高森藍子「水没の空・雨雲の街」 (13)
高森藍子「目指せ!水先案内人!」
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【ARIA×モバマス】高森藍子「そのあたたかな手に」
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【ARIA×モバマス】浜口あやめ「ARIAカンパニーの新人を」桃井あずき「監視大作戦!」
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前略
今日はとてものんびりしています。
事の始まりは朝でした
いつも通り制服に着替え髪の毛をセットし終わると、私は二階のダイニングに向かった。火星の朝。いつもならアイさんがキッチンで朝食を作っている音がするけれど、今朝は静かだ。二階にアイさんの姿が無かったので、そのまま一階へと続く階段を下りる。そして、じゃぼんという音がした。
「はへ?」
そして靴下が、思いっきり水たまりに飛び込んだみたいに水を吸収する感覚。
「えええっ!?」
私は前代未聞の体験におののきながら、踵を返し階段に戻る。数段昇ると、そこはいつもの階段だった。
「何が起きてるの……?」
私がそうつぶやくと、階段を覗くアイさんの顔が見えた。
「ア、アイさん!」
私は思わずすがるような声を出す。アイさんはニヨニヨ顔で私を見ながら口を開く。
「おはよう、藍子ちゃん。目はばっちり覚めた?」
「……はい、これまでないほどに」
「それは良かった。藍子ちゃんにびっくりしてほしくて、昨日の夜言わなかったんだよね」
アイさんはそう言って嬉しそうに笑う。
「な、何をですか……?もしかして、この浸水現象、アイさんがやったんですか?」
私はアイさんに尋ねた。アイさんが会社を水浸しにしてまで私を驚かせようとするいたずら心があったなんて思わなかった。私の言葉に、アイさんは笑いながら返す。
「違う違う。この浸水現象はね、アクア・アルタって言うの」
「アクア……アルタ……?」
私はアイさんの言葉を反芻する。
「そう。毎年この時期に起こる高潮現象のことをアクア・アルタって言うの。南風と潮の干潮に気圧の変化が重なって起きるんだって」
「へぇ~……」
なるほど。その影響で、海辺に会社がある我がARIAカンパニーにも潮が満ちてきたというわけですね。
「アクア・アルタの間は街の機能がほとんどマヒ状態になるから、この時期はみんな家でゆっくりするんだ」
「そうだったんですね……」
「うん。街と海の境がなくなってるから、ゴンドラにも乗っちゃだめだよ。乗り上げちゃうと危ないから」
「そうなんですね……わかりました!」
アイさんの言葉に私はしっかりと返事をする。
「いや~、それにしても。藍子ちゃんの驚いた顔、可愛かったよ」
アクアアルタについての説明が終わると、アイさんは再びニヨニヨ顔に戻ってそう言った。
「ア、アイさんっ!」
私は恥ずかしくなって、思わずアイさんの腕をとる。
「昨日のうちに浸水しそうなところにあったものを全部一人でどかすっていう重労働があったけど、藍子ちゃんのびっくりした顔が見れただけで帳消しされたよ」
「も、もう……言ってくれたら手伝ったのに……」
「それじゃあ、驚いた顔が見れなくなっちゃうじゃない」
というわけで。街から水が引くまでの期間は、お店も開店休業状態です。このアクア・アルタが終わると、ネオ・ヴェネツィアに本格的な夏が訪れるそうです。マンホームの日本で言う、梅雨のようなものかもしれません。
二階のテラスでアイさんと何を話すでもなくのんびりと過ごしていると、電話が鳴り響いた。私は急いで受話器を取りに向かった。
「もしもし、お電話ありがとうございます!こちらARIAカンパニーです!」
ここの電話機はずいぶん昔の形を模して作られたものらしく、入力場所と出力場所が一体になっておらず、出力場所だけがぶら下がっている。入力部分は本体にそのまま設置されていて、そのすぐ近くからは空中に映像を投影するための装置が備わっている。
電話の主はアイさんを呼んでいたので、私はアイさんを呼んだ。
「はいはい……」
アイさんに電話を替わる。しばらくしてアイさんが受話器を置くと、私の方を振り向いていった。
「ごめん、藍子ちゃん。ちょっと急用が出来ちゃったみたいなの。だから。後よろしくね」
「わ、わかりました!」
「アリア社長も、良い子にしていてくださいね」
「ぶいにゅ」
「じゃあ、ちょっといってくるから」
「はい。いってらっしゃませ~!」
アイさんは電話をしてからすぐにどこかへ出かけてしまった。
「……アイさん、行っちゃいましたね」
「ぷい」
「……じゃあ、ゆっくりしましょうか、アリア社長!」
「ばいちゃ!」
こうして私たちは、テラスでゆっくりと過ごすことにした。
いったいどのくらいの時間がたったのかわからないほどのまどろみの中。急に耳慣れた声が聞こえてきた。それは、最近お友達になったばかりの声だった。
「藍子ちゃ~ん!」
「……ふえ?」
自分の名前を呼ぶ声がして、目を開ける。
「あれ?藍子ちゃ~ん?」
あずきちゃんの声が聞こえる。私は寝ぼけ眼をこすりながら、二階テラスと一階をつないでいる階段を降りた。
「あ、いたいた」
あずきちゃんは私の姿を確認すると、じゃぼじゃぼと音を立てながら近づいてきた。
「どうしたの、あずきちゃん?」
私はゆるんだ顔を上に押し戻しながらあずきちゃんに尋ねる。
「いやぁ、アクア・アルタで練習もできないし、暇だから来ちゃった」
「来ちゃったって……外を出歩くの、危なくなあい?ここら辺、水路も多いし……」
「あずきはこれでも地元っ子だから大丈夫だよ!」
「そうなの……?」
「うん!」
「そっか……それで、どうしてまたウチに?」
「あ、そうだ!忘れるところだった。藍子ちゃん、うちに来ない?」
「へ?」
あずきちゃんは突然手をつかんできた。
「ね!」
「う、うん。良いけど……」
「やった!じゃあ、決まりね!」
「あ、ちょっと待って!」
私は今すぐにでも出発しそうなあずきちゃんを一旦制し、ARIAカンパニーのテラスに戻る。テラスではアリア社長がうたた寝をしていた。少し心苦しいとは思いつつ、私はアリア社長を起こす。
「アリア社長、アリア社長!」
「……ぷい……?」
「今からお出かけするんですけど、アリア社長も一緒に行きませんか?」
私がそう尋ねると、アリア社長は「ちゃい!」と元気に返事をしながら、二階の部屋に入っていった。そして、自分が乗るためのミニゴンドラと、それを引っ張るための紐を持ってきた。そして、紐を私に渡してきた。
「準備は大丈夫ですか?アリア社長?」
「ぶいにゅ!」
アリア社長は元気に返事をした。
「あ、ここ、水路が近いから、気を付けてね」
「わかった」
あずきちゃんを先頭に、ズンズント進んでいく。水先案内人の制服は足首の長さまで布があるので、片手で裾が濡れないように布をたくし上げながら、もう片方の手でアリア社長の乗るミニゴンドラの紐を引く。
「そういえば、あずきちゃんの制服、短くなあい?」
ふとあずきちゃんの制服に目をやると、制服がやけに短く、あずきちゃんは両手が空の状態のまま歩いていたので聞いてみた。
「ああ、これはねぇ……」
あずきちゃんは私の方向へクルっと身体を向けると、得意げな顔で言った。
「私がアクア・アルタ用に制服を改造したんだ~。といっても、ピンでとめてるだけなんだけど……ほら、ここ」
あずきちゃんは腰あたりを指さしながら言った。
「裾の方を内側に織り込んでいってね、それをなるべく目立たないように安全ピンでとめてるの」
「へぇ~、すごいね」
「でしょでしょ!?動きやすいし、ミニっぽくなっててセクシーだし、結構気に入ってるんだぁ」
あずきちゃんは嬉しそうに言う。
「……あ、ここの道を曲がったらすぐだよ!」
あずきちゃんは急に走り出す。
「あ、待って、あずきちゃん!」
私は水路に落ちないように慎重に、あずきちゃんについていった。
「ほら、ここが姫屋の支店だよ!」
あずきちゃんが指さす先には、大きくて立派な建物がそびえ立っていた。
「普段はここの寮で生活してるの。さ、入ろう!」
「あ、うん」
私はあずきちゃんに連れられて、建物の中に入る。
「おじゃましま~す……」
中に入ると、赤を基調としたシックな内装が施された空間が広がっていた。
「藍子ちゃん、こっちこっち」
あずきちゃんは手招きをする。そんなあずきちゃんのすぐ後ろに、一人の女性が立った。
「こりゃっ!小娘!」
「ひぃ!?」
いきなりの出来事に、あずきちゃんは肩を勢いよくすくめながら振り向く。
「制服を勝手に改造しないって、何度言ったらわかるのかねこの子は」
「し、支店長……」
あずきちゃんは支店長さんに頭を軽くチョップされながらそうつぶやく。
「ち、違うもん!これはただの改造じゃなくて、アクア・アルタ用の奴だもん!」
「だったら余計にダメでしょうが。アクア・アルタの時は危ないからであるくなっていってあったでしょ」
「私、地元民だから危なくないもん」
「アンタは変にどんくさい部分があるんだから、危なくないわけないでしょ」
「……むぅ~」
「むくれてもダメなものはダメ!」
「……むぅ~」
「……まったく」
その女性はあきらめたようにため息をつきながらそういうと、再び口を開いた。
「部屋に戻るまでにそのスタイルを直しておくこと。それと……」
そしてその女性は私に一つ視線をよこした後、言った。
「亜子に今日お泊りする子がいますって報告しておくこと。良い?」
「……はぁ~い……」
「返事はしっかりするっ!」
「……はい」
「よろしい。じゃあ、ちゃんとやるのよ」
支店長さんはそう言うと、今度は私の方に近づいてきた。何だろうと思って少し緊張していると、小さな声で話しかけてきた。
「うちのあずきと、仲良くしてあげてね」
「あ、は、はい」
支店長さんは私の返事を聞くと微笑み、そのままどこかへ行ってしまった。外から急に振り出した雨の音が聞こえてきた。
「支店長は頭が固いよ!」
あれから、あずきちゃんは制服を渋々元に戻した。
「もうちょっと自由に着たって良いじゃんねぇ」
あずきちゃんは唇を尖らせながらそういう。
「……そういえば、さっき支店長さんに亜子さんに報告しておくようにって言われてなかった?」
「あ、そうだった!」
私があずきちゃんにそう言うと、あずきちゃんはベッドから跳ね上がった。
「今から報告に行こう」
あずきちゃんの部屋を出て、一階へと戻る。階段を降りてすぐのところに扉があり、あずきちゃんはそれをノックする。
「失礼しま~す」
「どうぞ~」
中から声がすると同時にあずきちゃんは中へ入っていった。私もそれに続く。
「あずきちゃんやんか、珍しい。どないしたん?」
声の主はあずきちゃんの姿を見てそう言った後、私を見て口を閉ざした。
「亜子さん、今日私の友達の藍子ちゃんが私の部屋に泊まるから」
「あ、あずきちゃん。まだ泊まるって決まったわけじゃあ……」
あずきちゃんの言葉を聞いて、私は慌ててあずきちゃんに言った。
「でも、当分雨やみそうにないよ?」
「……アイさんに何も連絡してないし……」
「じゃあ、私のケータイ貸してあげる」
あずきちゃんが携帯を渡してきた。私はアイさんに電話をかける。
「……はい、わかりました。はい、ありがとうございます。おやすみなさい」
「どうだった?」
「アイさん、良いって」
「やった!」
私が電話を切ると、あずきちゃんは急いで訪ねてきたのでそう返した。すると、あずきちゃんは嬉しそうに飛び跳ねた。
「ちょい待ちちょい待ち」
そこに、亜子さんと呼ばれていた人の声が入ってくる。
「あずきちゃん。まだウチ、何も聞いてないんやけど?」
「あ、そうだ。だからね、藍子ちゃんが私の部屋にお泊りするの」
「それ、支店長には許可取ってあるん?」
亜子さんはあずきちゃんにそう尋ねる。
「うん。もちろん!」
「ホンマかいなぁ……まあ、一応報告は受けたということにしておくわ」
「嘘じゃないもん!藍子ちゃん、ご飯食べに行こ!」
あずきちゃんはそう言うと、さっさと部屋を出て行ってしまった。
「あ、あずきちゃん!」
私もあずきちゃんの後を追おうとした。すると、亜子さんから呼び止められた。
「あ、ちょい待ち」
「は、はい」
亜子さんは私に手招きする。私はそれに従って亜子さんのそばに行った。
「あの子と、仲良くしたってな」
「……はい!」
「そういえば、さっきの亜子さんって、どういう人なの?」
食堂でご飯を食べて大浴場でお風呂に入った後、あずきちゃんの部屋でおしゃべりをしていた。あずきちゃんに貸してもらった和服風のパジャマは、あずきちゃんの匂いが少しした。
「亜子さん?亜子さんはね、自称ネオ・ヴェネツィア一お金の管理が上手い事務員さんだよ。本当に一番うまいのかどうかはわからないけど」
「へぇ~。じゃあ、支店長さんは?」
「支店長はねぇ~。新・水の三大妖精の一人で、姫屋支店の店長で、私の先輩の先輩、かな」
「水の三大妖精?」
聞き慣れない単語が聞こえたので、私はあずきちゃんに質問した。
「そ。ネオ・ヴェネツィアにいる水先案内人の中でも実力・人気共に抜きんでてる存在のことを三大妖精って言ってるんだけど……。なんで支店長がそう言われてるのか、私にはさっぱりだよ」
「あ、あははは……」
「先輩もめちゃくちゃ厳しいけど、支店長は先輩よりも厳しいし、すぐに制服直せって注意してくるし……」
「……」
「あずき、支店長に嫌われてるのかな……」
「……」
いつの間にか夜深くまで来ていた。時刻はすでに丑三つ時。外から雨の降る音は聞こえなかった。私は少し重くなった空気を入れ替えるために窓を開けた。
「わぁ……綺麗……」
窓を開けると、そこには凪いだ水面に映し出された、もう一つの夜空があった。それはまるで、世界が鏡みたいに反転してしまったかのように見えた。地面に空があって、空に街があるみたいな。そんな不思議な景色。
「ほら、あずきちゃん。綺麗だよ」
「……うん」
先ほどの話の流れで少ししょんぼりしているあずきちゃんを窓辺に誘う。あずきちゃんはゆっくりと膝を擦りながらこちらにやって来た。
「……ね?綺麗でしょう?」
「……うん。綺麗……」
あずきちゃんの顔が、窓の外を見る前よりも少し明るくなった気がした。
「……私ね、支店長さんがあずきちゃんのことを嫌ってるとは、思えないな」
「え?」
「だって、私、さっき支店長さんに言われたの。あずきちゃんと仲良くしてねって」
「……」
「それって、嫌いな相手のためには言わないんじゃないかな?」
「……でも……」
「もちろん、支店長さんがあずきちゃんを厳しく叱ることがあるかもしれない。けど、それって愛情の裏返しなんじゃないかな。あずきちゃんに期待しているからこそ、厳しく指導してるんだと思う。どうかな?」
「……そうなのかな」
「うん、そうだよ。支店長さんも亜子さんもあずきちゃんの先輩も、もちろん私も、あずきちゃんのことが好きなんだよ」
「……うん、そうだね!」
あずきちゃんの顔がパッと明るくなった。
「さっ、あずきちゃん。もう夜も遅いから寝よう?」
「うん」
それから私たちは横になった。
「おやすみ、藍子ちゃん」
「おやすみなさい、あずきちゃん」
少しだけ空いた窓の隙間から、優しい月明かりが部屋を包む。その明るさは、不思議と私たちを眠りに誘っていった。
終わりです。ありがとうございました。来週もよろしくお願いします。
>>1
細切れにスレ立てないで
1つのスレで書けないの?
>>10
出来なくはないかも
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