黒井「765プロの倒し方」 (57)
俺は新進気鋭のアイドル事務所の社長をしている。現在女性アイドル業界は三つの事務所が均衡を保っている。資金力があり、コネクションも広い961プロダクション。個性豊かなアイドルが多数在籍し、在籍数だけで言えば他の追随を許さない346プロダクション。そして、所属アイドルわずか13名でありながら、この二つの事務所と肩を並べる765プロダクションだ。
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「もっしも♪ピサの斜塔が、真っ直ぐ建ってたな~ら♪」
「…ほら、見ろ『ビジョナリー』ですら歌いこなすだろう…」
「ミラクルスタートスター♪」
「スタートスター♪」
「「ハッピーになるの絶対♪」」
「しかし、奴らは双子でも別々に活動をした。そうすることで、一人一人の実力を高めたのだ!『二人でなければならない』関係ではない、『二人ならばより一層輝ける』ように、お互いが高め合えるライバルになったのだ!」
「そもそもキャラだけで言うのならば、上位互換になるようなアイドルなんぞ何人もいる。なのに何故、やつらは依然トップに立っているのだろうとどうして思わない?」
考えてみれば不思議なことだ。けれど、業界に入ったころには既に売れっ子だった彼女たちしか見たことのない私や彼にすれば、考えたこともなかったのだ。
「根本の地力が違うんだよ」
腐ってもあの憎き高木が見つけてきたやつらだからな。と続ける社長は苦虫を潰したような顔をしていた…けれど、どうにもそれだけではないような気もした。
「ほら、最後だ。これだけは見ておけ」
そんなことを考えていると終盤に差し掛かったライブステージを見るように促される。
見るとそこには疲れ果てて最早立ててすらいない新人アイドルたちの姿があった。なるほど、常に十三人しかいない彼女たちとは根底の体力から違ったと言うわけか。
「どこを見ている。見るべきはそっちではない、あれだ」
そう指摘されて目線を動かすとそこには誰もが知るあのアイドルがいた。
「今日のライブも思いっきり楽しみましょう!」
「こればかりはあの四流社長を褒めてやろう。天海春香は『王道』だ。『だからこそ、勝負を挑むべきではない』と気付かなかったことを除けば満点の答えだ」
「乙女よ♪大志を抱け♪」
「『王道』というのは逃げも隠れもしていない。歌で、ダンスで、ビジュアルで、趣味で、特技で、キャラクターで、何で挑んでも勝てやしない。だからこそ『王道』なのだ」
「そんな化け物にあいつは『普通』の少女を当てがった。そんな残酷な真似、私にはとてもできないな」
ずっと不思議だった。どうして黒井社長は765プロになど構うのだろうと。どうしてさっさと潰してしまわないのだろうと。わかっていなかった。潰さないと潰されるのだということを。潰したくてもそう簡単には潰せないのだということを。
「ふん、しかし少しくらいは爪痕でも残すかと思ったがな…これではやつらの調子を上げただけではないか」
言葉の上では相手を調子付かせたことを悔しんでいるはずなのに、どうしてだろう。黒井社長は嬉しそうに微笑んでいた。まるで、『それでこそライバルだ』とでも言うように。
「帰るぞ」
「最後まで見られないのですか?」
「見る必要がない。どうせ三流プロダクションの圧勝だ…それよりも」
「?」
「玲音と詩花に連絡しておけ、決戦は来週だと」
「来週ですか!?いくらなんでも早すぎます!」
「それは向こうとて同じこと、それにあの二人ならできる」
「しかし、いくらなんでも二人では…」
「誰が二人だけだと言った?」
「え?」
黒井社長はそういうと、おもむろに携帯電話を取り出し、電話をかけた。
「おぉ、齋藤か、いやなに返せなどとは言わん。しかし、あの三人に一日だけ付き合ってもらうぞ?」
一週間後、後に伝説となるライブが幕を開ける…
終わり
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