【ガルパン】×【古畑任三郎】 零距離射撃 (51)

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【ガルパン】×【古畑任三郎】 VSあんこうチーム - SSまとめ速報
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※諸般の事情により長らく中断してましたが再開。

※今回で一応最終回、VSまほです。

古畑『え~、長らくご無沙汰しておりました古畑です。射撃と格闘技は警察官の必修技能なんですが、
私、どちらも大の苦手です。特に射撃は銃の使い方も忘れちゃったくらいで…。でも、世の中には
私なんか想像もつかないような射撃の名人もいらっしゃるようで…』

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1591187123

熊本県某所・精神療養施設


みほ「お姉ちゃん、また来てくれたんだ、ありがとう。でもいいの?忙しいのに…」

まほ「いいんだ、気にするな。みほこそいいのか?具合はどうだ?」

みほ「うん、私は大丈夫だよ?昨夜はね、またボコがお見舞いに来てくたんだ」

まほ「みほ…」

みほ「お姉ちゃん、どうしたの?そんなに強く抱いたら痛いよ」

まほ「すまない…許してくれ…」

みほ「泣いてるの?変なお姉ちゃんだなあ」

まほ「…」

菊代「…」

まほ「菊代さん、みほの具合は…」

菊代「あまり良くありません…、先日はひどく暴れてしまって鎮静剤を打たねばなりませんでしたし…。
先生の話ではやはりこの間と同じで、これ以上の回復は難しいと…」

まほ「母はどうです?」

菊代「奥様もみほお嬢さまのために動いてらっしゃいますが、それでも…」

まほ「家元の仕事のついでにですか?」

菊代「お嬢さま!それは違います!奥様もみほお嬢さまのために…!」

まほ「菊代さん、試合があります。当分戻ってこられません。その間、みほのことをお願いします」

菊代「お嬢さま!バカなことは考えないでください!あれは本当に誰が悪かったわけでもないんです!」

まほ「…みほを頼みます」

東京湾・知波単学園の学園艦


絹代「いやあ、非公式の交流試合とはいえ、再び大洗のみなさんと轡を並べて戦える日が来るとはなあ」

細見「黒森峰女学園は我々2校に対して1校で相手をしようというですから、数の上では互角でも、
正直なめられているような気がしてあまりいい気分はしませんな」

絹代「まあそう言うな、あれはやはり王者の余裕とでも言うべきなのだろうな」

福田「それにしても、西住隊長殿のことが心配であります」

絹代「ああ、お加減が悪くて入院なさっておられるとのことだが、大丈夫だろうか。大洗のみなさんにも
面会謝絶とのことだが」

玉田「そんなにお加減が悪いのですか」

絹代「いや、全く情報が入ってこなくてな。おや?あれは…」

絹代「やあ、秋山殿ではありませんか。どうなさったんですか?」

優花里「西隊長、ちょっと整備を手伝うついでに見学させてもらってたところで。
じゃあこれで失礼します、明日はよろしくお願いします」

絹代「ええ、こちらこそよろしくお願いいたします」

福田「相変わらず研究熱心な人ですなあ」

絹代「本当に戦車が好きなんだろうなあ、我々も見習わねばならんな」


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戦車格納庫の近く・公衆電話

優花里「秋山です、完了しました」

まほ「ああ、こちらでも確認した。だが、自分でやらせておいてこんなことを言うのはなんだが、
君は本当にこれでよかったのか?」

優花里「どうなんでしょう…、おそらく死ぬまで苦しむと思います…。でも、これが私に与えられた
罰なんだと思います…。近くにいながら西住殿を…妹さんを助けることが出来なかった私への…」

まほ「…ありがとう、君や武部さんたちはみほに本当によくしてくれた、心から礼を言うよ。
だがもう十分だ、あとは私1人でやる」

エリカ「隊長、準備完了です」

まほ「エリカ、もう隊長はよせ。今はもうお前が隊長なんだから」

エリカ「申し訳ありません、まだ自覚が足りませんね…」

まほ「それよりもすまなかったな、私の我儘に付き合わせてしまって」

エリカ「気にしないでください。指示通り、中等部で教練用に使ってたⅣ号D型を用意しました。
搭乗員も1年生の2軍の中から使えそうな者を選抜してあります」

まほ「ありがとう、助かる」

エリカ「でも装填手、操縦士、通信手の3人だけで本当によかったんですか?」

まほ「ああ、私が車長と砲手を兼任する」

エリカ「それと、なぜD型なんですか?D型は火力支援用の初期型で、火力も装甲もⅣ号の
シリーズの中では最低のクラスです。F2型やG型もありますが…」

まほ「つまらない感傷だと思われるかもしれないが、D型はみほが大洗に転校してから最初に
乗った戦車だからな。みほがどんな気持ちであのD型に乗ったのか…」

エリカ「…」

まほ「エリカ、今度の試合では頼む。指揮官としての活躍を楽しみにしてる」

エリカ「はい!まかせてください!」

まほ「私はちょっと我儘をさせてもらおう、おそらくこれが最後の試合になるだろうからな」


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柚子「あっ…、あれ…」

杏「あっ…」

まほ「…」

桃「おっ…おい!あれは仕方なかったんだ!学園艦と、生徒たちやそこに住んでる大勢の人たちの…」

杏「河嶋、やめて」

桃「でも…」

まほ「大義のためか?正しい目的のためなら何をやっても正当化されるのか?私の妹を犠牲にすることもか?」

桃「それは…」

まほ「もういい、お前らもお母さまや宗家の奴らと同類だな。地獄に落ちろ。それだけだ」

柚子「あっ!待って!」

杏「小山、河嶋、もういいよ…。あたしらみんな西住ちゃんにもその身内にも恨まれても仕方ない
ことしちゃったんだから…」


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操縦士「西住先輩!今日はよろしくお願いします!操縦士の佐藤です!」

装填手「装填手の田中です!」

通信手「通信手の鈴木です!」

まほ「西住だ、こちらこそよろしく頼む」

操縦士「あの西住先輩と一緒に戦えるなんて夢みたいです!足を引っ張らないようがんばります!」

まほ「そう硬くならないでくれ、普段通りに頼む。君たちの腕前はエリカから聞いている、期待している」

まほ(すまない、こんなことに利用してしまって…。私もあいつらのことを言えないな…)

『試合開始!』

装填手「あれ?西住先輩、それは…」

まほ「ああ、タブレット端末だ、作戦確認用のな」

操縦士「西住先輩がその手の機材を使われるのってちょっと意外です」

まほ「おいおい、そんな事では知波単の連中を笑えないな。大学選抜チームや社会人チームでも使われてるからな、
ルール上は問題ない。まあ無線傍受なんてのは論外だが、新しいやり方はどんどん取り入れるべきだと思う」

通信手「我々なんかよりもずっと柔軟な考えを持ってらっしゃるんですね」

装填手「勉強になります」

まほ「操縦士、佐藤だったな、図上C-20地点へ移動。あそこは待ち伏せには絶好の場所だ、うまくいけば裏を
かけるかもしれない。通信手、エリカにその旨を伝達。最初に言ってた通り、我々はサッカーやバレーボールで言う
ところのリベロ、つまり自由ポジションだ。先行しての威力偵察と敵の攪乱が主な任務となる。各員注意を怠らないように」

操縦士「はい!」

装填手「はい!」

通信手「了解しました!」


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エルヴィン「ん?なんだ?」

左衛門佐「どうした?」

エルヴィン「いや、あの辺りには味方はいなかったはずだが…、ああっ!黒森峰のⅣ号だ!敵襲!」

カエサル「回り込まれる!おりょう、急げ!」

おりょう「だめだ!間に合わん!」

通信手「すごい!先輩の予測通りです!」

まほ「装填手、可能な限り早目に再装填を頼む。操縦士、今の速度とコースを維持、合図で停止」

操縦士「はい!」

『大洗女子学園・Ⅲ号突撃砲、行動不能!』

カエサル「がああっ!やられた!」

エルヴィン「完全に裏をかかれたな…」

装填手「すごい…、あのスピードで行進間射撃を命中させるなんて…」

まほ「おい、次発の装填を頼む。見とれるのは後にしてくれ」

装填手「はっ、はい!」

『知波単学園・97式中戦車改、行動不能!』

細見「こちら待ち伏せ班!至急応援を要請!」

まほ(いた…、見つけたぞ…)

まほ「ヘッツァーだ、おそらく待ち伏せチームの指揮車輌だ。確実に叩く」

操縦士「はい!」

装填手「はい!」

まほ「停止」

Ⅳ号D型、発砲。

通信手「命中です!」

まほ「まだだ、履帯を飛ばしただけだ。まだ白旗は出てない、回り込んでとどめを刺す」

桃「え?なに?機銃掃射されてる?」

杏「あ…、河嶋!小山!脱出しろ!車外に出るんだ!」

柚子「えっ!?」

杏「いいから早く!急げ!」

まほ(気付いたか…、だがもう遅い)

ヘッツァー、砲撃を受けて爆発。

『事故発生!直ちに競技を中止してください!繰り返します!事故発生!直ちに競技を中止してください!』

沙織「ああっ…」

華「なんてこと…」

麻子「だめだ…、あれじゃ助からない…」

優花里「…」


まほ(みほ…、こんなことをしてもお前が喜ばないことはわかってる…。でも、どうしてもやらずにはおれなかったんだ…)

古畑、自転車に乗って登場。

西園寺「あっ、古畑さんこちらです」

古畑「んー、で、どんな状況?」

西園寺「事件か事故かの判断がまだつかないので来ていただいたんですが、十中八九事故でしょうね。
戦車道の試合中に砲弾が命中した戦車が爆発、乗っていた3名が亡くなりました」

古畑「んー、戦車道の戦車って特殊カーボンで内部を守られてたんじゃなかったっけ?」

西園寺「それなんですが、何かの拍子に後部ハッチの蝶番が破損して、ハッチがずれて出来た隙間に
成形炸薬弾が命中、内部に成形炸薬の燃焼ガスが吹き込んだ原因と思われるというのが審判員の方の
推測です」

古畑「あー、それなら確実に事故だねえ」

西園寺「そうですね、狙って出来ることじゃありませんし。成形炸薬弾の燃焼ガスといえば金属が蒸気になる
ほどの高温と高圧ですからね、まともに浴びたら人間の身体なんて黒焦げどころか一瞬で灰になりますよ。
戦車の中はひどい有り様です、苦しむ間もなく一瞬のことだったのがせめてもの救いだったんでしょうが…」

古畑「ちょっと待って、今泉くんはどうしたの?」

西園寺「今泉さんだったら向島さんのパトカーの中で寝てます。炎上した戦車の中を覗いたら気分が悪くなったそうで」

古畑「…」

古畑「何やってるの君は。起きなさい。ほら起きなさいって」

今泉「だって…、あんなの見たら気持ち悪くなっちゃって…」

古畑「本当になにやってんの君はもう」

おでこペチっ

古畑「…で、亡くなった人たちはひとまず置いとくとして、撃った方の人は?」

西園寺「はい、砲手だったのは西住まほさん、黒森峰女学園の3年生で前隊長だそうです」

古畑「西住まほ?砲手だったの?車長じゃなくて?」

西園寺「はい、砲手と車長を兼任してたそうで…、あの、ご存知なんですか?」

古畑「いや、有名な選手だからねえ。そうか、砲手だったのか…。西園寺くん、戦車の位置は事故当時のままなの?」

西園寺「はい、そのままになってるはずですが…」

Ⅳ号D型に乗り込んで砲手席に座る古畑。

西園寺「あの…、何か不審なことでも…」

古畑「んー、この戦車と被害に遭った戦車との距離はだいたい70mくらいかあ…」

ヘッツァーの残骸に向かう古畑。

今泉「古畑さん、中は見ないほうがいいですよ」

古畑「西園寺くん、あっちの戦車の機銃の薬莢受けの中の薬莢、調べといて」

西園寺「どうしたんですか?」

古畑「ここ、見てごらん」

西園寺「機銃弾が命中した痕ですね、それが…」

古畑「こんなハッチの蝶番が完全に飛ばされるものかなあ?」

つづく

古畑「え~、副隊長で主計担当の赤星小梅さんですね。私、警視庁捜査一課から参りました古畑と申します」

小梅「「えっと…あの…」

古畑「ああ、隊長の逸見さんや当事者の西住さんには後でお話を伺いますので。ちょっと赤星さんに
お尋ねしたいことがありまして」

小梅「はあ…」

古畑「で、これなんですが。これ、砲塔の同軸機銃の薬莢受けの中で見つけました。普通、薬莢って真鍮で出来てて
金色ですよねえ、でもこれは銀色なんですよ。これって一体何でしょう?」

小梅「ああ、これはK弾ですね。特殊徹甲弾です。タンカスロンでⅠ号戦車やCV33みたいな機銃しか
搭載していない戦車でも撃破判定が取れるように、装甲を貫通出来る弾薬なんです。火薬の量を多くして、
なおかつ燃焼速度の速いものにしてあるんです。だから真鍮じゃなくてチタン合金で出来てるんですよ」

古畑「それって普通の戦車道の試合でも使うんですか?」

小梅「まあ作戦によってはなくはないんですが…」

古畑「はい、ありがとうございました。またお話を聞くことがあるかもしれませんので、その節は
よろしくお願いします」

古畑「え~、西住まほさんですね、私、警視庁捜査一課から参りました古畑と申します」

まほ「ああ、お疲れ様です。本当に申し訳ありません、私のせいでこんなことになってしまって…」

古畑「いえいえ、誰のせいでもありませんよ、事故のようですからねえ。それとも何かお心当たりでも…?」

まほ「いや、そんな…」

古畑「で、いくつかお尋ねしたいことがありまして…、よろしいでしょうか?」

まほ「はい、なんでしょう?」

古畑「え~、まずどうして成形炸薬弾を使用なさったんですか?ヘッツァーの後面の装甲厚は
たったの8mmです。わざわざ成形炸薬弾を使用しなくても普通の徹甲弾や、あの距離なら榴弾
でも撃破可能だったはずです。なぜですか?」

まほ「それは成形炸薬弾しか積んでいなかったからです」

まほ「Ⅳ号D型の75mm砲は火力支援用の榴弾砲です。徹甲弾も発射可能ですが、砲身が短くて
初速を稼ぐことが出来ないので…」

古畑「ああ、だから運動エネルギーではなくてノイマン効果による化学作用でダメージを与える
成形炸薬弾を…。でも射程が短くて弾道も安定しない成形炸薬弾だけで戦うなんて大したものですねえ」

まほ「そこは戦術と腕です。戦車道についてよく勉強されているようですね」

古畑「ええまあ。それと一つ気になることがありまして…。亡くなった3人の中で…、あ、歯型の照合
から装填手の河嶋桃だと判明したんですが、床下のエスケープハッチを開けて車外に逃げようとした
形跡があるんですよ。試合中になぜそんなことをしたのか…」

まほ「撃たれているうちにパニックに陥ったとか?」

古畑「え~、それはどうでしょう。昨日今日始めたばかりの素人ならともかく、全国大会で優勝するような
選手がそんなパニックに陥ったりするでしょうか?」

まほ「何が起こるかわからないのが戦車道ですからね」

古畑「いやあ、他の人が言ったのなら都合のいい言い訳にしか聞こえないんでしょうが、
あなたほどの選手から聞くとやっぱり違いますねえ」

まほ「…」

古畑「それと、なぜ機銃の弾に特殊徹甲弾を使ったんですか?」

まほ「それが私の一番の過失のようです。うっかり曳光弾と間違えて給弾ベルトに装填
してしまったようです。それでこんなことになってしまって…」

古畑「まあまあ、こんなことになってしまって、気に病むなとか仕方ないとかなんてとても
言えませんが、過失は誰にでもあることですから」

まほ「本当に申し訳ありません、そう言っていただけるとありがたいです」

古畑「ええ、『過失』でしたらねえ」

まほ「…」

古畑「ではまたお話を伺うことになると思いますが、今日はこれで失礼します」

まほ「…」


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古畑「西園寺くん、彼女、嘘つきだねえ」

西園寺「どういうことですか?」

古畑「例の薬莢、薬莢受けの中の底の方に5個固まってたんだよねえ。曳光弾って普通5発から
10発おきに給弾ベルトに装填するものだよねえ、彼女の言うように本当に曳光弾と間違えた
のなら、薬莢受けの中全体に散らばってるはずだよ。底の方に固まってたってことは、ベルトの
最初の方に5発まとめて装填してあったってことだねえ」

西園寺「確かにそうですね」

古畑「ということだから彼女と被害者の関係について調べといて」

西園寺「動機があったかどうかですね」

古畑「うん、よろしく」


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菊代「井手上菊代と申します。西住家の皆さまのお世話をさせていただいております」

古畑「あ、どうも。警視庁捜査一課の古畑と申します。今日はご無理を申し上げまして…。それで、西住まほさんと
亡くなった3人との関係なんですが…」

菊代「どこから話せばいいのか…。事の起こりは第62回全国戦車道高校生大会の決勝戦でした」

古畑「ええ、憶えてますよ。確か妹のみほさんが川に落ちた僚車の乗員を助けようとして川に飛び込んで、
それで試合に負けてしまったんですよねえ」

菊代「はい…、確かに試合には負けてしまって、黒森峰は10連覇を逃してしまいました。ですが、
みほお嬢さまは決して間違っていなかったと思います」

古畑「ええ、私もそう思いますよ。彼女の判断は人間として間違っていなかったと思います」

菊代「ですが、宗家の方々はそうは思いませんでした…。特に、あの頃は奥様は筆頭師範から家元になったばかりの
時で、宗家の方々の中にはそれを良く思われない人たちもおられまして、あのことは奥様を攻撃する材料に利用され
ました。お嬢さまたちは内外でそれこそ針の筵だったと思います」

菊代「みほお嬢さまは人助けをしたことを叱責された上に自身の戦車道を否定され、奥様から見放されたように感じた
のでしょう。逃げるように転校なさって、それを奥様がさして止めようとなさらなかったのも、そういう思いに拍車を
かけたのだと思います」

菊代「そして、まほお嬢さまはみほお嬢さまをご自身を犠牲にしてでも守らなければと考えて
おられました。それは成行きでお2人が敵味方に分かれてしまった後もです」

菊代「ですが、転校した先でもみほお嬢さまには不幸が付いて回りました」

古畑「ええ、大洗女子学園の廃校問題ですね」

菊代「はい、お嬢さまは学校を廃校から救うため、一度は捨てたはずの戦車に再び乗る
ことになりました。新たに得た居場所や友達はお嬢さまにとって本当にかけがえのない
ものだったのです」

菊代「そして、それを守るためにはお嬢さまの能力の限界を超える必要がありました。生徒会の
人たちは抗不安薬などの向精神薬を自分たちの権限を使ってお嬢さまに違法に処方していました。
全てが終わった後、お嬢さまは以前とは違っていました。でも宗家の人たちはそのことを隠蔽
したのです」

古畑「そうでしょうねえ、家元のお嬢さんがそんなことになったと世間に知れたら大変ですよ」

菊代「生徒会の人は更にそれを取引に利用しました。隠蔽に協力するかわりに、廃校の問題に
関して文科省に対して圧力をかけろと…」

古畑「で、みほさんは今は…?」

菊代「みほお嬢さまは今は熊本にある病院に入院なさっています。まほお嬢さまは大洗や宗家の方々以上に
ご自分を許せないでおられます。古畑さん、お願いします、まほお嬢さまを助けてください。このままでは
まほお嬢さままで…」

古畑「井手上さん、私は完全犯罪を成功させた女性を知っています。でも、法律から逃れることは出来ても
その人のその後の人生はとても幸せとは言えないものでした。彼女、私に言いましたよ、『完全犯罪なんて
やらなきゃよかった』って。人を殺した上で得られる幸せなんて存在しないんです。井手上さん、後は
我々にまかせてください」

菊代「古畑さん…、お願いします…」


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まほ「エリカ、どうした?」

エリカ「私のところにも刑事が来ました」

まほ「古畑さんか、彼は曲者だな」

エリカ「…貴方がやったんですね?」

まほ「なぜそう思うんだ?」

エリカ「貴方以外にいないじゃないですか。それに、貴方の腕前だったら十分可能です」

まほ「だとしたらどうする?警察に言うのか?」

エリカ「いえ、私なんかが何を言っても宗家の人たちに握りつぶされるでしょうし、そもそも
貴方が証拠を残しているとは思えませんから」

まほ「だったらどうするんだ?」

エリカ「貴方こそこれからどうするんですか?」

まほ「もうお母さまにも宗家の連中にも愛想が尽きたよ、予定通りにドイツに行く。宗家の連中もバカじゃない、私が
やったとバレる前にドイツに送って厄介払いするつもりだ。まあそれはこっちとしても好都合だがな。もう日本には
帰らない、向こうでお父さまの仕事を手伝うつもりだ。折を見てみほも呼び寄せる。お父さまが見つけてくれたんだが、
スイスにいい施設があるそうだ、そこに行ったからって治る保証はないが、あんな座敷牢みたいな所に閉じ込めておく
よりはずっといいはずだ」

エリカ「それじゃ西住流はどうなるんですか?」

まほ「エリカも会ったことがあると思うが本家の筋に大学選抜に行ったのがいるだろう、彼女がうちの養子に入って
後を継ぐことになるらしい」

エリカ「あの人だったらよく知ってますが本家の血筋だってのをひけらかすだけのバカじゃないですか。それに戦車
の腕前だって…」

まほ「そうだな、確かに人柄には問題があるし、肝心の戦車の腕前だってエリカやみほどころか、
小梅やエミにも及ばないだろう。だが外面はいいし、何より宗家の連中の言うことだったら何でも
喜んで従う。担ぐ神輿は軽い方がいいってことだろう」

エリカ「…」

まほ「エリカ、お前ももう…どうした?」

エリカ「…ふざけるなぁぁぁっ!」

まほ「おっ…、おいエリカ…」

エリカ「あんたもみほと同じじゃない!なんでもかんでも自分一人で抱え込んで、どうにもならなくなるまで
一人で我慢して…。そりゃあんたやみほみたいな天才に比べたら私みたいな凡人なんて全然役に立たないのは
わかるわ!でももっと頼りにしてくれてもいいじゃない!なんでこんなことになるまで一人で抱えてたのよ!」

まほ「エリカ…」

エリカ「決めました!私も一緒にドイツに行きます!」

まほ「おい、何を…」

エリカ「貴方みたいな人を野放しにはできません!隊長の暴走を止めるのも副隊長の務めです!
お願いです、そばに居させてください…。初めて会った時から、貴方のことが…」

まほ「エリカ…」

まほ「…エリカ、頼む」

エリカ「はいっ!」

まほ「少しだけ待っててくれ。まだ片付けなければならないことがいくつか残ってる」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


西園寺「でも古畑さん、いくら70mほどの零距離だからって、機関銃の、それも車載の同軸機銃で
最初の5発をまったく同じ場所に着弾させて、更に同じ場所に成形炸薬弾を命中させるなんて絶対に
不可能ですよ」

今泉「そうですよ、そんなのゴルゴ13でも無理ですよ」

古畑「ゴルゴ13にできなくても彼女だったら可能だったと思うよ。この資料見てごらん、6年前のものだけどね」

西園寺「全国社会人戦車道射撃大会…?」

古畑「彼女、同軸機銃の部と総合射撃の部で3年連続で優勝してるんだ」

西園寺「ちょっと待ってください、6年前って彼女まだ小学生じゃないですか」

古畑「そうだよ、彼女、まだ12歳なのに大人に混じって社会人大会に出てそこで優勝してるんだ。
彼女、本物の天才なんだよ」

今泉「古畑さん、よく知ってますね」

古畑「うん、ちょっとね」

西園寺「古畑さん、確かに彼女には動機がありましたし、それを実行に移す技術もあった。それは認めます。
でも、故意にそれをやったと証明するのは不可能ですよ。今のままではせいぜい過失致死ですが、スポーツの
試合の上でのことですから立件しても不起訴になるのは目に見えてますよ」

古畑「西園寺くん、私はねえ、人を殺してしまう人って2種類いると思うんだよ。ちなみちゃんやケンドールさん
みたいにその事を死ぬまで悔やみ続ける人と、若林さんみたいにタガが外れて歯止めが効かなくなる人とね。
彼女はどっちかなあ?」

西園寺「…」

古畑「もし彼女が若林さんみたいな後の方だったらどうだろうねえ?そしてこのことに味をしめてしまったら?
彼女、若林さんと違って頭が良くてどんな時でも冷静だよ。もしかしたらこの先の人生で問題にぶつかる度に
人を殺すことでそれを解決しようとするかもしれない。そばにいて諫めてくれる人がいればいいんだけどねえ。
もしそうなったら…。西園寺くん、我々の仕事は法を守る以前に人を守ることなんだよ」

西園寺「古畑さん…」

今泉「あ、すいません、今日は用事があるんでこれで早退します」

古畑「人が久しぶりにいい話してるのに君って男は本当にもう」

おでこペチっ

西園寺「今泉さん…」

今泉「いや、動物病院に予約入れてるんですよ。猫のオシャマンベの手術があって…」

古畑「何?手術ってもしかして去勢?だったら君も猫と一緒に去勢してもらったら?女性に
興味がなくなったらもうちょっと仕事に身が入るかもしれないよ?」

今泉「ちがいますよ!この間オシャマンベが迷子になっちゃって、それでおばあちゃんがとても心配しちゃって…」

西園寺「迷子の手術?」

古畑「ん~、んん…今泉くん、お手柄。オシャマンベによろしく言っといて」



古畑『え~、私の推理が正しければ、事件はこれで解決です。今回は今泉くん…というより猫の
オシャマンベのお手柄のようです。続きは解決編で。古畑任三郎でした』



次回解決編に続く。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

まほ「おい、誰か私のタブレットを知らないか?」

小梅「あのテーブルの上に置いてあるやつですか?」

まほ「ああ、あれだ。おかしいな、誰が持ち出して…」

タブレットの上に浮かぶ光点。

まほ「!」

エミ「どうしました?」

まほ「い…いや、なんでもない」

ヘッツァーが撃破された現場。


古畑「やあ西住さん、やっぱりここにいらっしゃいましたねえ」

まほ「古畑さん、これは一体…」

古畑「あ、秋山さんが作った方の機械はあなたたちの思惑通りに焼失してます。これは科研の桑原くんが
作ったレプリカです」

まほ「秋山さんが…、彼女がしゃべったのか…?」

古畑「いえいえ、任意で取調べてますが彼女ずっと黙秘してます。信用してあげてください」

まほ「だったらなぜ…」

古畑「あなたがどうやって角谷さんたちの戦車の位置を突き止めることができたのか、ずっと考えてたんです。
うちの今泉くんがね、猫を飼ってるんですよ。オシャマンベっていうんですが、この子が病院で手術をうけるんです」

古畑「迷子防止のためのGPSの発信機を身体に埋め込むんだそうです。で、その話を聞いてピンときたんです。
あなたはGPSかその類の電波発信機を角谷さんたちの戦車に仕掛けたんだって」

古畑「赤星さんや児島さんから、あなたがタブレットを持ち込んでいたと聞いてからそれは確信に変わりました。
ではどうやってそれを仕掛けたのか?あなた自身ではありえません、大洗か知波単の関係者の中に共犯がいた
ということです。自分の以外の戦車に近づいても怪しまれず、なおかつ発信機を製作して設置できる技術を持つ
人物、秋山さんです」

まほ「待ってください、それを言ったらポルシェティーガーの4人や知波単の整備担当者も容疑者になるのではありませんか?」

古畑「ええ、ですがその中であなたのことを選手としてだけではなく、人間としても尊敬していた人物、
更に妹さんがああなってしまったことにおそらくあなた以上に負い目を感じている人物、やっぱり秋山さん
しかいません」

古畑「後は簡単でした。警察庁を通じて各県警に協力してもらってここしばらくの大洗女子学園の学園艦の寄港地
にある電子部品を扱う店に、秋山さんの写真を持っていってもらって聞き込みをしてもらいました。ああいう店に
若い娘さんが一人で来ることなんてあまりありませんからねえ、どの店の人も彼女のことをよく憶えてました」

古畑「彼女が購入した部品から周波数を割り出し、同じ電波を発信するレプリカを作ってもらいました。
後はご存知の通りです、西園寺くんにあなたのタブレットをこっそりと持ち出してもらって、受診の状態に
してあなたの目につく場所に置いておきました。そして、あなたをここにおびきだしたというわけです」

まほ「わかりました、認めましょう。確かに私は秋山さんを脅迫して発信機を仕掛けることを強制しました。
ですが、それは私が競技で不正をしたということであって、殺意を持ってあの3人を攻撃したという証明
にはならないはずです」

古畑「あれが故意の反則行為の結果であるならば、あなたに本当に殺意がなかったとしても傷害致死での
立件が可能です。そして私が一番問題にしたいのは、なぜあなたが角谷さんたちの戦車に発信機を仕掛け
させたかということです。試合に勝つためならば、フラッグ車である西さんの97式に仕掛けるはずです。
だがあなたは待ち伏せチームの中の一輌に過ぎない角谷さんたちの戦車に仕掛けさせた。これはあなたに
殺意があったという十分な証拠だとおもいます。それに…」

まほ「それに?」

古畑「あなたは逮捕されれば、今まで何があったのか、なぜこうなったのか、全て正直に話してくれる
だろうと考えています。なぜなら、そうすることが妹さんを追い詰め、そして見捨てた宗家の人たち、
そして妹さんを助けることが出来なかったあなた自身への一番の復讐になるはずですから」

まほ「大した先読み能力だ。古畑さん、あなたはいい指揮官になれる」

古畑「…実を言いますと、私、あなたのファンだったんです。試合は全部見てました。プロリーグ発足の
話を聞いたとき、真っ先にあなたの名前が浮かびました。それだけに大変残念です」

まほ「古畑さんには申し訳ありませんが、今回のことがなかったとしても、私はもう
戦車には乗れなかったと思います。みほが…、妹がああなってしまってからは、あんなに
好きだったはずの戦車の中が、まるで鋼の牢獄のように感じられてしまって…。皮肉な
ものだな、そこから抜け出したと思ったら今度は本物の牢獄に入ることになるとは」

古畑「参りましょうか、つくづく残念でなりません」

まほ「エリカにも謝らないとな、ドイツに連れてってやれなくなった」



                          終

以上です。VS役人とかVSお銀とかVSオレンジペコ(被害者はダー様)とか考えてたんで気が向いたら第2シーズンやるかもしれません。

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