透「いや、わかんないけど」

小糸「ご、ごめんね円香ちゃん。
　わたしもよくわからないのに透ちゃんに合わせちゃった……」

円香「小糸は謝らなくていいけど……雛菜？」

雛菜「ん～とね、雛菜が最近透先輩を見てて気になるな～ってところをみんなと話そうかな～って思って」

円香「それ、仕事の話を遮ってまで話す価値あるの？」

雛菜「アイドルのお仕事とも関係ある話かもね～？」

透「いいじゃん、樋口。聞いてみれば」

雛菜「やは～
　透先輩のそういうとこ、すき～～～」

円香「……はぁ、お好きにどうぞ」

ハートマークが文字化けしてしまうようなので、
雛菜のセリフでハートが付きそうな場所は想像で補完をお願いします。

雛菜「じゃあ～……透先輩はしばらくコレ着けててね～」

透「わっ」スポッ

小糸「ヘッドフォン……？」

雛菜「もしも～し、透先輩聞こえますか～？」

透「うん、聞こえないよ」

小糸「き、聞こえてないみたいだね」

円香「聞こえてるでしょ、完全に」

雛菜「それじゃあ～、これから音楽流すから透先輩は目を瞑って小さな声で歌っててね～」

透「はーい。あ、『オーバーマスター』」

円香「……で？」

雛菜「ん～？」

円香「この訳がわからない状況の意味は？」

雛菜「透先輩に答えを聞く前に2人に話しておきたかったんだけど～……」

小糸「な、何……？」

雛菜「透先輩ってプロデューサーのことすきだよね～？」

小糸「そ、そうじゃないかな？わたしもプロデューサーの優しいところ好きだよ」

円香「……その“好き”じゃなくて、雛菜が言ってるのは恋愛感情として“好き”じゃないかって話でしょ」

雛菜「うん、そう～」

小糸「…………ぴゃ？！？！
　わわわわたしはそ、そういう意味の好きじゃなくてあの……！」

円香「わかってるから、落ち着いて。
　深呼吸。はい、吸って」

小糸「う、うん……スー」

円香「吐いて」

小糸「ハー……」

雛菜「小糸ちゃんは見てて楽しいね～?」

小糸「あ、あんな事いきなり言われたら誰でもビックリするよ……！
　え、それよりも、透ちゃんがプロデューサーさんを……って本当、なの……？」

チラッ

透「忘れてきてあげたのよ 自分の傘は～♪」

雛菜「本当かはわからないけど、雛菜はそう思う～」

円香「根拠は？」

雛菜「透先輩のスマホで撮った写真を一緒に見てたら～、プロデューサーと2ショットで撮ったやつがあって（あれ～？）ってなったんだよね～。
　それから気になって2人を見てたら（あれ～？）って思うことが何個もあったから好きなんじゃないかな～って」

小糸「そんな写真があったんだ！」

円香「それ、浅倉が私にメッセで送ってきたやつ。
　仕事の連絡してたら送られてきて、たしかに私も（は？）って思ったけど……深い意味は無いんじゃない？」

雛菜「う～ん……でも、透先輩って知ってる男子でも自分から2ショット撮りにいくようなタイプじゃないでしょ～？頼まれたら断らないけど～」

小糸「そ、そうだよね」

雛菜「円香先輩も透先輩のこと気付いてたんじゃないの～？さっき小糸ちゃんが驚いてた時もぜ～んぜん意外そうじゃなかったもん」

円香「……まぁ、ね。
　普通は気付いても言わないでしょ、こんな下世話な話。しかもみんながいる場所で」

小糸「雛菜ちゃんはなんで透ちゃんの話をしようと思ったの？」

雛菜「そうだね～、雛菜たちがアイドルだからかな～？
　アイドルって恋愛しちゃダメってルールがあるでしょ～？」

小糸「ルール……って言うよりも“慣習”かな……？」

雛菜「もし透先輩がプロデューサーと付き合う事になったら雛菜たちのアイドル活動が出来なくなっちゃうかもしれないから～……
　みんなに教えておきたいなって思った～！」

円香「だから、なんで？」

雛菜「透先輩の気持ちを知らなくて突然アイドルが出来なくなるなんて、雛菜だったら絶対イヤ～……
　わかってたらどうなっても納得出来るでしょ～？だから話したんだよ～」

小糸「た、たしかに透ちゃんとプロデューサーさんが知らないうちに付き合ってたらすごく驚いてたかも……！」

雛菜「あは～
　小糸ちゃんさっきもすっごく驚いてたもんね～」

円香「話に飛躍がある部分が多いけど、雛菜が何を言いたいかは大体わかった。
　……浅倉が私達にこんな話されて嫌がるかもとか考えないの？」

雛菜「透先輩なら許してくれるかな～って。
　それに～……相手が嫌がるかな～嫌われるかな～って心配ばかりしてたら何も出来なくなっちゃうでしょ～？だから雛菜は雛菜が良いと思うことをするよ～」

円香「……そう」

小糸「雛菜ちゃんらしいね」

雛菜「ありがと～」

円香「褒めてないけど」

雛菜「それで～、2人は透先輩が付き合うのはどう思う～？
　雛菜はね～、アイドル出来なくなるのはイヤだけど～……透先輩がそれで1番しあわせ～になれるならいいのかな～って思う～」

小糸「え……そ、そんないきなり聞かれても困っちゃうよ……！
　透ちゃんには幸せになってほしいけど、みんなでアイドルももっと頑張りたいし……う～……」

円香「小糸、悩まなくていいから。
　浅倉とプロデューサーが付き合うなんてあり得ない」

雛菜「え～、どうして～～～？」

円香「当然でしょ？
　職業、立場、年齢……挙げるのも面倒になるくらい否定的な理由はあるのに、肯定的な理由は“浅倉の気持ち”一つしかない。話す時間の無駄」

小糸「透ちゃんがアイドルで、プロデューサーさんは大人だからってこと……？」

円香「そう、良識ある大人なら女子高生の好意なんて本気で受けとらない。古いタイプの“好青年”だからそこだけは信用しても良さそう」

小糸「プ、プロデューサーさんは誰が相手でもちゃんと気持ちを受けとめてから答えてくれると思うよ……！」

円香「……かもね」

雛菜「透先輩が本気になったら断れる人なんていないと思うけどな～」

小糸「透ちゃん学校でもすごい人気だもんね！
　透ちゃんの方から男の人に……アプローチ（？）してるの見た事ないからよくわからないけど……」

円香「それ」

小糸「え？」

円香「今まで、見た目とか成績とか性格とか……どんなに良い男子から告白されてもスルスル躱してきたくせに……なんであいつなわけ？」

小糸「ま、円香ちゃん、プロデューサーさんのこと“あいつ”なんて言っちゃダメだよ……！」

雛菜「雛菜も思った～！
　プロデューサーもたしかにイイ人だけど～、透先輩からいくのは意外だよね～」

円香「浅倉のセンス、ほんと謎」

小糸「そ、そんな事ないよ……！
　プロデューサーさんはいつもわたし達の事考えてくれてるし……お仕事もテキパキこなしててカッコいいよ！」

円香「それだけであの浅倉の心が動くと思う？」

小糸「そ、それは……」

雛菜「透先輩の心は透先輩にしかわからないからね～。雛菜たちが知らない何かがあるのかも～」

円香「もう浅倉のヘッドフォン外したら？
　浅倉の話を聞かないで推測で話すのも限界があるでしょ。全部こっちの勘違いの可能性もあるし」

雛菜「そうしよっか～。
　は～い、透せーんぱい、おはよ～」スポッ

透「初めて好きになったから 忘れ方さえ知らない～♪……あ、いいとこだったのに。
　ーーおはよう。話、終わったんだ」

円香「これから始まるところ」

透「へー」

雛菜「透先輩に質問があるんだけど答えてくれる～？」

透「うん、いいよ」

雛菜「ありがと～。
　透先輩って～、プロデューサーと付き合いたいの～？」

透「え、あー…………うん」

雛菜「やは～～～」
小糸「ほ、本当にそうなんだ……！」
円香「……はぁ」

雛菜「円香せんぱーい、ため息吐くとしあわせが逃げちゃうよ～？」

円香「現在進行形で逃げてるでしょ、実際」

透「え、なんかマズい？」

円香「たまには『本当のこと言わない方がいいかな』とか思わないの？」

透「怒ってる？」

円香「楽しそうに見える？」

透「なんかゴメン」

円香「はぁ……もういい。
　……浅倉に一つだけ聞きたいんだけど」

透「なに？」

円香「“今すぐ”にでも付き合いたいと思ってるの？」

透「あー……それはないかな」

雛菜「へ～、そうなんだ～」

透「アイドル始めたばっかだしね」

円香「地獄に仏ね……」

小糸「わたしもちょっと安心しちゃった……」

透「それに、プロデューサーまだ“思い出し”てくれてないし」

雛菜「ん～？何を“思い出す”の～？」

透「それは……ヒミツ」

円香「嘘でしょ……」
小糸「と、透ちゃんが“秘密”なんて珍しいね……！」
雛菜「やは～気になる～」

透「樋口、本当のこと言わない方がいいって言ったじゃん」

円香「……頭痛が酷くなるから少し黙ってて」

小糸「と、とりあえず……！
　透ちゃんもすぐにはプロデューサーさんと……そういう関係にはなろうとしてないみたいだし、今日の会議は終わりでいいんじゃないかな？」

円香「何も解決してないけど保留でいいでしょ……レッスンより疲れた」

雛菜「そうだね～終わろっか！
　は～い、それでは第1回透先輩会議を終わりま～す！おつかれさまでした～」

小糸「お、お疲れ様……！」

透「おつかれ」

小糸「第2回はいつやるの？」

雛菜「そうだね～……何かは知らないけど～、プロデューサーが“思い出した”時かな～？」

円香「一生思い出さなくていいから」

透「それはちょっと、困る」

雛菜「あは～
　透先輩、ほんとにプロデューサーがすきなんだね～」

小糸「な、なんだかわたしまで照れちゃうな……」

円香「はぁ……ホント、最悪」

〈fin〉

最後まで読んでくれた方、ありがとうございます。

途中で透が歌っている曲は
LiPPS「Tulip」
菊地真「tear」
より歌詞を引用しました。

ノクチルのユニットシナリオめちゃくちゃ楽しみ。