だからこれは内緒だよ (1)

古ぼけたカフェの扉を開けると、カウンターの向こうに立つ店主らしき初老の男性に「いらっしゃい」と声をかけられた。

店内には客の姿は多くなく、カウンターの奥に帽子を被った小柄な女の子が一人座っているだけだった。

テーブル席に座るのは気が引けて、とりあえずカウンターに腰掛ける。メニューに目を通すと、若者好みなコーヒーチェーンとは対照的に、いくつかのわかりやすい商品名が載っていた。

「アイスコーヒーお願いします」

「かしこまりました。お時間、ちょっといただきますね」

そう言い残した背中を追うと、どうやら今からコーヒーを淹れるらしい。アイスコーヒーは作り置きしている
ところが多いイメージなんだけど、こだわりをもっているお店のようだ。

彼から目を離して、リュックからタブレットとキーボードを取り出して、文書作成のアプリを立ち上げる。

うるさい音になりすぎないように注意しながら、頭に浮かぶ言葉をキーボードに乗せる。大方のプロットはできているから、あとは書いている中での閃きをそこにエッセンスとして加えていく。

数分、キーボードを叩いたところで店主が「お待たせしました」と、グラスを僕の目の前に置いた。

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