北条加蓮「藍子と」高森藍子「3月の終わりで4月が始まる頃のカフェで」 (33)

――おしゃれなカフェ――

<からんころん

高森藍子「~~~♪ あっ。こんにちは、店員さん♪」ペコッ


<あいこー


藍子「……あれっ?」チラ

北条加蓮「藍子。こっち、こっちっ」

藍子「加蓮ちゃん、もう来て……? あっ、は~いっ。今行きま~すっ」

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レンアイカフェテラスシリーズ第111話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「色々思い浮かべるカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「春隣のカフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「ふきげんなホワイトデーのカフェで」
・高森藍子「す~……」北条加蓮「藍子の寝ているカフェテラスで」

加蓮「ここのストーブ、今週で片付けるんだって」

藍子「そうなんですか?」

加蓮「うん。暖炉ストーブ」

藍子「ストーブの周りにレンガのインテリアを置いて、暖炉っぽくしているストーブ」

加蓮「もう暖かくなってきたもんね」

藍子「今年の冬も、いっぱいお世話になりましたっ」ペコ

加蓮「あははっ。相変わらず委員長ー」

藍子「……委員長?」

加蓮「生真面目すぎってこと」

藍子「加蓮ちゃん。それ、褒めていませんよね?」

加蓮「皮肉として言ってるけど?」

藍子「それならそれで、ちょっとは悪びれてください」

加蓮「お礼を言うなら、返事をしない暖炉ストーブよりも返事をしてくれる店員さんにしたらいいのに」

藍子「あとで店員さんにもお礼を言いますよ。でも、このストーブに助けてもらったのも、本当のことですから」

加蓮「ふーん……」

藍子「今週いっぱいで片付けられてしまうから、加蓮ちゃん、ここにいたんですね」

加蓮「ん。まあ、また次の冬になったら出てくるんだろうけどさ……」

加蓮「そういうことがちゃんと分かってたとしても、過ぎていく時間や物は大切にしたいから」

藍子「加蓮ちゃん……」

加蓮「……って、何いきなりしんみりさせてんのよ」

藍子「言ったの加蓮ちゃんっ」

加蓮「言わせたのは藍子っ」

藍子「え~……」

藍子「荷物をかごに入れて、靴を整えてっ」ヨイショ

加蓮「……」ジー

藍子「?」

加蓮「……いらっしゃいませー?」

藍子「……お邪魔します?」

加蓮「あはは……」

藍子「ふふっ」

加蓮「いや、……なんとなく?」

藍子「なんとなく、ですねっ」

藍子「加蓮ちゃん、今日は珍しく先に着いていたんですね」ヨイショ

加蓮「いつもみたいに藍子より後に来てさ。席に座ってる藍子に、暖炉ストーブの方に行こうよーって誘うのもなんだか悪い気がするし?」

藍子「そんなことはないですけれど……。ということは、加蓮ちゃん、たまたま早く来ていたのではないんですか?」

加蓮「……まあ」

藍子「……?」

加蓮「……」

藍子「……」

藍子「……ちなみに何時間前から?」

加蓮「何時間ってほどじゃないしっ。せいぜい1時間くらい!」

藍子「い、1時間?」

加蓮「あ」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……それなら、連絡してくれればもうちょっと早めに来ていましたよ?」

加蓮「それもそれで悪いじゃん……」

藍子「今のお話を聞くと、私が加蓮ちゃんをずっと待たせてしまったみたいになっちゃうじゃないですか」

加蓮「私が待ちたくて勝手に待っただけだよ? それに――」

藍子「それに?」

加蓮「……それに、まあ」

加蓮「……うん」

加蓮「…………1人でいる間にさ、店員さんと話したり、そこに置いてある雑誌を読んでたりしてたんだけど」

藍子「はい。……あの、どうしてそんなに嫌そうな顔――」

加蓮「藍子がいればなーって5分おきに思って、その度に私って何してんだろって頭抱えてた……」

藍子「……………………」

加蓮「やめて。自覚してる。自分が馬鹿っていうのは自覚してるから」

藍子「…………この前、1人では嫌だから、ここに来るなら誘ってほしいって言ったの、誰ですか」

加蓮「別に嫌だって言ってないしっ。そもそもね、藍子。私は1人に慣れてるの。だからこれくらい平気なんだって!」

藍子「平気な人の顔じゃなかったですよ?」

加蓮「あーもうっ。終わり! こんなつまんない話、終わり!」

藍子「もう……」

藍子「加蓮ちゃん。この暖炉ストーブが今日までだっていうことを、知っていたんですね」

加蓮「うん。店員さんに教えてもらってた」

藍子「店員さんに?」

加蓮「ちょっと前に連絡先を交換してね。それで帰った後に、そういえばって感じで教えてもらっちゃった」

藍子「なるほど~……って、えっ!?」

加蓮「ん?」

藍子「連絡先って、いつの間にっ。どうしてっ」

加蓮「だからちょっと前だって。どうしてって……なんとなくだけど」

藍子「そうだったんですね……。あっ。とりあえず、何か注文しましょうか」

藍子「前みたいに、バスケットに入れて持ってきてくれるかもっ。だったら、サンドイッチを注文してみたいな……。加蓮ちゃんは、どうしますか?」

加蓮「んー。さっきコーヒーと、あと軽く食べちゃったんだよね」

加蓮「……まいっか。私もサンドイッチー」

藍子「ふふ。すみませ~んっ」

……。

…………。

「「ごちそうさまでした。」」

藍子「外はすっかり春日和ですけれど、今だけは冬に戻ったような気分でしたね」

加蓮「ストーブの暖かさと、暖炉っぽい雰囲気って大事だよね。照明も、ロッジみたいな淡い光に調節されてるみたいだし……」

藍子「くつろぐスペースだけ、この明るさで……ここから他の席を眺めると、なんだか窓から外を見ているみたい」

加蓮「ね。なんだか自分達だけ違う世界にいるって感じ」

藍子「ですねっ」

加蓮「藍子、まだ冬が恋しかったりする?」

藍子「?」

加蓮「だってさー。食べてる間に、ときどき暖炉の方にすり寄ってたみたいだし?」

藍子「えっ。……そ、そうでしたか?」

加蓮「寒いのかなって思ったけどそうは見えなかったから、もしかして、まだ冬が終わらなければいいのにーとか思ってたりする?」

藍子「う~ん……。でも、春になってほしいなって思いますよ」

藍子「近所の公園の、桜の花びらが開くのを、毎日楽しみに待ったり。それに、いろいろなところで、新生活や新入学のお話や、真新しい制服を見つけるのも、とっても楽しいです」

藍子「……ふふ。でも、加蓮ちゃんには隠せませんね」

藍子「もうほんのちょっとだけ、冬にやりたかったことがありましたから」

藍子「名残惜しいですけれど、暖炉ストーブの前でゆっくりと温まるのも、また来年ですね」

加蓮「来年にできることだったら付き合うよ?」

藍子「ありがとう、加蓮ちゃんっ。……ふふふ~」

加蓮「む」

藍子「ふっふっふ。その言葉、忘れませんからね~?」

加蓮「……さてはこれを言わせようとしたね?」

藍子「そんなことはないです。でも、……ふっふっふ~」

加蓮「よし決めた。私も次の冬に藍子にさせ――藍子としたいことをリストにして作っとく」

藍子「……今、させるって言いかけましたか?」

加蓮「藍子のやりたいことなんて言わせる暇もなくしてやるっ」

藍子「それはそれで楽しそうですっ」

加蓮「こうして話してると、冬が終わったのがなんだか寂しくなっちゃうね」

藍子「そうですね。……寂しくさせちゃいましたか?」

加蓮「そうかもね。でも、寂しくても悲しくはないから……。こういう気持ちを共有するのは、悪くないんじゃない?」

藍子「……くすっ♪」

加蓮「さてっ。と言っても、もう春だもんね。アイドルたるもの、時代の最先端を行かなきゃ!」

藍子「お~」

加蓮「って、ま、春のお仕事とかファッションとか、前々から決まってたヤツはだいたい片付けた後だけど」

藍子「わ、早いっ。さすが加蓮ちゃんですね。私なんて、まだ春に着るお散歩用のセーターも選んでないのに」

加蓮「うちにあるのでいいなら持ってっていいよ?」

藍子「本当ですか? では、今度選びに行っちゃいますね」

加蓮「おいでおいでー。ついでにお母さんの話し相手になってあげて」

藍子「加蓮ちゃんのお母さんの、お話相手?」

加蓮「藍子を連れてこいってうっさいから」

藍子「あはは……。私のお母さんも、たまに加蓮ちゃんとお話したいって言っていますよ」

加蓮「お互い自分の娘にはうるさいのにねー」

藍子「あ、あははは……」

加蓮「春、って言えばさ……」

藍子「加蓮ちゃん?」

加蓮「んー……。相談。ちょっといい? 別に重いヤツじゃなくて、……ただ、ちょっとだけ真剣に考えてほしい話」

藍子「はい。いいですよ。……あっ、でも」

加蓮「?」

藍子「もちろん真面目に受けますけれど、ここはカフェですから」

藍子「肩の力を張るのではなくて、リラックスしながらお話しましょ?」

藍子「ってことで……すみませ~んっ」

藍子「店員さん。加蓮ちゃんに、なにかリラックスできる飲み物をお願いしますっ。……はい。私にも!」

加蓮「あはは……。そーいうこと」

藍子「ねっ?」

……。

…………。

加蓮「……なかなか来ないね?」

藍子「難しい注文をしてしまったのでしょうか……?」

加蓮「カフェなんだから、リラックスさせる方法なんてたくさん知ってるでしょ。こんなに時間をかけるなんて失格――あ」

藍子「……店員さん。加蓮ちゃんも怒っているのではなくて、ちょっぴり厳しく考えちゃっただけだと思います」

加蓮「……なんかごめん。うん、ありがと」

藍子「コーヒーのいい香り……♪」

加蓮「ハーブティーとコーヒーで悩んだけど、いつも通りを演出した方がいいと思った、だってさ」

藍子「もしかしたら店員さん、加蓮ちゃんのお話を聞いちゃったのかもしれませんね。それで――」

加蓮「藍子が言った、肩の力を抜いて……つまり、いつもみたいに、と?」

藍子「そうなのかもっ」

加蓮「いつも通りかぁ……」

加蓮「あははっ。ここで過ごす時間が長すぎて、どれがいつも通りなのか分からなくなっちゃいそう。足、思いっきり伸ばしちゃお」ダラーン

藍子「加蓮ちゃんが、こうしていたいな、って思ったことが、きっと加蓮ちゃんのいつも通りですっ」

加蓮「そう?」

藍子「だって加蓮ちゃんは、いつだって、加蓮ちゃんのやりたいようにやっていますから♪」

加蓮「……ふふ。何ー? 加蓮ちゃんが自分勝手だって言いたいのー?」

藍子「……。はい、そうですねっ」

加蓮「うっわ、いい笑顔」

加蓮「いただきまーす」ズズ

藍子「いただきます」ズズ

加蓮「ふうっ……」

藍子「……♪」

加蓮「……」ズズ

藍子「……」ズズ

加蓮「……ファンレターってさ、最近読んでる?」

藍子「はい。事務所に届いた分を、いつも家に帰ってから、じっくり読ませてもらってます」

加蓮「そ」

藍子「何か、悩むファンレターが届いたんですか?」

加蓮「んー……」

藍子「……」ズズ

加蓮「……病院の……私が世話になったとこじゃなくて、別のね。病院の子から」ズズ

加蓮「いつも見てます、応援してます、って届いたの」コトン

藍子「…………」コトン

加蓮「クリスマスにプレゼントを配ってから、少しずつそういうファンレターとか、応援のメッセージとかが届くようになってさ」

加蓮「それは……まぁ、なんていうか」

加蓮「覚悟……」

加蓮「覚悟、じゃないよね。決意、でもなくて……」

加蓮「うーん。いい言葉が思いつかないけど――」

加蓮「とにかく、なんだろ。北条加蓮っていうアイドルがそういう感じにもなったのを、最初から受け容れてた? って感じで。別にそこは問題じゃないの」

藍子「それなら、悩んでいるのは――」

加蓮「内容」

加蓮「春ってさ、入学したり、進学したり……色んなことが始まる季節じゃん。だから、何かを始めたいなって思うよね」

藍子「そうですね。新しいことや、今までやったことのないことも、春に勇気をもらえれば、思いきって始められます」

加蓮「そのファンレターにも、そういうことが書いてあったの」

加蓮「身体は弱いし、できることは限られてるけど、春になって、病院の中庭で桜が咲いて……そして、私の活躍を見て」

加蓮「自分も、何かしてみたいって思ったんだって。……何をやるかは、まだ決めてないみたいだけどね」

藍子「きっと、これから探すんですね」

加蓮「言っちゃえばさ、これってただの報告じゃん」

加蓮「お悩み相談でもないし、こういうことしてみるといいと思うよーって言うほどのことでもないし」

加蓮「ただ……」

加蓮「私の中では、前々から決まってたことをだいたい終わらせて……始まる前から、春が終わったーって感じがしちゃってたんだけど」

加蓮「なんだか……。応えてあげたくなっちゃった。もう1回始めたいな、なんてっ」

藍子「背中を、押してあげたくなったんですか?」

加蓮「うん」

加蓮「あと……優等生っぽく片付けて、終わっちゃった気になったけどさ。もうちょっと、頑張ってみてもいいかな、なんて……」

加蓮「あははっ。無理するなって、藍子は言っちゃうかな?」

藍子「くすっ♪ 言いませんよ。でも――」

加蓮「でも?」

藍子「無理をしちゃわないように、加蓮ちゃんのことは見張っていますねっ」

加蓮「えー。もう」

加蓮「……どうしたらいいかなー、って。どうしたらいいと思う?」

藍子「そうですね。ここはやっぱり――」

加蓮「え。もう解決方法を思いついてるの……?」

藍子「加蓮ちゃんが、何か新しいことをやってみるのが一番ですっ」

加蓮「あー……なるほど」

藍子「加蓮ちゃんが今までやったことのないことをやって、それを見せてあげたら、自分もやってみようっていう気持ちが、もっと強くなるかもしれません」

藍子「それに――」

藍子「……言っても、いいですか?」

加蓮「ふふっ。どーぞ?」

藍子「……。気を悪くしちゃったら、ごめんなさい」

藍子「その……身体が……って部分は、ファンレターをくださった方も、加蓮ちゃんも、だから――」

藍子「だ、だから、加蓮ちゃんが見せてあげることで、自分もっていう勇気をたくさんあげられると思うんです!」

藍子「……」

藍子「ということで、何かしましょう!」

加蓮「……そんなに慌てなくてもいいのに。だから、そういう立場っていうか、そういう自分を受け容れたって言ってるでしょ?」

藍子「うぅ……。それでも言いづらいことは言いづらいですよ……」

加蓮「分かるけどねー。……ちゃんと言えて、藍子ちゃんは偉い偉い♪」ナデナデ

藍子「む~っ!」パッ

加蓮「あはははっ!」


□ ■ □ ■ □


加蓮「新しいことかぁ……。何かあるかな」

藍子「それか、加蓮ちゃんの苦手なことに挑戦してみるのもいいかもしれませんね」

加蓮「苦手なこと」

藍子「加蓮ちゃんが新しいことに挑戦するのは、今に始まったお話ではありません」

藍子「今までにも、加蓮ちゃんがいろいろなことに挑戦しているのは、ファンの皆さんも知っていますから」

加蓮「そう? でもさ、私がやってることが私にとって新しいことかどうかって、それを知ってる人って限られるくない?」

藍子「……? どういうことですか?」

加蓮「んーっと……。例えば私がマラソンに挑戦したとして」

藍子「えっ」

加蓮「……しないよ? 例えばの話」

藍子「そ、そうですよね。びっくりした……」

加蓮「このままだとそのうちいつか挑戦させられそうな気もするけどね……。まぁいいや」

加蓮「それが私にとって新しいこととか、挑戦って知ってるのって、私に体力がないこととか、お仕事できる時間が限られてるとか、そういうことを知ってる人じゃん」

藍子「ふむふむ」

加蓮「私を知らない人にとっては、加蓮ちゃんはいつも走ってる元気で健康なアイドル! って思われる可能性もあるんだし」

藍子「加蓮ちゃんがやったことがないって知っている人が、っていうことですよね?」

加蓮「そうそう」

藍子「ううん。でも、知識として分からなくても、加蓮ちゃんの姿を見れば、分かる方はちゃんと分かるみたいですよ」

加蓮「そんなもんかなー……」

藍子「実は、さっきお話した、家に帰ってじっくり読むファンレターのことなんですけれど……」

加蓮「ん。藍子も何か悩んでる感じ?」

藍子「ううん。私は悩んでは――あっ。ひょっとしたら、悩んでいるのかもしれませんね♪」

加蓮「うん。そーいう風に言う人は悩んでないからね?」

藍子「いえ。実は私、すっごく悩んでいることがあるんです! 加蓮ちゃん、聞いてくれますか?」

加蓮「コーヒーごちそうさまー。私ちょっと店員さんにカップ持っていってくるから藍子はそこにいてねー」スクッ

藍子「カップは店員さんが取りに来てくれますよ?」

加蓮「たまには自分から持っていくっていう気配り的な」

藍子「誰かに気配りをするのなら、私のお話を聞いてくださいっ」

加蓮「……!」

藍子「……!」

加蓮「……で、何?」

藍子「はい。最近、ううん、これは前からなんですけれど、私のファンレターに加蓮ちゃんの名前が書かれていることが増えてきているんです」

加蓮「確かにそれは前からだね。私の方にも、藍子と一緒のお仕事をーみたいなの結構来るし。ラジオとかで藍子の話をたまにしてるからかな」

藍子「私も、そんな感じですね。それで、ときどき私に対して"依頼文"が来るんです」

加蓮「はあ」

藍子「加蓮ちゃんにこういうことをしてほしい、やらせてみたい、挑戦してほしいっていう内容です。それを、あい――私から頼んでほしい、って」

加蓮「……はあ」

加蓮「…………なんで?」

藍子「あはは……」

加蓮「アンタなんか変な話してない? 私のことで」

藍子「そ、それよりも、加蓮ちゃんへの"依頼文"のことなんですけど」

加蓮「……後で追及するからね?」

藍子「あまりに多くの量が届くので、何かやってみたいなって思ってモバP(以下「P」)さんにも相談してみたら、面白そうだと言ってくれました」

加蓮「あの人基本面白がるでしょ……」

藍子「私が指導役になって、加蓮ちゃんに何かを挑戦してもらうっていう企画も、実際に考えているみたいなんです」

加蓮「指導役に難アリだから再考しろって伝えといて」

藍子「チャレンジャーの役には、加蓮ちゃん以外のアイドルにも参加してもらうつもりで……」

藍子「そうそう。誰か一緒に加蓮ちゃんと参加してみませんか、とみなさんにお伝えしたところ、やりたいって声がたくさん届きましたっ」

加蓮「私の知らないところで何進めてるのっ」

藍子「ちなみに今度、未央ちゃん主催でLIVE大会が開かれるそうです。加蓮ちゃんのパートナー役を巡っての勝負だって、言っていました」

加蓮「えー……」

藍子「ふふ♪ みなさんやる気いっぱいでした。きっと、加蓮ちゃんと一緒にお仕事がしたいんですね」

加蓮「それこそ面白がってるのが大半でしょ」

藍子「私、勝負や争いごとは得意じゃありませんけれど……でも、たまには勝ちたいって思っても、いいですよね?」

加蓮「……アンタ指導役での参加じゃなかったの?」

藍子「このお話をした時に、参加したいって言った方が本当に多かったんです」

藍子「それを見たら……その……」

藍子「……ち、ちょっとだけ、たいこうしんが」

加蓮「対抗心って……。それ、私は喜んでいいの? それともアホって言ってあげたらいいの?」

藍子「うぅ。自分でも似合わないってことは自覚してますもんっ」

加蓮「ハァ。ま……私が言うのもホント変な話だけど、やるなら頑張りなさい?」

藍子「はいっ」

藍子「あっ。今は加蓮ちゃんのお話でしたね」

加蓮「随分逸れちゃったね」

藍子「苦手なことを強要するのは良くないことだと思いますけれど、でも、このチャンスに何かやってみるのもいいと思いますっ」

加蓮「苦手なことかー……」

藍子「何か、思いつきますか?」

加蓮「……。料理?」

藍子「あぁ」

加蓮「そこですっごい腑に落ちたって顔されるとなんかムカつくけど……。あとはやっぱり、体力をつける何かとか?」

藍子「運動とかでしょうか」

加蓮「それこそマラソン?」

藍子「加蓮ちゃん。苦手なことを頑張ることと、無理をすることは、全然違うんですよ?」

加蓮「う、うん。ちょっと言ってみただけだからマジ顔になるのやめて」

藍子「料理なら……加蓮ちゃんに教えてあげる役は、私より響子ちゃんの方がいいのかな……。でも、私も教える役になりたいっ」

藍子「いっそ、みなさんで加蓮ちゃんに教えてあげる企画にしちゃうのも、いいかもしれませんね」

加蓮「ふふっ。なんだかちょっぴり贅沢って感じ」

藍子「ぜいたく……。確かにっ」

加蓮「にしても藍子。随分具体的に企画を詰めてくんだね」

藍子「そうですね。Pさんに相談したからっていうのもあるかもしれませんけれど……加蓮ちゃんの顔を見ていると、なんだかやる気になっちゃって」

加蓮「私?」

藍子「加蓮ちゃんには、そういう力がありますから」

加蓮「私はホントに私のやりたいようにやってるだけなんだけどね。でも――」

藍子「でも?」

加蓮「そうやって、誰かに影響を与えられて……勇気を分けてあげたい相手に、せめて背中を押してあげられるのなら、それでもいいのかな」

加蓮「……なんてねっ」

藍子「くすっ♪」

加蓮「む。何。今日の加蓮ちゃんはすぐセンチメンタルになるんだなーとでも言いたいの?」

藍子「違いますっ。そうではなくて……」

藍子「周りの誰かの――加蓮ちゃんの、熱いものを見たり、触ったりできることって、なんだかいいなぁって……改めて思っちゃいました」

加蓮「……私からすれば、藍子もそうなんだけどね」

加蓮「あ、でもね。メラメラ燃えて企画をガンガン進めてる藍子には、ちょっと申し訳ないんだけどさ……」

藍子「はい。何ですか?」

加蓮「苦手なことを克服するっていうのは嫌いじゃないの。苦手とか、嫌いとか、そういうことに向かい合うのも……ちょっとは慣れてきたって自分でも思うし」

加蓮「ただ、そういうことって、"やらないといけないこと"じゃん」

加蓮「そうじゃなくてさ」

加蓮「ファンレターをくれた子って、やりたいって思ってるんだよね。やらないといけない、じゃなくて」

加蓮「だから……やらないといけないことをやって見せるよりも、やりたいことをやって魅せたいな、って思って……」

加蓮「色々具体的に考えてくれてる藍子には、ホント申し訳ないんだけどね。……どうかな」

藍子「ううん。確かに、加蓮ちゃんの言う通りです。私も、その方が……それに、そっちの加蓮ちゃんの方を、見てみたいですから♪」

加蓮「ふふっ。ごめん――ううん、ありがとね」

藍子「いえいえ♪」

加蓮「ま、やりたいことって言っても、私ってホントにやりたいことをやって、藍子に言いたいことを言いまくってるだけだし。結局、いつも通りってことになるのかな?」

藍子「……、」

加蓮「でも、せっかく春なんだし――春は、始まりの季節って言うもんね」

加蓮「これから始まるんだよって、ファンレターをくれた子には教えてあげたいかな……」

藍子「いっぱい教えてあげましょう。加蓮ちゃんの、すべてで」

加蓮「うん。……全部、使えることは使って。伝えてあげるつもりだよ」

……。

…………。

加蓮「――じゃあ、とりあえず今度のラジオで"やり始めること"を話すのと、次のLIVEでちょっと話すのと」

藍子「それから、雑誌の取材ですね」

加蓮「うん。Pさんにかけあってみる。取材してくれる記者さんも、何回か話したことある人だし……全部は無理でも、少しくらいは入れてもらえると思うよ」

藍子「その時は私も一緒にお話します。……頑張っている加蓮ちゃんを離れたところから見ているだけなんて、嫌ですもんっ」

加蓮「あははっ。欲張りー」

藍子「ゆる~い感じになっちゃったら、加蓮ちゃんの邪魔になってしまうかもしれないので……その時だけは、ゆるふわは封印ですね」

加蓮「何分持つことやら」

藍子「わ、私だって、やる時にはやるんですよ~?」

加蓮「じゃ、期待してあげるっ」

藍子「はいっ」

加蓮「Pさんに相談することと、ラジオのスタッフさんに掛け合うことと……。こんな感じかな?」

藍子「うまくまとまりましたね。今日は……もう少し時間がありますし、事務所に戻って相談してみますか?」

加蓮「ん。そうしちゃおっか……、」チラ

藍子「加蓮ちゃん?」

加蓮「……この暖炉ストーブって、カフェに来る人の心を和やかにしたり、のんびりしてもらうためにあるんだろーけど、今日はガチなミーティングをしちゃったなって」

藍子「そういえば……。私も加蓮ちゃんも、今後のことで熱中してしまいましたね」

加蓮「悪いとは思わないけど、少し勿体ないことをしちゃった気分――」

藍子「……ううん、加蓮ちゃん。私は、忘れていませんよ」

加蓮「?」

藍子「また、来年に加蓮ちゃんが付き合ってくれること」

藍子「もったいなくなんてありません。次に暖炉ストーブが登場した時に、今日の分までゆっくりしちゃいましょ?」

加蓮「……」

藍子「ねっ?」

加蓮「そうだね。そうしちゃおっか!」

藍子「はいっ」


<店員さーん。レジお願いっ
<今日もお世話になりましたっ。あと、暖炉ストーブ、ありがとうございました


【おしまい】

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