アクア「ひとりぼっち」 (30)

このすば17巻までの内容を含みます


「アクア様がいなくなってる…!?」

「そうなんだよ、気づいたらいなくてさ」

「…別に奴が1人で勝手にいなくなるのはいつものことだろう?勢揃いで店に押し寄せるほどのことではあるまい」

「いつもどこかにいく時は私たちに一言入れるように言ってありますし、今までちゃんとそれを守ってきてたのですが、今回、私たちには何も言わずにいなくなってしまったのです」

「それで少し心配になって街中を探してみたのだが見当たらなくてな…バニルとウィズにもどこにいるか聞いておきたくてこうして3人できた」


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「ふむ、確かに我輩は奴がどこにいるか見当がつく」

「お、マジか!お願いだ、どこにいるのか教えてくれ」

「………」

「バニル?」

「な、悩んでるってことは何かあったのか?教えないでくれとか…」

「いや、そうではないが…よしこうしよう。我輩とウィズとで思い当たる場所に行ってくる。汝達は家で待ってるが良い」

「え…バニルが?普段喧嘩してるのにバニルが行くのか?」

「おい、なぜ私たちは家で待機なんだ?理由があるのだろう?」

「理由はもちろんある…が、それは明日教えよう」

「…私からも。皆さんはご自宅での待機をお願いします」

「うぃ、ウィズまで…わかったよ、2人がそう言うなら今日は家に帰るけど」

「その代わり、明日ちゃんと理由は教えてくださいよ?」

「わかっておる」







「…」

「…」

「…」

「いつまでそんな顔で突っ立っているつもりだ?」

「…わかって、ます……いきましょう…」

「…奴に会うまでにその顔はなんとかしておくが吉」

「わかってます…わかって…ます…!」

「…行くぞ」







「わああああああ!わあああああ!」

「なんで今日に限って出てくんのよこのクソ蛙!私の運低過ぎよ!」

「今まで散々呑まれたんだから今日くらい勘弁してええええええ!!!!」

「…あ、あー!そうだわ、確かカズマさんから譲り受けたあのヘンテコな名前の刀今日持って来てるんだったわ!」

「残念ね、クソ蛙!恨むなら斬られるのが弱点なその体を恨むことね!」

「おりゃあああああ!!」

「はー!はー!はああ!!」

「む、無駄に体力ありすぎよ…何回刀を振るったと思ってるのよ…」

「まあアークプリーストの私が刀を持って戦うこと自体おかしいし…マイナスステートでもかかってたのかしら」

「そもそもこの身体だしこんなもの…よね。よくエリスはこの身体で降りてこようだなんて思えたわねえ」

「…あーあ、こんな蛙1匹いつもなら苦戦しないのに」

「ダクネスが引きつけて、カズマさんが止まった蛙を仕留めて…複数いるようならめぐみんの爆裂魔法で一掃して…」

「…でもなんだかんだで私かめぐみんが呑まれて結局ぬめぬめになって」

「…はあ」

「…ひとりぼっちだもの、今」

「ひとりぼっちの私には…夢でしかないわね」

「見つけましたよ、アクア様」

「…ウィズ」

「それに…あんたまでいんのね」

「不本意ながらな」

「ウィズとあんたが来たってことは…そう、やっぱ探されてた?私」

「3人揃って店まで来たわ、家に帰したが」

「あら、帰したの」

「その方がいいだろう」

「…あんたどうしたの?普段からじゃ信じられないくらい気を利かせてくれるわね」

「…」

「…アクア、様」

「なーにウィズ、そんな泣きそうな顔して…って、もう泣いてるじゃない」

「だって…だって!」

「わかってたことよ」

「そうか」

「ウィズの態度で流石の私でもわかるわ。でもあと何時間かは知らない」

「知りたいか?」

「んー…一応教えて」

「いいだろう」

「貴様は」

「あと」

「2時間でーーーーーーー



















「死ぬ」

「2時間ねえ」

「…どうして」

「ん?」

「どうして!どうしてアクア様は!」

「そんな…いつも通りでいられらんですかぁ…私はもう…あああああ!!」

「ちょ、ちょっと泣きすぎよ、どうどう」

「アクア様あああああ!」

「…」

「ウィズはここ最近ずっとこんな調子でいた。貴様の前では取り繕ってはいた…バレていたみたいだが」

「私を思って泣いてくれるのは嬉しいけどね…ね、ウィズ。私を思ってくれるのなら笑顔よ笑顔」

「アクア…様…」

「酒の席でのみんなの笑顔、私好きなのよねえ」

「こんな時まで酒か」

「私の生きがいだもの」

「え、笑顔…こ、こうですか」

「ぎこちない…いつも私を店に迎えてくれた時いらっしゃいませって笑顔で言っててくれるじゃない。その時の顔よ」

「うう、う…」

「で、あんたまで来てくれたのは予想外だけどこの後どうするのよ」

「我輩はウィズの付き添いだ。ウィズが貴様と最期までいるというなら我輩もそれに従う」

「ウィズ、どうするの?」

「…最期のその時まで、お隣にいさせてください」

「しょーがないわねえ、あと数時間だけど」

「…」

「ウィズの涙腺はボロボロだというのに貴様追い討ちをかけすぎだろう」

「い、いつもの軽口よ軽口!ほら笑ってウィズ!」

「無理です…無理です…」

「もー」

「貴様のせいだろうに…おい、どこか行くあてでもあったのか?」

「へ?一応少し見て回ろうと思ってたけど…ついてきてくれるの?」

「最期まで隣にいるとウィズが言ったからな、仕方あるまい」

「そう、なら行くわよ」






「ここは…」

「そ、ここは共同墓地。ウィズと初めて会った場所ね」

「初めて…」

「あの時はリッチーは即浄化の使命に駆られてたのよねえ」

「貴様らが住んでるあの屋敷はここの墓地を利用して破格の値段で手に入れたんだったか」

「利用…なんて…してない…わよ?」

「目が泳ぎまくっているが」










「キールのダンジョン、ね」

「バニルさんが、アクア様達と会った初めての場所です…よね」

「あの時こいつダクネスの体を乗っ取っていたのよ?」

「あやつは我輩がこれまで乗っ取った中でもかなりのステータスの持ち主だったな、攻撃が当たらない致命的な弱点も我輩なら問題なく当てられるのでな」

「確か…めぐみんさんにトドメを刺されたんでしたよね」

「残機は減ったがおかげで魔王軍幹部から離れることができた」

「ウィズにもあの時の私の活躍を見てて欲しかったわね!」

「いつものように泣き叫んでいただけだったはずだが」











「ここは…アクセルの街ですけど…」

「ここはカズマと2人で初めてこの地に降り立った場所よ」

「ここ…なんですね」

「初めは馬小屋暮らしで大変だったわ」

「でも…あの時から私は楽しいって感じてた」

「…それは何よりです!」











「ギルドか」

「ここはめぐみんとダクネスと会った場所ね!」

「パーティを組んだ経緯は昔お聞きしましたね」

「確かに話したわね」

「カズマさんがいなかったらどうなってたことやら…あの場で組んだパーティがまさかこんなに長続きするとは夢にも思わなかったわ」




「…私たちの、店」

「今から私は客としてはいるからね。普段通り」

「…」

「お邪魔しまーす」

「…いらっしゃいませ…アクア…様!」

「…ふふ、笑顔のつもりだろうけど顔ぐしゃぐしゃよ」

「…」

「あんたも何か言うことないの?」

「…いらっしゃいだ、女神アクア」

「…」

「最期くらいは、な。我輩にとって貴様は天敵であり天敵でしかない。が、率直にいって貴様らのパーティと過ごした時間は悪魔の我輩をして楽しかった時間だと言えよう」

「最期にデレるとかずるいわねえ…私にとってもあんたは天敵だし天敵という関係で成り立つ仲だけど…」

「今までありがとうね地獄の公爵バニルさん」

「ふん…それよりここで良いのか」

「屋敷の私の部屋に置き手紙してあるから大丈夫よ、ここでいいわ」

「そうか」

「しかし不思議なものね…これから自分が死ぬはずなのに体に特に不調はないもの。あの3人の時もそうだったけど」

「冒険者カードの恩恵だろうな」

「ステータスって偉大ねえ」

「…アクア様は、お気づきになられていないかもしれませんが…普段より歩くペースが遅くなっています」

「そうなの?…やっぱりそういうところで衰えはでちゃうのね」

「そういうところも何も外見が既に衰えているではないか」

「女神の私には衰えなんて縁の無いものだったけど…なんかこう、儚いわね」

「…そろそろ時間だな、貴様はこの後、命が消える。寿命だ」

「うん」

「そして…その身体で降りてくること、この数十年間、この世界で普通に暮らすこと…それは魔王を倒した特典だったな。その契約期間は終わった。貴様はこの世界に戻ってくることはないだろう」

「そうね…普通の女神なら絶対体験できないような楽しい思い出ばっかりだったわ。子どもまで授かれたし」

「あの小僧との子どもが欲しい一心で代替の体で降りてきた時はあまりの弱体化ぶりに散々笑わせてもらったが」

「ほーんと悪魔よねあんた」

「…」

「…ウィズ、今日私と会ってからずっとしんみりとした感じのままね」

「…やっぱり…寂しいです」

「…」

「カズマさんも、ダクネスさんも、めぐみんさんも…その他の方々も含め、あの時から私たちの楽しい思い出はみなさんがいたからこそできた思い出です」

「リッチーの私と、悪魔のバニルさんを除いてみんな亡くなってしまいました。アクア様も、今日を持って…女神に戻るので私たちと会うことはもうないでしょう」

「それでも…私はアクア様…あなた達に会えて良かった…です!」

「…そんなに感情の篭った声で言われると…泣いちゃうじゃない」

「いつも泣き叫んでいるだろう、今更すぎるわ」

「…そうね」

「…どうだ、体に違和感は?」

「実はさっきからバリバリ感じてるわよ。多分目を瞑ったらそれが最期…でしょうね」

「アクア様…!」

「…あの3人が死んでから私はずっとひとりぼっちだと感じてたわ、子どもはいるのにね。やっぱりカズマ、めぐみん、ダクネスは私にとって変えの効かない特別な人達なの」

「でも…ウィズやバニルがいてくれたおかげで寂しさは感じなかった。ありがとうね。ここに降りてきてから本当に楽しかったわ」

「…その思い出が風化するくらいには貴様はこの先も女神としてあり続けるのだろう?」

「女神ってそういうものだもの…けど風化はしないと思うわ。途方もないくらい女神としていた中でこのたった数十年間が1番楽しかった」

「…私も、楽しかったです!」

「ふん」

「…楽しかった…」

「アクア様…」

「…ベッドに運ぶぞウィズ」

「…はい」

「…」

「…」

「…私は、満足した…わ。あんた達も、夢を叶えてから…」

「…大丈夫ですよアクア様、私はまだ生きると思いますが…アクア様のように、胸を張って楽しい人生だったと思えるくらい頑張りますから」

「そう…なら…」

「…」

「…」

「逝ったようだ」

「…アクア様、今までありがとうございました!」

「その笑顔はこやつが生きてる間に見せるべきだったな」

「どうしても…笑顔は作りきれませんでした…」

「さて、屋敷にいるあやつらに明日説明しないとな」

「…バニルさん」

「なんだ」

「…これから、2人で頑張りましょうね」

「そのモチベーションでダンジョン制作も頼みたい」

「任せて…ください!」

「ようこそ女神アクア…あなたの下界での暮らしは終わりました」

「…私は、あなたにあらたな道を案内する、女神…クリスさんだよ!」

「…エリスあなた何やってるの?ここでその姿なの違和感しかないんですけど」

「いやー…サプライズというか」

「別にエリスの姿でもクリスの姿でも変わらないけどねえ…まあいいわ、ただまークリス」

「おかえりなさい、アクア先輩。どうしでした?」

「ええ…すっごい楽しかったわね。あの3人が先に逝ってからもバニルとウィズに子ども達がいたからそこまで寂しくはなかったし」

「それは何より!いやー、寿命には流石に逆らえないからね。カズマくんもめぐみんもダクネスもみんなアクアに申し訳ないって言っててさ」

「…え?」

「あっちに、アクア先輩が会いたがってた3人がいる。だからこうして私もクリスの姿でお出迎えしたわけだけど」

「ほ、本当…?」

「本当です。特例中の特例ですけどね、ある条件と、魔王討伐の功績と、後は私がちょっと力添えさせていただいたのでできたことですけど!」

「…」

「アクア先輩は女神でありながら人の生を全うして、普通の女神なら経験できないことをたっくさん経験してきましたよね?その報告を上にすることが条件です」

「人の生…って言ってもクリスの模倣をしただけだけどね」

「私は寿命とか関係なく下界に降りては戻ってきての繰り返しですから…これはアクア先輩しか体験していないことですよ」

「…そっか」

「はい!さて、では行きましょうか。あの3人に会うなら私もクリスでいなきゃと思ってこの格好ですけど、アクア先輩はどうします?」

「どうって…私別に下界でも姿変えてなかったわよ?」

「でもあの装備は体を変えてからつけてないですよね?」

「装備…羽衣のこと?」

「そうです、それ付けて久しぶりにあの3人に女神アクアを思い出させてあげてくださいな」

「なるほどねえ…いいわねそれ!」

「でしょう?じゃあこの先に用意しておきますね」

「あら、クリス?」

「先に行ってあげてください、アクア先輩。あの3人は多分アクア先輩が思うよりあなたをずっと待ってましたから」

「…わかったわ!」

「それじゃあ、いってみよう!」













「……」

「エクスプロージョン」

「ぎゃああああ」

「やっぱ究極的にクソゲーだな初期ルール…このボードゲームのルール改訂に乗り込んで正解だったわ」

「別に私はルールがどう変わろうと最強なので」

「私は…クルセイダーが一線級だった時代が1番好きだったな」

「ちょっとおおおおおおおお!!!」

「うわうるせえ!ここ基本的に静かなんだから大声上げるなよ!」

「違うでしょう!?ここは涙で私を迎え入れるシーンでしょう!?なに呑気にボードゲームやってんのよ!」

「エリス様が持ってきてくださったのでつい紅魔族の血が」

「つい、じゃないわよ!」

「まあまあ…アクア、久しぶりだな。お、その羽衣は…久しく見ていなかったな」

「あ、羽衣つけてんのか。売り払おうとしてたのが懐かしいな」

「…」

「なんだよ、お前しんみりとした感じで出迎えてほしかったのか?」

「1番母親らしかったのはめぐみんだったな、次点でアクア」

「お、おい…私だってやれてたはずだぞ」

「…少し酷な言い方かもしれませんが、私は母がいたから1番母親らしくできただけだと思いますよ」

「母親らしいとは言うけどそういうカズマさんは父親らしかったかしら?」

「…」

「自信ないんだな」

「う、うっせー!アクア来たんだからもうとっとと行こうぜ?な?」

「行くって…どこに?」

「上に報告することがあるのでしょう?私たちも付き添いますよ」

「ああ、私たちがいた方が話しやすいこともあるだろう」

「そういうわけだ、行こうぜ…その、悪かったな、あっちに1人ぼっちにしちまって」

「…」







「さっきも言ったけどバニルとウィズと子ども達がいたからそこまで1人ぼっちには感じなかったわ…でも」




「やっぱあなた達といないとね!」





終わりです、原作後日談早く欲しいですねー

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