ココア「扉開けた途端パラレルワールドへ!」チノ「そんなのないですありえません」 (43)

ココア「パラレルワールド、行ってみたいよね!」

チノ「は?」

ココア「この前メグちゃんがパラレルワールドに行ってたでしょ?私も行ってみたいなーって思ったんだ」

チノ「あれは夢の話ですよね?あ、夢を見たいからって仕事中に日向ぼっこしながら居眠りするのはやめてくださいね」

ココア「居眠りなんてしないよ!?日向ぼっこはしちゃうかもしれないけど」

チノ「しないでください。まったく、姉になりたいなら仕事くらい真面目に……」

ココア「えー、そう言うチノちゃんも一緒に日向ぼっこ対決したでしょ?」

チノ「そっ、それは」

ココア「チノちゃんったらそのこと、うっかりリゼちゃんに喋っちゃったんだよねー」

チノ「前は前、今は今です!同じ過ちを繰り返していい理由には…… うわぁ!?」ガクンッ

ココア「チノちゃん!?」

チノ(階段から落ちた!?まずいまずいまず───)

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チノ「はっ! ……あれ、なんともない?」

ココア「あ、チノちゃん。起きたんだね」

チノ「え?」

ココア「もーっ!仕事中に居眠りしちゃ駄目だよ?たしかに今日はお客さんがたくさん来て大変だったけど……」

リゼ「いっしょに片付けサボってたお前が言うな」

ココア「可愛い妹の寝顔を観察するのはお姉ちゃんの義務だよ!」

リゼ「労働者の義務は仕事をすることだろ」

ココア「閉店まではちゃんと仕事したよ!ね、チノちゃん?」

リゼ「片付けまでやれ!」

チノ(いつの間にこんな時間に?働いた記憶もない…… 開店直後から寝てた!?)

チノ(早速同じ過ちをしてしまった。いや、今回はそれ以上かな)

チノ(でも、ココアさんの話を聞く限り疲れるくらいには仕事をしていた?それもお客さんがたくさん?)

ココア「どうしたのチノちゃん?まだ眠たいの?」

チノ「いえ!なんでもありません。すみませんリゼさん、一人で片付けをさせてしまって」

リゼ「あはは、気にするな。疲れてたんだろ?」

ココア「あれ、私は怒られたのに!?」

リゼ「ココアはチノを観察できるくらいには余裕あっただろ!」

ココア「動けないくらいには疲れてたかも?」

リゼ「本当に動けなかったとして、チノの姉としてそれでいいのか?」

ココア「うっ、それは……」

チノ「そのくらいにしてあげてください。ココアさんだけ怒られているのを見ていると罪悪感が」

リゼ「……ん?」

ココア「……あれ?」

チノ「あの、私なにか変なこと言いましたか?」

リゼ「変というか、その」

ココア「『ココアさん』って…… なんで他人行儀なの?」

チノ「はい?」

リゼ「姉に対して敬語なのは前からだが、まさかお姉ちゃんとすら呼ばれなくなるとは…… ココア、ついに見限られたか?」

ココア「そんなぁ!?片付けサボってごめんなさい!次からは真面目にやります!!見限らないでください!!」

チノ「ココアさんは前からココアさんですよね……?」

ココア「ぐはぁっ」ガクッ

リゼ「ココア、お前チノに何したんだ?」

ココア「何したんだろう……?」

チノ「何もされてませんけど!?」

リゼ「チノ、ココアは姉らしくない時もあるけど、チノのことを大事に思ってるんだぞ?」

チノ「いや、その……」

リゼ「何があったかは知らないが、ココアのことを許してやってくれないか?後でちゃんと話は聞くからさ」

ココア「ごめんなさいチノちゃん、お慈悲をください……」

チノ(なにこれドッキリ?でも二人とも目が本気だ)

チノ(いや、ココアさんが姉にこだわるのは平常運転、リゼさんの演技が上手いのはロゼさんの一件でわかってる。なら)

チノ「はぁ、エイプリルフールはもう終わってますよ?」

リゼ「チノ!?」

ココア「謝罪の気持ちは嘘じゃないよ!?どうしてチノちゃんを怒らせちゃったかはわからないけど……」

チノ(あれ!?)

千夜「情けない姿ね、我が宿敵よ!」バァン

ココア「その声は……」

チノ「千夜さん!?」

千夜「ふふふ、あなたがこんな調子なら今月の売上はうちのお店の勝利かしら?あっ、チノちゃんにリゼちゃん、こんにちは」

チノ「こんにちは……?」

ココア「何を!たとえチノちゃんに捨てられても、甘兎には負けないから!!」

千夜「どうかしら?看板姉妹が仲違いしている喫茶店なんてうちの敵ではないと思うけど」

ココア「ぐぬぬ」

シャロ「はぁ、追いかけて来てみればまたやってる……」

リゼ「あーもう話をややこしくするな!千夜、ココアとの喧嘩は後にしてくれ!」

チノ(えっ、ココアさんと千夜さんが喧嘩!?いつもの冗談じゃなくて?)

千夜「リゼちゃん、妹に見限られるココアちゃんのお店なんかよりも、安心と信頼の私の店で働かない?」

リゼ「だから話をややこしくするなって!そもそもラビットハウスに乗り込んでおいて安心も信頼もないだろ!」

シャロ「ふーん……?」

シャロ「千夜、あんたなんでリゼを引き抜こうとしてるのよ、甘兎の従業員は私とあんただけで足りてるでしょ」

チノ(シャロさんがリゼさんを呼び捨て!?それに、よく見たらあの制服は甘兎に行ったときに私が着てた)

千夜「いいえシャロちゃん、ラビットハウスと戦うためにはさらなる戦力が必要よ!」

シャロ「うちとラビットハウスが争う必要ないじゃない。競合してる店は他にもあるのにここにだけ執着して何になるのよ」

千夜「何言ってるの!甘兎とラビットハウスはおばあちゃんの頃からのライバルなのよ!!」

ココア「これは真剣勝負!譲れない戦いだよ!」

リゼ「あー、シャロ。すまないが千夜を引き取ってくれないか?今ちょっと千夜の相手をしている暇がなくてだな」

チノ(よかった、きっとシャロさんが諌めてくれる……)

シャロ「ふんっ!なんでリゼの言うことなんか聞かなくちゃいけないのよ!」

チノ(えぇーーーーーーーーー!?)

リゼ「じゃあお前はここへ何しにきたんだ」

シャロ「はぁ!?あんたねぇそんなの……!あー、えっと、その、あっ、あんたの困ってそうな顔を見に来たのよ!いい気味だわ!」

リゼ「勘弁してくれ…… ココアと千夜はいつもどおり。シャロは相変わらず私に冷たいし、チノは何故か機嫌が悪い。あぁ、孤立無援、四面楚歌だ!」

チノ(ナニコレ)

チノ(みんなの様子がおかしい。まず、ココアさんとリゼさんは、何故か私が『ココアさん』と呼ぶことに引っかかっている)

チノ(千夜さんは……)

千夜「シャロちゃん、ココアちゃんが弱っている今こそが攻め時よ?ここを逃したら次はないわ!」

チノ(何故かココアさんを…… いや、ラビットハウスを敵視している。ココアさんはココアさんで甘兎を敵視しているし)

チノ(シャロさんは……)

シャロ「リゼ、これ止めなさいよ。うちの店はまだ片付け終わってないんだから」

リゼ「だったら止めるのを手伝ってくれ…… 私一人では無理だ」

シャロ「どっ どうしてもって言うなら手伝ってあげてもいいけど?」

チノ(なにあれツンデレ?どうしてああなったんだろう)

チノ(流石にこれは夢だ。ほっぺをつねってみよう…… 痛い)

チノ(じゃあやっぱりドッキリ?私にココアさんをお姉ちゃんと呼ばせるための。それにしてはあまりにも手が込みすぎている)

チノ(……信じられない。けど、目が覚める前の記憶、この前のメグさんのお話から考えると)

チノ(ひょっとすると、ひょっとすると、ここは)

チノ(パラレルワールド、平行世界!?)

チノ(メグさんが平行世界へ行った時も、階段から落ちていた)

チノ(今以上に機械に依存している近未来って感じではないから、メグさんの時と同じ並行世界に来たわけではないのかな)

ココア「うぅ、今は千夜ちゃんに言い返す気力が出ない…… 負けられないのに……」

千夜「残念だったわね、我が宿敵ココアちゃん!勝利は私の手の中にあり!」

リゼ「頼むシャロ、どうしてもだ!今は先にチノのことをなんとかしたい!」

シャロ「そっそこまで言うならしょうがないわね。でも、こうなった千夜を止めるのは至難の業よ」

マヤ「おっ!今日の戦場はラビットハウス?ってかココアがズタボロだ!?」

メグ「チノちゃん、ココアちゃんがピンチだよ?」

チノ「マヤさんとメグさんはいつもどおりみたいですね、よかった……」

メグ「いつもどおり?」

マヤ「何のこと?」

チノ「こっちの話です。気にしないでください」

チノ(とりあえずこの状況を収めるには…… やっぱり言うしかないよね?)

チノ「えっと、ココア……お姉ちゃん」

ココア「!」

チノ「私、怒ってないです」

ココア「……ほんと?」

チノ「本当です、だから元気出してください。あとお店で騒ぐのはやめてください」

ココア「これからも私と姉妹でいてくれる?」

チノ「ええ、姉妹ですよ。ココア……お姉ちゃん」

ココア「よかったぁ!チノちゃんに捨てられるかと思ったよぉ!」

チノ「呼び方一つでそんな大げさな」

ココア「大げさじゃないよ!大事なことだよ!お姉ちゃんと呼ばれることのありがたさを痛感したよ!」

チノ「痛感したんですか……」

シャロ「……で、これで千夜は今日喧嘩する理由がなくなったのよね?」

千夜「そうね。もう十分、敵に塩を送ったと思うわ♪」

チノ「え?」

リゼ「どういうことだ!?」

シャロ「あんた気づいてなかったの?今日の喧嘩はチノちゃんとココアが仲直りできるようわざと吹っかけたのよ」

シャロ「そもそも千夜とココアは宿敵と言いながら仲良しでしょ。ココアが弱っているときまで本気で喧嘩するわけないじゃない」

千夜「ふふっ、シャロちゃんお疲れ様。リゼちゃんを足止めしてくれてありがとう」

シャロ「まったく、とんだ茶番だったわね」

チノ(よかった…… こっちでもココアさんと千夜さんは友達なんだ)

リゼ「そういうことだったのか。ありがとう、千夜、シャロ!」

千夜「どういたしまして。シャロちゃん、リゼちゃんに感謝されてよかったわね」

シャロ「別によくない!」

チノ(シャロさんがリゼさんにツンツンしているのは演技じゃないらしい)

ココア「千夜ちゃん、この借りは必ず返すよ!」

千夜「じゃあ早速返してもらおうかしら。少しの間チノちゃんとリゼちゃんを甘兎に連れて行くわね」

ココア「へ?」

チノ「え?」

リゼ「おいおい」

マヤ「いざ、甘兎へ出発だ!」

メグ「出発だ~!」

シャロ「帰ったら片付けしなくちゃ」

千夜「またね、ココアちゃん」

ココア「えぇえぇえぇーーーーーーーーー!?」

メグ「いつみてもすごいよね~」

マヤ「甘兎のやたら渋い看板も目立つけど、やっぱ隣に比べたらなー」

チノ(ナニコレ)

チノ(……なんで甘兎の隣に立派なお家が建ってるんだろう?リゼさんの家ほどじゃないけど。シャロさんの家はどこへ?)

リゼ「今日はどっちで打ち合わせするんだ?」

千夜「さっきも言ったとおり当然甘兎よ。せっかくマメちゃんもいるんだから、うちの宣伝もしなきゃね!」

マヤ「えー、シャロの家に行くの楽しみにしてたのに。せっかく目の前にあるのにさ」

チノ(もしかしてこれがシャロさんの家!?)

シャロ「別にいつでも来ていいのよ?それに、新学期が始まったら放課後に寄ることもできるじゃない」

チノ「同じ学校ですもんね」

チノ(私とココアさん、千夜さんとは別の学校だけど)

マヤ「うん!7人みんなで学校に行くの楽しみだなー!」

チノ(7人!?)

メグ「どうしたのチノちゃん?そんなに驚いた顔して」

チノ「えっ、そのっ、みんなと同じ学校に行くって実感があまりなくてですね」

メグ「そっか~、今までは高校と中学でわかれてたもんね」

チノ(7人とも同じ学校?つまりシャロさんやリゼさん、マヤさんにメグさんも一緒?やっぱりここは本当に平行世界なんだ)

チノ(ん、リゼさん?……まさか!?)

チノ「あの、リゼさんって何歳でしたっけ?」

リゼ「何言ってるんだ、17歳に決まってるだろ?ココアたちと同じ学年なんだから。今年度はまだ始まったばかりだぞ?」

チノ「そうですよね、おかしなことを聞いてすみません」

チノ(やっぱり!だからこっちのシャロさんはリゼさんを呼び捨てするんだ。ツンデレになってるのは…… なんで?)

リゼ「まあ、もうすぐココアは18歳だけど。そのための打ち合わせだしな。さっき千夜達が乗り込んできたの、本当は私達を呼びに来ただけなんだろ?」

千夜「ええ!貸しがあってもなくても二人を攫っていくつもりだったわ!」

リゼ「攫うな、普通に連れて行け」

チノ(そうか、もうすぐココアさんの誕生日。だからココアさんが置いてけぼりだったんだ)

マヤ「打ち合わせって言っても当日の流れはほとんど決めてあるじゃん。今日何話すの?」

シャロ「プレゼント。個別に渡す分は被らないようにしたいのよ」

マヤ「なるほどなー」

千夜「みんなは中で座って待ってて。私達は片付けをしてくるわ」

シャロ「片付けしてからにしようって言ったのに。やっぱりみんなを待たせちゃうじゃない」

千夜「すぐに呼びたかったのよ。みんなと一緒のほうが楽しいでしょ?」

チノ(みんなと、一緒……)

チノ(そういえばシャロさんが着てる服、私が甘兎で職業体験のときに着た制服だよね)

チノ(こっちの世界では、千夜さんとシャロさんが同じ制服を着て働いているんだ)

千夜「今日はこれで解散ね、お疲れ様。当日は我が宿敵を盛大に驚かせるわよ!」

リゼ「当日は喧嘩するなよ?」

千夜「もちろん」

リゼ「……じゃあラビットハウスに戻るか。向こうに荷物置いたままだし」

チノ「はい」

チノ(ココアさんへのプレゼント…… どうしよう、何も考えてなかった)

チノ(さっきの打ち合わせでみんなが何を渡すかわかったから、それとは被らないようにしなきゃ)

チノ(……いつ元の世界に帰れるかなんてわからない。それまではこっちで暮らすしかない)

チノ(だから、プレゼントも真剣に考えないと。考えないといけないけど……)

チノ(すごく嫌な予感がする。プレゼントのことなんて考えられないくらい)

リゼ「チノ、今日何かあったのか?」

チノ「え?」

リゼ「目が覚めてからずっと浮かない顔してたからさ。悩みがあるなら相談にのるぞ?」

チノ「……リゼさん。今の高校って、ココア……お姉ちゃんに千夜さん、シャロさんと一緒に通ってるんですよね?」

リゼ「当たり前じゃないか」

チノ「今、みんなと一緒の学校生活、楽しいですか?」

リゼ「ああ、もちろん!これ以上ないくらい楽しい学校生活だよ」

チノ(……)

チノ「よかったです。学校でまでさっきみたいに喧嘩してたらどうしようかと」

リゼ「残念だがあの二人は学校でも喧嘩してる。新学期からはストッパーが増えるから助かるよ」

チノ「それ私のことですか!?」

チノ「ただいま」

ココア「チノちゃん、おかえりなさい!寂しかったよぉ!」ギュッ

チノ「ぐるじい…… 離れてください」

リゼ「先に着替えて帰るからな。お疲れ」

ココア「お疲れ様!」

チノ「お疲れ様です」

ココア「さぁチノちゃん、晩ごはんを食べよう!今日は私が作ったんだよ!」

チノ「私まだ着替えてないんですが」

ココア「そうだった!急いで着替えてきてね、お爺ちゃんも待ってるから!」

チノ「え!?」

チノ(お爺ちゃんが生きてる!? そんなわけ…… いる。生きてる。座って待ってる)

ココア「そうそう、今日淹れたコーヒーは自信あるんだよ!」

チノ「ココア……お姉ちゃんが淹れたんですか?」

ココア「うん!今日こそはお爺ちゃんを認めさせるよ!ラビットハウスを継ぐために、私はお爺ちゃんを越える!」

チノ「ラビットハウスを…… 継ぐ?」

ココア「チノちゃんには私の夢を何度も話したでしょ?」

チノ「ええっと……」

チノ(街の国際バリスタ弁護士……だったのが、パンも焼けるバリスタマジシャン弁護士になったんだっけ)

チノ(でも本当はパン屋さんになりたくて、モカさんの背中を追うだけじゃなくて対等になりたいって……)

ココア「私の夢、それは立派なバリスタになって、ラビットハウスを大きくすること!」

チノ(え?)

ココア「そしてラビットハウスを世界で一番大きな喫茶店にする!」

チノ「ちょっと待ってください!パン屋さんになりたいって話はどこへ行ったんですか!あとあのやたら長いのも」

ココア「パン屋さん?モカお姉ちゃんじゃないんだから。ホットベーカリーのパン、美味しいよね。あと長いのって何?」

チノ「ココアお姉ちゃんの憧れはモカさんじゃないんですか!?」

ココア「もちろんモカお姉ちゃんは私の憧れだよ?パン作りも教えてもらったし。でも、夢まで真似るつもりはないかな」

チノ「……!」

チノ(これはまさか)

チノ「……ココアお姉ちゃん、名字、教えてください」

ココア「名字?私の……?なんで急に」

チノ「いいから早く!」

ココア「しょうがないな~。……私達の名字は『香風』でしょ?」

チノ(そうだよね、だから『ココアお姉ちゃん』呼びなんだ)

チノ(ココアさんと千夜さんが争っていたのは二人とも自分たちのお店を継ぐからで……)

ココア「チノちゃん?」

チノ(わかってる、ここは平行世界で、私の世界じゃない。でも、これじゃまるで……)

ココア「チノちゃん!」

チノ「はい!?」

ココア「着替えて晩ごはん食べよ?」

チノ「はい……」

ココア「なにか悩んでるのかな。後でチノちゃんの話聞かせてね?そんな暗い顔だと、私も悲しくなっちゃうから」

チノ「すみません」

ココア「謝ることないよ!私はお姉ちゃんなんだから、妹のことを心配するのは当たり前でしょ?」

チノ「すぐに着替えてきますね」

ココア「待ってるよー!」

チノ(ココアさんを心配させてしまった。早く着替えなきゃ ……なにか聴こえてくる?)

「I wish you 銀色のスプーン 愛をすくって♪」

チノ(お店で誰かが歌ってる?それにこの曲は…… )

「いつもいつまでも あなたへと♪」

チノ(銀のスプーン!?)

「訳なんてないわ♪」

チノ( あの曲を歌う人なんて…… いや、いくら平行世界でもそんなはずは……)

サキ「出会う前から ずっとずっとずっと愛してる♪」

チノ(おかあ、さん)

チノ(お母さんだ。間違いない、間違えるはずがない)

チノ(お話したい!でも、今は駄目。お仕事の邪魔になる。そもそも、この世界ではお母さんがいるのが当たり前で……)

チノ(……みんなで同じ高校に通うって話を聞いた時に薄々気がついてはいた)

チノ(元の世界では納得していたけど、それでもやっぱりチマメ隊3人で同じ高校に通えたほうがいいに決まってる)

チノ(高校生組もそうだ。4人とも同じ学校で、同じ学年だったら嬉しいに違いない。リゼさん曰く、これ以上ないくらいに)

チノ(元の世界のシャロさんはきっとリゼさんと同じ学年になりたいと思ってそう。こっちの世界では素直になれずにツンデレだけど)

チノ(こっち世界のシャロさんはお金に困っていないだろうし、千夜さんはシャロさんと一緒に甘兎で、同じ制服で働くことができる)

チノ(こっちのココアさんは正真正銘私のお姉ちゃんだ。痛感なんて言ってるあたり、元の世界のココアさんほどこだわってるいわけではなさそうだけど)

チノ(お爺ちゃんはティッピーの中に入っていない。お母さんも生きている)

チノ(それに、ココアさんが卒業した後も、きっとこの街にいる。ずっと一緒にいられる。みんなずっと一緒なんだ)

チノ(……つまり、この世界は)

チノ(私達にとって理想の世界)

ココア「おやすみ、チノちゃん」

チノ「おやすみなさい、ココアお姉ちゃん」

チノ(嫌な予感は当たってた。こんな世界を見せられて、元の世界に帰りたいなんて言えるはずがない)

チノ(こっちの世界のラビットハウスのほうが売上が良さそうだし……)

チノ(それに、私がいなくなった後この世界はどうなるだろう?もしも、みんな幸せなこの世界がなくなるなんてことがあったら……)

チノ(でも、帰らなきゃ、元の世界にはみんなが…… みんなが……)

チノ(……こっちの世界にもみんなはいるんだった。じゃあ、帰らなくてもいいんじゃないかな?)

チノ「……誕生日プレゼント、考えなくちゃ」

チノ(とはいえ、悩みの相談と称してココアさんが欲しそうな物をうまく聞き出せたし、あとは買うだけ。これ以上考える必要もないよね……)

チノ(他のことを考えて気を紛らわせたかったのに…… 寝るしかないかな)

チノ(おやすみなさい)

ココア「今日も元気にお仕事だね!コーヒーは淹れられないけど!今日はお爺ちゃんがやるから!!」

チノ「昨日のコーヒー、認めてもらえませんでしたね」

ココア「でもだからってお店で淹れさせてくれないなんて!努力あるのみなのに」

チノ「仕事のない時か、お爺ちゃんがお休みの日に頑張ってください」

ココア「そんなぁ。でも、お爺ちゃんのおかげで、今日はリゼちゃんがお休みを取れたんだから仕方ないか」

チノ「ですね」

チノ(こっちの世界のラビットハウスは二人じゃ回らない……らしい)

千夜「情けない姿ね、我が宿敵よ!」バァン

ココア「千夜ちゃん!?」

千夜「ふふふ、あなたがこんな調子なら今月の売上は」

チノ「それ昨日聞きましたから!」

チノ「で、今日はなんで喧嘩しに来たんですか?」

千夜「リゼちゃんのいない今が攻め時かと思ったの♪もうココアちゃんも元気になっただろうし、思う存分戦えるわ!」

ココア「望むところだよ!全力で迎え撃つから!」

チノ「望まないでください迎え撃たないでください!お爺ちゃん、二人を止めて……逃げてる!?」

千夜「看板娘がコーヒーを淹れさせてもらえないなんて、この店も落ちたものね」

ココア「ラビットハウスごっこをよくやってる甘兎の看板娘には敵わないよ」

千夜「どこでそれを!……チノちゃんの職業体験のときに流出したのね!?やるわねココアちゃん」

ココア「そっちこそ!」

チノ(このまま喧嘩を続けられるとお客さんが来たときに困る!仕方ない……)

チノ「ココア……お姉ちゃん、喧嘩するのはやめて?」

チノ(恥ずかしい!けどこれなら……)

ココア「チノちゃん、その願いは聞けないよ。これはプライドをかけたマジの勝負なんだから!」

千夜「チノちゃんに私達の戦いを止めることはできないわ!」

チノ(何故か悔しい!たぶん元の世界のココアさんなら止められたはずなのに。この世界のココアさんはお姉ちゃんと呼ばれ慣れてるんだ)

リゼ「二人ともやめろ!お客さんが来たらどうする!」

ココア「あ、リゼちゃん。その服可愛いね!」

リゼ「褒めても容赦する気はないからな?」

チノ(あの服可愛い。元の世界の17歳の頃のリゼさんだと着るのを恥ずかしがりそう)

シャロ「ちょっと千夜!この時間にやるのは営業妨害でしょ!?」

千夜「あら、シャロちゃんはリゼちゃんの味方?」

シャロ「ええそうよ!リッ、リゼが今度のお休みに、買物に付き合ってくれるって約束してくれたから……」

リゼ「残念だったな千夜、シャロは買収済みだ」

ココア「買収!?」

チノ(ツンデレのデレなのかな……?)

リゼ「……ふぅ、ようやく止められたか。助かったよ、シャロ」

シャロ「やっ、約束忘れないでよね!」

リゼ「ああ、約束は必ず守るよ」

マヤ「チノ、ココア、リゼ、遊びに来たよー!」

メグ「リゼさん私服ってことは、今日はリゼさんがお休みの日だったのかな?」

チノ「マヤさん、メグさん!」

マヤ「千夜がいるってことは今日も戦争してたの?」

チノ「はい。リゼさんとシャロさんが止めてくれました」

メグ「新学期からは、学校でも見られるんだよね。楽しみだな~」

チノ「楽しみにしないでください」

メグ「ココアちゃんと千夜ちゃんの戦争以外にも楽しみなことはいっぱいあるよ?」

マヤ「休み時間に話したり、一緒に購買に行ったりさ!」

メグ「文化祭も待ち遠しいよね」

チノ「……放課後にみんなで買い食い、なんてこともできるかもしれませんね」

マヤ「チノがそれ言うの意外かも」

チノ「そうですか?」

ココア「あ、定期試験対策は先輩の私達に任せて!受験勉強よりも気楽だからお喋りしながらでもいいよね!」

シャロ「それ喋るのに夢中で勉強進まないと思うわよ」

リゼ「ココアの教え方じゃあてにならないんじゃないか?」

ココア「そんなことないもん!」

千夜「つまり私とココアちゃん、どちらのほうが教えるのが上手いか勝負しろということね!」

リゼ「全然違うからな?」

ココア「お仕事終了、お疲れ様でした!」

チノ「お疲れ様でした」

ココア「今日もお客さん多かったねー」

チノ「千夜さんとの喧嘩をお客さんに目撃されなかったのは奇跡ですね」

ココア「ごめんねー」

チノ「またココアさんって呼びますよ」

ココア「それは勘弁してください!それより、今日はバータイムがお休みだから久しぶりに家族みんなで晩御飯だよ!」

チノ「みんなで…… お母さんも……」

ココア「うん!早く戻ろ、チノちゃん!」

チノ「はぁ、お母さんに免じて許してあげます」

ココア「よくわからないけどありがとうお母さん!」

チノ(4月10日、ついにこの日が来た)

千夜「戦いの火蓋は切られた。いざ尋常に勝負!てやぁぁああ!」ブンッ

ココア「うわぁあ!?……なにこれ、小包?」

千夜「我が宿敵ココアちゃん!……ハッピーバースデイ!あ、後これは私からのプレゼント。さっきのはみんなで選んだプレゼントよ」

リゼ「おめでとうココア、私からもプレゼントだ」

シャロ「誕生日おめでと。これプレゼント」

マヤ「ココア、誕生日おめでとう!今日は盛大に祝うからね!」

メグ「ココアちゃん、おめでとう!」

チノ「えっと、ココアお姉ちゃん、お誕生日おめでとうございます。これ、受け取ってください!」

ココア「愛の告白の書かれたラブレターかな?」

チノ「違います!」

ココア「みんな今日はありがとう!まさかサプライズされちゃうなんて」

リゼ「私の誕生日だって祝ってもらったしな。あれ本当にびっくりしたんだぞ?」

ココア「えへへ。でもまさか千夜ちゃんにまで祝ってもらえるなんて。千夜ちゃんの誕生日も絶対にお祝いするからね」

千夜「祝うのは当然よ!だってココアちゃんは宿敵と書いてダチと呼ぶんだから!」

ココア「宿敵(ダチ)!いい響きだね!」

千夜「ココアちゃん!」スッ

ココア「千夜ちゃん!」ガシッ

シャロ「なんで誕生日会で握手交わしてるのよ」

千夜「私達の戦いの続きは、ここではなく学校でやりましょう!」

ココア「どんとこい!」

シャロ「やめなさいよ!!」

リゼ「止める方の身にもなれ!!」

ココア「楽しかったなー。ありがとね、チノちゃん」

チノ「どういたしまして。楽しんでもらえてよかったです」

ココア「チノちゃんから貰ったプレゼント、一生大切にするから!」

チノ「そう、ですか」

ココア「うん!」

チノ(一生…… 嘘か本当か、この世界ならきっと確かめられる。ココアさんはラビットハウスを継いでこの街に住み続けるんだから)

チノ(この世界は良い世界だと思う。こっちに来たばかりの時は、ココアさんと千夜さんが喧嘩していたり、シャロさんがリゼさんにツンツンで不安になった)

チノ(けど、本当はすごく仲良しで、向こうの世界と変わらなかった)

チノ(新学期の話をすると、この世界のみんなは笑顔になる。一緒にあれをしよう、これをしようって未来を語って)

チノ(お母さんと話すことだって、こっちの世界じゃないとできない。お父さんだって嬉しいはず)

チノ(お爺ちゃんはティッピーのような不自由な体じゃない。コーヒーを淹れることだってできる)

チノ(ココアさんは、ずっと私のお姉ちゃんだ。卒業してもいなくならない)

チノ(みんなとずっと一緒にいられる。寂しくないし悲しくない、最高の未来だよね)

チノ(向こうの世界では叶わない未来がこっちの世界では叶う)

チノ(だったら、このままずっと……)

リゼ『これっ 親父がプレゼントしろって 名前はワイルドギース 湯集な傭兵部隊からとった』

シャロ『最近ね 時間を忘れちゃうのよ』

千夜『私達立派な看板娘になりましょうね♪』

マヤ『ねぇチノ 飛び込んでみないとわからない世界ってあるんだね』

メグ『これからもずっとチマメ隊だ~』

チノ(みんな……)

ココア『今のみんなとは今しか思い出作れないもん』

ココア『一番の憧れはお姉ちゃん それはずっと変わらない でも背中を追ってるだけじゃなくて いつか対等になりたい』

ココア『あっ でも一番最初に出会ったのって… チノちゃんだよね うさぎを乗せた春の妹女神!』

ココア『私を姉だと思って何でも言って』

チノ(ココアさん……)

リゼ『じゃあその世界ではさ』

チノ『私達は一緒でしたか?』

メグ『もちろん!バラバラの制服でもね』

ココア「チノちゃん」

チノ「はいっ!なんですか?」

ココア「ふっふっふっ。チノちゃんの悩みは、まだ解決していないようだね!」

チノ「……」

ココア「お姉ちゃんに話してみて?私、チノちゃんの力になりたいな」

チノ「私には…… 大切な人たちが、今すぐに会いたい人たちがいます」

チノ「軍人のような振る舞いで頼りがいがあるけど、実は可愛いものも好きで、小学校の先生を目指している人」

チノ「親友と意気投合して周りを振り回すけど、困った時は相談に乗ってくれる、ちょっとネーミングセンスが不思議な人」

チノ「お嬢様のように優雅だけど本当は苦学生で、コーヒーで酔っちゃうこともあるけど、優しくて私の憧れの人」

チノ「元気いっぱいでやんちゃだけど、本当は気遣い屋さんで、私たち思いの寂しがり屋さんな人」

チノ「恥ずかしがり屋だけどバレエが上手、最近はツッコミもうまくなって、私たちのいいところを見つけるのが得意な人」

チノ「あと……」

チノ「お姉ちゃんに憧れていて、パンを作るのが大好きで、なんでも興味を示して、安心する匂いがして、何故か私の姉を名乗る人」

チノ「みんな、大切なんです」

チノ「でもその人達に会うためには、大切なものを失わなきゃいけないんです」

チノ「私は、それがすごく不安で……」

ココア「私達は!」

チノ「私達は?」

ココア「ずっと友達で、家族!そして姉妹だよ!何があっても、どんな場所でも、どんな世界でも!」

チノ「!」

ココア「大切なものを失う、それはすごく辛いことだと思う。でも、どんな辛い時も、私達がそばにいるから」

ココア「だから…… 会いに行って大丈夫。チノちゃんなら絶対に!」

ココア「私が保証するよ。お姉ちゃんにまかせなさーい!」

チノ「……ありがとう、ココアお姉ちゃん」

ココア「えへへ、どういたしまして。もう大丈夫みたいだね」

チノ「はい!」

ココア「それじゃあね、チノちゃん。おやすみなさい」

チノ「おやすみなさい」




チノ(行ってきます)

ココア「───ちゃん、チノちゃん!」

チノ「……あれ、ココアさん?」

ココア「よかった!目が覚めたんだね!階段から落ちた時はどうなることかと思ったよ!」

チノ「落ちたと言っても数段でしたよね。そんなに大したことは……」

ココア「大したことあるよ!大切な妹が気を失ってたんだよ!本当に心配したんだからね!!」

チノ「……ただいま、ココアお姉ちゃん」

ココア「……え?いま、お姉ちゃんって言った?お姉ちゃんって言った!?」

チノ「やっぱりいつものココアさんですね」

ココア「え、ちょっとそれどういう意味?あ、もう一回お姉ちゃんって呼んで!」

チノ「呼びません」

ココア「そんなぁ!」

チノ(……誕生日プレゼント、考え直さなきゃ)

ココア「そういえばさっきの話なんだけど」

チノ「さっきの話?」

ココア「パラレルワールドだよ、パラレルワールド!」

チノ「そういえばそんな話をしてましたね」

ココア「私も行ってみたいなー、チノちゃんがお姉ちゃんと認めてくれる理想の世界とか」

チノ「なんですかそれ」

チノ(理想の世界…… ふふっ)

ココア「あー、そこの扉が見知らぬ理想のパラレルワールドに通じてないかなー。さぁさぁチノちゃん、そこの扉を開けてごらん?」

ココア「扉開けた途端パラレルワールドへ!」



チノ「そんなのないですありえません」



~おわり~

ここまで読んでくれてありがとう
ココアさんハッピバースデイ

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