みなみけ (54)

『片腹痛い』

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内田「あれー? こうじゃないのー?」

千秋「全然違うよ。バカ野郎」

内田「なんでそんなこというのっ!」

千秋「間違うからだ」

内田「間違いは誰にだってあるじゃない!」

千秋「お前、ここまで全問間違えておいて、どの口が言うんだ」

夏奈「ただいまー。あれ、お前たちノートを囲んで何している?」

吉野「おかえり。宿題だよ」

夏奈「おいおい。何をしているんだ」

千秋「だから、宿題だって言ってんだろ」

夏奈「ふんっ。片腹痛いわっ!!」

千秋「使いどころを盛大に間違えている気がするが、突然何を言い出すんだ」

内田「カナちゃん、お腹痛いならトイレに行ったほうがいいんじゃない?」

吉野「内田。そう言う意味じゃないよ」

夏奈「お前たちが宿題なんて10年早いね」

内田「10年も!?」

千秋「内田。カナの言葉に耳を貸すな。脳の成長が10年分遅れることになるぞ」

内田「10年も!?」

夏奈「どーいう意味かな、チアキさん?」

千秋「バカ野郎に付き合う暇はないってことだ」

夏奈「何を言っている。私が帰ってきたからには、宿題は中止に決まっているだろ」

千秋「何故だ」

夏奈「私が退屈だからに決まってるでしょ?」

千秋「……」

内田「どーする、チアキ? 宿題まだ終わってないけど」

千秋「バカ野郎。最後までやれよ」

内田「でも、カナちゃんが」

千秋「カナに付き合うほうが間違っている。お前は宿題の問いだけでなく、人生までも間違うつもりか」

内田「今ってそんなに重大な場面なの?」

千秋「いいか、内田。ここでカナと遊んでみろ。お前はここで解けたはずの問題が解けなくなり、近い将来この問題が大きな壁となるだろう」

千秋「そして、お前はこの問題と向き合うときが来る。そのとき周囲からは片腹痛いと嘲笑される」

内田「なるほどなるほど」

吉野「内田。意味分かってる?」

内田「私の所為で色んな人のお腹が痛くなるってことでしょ?」

吉野「うん。そうそう」

夏奈「随分な言われようだが、そろそろ姉の堪忍袋も限界が近づいております」

千秋「とにかく邪魔をしないでくれ」

夏奈「えー。遊ぼうよー、チアキー、内田ぁー、吉野ぉー」

吉野「あとでね」

内田「ごめんね、カナちゃん」

千秋「あっちへ行ってろ」

夏奈「あー、はいはい。分かりましたよー。キッチンのほうまで行ってやるぅー」

吉野「よかったの、チアキ?」

千秋「ここで甘やかせたら際限なく付け上がるからな」

千秋「だから、そうじゃないって言ってるだろ」

内田「えー? でも、さっきは」

千秋「過去を振りかえるな。前だけ見ろ」

内田「でも、チアキはいつも復習は忘れるなって言ってるじゃない」

千秋「お前はもう病院に行けよ」

吉野「まぁまぁ」

夏奈「おやつたーべよっと」

千秋「……」

夏奈「でも、こんなに食べられないなぁー。どうするかなぁー」

内田「わぁ」

夏奈「これだけのお菓子は流石の私でも食べ切れないなぁ」

内田「はいはい。カナちゃん。私がお手伝いするよ」

夏奈「そうか? なら宿題を今すぐやめなさい」

内田「はぁーい、やめまぁーす」

千秋「やめるな、バカ野郎」ゴンッ

内田「いたぁーい! なにするの、チアキ!」

千秋「宿題が終わってから食べればいいだろ」

内田「でも、なくなるかもしれないし」

千秋「あれだけの菓子を食べきれるわけがないだろ。カナ自身もそれは認めていた」

内田「あ、そっか」

千秋「だから、宿題を終えてからでも十分におやつを楽しむことができる」

内田「なーんだ、よかったぁー」

夏奈「む……」

千秋「そういうわけだ、カナ。悪いがおやつ程度では釣られない」

内田「そーだ、そーだ」

夏奈「片腹痛い!! 吉野はともかく、チアキと内田がおやつを我慢できるわけがない!!」

吉野「どうして私はともかくなの?」

夏奈「ほーら、この香ばしい匂いが部屋を充満していては宿題も片手間になるでしょう?」

内田「……チアキ、お腹すいたぁ」

千秋「我慢しろよ」

夏奈「ほーら、ほーら。匂うだろー」

内田「うぅぅ……」

千秋「やめろってー」

夏奈「どうだー? 美味しいお菓子の色香が鼻をくすぐるだろぉ?」

内田「やめてよぉ、カナちゃん」

夏奈「なら、私と遊ぶんだ。今すぐにね」モグモグ

千秋「はぁ……。よし、カナ。そこまでいうなら遊んでやろう」

夏奈「お? そうこなくっちゃ。さてと、オセロでもやるか?」

千秋「いや。もっと面白い遊びをしよう」

夏奈「何かあるのか?」

千秋「ご存知の通り、ここにいる内田は大変なバカ野郎です」

内田「なにいきなり失礼な紹介してるの!?」

千秋「そして、こちらにいる南さん家の次女であるカナは、お菓子なら幾らでも食べてしまう胃袋の持ち主です」

夏奈「ふふーん」

吉野「自慢できることなのかな?」

千秋「さて、吉野さん。ここで問題です」

吉野「はい」

千秋「内田が宿題を全部解くのとカナがお菓子を全て食べてしまうの、どちらが早いでしょうか」

吉野「……うーん。難しいですね。内田は20問を解くのに1時間近く使っていますし、カナちゃんはあれぐらいのお菓子なら1時間もしないうちに食べてしまいそうですし」

夏奈「いや、まぁ、どう考えても私でしょ。内田が宿題を終わらせることはほぼ不可能だしね」

内田「不可能じゃないよ! できるよ!」

千秋「内田。口だけならなんとでも言える。実力をみせつけてやればいい」

内田「うん。そうだね!」

夏奈「ふんっ。片腹痛い!!」

吉野「あ、使い方あってる」

夏奈「私の鋼鉄の胃袋が内田のマシュマロ脳に負けるわけがない」

内田「いけるもんっ。カナちゃんだって、それだけのお菓子は食べられないんでしょ!?」

夏奈「時間が十分にあれば余裕だね」

内田「うぅ……」

千秋「では、第一回異種臓器戦をスタートします」

千秋「合図を」

吉野「え? ええと……。かーんっ」

夏奈「ふはははー。内田の脳みそなんて敵じゃないぞー」モグモグ

内田「負けないんだから!! チアキー、教えてー」

千秋「少しは自分で考えようとしろよ」

内田「私が負けてもいいの!?」

千秋「仕方ないな」

内田「ありがとー」

夏奈「……」モグモグ

吉野「……」

夏奈「……吉野。ここは共同作業といこう」

吉野「宿題が終わってから食べるね」

夏奈「なんだとぉー!? あぁー、しまったぁー!! 吉野は我慢の出来る子だったぁー!!」

吉野「ごめんね、カナちゃん」

夏奈「くっ。だが、まぁ、内田が宿題を終えるのは恐らく30分後だ。勝てる」

夏奈「はむっ……はむっ……」モグモグ

千秋「そうじゃないって」

内田「あれ? でも、ここが」

吉野「それはこっちの公式を使うんだよ」

内田「あ、そっかそっか」

千秋「早くしろよ。カナがおやつを全部食べてしまうだろ」

内田「それだけは阻止しないと!」

千秋「その意気だ。この分だとあと5分で終わるな」

夏奈「なにぃ!? 5分だと!?」

内田「ふふ、これは勝ったね」

夏奈「まだだ!! まだこれからだ!! はむっ……はむっ……!!」モグモグ

千秋「おい、カナ。ほどほどにしとけよ。遊びなんだから」

夏奈「私は遊びにだって全力だ!」

千秋「……内田、さっさと解け」

内田「う、うん!!」

夏奈「……」

内田「カナちゃん、大丈夫?」

千秋「だから言ったんだ」

吉野「チアキが煽ってたのに」

春香「ただいまー」

千秋「おかえりなさい、ハルカ姉さま」

内田「おじゃましてまーす」

吉野「お邪魔してます」

春香「いらっしゃい」

夏奈「……」

春香「カナ、どうかしたの?」

千秋「片腹痛いそうです」

春香「え? 何か面白いことでもあったの?」

夏奈「……ぅん」


おしまい。

『おいでおいで』

犬「ワンっ!」

千秋「お?」

春香「まぁ、可愛い」

千秋「飼い主の姿が見えませんね」

春香「たまに見かけるよね。買い物を外で待つ犬って」

千秋「そうですね」

犬「ワンっ!」

春香「おいでおいで」

犬「くぅーん」

春香「人懐こくていいわね」ナデナデ

千秋「全くですね。この犬は無害で可愛いです」ナデナデ

夏奈「はるかぁー。犬もいいけど、買い物は?」

春香「そうね、もう行きましょうか」

千秋「はい。じゃあな」

犬「ワンっ!」

春香「ああいう犬を見ると飼ってみたくなるのよね」

千秋「はい。あれだけ人に懐くのなら毎日が楽しくなりそうです」

春香「うん。お世話も苦じゃないかも」

夏奈「それはどうだろうね、ハルカ」

春香「あ、カナ。そのネギ、安いからカゴに入れて」

夏奈「はいよ。で、人懐こい犬ってそんなに良いものか?」

千秋「少なくともお前よりは良いだろう」

夏奈「あんなちょっと優しい声で「おいでおいで」と呼ばれただけなのに、簡単に尻尾を振ってしまう犬なんて忠犬でもなんでもない。ただの売国奴だろ」

千秋「酷い言われようだな。飼い主以外に尻尾振る行為は、国を売ることに繋がるのか」

夏奈「当然でしょう。犬っていうのは、飼い主という国の中で生かされているんだ。なのに、声をかけられただけでホイホイ付いて行っちゃうような犬は売国奴も同然だね」

千秋「別にいいじゃないか。人を怖がらない犬は安全だ。通りすがりの人を噛み付く恐れがないんだし」

夏奈「泥棒にまで愛嬌を振りまく犬が良いとでもいうのか、チアキは?」

千秋「そういわれると……」

春香「カナ。トマトもカゴに入れて」

夏奈「はい。つまりね、私が言いたいのは飼うにしてもあんな犬は願い下げだということだ」

千秋「しかし、どんな相手にも警戒心をむき出しにする犬もどうなんだ? 危険じゃないか? 犬が他人を噛んでしまうと飼い主の責任になるんだぞ」

夏奈「そうならないように躾けるのが飼い主の務めでしょーぅ?」

千秋(無駄に正論いいやがって。カナのくせに)

春香「なら、カナはどんな犬ならいいの?」

夏奈「飼い主の指示以外ではずっとお座りしているような犬がいいね」

千秋「なんだそれは?」

夏奈「甘い言葉で誘われようとも、甘い食い物を差し出されようともじっとしている犬こそ、犬だね」

春香「もう、カナ? タマネギも入れて」

夏奈「あ、ごめんごめん」

千秋「それは逆に愛想が悪すぎないか?」

夏奈「なんで。別に他人に尻尾をふりふりする必要なんてないでしょう」

千秋「考えてもみろ。もしそんな犬に育ってしまったとしよう。当然、私は周囲に犬を飼っていることを告げて回るだろうから、毎日犬目当てに来客がある」

夏奈「犬を飼っていることをそんなにアピールするつもりなのか、チアキ」

千秋「そしてその客人たちは犬の愛らしい仕草などを期待しているはずだ。尻尾を振ったり、座ったときに横まで来て寝てくれたり、トイレに行くだけなのに後ろから付いてきたり」

夏奈「なるほど。いつも犬を飼ったときのシミュレーションをしてるんだね、チアキ」

千秋「なのにだ。ただじーっと座っているだけで、微動だにしない犬なんて可愛くないでしょう。犬は愛嬌があってこそだ」

夏奈「だが、チアキ。そんな犬に育ってしまったとしよう。恐らくその犬はお前のことなど飼い主とは思っていないんじゃないか?」

千秋「な、なに……? そんなわけないだろう。エサだってやるし、散歩だって行くし、お風呂にだって毎日入れるつもりだ。ここまでして飼い主でないわけがない」

春香「カナ。じゃがいもとニンジンも。あとお肉ね」

夏奈「はぁーい」

千秋「どうして飼い主と思ってくれないんだ」

夏奈「分かってないな、チアキ。誰にでも愛想がいいってことは、その犬はどうすればエサにありつけるのか、どうすれば人間たちが自分に優しくしてくれるのかを知っているということだ」

春香「嫌な犬ね」

夏奈「さっきの店先に居た犬もそうだ。ハルカに近づいたのもエサ欲しさに決まっている」

千秋「そんなわけがない。あの犬は純粋にハルカ姉さまの優しさを感じ取って、安全な人だと判断したからだ」

夏奈「どうしてそんなことが分かる。チアキは犬なのか?」

千秋「犬ではないが、犬の気持ちは分かる」

夏奈「日頃からワンすら言わないお前に分かるわけがない」

千秋「くっ……。分かるっ。カナよりは私は犬の気持ちを理解しているっ」

春香「キャベツも買っておかなきゃ」

夏奈「なら、今日から語尾にワンをつけて話しなさいよ」

千秋「上等だワンっ」

夏奈「さ、早速か……」

千秋「見ていろ。こうなったからには私は身も心も犬となり、カナがバカな発言をするたびに噛み付いてやるからな」

夏奈「とんだ猛獣だねっ!!」

春香「チアキ、カナ。やめなさい」

夏奈「ハルカはどう思う? チアキの言うような駄犬はいらないでしょう? 飼いたくないでしょう?」

春香「え? うーん……」

千秋「ハルカ姉さま。カナの言う犬は全くもって可愛くないです。私はそんなに厳しく躾けたくありません」

春香「私はそうねえ。きちんと言うことを聞いてくれる犬のほうがいいかしら」

夏奈「ほら、みろ。ハルカもこう言っている」

千秋「ハ、ハルカ姉さま……そんな……」

春香「でも、チアキの言うとおり可愛げも大事よね。たまには甘えてくれないと物足りないというか」

千秋「ですよね。ほら、どうだ。ハルカ姉さまもこう言っている」

夏奈「何を偉そうに。まだ1対1のイーブンだろ」

春香「あとは、手の掛かるほうが可愛いとも言うし。少しやんちゃなほうがいいかもね」

夏奈「なんだと? ハルカは飼い主に反骨精神を抱く犬のほうが良いってことなのか?」

千秋「私はあまりそういう犬は好ましくありません」

春香「元気があるほうが見ていて楽しいと思うし」

夏奈「そうかなぁ? じっとしているほうがいいと思うけどな」

千秋「ハルカ姉さまがそういうなら、今日からはそういう育て方をしてみます」

夏奈「お前、もう頭の中で犬王国でも出来上がっているのか?」

千秋「違うな。ワンワン王国だ」

夏奈「ワンワン王国だと!? なんだそのテーマパークは!! でかくなりすぎだろ!!」

春香「あ、カナ。カレーのルーもお願い」

夏奈「あいよー。えーと、ルーはぁ、どこかなー」

千秋「しかし、元気さを残しつつ、従順で可愛げのある躾けとなると難しいな」

春香「チアキ、ちゃんと前を向いて。危ないから」

千秋「はっ。申し訳ありません、ハルカ姉さま」

春香「うん。ほら、行きましょう。今日は約束通り好きなお菓子も買ってあげるからね」

夏奈「ハルカぁー。これでいいの?」

春香「うん。それでいいよ。ありがとう、カナ」

夏奈「それじゃあ、今日のメインイベントである好きなお菓子選びを始めるか。行くぞ、チアキ」

千秋「おう」

春香「一人一つまでだからね」

夏奈「分かってるって」

千秋「どうだか」

夏奈「なんだとー!?」

春香「こら、やめなさいっ」

夏奈「はぁい」

千秋「ごめんなさい……」

春香「ほら、選んで」

夏奈「どれにしようかなぁ……」

千秋「やはり、ケーキ系でいくか」

春香「私はプリンにしようかしら」

春香「あ、これ美味しそう」

夏奈「おーい、ハルカぁー」

春香「選んだの?」

夏奈「ハルカ。お願いが、あるんだけどぉー」モジモジ

春香「駄目」

夏奈「まだ何も言ってないだろ!」

春香「一人一つでしょ」

夏奈「でも、よりにもよってこのタイミングで新商品が3つも出ているんだよぉ」

春香「関係ありません」

千秋「全くだ。どうしようもないな」

春香「チアキも。小さいから2つで1つなんてことにはならないから」

千秋「えっ」

春香「ほら、二人とも。早く選んで。選べないなら買わないから」

夏奈「そんなぁ」

千秋「どうしよう……。迷う……迷うぞ……」

夏奈「うぅ……。くそっ!! 選べん!! 一つなんて無理だ!! 誰かこれをセット販売してくれー!!」

千秋「おお。それはナイスアイディアだ、カナ。セット販売していたことに……。いやいや。やはりきちんと選ばないと……」

夏奈「どうしたら……どうしたら……」

千秋「こちらを選んでしまったら、きっとこちらが猛烈に食べたくなる……うぅむ……」

春香「カナ、チアキ。おいでおいで」

夏奈「どうしたのー?」テテテッ

千秋「なんですか、ハルカ姉さま」テテテッ

春香「このプリン、生クリームものってて美味しそうじゃない?」

夏奈「うん。そうだね」

千秋「美味しそうです」

春香「これ、みんなで食べましょう。3つ買うから」

夏奈「え? いいの? 一つまでだろ?」

春香「プリンは別。だから、早くあと一つ選んできて。プリンがぬるくなっちゃうし」

夏奈「うーん……。そうだね。ぬるくなったプリンはいらないね」

千秋「よし、カナ。迷う分だけプリンが駄目になるから、もう目を瞑って掴んだほうにするぞ」

春香「買うものも買ったし、帰りましょうか」

夏奈・千秋「「はぁーい」」

犬「くぅーん」

千秋「おや? まだ犬がいますね。飼い主は買い物中でしょうか」

春香「そうみたいね。ほら、おいでおいで」

犬「ワンっ!」

春香「ふふっ。可愛い」ナデナデ

夏奈「どれどれ、私もー」

犬「ガルルルルル……!!」

夏奈「な、なんだ……この犬……私に向かって怖いぐらいに歯を見せて……」

千秋「やはり、この犬の愛想がいいのは地上最後の女神であるハルカ姉さまだからこそだな。安全安心であることをわかっているんだ」

夏奈「私は安全でも安心でもないっていうのかぁー!!」

春香「やっぱり、元気がほうがいいわよね」

犬「ワンっ!」


おしまい。

『優しいだけ』

マキ「あーっ!!」

春香「どうしたの、マキ?」

マキ「私の筆記用具一式がホームシックになったみたい」

春香「忘れてきたのね」

マキ「違うよ。きっと家が恋しくなったの。私が連れてくるのを忘れたわけじゃないの」

春香「マキの筆記用具は生きてるの?」

マキ「というわけでハルカ、書くものと消すもの貸して」

春香「シャーペンならいいけど、消しゴムは一つしかないから……」

マキ「私に間違うなっていいたいの?」

春香「そういうわけじゃないけど……」

アツコ「マキ、良かったら使って」

マキ「おー、アツコー。いいのー?」

アツコ「うん。私はシャーペンについている消しゴム使うから」

マキ「アツコ……。すきっ」ギュッ

アツコ「マ、マキ……ちょっと……抱きつかないで……」

別の日

春香「そうなの? ふふっ」

アツコ「うん」

夏奈「うーむ……」

夏奈(ハルカが用意してくれた今日のおやつ、とても美味しかった。2個では満足できないほどに)

夏奈(できればもう2個、いや、1個と半分ぐらい食べたい。少なくともあと1個は食べたい)

千秋「……なんだ?」

夏奈(チアキは既に1個と半分を食べ終えている。今から奪ったところで私は満たされない)

夏奈「……ん?」

春香「そういえば、今度の休みに買い物行くんでしょ? どこいこっか?」

アツコ「行き先はマキが決めるみたいだよ?」

夏奈(アツコちゃん、まだ一口も食べてないな……。あれをもらえるなら、私は心から満たされる)

夏奈「アツコちゃん。それ食べないならちょーだい」

アツコ「え? うん、いいよ。どうぞ」

夏奈「わーい」

千秋「ちょっと待て」

夏奈「なんだよ? やらないぞ。これは私の戦利品だ」

千秋「お前じゃないよ。私はアツコちゃんに言った」

アツコ「え? 私? なにかな?」

千秋「何故、カナに手付かずのおやつを渡した?」

アツコ「頂戴って言われたから、だけど……」

千秋「今日のおやつはとても美味しかった。誰もがおかわりをしたいと考えていたはずだ。だけど、ハルカ姉さまが用意したのは一人に2個までだ」

春香「チアキ、もっと欲しかったの? ごめんね。これ結構高くて、たくさん買えないの」

千秋「いえ、そういうわけではありません。私はただ一人が勝手なことをすると公平性に欠けるということを言いたいのであってですね」

アツコ「か、勝手なことをして、ごめんなさい」

夏奈「やっぱりうまいなぁー」モグモグ

千秋「あー!! こら!! 私にもわけろぉー!!」

アツコ「あ……あの……ケンカは……」オロオロ

春香「うーん……。確かに、アツコは優しいのよね」

アツコ「え? あ、ありがとう……」

春香「この前もマキに消しゴムを貸して、大変な目に遭ったでしょ?」

アツコ「別に大変ってほどじゃないよ。シャープペンの消しゴムが折れてなくなっただけだし」

春香「でも、そのあとに抜き打ちテストが始まって、ずっとオロオロしてたでしょ?」

アツコ「それも隣の人が消しゴムを貸してくれたから、なんとかなったよ?」

春香「マキに消しゴムを貸さなかったら、そんなことにはならなかったでしょう?」

アツコ「貸してあげないとマキが可哀相だったから」

春香「自分が可哀相なことになったでしょう?」

アツコ「じゃあ、あのときはどうすればよかったの?」

春香「マキが消しゴムに余裕がある人を頼るのが一番良かったんじゃない? アツコは1個しかない消しゴムを貸したことでオロオロすることになったんだし」

アツコ「でも、マキだって借りやすい相手から借りたいだろうし……」

春香「アツコっ」

アツコ「は、はいっ」ビクッ

春香「良い子ね」ナデナデ

アツコ「ありがとう」

春香「でもね、アツコ。優しいだけじゃ、だめなのよ? 時には厳しさだって必要なの」

アツコ「そういうの苦手で……」

春香「まぁ、そうよね。なら、練習してみる?」

アツコ「練習? どこでやるの?」

春香「見て、アツコ」

アツコ「え?」

千秋「これは盗品だろぉー!! 私にもよこせぇー!!」

夏奈「お前がアツコちゃんから奪わなかったのが悪いんでしょー!!」

千秋「何を! 私が先に奪っていてもお前はどうせ私から取っていたくせにぃー!!」

夏奈「お前はどうしてそう図星を的確についてくるんだ。末恐ろしい妹だね」

春香「今までのアツコならきっとあの二人を見てただオロオロするだけかもしれない。でも、それを乗り越えてみることも大事だと思うの」

アツコ「ハルカ……」

春香「このままじゃ、アツコは優しいだけの女の子。でも、叱れるようになればアツコは優しい女の子になれるわ」

アツコ「でも、あの、二人を叱ってもいいの?」

春香「叩いたりしちゃダメよ。二人の言い争いを言葉で止めるの」

アツコ「う、うん。わかった。やってみる……」

千秋「いいからよこせ」

夏奈「いやだね」

アツコ「……あ、あの……ふ、ふたりとも……」

千秋「なんだ?」

夏奈「邪魔しないでくれ」

アツコ「あ、うん。ごめん……」

アツコ「ハルカぁー……やっぱりむりだよぉ……」

春香「アツコ……。分かったわ。なら、少しだけ手伝ってあげる」

アツコ「うん、お願い」

春香「カナ、チアキ」

夏奈「なに?」

千秋「なんでしょうか?」

春香「アツコが二人にどうしても言いたいことがあるらしいから、ちゃんと聞いてあげて」

夏奈「そうなの?」

アツコ「う、うん……」

千秋「分かった。どうぞ」

アツコ「あ、うん……」

春香「がんばってね」

アツコ「あ、ありがとう……」

夏奈「で、なに?」

アツコ「あの……えっと……ケンカは、や、やめて」

千秋「ああ……」

夏奈「いや、ケンカはしてないぞ。アツコちゃんから奪い貰ったおやつをどう分けようか話し合っていただけだ」

アツコ「でも、ケンカしているようにしか見えなかったし」

千秋「そうか。カナは無駄に声がでかいからな。アツコちゃんが勘違いするのも無理はない」

夏奈「なんだと? それを言うならチアキの姉に対する辛辣な言葉攻めの所為でもあるでしょーぅ」

千秋「それはカナが事あるごとにおかしな発言をするからだろ」

夏奈「どーして私がおかしな発言をすると辛辣になるんだ!?」

千秋「おかしなことを言うやつには厳しくしないとならないからだ。正論が通じないからな」

夏奈「わけわかんねーよぉ!! それがお前流の正論なのかぁ!?」

アツコ(ど、どうしよう……。事態が悪い方向に行っちゃう……。どうしたら……どうしたら……)オロオロ

春香「ほら、二人とも。アツコの話が終わってないでしょ」パンパンッ

千秋「ああ、申し訳ありません」

夏奈「そうだったのか。ごめん、アツコちゃん」

アツコ(そうだ。そもそもの原因は私がカナちゃんに何も考えずにあげちゃったおやつだ。なら……)

アツコ「そ、そのおやつは、やっぱり私が食べるっ」

夏奈「な、なんだと!? アツコちゃんはくれるって言ったじゃないか!!」

アツコ「だ、だめっ。私が食べるから」

千秋「何故だ? いつもならそんなこと言わないのに」

アツコ「え……?」

夏奈「どうして返せっていうんだー。酷いじゃないかぁ」

アツコ(理由……。確かに理由は必要かもしれない。二人が納得できるだけの理由がないと、カナちゃんもチアキちゃんも歪んだ性格になるかもしれない)

アツコ(他人の私が無責任に叱っちゃいけない。きちんと理由を考えておやつを返してもらわないと……)

夏奈「どうなんだよー」

アツコ「――じ、じつは、私、とってもお腹すいてるんだけどなぁー!!!」

夏奈「え?」

千秋「そ、うだったのか……」

アツコ「うん」

夏奈「それならそうと言ってくれれば良いのに」

千秋「ほら、カナ。おやつを返せ」

夏奈「そうだね。ごめんよ、アツコちゃん」

アツコ「分かってくれたんだ」

夏奈「うん」

アツコ「うれしいっ」

千秋「そうか」

アツコ「ハルカ! 私、できたよ!」

春香「アツコ! よくやったわ! これで貴方は優しいだけの女じゃなくなったの!」

アツコ「ハルカのおかげだよ!」

夏奈「なんだ?」

千秋「さぁ」

翌日 高校

マキ「アツコ、なんか嬉しそうだね。なんかあったの?」

アツコ「え? ああ、うん。ちょっとだけ成長したんだ」

マキ「それ以上、大きくなってどうするんの? というか身長なのか胸なのかはっきり言ってくれない?」

保坂「マキ、アツコ」

マキ「うわぁ!! でたぁ!!」

アツコ「保坂先輩。どうかしたんですか?」

保坂「速水を探している。部活のことで少しな」バッ

マキ「なんで脱ぐんですか!?」

アツコ(ここだ。ここで私が少し厳しくならなきゃ……!)

アツコ「ほ、保坂先輩!! あの!!」

保坂「どうした、アツコ?」ズイッ

アツコ「う……」

保坂「オレになにかいいたいことがあるのか? 構わない、言ってみろ」

アツコ「あ、の……あぅ……えと……」

保坂「ほら、アツコ。遠慮はなしだ」

アツコ「な、なんでもありませーん!!!」ダダダッ

マキ「まってよぉ!! アツコぉー!!!」

保坂「待て!! アツコ!! オレに何を伝えようとしたんだ!!」ダダダッ

アツコ「私はやっぱり優しいだけの女なんですぅー!!!」

保坂「アツコぉ!!!」

速水「やめろ!!」ドガッ!!

保坂「む。速水か。探していた」

速水「探していたじゃないでしょ!! 後輩追い掛け回してどうーするの!?」

保坂「いや、あのアツコがオレに何か言おうとしていたから気になっただけだ」

速水「はぁ?」



アツコ「うぐっ……ハルカ……私はやっぱり、優しいだけだった……」ギュゥゥ

春香「アツコ、なにがあったの? こんなに震えて……」


おしまい。

『理想の恋人』

藤岡「南。おはよう」

夏奈「おう。藤岡」

藤岡「……」

夏奈「……」

藤岡(話しかけたはいいけど、共通の話題が少ないんだよな……)

夏奈(なんだ、藤岡のやつ。思い詰めた顔して)

夏奈「どうした? 何か悩み事でもあるのか?」

藤岡「え? ううん。そんなことないけど」

夏奈「そうか。なら良いんだけど」

藤岡(南がオレの心配を……。これってオレをことを気にしてくれているってことだよな……)

藤岡(良かった。話題のない奴とか、つまらない奴とは思われてないんだ)

夏奈(変な奴だ)

ケイコ「おはよう、カナ」

夏奈「おー。ケイコ、おはよう」

ケイコ「藤岡くんと何を話してたの?」

夏奈「え? いや、朝の挨拶を交わしただけだ」

ケイコ「それだけ?」

夏奈「うん」

ケイコ「そうなんだ」

夏奈「なんだ? 何かあるのか?」

ケイコ「うーん、私が言っていいことなのかはわからないんだけど……」

夏奈「遠慮するな。私とケイコの仲だろ」

ケイコ「えっと、カナは藤岡くんともっとお喋りしたいとか思わないの?」

夏奈「別に思わないが」

ケイコ「……」

夏奈「……え?」

ケイコ「そう……」


藤岡(そ、そうだったのか……!! オレとなんて喋りたくないのか……!!!)

藤岡(やっぱりオレのことは話題のない奴とか、つまらない奴って思われてたのか……!!)

藤岡「はぁ……」

リコ(藤岡くんが思い詰めた顔してる!! どうしたんだろう……。部活で嫌なことでもあったのかしら……?)

ケイコ(しまった。藤岡くんが聞いてたみたい……!!)

夏奈「ミユキちゃーん」

ミユキ「なぁーに?」

ケイコ(なんだが藤岡くんが少し傷ついてたみたい……。私が余計なことを訊いちゃったから……。何とか元気付けてあげないと……)

ケイコ「カ、カナ?」

夏奈「どうしたの?」

ケイコ「えっと。でも、よく藤岡くんを家に招待しているんでしょ? それはどうして?」

夏奈「どうしてと言われてもな。チアキが懐いてるし、ハルカも藤岡のことは気に入ってるみたいだし」

ケイコ「藤岡くんが家に来たときは流石にたくさんお喋りしてるんでしょ?」

夏奈「うーん……」

藤岡(そういえば、オレはいつもチアキちゃんやトウマとばかり話していて……南とは……うぅ……)ガクッ

リコ(藤岡くんが更に思い詰めた!! この数十秒で一体なにが……!!)

ケイコ(あ、あれ? 藤岡くんが若干落ち込んでる? どうして……?)

夏奈「そういえば、藤岡はチアキやトウマと喋っているほうが多いな」

ケイコ「そ、そうなんだ」

ケイコ(藤岡くんも同じことを考えていたみたい……。私、また余計なことを……)

ケイコ(このままじゃ、藤岡くんを嫌な気分にさせるだけ。どうにか勇気付けてあげないと……)

夏奈「ミユキちゃーん」

ミユキ「はいはーい。なぁーに?」

ケイコ「カナ」

夏奈「なに?」

ケイコ「カナにとって理想の恋人ってどんな人?」

夏奈「どうした急に?」

藤岡「……」ガタッ

リコ(藤岡くんが急に凛々しくなった!! この数秒で一体なにが……!!)

ケイコ「いや、ほら、よくある世間話だと思って、ね?」

夏奈「理想の恋人か……」

ケイコ「そういえば聞いたことがなかったなぁって思って」

夏奈「そうだな。やはり、あれだな、自慢できる奴がいいな」

ケイコ「自慢できるって?」

夏奈「かっこよくて、スポーツ万能で、金持ち」

ケイコ「そ、そうなの?」

藤岡(そうなのか……!! そうなのか、南……!! オレ、もっとがんばるよ!! 南!!)カキカキ

リコ(藤岡くんが急に勉強を……!! 勉学に目覚めた藤岡くん、素敵……)

夏奈「ああ、あと面白くないとダメだな。私を常に楽しませる男でないとな」

ケイコ「そうなんだ」

藤岡(面白い……。それはオレに備わっていることなのか……!?)

リコ(悩んでる……。どうしよう、私が教えたい。でも、急に行ったら厚かましい女って思われるかも……)モジモジ

夏奈「加えて、私に優しくないとダメだな」

ケイコ「カナはどんな風にされると優しいって思うの?」

夏奈「美味しいモノを食べさせてくれたり、欲しいものを買ってくれたりだな」

ケイコ「カナの恋人って大変みたいね」

藤岡(カナ……!! オレ、がんばるからっ!!)カキカキ

リコ(あ……。答え、分かったみたい。私の出る幕はないみたい……)

夏奈「大変なのか?」

ケイコ「だって、そんな人中々いないよ? どこかで妥協してもいいんじゃない?」

夏奈「おいおい、ケイコ。理想の恋人を訊いてきたのは、ケイコでしょ? 私は理想を言ったに過ぎないぞ」

ケイコ「ああ、ごめん。そうよね。理想だもんね」

夏奈「全く。ケイコは自分の言ったことに責任が持てないのか」

ケイコ「なら、少し現実に近づけるとどうなるの?」

夏奈「現実に近づけるとか……。かっこよくて、スポーツ万能で、金持ちで、面白い奴だな」

ケイコ「優しくなくてもいいの?」

夏奈「面白い奴に優しくない奴はいないからね」

ケイコ「そうなんだ」

藤岡(優しいだけではダメなんだ……!! あぁ……!! 面白いか……オレって……? 人を笑わせることはあまり得意じゃないから……きっと面白くない……!!)

藤岡「くっ……!! ダメだ……!!」ガクッ

リコ(藤岡くんが難問にぶつかったみたいに顔を歪ませて……!! これは私が手助けを……!!)

ケイコ「じゃあ、更に現実に近づけるとどうなるの?」

夏奈「更に? 難しいな……。うーん……。そうだな、スポーツ万能で、金持ちで、面白い奴だな」

ケイコ「かっこよくなくていいの?」

夏奈「スポーツ万能で金持ちってやつにかっこ悪い奴っているか?」

ケイコ「どうだろう……。居るような気もするけど」

夏奈「大丈夫だ。スポーツをしているときはかっこよく見えるだろ?」

ケイコ「ああ、そういうこと」

藤岡(スポーツには多少の自信はあるけど……やっぱり、面白くないとダメなのか……あぁ……。オレはカナの理想には遠い男なんだ……)

リコ(よし。行こう。私が勉強を教えてあげれば、きっと藤岡くんは……私のことをぉ……)

ケイコ「ねえ、カナ。そこからもっと現実的に考えたらどうなるの?」

夏奈「やっぱり、スポーツ万能で金持ちだろうな」

リコ「藤岡く――」

藤岡「……!!」ガタッ

リコ「……!?」ビクッ

リコ(しまった!! 一足遅かったみたい……!! 藤岡くん、自力で問題を解いたのね……)

ケイコ「面白くなくてもいいの?」

夏奈「金持ちならそれだけで面白いだろ。私はね」

ケイコ「自分が面白ければいいんだ」

夏奈「うん」

ケイコ「よし、カナ。現実を見据えるとどうなるの?」

夏奈「どういう意味だ? 私にはスポーツ万能で金持ちの恋人はできないということか?」

ケイコ「ほら、だって、まだ中学生だし。お金持ちの恋人はまだできないと思うよ? 現実的に」

夏奈「む。確かにそうだね。ケイコの言うとおりだ。となると……」

ケイコ「うん。ほら、現実的な理想の恋人は自ずと絞られるでしょ?」

夏奈「お。私の理想の恋人はスポーツ万能な奴か」

ケイコ「そうなるよね」

藤岡「……!!」ガタッ!!

リコ(藤岡くん……その栄光を掴んだよう表情……全ての問題を解いたという自信の表れ……。私、何も手伝えなかった……はぁ……)ガクッ

ミユキ「あれー? リコちゃん、どうしたの思い詰めた顔して。悩み事でもあるの?」

リコ「別に……はぁ……」

ケイコ(よかった。これで藤岡くんも自信を取り戻せたはず……)チラッ

ケイコ(あ、あれ? 藤岡くんがいない……。さっきまで居たのに……。そんな……)

夏奈「それにしても随分と妥協に妥協を重ねた理想の恋人になったもんだね」

ケイコ「そ、そうかな?」

夏奈「まぁ、考えようによってはスポーツ万能な奴はプロの世界に行って、ファイトマネーとかで荒稼ぎするだろうし、問題はないか」

ケイコ「ファイトマネーって……」

夏奈「あ、年俸か」

ケイコ「どっちでもいいけど」

夏奈「私の妥協した理想の恋人に近いって言ったら、このクラスだと藤岡ぐらいか」

ケイコ「え!?」

夏奈「藤岡が1億円ぐらい稼げるようになったら、嫁に行ってやってもいいかもしれない」

ケイコ「……」

夏奈「ま、藤岡では無理か」

ケイコ(藤岡くん……がんばって……)

夏奈「あー、どこからか湧いてこないかなぁ、そんな奴」

廊下

アキラ「ふんふふーん」

藤岡「……」

アキラ(あ、藤岡さんだ。どうしたんだろう。黄昏ているのかな……)

藤岡「……ぁ」

アキラ「……?」

藤岡「よっしゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

アキラ「おおっ!」ビクッ

藤岡「オレは!! オレは!! 理想の恋人なんだぁぁぁ!!!!」

アキラ(藤岡さん、何かいいことがあったみたいだ……!! あんなにハツラツとした顔は初めてみた!!)

藤岡「よっっしゃぁぁぁ!!! やったぁぁぁ!!!!」

アキラ(よかったですね、藤岡さん。幸せになってくだいね……。遅刻するのでオレはそろそろ教室に戻りますけど、藤岡さんは思う存分幸せをかみ締めてください)

藤岡「やったぁぁぁ!!!!」


おしまい。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2013年09月27日 (金) 03:04:54   ID: OaH3v138

糞みたいなSSで溢れてる世の中だが、
たまにこういう素晴らしいSSが投下されてくるのがみなみけの凄いところ。

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