加蓮「ザ・クイズショウ?」 (36)
——————『はあっ、はあっ、はあっ……!』
—————『……プロデューサー……!』
————『プロ、デューサー…?』
———『……………そんな』
『……リ…リリリ……』
ジリリリリリリ!!!!
加蓮「!!」
加蓮「…………夢か」
加蓮「………行かなきゃ。仕事」
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<お疲れ様でしたー!
加蓮「お疲れさまでしたー!」
奈緒「お疲れ加蓮!加蓮の演技とってもよかったぞ!」
凛「そうだね。まあいつものことなんだけど」
加蓮「二人とも…ありがとう」
奈緒「今日の撮影も終わったし、三人でどっか食べに行かないか?」
凛「私はいいよ。加蓮は?」
加蓮「うーん、どうしよっかな…。食べに行くところによるかな?」
奈緒「あーっ、これファストフード店じゃないと加蓮が駄々こねるやつだー!」
加蓮「ちょっ…今はもうそんなんじゃないから!」
アハハ!ジャアココトカドウ?アッソコトカイイカモ…
「……」
凛「決まりだね。じゃあここに…19時半集合にしよっか?」
奈緒「オッケー!今から急いで支度しなきゃな!」
加蓮「そうね。アタシもそろそろ着替え————」
「北条、加蓮さんですね」
奈緒「うおっ!びっくりした!」
加蓮「はい、私がそうですが…あなたは?」
「私、銀河テレビの者です」
凛「銀河テレビ?ここ他局のスタジオだけど。加蓮に何の用?」
「はい。北条加蓮さん」
依田「あなたを、ザ・クイズショウにご招待いたします」
「はい皆さん!あちらからゲストが出てきます!大きな拍手で迎えてください!」
「音鳴らして音!…よし、オッケーです!」
高杉「本間さん、今日のゲストは北条加蓮さんですよね」
本間「そうだ」
松坂「加蓮ちゃん可愛いよなぁ」
高杉「そうですよね!アイドル時代の加蓮ちゃんも可愛かったけど、今はもっと可愛さに磨きがかかってますよね!」
『本番三十秒前!』
冴島「北条加蓮をゲストに呼ぶなんて…本間君、どういう手を使ったの?」
本間「……」
『本番十五秒前!』
本間「…よし、ゴー!」
『本番十秒前!九、八、七、六、五秒前!』
『四!』
『三!』
『二!』
『一!』
本間「……」パチン!
「人は誰でも、華やかな夢にあこがれる。
世界中を旅したい者。大きな家に住みたい者。
はたまた、大金を手にしたい者」
「すべての夢の終着点、それがこの」
神山「ザ・クイズショーーーーーーーーウ!!」
神山「さあ今週もやってまいりましたザ・クイズショウ!今日も銀河テレビS1スタジオから一時間ぶっ通しの生放送でお送りします!」
神山「司会は私、MC KAMIYAMA。そして本日の回答者はこの方!」
神山「北条、加蓮――――――!!!!」
加蓮「あはは…どうもーー…」
『北条加蓮。
職業、女優。9月5日、東京生まれ。
高校一年の時に、大手芸能プロダクションである346プロのスカウトをうけ、
346プロ所属アイドルとしてデビューする。
そこから、同プロダクション所属の神谷奈緒、渋谷凛とTriad Primusを結成。
Trancing PulseやTrinity Fieldといった大ヒット曲を生み出す。
大学進学を機にアイドルを引退し、女優としてリスタート。
昨年の映画・ドラマ出演本数ランキング上位に名を連ねるなど、その実力は折り紙付き。
さらに近年では、声優としても新たにキャリアを積み上げており、現在に至る』
神山「ようこそ。ザ・クイズショウへ」
加蓮「はい。今日はよろしくお願いします」
神山「いやー、今をときめく大女優とこうして向かい合えるなんて司会者冥利に尽きますね!いや本当にお綺麗ですね」
加蓮「そんな…照れますね」
<キャー!カレンチャンカワイー!
神山「それにしてもまさか北条さんに出演していただけるとは思いませんでした。
なぜ出演を決意されたのですか?」
加蓮「この番組はなんでも夢を叶えてくださると。
私には叶えたい夢があるんです」
神山「北条さんほどの方でも叶えたい夢があるんですか?」
松坂「かーっ、やっぱ生で見ても加蓮ちゃんは別嬪さんだなぁ!」
浦沢「…そうね」
松坂「何だよ、そんな面白くなさそうな顔して」
浦沢「別に加蓮ちゃんのことを可愛くないって思ってるわけじゃないのよ。はあ…もしあたしがあんな顔で生まれてきたら今頃玉の輿に乗って…ブツブツ」
高杉(あ、ヤバ)
神山「さあ北条さん、どうぞお座りください!さあさあ」
加蓮「ありがとう」
神山「それでは、ここでもう一度ルールをおさらいしておきましょう。
このザ・クイズショウは全七問のクイズによって構成されます。クイズに正解するたびに獲得賞金は上がっていき、七問正解した時点で獲得賞金は一千万。
その一千万をかけてドリームチャンスに挑戦することができます。そのドリームチャンスに挑戦し、クリアした暁には、あなたが手にするのは夢。
文字通り、一つだけ夢を実現することができるのです。よろしいですね?」
加蓮「はい」
神山「それではお伺いしましょう。
あなたの夢は、なんですか」
加蓮「ええと、ハリウッド映画に出演したいです」
神山「おおーっ、ハリウッド映画ですか!なるほど!北条さんほどの美貌なら、きっとハリウッドも虜にできますよ!」
加蓮「あはは…」
神山「それでは、あなたがドリームチャンスをクリアした暁には、総力を挙げて北条さんを世界デビューさせてみせましょう!!」
神山「それでは、北条加蓮が自らの夢をかけてこのザ・クイズショウに挑みます。
イッツ、ショータイム!」
冴島「ちょっと、世界デビューなんて…うちは芸能プロダクションじゃないのよ?」
本間「大丈夫ですよ」
冴島「えっ?」
本間「この彼女の夢が叶うことはありませんから」
冴島「……どういう意味…?」
本間「…佐伯、セッティング急げ」
<了解です
神山「それでは、第一問。
映画やドラマなどの映像作品の分野において、本編とは別に派生してできる作品のことを何という?
A、リメイク。B、オマージュ。C、スピンオフ。D、トーキー」
加蓮「Cのスピンオフ」
神山「正解です」
神山「さすが女優といったところでしょうか。では、第二問」
神山「現在346プロダクションに所属している、キノコが好きだということで有名なアイドルは次のうち誰?
A、上条春奈。B、星輝子。C、大原…」
加蓮「Bの星輝子」
神山「正解です」
神山「今のは北条さんにとってはラッキー問題でしたか!」
加蓮「そうですね、やはり同じ事務所の先輩としては」
神山「ちなみに、星さんは同じ346プロダクション所属の大原みちるさんと、大ヒット長編アニメ映画「パンきのこ」の声優も担当されています。
これに関しては、やはり北条さんが先駆けというか、そういった面もあったのでしょうか」
加蓮「うーん、そうかもしれません。346のアイドルが声優というのは、前はあまり聞かなかったことなので…これもご縁でしょうか」
高杉「うーん、やっぱ加蓮ちゃんはすごいです!アイドルに女優に声優に…ほんとマルチな才能というか!」
松坂「全くだ!どれか一つでも分けてもらえばよかったのに、なあ浦沢」
浦沢「うるさい!」
神山「ではでは、第三問。
ハーブや香料として使用されるミントですが、その和名は次のうちどれ?
A、菖蒲。B、山桃草。C、油菜。D…」
加蓮「D」
神山「…の?」
加蓮「Dの、薄荷」
神山「正解です!」
加蓮「よしっ!」
神山「いやー絶好調じゃないですか北条さん!」
加蓮「ありがとうございます」
神山「……えー、ところで北条さん、このさっきの答えの薄荷って確か…」
加蓮「はい。私がアイドルだった時、初めていただいたソロ曲のタイトルです」
神山「そうなんですね!デビューした時から結構お歳も召されましたけど、やはり初めてのソロ曲というのは印象深いんですね~」
加蓮「……(イラッ)」
神山「北条さん!少しだけ、少しだけでいいので歌っていただけませんか?」
加蓮「えっ…それは」
神山「少しでいいんです!サビのワンフレーズだけでも!ここにいる会場のお客さんも北条さんの生歌聴きたがってますよ!こんな機会めったにないんですから!」
<キキターイ!カレンチャーン!
加蓮「…じゃあ、少しだけなら」
<オオーッ!!
神山「やった!これ後で『神山があの北条加蓮に歌わせた』ってちゃんと言っといてくださいね皆さん。お願いしますよ!…はい!北条さん、準備は大丈夫ですか?
それでは北条加蓮さんに歌っていただきましょう!
北条加蓮で、薄荷-ハッカ-」
———神様がくれた時間は零れる
あとどれくらいかな?
でもゆっくりで良いんだ
君の声が響く
そんな距離が今は優しいの
泣いちゃってもいい?———
<ウオー!!カレンチャンサイコー!!ヤベエナイチャウハコレ
神山「素晴らしい歌声でした!!皆さん、盛大な拍手を!」
<パチパチパチパチパチパチパチパチ
神山「いやー流石です北条さん!アイドル引退されても全然下手になってない!
むしろ上手くなってますよこれ!」
加蓮「あはは…ありがとうございます」
神山「このままアイドル続けてもよかったと思うんですけどねえ」
加蓮「えっ?」
神山「なんでアイドルやめちゃったんですか?」
加蓮「…それは」
神山「それでは、第四問です!」
神山「あっ、これ北条さんにとってはラッキー問題かもしれませんねえ」
加蓮「…そうなんですか?」
神山「はい!まずはこちらをご覧ください!」
加蓮「…!」
神山「この方、ご存じですよね?」
加蓮「…はい」
神山「ならラッキー問題だな~
第四問。この男性と北条さんとの関係は次のうちどれ?
A、教師と生徒。B、プロデューサーとアイドル。C、映画監督と女優。D、ご近所さん同士」
加蓮「………」
松坂「…おい、これ問題違くないか?」
冴島「……本間君。問題を変えたの?」
本間「皆さん。答えは神山が知っています。神山に合わせてください」
冴島「なっ…!本間君、あなた何なの!?」
本間「この番組のディレクターですけど」
神山「さあ北条さん。答えてください」
加蓮「…B」
神山「の?」
加蓮「…プロデューサーとアイドル」
神山「正解です!」
神山「そうなんですか~。この方、北条さんの『元』プロデューサーなんですねえ。
ずいぶんと男前な方ですね!」
加蓮「…そうだね」
神山「どうしました?北条さん?なんだか辛そうですけど」
加蓮「なんでもない」
神山「いやでも本当に辛そうですよ~?」
加蓮「…なんでもないったら」
神山「…そうですか~
ところで北条さん。
この方についてどう思われますか?」
加蓮「どうって…」
神山「いやだって、この方がアイドル北条加蓮をプロデュースしたんですよね?いわば北条さんの恩師ともいえる存在ですよね!
この芸能界で一番最初に出会った大人の男性。しかも北条さんはその時、多感なJKですから!『お世話になったな』とか『手間のかかるアイドルでごめん』とか、そういう気持ちを持っていないか?ということですよ」
加蓮「ああ、そういうこと…そりゃもちろん、彼には感謝してもしきれないよ」
神山「やっぱりそうですよね!右も左もわからない自分を導いてくれた人。それがこの方ですものね!
…もしかして北条さん、彼に特別な感情を持ってたりして~!」
加蓮「そんなわけ…!」
神山「冗談ですよ冗談!さあ次は第五問です!」
神山「それでは第五問!
あなたがアイドル時代、思いを寄せていた人物は次のうち誰?」
加蓮「…な」
神山「A、元担当プロデューサー。B、他事務所の男性アイドル。C、プロダクション内の男性事務員。D、高校の同級生」
加蓮「…………」
神山「さあ北条さん、答えをどうぞ!」
加蓮「…………………神山さん、ちょっといいかな」
神山「なんでしょう」
加蓮「この問題、結構個人的な問題だよね」
神山「そうですね」
加蓮「もし、もしアタシが答えたとして、あなた、この問題の答え分かるの?」
神山「……ええ。分かりますよ。
いいですか北条さん。
私は、あなたのすべてを知っています」
加蓮「…っ」
神山「…あれ?答えられない感じ?
答えてくださいよ~北条さん」
加蓮「…ふざけないで」
神山「北条さん」
加蓮「ふざけないで!」
冴島「何なのこの問題…!
本間君、今すぐ問題を戻しなさい!」
神山「北条さん。
答えないと、夢、パーですよ?」
加蓮「……………」
冴島「本間君!戻しなさい!!」
本間「無理です」
神山「さあ北条さん、お答えください!」
加蓮「………A、担当プロデューサー」
神山「…正解です!」
神山「すごいこと聞いちゃいましたよこれ!北条さんにこんなドラマみたいな裏話があったなんて!やはり大女優はエピソードから違うんでしょうか?」
加蓮「………」
神山「北条さん。ズバリお聞きします。
『元』担当プロデューサーを好きになった決め手とはいったい何ですか!」
加蓮「…そんなこと、答える必要ないじゃん」
神山「え~だって聞きたいじゃないですかあ。なんてったってあの北条加蓮ですよ?
日本中が恋するなんて言われている女優さんの恋愛エピソードなんて、興味あるに——」
加蓮「やめてよ!!」
神山「……」
加蓮「あんた何なのさっきから!?人のプライバシーにかかわることばっか訊いてさ!
確かにアタシはプロデューサーのことが好きだった。でもそれは恋に恋する年頃だったから!今は何とも思ってないし!」
神山「…北条さん、よくしゃべりますねえ」
加蓮「は!?」
神山「私は別に、あなたがどれだけ彼のことを愛していたかまで聞いてませんから」
加蓮「なっ———」
神山「それでは、第六問です」
神山「あなたの元担当プロデューサーは現在、都内の病院に長期間入院されていますが、
その入院年数は何年?」
加蓮「……………」
神山「A、2年。B、3年。C、4年。D、5年」
加蓮「……………」
神山「さあ北条さん、お答えください!」
加蓮「………………………なんであんたがこのこと知ってんの」
神山「調べましたっ!」
加蓮「ふざけてるの?」
神山「ふざけてませんが」
加蓮「……………」
神山「さあ北条さん、答えをどうぞ!」
加蓮「………D」
神山「正解です!」
神山「北条さん、これはまた辛いですねぇ……自分が愛していた元担当プロデューサーが5年間も入院されているなんて……」
加蓮「……そうだね」
神山「なぜこんなに長く入院されているのでしょうか?」
加蓮「そんなの———」
神山「まさか知らないわけじゃないでしょう?
ちょうど北条さんが高校三年生だった時ですよね?その時はまだアイドル続けてましたから、当然接点はあったはずですよね?
想い人が入院したんです。お見舞いにもいくでしょうし。入院の理由なんか知ってて当然ですよね?」
加蓮「……………事故だよ。あの人は交通事故に巻き込まれたの。
アタシの誕生日の前の日の、9月4日に」
——————『下がって!下がってください!』
——————『緊急手術だ!輸血準備!』
神山「なるほど……でもこれ、聞いてる感じだと結構重症ですよね?
交通事故で5年って相当ですよ相当!これ、おそらく昏睡状態とかそういうのですよね?」
加蓮「………………」
神山「治療費、誰が払ってるんでしょうか」
加蓮「そんなの…アタシ知らない」
神山「……そうですかー。まあ大方、奥様が払っていらっしゃるのでしょう!」
加蓮「………っ」
神山「それにしても奥様にとってはすごく辛いでしょうね……治療費もそうですが、愛する夫への想いというのは察するに余りあるというか……ねえ北条さん?」
加蓮「…………………いないよ。彼に奥さんはいない」
神山「えっ!!いないんですか!?じゃあどこからお金が出てるんですか!?」
加蓮「…………払ってるの。アタシが」
神山「………………皆さん聞きましたか!北条さんのこの発言!!
自分の恩師であり想い人を救うため、高額な治療費を払って待ち続ける!これが称賛されなくて何を称賛するべきでしょう!
北条さんにぜひ盛大な拍手を!!」
加蓮「…………もう、そういうのいいから」
神山「………そうですか?
私は、あなたを尊敬しますよ」
加蓮「………………」
神山「では、第七問です!
この問題に正解すれば、いよいよドリームチャンスですよ~!」
加蓮「……………」
神山「第七問!
…えーその前に、実は今、私の手元にこんなものがあるのですが」
加蓮「!!!」
神山「このピアス、見覚えありますよね?」
加蓮「なんでアンタがそれ…!!」
神山「まあ流石に実物は用意できなかったんですが…。
あなたが高校三年生の時、あなたの元担当プロデューサーが、これと同じピアスをある人へのプレゼントに購入しました。そのある人とはいったい誰?」
加蓮「………!」
神山「A、同じ事務所の事務員。B、同じ事務所の女性上司。C、自らの担当アイドル。D、自らの恋人」
加蓮「……………」
神山「さあ北条さん、答えを—————」
加蓮「ねえ」
神山「はい?」
加蓮「……アンタ何がしたいわけ?
こんなこと思い出させて!!アンタ何がしたいの!?」
神山「…………あれ?答えられない感じ?
困ったな~。答えてくれないと困るんだけどな~。
あっそうだ!奥義使っちゃいましょうか!ねっ!奥義!」
加蓮「いらない」
神山「えっ?」
加蓮「アタシ帰る」ダッ!
神山「……北条さん」
神山「ここは夢を叶える場所です。
人はだれしも、心の中に触れられたくないものを持っているんです。
そこから目を背ける人間に、夢を叶える資格はありましぇん」
加蓮「………………」ギリ
神山「……おかえりなさい。北条さん」
加蓮「……」
神山「戻ってきてくださってありがとうございますと言いたいところなんですが、ちょっと今時間押してるんですよね~。急がないと……。
それでは、答えをどうぞ!」
加蓮「D」
神山「Dってなんでしたっけ」
加蓮「……びと」
神山「はい?」
加蓮「自らの恋人!!」
神山「……正解です!!!」
神山「おめでとうございます!!一千万円獲得です!!」
神山「いやーでも北条さん、北条さんほどの大女優にもこんな悲しい過去があったなんて…。
当時はさぞや苦しまれたことでしょう…。
あっ、今もですか」
加蓮「………………」
神山「北条さん、一つお聞きしたいんですが」
加蓮「……何」
神山「北条さんさっき、プロデューサーに奥さんはいないっておっしゃいましたよね?
でも事故当時は彼にも恋人がいたわけだ」
加蓮「……」
神山「彼女、どこに行ったんでしょう?」
加蓮「…………あの人なら、消えたよ」
神山「というと?」
加蓮「治療費が高額になるって知ったら、すぐに消えた。自分じゃ払えないから」
神山「なるほど、うーん何というか、やむにやまれぬというか……」
加蓮「そんなことない」
神山「…………」
加蓮「お金がないなら稼げばいい。それでも足りないなら借りればいい。
あの人は…お金が足りないってわかった瞬間、すぐプロデューサーを見捨てた。
あの人には、プロデューサーへの愛が足りなかったんだよ」
神山「…………」
加蓮「アタシは違う。きちんとお金も稼いでる。治療費だって払える。
結局アタシの方がプロデューサーにふさわしかったってことだよね」
神山「……なるほど」
加蓮「神山さん、アタシからもいいかな」
神山「………」
加蓮「ここは夢を叶える場所。そうでしょ」
神山「ええ」
加蓮「アタシ、夢変える」
神山「………」
加蓮「アタシの本当の夢は——————」
神山「…………」コクッ
加蓮「アタシ、やるよ。ドリームチャンス」
神山「ドリィィィィィィィィィィィム!!!!!」
神山「チャァァァァァァァァァンス!!!!!!!!!」
神山「…………それでは、問題です」
神山「あなたは、あなたのプロデューサーが事故に遭われた翌日、つまり9月5日にお見舞いに行かれています」
神山「その、病室に入るから出るまでの間に、あなたはプロデューサーに対してある一連の行為をしました」
神山「その一連の行為のうち、『最後から二番目』に行ったことは、次のうちどれ?」
加蓮「…………」
神山「A、耳元で愛を囁いた。
B、手を強く握った。
C 口づけた。
D 酸素マスクを外した」
加蓮「…………」
神山「うーんなんだかロマンチックな選択肢ばかりですねえ!ドラマみたいですね!
最後以外は」
加蓮「…………」
神山「さあ北条さん。お答えください!」
加蓮「………………………………………………」
『アイドルの素質があるって……アタシがアイドルに?
……やっぱいいや。名刺、返すよ。…アタシには無理だから』
『……アンタ、相当な変わり者だよね。アタシの何がそんなに気に入ったの?』
『……それとも、アンタがそんなアタシをアイドルにしてくれるの?アタシ、本当に何もないよ。できるっていうの?』
『……幼いアタシの世界は、殺風景な病室にある小さなテレビだけだった……。だから憧れてたんだ、テレビの中で輝くアイドルに……』
『でも、夢なんて見るだけ無駄でしょ。口に出したらバカにされる。体力だってないし、普通に生きるのも無理だと思ってた』
『でもそんな夢をプロデューサーだけは笑わずに真面目に聞いてくれた』
『嬉しかったんだ……だからこんなアタシでも頑張ってこれたんだと思う。だから見てほしいんだ……アタシの輝いてる姿……!』
『やったよ、プロデューサー……!アタシ、アタシ一位になったんだ……!』
『……これも全部プロデューサーのおかげだよ。プロデューサーがいなかったら、きっとアタシ頑張れずに終わってたから……』
『……えっ?俺は関係ない?加蓮の努力が実っただけ……?』
『ふふっ、またそういうこと言って……』
『……ありがとう、プロデューサー。これからもずっとよろしくね』
⦅……アタシ、やっぱりプロデューサーのこと⦆
⦅今日は久々のオフで街に出たけど⦆
⦅いつもお世話になってるプロデューサーに何か買ってあげたいな⦆
⦅二人っきりでデートもしたいし、けど毎回凛と奈緒も一緒についてきちゃうんだよなあ⦆
⦅あれ、あそこにいるのもしかしてプロデューサー?⦆
⦅……うん、ちょうどいいや。こんなチャンスめったにないんだし。今日こそは一緒に———⦆
『おーい、待ったー?』
『……え』
⦅……あの人、プロデューサーと腕組んで⦆
⦅プロデューサーすっごく楽しそう⦆
⦅プロデューサーのあんな顔初めて見た⦆
⦅……………なんで⦆
『ねえプロデューサー、おとといの休みの日、何してたの?』
『……ふーん、やっぱり彼女さんだったんだ。あの時アタシもそこいたからさ』
『二人はいつから付き合ってるの?』
『………半年前』
⦅………なんで⦆
⦅同じアイドルの子ならまだわかる。346には可愛い子も多いし、プロデューサーのことをよく知ってる人も多い⦆
⦅……なのに、プロデューサーの彼女さんは、どこにでもいるような普通の人だった。
とびっきり可愛くもないし、髪型も、服のセンスもいいわけじゃない⦆
⦅アタシのほうが可愛いのに、アタシのほうがセンスもいいのに⦆
⦅……どうして⦆
⦅アタシのほうがプロデューサーのことを良く知ってるのに⦆
⦅アタシのほうがプロデューサーと長い付き合いなのに⦆
⦅アタシのほうがプロデューサーのこと好きなのに⦆
⦅なんで、どうして—————⦆
加蓮「……………………………………」
⦅今日は9月3日。明後日はアタシの誕生日⦆
⦅……プロデューサー、覚えてくれてるかな⦆
<<加蓮ちゃん、今時間空いてますか?
『はい、空いてます』
<<プロデューサーさん、手帳忘れちゃったみたいで。届けてくれませんか?今手が離せなくて…。
『わかりました』
⦅……あっ、プロデューサー机の中に手帳入れっぱなしにしてる⦆
⦅ホント、抜けてるんだから。ふふっ⦆
⦅………あれ?これって…プレゼント?⦆
⦅……見た感じ小さめ、………だよね⦆
⦅……………もしかして、プロデューサー⦆
⦅………………………ちょっとだけ。確認するだけだから⦆
⦅………!!
9月5日、印がついてる…!やっぱりプロデューサー、アタシがネイル好きなの覚えててくれたんだ……!
うふふ…嬉しいな⦆
⦅………………よし。その時が来たら、ちゃんと言おう⦆
⦅ちゃんと好きって言おう。振られるだろうけど、それでいい。
プロデューサーが私のことを考えてくれてた。それだけでもう十分⦆
『…………え?プロデューサーが、事故……………?』
『はあっ、はあっ、はあっ』
⦅プロデューサーさんの部屋はここ、だよね⦆
⦅……大丈夫だよね。プロデューサー、無事だよね⦆
『無理です!そんなお金、うちにはありません!』
⦅……!!中に誰かいる!⦆
『昏睡状態なんて!そりゃあ、悲しいことは悲しいけど…保険で何とかならないんですか?』
⦅…え、今、昏睡状態って……⦆
『とにかくまた後で連絡しますから!失礼します!』
⦅!!隠れなきゃ…!⦆
ガラッ!
『……あの人、あの時プロデューサーさんと歩いてた人だ』
⦅いや、今はそれよりも!⦆
『入るね、プロデューサーさ……ッ!』
『…………ひどい。こんな、大ケガして』
『……あれ?
この捨てられた包装紙って…』
『…………』
ガサガサ……
『…………アハハ』
『あのプレゼントの中身、ピアスだったんだ………………………』
『あのプレゼント、アタシのものじゃなかったんだ——』
神山「覚えていませんか?それもそうかもしれませんね。
何せ5年前のことですからね。
なら奥義でも使っちゃいましょうか!ね!」
神山「奥義です!ルーレットスタート!
…………さっ、押して」
加蓮「……………(カチッ)」
ピコーン!
神山「召喚~!!!」
神山「出ていただきありがとうございます!えーっとお名前は…?」
「はい、私は千川ちひろと申します。346で事務職をしております」
加蓮「!?ちひろさん…!?なんでここに…!」
神山「えー千川さん、どのようなヒントを持ってきてくださったのでしょうか」
ちひろ「はい。これを…」
神山「これは………プレゼントと……手紙、でしょうか?」
加蓮「!!」
ちひろ「私もずっと、プロデューサーが復帰することを信じて粘ってきました。
ですがつい先日、復帰の見込みなしと判断して、事務所がプロデューサーの退所を正式に決めたんです。
これは、プロデューサーさんの机を処分するときに見つけたものです。鍵のかかった引き出しの中に入っていました」
加蓮「ッ……そんな…そんなことって!!」
神山「見たところかなり小さな品物が中に入っているようですね。
中に何が入っているのでしょうか」
ちひろ「……加蓮ちゃん。
もう、いいと思います。加蓮ちゃんは十分苦しみました。
私も長い間、加蓮ちゃんを見てきたからわかるんです。加蓮ちゃんが時々、辛そうな顔をすること。それを隠そうとすることも」
加蓮「……………」
神山「千川ちひろさん、ありがとうございました!皆さん盛大な拍手でお見送りください!」
<パチパチパチ…
神山「さて、このプレゼント、中にいったい何が入ってるんでしょうね?」
加蓮「………」
神山「………北条さん。
私は、あなたにはそれを開ける権利があると思います」
加蓮「………」コクッ
神山「…やはり、入っていましたね。
あなたへの誕生日プレゼントである、マニキュアが」
加蓮「………グスッ」
神山「どうぞ、手紙も開けてください。
そして読んでください。そこに何が書かれてあるか」
加蓮「………」
『加蓮へ。
いざ加蓮と向かい合うと言えないかもしれないから、こうやって手紙に俺の想いをしたためておくよ。ヘタレな俺を笑ってくれ。
まずは、総選挙一位おめでとう。さすがは俺が育てたアイドルだよ。加蓮は俺のおかげって言ってくれたけど、あの結果は間違いなく加蓮の実力だよ。本当におめでとう。加蓮をプロデュースできて本当に光栄だよ。
けど多分、今聞きたいのはそういう言葉じゃないよな。
加蓮がどれだけ俺のことを好きなのかは、薄々だけど気づいてた。最初はただの、思春期の恋だと思ってた。よく言うじゃん。恋に恋する時期だって。すぐ他の男に目移りするって、そう思ってた。
けど、俺が思ってたより加蓮の俺への想いは深いことを知って、これは真剣に向き合わなきゃなと思った。
だから言うよ。俺は加蓮の気持ちに応えてやることはできない。
加蓮はアイドルで、俺はプロデューサーだから。それもあるし、俺には知っての通り、もう大切にしたい人もいる。
もちろん加蓮のことが嫌いなわけじゃないけど、加蓮を恋愛対象として見ることはできない。本当にごめん。
振った俺が偉そうに言えることじゃないけど、加蓮ならもっといい男が絶対見つかるから。あっ、今はアイドルだから恋愛禁止だけどな!
だから…俺のことはさっぱりあきらめて、いつか、加蓮がいいなと思った人と一緒に人生を歩んでほしい。
最後になるけど、
加蓮は俺の自慢のアイドルだよ。それだけは変わらない。
だからこれからもよろしくな』
加蓮「……ウウッ……グス…ウッ…」
⦅アタシがプロデューサーに感じていた絆は、プロデューサーにはなかった⦆
⦅アタシがプロデューサーに寄せていた信頼は、ただの独りよがりだった⦆
⦅所詮アタシは、プロデューサーとは仕事だけの関係でしかなかった⦆
『…………………………』
『………………プロデューサー』
『このまま目を覚まさなければ……プロデューサーは誰のものにもなることはないのかな』
『あの人に…プロデューサーのこと取られないですむのかな?』
『………………………』
『………………グス…………ごめんね、プロデューサー…………………』
『こんな最低なアイドルで…………………ごめんね……………!』
『……………………………………………………愛してるよ。世界中の誰よりも』
神山「さあ北条さん。
お答えください」
加蓮「…………………………D。酸素マスクを、外した………………!」
神山「…………………正解です」
加蓮「…………ヒッグ、グスッ」
神山「そうです。
あなたがプロデューサーに対してした行為。
初めに、手を強く握り、次に愛の言葉を囁き、
そして、人工呼吸器を外して、彼にキスをした」
加蓮「…………ウゥッ…ヒッグ…………」
神山「外したといっても、ほんのわずかな間だけですから、
彼が今なお目覚めないことと、それとは関係ないでしょう」
神山「ですが、もし外していなかったら、自分の想いを閉じ込め続けていたら」
神山「もしかしたら、万に一つかもしれないけど」
神山「彼は目を覚ましていたかもしれない」
加蓮「ウゥ…ヒック………グス……………」
神山「………………あなたから一番初めに話した夢は、ハリウッド映画に出演する、というものでした。限度額いっぱいの賞金ではなく。
それも、すべて彼のためなんじゃないですか?もちろんギャラを稼ぐのは大変です。
でもあなたは、一度きりの賞金を選ぶより、彼に育てられた『アイドルの北条加蓮』を、彼のために生かしたかった…。
……………違いますか?」
加蓮「………………………アタシは……」
神山「……………」
加蓮「………………アタシは、プロデューサーのことが好きなのにっ………大好きなのに………………!あの時の、あの時のアタシは……………………!
プロデューサーのことなんか………死んじゃえばいいって…………!!」
神山「北条さん。
私は、人が人を想う気持ちで変わるものがある、と思います。
そして、あなたは今、確かに『何か』を変えたんです」
神山「ここは夢を叶えるための場所です。あがいてあがいて、自分と向き合う場所なんです。
必死で追い求める者には必ず微笑んでくれる。それがこの、
ザ・クイズショウなんです」
神山「………………………なんつって~~~~~!!!」
神山「今回の挑戦者、北条加蓮は見事自らの夢を実現させることができました。
次回、自らの夢に挑戦するのは誰なのか。
あなたの夢を……………叶えます」
松坂「……すげぇもん見ちまったな」
冴島「……ねえ本間君、こんなこと二度としないで。
あなたがしているのは職権の乱用です!」
本間「……………というのは?」
冴島「文字通り、この番組で北条加蓮の人生は変わったわ。
私たちに、他人の人生を狂わせる権利なんて———」
本間「違いますよ、冴島さん。
ここは人生を狂わせる場所じゃない。人生を見つめなおす場所なんです。
彼女の人生が狂ったなんて誰が決めるんですか?視聴者?それとも僕たちですか?違いますよね?ほかでもない、彼女自身が決めるんです。
僕は、もう見つめなおすことができないところまで来てしまった。けれど彼女にはまだその権利が残っていた…。
誰かが、何かがそれに気づかせてやらないといけないんです。これは、かつて大きな過ちを犯した僕の、僕なりの、償いなんです」
冴島「…………」
高杉「あの、本間さん。
私は、加蓮ちゃんのファンです。アイドルの加蓮ちゃんも、女優の加蓮ちゃんも、私にとっては憧れです。
けど………もし加蓮ちゃんが、この結末を自分で望むのなら、私は受け入れます」
本間「……そっか。ありがとう」
凛「…………寂しくなるね」
奈緒「…………そうだな」
凛「……………………加蓮がどれだけプロデューサーを想ってたか、私たちは気づいてた。あの事故以降、加蓮が何かに苦しんでいることも。だけど、少なくとも私は、何をすればいいのかわからなかった。
……………………加蓮は、私たちに打ち明けてくれなかった」
奈緒「………………まあ、いつものことだったんだけどな。それが北条加蓮だから」
奈緒「あの番組は、あたしたちでもできないことをやってのけた。加蓮を救うということを。
……………………あたしたちのほうが比べ物にならないぐらい、加蓮と同じ時間を過ごしてきたのにな」
凛「そうだね。……………………奈緒、もしかして嫉妬してる?あの番組に」
奈緒「…ちょっとな。でも、感謝のほうが強い。
……………ごめん、やっぱウソかも。まだ整理できてない」
凛「…………」
奈緒「なあ凛、言いたいことがあるんだけどいいか?」
凛「……………………何?」
奈緒「加蓮がいないトライアド・プリムスは、はっかないな」
凛「……………………泣きそうな顔で言われても、困るよ。
でも、そうだね。
確かに……………………そうだね」
これで終わりです。ネタを思いついてからバーッと書いたから色々矛盾あるかも。
今更の設定ですが、クイズショウの方は二期準拠。神山と本間の過去が清算された上で番組がスタートした世界線をイメージしています。
ヒロインに加蓮を選んだ理由は特にありません。直感で選びました。担当でもないし、もちろん加蓮のことが嫌いというわけでもありません。
こういう文章は初めて書いたので、大目に見てもらえるとありがたいです。
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