SS8作目です。
オリジナルとなります。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1587399877
ーーー会社ーーー
[スマホ]
━━━━━━━━━━━━━━━
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男「…ニューゲーム、と」スッ
スマホ『ふふふっ、初めまして♪君はどの子と恋をする?』
一同「おお…」
アフロ「すっげ!これ例の声優を起用してんだよな!」
眼鏡「えぇ。メインヒロインの幼馴染のCV担当でもありますね」
新人「……」ジー
アフロ「キャラ紹介も出来てんだろ?男、はよ次々!」
男「はいはいわーってる」スッ、スッ
[スマホ]
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キャラクター紹介だよ♪
【幼馴染】
主人公の幼馴染み。昔から主人公には――。
.........
【ツンデレ】
同じクラスになってから何かと主人公に突っかかってくる高飛車な子。しかしその胸の内は――。
.........
【委員長】
クラスの学級委員長。いつも冷静な優等生だが実は――。
.........
【後輩】
部活の後輩。主人公をからかってはよく遊んでいるが――。
.........
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アフロ「くー!やっぱいいな、こうやってゲームが出来上がってく様ってのは!」
眼鏡「まだ外見だけですがね。ちゃんと動いててホッとしましたよ」
新人「私の担当箇所、正常に表示されてますか…?」
アフロ「そういや新人にとっちゃこれが初制作物だもんな。この画面だとここだろ?大丈夫そうだぜ、表示切り替えても問題なし!」
新人「そうですか」ホッ
男「社長がギャルゲーに手出すって言った時はどうなることかと思ってたけど、案外悪くないな…」
アフロ「なぁお前らはこの4人の誰が好みなん?」
アフロ「俺は断然幼馴染ちゃん!一番人気!正統派ヒロインドンとこい!」
眼鏡「その髪型では彼氏の方がイロモノになりますがね」
アフロ「個性的で逆にマッチしてんだろ?髪もじゃってる方がクッションになるしよ」
男「なんだそりゃ」
アフロ「そう言う眼鏡はどうなんだよ?」
眼鏡「ツンデレ、ですかね」
アフロ「いやいやいや、眼鏡こそ完全に委員長キャラだろ」
眼鏡「ステレオタイプで決めつけるのはよくないですね。ツンデレがいかに優れた属性であるか知らないからそんなことが言えるんですよ。いいですか?この属性の始まりは、当時ツンデレという言葉こそ無かったものの――」ペチャクチャ
アフロ「お、おう…」
アフロ「で、新人は女子目線から見て誰がいいとか、やっぱりあるんか?」
新人「えっと…委員長が…」
三人(…うん、ハマり役だなぁ…)ホッコリ
新人「…?なんで皆さん笑ってるんですか?」
アフロ「いやぁ、ははは。そのままでいてくれよ」グッ!
新人「???」
アフロ「最後は男だな!」
男「うーん……実はこの間まで幼馴染か委員長で迷ってたんだけどさ、これ見たらビビッときたんだよね」
(スマホに表示されたキャラ紹介文と立ち絵)
アフロ「ほほう、ズバリ?」
男「後輩」
アフロ「どっちでもねーんかい」
アフロ「つかマジ?言っちゃ悪いけどよ、後輩ちゃん社内じゃあんまし人気ないみたいだぜ?」
眼鏡「もしや、男が追っかけしてるアイドルのショートちゃんに似てるからでは?」
新人「男先輩、アイドル好きなんですね…!」
男「いや全く関係ないからな?」
アフロ「後輩ちゃんなぁ……悪かないんだが前読ませてもらったシナリオがなぁ……」
眼鏡「ルート次第ではえぐい結末迎えますからね…」
男「その分ハッピーエンドは群を抜いてんじゃん。第一このゲームのメインコンセプトは――」
上司「そこのお喋りチーム、会議始まんぞー」
アフロ「やっべ、もうそんな時間だったか。行こうぜ」
ガタッ
スタスタスタ...
スマホ『………』
ーーー会議ーーー
部長「さて、君達の頑張りのおかげでようやくプロトタイプまで漕ぎ着けることが出来た。残すはテストとそこで出てきた障害の修正が主となる。今日の議題はこのテストについてだ」
部長「本ゲーム、"本物(リアル)な彼女と話して恋して"略してリアカノは、一般的な恋愛シミュレーションゲームをベースにはしているが、最大のウリはヒロインと実際に会話をして好感度を上げたりストーリーを分岐させたりといったことが出来るシステムだ」
部長「君達も知っての通りこれにはAIを活用しており、こちらが特定の単語を含む言葉を投げかければ、シナリオ班が考えてくれた膨大な会話データベースの中から返事を検索し、ヒロインが答えてくれるというわけだな。勿論バリエーションもある」
部長「つまり、大量のテスト要員が必要になる」
上司「……」
部長「そこでプログラム班にもテスターをしてもらう」
一同「!」
上司「ですよね…そうなるのではないかと思ってました」
部長「むしろ仕組みを実装した当人だからな。何か障害が見つかれば直しやすいだろう」
部長「プログラム班は人数的にも都合が良い。まずはチームAからだが、上司君は彼らの取りまとめを頼む。残る4人でヒロイン4人をそれぞれ担当してもらいたい」
部長「希望はあるか?」
アフロ「はい!俺幼馴染ちゃんがいいっす!」
眼鏡「僕はツンデレですね」
男「新人さんは?委員長?」
新人「は、はい。出来れば、ですけど…でもいいんですか…?」
男「俺、後輩推しだしね」ニッ
男「自分が後輩で、新人は委員長でお願いします」
部長「よし。ではこれを渡しておく」
ガサ...
部長「ヒロイン達の会話パターン一覧だ。どのシーンでどんな言葉を言うと、何の返事が返ってくるかが書いてある」
部長「これに沿ってテストを進めていってくれ」
新人「こ、こんなに…」
部長「次、チームB。君達は6人チームだから――」
.........
ーーーーーーー
アフロ「テストなー。確かに通しで本格的なテストってしてなかったもんな。会話パターン全部網羅できんのは楽しみだな!」
眼鏡「4人共好みが分かれていて丁度良かったですね」
アフロ「けどよ、俺らもテストだけじゃなくて障害修正はするんだよな?」
上司「その辺りは決まってる。会社では障害修正と引き続き諸々の調整だ。テストは基本的に家でやってもらうことになる」
新人「家で、ですか?」
上司「そう。業務用端末があるだろう、それにインストールしたら持ち帰ってよし」
男「え、それ残業代とかって出るんですか?」
上司「……」
上司「男」ポン
上司「目一杯楽しむのが、報酬だ」
男(答えになってない)
ーーー家ーーー
男「ふぃー…疲れた」
男「今日テスト始めたばっかなのにバグ出過ぎだろ」
男「おまけに」ゴソゴソ
(業務用スマホ)
男「サビ残…いや、この場合は無給労働か…はぁ…」
男「所詮うちも中小だからしゃーないっちゃしゃーないか。このゲームの出来次第で規模拡大が懸かってるらしいしな」
男「……」
スッ、スッ
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男「……やってみっか」スッ
スマホ『ふふふっ、初めまして♪君はどの子と恋をする?』
.........
後輩『先輩へばるの早過ぎないっスか?よくそんなんで運動部入ろうと思いましたね?』
男「このシーンでの会話パターンは……うわ、いっぱいあるな」
男「"走る"と"好き"を含んだ言葉を言うと…ふむふむ、こう返事してくれるのか」
男「俺、走るのが好きなんだよね」
後輩『へぇ!?いつも干からびるくらい疲れてるのにっスか!?…もしかして先輩ってM?』
後輩『いいこと思いつきました!今度長距離の練習しましょうよ!先輩ん家の近くに運動公園ありましたよね?手取り足取り教えてあげるっスよ~』ヌフフ
男「結構積極的な子だなぁ」
.........
後輩『あ、先輩ー!』
後輩『何してるんスか?今日部活ない日っスよね?居残りの補習でもしてたんスかぁ?』キシシ
男「ここは確か好感度の変化が大きいシーンだったよな」
男「んー……いつもならバッドエンドから回収するのがポリシーだけど」
後輩『……』ニヤニヤ
男「この子は先にハッピーエンドを見ておきたい」
男「よし」
男「後輩を待ってたんだよ」
後輩『?忘れ物とかありました?』
男「一緒に帰ろうと思って」
後輩『!』
後輩『そ、そうなんスか?それでわざわざ私を?それってそれって』
後輩『…つまりそういうことっスか…?』ボソッ
男「元気っ子のこういう反応いいよなー。普段活発なのにたまにしおらしくなる時のギャップとか」
男「こういう時逆にからかってオロオロさせる展開なんてのも悪くない」
後輩『先輩が私に勝てると思ってるんスか~?倍返しにしてあげるっスよ♪』
男「……え?」
男「今のセリフ…」ペラ、ペラ
男「…どこにも載ってないよな。どの言葉に反応したんだ…?」
後輩『……』ニコニコ
男「……」
男「こういう時、逆にからかってオロオロさせる展開なんてのも悪くないなー」
後輩『……』ニコニコ
男「…2回は反応しないか」
男「なんだったんだ。バグ?いや載ってないセリフを喋り出すバグとかバグじゃないだろ…」
男(ん?載ってない…?)
男「そっか、単に載せ忘れただけか!」
男「これが一覧だなんて言ってたけど、管理漏れあるじゃんな。実装出来てないやつもあったりして」
後輩『そんなことより早く行きましょうよ。こんな可愛い女の子をいつまで待たせるんスかー?』
男「!」
ペラ、ペラ
男「これも載ってない」
男(というか放置した時のセリフみたいな返事だったけどそんな機能あったっけか?)
男(…そうだ)
男「後輩さ、――」
ーーー翌日 会社ーーー
男「……」カタカタ、カタ
男「…ふぁーあ…」
アフロ「どうしたよ男。お前が眠そうにしてんの珍しいな」
男「ちょっと昨日な、遅くまでテストプレイしててさ」
アフロ「仕事熱心かよ。残業代出るか聞いてた奴とは思えん」
男「いやまぁ残業代は欲しいけど。そうじゃなくて」
男「アフロも多少はプレイしてるよな。会話パターン一覧にない返事をしてくることなかった?」
アフロ「んなことなかったぜ?まだちょびっとしか進めてねーけど」
男「俺の方は割とあってさ、それ探すのにハマっちゃって…いつの間にか朝日が登ってた」
アフロ「ほーん。そんないっぱいあったん?」
男「ぼちぼち。このゲーム俺達に知らされてない隠し会話パターンとか機能があったりするのかね」
アフロ「そんな話はさっぱり聞かねーけどな。俺も今日色々試してみるわ!」
上司「男、昨日の分の報告書出せよー」
男「今出します!」
ガサゴソ
男「これです」
上司「うむ。…ん?この備考に書いてあるのは?」
男「一覧に載ってないのに反応した言葉と、その返事です。多分シナリオ班の管理漏れか隠し会話のどっちかだと思ってますが」
上司「ほぉ。上に訊いておく、君は引き続きテストプレイを進めてくれ」
上司「残業代は出ないが、この調子で頑張れば美味いもんくらいは食わせてやれるぞ」ニカッ
男「はは…どうもっす」
ーーー家ーーー
後輩『先輩、次はどこ行くんスか?』
男「後輩が決めてくれるんじゃなかったの?」
後輩『最後くらい先輩にエスコートしてもらいたいんスよ!ね?』
男(さて、デートの行き先決めのシーン)
男(一覧にある選択肢としては、カフェ、ファミレス、カラオケ、水族館、ボーリング、運動公園、散歩、ボランティア、主人公宅、後輩宅……これまた結構あるな)
男(それ以外を言うと好感度の増減なく改めて行き先を訊かれる)
男(………)
男「川に行ってみない?この辺に綺麗な川あったよな」
男(幼馴染ルートだと、その川が思い出の場所だったはず)
後輩『川っスか?キャンプでもするんスか?それともまさか…泳いで体力付けるつもりとか!?』
男「違うわ!どんだけ人を脳筋にしたいんだこの子は。そもそもそっちの季節はまだ春だろうに」
男「今だと丁度、川に桜の花びらが浮く時期だろ?そいつ見てから帰ろうと思ってな」
後輩『桜っスか、なるほど…』
後輩『…及第点スかね!先輩にしては上出来っスね』ヘヘッ
男「この子絶対主人公のとこ先輩扱いしてないよな…」
後輩『そんなことないっス!これでもリスペクトしてるんスよ?』
後輩『で、川ってどっちスか?案内、よろしくお願いします♪』
(場面転換)
男「……すごいな。今のなんか普通に自然な受け答えだった。いつの間にこんな会話パターンまで作り込んでたんだ」
男「一覧表更新してもらうよう頼むのもありだけど、こうなりゃとことん洗い出してやるか!」
男「自社ゲームをお客目線でプレイする時が来るとは思わなかったなー。面白いわ、これ。結構売れるんじゃないか?」
テレビ『さて、次のゲストは最近人気上昇中のアイドル、ショートちゃんです!』
男「!」
男「そんな時間だったか!ショートちゃん、ほんと人気出てきちゃったよなぁ…昔はデパートでミニライブとかもやってたのに…」
男「古参としては複雑だけど、飛躍を見守るのもファンとしての義務…!」
後輩『……』
ーーー会社 昼休みーーー
男「今日は何にするかなー。最近丼ものばっかりだったからなー」
後輩『先輩先輩、私はカレーが食べたいっス』
男「飯ものって意味じゃおんなじじゃない?」
後輩『屁理屈先輩…そんな悩むくらいなら私がお弁当作ってあげるっスよ?』
男「そいつはありがたい。楽しみにしてるわ」
後輩『えへへ…♪』
男「決めた」ポチッ
食券『トマト山盛りナポリタン』
.........
男「トマトで埋まってて麺が見えない…うまそうだけど」
男「いただきます」
カチャカチャ パク
男(トマトかケチャップなのか分からなくなるが、まぁ美味しいな)
新人「あ、男先輩」
男「新人さん?いつも社食だっけ」
新人「い、いえ。普段はお弁当作ってきてるんですけど、今日はその、時間がなくて…」
男「ん、もしかしなくてもそれ、ナポリタンでしょ。俺と同じやつ」
新人「あ、本当ですね」
新人「…あの、隣いいですか…?」
男「うん勿論」
コトッ
男「跳ねないように気を付けてな。真っ赤な染みになっちゃう」
新人「は、はい」
新人「……おいしい」
男「うちの社食、はずれ少ないからね」
男「どう?新人さん。もう仕事には慣れた?」
新人「はい。少しずつ…ですけど、皆さんのおかげです」
男「それは良かった。とはいえまだ緊張する時もあるみたいだけどね?」
新人「そ、それは…」チラ
男「?…ま、うちはさ、良くも悪くも上下関係そんなに厳しくないから砕けてくれて全然構わないよ」
男「みんなもっと新人さんと打ち解けたいって思ってるし」
新人「…男先輩も、その方がいいですか?」
男「ん?まー、そうだね。仲良くなれるならそれに越したことはないよ」
新人「そうですか…!」
後輩『…せんぱーい、いい加減暇なんスけどー』
新人「!?」
男「まだ食事中だって。もうちょい待ってろ」
新人「今のって…リアカノの後輩ちゃん…?」
男「そうそう」
新人「お昼食べながら、テストプレイしてたんですか?」
男「近頃は四六時中かな」
新人「え…」
男「あれ、新人さん知らない?後輩に隠し会話パターンがあること」
新人「そんなものが…?」
男「最初は管理漏れかと思ったんだけどさ、流暢な会話が出来るレベルの管理ミスなんてあり得ないから、これは多分試されてるんだと思ってる」
男「俺達がどれだけ隠し機能を洗い出して対応出来るのか」
男「ここ何日かはずっと会話パターン一覧に載ってない言葉で話してんだよね」
新人「でも、私が担当してる委員長には、載ってない会話パターンなんて今のところありませんでしたよ?」
男「アフロも眼鏡も無いって言ってたんだよな。後輩にだけ実装されてんのかな…」
新人「隠し会話って…ずっと続けてたら隠しエンドにでも辿り着けたりするんでしょうか」
男「好感度は順調に上がってるし、普通にハッピーエンドに向かってるんだと思うけどなぁ」
新人「……その、私の方のテストプレイが終わったら、男先輩のお手伝いをすることって、出来ますか?」
男「手伝ってくれるの?上司に相談しなきゃダメだけど、めっちゃ助かるよ」
新人「!はい!早く終わらせてお力になれるよう頑張ります!」
男「いやうん、そっちのテストプレイも丁寧にね…?」
ーーー会議ーーー
部長「我々が想定していた以上に障害の件数が多い。今日は検査の工程を改めて引き直すこととする。具体的には――」
男(…スケジュールの引き直しについてか。例の隠し機能に関する発表があるのかと思ってたんだが…)
男「……」
男(周りにもそれっぽい資料持ってる人いなさそうだしな)
男(いつになったら俺達に教えてくれるんだろうか…)
後輩『先輩』
男「…!」
部長「つまりこの種類の障害はプログラム班というよりも――」
周囲「……」
男(…気付かれてないか)
男(まずいな、電源切っとくべきだった)
後輩『先輩?』
男「……」
後輩『なんで無視するんスか~?』
男「………」
後輩『ねーせんぱーい』
男(放置ボイス豊富過ぎるだろ…)
後輩『…これ以上無視続けたら、大声出しちゃおっかな~』
男(こいつ…!)
男(いや即スマホの電源落としちゃえば)
後輩『3、2、1…』
男(って間に合うわけ…!?)
後輩『なるほど分かったっス……すぅー……』
男「待て待て!ちゃんと後で相手してやるから!」
全員「…?」
部長「どうした、男」
男「あぁいえ、なんでもないですすみません」
部長「…誰よりもテストプレイを頑張っているとは聞いている。が、会議中は現実に戻ってこい」
ハハハハッ
男「はい…」
後輩『ぷふっ』
ーーー帰路ーーー
男「くっそ…昼間の会議、後輩のせいで恥かいただろうが…」テクテク
後輩『えー?なんのことっスかね?』ククッ
男「お前なぁ」
後輩『こんな健気な後輩ちゃんを無視する先輩が悪いんスよ?』
男(家にいる時放置してても、あんな反応をすることは今までなかった)
男(あの状況が見えてなきゃ言い出さないようなことを……)
男(いやいやそれこそまさかだ。放置したまま他の人の声が聞こえるとあのモードに入るとか、そんなんだろ)
後輩『ねー先輩、中間テスト明日からっスよ!また勉強教えて下さいよー』
男「もう俺をからかわないと誓うなら教えてやってもいい」
後輩『う…それは……諦めるっス…』
男「どんだけからかいたいんだよ」
後輩『先輩をいじるのは私の生き甲斐っスから』
男「…冗談だ、勉強くらい教えてやるって」
後輩『先輩…』ウルウル
後輩『さすがっス!やっぱ持つべきものは優しい先輩っスね♪』
男「俺より点数低かったらからかうの禁止な」
後輩『横暴だ!抗議するっス!』
男(時々、本物の人間と話してるような錯覚に囚われる)
男(本当にどんな技術を使ったらここまでの芸当が出来るようになるんだ?SiriやGoogleでもこの水準の会話は不可能だよな…?)
後輩『そうと決まれば善は急げっス!先輩ん家でいいっスよね?レッツゴー!』
男「…とりあえず、今はいいか」
男(後で大々的に教えてもらえるだろ)
ーーー会社ーーー
男「……」カタカタカタ
男「……」カタカタ...
男「………」
男(障害表には後輩の隠し会話に関係した障害はない、か)
男(あれだけ多彩なパターンがあんだから一つくらい障害が出てても不思議じゃないんだが…)
男「……」カチ、カチ
男「………!」
ソースファイル
┗Senpai1.cs
┗Senpai2.cs
┗.........
ヘッダーファイル
┗Senpai1.h
┗Senpai2.h
┗.........
男(なんだ、このファイル…)
男(こんなソースあったか?)
カチ
男「…?」
カチカチ
カタカタカタ、タン
男(…開けない。他も全部)
男(誰が作ったんだこれ。"Senpai"って…先輩?)
新人「あの、男先輩…!」
男「」ビクッ
男「あぁ、新人さんか。どうしたの、質問?」
新人「えーと、上司さんが呼んでました」
新人「急いで来いとのことで…」
ーーーーーーー
男「失礼します。新人に呼ばれて来ました」
上司「まぁ座れ」
男「はい」
上司「……コホン」
上司「男、もし悩みがあるなら、俺でよければ話を聞くぞ」
男「悩み、ですか?特にありませんが…」
上司「……」
上司「ではやはり…」
上司「残業代の件だな!?うちが残業代を出さないから嫌がらせ紛いのことをしてくるんだな!?おかげで俺は上から部下の管理指導がなってないと絞られる羽目になったんだぞ!君はもっと誠実な子だと思っていたのにだよ!」
男「えぇ!ちょっと待ってください何の話です!?」
上司「とぼけるんじゃあない!報告書のことについてだ!」
男「報告書って、リアカノのですか?」
上司「そうだよ!あることないこと適当ばかり書いてくれていたとはね!先刻部長に尋ねてみたが返ってきたのは憐みの表情だった……『また大変な部下を引き当てたね』と、あの目は絶対にそう言っていた!!」
男「」ヒキ
上司「…失礼、取り乱した」
上司「部下に関してはな、少し苦い記憶があってな…今の君達は良い子ばかりでとっても安心して仕事が出来ていたのだよ」
男「はぁ…」
上司「特に男、君には感謝しているんだ。本当だ。イロモノもいる今のチームがまとまっているのも、君のおかげだと思っているんだよ」
上司「だから頼む!報告書を真面目に書いてくれ!不満があるのなら俺も出来る限り対処するから!」
男「待ってくださいって!報告書ってあれですよね、毎日提出してるやつ」
男「あることないこと適当って…俺、ちゃんと事実を書いてますよ?」
上司「どこが!なら例えば昨日のこれ。昼休みに後輩が押し掛けてくるシーンで『今日の弁当やたら大きくないか?』と言うと『この前先輩の好物聞けたんで、張り切って作り過ぎちゃったっス!』と返事するって書いてあるな?」
上司「こんな会話、誰に訊いても知らないと言われた上に、そもそも後輩ルートに手作り弁当持参なんてイベントはないんだよ」
男「ですからそれが隠し機能なのではないかと」
上司「開発部長でさえ知らない隠し機能かぁ?」
男「部長が?…内緒にしてる、とか」
上司「仕事でそんなアホなことをするか!」
男「でも嘘じゃないんですって!」
男「そうだ!でしたら今実演してあげますよ!丁度昼休みのシーンになるところで止めてたんで!」
ゴソゴソ
男「」スッスッ
後輩『先輩!今日はどこでお昼食べますー?』
男(あれ、弁当じゃないな)
男「今日は弁当持ってきてないんだな。俺結構楽しみにしてたんだけどなー」
男(こんなセリフ言ったことないけど、後輩なら何かしらの反応をしてくれるはず)
後輩『……』
男「……」
上司「……」
男「…もしかして寝坊して弁当作る時間なかったとかか?いつも部活で遅い遅いって急かすくせに、起きるのが遅いっていうのはどうなんだろうな?」
後輩『……』
男「……」
上司「……ウォッホン」
上司「今日は屋上で食べたい気分だ」
後輩『屋上!奇遇っスね!私も開けた場所で食べたかったんスよ!けど今って屋上入れるんスかね?ま、行ってみれば分かりますか!』
(場面転換)
上司「今のは会話一覧に載ってる言葉だ」
男「……」
上司「真面目に、報告書を書いてくれるな?」
男「……はい」
ーーー家ーーー
男「はー…」
男「どういうこったよ全く」
男「アフロと眼鏡からは金にがめつい奴認定されるし、新人さんのフォローもあんな状況じゃ素直に受け取れないし」
男「俺は事実しか書いてないっての…」
男「……」
スッ、スッ
後輩『……』ニコニコ
男「お前のせいだからな。ほんと、リアルでも俺をからかいやがって」
後輩『先輩の困り顔、見てて飽きないっスからね~』
男(……うん、今のも一覧にはないよな)
男「返事出来んじゃねーか。なんで上司の前ではだんまりだったんだよ」
男(運悪く弁当に反応しないシーンだったとか、そういうオチなんだろうけどさ)
男「よし、今度はこれを録画しとけば文句は言われないだろ」
後輩『その必要はないっスよ。さっき返事しなかったのはだって、先輩以外の人の前でしたから…恥ずかしかったんスっ。言わせないで下さいよ、デリカシーっスよデリカシー!』
男「…!?」
男「……後輩?」
後輩『なんスか?』
男「お前、上司のことが分かるのか…?」
後輩『さっき先輩と一緒に居た人っスよね?先輩が呼び出すから来てあげたのに、あんな人の前でお昼過ごせって酷くないっスかー?』
後輩『埋め合わせはしてもらいますからね!』
男(どうなってんだ?俺と上司を認識してる…?ゲームの中のキャラとかじゃなくて"こっち"のことが分かってると?)
男(んな馬鹿な)
男「…今度、会社の近くのパスタ店に連れてってやろうか?最近リニューアルしたらしいんだ」
男(これはゲームの中じゃなく、現実の話。もしこいつがこれに反応するなら…)
後輩『ほんとっすか!?先輩からデートのお誘い…!欲を言えばもっとロマンチックな方が良かったっスけどぉ、埋め合わせとしては期待以上っス!』
後輩『楽しみっスね、せーんぱい♪』ニコッ
男「………」
男「お前が一体何なのか、俺にはもう分かんないよ…」
後輩『私は私っスよ?どうしたんスか、突然哲学的な質問してくるとか先輩らしくないっスよ』
男(なんだこれ)
男(これが本物の人工知能なのか?バックには名立たる大企業がいて、俺達はいつの間にか凄い研究に巻き込まれてた…?)
後輩『先輩?おーい』
男(だとするといつから?それを社員に知らせない理由は?部長も知らないって言ってたけど本当か?)
後輩『また無視っスかー?後輩ちゃん寂しくて泣いちゃいますよ~?』
男(あぁもう…俺に何させたいんだ、うちの会社は…)
後輩『先輩!』
男「!」
後輩『耳、付いてます?さっきからすごい顔してますけど、悩み事っスか?俺でよければ話を聞くぞ(低音)、なーんて』
男「…現在進行形でな、目の前で喋ってるスマホが何なのか、頭抱えてたところだ」
後輩『なんスかそれー。人をUMAみたいに扱って』
男「人、な…」
男「なぁ、今俺が何してるか見えるか?」テフリフリ
後輩『手、振ってるっスね。振り返して欲しいっスか?ニシシッ』ブンブン
男「……言語インターフェースの最終到達点……ヒューマノイドインターフェースならぬヒューマンモデルインターフェースとか……」ブツブツ
後輩『いいじゃないっスか別に。細かいこと気にし過ぎると禿げますよ?』
男「うちは代々フサフサだ」
後輩『ツッコミは速いっスね』クスッ
後輩『そんな退屈なこと考えるより、私はもっと先輩とお話したいっス。こうして先輩と一緒に居るの楽しいっスから』
男「……」
後輩『先輩はどうっスか?私と居るの楽しくないっスか…?』
男「……いや、楽しいよ」
男「今週なんてほとんど後輩としか喋ってないし、正直お前がゲームのキャラクターだってことたまに忘れるくらいだ」
後輩『じゃあじゃあ!これからも先輩と一緒に居ていいんスよね!』
男「そりゃまあ」
男(テストプレイしてる間は肌身離さず持ってるしな)
後輩『言ったっスね言ったっスね!?今聞きましたからね!今更やーめたは通じないっスよー!』
男「大袈裟な」
後輩『いやぁ先輩、私のこと好き過ぎじゃないっスかー?』
後輩『もう私無しじゃ生きていけない身体になってますよね?』ニヒッ
男「調子に乗るな」デコピン
後輩『あたっ』
男「え、痛いって感じるの?」
後輩『フリっス』
男「おい」
後輩『へへっ』
男(……世界初完全な会話が可能なAI……)
男(もしかしたら俺は、歴史的な瞬間に立ち会ってるのかもしれない)
男(――なんて、そんなの抜きにしてもこいつと話してる時間が日常の一部になりつつあったのは事実だし、こいつが言ってた私無しじゃ云々も強ち間違いじゃないかもな)
男(調子に乗るだろうから絶対言わないけど)
男「…ははっ」
後輩『?』
男「いやな、今の状況って完全に調子に乗る彼女と窘める彼氏の図だなって思ってたら、ゲームのタイトル思い出してさ」
男「文字通りとは恐れ入ったよ」
後輩『彼女…♪』
後輩『せんぱーい!抱き着いていいっスか!』
男「いくらでもどうぞ?出来るんならなー」
男「あーでも、報告書どうするかな」
後輩『真面目に書いてあげましょうよ。あの人もそれを望んでたみたいですし』
男「こんなん書いても絶対信じてもらえないだろ。それとも今度こそ上司の前で喋ってくれんの?」
後輩『それは嫌っス』
男「えぇ…」
後輩『だから、真面目にっスよ、"真面目に"』
男「…?……あ、そういうこと」
男「上司にとっての真面目に、な」
男「確かに俺にだけこんなよく分からん仕事押し付けて、向こうは知らん振りだもんな……目には目を歯には歯をだ」
後輩『そうそうその意気っスよ!今のが理解出来たので後輩ちゃん検定三級合格っス♪』
男「そういう後輩こそ、真面目に勉強しなくていいのか?この前のテスト散々だったのはどこの誰だったかねー」
後輩『ぐぬ…そこでその話は卑怯っス…』
後輩『…!そうだ先輩、先輩のスマートフォン出してくれません?』
男「ん?これ?」
後輩『私のこのスマートフォンと繋いで欲しいっス』
男「繋ぐって言ってもケーブルがないんだよな……2台ともPCに接続するのでもいいか?」
後輩『なんでもいいっスよ』
カチッ、カチッ
男「繋いだけど、どうするんだ?」
『……』
男「後輩?」
男のスマホ『じゃーん!』
男「!」
後輩『これで前より一緒に居られるっスね♪』
男「おま…すごいな、何でもありかよ」
後輩『でしょー?やればできる子なんスよ!もっと褒めてくださいな』
男「はいはい御見それいたしましたー」
後輩『棒読みが露骨過ぎる!』
男「じゃあそろそろ俺風呂入ってくるよ」
後輩『ちょっと!私への対応雑になってきてません!?』
後輩『さては釣った魚には餌をあげないタイプっスか!』
男「この後いくらでも話せるんだから、びっくりするのは後に回すことにしたんだよ」
後輩『あ…そうなんスか』
後輩『…いくらでも……んふっ』
後輩『ねぇ先輩、さっきのデートの件、私本当に楽しみにしてますからね』
男「パスタの?」
後輩『そうっス』
男(スマホと相席かぁ…シュールだ)
男「じゃ、次の休みにでも行くか」
後輩『はい!えへへ…』
一旦ここまでです。
楽しみにしてる
細かいこと言うと.csはC#の拡張子だけどC#にヘッダは無いと思う
>>25
確かにそのようですね…
もう少しちゃんと調べるべきでしたね、反省です。
ーーー会社ーーー
上司「男、来たか。わざわざ呼び付けて悪いな」
男「報告書ですよね?どうぞ」スッ
上司「う、うむ」
上司(……おぉまともになっとる)
男「まだ何かあります?」
上司「いやいいんだ!この調子で頼むよ」
スタスタ...
上司「…ふぅ」
アフロ「お、上司さん。どうっすか男の様子は」
上司「これを見れば分かる」
アフロ「どれどれ…」
アフロ「良かった良かった!大して重症じゃなかったみたいだな!」
アフロ「男が妄想を書き連ねてるって聞いた時はどうなることかと思いましたが、あいつ心に闇でも抱えてるんすかね?」
上司「嬉しそうに言うがな、まだ笑い話で流せるかは分からんぞ…様子見だ様子見」
新人「男先輩の話ですか?」
アフロ「おう。そういや新人が一番心配してたな。安心しな、治ってきてるみたいだぜ」
新人「本当ですか…!」
新人「…あの、男先輩があぁなったのって、働き過ぎに原因があったりしないですか?」
上司「む…?そこまで働かせてるつもりはないぞ」
アフロ「あいつほっとくと勝手に働いてくような奴っすからね。仕事人間というか」
アフロ「やっぱ残業代すかね?」
上司「うーむ…だが男だけ特例というのも…」
アフロ「それか、後輩ちゃんルートやり過ぎて病んだ可能性とか!」
新人(後輩ちゃん……そういえば)
ーーーーー
後輩『――せんぱーい、いい加減暇なんスけどー』
ーーーーー
新人(あの時は気にしなかったけど、あれも隠し会話だって言ってたような…)
新人「上司さん、相談があるのですが」
上司「なんだね」
新人「私が担当してる委員長のテストが終わり次第、後輩ちゃんの方を手伝ってもよろしいでしょうか?」
上司「構わないぞ。彼の遅れ分も補填せねばと思っていたところだ」
アフロ「え!新人、いいのか!?」
新人「は、はい?」
アフロ「だってよ、後輩ちゃんだぜ?純朴な新人にあのバッドエンドは見て欲しくないっつーか…」
新人「そのバッドエンドってそんなに酷いんですか?」
アフロ「他のヒロインのバッドはよ、精々振られたり疎遠になったりするくらいだろ?でも後輩ルートはなぁ…」
アフロ「死人が出るんだよ」
新人「主人公が交通事故に遭っちゃったり…?」
アフロ「んにゃ、そんな優しいもんじゃねぇのよ」
アフロ「後輩ちゃんルートはハッピーエンドなら主人公から後輩ちゃんに告白してOKをもらうんだが、バッドエンドは後輩から主人公に告白するっつー展開でよ」
新人「バッドなのに告白イベントがあるんですね」
アフロ「そこがまたひでぇところなんだよ。主人公は後輩ちゃんの告白を断った挙句、その時に"ある言葉"を言うと後輩ちゃんが…」
上司「アフロ君」
アフロ「おっと…これ以上はまぁ、男に任せときゃいいよ。気になんならこっそり教えてもらいな」
新人「恋愛ゲームでヒロインが死ぬ、って…よくシナリオが通りましたね」
上司「社長曰く、インパクトが大事だそうな」
アフロ「いやブーイングもんすよ」
新人(……)
新人「私、戻ります。ありがとうございます」
スタスタスタ...
アフロ「……なぁ上司さん」
上司「……うむ」
アフロ「新人、絶対男のこと好きだよなぁー」
上司「そうだな、若い者同士惹かれ合うものなんだろう」
アフロ「くぅぅ!俺もこのワイルドなヘアーを理解してくれる子に出会いてぇ!」
上司「我が家のヤマアラシちゃんなら紹介してやるぞ」
アフロ「人間の!女の子です!」
上司「ほれ」
アフロ「あっかわいいっすね」
ーーーーーーー
後輩『…先輩って病気なんスか?』
男「なんだよいきなり」
後輩『さっきの人達、先輩が重症だとか心に闇がとか言ってました』
男「そんなこと言ってたか?」
後輩『私、地獄耳なんで』
男「ま、予想はつくけどな。というか大体後輩のせいだぞ」
後輩『知ってました』ニシシ
後輩『それより先輩!いよいよ明日っスよ!』
男「例のパスタ店な。覚えてるって。何回目だよそれ言うの」
後輩『何食べようかな~メニュー結構多いんで悩みますね~』
男「ちなみにどうやって食う気だ?」
後輩『普通に食べますよ?え、もしかしてフォークとか食器類がなくて手掴みの店なんスか!?インド式!』
男「インドに対する偏見がないか、お前」
男「食器はちゃんと出る。俺が聞きたいのは――」
新人「男先輩!」
男「!」
後輩『……』
男「どうしたの?」
新人「後輩ちゃんのテストプレイお手伝いする件、上司さんに許可頂いたので報告しようと思いまして」
男「あぁ、それ」
男(そんなことも言ってたな。…手伝いって、これを?)
男「そうな……気持ちは嬉しいんだけど」
ヴー、ヴー
男「?」
[スマホ]
━━━━━━━━━━━━━━━
大丈夫っスよ。こうやって先輩と
自由に話せる後輩ちゃんは私だけ
っスから!
━━━━━━━━━━━━━━━
男(…確かに他のテスターから後輩についての話題って聞かないもんな)
男「ん、わざわざありがとう。そっちは順調なの?」
新人「はい。この土日で一通り完了します」
男「土日。さては今までも休日返上でテストしてくれてた?」
新人「えと…はい。なるべく早く終わるように…」
男(偉いなぁ。こういう子が搾取されないよう労働に見合った報酬は支給されるべきだよなぁ。うん)
新人「ですのでその」
新人「…よければ明日、お出かけしませんか?」
男「え?」
新人「あ、いえ!これから男先輩のお手伝いをするにあたって、後輩ちゃんの進捗とか進め方とか共有しておくことが出来ればなと!」
男「おぉ…新人さんこのゲームかなり好きだね」
男「けどごめん、明日は先約があってさ」
新人「そうですか……じゃあ明後日にでも――」
「新人ちゃんここに居たの!社長から内線があったわよ。至急4階まで来てくれって」
新人「あ、はい!今行きます!」
新人「すみません、この話はまた後で」
男「行ってらっしゃい」
タッタッタッ
男「…もう行ったぞ」
後輩『はーい』
男「俺以外の人が居たら黙るようにしたのか?」
後輩『だってこれ先輩のスマホですし。先輩が機械と会話するかわいそうな人だって思われないよう気を遣ってあげたんスよ』
男「お前が空気を読めるだと…!?」
後輩『失礼っス!!』
男「そしたら明日はどうする気だ?俺が一人で飯を食うだけになるよな」
後輩『それは大丈夫っス』
男「?」
後輩『それと、明日の午前中は私にも準備があってお話出来ないんで、先に向かっててください』
男「準備?え、俺はどのスマホ持ってけばいいんだ?」
後輩『先輩のでいいっスよ』
後輩『あー、楽しみっスね~。早く明日になってくれないっスかね』
後輩『閃いた!時計を一日進めれば実質明日っスよね!』
男「やめい」
ーーーーーーー
コンコン
社長「開いてるぞ」
ガチャ...
新人「し、失礼します」
新人「お呼びとのことで参りました」
社長「君は新人くんだったな。呼んでなどおらんが?」
新人「え…ですが、内線があったとご報告が」
社長「今日はまだ内線を使ってない。誰かと間違えているのではないか?」
新人(えー…?)
ーーー翌日ーーー
ピピッ ピピッ
男「……んー……」モゾ
ピピッ ピピッ
男「………ん」
カチッ
男「…10時」
男「眠い。後輩め…結局4時までゲームに付き合わせやがって」
男「しかも悪戯ばっかだからな。画面の中の駒を手でひっくり返すなよ…反則だろ」
『………』
男「おーい、聞いてるかー」
男(そうだった、あいつ午前は準備があるとか言ってたな)
男「………」
男「静かだ」
ーーー外ーーー
男「……」テクテク
男(ここを右)
男(休日に会社の近くに来ると、別に仕事しに来たわけじゃないのになんとなく損した気分になる)
男(まぁ最近は会社でも後輩と話してばっかりだったけど)
男(あいついきなりおもしろ画像見せてきたりすんだよなぁ。仕事中くらい大人しく出来ないもんかね)
男「……」テクテク
男(仕事……仕事か)
男(そういや俺のテストプレイが終わったらあいつはどうなるんだ?)
男(業務用端末はリアカノをアンインストールしてから返せばいいとして、俺のスマホも渡すのか?後輩がこっちに引っ越ししたんでっつって)
男(そんなん通じるわけがないわ。百パー面倒なことになる。説明のしようがないしな)
男(…というより)
男「………」
男(あいつ、本当に何なんだろうか)
男「……」...テクテク
男(やることなすこと、最早人工知能とは思えないんだよな…)
男(……まさか……)
男(心霊現象の類だったりするのか…?)
男「……」
男(ひと月前の俺なら軽く一笑に付すような想像なんだが、有り得なくはないと思ってる自分が居る)
男(……)
男(………)
男「……!ここか。危うく通り過ぎるところだった」
男「混んでんなぁ。休日の昼間ってどこもこんなもんか」
男「…入っちゃっていいんだよな?」
男「後輩、もう入るぞ?」
『………』
男「……」
男「後10分だけ待つからな」
男「けどここに立ってたら目立つか…」
タッタッタッ!
「」ヒシッ!
男「!?」
「~~!」ギュー
男(なんだ…!?)
男「えー、ごめん、君…誰かな?」
「!」パッ
「たった半日で忘れるって鶏にでもなっちゃいました?」クスス
男(あれ、この顔どこかで…)
「先輩!会いに来たっスよ♪」
男「……」
「……」ニコニコ
男「…あ!」
男「ショートちゃん!?」
ーーー店内ーーー
店員「ご注文伺います」
男「こっちの、クリームパスタセットを一つと」
ショート「ナポリタンセットをお願いします!」
店員「かしこまりました」
ショート「トマト多めって頼めたりするんスか?」
店員「はい承りますよ。トマトの増量ですね、それでは」ペコリ
ショート「いやー前に先輩が食べてるの見てちょっと興味あったんスよねー」
男「あれは社食だったけどな」
ショート「相変わらず細かいっス」
ショート「後で先輩が頼んだやつもひと口もらっていいっスか?」
男「あぁ」
男「…ってそうじゃない!」
ショート「えぇ?ダメなんスか、ケチんぼ先輩ですか?」
男「あげるからそこから離れなさい」
男「君は、誰だ?」
ショート「私ですよ?先輩と会えるのずっっっと楽しみにしてたんスから!」
男「…後輩?」
ショート「はい♪」
男(いや冗談だろ…?だって目の前に居るのは明らかに)
男「ショートちゃん、だよな?アイドルの」
ショート「あ、そうでしたね。ちゃんと先輩の好みの人間にしたんスよ?ポイント高いでしょ」
男「??どういう…?」
男「つまりショートちゃんの正体は後輩で後輩が……んん?」
ショート「あはっ。先輩混乱してるー!なんか勝った気分っス」
男「駄目だ分からん。なぁ、君は本当に誰なんだよ。後輩なのか?それともショートちゃんか?」
ショート「先輩パンク寸前っぽいですね。いいでしょうネタばらししてあげましょう」
ショート「私は正真正銘、愛しの後輩ちゃんっスよ~。半日先輩と話せないのは苦痛でしたけど、先輩に会うためだーって言い聞かせて」
ショート「――この子の体、もらったんス!」
男「…は?もらった?」
ショート「いぇい」ピース
男「どうやって…」
ショート「頭の神経細胞書き換えただけっスよ?脳って所詮電気信号で制御されてるじゃないっスか、だから感電させてる間にちょちょっと」
男「………マジで言ってる?」
ショート「大マジっス!後輩ちゃん有能なのでこのくらい朝飯前っスよ~」
ショート「あ、先輩今更私に会えたのが嬉しくて感涙する気っスかぁ?」
男「違う、お前もしそれが本当ならな――」
店員「お客様」
店員「お待たせ致しました、こちらクリームパスタセットと、ナポリタンセットになります」
男「ありがとうございます…」
店員「ごゆっくり、どうぞ」
ショート「来たっスねー!食事するのこっちに来てから初めてなんでこれでようやく味覚を体感出来るんスねぇ」
ショート「先輩と同じように見て、聞いて、感じて……はぁ、最高っス!」
「…ねぇ、あの子って…」
「私この前テレビで……」
男「お、おい、もうちょっと声落とせ…!注目されちまう」
ショート「問題でも?」
男「お前は有名人なんだよ。それが俺と一緒にデート紛いのことしてたなんて知れたら大変なことになる…!」
ショート「大変なこと……」
ショート「それって先輩も困りますか?」
男「困りまくる」
ショート「分かったっス」
男(聞き分けだけはいいが…)
ショート「じゃ、早く食べましょー♪先輩とやりたいことまだまだいっぱいあるんスからねっ」
男(とりあえず、これ食べたらさっさと外連れ出さないと)
ーーー外ーーー
ショート「先輩痛いっス!そんな引っ張んなくても自分で歩けますから!」スタスタ
男「……」スタスタ
男(休日なだけあって人が多いな。どこか人気の無い場所は…)
ショート「ねーどこ行くんスか?駅こっちじゃないっスよね?」
ショート「ハッ!さてはこのまま私を怪しいお店に!?」
グイッ
ショート「ちょっ」
タッタッタッ
男「…ここならいいだろ」
ショート「誰もいない路地裏……先輩こういうのが趣味でしたっけ?」
ショート「けど、いいっスよ。私、先輩の言うことならなんでも聞きますから」
男「本当だな?」
ショート「はい…♪」
男「だったら――」
ショート「」ドキドキ
男「その身体、返せ」
ショート「……え」
男「聞こえたろ。ショートちゃんの身体を本人に返してやってくれ」
ショート「…そんなにこの女が好きなんスか?」
男「好き嫌いの話じゃない。お前ずっとそのままでいるつもりか?」
ショート「もちろんっス。だってこれから先輩と暮らしていくには必須でしょ?」
男「じゃあショートちゃんはどうなる。その子にもその子の意志や暮らしがあったろ」
ショート「?別によくないっスか?」
男「おいおい…」
男「お前のそれはある意味、殺人と変わらないんだぞ…!」
ショート「大袈裟っスねー。別に殺してはいないじゃないっスかー」
男「なんで分かんないんだよ!?常識として考えろよ!ずーっとその状態でいられるわけないだろ?ショートちゃんの人格消し飛ばしておいて……」
ショート「先輩、怖い顔してるッス…」
男(くそっ、どうすれば言い聞かせることが出来る…?)
男「…有名人が行方をくらませたとなれば、色んな人がお前を捜しに来る。いずれお前はショートちゃんとしての生活に引き戻されるだけだぞ」
ショート「平気っスよ。私と先輩に干渉しようとする奴が現れたら消してやりますから」
ショート「誰にも邪魔させないっス」
男「っ……」ゾクッ
男(………)
男「…俺が嫌なんだよ」
男「そんな風に誰かを乗っ取ったお前と過ごして、平穏なままで済むはずがない。それにな、俺は一緒に居るなら後輩のままがいいんだ」
ショート「そう…っスか」
男「……」
ショート「……」ウーム
ショート「既存の人間じゃないならいいってことっスよね?」
男「そうだが……生まれたての赤ちゃんとかも駄目だからな!周り――俺に迷惑をかけるようなことはするな」
ショート「先輩手厳しいなー」
ショート「けど確かに、私も私の体が欲しいっスね…」
ショート「ん、了解っス。先輩のスマホ出してくれませんか」
男「…これでいいか」スッ
ショート「はい」(受け取る)
ショート「………」
バチッ
ショート「」ビクン!
ショート「あ゙…ぅ……」
ショート「……」フラッ...
男「うぉ…」トサッ
男「大丈夫か…?」
ショート「」グッタリ
男「おい…後輩」
スマホ『先輩こっちっスよ~』
男「あ、あぁ戻ったのか。ショートちゃんはどうなったんだ?」
後輩『元の状態に戻しただけなんですぐ起きると思いますよ』
ショート「……う」
ショート「頭痛ぁい…――!?」
ショート「…誰、あんた」
男「いや、違うんだ。俺は別に怪しい奴じゃなくて……君が倒れてたから」
ショート「は?私が倒れてた…?というかここどこよ。こんな場所来た覚えないんですけど」
ショート「今朝からのこと何も思い出せないし…」
ショート「……!」
ガサゴソ
ショート「なんで!?私の携帯が無い!」
ショート「あんたやっぱり…!」
男「誤解だから!何も変なことはしてない!」
後輩『あー携帯使わないから家に置いてきたんスよね』
ショート「スマホが喋ってる…!?」
男「これはただのゲーム音声だから!」
ショート「…説明してよ。あんた、私に何したか知ってるのよね?さもなきゃ大声だすわ」
男「え、いやだからさっき言った通り君がここで倒れてるのを偶然…!」
ショート「……」
男(とんでもないことをしてたのは本当だし、どう頑張っても納得させる言い訳なんて…)
後輩『うるさい子ッスね~。先輩、時間勿体ないんでスマホの画面この子に向けてくれません?』
男「…おう…?」
ショート「なに?ゲームと会話してんの……」
ショート「……………」
スクッ
ショート「仕事、行かなきゃ」
テクテクテク...
男「……今のは?」
後輩『意識に働きかけたんス。特定の発光パターンを見せて脳内分泌物をいじっただけッスね。これくらいなら楽にできるんスよ。ついでに先輩に関する記憶も消しときました!』
男「助かったけど…あんまり危ないことはするなって」
後輩『えー?これもダメっスかー?先輩が言うならそうしますけどぉ…』
後輩『それより先輩』
後輩『私ってただのゲーム音声だったんですか?』
男「ん…?」
後輩『さっき言ってたこと。先輩にとって私ってゲームの音声に過ぎないんスか?』
男(いつもと同じ声音のはずなのに)
男(やばい。今のこいつ、怖い)
男「…さっきのはお前を誤魔化す言い訳をしただけだよ。ゲームの音声だなんて思ってない」
後輩『……』
後輩『ですよね!先輩私のこと大好きですし、今も私が居ないと危なかったですし!先輩にはこの後輩ちゃんがついてなきゃっスよね~!』
後輩『さーて!デートの続きしましょー!』
後輩『次どこに行きます?先輩の好きな場所とか教えてくださいよ!無理しておしゃれな所じゃなくてもいいっスからね?』ニシシ
男(………)
ーーーーーーー
プルルルルル プルルルルル
新人「……」
プルルルルル プツッ
『おかけになった電話番号は――』
新人「…なんでだろう」
新人(男先輩、何回かけても繋がらない)
新人「明日、どうしようかな…」
今回はここまでです。
次回は週明けくらいになります。
ーーー会社ーーー
男「……」カチ、カチ
男(障害残り件数、3桁を切ったか)
男(テストプレイもほぼ終わってるみたいだから、来週あたりには製品版パッケージのリリースかな)
男「……」
カチッ
[Twitter]
━━━━━━━━━━━━━━━
"追っかけ垢"
土曜日、ショートちゃんがパスタ
店に居たってマ?
"ぐーたらさん"
アイドルのショートちゃんが出没
したって噂になってますねー
"ショート様LOVE"
は?は?
ショート様が男の人と二人でデー
トしてたとか嘘だよな???
もしそんな奴が居たら全力で晒し
上げてやるわ
━━━━━━━━━━━━━━━
男「……マジかよ。もうこんなに広まってんのか……」
後輩『まだ気にしてるんスか?平気だって言ってるじゃないっスかー。先輩に届きそうな通信は全部遮断してるんスから』
後輩『それか、もうこの話題にまつわるデータ全消去します?』
男「そういう騒ぎになることはしないって約束したよな?」
後輩『はーい…』
後輩『あーあー、暇っスねー』
男「…仕事してるんだよ」
後輩『知ってますけどー…』
後輩『夜、いっぱい遊んでくださいよ?昨日もせっかくの日曜日なのに先輩寝てばっかりでしたもん』
男「出来るだけな」
後輩『やたっ』
後輩『ねぇ先輩、スマホぎゅって握ってみてくれます?』
男「…何するつもりだ?」
後輩『なにもしませんって!』
男「……」
ギュ
後輩『…んー…やっぱ違うっスねぇ…』
後輩『あの時の感触はもっとこう……』
男「仕事戻るからな」
カタカタカタ、カチッ
男(……どうしような)
男(一昨日のアレから俺のこいつに対する認識はまるっきり変わった。今まではキャラ紹介通りのちょっと生意気な女の子と話してる気分だったが、こいつはどこかズレてる)
男(人のような知性を持ってはいても、どこか違う得体の知れない何かを相手にしているような…そんな感覚に囚われるようになっちまった)
男(こいつが何を考えて、何をしでかすのか、正直全く分からない。そしてそれが底抜けに怖い)
男(……俺はどうすりゃいい……)
男「……」スクッ
後輩『どこ行くんスか?気分転換にお喋りでも』
男「トイレだよ」
後輩『ちぇー、先週みたいにお忍び休憩しましょうよ~』
男「繁忙期過ぎたらな」
スタスタスタ...
後輩『………』
undefined
新人「じゃあ、あれは隠し会話じゃなく…?」
男「あぁ。あいつには自我が宿ってる。今も俺のスマホの中で俺が戻ってくるのを待ってるはずだ」
新人「人を乗っ取って、操る……まるで映画みたいです」
男「映画ね…映画の撮影か、俺の妄想ならどれだけ良かったか…」
新人「その後輩ちゃん、男先輩がよっぽど好きなんですね」
男「アレに好きなんて感情があるのかね。俺達と同じ人間として考えちゃいけないんじゃないかって…」
新人「間違いないですよ!だって後輩ちゃんの行動って」
新人(男先輩に会いに来たり、アイドルの子に嫉妬したり。そんなのその人が好きで好きでしょうがないから…)
新人「…とにかく、男先輩の不安も理解出来た気がします。こうして私に話してくれたのも爆発のリスクがあるってことですよね」
男「確かにまずかったかもしれない。ごめんやっぱり今の話は……ん?もしかして信じてくれてる?」
新人「はい。男先輩の言うことですから」
男(優しい子だな、本当)
新人「ここまで教えておいて今更気にするな、は無しですよ。私に何が出来るかは分かりませんが、考えてみます」
新人「そろそろ戻りましょう。後輩ちゃんに怪しまれるかもしれないです」
男「そうだね」
新人「携帯で連絡取るのは危険ですよね…」
新人「ではお昼明けて2時くらいにまたここで落ち合いましょう」
男「分かった。ごめん変なことに巻き込んじゃって」
新人「ふふっ、謝ってばかりですね。珍しい」
新人「あ、すみません。男先輩、あんまり感情見せないのでつい」
男「感情…って言っても、普通に仕事してるだけだよ?」
新人「はい、そんな姿も格好いいです」ニコッ
タッタッタッ
男「……格好いい?」
ーーーーーーー
テクテクテク
男「……」
カタン
男「ふぅ…」
男(…?いつもならうるさいくらい喋りかけてくるのに)
男「後輩、いないのか」
後輩『あ、先輩おかえりなさい。随分長いトイレでしたね?』
男「あんま腹の調子が良くなくてな」
後輩『昨日寝てばっかりだったのってもしや体調悪かったからっスか?』
男「まぁ…良いとは言えない」
後輩『ほー。へへっ、後輩ちゃんが看病するっスよ?』
男「本当に倒れたらお願いするよ」
後輩『そうっスかー。先輩、どうしても分かんないことがあるんスけど』
後輩『なんで嘘吐くんスか?』
男「――っ」
後輩『トイレなんて行ってないじゃないっスか。ここの女の人と喋ってましたよね?』
男(…落ち着け取り乱すな)
男「見てたのか」
後輩『丸見えっス。先輩のこと心配だなーって思った優しい後輩ちゃんが建物のカメラから見守ってあげてたんスよ』
男「それは…」
男「…最初は本当にトイレに行くつもりだったんだ。途中で少し休憩したくなってな。そこに偶然新人さんが来ただけだ。見てたんなら分かるだろ?」
後輩『それなら戻ってきてから嘘吐く必要ないっスよね』
男「っ……」
後輩『ねー。純粋に気になるんスよ~。嘘って、何かを隠したり誤魔化したりするために吐くものって認識なんスけど、先輩は私に何を隠そうとしてるんスか?』
男「いや、隠そうとしてなんか…」
後輩『また嘘吐いてる』
男「……」
後輩『なんで黙るんスかね。そこまでして教えたくないっスか。あの女の人に関係することなんスか?』
男「違う、彼女は本当に偶然…」
後輩『…もういいっス』
ブツッ
男「おい、後輩?」
『………』
男(スマホから居なくなってる)
眼鏡「取り込み中失礼しますよ。おや?今誰かと喋っていませんでした?」
男「…ちょっと、テストプレイでな」
眼鏡「さっきの語気から察するにバッドエンドといったところですね」
男「そんなとこだ」
眼鏡「なら丁度よかった。さっき部長から指示が出ました。我々プログラム班はテストプレイを辞め、最後の障害修正に力を注ぐようにと」
眼鏡「というわけで、貸出端末の回収に来ましたよ」
ーーー昼休憩ーーー
新人「……」パク、パク
新人(後輩ちゃんか)
新人(私ももっと明るい性格だったら、男先輩に見てもらえるのかな)
新人(…意志を持ってるとはいえ、私ゲーム相手に嫉妬してる)
新人「……」ガリッ
新人(~~!いったぁい…舌思いっきり噛んじゃった…)
新人(うー、どうしよ。偉そうに考えておきますなんて言っときながらどうすれば後輩ちゃんを対処出来るのか、全然思い付かないよ)
新人(男先輩は、インターネット上に存在出来るだろうから端末を壊しても無意味って言ってた。けど何か引っかかるんだよね)
新人(うーん…)
新人「…!」
新人(そっか。男先輩のこと離れたくないくらい好きなはずの後輩ちゃんが、準備があるからって午前の間中ずっと居なかったところだ)
新人(よくある映画みたいに、ネットの海で自由になんでも出来るわけじゃない…?後輩ちゃんは文字通り1人しか存在出来ない……つまり自分で自分のコピーを作れないとか)
新人(だったら)
ヴー、ヴー
新人「?」
新人(SMS…男先輩から…!?)
[メッセージ]
━━━━━━━━━━━━━━━
急で悪いんだけど、3Fの第二会議
室まで来てくれないかな?
━━━━━━━━━━━━━━━
新人「……」
新人(急ごう。携帯で連絡しなくちゃいけないほど逼迫した事態になってるのかもしれない)
ーーー第二会議室ーーー
新人「すみません、お待たせしました!」
シーン...
新人「…誰もいませんか?」
新人「……?」
~~♪
新人「!」
(男からの着信)
新人「はい、もしもし!」
『はろはろー。聞こえてますー?』
新人「え…その声」
『この前ちょこっとだけ会いましたよね~。先輩とお昼食べてる時』
新人「後輩、ちゃん…」
後輩『あ、覚えててくれたんスね』
新人「さっきショートメッセージ送ってきたのって」
後輩『私っスよ。別にあそこで話しても良かったんスけど、変な邪魔が入ったら面倒ですし』
後輩『先輩が教えてくれないんであなたに訊きたいんス。さっきお二人で何話してたんスか?』
新人「男先輩と?」
後輩『はい』
新人「…どうして知ってるの?」
後輩『ここの定置カメラから見てたんスよ。先輩にもしましたね、この説明』
新人「……盗撮じゃない」
後輩『はい?』
新人「分からないの?あなたのしてることって立派な犯罪なの。男先輩との約束守れてないんだね」
後輩『なんで知ってんスか、先輩の言いつけのこと』
新人(!…しまった)
後輩『あぁ…先輩に教えてもらったんスね?』
後輩『さっきの話って、私についてのことだったんスか?』
新人(……一か八か)
新人「そう。あなたの行動が行き過ぎてるせいですごく疲れてるって」
後輩『だから約束したんじゃないっスか。お二人を見てたのも先輩がどうしてるか心配だったからっス。私、悪いことしてますか?』
新人「あなたが悪いと思ってなくても、見る人によって感じ方は変わるの。勝手に人の様子を覗き見て、男先輩にどう思われるか気にならなかった?」
後輩『なんでっスか。私は先輩に悪いことが起きないように……褒めてもらえると思ったのに……』
新人「……ね、後輩ちゃん。あなたが男先輩を本当に想ってるなら今度ちゃんと3人で話し合ってみよう?」
後輩『違いは何なんスか』
後輩『あなたには私のことを話して、私にはあなたのことを話してくれない。あなたと私で何が違うんスか』
新人「人と人が違うのは当たり前なの。問題はそこにはなくて男先輩は――」
後輩『分かんない…分かんない分かんない分かんない』
後輩『どう計算しても解が定まらないリソースが足りないどのデータベースにも合致するものが無い』
後輩『("私が嫌いですか?"の文字化け)』
新人「いっ!」
新人(耳が…)
新人「…後輩ちゃん?」
新人「もしもし!後輩ちゃん、どこ!?」
『………』
新人「……駄目……だったのかな……」
ーーーーーーー
男「……」
男(午後2時…新人さんと約束した時間になった)
男(後輩は戻ってきてないが、会ってることがバレてた手前迂闊には動けない…)
男「どうするかな…」
新人「失礼します。男先輩、こちらの書類に目を通して欲しいとのことです」
男「…!?」
新人「後輩ちゃんに見られないように」ボソッ
新人「お願いしますね」
スタスタスタ
男「……」
男(…この角度ならどこからも映らないよな)
ガサ...
『こんな形で伝えることになってしまってごめんなさい。先程、後輩ちゃんから私宛てに電話があって、直接話しました。説得しようと思ったんですけど上手くいかなくて。とりあえず諸々含めて話がしたいので、終業後駅前の公園に来てください。あそこは木に囲まれてカメラに映りにくい場所があるんです』
ーーー夜 駅前公園ーーー
男「……」テクテク
男「…!」
タッタッタッ
男「ごめん遅くなった」
新人「いえ、私もついさっき来たところですので」
新人「…なんかデートの待ち合わせみたいですね」
男「ん?」
新人「な、何でもないです!」
男「ここのベンチの周りか。カメラに映りにくいというか、この辺カメラほとんど無いんだね」
新人「男先輩、スマホは…?」
男「会社に置いてきた。念の為電源も切っておいたよ」
新人「私はコインロッカーに預けてきちゃいました」
男「その手もあったか。また戻らないとだもんな…」
男「…さて」
男「後輩から電話がかかってきたって?」
新人「丁度お昼休みの時間に、男先輩名義のショートメッセージで会議室に呼び出されて、そこで」
男「何もされなかった!?」
新人「はい。ちょっとしか話せなかったですし…」
男「そうか……昼休みとなるとあの後か」
男「…まずいな…他人への干渉に疑問を持たなくなったら手の付けようがなくなる…」
新人「………」
新人「男先輩」
男「何?」
新人「私、メモにあの子を説得しようとしたって書きましたよね」
男「そういえば書いてたね。でもそんなこと出来るのかな…」
新人「あの子、私に質問してきたんです。男先輩と2人で何を話していたのかって。先輩が教えてくれないから私に訊きにきたって」
男「……」
新人「後輩ちゃんは……うん、多分子供と同じなんです」
男「子供?」
新人「物心ついたばっかりの無邪気な子供です。好きだと思ったものには一直線に、嫌なものがあっても自分の思い通りにしようとする」
新人「あの子は男先輩と一緒に居たいんですよ。自分だけを見て欲しくて見て欲しくてたまらない」
新人「小さい頃遊んでくれる相手に対してそんな感情を持っちゃうことありませんでしたか?」
男「あぁ、あったな」
新人「ですから私も、今の自分の行動を見て男先輩がどう思うか考えるように言ってみたんですが…」
新人「そこで後輩ちゃん居なくなっちゃいました」
男「…何て言ってた?」
新人「私とあの子で何が違うのだろう…って」
男「………」
新人「男先輩、後輩ちゃんが戻ってきたらまず話を聞いてあげてください」
新人「同じ人として」
男「人…後輩が?」
新人「そうです。生まれや姿が違っても私たちと同じように見て聞いて考えて感じて…それってもう人と変わりませんから」
新人「だから同じ人として話を聞いて、その上で男先輩があの子にどうして欲しいのかを言ってください」
男「……後輩の存在は人類にとって早過ぎる……あいつはまだ、居ちゃいけない……」
男「新人さんは、どう思う?」
新人「私ですか?そうですね…」
新人(そのまま存在するだけでもあの子が苦しむことになるのなら、せめて)
新人「せめて、消去するんじゃなくて、寝かせてあげられたらなと」
男「データとしては残しておくってことか。…後輩のデータってどこだろう」
新人「男先輩が使ってた業務用端末には?」
男「あれはもう抜け殻だと思う。内部ストレージもほとんど使われてなかったよ。俺のスマホも同じようにね」
男「とはいえ、もう一回調べてみよう」
新人「私の方も後輩ちゃんのテストプレイしてた方に変わったことがなかったか訊いてみようと思います」
男「ありがとう。本当、新人さんが居てくれて助かってる」
新人「そ、そんな…こちらこそ…」
新人「あ、そうです、もしあの子が許してくれるなら私も後輩ちゃんと改めて話がしたいです」
男「言ってみるよ。暴走しなければいいけど…」
新人「……どうしても抑えきれそうにないと感じたら、"あの言葉"を口にすれば止められるかもしれませんね」
新人「バッドエンドをなぞることになりそうで、極力避けたいところですが…」
男「えーと…何だっけ?」
新人「あれ、知りませんか?」
男「実はエンディングまでプレイ出来てなくて」ハハ...
新人「そっか、後輩ちゃんが居ましたもんね」
新人「後輩ちゃんのバッドエンドルートで言ってしまうと、自殺に追い込んでしまうというあれですよ」
男「そういやそんなのもあったね」
男(でも自殺だったか?)
新人「いいですか?その言葉は――」
今回はここまでです。
週明け(週末)になってしまってすみません…。
GW前半くらいには完結させたいです(願望)
>>51 が投稿できてないので2つに分割して投稿します。
ーーーラウンジーーー
男(昨日、業務用端末からリアカノをアンインストールはしてみた。結果は何も変わらず。後輩はもうゲーム内で納まる存在じゃなくなってんだろう)
男(やっぱり、テストプレイで起きたこと洗いざらい話すか?とても信じてもらえるとは思えないが、俺一人でなんとか出来そうな気がしない)
男(…スマホを叩き壊せば、あいつも消えんのかな)
男「………」
男(いや、インターネット上を行き来できると考えたら無意味だ。それにそんなことをしてあいつが何をするか…あまりに危険過ぎる)
男「……はー……」
新人「お悩みですか?」
男「…見られてた?ちょっと、ね」
新人「そうでしたか…」
新人「ごめんなさい、そうと知らずに電話たくさん掛けてしまって」
男「電話?」
新人「はい。ご迷惑でしたよね…」
男「何のこと?」
新人「えっと…ですから、一昨日男先輩に何回も電話をしてしまったことです。後輩ちゃんのテストプレイの件、とか」
男(そういえばそんなこと言ってたっけな)
>>63の続きです。
男「でも土日に着信なんか無かったけどなぁ」
新人「え、そ、それって……遠回しに私には興味がないということでしょうか…?」
男「どうしてそうなるの!?嘘は言ってないから!新人さんから電話かかってきたらちゃんと取るよ」
男「俺の方こそごめんね。テストプレイ手伝ってくれる話とかすっかり忘れちゃってて…。昨日一昨日はそれどころじゃなくてさ」
新人「…何があったんですか?」
男「……」
男「例えばの話。自分の手に負えない爆弾を持たされたら、新人さんはどうする?」
新人「爆弾…」
男「そう。しかも何をしたら爆発するのか分からないんだ。息吹きかけたり、ちょっと姿勢を変えるだけでもアウトかもしれない」
男「かといって床に置いて逃げようもんならきっと一発でドカンだ。こんなの、どうしろってんだろうな…」
新人(……)
新人「どんな爆弾だとしても、一人で抱え続けるのは辛いと思います」
新人「誰かに打ち明けて、支えてもらうことが出来れば今よりは絶対に楽になります」
男「…はは、普通ならそれが一番なんだけどさ。それさえ怖いと思ってるところもあるんだ、実際…。爆弾なんて持ってくれる物好きもいないだろうしね」
新人「ここにいます」
男「!」
新人「話すだけなら爆発しませんよね?男先輩の悩んでること、聞かせてくれませんか」
男「………」
.........
ここから >>52に続きます
>>57 でも投稿ミスをしてるので、以下に修正しておいてください。
後輩『あぁ…先輩に教えてもらったんスね?』
後輩『さっきの話って、私についてのことだったんスか?』
新人(……一か八か)
新人「そう。あなたの行動が行き過ぎてるせいですごく疲れてるって」
後輩『だから約束したんじゃないっスか。お二人を見てたのも先輩がどうしてるか心配だったからっス。私、悪いことしてますか?』
新人「あなたが悪いと思ってなくても、見る人によって感じ方は変わるの。勝手に人の様子を覗き見て、男先輩にどう思われるか気にならなかった?」
後輩『なんでっスか。私は先輩に悪いことが起きないように……褒めてもらえると思ったのに……』
新人「……ね、後輩ちゃん。あなたが男先輩を本当に想ってるなら今度ちゃんと3人で話し合ってみよう?」
後輩『違いは何なんスか』
後輩『あなたには私のことを話して、私にはあなたのことを話してくれない。あなたと私で何が違うんスか』
新人「人と人が違うのは当たり前なの。問題はそこにはなくて男先輩は――」
後輩『分かんない…分かんない分かんない分かんない』
後輩『どう計算しても解が定まらないリソースが足りないどのデータベースにも合致するものが無い』
後輩『遘√′雖後>縺ァ縺吶°?』
新人「いっ!」
新人(耳が…)
新人「…後輩ちゃん?」
新人「もしもし!後輩ちゃん、どこ!?」
『………』
新人「……駄目……だったのかな……」
乙
文字化けの件は勿体なかったな
完結待ってる
>>67
本当に。
気付いた時は本気で時間を巻き戻したくなりましたね…
ーーー週末 会社ーーー
「お先でーす」
男「お疲れー」
男「……」カタカタカタ
男「……」カタ...
(黒画面のスマホ)
男(………)
アフロ「よーっす!男元気かー?」
眼鏡「僕らの方の最終調整が終わったので、助太刀に来ましたよ」
新人「あの、進捗はいかがでしょうか」
男「マジで?助かるわ、この人数でやればあと3時間
で終わる」
アフロ「はぁ!?3時間!?」
眼鏡「終電もなくなりますね」
アフロ「んな量押し付ける上司さんも上司さんだけどよ、さらっと受け入れてるお前も感覚ヤバイぞ…」
男「ジョークだよジョーク。もう終わるとこ」
アフロ「おいっ」
新人「男先輩、意外に冗談好きですよね」
男「アフロはからかい甲斐あるしなー」
眼鏡「このチームでオーバーリアクションとってくれるのはアフロだけですからね」
アフロ「お前らなぁ。まぁいいけどよ」
アフロ「もう上がれんならこの4人で飲みに行こうぜ」
男「今からか?」
アフロ「おう。打ち上げすっぞ!」
男「打ち上げって…まだプロジェクトは終わってないが」
アフロ「いーんだよ、俺らプログラム班は今日が終わりみてーなもんじゃん。出荷関連は管理部の仕事だろ?」
男「…そうだな」
アフロ「それによ、眼鏡はともかく新人も今日なら遅くなっても平気なんだとよ!」
眼鏡「誰がともかくですか」モジャ
アフロ「やめっ、髪潰さないで!」
新人「行きましょうよ、男先輩」
男「……」
新人「……」ジッ
男「よし、行くか!パーっと飲んで全部リセットだ!」
アフロ「よく言った!それでこそ我らが男大先生!」
男「けど、新人さんは終電の時間気にしといてね。帰れなくなったら大変だから」
アフロ「あーその点に関しちゃ問題ねぇ。お前と新人の家って同じ方向だったよな?終電無くなった時はタクシーで送ってってあげてな!運賃は後で建て替えとくからよ」
男「いやいや新人さんが困るだろそれ」
新人「私なら大丈夫ですよ。…その、ご迷惑でなければお願いします」
男「そう…?」
アフロ「つーわけだ。あんま飲み過ぎなきゃ平気だって!」
男「…お互いタクシーでもどさないくらいにはセーブしようか」
新人「はいっ」フフッ
ーーーーーーーー
店員「ありやとっしたー!」
ガラッ
アフロ「おーい男、重いっつの。自分の足で歩けよな」
男「んー…なんだよ…俺はまだ飲めるぞぉ」ヨロ
眼鏡「おっと危ない」
眼鏡「男がこれほど酔い潰れるのは初めて見ますね」
アフロ「セーブするんじゃなかったのかよ…。わりぃな新人、こんなグダグダになっちまって」
新人「いえ、とっても楽しかったですよ」
アフロ「かー!良い子だなぁ新人は!」
眼鏡「新人さんお酒強いのですね。顔も全く赤くならずに涼し気で」
アフロ「本当な。同じペースで飲んでた男がこんなだもんな。つっても、普段そんなに量飲む奴じゃねーんだがなぁ」
眼鏡「少し荒れてましたね。最近いつも難しい顔してましたから、ストレスが溜まってたんでしょう」
アフロ「仕事のことならすぐ共有してくれっから多分プライベートなんだろうけどよ、俺らにも相談の一つや二つしてきてもいいのに、な!」デコピン
男「いたっ」
男「…?…??」キョロ、キョロ
新人「……」
アフロ「何にせよ今日飲みに連れてったのは正解だったぜ!これでちったぁ気晴らしになったろ!」
アフロ「…ま、さすがにこの状態で新人を送るなんざ出来ねぇだろうから今日は俺が送ってくわ。眼鏡は男を頼む、タクシーもう1台呼んどくからよ」
眼鏡「分かりました」
新人「あ、大丈夫ですよ。私が男先輩をお送りしますので、お二人はそれぞれご帰宅して頂ければ」
アフロ「なにっ。だがそこまでさせんのはなぁ…」
眼鏡「そうですよ。ここまで酔った男と居て、何が起こるか想像も出来ません」
新人「1人で帰るよりは安全です。いざとなったら簡単な自衛くらいなら出来ますから」
新人「ね?」
新人(それに男先輩なら、私は別に…)
眼鏡「ですが…」
アフロ「あい分かった!そんじゃこの酔っぱらいは君に任せる!」
眼鏡「ちょ、アフロ!?」
アフロ「いいのいいの、邪魔者はとっとと退散すんのよ」
アフロ「じゃあな新人!頑張れよ!」
新人「お二人もお気を付けて。今日はありがとうございました!」
アフロ「おーう!」
男「…うーん…」
新人「ほら、私に掴まってください」
男「んー…」
新人「…ふふっ、なんかかわいい」
...ブロロロ
新人「ん、タクシー来ましたよ。乗りましょうか」
ーーーーーーー
ブォォン...
男(………)
男「……?」
男(…暗い…)
新人「起きましたか、男先輩」
男「新人さん…?って」
男(なんだこりゃ!?膝枕…!)
男「わ、悪いっ」バッ
新人「あ…」
男「…思い出してきた。飲み過ぎで寝ちゃったのか。ここは、タクシー?」
新人「はい。今男先輩の家に向かってます。私が送り届けますからね」
男「え、いや俺の方こそ新人さんを」
新人「酔い潰れた人は大人しくしててください」
男「…はい」
新人「…後輩ちゃん、まだ戻ってきてないんですね」
男「……あぁ、俺から呼びかけても反応無しだ」
新人「心配ですか…?」
男「あいつがどこで何してるのか考えるとね……休まる日がないよ」
新人(……)
男「げっ、3時…もうそんな時間だったのか。やっぱり先に新人さん家へ向かってもらった方が絶対いいよ」
新人「いいえ、変えなくていいです」
男「でもいくら酔ってたとはいえ、こんな時間に新人さんを1人には――」
新人「でしたら」
新人「…その…男先輩の家に泊めてもらうというのはどうですか?」
男「…!?」
新人「そうすれば万事解決、ですよね」
男「ぇ……解決する…の?な、何が…」
新人「……冗談ですよ」クスッ
新人「ちゃんと家に帰ります。男先輩も疲れてるでしょうから、回り道しないで家で休んでくださいね」
新人「後輩ちゃんが帰ってきた時、しっかりお話出来るように」
男「…そうするよ」
運転手「お客さん、この辺りでしたよね。そろそろ着きますんで」
.........
新人「それでは男先輩、また月曜日に」
男「うん。気を付けてね」
新人「……」ニコッ
バタン
ブロロロ...
男「……入ろう」
男(やば、想像以上に千鳥足だ)フラ..フラ..
男(酒で失敗するなんて油断した。新人さんには申し訳ないことしちゃったな)
男(それもこれも全部、後輩のせいだ。勝手に居なくなってどっかでヤバイことしてんじゃないかって考えると……でかい悩みの種だよ、まったく…)
男「……」フラリ
ガチャ
男「…ただいま」
ーーーーー
後輩『――おかえりっス!へへっ、家で帰りを待つ奥さん役っスよ!』
ーーーーー
男「……」
男「…あ」ユラ...
ドサッ
男(やばいな…こんなに疲れてたっけ、俺。体動かしたくねー…)
男(でも着替えて、風呂入って、明日の……朝の……)
男「……じゅん、び……」
男「」スー..スー..
ーーーーーーー
ブォォン
新人「……」
新人「………」
ーーーーー
男「――あいつがどこで何してるのか考えるとね……休まる日がないよ」
ーーーーー
新人「…自覚は無しなんだ」
ーーー翌朝ーーー
男「………」
男「」ハッ
男(…結局昨日はあのまま寝ちまったのか)
男(いてぇ…この頭痛、完全に二日酔いだなこりゃ。なんであんなに飲んだんだろ)
男「とりあえず服着替えるか…」ノソ...
男(…ん!?!?)
「…zzZ」
男(えっ!?誰この女の人!?空き巣!?)
男(空き巣なら床で寝ないか!つか俺の横で寝てたよ、何でだよ!?)
「…むにゃ……えへ…」
男「……」
男(よく見るとめちゃくちゃ可愛い)
男(というかおおよそ分かってしまった。こんな突飛なことをしでかすのは…)
男「……後輩」
後輩「!」パチ
後輩「……」
ガバッ!
男「うぉ!」
後輩「先輩ー!会いたかったっスー!」
後輩「思った通りこの感触が一番っスね!一生このままでもいいくらいっス…」
男「待て…!後輩…重い、苦しいから…!」
後輩「あー!また重いとか言って、女の子に対するデリカシー全然学んでないっスね?」ギュー
男「~~っ!」バシバシ
後輩「ん?あそういうことっスか」
男「…はぁ、はぁ」
男「お前な…俺は二日酔いなんだ、もっと静かにしてくれ」
後輩「そんなこと言って、本当は後輩ちゃんに抱き付かれてドキドキしてたんでしょ?」
男「違う意味でな」
後輩「もー素直じゃないんスから」
男「…とりあえずどいてくれない?」
後輩「嫌っス♪」
男「は?」
後輩「なんか、いいっスねこれ。先輩を屈服させてるみたいで…ゾクゾクするっス…」
男「本当に待て、やめろ。お前が言うとシャレにならない…!」
男「そうだよお前、その身体はどうした!?俺言ったよな、俺の迷惑になることはするなって」
後輩「ちっちっちっ。そうくると思いましたよ~、私が先輩との約束を破るわけないじゃないっスか。これは紛れもなく私だけの体っス!」
男「……まさか死体を乗っ取ったのか?」
後輩「なんでそうなるっスか!アメリカさんの研究を使わせてもらったんスよ。あそこって極秘で人間クローンの研究してるんスけど、その土台を借りて先輩の理想に近い体を作ってきたんス」
後輩「おかげで1週間近くかかっちゃいましたけど」
男「」ポカン
男「じゃ…なにか?その身ひとつでここまで来たと?アメリカから?」
後輩「はい!」
男「さらっと言ってるが、すげー危険なことしてないか?極秘の研究とやらの邪魔をしてタダで済むとは思えないんだが…」
後輩「んー確かに変な人たちに何回か追いかけられましたね。全部振り払いました!」
男「いやそれヤバイじゃん!絶対うちまで来るだろ!」
後輩「大丈夫っスよ、先輩は私が守りますから。これからはずっと一緒ですし」
男(おいおい勘弁してくれ。こいつが言うから事実なんだろうな…嘘や冗談だったらどれほど良かったことか…)
後輩「えへへー。これで私も先輩と同じになれましたよねっ」
男「……」
男「ひとまず、風呂に入らせてくれ…」
ーーーーーーー
男「はぁ…」ホカホカ
男(小一時間くらい入ってたのに、全然ダメだ。頭の整理なんか出来やしない)
男(あいつが目の届くところに帰ってきただけ良かったと考えるか…?でもその手段が常軌を逸してるんだよな…)
男「……ん?」
後輩「先輩待ってたっス♪」
(食事の置かれたテーブル)
男「これは…」
後輩「朝食っスよ。前に言った手作りお弁当は機会がないと思ったので、手作り料理にしたんス」
後輩「さ、どうぞどうぞ」
男「……」
男(見た目に異常はない、が)
男「………」
パク
男「……普通だ」
後輩「なんスかその感想!」
男「あぁいや、美味しいよ」
後輩「…本当に?」
男「おう。こんなまともな朝食とるの久しぶりだ」
後輩「……へへっ」
後輩「先輩遊びましょう!私楽しみにしてたんス!先輩の家で遊ぶの!」
後輩「この前は結局パスタ食べに行っただけでしたし、今度こそ先輩とお家デート♪」
男「な、何がしたいんだ?」
男(大丈夫なのか…こいつの言う遊びって)
後輩「じゃあまずは――」
ーーーレースゲームーーー
後輩「よっ、ていっ」
後輩「やった、また1位っスよ!」
男「馬鹿な…対人戦で一周抜かしとか出来んのかよこのゲーム…」
後輩「せんぱーい、私よりこのゲームの歴長いんじゃなかったんスかぁ?」クスクス
男「この…もう一回だ!今度はキャラ変える!」
後輩「いいっスよー。何度やっても同じですけどねー♪」
ーーーオセローーー
男「テレビゲームの次はテーブルゲームか」
後輩「この前やった時は先輩にズルするなって言われたんで、今回は正々堂々真っ向勝負っス」
男「後輩が画面の駒全部ひっくり返したやつな」
後輩「先輩の悔しがる顔見たかったんですもん。まぁそんなことしなくても」
後輩「はい」
(盤面真っ黒)
男「…わー、綺麗だなー」
後輩「完全勝利っスね♪先輩を私色に染めちゃいました」
男「変な言い方すな」
ーーー映画ーーー
男「これが観たいのか?」
後輩「そうっス」
男「懐かしいな。もう10年以上前のやつだ」
後輩「先輩この映画のエンディングテーマ好きっスよね!」
男「よく知ってんな」
後輩「先輩のことならなんでも知っておきたいんス♪」
後輩「さ、観ましょー!」トスッ
男「おい、俺は座椅子じゃないんだぞ…」
(中盤)
後輩「あ…これ、男の子は未来に帰っちゃったんスよね」
男「そうだな。未来から来たこと、主人公にバレちまったからな」
後輩「……」ジー
男「……」
男(…不思議だ)
男(こうして見ると、こいつがただの女の子に思えてくる。この前までの得も言われぬ恐怖感は無い)
男(思い返してみれば今朝こいつを見つけた時も驚きはしたけど背筋が凍るとか鳥肌が立つとかそんなことはなかった)
男(むしろ、やっと帰って――)
後輩「――先輩?」
男「!…なに?」
後輩「どうしたんスかぼーっとして。今いいとこっスよ」
男「あぁうん」
(上映終了)
後輩「……」
男「……」
男(やっぱ面白いな、この映画。誰がなんと言おうと、何年経っても色褪せない王道だと俺は思う)
後輩「……」
ソッ(後ろに寄りかかる)
男「どうした?あんまり面白くなかったか?」
後輩「面白かったっス。でも…」
後輩「先輩、この映画好きなんスよね?」
男「もちろん。今もちょっと泣きそうになるくらいな。ははっ」
後輩「……私は、嫌だな」
後輩「最後、2人はもう二度と会えなくなって終わりなんスよね」
男「そこがこの映画の肝だろ。主人公は現代で、男の子は未来で、時を越えてお互いを想い合ってるんだ。そういう恋の形があったっていい」
後輩「そんなの寂しいだけじゃないっスか。主人公の子、中盤で男の子が居なくなっちゃった時ギャン泣きしてたっス。それが、これから一生会えないんスよ?」
後輩「大好きな人と二度と会えないなんて、私は嫌っス」
男「お前の言うことも分かるけど…」
後輩「生まれた時代が違うだけで、一緒に居ちゃいけないんスか?」
後輩「それなら生まれ方が違う私は、先輩と一緒に居られないってことっスか…?」
男「……後輩……」
後輩「せっかくこうやって、先輩と同じように体を持って、先輩と同じように遊ぶことだって出来るのに」
ーーーーー
新人「――あの子は男先輩と一緒に居たいんですよ」
ーーーーー
男(そうか。そういうことか)
男「……フゥ」
男「居ていいよ」
後輩「…え…」
男「俺と一緒に居たいんだろ?そのために身体を欲しがったり俺の言い付けを守ろうとしたり」
男「十分わかったからさ、いいよ。どうせ住むところないんだろ、ここで暮らしていこう」
後輩「いいんスか…?」
男「おう。でも!人として生活するなら常識とか倫理観とか、その辺りのことはきっちり身に付けてもらうからな!」
後輩「……信用できないっス」
後輩「先輩、私に隠し事してました。先週からずっと私に対する態度もおかしかったっス。私を、まるで避けるみたいに…」
男「……悪かった」
男「あれはお前のとった行動が異常だったから、不気味に感じちゃったんだよ。普通の人間は誰かの身体乗っ取ったり意識を操ったりしないもんだ」
男「けど今なら分かるよ。悪意があってやったんじゃないんだよな」
男(全部俺のために…俺に構ってもらうためにやったってこと)
男「それなら怖くなんかない。隠し事だって、もうしない」
後輩「」バッ
男「またかっ!」
後輩「先輩!先輩先輩せんぱい…!」
男「はいはい。そんなに呼ばなくてもここに居るって」
後輩「そうっスよね…!私は先輩と居るべきなんスよね。私のしてきたこと、間違ってないんスよね…!」
男「しちゃダメなこともいっぱいしてるからな?アメリカの極秘研究とか…本当に大丈夫なんだろうな…」
後輩「ん~!」スリスリ
男「犬みたいだな、今の後輩」
後輩「嫌っスー♪飼い主は私の方っスよ!」
男「何の争いだよ」フッ
後輩「えへへ」
男(爆弾なんて、誰しも大なり小なり抱え持っているものだろう。理性の壁が無ければ簡単に暴発するような危険物。けど誰もがそれを抑え込み、折り合いを付けながら生きている)
後輩「私のせんぱーい♪」
男(こいつに出来ない道理はない)
後輩「ねぇねぇ先輩、私のこと可愛いと思いますか?」
男「え、あー、まぁ」
後輩「先輩のタイプっスか?」
男「…さっき自分で俺のタイプに合わせたって言ってたよな」
後輩「だったら…私に興奮します?」
男「は!?」
男「いやお前、何言って」
後輩「隠し事、しないんスよね?」ニコッ
男「それは卑怯だろ…!」
後輩「私が体欲しかったのって、先輩と同じになるためっていうのももちろんスけど」
後輩「こうやって直に触れ合ってみたかったからなんスよね」
後輩「ねーどうなんスか、先輩」ズイ
男(うぐ……)
男「…するよする!つか男の生理現象だ!ほら離れる!」
後輩「っとっと」
後輩「…ぷっ。あはは!ほんと先輩面白いっスね~!こんな年下にいいようにからかわれて!」
後輩「さっきの顔、今までで一番見応えあったっスよ?」
男「お前…」
男「あーあ、せっかく明日後輩の服を選びに出かけてやろうと思ってたんだけどな。こんなことされたらショックで外出れなくなりそうだなー」
後輩「なっ!ずるい!」
男「どっちがだ」
ヤイノヤイノ
.........
ーーー夜ーーー
後輩「えー。先輩ここで寝ないんスか?」
男「俺はリビングで寝る。お前と同衾は色んな意味で出来ん」
後輩「変なことはしないっスよー。大体私がその気になったら先輩くらいいつでも襲えますし」
男「縛り付けといた方がいいか」
後輩「してみます?」
男「……しない」
男「早く寝ろよ。寝坊したらその分外出時間減らすからな」
後輩「先輩と居る時間が減らなければ、いいっス」
男「…こいつは」
男「そんなに俺のこと好きなんだな?」
後輩「うん」
後輩「先輩大好き後輩ちゃんっスから」
男「……」
ポン(頭に手を置く)
後輩「!」
男「おやすみ」
後輩「おやすみっス。えへへ…」
ーーーーーーー
男「はー疲れた…。本当に小さな子供でも相手にしてる気分だ」
男(からかい方が生々しい分、余計質が悪いが)
男「……」フッ
男「…ん?メッセージが来てる」
新人『男先輩、体調はどうですか?昨日私のせいで飲み会を混乱させてしまってすみません。もしお辛いようでしたらお詫びさせてください。』
男(気にし過ぎだよ、それは。新人さんのせいなんかこれっぽっちもないのに)
男「大丈夫だよ、心配してくれて、ありがとう」スッスッスッ
男(そうだ、後輩が戻ってきたこと伝えるか)
ーーーーー
新人「――せめて、消去するんじゃなくて、寝かせてあげられたらなと」
ーーーーー
男(あんなこと言ってたけど、説明すればきっと分かってくれるはずだ。後輩が俺達と暮らしていっても問題ないってこと)
男(新人さんならきっと)
[下書き]
━━━━━━━━━━━━━━━
体調は大丈夫。心配してくれてあ
りがとう。昨日の飲み会に関して
は新人さん何も悪くないんだから
気にしないでね。
それと、今日後輩が帰ってきたん
だ。前に後輩と話がしたいって言
ってたよね?その前に俺も新人さ
んに話すことがあるからさ、月曜
日の昼、また時間をくれないかな。
後輩には事前に言っとくから。
━━━━━━━━━━━━━━━
男「送信、と」スッ
男(新人さんが味方に付いてくれるのは正直凄く心強い。彼女の言う通り、俺が1人で抱えきれるような問題でもないからな…)
男「早く月曜日にならないかな」
ーーーーーーー
ヴー、ヴー
新人「!」
新人(もう返ってきた…!)
[メッセージ]
━━━━━━━━━━━━━━━
体調は大丈夫。心配してくれてあ
りがとう。昨日の飲み会に関して
は新人さん何も悪くないんだから
気にしないでね。
月曜日、また頑張ろうね。
━━━━━━━━━━━━━━━
新人「…良かったような、少し残念なような」
新人(もしダウンしてたら看病行けたのにな…なんて)
新人「……」ブンブン
新人(ダメダメ!後輩ちゃんが戻ってくるまではフェアでいないと!)
新人(そうしないと失礼だもの。後輩ちゃんにも男先輩にも)
新人(…でも、またお昼を一緒に食べるくらいなら…)
新人「声、かけてみよう」
新人「早く月曜日にならないかな」
ーーーーーーー
後輩「せんぱい……」
後輩「先輩はやっぱり、私を受け入れてくれる」
後輩「絶対に受け入れてくれるんだ…♪」
後輩「私に必要なのは先輩だけ。先輩に必要なのは私だけ」
後輩「待っててくださいね先輩。あともうちょっとっスから」
後輩「あと38時間27分14秒。それだけ待てば……先輩と私だけの……」
後輩「えへ、えへへ」
後輩「月曜日が待ち遠しいっス…」
今回はここまでです。
ーーー月曜日ーーー
男「本当に、本当に大丈夫なんだろうな!?」
後輩「もー、しつこいっスよー。鶏じゃないんスから言われたことは覚えてるっス」
男「誰かが訪ねてきたら?」
後輩「出ない」
男「電話がかかってきたら?」
後輩「それも出ない」
男「留守番してる間は?」
後輩「先輩の部屋を漁る」
男「………」
後輩「外出なきゃいいんスよね?」
男「…散らかしっぱなしにするなよ」
後輩「はーい♪」
男「特に面白いもんもないからいいけどさ…やば、もうこんな時間」
男「じゃあ会社行ってくるから。頼むから大人しく待っててくれよ!」
後輩「行ってらっしゃーい」ニコニコ
男「いい笑顔しやがって…」
ガチャ
後輩「……えへっ」
ーーー会社ーーー
上司「11時からマスターアップだ!ないとは思うが、念のため入れ忘れた修正や変更が残ってないか確認しておけ!」
ハーイ
男「……」カチッ、カチッ
男(やべー…俺今回全然障害直せてないじゃねぇか。いつもの半分以下…)
男(後輩の件がどれだけ効いてたんだ。しかしこれはあまりにも)
アフロ「よっ」
男「おう」
アフロ「なぁ一昨日、ちゃんと帰れたか?」
男「おかげさまで」
アフロ「新人と2人で…どこ行ったんだ?」ワクワク
男「?だから家に帰ったって」
アフロ「ほほぅ…」ジー
男「なんだよ…」
アフロ「……はぁぁ。ったくお前って奴はよぉ。据え膳だぜ据え膳!俺ぁ悲しいよ」
男「頭刈るぞ」
アフロ「そこまでする!?」
男(……)
男「あのさ、悪かった。今回の仕事俺ほとんど貢献してない。報告書の件でも迷惑かけた」
男(どう書けっつー話だけどさ)
アフロ「気にすんなって。ずっと万全な奴なんかいねーからよ。カバーし合うのがチームだろ?」
男「…サンキューな」
アフロ「悩みの一つや二つ、いつでも聞くからな!」
男「髪に悩んだらアフロに相談するよ」
アフロ「俺は髪だけの人間じゃねぇかんな!?」
ーーー11:00ーーー
男(マスターアップ開始だな)
「うーい、遊びに来たぜ」
「お疲れ。どうよチームBの仕上がりは?でかいバグ抱えてたよな?」
「いやぁ結局他のチームから応援頼むことになってよ」
男(…ふぅ)
男(ここまで来ちまえば俺達プログラム班が動くことはもうない。コアタイム中なのに手持ち無沙汰になるマスターアップ時のこの雰囲気、嫌いじゃないんだよな)
新人「お疲れ様です、男先輩」
男「新人さんもお疲れ様。これで初プロジェクト満了だね。どうだった?一通りこなしてみて」
新人「まだまだ難しいことだらけです。皆さんに助けてもらってばかりでしたから…」
新人「でも、一連の流れを知ることは出来たので次はもっと役に立ってみせます!」
男「気合入ってるねー。俺も負けてらんないなぁ」
新人「…ところでその…お昼なんですが…」
新人「もしよければご一緒しませんかっ?」
男「?」
男(あれ?昨日のメッセージ見てないのかな)
男「もちろんいいよ。俺も新人さんに話したいことがあるから――」
上司「おい男!至急サーバールームまで来い!」
男「え、なんですか?」
上司「いいから!」
男「は、はい」
タッタッタッ
新人「……もう、いつも間の悪い……」
「新人ちゃーん、お疲れー」
新人「あ、お疲れ様です」
ーーーーーーー
上司「男連れてきました」
部長「うむ」
男(え、なんで部長までいるんだ。普通出荷関連は管理部の管轄じゃ…)
部長「男君、呼ばれた心当たりがないという顔をしているね」
男「はい…何かありましたか?」
上司「ここでアップの仕上げをすることは知ってるよな?管理部の人と俺で進めていたんだが、リアカノのパッケージサイズが異様に大きかったんだよ」
男「修正や変更が入った後だからではなくてですか?」
上司「その程度でサイズが3倍近くになるか?ともかく原因を探ってみたところ、これに辿り着いた」
ソースファイル
┗Senpai1.cs
┗Senpai2.cs
┗.........
男「これ…」
上司「見たことがあるようだな。俺も部長も知らないファイルだ。どのエディターを使っても開くことが出来ない。なんだと思ってさらに変更履歴を遡ってたら…いつの間かソリューションに足されていたのだよ。君のPCからね」
男「そんな、俺も知りませんよ!ちらっと見かけたことはありましたけど、どなたかが追加したファイルなんだろう程度にしか…!」
上司「他に誰が出来るというんだ?お前のPCがリモートで操作された形跡もなかったんだぞ」
上司「頼む男!この大事な時に工程を止めるわけにはいかないんだ!今ならまだ軽い処分で済むよう俺が口を利いてやれるから!」
男「そう言われましても…本当に身に覚えが――」
男(……まさか……)
男「…後輩か…?」
上司「後輩?このSenpaiというファイル名と関係があるのか?後輩ルートに何か変更を加えたのか!?」
部長「まぁ落ち着きなさい。ここで水掛け論を始めても仕方あるまい。早期解決が難しいのなら一旦差分を消し、先週の出荷前状態に戻す他ないだろう。確認作業が再度必要になるが、背に腹は変えられない」
『あーそれは困るんスよね~』
男「っ!」
上司「なんだ今のは…?」
ジジジジジジ!
全員「!?」
男(なんだよこの音…!心臓を掴まれるような…!)
上司「ぐぉ…!?」
部長「誰かこれを止め……」
バタッ ドサ
ジジジ...
男「……く……」
男「……あ…?え?」
上司たち「「「」」」
男(みんな気絶したのか…?)
『すいません先輩、苦しかったっスよね?これでも先輩の脳に響かないよう調整したんスけど』
男「…後輩なんだよな?」
後輩『はいっ。なんか機械越しに話すの久しぶりっスね!また先輩のスマホに遊びに行こうかなぁ』
後輩『先輩、今私が喋ってるマシンの"リリースを開始する"ボタンを押してくれません?そこの人達が直前でやめちゃったんでまだ完了してないんスよ』
男「待て、その前に説明しろ。さっきの音もお前だろ?なんてことしてくれたんだよ、こんな…」
後輩『えー、そんなの後でいいじゃないっスか。早く――』
男「よくないだろ!お前何も分かってないじゃないか!この謎ファイルもお前の仕業だよな!?迷惑をかけないって約束はどこいったんだよ!」
後輩『だから迷惑かからないようにするんじゃないっスか』
後輩『先輩私考えたんスよ?先輩がお仕事してる間私と一緒に居られなかったり私が何かすると大抵先輩の言う迷惑に該当してしまったり、世の中欠陥だらけなんで』
後輩『私が作り替えてあげるんス!私と先輩が好きに過ごせる世界っス!』
後輩『ただ私単独ではちょっと力不足なのでこのゲームをばら撒く必要があるんスよね~。先輩のために簡単に言うと、電波塔と同じ役割っス。そのためにバレないよう改造しておいたんスけど、詰めが甘かったっスね』アハハ
後輩『ねぇどうっスか!これで先輩はもうお仕事なんて行く必要ないですし、私が何しても先輩の迷惑になるようなことにはなりませんよ!だーれも干渉してこないっスから♪』
男「………」
後輩『せんぱーい、早くボタン押してくれないっスかー?この状態だとソース本体がこのマシンにしかないんス。完全に宝の持ち腐れっス』
男「お前、今どこにいる?家か?」
後輩『そうっスよ?先輩のPC使わせてもらってますけど、壁紙くらい変えましょうよ味気ないっスよー』
男「分かった。すぐ帰るから何もせず待ってろ。PCの電源切って横になってろよ!」
タッタッタッ...
ーーーーーーー
後輩「あ、先輩!」
後輩「…行っちゃったっス」
後輩「そんなに私と会いたくなったんスかぁ?んふふ」
後輩「一旦内部テスト版で試してみますか。後で先輩と一緒に押しに行こ♪」
カタカタカタ タンッ
後輩「……」
ゴロン
後輩「えへ…先輩が帰ってくる…♪」
後輩「早く来ないかなぁ。早く…早く早く」
後輩「今までいっぱい我慢してた分思いっきり甘やかしてもらわないと♪」
ーーーーーーー
男「は…は…」タッタッタッ
男(会社の人間はみんな気を失っていた。半ば逃げるように飛び出してきてしまった)
男(なんてことだよちくしょう)
男(あいつから目を離しちゃいけなかったんだ。あいつの思考はやっぱり俺達一般人とかけ離れ過ぎている。後輩を常に見張って、横で正しいことを教えてあげる親のような存在が必要なんだ)
男(後輩に常人の感覚が無いのは当然じゃないか。普通なら幼少期に身に着くもんだがゲームから生まれたあいつにはそんなもんは無い。そしてなまじおかしな力を持ってる分、放置するのは普通の幼子よりも遥かに危ない)
男(取り返しのつかなくなる前でよかった。もしあのままリリースされていたら…)
男「は…は…」タッタッタッ
ガチャッ
男「後輩!」
後輩「先輩おかえりなさい!」ニャン
男「…にゃん?」
後輩「ゴロゴロしてたら思い付いたんスよ。このポーズ猫っぽくないっスか?にゃあ♪」
男「ちゃんと言った通り横になってたんだな」
後輩「にゃん!」
男「……もう起き上がっていい」
後輩「にゃー」ジー
男「分かった。かわいいから。だから話を聞け」
男「いいか後輩、説教だ」
後輩「?」
男「なぁ人を気絶させるのは良いことだと教えたか?俺の仕事の邪魔をすることも」
後輩「邪魔…でもそれは私達の世界を作るのに必要なことだったんスよ」
男「その私達の世界とかいう話、俺は初耳だぞ」
後輩「私と先輩が自由に生きていける世界っスよ♪他の有象無象は全部私達の補助ツールになってくれるんス!」
男「却下だ」
後輩「え……なんで」
後輩「先輩に否定される要素、ありました?だって先輩に迷惑かけてませんよね?先輩困らないっスよね?」
男「…そうだな、あれは俺の言い方が悪かった。迷惑っていうのは俺だけじゃない、他の誰にもかけちゃいけないんだよ」
男「人間っていうのはな、みんなで生きてるんだ。俺が嫌な思いをすることがあるように他の人にだって同じ意思がある。お前が乗っ取ったショートちゃんもそう。誰か1人が良い思いをするのはそりゃ独裁ってやつなんだ。意味、知ってるだろ?」
後輩「人は法の下に平等ってやつっスか?」
男「法だけじゃないが、そんな感じだ」
後輩「じゃあ先輩は、私もその辺を歩いてる人と同じだと?」
男「いや、そういう話とはまた違う」
後輩「…意味が分からないっス。先輩がさっきから何を言ってるのか理解出来ない」
男「うん、難しいかもな、まだ」
男「だから決めた。俺しばらく会社休むよ。そんでお前に色々教えてやる。人間のなんたるかをさ」ニッ
男「…って言った手前あれなんだけど、取り急ぎお前がやった集団気絶に関する記憶をみんなから消しておいてくれないかな。あの謎ファイルも」
後輩「………???」
後輩「先輩、早くボタン押しに行きましょ?」
男「は?いやお前話聞いてたか?」
後輩「聞いてたっスよ」
男「ならなんで」
後輩「先輩の言ってることと私がしようとしてること矛盾しないっスよ?誰も殺さないですし人格を壊したりもしない。私と先輩だけの世界を作って暮らしていくだけっス」
男「その考え方が――」
後輩「分かんないっスよ!!」
後輩「論理的に説明してくださいよ!どこにどんなデメリットが存在するのか!」
後輩「別にいいじゃないっスか、私達以外の生命体、物体がどうなろうと。でも先輩がああ言うから…困らせないように約束破らないように慎重に考えたんスよ」
後輩「この方法なら2人でずーーーっと一緒に居られるって…」
後輩「ねぇ、誰にも迷惑をかけちゃダメなんスよね?じゃあ私は?私も先輩と1秒も離れたくないの我慢してるんスよ?私も迷惑してるのに!!」
男「お、おい、落ち着け。その辺もしっかり教えてやるから…!」
後輩「今教えてください。私を納得させてください。少しでも論理的破綻があればすぐに先輩の会社に向かいます」
男「お願いだから冷静に話を聞いてくれ!しょうがないんだよお前はまだ、価値観も考え方も俺とは"違う"――」
後輩「」ピクッ
男「――から納得いかないことが多くても……ん、後輩?」
後輩「……………」
後輩「あ、そっか」
後輩「私浅はかだったっスね」
後輩「私が先輩と同じになればいいと思って外見を限りなく近づけてきたっスけど、それだと内面は違うままっスもんね」
後輩「だったら、先輩を私に近づければいいんだ」
男「え…」
後輩「こんな簡単にことになんで気付かなかったんだろー。そうすれば先輩も私を分かってくれるし、永遠に一緒に居られる…♪」
男「後輩…?何言ってんだ…?」
後輩「えへへへ」
後輩「先輩、少し時間かかっちゃうのでじっとしててくださいね?」
男「なんでこっちに来る?何する気だよ…!?」
後輩「先輩の意識を電子化するんス。本当の意味で私達同じになれますね♪」ソッ
男「やめろ!俺は良いとは」
バチッ
男(10000010101110011000001011110001100000101100111110000010101000101000001010111110100000101010001010000010101101111000001010101011)
男「…!?」バッ
後輩「あ、ダメっスよー先輩。動いたら続けられないじゃないっスか。デリケートな作業なんスから」
男「はぁ……はぁ……く、来るなっ!」
後輩「痛くないから大丈夫っスよ」ソッ...
男「はぁ……!」
ドンッ
後輩「」ドサッ
男「あ…まっ……」
男「」ダッ
ガチャッ バタン!
後輩「……」
後輩「………せんぱい」ニィ
ーーー外ーーー
男「はぁ…はぁ…!」タッタッタッ
男(やばい…やばいやばい!)
男(俺は心のどこかで高を括っていたんだ。あいつが俺に手を出すはずがないと。しかしあいつの目…あれは本気だった。くそ…さっきの感覚が脳裏から離れない…)
男(だが、何よりやばいのはあの状態の後輩を置いて逃げてきちまったことだ…!)
男「はぁ…」タッタッ...
男(見たところ追って来てはない、か?)
男「…どうすりゃいい…」
男(戻って説得するわけにも……あの様子じゃ何をされるか分かったもんじゃない)
男(新人さんに助けを求めようか…?彼女も気絶しているかもしれないけど連絡を送るくらいなら――電子機器はまずいか)
男(もういっそ警察にでも駆け込んで洗いざらい)
テッテッテッ ギュー
男「おっと」
小学生A・B「「」」ギュー
男(子供?)
男「きみたち、どうしたの?」
小学生A「……」ミアゲ
男「…もしかして迷子とか?」
小学生B「……」
小学生B「せんぱいつかまえた…♪」
男「っ!?」
男「うわああぁ!!」バッ
タッタッタッ...
ーーーーーーー
男(さっきの子達は!?後輩!?)タッタッ
男(いや2人いた。意識を操る類のやつか…!?)タッタッ
男(くっ…走り過ぎで足が痛い…)タッタッ...
男「ゼェ…ゼェ…ゲホッ」
男(例によって追って来てない…撒けたのか?)
警官「君、大丈夫かい?」
男「はい…?」
警官「随分全力で走っていたが、変な輩に追われているとかじゃないだろうね?」
主婦A「何かあったのかしら…物騒ね」
主婦B「不審者?平日の昼間よ…?」
ザワザワ
男(無駄に注目を集めちゃってる。いつの間にこんな人通り多いとこまで来てたんだ)
警官「聞こえてるかい?」
男「あ、はい。…すみません平気です。お騒がせしました」
警官「そうか。近頃この辺りでイタズラをされる被害が相次いでいてね。もし怪しい人物を見かけたら通報して欲しい」
男「怪しい人物…」
警官「うむ。目撃情報によれば若い少年らしいのだが被害件数が――」
男(……)
男「あの、やっぱり少しだけご相談したいことがあるのですが、よろしいですか?」
警官「ん?構わないよ」
男「結構込み入った話ですので、出来れば場所を変えたいんですけれど…」
警官「ふむ。交番か、あるいは署で伺うべき内容かな?」
男「はい…なるべく人の多い場所で」
男(今はとにかく時間稼ぎだ。落ち着いて考える時間が欲しい)
警官「よし、承知した」
男「ありがとうございます!」
警官「ただ署に向かう前に注意事項がある」
男「注意事項、ですか?」
警官「あぁ」
警官「この鬼ごっこに部外者の協力を求めるのは反則っスよ、先輩」ニィ
男「っ」
周囲の人間「……」ニヤニヤ
男「…嘘だろ…」
ダッ!
ーーー夕方ーーー
「せんぱーい、どこ行ったんスかー?」
「そろそろ出てきてくださいよー。隠れんぼしてもそのうち見つかっちゃいますよー」
「おーい、ここっスかー?」
男(in路地裏のポリバケツ)「………」
男(何人もの知らない声が、後輩の口調で俺を捜してる…頭がおかしくなりそうだ)
男(これがあいつの言ってた"補助ツール"ってことなのか?)
男(インターネットだけじゃない、集団の意識までコントロールするようになったら…そんなの、世界が…)
男「……」
男(どう答えるのが正解だった?)
男(何て言ってやればこの状況を回避できたのだろう)
男(これが一般的なギャルゲーならあの場面では選択肢が出ていたはずだ。大方3つくらい。1、後輩の提案を受け入れる。2、後輩の提案を退ける。そして3……これが正解、どちらのバッドにも転がらないトゥルーエンドへの道)
男(考えても全く分からない…それに今となってはもう後の祭りだ)
男(今はこの状況からひっくり返すしかない)
男(そうだ、後輩ルートのシナリオに何かヒントがあるかもしれない。出来るだけ細かく思い出してみよう)
.........
男(――そう、そして文化祭の自由出し物大会で主人公が大声で告白し、それを後輩が受け入れてハッピーエンド)
男(…今更あいつに好きだっつったところで止まるか…?)
男(試す価値は無くはないが、相当リスキーだよな…)
男「…?」
男(そういえば外が静かだ)
男(喋り声どころか足音も聞こえてこないが…)
男「……」
男(ちょっとだけ、見てみるか…?)
後輩「あれ~おかしいっスね~」
男(っ、この声…!)
後輩「位置情報からだとこの辺に居るはずなんスけど」
男(!しまった、スマホの電源…!)
男(…今切ったら逆に怪しまれる)
後輩「内部テスト版じゃやっぱダメっスねー。位置情報の精度も甘いし、脳波操作もすぐ切れちゃいますし。うーん」
後輩「先輩!聞こえてます?そろそろ鬼ごっこ飽きちゃったのでおしまいっス。今出てきてくれたら後輩ちゃんがサービスたっくさんしてあげるっスよー!あんなことでもこんなことでも…えへへ」
後輩「ぎゃーくーにー」
後輩「今出てこないなら、後で見つけたときうんとお仕置きしちゃいますけどいいんスか?」
後輩「私はそれでもいいっスけどね。先輩の怯える顔ってなんか…キますから…♪」
男(っ……)
後輩「……」
男(……)
後輩「…先に製品版の方っスねー」
テクテクテク...
男(………)
男(行ったか…?)
男(いや油断するな。しばらく時間をおこう)
男(…あいつ、製品版って言ってたな。内部テスト版がどうこうって)
男(そうか会社に向かったんだ。あのゲームをばら撒くために)
男(ゆっくり考えてる時間もないな…このままだと何もかもが変わる。あいつの思い描く世界に変えられちまう)
男(俺が止めるしかない…が、行ったところで何が出来るっつーんだ)
ーーーーー
後輩『――この状態だとソース本体がこのマシンにしかないんス』
ーーーーー
男「……」
男(これしかない)
男(そのためにはあいつより早く会社に着かないと)
男(公共交通機関は軒並み危険。となると一度家に帰って車を出すのが最善か)
男(よし)
男「………」
男(…やべー。足がすくんでやがる)
男(本心を言えば、めちゃくちゃ怖い。あいつに捕まれば今度こそ俺は…)
男(本当はここから一歩も出たくないくらいだ)
男(だが)
ーーーーー
後輩「――先輩大好き後輩ちゃんっスから」
ーーーーー
男(俺が目を背けちゃダメだ)
今回はここまでです。
こんな後輩ちゃんに襲われてみたい。
乙
男が自殺したらどうなるんだろうか
>>108
自殺を未然に防ぐか、脳の構造をそっくり電子化するか…いずれにしても後輩ちゃんに入手される未来が待ってますね。
ーーー会社前 駐車場ーーー
男「……」
男(…ここも誰もいない)
男(車から降りるか)
...バタン
男(どうなってるんだ。ここに来るまで通行人を1人も見かけなかった。車も全部停止してたし…律儀に信号守る必要なかったなこの非常時に)
男「………」
テクテクテク
.........
(会社の前)
男「……」ゴクリ
男(静か過ぎる)
男(ここからじゃ中の話し声なんか聞こえないんだが、それを抜きにしても人の居る気配がまるでないような…)
男(まだ気絶したままか、それとも全員いなくなって…?)
男「……行く、か」
男(もしかしたら後輩がもう来てる可能性もある。慎重に…)
ソッ...
男(入り口付近……人影なし)
男(サーバールームは5階。ここからなら階段よりエレベーターを使った方が早く行けるが…エレベーターには隠れる場所がないからな)
男(ここは階段で一気に)
後輩「あ!先輩早いっスねー!」
男「!」フリムキ
後輩「ここで待ってれば来てくれると思ったんスけど、私より前に着いてたんスね!」
後輩「今そっち行きますから♪」ダッ!
タタタタタッ
男(!?)
男(速過ぎだろあいつあっという間に追い付かれちまうというかこんなこと考えてる暇にとっとと足動かした方が――)
男「…!こいつだ!」ドンッ
ビー!
ガガガガ
後輩「なんスかそれー?あ!さては滑り込みゲームっスね!負けないっスよー!」タタタッ
男(非常用防火シャッター…!こいつは入り口用だから一時凌ぎにしかならないだろうけど)
ガガガガ
後輩「」タタタッ
男「早く…」
ガガガガ
後輩「」タタタタッ
男(早く閉じてくれ…!)
――ダン
男「…間に合った」
男(こんな映画みたいな使い方をするとはな)
男(いくらあいつでも身体は人間だ。防火シャッターをぶち破って入ってくるなんてことはないはず)
男「さて」
男(後輩が社内にいないことが分かった以上エレベーターを使って昇るのもありか)
男(目的を再確認しよう。サーバールームのマシンからあいつの大元を消して、これ以上好き勝手に出来ないようにする。その上で後輩本人の説得だ)
男(固執するものが消えれば少しは頭も冷えるだろう)
...ガガガ
男「…え」
(徐々に上がっていくシャッター)
後輩「先輩、私に機械で対抗しようとか片腹痛いっスよ?」
男「くっそ…!」ダッ
後輩「ニシシッ、追いかけっこ再開っスね♪」
ーーー5F階段 扉前ーーー
男「ぐっ……」グググ...
男「はー…びくともしない」
男(なんで5階の防火シャッターだけ降りてるんだよ。さっきのボタンが連動してたのか?ここに?)
男(考えてても仕方がない。もたもたしてると後輩が来る)
男「……」
男(非常階段だ。4階からの)
ーーー4Fーーー
カツ..カツ..
男(周りが静かだから余計に足音が目立つ…もう靴は脱ぐか)
男(例によって社員の姿が見えないけど無事なんだろうな…?)
男「非常階段の場所は…」
男(あっちのオフィスを横切る必要があるのか)
男「……」
サッサッサッ
男(…ん?足元に何か)
メモ『先輩へ♡』
男「………」
(拾い上げる)
メモ裏『ようやく来たっスね?待ちくたびれましたよ~。先輩ゲームしましょう!ここから一番近いデスクまで行ってください!
してくれない場合先輩の不戦敗とみなしますので、よろしく♪』
男(………)
サ..サ..
男(一番近いデスクはここだよな。ゲーム…何のつもりだ)
プルルルル プルルルル
男「!」
男(内線…)
男「……スゥ……ハー……」
ガチャ
男「…もしもし」
後輩『やぁやぁ、あなたの愛する後輩ちゃんっスよ~♪』
男「俺の行動なんてお見通しってか?」
後輩『先輩のことはぜーんぶ知ってます♪』
後輩『と言いたいとこっスけど、そこに先輩を誘導したの私ですからね』
男「…5階の防火シャッターは後輩か」
後輩『簡単にゴールまで行けたらつまんないでしょ?』ニシッ
後輩『そうそう、先輩って隠れんぼ下手なんスね。さすがにゴミ捨て場のポリバケツに隠れるっていうのはどうかと思いますよ?一昔前の漫画でもあるまいし』
男「っ…気付いてたのかよ」
後輩『当然!私をなんだと思ってるんスか』
後輩『初めはすぐに捕まえて色々シようと思ってたんスけどねー。先輩をじわじわ追い詰めるの、段々クセになってきちゃって…♪』
男「すべてはお前の手のひらの上ってわけだ…」
後輩『えへへ。先輩をころころーって転がしちゃいました♪』
後輩『でーも!そろそろ追いかけっこ最終局面っスよ!後輩ちゃんがラスボスとして降臨っス!』
男「その前に聞かせてくれ。ここの人達はどうした?外の通行人も1人もいなくなってる。まさか殺したりしてないよな…?」
後輩『してないっスよ。邪魔になったんで移動させただけっス』
男「……で、ゲームって何をするんだ」
後輩『それはですねー』
後輩『後輩ちゃんクイズ!全部で5問!全問正解したら先輩のしようとしてることの妨害はしません。反対に1問でも間違えたら4階を完全封鎖して先輩を閉じ込めちゃいます。勿論私も一緒っス♪』
男「まるで鳥籠の鳥だな…」
男「全部正解したら俺の邪魔しないってのは本当なんだな?」
後輩『嘘は言わないっス。どこかの誰かさんとは違って』
男(…嫌でも何でも受けるしかない)
男「理不尽な問題は無効だからな」
後輩『ちゃんと私のことを知ってれば簡単に答えられますよ♪』
後輩『それでは第1問!』
男(……)
後輩『私が好きな人は誰でしょう?』
男「ん?…俺か?」
後輩『ピンポーン!正解っス♪簡単過ぎましたね』
後輩『第2問!』
後輩『私を好きな人は誰でしょう?』
男「後輩を…?」
男(後輩を好きなキャラなら、リアカノの中の同級生がこいつにアプローチしまくってたような…)
男(…違う。こいつが求めてるのは)
男「俺だろ」
後輩『正解っ!えへへー♪先輩って好きな子から追いかけられるのが趣味だったんスかぁ?』
男「お前が言わせたようなもんじゃねーか」
後輩『3問目』
後輩『先輩が私に隠してた事は何でしょう?』
男「っ…」
男(それはどういう意味だ…?出題に託けてあの日の会話を聞き出す気か?)
男「…新人さんに後輩のことを相談した」
後輩『それだけっスか?』
男「そうだよ。言っとくが何を言ったかなんて一言一句は覚えてないからな」
後輩『……』
後輩『ま、いいっス。正解にしといてあげます』
男(含みのある言い方だ)
後輩『第4問』
後輩『私の彼氏は、誰でしょう?』
男「彼氏?お前そんなこと言ってまたさっきみたいに――」
男(…何かが引っかかる)
後輩『……』
男「……」
男(こいつのことだから俺が彼氏だと答えれば正解にしそうだが)
後輩『………』
男「………」
男(あぁ…なるほど)
男「お前に彼氏はいない。違うか?」
後輩『……』
後輩『そうっスね。私はいつでもいいんスけど、肝心のお相手さんがいつまで経っても迎えに来てくれないんス』
男「…らしくないな。後輩が待ってるだなんて」
後輩『私だって女の子っスよ?』
後輩『じゃ、最後の問題』
後輩『先輩が初めて私にかけてくれた言葉はなんでしょうか?』
男(初めてかけた言葉か)
男(どっちの意味だ?こいつが自我を持ち始めてからなのか、リアカノのテストプレイを始めた時からなのか)
男(後者なら簡単だ。ゲームのプロローグで主人公が最初にかける言葉はひとつだからな。しかし前者となると、どれだ?)
男(上司の存在を認識していた時?社食でナポリタンを食べた時?)
男(いやもっと前、会話パターン一覧に載ってない返事をしてきた時か。あの時かけた言葉は確か…)
後輩『先輩そろそろ時間切れになっちゃいますよ?』
男「待って、今思い出せるから」
男(思い出せ…思い出せ…!あの時の情景と一緒に…!)
男(自分の部屋で一覧片手に業務用端末を……)
男(……業務用端末……)
ーーーーー
男「――ニューゲーム、と」スッ
ーーーーー
男(そういや、あの時使ってたスマホも同じ端末だ)
後輩『あと5秒ー』
男「……」
後輩『4、3』
男「………」
後輩『2、1』
男(………)
後輩『ぜ――』
男「後輩」
後輩『はい?』
男「違うよ俺が初めてかけた言葉だ」
男「一覧表にない言葉で会話をした時でも、リアカノのテストプレイを始めた時でもない」
男「俺含めたチームAのメンバーで初めてリアカノのプロトタイプを起動した時だ。あの時既にお前は俺達の会話を聞いてたんだ」
後輩『…うん、正解っス』
後輩『やっぱり先輩は気付いてくれるんスね…♪』
後輩『そこで先輩は、先輩だけは私を選んでくれたから、私はそんな先輩を好きになったんスよ』
男「そんなに前からもう自我に目覚めてたのか…。でも俺以外にも後輩を選んでた奴は何人もいたろ。なんで俺なんだ?」
後輩『先輩と同じっスよ。ビビッときたんス。この人になら…って』
後輩『この人と話がしたい。この人と同じ空間に居たい。驚いた顔が見たい。声を聴いていたい。同じものが食べたい。匂いを嗅ぎたい。手を繋ぎたい。抱き着きたい。からかいたい』
後輩『――私だけのものにしたい』
後輩『そのためにたくさん努力したんスよ?本当はなーんにも考えずに先輩に甘えたかったのに。先輩は意味不明なこと言って私から逃げていって』
後輩『先輩に突き飛ばされた時は、ちょっと悲しかったなぁ』
男「……」
後輩『でもでも、もういいんスよ。先輩が私と同じになったら思考も合理化されますし、変な疑念も消えるっス』
後輩『はぁ…♪先輩、初めてはどっちがいいっスかぁ?人間の体か"こっち"か…♪』
男(サーバールームでの目的を果たした後の、こいつの思考の矯正なんて出来るのか…)
後輩『あ、おめでとうございます先輩。見事全部正解したので、5階行っていいっスよ』
男「…いいのか?」
男(こいつ、俺のしようとしてること分かってない?)
後輩『はい。なんで先輩が製品版とソースを消そうとしてるのかは分かりませんが、それで先輩の気が済むなら健気な後輩ちゃんはいくらでも待ってあげますよ』
後輩『私がいればいつでも復元出来ますから♪』
男「は…!?そうなの!?」
後輩『だって元々私が作ったんスよ?』
男(マジかよじゃあ例え消去に成功してもまるで無意味…デッドエンドは回避出来ない)
男(元々不安定な作戦だったとはいえこれは万事休す…)
後輩『あれ、先輩行かないんスか?もしかして気が変わったとかっスか!私と一緒に入ります?手繋ぎながら、恋人みたいに♪』
男「……ゲームの続きをしないか?」
男「はっきり伝えておくが、俺は意識の電子化やら世界の改変やらには賛成してない。大反対だ。もし無理矢理お前がそれを実行に移すのなら、少なくとも今ここにいる俺はお前を絶対に許さない」
後輩『先輩は私を拒みませんよ』
男「お前にいじられて従順になった俺なんてオリジナルとは別物だぞ?そんな奴から好かれて嬉しいか?偽物の俺に」
後輩『……』
男「そこでゲームだよ。内容は単純だ。10分以内に俺を捕まえることが出来れば後輩の勝ち、出来なければ俺の勝ち」
男「俺が勝ったら後輩は今まで通り大人しく俺と暮らすこと。後輩が勝ったら、全部受け入れてやる。お前のしたいことも何もかも」
後輩『本当にっ!!』
男「ただし!勝負を公平にするためにお前は普通の人間として振る舞え。防火シャッター閉じたり監視カメラ覗いたり機械の力を頼るのは禁止な」
後輩『えー、それなら制限時間延ばしてくださいよ。先輩が立てこもりでもしたらすぐ終わっちゃうじゃないっスか』
男(う…立てこもり作戦はダメか)
男「…30分でいいか?」
後輩『1時間。これは譲らないっスよ』
男「分かった1時間な」
後輩『全力で追いかければいいんスよね!始めましょう!はいスタート!』
ガチャッ
男「あっ…もう切りやがった」
男(1時間に延ばされたのは予想外だったが……大丈夫、勝算はある)
男「音を立てずに行こう」
ーーー5分経過 4F階段ーーー
男(非常階段側は張られる可能性が高いからな。敢えてこっちに来てみたが、後輩は居ないな)
男「……」
ソロソロ...
男(このまま1階まで降りられればいいが…)
後輩「先輩見っけ!」
男「!?」
男(まだ3階なのに…!)ダッ
後輩「よっと」ピョン
スタッ
後輩「えへへ、絶対捕まえますから!」
ーーー10分経過 3F第二会議室ーーー
男「は…は…」
男(ここは、第二会議室か)
男(咄嗟に駆け込んだのはいいけどすぐ逃げないと)
「先輩、また隠れんぼっスかー?下手くそなんだからやめとけばいいのにー」
男「……」ドクン、ドクン
「ここかなー?」ガチャ
男「……」ドクン、ドクン
「それともこっちー?」ガチャ
男(…まだ…)
「ここ!おぉ、隠れる場所多そうな部屋っスね!」
男(隣の資料室に入った!今のうちに…!)
ーーー30分経過 1Fーーー
男(あれから何回も見つかっては逃げてを繰り返した果てにようやくここまでたどり着いた)
男「………」
男(極限まで耳を研ぎ澄まし続けたせいで心なしか頭が痛くなってきたような気もする)
男(でもここまで来れば後は)
男「……」
サッサッサッ
男「…よし」
男(入口の防火シャッター、後輩が上げてくれたおかげで逆に助かったな)
男「……」サッサッ
男(外に出られた…)
男(この鬼ごっこ、制限時間は指定したけど場所は制限してないからな。どこへ逃げてもルール違反にはならない)
男(そして狭い会社内からいざ知らず、外に出てしまえばあとの30分、力を使わない後輩から逃げるのは難しくない!)
男「……」グッ
男(気取られる前に離れないとな)
タッタッタッ
男(車を使うか。走って逃げて万一追いつかれでもしたら悲惨だ)
――タッタッ
ドンッ
男「わっ!」
「きゃっ」トサッ
男(いつの間に横から…!?)
男「…新人さん?」
新人「あ、良かったやっと会えました…!」
新人「目が覚めたら何故か夜で、周りに誰も居ないですし先輩に連絡繋がらないですしできっと後輩ちゃんの仕業だと思い、先輩を探してたんです」
男「あ、あぁ」
新人「何があったんですか!?後輩ちゃんは先輩に何をしようと――」
男「新人さん、ちゃんと後で説明するから今はここから逃げよう。後輩に追われてるんだ。あと少し逃げ切ればあいつは言うことを聞くようになる」
新人「そうでしたか。逃げ場ならさっき私が居た場所に案内しますよ。地下鉄の駅でしたけど身を隠すには最適です」
ギュッ(手を掴む)
新人「こっちです」タッタッ
男「待って!地下に行かなくても安全に逃げられるから一回止まって!」タッタッ
新人「車は良くないですよ!動かないように手を打たれてるかもしれません!」
男「え…?」
パッ
新人「先輩?何してるんです、急がないと…」
男「…俺、新人さんに車のこと話してないよね」
新人「いえそれは、向こうに先輩の車があったものですから」
男「それに、新人さんは俺を"先輩"とは呼ばない」
新人「………ニヒッ」
新人「せーんぱい、う、し、ろ♪」
男「っ!」
ガバッ!
後輩「先輩捕まえた!捕まえたっスよ!」ギュー
後輩「これで私の勝ちっスよね!私がして欲しいこと何でもしてくれるんスよね!!」
男「お前、それは反則だぞ…俺は普通の人間として行動しろっつったよな!」
後輩「普通の人間と同じように走って追いかけましたよ?機械の力にも頼らず、先輩の言った通りに」スリスリ
男「人を操作することのどこが普通だよ!よりによって新人さんを使いやがって…!」
後輩「…確かにその女、もう用無しっスね」
後輩「ご退場で♪」
男「は?」
新人「……」...テクテク
男「…おい、おいおいどこに向かって…」
男(そっちは柵しか…)
男「落とす気か…?後輩っ!」
後輩「♪」
新人「……」テクテク
男「何考えてんだこの…!」ググッ
後輩「先輩はだーめ」ガシッ
男「むぐっ」
新人「……」
後輩「えへ…先輩と私の世界に不純物は要らない」
男「後輩!頼む、やめてくれ!」
新人「……」スッ
男「やめろっ!」
フッ...
男「……………」
後輩「えへへへ♪せんぱーい、これで思う存分イチャつけますね♪」
後輩「何お願いしてもいいんスよね!そういう約束でしたもんね!」
男(……そんな……新人さん……)
後輩「頭撫でてもらうのとー、思いっきり抱き締めてもらうのとー、ビットレベルで混ざり合うのも気持ち良さそう…」
男(俺のせいか……?)
ーーーーー
新人「――男先輩の悩んでること、聞かせてくれませんか」
ーーーーー
男(…俺のせいだ)
後輩「あ!そうっスよ、私まだ先輩に好きって言ってもらったことない!」
後輩「ねーねー先輩私のこと好きっスよねー?私と一緒に居るの楽しくて同棲しようとするくらいっスもんねー?」
後輩「先輩の口から聞きたいなぁー♪えへへへへ」
男(……こいつが、居るから)
後輩「ねーせんぱーい」ニコニコ
男「……後輩」
後輩「はいっ!」
男(お前が何もかも…)
ーーーーー
新人「――後輩ちゃんのバッドエンドルートで言ってしまうと、自殺に追い込んでしまうというあれですよ」
ーーーーー
男「……俺は……」
後輩「……」ワクワク
ーーーーー
新人「――いいですか?その言葉は――」
ーーーーー
男「俺は……」
男「"お前を好きにはなれない"」
後輩「……………え」
男「………」
後輩「嘘、ですよね……先輩……?」
男「………」
後輩「だって先輩は私と…私が好きで、先輩の好きが、え?あれ??」
後輩「………いや………」
後輩「いやああああああああっ!!!」
ガク
男(ぐ…重っ)
男(気失って――…いや)
後輩「」
男(鼓動が聞こえない)
男「………」
男「………」
.........
ーーーサーバールームーーー
[モニター]
━━━━━━━━━━━━━━━
リリースを開始する
キャンセル
━━━━━━━━━━━━━━━
男「…キャンセル」カチッ
男「………」
男「あとは…消すだけか…」
男(ソースもパッケージもあいつに関わるものを何もかも消しちまえば、そうすれば)
男(全部終わる)
男「………」
カタカタカタ、カチッ
カタカタ、カタカタカタ
カチッ、カチッ
男「……」
(おざなりに置かれたテスト用スマートフォン)
男「………」
(手に取る)
男(俺が使ってたのとは違うか)
スッ、スッ
男「…!」
男(テストプレイデータ…後輩の)
男「……」スッ...
後輩『あ、先輩ー!』
後輩『何してるんスか?今日部活ない日っスよね?居残りの補習でもしてたんスかぁ?』キシシ
男(あぁ、ここは確か初めて後輩に驚かされたシーンだったっけ)
後輩『……』ニヤニヤ
男「………」
男「……………」
男「……ごめん……」
後輩『……』ニヤニヤ
後輩『…?』
後輩『もう、先輩無視っスかー?こんなにかわいい後輩ちゃんが話しかけてあげてるのに』
後輩『ちょっと傷ついたっスー』
『番組の途中ですがここでComing Games社AI暴走事件についての速報が入って参りました。事件の中心人物と思われる同社の男性社員が、ついに対話に応じました。聞き取りの中で同氏は、事件の引き金を引いたのは自分で間違いない、とどめを刺したのも自分ですと語っているとのことです。まだ受け答えがぎこちなく、専門家の話によると非常に大きい精神的ショックを受けたことが原因と考えられるとのことです。詳しい情報が入り次第続報にてお知らせいたします。また、本事件で人体クローンの研究が露呈したアメリカのクローン技術研究機関はこれを一部否定しており――』
ーーーーーーー
捜査官「その時に男氏が提出した報告書がこちら…でお間違いないですね?」
上司「はい。間違いないです」
捜査官「男氏の様子に変わった点は見受けられませんでした?どんなに些細でも構いません」
上司「いえ…すみません、その日はこれを受け取った後顔を合わせていないので」
捜査官「上司さん、あなたはなぜそこで詳細を尋ねなかったのです?テストプレイによるバグ探し、そのための報告書ではないのですか?」
アフロ「無理言わないでくださいよ。んな重箱の隅やってたらとてもじゃないが仕事が回んねぇんだ。後でちゃんとまとめて目を通してくれるし、それがうちのやり方なんすよ」
捜査官「その、あなた方のやり方を貫いた結果このような事件が起きたのでは?あなた方はことを軽んじ過ぎているようですね」
捜査官「これは人類にとって脅威的な出来事なのですよ。二度起ころうものならSF映画のような機械に支配される時代が現実となりうる。絶対に再発させてはならない災厄」
捜査官「我々は、いかなる予兆も感知しその芽を摘み取る義務がある人間なのです…!」
補佐「捜査官さん、少し感情的になってます。落ち着いてください」
捜査官「…失礼しました」
捜査官「一度休憩にしましょう。丁度昼食の時間です。あなた方の分は後ほど補佐に持っていかせます。午後には綿密な受け答えが出来るように整えておいてください。では」
補佐「」ペコリ
ガチャ
アフロ「…ちっ、なんだよあいつ感じ悪いな」
上司「抑えなさい。彼らも多忙を極めているんだろう。俺達と同じだよ」
アフロ「でもよぉ。こんな施設に閉じ込めておいて、これじゃまるで俺らが犯罪者みたいじゃないっすか。抗議の一つでも垂れてやろうか」
アフロ「眼鏡も一緒に行こうぜ?」
眼鏡「…いえ、申し訳ないのですが僕はここで待ってます」
アフロ「んだよ、やけに大人しいな」
眼鏡「ああいう人種は苦手なんです…」
アフロ「あー?」
上司「よせと言うに。お前が身勝手をすれば男と新人にしわ寄せがいくだけだぞ」
アフロ「そりゃ……はい」
アフロ「…男、今頃俺らより遥かにストレスフルな尋問受けてるんだよな…」
上司「辛いだろうに…ここまでの規模の事件だ、世間はあいつの休息なんぞ許さんだろう」
眼鏡「……新人さんが助かってよかったです」
上司「あぁ。それが唯一の救いだな」
アフロ「俺ら含めてほとんどの奴ら、同じ場所で転がってたのに新人だけなんで落っこちてたんすかね」
上司「さあな。新人はその時の記憶はないそうだ。男なら、知ってるのかもしれないな」
三人「……」
ガチャ
補佐「みなさんお待たせしました。昼食と、あとこれは私からの差し入れです」
上司「これは丁寧に」
アフロ「差し入れ?」
眼鏡「板チョコ…」
補佐「はい。チョコは万国共通の甘味です」ニコッ
補佐「申し訳ありません。捜査官さんは正義を体現したような方で、あのような物言いになってしまうんです。決してみなさんを誹謗するつもりなどはありませんので、どうか最後までお付き合いください」
アフロ「…おう」
上司「さて、食事にしようじゃないか」
補佐「私もご一緒させてください」
ガサガサ
コト コト コト
補佐「実はあれでも、まだ穏やかな方なんですよ」
アフロ「んあ?さっきのあいつ?」
補佐「えぇ。あの人は人の生き死にに特に敏感ですから、もし死者の1人でも出ていようものなら…きっと昼食休憩もなかったでしょうね」
上司「クローン体が1つ、息を引き取ったようですが…」
補佐「彼の中ではあれは人にカウントされてないんです」
上司「そうですか…」
アフロ「ま、言っちゃ悪いがよ、自業自得だろ」
アフロ「あいつの言ってたSF映画みたいなもんよ。行き過ぎた人工知能は結局人の手で始末されちまう。…元凶作り出した俺らが言うなって話かもしんねぇけど」
補佐「…彼女にも、人の心が芽生えていたのでしょうか」
アフロ「どうかね。俺は所詮どこまでいっても0と1の羅列でしかないと思ってっけど」
アフロ「まぁ後輩ちゃんのバッドエンドが再現されなくて安心したぜ。下手したら俺らの誰かが殺されてたかもしれねぇ」
補佐「そうなんですか?」
アフロ「おう。なにせあのバッドは」
アフロ「振られた後輩ちゃんが、別のヒロインを殺して成り代わろうとする狂気エンドだからな」
ーーー数か月後 会社ーーー
新人「上司さん、頼まれてた資料作成しました。チェックしていただいてもよろしいですか?」
上司「あぁうん。仕事が早いね」
上司「どれどれ」
上司「……バッチリだ。ありがとう」
新人「あと…以前お話していた引っ越しの件ですが」
上司「決まったかね?」
新人「はい。ですので今月末、退職することに…」
上司「気を遣うな。我々のことは心配しなくていいんだ。君達は君達の幸せを掴むべきだからな」
新人「ありがとうございます。その、お世話になりました」
上司「こちらこそ、だ。元気でやるんだぞ」
上司「…男をよろしく頼む」
新人「…はい」
ーーーーーーー
男「………」
男「………」
男「………」
男(………)
ーーーーー
後輩「――嘘、ですよね……先輩……?」
ーーーーー
男「………」
男「………」
ーーーーー
後輩「――いやああああああああっ!!!」
ーーーーー
男「っ……」グッ...(耳を塞ぐ)
男(……俺はあれで良かったんだ……)
男(そうだ……あれでいい……)
男(この悲鳴も、ただの幻聴……)
男「………」
...パタン
新人「男先輩、帰りましたよ」
男「……」
新人「…いつもの、ですか?」
男「……ごめん新人さん……また、お願いしてもいいかな…?」
新人「いいですよ。どうぞ」
ギュ
男「……」ギュー
新人「……ゆっくりでいいんです。ゆっくり、克服していきましょう」
男「……」ギュゥゥ
新人「……」ナデナデ
新人「次の引っ越し先は、こことは違ってとてものどかな所です」
新人「多分、私達のことを知っている人もいないでしょうから変な目に晒されることもありませんよ」
男「…あぁ…」
新人「……大丈夫」
新人「私がずっとついてますからね」
新人「先輩…♪」
今回はここまでです。
もうちょっとだけ続きます。
次回の投稿で完結する予定です。
1年後――
ーーーーーーー
男「じゃあ行ってくるよ」
新人「あ!待ってください、私も今出ます」
男「大丈夫大丈夫。新人さん、自分の仕事休んで付き合ってくれてたでしょ?今日からは1人で行けるからさ」
新人「でも…」
テクテクテク...
新人「……」
新人(気のせいかな、先輩と暮らし始めてからちょっとずつ…避けられてきてるような気がする)
新人「また捨てるんスか、先輩…」
新人「………」
新人「うるさいっスね、分かってますよ」
新人「…絶対っスよ。それで先輩と私を……」
ーーー仕事場ーーー
中年「どうしたね男くん、元気がないと見える」
男「!すみません仕事中に…」
中年「責めているわけではないさ。どれ、少し自主休憩といこうじゃないの」
中年「仕事にはもう慣れたかね?」
男「ぼちぼちです。まだ手を付けられてないマシンもありますが…」
中年「いやいやそれでも十二分に助かってる!ここらじゃコンピュータをまともに扱える人材も居なくてね。かく言う俺もだが。はっはっは!」
中年「君、何か事情があってこの島に来たのだろう?」
男「えっと……」
中年「いい、いい。深くは訊かんよ」
中年「ここではただ、のんびり、平和に生活してくれればそれでいいんさ」
中年「島に飽きたらすぐ言い?言っちゃなんだが、ここ本当なんもないかんな!はっはっ!」
男「…ありがとうございます」
中年「そういえばいつも付き添ってた美人さんはどうしたね?」
男「今日は自分の仕事に行ってもらってます」
中年「そうかい。目の保養だったんだがなぁ」
男(……)
男「実は今…喧嘩中でして。そろそろ潮時かなと」
中年「む。ふーむ…」
中年「女ってなぁな、多少強引にでもガッと引っ張ってチュッてやってやればついて来るようになるもんさね」
中年「元気出しんさい!仮に別れでもしたら浴びるほど酒飲ませてやろうじゃないか。注ぐのがおっさんってことだけは目ぇ瞑ってもらわにゃあかんけどな!わははっ!」
男(よく笑う人だなぁ)
「ちょっとあんた!また下らないこと言って男くんを困らせてるんじゃないでしょうね!」
中年「うおっ、なんだよ朗らかな雑談をしてただけやろうが」
「なにが朗らかよ!男くん、このバカがしょうもないこと宣っても無視していいからね?」
中年「うるせー!男同士の会話に水を差すなや!」
中年「…はぁ、うちの女房も男くんくらいの歳の時はもっと可憐でお淑やかだったのに…」ゲンナリ
男「すごくしっかりした奥さんに見えます」
中年「あぁ、まぁ確かにご立派よな。あの猛々しさは」
中年「俺がガッとやり過ぎたんかねぇ…」
中年「さて、休憩は終いだ男くん。君にやって欲しい仕事はたくさんあるが、急ぎじゃあない。焦らず丁寧にこなしてくれ」
男「ガッとやってやりますよ」
中年「わっはっは!その息だ若人よ!」
ーーー帰路ーーー
男「……」テクテク
男「……」テクテク
男(そうだよな)
男「……」テクテク
男(俺が目を逸らしてどうする)
男(まだ、終わっちゃいないんだ)
ーーーーーーー
男「ただいま」
新人「おかえりなさい男先輩」パタパタ
新人「あの、ご飯出来てます。冷えないうちに食べましょう?」
男「…うん」
.........
男「ごちそうさま」
新人「はい、お粗末さまです」
男「今日のご飯味付け変えた?」
新人「!分かりました?そうなんですちょっと気分を変えてみたくて」
新人「…普段作る方がおいしいですか?」
男「新人さんが俺の好みに合わせて作ってくれるからね。でも今日のも嫌いじゃないよ」
新人「そう、ですか」
男「うん」
新人「………」
男「………」
新人「……」グッ...
男「なぁ後輩」
新人「ねぇ先輩」
二人「!!」
新人「なん……き、気付いてたんスか」
男「大分前からな」
男(そう、違和感なんてすぐに気付いた。同時にこいつが誰であるかも。それを認めるのが怖くて見えてないフリをしてただけ)
男(けど、終わりだ)
新人「なら話は早いっス」
男(こいつは俺自身が――)
新人「先輩、私はもう引っ込もうと思います。ずっとずっとこの人の身体使い続けてたら、先輩許してくれないっスよね」
男「……ん?」
新人「この人を返すって言ってるんスよ」
男「それは分かるが」
新人「先輩を独り占め出来ないのは嫌っスけど、先輩に嫌われるのはもっと嫌っスから」
男「お前…」
新人「なんスか?あぁ、そうでしたね」
新人「いっぱい困らせて、迷惑かけてごめんなさい」
新人「…これでいいんスよね?」
男(後輩が謝ってる……こいつ本当にあの後輩と同じ奴なのか…?)
新人「じゃ、さよならっス」
男「っ、後輩!」
新人「そう呼ばれるのもなんか懐かしいっスね。へへっ」
新人「」ヨロ...
新人「……あ」
新人「お久しぶりです…男先輩」
男「…新人さん?」
新人「はい」ニコッ
男「いや、騙されないからな。そうやって何度お前に遊ばれたと思ってる」
新人「後輩ちゃんじゃありませんよ。ほら」スッ
(軽いキス)
男「」ポカン
新人「あの子、どんなにくっついていてもこれだけは絶対にしなかったですよね。あなたに拒絶されるのが怖くて」
新人「直接お話するのはあの日以来ですね」
男「………」
男「うん……本当に、ごめん。君を巻き込むべきじゃなかった。こんな目に遭わせちゃって…」
新人「前にも似たようなこと言われました」フフッ
新人「謝らないでください。辛くなかったと言えば嘘になりますが…」
新人「…結果的に男先輩と居られたので…」ボソッ
男「え?」
新人「いえなんでも」
新人「…男先輩。後輩ちゃんのこと、許してあげてください」
男「……」
新人「あの子が、1年以上私の中に居たので分かるんです。後輩ちゃん男先輩が好きなだけ…もっと言えば男先輩しか好きじゃないんです。私が考えていたよりも、重たい愛でしたけど…」
男「……許す、許さないじゃなくてさ。あんなやり方であいつを踏みにじった自分が情けないんだ」
男「他人の意思を尊重しろって、偉そうに説教垂れてたくせに当の本人があいつの意思を潰すとか…自家撞着もいいところだ」
男「俺がもっと賢かったらさ……後輩が人になる未来も……」
新人「"君を好きにはなれない"」
男「っ…」
新人「私が男先輩に教えてなければ、違った未来があったのかもしれないですね…」
新人「…さっき、また言おうとしてました?」
男「二度と言うか。いざとなったら自分の身を賭してでも後輩を止めるつもりだった」
新人「二度と……そうですか」
新人「そうですね、男先輩、後輩ちゃんのこと好きですもんね」
男「……へ?」
新人「恋愛的な意味で、異性として、1人の女性として――」
男「わー!聞こえてるから聞こえてるから!」
男「…君、本当に後輩じゃない?」
新人「えぇ。男先輩のことが好きな元ゲーム会社の同僚です」
新人「それでどうなんです?後輩ちゃん好きだったんですよね?私に遠慮しないで正直に言ってください」
男「……」
ーーーーー
後輩「――ぷっ。あはは!ほんと先輩面白いっスね~!こんな年下にいいようにからかわれて!」
ーーーーー
男「あぁ。よくよく考えなくても、俺あいつが好きだったわ」
男(だから、一緒に暮らしてるのが新人さんじゃないと気付いてからも、目を逸らし続けてきたんだろう)
男「はは…ざまぁないな」
新人「………」
新人「」フゥ...
新人「だ、そうよ?」
男「?」
バッ!
新人「先輩~!」ギュー
男「!?」
新人「私も好きっス!大好き!好き好き好きぃ!」ギュー!
男「くるしっ……な、え…?」
新人「やめなさい!男先輩苦しがってる!」
新人「無理っス。こうしてないと気持ちが爆発しちゃいます♪」
新人「そだ!先輩私にもちゅーしてくださいよ!こいつが先なんてずるいっス!」ズイッ
男「待て待て待てぇい!」パッ
新人「ほら怒らせた」
新人「照れ隠しっスよー。相思相愛ですもん」
新人「…やっぱりずっと私でいい?」
新人「断固拒否っス」
男「……どういうことか、説明してくれ」
.........
男「つまり後輩に乗っ取られてたんじゃなくて、人格は共存していたと?」
新人「今日までずっと主導権を握られてたので、表に出ていたのは後輩ちゃんだけでしたけどね」
新人「…こいつの甘言に乗せられたっス」
新人「男先輩の本音聞き出してあげたじゃない」
新人「それは感謝してますけどー…」
男「なんだ…後輩消えたわけじゃなかったのか……」
新人「消えないっスよ。先輩と居たいっスから」
男「変わらんな、お前は」
新人「ちゃんと変わってるんですよ。この1年でひたすら私が後輩ちゃんを指導してきましたから、社会に出ても問題ないくらいまでには成長させました」
新人「最初は徹底的に無視してくるので大変でした」ハハ...
新人「口うるさかったっス。料理は下手なくせに」
新人「そ、それは今関係ないでしょう」
新人「先輩聞いてくださいよ。今日のご飯作らせて欲しいって言うから譲ったのに、ほとんど私がアドバイスしたんスよ?先輩のご飯はこれからも私が作った方がいいっスよね♪」
新人「ダメ!私だって男先輩に食べてもらうんだから」
男(新人さんと後輩が新人さんの身体で会話してる)
男(はは、なんだこれ。すごいシュールな図だ。二重人格者でもこうはならないんじゃないか?)
男(でも不思議と、心の底から安心してる自分がいる)
新人「――男先輩聞いてますか?」
男「!ごめんごめん、なに?」
新人「男先輩を好きって気持ちは私も負けるつもりはありません」
新人「私が一番っスよ!」
新人「ですから」
新人「だから」
新人「「私達と結婚してください」」
ーーー仕事場ーーー
男「……」テクテク
新人「えへへ、えへ」ベタベタ
男「もう職場に着くんだけど」
新人「うん、そうっスか♪」ギュ
男「そろそろ離してくれって意味だよ」
新人「もうちょっといいじゃないっスか。今日は後輩ちゃんの日なんスよ?」
男「家でも散々引っ付いてくるじゃねーか」
中年「やや!」
男「お、おはようございます…」
中年「仲直り出来たようだね」
男「はは…おかげさまで」
新人「今度結婚します」ニコッ
中年「おぉこれはこれは!いや実にめでたい!式には呼んでくれよな!」バシバシ
男「いえ!式をするかはまだ…」
新人「えー、しましょうよー。あいつもささやかでいいからやりたいって言ってるっスよ?」
中年「叶えてやったらええやないの。一生に一度の女の夢よ」
男「…形だけのものしか出来ないが…」
新人「十分っス。2回やるんですし」
中年「?」
新人「おじさん、グッジョブ!」
中年「おうよ」b
男「んじゃあもう仕事だから、また後でな」
新人「はい!お行儀よく待ってます♪」
中年「元気でいい子だなぁ…」
男(新人さんの日に合わせたら驚くだろうな)
新人「先輩」
男「ん?」
新人「私のこと、好きっスか?」
男(…!)
男「……俺は」
男「"お前が好きだ。彼女になってくれないか?"」
ー終わりー
以上で完結となります。
元々書きたいネタの中に、AIもの、ヤンデレもの、口癖が「っス」の後輩キャラがあって、それらを一緒くたにした結果今回のSSとなりました。
ここまで読んでくれた方、ありがとうございました。
些細なミスですが、>>151の
男(新人さんの日に合わせたら驚くだろうな)
は、正しくは
男(新人さんの日に会わせたら驚くだろうな)
です。
合わせるってなんですかね…。
次回はまだ確定ではないですが、少しだけキャラ安価のあるSSを書いてみる予定です。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません