交換日記『私、あなたに会ってみたい』 (158)

SS10作目です。
ヤンデレものとしては2作目となります。

・ヤンデレちゃん1
ギャルゲー後輩ヒロイン「先輩!会いに来たっスよ♪」
ギャルゲー後輩ヒロイン「先輩!会いに来たっスよ♪」 - SSまとめ速報
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ーーー学校ーーー

教師「と、この形まで変形できたら後は6分の1公式使っておしまい」カキカキ

教師「今日はここまでだ。定積分の章末問題、来週までの宿題だからな」

「えー!」

「鬼だ、鬼がおる」

教師「ブーブー言うんじゃない。2ヶ月後には受験生なんだぞ?」

ソウデスケドー

男(やばい、後半寝ててノートとってない)

男(友は…)

友「」グッタリ

男(抜け殻になっとる)




ーーー昼休みーーー

友「男ー、オレ理系にしたの失敗だったかもしんない…」

男「元々数学苦手だったもんなー。女子で理系クラスって友含めて10人も居ないんだよね、この学年」

友「うぅ、数学受験したくねー」

男「文系いけば良かったのに。なんでわざわざ理系に?将来やりたいこととかあんだっけ?」

友「……まぁ、そんな感じ」

男「へぇ、なになに?」

友「男には教えない」

男「なぜ!?」

男「あ、友さ、さっきの数学のノート貸してくれない?俺最後の方寝ちゃってて」

友「数学得点源にすんだろ?そんなんで大丈夫なのかよ」

男「平気平気、ちゃんと復習はするから。そのためにも頼みます!」

友「いやいいけどさ」

スッ(ノートを渡す)

男「さすが持つべきものは――」パラ

男「……あの、友さん。これ答えしか書いてないんですが」

友「おう」

男「途中式は?解法ポイントは!?」

友「問題と答えがありゃ途中式は作れる!そんくらいしねーと克服できねーだろ」

男(まずは基本的な解き方を身に付けてからだと思う)


委員長「そこの二人、古典のプリント集めるよ」

友「ん」スッ

男「委員長!丁度いいところに!」

男「数学のノート見せてくれませんか!書き写せなかったところがあって…」

委員長「寝る余裕があるくらいバッチリだったんじゃないの?」

男「うぐ」

委員長「…フフッ、冗談。ノートくらい見せてあげる」

男「ありがと~!」

委員長「ちょっと待ってね、持ってくる」

トットットッ

男「委員長、いいよなぁ。しっかりしてて何だかんだ優しいしさ」

男(スタイルも…)デヘヘ

友「…オレあの人苦手」

男「友は正反対のタイプだもんな。友も委員長みたいな眼鏡かければ賢そうに見えるかもよ?」

友「いらんわ。つかプリント出しとけよ。また回収に来るぞ」

男「……………」

友「はぁ、こりゃノートはお預けかもな」




ーーーとある日の放課後ーーー

男(突然だが俺には友という友人が居る。知り合ったのは高校に入ってから。初めは女子なのに自分のことを"オレ"とか言ってギャルこえーくらいに思ってたんだけど、話してみると意外と気が合ってそれからこうしてほぼ毎日つるむようになった)

男(さて、なぜいきなりこんな話をしたのかというと)

友「待ておらぁ!」ダダッ

男「待てと言われて待つ奴は居ない!」ダダッ

友「消せ!今すぐに!」

男「えー?勿体ない」

友「なら壊す!」

男(絶賛逃走中なのである)

男(経緯は簡単。所用を終えて教室に戻ってくると、友が一人で告白の練習?のようなものをしていたのだ。普段聞かないいじらしい声だったから思わずスマホで録画してしいたら気付かれて…)

男(今に至る)

男「誰に告るのか教えてくれたら消すよ!」

友「あれは劇の練習だっつってんだろ!?」

男(何の劇ですかねー?)チラッ

友「」ダダダッ

男(友のやつ本気で追いかけてきてる!?)

男(捕まったらデータ消去だけじゃ済まなさそう…!)ダダダッ



.........




ーーー空き教室ーーー

男「………」

男(とりあえず撒けた?)

男「ふぅ…」

男(あんな風に追ってくるからつい全力で逃げちゃったけど、友が本気で嫌がってんなら…名残惜しいが消すしかないか)

(スマホを取り出す)

男「LINE見てくれるかな」

スッ、スッススッ



男『絶対誰にもバラさないからさ、自分の鑑賞用として残しておいちゃダメ?』



男「……まぁ普通に考えたら嫌に決まってるよね」

男(とはいえなるべくなら残しておきたいなー。それほどまでにあの時の友は乙女だった)

男(にしても)

男「……」ミマワシ

男(こんな教室うちの学校にあったんだな。いつもこっちの方来ないから全然知らなかった)

男(机も椅子も並べてあるけど埃積もってるし、使われてないんだろうな)

男「ん?」

男(あの机、中にノート入ったままだ)

男「……」

ソー...

男「…ふむ」

男(何のノートだろう?名前も教科も書かれてない。誰かが新品を置き忘れてったのかね)ペラ

男「お」




『こんにちは』



男「……」ペラ、ペラ

男(…これだけ?)

男(最初のページに"こんにちは"って……自由帳?イタズラとか?)

男(………)



ガサゴソ

サラサラ、サラ



『初めまして、こんにちは』



男「よし」

男(何だろうこの、テレビで喋ってる人に返事するみたいな感じ)

男(戻しとくか)

スッ

男「……」

男(うん。冷静に考えれば)

男「何してんだ、俺」ハハ



友「本当にな???」



男「!?」

ガシッ

友「こんなとこまで逃げやがって。さ、消してもらおうか目の前で即刻」ググ...

男「友、痛い痛い腕が…」

男「LINE見てくれてないのっ?」

友「あんなの許すと思うか?」

友「さっさとしないと血を見ることになるぜ…」ギュウゥ

男「分かった!分かったから…!」

スッ、スッスッ

ポン

男「ほら、これで消えた!間違いなく!」

友「……」ジロジロ

友「…確かに。スマホからは消えたな」

男「え?」

友「あとはお前の頭の中だけか」

男「……友さん?」

グワシッ

男「じ、冗談ですよね…?」

友「………」

友「」ニコッ



ギャアアアア!




ーーー翌日 学校ーーー

男「まだ痛む……友め、あそこまでしなくてもいいのに」

委員長「どうしたの男くん?今日は友さんと一緒じゃないんだ」

男「昨日ちょっとね」



友「……」ムスー



委員長「まあ怖い」

男「実は…」



.........





委員長「それは男くんが悪い」

男「あんなに怒るとは思わなくて」

委員長「誰だって見られたくないところ盗撮されたら怒るよ」

男「と、盗撮」

委員長「違った?」ニコリ

男「いいえ…」

委員長「でも、ちゃんと謝れば許してくれると思うよ。あの様子だと嫌だったから怒ってるってわけじゃなさそうだもの」

男「そうする。友居ないとなんか調子狂うし…クラスの奴らにはついに別れたのかとかおちょくられるし…」

委員長「……で、プリントは持ってきたの?」

男「………あ」

委員長「男くーん?」

男「いや違うんです、やってはいるけど家に置いてきちゃっただけで」

委員長「やってないのと同罪です」

委員長「私昨日言ったよねー?今日も忘れたら委員のお仕事手伝ってもらうって」

男「…それって、どんな?」

委員長「書類整理だけだからざっと2、3日くらいかな~」

男(多くない!?)

委員長「じゃあそういうことで、来週の放課後よろしくね♪」

男「一つ訊いてよかですか」

委員長「どうぞ」

男「なんで今回だけそんなペナルティが?」

委員長「それは男くんが…」



委員長「未提出常習犯だからだよね」ニッコリ




ーーーーーーー

「帰ろうぜー。今日どこ寄る?」

「俺ちょっと腹減ったわ」

ガヤガヤ

男「……よし」ガタッ

トットッ

男「えー、友?」

友「……」

男「ごめん!調子に乗り過ぎた。越えちゃいけないラインとかさ、そういうのが見えてなくて……もうしない」

友「……」

男「そ、そうだ、今度何か奢らせてよ。大したことじゃないかもしれないけど、お詫びの」

友「……」

男「印として……」

友「………」

男(これは想像以上に厳しいのでは)

友「……ラーメン一杯」

友「青木亭の。それで手打ってやる」

男「友!」

友「別にオレもやり過ぎたしよ……あんなタイミングで…お前じゃなきゃ…」ゴニョゴニョ

友「とにかく、昨日のは忘れろ」

男「努力します」

男「…けど、そんなに卑下することないと思う。あの時の友、冷やかし抜きにかわいかったしさ。多分相手も普段とのギャップでときめいてくれるんじゃないかなーって」

友「~~!?」

友「お、おま、なんも分かってねぇじゃんかっ!大体劇の練習だっつったろ!」

男「わー!ごめん!ごめん…!」

友「ったく、ほんとに…」

男(こ、この話題は触れるのもやめとこう…)ビクビク


友「じゃ今夜8時な。お前ん家迎えに行くから」

男「へ?」

友「奢ってくれんだろ?ラーメン」

男「あぁうん。…って今日!?」

友「オレ、バイトだからその後な。こういうのは早いに限る」ガタッ

男「帰り結構おそくなっちゃうんじゃ」

友「中坊じゃあるめぇし、ちゃちな門限なんかないだろ」

男(いや、友の方が大丈夫なのか…?)

友「…また夜に」

男(あれ?友ちょっと笑ってる?)

タッタッタッ

男「行ってしまった」

男(…そういえば)




ーーー空き教室ーーー

男「確かこの机に…」

男「あったあった」スッ

ペラ



『お返事ありがとう。このノートを見つけてもらえるとは思ってなくてとてもびっくりしています。私のこのノートは元々――、―――。』



男「返事が来てる!!」

男(綺麗な字。これ読む限りノートの持ち主は女の子みたいだ)



『良かったらまた返事をくれると嬉しいな』



男「おー…!」

男(また書いて、って期待してくれてる!)

男(気になってちらっと見に来たらまさかこんなことになってるなんて)

男(誰なんだろうなぁこの人。ここに来てるってことは少なくともうちの学校だとは思うけど)

男「ひとまず返事返事」

男(なんて書こうかなー。何書けば喜んでくれるかなー)

男「……」ウーン

男「!」ハッ

男「こちらこそ、ありがとう、俺がこれを見つけたのは、昨日たまたま…」カキカキ



.........




ーーー翌放課後 空き教室ーーー

男「お、今日もきてる。なになに…」

男「………」

男「へぇー、姉妹がいっぱいいるのか」

男「"みんな良い子なのでとても可愛らしいです"。…文章も丁寧だしなぁ、なんとなく清楚なお姉さん的人物で脳内再生される」

男「俺一人っ子だから兄弟が居る感覚がどんなもんかちょっと気になるんだよね」

男(おし、なら今日書くことは――)



.........







ーーーまたまた放課後 空き教室ーーー

男「ほうほう、なるほどねぇ」

男「つまりこの教室はもう何年もこのままで大掃除の時以外誰も入ってこないと」

男「そんなことまで知ってるってことは先輩?高3なのかな」



.........




ーーー翌週 学校ーーー

男(ノートの中のやり取りを始めてから今日で丁度一週間。最近は放課後が楽しみでしょうがない)

男(こっちの書いたことにはちゃんと反応を返してくれて、彼女の話も退屈しないときてる。一回の返事で1ページくらい書くのが二人の暗黙のルールみたいになってきてんだよね。実際それくらいがちょうどいいし)

男「……」ニヤニヤ

男(顔も名前も知らない相手だけど、俺の中ではもう育ちの良い美人さんという勝手なイメージが日々膨らみつつある)

男(…名前、やっぱり気になるな)

男(最初のうちに訊いておかなかったせいでタイミング逃しちゃった感があるんだよな…)

男「……」ウーム

友「…なぁ、最近どうした?」

男「んー?」

友「妙にニヤついたり渋い顔したり。はっきり言って不審だぞお前」

男「えー?そうかなー」ヘヘヘ

友「……」

友「や、やっぱあれか?そろそろアレが近い、からか…?」

男「アレ?」

友「……なんでもねぇよ!」

男「」ビクッ

友「次体育だからとっとと出てけ。着替えらんねぇだろうが」

男「お、おう」



サササ...

ガラ



男「びびった…なんで俺怒鳴られたんだ…?」




ーーー放課後ーーー

「先生さよならー!」

教師「気を付けてな」

男(待ってました!やっと行ける!)

男(見るだけなら昼休みでもいいんだけど、あの教室案外遠くて返事まで書こうとすると時間が足りないんだよね。あの人はいつ書きにきてるんだろう)

男「ま、いいか」スクッ

男「今日はどんなことが書いてあるかなー♪」テクテク

チョンチョン

男「?」

委員長「男くん、そっちじゃないよ。こっち」ニコニコ

男「……?」

委員長「委員の仕事の手伝い。まさか無かったことに出来るとか思ってないよね?」

男「………」

男(忘れてたー!)




ーーー資料室ーーー

委員長「――最後にこのプリントを名前順に並べてから綴じ込みしたらおしまい」

委員長「ね?簡単でしょう?」

男「…うん。説明は分かった」

男「けどさ」



(大量の紙束)



男「この量は一体何!?」

委員長「なんかね、先生達もずっと忙しくてなかなか手が回せなかったみたいなの」

男「それでこんだけ溜まってしまったと?」

委員長「男くんが居てくれて助かるなー。私一人だったら紙の触り過ぎでそのうち手切っちゃうところだったもの」

男「そういう問題なのか…てかそもそもこれを委員長一人でやろうとしてたんだよね…」

委員長「他に頼める人が居ないんだって。先生に言われちゃった」

男(頼まれたら断れないところは、優しいけど損しちゃうところだよなぁ。手伝ってあげられて良かったのかもしれない)

委員長「その代わり、成績には色を付けてくれるようにお願いしておいたよ」フフ

男(…前言撤回。委員長は意外と…)

男「…あのさ、それって俺の成績も…」

委員長「うん?何かな忘れん坊将軍様?」

男「何でもないです」

男(あれから提出物忘れはしてないのに……古典のプリントだって次の日には出したし…)



委員長「本当、忘れっぽいんだよね」



男「そこまで言います…?」

委員長「……」ジッ...

男「…委員長?」

委員長「始めるよ男くん。これ今週中に終わらせなくちゃいけないんだから」

男「あ、はい」




ーーー数日後ーーー

男「友!聞いてくれよ、この前話してた漫画なんだけどさ、今年の夏に――」

友「わ、悪い、オレ先生に呼ばれてたんだわ。また後でな」



.........





教師「この形のものを三項間漸化式というが、解き方自体は――」

友「」ウトウト

男(お、珍しい。友が授業中眠そうにしてるとは)

男(……)

ソー...

ツン

友「ひゃんっ!?」ビクゥ!

クラス一同「?」

教師「どうした?具合でも悪くなったか?」

友「いや…何でもない、です」

教師「そうか。でだ、次にこの二つの解をだな」

友「……っ」ギロ

友(後で覚えとけよ)

男(――っていう目してる)




ーーー放課後 資料室ーーー

男「なんてことがあってさー。昼に関節極めてきたんだよ?」パラ、パラ

男「人のこと不審とか言っといて最近は友の方が挙動不審だって話」ガサ

委員長「最後のは男くんの起こし方も良くないと思うけど」パラパラ

男「でも元はと言えば居眠りしてた友の自業自得だろー。親しき中にも礼儀を持って欲しいよなー」

委員長「あなたが言う?」



パラ、パラパラ

ガサ...



委員長「本当、仲良しよね二人とも」

男「おかげで常に二人一組みたいな扱いされるけど」

委員長「男くんは友さんのことどう思ってるの?」

男「ベストフレンド」

委員長「…親友?」

男「そ。あいつあんなだから最初は近寄りづらかったんだけどさ、趣味とかめっちゃ合ってて喋りやすいし今じゃ家族よりも話した回数多いかも」

男「ま、それは冗談にしてもすごい気が合うのは本当。こんな感じでこの先続けていけたらなって思ってるよ」

男(……あ)

男「…今の恥ずいから友には言わないで」

委員長「素敵なことじゃない」

男「委員長にはそういう人居ないの?」

委員長「居たよ。何年も前にね」

男「おぉ!その人とは今は?」

委員長「疎遠になりましたとさ」

男「そうなんだ…」


委員長「…でもそろそろ迎えに行くつもりだよ」

男「迎え?」

委員長「仲が悪くなったわけじゃないからね。むしろずっと仲良しでいようねって約束したくらい」

男「ほぉ…いいねいいね。なんていうかロマンチック」

委員長「さて、と」パチン

委員長「はい、私の方は終わり。男くんは?」

男「俺もあとちょっと」パラパラ...

委員長「口ばっかりじゃなくて手も動かしてよ?」

男「委員長の手際が良過ぎるんだと思います」

委員長「ありがと」ニコ

委員長「今日は金曜日……なんとか間に合わせられたね。男くんの手伝いがなかったら本当にピンチだったかも」

男「忘れん坊将軍の汚名は返上出来たよね!これからは頼れる男として名を馳せていけるかな」

委員長「じゃあ、委員の補佐として推薦しておくね。これからよろしく♪」

男「えっ」

委員長「フフッ、冗談よ冗談」

男(委員長って結構、冗談好きだよね)




ーーー空き教室ーーー

男「もう真っ暗だ…」

男(今週は委員長の手伝いしてから来てたせいで遅くなっちゃってたけど、今日は特に遅い。委員長の一面を知れただけよかったと思うべきか)

男(それでも律儀に返事をくれるもんだからやめられないんだよね)

男「さてさて今日は…」



『昨日も遅くまで書いてくれてたんですね。あまり無理させたくないけど、あなたとこうしてお話するのとっても楽しくて私からやめてとは言えません。』



男「……」ニヘラ

男(この人も俺と同じこと考えてくれてるんだ…)

男(うん、いいよね。なんでも一瞬で済ませられる今の時代に、二人だけの交換日記みたいで)

男「……?」

男(最後の行、枠線からはみ出てる)



『私、あなたに会ってみたい』



男「…!」

男(会ってみたい…?会ってみたいってことは)

男(――ついにこの人を見ることが出来る!?)

男「マジかっ!」

男(そんなのウェルカムに決まってる!)

サラサラサラ

男(今日あったことも書いて、最後に…)

サラサラ...



『俺もあなたと会ってみたいです!』



男「これでよしっ」

男(いやー直接話せるかもと思うと緊張するなぁ)

男(どんな人なんだろう?会う場所はやっぱりここかな?今更初めましてって言うのはおかしいよな…?)

男(何にしても、次の月曜の返事が待ち遠しい…!)




一旦ここまでとなります。

ーーー翌月曜日 空き教室ーーー

...タッタッタッ

男「」ザッ

男「フゥ…フゥ…」

スッ(ノートを手に取る)

男(待ちきれなくてつい走ってきてしまった)

男「……」ドキドキ

男(なんて、返事してくれてるかな)

ペラ――



『嬉しい』



男「………」

ペラ

男「あれ?」

男(これしか書いてない)

男「俺も嬉しいけど…」

男(思ってたのと違う…。もっとこう、あれこれ色んなことが書いてあってもしかしたら今日この人と会えるかもなんて)

男(…俺、飽きられた?)

男「」ブンブン

男「めげちゃダメだ。少なくとも"嬉しい"って言ってくれてるんだし、いつも通り書いていこう」

男(……念のため先週変なこと書いちゃってないか確認しとこう)




ーーーーーーー

男「うーん…」テクテク

男(何がいけなかったのか)

男(やっぱりあれかな?しつこく自分の話ばっかりし過ぎた?それともあの質問のせい…?)

男(く~…考えても分からない…)

男(明日の返事を見るのが怖い)トホホ

男「はぁ…」

ガチャ

男「ただいまー」

男母「あ!今更帰ってきた。間が悪いわねーもう」

男「…なに?」

男母「寄り道しないで早く帰ってきてたらよかったのに」ニヤニヤ

男「だからなんなのさ」

男母「さっき来てたのよ?つい5分くらい前だったかしら」



男母「あんたのガールフレンド!」



男「……は?」

男母「まったく、彼女出来たんなら言ってくれてもいいじゃない!あんなに可愛くて礼儀正しい子、そうそう居ないわよ!」

男「え、彼女?」

男母「泣かせたりしたら承知しないからね」

男母「そういえば真っ赤なお着物着てたけど、そういうお家の子なの?」

男「ちょっと待ってって!」

男「さっきから何の話してんだよ。俺、彼女とか居ないよ?」

男母「照れなくていいのにこの子は~」

男「照れとかじゃないから!着物の女子なんて俺の周りに居ないの!それ多分誰かのイタズラだろ。名前なんて言ってた?」

男母「そうね確か――」

男母「……?おかしいわね、確かに教えてくれたんだけどねぇ…」

男「忘れたのか…」

男母「ボケたんじゃないわよ?もう少しで思い出せそうなの」ムムム

男「もういいよ。俺自分の部屋行くから」

男母「あ、男、あんたの彼女なんだから名前くらい教えてくれてもいいのよ!」

男「彼女なんか居ないって」

男母「それにしてもあの男がねぇ……ちっちゃい頃はお人形さんと結婚するーとか言ってたあの男が」シミジミ

男「そんな昔のことほじくり返すな!」



タッタッタッ

バタン



男「なんなんだよまったく」

男「交換日記といい、母さんといい、今日はツイてない日だ」

男(…着物の女子…)

男「………」

男(さっぱり心当たりがない)




ーーー翌日 学校ーーー

「はいあげる!」

「ありがとー。じゃあ私も」



友「……」ソワソワ



「こ、これ!勘違いしないでよ、ただの義理なんだから!」



友「……」キョロ、キョロ

男「なぁ友」

友「!な、なんだ」

男「着物を着た女子って見たことある?」

友「着物くらいならオレも着たことあるぜ…」

男「そうじゃなくて」

男「昨日俺ん家にさ、赤い着物を着た女子が来たらしいんだよ。夜の、暗くなってからすぐくらいかな」

男「この辺りでそんな子居た?友何か知らない?」

友「知らん知らん。お祭りにでも行ってたんじゃねぇの」

男「冬にやってるお祭りなんて近くにあったっけ」

友「あーそれかあれだ、七五三とかだろ」

男「7歳の子が夜に…?しかも七五三って時期違くなかった?」

友「なんだよ着物着る行事だろ?遅めの成人式っつー線もあるわな」

男「友、さっきから真面目に聞いてないでしょ」

友「き、聞いてるよ。着物着たいなら今度一緒に見に行くか?」

男「おいっ」


男「頼むよー、そいつが不気味なやつなんだよ。俺の彼女だって言って母さんに挨拶してったみたいでさ…」

友「!?お前彼女居たのか!?」

男「居ない居ない。だから気味が悪いんだ」

友「……ホッ」

友「んなのイタズラに決まってんだろ。ピンポンダッシュと同じようなもんだよ」

男「そうだよな、やっぱイタズラだよな」

男「それか母さん自身が俺をおどかして楽しんでるとか……でもそんなことする意味が……」ブツブツ

友「…男!」

男「ん?」

友「今日の放課後、一緒に帰らねぇか…?」

男「いいよ。どっか行くの?」

友「いや行く場所があるっつか、言うことがあるっつか…」

友「とにかく放課後忘れんなよ!」

男「?おう」

男(……やば、安請け合いしちゃったけどあの教室行けなくないか?)

男(……)

男(ま、いいか。明日二日分書こう。今日はまだ見る心の準備が出来てないし…)



委員長「……」




ーーー帰り道ーーー

男「そんで結局連戦してたらさー、途中で変なキャラが乱入してきてこいつがまた強いのなんの」テクテク

友「へぇ…」テクテク

男「友もそこまでは進めてるよね?ネットで調べてもロクな攻略情報載ってないしさ、どうやって倒せばいいか教えてくれない?」

友「うん…」

男「あいつの下段と投げのコンボが鬼畜過ぎていかんよな。本当にCPUか疑いたくなるよ」

友「そうな…」

男「……友くん乙女」

友「ん…」

男「どうしちゃったんだよ友。今日おかしいぞ」

友「……」

男「バイトで嫌なことでもあったか?話くらいなら聞けるけど」

友「…今日、何の日か分かってるのか?」

男「今日?………あぁ!」

男「2/14、バレンタインか。そういややけに教室浮ついてたもんな」

男(着物女のインパクトが強くて忘れてた)

友「はぁ~~……だからオレは……苦労して……」

男「なになに」

友「何でもねぇよ」

ガサゴソ

友「これ、やる」

男「おーありがとなー。今日初チョコだ。…いや、高校入ってから初だな…家族もくれないし」ハハ...

男「ちなみにこれって義理か友チョコかどっちになるんだろうな?」





友「オレと付き合ってください」





男「……………んん?」

友「…き、聞こえたろ」

男「えっと………格ゲーの件?」

友「殴んぞっ!」

男「いや、だって!?」

友「あぁあぁお前はそういうやつだもんな!ならはっきり伝えてやろうじゃねぇか!」

友「オレはお前のことが男の子として好きなんです!だからオレの彼氏になってください!」ズイ

友「これでどうだ文句は言わせねぇぞ!」ズズイ

男「わ、分かった!伝わったから!そんな近くで怒鳴んなくても…!」

友「………//」カアァ

友「返事今じゃなくていいから!」ダッ



タタタタッ...



男「……」ポツン

男「……告白された……」

男「友に……?」




ーーー翌朝 学校ーーー

「おはよー」

「今日も寒いね~」

男「………」

友「………」

男(なんでしょうこの空気)

男(いつもならゲームだの宿題だの軽く駄弁ってる時間だけど)

友「……」

男(まったくこっちを見向きもしないんですが……かく言う俺もまともに向こう見れないけどさ!)

男(席が隣同士なのを恨めしく思う日が来るとは思わなかった)

男「………」

友「………」

男(どうしよう)




ーーー昼休みーーー

キーンコーンカーンコーン

友「……」

男(…うむ)

男「昼だね」

友「っ」ピクッ

男「…お腹が空くね」

友「お…うん」チラリ

友「…//」

男(そういう反応されると困るんですけど…!対応案を持ってない!)

男「た、食べるか…昼」

友「…オレ!今日購買にするっ!」サッ

男「あ!友!」

タッタッタッ...

男(…最近友から逃げるか友に逃げられるかばっかりだな)

委員長「脱兎の如く逃げ出しました」

男「!見られて…たよね」

委員長「なーに?また喧嘩でもしたの?」

男「喧嘩じゃないんだけどね」アハハ...

男「今度も俺から何とかしなくちゃいけないことでさ」




――ゾクッ



男(!?)

男「…っ…?」

委員長「どうしたの?」

男「い、いや…今…」

男(背筋が凍るような、何か……)

男「…なんでもない」

委員長「友さんが居ないなら、今日は私が同席してあげよっか」

男「委員長が?」

委員長「うん。お弁当分けてあげる。先週のお手伝いのお礼に」ニコ

男「先週のアレって罰なんじゃなかったの?」

委員長「…じゃああげない」

男「あ、嘘嘘!是非分けて欲しいです!」




ーーー夜 自室ーーー

男「……」スッ、スッ



[スマホ]
━━━━━━━━━━━━━━━
"友達 告白"の検索結果

・友達から告白された!男女の本音ー実際に付き合いますか?ー

・質問です。長い間友達と思ってた男子から告白をされま...

・友達から恋人になる方法
━━━━━━━━━━━━━━━



男「………」スッ

男(メリット…お互いをよく知ってる、周りに言いやすい、意外な一面を知れる、自分らしく自然体でいられる…)

男「だー!」ゴロン

男「そうじゃないんだよなー…」

男「…あー…」



ーーーーー

友「あん?…ここお前の席か。るせぇな、間違えただけだ」

友「よお、お前もゲーセンなんて来んのな。やってくか?格ゲー」

友「うしっ!英語なら男にゃ負けねぇからな、へへ!」

ーーーーー



男「……」



ーーーーー

友「オレと付き合ってください」

ーーーーー



男(正直、友をそういう目で見たことはこれまでなかった)

男(なら恋愛対象外かと言われると……)

男「…わっかんない」ゴロ...



スマホ『デメリット:異性として見ることができない』



男「異性として……」

男(男友達と同じようには見てなかった、かな。可愛いって思う場面もたまにあったし)

男(だったら友が彼女でも…?)

男「……………」

男「」ワシャワシャ

男(ダメだダメだ!友は居心地の良い今の関係から、それでも進みたいって覚悟決めて告白を持ちかけてくれたんだ。受けるにしても振るにしてもこんな中途半端な気持ちじゃ失礼だろう)

男(でもいくら考えても答えなんか出てこない…)

男「んー……あー……」

男(………)

男(受けるか、告白)

男(現状いくら考えてもあいつを振るような要素が出てこないってことは、友とそういう関係になれる可能性も十分にあるってことだ)

男(褒められた考えじゃないかもしれないけど、自分の気持ちを確かめるって意味でもまずは付き合ってみるのはあり……だよな)

男(もちろん友にもちゃんと伝えた上で)

男「…そうと決まれば」




ーーー翌日 学校ーーー

男(――早速、って思ったんだけど)

友「……」ソワソワ

男(なんかまた昨日と雰囲気違いますね友さん…!)

友「」...チラ

男(そんな風にされるとこっちまで緊張してくるから!なるべくいつも通りで頼みます!)

友「っ…//」

男(そんなの無理だよなごめんね!!)

男「……」グッ

男「友」

友「!あ、あぁ?」

男「話があって…その…」

男「き、今日…いや明日!一緒に帰ろう!」

友「…明日?」

男「う……ごめん、ヘタれた」

友「………ぷっ、あはは!」


友「なんだよそこまでガチガチになってんのか?お前恋愛ごととかてんで無頓着かと思ってたぜ」

男「な、誰のせいだと思ってるんだよ…」

友「はいはいオレのせいなー、くくっ」

友「いいぜ明日で。1日ありゃ大喜びだろうが大泣きだろうがいくらでも準備出来るわ」

男「泣くことにはならないからそっちは要らないかな」

友「んぇ?」

男「…あ」

二人「……」

友「お前は本当……そういうとこだぞ」

友「決めるとこくらい決めろよなーまったくよー♪」バシバシ

男「痛っ痛っ」



「友がすげー笑顔で男を叩いてる…」

「ゲームで勝ちでもしたんじゃね?知らんけど」

「まーいつもの二人だな」



男(すごい格好悪い様を見せてしまった。実質返事もしちゃったようなもんだし…)

男(まぁ)

友「男がこの前言ってたチートキャラな、実はオレも――」

男(むずがゆいような微妙な空気は無くなったかね)

男(いやいや、正式な返事は明日だからな…スマートに決めないと)

男(……返事……)




ーーー放課後 空き教室ーーー

男「危うく忘れるところだった」

男「昨日も見れなかったしな…待っててくれてるかな」

男(今日はそうだな、友のことでも……)

男「…それはやめとくか」

ペラ



『なんで来てくれないの?男くんと会えるのとっても楽しみにしてた。』



男「待っててくれてた…?」

男(だとしたらやっちまった)



『いつも授業が終わってからここに来てたよね。大体4時半から5時の間に一人で来てノートを開いてから中をじっと見つめてるの。何て書こうか考えてる男くん見るの好きだったよ?先週は遅くてもちゃんと来てくれた。男くんも会いたいって言ってくれた時はやっとやっとやっとやっと通じ合えたんだって心が苦しくなるくらい嬉しかったのに。』

『私はもう要らないのかな。』

『ねぇ』

『男くん』



男「っ――」ゾクゾク

男「!……っ!」バッ



(誰も居ない教室)



男「…なにこれ…」

男(い、今までの見られてたのか?全部?)

男(確かに二日間来なかったけど、それだけでこんな…)

男(それに、俺名前教えたっけ…?)

男「……そこに居るの?」

シーン...

男「………」

男(と、とりあえず)

サラサラ、サラ



『待たせちゃってごめんなさい。昨日と一昨日はちょっと立て込んでて来れなかったんだ。決して要らなくなったとか――』



.........





男(…こんなんでいいかな)

男(ほとんど謝ってばかりになっちゃった。でもこれで伝わるなら……伝わるよね?)

男「……」



『何て書こうか考えてる男くん見るの好きだったよ?』



男(今もどこかで見てるのか…?)

男「……」ゴクリ

男(ま、まぁ今日は帰ろう。ここ来てからどっと疲れた)

男「…?」

(謝罪文を書き殴ったページ)

男(あれ、これって……)

男(次のページの字?)

ペラ...



『じゃあ私に会いに来てくれる?』



男「っ!」

男(……おかしい、なんで……)

男(こんな、まるで今書いたような返事が…)

男「…いやいや」

男(落ち着け俺。元々このページにも書いてあっただけだろう)

男「………」

カリ、カリ



『うん、出来るなら直接会って謝りたい。』



男「………」

男(………)

男「………………」

男「………………」

男(!……また……)

男「……」...ソッ

ペラ



『教室の後ろのドアを開けて』



男「……後ろ……」

男(あれ、だよな)

男「……」スクッ



トッ..トッ..トッ..



男(この向こうに……?)

男「……」

男(……)

男「……」トクン、トクン

男(……)

男「……」ドクン、ドクン

男(………)

男「………」バクン、バクン

男(………っ)



ガラッ





男「…………………………は?」



(真っ暗な空間)



男(ドアの外は普通の廊下…の、はず)

男(まだ日も沈みきってないよね…?)

男「………」

男「………?」

男「………」

男「……?……??」



――ニュッ



ガシッ



男「!?」

グイッ!

男(引っ張られ――)



.........




今回はここまでです。

見逃してた……たんおつ
男君誠実だなあ

待ってる

>>44 もしかして過去作にも来てくれた方でしょうか?だとしたら感謝しかないですね。

>>45 ありがとうございます。週2更新はしていきたいと思ってます。

ーーーーーーー

男(………ん)

(和室の天井)

男「部屋…?」

男(何があったんだっけ。確か……そうだ、あの変な暗闇からいきなり腕が出てきて)

男「」ペタペタ

男(大丈夫か?俺の身体何ともないよな!?)



赤い着物の女「目、覚めたんだね」



男「!」

女「ごめんなさい。少し乱暴に連れてきちゃって」

女「男くんに会えると思ったらいてもたってもいられなかったから」

男「…ここは…」

女「ここは私達の世界だよ」

男(なにそれ)


男「きみは?」

女「…分からない?」

男「?」

男(………!)

男「……日記の人」

女「やっと会えたね」

男「っ」ドキッ

男(何だろう、直視してると吸い込まれそうな…)

男「えっと…私達の世界っていうのが、いまいち分かってないんだけど……まさかあの世、とか」

女「んーん、男くんを死なせるなんてしないよ」

女「ここはね現世からちょっとだけはみ出た世界。本来抑圧されていた意思や魂が顕在化出来る場所。たくさんの姉妹達とみんなで仲良く暮らしてるんだよ」

男「うつしよ?けんざいか?」

男(たくさんの姉妹とってことは、大家族の家とか??)

女「フフッ」

ギュ(手を取る)

女「行こう?案内してあげる」




ーーーーーーー

男「……」テクテク

女「♪」テクテク

男(もうそれなりに歩いた気がする。随分広いんだな…昔の貴族のお屋敷みたいな…)

男「…近くないですか?」

女「そう?私はまだ遠いと思うな」

男(腕にしがみつきながら歩いておいて、それはないのでは)

男「訊きたいことが何個かあるんだけど、いいかな」

女「うん」

男「俺たちはどこに向かってるの?」

女「とっても大事な所」

男「…?」

女「着いてからのお楽しみ」フフッ

男(……)

男「きみ、あの交換日記書いてた人だよね」

女「そうだよ」ギュ...

男「…学校の先輩さん?」

女「男くんはどう思う?」

男(見た目は俺と同年代くらいに見えるけど)

女「……」ジッ...

男(この目……見ていると思考が粘ついていくようなこの感覚は……な、に……)

女「早く――してね」

男「」ハッ

男「あ、ごめん。なんて?」

女「……」ニコ

男「……」


男(…他にも色々訊きたいことあったはずなのに、今ので全部どっかいっちゃった…)

男(でもやっぱり一番気になるのは)

男「きみは、誰?」

女「………」

男「日記をしてくれた人だってことじゃなくってね、名前とか出身とか…自己紹介みたいな言い方になっちゃったけど、きみのことが知りたいなって」

男「そういえば俺の名前も知ってたよね。どこかで会ったことが?」

女「…それも、部屋に着いたら分かるよ」

女「きっと」

男「部屋?」

男「…!」



(大きな渡り廊下)



男「この家本当に大きいね」

男(しかもこの渡り廊下手摺りまで付いてる)

男(でもってその外側は…底の見えない吹き抜け?)

男「…これ、この下には何があるの?」

女「落ちたら血の池が待ってる」

男「!?」ギョッ

女「冗談♪何でも信じてくれるね、男くん」フフッ

男(あなたに言われると冗談に聞こえないんです…)




ーーー天井の高い部屋ーーー

男「ここで何かするの?」トットッ

女「まだだよ。目的地はもっと先」トットッ

男(ここも相変わらず和室みたいだけどさっきの部屋とは全然違う)

男(ダンスばっかり置いてあるし、壁という壁のほとんどに収納棚みたいなものが付いてる)

男(…あんなに高いところにまで)

女「気になる?」

男「!…物置部屋で合ってるかな」

女「半分正解♪」

男「もう半分は…?」

女「知りたかったら開けてみるといいよ」ニコ

男「………」

男「え、遠慮しときます」

女「誰も怒らないのに」

男(そこはかとなく見てはいけない気がする)




ーーー襖の多い廊下ーーー



ヒソヒソ



男「……」テクテク

女「」スリスリ

男「ちょっ、何して」

女「ダメなの?せっかく会えたんだからもっと仲良くしよ?」

男「仲良くって言っても…」

男(俺はきみのことほぼ何も知らない……せいぜい日記でのやり取りくらいしか)



クスクス



男「あのさ、さっきから声が聞こえるんだけど…」

女「気にしないであげて。みんな悪い子じゃないの。ここに人が来るのが珍しいみたい」

男「え」

バンッ!

男「わっ!?」

男(ふ、襖叩かれただけ?)

女「フフッ、かわいい。怖かったら抱き締めてあげる」

男「大丈夫…」




...ソッ



男「え、いやあの平気だから…っ」

女「私が平気じゃないの…」

女「二日も来てくれなくて寂しかった」

男「それは……うん、ごめん…」

男(って、よく考えてみるとそこまで酷いことなんだろうか)

男(二日放置しちゃったのは事実だけど、それだけでこんな…)

男(……でも……この人に包まれてるの……すごく心地いい……)

女「……クス」

女「男くん、そういうのはまた後で」

男「!そ、そういうのって!?」

女「もうすぐ着くからね…♪」




ーーーーーーー

男「おぉ…」



(巨大な扉)



男(でかい…これまで見たどの建物よりもでかい。こんなの漫画くらいでしか出てこないやつだと思ってた)

女「ここが私達の一番大切な場所」

男「……」

女「入ろっか」

...ギィ

男(ひとりでに開いていく…)



ギギギ



女「いらっしゃい男くん」



男「――」

男(………これって………)

男「……人形……?」

女「…♪」


男(日本人形に、西洋人形、熊のぬいぐるみ…俺の身長より大きいものもある)

男(あらゆる人形たちが、広い部屋の一面にびっしりと……)

女「この部屋も少しずつ広くしていってるんだよ?でもここがいいっていう子が後を絶たなくて、追いつかないの」

女「私のカワイイ姉妹達」

男「……」ポカン

女「男くんもおいで。みんなあなたのこと知りたがってる」クイッ

男「っと…」ヨロ

男「え、えっ」



市松人形「……」

フランス人形「……」

片目のない人形「……」



男(な、なんなんだ……ここ……)

女「男くん」

女「人形には魂が宿るって話、知ってる?」

男「…霊が取り憑く…」

女「ううん、違う」

女「お人形さんはね、大切にしてもらうと持ち主の生気を少しだけもらって、"生(しょう)"が宿るようになるの」

女「付喪神なんて呼ばれることもあるね」

女「生まれたての"生"は小さな声で一言二言、持ち主に話しかけることくらいしか出来ない。けど一緒に成長していって、やがて動いたりたくさんお喋りしたりすることが出来るようになる」

女「大抵は怖がられちゃうから静かにしてる子の方が多いけど、中には楽しく遊んでくれる持ち主も居るみたい」フフッ

女「…それでもね、時間が経つに連れて人形はボロボロになって、人は次第に飽きていく」

女「そしてその内捨てられちゃう」

男「……」


女「ここはそういう子達の想いをすくい上げて自由に存在を許すことが出来る世界」

女「みんな持ち主とのかけがえのない記憶を持って、思うままに暮らしてるんだよ」

男(…何を言ってるんだ、この人は…)

男(人形?魂?想い?突拍子がないにも程がある。現実感なんてまるでないけど…)

女「素敵だと思わない?この世界に居るのは一途に持ち主のことだけを想い続ける魂達」

女「一点の穢れもない純然な想い…」



クスクス...

アナタモアソボウ?



男(ここは、やばい)

男(そもそもなんで俺はここまでついてきた。こんな意味の分からない世界、雰囲気……明らかに普通じゃないのに)

男(……この人に、連れてこられた……)

男「っ…」アトズサリ

女「ここには寿命の概念が無いから永遠に存在出来るの」

女「ねぇ、男くん」

女「私達これでやっと――」

男「」ダッ!



タッタッタッ...




ーーーーーーー

男「」タッタッ

男「」タッタッ

男(あそこはまずい!何がまずいかはっきりとは分かんないけど、きっとあのまま居たら後戻り出来なくなる!)

男(俺は馬鹿だ!どうして今自分に起きていることを深く考えなかったんだ!?全部無抵抗に受け入れようとしてた…!?)

男(出口が分からない。でもとにかく出来るだけ離れないと!)

男「!」



(道を塞ぐ大量の人形)



男「…なんだよこれ…」

男(さっき来た時はこんなの無かった…!)

男「…っ」

男(こっちだ!)ダッ



タッタッタッ...




ーーーーーーー

男「はぁ…はぁ…」タッタッ

男「はぁ……」タッ...

男「くそっ…」ゼェ..ゼェ..

男(し、死ぬ……どんくらい走った…?)

男(どれだけ走っても同じような景色しかない。あの部屋から遠ざかってるかどうかも怪しく思えてきた)

男「……」

男(さっきからずっと、何かに見られてる気配がする)

男(あの人が追ってきてるのか…?足音も何もしないけど…)

男(それとも人形の視線…?)

男「あ」

男(また扉だ)

男(今度のは建物の扉じゃない。門扉のようにも見える)

男(…あれをくぐればもしかしたら)

タッタッタッ

...ガチャ



(渡り廊下)



男「……マジかよ」

男(ただの廊下。出口じゃない…)

男(どうしよう、向こうに行くべきなのかな。それか引き返して別の道を探すか…。窓なんて勿論、外の景色が見える場所にすら辿りつかないって、どうなってるんだよ…)




――ソッ



男「っ!?」

女「捕まえた♪」

男(後ろから…!)

女「なんで逃げたの?」

男「…に、逃げたわけじゃ…」

女「ふぅん…?」

サワ...(首元を這う指)

男「」ゾク

女「そうだよね、ちょっとびっくりしちゃっただけだよね」

女「大丈夫、全部私に任せて…」クイ

男(――え)

女「ん……」

男(顔、目の前に……柔らかい、唇……)

男(キスされてる…?)


女「ぷは…♪んむ…」ギュ

男(……頭がボーッとしてくる……)

男(気持ち良くて………)

男(……………)



――男。



男「!」

男「ダメだっ!」バッ!

ツルッ

男(やばい、転――)

フッ...

男(――ばない!?落ちる!)

男(そうかここ渡り廊下の縁の…!)



.........




ーーーーーーー

「……くん」

男(……ん……)

「男くん」

男「…!」

委員長「気が付いた?」

男「委員長…?」

男(ここ、あの空き教室だ)

男(今のは……夢?)

委員長「なんでこんなところで寝てたの?」

男「……」

男「いや、ちょっと休んでたらいつの間にか寝ちゃってたみたい」

委員長「なーにそれ、変なの」

委員長「なら暗くなる前に帰らないと危ないかもね。道端で寝たら誘拐されちゃう」フフ

男「はは…」

男(まだ夕方?)チラッ

男(!…あれから10分も経ってないんだ…)

委員長「はい鞄」

男「んぉ」

委員長「行くよ?男くんが無事帰れるように途中まで見張っててあげる」




ーーー自室ーーー

男「やーっと終わった…」

男「古典の文法とか意味分からん。数学の公式ならすんなり頭に入ってくんのに。今時ありけりだのたまふだの喋る人なんか居ないっての」

(古典テキストの着物の挿絵)

男「………」

男(夕方のあれは何だったんだろう)

男(夢と言うには鮮明過ぎるんだよな…)

男(無限に続く和風屋敷。おびただしい数の人形。赤い着物の女の人…)

男(…あの声、どこかで聞いたことがあるような…)



ーーーーー

女「ぷは…♪んむ…」ギュ

ーーーーー



男「」ブンブン

男(何思い出してるんだ俺…!)

男(夢だ夢!あんなおかしな日記を読んだせいでそれが出てきちゃったんだ)




ーーーーー

男母「そういえば真っ赤なお着物着てたけど、そういうお家の子なの?」

ーーーーー



男「……まさかな」

男(…もう一度あの交換日記を確かめれば、何か分かるのか…?)

男「………」

男「行きたくない」

男(気味の悪い白昼夢まで見せられて。正直もうあんまり近付きたくない)

男(でもまた放っておいたら、今度こそ本人が突撃してくるかなぁ…)

男「んーー」

男「…どうしよ」




ーーー翌朝 学校ーーー

男「……」テクテク

男「……」テクテク



「ねー聞いた?隣のクラスの…」

「え!そうなの?」

ザワザワ



男(ねみぃ。昨日結局遅くまで眠れなかった)

男(怖いけど見に行くしかないのかね…誰かについて来てもらおうか…?)



「ほらあのおっかない女子だよ」

「喧嘩とか?」

ガヤガヤ



男(やけにざわついてるけど、なんだろう)

ガララ

男「よーっす」

「お、来た来た」

「おい男、お前何したんだよ?」

男「はい?何って?」

「今そういうボケはいいからさ」

「昨日も仲良くいちゃついてたじゃん。男なら何か知ってるだろ?」





「友が入院したって話」





男「……え」




今回はここまでです。

ーーー放課後 病院ーーー

男「……」テクテク

男「…ここか」



ドアプレート『友 様』



ーーーーー

教師「なに?友の入院している病院が知りたいだと?」

教師「…まぁ男になら教えてもいいか」

教師「友は今、×××病院に居る。なんでも、昨日の夕方過ぎに部屋で倒れてるのを親御さんが見つけたそうだ」

教師「それからまだ一度も目を覚ましていないらしい」

ーーーーー



男「……」

ガチャリ

男「友、来たよ」



友「」スー..スー..



男「…いいのか?起きないと寝顔撮っちまうぞ?」

男(普通に眠ってるだけに見える。倒れた原因は不明らしいけど…)


男「………」

男「せっかくさ、友の予想してる以上に格好良く決めてやろうと思ってたんだ」

男「恋愛ごとに無頓着とか言ってくれてたよな?そんなことないぞ?これでも人並みにはそういうことに興味はあったしさ。ただ、その相手が友になるかもって考えたことは確かになかったよ」

男「でも全部ひっくり返してくるんだもんなぁ。ここんとこ友が挙動不審だったのって、つまりは俺のせいだったってことなんだろ?」

男「それなのに、ちょっとずるくないか?」

友「」スー..

男「人を生殺し状態にしておいて自分は眠りの世界へ……なんて」

男「…言ってもしょうがないよな…」

男「早く起きてくれよ、友」

友「」スー..スー..

男「……」

男(こうしてじっくり見てみると、本当綺麗な顔してるよなこいつ)

男(原因不明の眠りか……)

男(……王子様のキス、とか……)

男「…!?」

男(いやいやいやいや!アホか!何考えてるんだ…!)

男(絶対あの変な夢のせいだよなこれ…ちくしょー…)

友「」スー..

男「……」ゴクリ

スッ

友「」スー..スー..

男「……」ドキドキ

男(……友……)




コンコン



男「いっ!?」

男(っぶな…俺今、本当に友に向かって…)

男「あ、ど、どうぞ」

ガチャッ

委員長「やっぱり来てたんだ」

男「委員長…なんでここに?」

委員長「私も男くんと同じ。お見舞いだよ」

委員長「お花持って来たから。こっちに置かせてもらうね」コトッ

男「花……俺も何か持ってくるんだったかな」

委員長「フフッ、可愛いでしょ?オダマキっていうの」

男「ありがとね、委員長。でも…」

委員長「誰が持ってきたのかは言わなくていいよ。友さんが私のこと好きじゃないのは知ってるから」

委員長「でもクラス委員長として級友の回復を願うのくらいいいでしょう?」ニコ

男「……うん。勿論」

男「ほら、色んな人が友のこと心配してんだぞ」

友「」スー..

委員長「……」

男「……」

男「…こいつさ、アルバイトしてるんだよね。うちの高校そういうの禁止されてないじゃん?だから週4くらいで」

男「そこが結構ハードなとこっぽくて、よくくたくたになってる友の話に付き合ってたんだ」

男「なんでバイトしてんのかはあんま触れて欲しくないみたいで深く訊いたことなかったけど……大方無理が祟って倒れたんじゃないかね。滅多なことじゃ弱音吐かないやつだし」

男「ぐっすり眠ればひょこっと起きてくるんじゃないかって思ったり」


委員長「詳しいんだね、友さんのこと」

男「これでも1年の頃からつるんでるからねー」

委員長「ベストフレンドなんだっけ?」

男「……まぁ」

男(……)

男「委員長!どうしたら委員長みたいになれるかな!?」

委員長「えぇ?」

男「いつも真っ直ぐで誰にでも優しくて、小さいことでくよくよしない…って委員長のイメージ」

男「俺も委員長みたいになれたら」

男(きっと友が起きた時に、一番良い返事を…)

委員長「男くんの中の私って完璧人間みたい。私だって悩みの一つや二つくらいあるんだからね?」

委員長「それに、無理に変わろうとしなくていいんだよ」

委員長「今のままの男くんがいいって人の方が、多いんじゃないかな」

男「……委員長……」

委員長「それとも私口説かれてるのかな?」クスッ

男「!?い、いやそういうつもりじゃ…!」

委員長「男くんなら吝かではないよ~。フフッ」

男「ちょ、委員長、からかわないでよー…」




友「…ん…」



二人「!」

男「友!」

友「………」

男「聞こえるか!?友!聞こえたら指でもなんでも動かしてみてくれ!」

友「……に………げ……」

男「なんだ?」

友「」..スー..

男「友?友!?」

委員長「男くんあんまり刺激しちゃダメだよ。意識が少しだけ戻ったこと、お医者さんに報告しよう」

男「…あぁ」




ーーー翌日 学校ーーー

男「はー…」

男(友が居ないと変な感じだ。バランス感覚を失くしたような気分)

男「……」

男(昨日、友が一瞬だけ喋った時。あいつなんて言おうとしてたんだろう)

男「に、げ」

男(人間?)

スッ

委員長「お一人ですか、お客さん」

男「?」

委員長「ぼんやりしてたらお昼終わっちゃうよ?」

男「お腹空かなくて」

委員長「だからって何も食べなかったら男くんまで倒れちゃう」

委員長「はい、口開けて」

男「へー?…んぐ!?」

委員長「どう?その卵焼き。私特製なの」

男「…美味い」

委員長「良かった。じゃあ次は――」

男「あー待って待って!自分の食べるからもういいよ」

男(クラスの視線が痛いし…)


委員長「食欲は戻ってきた?」フフッ

委員長「友さんの代わりとは言わないけど、私で良ければお話相手くらいさせてもらえないかな」

委員長「お一人様は寂しいでしょ?」

男「ぼっちじゃないです」

委員長「友さん以外にお友達が?」

男「酷くない?」

男(あいつら俺と友のお邪魔虫になりたくないとか言って近寄ってこないけど…)

男(……)

男「…よろしくお願いします」

委員長「はい。お願いされました♪」

男(本音を言うとすごく助かる)

男(近頃不気味なことばっかり起きて、なんだかいつもの日常が崩れて非日常に侵食されてきてるような……そんな気がしてたから)

委員長「また一緒に帰ろっか」ニコ





男(その日から、何をするにも委員長と一緒のことが多くなった)

男(放課後寄り道するのも)





委員長「ここがいつも男くんの通ってる?」

男「ゲーセンね。っても、大体格ゲーしかやんないんだよね」

委員長「乱暴なんだ」

男「偏見だよ。委員長もやってみる?」

委員長「私はこっちの方がいいかな」

(クレーンゲーム)

男「これか…取れてる人見たことないやつ」

委員長「へぇ。どうやってやるの?」

男「やめといた方が…」





男(休み時間に取り留めのない話をするのも)





男「委員長昨日のドラマ見た?」

委員長「うん。男くんの好きそうな展開だなーって思いながら見てたよ」

男「でしょ!?俺もまさかああなるとは考えてなかったけど絶対あの流れの方がいいよね!」

委員長「フフッ、こんなに喜んでくれる視聴者が居るなら作者冥利に尽きるでしょうね」

男「来週が待ち遠しいよ。予告だとヒロインが初めて笑って――」

委員長「それで、古典の宿題は終わってるの?」

男「………何限だっけ」

委員長「5」

男「…委員長!一生のお願いが!」

委員長「だーめ」





男(友のお見舞いに行く時も)





友「」スー..スー..

男「友、今日はとっておきのビッグニュースがある」

男「委員長の掛けてる眼鏡なんだけどな、なんと――!」

委員長「男くん?しょうもないこと言わないの」

男「しょうもなくないって。誰が聞いても驚くよアレは!」

委員長「もう…無闇に広めないでよ?」

男「分かってまーす」

男「…友俺さ、友と委員長も絶対仲良くなれると思うんだよね」

男「委員長、意外と勉強以外の話も出来るしさ」

委員長「意外とは余計です」

男「だから早く三人で遊びに行こうな」

委員長「………」





男(結局日記は見に行ってない)

男(あれから何も変なことは起きてないし、おかしな夢も見ない。触らぬ神に祟りなしと都合の良い考えに走ってるのは自覚してる)

男(まぁでもなんとなく、委員長が近くに居てくれれば大丈夫な気がするんだよね。撃退してくれそうというか。こんなこと本人に言ったら怒られるだろうけど)

男(そうして気付けば2月も下旬。学年末テストが数日後に迫っていた)




ーーー校舎裏ーーー

内気男子「僕と付き合ってくれませんかっ!」

委員長「えっと…」

内気男子「……」ドキ..ドキ..

委員長「顔、上げて?」

委員長「気持ちは嬉しいよ。ありがとう。でも」

内気男子「ぼ、僕!同じクラスになった時から委員長のこと、気になってて……その、気配り上手なとことかたまに見せてくれる笑った顔とか…!」

委員長「ううん、そうじゃないの」

委員長「私ね、もう好きな人が居るの。あなたの気持ちには応えられない」

内気男子「え……」

委員長「落ち込まないで。そうやって勇気を出して行動出来るとこ、いつか惹かれてくれる人が現れるよ」

委員長「じゃあね」

内気男子「…委員長は!?」

委員長「?」

内気男子「委員長が惹かれてくれるまで!想い続けてても、いい…ですか…?」

委員長「……」

委員長「えぇ。想い続けるのは自由だから」

内気男子「……!」パアァ

委員長「だけど」



委員長「私があなたを好きになる未来はあり得ないよ」ニコッ




ーーー校門前ーーー

「じゃーね!」

「何その話!初耳」クスクス



男「……」

男(桜が咲きそう)

男(お見舞いの花に桜って使っていいのかな…)

委員長「ごめんね待たせちゃって」

男「おかえり。そんなに待ってないよ。むしろ早かったね、先生の雑用とか?」

委員長「そんなとこ。行きましょう」

男「おーし、まずはゲーセン行ってランキングの更新確認したらUFOキャッチャーの景品も――」

委員長「男くん」ニッコリ

男「はい」

委員長「今日は何をするんだっけ??」

男「………テスト勉強です」

委員長「そうだね。誰かさんの文系科目が赤点ギリギリだからそのためのお勉強会をする日だね」

男「うぅ、委員長に言わなきゃよかった……鬼…」




ギュ



男「?…あの、委員長?」

委員長「鬼ですから。男くんが逃げないように♪」

男「こんなことしなくても逃げたりなんかしないよ」タハハ...



ーーーーー

女「♪」テクテク

ーーーーー



男(嫌な夢思い出しちゃった)

男「しかもここまだ学校だから、見られちゃうって…!」

委員長「見られて後ろめたいことでもあるのー?」

男「そりゃこんなの見られたら」

委員長「見られたら?」ニヤニヤ

男「………」

委員長「はい時間切れ。大人しく連行されてくださいな」クイッ

男「おぉうっ」

男(どうしたんだろ委員長。やけに機嫌が良さそうな…?)




ーーー委員長宅ーーー

男「お邪魔しまーす…」

委員長「どうぞー」

男(ここが委員長の部屋か)

男(…んー)

委員長「思ったより何もないな」

男「えっ」

委員長「違った?」クスッ

男「いつの間に読心スキルを」

委員長「分かりやすい顔してからね。男くんの部屋よりは飾り気あるでしょ?」

男「どっこいどっこいだと思うなぁ」

男(…ん?俺の部屋に委員長招いたことあったっけ?)

委員長「ちょっと待ってて、今お茶いれてくるから」



.........





委員長「……」カキカキ

男「……」ウーン

委員長「……」サラサラ

男「……」カキ...

委員長「そこは3番。已然形から受けるこの語」

男「そっか、ありがと」

委員長「さっきからあんまり進んでないね」

男「教科書見ながらやっても分かりづらくって」

委員長「一から教えてあげよっか?」

男「いいのっ?」

委員長「そのためのお勉強会だもの」

男「持つべきものは委員長だ~」

委員長「おだてても何も出ないよ」フフッ

委員長「それじゃ最初のページから」

男「はーい」

男「そういえば家の人は?お邪魔してますくらい言っときたいかも」

委員長「みんなまだ帰ってこない。この時間は私一人だけ」

男「そうなんだ?なら今は俺と二人だけってことか」

委員長「そうね」

男(……!?)

男(委員長と二人……いや、意識するなするな……)

男(俺は赤点回避のためにここに居るんだ…!)

委員長「まずは基本的な活用系を頭に入れてから、――」

男「……」

委員長「そしたら文の結びも――」

男(……委員長の唇……)




ーーーーー

女「ん……」

ーーーーー



男「………」ボー

委員長「――てる?おーい」

男「!ごめん、ちょっとボーッとしてた」

委員長「夜通しゲームしてるせいだ」

男「そこまでやってないよ!で、何だっけ?」

委員長「もう。三回は言わないからね?」





委員長「好きだよ、男くん」





男「………」

男「スキ活用??」

委員長「…フフッ」ソッ

男「え、あの…」

男(どんどんこっちに…)

委員長「私と居て欲しいな」

委員長「ずーっ…と」

男「委員長…?え…?」

男(ち、近い近い!)

男(こんなのあと何センチも近付かれたら)

男(あの夢みたいに、委員長と……)

スッ...



ーーーーー

友「今日の放課後、一緒に帰らねぇか…?」

ーーーーー



男(…!)

男「ごめん待って!」バッ

男(危なかった……危うく流されるところだった)


委員長「……………」

男「いや!今のは別にお断りって意味じゃなくて!」

男「実は俺友からも告白されててさ!返事する前にあいつ倒れちまったから保留のままになっててそこに委員長のことも加えるとなるともっと考える時間が欲しいっていうか…!」

男(…あれ。でも友からの告白を受けようと思ってたんだよな)

男(ってことは結局委員長への答えは…)

男「………」

委員長「………」

男「き、今日は帰るよ。勉強ありがとね」

ガサゴソ

男「お邪魔しました…」



ガチャ

...パタン



委員長「………」

委員長「………」

委員長「また、逃げるんだ」




ーーーーーーー

男「……」テクテク

男「………」

男「っ」タッタッ

男「………」

男「……」...テクテク

男(…委員長が?あの委員長が、俺を好き?)

男(じ、冗談……ではなさそうだった)

男(やっばい。色んなことが起こり過ぎて頭パンクしそう。2月ってこんなに修羅の月だったのか…)

男(友への返事、俺が日和らずあの日にしていれば、こうはならなかったはず)

男(…あいつ、目覚ましてくれるよな?)

男「…くぁー…」

男(委員長、真顔だった。…やっぱあのまま出てきたのはまずかったよね…)

男(明日どうしよう……)



...ガチャ



男「…?」

男(見慣れない靴がある)


男母「遅いわよー。また寄り道してたんでしょ。もうテストも近いのに」

男「その勉強をしてたんだよ」

男母「本当?」

男「本当」

男「お客さんでも来てんの?」

男母「なーに言ってんの。これだけ待たせといて」

男母「来てるのはあんたのガールフレンド」

男「はぁ?」

男(いやいや俺まだ友とも委員長とも付き合ってないから――!)

男(…違う、母さんの言う"ガールフレンド"って、確か…)

男母「あんたの部屋に通しておいたから、待たせてごめんなさいって謝るのよ~」

男母「母さんは邪魔したりしないから、ね♪」

男「……」

トットットッ...





(自室の前)

男「………」

男(この中に…)

男「………」

男(あの時と似てる)

男(このドア、開けていいのか……?)

男「………」

ソ...(ドアノブに手をかける)

男(…やっぱり、一度母さんを呼んで)



――フラ



男(あ…――)



ドサ...




今回はここまでです。

ーーーーーーー

ピピッ ピピッ

男「zzZ」

ピピッ ピピッ

男「……」モゾ

ピタッ

男「……zzZ」

男母「男いつまで寝てんの!早く行かないと遅刻するわよ!」

男「んー…」







ーーー学校ーーー

男「」タッタッタッ

ガラッ

男「セーフっ」

教師「アウトだぞ」

男「まだチャイム鳴ってませんよね!?」

教師「始礼な。この時間のチャイムだけ1分遅れてるんだ」

男「なんすかそのトラップ…」

友「ぷふっ…」プルプル




ーーーーーーー

友「よう寝坊助。重役出勤お疲れさん」

男「そんな遅れてないだろ」

友「遅刻は遅刻だ」

男「くっそ、嬉しそうにしやがって…。友だって1年の頃制服の下にパジャマ着たまま登校したことあったくせに」

友「それは関係ねぇだろ!?…つか誰にもバラしてないよな?」

男「言ってないよ。気付いたのが俺でよかったなー。人が人なら即拡散だ」

友「つまり広まったらお前のせいだ。そうなりゃオレがお前をバラすからな」

男「同じ"バラす"なのに物騒に聞こえるのはなぜでしょうか」

カチャン

男「なんか落ちたよ?」ヒロイアゲ

友「あ、やべ」

男「ライター?」

男「友まさかお前、タバコ…」

友「オレんじゃねぇよ。バイト先の客が置いてったの。酔ってライターの方買い過ぎたって」

男「そんなことあるのか」

友「処分も面倒だから持ってけって店長がさ。そうだ、それやるよ。持ち過ぎてても火事とか怖ぇし」

男「え、いらない」

友「お前が拾ったんだからお前のものな」

男「なにその理屈っ」


委員長「……」ニコニコ

男「」ギクッ

友「あ…お邪魔虫は退散すっかな…」ソソクサ

男「や、やぁ」

委員長「なんで遅刻したのか言ってごらん?」

男「布団が離してくれなくて…」

委員長「へぇ~~」

男「…実は遅くまで宿題やっててさ!ちょっと時間かかっちゃって」

委員長「なんの宿題?」

男「え、英語…」

委員長「英語の宿題明日までだよ?男くんが睡眠削ってまで昨日終わらせるなんて、珍しいね」ニコリ

男「う……」

委員長「男くん。私、嘘吐かれるとね、すっごく――」

男「はいごめんなさいゲームやってました」

委員長「……」




スッ(そっとあすなろ抱き)



男(!!?)

委員長「おかしいなぁ。一緒の大学行きたいから足並み揃えてやるって約束してくれたのは誰だったかなー」

委員長「成績も、生活も」

男「それは、俺ですはい…」

男「えと、委員長、ここ教室……」

委員長「それで?」ギュ

男「みんな見てるから…!」

委員長「恥ずかしいって?」

男「」コクコク

委員長「じゃなきゃ罰にならないもの」フフッ

男「そんな…」



「相変わらず見せつけてくれるねぇ」

「…バカップル」

「委員長、男の前でだけ雰囲気違うよな」

「爆発しろ」



男「勉強は手抜いてないからご勘弁を…!」

委員長「だったら今日もうちに寄っていってね」

男「また勉強ですか」

委員長「息抜き。たまにはそういうのも必要でしょ」

委員長「楽しみだね、男くんで遊ぶの♪」パッ

トットットッ

男「…俺"で"、って」

男(ひぇー…)

友「おっかねぇな、お前の彼女」

男「友…一人だけ避難しやがって」

友「オレ関係ねぇし」

男「ま、昔からこうだからさ。彼女というか母親というか」

友「将来尻に敷かれるな」

男「俺もそう思う」

友「でも好きなんだろ?」

男「……言わん」

友「照れんなって」ハハッ




ーーー放課後ーーー

ピンポーン

男「……」

ガチャ

委員長「おや、早かったね」

男「でしょ」

男(あんま遅いと何されるか分かったもんじゃないから)

男「ん、委員長その服」

委員長「気付いた?この前買ったばかりなの」

ヒラ

委員長「どう?似合う?」

男「う、うん」

男(というか微妙に体のラインが強調されて……エロい)

委員長「…なに見てるのかなー?」

男「いいいや!なんでも!」




ーーー委員長の部屋ーーー

男「で、息抜きとは具体的にどの科目なんでしょうか」

委員長「まだ勉強だと思ってる?」

男「だってあの流れはいつもの…」

委員長「勉強は夜から」

男「夜?」

委員長「ご飯食べてくでしょ?夜にみっちり見てあげるから」

男「お手柔らかにお願いします…」

ヴー

男「?」



[受信メール]
━━━━━━━━━━━━━━━
from:友
sub:無題
━━━━━━━━━━━━━━━
今すぐ逃げろ、目を覚ませ

━━━━━━━━━━━━━━━



男「…?」

委員長「どうしたの?」

男「友の悪戯メールだった」

男(なんでLINEじゃなくてメール?)


委員長「息抜きはね、もっと大事なことをするの」

男「委員長がテスト勉強よりも優先させることか…気になる」

委員長「男くんがあの約束を忘れかけてるから…」

委員長「若い恋人同士が家に集まってすることといったら一つしかないよね?」

男「え」

男(そ、それって……いや相手は委員長だぞ、三度の飯より勉強好きの!)

委員長「……」

男(でもそういや高校に入ってからやたらスキンシップが増えたような…)

委員長「準備してくるから、ちょっとだけ待っててね」スクッ

男「!準備って、何の」



パタン



男「委員長!」

男「………」

男「…マジか」

男(準備、準備…)

男(やばい、ここでシャワーの音とか聞こえてきたら冷静でいられる自信がない)

男(けど委員長と付き合ってからもう1年は経つしなぁ。いつかはそういうことだって…)

男「……」モンモン

男「落ち着けー、俺ー」

男(こういう時は周りの景色を見回して心を安らかに…)


男「…ん?」

男(なんか、変な感じだ)

男(しょっちゅう来て見慣れた委員長の部屋。なのに妙な既視感がある。ついこの間、初めて訪れたような…)

男「デジャヴってやつかな」

男(あと、さっきのメール)

男(俺が反応してないからかもしれないけど、友からネタばらしLINEも追撃メールも来ない)

男(何よりこの時間ってバイト中じゃなかったか?)

男「………」

男「………あ」

男(委員長の机の上…)

男「……」

トットッ...



(1冊のノート)



男「……これ……」

男(………)

男(……――!)




ーーーーー

男「返事が来てる!!」

ーーーーー



ーーーーー

『じゃあ私に会いに来てくれる?』

ーーーーー



ーーーーー

女「大丈夫、全部私に任せて…」

ーーーーー



男「……そうだ。これ、あの交換日記…」

男「なんで委員長の部屋に…?」

男(それだけじゃない。色々おかしい)

男(俺はいつ委員長と付き合った?告白をされたのは覚えてる。その後逃げ出しちゃったのも。けどついさっきまで委員長と長く付き合ってると思い込んでたし、委員長もそう認識してるみたいだった)

男(それに友はまだ入院中のはず)

男「…昨日、いつ寝たんだっけ」

男(家に着いて、知らない靴を見つけて、母さんに彼女が来てると冷やかされ、部屋の前で……)

男「何がどうなってるんだ……」

男(ダメだ、考えれば考えるほどこんがらがってくる。委員長が戻ってきたら訊いて――)

男「………」

男(……委員長はやめとこう)

男(友のメールを鵜呑みにしたわけじゃないけど、俺の第六感的なものが警鐘を鳴らしてる。委員長に悟られるなって)

男(今日、下手すれば泊まっていくくらいの雰囲気だったからな……ここは自然に、怪しまれないようにお暇(いとま)して、友に電話しよう)

男(あいつなら何か知ってるんだろう)





委員長「何してるの?」





男「っ!」

男「も、戻ってたんだ」

委員長「見た?」

男「え?こ、このノート?」

男「いやぁ、中までは見てないよ。どうせ委員長の勉強跡が詰まってるだけだろうし見たところでねぇ?」

男「あ、あのさ!せっかく準備してくれたみたいだけど、今日俺用事があったのを思い出して…」

委員長「………フフッ」

男「委員長…?」



グニャ...



男(!?なんだ…!?)

男(景色が、歪んで……)



.........





「いけないんだ、男くん」

男「!」

男(…和室?またあの夢の世界…)

女「そういうことは思い出しちゃうんだね」

男(そしてこの人。赤い着物の女の人)

男「…きみは…」

男「委員長なのか…?」

女(以降、委員長)「♪」

男(もしかしてとは思っていた。聞き覚えのあると感じたあの声は…今目の前にある、眼鏡を外した委員長によく似ていたんだ)

男(…え、あれ!?俺服着てない!?)

男(俺に覆い被さるようにしてる委員長も、着物は着けてるけど、前はほとんどはだけてる…!)

男「委員長…!い、一回離れてくれないかな!」

男(でないとまともに考えることも出来ない!)

委員長「委員長、かぁ」

委員長「肝心なことは忘れたままなんだもんね」

委員長「ねぇ、いつになったら気付いてくれるのかな?男くんが結婚するって言ってくれた時、あんなに嬉しかったのになぁ」

男「結婚…?話が見えないんだけど……わ、分かるように説明してくれないかな。何かのドッキリ、とかなんだよね!?」

委員長「……」モゾ

男「」ピクッ

委員長「これでも分かんない?」ピトッ...

男(――!)




ーーーーー

男母「男、いいでしょ?」

幼男「やだ!女ちゃんと結婚するんだもん!」

男母「もう大きくなったんだから、人形と結婚だなんてやめなさい恥ずかしい」

男母「着てるお着物もボロボロじゃない。捨てちゃうから渡しなさい」

幼男「ぜったいだめ!」

男母「まったくこの子は…」

ーーーーー



男「……女、ちゃん……?」

委員長「男くんっ♪」

男(え…)

委員長「好き、好き…んぅ…」ギュ

男(確かに、小さい頃そんなことを口走ったことはあった。けど…)

男「女ちゃんは…おばあちゃんがくれた人形…」

委員長「うん♪どこへ行くにも、何をするにもずっと一緒だったよね」

委員長「近所の公園に遊びに行って周りの子に笑われてもぎゅっと抱き締めてくれたことも」

委員長「毎晩一緒に寝て男くんのよだれがついちゃったことも」

委員長「私が捨てられそうになった時、必死に守ってくれたことも」

委員長「全部全部男くんとの大事な思い出…♪」


委員長「私ね、男くんにプロポーズされるたびに思ってたの。私はこの人と在るために生まれてきたんだって」

男「プロポーズ、というか…それは単なる子供の発言で…」

委員長「なのに酷いよね?男くんさっきまで私のこと忘れてたんだよ?私はずっとずっとずーっと、待ってたのに」

委員長「しかも友さんに絆されようとしてた。だめだよ…?男くんが本当に望んでいるのは私。あんなの見せつけられたらね、いくら私でも妬いちゃうのよ…?」

男「…!…まさか、友が入院したのって」

委員長「男くんを汚そうとするから」

委員長「もう少しで"浄化"も終わるところだったのに男くん変なところで鋭いんだもん」

委員長「でも、結局同じこと」ジッ

男(あ……まただ、この感覚……)

男(目の前の瞳しか見えなくなるような……)

委員長「男くん、舌出して?」

男「……」アー

委員長「いい子…♪」

スッ

委員長「あむ……ちゅ……」

男「ん……」

委員長「んふ…」ギュー

男(……気持ちいい……)

男(委員長とのキス……直接触れてる肌も……)


委員長「むぁ…」ペロ

委員長「足りないなぁ。私の寂しさ、これだけじゃ埋まらないよ」

委員長「男くんに放っておかれたのたった二日だけじゃなかったんだから…」パサ...

委員長「男くんの全部、私にちょうだい?」

男「……うん……」

男「俺も…委員長が……」



――今すぐ逃げろ、目を覚ませ



男(……)

委員長「私がなぁに?♪」

男「……友……」

委員長「……………へぇ」

ズイッ

男「っ…!」

委員長「私とキスしたその口で、あいつの名前を言っちゃうんだ…?」

委員長「やっぱり汚染されてるみたい。昏倒なんて優し過ぎたかな、消してあげるべきだったよね」

男(なんとか、頭が働くようになってきた)

委員長「先に"浄化"の方、済ませよっか」ニコッ

男(さっきまでの甘ったるい空気は無い。逆に今は底冷えするような、怖気が)


委員長「男くん、私の目、よーく見てて…」

男「……!」

ギュッ(目を閉じる)

男(絶対見ちゃいけない…!これ以上委員長を見続けたらおかしくなる…!)

委員長「"目を開けて"」

男「…!?」

男(な、なんで…目が勝手に……!)

男「あ……ぁ……」

委員長「震えちゃって、かわいいね」

委員長「怖がらないで?私と幸せになろ?」

委員長「この世界で」

委員長「未来永劫」

委員長「死が二人を分かつこともない」

男「…そ、それが、浄化…?」

委員長「そう。覚えてる?前ここに連れてきた時教えたよね」

委員長「ここでは寿命で朽ちることがないからずっと一緒に居られる」

委員長「文字通り永遠に…♪」

男(怖い)

男(俺だけを映すこの目…この女の子が…)

男「…ぃ……だ…」

委員長「んー?」

男「嫌だっ!!」バッ



タッタッタッ...



委員長「…無駄なのになぁ…♪」




ーーーーーーー

男「はぁ…!は…!」タッタッ

男(嫌だ、嫌だ…!)

男「はぁ…!」タッタッ

男(自分が自分じゃなくなる…!)

男「あぁ…!は…!」タッタッ

男(俺全裸で走ってんの…?意味が分からない)

男(帰りたい。戻りたい。元の日常に)

男(あの人は何。委員長。女ちゃん。なんなんだ。分からない)



「クスクス」



男「ひっ…!」(耳を塞ぐ)

「どこに行っても同じだよ?」

男(耳押さえてるのに、なんではっきり聞こえてくるんだ…!)

「男くんは必ず私のところに帰ってくるから♪」

男「はぁ…!はぁ…!」タッタッ

男(!あれは、渡り廊下の!)

男「うああぁぁ!」タッタッ!



ダッ!



「楽しみだね、男くん」



.........




ーーー空き教室ーーー

男「――ぁぁあ!」バッ

男「はぁ……はぁ……」

男「学校…?」

男(外は暗い。服はちゃんと着てる…)



...ミシ



男「!?」ビクッ

男(誰か居る!?委員長!?)

男「やめてくれ…来ないでくれ!」ダッ




ーーー自室ーーー

男「」ガタガタ

男(これは夢だ…あの悪夢の続きなんだ…)

男(寝て起きれば、また目覚ましに叩き起こされる朝がやってくる。学校で友と駄弁って、委員長にプリントを)

男(…え、待てよどこからどこまでが夢…?)

男(友は倒れてないのか…?委員長は……)

男「っ…」グ...

男(考えるな考えるな!)

男(もういい、このまま寝てしまうんだ!こんな夢綺麗さっぱり忘れろ…!)

男(朝になったら、いつもの日々が出迎えてくれる)

男「う…ぅ…」ガタガタ



.........




ーーーーーーー

男(………)

男「……」

男(…いつの間に寝てた…)

男(もう、朝になったかな…)

男「…?」

男(まだ暗い。夜なのか。今何時だ…?)



スマホ『00:00』



男「ちょうど12時…」

男(なんか、キリが良過ぎて不気味だ)

男「…風呂でも入るか」




ーーー風呂場ーーー

ザー

男「ふぅ…」

男(そういや、俺が寝たのって何時だったんだろう)

男(お腹空いてないし喉も渇いてないから、あんまり寝られてないっぽいな…)

キュッキュッ

男「ま、いいや。風呂出たらもう一眠り…」



風呂場の時計『00:00』



男「……12時ぴったり」

男(馬鹿な…そんなわけない、さっきから何分経ったと…)

男「……」



ガタッ




ーーー玄関ーーー

男「…嘘だろ…」

男(家中の時計は全部、12時で止まっていた。電池を交換しても動かない)

男(だけど最もおかしいのはそこじゃない)

男「母さん…どこ行った…?」

男(普段この時間自分の寝室で寝てるはずの母さんがどこにも見当たらない)

男(誰に電話してもLINEしてもメールしても誰も出ない、返事が来ない、返信が来ない)

男(そして思い出した。一眠りする前、学校から家に戻るまでの間、通行人どころか人の乗った自転車や車にさえ会わなかったこと)

男(まるで、時間の止まった世界で俺一人だけ取り残されたような…)

男「………」

男「………」

男「」ダッ



ガチャッ!



男「誰か!!誰かいませんか!!」

男「誰でもいいんです!!大変なことが起きてるんです!!」

シーン...

男「誰かーー!!」



(静まり返った町並み)



男「……………」

怖い

男「……………」

寂しい

男「……………」



――委員長に会いたい



男(―!)

男(何考えてるんだ俺…!そんなわけない!あんな怖いところ…!)

ならここで一人朽ちていくのと、どっちが怖い?

男(………)

男(…そうだ、ここはまだ元居た世界じゃないんだ)

男(委員長が見せる夢の中なんだ。このまま一人で居たところできっと何も解決しやしない)

男(だから…そう、しょうがないんだよ)

男(委員長に会って説得するしかないから、もう一度委員長のとこに行くのは仕方のないことなんだ)

男「しょうがないよな…?うん」

男「俺が本気で頼み込めば、帰してくれるって…はは…」

男「さ、さてそうと決まったら…」



男「あの教室に戻らないと」




今回はここまでです。

こんな風にじわじわ追い詰められてみたいものです。

ーーー空き教室ーーー

男「……」

男「後ろのドアだったよな…」

...ガラ



(真っ暗な空間)



男「………」

スッ



.........





男(…!)

男「……」

男(広い和室…戻ってきた)

委員長「おかえり」

男「!」

男「委員長…」

ドクン

男(――っ)

今すぐこの人を抱き締めたい

抱き締めてもらいたい

男(……ち、がう…!)

委員長「どうしたの男くん?とっても苦しそう」

委員長「こっちにおいで?私が慰めてあげる。優しく、優しく…」

男「優しく……」

男(!そうじゃない、しっかりしろ…!)

男「委員長、お願い」

男「俺を元の世界に帰して欲しい」

委員長「………」

男「委員長がこんなことをするのって、俺が委員長の…女ちゃんのことを忘れてたからだよね…?」

男「ごめん!委員長の言う通り、高校に入ってから女ちゃんを思い出すことはなかったよ。ずっと寂しい思いをさせた。こんな風に俺のことを想ってくれてるなんて知らなくて…」

男「でも、俺今の生活が好きなんだ」

委員長「……」

男「勿論女ちゃんのことだって今でも好きだよ。…ここはさ、違い過ぎるんだ。俺の知ってる人も物もここにはないから」

男「元の生活に戻ったら、今度こそ女ちゃんのこと忘れない。委員長のことも」

男「だから、お願い」


委員長「………」

男「………」

委員長「………」

男(…これでもダメか…?)

委員長「元の世界、ね」

委員長「男くん、あなた自分がどこに居るかまだ分かってないんだ」

男「どこって…」

委員長「男くんはね、もう"こっち側"の深いところまで来ちゃったんだよ?男くんの言う元の世界からは遠く遠く離れた場所なの」

委員長「男くんも見たよね?姿形はそっくりだけど人が誰も居ないあの町」

委員長「こっち側ではね、あれが世界なんだ」

男「母さん達は…?」

委員長「居ないよ。ここに居るのは男くんと私だけ」

委員長「それでもう一つ悲しいお知らせがあって…男くんを連れてきたのは私なんだけどね、すっごく複雑な道を通ってきたから」

委員長「――帰り方覚えてないの」クスッ

男「……は?」

男「…冗談はやめてよ…頼むから」

委員長「嘘じゃないよ?男くんと二人だけで居られる場所ってなかなか見つからなくて、いっぱい探し回ってさ」

委員長「仲良しの姉妹にもお別れを告げて、やっとここまでたどり着いたんだもの」

男(……帰れない……?)

男(いや、委員長が嘘をついてる可能性もあるけど…どっちにしても俺を帰すつもりなんてはなからなかったんだ…)

男(じゃあ……俺はもうここでずっと……)


委員長「でもそっかぁ、男くんはあの世界がいいんだね」

男「え…」

委員長「そんなに言うなら私も邪魔しないよ。男くんにも会わない。あの誰も居ない世界で一人がいいんだもんね?」

男「…あの、世界…」

男「孤独で……暗い……町……」

ドクン

男(あ、――もう、無理だ)

委員長「誰にも邪魔されないから何しても怒られないね」

委員長「それじゃあ今から男くんを送――」

ダッ!

ギュウゥゥ

男「違う、違う…!そんなのやだ!」

委員長「…何が嫌なの?」

男「ひとりはやだ…委員長と一緒がいい」

男「離れたくない…!」

委員長「そうなの?男くん私から何回も逃げるからてっきり私と居たくないのかと思ってたなぁ」

委員長「もし嫌がってるなら名残惜しいけど男くんから離れて」

男「やだお願い!もう逃げないから!」

男「捨てないで…離れないで…!」ギュー

委員長「…♪」ゾクゾク


委員長「どうしよっかなぁ…♪」

男「」ギュー!

委員長「……フフッ」ナデナデ

男「…!」

委員長「なんて。私が男くんを見放すわけないでしょ?」ナデナデ

男「委員長……委員長…!」

委員長「大丈夫、大丈夫」

委員長「絶対離れないからね」

男「…ほんとに?」

委員長「うん」

委員長「これからはずっと一緒だよ」



.........





委員長「……」ナデナデ

男「……」ギュー

委員長「男くん」

男「…?」

委員長「好き」

男「おれも」

委員長「♪」

委員長「大好き」

男「へへ…」

委員長「キス、したくなっちゃった」

委員長「今度は男くんからして?」

男「わかった…委員長少し下向いて」

委員長「こう?――んむっ」

男「ん、はむ…」

委員長「んん……んぁ…」

チュッ...レロ...

委員長「ぷはっ…フフッ、強引なんだ」

委員長「でも、おいし♪」

男「」スリスリ、ギュー


委員長「男くんは?私の味、好き?」

男「うん。…あの、もっとしたい」

委員長「……」

パク

チュウウゥゥ

男「…!…っ?」

パッ

委員長「生意気な舌は吸っちゃう。今みたいに」

委員長「私から逃げようとしてた罰。男くんは私の言うことを聞かなければいけません。分かった?」

男「うん…」

委員長「ンフフ…」

委員長「ね、どうしてノートを使って男くんとお話ししてたか分かる?」

男「……」ギュー

委員長「"こっち"の私を通じて、思い出して欲しかったの」

委員長「だって悔しいじゃない?男くんは私を忘れて、私だけ長い時間待ってて、それで委員長さんの口から私のことを教えるなんて。納得いかないもの」

委員長「あれだけたくさんヒントを散りばめたのに結局分かってくれないし、私のひと押しでやっと気付いたよね」

委員長「…あー、思い返したらもやもやしてきたなぁ」

委員長「ねぇ聞いてる?男くん」

男「……」ギュー


委員長「……」

委員長「」ガバッ

ドタン

男「……?」

委員長「もーらい♪」

委員長「女の子に組み敷かれる気分はどうかな?」

ググ(両手を押さえつける)

委員長「ほら、こうされたら動けないでしょう」

委員長「どれだけ足掻いても……」

委員長「フフッ…アハハ♪」

委員長「もう逃げられないねぇ…♪」

男「……」

委員長「男くんのこの顔も、手も脚も身体も心臓も脳も…みんな私の♪」

委員長「いいなぁ…幸せだなぁ…」

委員長「次、何シようか?」

男「……」

委員長「……」ニィ...

委員長「もっと男くんのこと味わいたいな…」

委員長「時間は無限にあるから……じっくり、二人で、愛し合おうね…」

男「…二人、で…」

委員長「そうだよ…」ソッ


委員長「ん、いけないいけない。"浄化"、終わらせておかないと」

委員長「いつまでもボーッとしたままじゃ辛いもんね?」

スクッ

男「え…委員長…?どこ行くの、待って…!」

委員長「大事な用意。すぐ迎えに来るから」

男「行かないで!俺から離れないで…!」ギュウウゥ

委員長「こら…♪私を困らせていいんだっけ?」

男「うぅ…」

委員長「ちゃんと良い子に待ってたら男くんの好きなこと、させてあげる」

委員長「それに"浄化"が終われば、もっと深く私と繋がれるんだよ」

委員長「待てる?」

男「……うん」

委員長「よしよし…」ナデナデ

委員長「すぐだから、ね?」

男「あ…」



トットットッ...



男「………」

男「………」

男「………」

男「……っ」

男「…委員長…」

男「まだ…?」

男「……………」

男「こわいよ…委員長…!」フルフル

男「あぁ……ぅ……」フラリ...

フラ..フラ..

男「委員長……ここ…?」スッ(引き出しを開ける)

男「こっち…?」スッ

男「いない……」

男「さびしいよ……委員長……!」

スッ、スッスッ

男「…!」



(赤い着物の人形)



男「………」

(手に取る)

男「……」

男「」ヒシッ

ゴロン

男「」ギュー


男(……懐かしい)

男(昔…よくこうやって…)



ーーーーー

男母「もう、またこの子は人形を持って寝て…そんなことしてるから破れてくるのよ」スッ

幼男「…やーだ…女ちゃん…」ムギュ

男母「……」

男母「しょうがないわね…」

ーーーーー



男(……昔……)

男(俺、は……)



目を覚ませ



男(………)ゴロ...

グリ

男「…?」

男(ポケットに何か…)

ゴソゴソ

男「………」

男(………)




ーーーーーーー

委員長「わたしの人形はよい人形」スッ

委員長「目はぱっちりでいろじろで」トン

委員長「小さい口もと愛らしい」スッ

委員長「わたしの人形はよい人形」コツ

委員長「………」

委員長「男くん」

委員長「私を大切にしてくれる、私だけのご主人様」

委員長「あなたの人形は、あなたを愛しています」

委員長「……ふふっ」

委員長「わたしの人形はよい人形」スッ

委員長「歌をうたえばねんねして」トン

委員長「ひとりでおいても泣きません」スッ



.........




ーーー大きな扉の前ーーー

男「……」

男「……」スッ



ギィ...



男(……)

委員長「あれ、来ちゃったの?」

男「……」

委員長「待ちきれなくなっちゃったんだ。言い付け破るのは悪い子だなぁ」

委員長「…クスッ、でも許してあげる。寂しくなっちゃったんだよね?ちょうど今、準備も終わったから」

委員長「おいで」

男「…委員長…」

委員長「!」

委員長「男くん、それ…私?」

委員長「見つけてくれたんだね」

委員長「そうやって男くんの手の中にあると、とっても安心する」

委員長「男くんの隣は私の場所だったから…」

男「……」

委員長「もう、何も私達を引き離すものは無い……この世界で…」

委員長「そう思うと嬉しくて嬉しくて……♪」

委員長「男くんもおんなじだよね?」

男「……」


委員長「ねぇってば…♪」

男「……」ゴソ



スッ(ライターを取り出す)



委員長「……それは何?」

男「……」

委員長「ねぇ」

男「……」

ソッ...

委員長「何する気、男くん」

委員長「そういうの、冗談でも嫌い。後でどうなっても知らないよ?」ゾワッ

男「っ…」

男「…俺は…」

委員長「渡して、今すぐ」

男「……」

委員長「"渡しなさい"」

男「あ゙ぁ゙…!」

男「ぐぅ…俺は……帰るんだ……」

委員長「っ!なんで…」

男「帰らないと……」ソッ

委員長「だめ……やめて、男くんっ!」

男「…っ」グ...

委員長「やめてえええええ!!」ダッ






カチッ





――ブワァッ!





委員長「いやぁ!」ボオォ

委員長「熱い!熱い…!」

委員長「やだやだ消えない!火が、火が!」

男「……あ、ぁ……」

委員長「私が…なくなってく…!」

委員長「やだ……やだよぉ……」

委員長「男、くん……」



ボオォ...



男「……」

男「」ヨロ...

ペタン

男「………」



(床に散った灰)



男(……委員長、燃えて……)

男(これで…終わった……?)



ピシッ



男「…?」

男(…天井に白いひびが…)



ミシミシ...ベキッ



ガシャアン――




ーーー学校ーーー

「余裕の到着~」

「朝練お疲れ」

男「うぁー…」グデー

男(学年末テストの返却、憂鬱過ぎる…)

男(神様仏様どうか古典の赤点だけは回避出来てますように!)

友「よっす」

男「…!?友!」

友「おひさだな」ヘヘッ

男「退院してたのか!いつの間に」

友「意識自体は先週くらいに戻ってたんだぜ」

男「そういやテスト期間中お見舞い行けてなかった…」

友「体に何の異常もないから退院させてもらったんだ。お前も格ゲー相手が居ないとつまんねぇだろ?」

男「格ゲーっつか…まぁ待ってたけども」

「友ちゃんだ!」

「おかえりー!心配してたんだよー!」

「どうして入院してたの?」

友「よぉ。大したことじゃねぇんだけどな、――」

男(…良かった)

男(友が入院したって聞いた時は頭真っ白になって、お見舞いに何回も病室に通ってる合間もずっと気が気じゃなかった)

男(クラスの奴らも俺を気遣ってくれたのに、ほとんどおざなりに相手しちゃったしな…。そのせいかそのうち誰も俺に触れなくなって)

男(せめてテストに託けて無理矢理気を紛らわせようとしたんだよな)


友「ならオレだけ学年末免除になってたりするかな?」

「先生が修了式までなら受けさせてやれるって言ってたよ」

友「マジか…」

男(…ははっ)

男「友」

友「ん?」

男「今日、一緒に帰ろう」

友「おう」ニカッ

地味娘「…友さん、どうぞ…」

友「うわ…プリント?」

地味娘「…友さんが休んでた間の分、全部…」

友「こんなにあんの…」

友「わざわざとっておいてくれたのか?」

地味娘「……」コク

友「サンキュー、クラス委員長さん」


地味娘「…何か困ったら、言ってね…」

友「助かる」

男「友さんや、優秀な数学のノートが必要なんじゃないかね?」

友「……」

友「地味娘さん、早速なんだけど数学のノート写させてくれない?」

男「ちょぉい!なぜスルーしたし!」

友「いや病み上がりに鬱陶しいテンションは堪えるんだわ」

男「誰が鬱陶しいか!」



ワーワー



.........




ーーー放課後ーーー

友「学年末まるっと別室受験だってよー…いやだー」テクテク

男「評定無しよりはマシだよ。推薦の目も残るだろうし」テクテク

友「こんなことなら退院先延ばしにすりゃよかった」

男「おいおい…」

男「…本当に体大丈夫なんだよね?」

友「平気。病院の先生は過労じゃないかって言ってたけど、オレそんなに酷く疲れた覚えなかったんだよなー」

男「そういうのって案外自覚ないって言うじゃん」

友「…シフトちょっと減らしてもらおうかなとは思ってる」

男「俺もその方がいいと思う」

友「親父と同じこと言ってら」ククッ

男「……」

友「……」

男「…あー、チョコ、美味しかったよ」

友「そ、そうか」

男「なんていうか、力強い味だった」

友「それ本当にうまかったのか?」

男「本当だよ!うん」

友「まぁ…お前を守るっつーか…悪い虫が付かないようにっつーか…」

友「そんなん込めて、作ってみたから…」モゴモゴ

男「悪い虫?」

友「お前は無防備過ぎるんだよ」

男「え!そんなことないだろ不審者には常に気を付けてるし」

友「……はぁ」


友「…で、続きは?」

男「あぁ、だから…この前の告白の返事な…」

男(くっそ…いざ友を前にするとめっちゃ緊張する…!)

男「……」ドキドキ

男「付き合おうか、俺たち」

男(言えた…!)

友「………」

友「やり直し」

男「へ?」

友「へ、じゃない。これでもオレ期待してたんだぜ?男なら格好良く決めてくれるって」

友「あれから何日空いたと思ってんだ。俺が起きてから一回も病院来てくんなかったしよ」

男「それは悪かったけどさぁ…今日は行くつもりだったんだ」

男「というか先週から起きてたなら連絡してくれればよかったのに」

友「う……なんか、催促してるみたいで恥ずいし…」プイッ

男「病室で返事すんのは俺も恥ずいんだけど…」

男「友?どっち向いてんの?」

友「……」

男「おーい」

友「……っ」

男「……」ヒョイ

友「!見んな!」

男(にやけてた)


男「さてはなんだかんだ言いつつ、嬉しいんだろー?」

男「あんなダメ出しする割にお顔は正直だね~」

友「~~!」

友「だー!そうだよ悪いかよ!」

友「オレを辱しめるのそんなに楽しいか!?えぇ!?」ギチギチ

男「痛い痛い!ギブ!ギブ!」

友「ったく…」

男「いてて…」サスサス

男「…返事、まだ終わってないんだ」

友「あん?」

男「友、俺な、たった今からお前をその…恋人扱いするっていうのは難しい。けど、付き合えばいつか変わるかもしれないと思って……OKした」

男「付き合ってくうちに友をちゃんと彼女だって見れる日が来るはずだって…!」

男「こんな俺でも、いいのかな…」

友「……」

友「たりめぇだろ」

男「!」

友「男に告るって決めた時からそんなの織り込み済みだっての」

友「任しとけ。1ヶ月もしねぇうちにベッタベタに惚れさせてやっから!」

男「…ありがとな」

友「礼言うのはなんか違うだろ」


友「?男、頭にゴミ付いてんぞ」

男「え?」スッ



(赤い糸)



友「やたら長い糸だな。マフラーでもいじってたのか?」

男「……」

男(……赤……)

友「男?」

男「!いや、うん。木に引っかかってたのが付いたとかそんなんだよ」

友「ふーん」

友「よし、男、デートしようぜ」

男「デート?」

友「おう。ゲーセン行ったり食べ歩きしたり!」

男「いつもと変わらないな」

友「バッカ、付き合って初めてのデートだろ?もっと女心を考えてだな…!」

男「悪い悪い!それもそうだよな!」

友「お前に恋心を叩き込むの、骨が折れそうだぜ…」

友「…まっ」

キュッ(手を取る)

男(…!)





友「これからよろしくな、彼氏さん♪」




今回はここまでです。
まだ続きます。
次回の投稿で完結する予定です。






―――.........




ーーー高校卒業日ーーー

『卒業証書授与、3年1組』

『地味娘』

地味娘「はい」スクッ



男「……」

男(卒業式)

男(あっという間だったな。中学の知り合い誰も居ない高校に入って、いきなり席間違えられて、それが友で)

男(テストでもゲームでも運動でもあいつと競い合ったよなぁ。友のやつ、体力テスト男子の平均以上とか恐れ入る)

男(修学旅行も……自由行動時間、二人で色々回ったっけ。手繋いでるところクラスの連中に見られて散々からかわれたんだよね)

男「」フッ



『友』

友「はい!」ガタッ



男(…そうか、友と付き合ってから1年か)

男(……)

男(ちゃんと、言わなきゃだよな)



『男』

男「はいっ」カタッ




ーーー昇降口前ーーー

「大学行ってもまた遊ぼうね…」グスン

「ね!ね!写真撮ろ!」

「あの、先輩!…第二ボタンとかって…」

ガヤガヤ



男「……」

男『下駄箱のところで待ってる』12:05(既読)

男(もうちょいかな)

男(早く出て来過ぎたかも……女子は結構こういうので泣いちゃう人いるよな。思い出とか記念とかで写真何枚も撮ったりして。その点男子はあっさりし過ぎだ)

男(…俺がはぶられてるだけとかはないよな?クラスの打ち上げには呼ばれてるし…)

ピロリン

友『今行く』12:13

男「!」

男「……」スッ、スッ

男『人少ないとこ居た方がいいか?すれ違っちゃうかも』12:13(既読)

友『心配ご無用』12:13

男『本当かよ』12:14(既読)

友『見つけた』12:14

男「早っ」キョロキョロ

ポンッ

男「うおっと」

友「こっちだよ、へへっ」

男「さてはそこでスタンバってたな?」

友「一人ポチポチスマホいじってる男子を観察してた」

男「いい趣味をお持ちだこと」

友「オレ専用の趣味なー」

男(……)

男「じゃ、行くか」




ーーーーーーー

男「もう出てきちゃってよかったの?友達、まだ学校に居たんだよね」テクテク

友「挨拶は済ませてきたよ。…そしたら何故か1年2年の女子に囲まれた」テクテク

男「はは。3年になってやたら女子からモテるようになったもんな、友」

友「オレなんもした覚えねぇんだけどなぁ…」

男「何してなくてもかっこいいからじゃない?」

友「……かっこいいだけかよ……」ボソッ

男「ん?」

友「なんでもねぇ」

男「……」

友「……」

男(…なんてさ。本当は聞こえてる)

男「………」

友「………」

男(友と居て沈黙が続くのは珍しい。どっちかが喋り過ぎることはよくあるのに)

男(この空気、去年を思い出す)

男(1年前友に告白されて数日間、お互い何とも言いがたい雰囲気で会話もしづらかったんだよな)

男(その時とちょっと似てる)

友「……」

男「……」

男「友、話があるんだ」

友「………」




男「友達に戻らないか、俺たち」



男「友と付き合ってから1年、色んなことがあったよ」

男「デートコース勝負なんてしたことあったよな。どっちが上手く計画立てられるかーみたいな。お互いの家にも行ったり」

男「俺付き合うっていうのが初めてでさ、そうやって友と遊ぶのは楽しいんだけど世に言う恋人っぽいことしてあげられてるかは分かんなかった」

男「…友はやっぱり親友って印象の方が大きいんだ。それは今でも変わんなくて…」

友「………」

男「優柔不断で、ごめん」

友「……断る」

男「え」

友「ごめんじゃねぇ。たかだか1年で何が分かるってんだよ。10年20年考えてから言えっ」

男「いや、20年て…」

友「お前がオレのことそういう目で見れてないのは知ってたよ。手繋ぐ以上のことしてこなかったし。しまいにゃ襲ってやろうかと思ったぜ?…しなかったけどよ」

友「恋人っぽいことな。オレとなんかじゃ想像も出来ねぇってか?」

男「そんなこと……ただ、このままずるずるいっても……」

友「女々しい!」

友「けどそういうとこ含めて全部好きなわけ!いい加減分かれ!」

友「とにかく、絶対別れないからな。嫌いじゃないならもっとオレのわがままに付き合え。中途半端とか言ってんならこっちにも考えはあるんだ!」ダッ

男「あ、友!」



タッタッタッ...



男「……」ポツン

男(全力で拒否られた)




ーーー自室ーーー

男「……」ガサゴソ

男「んー…」ジー

男「これは要らない」

男「……」ガサゴソ

男(友のやつ、悲しませちゃうだろうなとは思ってたけど、あれはまったく予想外だった)

男(あの後LINEしても返事ないし……なんかすごい情けないな、俺)

男(こういう時どうするべきなんだろ。恋愛マスターが居るなら教えて欲しいよ…)

男「……」

男「あーダメだダメだ、全然集中出来ない。持ってく荷物、明後日までにまとめとかないとなのに」

男(大学から一人暮らしを始めるから。それもあって自分の中で宙ぶらりんなままの友との関係をはっきりさせとこうとしたんだよな…)

男「いいや、一回押し入れから全部出しちゃおう」



ガサッ、ズズズ



男(出てくる出てくる)

男(使わなくなった教科書、リコーダー、部活のラケット)

男(こっちはアルバム系。小、中ときてここに高校の卒アルが追加されるわけだ)

男(うわ…これおもちゃ箱か?めちゃくちゃ埃かぶってる。ゆっくり取り出さないと)

ゴソ...

男「……?」

男(奥にまだ何かあるな)

スッ

男「……これって……」



(あちこち破れた赤い着物の人形)


男「……………」

男「……………」

男(――!)

男(そうだ……俺が隠したんだった)

男(まだ小学校にも上がる前。ボロボロになったからって捨てようとする母さんを誤魔化すために、自分で捨てたって嘘をついてここにしまい込んだ)

男(隠し続けてるうちに忘れて……そのままいつしか高校生になってたんだな…)

男「………」

男「………委員長………」



ーーーーー

委員長「じゃあ、委員の補佐として推薦しておくね。これからよろしく♪」

委員長「それとも私口説かれてるのかな?」クスッ

委員長「全部全部男くんとの大事な思い出…♪」

委員長「いいなぁ…幸せだなぁ…」

ーーーーー



男(………)

男「」バッ

タッタッタッ(階段を駆け下りる)

男母「あらどっか行くの?」

男「ちょっと学校!」

男母「アルバムお母さんにも見せてよ~」

男「後で!」ガチャッ



.........




ーーー夕方 空き教室ーーー

男「はぁ…はぁ……ふぅ」

男(…来てしまった)

男「……」...テクテク

男(ここの机だったっけな)
 
男(…さっきの記憶…)

男(俺の学年に委員長という人は居ない)

男「……」

男(けど、夢と言うにはこの記憶はあまりにも鮮明過ぎる)ソー

男「…!」

男(ノート……本当にあった)

男「………」

男(怖くないと言えば嘘になる)

男(それでも)



ーーーーー

委員長「やだ……やだよぉ……」

委員長「男、くん……」

ーーーーー



男「……………」

...ペラ



(白紙)




男「……」

ペラ、ペラ

男「……はは、真っ白だ」

男(だったら後ろのドアも)

タッタッタッ ガラッ



(西日の差し込む廊下)



男「だよな」

男(あんな漫画みたいなことが現実で起こるわけないか。所詮は単なる奇妙な夢…)

男(……夢……)

男「………」

男「こんにちは」



カァ、カァ...



男(………)

男「帰ろう」




ーーーーーーー

男「……」テクテク

男(夢っていうのは大抵起きればすぐ忘れちゃうんだけど、時々強烈に頭に残ったりする)

男(それが悲しい夢なら涙が出てることもあるし、怖い夢なら夢でよかったって胸を撫で下ろすこともある)

男(それで言うと、この夢はどうなんだろう)

男「……」テクテク

男(……夢の話より今は現実か)

男(やっぱり友ともう一度話し合ってみよう)

ガチャリ

男母「おかえり。そろそろ夕飯出来るわよ」

男「うん」

男母「それとアルバム!持ってきて早くっ」

男「後で持ってくって」

トットットッ

男(部屋散らかしっぱなしのまま出てきちゃったんだよなそういや)

男(…端に寄せとくかな)

男(!あれ、部屋のドア閉めてたっけ?まぁいっか、母さんが閉めたんだろ)

ガチャ パタン

男「先に友に電話だけで…も……」





委員長「」スー..スー..





男「……うぇっ!?」

委員長「…ん…んー…」

委員長「おはよ、男くん」

男「ぇ……委員長…?」

委員長「うん」ニコ

男「……?……!…?」

委員長「ふふっ、私が居るのがそんなに不思議?男くんが放り出していったんじゃない」

男(放り出して……そういえば人形が見当たらない)

委員長「男くんが火をつけたのは、"あっち"の世界での私。こっちの私はずっとしまわれたまま」

委員長「男くんがやっと見つけ出してくれたから、またこうしてお話出来るの」

男「夢じゃ、ないんだ」

委員長「夢で片付けちゃうなんて酷いなぁ」

男「……」...ジリ

委員長「私が怖い?」

男「それは…あんなことされたら」

委員長「私と居るの嫌だった?」

男「一緒に居る云々の話じゃなくて…」

委員長「…ふふっ」

委員長「ね、遠いよ男くん。こっちで一緒にあったまろ?」

男「………」

委員長「そんな警戒しなくても、もう私は男くんを連れてくことも"向こう"に戻ることも出来ない。あなたに燃やされちゃったもの」

委員長「ただのお人形さんです」

男(…そんなこと言われても…)


委員長「焼かれるの、苦しかったな」

男「っ」

委員長「熱くて、痛くて、悲しくて…」チラッ

男「……あの時は……"帰らないと"としか考えられなくて……」

委員長「慰めて?」

男「へ」

委員長「慰めてくれないと、泣いちゃう」

男(な、泣く?想像出来ない…)

委員長「……しくしく」

男「…絶対泣いてないでしょ」

委員長「いいですよー、代わりに男くんの毛布もらうから」ギュ

委員長「スゥー……はぁ…男くんの匂い♪」

男「ちょ、嗅がないで…っていうか委員長服!なんでそんなズタズタなの!?」

委員長「男くんにやられたんだよ?」

男「えぇ…?」

男(あ、委員長の着物って女ちゃんのあれか)

委員長「男くんが着替えさせてくれるんだよね」

男「とか言って、近付いたら何かする気なんだよね…?」

委員長「しないよ。男くんがいいって言わない限り」

男「いいって言ったら?」

委員長「押し倒す」

男「ほら!」

委員長「くふふ♪」

男(言ってることはあんまり変わってないはずなのに、なんだろう、今の委員長を見てるとさっきまでの恐怖は薄れてくる)


委員長「でも、お洋服の一つくらいは男くんに選んでもらいたいなー」

男「…人形用の服とかでもいいの?」

委員長「もちろん」

委員長「男くんお引っ越しするんだよね?楽しみだね二人暮らし♪」

男「つ、ついてくる気?」

委員長「だって私はあなたのものだよ。あなたのことが大好きな、あなたのお人形」

委員長「いつまでも傍に居させてね」ニコッ

男「」ドキッ

男(…い、いやいや惑わされるな。この人に俺はどんなことをされかけたか)



ドタドタドタ バタン!



男「!?」

友「男!これでどうだ!これで少しはお前の理想にも近付いて――」

(スカート、髪型、薄いメイク、女の子らしい格好の友)

委員長「……」

友「あーー!」

友「なんでお前が居るんだよ!?」

委員長「ここ私の家よ?」

友「男ん家だろ!どっか消えたんじゃなかったのか!」


男「友、委員長のこと覚えてるの…!?」

友「あぁ。忘れるかよこんな粘着ストーカー」

友「男は全っ然気付いてねぇみたいだったけど、こいつ四六時中お前に付き纏ってたんだぜ?オレが見張ってたんだが…迂闊にもやられちまってよ」

友「こいつは普通の人間じゃねぇ。お前にも言うつもりだったが、目覚ましたら全員こいつのこと忘れてたから都合がいいと思ってたんだ」

委員長「泥棒猫さんに言われたくないなぁ。私と男くんの間に図々しく割り入ってきて」

友「男はお前のじゃない。第一お前がなんと言おうと今男と付き合ってるのはオレだ」

委員長「そう?私達はもう何回も熱い口付けを交わした仲よ?」フフッ

友「は?」

友「…おい男、まさかオレと別れたがったのって…」ジロ

男「ち、違う!俺も委員長が本当に居たんだって今さっき――!」





ワー! ギャー!

男母「賑やかね~」

男母「今日は何してるのかしら?友ちゃんもあんなにおめかしして…」

男母「お夕飯、友ちゃんの分も作ればよかったわ~」





友「――男はこいつの正体知ってるんだな!?」

男「話す!話すから落ち着いて…!」

友「いや…その前にさっきの、キ、キスについて聞かせろ」

男「そ、それは向こうが無理矢理」

委員長「男くんからしてくれたこともあったのに」

男「あれだって委員長が…!」

友「」バッ

男「わっ!」サッ

ポスッ

委員長「いらっしゃい♪」ギュ

友「避けんなって」ニコニコ

男「まず話を聞いて!?頼むから!委員長も離して…!」

委員長「なんで?このまま見せつけちゃおうよ」

友「ほぉ…」

男「煽らないで!」

男(思えば、どうしてこんな状況になってるのだろう)

男(始まりはあの交換日記?いや、女ちゃんをもらったことか?それとも友の告白を受けたりしたから…?)

男(……そうじゃないな。多分、俺が"何もしなかった"からこうなってるんだ)

男(しゃんとしなくちゃ)


委員長「…初めまして、こんにちは」ボソ

男「?何か言った?」

委員長「ううん。何も」ギュー

友「いつまで抱きついてんだよ!」ガシッ

委員長「きゃーこわーい♪」



ギャーギャー!



.........





ー終わりー

以上で完結となります。

最初は、夏なのでホラーな話にしようかと思っていました。
徐々に徐々に病んでいくようなお話もそのうち書きたいです。

ここまで読んでくれた方、ありがとうございました。

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