【シャニマス】透「アルバムと」円香「スキャンダル」 (38)


【浅倉家・透の部屋】

P「ははっ、この透の写真面白いな」ペラ

ガチャ

透「プロデューサー、コーヒー持ってきたよ」



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P「お、ありがとうな何から何まで。
 さっき透のお母さんと一緒に食べたケーキも絶品だったし……今度お返しさせてもらうよ」

透「ふふ、いいよそんなの。
 お母さんの誘いもちょっと強引だったし」

P「はは、まさか取材場所の下見の帰りに、家の前で透のお母さんとバッタリ会うとはな。俺も想像してなかったよ」


透「ウチに上がるの、すっごい遠慮してたね」

P「そりゃケーキのお誘いなんて申し訳ないし遠慮するよ。あんまり断りすぎても失礼だから、結局頂いちゃったけどな」

透「オフなんだし気を使わなくていいのに」

P「そういう訳にもいかないさ」


透「そっか。
 あ、そうだ。お母さんさっき銀行に出かけたから。すぐ戻ってくるって言ってたけど」

P「え、そうなのか。
 忙しい時に来てしまって悪かったかな。俺も出来るだけ早くお暇するよ」

透「なんか『振り込み忘れてた!』って慌ててた。
 別に急いで帰らなくていいよ。コーヒー持ってきたとこだし。
 それに見始めたばっかりでしょ、アルバム」


P「あぁ、このアルバムな。『面白いものあるから』って部屋まで連れてこられて何かと思ったけど、たしかに面白いよ。
 小学生の頃の透たちが見られるなんてさ」

透「でしょ。どうだった?」

P「みんな面影あるよな。
 小糸は今の姿をそのまま小さくした感じだし、雛菜の天真爛漫さも変わらない。
 円香はこの頃から落ち着いた雰囲気だったんだなぁ……」

透「私も、今と変わらない?」


P「透か?そうだな。
 あぁ、でも昔の透は今より中性的かもな。可愛い女の子にもカッコいい男の子にも見える、不思議な雰囲気だ」

透「そうなんだ。
 ……ねぇ、何か思い出さない?」

P「? “何か”ってーー」

ガチャ

円香「……何、してるんですか?」


P「え?円香? 
 すまん透、円香と遊ぶ約束してたのか」

透「え、別にしてないけど。
 どうしたの急に来て。ていうかなんでウチに入れたの?」

円香「鍵、空いてたから」

透「あー……お母さん鍵閉めるの忘れてったんだ」



円香「…………プロデューサーから受け取る予定の台本があったから寄っただけ。営業車が停めてあるの見かけて、それで」

P「あぁ、来週やるラジオの台本か?
 悪いけど明日事務所で渡そうと思ってたから今は持ってないよ」

円香「そうですか。無いならいいです。
 それより、あなたは何故ここに?」

P「それはだなーー」

□□□□□□□□


円香「ーー……ふーん。
 それで、ケーキを御馳走になったうえに両親も不在なのに、アイドルの部屋でのんきにアルバムを眺めていたわけですか。良い御身分ですね」

P「うっ……そう言われると返す言葉も無いな……」

透「いいんじゃない。何も悪いことしてないんだし」

P「透……」

円香「良いこともしてないですよね」

P「はい……」


透「あはは。
 それよりさ、樋口も一緒にアルバム見る?」

円香「興味無い。面白い?そんな昔の写真見て」

P「今とは違ったみんなが見られて楽しいよ。
 ほら、この円香の写真とか良い笑顔してるじゃないか」

円香「あぁ、今の私の笑顔は魅力的ではないと言いたいんですね」

P「はは、もちろん今の円香の笑顔だって素敵だよ。
 色んな笑顔を見られたらファンが喜ぶだろうと思ってさ。でも、この写真の笑顔は幼馴染の前だから出る表情なんだろうなぁ」

円香「まぁ、あなたの前では苦笑いしか出てきませんからね」


P「……はは、頑張るよ。
 お、これもすごく良い写真じゃないか」

透「どれ?」

P「ほら、このジャグルジムの頂上でみんなが揃ってる写真。雰囲気がすごく出てるよ。
 ははっ、雛菜が手を離して立ってるのが危なっかしく見えるなぁ」

透「あー、これかぁ。
 そういえばさ、樋口この写真撮った後大変だったよね」

P「ん?何かあったのか?」

円香「余計なこと言わなくていいから」

透「えー、そう?」


ピーンポーン
ピーンポーン

透「ーーあれ、誰が来たんだろ。ちょっと行ってくるね」

P「あぁ」

ガチャ
バタン
トントントン

円香「……」

P「……」ペラ

円香「昨日の……」

P「ん?」

円香「昨日のニュース見ましたか?アイドルの」


P「あぁ、もしかして恋愛スキャンダルの話か?」

円香「そうです」

P「詳しくは知らないけど、何年も一緒に活動していたプロデューサーが相手だったらしいな。今朝も報道番組はその話題で持ちきりだったよ」

円香「なんであんな不祥事を起こしてしまうのか理解できません」

P「全くだ」


円香「……アイドルの恋愛について、あなたはどう考えますか?」

P「ん?……どう、とは?」

円香「良いと思うか悪いと思うか。その程度の意味合いです」

P「難しい質問だな……」

円香「難しい?
 意外……あなたなら『ダメに決まってる』と即答するかと思った」


P「プロデューサーとしてはそう言わなきゃいけないな。アイドルは“恋愛禁止”が当たり前だって考えが日本にはあるからさ。
 アイドルの活動を手助けする仕事をしている俺としては“NO”としか言えない」

円香「個人としてのあなたは違う、と?」

P「俺個人としては……そうだな。
 アイドルのどこに魅力を感じるか、って話なんだ。アイドルは性格とか能力とか背景とか……その存在を全部引っくるめて好きになるものだと俺は思ってる。
 恋愛しないから好きになるわけじゃないだろう?」


円香「知りません。私は男性じゃないので」

P「はは、そうだよな。
 まぁつまり、アイドルが恋愛するのが必ずしも悪いとは思わないって話だよ。祝福したい気持ちだけじゃなくて、寂しさも勿論あるけどさ」

円香「ふーん……」

P「……もしかして円香、好きな人でも出来たのか?」


円香「……は?なんでそういう話になるの?」

P「いや、違うならいいんだ。相談の前置きを話されてる気がしてな」

円香「そんな相手、いる訳がないでしょう。盛大な空回りご苦労様です」

P「はは、悪かった。
 でも、ホッとしたよ。円香にそういう相談をされたら、引き止められる自信が無いからさ」

円香「……どういう意味?」


P「もしそんな相手がいれば、思慮深い円香ならノクチルのアイドル活動の事も全て考えた上で相談に来ると思うんだ。
 俺がいくら説得してもそんな円香を心変わりさせるのは難しいだろうからな」

円香「……もし万が一そんな相手が出来たとしても、あなたには相談しないので安心してください」

P「俺じゃなくてもいいから必ず事務所の誰かに相談してくれよ。283プロのみんなにはスキャンダルなんて経験してほしくないからな」

円香「無用な心配ですが、一応覚えておきます」

P「そうしてもらえると助かるよ」


円香「もし……もしですよ」

P「ん?」

円香「もし仮に、あなたの事を恋愛対象として見ているアイドルがいたら、あなたはどう対応しますか?」

P「はは、そんな子はいないだろ」

円香「当たり前です。なんで仮定の話をしているのに事実の体で答えるんですか?日本語の教育を受けてないの?」

P「手厳しいな……」


円香「質問に答えて下さい」

P「答えるも何も……俺はアイドルと恋愛関係になんてならないよ」

円香「なんの根拠があって?」

P「みんながアイドルで、俺がプロデューサーだからだ。根拠なんてそれだけで十分だろ」


円香「ふふ……まるでロボットですね」

P「え?」

円香「ご主人様に命令をプログラムされたロボット。
 プロデューサーはアイドルと恋愛しません。ルールですから。
 ……あなたの意思はどこにあるの?」

P「そんなことはない。これは俺の意思だよ」

円香「違います。あなたは深く考えた事がないし、考えたくないだけ。
 私思うんです。スキャンダルを起こしたプロデューサーも、案外同じセリフを言っていたんじゃないかって」

P「……」


円香「あなたは一見正論めいた言葉を吐いて善人振りたいだけにしか見えません。
 “アイドルとプロデューサー”だけの問題ならその通りに動けるのかもしれないけど、あなたと相手の個人的な感情を想定に含めていない。
 あなたのような甘い人が情に流されないと思いますか?そんな机上の空論を語られても説得力は皆無です」

P「……たしかに、考えが浅かったかもしれないな」


円香「そうですね。
 もちろん、あなたにそんな浮ついた話が降って湧く確率なんて隕石が頭に直撃する確率よりも低いです。
 けど、ほとんどあり得ないからって対策を怠るのは無能ですよね」

P「ははっ、その通りだな。
 ありがとう円香、スキャンダルのニュースを見て283プロを心配してくれたんだな」

円香「……あなたの都合の良い脳みそがそう解釈したいならどうぞご自由に」


P「『アイドルとは恋愛しない』……それは俺の本心でもあるけど、無責任な言葉でもあったな。
 だからせめて円香に誓うよ。
 もしアイドルに想いを告げられたとしたら、俺はアイドルに関わる人全てにとって“最善”の行動をするって」

円香「また、曖昧な言い方をしますね……」

P「上手い言葉を思い付かなくてすまない。
 円香が納得出来るくらい、誰も傷付かないように誠心誠意行動する。そういう意味だ」

円香「飾り立てた言葉は不要ですので、行動で示して下さい」

P「ははっ、円香ならそう言うと思ったよ。
 見ていてくれ」


プルルルルル

P「ーーっとすまない、着信だ」

円香「仕事の電話でしょう?気にせずどうぞ」

P「悪いな、部屋の外で話してくるよ。(ガチャ)
 ーーはい。お世話になっております……」

円香「……“アイドルとは恋愛しない”。
 あなたがそう言うなら、そうなんでしょうね……」

円香「透は…………」

□□□□□□□□

続きは午前中に投稿します。


P「ーーふぅ、ただいま」

円香「思ったより短い電話でしたね。顔色の悪さを見るに良い話ではなかったみたいですけど」

P「あぁ、別に悪い話でもないんだけどーー」

ガチャ

透「ただいま。
 あれ?カバン持ってるけどもう帰るの?」

P「透、ちょうど良かった。
 すまないが仕事の都合で事務所に戻らなきゃいけなくなったんだ」

透「え、そうなんだ」


P「ケーキまで頂いたのに帰りが慌ただしくてすまない。お母さんには改めてお礼を伝えに伺うよ。
 今日はありがとうな。コーヒーもご馳走様」

透「うん。じゃあ、またね」

P「おう。
 円香も、またな」

円香「さようなら」


バタン

透「あーあ」

円香「……浅倉」

透「ん?」

円香「なんでプロデューサーを部屋に上げたの?」

透「え、“なんで”って……
 ふふ、変な質問」


円香「プロデューサーだけを部屋に入れるなんて迂闊な真似はもうやめて」

透「……え、なんで?」

円香「何かの間違いがあったら困る」

透「ふふ、何それ。
 ないよ、何も」

円香「あの人も一応男だからね?」

透「プロデューサーはそんな人じゃないし」


円香「その言葉、嫌い。他人の全部を理解なんて出来るわけないのに。
 ……それに、本人も知らなかった一面が突然現れる可能性だってあるでしょ?」

透「そうかな。ずっと一緒にいたらわかるよ。その人のする事と、しない事」

円香「そう思いたいだけだから」

透「……樋口にはわからないよ、この気持ち。
 誰かを好きにならないと、わからない」

円香「……っ!」


透「え、ごめん……言い過ぎた?」

円香「別に……それが正しいと思うなら謝らなくていいんじゃない?」

透「だって樋口、泣きそうな顔してる」

円香「してない。バカじゃないの?」

透「なんでそんなに怒ってるの?」


円香「ふふ、そんなの……誰かを好きになった事のある透なら、簡単にわかるんでしょ?」

透「! ……」

円香「もう帰るから」

ガチャ

透「なんか、ゴメン。本当に……」

円香「……理由もわかってないのに謝られるの、一番ムカつくから」

バタン


透「…………ふぅ」

 ……いつ振りだろう、“透”って呼ばれたの。

 開かれたままのアルバム。ジャングルジムのてっぺんでみんなで映っている写真をそっと撫でる。

 写真を撮ってジャングルジムを降りる途中、樋口は足を滑らせて怪我をした。
 膝小僧に出来た擦り傷から、赤い血がプツプツと小さな風船のように浮かんでいた。

『こんなの全然大したことないから』

 涙を溢さないように堪えている表情の樋口を、思い出していた。

(了)


最後まで読んでくれた方、ありがとうございます。

『天塵』ではノクチルが誰に頼らずとも自分達の輝きを知っているのが素晴らしかった。
今のところシャニマスで1番内向きのユニットだと感じるので、これからの変化が楽しみ。


前回書いたノクチルSSは下記のものです。よければ読んでみてください。

雛菜「第1回透先輩会議を始めま~す」
雛菜「第1回透先輩会議を始めま~す」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1590488305/)

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