?」



もぐもぐと口を動かすお姉さんは、口からゲソがはみ出したまま頭を傾げる。



侍「まぁ…放っておく訳にもいかんしな」



顎をさすりながら、若干渋りながらも同意してくれる侍。
たしかに素性の知れない人物を同行させるのは気が進まないか。


ゲソを食べ終わったお姉さんは空を見上げ、ぼけーっとしていると、ゆっくり俺達に目を向ける。



「…そうね、おねがい、しようかしら」




>>160
良い!!


謎のお姉さんの了承を得た俺達は、支度をして茂みの中からシスターが待つ道へと戻る。
お姉さんは何故か魔法陣の描かれた本だけ持ち、リュックは置いてきてしまっていた。


理由を尋ねた所、もういらない、だそうだ。
茂みを抜けると椅子を出して待ちぼうけしてるシスターを見つける。


やはりドレスを着ていると別人にしか見えないな。言動はそのままだけど。



シスター「遅かったじゃ──ん……?その人は?」


男「茂みの中で倒れてたんだ。火の都まで同行させても良い?」


シスター「あんな所に?それに同行って…」



シスターは良いの?と無言で侍と俺を交互に見る。その辺の了承は得ているからと、無言で頷き返す。



「迷惑、かしら…?」


シスター「んーん。二人が良いなら私は別に。そうだ、名前は何て言うの?」


召喚士「…召喚士、よ。魔物を、召喚したり、出来るわね」


侍「へぇ、お前召喚士だったのか。その本は召喚書だな?」


召喚士「ええ。そう、なるわね」


男「召喚士かぁ……ん?待てよ?」


シスター「どうしたの?」


男「召喚士はもしかして何だけど、ゴールデンの名がつく魔物を召喚出来たりは…?」



俺の発言に侍とシスターがハッ!と顔を見合わせ、一斉に召喚士に視線が集まる。



召喚士「ゴール、デン?…さて、どうだった、かしらね」





1 使える
2 使えない
3 自由安価
安価下

ドラクエじゃないが俺が昔やってたゲームには金のうさぎがいたなぁ

あと思ったがこれ攻略本だからゲームにとって都合の悪いバグ技とか廃人が導き出したデタラメなえげつない戦法とか載ってるはずがないよね
あくまで「攻略」本だから >>154 が言ってる通り、本作った奴らの手玉に取られてる感がある……

ドラクエじゃないが俺が昔やってたゲームには金のうさぎがいたなぁ

あと思ったがこれ攻略本だからゲームにとって都合の悪いバグ技とか廃人が導き出したデタラメなえげつない戦法とか載ってるはずがないよね
あくまで「攻略」本だから >>154 が言ってる通り、本作った奴らの手玉に取られてる感がある……

なんかレスが二重なってたスマソ


召喚士「これ、かしら」



召喚士は召喚書を開いて、小声で何かを呟くと手を開いて前に出す。
その指先からは光の雫が垂れ、地面へと落ちると一筆書きの様に大きな魔法陣を描いていく。



男「…かっけぇ」



素直な感想が漏れてしまった。こういった魔法陣を使った物を見るのは初めてだったからか、少し興奮してしまう。



魔方陣が完成し、細い光柱を発しながらその中心に光の粒が集まりナニかを形成していく。



侍「こいつは…」



中から現れたのは牛頭人身の魔物。
筋骨隆々の体躯を駆ける金色の剛毛。
大きな二本の角は前を向いていて、手には巨大な戦斧を持つ。



男「うわぁ…ミノタウロスかな?」


侍「ほう、良く知ってるな。俺も聞いた事はあるが、本物は初めてだぜ」


シスター「大きいね…コレ。大丈夫なの?」


召喚士「大丈夫、よ。わたしが……召喚した、魔物だから……ね。安心…してね」



暴れ回らないとわかると一安心し、そっと胸を撫で下ろす俺に、何故か召喚士は距離を詰めて来る。



召喚士「…それで……この子を……どう、するの…かしら…」


男「ちょちょちょ近い近い」


召喚士「…殺すの…かしら?」


男「!…それは…」



…そうだよな。召喚士が召喚した魔物に対して、殺していい?と聞いて、良い返事が貰える訳が無い。


召喚士は俺の返答を待っているのか、静かに俺を見つめる。
何か言わなきゃ───。



安価下


男「その子からアイテムだけ貰ったりは出来る?……かな」


召喚士「あいてむ…?」


男「召喚出来るか聞いたのには理由があってさ…その子から貰える素材は高値で取引されてるんだ。だからその…ちょっとでいいから、素材が欲しいなって……」


召喚士「……ふん……ふん…」



ふむふむ。と言っているつもりなのだろう。
召喚士はフラフラと金のミノタウロスの元へ行くと、その厚い胸板を触り、視線だけ俺に向けてくる。



召喚士「この子…の、何が……欲しい、の……かしら」


男「…やっぱりーーー…」



そういえば売れる素材の内訳は知らない。
俺は語尾を延ばしながら侍に助け舟を求めた。



侍「角、剛毛、戦斧。その辺だろうな、売れるのは」


召喚士「ふん……ふん…」



ミノタウロスに手を置いたまま、空いた手で召喚書を開くと小さくまた呟く。
一瞬召喚書が光ると召喚士はミノタウロスから離れて、パタンと召喚書を閉じる。



「ウォオオォォォ!!」


男「うわ!?」
シスター「わっ!?」
侍「ッ!」



ミノタウロスの耳を劈く雄叫びと共に大きく戦斧を振り上げる。


俺は身体が硬直し、振り下ろされる戦斧を見ることしかできない。
が、その振り下ろされる戦斧はミノタウロス自身の首を切り落とし、牛頭だけを綺麗に切り飛ばした。



男「なっ!」


シスター「ちょ、何?見えないよおっさん」



侍はいち早く気付いていたのか、シスターの元へ行き、振り下ろされる前に目を覆ってあげていたみたいだ。



侍「なぁに、お子ちゃまにはまだ刺激が強くて見せらんねぇだけだ…っておい、暴れんな」


シスター「何でー!」


男「召喚士……何で…?」


召喚士「何で…と、言われる……理由が、わからない…わね」



俺の問い掛けに召喚士は不思議そうに首を傾げる。



召喚士「欲しい、と……言ったのは…貴方よ」


男「…いやまぁ、それはそうなんだけど…まさか、こんな事するとは思わなくて…」



ミノタウロスの胴体は硝子の様に割れ、破片は光の粒となって宙へと消えていく。
その場に残ったのはドロップアイテムと思われる戦斧と金色の角だ。



シスター「あれっ?牛男は?」



シスターも侍から解放されたみたいだ。
俺は角を拾い上げて、シスターに見せる。



男「召喚士が何とかしてくれたんだ、これが換金素材になるみたい」


シスター「へぇ…何があったか分からなかったけど、ありがとね!召喚士!」


召喚士「大した、事じゃ、ないわ」


侍「よっ…と。結構重いな、これ」



侍はいつの間にか戦斧を拾い上げ、重いと言う割には軽々と持ち上げる。



男「ありがとう召喚士、助かったよ」


召喚士「いいの、よ……それより…見た、所……貴方達…徒歩で、向かうの…かしら?」


男「うん、そのつもりだけど」


召喚士「そう……それは…少し、面倒だわ……」



召喚士は先程と同じく召喚書を開いて、魔法陣から何かを召喚し始めた。
魔法陣完成後、そこに現れたのは茶色の狼が4匹。



男「狼?」


召喚士「…乗って、行きましょう」


侍「ほう、サンドウルフか。そうか、そういう使い方もあるよな」


シスター「え、ホントに!?すっっごい助かるー!ありがと~!」



シスターは喜びからか、召喚士に抱きついてぐらぐらと揺らす。



召喚士「喜んで……くれたのなら…良かった…わ」



シスターを引き剥がそうとする召喚士のお言葉に甘え、俺達は狼へと乗って火の都を目指した。



─────



同日、夜。



侍「ここまでにするか。どうよ、多少は筋肉もついてきただろ。少なくとも以前のおめぇさんよりかは強くなってるはずだ」


男「ひぃ……ひぃ…」



狼に乗った俺達は思ったよりも進む事ができ、混繰土の道へと入ることが出来た。
今日はここで野宿をする事になり、俺は日課の侍との筋トレ、シスターと召喚士は食事作りをしている。



侍「当初よりも大分回数も増えた。良い調子だ」


男「はぁ…疲れた~…」


侍「そうだ、今度からはおめぇさんに"防御"を教えてやる」


男「…防御?」


侍「そう。防御ってわかるか?」


男「…攻撃を防ぐ事じゃないの?」


侍「正解。ただ、それだけじゃない」


男「…?」


侍「防御ってのは3つあってな。下がる、防ぐ、避ける。いずれも立派な防御だ」


男「…なるほど。でも、下がると避けるって似てない?」


侍「これがそうでもない。試しに俺に打ってみろよ」


男「え、殴れってこと?」


侍「そういう事」


男「…わかった」



俺は拳を握り締め、精一杯の力で打ち込む。
それに対し侍は一歩下がるだけで俺の拳は届かなくなってしまった。



侍「もっと打ってこい」


男「む…」



我武者羅に拳を繰り出すが、的確に下がる侍に一発たりとも届かない。



侍「単純だが、間合いから外れ、仮に当たったとしても威力は相当殺せる。間合いの見極めには練習が必要だが、これが一番簡単な防御だな」


男「な、なるほど…ね…」



普通に疲れたわ。こうも当たらないもんなのか。



侍「次は"避ける"だ。打ってこい」


男「…このっ!」



打ち込んだ拳は文字通り"避け"られた。
その瞬間顎に固いものが当たる。



侍「これが"避ける"」


男「……」



侍に顎を軽く小突かれていたのだ。
俺は生唾を飲み込む。一瞬過ぎて何が起きたか分からなかった。


侍「避けるってのは反撃を目的とした防御だ。だが避けるってのは実際難しい、失敗した時は間違い無く痛手を負う」


男「…なるほどね」


侍「とまぁ…おめぇさんにはこれを教えていく。毎日筋トレばっかじゃ飽きるだろ?てか俺が飽きた」


男「ははは、なんだそれ」


侍「約束だからな。強くなりたいって言うおめぇさんとの、な」


男「…そうだね。ありがとう」


シスター「ほらー!ご飯出来たよー!」



遠くからシスターのいつもの声が聞こえてきた。いつもタイミングを見計らってるのか、本当に丁度良い時に声を掛けてくれる。



侍「おし、飯だ飯!行こうぜ」


男「うん」



─────




深夜。


侍の言う通りこの地域に入ってからは体感音が上がり、涼しい格好をしていても普通に暑い。
夜は多少マシだがじめっとした暑さは変わらない。


そのせいなのか目が覚めてしまい、寝汗もびっしょりだ。
新しく購入したテントの中には侍と俺、もうひとつにシスターと召喚士という配置。


隣で普通に寝ている侍を多少羨ましく思い、散歩でもするかと外へ出る。
テントから出ると、消したはずの照明具が点灯していて、その側には召喚士が居た。


魔道具である加熱式ポットという名のティファール的な物に入ってる冷茶を飲みながら、いつもの眠たそうな目で暗闇を静かに見据えている。



男「眠れないの?」


召喚士「あら……早い、お目覚め…ね」


男「はは、あんまり寝れてないんだけどね。俺も飲んで良い?」


召喚士「…?私に…断りを、入れなくても…飲めば……良いと、思うわ」


男「そっ…か。そうだね、わかった」



特に何の考えも無しに発言し、何がそうだね、なのか。
俺は冷茶を淹れて、召喚士から3人分くらい離れた所に座る。


特に会話も無く沈黙が続き、召喚士はなんて事無さそうだが、俺が気まずい。
何か話題を振ろう。




安価下


男「あのさ、召喚士…君はさ、何処から来たの?」


召喚士「…何故……そんな事…聞くの、かしら」


男「いやほら、あんな所で寝てたし…何となく気になって」


召喚士「そう…」



召喚士は呟くと、空を見上げた。
そこには月が一つ、闇空に浮かんでいる。



召喚士「私は、あそこ……から、来たのよ」


男「え…あそこって…」



召喚士の見据える先は月でもなく、ただの暗闇。
……大陸の中心部?



男「暗くてわからないな。何があったっけ」


召喚士「…さぁ……なんだった…かしらね」



カップを置き、召喚士は立ち上がるとテントへと身体向ける。



召喚士「そろそろ…寝るわね……おやすみ、なさい」


男「えっ…あ、うん。おやすみ」



質問をはぐらかされた。答えづらいのか?
テントへ戻る召喚士の姿が見えなくなると、俺は先程召喚士が見ていた方角を見る。


都の所在地は等間隔で円を画く様に点在していて、中心部には何かあったんだけど忘れてしまった。


俺もカップを置いて再び就寝する事にした。



─────



翌日。


サンドウルフのおかげで早く火の都に到着した。正門を潜ると、此処は砂漠に囲まれた都とは思えない程に都会な作り。



高層ビルみたいなのが何個もあり、まさにコンクリートジャングルと言っても過言ではない。


青基調な建物が多く、何より極めつけはタイルによる建物の装飾だ。
もうなんて言うか…綺麗、いや美しい。


中心部に大きな円形の広場があり、中央にある巨大な噴水、設置されたベンチに人、至るとこには露店が並ぶ。



シスター「すっごーーい!きれーい!見た事ない建物ばっかりぃー!」



目を輝かせ、田舎者の如くキョロキョロと見回すシスター。
いくら着飾っても見た目と中身のギャップが激しすぎるな、全然良いけど。



侍「そうだろう。この絢爛な街並みは他の都じゃ見れないからな。ま、俺は水の都が一番好きだが」


男「へぇ、水の都…そっちも気になるね。でも、それにしたって…あっつい」


シスター「そうなの?私にこのドレスのおかげなのかな、全然暑くないよ」


男「そのドレスは特別だからね、暑さを感じないんだよ」


シスター「へぇ~!流石良い物だけあるね!」


侍「大事にしろよ。それに最初は暑くて大変だろうが、ここは室内に冷気を送る魔道具が多く設置されてるからな、早いとこ宿とって飯だ飯」



冷気を送る魔道具…まさか冷房があるのか!
それは助かるな。いくら薄着をしてもこの暑さの中、外に居るのはキツイ。



召喚士「…私は…」


侍「ん?どうした」


召喚士「目的地に……着いた、けれど…私は…まだ、一緒に……居て、良いの…かしら?」


男「あ、そうか。火の都までの同行だったよね」




男「」


台詞安価
安価下


男「俺は大丈夫だけど、シスターと侍はどうかな?」


侍「ああ、別に構わねぇよ」


シスター「私も!ていうか一緒にまわろ!召喚士ー!」


召喚士「そう……良い、のね」



全員の承諾を得て、しばらくは召喚士と行動を共にする事にした。
流石に本来の目的に巻き込むのもアレだし、その間は観光していてもらおう。
そういった事には事欠かなさそうな都だしな。


俺達は宿でチェックインを済ませ、先ずは皆でご飯を食べる事になった。
勿論、食べる物と言ったら……



シスター「冷やし麺!」


男「異議無し!」


召喚士「ひやし……めん?」


侍「説明は要らねぇ、食えば分かる」


召喚士「そう……楽しみ、だわ」


今日まで召喚士の事を見てきたが、彼女どんな時も声色一つ変わらない。
まだまだ謎が多いが、これを機に少し仲を深められたら良いな。


シスターに腕を引かれる召喚士の背をみながら、その様を見て俺は笑いながら続く。



─────



翌日。

とりあえず火姫の謁見を取り次いでもらおうと単身で王宮に向かう。
シスターの顔が効くのは風の都だけなので、ぞろぞろと行っても仕方ないという事で俺一人となった。
他の三人は今頃食べ歩きやらして楽しんでいるだろう。


大広場の奥に長く続く一本道。その先には某国に似た横に長い建物があり、そこが王宮になっている。


玄関には門番が二人。その内の一人と目が合うと門番は俺の方へ寄ってくる。



門番「待て。この先は許可のある者しか通せない。要件は?」


男「火姫様に謁見を取り次いで欲しいんですけど」



門番の眉がピクリと動いた。
品定めしているかの如く俺の容姿を見て、懐疑的な表情になる。



門番「…失礼だが、名を聞いても?」


男「男です…あ、いや勇者って伝えて貰えますか」


門番「勇者…?君が?」


男「まぁ…はい一応…」


門番「ふむ…証明出来る物はあるか?」


男「証明?」



あったっけ?





安価下


男「いや……その…」


門番「それに、だ」



突然門番に左腕を掴まれ、俺に見せるように持ってくる。



門番「何だこれは。禍々しい紋様をしているが…まさか魔王の手の者か?」



俺の今の服装だと左手前腕に描かれた使役紋章は隠しきれない。まさかこれを怪しまれるとは。
ファッションタトゥーくらいに思ってくれよ!



男「違います!ほんとに自分は勇者で──」
門番「お帰り願おうか」



掴まれた腕ごと押され、バランスを崩して尻餅を着いてしまう。
火姫に会わなきゃならないってのに、いきなりこれって…。


門番は元の位置へと戻り、睨み付けたまま俺が去るのを待っている。
さすがに強行突破する訳にも行かない、ここは一旦退こう。



─────



俺は宿屋に帰宅し、皆が揃った所で円卓に腰掛けて今日あった事を相談する。


侍「で、戻ってきたと」


男「うん……証明する物って何か無いの?シスター」


シスター「わかんない。あの本とか、黒いドラゴンは?」


男「この本が証明になるかなぁ…狂滅龍は流石に呼んだらマズいし」


召喚士「……ドラゴン?」


侍「俺も気ぃ失っててまだちゃんとは見た事ねぇんだよな。風の都で王宮ぶっ壊したのもソイツなんだろ?」


男「うん。それに気軽に呼べないしね…」


侍「確か寝ちまうんだよな、3日くらい」


召喚士「貴方…も……召喚士…なのね?」


男「いや、勇者…なんだよね」


召喚士「…そう、勇者……なのね」


シスター「光の都に手紙出して、使者でも呼ぶ方が良いかなー」


侍「それが現実的だろうな、1週間以上足止め食らうが」


召喚士「…貴女…」



召喚士はシスターを指差す。



シスター「え、な、なに?」


召喚士「…貴女なら……その、証明…とやら……出来るの…では?」


シスター「私が…?」


男「シスターが……あっ!そうか!」


侍「んん?」


男「シスターあれ!風精霊!」


シスター「あー!確かに!なるほどねー!」


侍「おお、なるほどな。というか……何故気付いた?」


召喚士「…溢れて……いるもの…」


シスター「溢れてる?」


召喚士「ええ……精霊の…持つ、魔力……がね」


男「へぇ!」


侍「…詳しいな。聞かない様にはしていたが…姉ちゃん何者なんだ?」


シスター「……ちょっと気になるよね」



あれ?俺だけ浮かれてるの?空気重くない?



召喚士「私が……何者、なのかは……重要、なの…かしら?」


シスター「……」


侍「…いや、話したくないのなら良いさ。詮索するような真似して悪かった」


召喚士「…別に……当然、と言えば……当然」



沈黙が訪れる。
確かに召喚士の正体は気になるけど、突破口が見つかったから良しとしよう?



男「と、とにかく!明日はシスターと一緒に王宮に行く!もう夜だしね!はぁー!寝るかー!」



再び沈黙。視線だけが集まる。やめてくれ。



シスター「ぷ…あはは!」


男「なっ…」


侍「くくく……そうだな、そうしよう」


男「顔背けてもわかるよ、めっちゃ笑ってるじゃん」


召喚士「…おかしな…人」


男「何で!?」



─────



翌日。

今度はシスターを連れて再び王宮へと赴く。
昨日と門番は同じ奴だ、今度こそ取り次いで貰うぞ。



門番「また君か。今度は誰を連れてきたか知らないが無駄だぞ」


男「見て欲しい物があります。これが僕が勇者たる証拠です」



シスターへ目配せをして、頷く。
風姫がやった動作をシスターも真似すると風も吹かないこの都に風が吹き、シスターの手の中に集まっていく。



門番「な、何が起きている!?」


シスター「…起きて」


両手で風の塊を潰すと、シスターの上で風が破裂し、横になって寝ている風精霊が現れる。



門番「こ、これは…!?」


風精霊「んん………え、何?呼んだ?」



横になった体勢から起き上がり、目を擦って起き上がる。



シスター「ごめんね、ちょっとこの人に説明してほしくて」


風精霊「説明?……てかどうしたの、その格好」


シスター「えへへ、似合う?」


風精霊「微妙」


シスター「ガーン!」



シスターは俺を見てくるが、似合ってるから大丈夫と何度も宥める。



風精霊「で?説明って?」


門番「あ、貴女様は…もしかして…!」


男「えーと、この人に俺が勇者って事を…」


風精霊「…あー、何となく事情は把握したよ。そこのキミさ、あたしは風精霊なんだけど……これ以上説明がいるかい?」


門番「ほ、本物…?」


風精霊「ここの姫様が出してるの見た事あるでしょ?クソア……じゃない火精霊。安心しなよ、この子達は本物の勇者一行だよ」


門番「そう……だったのか…」



門番はその場に片膝を着き、頭を垂れる。



門番「勇者殿。先日の私の振る舞い、大変失礼致しました」


男「い、いや!大丈夫ですよ!流石に怪しかったですし…」


門番「…有難う御座います。火姫様へのお取り次ぎ、しばし時間をもらっても?」


男「はい、大丈夫です」


門番「では、失礼致します」



立ち上がった門番は駆け足で王宮へと入って行く。もう一人の門番も緊張した面持ちになって俺達を見ていた。



風精霊「これで良い?」


シスター「うん!ありがと!」


男「助かったよ風精霊、ありがとう」


風精霊「別にー。これくらいお安い御用だよ。それよりさ」


男「ん?」


風精霊「どう?シスターちゃん。代償の具合は」


シスター「あ、うん…少しは慣れたよ」


男「そういえば…」



シスターは代償の内容を俺達に教えていない。
特に支障の出ない代償だからラッキーだった、だから安心して、と言っていたので気には留めていなかったが…



男「…大丈夫なの?」


シスター「もー!大丈夫だってばー!…心配しないでね?」


男「う、うん…」


風精霊「ふーん…ま、いいや。じゃああたしは戻るね、また何かあったら呼んで」


シスター「うん、バイバイ」


男「あ、またね」



手を振って見送り、風精霊は消えていく。



シスター「ふー…良かったね、何とかなりそうで。火姫様ってどんな人なんだろうね?」


男「確かに。風姫様は凄いアレだったね」


シスター「もー、良い子なんだからアレって言っちゃ駄目でしょ」


男「ごめんごめん」



軽く火姫について雑談をしていると、先程の門番が帰ってきた。



門番「お待たせ致しました。ご案内します」


男「え?今からですか?」


門番「はい、すぐに会わせろ…との事です」


男「な、なるほど…」


シスター「良かったんじゃない?早く会える分には良いでしょ」


男「って事は更新もあるし、シスターも行く事になるかな」


シスター「あ、そうだね。うんうん」


門番「いえ……それが…」



門番はシスターを少し見た後に俺を見る。



門番「勇者殿一人で、との事です」


男「え?俺だけ?」


シスター「私が居なくちゃ更新出来ないけど……どうしよう?」


男「一人で…」




1 従う
2 従わない、シスターも連れていく
3 自由安価

安価下



ここで火姫の機嫌を損ねて謁見が遠のくのは避けたい。
だがシスターを連れていかなければ意味も無い。


一人で行くのが無難だが、次の機会がいつになるとも分からない。この選択は重要だ。



門番「勇者殿…?」


男「あ、ちょっと待ってください」



俺はおもむろに攻略本を取り出し、何かヒントが無いかを探す。



シスター「え?今見るの?」


男「うん、ちょっとだけね」



この世界をゲームみたいに書くこの攻略本ならば、これは所謂イベント。
それなら攻略チャートがあってもおかしくない。


何処だ?本編1章…この辺か?
数枚捲ると火の都の事が書かれたページを見つける。


3章…火の都イベントフローチャート。
……何?



https://imgur.com/gallery/PEspjM7





貼れて無かったらごめん
この後の行動
安価下


魔王の軍勢来襲、ヤバくないかこれ?
見た所召喚士が居ない場合、使者を出した時の謁見が後ろの方って事は少し時間はあるのか?


何にせよ、これは火姫に知らせなければならないな。
シスターを連れていくと火の騎士と戦闘とあるし、一人で行くのが無難だな。



男「よし、じゃ──」
「おーい!」


門番「む?」



正門の奥から鎧を着た衛兵が見える。門番と違って装備は立派な物で、ガチャガチャと音を立てて走ってくる。



門番「どうした?」


衛兵「いやそれが…精霊を召喚した女も連れて来いと姫様が…」


男「なに?」



おい、それはマズくないか。攻略本の通りならこのルートは余計な戦闘があるんですけど。



シスター「お呼ばれしてるならしょうがないよね。行こっか」


男「いやちょっと待って」


シスター「え?どうしたの?」


男「この本に書いてあるんだけど、このままシスターが行くとめんど…大変な事になる」


シスター「大変な事?」


男「そう、余計な人と戦いになったり…」


シスター「あ、そうなんだ。そっかー……」


衛兵「何の事かは分かりませんが…あまり火姫様の意向に逆らうのは……良くないと言いますか…」


男「え」


門番「そうですね。気分を害すと謁見もよりむずかしくなると思われます」


男「ええ?」



でも攻略本見た感じそんな風にはならないと思うんだけど……直接話してるから事務的に処理しづらいな。



シスター「だって。どうする?」


男「いやでもなぁ…」


シスター「んーでも、困った時はソレあるでしょ?大丈夫じゃない?」



シスターに使役紋章を指される。


男「……まぁ、確かに」



フローチャート的にも敗北は書いてなかった。つまり穏便に事が運ぶ可能性もある。
門番達の様子からも得策では無いみたいだし、いざとなれば使役紋章があるし……大丈夫かな。



男「じゃあ…行こっか、シスター」


シスター「やった。火姫様に会えるー♪」



それが本音だな。
俺達は衛兵に案内され王宮の中へと入っていく。


というより、面と向かって断れない。
これは俺の精神的弱さか。


衛兵に案内され、玉座の間というより社長室みたいな部屋に案内された。
中に人は居らず、豪華な装飾と机とがあるだけだった。


中へ入り、俺達を残して衛兵が退出すると正面の机の後ろに一瞬だけ炎柱が立ち、そこから火姫が現れた。



火姫「やあ。遅かったじゃないか」


燃えるような赤い髪色をしたポニーテールの女性。
侍くらいの高身長、身体を見なければ中性的な男性にも見える。
綺麗、或いは、格好良い。と表現するのが正しいだろう。


それにしたって…なんつー露出。
踊り子みたいな服だな。



シスター「ね、ね、綺麗だね」



コソコソと話しかけてくるシスターに無言で頷く。本人の前で内緒話も何なのでとりあえずお辞儀をして挨拶をしよう。



男「初めまして。勇者の男です」


火姫「ああ、宜しく。そして君が…」


シスター「あっ!シスターって言います!」


火姫「ふふ、見た目と違って元気が良いね。好きだよ、そういうの」


シスター「ふぁっ!?」



微笑む火姫の格好良さも相まってか、シスターは顔を赤らめてモジモジとしてる。
クソイケメンの風騎士にもそんな反応してないよね?相手は女性ですぞ?


男「ゴホン……それで、急な謁見になりましたけど…何かお話ですか?」


火姫「ん?早い方が君達は良いんじゃないのかな?」


男「……まぁそうなんですけど…」



良く言う。こちとらフローチャートで契約更新しないのはお見通しじゃい。



火姫「ふふ、なんてね。見抜かれているなら話は早い」



火姫が手を2度鳴らす火姫の傍に一瞬だけ炎柱が立ち、中年の男性が現れる。



火姫「紹介しよう。我が剣であり四騎士が一人、火騎士だ」



静かに頭を下げる火騎士。この男と俺は戦う──顔怖っ。
強面だし無愛想だし無口…強者のオーラが滲み出てるよ。



男「…ん、四騎士って?」


火姫「…知らないのかい?」


シスター「各都の一番強い人達の事だよ。風騎士さんもその一人」


男「へぇ、そうだったのか」



でも都は全部で6個あるけど、四騎士なんだ。
四大精霊が居る都を基準にしてるのかな。


火姫「話は簡単、彼と戦って」


シスター「え」


男「……」


シスター「ちょちょちょ、待って勇者様こっち来て」



腕を引かれて部屋の隅に行き、火姫達に背を向ける。
小声でシスターが火騎士様と戦うの?と聞いてくるので、そうだよと答える。



シスター「大変な事ってこれの事?流石に火騎士様は危なくない…?」



いくら強かろうが、この"イベント"は通過点だ、何とかなるだろう。内緒話を終えて火姫達に向き直る。



男「話はわかりました。火騎士さんとの戦い、受けさせてもらいます」


火姫「…随分と物分りが良いね。勇者殿はこの事までも知っていたのかな」


男「まあ……あ、それと一つ報告が」


火姫「報告?」


男「はい。恐らくですが、近日中に魔王軍による襲撃があります」


火姫「…なんだって?それは本当なのかな?」


男「はい、本当です」


火姫「……本当なら、これから人とお金が動くけど、間違いでしたとは言えないよ?」


男「確実に来ます」



語尾に「多分」って付けたくなるが、攻略本に間違いはないはずだ。

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