女「これからもボク達の距離感で」 (22)

女「ん……」

男「……」

女「あぁっ……」

男「……」

女「……んぁぁ……」

男「おい」

女「なんだい?」

男「いつまでその、よくわからん声を出し続ける気だ」

女「ボクの特技、喘ぎ声だよ。知っているだろう?」

男「知るか」

男「お前、今何してるかわかってんのか?」

女「もちろん、前戯さ」

男「んなわけあるかっ、勉強だ勉強」

女「性の……勉強?」

男「ちげえよ、テスト勉強だろ」

女「ふふ、冗談さ。ボクなりのジョーク。つまり前戯だよ」

男「どう考えても意味が違ってくる、即刻言い方を変えろ」

女「手遊び」

男「指で輪っかを作ってペンを出し入れするな」

女「ふふ、ついつい」

男「ついついでやるもんじゃねえだろ」

女「そうだね、確かに」

男「……で、英語に戻るぞ」

女「女性器は英語で」

男「テストに出る内容で頼む」

女「保健に役立つかも」

男「今は英語だ!」

女「ふふ、君は英語が苦手だもんね」

男「ああ、そうだよ」

女「ボクなんかで良ければ、教えるよ」

男「お前なんかでって……」

お前以上のやつはいないだろ。

そう言いかけて言いよどむ。

全教科満点の優等生め。

女「なんだい、そんなに見つめて。ボクの顔に白濁液でも付いているのかな?」

男「うるせえ」

学校の放課後。

テスト期間に入って校内も外もめっきり静かになっちまった教室。

俺達はテスト勉強のために机に向かっていた。

女「この文章は直訳すると意味がわからなくなるよね、この一連で構文になっているんだ」

男「ふむ」

女「ここの単語にかかってくる。おっと、何がぶっかかったんだろうね……」

男「『ぶっ』を付けるな」

こういう時も下ネタが尽きない。

男「ああ、なるほど」

女「うんうん、そうそう」

理解すれば、少しずつわかってくる。

男「おお、わかってきたし、できたな」

女「うん、実はもう4ヶ月なんだ……」

男「想像で妊娠をするな」

腹を擦りながら、上目遣いをしてくる。

「できた」に反応するスピードが早すぎる。

女「あの日はダメって言ったのに」

男「でっちあげにもほどがある」

女「あんな熱い夜を過ごしたのに、忘れたのかい?」

アンニュイな顔をして、強いまなざしを向けてくる。

男「ああ、覚えてねえな。なぜならそんな事実はねえからな」

女「ふふっ」

ニコッと笑う。ああ、腹立つ。

男「とりあえず不安要素は取り除けたし、帰るぞ」

女「うん、そうだね」

男「……つっても結構時間経ってるな、外が暗い」

女「送っていくよ」

男「それはお前が言うセリフじゃねえ。それに、お前の家は俺の隣だろ」

女「ああ、そうだ。夜這いしやすいね」

男「物騒なことを言うな」

とにかくコイツは、言動がぶっ飛んでいやがる。

女「ボク、最近思うことがあって」

男「なんだ」

女「えっちな気持ちって、どこから来るんだろう」

知るか。

女「例えば、いやらしい気持ちになるのって、どういうタイミングなんだと思う?」

男「そんなの、人それぞれだろ」

女「じゃあ、君はどうなんだい?」

下校中に、男女がする話じゃねえぞ。

男「言いたくねえ」

女「ボクはとっても興味があるんだけれど」

男「あっても答えたくねえよ」

女「そこから君の自慰周期を」

男「計算するな」

女「女性のどの部位が好き?」

質問責めだな、おい。

もちろん答えない。

女「……」

ヤツは俺の顔をじっと見つめたあと、視線をそらす。

女「んー……」

急に、両腕を上げて、身体を伸ばした。

女「なるほど、胸か」

男「!」

女「ボクは全く無いから、期待に応えられず申し訳ない」

……ムカつく。

女「ふふっ、とっても単純な視線の動きだったね」

男「うるせえ」

女「仕方ないさ、好きなものは無意識レベルでも、何故か反応してしまうものだ」

男「へえへえ」

女「もう少し、有っても良かったのにな」

男「あん?」

女「んーん、なんでもないよ」

なんか呟いていたように聞こえたが、よく聞き取れなかった。

男「はぁ……テスト、嫌だなぁ」

女「そうなのかい? 君はとっても前向きにテストに向き合っているのかと思っていたけれど」

男「そんなわけねえだろ、特に英語……本当に苦手だ」

女「よく居眠りしているしね」

なぜ知っている。

お前、俺の前の席じゃねえか。

女「ふふっ、他の授業は全然眠らないのにね」

男「英語が呪文に聞こえるんだ」

女「洋画は観れるのに?」

男「ぐっ」

痛い所を突かれる。

良いじゃねえか、別に。

女「あ、そうだ」

肩にかけていたスクールバッグを漁り始める。

女「そういえば、ここに映画館のチケットが2枚」

男「どうしたんだそれ」

女「お母さんがくれたんだ。ショッピングモールのイベントの景品なんだとか」

男「ふーん」

女「良かったら、一緒に観に行かないかい? 君の苦手な『洋画』をさ」

男「……」

別に、洋画は嫌いじゃないんだがな。

女「どうかな」

男「ああ、別に。良いけど」

女「じゃあ、来週のどこかで」

男「待て、テスト直前じゃねえか」

女「ダメかい?」

別にそんなにみっちりやるつもりは無いが、少し不安だ。

男「お前は良いのか、遊んでて」

女「うん。ボクは平気だよ」

余裕なのか……流石だ。

男「まあ、良いぜ。英語教えてもらったしな」

女「英語だけじゃなく、なんでもシてあげるよ」

男「表現がおかしい」

女「犯しいかな」

男「漢字をやめろ」

どこまでもコイツはノンストップで話しやがる。

そんなこんなで、来週映画に行くことが決まった。




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男「ただいま」

妹「おかえり、お兄ちゃん。遅かったね」

男「ああ、少しテストの勉強をな」

妹「ふーん、お兄ちゃんってそんなに勉強真面目だっけ」

男「おいおい、どんなふうに思われてたんだ」

妹「なーんにもやる気無いです! って感じかな」

そんなに無気力じゃねえ。

妹「じゃあ、女さんと二人で勉強してたわけ?」

男「まあな」

妹「ふーーーーーーん?」

なんだ、その反応は。

男「んだよ」

妹「なんでもないよ~、ご飯の準備するね」

男「ああ、頼む」

妹「あ、あと、私もちょっと授業でわかんないとこあるから教えて」

男「いいぞ、飯食ったらな」

うん、と返事をして妹は台所の方に向かった。

俺は制服を脱ぐために自分の部屋に移動した。

男「ふう」

制服をハンガーにかけ、家着になってベッドに横になった。

男「ううっ……冷えるな」

二月は寒くて、ついつい毛布の中に入ってしまう。

ひんやりした布団は徐々に暖かくなっていく。これが幸せか。

さっきまでテスト勉強してたんだ、少しくらいこうやって幸せを満喫したってバチは当たらん。

晩飯の準備ができるまで、もう少しこのままでいよう。

明日またすぐ来ます。

すぐ終わるお話ですが、是非最後までお楽しみいただければと思います。

おやすみなさい。

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